説明

ポリカーボネート樹脂ペレット、その製造方法および成形品

【課題】精密部材を収納するための薄板収納搬送容器、光ディスクやレンズなどの光学部材への不具合の原因となる不純物イオンが少ないポリカーボネート樹脂ペレットを提供する。
【解決手段】塩化物イオン濃度が50ppb以下ならびにナトリウムイオン濃度、カリウムイオン濃度およびアンモニウムイオン濃度の合計が50ppb以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂ペレット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は残留イオン、特に塩化物イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンおよびアンモニウムイオンの少ないポリカーボネート樹脂ペレット、その製造方法および薄板収納搬送容器、光学部材等の成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、界面重縮合法によって得られるポリカーボネートには、酸結合剤や触媒由来のナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンなどが混入する可能性が有り、また特許文献1によると、得られたポリカーボネートを押出機で溶融混練、ペレット化する際には、微量残留している原料、溶剤由来の有機塩素化合物から生成した揮発性塩化物イオンや添加剤不純物由来のアンモニウムイオンが、混入する可能性がある。
【0003】
一般に、半導体用材などの精密部材を収納するための薄板収納搬送容器はイオン等の不純物による汚染を極度に嫌うために、容器自体、清浄であることが必要とされるということが特許文献2に明示されている。また、特許文献3には溶融成形時に発生する酸化性物質による記録膜腐食や金型腐食による樹脂変色の問題が記されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−211686号公報
【特許文献2】特開2000−063505号公報
【特許文献3】特開2002−037879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、精密部材を収納するための薄板収納搬送容器、光ディスクやレンズなどの光学部材への不具合の原因となる不純物イオンが少ないポリカーボネート樹脂ペレットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、ポリカーボネート樹脂ペレット中の特定の不純物イオンを低減させることにより、薄板収納搬送容器中の精密部材や光学部材への不具合を抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、
1.塩化物イオン濃度が50ppb以下ならびにナトリウムイオン濃度、カリウムイオン濃度およびアンモニウムイオン濃度の合計が50ppb以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂ペレット、
2.ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が1.2×10〜4.0×10の範囲である前項1記載のポリカーボネート樹脂ペレット、
3.前項1記載のポリカーボネート樹脂ペレットから形成された成形品、
4.成形品は、薄板収納搬送容器または光学部材である前項3記載の成形品、
5.溶融混練したポリカーボネート樹脂をペレット化し、得られたペレットを40〜120℃の温水に2〜48時間浸漬処理した前項1記載のポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法、および
6.縦置きの筒状容器において温水浸漬処理をする前項5記載のポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法、
が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリカーボネート樹脂ペレット中の不純物イオンは少なく、かかるペレットの溶融成形品は薄板収納搬送容器、光学部材に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを溶剤の存在下界面重合法で反応させて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂である。ここで用いる二価フェノールとしては例えばハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(通称ビスフェノールZ)、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3′−ジメチル−4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルオキシド、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン等があげられる。なかでもビスフェノールA、ビスフェノールZ、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンが好ましい。これらは単独で用いても、二種以上併用してもよい。
【0010】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライドまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲンまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
【0011】
上記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重縮合法によって反応させてポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて末端停止剤、二価フェノールの酸化防止剤等を使用してもよい。またポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であっても、芳香族または脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよく、また、得られたポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
【0012】
界面重縮合法による反応は、通常二価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤、触媒および有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。
【0013】
有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエタン、ブロモエタン、ブチルクロライド、クロロプロパンおよびクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられ、特に塩化メチレンが好ましく用いられる。これらの溶媒は単独もしくは2種以上混合して使用される。
【0014】
また、反応促進のために用いるアミン系触媒としては、例えばトリエチルアミン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の第三級アミン、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物等の触媒が挙げられ、特にトリエチルアミンが好ましく用いられる。
【0015】
界面重縮合法による反応温度は通常0〜40℃、反応時間は10分〜5時間程度、反応中のpHは9以上に保つことが好ましい。また、かかる重合反応において、通常末端停止剤が使用される。かかる末端停止剤として単官能フェノール類を使用することができる。単官能フェノール類は末端停止剤として分子量調節のために一般的に使用され、また得られたポリカーボネート樹脂は、末端が単官能フェノール類に基づく基によって封鎖されているので、そうでないものと比べて熱安定性に優れている。かかる単官能フェノール類としては、例えばフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノールおよびイソオクチルフェノールが挙げられる。
【0016】
これらの末端停止剤は、得られたポリカーボネート樹脂の全末端に対して少なくとも5モル%、好ましくは少なくとも10モル%末端に導入されることが望ましく、末端停止剤は単独でまたは2種以上混合して使用してもよい。
【0017】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量(M)で1.2×10〜4.0×10が好ましく、1.5×10〜3.5×10がより好ましく、1.6×10〜3×10が特に好ましい。かかる粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂は、十分な強度が得られ、また、成形時の溶融流動性も良好であり成形歪みが発生せず好ましい。かかる粘度平均分子量(M)は塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液から求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0018】
上記反応により得られたポリカーボネート樹脂の有機溶媒溶液は、通常水洗浄が施される。この水洗工程は、好ましくはイオン交換水等の電気伝導度10μS/cm以下、より好ましくは1μS/cm以下の水により行われ、前記有機溶媒溶液と水とを混合、攪拌した後、静置してあるいは遠心分離機等を用いて、有機溶媒溶液相と水相とを分液させ、有機溶媒溶液相を取り出すことを繰り返し行い、水溶性不純物を除去する。水洗浄を行うことにより水溶性不純物が除去され、得られるポリカーボネート樹脂の色相は良好なものとなる。
【0019】
また、上述のポリカーボネート樹脂の有機溶媒溶液は、触媒等の不純物を除去するために酸洗浄やアルカリ洗浄を行うことも好ましい。
酸洗浄に用いる酸としてはリン酸、塩酸、硫酸等の水溶液が好ましく用いられ、好ましくは0.0004〜40g/リットル濃度(またはpH5以下)の水溶液が使用される。アルカリ洗浄に用いるアルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属化合物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物が挙げられ、特に水酸化ナトリウムが好ましく用いられ、好ましくは0.1〜20g/リットル濃度(またはpH11.5以上)の水溶液が使用される。
【0020】
アルカリ洗浄や酸洗浄に用いる水溶液と有機溶媒溶液との割合は、水溶液/有機溶媒溶液(容量比)で表して0.2〜1.5の範囲で用いるのが、洗浄が効率的に行われ好ましい。
前記水洗浄が施された有機溶媒溶液は、次いで、溶媒を除去してポリカーボネート樹脂の粉粒体を得る操作が行われる。
【0021】
ポリカーボネート樹脂粉粒体を得る方法(造粒工程)としては、圧縮や押出しなど乾式造粒方法を用いることもできるが、操作や後処理が簡便なことから、ポリカーボネート粉粒体および温水(40〜90℃程度)が存在する造粒装置中に、攪拌状態で、ポリカーボネート樹脂の有機溶媒溶液を連続的に供給して、該溶媒を蒸発させることにより、スラリーを製造する湿式方法が好ましく採用される。造粒装置としては攪拌槽やニーダーなどの混合機が好ましく採用される。
【0022】
かかるスラリーは、次いで熱水処理を行うこともできる。熱水処理工程は、かかるスラリーを90〜100℃の熱水の入った熱水処理容器に供給するかまたは供給した後に蒸気の吹き込みなどにより水温を90〜100℃にすることによって、スラリーに含まれる有機溶媒を除去するものである。
【0023】
前記造粒工程で排出されたスラリーまたは前記熱水処理後のスラリーは、好ましくは濾過、遠心分離等によって水および有機溶媒をある程度除去し、ポリカーボネート樹脂の湿潤ペーストを回収する。
【0024】
前記ポリカーボネート樹脂の湿潤ペーストは、次いで乾燥される。乾燥機としては、伝導加熱方式でも熱風加熱方式でもよく、ポリカーボネート樹脂が静置、移送されても攪拌されてもよい。なかでも、伝導加熱方式でポリカーボネート樹脂が攪拌される溝形または円筒乾燥機が好ましく、溝形乾燥機が特に好ましい。乾燥温度は130℃〜150℃の範囲が好ましく採用される。
【0025】
乾燥後、溶融混練押出処理に供給されるポリカーボネート樹脂粉粒体の形状は、粉末状、微粒状、フレーク状、ペレット状のもののいずれであってもよく、好ましくは粉末状、微粒状またはフレーク状のものである。
【0026】
本発明で樹脂ペレット中には不純物イオンとして、陽イオンではアンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、鉄イオン、チタニウムイオン、アルミニウムイオンなどが、陰イオンでは塩化物イオン、臭化物イオン、硫酸イオン、亜硫酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、リン酸イオンなどが混入する可能性が有る。特に上記ポリカーボネート粉粒体中には上記有機溶媒等の塩素化合物がppmオーダーで含まれており、酸結合剤や触媒由来のナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンが微量混入している。また、特許文献1に記載されているように樹脂粉粒体を押出機で溶融混練してペレットを製造する際に生成する塩化水素由来の塩化物イオンや、さらには溶融混練時に熱安定剤として使用する一部の有用なリン系化合物の熱安定剤に不純物として含有する塩化アンモニウム由来の塩化物イオン、アンモニウムイオンが溶融混練時の真空脱揮で脱揮しきれず、ペレットに混入するものと考えている。
【0027】
当然ながら溶融混練押出処理に供給されるポリカーボネート樹脂粉粒体自体に含まれる塩素化合物は少ないに越したことはなく、0.5〜500ppmの範囲のものが好ましく、0.5〜100ppmの範囲のものがより好ましい。ポリカーボネート樹脂粉粒体中の塩素化合物濃度が上記範囲より高いと溶融混練したペレット中の揮発性塩化物イオン濃度が高くなって本発明の方法では抽出除去困難になる。
【0028】
一方、熱安定剤として使用されるリン系化合物はその一部で塩化アンモニウムを不純物として有してはいるが、安定剤そのものの効果を得る上で、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.0005〜0.5重量部の範囲、好ましくは0.001〜0.3重量部の範囲、より好ましくは0.003〜0.2重量部の範囲となるように配合される。かかるリン系化合物の含有量が0.0005重量部より少ないとポリカーボネート樹脂の耐熱性が不十分となり好ましくない。
【0029】
リン系化合物としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル等が挙げられ、具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイトおよびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト等が挙げられる。
【0030】
なかでも、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイトおよびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイトが使用される。
【0031】
かかる樹脂粉粒体にリン系化合物のほかヒンダードフェノールなどに代表される熱安定剤、飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルで代表される離型剤、ベンゾトリアゾール化合物に代表される紫外線吸収剤紫外線吸収剤、染料、顔料などの添加物を必要に応じて添加してもよい。添加後の混合物はV型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などの予備混合手段を用いて充分に混合した後、必要に応じて押出造粒器やブリケッティングマシーンなどによりかかる予備混合物の造粒を行うことが好ましい。
その後、ポリカーボネート樹脂粉粒体は、ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練し、ペレタイザーによりペレット化される。
【0032】
本発明における温水浸漬処理は、得られたペレットを温水に浸漬させるものである。本発明で外部より供給する温水は塩化物イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン等の不純物イオンを抽出する観点および不要なイオンのコンタミを防ぐ観点から極力イオンが排除された温水を用いることが好ましく、その電気伝導度は10μS/cm以下が好ましく、5μS/cmがより好ましく、1μS/cmがさらに好ましい。さらに本発明に用いる温水1L中の100μm以上の異物は1個以下、0.5μm以上の異物は50,000個以下が好ましい。
【0033】
また、温水は処理中に不純物イオンが抽出されるため、外部より温水を供給して容器内の温水を排出しなければ不純物イオンが濃度徐々に上昇し、不純物イオンを抽出する能力が低下する。不純物イオンを適正に抽出するために温水の供給と排出量を制御して容器内の電気伝導度を50μS/cm以下とすることが好ましく、30μS/cm以下とすることがより好ましく、15μS/cmとすることがさらに好ましい。
【0034】
また、温水の温度はペレット中の不純物イオンを効果的に抽出する目的で好ましくは40〜120℃であり、より好ましくは60〜110℃であり、さらに好ましくは80〜100℃である。40℃未満では充分に不純物イオンが抽出されず好ましくなく、120℃以上では樹脂の物性低下が心配されるだけでなく、高価な耐圧容器を必要とし経済的にも不利となるため好ましくない。
【0035】
温水にペレットを浸漬する時間は、充分にペレット中から不純物イオンを抽出する目的で好ましくは2〜48時間であり、より好ましくは4〜20時間であり、さらに好ましくは6〜15時間である。2時間未満では充分に不純物イオンが抽出されず、また48時間を超えると抽出は充分であるが、経済的に不利になり且つポリカーボネート樹脂の品質上の問題が発生する場合があるため共に好ましくない。
【0036】
本発明の温水浸漬処理は実質的な浸漬時間や浸漬温度が上記範囲に入っていればバッチ式でも連続式でもよい。バッチ式における容器形状はペレットの不純物イオンが十分抽出できれば任意なものでよいが、ペレット表面近傍から水中に不純物イオンが拡散しやすいように水流を付けたり、攪拌を行ったりすることが好ましい。連続式の場合は上記バッチ層を直列で段階的に配置するほか、ペレットを筒状の容器に温水と共に詰めて心太式に処理することが好ましい。この場合も不純物イオンが拡散しやすいよう水流等を付けることが好ましい。
【0037】
縦置きの筒状容器(例えば固定式カラム状容器)でペレットが上から下に移動する場合、水流は容器下方から上方に流すことが好ましい。またこの場合水流の速度は空塔速度で30mm/s以下が好ましく、25mm/s以下がより好ましく、20mm/s以下がさらにより好ましい。攪拌効率から言えば水流は速い方がよいが、上記の場合水流が30mm/sを超えるとペレットが浮遊したり流されたりして好ましくなく、このような場合はメッシュやパンチングメタル等でペレットの流出を防ぐことが好ましい。
【0038】
浸漬処理時に、容器内のポリカーボネート樹脂ペレットと温水との重量比は1:0.9〜1:2の範囲であることが好ましい。温水の比がこの範囲より少ないと不純物イオンが効果的に抽出されないばかりでなくペレットの容器からの排出が困難になるため好ましくなく、温水の比がこの範囲より大きいと容器そのものが大きくなって非効率となり共に好ましくない。なお、かかる温水を流水させたり循環させたりする場合にはその設備内に存在する温水は上記比には含めない。
【0039】
温水浸漬処理後のポリカーボネート樹脂ペレットには多量の水分が含まれているので必要に応じて脱水、乾燥を行ってもよい。脱水にはパンチングメタルなど篩状の装置でペレットと水を分離したり、ペレットに急風を当てて水分を吹き飛ばしたりすることが挙げられる。
【0040】
次にさらに水分率を低減させるために乾燥機を用いて水分を蒸発させてもよい。乾燥機としては、伝導加熱方式でも熱風加熱方式でもよく、ポリカーボネート樹脂ペレットが静置、移送されても攪拌されてもよい。なかでも、伝導加熱方式でポリカーボネート樹脂ペレットが攪拌される溝形または円筒乾燥機が好ましく、溝形乾燥機が特に好ましい。乾燥温度は130℃〜150℃の範囲が好ましく採用される。また全体を減圧して乾燥を促進させてもよい。乾燥後、得られるペレットの水分は品質保持の観点から2000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、500ppm以下がさらに好ましい。ポリカーボネート樹脂ペレットを成形に用いる際には水分は300ppm以下としないとシルバーストリークが発生するため事前に乾燥を必要とするが、水分が2000ppmを超えると事前の乾燥に多大な時間が掛かり品質上好ましくない。
【0041】
本発明の温水浸漬処理後に得られたペレット中の不純物イオンのうち、塩化物イオン濃度は50ppb以下であり、好ましくは40ppb以下であり、より好ましくは30ppb以下である。また、ナトリウムイオン濃度、カリウムイオン濃度およびアンモニウムイオン濃度の合計は50ppb以下であり、好ましくは40ppb以下であり、より好ましくは30ppb以下であり、さらに好ましくは20ppb以下であり、特に好ましくは10ppb以下であり、もっとも好ましくは5ppb以下である。
【0042】
さらに、ナトリウムイオン濃度は、好ましくは20ppb以下であり、より好ましくは10ppb以下であり、さらに好ましくは5ppb以下であり、特に好ましくは3ppb以下である。カリウムイオン濃度は、好ましくは10ppb以下であり、より好ましくは5ppb以下であり、さらに好ましくは3ppb以下であり、特に好ましくは1ppb以下である。アンモニウムイオン濃度は、好ましくは20ppb以下であり、より好ましくは10ppb以下であり、さらに好ましくは5ppb以下であり、特に好ましくは3ppb以下である。
【0043】
塩化物イオン濃度が50ppbを超えるか、またはナトリウムイオン濃度、カリウムイオン濃度およびアンモニウムイオン濃度の合計が50ppbを超えると、該ペレットから形成された薄板収納搬送容器として使用した場合に、かかる不純物イオンにより成形加工時等において樹脂の分解が促進され易くなり、結果として薄板表面を汚染する揮発分を生じ易くなる。また、光学部材として使用した場合に、かかる不純物イオンにより成形加工時等において樹脂の分解が促進され易くなり、結果として光学部材の透明性(曇り度)等に悪影響を及ぼす。
【0044】
上記薄板収納搬送容器に収納される薄板(精密部材)としては、集積回路チップへと加工される半導体ウエハ、およびコンパクトディスク、ハードディスクやMOに代表される磁気ディスク等、表面汚染に敏感な薄板が挙げられる。
上記光学部材としては、光ディスク、レンズ、プリズム、ミラー等が挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。なお、評価は下記の方法で行った。
(1)アンモニウムイオン濃度、ナトリウムイオン濃度、カリウムイオン濃度、塩化物イオン濃度測定:ペレット10gを80℃、10gの超純水中に入れ、24時間抽出を行い、得られた溶液について陽イオンはIonPacCS12A、陰イオンではDionex社製分離カラムIonPacAS12Aを具備したDionex社製イオンクロマトグラフDX−120を用いてアンモニウムイオン濃度、ナトリウムイオン濃度、カリウムイオン濃度、塩化物イオン濃度を測定し、得られた結果からペレット中の濃度を算出した。
【0046】
[ポリカーボネート樹脂ペレット(1)の製造法]
ポリカーボネート樹脂粉粒体(粘度平均分子量20,000)100重量部に対して、ホスホナイト系化合物(リン系熱安定剤;クラリアント社製商品名P−EPQ)0.03重量部及びペンタエリスリトール高級脂肪酸エステル(離型剤;コグニスジャパン社製ロキシオールVPG861)0.2重量部混合したものをベント付き二軸押出機((株)日本製鋼所製:TEX30α)の原料供給口から供給し、ポリカーボネート樹脂の吐出量30kg/Hr、スクリュ回転数250rpm、樹脂温度280℃、ベント真空度15kPaの押出条件で溶融押出したストランドを冷却バスで冷却した後、切断機で切断して直径3mm、長さ3mmのペレット(1)を得た。ペレット(1)のアンモニウムイオン濃度は35ppb、ナトリウムイオン濃度は18ppb、カリウムイオン濃度は10ppb、塩化物イオン濃度は150ppbであった。
【0047】
[ポリカーボネート樹脂ペレット(2)の製造法]
ポリカーボネート樹脂粉粒体として、粘度平均分子量15,000のポリカーボネート樹脂粉粒体を使用した以外は、上記ペレット(1)の製造法と同様の方法でペレット(2)を得た。ペレット(2)のアンモニウムイオン濃度は20ppb、ナトリウムイオン濃度は17ppb、カリウムイオン濃度は8ppb、塩化物イオン濃度は130ppbであった。
【0048】
[ポリカーボネート樹脂ペレット(3)の製造法]
ポリカーボネート樹脂粉粒体として、粘度平均分子量33,000のポリカーボネート樹脂粉粒体を使用した以外は、上記ペレット(1)の製造法と同様の方法でペレット(3)を得た。ペレット(3)のアンモニウムイオン濃度は40ppb、ナトリウムイオン濃度は22ppb、カリウムイオン濃度は11ppb、塩化物イオン濃度は185ppbであった。
【0049】
なお、下記の実施例および比較例におけるイオン交換水は、20℃で0.75μS/cm、100μm以上の異物は0個、0.5μm以上の異物は25,000個のイオン交換水を使用した。
【0050】
[実施例1]
(ポリカーボネート樹脂ペレット(A)の製造法)
上記ペレット(1)1kgを1Lの蓋付きPPボトルに入れ、81℃に加熱したイオン交換水を満たし、ペレットをイオン交換水に10時間静置浸漬した後、ペレットを濾別し、120℃、4時間熱風乾燥機で水分を蒸発させた。このペレット(A)のアンモニウムイオン濃度は2.5ppb、ナトリウムイオン濃度は1.5ppb、カリウムイオン濃度は1ppb未満、塩化物イオン濃度は20ppbであった。
【0051】
(ポリカーボネート樹脂ペレット(B)の製造法)
ペレット(1)の代わりにペレット(2)を使用し、イオン交換水の温度を95℃に変更させた他はペレット(A)の製造法と同様に実験を行い、アンモニウムイオン濃度1.8ppb、ナトリウムイオン濃度は1.2ppb、カリウムイオン濃度は1ppb未満、塩化物イオン濃度は20ppbのペレット(B)を得た。
【0052】
(ポリカーボネート樹脂ペレット(C)の製造法)
内径100mm、高さ1000mmのSUS304製処理容器に、ペレット(1)を3.5kg仕込み、容器下方から空塔線速20mm/sで81℃に加熱したイオン交換水を流して同上部より排出させ、該イオン交換水を4時間循環させた。得られたペレット−水混合物からペレットを濾別し、120℃、4時間熱風乾燥機で水分を蒸発させ、アンモニウムイオン濃度1.8ppb、ナトリウムイオン濃度は1.3ppb、カリウムイオン濃度は1ppb未満、塩化物イオン濃度は17ppbのペレット(C)を得た。
【0053】
(ポリカーボネート樹脂ペレット(D)の製造法)
ペレット(1)の代わりにペレット(3)を使用し、容器下方から空塔線速5mm/sでイオン交換水を15時間循環させた以外はペレット(C)の製造法と同様に実験を行い、アンモニウムイオン濃度1.1ppb、ナトリウムイオン濃度は1.0ppb、カリウムイオン濃度は1ppb未満、塩化物イオン濃度は15ppbのペレット(D)を得た。
【0054】
[実施例2]
実施例1で得られたポリカーボネートペレット(A)〜(D)を用いて半導体ウエハ搬送容器(成形品1)およびレンズ(成形品2)を定法により成形し、得られた成形品の一部を外乱による汚染に注意しながら切り取り、破片を概ね5mm角大に切断した。切断片のアンモニウムイオン濃度、ナトリウムイオン濃度、カリウムイオン濃度、塩化物イオン濃度を測定した。得られた濃度を表1に示した。
得られた半導体ウエハ搬送容器(成形品1)に半導体ウエハを挿入し、密閉容器内で1週間保持した。容器から取り出した半導体ウエハは表面汚染が観察されなかった。また、得られたレンズ(成形品2)は透明性に優れ外観上の問題は観察されなかった。
【0055】
[比較例1]
ポリカーボネートペレット(1)〜(3)を用いて半導体ウエハ搬送容器(成形品1)およびレンズ(成形品2)を成形し、得られた成形品の一部を外乱による汚染に注意しながら切り取り、破片を概ね5mm角大に切断した。切断片のアンモニウムイオン濃度、ナトリウムイオン濃度、カリウムイオン濃度、塩化物イオン濃度を測定した。得られた濃度を表1に示した。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のポリカーボネート樹脂ペレットは、薄板収納搬送容器や光学部材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化物イオン濃度が50ppb以下ならびにナトリウムイオン濃度、カリウムイオン濃度およびアンモニウムイオン濃度の合計が50ppb以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂ペレット。
【請求項2】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が1.2×10〜4.0×10の範囲である請求項1記載のポリカーボネート樹脂ペレット。
【請求項3】
請求項1記載のポリカーボネート樹脂ペレットから形成された成形品。
【請求項4】
成形品は、薄板収納搬送容器または光学部材である請求項3記載の成形品。
【請求項5】
溶融混練したポリカーボネート樹脂をペレット化し、得られたペレットを40〜120℃の温水に2〜48時間浸漬処理した請求項1記載のポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法。
【請求項6】
縦置きの筒状容器において温水浸漬処理をする請求項5記載のポリカーボネート樹脂ペレットの製造方法。

【公開番号】特開2010−275466(P2010−275466A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130479(P2009−130479)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】