説明

ポリエステルナノコンポジットを製造する方法

ポリエステルナノコンポジット及びその製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【関連出願に対する相互参照】
【0001】
本出願は、米国出願仮出願の出願番号60/840,091(2006年8月25日出願)の優先権を主張する。前記出願の全内容が参照することにより本明細書に組み込まれる。
【連邦政府による資金提供を受けた研究】
【0002】
以下の発明は、国立科学財団が与えた認可/連絡番号0117792に基づき米国国庫補助により行なわれた。米国政府は、一定の権利を有する。
【発明の分野】
【0003】
本発明は、ポリエステルナノコンポジット及びその製造方法に関するものである。
【発明の背景】
【0004】
機械的、熱的、電気的、及びバリア特性などの様々な特性を改善するために、ポリマーの充填剤として、ナノ粒子が探索されてきた。ナノ充填剤の使用に対するドライビングフォースは、充填剤のサイズが100nm未満まで減少するときに達成され得る巨大な比表面積である。ナノ粒子は、ミクロン及びマクロサイズの対応物よりも数桁高い比表面積を所有する。このことにより、2つの関連する現象をもたらすことができる。第1に、充填剤とマトリックス間の相互作用面積の増加がある。第2に、ポリマーがそこではバルクとは異なる挙動をする、各粒子周囲の領域がある。この「相互作用ゾーン(IZ)」の容積分率は、粒子の容積分率より大きくなることができ、IZの諸特性が諸特性の変化に寄与する。相互作用の増加は、様々な効果を有し得る。それは、ガラス転移温度(T)及びポリマーから充填剤への荷重伝達に変化をもたらすことができる。半結晶性ポリマーの場合においては、相互作用の増加により、結晶化温度(T)などの結晶化挙動の変化という結果を得ることができる。
【0005】
しかしながら、これらの変化の程度は、充填剤とポリマーとの間の界面に依存する。一般には、より強い界面が、結果的により良い荷重伝達とより高いTをもたらす。強い界面を達成する手段は、ポリマー分子と適合性がよいか又はポリマー分子と結合することができるかのいずれかである分子でナノ粒子の表面をコーティングすることにより、ナノ粒子の表面を変えることである。ナノ粒子の表面を変える最も多くの試みは、粒子表面に吸着される一方の末端基及びポリマー分子と適合性のよい他方の末端基を有するカップリング剤、例えばシラン又はホスホン酸でナノ粒子表面をコーティングすることに関する。次そして、ポリマーを充填剤上にグラフトさせることにより結合が達成される。前記グラフトは、カップリング剤をモノマー分子と反応させ、そのあと重合させることに関する。この方法は可能性のある結果を示したが、一方では前述したことと関連する問題により、分子量及び分子量分布を制御することの困難性が含まれる。
【0006】
ポリエステルなどのポリマーの熱的安定性を改良するために、そのガラス転移温度を増加させる代替方法が使用されてきた。一つの方法は、ポリエステルをより高いTを有する別のポリエステルとブレンドすることである。例えば、PET(T〜80℃)が、130℃のTを有するポリエチレンナフタレート(PEN)とブレンドされている。このプロセスの不利な点は、より高いTg-を有するポリエステルの原価が高いことである。共重合は、ポリエステルのTを増加させるために使用されるもう一つの手段である。PETのPENとの共重合体が製造されており、そのTは、ナフタレン単位を増加するとともに増加する。PETはまた、5−ニトロイソフタル酸単位(PETNI)と共重合されて、50%NI含量について最大6℃までのガラス転移の増加が得られている。しかし、この方法では、明らかな変化を達成するために高いパーセンテージのコモノマー単位が必要となる。
【0007】
前述した欠点の少なくとも1つを克服する、ナノ粒子を充填したポリマー、すなわちポリマーナノコンポジット及びその製造方法が必要とされている。
【発明の要約】
【0008】
本発明の観点は、ナノ粒子をジカルボン酸でコーティングする工程;ジカルボン酸コーティングしたナノ粒子をカップリング剤と混合して第1の混合物を得る工程;並びに第1の混合物をポリエステルと混合してポリエステルより高いガラス転移温度及びポリエステルより低い結晶化温度を有するポリエステルナノコンポジットを形成させる工程を含む、ポリエステルナノコンポジットの製造方法に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明による、試料重量の温度に対する熱重量分析(TGA)プロットである。
【0010】
【図2】本発明による、様々なパーセンテージのテレフタル酸(TA)を有するTAコーティングしたナノ粒子についての、重量の温度に対するTGAプロットである。
【0011】
【図3】本発明による、様々な加熱速度における、TAコーティングしたナノ粒子についての、重量損失パーセントの温度に対するTGAプロットである。
【0012】
【図4】本発明による、TA及びポリジカルボジイミド(pCDI)の、熱流量の温度に対する示差走査熱量測定(DSC)プロットである。
【0013】
【図5】本発明による、反応熱のTA対pCDIの比率に対するプロットである。
【0014】
【図6】本発明による、ポリエステルナノコンポジットにおける、ガラス転移温度の充填剤パーセンテージに対するプロットである。
【0015】
【図7】本発明による、ポリエステルナノコンポジットにおける、結晶化温度の充填剤パーセンテージに対するプロットである。
【発明の詳細な説明】
【0016】
本明細書の全体にわたり、用語及び置換基は、最初に導入する時に定義されて、それらの定義を保持する。
【0017】
ポリエステルナノコンポジットを製造する方法は、本発明によって提供される。方法は、ナノ粒子をジカルボン酸でコーティングすることを含む。ジカルボン酸コーティングしたナノ粒子をカップリング剤と混合して第1の混合物を得ることを含む。次いで第1の混合物をポリエステルと混合してポリエステルナノコンポジットを形成させることを含む。得られたポリエステルナノコンポジットは、他の特性の中で、ポリエステルそのものより高いガラス転移温度を有し、またポリエステルそのものより低い結晶化温度をも有する。
【0018】
本発明で有用なナノ粒子としては、金属酸化物、非金属酸化物、非金属化合物、半金属酸化物、及び半金属化合物からなる群から選択されるナノ粒子が挙げられる。金属酸化物の例としては、アルミナ、チタニア、ジルコニア、アンチモンスズ酸化物、酸化セリウム、酸化銅、酸化インジウム、インジウムスズ酸化物、酸化鉄、二酸化ケイ素、酸化スズ、酸化イットリウム、酸化亜鉛、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化クロム、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、酸化ネオジム、及び酸化ストロンチウムが挙げられる。
【0019】
非金属酸化物又は化合物の例としては、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸炭窒化ケイ素、酸化ゲルマニウム、窒化ゲルマニウム、炭化ゲルマニウム、炭窒化ゲルマニウム、及び酸窒化ゲルマニウム、酸炭窒化ゲルマニウムが挙げられる。半金属酸化物又は化合物の例としては、酸化ビスマス、窒化ビスマス、炭化ビスマス、炭窒化ビスマス、酸窒化ビスマス、酸炭窒化ビスマス、酸化ベリリウム、窒化ベリリウム、炭化ベリリウム、炭窒化ベリリウム、酸窒化ベリリウム、及び酸炭窒化ベリリウムが挙げられる。
【0020】
本発明で使用されるナノ粒子の平均粒径(average particle size)は、1nmから100nmまでの範囲にある。粒径は、下限値10nm、20nm、又は30nmから上限値70nm、80nm、又は90nmまでの範囲で変動することができる。平均粒径の範囲のすべては、包括的であり、且つ組合せ可能である。「平均粒径」という用語は、電子顕微鏡法により又は表面積測定により測定された粒径を指す。ジカルボン酸でコーティングされる前に大きい粒子を除去することにより、ナノ粒子の粒径分布を狭くすることができる。大きい粒子は、沈殿又は沈降技術により、例えば、遠心分離により除去することができる。
【0021】
前述のナノ粒子は、ジカルボン酸でコーティングされる。コーティング工程は、ナノ粒子表面上への表面ヒドロキシル基によるジカルボン酸の化学吸着からなる。その結果各ジカルボン酸分子の一方のカルボン酸基が遊離型となる。本発明によって使用されるジカルボン酸の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、o−フタル酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’ジフェニルジカルボン酸、4,4’ジフェニルスルホンジカルボン酸、及びジフェニルエーテル4,4’−ジカルボン酸が挙げられる。典型的には、テレフタル酸、イソフタル酸、又はo−フタル酸などのフタル酸が使用される。
【0022】
ナノ粒子をジカルボン酸でコーティングしたあと、次いでコーティングされたナノ粒子を、カップリング剤と混合して第1の混合物を得る。カップリング剤は、カルボジイミド、エポキシド、及び無水物からなる群から選択される。典型的には、ポリカルボジイミドなどのカルボジイミドを、コーティングされたナノ粒子とカップリングさせる。
【0023】
次いで第1の混合物を、ポリエステルと混合してポリエステルナノコンポジットを形成させる。第1の混合物に存在しているカップリング剤は、ナノ粒子上に化学吸着しているジカルボン酸の遊離カルボキシル基及びポリエステルのカルボン酸末端基の両方と反応する。反応は、第1の混合物のポリエステルとの混合の間にインシトゥーで起こる。混合の機構は、前記のものの溶融混合により達成される。典型的には、ポリエステルナノコンポジットは、第1の混合物を4%〜10%含む。
【0024】
第1の混合物との混合のために有用なポリエステルは、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンドデケート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンナフタレート)、ポリ(エチレン2,7−ナフタレート)、ポリ(メタフェニレンイソフタレート)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(エチレンサクシネート)、ポリ(エチレンアジペート)、ポリ(エチレンセバケート)、ポリ(デカメチレンアゼレート)、ポリ(デカメチレンセバケート)、ポリ(ジメチルプロピオラクトン)、ポリ(エチレンイソフタレート)、ポリ(テトラメチレンテレフタレート)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタレート)、ポリ(デカメチレンテレフタレート)、ポリ(1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)(trans)、ポリ(エチレン1,5−ナフタレート)、ポリ(エチレン2,6−ナフタレート)、及びポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)からなる群から選択される。典型的には、第1の混合物との混合のために使用されるポリエステルは、ポリ(エチレンテレフタレート)である。
【0025】
本発明のある実施態様においては、ポリエステル共重合体を、第1の混合物と混合してポリエステルナノコンポジットを形成させる。ポリエステル共重合体は、2つの異なるモノマー種から得るポリマーである。ポリエステル共重合体の例においては、一方の種は、ポリエステルモノマーであり、第2の種は、ポリエステルモノマー以外の任意の適合性モノマー種である。
【0026】
本発明の別の実施態様においては、ポリエステル及び別のポリマーの混合物を、第1の混合物と混合してポリエステルナノコンポジットを形成させる。第2のポリマーは、異なるポリエステル又は本発明のポリエステルナノコンポジットにおいて使用するのに適合性のあるポリマーであることができる。
【実験】
【0027】
《材料》
平均粒径38nm及び比表面積50m/gmを有するアルミナナノ粒子は、Nanophase Technologies Corpから入手した。ジカルボン酸であるテレフタル酸(TA)は、Aldrich chemicalsから粉末形態で購入して、入荷したままで使用した。エタノール(200プルーフ)は、Fisher chemicalsから入手し、トリフルオロ酢酸(TFA)は、Sigma−Aldrichから入手した。すべての試薬を入荷したままで使用した。カップリング剤である芳香族ポリカルボジイミド(Stabaxol 100)は、Rheinchemie chemicalsから入手した。
【0028】
《試験方法》
示差走査熱量測定(DSC)分析は、Mettler Toledo DSC822e機器を用いて実施した。DSCを用いるガラス転移温度の測定は、融成物からクエンチして調製した無定形試料について実施した。半結晶性ポリマーのガラス転移温度は、しばしばマトリックスの結晶性に依存しており、界面強度の真実の指標は、無定形試料の研究によってのみ得ることができる。これらの測定に対しては、10C/minの走査速度を用いた。
【0029】
加熱時重量損失は、熱重量分析(TGA)によって分析し、Mettler Toledo TGAで測定した。これらの測定に対しては、試料を10C/minの速度で加熱した。
【0030】
《実施例》
実施例1:
【0031】
アルミナナノ粒子を最初に、7分間超音波プローブによる超音波処理及び撹拌を同時に行なうことにより、エタノール中に分散した。適当量のTAを分散系に添加してから、エタノール中のTAの最大溶解度を確保するために、エタノールの沸点近くまで加熱した。分散系に添加されるTAの量は、アルミナナノ粒子の量と比較して、1:4〜4:1の範囲を有する比率にある。TA対アルミナナノ粒子の比率の選択においては、技術者は、アルミナナノ粒子のTAコーティングが促進されるように、前述の範囲内の任意の比率を用いることができることを認めるであろう。ナノ粒子は、最小限にコーティングするか、全体的にコーティングするか、又は前述の量の間の任意の量でコーティングすることができる。撹拌しながら混合物の還流を4時間継続した。次いで厳密な撹拌とともに混合物を加熱することにより、溶媒を除去した。最低限24時間の真空乾燥により、溶媒の完全除去を確保して、結果的にTAコーティングしたナノ粒子を粉末として単離した。
【0032】
TAコーティングしたナノ粒子を、7分間同時に超音波処理及び撹拌を行なうことにより、トリフルオロ酢酸(TFA)中に分散した。適当量のポリカルボジイミド(pCDI)を、pCDI中でゆっくり撹拌することにより、この溶液に溶解した。最終的に20wt%のナノ粒子を含むナノコンポジットマスターバッチを製造するために十分な量のポリ(エチレンテレフタレート)(PET)を別個に、撹拌することによりTFA中に溶解した。pCDI量の選択においては、技術者は、最終的に必須の(requisite)wt%のナノ粒子を有するナノコンポジットマスターバッチの製造という結果を得るように、任意の量のpCDIを用いることができるということを認めるであろう。その必要な量は、存在している出発材料の量により、又は最終的に必要とされるナノコンポジットマスターバッチの量により決定することができる。「必須の(requisite)」という用語は、必要性(need)又は入用(want)を意味するために使用されており、必要条件(requirement)又は絶対パラメーター(absolute parameter)を意味するために使用されてはいない。
【0033】
次いで2つの溶液を、厳密な撹拌下に一緒に混合した。得られた溶液を氷−水混合物で冷却したメタノール(反溶媒(anti-solvent))に滴下することにより、得られた溶液からナノコンポジットマスターバッチを沈殿させた。前述の工程に続いて、メタノールで数回洗浄した。ナノコンポジットマスターバッチを、真空下に110℃で最低限48時間乾燥した。
【0034】
次いで得られたナノコンポジットマスターバッチを、アルゴン雰囲気中、260Cで7分間、スクリュー回転数80rpmを有するThermoHaake PolyDriveバッチ溶融混合機中でPETペレットとともに溶融混合することにより、必須の(requisite)濃度まで希釈した。TAとpCDI間の反応、及びpCDIとPET間の同時反応を、溶融混合プロセスの間にインシトゥーで実現して、ポリエステルナノコンポジットの形成という結果を得た。
【0035】
実施例2:
【0036】
アルミナナノ粒子を、7分間超音波プローブによる超音波処理及び同時の撹拌を行なうことにより、0.5重量/体積(w/v)%のエタノール中に分散した。TAを、アルミナの4重量/重量(w/w)%の濃度で、継続的に撹拌しながら分散系に添加した。溶液を、厳密に撹拌しながら最低限4時間還流して、完全吸着を確保した。次いで溶媒を、65℃で蒸発させて除去して、残渣粉末を、真空下に110℃で最低限24時間乾燥した。TAコーティングしたナノ粒子を、7分間超音波処理及び撹拌を同時に行なうことにより、2%w/vのTFA中に分散した。ポリCDIを、激しい撹拌下にゆっくり添加することにより、前述の溶液中に溶解した。pCDI対TAの比率4:1を用いた。PET(20wt%ナノ粒子を含むナノコンポジットマスターバッチを製造するために)を別個に、TFA中に10%w/vの濃度で撹拌により溶解した。完全溶解後、2つの溶液を、激しい撹拌下に一緒に混合した。得られた溶液をメタノール(反溶媒)に滴下することにより、ナノコンポジットマスターバッチを得られた溶液から沈殿させ、そのあとメタノールで数回洗浄した。ナノコンポジットマスターバッチを、真空下に110℃で最低限48時間乾燥した。次いでナノコンポジットマスターバッチを、適当量のPETペレットと溶融混合して、必須の(requisite)パーセンテージのナノ粒子を含むポリエステルナノコンポジットを得た。
【0037】
《結果》
ナノ粒子表面上へのTAコーティングは、TGAにより特徴付けられた。7wt%TAコーティングした粒子のTGAが、図1に示されている。TAは、〜300℃で昇華する。しかしながら、7wt%TAコーティングしたナノ粒子については、2.5%のみの重量損失が〜300℃で起こる。これは、遊離のテレフタル酸に相当する。約4wt%の損失が500℃を超える温度で起こる。このことは、この割合のTAが昇華しないこと及び粒子表面に強く吸着していることを示す。
【0038】
2、4、6及び7wt%TAコーティングしたアルミナ粒子に対するTGA曲線が、図2に示されている。4wt%を超えるTAコーティングを有する試料すべてについて、2つの重量損失領域が存在する:1つは〜300℃にあり、1つは500℃で開始し、その場合4wt%の損失が起こる。4wt%以下のTA含量でコーティングした粒子については、全重量損失が温度>500℃で起こる。このことは、38nmのアルミナナノ粒子上のTAの完全な単分子層の表面被覆が4wt%であることを示している。これは、1gのアルミナ当たり0.246mmolのTA被覆すなわち0.0492mmol/m(アルミナ表面)に相当する。
【0039】
加熱時の化学吸着したTAの除去反応速度を評価するために、Kissinger解析を用いた。図3には、4wt%TA処理したアルミナの加熱速度2、5、30及び50℃/minでのTGA重量損失曲線が示されている。重量損失に対する温度の値を用いて、活性化エネルギーが220KJ/molであることが計算される。この活性化エネルギーの高い値は、TAがアルミナ表面に強く固定されていること及びアルミナ表面上の最適な表面被覆が4wt%TAに相当することを示している。
【0040】
TAとpCDI間の反応を、DSCを用いて追跡した。図4には、入荷したままの(as-received)TA及びpCDIの混合物のDSC曲線が示されている。〜50℃の吸熱ピークは、混合物中のpCDIの融解に相当する。〜217℃には発熱の第2のピークが存在する。TAは、この温度で昇華しないし、しかも昇華は吸熱である。このピークは、TAが〜217℃でpCDIと反応することを示している。反応熱は、このピーク下の面積を得るために積分により計算した。
【0041】
入荷したままのTA対pCDIの比率の異なるものについて測定した反応熱が、図5に示されている。TA対pCDIの比率の増加とともに、反応熱は増加し、最大値に達し、次いで減少し始める。2:1を超える比率について、TAは、pCDIと反応した。
【0042】
アルミナ表面に化学吸着したTAに対して、全カルボン酸基の半分だけがpCDIとの反応に利用可能である(他の半分はアルミナ表面に化学吸着される)。従って、1:4という化学吸着したTA対pCDIの比率は、吸着したTAと完全に反応するのに必要なpCDIの最小量に相当するであろう。カルボン酸基の完全利用を確保するために過剰のpCDIを使用した。TA対pCDIの1:4の比率は、本発明の実施態様において使用することができるpCDIの最小量を限定することを意味しない。前述の1:4の比率は、吸着したTAと完全に反応するのに必要なpCDIの最小量に相当する。
【0043】
本発明の実施態様においては、第1の混合物を形成させるためには、吸着したTAのすべてがpCDIと反応することは必要とされるわけではない。第1の混合物をそして最終的にポリエステルナノコンポジットを形成させるためには、1:4未満のTA対pCDIの比率を使用することができる。本発明で使用するTA対pCDIの比率は、下限値1:1.5、1:2、又は1:3から上限値3:1、2:1、又は1:1までの範囲で変動することができる。前述の比率の範囲はすべて包括的であり、且つ組合せ可能である。
【0044】
ポリCDIは、PETプロセシングの間、加水分解による分解を防止するために使用される。それは、PETのカルボキン酸末端基にキャップをすることによりPETを安定化させる。pCDIとPET間の反応は、〜260℃での溶融混合下に起こる。
【0045】
表面コーティングしたナノ粒子を異なる重量割合で含むPETのガラス転移温度のDSC測定が、図6に示されている。ナノ粒子含量の増加とともにTが増加するのが示される。これは、ナノ粒子とマトリックスポリマー間の強い界面を示唆している。対照として、入荷したままのナノ粒子をもPETとともに溶融混合した。入荷したままのナノ粒子を添加しても、ガラス転移温度は変化しない。
【0046】
融解生成物から冷却速度16℃/minでDSCを用いて測定した結晶化曲線から得たピーク結晶化温度が、図7に示されている。ピーク結晶化温度は、充填剤含量の増加とともに次第により低い温度へ移って行き、10wt%装填では純粋なPETのピーク結晶化温度に比べて27℃低くなる。ポリエステルの結晶化温度の低下を報告している文献上の研究はほとんど存在していなかった。充填剤の存在により、不均一な核発生のために結晶化温度の増加がもたらされることがポリマーナノコンポジットの分野では一般的に知られている。本発明の方法の利点は、その逆のことが起こるということである。充填剤の導入により、結晶化温度の増加という結果が得られる。
【0047】
前記のことは、ナノ粒子表面のコーティングにより、マトリックスポリマーとの強い化学的連結が与えられることを実証する。このことは、粒子上に吸着されたカップリング剤にモノマーをグラフト化してから重合するという普通の技術とは対照的である。強い連結は、ポリマー末端基とカップリング剤との間の化学反応により達成される。強い界面により、ナノ粒子と相互作用をするポリマー分子のパーセンテージが高くなるという結果が得られ、それによってポリマーナノコンポジットのガラス転移温度に実質的な増加がもたらされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子をジカルボン酸でコーティングする工程;
ジカルボン酸コーティングしたナノ粒子をカップリング剤と混合して第1の混合物を得る工程;並びに
第1の混合物をポリエステルと混合してポリエステルより高いガラス転移温度及びポリエステルより低い結晶化温度を有するポリエステルナノコンポジットを形成させる工程
を含む、ポリエステルナノコンポジットを製造する方法。
【請求項2】
ナノ粒子の平均粒径が1nmから100nmまでの範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ナノ粒子が、金属酸化物、非金属酸化物、非金属化合物、半金属酸化物、及び半金属化合物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
金属酸化物が酸化アルミニウムである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
非金属酸化物が酸化ケイ素である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
ジカルボン酸が、テレフタル酸、イソフタル酸、o−フタル酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’ジフェニルジカルボン酸、4,4’ジフェニルスルホンジカルボン酸、及びジフェニルエーテル4,4’−ジカルボン酸からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ジカルボン酸が、テレフタル酸、イソフタル酸、及びo−フタル酸からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
カップリング剤が、カルボジイミド、エポキシド、及び無水物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
カップリング剤が、カルボジイミドである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ポリエステルが、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンドデケート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンナフタレート)、ポリ(エチレン2,7−ナフタレート)、ポリ(メタフェニレンイソフタレート)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(エチレンサクシネート)、ポリ(エチレンアジペート)、ポリ(エチレンセバケート)、ポリ(デカメチレンアゼレート)、ポリ(デカメチレンセバケート)、ポリ(ジメチルプロピオラクトン)、ポリ(エチレンイソフタレート)、ポリ(テトラメチレンテレフタレート)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタレート)、ポリ(デカメチレンテレフタレート)、ポリ(1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)(trans)、ポリ(エチレン1,5−ナフタレート)、ポリ(エチレン2,6−ナフタレート)、及びポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ポリエステルが、ポリ(エチレンテレフタレート)である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ジカルボン酸コーティングしたナノ粒子が1:2から1:6までの範囲の比率でカップリング剤と混合される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ナノ粒子が酸化アルミニウムであり、ジカルボン酸がテレフタル酸(terephthalate acid)であり、且つカップリング剤がポリカルボジイミドである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ポリエステルナノコンポジットが、第1の混合物を4%〜10%含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ポリエステルが、少なくとも1つのポリエステル共重合体及びポリエステル−ポリマー混合物から選択される、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−501720(P2010−501720A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−526848(P2009−526848)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/076885
【国際公開番号】WO2008/025028
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(502263411)レンセラール ポリテクニック インスティチュート (14)
【出願人】(504257874)アルバニー・インターナショナル・コーポレーション (5)
【Fターム(参考)】