説明

ポリエステル仮撚捲縮糸

【課題】医療、介護、食品などの分野で使用されるユニフォーム衣料に好適な布帛であり、工業洗濯を繰り返しても強度が低下し難く、ソフトで嵩高感に優れた布帛をなす上で、有利なポリエステル仮撚捲縮糸を提供する。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレートを主体とし、仮撚係数18000〜30000で仮撚加工されてなる捲縮糸であって、糸伸度が18〜28%、135℃下で16時間蒸気処理した後の引張強伸度保持率が70%以上、カルボキシル末端基濃度が30eq/ton以下であるポリエステル仮撚捲縮糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温の工業洗濯を繰り返ししても強度、風合いが低減し難い布帛を得るのに好適なポリエステル仮撚捲縮糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ユニフォーム衣料を構成する布帛として、綿とポリエステルとからなる混用織物が多用されている。ところが、仕立て映えやイージーケア性の点で十分な効果が得られないなどの欠点がある。このため、一般に仕立て映えが良好でイージーケア性に優れるとされるポリエステル布帛をユニフォーム衣料に適用する試みがある。
【0003】
しかし、ユニフォーム衣料を洗濯する際、用途にもよるが家庭洗濯ではなく工業洗濯を採用するものがあり、工業洗濯が高温下で実施されるところ、ポリエステル分子の加水分解による布帛の強度低下が懸念されている。また、ポリエステル糸の原糸使いでのユニフォーム衣料は洗濯後の防シワ性に難点があり、イージーケア性のさらなる向上のため、仮撚捲縮糸を使用して、しわ発生の少ないユニフォーム衣料を得る試みがある。しかし、この仮撚捲縮糸は原糸使いに比べ糸条の強度低下があり、このため工業洗濯後の布帛の劣化が懸念されている。
【0004】
この点に鑑み、繊維中に特定の無機化合物を含有させることで、糸条の耐湿熱性を向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−291409公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献によれば、耐湿熱性に優れる繊維が得られるとある。しかるに、この繊維からなる糸条を用いることは、確かに医療、介護、食品などの分野におけるユニフォーム衣料を得る上で有利となる。
【0007】
しかし、上記特許文献では、かかる糸条を仮撚加工する点について示唆こそあるものの、仮撚加工する目的や具体的な仮撚条件などについては一切記載がない。つまり、上記特許文献記載の発明では、仮撚加工は、採用しうる付帯加工の一選択肢に過ぎず、仮撚加工によりどのような効果が奏されるかについては一切検討されていない。
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の欠点を解消し、医療、介護、食品などの分野で使用されるユニフォーム衣料に好適な布帛であり、工業洗濯を繰り返しても強度が低下し難く、ソフトで嵩高感に優れた布帛をなす上で、有利なポリエステル仮撚捲縮糸を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ポリエステル糸を仮撚加工するにあたり、蒸気処理後の強度保持率、いわゆる耐湿熱性を維持するにはいかなる仮撚条件が有効か検討したところ、仮撚係数が重要であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、ポリエチレンテレフタレートを主体とする繊維からなり、仮撚係数18000〜30000で仮撚加工されてなる捲縮糸であって、糸伸度が18〜28%、135℃下で16時間蒸気処理した後の引張り強伸度保持率が70%以上、カルボキシル末端基濃度が30eq/ton以下であることを特徴とするポリエステル仮撚捲縮糸を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の仮撚捲縮糸は、耐湿熱性に優れている。そのため、本発明の仮撚捲縮糸を用いることは、工業洗濯を繰り返しても強度が低下し難く、ソフトで嵩高感に富む布帛を得る点で有利である。そして、このような布帛は、医療、介護、食品などの分野におけるユニフォーム衣料に好適であり、快適で機能的なユニフォーム衣料を提供する点で有利である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の仮撚捲縮糸は、ポリエステル繊維からなるものである。
【0014】
本発明におけるポリエステル繊維は、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレンテレフタレート(PET)からなる。具体的に、PET中では、繰り返し単位としてエチレンテレフタレートが、全繰り返し単位に対し好ましくは85モル%以上占め、本発明の目的を損なわない範囲で、第三成分が共重合されていてもよい。共重合成分としては、各種ジカルボン酸成分、各種脂肪族グリコールなどがあげられる。
【0015】
本発明の仮撚捲縮糸は、仮撚係数18000〜30000で仮撚加工されたものである必要がある。仮撚係数が18000未満になると、仮撚捲縮糸の嵩高性やソフト感が低減する傾向にあり、布帛の風合いを損ねることになる。一方、30000を超えると、仮撚捲縮糸の強度低下と共に後述する蒸気処理後の引張り強度保持率も低減する傾向にある。
【0016】
また、仮撚捲縮糸の糸伸度としては、18〜28%である必要がある。糸伸度がこの範囲を外れると、布帛の物性・風合いの両面で好ましくない結果を生むことになる。
【0017】
さらに、本発明では、仮撚捲縮糸を135℃下で16時間蒸気処理した後の引張り強度保持率が、70%以上となる必要がある。強度保持率が70%未満になると、布帛を高温で洗濯した際、糸が大きく劣化し、衣料を傷めることになる。
【0018】
強度保持率を高めるには、ポリエステル繊維のカルボキシル末端基濃度を30eq/ton以下とする必要がある。カルボキシル末端基濃度が30eq/tonを超えると、ポリエステルの加水分解が進みやすく、耐湿熱性を低減させることになる。カルボキシル末端基濃度は、少ないほど好ましく、好ましくは25eq/ton以下である。
【0019】
ポリエステル繊維において、カルボキシル末端基濃度を所定の範囲となすことは、繊維中に特定の無機化合物を特定量含有させることにより可能である。一例を示すと、無機化合物として、アンチモン化合物、コバルト化合物及びリン化合物があげられ、使用量として、アンチモン化合物は0.5×10−4〜3.0×10−4モル/酸成分モルが、コバルト化合物は0.1×10−4〜0.6×10−4モル/酸成分モルが、リン化合物0.1×10−4〜20.0×10−4モル/酸成分モルがそれぞれ好ましい。
【0020】
本発明の仮撚捲縮糸を得るにあたり、好ましい仮撚条件としては、仮撚係数として18000〜30000の範囲を採用しつつ、仮撚捲縮糸の伸度が18〜28%となるように延伸又はオーバーフィード状態で仮撚する。ヒーター温度としては、繊維同士の融着の生じない230℃以下が好ましい。温度が高くなるほど、捲縮を強く固定できる点で好ましいが、特に単糸繊度が細い場合や、酸化チタンの多い異形断面糸の場合は、糸が毛羽立ちやすいので、ヒーター温度を低くするのが好ましい。本発明では、一般に160℃〜230℃の範囲が好ましい。
【0021】
仮撚加工に供する糸条(供給糸)としては、高配向未延伸糸(POY)、1段延伸糸(SDY)、2段延伸糸(FDY)のいずれも採用可能で、上記で規定した各範囲を最終的に満足するのであれば、どのような形態でも採用できる。
【0022】
本発明の仮撚捲縮糸を布帛となしたとき、この布帛に一層の嵩高性とソフト感とを付与するには、供給糸として単糸繊度1.5dtex以下のポリエステル高配向未延伸糸を用いればよい。また、本発明の仮撚捲縮糸では、繊維全質量に対し酸化チタンを1.0質量%以上好ましくは2.0質量%以上含み、かつ単糸の断面形状が異形断面であると、パウダータッチなソフト感と共に適度な嵩高感を得る点で有利である。
【0023】
本発明の仮撚捲縮糸では、前述のように糸伸度が特定範囲を満足する。供給糸がSDY又はFDYの場合、供給糸自身の糸伸度が18〜28%付近にあるため、延伸倍率又はオーバーフィード率を抑えながら仮撚すれば、所望の糸伸度が達成できることになる。
【0024】
一方、供給糸がPOYの場合、供給糸自身の糸伸度が18〜28%を大きく外れるため、好ましくは延伸倍率を適正範囲に調整する。
【0025】
この場合、POYの単糸繊度が比較的細いときは、延伸倍率を1.3〜1.4倍とするのがよい。これは、単糸繊度が細くなるのに伴い、POYの表面積が増え、熱の影響をより受けやすくなるからである。
【0026】
また、POYにPET以外の成分が含まれていたり、単糸の断面形状が異形断面である場合などは、供給糸自身の糸伸度が比較的高いため、延伸倍率を1.4〜1.6倍とするのがよい。
【0027】
ただ、仮撚捲縮糸の糸伸度は、延伸倍率及びオーバーフィード率だけで決まるというものでなく、仮撚係数やヒーター温度にもよる。例えば、一般に、仮撚係数が高くなるにつれ、糸伸度は低下する傾向にあり、ヒーター温度が高くなるにつれ、糸伸度は低下する傾向にある。このため、たとえ延伸倍率が上記の好ましい範囲を満足するものであっても、仮撚係数及びヒーター温度を共に高めに設定した場合などは、仮撚捲縮糸の糸伸度が18%を下回ることがある。
【0028】
本発明の仮撚捲縮糸は、前述のように、工業洗濯を繰り返ししても強度、風合いが低減し難い布帛を得るのに好適である。工業洗濯は、家庭洗濯に比べ洗浄力、殺菌力の点で優れている。医療、介護、食品などの分野で使用されるユニフォーム衣料では、洗濯時、この工業洗濯を採用することがあり、廃棄されるまでに工業洗濯をおよそ100回程度繰り返すといわれている。ただし、工業洗濯では、70〜80℃程度の湯浴が使用されるので、高温であるがゆえに衣料を傷めやすいという短所があり、それゆえ衣料自身に相応の耐湿熱性が求められるのである。
【0029】
具体的に、本発明の仮撚捲縮糸では、耐湿熱性の目安として、135℃下で16時間蒸気処理した後の引張り強度保持率が、70%以上を満足する必要があることは、既に述べた。その結果、本発明の仮撚捲縮糸を用いれば、繰り返し工業洗濯しても強度、風合いを十分に維持しうる布帛を得ることができる。
【0030】
引張り強度保持率の測定、算出にあたっては、上記の観点から工業洗濯に伴う衣料の強度低下が反映されるような手段を採用する。つまり、仮撚捲縮糸を直に蒸気処理し処理前後の引張り強度から保持率を算出するのではなく、蒸気処理に先立ち染色加工に相当すると認められる湿熱処理を取り入れる。この点、ポリエステル織編物の染色は、一般に130℃下で30分間行われるから、引張り強度保持率を測定、算出する際は、まず仮撚捲縮糸を筒編し、これを130℃下で30分間湿熱処理する。その後、編地から糸を抜き取り、JIS L1031 8.5.1記載の定速伸長形による手段にて引張強さを測定、記録した後、残りの編地を135℃下で16時間蒸気処理し、先と同様の手段で捲縮糸の引張強さを測定、記録する。記録後、強度保持率(%)=(蒸気処理後の引張強さ/蒸気処理前の引張強さ)×100なる式へ記録した数値を代入し、目的の強度保持率を算出する。
【0031】
筒編地を蒸気処理するには、一般のオートクレーブが使用でき、例えば平山製作所(株)製、高圧蒸気滅菌器「HV−50(商品名)」などが好適である。なお、当該滅菌器を使用する場合は、圧力を225KPaとする。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例及び比較例で得られた仮撚捲縮糸の物性は、下記手段に基づき測定したものである。
1.強度、伸度
JIS L1031 8.5.1記載の定速伸長形による手段にて、得られた仮撚捲縮糸の引張強さ(強度)及び伸び率(伸度)を測定した。
2.カルボキシル末端基濃度
ポリエステル糸から繊維を取り出し、この繊維0.1gをベンジルアルコール10mLに溶解し、この溶液にクロロホルム10mLを加えた後、1/10規定の水酸化カリウムベンジルアルコール溶液で滴定して求めた。
【0033】
(実施例1、比較例1)
三酸化アンチモン、酢酸コバルト及びリン酸トリエチルをそれぞれ、0.98、0.15、0.30(×10−4モル/酸成分モル)含有するポリエチレンテレフタレートポリマーを定法により紡糸延伸して得た84dtex48fの延伸糸を、仮撚係数22000(仮撚数2530T/M)、仮撚オーバーフィード率4.1%、ヒーター温度215℃なる条件で仮撚加工し、仮撚捲縮糸を得た(実施例1)。また、ポリエチレンテレフタレートポリマーを定法により紡糸延伸して得た84dtex48fの延伸糸を、仮撚係数32000(仮撚数3400T/M)、仮撚オーバーフィード率3.1%、ヒーター温度215℃なる条件で仮撚加工し、仮撚捲縮糸を得た(比較例1)。
【0034】
(実施例2、比較例2、3)
三酸化アンチモン、酢酸コバルト及びリン酸トリエチルをそれぞれ、0.98、0.15、0.30(×10−4モル/酸成分モル)含有する180tex156fのPET高配向未延伸糸を以下の3条件で延伸仮撚加工した。すなわち、仮撚係数23000(仮撚数2075T/M)、延伸倍率1.327倍、ヒーター温度190℃なる条件(実施例2)、仮撚係数23600(仮撚数2075T/M)、延伸倍率1.255倍、ヒーター温度190℃なる条件(比較例2)、仮撚係数25000(仮撚数2265T/M)、延伸倍率1.325倍、ヒーター温度210℃なる条件(比較例3)をそれぞれ適用し、3種の仮撚捲縮糸を得た。
【0035】
(実施例3)。
三酸化アンチモン、酢酸コバルト及びリン酸トリエチルをそれぞれ、0.98、0.15、0.30(×10−4モル/酸成分モル)含有すると同時に、酸化チタンを繊維全質量に対し2.0質量%含有する、109dtex48fの矢印型の異形断面PET未延伸糸を用意した。なお、酸化チタンは、布帛において艶消し効果を得る目的で使用するものである。
【0036】
次に、この未延伸糸を仮撚係数24200(仮撚数2953T/M)、延伸倍率1.51倍、ヒーター温度170℃なる条件にて延伸仮撚し、仮撚捲縮糸を得た。
【0037】
以下、得られた仮撚捲縮糸の諸物性を表1に示す。実施例にかかる仮撚捲縮糸は、いずれも優れた耐湿熱性を具備しており、医療、介護、食品などの分野におけるユニフォーム衣料に好適であると認められる。実際、これらの糸を用いてユニフォーム衣料を作製し、試着したところ、ソフトで嵩高感があり着用感も良好であった。
【0038】
これに対し、比較例1にかかる仮撚捲縮糸は、仮撚係数32000で仮撚加工したので十分な捲縮が発現したが、仮撚係数が大きすぎたため、糸へのダメージが大きくそのため耐湿熱性が劣るものであった。比較例2にかかる仮撚捲縮糸は、糸伸度が28%を超えて大きくなったため耐湿熱性が低下した。また比較例3は、耐湿熱性は良好なものの、仮撚条件として、仮撚係数及びヒーター温度を共にやや高めに設定したため、糸伸度が低くなりすぎてしまった。その結果、糸に毛羽が発生し、布帛の品位が好ましいものとならなかった。
【0039】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートを主体とする繊維からなり、仮撚係数18000〜30000で仮撚加工されてなる捲縮糸であって、糸伸度が18〜28%、135℃下で16時間蒸気処理した後の引張り強伸度保持率が70%以上、カルボキシル末端基濃度が30eq/ton以下であることを特徴とするポリエステル仮撚捲縮糸。
【請求項2】
単糸繊度1.5dtex以下のポリエステル高配高未延伸糸を仮撚加工したものであることを特徴とする請求項1記載のポリエステル仮撚捲縮糸。
【請求項3】
全質量に対し酸化チタンを1.0質量%以上含み、かつ単糸断面形状が異形断面であることを特徴とする請求項1又は2記載のポリエステル仮撚捲縮糸。


【公開番号】特開2010−229605(P2010−229605A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80628(P2009−80628)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】