説明

ポリサルコシン誘導体及びこれを膜構成成分とする薬物担体

【課題】本発明は、標的部位に確実に、効率良くかつ安全に薬物のターゲッティングを行うことができる、DDS製剤として有効である薬物担体、および該薬物担体の膜構成成分に使用できる新規物質を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、新規のポリサルコシン誘導体およびこれを膜構成成分の一つとして含有する薬物担体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリサルコシン誘導体およびこれを膜構成成分の一つとして含有する薬物担体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薬物を効率よく標的臓器へ分布させるドラッグデリバリーシステム(DDS)の研究が盛んになってきている。例えば、リポソーム、エマルジョン、リピッドマイクロスフェア、ナノパーティクルなどの閉鎖小胞を薬物運搬体として利用する方法、高分子合成ポリマーミセルや多糖等の高分子運搬体に薬物を包含または結合させる方法、さらに、これら閉鎖小胞や高分子運搬体に抗体、蛋白質等の高分子機能性分子や、特定の糖鎖、ペプチド等の低分子機能性分子で表面を修飾して標的指向性を高める方法などが挙げられる(非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0003】
しかしながら、これら薬物運搬体(以下、「薬物担体」ともいう)の実用化に際しては、克服すべき様々な問題点があり、中でも生体側の異物認識機構からの回避や、体内動態の制御の困難さが問題となっている。特に閉鎖小胞は、血液中のオプソニン蛋白質や血しょう蛋白質との相互作用による凝集や、肝臓、脾臓等の細網内皮系組織(RES)での捕捉のため、標的とする組織や細胞への選択性の高い送達が困難な状況であった。
【0004】
上記問題を解決する手段として、これら閉鎖小胞をはじめとする高分子運搬体の表面をポリエチレングリコ−ル(PEG)等の親水性高分子で被覆することにより、血しょう蛋白質やオプソニン蛋白質などの吸着を防止して血中安定性(血中滞留性)を高め、RESでの捕捉を回避することが可能となっている。
【0005】
しかしながら、低分子量のPEGについては安全性が高く、腎臓より容易に排泄されることが知られているが、このような閉鎖小胞等に表面被覆された高分子量のPEG誘導体(例えば、ポリエチレングリコール−フォスファチジルエタノールアミン(PEG‐PE))が細胞内に取り込まれた後のPEGの代謝・分解については明らかとなっておらず、必ずしも安全性が確保されていない。
そこで、高分子量であっても、そのもの自体が生分解性を有し、より安全性が高く、血中安定性(血中滞留性)が高く、RESでの捕捉を回避できる新規化合物が切望されている。
【0006】
サルコシンは、種々の動植物組織に存在し、サルコシンデヒドロゲナーゼによる酸化的脱メチル化反応によりグリシンに変換されるアミノ酸である。サルコシンの重合体はポリサルコシンとして公知である。
しかし、ポリサルコシンの長鎖アルキル誘導体は知られていない。
【0007】
【非特許文献1】キャンサー レターズ(Cancer Letters),米国,1997年,第118巻,第2号,p.153
【非特許文献2】ブリティッシュ ジャーナル オブ キャンサー(British Journal of Cancer),英国,1997年,第76巻,第1号,p.83
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明は、標的部位に確実に、効率良くかつ安全に薬物のターゲッティングを行うことができる、DDS製剤として有効である薬物担体、および該薬物担体の膜構成成分に使用できる新規ポリサルコシン誘導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は下記(1)〜(19)を提供する。
(1)下記一般式(1)で示されるポリサルコシン誘導体。
【化3】


(但し、式(1)中、Rは水素原子、アミノ基の保護基またはアミノ基に結合する官能基であり、RおよびRは互いに独立に炭素数10〜25のアルキル基またはアルケニル基である。lは5〜150の整数を示す)
(2)下記一般式(2)で示されるポリサルコシン誘導体。
【化4】


(但し、式(2)中、Rは水素原子、アミノ基の保護基またはアミノ基に結合する官能基であり、RおよびRは互いに独立に炭素数10〜25のアルキル基またはアルケニル基である。kは10〜100の整数を示す。mおよびnは互いに独立に0または1〜3の整数を示す)
(3)前記一般式(1)おいて、RおよびRは互いに独立に炭素数12〜18のアルキル基またはアルケニル基である(1)に記載のポリサルコシン誘導体。
(4)前記一般式(2)おいて、RおよびRは互いに独立に炭素数12〜18のアルキル基またはアルケニル基である(2)に記載のポリサルコシン誘導体。
(5)前記一般式(1)において、RおよびRは炭素数18のアルキル基であり、lは20〜60である(1)または(3)に記載のポリサルコシン誘導体。
(6)前記一般式(2)において、RおよびRは炭素数18のアルキル基であり、kは20〜60である(2)または(4)に記載のポリサルコシン誘導体。
(7)(1)ないし(6)のいずれかに記載のポリサルコシン誘導体を膜構成成分の一つとして含有する薬物担体。
(8)前記薬物担体が、閉鎖小胞である(7)に記載の薬物担体。
(9)さらに、リン脂質、リン脂質以外のグリセロ脂質、スフィンゴ脂質およびコレステロール類からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有する(7)または(8)に記載の薬物担体。
(10)さらに、安定化剤および酸化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有する(7)ないし(9)に記載のいずれかの薬物担体。
(11)担持される薬物が、核酸、ポリヌクレオチド、遺伝子およびそれを含むベクター、抗癌剤、抗生物質、酵素剤、酵素阻害剤、抗酸化剤、脂質取り込み阻害剤、ホルモン剤、抗炎症剤、ステロイド剤、血管拡張剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシン受容体拮抗剤、平滑筋細胞の増殖および/または遊走阻害剤、血小板凝集阻害剤、抗凝固剤、ケミカルメディエーターの遊離抑制剤、血管内皮細胞の増殖または抑制剤、アルドース還元酵素阻害剤、メサンギウム細胞増殖阻害剤、リポキシゲナーゼ阻害剤、免疫抑制剤、免疫賦活剤、抗ウイルス剤、アミロイドーシス阻害剤、NOS阻害剤、AGEs(Advanced glycation endproducts)阻害剤、ラジカルスカベンジャー、グリコサミノグリカンおよびその誘導体、オリゴ糖および/または多糖およびそれらの誘導体、タンパク質およびペプチドからなる群から選択される少なくとも一つの予防または治療薬である(7)ないし(10)のいずれかに記載の薬物担体。
【0010】
(12)担持される薬物が、X線造影剤、超音波診断剤、放射性同位元素標識核医学診断薬および核磁気共鳴診断用診断薬からなる群から選ばれる少なくとも一つの体内診断薬である(7)ないし(10)のいずれかに記載の薬物担体。
(13)(7)ないし(12)のいずれかに記載の薬物担体を含有する医薬組成物。
【0011】
(14)(7)ないし(12)のいずれかに記載の薬物担体を宿主に投与することを含む、薬物担体に担持された薬物の標的部位への送達方法。
(15)(7)ないし(12)のいずれかに記載の薬物担体を宿主に投与することを含む、薬物担体の標的部位への輸送方法。
(16)有効量の、(7)ないし(11)のいずれかに記載の薬物担体を宿主に投与することを含む疾患の予防または治療方法。
【0012】
(17)有効量の、(7)ないし(10)、または(12)のいずれかに記載の薬物担体を宿主に投与することを含む疾患の診断方法。
(18)有効量の、(7)ないし(12)のいずれかに記載の薬物担体を含有する、薬物担体に担持された薬物を標的部位へ送達させるための組成物。
(19)有効量の、(7)ないし(12)のいずれかに記載の薬物担体を含有する、薬物担体を標的部位へ輸送させるための組成物。
なお、(16)〜(19)に記載の「有効量」とは、薬物担体に担持される薬物が後述する予防、治療または診断に有効である量を有している薬物担体の量を意味する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、薬物担体の構成成分として使用可能な新規のポリサルコシン誘導体が提供される。
なお、本発明のポリサルコシン誘導体はアミノ酸であるサルコシンを基本成分としており生分解性に優れている。また、本発明のポリサルコシン誘導体を膜構成成分の一つとして含有する薬物担体は、生分解性に優れ、血中滞留性(血中安定性)に優れている。このような特徴から、本発明の新規ポリサルコシン誘導体を膜構成成分の一つとして含有する薬物担体、および該薬物担体を含有する医薬組成物は、疾患の予防、治療または診断に優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のポリサルコシン誘導体および該ポリサルコシン誘導体を膜構成成分の一つとして含有する薬物担体について詳細に説明する。
【0015】
本発明では、下記一般式(1)および(2)で示されるポリサルコシン誘導体が提供される。
【化5】


(但し、式(1)中、Rは水素原子、アミノ基の保護基またはアミノ基に結合する官能基であり、好ましくは水素原子またはアセチル基である。
また、RおよびRは、互いに独立に炭素数10〜25のアルキル基またはアルケニル基であり、好ましくは互いに独立に炭素数12〜18のアルキル基またはアルケニル基である。
lは5〜150の整数を示し、好ましくは、10〜100の整数を示し、さらに好ましくは、20〜80の整数を示し、特に好ましくは、20〜60の整数を示す。)
【0016】
【化6】


(但し、式(2)中、Rは水素原子、アミノ基の保護基またはアミノ基に結合する官能基であり、好ましくは水素原子またはアセチル基である。
およびRは互いに独立に炭素数10〜25のアルキル基またはアルケニル基であり、好ましくは互いに独立に炭素数12〜18のアルキル基またはアルケニル基である。
kは10〜100の整数を示し、好ましくは20〜80の整数を示し、更に好ましくは、20〜60の整数を示す。
mおよびnは互いに独立に0または1〜3の整数を示し、好ましくは、mは2、nは0を示す。)
なお、本明細書において「アミノ基の保護基」とは、アセチル基、トリフルオロアセチル基、ベンジルオキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
したがって、上記一般式(1)で示されるポリサルコシン誘導体においてRは水素原子またはアセチル基であることが好ましく、RおよびRは、互いに独立に炭素数12〜18のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましい。また、lは、20〜60であることが好ましい。
このようなポリサルコシン誘導体の具体例としては、下記構造式で示されるポリサルコシン誘導体(Rは水素原子、RおよびRは互いに独立に炭素数18のアルキル基、lは57)が挙げられる。
【0018】
【化7】

【0019】
また、上記一般式(2)で示されるポリサルコシン誘導体において、Rは水素原子またはアセチル基であることが好ましく、RおよびRは、互いに独立に炭素数12〜18のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、mが2であり、nが0であることが好ましい。また、kは、20〜60であることが好ましい。
このようなポリサルコシン誘導体の具体例としては、下記構造式で示されるポリサルコシン誘導体(Rは水素原子、RおよびRは互いに独立に炭素数18のアルキル基、kは23または48、mは2、nは0)が挙げられる。
【0020】
【化8】

【0021】
以下、本発明による上記一般式(1)または(2)で示されるポリサルコシン誘導体の製造方法および精製方法を具体的に説明するが、本発明の製造方法、精製方法はこれらに限定されるものではない。
上記一般式(1)に示されるポリサルコシン誘導体は、例えば下記一般式(3)で表わされる化合物のアミノ基に、下記一般式(4)で表される化合物を重合させることにより、製造することができる。
なお、下記一般式(4)で表される化合物は、Y.Imanishi著 「N‐Carboxyanhydrides」、K.J.Ivin and T.Saegusa著 「Ring‐Opening Polymerizaion」 Vol. 2, Elsevier,Essex,1984,pp.523‐602およびそれらの参照に記載されている方法で製造することができる。
【化9】


(但し、式(3)中、RおよびRは互いに独立に炭素数10〜25のアルキル基またはアルケニル基を示す)
【0022】
【化10】

【0023】
上記一般式(2)に示されるポリサルコシン誘導体は、例えば下記一般式(5)で表わされる化合物のアミノ基に、一般式(4)で表される化合物を重合させることにより、製造することができる。
【化11】


(但し、式(5)中、RおよびRは互いに独立に炭素数10〜25のアルキル基またはアルケニル基である。mおよびnは互いに独立に0または1〜3の整数を示す)
【0024】
なお、一般式(5)に示されるアミノ化合物は、一般的な方法により合成することができ、具体的には、一例として、[化12]に参照する合成方法が挙げられる。
一般式(5)に示されるアミノ化合物は、アミノ基を有するカルボン酸誘導体(一般式(6))のアミノ基を適当な保護基で保護した後(「Protective Groups in Organic Synthesis」 第3版 参照、Theodora W.Greene、Peter G. M. Wuts 著、John Wiley & Sons Inc社)、アミノ基を有するカルボン酸誘導体(一般式(7))のカルボン酸部分とアルキルアミン誘導体(一般式(8))の縮合反応によりアミド結合を形成したアミノ基を有するカルボン酸誘導体(一般式(9))を合成し、次いでアミノ基を脱保護することにより合成することができる。
【0025】
なお、アミノ基を有するカルボン酸誘導体(一般式(7))とアルキルアミン誘導体(一般式(8))の反応において使用されるカルボン酸活性化剤としては、例えば、塩化チオニル、五塩化リン、クロロギ酸エステル(クロロギ酸メチル、クロロギ酸エチル)、塩化オキサリル、カルボジイミド類(例えば、N、N′−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSC))、ベンゾトリアゾ−ル−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)−ホスホニウムヘキサフルオロホスフェ−ト(BOP)等が挙げられる。このとき、カルボジイミド類とN−ヒドロキシベンゾトリアゾ−ル、4−ジメチルアミノピリジンまたはヒドロキシコハク酸イミドを併用してもよい。
また、上記反応は通常、例えば、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジメチルエ−テル、ジエチルエ−テル、イソプロピルエ−テルなどのエ−テル類、N、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミドまたはこれらの混合溶媒などの存在下で行われる。
また、上記反応温度は通常、−10℃〜50℃である。
【0026】
【化12】

(但し、式(6)中、mおよびnは互いに独立に0または1〜3の整数を示す。式(7)中、mおよびnは互いに独立に0または1〜3の整数であり、Pは保護基を示す。式(9)中、RおよびRは互いに独立に炭素数10〜25のアルキル基またはアルケニル基を示し、mおよびnは互いに独立に0又は1〜3の整数であり、Pは、保護基を示す)
【0027】
上記手順で合成された一般式(1)および(2)のポリサルコシン誘導体は、クロマトグラフィー、再結晶などの通常の精製手段により単離採取することができる。
【0028】
本発明による上記一般式(1)および(2)のポリサルコシン誘導体は、アミノ酸であるサルコシンを基本成分としており生分解性に優れており、生体内において、親水基であるポリサルコシン部分はサルコシンに分解される。前記サルコシンは、生体内において害のない物質であるため、本発明による上記一般式(1)および(2)のポリサルコシン誘導体は生体内において使用することができる。
なお、本明細書において、「生分解性」とは、本発明による上記一般式(1)および/または(2)のポリサルコシン誘導体を含有する薬物担体を後述する投与対象(宿主)に投与後、投与対象(宿主)内で分解されることを指す。
【0029】
本発明の薬物担体は、脂質を基本構成材料とする膜で形成され、薬物を担持することができる小球状の構造体であることが好ましく、前記膜の構成成分(膜構成成分)は、少なくとも前記一般式(1)および/または(2)のポリサルコシン誘導体を含有する。
なお、本発明の薬物担体としては、様々な形態が考えられるため、本明細書において、「担持」とは、その形態により、内包、封入、相互作用による付着など広く意味する。
【0030】
本発明の薬物担体は、薬物を担持することのできる構造体を有していればその形態は特に限定されないが、例えば、薬物を膜で形成された閉鎖空間内に封入することができる形態、膜自体に内包することができる形態、薬物を薬物担体の表面に付着させることができる形態などが挙げられ、これらの組合せでもよい。
具体的には、薬物を高濃度封入することのできる潜在的機能を有する構造をもつリポソーム、リピッドマイクロスフェアのような閉鎖小胞が挙げられ、その中でも、本発明の薬物担体としては、血中での安定性(血中滞留性)の観点から、リポソームが特に好ましい。
【0031】
リポソームとは、リン脂質を基本とする脂質二重層からなる閉鎖小胞であり、具体的には、脂質分子の疎水性基と親水性基の極性に基づいて生ずる膜により外界から隔てられた空間を形成する構造を有する閉鎖小胞であるものが挙げられる。
リピッドマイクロスフェアとは水と油の一方を他方中に乳化させてなる閉鎖小胞である。
【0032】
本発明の薬物担体の大きさは特に限定されないが、球状またはそれに近い形態をとる場合には、粒子外径の直径が、0.02〜250μm、好ましくは0.03〜0.4μm、より好ましくは0.05〜0.2μmである。
なお、本明細書において、「粒子外径の直径」とは、光散乱法により測定される薬物担体全粒子の直径の平均値を指す。
【0033】
本発明の薬物担体の膜構成成分としては、上記式(1)および/または(2)のポリサルコシン誘導体のみを膜構成成分として含有することができるが、薬物担体の構造を安定に形成できるものであれば、上記式(1)および/または(2)のポリサルコシン誘導体とともに、他の成分を含有させることもできる。
前記「他の成分」としては、薬物担体の構造を安定的に形成できるものであれば特に限定されないが、その安全性、生体内における安定性などを考慮すると、膜構成成分として使用可能な脂質およびその誘導体から選ばれることが望ましく、その中でも、膜の基本構成材料として通常使用される脂質を含むことが特に好ましい。膜の基本構成材料として通常使用される脂質としては、リン脂質、リン脂質以外の脂質、コレステロール類およびそれらの誘導体等が挙げられる。
【0034】
上記「リン脂質」としては、フォスファチジルコリン(=レシチン)、フォスファジルグリセロール、フォスファチジン酸、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルセリン、フォスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、カルジオリビン等の天然あるいは合成のリン脂質、またはこれらの常法にしたがって水素添加したもの(例えば、水素添加大豆フォスファチジルコリン)等を挙げることができる。
なお、本明細書において、「リン脂質」とはリン脂質に修飾を加えたリン脂質誘導体を包含する。
【0035】
上記「リン脂質以外の脂質」としては、リン酸を含まない脂質が挙げられ、特に限定されないがリン酸部分をその分子内に有しないグリセロ脂質、リン酸部分をその分子内に有しないスフィンゴ脂質を挙げることができる。
なお、本明細書において、「リン脂質以外の脂質」とはリン脂質以外の脂質に修飾を加えたリン脂質以外の脂質の誘導体を包含する。
【0036】
上記リン脂質以外の脂質が塩基性官能基を含む場合、すなわち脂質に塩基性官能基を有する化合物が結合した物質である場合、前記脂質をカチオン化脂質と呼ぶ。
前記カチオン化脂質は、例えば、薬物担体がリポソームである場合、その脂質部分の一部または全部がリポソームの脂質二重層の膜に構成成分のひとつとして含まれることによって安定化される。また、塩基性官能基部分を前記脂質二重層の膜表面上(担体の外表面上および/または内表面上)に存在させることができることにより、薬物担体(リポソーム)の膜を修飾することが可能となり、その結果、標的部位である細胞との接着性等を高めることができる。
【0037】
上記「コレステロール類」としては、特に限定されないがコレステロールやコレスタノール等を挙げることができる。
なお、上記他の成分は、1つ、または2つ以上の組合せとして、上記式(1)および/または(2)のポリサルコシン誘導体とともに含有することができる。
【0038】
本発明の薬物担体における式(1)および/または(2)のポリサルコシン誘導体の含有量は、薬物担体を構成する総脂質量に対する比率で、通常0.1〜20mol%で存在することができ、好ましくは0.1〜5mol%、より好ましくは0.5〜5mol%である。
上記範囲であれば、血しょう蛋白質やオプソニン蛋白質などの吸着を防止して血中安定性(血中滞留性)を高め、RESでの捕捉を回避する効果を得ることができる。
なお、本明細書において、「総脂質量」とは、薬物担体を構成するすべての脂質の量を意味し、モル濃度(mM)で表示される。また、「総脂質」とは、式(1)および/または(2)のポリサルコシン誘導体を除いた薬物担体の膜構成成分である脂質を意味する。つまり、具体的にいえば、総脂質とは、先述したような膜基本構成材料をなすリン脂質、リン脂質以外の脂質、またはコレステロール類のような脂質およびそれらの誘導体を意味する。
【0039】
本発明の薬物担体は、薬物担体の構造を安定に形成できるものであれば、前記「他の成分」として、安定化剤および/または酸化防止剤を含むこともできる。
安定化剤としては、膜流動性を低下させるコレステロールなどのステロール類、あるいはグリセロール、シュクロースなどの糖類などが挙げられる。
酸化防止剤としては、特に限定されないがアスコルビン酸、尿酸あるいはトコフェロール同族体、たとえばビタミンEなどが挙げられる。トコフェロールには、α、β、γ、δの4個の異性体が存在するが本発明においてはいずれも使用できる。
前記安定化剤および酸化防止剤は、上記の中から必要に応じて適宜選択され、1つまたは2つ以上を組合せて使用されるのが好ましい。
【0040】
本発明の薬物担体は、本発明の効果を損なわない範囲の量で、疾患の診断用、予防または治療用の薬物を適宜に担持することができる。
本発明の薬物担体に担持可能な予防または治療用の薬物の種類としては、薬物担体の構造の形成を損ねない限り特に限定されるものではない。具体的には、核酸、ポリヌクレオチド、遺伝子およびそれを含むベクター、抗癌剤、抗生物質、酵素剤、抗酸化剤、脂質取り込み阻害剤、ホルモン剤、抗炎症剤、ステロイド剤、血管拡張剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシン受容体拮抗剤、平滑筋細胞の増殖・遊走阻害剤、血小板凝集阻害剤、抗凝固剤、ケミカルメディエーターの遊離阻害剤、血管内皮細胞の増殖促進または抑制剤、アルドース還元酵素阻害剤、メサンギウム細胞増殖阻害剤、リポキシゲナーゼ阻害剤、免疫抑制剤、免疫賦活剤、抗ウイルス剤、アミロイドーシス阻害剤、一酸化窒素合成阻害剤、AGEs(Advanced glycation endproducts)阻害剤、ラジカルスカベンジャー、タンパク質、ペプチド、グリコサミノグリカンおよびその誘導体、オリゴ糖および/または多糖およびそれらの誘導体等が挙げられる。
【0041】
抗癌剤としては、特に限定されないがネダプラチン、ドセタキセル、塩酸ゲムシタビン、シクロホスファミド、イホスファミド、塩酸ナイトロジェンマスタード−N−オキシド、チオテパ、ブルスファン、カルボコン、塩酸ニムスチン、ラニムスチン、メルファラン、トシル酸インプロスルファン、ダカルバジン、塩酸プロカルバジン、シタラビン、シタラビンオクスファート、エノシタビン、メルカプトプリン、チオイノシン、フルオロウラシル、ドキシフルリジン、テガフール、メトトレキサート、カルモフール、ヒドロキシカルバミド、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンデシン、エトポシド、クロモマイシンA3、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、塩酸アラクルビシン、ピラルビシン、塩酸エピルビシン、ダクチノマイシン、塩酸ミトキサントロン、塩酸ブレオマイシン、硫酸ペプロマイシン、マイトマイシンC、ネオカルノスタチン、L−アスパラギナーゼ、アセグラトンミトプロニトール、デキストラン硫酸ナトリウム、酢酸オクトレオチド、シスプラチン、カルボプラチン、クエン酸タモキシフェン、酢酸メドロキシプロゲステロン、リン酸エストラムスチンナトリウム、酢酸ゴセレリン、酢酸リュープロレリン、塩酸イリノテカン、パクリタキセルなどが挙げられる。これらの抗癌剤のうちでも、特に好ましいのはパクリタキセル、ドセタキセル、塩酸イリノテカン、塩酸ゲムシタビン、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチンなどである。
【0042】
抗生物質としては、特に限定されないがベンジルペニシリンカリウム、ベンジルペニシリンベンザチン、フェノキシメチルペニシリンカリウム、フェネチシリンカリウム、クロキサシリンナトリウム、フルクロキサシリンナトリウム、アンピシリン、トシル酸スルタミシリン、塩酸バカンピシリン、塩酸タランピシリン、レナンピシリン、ヘタシリンカリウム、シクラシリン、アモキシシリン、塩酸ピブメシリナム、アスポキシシリン、カルベニシリンナトリウム、カリンダシリンナトリウム、スルベニシリンナトリウム、チカルシリンナトリウム、ピペラシリンナトリウム、セファロリジン、セファロチンナトリウム、セファゾリンナトリウム、セファピリンナトリウム、セフラジン、セファレキシン、セファトリジンプロピレングリコール、セフロキサジン、セファクロル、セファドロキシル、塩酸セフォチアム、塩酸セフォチアムヘキセチル、セフロキシムナトリウム、セフロキシムアキセチル、セファマンドールナトリウム、セフジニル、塩酸セフェタメトピポキシル、セフチプテン、セフメタゾールナトリウム、セフォキシチンナトリウム、セフォテタンナトリウム、セフミノクスナトリウム、セフプペラゾンナトリウム、セフピラミドナトリウム、セフスロジンナトリウム、セフォタキシムナトリウム、セフォペラゾンナトリウム、セフチゾキシムナトリウム、塩酸セフメノキシム、セフトリアキソンナトリウム、セフタジジム、セフピミゾールナトリウム、セフィキシム、セフテラムピポキシル、セフゾナムナトリウム、セフポドキシプロキセチル、セフォジジム、硫酸セフピロム、ラタモキセフナトリウム、フロモキセフナトリウム、イミペネム、シラスタチンナトリウム、アズトレオナム、カルモナムナトリウム、硫酸ステレプトマイシン、硫酸カナマイシン、硫酸フラジオマイシン、硫酸アミカシン、硫酸ゲンタマイシン、硫酸パロモマイシン、硫酸ペカナマイシン、硫酸リポスタマイシン、硫酸ジベカシン、トブラマイシン、硫酸シソマイシン、硫酸ミスロノマイシン、硫酸アストロマイシン、硫酸ネチルマイシン、硫酸イセパマイシン、硫酸アルベカシン、エリスロマイシン、キタサマイシン、アセチルキタサマイシン、リン酸オレアンドマイシン、ジョサマイシン、アセチルスピラマイシン、ミデカマイシン、酢酸ミデカマイシン、ロキタマイシン、ロキシスロマイシン、クラリスロマイシン、塩酸テトラサイクリン、塩酸オキシテトラサイクリン、メタリン酸テトラサイクリン、塩酸デメチルクロルテトラサイクリン、ロリテトラサイクリン、塩酸ドキシサイクリン、塩酸ミノサイクリン、クロラムフェニコール、コハク酸クロラムフェニコールナトリウム、パルミチン酸クロラムフェニコール、チアンフェニコール、塩酸アミノ酢酸チアンフェニコール、硫酸コリスチン、コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム、硫酸ポリミキシンB、バシトラシン、塩酸バンコマイシン、塩酸リンコマイシン、クリンダマイシン、塩酸スペクチノマイシン、ホスホマイシンナトリウム、ホスホマイシンカルシウムなどが挙げられる。
【0043】
酵素剤としては、特に限定されないがキモトリプシン、結晶トリプシン、ストレプトキナーゼ・ストレプトドルナーゼ、ヒアルロニダーゼ、ウロキナーゼ、ナサルプラーゼ、アルテプラーゼ、塩化リゾチーム、セミアルカリプロティナーゼ、セラペプターゼ、チソキナーゼ、デュテプラーゼ、バトロキソビン、プロナーゼ、プロメラインなどが挙げられる。
【0044】
抗酸化剤としては、特に限定されないがトコフェロール、アスコルビン酸、尿酸などが挙げられる。
【0045】
抗炎症剤としては、特に限定されないがサリチル酸コリン、サザピリン、サリチル酸ナトリウム、アスピリン、ジフルニサル、フルフェナム酸、メフェナム酸、フロクタフェニン、トルフェナム酸、ジクロフェナクナトリム、トルメチンナトリウム、スリンダク、フェンブフェン、フェルビナクエチル、インドメタシン、インドメタシンファルネシル、アセメタシン、マレイン酸プログルメタシン、アンフェナクナトリウム、ナブメトン、イブプロフェン、フルルビプロフェン、フルルビプロフェンアキセチル、ケトプロフェン、ナプロキセン、プロチジン酸、プラノプロフェン、フェノプロフェンカルシウム、チアプロフェン酸、オキサプロジン、ロキソプロフェンナトリウム、アルミノプロフェン、ザルトプロフェン、フェニルブタゾン、クロフェゾン、ケトフェニルブタゾン、ピロキシカム、テノキシカム、アンピロキシカム、塩酸チアラミド、塩酸チノリジン、塩酸ベンジダミン、エピリゾール、エルモファゾンなどが挙げられる。
【0046】
ステロイド剤としては、特に限定されないが酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン(リン酸エステル、酢酸塩)、酪酸ヒドロコルチゾン、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、プレドニゾロン(アセテート、サクシネート、第三級ブチル酢酸エステル、リン酸エステル)、メチルプレドニゾロン(アセテート)、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド(酢酸トリアムシノロン)、デキサメタゾン(リン酸エステル、酢酸塩、リン酸ナトリウム塩、硫酸エステル)、パルミチン酸デキサメタゾン、ベタメタゾン(リン酸塩、2ナトリウム塩)、酢酸パラメタゾン、酢酸フルドロコルチゾン、酢酸ハロプレドン、プロピオン酸クロベタゾール、ハルシノニド、プロピオン酸ベクロメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、酢酸ベタメタゾン、酢酸コルチゾンなどが挙げられる。
【0047】
血管拡張剤としては、特に限定されないがテオフィリン、ジプロフィリン、プロキシフィリン、アミノフィリン、コリンテオフィリン、プロスタグランジン、プロスタグランジン誘導体、アルプロスタジルアルファデクス、アルプロスタジル、リマプロストアルファデクス、パパベリン、シクランデラート、シンナリジン、フマル酸ベンシクラン、マレイン酸シネパジド、塩酸ジラゼプ、トラピジル、塩酸ジフェニドール、ニコチン酸、イノシトールヘキサニコチネート、クエン酸ニカメタート、酒石酸ニコチニックアルコール、ニコチン酸トコフェロール、ヘプロニカート、塩酸イソクスプリン、硫酸バメタン、塩酸トラリゾン、メシル酸ジヒドロエルゴトキシン、酒石酸イフェンプロジル、塩酸モキシシリト、ニセルゴリン、塩酸ニカルジピン、ニルバジピン、ニフェジピン、塩酸ベニジピン、塩酸ジルチアゼム、ニソルジピン、ニトレンジピン、塩酸マニジピン、塩酸バルニジピン、塩酸エホニジピン、塩酸ベラパミル、塩酸トリメタジジン、カプトプリル、マレイン酸エナラプリル、アラセプリル、塩酸デラプリル、シラザプリル、リシノプリル、塩酸ベナゼプリル、塩酸ヒドララジン、塩酸トドララジン、ブドララジン、カドララジン、インダパミド、塩酸カルボクロメン、エフロキサート、塩酸エタフェノン塩酸オキシフェドリン、ニコランジル、亜硝酸アミル、硝酸イソソルビドなどが挙げられる。
【0048】
アンジオテンシン変換酵素阻害剤としては、特に限定されないがアラセプリル、塩酸イミダプリル、塩酸テモカプリル、塩酸デラプリル、塩酸ベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、マレイン酸エナラプリル、リシノプリルなどが挙げられる。
アンジオテンシン受容体拮抗剤としては、特に限定されないがロサルタンなどが挙げられる。
【0049】
平滑筋細胞の増殖および/または遊走阻害剤としては、特に限定されないがヘパリンナトリウム、ダルテパリンナトリウム(低分子ヘパリン)、ヘパリンカルシウム、デキストラン硫酸などが挙げられる。
【0050】
血小板凝集阻害剤としては、特に限定されないが塩酸チクロピジン、シロスタゾール、イコサペント酸エチル、ベラプロストナトリウム、塩酸サルプグレラート、バトロキソビン、ジピリダモールなどが挙げられる。
【0051】
抗凝固剤としては、特に限定されないがヘパリンナトリウム、ダルテパリンナトリウム(低分子ヘパリン)、ヘパリンカルシウム、デキストラン硫酸、ワルファリンカリウム、アルガトロバンなどが挙げられる。
【0052】
ケミカルメディエーターの遊離阻害剤としては、特に限定されないがトラニラスト、フマル酸ケトフェチン、塩酸アゼラスチン、オキサトミド、アンレキサノクス、レピリナストなどが挙げられる。
【0053】
免疫抑制剤としては、特に限定されないがシクロスポリンなどが挙げられる。
【0054】
抗ウイルス剤としては、特に限定されないがアシクロビル、ガンシクロビル、ジダノシン、ジドブジン、ソリブジン、ビダラビンなどが挙げられる。
【0055】
本発明の薬物担体に担持可能な診断用の薬物の種類としては、薬物担体の構造形成を損ねない限り特に限定されるものではない。具体的には、X線造影剤、超音波診断剤、放射性同位元素標識核医学診断薬、核磁気共鳴診断用診断薬などの体内診断薬が挙げられる。
X線造影剤としては、たとえばアミドトリゾ酸メグルミン、イオタラム酸ナトリウム、イオタラム酸メグルミン、ガストログラフィン、ヨーダミドメグルミン、リピオドールウルトラフルイド、アジピオドンメグルミン、イオキサグル酸、イオトロクス酸メグルミン、イオトロラン、イオパノ酸、イオパミドール、イオヘキソール、イオベルソール、イオポダートナトリウム、イオメプロール、イソペーク、ヨードキサム酸などが挙げられる。
超音波診断剤としては、特に限定されないが例えば気体や液体が挙げられる。気体としては、空気、二酸化炭素、酸素、窒素、ヘリウム、アルゴンなどが挙げられる。液体としては、水、生理食塩水、緩衝液、金属粉を含む水性の懸濁液などが挙げられる。
【0056】
本発明の薬物担体が、前記薬物を担持している場合、本発明の薬物担体の大きさは特に限定されないが、球状またはそれに近い形態をとる場合には、粒子外径の直径が、0.02〜250μm、好ましくは0.03〜0.4μm、より好ましくは0.05〜0.2μmが好ましい。
特に0.05〜0.2μmの範囲であれば、EPR効果(Enhanced Permeability and Retention Effect)が期待できる。
EPR効果とは、本発明の薬物担体等が投与対象(宿主)の腫瘍や炎症組織の滞留しやすい効果のことである。腫瘍組織や炎症組織にある血管は正常組織の血管に比べて透過性が高く、そのため、正常組織の血管に比べ、腫瘍等の組織の血管では0.05〜0.2μmサイズの薬物担体や高分子化合物が透過しやすい。また、このような腫瘍組織等では、リンパ管機構が不完全なため、組織に移行した薬物担体等は、リンパ管から回収されることなく組織内に滞留する。このような効果をEPRという。
【0057】
本発明の薬物担体は、公知の方法を採用して製造および分離・精製することができる。以下に、薬物担体の一例としてリポソームの製造方法および分離・精製方法を示すが、本発明の薬物担体の製造方法および分離・精製方法は、これらに限定されない。
本発明の薬物担体の製造および分離・精製方法としては、まず、フラスコ内で、本発明による一般式(1)および/または(2)に記載のポリサルコシン誘導体と、リン脂質等の他の膜構成成分を、クロロホルム等の有機溶媒と、を混合させ、有機溶媒の留去後に真空乾燥することによりフラスコ内壁に薄膜を形成させる。次に、激しく撹拌することにより、リポソーム分散液を得る。なお、薬物を担持させる場合には、当該フラスコ内に担持させる薬剤を加えてから撹拌する。
得られたリポソーム分散液は、ゲルろ過、透析、膜分離および/または遠心分離等の通常用いられるいずれかの方法で精製することにより、リポソームに担持されなかった薬物を除去することができる。また得られたリポソーム分散液は、フレンチプレス、加圧ろ過器またはエクストルーダー等の通常用いられる方法で、リポソーム粒子の外径を整えることができる。
なお、本発明による一般式(1)および/または(2)に記載のポリサルコシン誘導体を含まないリポソーム形成脂質を混合して得られた混合脂質を用いて常法によりリポソームを形成させた後に、本発明による一般式(1)および/または(2)に記載のポリサルコシン誘導体を添加してもよい。
【0058】
またリポソームは、上記方法以外にも、上記の各構成成分を混合し、高圧吐出型乳化機により高圧吐出させることにより得ることもできる。リポソームの調製方法は、「ライフサイエンスにおけるリポソーム」(寺田、吉村ら;シュプリンガー・フェアラーク東京(1992))に具体的に記載されており、この記載を引用して本明細書に記載されているものとする。
【0059】
薬物を本発明の薬物担体に担持させるためにpH勾配法を用いることができる。この方法は、「Liposome Technology Liposome Preparation and Related Techniques 第2版」(G.Gregoriadis編、Vol.I−III、CRC Press社)に記載されており、この記載を引用して本明細書に記載されているものとする。
本発明のリポソームを所望のサイズにサイジングするために、いくつかの技術が利用可能であるが、一例として、「Liposome Technology Liposome Preparation and Related Techniques 第2版」(G.Gregoriadis編、Vol.I−III、CRC Press社)に記載の方法が挙げられる。この記載を引用して本明細書の記載されているものとする。
【0060】
本発明の薬物担体であれば、血液中のオプソニン蛋白質や血しょう蛋白質との相互作用による凝集や、肝臓、脾臓等の細網内皮系組織(RES)での捕捉等を抑制し、血中滞留性(血中安定性)が高くすることができるため、薬物を担持した状態で標的部位まで輸送することができ、その結果、担持する薬物を標的部位へ送達することができる。
なお、本明細書において、「血中滞留性(血中安定性)が高い」とは、後述する薬物担体の投与対象(宿主)に、薬物担体を投与してから、その血液中に、本発明による一般式(1)および/または(2)に記載のポリサルコシン誘導体を含有しない薬物担体に比べてより長い時間の間存在している状態を指す。
また、本明細書において、「標的部位」とは、予防、治療または診断の対象となる部位であれば、特に限定されない。具体的には、例えば、腫瘍、炎症のある細胞、組織、器官(例えば臓器)および細胞の核などの内部構造が挙げられる。
また、本明細書において、「薬物の標的部位への輸送」とは、薬物を担持した薬物担体を宿主(投与対象)に投与した地点から、生体内の標的部位まで運ぶことを意味する。
具体的には、本発明の薬物担体に担持される薬物をEPR効果(Enhanced Permeation and Retention effect)の利用により、生体内の標的部位まで輸送することが挙げられる。
また、本明細書において、「薬物の標的部位への送達」とは、薬物担体が担持する薬物を標的部位へ到達取り込ませることを意味する。なお、この場合、薬物が標的部位に取り込まれずとも薬物の影響を標的部位またはその近傍へ及ぼすことも含む。
【0061】
本発明の医薬組成物は、本発明の薬物担体に薬物を担持し、上記安定化剤、酸化防止剤等の添加物を必要に応じて随意含有させた組成物からなる。
【0062】
本発明の医薬組成物において、本発明の薬物担体に担持させる薬物は、上記予防または治療用、診断用の薬物の中から必要に応じて適宜選択され、1つまたは2つ以上を組合せて使用されるのが好ましい。
本発明の医薬組成物において、本発明の薬物担体は、投与経路、剤形に応じて、上記安定化剤、酸化防止剤等の添加物を含むことができる。
上記添加物の例としては、特に限定されないが、上記安定化剤、上記酸化防止剤、水、生理食塩水、医薬的に許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、ジグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、PBS、生体内分解性ポリマー、無血清培地、医薬添加物として許容される界面活性剤あるいは生体内で許容し得る生理的pHの緩衝液などが挙げられ、これらの中から、必要に応じて適宜選択され、1つまたは2つ以上を組合せて使用されるのが好ましい。
本発明の医薬組成物は、通常の方法にしたがって保存することができ、たとえば0〜8℃での冷蔵あるいは15〜25℃の室温で保存することができる。
【0063】
本発明の医薬組成物が適用される疾患もしくは病態、またはそれらにおける特定の治療指標としては、種々のものが含まれ、必ずしも限定されない。先述した各種薬物の適用が可能であるいずれの疾患でもよい。
【0064】
本発明の医薬組成物の投与対象(宿主)は、哺乳動物、好ましくはヒト、サル、ネズミ、家畜等が挙げられる。
本発明の医薬組成物の投与量は、特に限定されず、投与対象(宿主)の症状、体重、年齢や性別等を考慮して適宜決定されるが、病気に既に悩まされる投与対象(宿主)に、疾患の症状を治癒するか、あるいは少なくとも部分的に阻止するために有効な量で投与されることが望ましい。また、病気の診断の判別できるくらいの有効な量で投与されることが望ましい。
例えば、投与対象(宿主)がヒトの場合、薬物担体に担持された形での薬物の有効投与量は、一日につき体重1kgあたり0.01mgから100mgの範囲で選ばれることが望ましい。
なお、投与時期は、疾患が生じてから投与してもよいし、あるいは疾患の発症が予測される時に発症時の症状緩和のために予防的に投与してもよい。また、投与期間は、投与対象(宿主)の年齢、症状等により適宜選択することができる。
【0065】
本発明の医薬組成物の剤形は、必ずしも限定されないが、注射剤等が挙げられる。また種々の投与経路が可能であるが、非経口投与が好ましい。非経口投与としては例えば、静脈内投与(連続点滴、間欠的点滴)、腹腔内投与、皮下投与、筋肉内投与、動脈内投与等の注射が一般的である。
具体的な投与方法としては、本発明の医薬組成物をシリンジや点滴によって投与する方法、カテーテルを患者または宿主の体内、たとえば管腔内、たとえば血管内に挿入して、その先端を標的部位付近に導き、当該カテーテルを通して、所望の標的部位またはその近傍あるいは標的部位への血流が期待される部位から投与する方法等が挙げられる。
また、投与時期もしくは回数は、患者の状態にも依存するが、予防投与、単回投与もしくは連続投与等が例示される。
【0066】
本発明の医薬組成物は、本発明の薬物担体に記載した製造および分離方法と同じ方法で得ることができる。
【0067】
本発明の医薬組成物であれば、本発明の薬物担体を含有する組成物であるため、薬物を担持した状態で標的部位まで輸送することができ、その結果、担持する薬物を標的部位へ送達することができる。従って、疾患の予防、治療または診断に優れた効果を有する。
【0068】
本発明では、先述した本発明の医薬組成物が適用される疾患もしくは病態に、本発明の薬物担体を有効成分とする医薬組成物を使用した予防方法、治療方法または診断方法を提供することができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例および試験例に基づいて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例、試験例に限定されるべきものではない。
【0070】
(実施例1) (Sar)57-DODA((サルコシン)57−ジオクタデカニルアミン)の合成
(1)Sar NCA(サルコシン N-カルボキシ無水物)の合成
塩化チオニル法を用いてSar NCAを合成した。カルボベンジロキシサルコシン(Z-Sar)に塩化チオニルを加え、60℃で約7分反応させた。反応溶液を、乾燥した石油エーテルに加え、得られた沈殿を回収した。酢酸エチルと石油エーテルの混合溶媒を用いて、得られた固体の再結晶を3回繰り返し、目的物(Sar NCA)の精製を融点測定(融点97℃)により確認した。
(2)重合
Sar NCAをテトラヒドロフランに溶解し、50℃で攪拌下にDODAを設定した重合度、n=60に相当する量を加えた。モノマー濃度は0.2Mに設定した。4時間反応後、IRスペクトル測定によりNCA特性吸収ピークの消失を確認した。反応溶液を減圧濃縮し、減圧乾燥することで目的の化合物((Sar)57-DODA)を得た。
得られた化合物((Sar)57-DODA)の1H NMRスペクトルを[図1]に示す。
【0071】
なお、[図1]の1H NMRスペクトルは下記式の構造を支持する。
【化13】

【0072】
(実施例2) Ac-(Sar)40-DODAの合成
実施例1の(1)で合成したSar NCAをテトラヒドロフランに溶解し、50℃で攪拌下にDODAを設定した重合度、n=40に相当する量を加えた。モノマー濃度は0.2Mに設定した。4時間反応後、IRスペクトル測定によりNCA特性吸収ピークの消失を確認した。反応溶液に酢酸(5当量)、HATU(N−[(dimethylamino)−1H−1,2,3−triazol[4,5−b]pyridino−1−ylmethylene]−N−methylmethanaminium hexafluorophosphate N−oxide)(5当量)、ジイソプロピルエチルアミン(diisopropylethylamine:DIEA)(7.5当量)を加え、N末端をアセチル化した。12時間反応後HATU(2当量)を追加した。さらに12時間反応後、反応溶液を減圧濃縮し、得られた固体をメタノールに溶解して、SephadexTM LH20カラム(2cm×65cm 溶離液:メタノール)を用いて精製した。[図2]にAc‐Sar40‐DODAの溶出パターンを示す。溶出体積が57ml〜72mlの分画(フラクション番号:19〜24)を回収し、減圧濃縮、減圧乾燥することで目的の化合物を得た。得られた化合物の1H NMRスペクトルを[図3]に示す。
【0073】
なお、[図3]の1H NMRスペクトルは下記式の構造を支持する。
【化14】

【0074】
(実施例3) Ac-(Sar)24-DODAの合成
実施例1の(1)で合成したSar NCAをテトラヒドロフランに溶解し、50℃で攪拌下にDODAを設定した重合度、n=20に相当する量を加えた。以下(実施例2)と同様に操作を行い目的の化合物を得た。得られた化合物(Ac-(Sar)24-DODA)の1H NMRスペクトルを[図4]に示す。
【0075】
[図4]の1H NMRスペクトルは下記式の構造を支持する。
【化15】

【0076】
(実施例4) (Sar)23-Glu(ODA)の合成
(1)アミン誘導体の合成
Boc-Glu(2.5g)、N-ヒドロキシコハク酸イミド(3.49g)、ステアリルアミン(5.98g)をジクロロメタンに溶解し、0℃、攪拌下にジシクロヘキシルジイミド(4.99g)を加えた。3時間後室温に戻し、1晩攪拌下に反応させた。析出した固体を濾取し、メタノールで洗浄後、温めたテトラヒドロフランに目的物を溶解させた。溶液を減圧濃縮後、析出した固体にクロロホルムを加えて、目的物を抽出した。クロロホルムとメタノールの混合溶媒から再結晶を行った。得られた固体Boc保護体(Boc-Glu(ODA)-ODA)の1H NMRスペクトルを[図5]に示す。
【0077】
なお、[図5]の1H NMRスペクトルはBoc-Glu(ODA)-ODAの構造を支持する。
【化16】


得られたBoc-Glu(ODA)-ODA(1.6g)にトリフルオロ酢酸(10ml)を加え、室温で30分反応後、減圧濃縮した。得られた固体をクロロホルムに溶解し、4% 炭酸水素ナトリウム水溶液(NaHCOaq)で2回処理した。塩化ナトリウム水溶液(NaClaq)で洗浄後、クロロホルム層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧濃縮して得られた固体をN,N−ジメチルホルムアミドで洗浄後、テトラヒドロフランとメタノールの混合溶媒から再結晶し、開始剤 アミン体(NH-Glu(ODA)-ODA)を得た。なお、(NH-Glu(ODA)-ODA)は下記式の構造を支持する。
【化17】


(2)重合
実施例1の(1)で合成したSar NCAをテトラヒドロフランに溶解し、50℃で攪拌下にNH-Glu(ODA)-ODAを設定した重合度、n=20に相当する量を加えた。モノマー濃度は0.2Mに設定した。1晩反応後、反応溶液を減圧濃縮し、得られた固体をメタノールに溶解して、SephadexTM LH20カラムを用いて精製した。得られたポリマーの1H NMRスペクトルを[図6]に示す。
【0078】
[図6]の1H NMRスペクトルは下記式の構造を支持する。
【化18】

【0079】
(実施例5) (Sar)48-Glu(ODA)の合成
実施例1の(1)で合成したSar NCAをテトラヒドロフランに溶解し、50℃で攪拌下にNH-Glu(ODA)-ODAを設定した重合度、n=40に相当する量を加えた。モノマー濃度は0.2Mに設定した。1晩反応後、反応溶液を減圧濃縮し、得られた固体をメタノールに溶解して、SephadexTM LH20カラムを用いて精製した。得られたポリマーの1H NMRスペクトルを[図7]に示す。
【0080】
[図7]の1H NMRスペクトルは下記式の構造を支持する。
【化19】

【0081】
(実施例6)
実施例1で合成したポリサルコシン誘導体を膜構成成分の一つとして含有するリポソームを下記[表1]の通りに調製した。
水素添加大豆フォスファチジルコリン(HSPC、Lipoid)0.312mmol、コレステロール(Solvay)0.266mmol、実施例1で合成したポリサルコシン誘導体0.029mmol(修飾率5mol%)を秤量し、エタノールを0.5ml加えて加温し、脂質が溶解した後、生理食塩水4.5mlを添加し、65℃でエクストルーダーに取り付けたフィルター(孔径、0.2μm×5回,0.1μm×10回)に通し、リポソームを調製した。その結果、実施例1で合成した化合物を膜構成成分の一つとして含有するリポソームを得た。なお、「修飾率」とは、総脂質量に対するポリサルコシン誘導体の比率を意味する。
【0082】
(実施例7)
実施例2で合成したポリサルコシン誘導体を膜構成成分の一つとして含有するリポソームを下記[表1]の通りに調製した。
実施例1で合成したポリサルコシン誘導体の替わりに実施例2で合成したポリサルコシン誘導体を用いた以外は実施例6と同様にリポソームを調製した。
【0083】
(実施例8)
実施例3で合成したポリサルコシン誘導体を膜構成成分の一つとして含有するリポソームを下記の[表1]の通りに調製した。
実施例1で合成したポリサルコシン誘導体の替わりに実施例3で合成したポリサルコシン誘導体を用いた以外は実施例6と同様にリポソームを調製した。
【0084】
【表1】

【0085】
(実施例9)
蛍光色素で標識したリポソームを下記の[表2]の通り調製した。
水素添加大豆フォスファチジルコリン(HSPC、Lipoid)0.312mmol、コレステロール(Solvay)0.266mmol、実施例1または2で合成したポリサルコシン誘導体0.029mmolを秤量し(5mol%修飾の場合は0.029mmol、2mol%、修飾の場合は0.012mmol)、蛍光色素であるローダミン−DHPE(LissamineTM、ローダミン B 1,2−ジへザデカノイル−sn−グリセロ3−フォスフォエタノールアミン、トリエチルアンモニウム塩 Molecular Probes社製)/エタノール溶液(3.09mg/ml)を0.5ml加えて加温し、脂質が溶解した後、生理食塩水4.5mlを添加し、65℃でエクストルーダーに取り付けたフィルター(孔径、0.2μm×5回,0.1μm×10回)に通し、リポソームを調製した。その結果、実施例1〜3で合成したで合成した化合物を膜構成成分の一つとして含有するリポソームを得た。
なお、実施例9の各リポソームの平均粒径を[表3]に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
(参考例1)
ポリエチレングリコール(分子量2000)−フォスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)を膜構成成分の一つとして含有する蛍光色素で標識したリポソームの調製
水素添加大豆フォスファチジルコリン(HSPC、Lipoid)0.312mmol、コレステロール(Solvay)0.266mmol、ポリエチレングリコール(分子量2000)−フォスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)0.029mmolを秤量し(PEG-PE修飾率5mol%)、蛍光色素であるローダミン−DHPE(LissamineTM、ローダミンB 1,2−ジへザデカノイル−sn−グリセロ3−フォスフォエタノールアミン、トリエチルアンモニウム塩(Molecular Probes社製)/エタノール溶液(3.09mg/ml)を0.5ml加えて加温し、脂質が溶解した後、生理食塩水4.5mLを添加し、65℃でエクストルーダーに取り付けたフィルター(孔径、0.2μm×5回,0.1μm×10回)に通し、リポソームを調製した。その結果、ポリエチレングリコール(分子量2000)−フォスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)を膜構成成分の一つとして含有するリポソームを得た。なお、「PEG-PE修飾率」とは、総脂質量に対するPEG-PEの比率を意味する。
なお、実施例9および参考例1の各リポソームの平均粒径を[表3]に示す。
【0088】
【表3】

【0089】
(試験例1)
ラット(オス、7週齢)を用い、実施例9-1のリポソーム、実施例9-2のリポソーム、実施例9-3のリポソーム、参考例1のリポソームの各サンプルの投与後の血中濃度の経時変化を標識体であるローダミンDSPEの蛍光により観察した。
ラット尾静脈から総脂質量として10μmol/2ml/kg相当量のサンプルを注射し、投与後1、3、6、24、48時間後に尾静脈よりヘパリン処理シリンジを用い約0.5ml採血した。血液のうち0.1mlを用い、血液中のローダミンの蛍光強度を蛍光光度計を用い測定(励起550nm、蛍光590nm)した。得られた蛍光強度より血液中の総脂質量(μmol総脂質/ml血液)を算出した.総脂質量の経時変化を[図8]に示す。
【0090】
実施例9-1のリポソーム、実施例9-2のリポソーム、実施例9-3のリポソームは血管に注入後24時間経過した後も10%以上が血管中にとどまることが確認され、参考例1のリポソームとほぼ同等の血中安定性(血中滞留性)を示した。この実施例9-1のリポソーム、実施例9-2のリポソーム、実施例9-3のリポソームの長時間滞留性には、EPR効果による癌患部への薬剤集積化を可能とすることを示している。
【0091】
(急性毒性)
ICR系雄性マウス(5週齢)を用いて経口投与による急性毒性試験を行った結果、本発明の化合物(一般式(1)または(2)に示されるポリサルコシン誘導体)のLD50はいずれも320mg/kg以上であり、ポリサルコシン誘導体を含有する薬物担体の安全性が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】図1は、(Sar)57-DODAのH NMRスペクトルを示す図である。
【図2】図2は、CDCl中のAc-(Sar)40-DODAのSephadexTM LH20クロマトグラフィーによる溶出パターンを示す図である。
【図3】図3は、CDCl中のAc-(Sar)40-DODAのH NMRスペクトルを示す図である。
【図4】図4は、CDCl中のAc-(Sar)24-DODAのH NMRスペクトルを示す図である。
【図5】図5は、CDCl中の(Boc-Glu(ODA)-ODA)のH NMRスペクトルを示す図である。
【図6】図6は、CDCl中の(Sar)23-Glu(ODA)H NMRスペクトルを示す図である。
【図7】図7は、CDCl中の(Sar)48-Glu(ODA)H NMRスペクトルを示す図である。
【図8】図8は、ラット血液中のリポソーム濃度の経時変化を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるポリサルコシン誘導体。
【化1】


(但し、式(1)中、Rは水素原子、アミノ基の保護基またはアミノ基に結合する官能基であり、RおよびRは互いに独立に炭素数10〜25のアルキル基またはアルケニル基である。lは5〜150の整数を示す)
【請求項2】
下記一般式(2)で示されるポリサルコシン誘導体。
【化2】


(但し、式(2)中、Rは水素原子、アミノ基の保護基またはアミノ基に結合する官能基であり、RおよびRは互いに独立に炭素数10〜25のアルキル基またはアルケニル基である。kは10〜100の整数を示す。mおよびnは互いに独立に0または1〜3の整数を示す)
【請求項3】
前記一般式(1)おいて、RおよびRは互いに独立に炭素数12〜18のアルキル基またはアルケニル基である請求項1に記載のポリサルコシン誘導体。
【請求項4】
前記一般式(2)おいて、RおよびRは互いに独立に炭素数12〜18のアルキル基またはアルケニル基である請求項2に記載のポリサルコシン誘導体。
【請求項5】
前記一般式(1)において、RおよびRは炭素数18のアルキル基であり、lは20〜60である請求項1または3に記載のポリサルコシン誘導体。
【請求項6】
前記一般式(2)において、RおよびRは炭素数18のアルキル基であり、kは20〜60である請求項2または4に記載のポリサルコシン誘導体。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載のポリサルコシン誘導体を構成成分の一つとして含有する薬物担体。
【請求項8】
前記薬物担体は、閉鎖小胞である、請求項7に記載の薬物担体。
【請求項9】
さらに、リン脂質、リン脂質以外のグリセロ脂質、スフィンゴ脂質およびコレステロール類からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有する請求項7または8に記載の薬物担体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−214516(P2008−214516A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54859(P2007−54859)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】