説明

ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体およびその製造方法

【課題】黄色度が低くかつ白色度が高く、表面外観、断熱性、耐熱性、軽量性、良成型性に優れたポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を提供する。
【解決手段】発泡体100質量%に対し、カルシウム成分を30〜2000ppm含有し、L値が30以上、a値が0以下、b値が20以下、YI値が35以下であることを特徴とするポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄色度が低くかつ白色度が高く、表面外観、断熱性、耐熱性、軽量性、成型性に優れたポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体とその製造方法およびポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体からなる成型体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、PPS樹脂と略す場合がある)は、優れた耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などの特徴を活かした製品として実用化されてきた。
【0003】
例えば、射出成形用の製品として、耐熱性や耐薬品性を要求される自動車部品や精密機器部品、電気・電子部品など、現在まで広く利用されてきている。
【0004】
また、フィルムでも、優れた電気絶縁性、難燃性から、フィルムコンデンサーやチップコンデンサーの誘電体フィルム用途、回路基板、絶縁基板用途、モーター絶縁フィルム用途、離型用フィルム用途などに幅広く利用されており、その需要は拡大している。昨今では、特にこれらの用途に対して光沢感や白色感を重視した要求と軽量化に対する強い要求が増加している。
【0005】
例えば、特許文献1では、結晶化度20%以上、発泡倍率が2倍以上であることを特徴とするポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体であり、これらの発泡体により、従来から存在しているポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレンなどの発泡体と比較して、難燃性、低誘電率に優れた軽量性のある発泡体を作り出せる効果があると記載がされている。
【0006】
また、ポリフェニレンサルファイド樹脂の低誘電特性を活かして、需要が増加しているフィルム用途においては、成形加工時に問題であった揮発成分による製品汚れ、外観不良を抑制する検討がなされてきた。
【0007】
例えば、特許文献2では、重量平均分子量Mw≧10000、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn≦2.5とすること、かつアルカリ金属含有量が50ppm以下と管理することで、これらの要望を満たすと記載されている。
【0008】
また、フィルム用途に限らず各成形用途においても、ポリフェニレンサルファイド樹脂から発生するガス成分を減らして、外観不良を抑制する検討がなされてきた。
【0009】
例えば、特許文献3では、アルカリ土類金属を200〜2000ppmの範囲で導入し、無機充填材を配合して降温結晶化温度が210℃以上とすることで、成形サイクル時間の短縮を図りながら、付着ガス成分が少なく、ガスによる曇りも少ない樹脂が得られると記載されている。
【0010】
しかし、特許文献1に記載の方法は、PPS樹脂の特性となる難燃性、低誘電率の効果が維持され、かつ結晶化度の範囲を規定することで耐熱性を維持した発泡体を作る効果はあるが、表面外観に優れた発泡体を得るには不十分であり、またPPS樹脂がもつ暗色感により、安定した白色外観を出すことは非常に困難である。
【0011】
また、特許文献2に記載の方法では、重量平均分子量Mwを大きくし、かつ分子量分布(定義は、分子量分布=重量平均分子量Mw/数平均分子量Mnの比率、である)を小さくすることで、PPS樹脂フィルムの揮発成分を無くして、フィルム成形品の欠陥を無くす効果が期待されるが、発泡体の成形外観としては不十分であり、この範囲では十分な発泡倍率にならなく、軽量化としても不十分なものしか得られない。また、本記載内容では白色外観の製品を得ることは困難である。
【0012】
また、特許文献3に記載の方法では、アルカリ土類金属を添加して、特にレンズ用途で重要視される「低曇り性」、「付着ガス削減」を図ったPPS樹脂を得るのに有効であるが、これだけでは良外観な発泡体を得るには不十分であり、発泡体も十分な発泡倍率にならなく、軽量化としても不十分なものしか得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−224185号公報
【特許文献2】特開2008−201885号公報
【特許文献3】特開2009−275197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述したような点に鑑み、高白色度かつ低黄色度で、凹凸が少なく良表面外観に優れた特性を持ち、かつ、PPS特性である難燃性、電気特性を有しながら、発泡体の特性である軽量性、断熱性を有し、成型性に優れたポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体とその製造方法、さらにそのポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体からなる成型体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を達成するための手段として、本発明者らは、以下の(1)の本発明のポリフェニレン系樹脂発泡体が有用であることを見出した。
(1)発泡体100質量%に対し、カルシウム成分を30〜2000ppm(質量基準)含有し、
L値が30以上、a値が0以下、b値が20以下、YI値が35以下であることを特徴とするポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体。
【0016】
また、かかる本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体において、以下の(2)または(3)であることが好ましい。
(2)L値が75以上、a値が0以下、b値が15以下、YI値が30以下であることを特徴とする前記(1)に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体。
(3)前記発泡体を構成するポリフェニレンサルファイド樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)と、分子量分布(重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn))が、以下の条件1および条件2を満たすことを特徴とする前記(1)または(2)に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体。
条件1:50,000≦重量平均分子量(Mw)≦120,000
条件2:2.6≦分子量分布(Mw/Mn)≦5.5
【0017】
また、上述した目的を達成する本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体の製造方法は、以下の(4)の構成を有する。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体の製造方法であって、
ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)シートを加圧不活性ガス雰囲気中に保持して不活性ガス(B)を浸透させる工程と、該不活性ガス(B)を浸透させた樹脂(A)シートを常圧下で加熱して発泡させる工程とを、この順に有することを特徴とするポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体の製造方法。
【0018】
また、かかる本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体の製造方法において、以下の(5)の構成を有することが好ましい。
(5)前記不活性ガス(B)が炭酸ガスであることを特徴とする、前記(4)に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体の製造方法。
【0019】
また、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体からなる成型体は、以下の(6)の構成を有する。
(6)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体または前記(4)、(5)のいずれかに記載の製造方法により得られるポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体からなる成型体。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、黄色度が低くかつ白色度が高く、表面外観、断熱性、耐熱性、軽量性、良成型性に優れたポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を提供することができる。
【0021】
本発明により、黄色度が低くかつ白色度が高く、耐熱性、軽量性に優れた低密度のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を得ることができる。
【0022】
このような特性を活かすことで、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体は、熱を発生させるモーターなどの電子・電気部品の断熱材、粘着テープ、パッキンなどのシール材、コンデンサーなどの電気特性を有する素材、食器、容器、自動車部品などの成型体として好適に使用することができる。
【0023】
さらに、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体からなる成型体は、耐熱性、軽量性、断熱性、難燃性、良成型性といった観点で優れた成型体である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体とその製造方法について具体的に説明する。
【0025】
本発明でいうポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体は発泡体であるため、ポリフェニレンサルファイド樹脂本来の密度より小さい密度を特性として持つ。
【0026】
すなわち、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体とは、その発泡体の密度が、公知文献に記載されている一般的なポリフェニレンサルファイド樹脂の密度1310kg/m3 より低いものを指している。
【0027】
密度の測定方法は、発泡体の密度を測定する公知の方法を用いることができ、例えば規定の面積(m2 )に切削した製品サンプルの厚み(m)、製品サンプル質量(kg)を測定して、以下の密度式にて算出することができる。
密度(kg/m3 )=サンプル質量(kg)/(サンプル面積(m2 )×サンプル厚み(m))
【0028】
また、発泡体であることの確認方法は、発泡体のセルを確認する公知の方法を用いることができ、例えば、走査型電子顕微鏡や光学顕微鏡により、厚み方向、サンプル面積の縦方向、横方向のいずれかに切断した断面で、断面写真を観察したときに、気泡セルが確認できれば、発泡体であると判定できる。
【0029】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体の密度は、上記定義(密度が1300(kg/m3 )未満)に該当していればよく、特に制限されるものではないが、達成可能な密度範囲は、50(kg/m3 )以上1300(kg/m3 )未満程度である。軽量化と、黄色度が低くかつ白色度が高い発泡体を得るためにも、密度を低くするのが良い観点から、50(kg/m3 )以上500(kg/m3 )未満が好ましく、さらに50(kg/m3 )以上300(kg/m3 )未満が好ましい。
【0030】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体の製造に使用するガスは、制限されるものではない。本発明の効果を損なわない範囲で、発泡体製造時に使用されるガスを含有することが可能である。発泡体において、反応性がなく安定な発泡状態を維持する目的で、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体は不活性ガス(B)を含有することが好ましい。不活性ガス(B)を例示すると、アルゴン、水素、メタン、フロン、炭酸ガス、ヘリウム、酸素、窒素などがある。これらの中でも、ポリフェニレンサルファイド樹脂へのガス浸透力が強く、高倍率に発泡ができることから、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体は、不活性ガス(B)として炭酸ガスを含有することがより好ましい。
【0031】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を製造するためには、後述するポリフェニレンサルファイド樹脂(A)シートを加圧不活性ガス雰囲気中に保持して不活性ガスを浸透させる工程と、該不活性ガス(B)を浸透させた樹脂(A)シートを常圧下で加熱して発泡させる工程とを、この順に有する製造方法を挙げることができる。また本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を製造するためには、高温にした加圧容器内に、予め成形したポリフェニレンサルファイド樹脂(A)の成形体に不活性ガス(B)を加圧注入して溶解させた後、圧力を急激に解放することで、ガスの過飽和状態にすることで、発泡させる製造方法もある。上述の本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を製造する際の熱媒体は特に制約はない。熱風、加熱塩浴などが挙げられる。
【0032】
また、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を製造する別の方法としては、成形機や押出機等において、溶融混練させたポリフェニレンサルファイド樹脂(A)に、加圧状態の不活性ガス(B)を注入して溶解させた後、圧力を解放して吐出した発泡樹脂を冷却することで、所定の発泡体を得ることができる。例えば、押出機を用いて、PPS樹脂(A)の融点周辺の温度からさらに高い温度範囲である270〜350℃で溶融混練させた途中で、炭酸ガスを、5〜20MPaの加圧状態で途中から注入して溶解させた後、口金吐出部から、常圧状態まで圧力を解放させ、冷却させることで所定の発泡体を得る製造方法もある。
【0033】
これらの本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体の製造方法の中でも、成形加工性、発泡外観に優れる点から、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)シートを加圧不活性ガス雰囲気中に保持して不活性ガスを浸透させる工程と、不活性ガス(B)を浸透させた樹脂(A)シートを常圧下で加熱して発泡させる工程とを、この順に有する製造方法が好ましく、さらにこの製造方法において、不活性ガス(B)が炭酸ガスである態様が特に好ましい。
【0034】
ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)を、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)シートにシート化する際は、300℃以上350℃以下の温度で溶融混連して、押出成形加工することにより可能である。
【0035】
ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)シートを加圧不活性ガス雰囲気中に保持して不活性ガスを浸透させる工程においては、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)シートを1MPa以上20MPa以下の加圧した不活性ガス(B)雰囲気中に保持することで、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)シート中に不活性ガスを十分に浸透させることができるために好ましい。
【0036】
不活性ガス(B)を浸透させた樹脂(A)シートを常圧下で加熱して発泡させる工程においては、60℃以上250℃以下で加熱することが、効率的に発泡させる点で好ましい。
【0037】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体で得られた気泡径は、特に限定されるものではない。発泡体の倍率による影響が大きいと考えられるが、通常、厚み方向の断面がわかるように切断したとき、0.5〜100μm以下の平均気泡径になる。
【0038】
このようにして得られた本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体の密度は、PPS樹脂の密度より低いものとなり、未発泡品と比較して、軽量化や断熱性の効果を得ることができる。
【0039】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体の外観色は、高い白色度を持つことが特徴である。その白色度の指標として、L値、a値、b値(以後、総称してLabと記載する)を測定した数値を用いることが多く、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体は、L値が30以上、a値が0以下、b値が20以下であることが重要である。ここでいうLabは、JIS Z8722(2000)に準じて測定をおこなった数値を使用する。L値が30より低く、a値が0より高く、b値が20より高い場合は、高白色度かつ低黄色度である良外観な発泡体を得ることができない。
【0040】
また、本発明の目的である軽量化を達成するため、密度をより低くするほど、高白色度かつ低黄色度であり、表面外観が良好な発泡体を得られやすくなる。本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体は、L値が75以上、a値が0以下、b値が15以下であれば、高光沢外観も付与できるため好ましくなる。
【0041】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体のL値の上限は特に制限がなく、またa値とb値の下限には特に制限がないが、現実的に達成可能な値としては、L値の上限は99程度、a値の下限は−5程度、b値の下限は1程度の値と思われる。
【0042】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を、L値が30以上、a値が0以下、b値が20以下とするための方法は、特に限定されないが、発泡体100質量%に対し、カルシウム成分を30ppm(質量基準)以上含有させる方法や、前述のポリフェニレンサルファイド樹脂(A)シートを加圧不活性ガス雰囲気中に保持して不活性ガスを浸透させる工程と、不活性ガス(B)を浸透させた樹脂シートを常圧下で加熱して発泡させる工程、とをこの順に有する製法において、発泡時の加熱温度を60℃以上とする方法などを挙げることができる。また、さらに本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を、上述した好ましい範囲である、L値が75以上、a値が0以下、b値が15以下とするための方法は、カルシウム成分を30ppm(質量基準)以上含有させ、かつ重量平均分子量Mwが120,000以下の範囲のポリフェニレンサルファイド樹脂シートを使用して発泡する方法や、前述のポリフェニレンサルファイド樹脂(A)シートを加圧不活性ガス雰囲気中に保持して不活性ガスを浸透させる工程と、不活性ガス(B)を浸透させた樹脂シートを常圧下で加熱して発泡させる工程、とをこの順に有する製法において、発泡時の加熱温度を100℃以上とする方法などを挙げることができる。
【0043】
また、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体の高い白色度の指標として、YI値も用いており、YI値が35以下であることが重要である。YI値が35より高い場合は、高白色度かつ低黄色度である良外観な発泡体を得ることができない。本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体のYI値の下限は特に制限がないが、現実的に達成可能な値としては、5程度の値と思われる。
【0044】
また、本発明の目的である軽量化を達成するため、すなわちガスを多く含有する発泡体にするべく密度をさらに低くするほど、高白色度かつ低黄色度であり、表面外観が良好な発泡体を得られやすくなる。本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体は、YI値が30以下であれば、高光沢外観も付与できるため好ましくなる。
【0045】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を、YI値が35以下とするための方法は、特に限定されないが、発泡体100質量%に対し、カルシウム成分を30ppm(質量基準)以上に含有させる方法や、前述のポリフェニレンサルファイド樹脂(A)シートを加圧不活性ガス雰囲気中に保持して不活性ガスを浸透させる工程と不活性ガス(B)を浸透させた樹脂シートを常圧下で加熱して発泡させる工程とをこの順に有する製法において、発泡時の加熱温度を60℃以上とする方法などを挙げることができる。また、さらに本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を、上述した好ましい範囲である、YI値が30以下とするための方法は、カルシウム成分を30ppm(質量基準)以上含有させ、かつ該発泡体の密度が500(kg/m3 )未満になるように発泡する方法や、前述のポリフェニレンサルファイド樹脂(A)シートを加圧不活性ガス雰囲気中に保持して不活性ガスを浸透させる工程と、不活性ガス(B)を浸透させた樹脂シートを常圧下で加熱して発泡させる工程、とをこの順に有する製法において、発泡時の加熱温度を120℃以上とする方法などを挙げることができる。
【0046】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を構成するPPS樹脂(A)は、下記構造式(I)で示される繰り返し単位を有する重合体である。PPS樹脂(A)を構成する全ての単位を100モル%とした場合に、PPS樹脂(A)は下記構造式(I)で示される繰り返し単位を70モル%以上100モル%以下含有することが好ましい。
【化1】

【0047】
また、PPS樹脂(A)は、PPS樹脂(A)を構成する全ての単位を100モル%とした場合に、その繰り返し単位の30モル%未満を、下記構造式(II)を有する繰り返し単位で構成することが可能である。
【化2】

【0048】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体は、発泡体を構成する全ての成分(但し、不活性ガス(B)などの気体成分は除く)合計100質量%において、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)を50質量%以上99.99質量%以下含有することが好ましい。ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体中のポリフェニレンサルファイド樹脂(A)以外の成分としては、必要に応じてポリフェニレンサルファイド樹脂以外の樹脂や無機充填剤などの各種添加剤を含有することができる。なお、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体は、発泡体を構成する全ての成分(但し、不活性ガス(B)などの気体成分は除く)合計100質量%において、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)を80質量%以上99.99質量%以下含有することがより好ましい。
【0049】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を構成するPPS樹脂(A)は、以下の条件1および条件2を満たすことが好ましい。この点について説明する。
条件1:50,000≦重量平均分子量(Mw)≦120,000
条件2:2.6≦分子量分布(Mw/Mn)≦5.5
【0050】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を構成するPPS樹脂(A)の重量平均分子量Mwは、特に制限はないが、50,000〜120,000(測定方法:GPC)のものを使用するのが好ましい。重量平均分子量Mwが50,000以上であると、成形性が良好であり、特に成形絞り比が大きな型に対する成形が可能となり好ましい。一方で、重量平均分子量Mwが120,000以下であると、発泡倍率を上げやすく密度を下げ、軽量化を図ることができるため好ましい。PPS樹脂(A)の重量平均分子量Mwは、さらに好ましくは、60,000〜100,000である。
【0051】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を構成するPPS樹脂(A)の分子量分布状態、つまり重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)は、特に制限されるものではないが、Mw/Mnは、2.6〜5.5のものを使用するのが好ましい。分子量分布Mw/Mnが2.6以上であると、成形条件幅が広くなり、特に成形絞り比が大きな型に対する成形が可能となり好ましい。一方で、分子量分布Mw/Mnが5.5以下であると、均一な発泡が起こり安定生産ができる点と発泡体の表面外観が良好になる点から好ましい。さらに好ましくは、分子量分布(Mw/Mn)が3.0〜4.5の態様である。
【0052】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を構成するPPS樹脂(A)について、重量平均分子量Mwを50,000以上120,000以下、分子量分布(Mw/Mn)を2.6以上5.5以下に調整する方法は、公知の技術等で重合・回収したものを用いることができる。
【0053】
たとえば、少なくともp−ジクロロベンゼンに代表されるポリハロゲン化芳香族化合物、硫化ナトリウムに代表されるアルカリ金属硫化物、N−メチル−2−ピロリドンに代表される有機極性溶媒を含有する混合物を、段階的に200〜290℃範囲まで昇温させ、通常0.5〜50時間程度加熱重合した後、220℃以下に冷却して得られたPPS樹脂、PPS樹脂以外の副生成物、水、ハロゲン化アルカリ金属塩、有機極性溶媒の重合反応後混合液から、ふるい等の目を用いてPPS樹脂を回収して得ることができる。その際、架橋助剤等を使用して、枝状に重合させるような手法を実施してもよい。
【0054】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を構成するPPS樹脂(A)について、重合・回収されたPPS樹脂は、後処理を行ってもよい。上記のとおり、重合・回収されたPPS樹脂には、低分子量のPPS樹脂や副生成物、不純物が混在している可能性が高いため、熱水処理または有機溶媒による洗浄を施される場合が公知として知られている。
【0055】
熱水処理を行う場合は、次のとおりである。本発明の発泡体を構成するPPS樹脂の熱水処理に用いる熱水は特に制限はないが、洗浄効果の点から、使用する水を蒸留水あるいは脱イオン水とすることが好ましい。熱水温度も90℃以上であることが好ましい。
【0056】
有機溶媒処理を行う場合は、次のとおりである。本発明でのPPS樹脂の有機溶媒処理に用いる有機溶媒は、PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば、特に制限はなく、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ピペラジノン類の窒素原子含有の極性溶媒、塩化メチレン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、モノクロロエタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン原子含有の極性溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒などが挙げられる。これらの中でも、N−メチル−2−ピロリドンまたはアセトンまたはクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される場合もある。また、洗浄効果の点から、洗浄温度は常温〜200℃であることが好ましい。
【0057】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体は、発泡体100質量%に対し、カルシウム成分を30〜2000ppm(質量基準)含有している。
【0058】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体がカルシウム成分を含有するためには、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体中にカルシウム成分を含有するカルボン酸塩、水酸化カルシウムなどを含有させることで得ることができる。発泡体100質量%に対してカルシウム成分が30ppm(質量基準)より少ない場合は、黄色度が低くかつ白色度が高い発泡体を得ることは困難である。発泡体100質量%に対してカルシウム成分が2000ppm(質量基準)より多い場合は、成型品の強度が低下したり、成型品外観が悪化するなどの懸念点がある。
【0059】
カルシウム成分を含有するカルボン酸塩としては、特に制限されるものではない。例えば、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、フタル酸カルシウム、フマル酸カルシウム、マレイン酸カルシウムなどが挙げられる。生産性を考慮した場合、酢酸カルシウムが好ましいと考える。また、これらのカルシウム成分を含有するカルボン酸と水酸化カルシウムを2種併用することも可能である。
【0060】
これらのカルシウム成分をポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体中に含有させる方法に特に制限はないが、ポリフェニレンサルファイド樹脂の重合時や重合直後に、水溶液という形態でカルシウム成分を添加する方法や、ポリフェニレンサルファイド樹脂を洗浄する際に、カルシウム成分を含む水溶液で洗浄する方法などが挙げられるが、一般的なのは、後者である。後者の方法で使用されるカルシウム成分は、特に制限されないが、水酸化カルシウム、酢酸カルシウムなどが好ましく用いられる。
【0061】
本発明でいうカルシウム成分とは、以下の測定方法で検出されるものを指す。また、含有量の算出方法についても以下の通り併せて説明をする。
【0062】
白金皿を純水で洗浄後、700℃で1時間焼成しデシケータ内で乾燥する。白金皿の質量を、0.1mgまで精秤した値をA(g)とする。次に、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を白金皿の中に約5(g)採取して、白金皿と試料の合計量を化学天秤で0.1(mg)まで精秤した値をB(g)とする。その後、ステンレスバットに発泡体の入った白金皿を乗せ、440℃にセットされた高温オーブン内に入れ5時間焼成し、その後オーブンを500℃に上げ、さらに5時間焼成を行う。焼成の処理を行った後、300℃以下まで冷却した後、白金皿をデシケータ内で12時間保管する。その後、白金皿をデシケータから取り出し、538℃で安定しているマッフル炉に入れ6時間焼成する。処理後、白金皿をマッフル炉から取り出し、試料中に黒色炭化物が完全になくなっていることを確認する。なお、僅かでも黒色炭化物の存在が認められる場合、焼成をさらに実施する。焼成終了後、マッフル炉から白金皿を取り出し、デシケータ内で30分冷却する。次に、白金皿内に純水:塩酸(特級品)=1:1(以下1:1塩酸と称する)の液体2mlを加える。その後、ホットプレートを用いて、1:1塩酸が入った白金皿を、溶液の沸騰が確認される程度まで加熱する。蒸発乾固する手前で加熱を止め、白金皿を室温に冷却する。その後、白金皿の内容物をイオン交換水で洗浄しながら数回に分け、50mlメスフラスコに入れ、メスフラスコの50ml標線に合わせる。このように調整した試料液を用いて、イオン交換水をブランクとして原子吸光測定装置を用いて測定を実施する。なお、濃度の値を判定する方法は、分析するカルシウム成分を含む標準液を用いて作成した検量線により、カルシウム成分濃度を算出する。もし、測定値が検量線を外れる場合は、試料液X(ml)採取し、イオン交換水で希釈してY(ml)にし、検量線の範囲に来るように濃度調整を行う。このように調整した試料液を用いて測定した値をC(ppm)とする。以上の数値を用いて、カルシウム成分濃度(ppm)を算出する。
カルシウム成分濃度[ppm]=C(ppm)/(B−A)×50×Y/X
【0063】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体は、発明の特性を損なわない範囲で、無機充填剤を添加することが可能である。無機充填剤の具体例としては、ワラストナイト、ゼオライト、マイカ、カオリン、クレー、ベントナイト、タルク、ガラスビーズ、ガラスフレークなどが挙げられる。中でも、マイカ、タルク、ガラスビーズ、ガラスフレークが、より優れた機械強度を保ちながら、良外観である発泡体を得ることができるため好ましい。
【0064】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体は、射出成型型内発泡、押出成型、真空成型、スタンピング成型、圧縮成形などの成型法によって成型体とすることができる。これらの成型体は、熱溶着、振動溶着、超音波溶着、レーザー溶着などで、必要に応じた形状に加工することもできる。
【0065】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体から得られた成型体は、所定の用途へ適用される。たとえば、LEDランプ、コネクター、スイッチ、コンデンサー、パソコンケース、スピーカーなどの電子・電気部品、排気ガス用パイプやパイプカバー、吸気ガス用パイプやパイプカバー、インテークマニホールド、ランプリフレクター用の反射板、モーター断熱用板などの自動車部品などに例示できる。またフィルム用途でも、発泡体の長所となる電気絶縁性、軽量性を活かし、PPS樹脂の長所となる難燃性を活かした、コンデンサーやチップコンデンサーの誘電体発泡シート、モーター絶縁発泡シート、離型用発泡シート、粘着材を付与させた発泡体テープなどにも使用できる。
【実施例】
【0066】
実施例、比較例で用いた測定法は以下の通りである。
(1)発泡体密度 (kg/m3
密度はJIS K6767(1999)に準じて測定を行った値である。3回測定した値から求めた平均値を表記した。
(2)加熱成型加工性
真空成型時の成型絞り比で評価を行った。直径D、深さHの垂直円筒状の雌型カップにおいて、発泡体を加熱し、真空成型機を用いてストレート成型したときに、発泡体が破れることなく、円筒状に展開、伸長したときの、H/Dの数値が最も大きい値を比較することで実施した。なお、直径Dは50mmのカップを使用し、発泡体の表面温度が240℃の温度において成型絞り比を測定し、その値から、以下の通り4段階で評価を行った。
4:成型絞り比が0.70以上
3:成型絞り比が0.50以上0.70未満
2:成型絞り比が0.40以上0.50未満
1:成型絞り比が0.40未満
(3)表面外観
得られた発泡体の表面状態について、目視による観察、触感による評価を実施した。その状態を、以下の通り4段階で評価を行った。
4:表面が平滑で光沢がある。
3:触った感触では表面が平滑でない部分もあるが、目視では判らない。
2:触った感触では表面が平滑でない部分もあるし、目視でも僅かに表面状態の粗さが確認された。
1:触った感触でも、目視でも、表面の凹凸が確認される。
(4)発泡体色調・白色度(YI値、Lab値)
色調・白色度は、JIS Z8722(2000)に準じて測定を行った。得られた樹脂発泡体の表面について、スガ試験機のデジタル式黄色度計(SMカラーコンピューター)を使用した。
【0067】
以下に、実施例、比較例の説明をする。
【0068】
ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnについては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた。詳細な測定方法は以下の通りである。
装置名:SSC−7100(センシュー化学製)
カラム名:GPC3506(センシュー化学製)
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃ (検出器温度も210℃)
流量:1.0(ml/min)
【0069】
実施例1
重量平均分子量Mwが78,000 分子量分布Mw/Mnが3.8のポリフェニレンサルファイド樹脂(A)を用いて、最終的に得られる発泡体100質量%に対してカルシウム成分100ppm(質量基準)になるように、酢酸カルシウム水溶液でポリフェニレンサルファイド樹脂(A)の水素末端基を洗浄(置換)して得られた製品を用いて、310℃に設定した押出機内で溶融混練して、シート状態に押出成型を行った。このポリフェニレンサルファイド樹脂シートを圧力容器に入れ、不活性ガス(B)として炭酸ガスで、6MPaに加圧し、シートに炭酸ガスを浸透させた。シートへの炭酸ガスの浸透時間は72時間とした。圧力容器から取り出したシートは200℃の発泡炉に発泡時間が1分となるように連続的に供給して発泡させた。
【0070】
実施例2
発泡温度を120℃とした以外は、実施例1と同様に製造を行い、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を得た。
【0071】
実施例3
発泡温度を100℃とした以外は、実施例1と同様に製造を行い、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を得た。
【0072】
実施例4
重量平均分子量Mwが110,000、分子量分布Mw/Mnが4.0のポリフェニレンサルファイド樹脂(A)を用いて、最終的に得られる発泡体100質量%に対してカルシウム成分70ppm(質量基準)になるように以外は、実施例1と同様に製造を行い、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を得た。
【0073】
実施例5
重量平均分子量Mwが78,000、分子量分布Mw/Mnが5.0のポリフェニレンサルファイド樹脂(A)を用いた以外は、実施例1と同様に製造を行い、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を得た。
【0074】
実施例6
発泡温度を80℃とした以外は、実施例1と同様に製造を行い、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を得た。
【0075】
実施例7
実施例1と同様に、重量平均分子量Mwが78,000、分子量分布Mw/Mnが3.8のポリフェニレンサルファイド樹脂(A)を用いて、最終的に得られる発泡体100質量%に対してカルシウム成分80ppm(質量基準)になるように、酢酸カルシウム水溶液でポリフェニレンサルファイド樹脂(A)の水素末端基を洗浄(置換)して得られた製品を、300℃に設定された押出機内で溶融混練させた途中で、加圧状態の炭酸ガス(B)を、15(MPa)まで注入して溶解させた後、押出機口金から圧力を解放して吐出し、発泡させた樹脂をシート状に成型した後、冷却させポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を得た。
【0076】
実施例8
重量平均分子量Mwが47,000、分子量分布Mw/Mnが2.1のポリフェニレンサルファイド樹脂(A)を用いて、最終的に得られる発泡体100質量%に対してカルシウム成分110ppm(質量基準)になるようにポリフェニレンサルファイド樹脂(A)を洗浄(置換)して得られた製品である以外は、実施例1と同様に製造を行い、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を得た。
【0077】
比較例1
表1に示した通り、重量平均分子量Mwが110,000、分子量分布Mw/Mnが4.0であり、洗浄時にN−メチル−2−ピロリドンのみで洗浄することで、カルシウム成分を含まないポリフェニレンサルファイド樹脂を用いた以外は、実施例1と同様に製造を行い、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を得た。カルシウム成分を含まないポリフェニレンサルファイド樹脂を用いたため、得られた発泡体のカルシウム成分は0ppm(質量基準)であった。
【0078】
比較例2
表1に示した通り、重量平均分子量Mwが110,000、分子量分布Mw/Mnが4.0であり、洗浄時にN−メチル−2−ピロリドンのみで洗浄することで、カルシウム成分を含まないポリフェニレンサルファイド樹脂を用いた以外は、実施例2と同様に製造を行い、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を得た。カルシウム成分を含まないポリフェニレンサルファイド樹脂を用いたため、得られた発泡体のカルシウム成分は0ppm(質量基準)であった。
【0079】
比較例3
表1に示した通り、重量平均分子量Mwが110,000、分子量分布Mw/Mnが4.0であり、洗浄時にN−メチル−2−ピロリドンのみで洗浄することで、カルシウム成分を含まないポリフェニレンサルファイド樹脂を用いた以外は、実施例3と同様に製造を行い、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を得た。カルシウム成分を含まないポリフェニレンサルファイド樹脂を用いたため、得られた発泡体のカルシウム成分は0ppm(質量基準)であった。
【0080】
比較例4
比較例1と同様に、重量平均分子量Mwが110,000、分子量分布Mw/Mnが4.0であり、洗浄時にN−メチル−2−ピロリドンのみで洗浄することで、カルシウム成分を含まないポリフェニレンサルファイド樹脂を用いて、305℃に設定された押出機内で溶融混練させた途中で、加圧状態の炭酸ガス(B)を、15(MPa)まで注入して溶解させた後、押出機口金から圧力を解放して吐出し、発泡させた樹脂をシート状に成型した後、冷却させポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体を得た。カルシウム成分を含まないポリフェニレンサルファイド樹脂を用いたため、得られた発泡体のカルシウム成分は0ppm(質量基準)であった。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
実施例及び比較例について、評価結果を表1および表2に示した。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の樹脂架橋発泡体は、黄色度が低くかつ白色度が高く、表面外観、断熱性、耐熱性、軽量性、良成型性を要求される用途に効果的であり、例えば、熱を発生させるモーターなどの電子・電気部品の断熱材、粘着テープ、パッキンなどのシール材、コンデンサーの誘電体発泡シートなどの電気特性を有する素材、食器、容器、インテークマニホールド、ランプリフレクターに代表される自動車部品などの成型体などに利用される可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡体100質量%に対し、カルシウム成分を30〜2000ppm(質量基準)含有し、L値が30以上、a値が0以下、b値が20以下、YI値が35以下であることを特徴とするポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体。
【請求項2】
L値が75以上、a値が0以下、b値が15以下、YI値が30以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体。
【請求項3】
前記発泡体を構成するポリフェニレンサルファイド樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)と、分子量分布(重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn))が、以下の条件1および条件2を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体。
条件1:50,000≦重量平均分子量(Mw)≦120,000
条件2:2.6≦分子量分布(Mw/Mn)≦5.5
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体の製造方法であって、
ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)シートを加圧不活性ガス雰囲気中に保持して不活性ガス(B)を浸透させる工程と、不活性ガス(B)を浸透させた樹脂(A)シートを常圧下で加熱して発泡させる工程とを、この順に有することを特徴とする、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体の製造方法。
【請求項5】
前記不活性ガス(B)が炭酸ガスであることを特徴とする請求項4に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体または請求項4、5のいずれかに記載の製造方法により得られるポリフェニレンサルファイド樹脂発泡体からなる成型体。

【公開番号】特開2012−251022(P2012−251022A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122759(P2011−122759)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】