説明

ポリウレタン樹脂組成物およびその用途

【課題】ポリウレタン系樹脂に添加剤を混合した際に、分離することなく混合でき、しかもその添加剤により、樹脂の加水分解を促進できる方法を提供する。
【解決手段】親水性セグメント(a−1)としてポリアミノ酸を有し、疎水性セグメント(a−2)として分解性ポリマーを有するブロック又はグラフト共重合体(A)と、ポリウレタン樹脂(B)とを含有してなる樹脂組成物、および、この共重合体(A)を樹脂(B)に混合して、樹脂の加水分解を促進する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分解性を有する新規なポリウレタン樹脂組成物に関する。
【0002】
さらにはポリウレタン樹脂の加水分解を促進する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリイソシアネート類とポリオール類の付加重合で生成するポリウレタンは、熱可塑性材料あるいは熱硬化性材料として、成形材料、繊維、フィルム、接着剤、ポリウレタンゴム、ポリウレタンフォーム等に用いられている。ポリウレタンの製造に使用されるポリオール類としては従来、ヘキサメチレングリコールや多価アルコール等のポリオール類が一般的であり、またポリイソシアネート類としてはヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネートが知られている。
【0004】
一方、生分解性を有するポリウレタン樹脂の例としては、乳酸を出発原料として得られたポリエステルポリオールとポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートから得られるポリウレタン発泡体(特許文献1、特許文献2)、ポリブチレンサクシネートとヘキサメチレンジイソシアネートとから得られるポリウレタン(特許文献3)等が知られている。
【0005】
これらの樹脂の分解を促進する方法としては、炭酸カルシウムや酸化カルシウムなどの無機物の添加(特許文献4、特許文献5)や、過酸化物やアゾ化合物などのラジカル発生剤の添加(特許文献6)といった方法が知られている。しかし、無機物の添加においては、均一な分散が困難なため、樹脂物性が低下するといった問題があり、ラジカル発生剤の添加においては、分解反応だけでなく、架橋反応も同時に起こるため、分解速度が十分ではない。
【0006】
一方、分解性ポリエステルなどの分解を促進する方法として、アスパラギン酸とヒドロキシカルボン酸の共重合体を添加する方法(特許文献7)が知られている。しかし、ポリウレタンの分解を促進する手法についての開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−32862号公報
【特許文献2】特開平6−116356号公報
【特許文献3】特開平6−172578号公報
【特許文献4】特開1996−92962号公報
【特許文献5】特開1997−50709号公報
【特許文献6】特開2002−294717号公報
【特許文献7】特開2000−3450033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、生分解性を有する新規なポリウレタン樹脂組成物を提供することにある。
【0009】
本発明のさらなる課題は、ポリウレタン樹脂の加水分解を促進する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、親水性セグメントと疎水性セグメントを有する共重合体をポリウレタン樹脂に混合すると、ポリウレタン樹脂の濡れ性を向上でき、これにより加水分解を促進できることを見出した。さらに、特にポリエステルポリオールとポリイソシアネートの付加重合により得られる生分解性ポリウレタン樹脂に混合した場合は、ポリウレタン樹脂の性質を損なうことなく、分解速度が向上し、著しい効果を奏することを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、
(I)親水性セグメント(a−1)としてポリアミノ酸を有し、疎水性セグメント(a−2)として分解性ポリマーを有するブロック又はグラフト共重合体(A)と、ポリウレタン樹脂(B)とを含有してなるポリウレタン樹脂組成物である。
【0012】
共重合体(A)と樹脂(B)の重量組成比[(A)/(B)]が[1/99]〜[33/67]であることは分解性及び樹脂物性の点で好ましい態様である。
樹脂(B)が、分解性ポリウレタン樹脂であることは分解性の点で好ましい態様である。
樹脂(B)が、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの付加重合により得られる分解性ポリウレタン樹脂は分解性と相溶性の点で好ましい態様である。
【0013】
樹脂(B)が、脂肪族ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの付加重合により得られる分解性ポリウレタン樹脂であることは分解性及び共重合体(A)との相溶性の点で好ましい態様である。
【0014】
共重合体(A)の親水性セグメント(a−1)がアスパラギン酸に由来する構造単位からなり、疎水性セグメント(a−2)がヒドロキシカルボン酸、ラクチド類又はラクトン類に由来する構造単位からなる共重合体(A)は樹脂(B)の分解加速及び樹脂(B)との相溶性の点で好ましい。
【0015】
共重合体(A)の疎水性セグメント(a−2)が、乳酸、グリコール酸、ラクチド、グリコライド又はε−カプロラクトンに由来する構造単位からなることは樹脂(B)との相溶性の点で好ましい態様である。
【0016】
共重合体(A)の重量平均分子量が1000以上2万以下であることは樹脂(B)との相溶性の点で好ましい態様である。
【0017】
共重合体(A)の親水性セグメント(a−1)と疎水性セグメント(a−2)の比率[(a−1)/(a−2)]が[1/1]〜[1/50]であることは樹脂(B)の分解加速及び樹脂(B)との相溶性の点で好ましい態様である。
【0018】
共重合体(A)が、アスパラギン酸と、ヒドロキシカルボン酸、ラクチド類及びラクトン類からなる群より選択された少なくとも1種との混合物を加熱することにより得られ、繰り返し構造単位として、コハク酸イミド単位及び/又はアスパラギン酸単位、並びに、ヒドロキシ酸単位を有する共重合体であることは樹脂(B)の分解加速及び樹脂(B)との相溶性の点で好ましい態様である。
【0019】
共重合体(A)が、アスパラギン酸と、乳酸、グリコール酸、ラクチド、グリコライド及びε−カプロラクトンからなる群より選択された少なくとも1種との混合物を加熱することにより得られ、繰り返し構造単位として、コハク酸イミド単位及び/又はアスパラギン酸単位、並びに、ヒドロキシ酸単位を有する共重合体であることは樹脂(B)の分解加速及び樹脂(B)との相溶性の点で好ましい態様である。
【0020】
共重合体(A)が、親水性セグメント(a−1)の繰り返し構造単位として下記化学構造式(1)で表されるコハク酸イミド単位と、疎水性セグメント(a−2)の繰り返し構造単位として下記化学構造式(2)で表されるヒドロキシカルボン酸単位とを併せ有することは樹脂(B)の分解加速及び樹脂(B)との相溶性の点で好ましい態様である。
【0021】
【化1】

【0022】
(式(2)中、Rはメチル基又は水素原子を示す。)
共重合体(A)の親水性セグメント(a−1)が、下記化学構造式(3)で表されるポリコハク酸イミドセグメントであり、疎水性セグメント(a−2)が下記化学構造式(4)で表されるポリヒドロキシカルボン酸セグメントであり、共重合体(A)中のコハク酸イミド単位の割合は1〜33モル%、ヒドロキシカルボン酸単位の割合は67〜99モル%であることは樹脂(B)の分解加速及び樹脂(B)との相溶性の点で好ましい態様である。
【0023】
【化2】

【0024】
(式(3)中、mは1以上100以下の数であり、式(4)中、Rはメチル基又は水素原子を示し、nは1以上1000以下の数である。)
【0025】
共重合体(A)が、親水性セグメント(a−1)として、下記化学構造式(5)で表されるセグメント(a−1−1)と、下記化学構造式(6)で表されるセグメント(a−1−2)と、下記化学構造式(7)で表されるポリヒドロキシカルボン酸セグメント(a−2−1)とを併せ有する枝分かれ状共重合体であり、共重合体(A)中の化学構造式(8)で表されるアスパラギン酸由来の単位の割合は1〜33モル%、ヒドロキシカルボン酸単位の割合は67〜99モル%であり、共重合体(A)の分子末端は、アミノ基、水酸基、カルボキシル基及びカルボン酸塩からなる群より選択された少なくとも1種の基からなることは樹脂(B)の分解加速及び樹脂(B)との相溶性の点で好ましい態様である。
【0026】
【化3】

【0027】
(式(5)中、xは0以上100以下の数であり、式(6)中、yは0以上100以下の整数であり、Mは金属または水素であり、(7)中、zは2以上1000以下の数であり、Rはメチル基または水素を示す。)
【0028】
さらに本発明は、
(II)ポリウレタン樹脂(B)に、重量平均分子量1000以上2万以下の共重合体(A)を1〜33重量%(ポリウレタン樹脂(B)と共重合体(A)の合計を100重量%とする)混合することを特徴とするポリウレタン樹脂の加水分解を促進する方法である。
【0029】
共重合体(A)がアスパラギン酸と、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシブタン酸、ラクチド、グリコライド及びε−カプロラクトンからなる群より選択された少なくとも1種とから得た共重合体であることはポリウレタン樹脂(B)との相溶性の点から好ましい態様である。
【0030】
ポリエステルポリオールと、重量平均分子量1000以上2万以下の共重合体(A)を混合した後、ポリイソシアネートを添加し、付加重合をすることで、ポリウレタン樹脂(B)に共重合体(A)を1〜33重量%混合することは共重合体(A)とポリウレタン樹脂(B)を均一に混合する点から好ましい態様である。
【0031】
ポリエステルポリオールと、重量平均分子量1000以上2万以下の、アスパラギン酸と、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシブタン酸、ラクチド、グリコライド及びε−カプロラクトンからなる群より選択された少なくとも1種とから得た共重合体(A)を混合した後、ポリイソシアネートを添加し、付加重合をすることで、ポリウレタン樹脂(B)に共重合体(A)を1〜33重量%混合することは共重合体(A)とポリウレタン樹脂(B)を均一に混合する点で好ましい態様である。
【0032】
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、濡れ性を向上させた新規な樹脂組成物であり、例えば自然環境下や生体内で分解される生分解性ポリウレタン樹脂組成物として特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、ブロック又はグラフト共重合体(A)と、ポリウレタン樹脂(B)とを含有してなる。
【0034】
本発明に用いる共重合体(A)は、親水性セグメント(a−1)としてポリアミノ酸を有し、疎水性セグメント(a−2)として分解性ポリマーを有するブロック又はグラフト共重合体である。
【0035】
本発明において、「疎水性セグメント」とは、特に水に難溶または不溶である分解性ポリマーまたはそれから誘導されたセグメントであり、もう一方の親水性セグメントよりも疎水的なものである。「親水性セグメント」とは、水に可溶、あるいは難溶であっても、疎水性セグメントよりも親水的であるポリマーまたはそれから誘導されたセグメントである。
【0036】
共重合体(A)の親水性セグメント(a−1)の好ましい形態は、アスパラギン酸に由来する構造単位からなるものであり、疎水性セグメント(a−2)の好ましい形態は、下記のヒドロキシカルボン酸類、ポリラクチド類、ポリラクトン類、カーボネート類に由来する構造単位からなるものである。
【0037】
1.ヒドロキシカルボン酸類:α−ヒドロキシモノカルボン酸類(例えば、グリコール酸、乳酸、2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシカプリン酸)、ヒドロキシジカルボン酸類(例えば、リンゴ酸)、ヒドロキシトリカルボン酸類(例えば、クエン酸)など。
【0038】
2.ラクチド類:グリコライド、ラクタイド、p−ジオキサノン、1,4−ベンジルマロラクトナート、マライトベンジルエステル、3−〔(ベンジルオキシカルボニル)メチル〕−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、テトラメチルグリコライドなど。
【0039】
3.ラクトン類:β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、α,α−ビスクロロメチルプロプオラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、3−n−プロピル−δ−バレロラクトン、6,6−ジメチル−δ−バレロラクトン、3,3,6−トリメチル−1,4−ジオキサン−ジオン、3,3,6−トリメチル−1,4−ジオキサン−ジオン、ε−カプロラクトン、ジオキセパノン、4−メチル−7−イソプロピル−ε−カプロラクトン、N−ベンジルオキシカルボニル−L−セリン−β−ラクトンなど。
【0040】
4.カーボネート類:エチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネートトリメチレンカーボネート、ネオペンチレンカーボネート、エチレンオキソレート、プロピレンオキソレートなど。
【0041】
また、上記ヒドロキシカルボン酸類、およびヒドロキシカルボン酸類から誘導されるラクチド類、ラクトン類を含む群からなる少なくとも1種類以上を含むものは、ヒドロキシカルボン酸と総称する。また、特に、先に例示したグリコール酸、乳酸、2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシカプロン酸などは、α−ヒドロキシカルボン酸と総称する。
【0042】
共重合体(A)の疎水性セグメント(a−2)の好ましい形態は、ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位のものである。特に、α−ヒドロキシカルボン酸、グリコライド、ラクタイド、p−ジオキサノン、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンを用いることが好ましい。このうち、グリコール酸、乳酸、グリコライド、ラクタイド、ε−カプロラクトンを用いることがより好ましい。
【0043】
本発明の共重合体(A)としては、アスパラギン酸−ヒドロキシカルボン酸共重合体が好ましい。これは、アスパラギン酸と、ヒドロキシカルボン酸、又は、ラクチド、グリコリド、p−ジオキサノン、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等との共重合反応により得られる。アスパラギン酸−ヒドロキシカルボン酸共重合体は、少なくともアスパラギン酸に由来する構成単位と、ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位とが共存する共重合体である。この共重合体中には、アスパラギン酸に由来する構成単位が1モル%以上及びヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位が10モル%以上含まれていることが好ましい。なお、アスパラギン酸は、脱水縮合してコハク酸イミド単位もつ重合体を生成するが、アスパラギン酸に由来する構成単位とは、このようなコハク酸イミド単位をも含む意味である。
コハク酸イミド単位とは、下記化学構造式(1)で表される構造単位をいう。
【0044】
【化4】

【0045】
アスパラギン酸−ヒドロキシカルボン酸共重合体中のアスパラギン酸由来単位とヒドロキシカルボン酸由来単位との組成比は、好ましくは1/1〜1/50である。
【0046】
アスパラギン酸−ヒドロキシカルボン酸共重合体におけるヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位を構成する為に、好ましくは、α−ヒドロキシカルボン酸、グリコライド、ラクタイド、p−ジオキサノン、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンからなる群より選択された少なくとも1種を用いる。さらに好ましくは、グリコール酸、乳酸、グリコライド、ラクタイド、p−ジオキサノン、2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシカプロン酸、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン及びε−カプロラクトンからなる群より選択された少なくとも1種を用いる。特に好ましくは、グリコール酸、乳酸、グリコライド、ラクタイド及びε−カプロラクトンからなる群より選択された少なくとも1種を用いる。最も好ましくは、乳酸を用いる。
【0047】
アスパラギン酸−ヒドロキシカルボン酸共重合体中にはアスパラギン酸やヒドロキシカルボン酸以外の構成要素が共重合により存在していてもよい。ただし、その量はアスパラギン酸−ヒドロキシカルボン酸共重合体の性質を大きく損なわない程度であることが必要であり、かかる点を考慮すると、その量はおよそ20モル%以下である。
【0048】
アスパラギン酸−ヒドロキシカルボン酸共重合体の製造方法は、特に限定されない。一般には、アスパラギン酸とヒドロキシカルボン酸とを所望の比で混合し、加熱減圧下に脱水重縮合することにより得ることができる。また、ラクチド(LTD)、グリコリド(GLD)、カプロラクトン(CL)等のヒドロキシカルボン酸の無水環状化合物とアスパラギン酸とを反応させて得ることもできる。
【0049】
本発明における好ましいアスパラギン酸−ヒドロキシカルボン酸共重合体は、例えば、アスパラギン酸と、ラクチド、グリコリド、乳酸及びグリコール酸よりなる群から選択された1種以上の化合物との混合物を加熱することにより得られる。ここで得られる共重合体は、繰り返し構造単位として、少なくともコハク酸イミド単位および/またはアスパラギン酸単位と、乳酸単位および/またはグリコール酸単位とを併せ持つ共重合体である。
【0050】
アスパラギン酸−ヒドロキシカルボン酸共重合体は、代表的には、アスパラギン酸と、ラクチド及び/又はグリコリドとの混合物を加熱することにより生成する共重合体の構成単位であるコハク酸イミド単位を加水分解により開環して得られる、繰り返し構造単位としてアスパラギン酸単位と、乳酸単位及び/又はグリコール酸単位とを有する重合体である。また、分子鎖末端のカルボキル基は必ずしもCOOH基である必要はなく、アルカリ金属、アルカリ土類金属やアミン等の塩基との塩を形成していてもよい。
【0051】
アスパラギン酸と、ラクチド、グリコリド、乳酸、グリコール酸からなる群から選択された少なくとも1種以上の化合物との混合物を加熱することにより得られる、繰り返し構造単位として、少なくともコハク酸イミド単位および/またはアスパラギン酸単位と、乳酸単位および/またはグリコール酸単位とをもつ共重合体は、例えば核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定や赤外吸収(IR)スペクトル測定等の公知の分析手法によって構造を確認することができる。
【0052】
アスパラギン酸−ヒドロキシカルボン酸共重合体の構造に含まれるアスパラギン酸単位は、α−アミド型単量体単位およびβ−アミド型単量体単位が混在し得るものであり、両者の比は特に限定されない。
【0053】
本発明に用いるポリウレタン樹脂(B)は、ポリオールとポリイソシアネートの付加重合により得ることができる。ポリオールとしては、ポリウレタンの製造に通常使用されるものであれば、特に制限されない。例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどが挙げられるが、分解性の官能基であるエステル構造を有すること、共重合体(A)との相溶性の点から、ポリエステルポリオールが望ましく、更には、脂肪族ポリエステルポリオールが望ましい。下記のポリエステルポリオールがその代表として挙げられる。
【0054】
本発明に係るポリオールは、(C)ポリヒドロキシカルボン酸ポリオール及び(D)脂肪族ポリエステルポリオールよりなる群から選ばれる1種、又は2種以上の混合物又は共縮重合体からなるポリオール、または(E)(A)及び/又は(B)が、3価以上の脂肪族多価アルコール類と縮合することにより分岐されていてもよいポリオールである。これらのポリオールにおいて、(C)ポリヒドロキシカルボン酸ポリオールとは、脂肪族ヒドロキシカルボン酸から得られるオリゴマー及び/又はポリマーであり、そのカルボキシル基末端をヒドロキシ基に変性したポリオールを言う。
すなわち、本発明に係る(C)ポリヒドロキシカルボン酸ポリオールは、式(9)
【0055】
【化5】

【0056】
(式中、Rは、直鎖部分の炭素数が1〜4であるアルキレン基であって、分岐するアルキル基を含む全炭素数が1〜6であるアルキレン基を表わし、aは1以上の整数である)
で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸のオリゴマー及び/又はポリマーであり、その末端のカルボキシル基がヒドロキシ基に変性されたものである。例えば、式(9−1)又は式(9−2)で表わされるものが挙げられる。
【0057】
【化6】

【0058】
【化7】

【0059】
(これらの式中、Rは、直鎖部分の炭素数が1〜4であるアルキレン基であって、分岐するアルキル基を含む全炭素数が1〜6であるアルキレン基を表わし、またRは炭素数2〜20の置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を表わし、bおよびcは1以上の整数である)。
【0060】
式(9)、式(9−1)及び式(9−2)において、式中のRは、具体的には、炭素数1〜4であるアルキレン基は、直鎖部分の炭素数が1であってメチル基、エチル基、プロピル基のいずれかで置換されたアルキレン基;直鎖部分の炭素数が2であってメチル基又はエチル基が置換されたアルキレン基;又は直鎖部分の炭素数が3であってメチル基で置換されたアルキレン基であり、これらの式において、Rが1種であっても、式中のaが2以上の場合、2種以上の構造単位を含む共重合体であっても良い。
【0061】
式(9)で表される脂肪族ポリヒドロキシカルボン酸オリゴマー又はポリマーの原料である脂肪族ヒドロキシカルボン酸は、具体的には、例えば、グリコール酸、乳酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシヘキサン酸、2−ヒドロキシヘプタン酸、2−ヒドロキシオクタン酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ−2−エチル酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル吉草酸、2−ヒドロキシ−2−エチル吉草酸、2−ヒドロキシ−2−ブチル吉草酸、2−ヒドロキシ−2−メチルヘキサン酸、2−ヒドロキシ−2−エチルヘキサン酸、2−ヒドロキシ−2−プロピルヘキサン酸、2−ヒドロキシ−2−ブチルヘキサン酸、2−ヒドロキシ−2−ペンチルヘキサン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−エチルヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−プロピルヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−ブチルヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−ペンチルヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−ヘキシルヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルオクタン酸、2−ヒドロキシ−2−エチルオクタン酸、2−ヒドロキシ−2−プロピルオクタン酸、2−ヒドロキシ−2−ブチルオクタン酸、2−ヒドロキシ−2−ペンチルオクタン酸、2−ヒドロキシ−2−ヘキシルオクタン酸、2−ヒドロキシ−2−ヘプチルオクタン酸、5−ヒドロキシ−5−プロピルオクタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシヘプタン酸、6−ヒドロキシオクタン酸、6−ヒドロキシ−6−メチルヘプタン酸、6−ヒドロキシ−6−メチルオクタン酸、6−ヒドロキシ−6−エチルオクタン酸、7−ヒドロキシヘプタン酸、7−ヒドロキシオクタン酸、7−ヒドロキシ−7−メチルオクタン酸、8−ヒドロキシオクタン酸が挙げられる。
【0062】
これらの中でも、グリコール酸、乳酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸は、特に強度に優れた生分解性ポリウレタン樹脂を与える点では好ましく、更に乳酸は得られる樹脂が特に高強度で、透明な生分解性ポリウレタン樹脂を形成し、更にはカビ抵抗性等の長所も有することから最も好ましい。本発明において使用できる脂肪族ヒドロキシカルボン酸類は、上記例示化合物に限定されるものではなく、これらのうち1種、又は2種以上を共重合体の原料として用いることもできる。また、これらヒドロキシカルボン酸の原料は、γ―ブチロラクトンのような分子内脱水環状化されたラクトン類や、グリコリドやラクチドのような脱水2量化された形態であってもよく、光学異性体を有するものはその存在比も特に限定されるものではない。
【0063】
本発明において、(D)脂肪族ポリエステルポリオールとは、脂肪族多価アルコール類と多塩基酸類を重縮合して得られるものをいう。原料である脂肪族多価アルコール類は、例えば、式(10)
【0064】
【化8】

【0065】
で表されるグリコール類である。式(10)中、Rは炭素数2〜20の置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を表し、式(10)で表わされるグリコールとしては、具体的には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらのうちの1種又は2種以上を使用することができる。これらの中でも、入手の容易さ、扱い易さ等の点からエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。しかし、これらの例示化合物に限らず、脂肪族ポリエステルを形成できる原料であれば特に限定されるものではない。また、その他の多価アルコール類を用いてもよい。
また、原料である脂肪族多塩基酸類は、式(11)
【0066】
【化9】

【0067】
で表される脂肪族多塩基酸類である。式(11)中、Rは炭素数2〜20の置換されていてもよい脂肪族炭化水素基を表わす。式(11)で表わされる脂肪族多塩基酸としては、具体的には、例えば、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。これらのうちの1種又は2種以上を使用することができるし、その形態も酸無水物やエステルであってもよく、また、これらの例示化合物に限らず、脂肪族ポリエステルを形成できる酸成分原料であれば、特に限定されるものではない。
【0068】
前記(D)脂肪族ポリエステルポリオールとしては、その原料の価格と入手の容易さ、また得られる樹脂の柔軟性等から、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネートアジペート等が挙げられるが、特に限定されない。
【0069】
本発明で使用するポリオールは、前記(C)〜(D)のポリオールの有する官能基の種類や量を調節されたものを使用してもよい。即ち、官能基に他のヒドロキシ化合物やカルボン酸類、アミノ化合物等を反応させて変性したものを用いてもよい。例えば、脂肪族ポリヒドロキシカルボン酸や脂肪族ポリエステルは、ポリマー鎖末端のヒドロキシ基やカルボキシル基を予め多価アルコール類や多塩基酸、或いはポリアミンと反応させて、実質的にポリマー鎖末端基をヒドロキシ基のみにすることもできる。また、必要に応じて適宜、ヒドロキシ基以外の他の官能基を有する化合物と反応させてもよい。更にまた、糖類を使用する場合には糖類と他のポリオール類を混合又は反応させて新たなポリオールとしてもよく、例えば、糖蜜とポリオール類を反応又は混合させて糖蜜ポリオールとしてもよい。
【0070】
特に、ポリオールが(C)の脂肪族ポリヒドロキシカルボン酸ポリオールである場合は、ヒドロキシカルボン酸又はポリヒドロキシカルボン酸を多価アルコール類、(D)で示される脂肪族ポリエステルポリオール及び糖類の群から選ばれる1種又は2種以上と反応させ、末端基が実質的にヒドロキシ基となるようにすることが望ましい。また、ポリオールが(C)の脂肪族多価アルコール類及び脂肪族多塩基酸類を重縮合して得られる脂肪族ポリエステルポリオールのオリゴマー及び/又はポリマーは、その重合の際に使用する脂肪族多価アルコール類と脂肪族多塩基酸類との原料モル比を調節して、末端基が実質的にヒドロキシ基となるようにすることが望ましい。
【0071】
ここで、末端基が実質的にヒドロキシ基であるポリオールとは、ポリイソシナネートとの反応において、ポリウレタン樹脂を形成するに十分なヒドロキシ基を有していることを指し、好ましくはナトリウムメチラート滴定液により中和滴定で測定される酸価が10-4mol/g以下であることであり、より好ましくは6×10-5mol/g以下であることである。また、水酸基価を測定する場合には、ポリオール中に1分子中に含まれる平均水酸基数が1.5以上であるのがよく、より好ましくは1.8以上、更に好ましくは1.9以上、最も好ましくは2.0以上がよい。
また、ポリマー鎖末端のヒドロキシ基数を調節するに際しては、式(12)
【0072】
【化10】

【0073】
で表される3価以上の脂肪族多価アルコール類との反応により、直鎖状の分子構造を有するポリオールを分岐構造にすることもできる。式(12)で表される3価以上の脂肪族多価アルコール類は、式中のRが炭素数1〜20の炭化水素基で、またdが3〜6の整数である化合物であり、1種又は2種以上である。具体的には、脂肪族ポリヒドロキシカルボン酸ポリオールや脂肪族多価アルコール類と多塩基酸類とからなる脂肪族ポリエステルポリオールを重縮合により製造する際に、又は重縮合後に、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、トリメチロールヘプタン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオールや糖類等と縮合させて分岐構造を有するポリオールが得られる。
【0074】
本発明で使用するポリオールは、高分子量のものを低分子量化したり、低分子量のものを高分子量化したりする等して分子量を調節することもできる。例えば、ポリヒドロキシカルボン酸類や他の脂肪族ポリエステル類を更に重合して高分子量化することもできるし、また、高分子量のセルロース類を分解して低分子量オリゴマーとして使用することもできる。使用するポリオールの分子量は、様々な用途に対応して変えることができるので、特に限定されるものではないが、通常数平均分子量が200〜100,000の範囲のものを使用する。
【0075】
ポリイソシアネートとしては、特に制限されず、ポリウレタンの製造に通常使用されるものであれば用いることができる。例えば、芳香族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネートおよびこれらジイソシアネートの誘導体や変性体などが挙げられる。
【0076】
芳香脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、1,3−または1,4−キシリレンジイソシアネートもしくはその混合物、1,3−または1,4−テトラメチルキシリレンジイソシアネートもしくはその混合物、ω,ω′−ジイソシアナト−1,4−ジエチルベンゼン、4,4′−、2,4′−または2,2′−ジフェニルメタンジイソシアネートもしくはその混合物、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネートもしくはその混合物、3,3′−ジメトキシビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、m−またはp−フェニレンジイソシアネートもしくはその混合物、4,4′−ジフェニルジイソシアネート、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネートなどが挙げられる。
【0077】
脂環族ジイソシアネートとしては、例えば、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0078】
また、脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、2,4,4−または2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエートなどが挙げられる。
【0079】
また、ジイソシアネートの誘導体としては、例えば、上記したジイソシアネートのダイマー、トリマー、ビウレット、アロファネート、カルボジイミド、ウレットジオン、オキサジアジントリオン、クルードMDIおよびクルードTDIなどが挙げられる。
さらに、ジイソシアネートの変性体としては、例えば、上記したジイソシアネートやジイソシアネートの誘導体と、前記ポリオール類とを、ジイソシアネートのイソシアネート基が、ポリオール類のヒドロキシル基よりも過剰となる当量比で反応させることによって得られるポリオール変性体などが挙げられる。
【0080】
また、ポリイソシアネートに加え、モノイソシアネートを併用することもできる。
モノイソシアネートとしては、例えば、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、n−ヘキシルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、2−エチルヘキシルイソシアネート、フェニルイソシアネート、ベンジルイソシアネートなどが挙げられる。
これらイソシアネート類は、単独または2種以上併用してもよく、好ましくは、脂環族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネートが用いられる。
【0081】
本発明におけるポリウレタン樹脂(B)は、前記ポリオールとポリイソシアネートとを反応させることにより得ることができるが、その方法は特に限定されるものではない。反応に際しては、溶媒の存在下、非存在下のいずれでもよく、触媒の存在下、非存在下のいずれでもよく、また、反応温度も原料となるポリイソシアネート及びその変性体や本発明で使用するポリオールの物性、或いは得られるポリウレタン樹脂の性質により適宜任意に調節することができる。反応の際のポリイソシアネート添加量は、本発明で使用するポリオールの分子量や末端官能基の数、或いは所望の物性に応じて変えることができるので、特に限定されるものではないが、通常は反応に係る原料の合計重量に対して0.001〜40重量%、好ましくは0.01〜25重量%、更に好ましくは0.01〜10重量%、最も好ましくは0.01〜5重量%である。40重量%を超えると、従来のポリオールが持つ特性を十分に発揮できない場合や、分解性が不十分になる場合がある。また0.001%未満ではポリイソシアネートと反応する効果が殆どなくなってしまうことがある。
【0082】
溶媒を使用する場合には、使用できる溶媒としては、例えば、水、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミドゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等が挙げられるが特に制限はない。また、ウレタン化触媒を使用する場合、触媒の具体例として、ジブチルチンジラウレート、テトラメチルブタンジアミン、1,4−ジアザ[2,2,2]ビシクロオクタン、オクタン酸スズ、4−メチルモルホリン、トリエチルアミン等が挙げられるが特に限定されない。また、ウレタン化触媒の使用量も公知のウレタン化反応に準じて使用すればよく、特に限定されない。
【0083】
本発明においては、反応温度は使用する前記ポリオールや生成するポリウレタン樹脂の種類にも依存する為、特に限定されないが、通常無溶媒下では溶融条件下で行うので、60〜250℃の温度域で反応が行われる。また、溶媒存在下では通常室温〜溶媒の沸点の領域で反応が行われる。本発明においては、ポリオールとポリイソシアネートを反応させて、実質的にポリマー鎖末端がイソシアネート基であるプレポリマーを調製した後に、更に反応を行って分解性を有するポリウレタン樹脂とすることもできる。例えば、直鎖状の脂肪族ポリエステルポリオールとポリイソシアネートを反応させ、実質的にイソシアネート基末端としてから、水の存在下にウレタン発泡体としたり、カルボジイミド化触媒の存在下に生分解性ポリカルボジイミドとしたりすることもできる。発泡体とすることによりの分解性または生分解性を有する発泡ポリウレタンを得ることができる。
【0084】
以上のようにして得られる本発明で使用するポリウレタン樹脂は、前記ポリオールとポリイソシアネートの反応により生成するウレタン結合以外にも、例えばウレア結合やアミド結合、カルボジイミド結合、アロファネート結合、ビュレット結合、イソシアヌレート結合、ウレトンイミン結合、イミド結合等を樹脂構造中に有していてもよいが、特に限定されるものではない。これらの結合の存在は、使用するポリイソシアネート及び/又はその変性体の種類や、前記ポリオールが有する官能基の種類、或いは反応条件等により任意に選択することができる。例えば、イソシアヌレート結合を有する分解性及び生分解性を有するポリウレタン樹脂を得る為には、ポリイソシアネートのイソシアヌレート体を原料として使用したり、或いは予めポリオールとポリイソシアネートとを反応させて末端官能基をイソシアネート基とした後にイソシアヌレート化触媒の存在下に反応させることによりイソシアヌレート結合を有する分解性及び生分解性ポリウレタン樹脂とすることもできる。
【0085】
本発明の樹脂組成物は、上記ポリウレタン樹脂に、前記の共重合体(A)を混合することにより得られる。共重合体(A)は重量平均分子量が1000以上2万以下のアスパラギン酸−ヒドロキシカルボン酸共重合体が好ましい。重量平均分子量が1000以下であると分解速度の向上効果が期待しにくく、重量平均分子量が2万以上であるとポリウレタン樹脂(B)への溶解が困難になり、樹脂物性が低下する場合がある。ポリウレタン樹脂(B)に対する共重合体(A)、好ましくはアスパラギン酸−ヒドロキシカルボン酸共重合体の組成比が小さ過ぎると、ポリヒドロキシカルボン酸の分解速度の促進効果が期待しにくい。
【0086】
ポリウレタン樹脂(B)のもつ性質を大きく損なわない組成物を所望する場合は、前記の共重合体(A)、好ましくはアスパラギン酸−ヒドロキシカルボン酸共重合体とポリウレタン樹脂(B)との重量組成比を、1/99〜33/67、より好ましくは5/95〜25/75の範囲にする。
【0087】
ポリウレタン樹脂(B)に、前記共重合体(A)、好ましくはアスパラギン酸−ヒドロキシカルボン酸共重合体(A)を1〜33重量%(ポリウレタン樹脂(B)と共重合体(A)の合計を100重量%とする)、より好ましくは5〜25重量%混合することによって、ポリウレタン樹脂の加水分解を促進することができるので好ましい。
【0088】
共重合体(A)とポリウレタン樹脂(B)とを混合する方法は特に限定されない。両者を加熱溶融するか、溶媒に溶解させ、攪拌混合する、もしくは、共重合体(A)とポリウレタン樹脂(B)の原料であるポリオールとを加熱溶融するか、溶媒に溶解させ、攪拌混合した後、ポリイソシアネートを添加し、ポリオールとポリイソシアネートとを付加重合させる方法などがある。
【0089】
共重合体(A)とポリウレタン樹脂(B)とを加熱溶融により混合する場合は、ポリウレタン樹脂として、熱可塑性ポリウレタンを用い、ニーダーやラボプラストミルなどを用いて、溶融混合することができる。
【0090】
また、共重合体(A)とポリウレタン樹脂(B)の原料であるポリオールとを、加熱溶融する場合も同様に、ニーダーやラボプラストミルなどを用いて、溶融混合することができる。
【0091】
共重合体(A)とポリウレタン樹脂(B)とを溶媒に溶解させ、攪拌混合する場合には、使用できる溶媒としては、両者が溶解できる溶媒であれば良く、特に制限はないが、例えば、水、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミドゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール等が挙げられる。溶解もしくは混合するときに、溶解性向上もしくは溶解速度向上のため加熱をしてもよい。
【0092】
また、共重合体(A)とポリウレタン樹脂(B)の原料であるポリオールとを、溶媒に溶解させ、攪拌混合する場合にも、使用できる溶媒としては、両者が溶解できる溶媒であれば良く、特に制限はないが、例えば、水、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミドゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等が挙げられる。溶解もしくは混合するときに、溶解性向上もしくは溶解速度向上のため、加熱をしてもよい。
【0093】
本発明において、樹脂(B)に共重合体(A)を均一に混合することにより、樹脂組成物としての濡れ性が向上する。これにより、ポリウレタン樹脂組成物の分解速度が向上する。
【0094】
本発明においては、得られるポリウレタン樹脂組成物を成形体として加工する際には、他の樹脂との混合物又は複合体としてもよく、また、水や不活性ガス等の発泡剤、光安定剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定化剤、難燃剤、離型剤、無機添加剤、充填剤、結晶核剤、耐電防止剤、着色防止剤、顔料、アンチブロッキング剤等の添加剤を用いて、更に物性の向上を図ってもよい。
【0095】
また、本発明のポリウレタン樹脂組成物を、土壌もしくは砂もしくは石もしくはそれらの混合物と混合し、成形することで、崩壊性を有するブロックを作製することができる。
本発明における、共重合体(A)とポリウレタン樹脂(B)を含有するポリウレタン樹脂組成物による成形体は、加水分解速度が速いことから、農園芸材料、土木建築資材として有用である。
【0096】
農園芸材料としては、マルチフィルム、育苗ポット、農園芸テープ、果実栽培袋、杭、薫蒸シート、ビニールハウス用フィルム等が挙げられる。例えば育苗ポットとして用いた場合にはその加水分解性および生分解性を調整することにより播種時及び/または苗を育成している段階および/または流通段階では充分な強度を有し、土壌もしくは水中に埋設後に分解させることが可能であり、苗を育成後土壌埋没前に育苗ポットを取り外す手間をなくすことが可能となる。
土木建築資材としては植生ネット、植生袋、植生ポット、立体網状体、土木用繊維、杭、断熱材として好適に用いることができる。
【0097】
また、本発明のポリウレタン樹脂組成物に、土壌もしくは砂もしくは石もしくはそれらの混合物を添加した樹脂組成物混合物を成形することによって得られる生分解性成形体は、成形体中に播種するなどにより、植物の育苗材料として有用であり、ブロック化が可能であることから、流通、土壌もしくは水中への埋没作業が容易になる。また、土壌もしくは水中に埋没後に分解させることも可能であり、苗を育成後、成形体を回収する手間を省くことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性セグメント(a−1)としてポリアミノ酸を有し、疎水性セグメント(a−2)として分解性ポリマーを有するブロック又はグラフト共重合体(A)と、ポリウレタン樹脂(B)とを含有してなるポリウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
共重合体(A)と樹脂(B)の重量組成比[(A)/(B)]が[1/99]〜[33/67]である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
樹脂(B)が、生分解性ポリウレタン樹脂である請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂(B)が、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの付加重合により得られる分解性ポリウレタン樹脂である請求項3に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
樹脂(B)が、脂肪族ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの付加重合により得られる分解性ポリウレタン樹脂である請求項3に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項6】
ポリエステルポリオールと共重合体(A)を混合した後、ポリイソシアネート類を添加し、付加重合をすることにより得られる分解性ポリウレタン樹脂である請求項4に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項7】
共重合体(A)の親水性セグメント(a−1)がアスパラギン酸に由来する構造単位からなり、疎水性セグメント(a−2)がヒドロキシカルボン酸、ラクチド類又はラクトン類に由来する構造単位からなる請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項8】
共重合体(A)の疎水性セグメント(a−2)が、乳酸、グリコール酸、ラクチド、グリコライド又はε−カプロラクトンに由来する構造単位からなる請求項7に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項9】
共重合体(A)の重量平均分子量が1000以上2万以下である請求項7に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項10】
共重合体(A)の親水性セグメント(a−1)と疎水性セグメント(a−2)の比率[(a−1)/(a−2)]が[1/1]〜[1/50]である請求項7に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項11】
共重合体(A)が、アスパラギン酸と、ヒドロキシカルボン酸、ラクチド類及びラクトン類からなる群より選択された少なくとも1種との混合物を加熱することにより得られ、繰り返し構造単位として、コハク酸イミド単位及び/又はアスパラギン酸単位、並びに、ヒドロキシ酸単位を有する共重合体である請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項12】
共重合体(A)が、アスパラギン酸と、乳酸、グリコール酸、ラクチド、グリコライド及びε−カプロラクトンからなる群より選択された少なくとも1種との混合物を加熱することにより得られ、繰り返し構造単位として、コハク酸イミド単位及び/又はアスパラギン酸単位、並びに、ヒドロキシ酸単位を有する共重合体である請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項13】
共重合体(A)が、親水性セグメント(a−1)の繰り返し構造単位として下記化学構造式(1)で表されるコハク酸イミド単位と、疎水性セグメント(a−2)の繰り返し構造単位として下記化学構造式(2)で表されるヒドロキシカルボン酸単位とを併せ有する請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【化1】

(式(2)中、Rはメチル基又は水素原子を示す。)
【請求項14】
共重合体(A)の親水性セグメント(a−1)が、下記化学構造式(3)で表されるポリコハク酸イミドセグメントであり、疎水性セグメント(a−2)が下記化学構造式(4)で表されるポリヒドロキシカルボン酸セグメントであり、共重合体(A)中のコハク酸イミド単位の割合は1〜33モル%、ヒドロキシカルボン酸単位の割合は67〜99モル%である請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【化2】

(式(3)中、mは1以上100以下の数であり、式(4)中、Rはメチル基又は水素原子を示し、nは1以上1000以下の数である。)
【請求項15】
共重合体(A)が、親水性セグメント(a−1)として、下記化学構造式(5)で表されるセグメント(a−1−1)と、下記化学構造式(6)で表されるセグメント(a−1−2)と、下記化学構造式(7)で表されるポリヒドロキシカルボン酸セグメント(a−2−1)とを併せ有する枝分かれ状共重合体であり、共重合体(A)中の化学構造式(8)で表されるアスパラギン酸由来の単位の割合は1〜33モル%、ヒドロキシカルボン酸単位の割合は67〜99モル%であり、共重合体(A)の分子末端は、アミノ基、水酸基、カルボキシル基及びカルボン酸塩からなる群より選択された少なくとも1種の基からなる請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【化3】

(式(5)中、xは0以上100以下の数であり、式(6)中、yは0以上100以下の整数であり、Mは金属または水素であり、(7)中、zは2以上1000以下の数であり、Rはメチル基または水素を示す。)
【請求項16】
ポリウレタン樹脂(B)に、重量平均分子量1000以上2万以下の請求項7に記載の共重合体(A)を1〜33重量%(ポリウレタン樹脂(B)と共重合体(A)の合計を100重量%とする)混合することを特徴とするポリウレタン樹脂の加水分解を促進する方法。
【請求項17】
ポリウレタン樹脂(B)に、重量平均分子量1000以上2万以下の、アスパラギン酸と、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシブタン酸、ラクチド、グリコライド及びε−カプロラクトンからなる群より選択された少なくとも1種とから得た共重合体を1〜33重量%混合することを特徴とするポリウレタン樹脂の加水分解を促進する方法。
【請求項18】
ポリエステルポリオールと、重量平均分子量1000以上2万以下の共重合体(A)を混合した後、ポリイソシアネートを添加し、付加重合をすることで、ポリウレタン樹脂(B)に共重合体(A)を1〜33重量%混合することを特徴とするポリウレタン樹脂の加水分解を促進する方法。
【請求項19】
ポリエステルポリオールと、重量平均分子量1000以上2万以下の、アスパラギン酸と、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシブタン酸、ラクチド、グリコライド及びε−カプロラクトンからなる群より選択された少なくとも1種とから得た共重合体(A)を混合した後、ポリイソシアネートを添加し、付加重合をすることで、ポリウレタン樹脂(B)に共重合体(A)を1〜33重量%混合することを特徴とするポリウレタン樹脂の加水分解を促進する方法。
【請求項20】
請求項1記載のポリウレタン樹脂組成物を用いた成形体。
【請求項21】
請求項1記載のポリウレタン樹脂組成物に土壌もしくは砂もしくは石もしくはそれらの混合物を添加した樹脂混合物を用いた成形体。
【請求項22】
請求項20もしくは請求項21記載の成形体が農園芸材料であることを特徴とする成形体。
【請求項23】
請求項20もしくは請求項21記載の成形体が土木建築資材であることを特徴とする成形体。

【公開番号】特開2011−63634(P2011−63634A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212712(P2009−212712)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】