説明

ポリフッ化ビニリデン系樹脂用溶剤

【課題】従来PVdF用溶剤として用いられているN−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶剤の代替え品または該アミド系溶剤の使用量の低減を可能にする無毒性かまたは殆ど毒性がないPVdF用溶剤を提供することを課題とする。
【解決手段】 一般式(1):


(式中、R1は水素、ヒドロキシメチル基またはC1〜C4アシロキシメチル基であり、R2は水素、水酸基、C1〜C4アシルオキシ基またはC1〜C4アルコキシ基であり、R3は水素またはC1〜C4アシル基である)
で示されるイソプレン誘導体であることを特徴とするポリフッ化ビニリデン系樹脂用溶剤により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリフッ化ビニリデン系樹脂(Polyvinyliden fluoride:以下PVdFと略す)用の溶剤およびその用途に関する。
より詳細には、本発明はイソプレン誘導体であるポリフッ化ビニリデン系樹脂用溶剤に関する。
【背景技術】
【0002】
PVdFは高強度、耐薬品性、耐熱性、圧電性などの機能を有するポリマーであり、様々な工業製品の原料や産業機械の装置部品などに幅広く用いられている樹脂である。
これらの用途の中で、リチウム電池電極の製造などでは、PVdFを溶剤系に溶解あるいは懸濁させてビヒクルとし、機能性材料を添加して加工している。(特許文献1参照)またPVdFを多孔膜ろ過材料などに加工する場合も、PVdFを溶剤に溶解して多孔性製膜を製造している。(特許文献2参照)
【0003】
このような目的でPVdFを用いるためにはPVdFを溶解するか、あるいは均一に分散させることができる溶剤が必要である。しかしながらPVdFは難溶性物質で、かつ比重が大きいため、PVdFを取り扱える溶剤は限られている。実際、比較例に示したように一般に用いられる酢酸エチル、メチルエチルケトンなどの溶剤はPVdFを溶解することができず、さらに分散させてもすぐにPVdFが沈降してしまう。そこでPVdFを使用するに当たり、特許文献1ではN−メチル−2−ピロリドンが使われており、特許文献2ではN−メチル−2−ピロリドン、N、Nージメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが良溶媒として例示されている。また特許文献3にはPVdFを良好に溶解する溶剤としてアルコキシN,N−ジアルキル酢酸アミドが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】:特開2010−186664
【特許文献2】:特開昭60−97001
【特許文献3】:特開2010−222262
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらN−メチル−2−ピロリドンを始めとするアミド系溶剤は、刺激性の臭気があり、また毒性を有しているため、その使用量低減あるいはこれらアミド系溶剤に代わる溶剤が求められている。またアルコキシN,N−ジアルキル酢酸アミド溶剤の原料であるメトキシ酢酸メチルは高価であり、入手しやすい溶剤とは言いがたい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者らは、鋭意研究努力を重ねた結果、PVdF用の溶剤としてイソプレン誘導体を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば、 一般式(1):
【化1】

(式中、R1は水素、ヒドロキシメチル基またはC1〜C4アシロキシメチル基であり、R2は水素、水酸基、C1〜C4アシルオキシ基またはC1〜C4アルコキシ基であり、R3は水素またはC1〜C4アシル基である)
で示されるイソプレン誘導体であることを特徴とするポリフッ化ビニリデン系樹脂用溶剤が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、前記イソプレン誘導体が、単独で用いられるかまたは2種以上の混合物として用いられる上記の溶剤が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、前記イソプレン誘導体が、さらにN−メチル−2−ピロリドンとの混合物として用いられる上記の溶剤が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、前記C1〜C4アシルオキシメチル基がホルミルオキシメチル、アセトキシメチル、プロピオニルオキシメチル、ブチリルオキシメチルおよびイソブチリルオキシメチル基からなる群から選択され、前記C1〜C4アシルオキシ基がホルミルオキシ、アセトキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシおよびイソブチリルオキシ基からなる群から選択され、前記C1〜C4アルコキシ基がメトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシおよびイソブトキシ基からなる群から選択され、前記C1〜C4アシル基がホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリルおよびイソブチリル基からなる群から選択される上記の溶剤が提供される。
【0011】
前記イソプレン誘導体が、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブタノール、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチルホルメート、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチルプロピオネート、3−ホルミル−3−メチル−1−ブチルホルメート、3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルホルメート、3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート、3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルプロピオネート、3−プロピオニルオキシ−3−メチル−1−ブチルプロピオネート、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシ−1−ブチルプロピオネート、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−5−ヒドロキシ−1−ペンチルアセテート、3−メチル−5−ヒドロキシ−1−ペンチルプロピオネート、3−メチル−1,5−ペンタンジアセテート、3−メチル−1,5−ペンタンジプロピオネートおよび3−メチル−1,5−ペンタンジブチレートからなる群から選択される1種または2種以上の混合物である、上記の溶剤が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、前記イソプレン誘導体が、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート、3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチルプロピオネート、3−プロピオニルオキシ−3−メチル−1−ブチルプロピオネート、イソアミルアセテート、イソアミルプロピオネートまたは3−メチル−1,5−ペンタンジアセテートである上記の溶剤が提供される。
【0013】
さらに、本発明によれば、上記の溶剤とポリフッ素ビニリデン系樹脂を含むビヒクルが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来PVdF用溶剤として用いられているN−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶剤の代替え品または該アミド系溶剤の使用量の低減を可能にする無毒性かまたは殆ど毒性がないPVdF用溶剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート、N−メチル−2−ピロリドンおよび3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテートとN−メチル−2−ピロリドンとの1:1混合溶液のTG(Thermogravimetry:熱重量測定)による測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による一般式(1):
【化2】

で示されるイソプレン誘導体を詳しく説明する。
【0017】
上記一般式(1)におけるR1、R2、R3は互いに独立した置換基である。
【0018】
1は水素またはヒドロキシメチル基、C1〜C4アシロキシメチル基を意味する。該C1〜C4アシロキシメチル基の具体例としては、ホルミルオキシメチル、アセトキシメチル、プロピオキシメチル、ブチリルオキシメチルまたはイソブチリルオキシメチル基などを意味する。
【0019】
2は水素または水酸基、C1〜C4アシルオキシ基、またはC1〜C4アルコキシ基を表わす。具体的にはホルミルオキシ、アセトキシ、プロピオキシ、ブチルオキシ基などを意味する。
また、R3は水素、C1〜C4アシル基を表わすし、具体的にホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリルまたはイソブチリル基を意味する。このように本発明の溶剤は分子内に一つのメチル基を有する3級炭素を持っている特長がある。
【0020】
具体的な化合物を以下に示す。
1およびR2が水素原子の例としては、イソアミルアルコール、イソアミルホルメート、イソアミルアセテート、イソアミルプロピオネート、イソアミルブチレートおよびイソアミルイソブチレートが挙げられる。
【0021】
上記の中でもイソアミルアルコールは工業的に入手可能である。また、他の例示した化合物はイソアミルアルコールをアシル化することによって製造できる。
アシル化の方法としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸およびイソ酪酸などのC1〜C4カルボン酸を用いて脱水縮合させる方法、ギ酸無水物、酢酸無水物、プロピオン酸無水物、酪酸無水物およびイソ酪酸無水物などのC1〜C4カルボン酸無水物を作用させる方法、フッ化ギ酸、塩化酢酸、塩化プロピオン酸、塩化酪酸および塩化イソ酪酸などのC1〜C4カルボン酸ハライド、またはギ酸イミダゾール、酢酸イミダゾール、プロピオン酸イミダゾール、酪酸イミダゾールおよびイソ酪酸イミダゾールなどのC1〜C4カルボン酸イミダゾール化合物を作用させる方法など、当業者に周知のアシル化剤を用いることができる。
【0022】
1が水素原子でR2が水酸基の例としては、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブタノール、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチルホルメート、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチルアセテートおよび3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチルプロピオネートが挙げられる。
上記の中でも3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブタノールは工業的に入手可能である。
また、他の例示した化合物は3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブタノールを原料とし上記のアシル化法により製造できる。
【0023】
1が水素原子でR2がアシルオキシ基の例としては、3−ホルミル−3−メチル−1−ブチルホルメート、3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルホルメート、3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート、3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルプロピオネートおよび3−プロピオニルオキシ−3−メチル−1−ブチルプロピオネートが挙げられる。
【0024】
上記の化合物は、前記のR1が水素原子でR2が水酸基である化合物を前記のアシル化法でアシル化することにより製造できる。
あるいは3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブタノールを原料とし当モル以上の上記のアシル化剤を反応させることによっても製造できる。
【0025】
1が水素原子でR2がアルコキシ基の例としては、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブチルアセテートおよび3−メチル−3−メトキシ−1−ブチルプロピオネートが挙げられる。
上記の中でも3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールは工業的に入手可能である。
また、他の例示した化合物は3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールを原料として上記のアシル化により製造できる。
【0026】
1がヒドロキシメチル基でR2が水素の例としては、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−5−ヒドロキシ−1−ペンチルアセテートおよび3−メチル−5−ヒドロキシ−1−ペンチルプロピオネートが挙げられる。
【0027】
1がアシルオキシメチル基でR2が水素の例としては、3−メチル−1,5−ペンタンジアセテート、3−メチル−1,5−ペンタンジプロピオネートおよび3−メチル−1,5−ペンタンジブチレートが挙げられる。
上記の中でも、3−メチル−1,5−ペンタンジオールは工業的に入手可能である。
また、他の例示した化合物は3−メチル−1,5−ペンタンジオールを原料とし、上記のアシル化により製造できる。
【0028】
本発明の溶剤はいずれも単独で使用しできるが、これらのうち2種以上の溶剤を混合して用いることもできる。
またN−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶剤と併用することもできる。
この場合、臭気および毒性を有するとして知られているアミド系溶剤の使用量を低減できる。
なお、本発明によるPVdF用溶剤は、N−メチル−2−ピロリドンと併用しても本発明による溶剤の揮発性がN−メチル−2−ピロリドンとほぼ同じであるため、併用による弊害は生じ難い。
なお本発明による溶剤を、N−メチル−2−ピロリドンと併用する際の使用量は、N−メチル−2−ピロリドンの1/10〜5倍量の範囲で使用される。
【0029】
本発明で使用されるPVdFの種類は限定されないが、一般に工業入手できるPVdFを用いることができる。
形状は粉末状のものが好ましく、粉末の平均粒径は20μm以下、好ましくは10μm以下であり、粒子径がこれ以上大きいと溶解時間が長くなることがある。
さらに本発明で使用されるPVdFは、比重1.70〜1.85、融点150〜180℃、溶解時の粘性2000〜5000mPa・sであるPVdFが好適に使用される。
【0030】
なお、本発明の溶剤に対してPVdFの使用量は0.1〜35%、好ましくは0.1〜25%であり、これより多量のPVdFを用いると、分散性が悪くなり、さらに未溶解物が多く残る場合がある。
【0031】
本発明の溶剤はPVdFを溶解あるいは均一に分散させて使用する。溶剤にPVdFを溶解あるいは均一分散させる方法として、室温で本発明の溶剤にPVdFを添加する方法、あるいはPVdFに本発明の溶剤を添加する方法で行い、必要に応じて室温から160℃まで攪拌しながら加熱する。また加熱途中で溶剤を追加、あるいは減圧下で溶剤を留去して使用量を調整することができる。
PVdFの溶解または均一に分散した後、所定の温度に調整する。この段階で樹脂、無機物などの機能性物質を添加してビヒクルに調製することができる。
【0032】
さらにノズルなどから吐出させて繊維状に加工したり、平面上で流延シート状に加工したり、ガラス、基板などの平面体などに塗布してもよい。
さらに場合によってはこれら様々な形に成型後、60〜250℃の温度範囲で加熱乾燥などにより本発明の溶剤を除去してもよい。
【0033】
本発明で提供されるPVdF溶液には様々な樹脂を添加できる。具体的にはポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、セルロース、スチレン、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン−エチレン共重合樹脂、メタアクリル樹脂、ポバール樹脂、エバール樹脂、ブチラール樹脂などが例示される。
これら樹脂の使用量は液全体の分散性を考慮しながら全体量に対して1〜30%程度用いることができる。
【0034】
本発明で提供されるPVdF溶液には様々な機能性物質を添加できる。具体的例として、例えばリチウム電池などを製造する場合は、LixO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoyNi1-y2およびLiMePO4などのリチウム複合金属酸化物やカーボンブラックなどが例示される。
これら機能性物質の使用量は液全体の分散性や機能特性を考慮しながら全体量に対して0.5〜20%程度用いることができる。
【0035】
以上の使用方法についてリチウム2次電池の正極の製造を用いて例示すると、本発明の溶剤にPVdFを加えて混合し、これにアセチレンブラック、PVdF、正極活物質としてLiCoO2を混合してビヒクルを製造する。
これをアルミニウム箔に塗布して加熱乾燥により正極を製造できる。
【0036】
以下に具体的な合成例、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの製造例および実施例によりなんら制限されるものではない。
【実施例】
【0037】
製造例1
3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート(R1=水素、R2=水酸基、R3=アセチル基)の製造
3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブタノール(商品名:イソプレングリコール、株式会社クラレ製)1283g(12.3モル)に酢酸1618g(27モル)を混ぜて128℃〜130℃に加熱して蒸留し、留出温度100℃〜102℃の留分を得た。9時間後、304.8gの水および酢酸が留出し終わったところで、冷却した。反応液温度が112℃になった時点で、アスピレーターにより減圧し、減圧下(減圧度17.6kPa)に蒸留し、留出温度70℃で未反応の酢酸を回収した。その後、減圧度6.7kPa、留出温度130℃で本留分1416.5gを得た。
【0038】
得られた生成物を1H−および13C−NMRならびにガスクロマトグラフィーで分析したところ、目的とする3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチルアセテートが90.1%、原料の3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブタノール5.6%、さらに3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート4.3%が含まれていることがわかった。
ガスクロマトグラフィー分析条件:OV−17パックド 2mカラム、窒素キャリヤーガス、インジェクション温度240℃、検出器温度240℃、カラムオーブン温度80℃から200℃、15℃/分昇温。
【0039】
製造例2
3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート(R1=水素、R2=アセトキシ基、R3=アセチル基)の製造
3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブタノール834g(8モル)に酢酸962g(16モル)を混ぜて128℃〜134℃に加熱して蒸留し、留出温度100℃〜102℃の留分を得た。14.5時間後、396gの水および酢酸が留出し終わったところで、反応液を冷却した。反応液温度が106℃になった時点で、無水酢酸714g(7モル)を入れて反応温度100〜110℃で攪拌した。さらに10時間後無水酢酸380g(3.7モル)を入れて温度100〜110℃で攪拌した。
【0040】
ガスクロマトグラフィー(分析条件は前記記載の方法)で原料3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブタノールおよび中間体3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチルアセテートがほぼ消失したことを確認後、アスピレーターにより減圧下(減圧度37.3kPa)に蒸留し、留出温度73〜88℃で留分として未反応の酢酸および無水酢酸を回収した。その後、減圧度5.0kPaで、留出温度127℃で本留分911gを得た。
この生成物を1H−および13C−NMRならびにガスクロマトグラフィーで分析したところ、目的とする3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート99.3%が含まれていることがわかった。
【0041】
製造例3
3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチルプロピオネート(R1=水素、R2=水酸基、R3=プロポキシ基)の製造
3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブタノール313g(3モル)にプロピオン酸500g(6.75モル)、トルエン100gを混ぜて122〜141℃に加熱して蒸留し、留出温度87〜112℃の留分を得た。7.5時間後、留出留分から分離した水の量が51.5mlとなったところで反応液を冷却した。アスピレーターによる減圧下(減圧度3.0kPa)に蒸留を行い、留出温度53.7℃で留分としてシクロヘキサンと未反応のプロピオン酸を回収した。その後、減圧度1.5kPa、留出温度70.3℃で本留分300gを得た。
【0042】
この生成物を1H−および13C−NMRならびにガスクロマトグラフィーで分析したところ、目的とする3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチルプロピオネートが99.2%、原料の3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブタノール0.3%、さらに3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート0.3%が含まれていることがわかった。
【0043】
製造例4
3−プロピオニルオキシ−3−メチル−1−ブチルプロピオネート(R1=水素、R2=プロピオキシ基、R3=プロポキシ基)の製造
3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブタノール313g(3モル)にプロピオン酸500g(6.7モル)を混ぜて130℃に加熱し、減圧下(減圧度44pKa)で蒸留して、留出温度121℃〜124℃の留分を得た。14時間後180.8gの水およびプロピオン酸が留出したところで常圧に戻し、冷却した。反応液温度120℃になった時点で、無水プロピオン酸650g(5モル)を加えて反応温度120℃で攪拌した。34時間後、ガスクロマトグラフィーで、原料3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブタノールおよび中間体3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチルプロピオネートがほぼ消失したことを確認後、アスピレーターによる減圧下(減圧度7.1〜5.0kPa)に蒸留を行い、留出温度62〜75℃で未反応のプロピオン酸および無水プロピオン酸の留分を回収した。その後、減圧度6.1kPa、留出温度144℃で本留分569.7gを得た。
【0044】
この生成物を1H−および13C−NMRならびにガスクロマトグラフィーで分析したところ、目的とする3−プロピオニルオキシ−3−メチル−1−ブチルプロピオネート99.5%が含まれていることがわかった。
【0045】
製造例5
イソアミルアセテート(R1=水素、R2=水素、R3=アセチル基)の製造
イソアミルアルコール(商品名:イソアミルアルコール、株式会社クラレ製)883.0g(10モル)に酢酸1110g(18.5モル)を混ぜて115℃〜120℃で加熱蒸留し、留出温度93℃〜95℃の留分を得た。10時間後197gの水が留出した。
【0046】
ガスクロマトグラフィーで、原料イソアミルアルコールがほぼ消失したことを確認後、さらに加熱して酢酸を留出させた後、常圧で留出温度142℃で留出した本留分1118gを得た。この生成物を1H−および13C−NMRならびにガスクロマトグラフィーで分析したところ、目的とするイソアミルアセテートが99.9%含まれていることがわかった。
【0047】
製造例6
イソアミルプロピオネート(R1=水素、R2=水素、R3=プロピオニル基)の製造
イソアミルアルコール502.4g(5.7モル)にプロピオン酸505g(6.8モル)を混ぜて140℃〜150℃に加熱して蒸留し、留出温度93℃〜95℃の留分を得た。6時間後80gの水が留出した。
【0048】
ガスクロマトグラフィーで、原料イソアミルアルコールがほぼ消失したことを確認後、アスピレーターにより減圧し、減圧下(減圧度45〜51kPa)に蒸留し、留出温度117〜120℃で未反応のプロピオン酸を回収した。その後、減圧度63.2kPa、留出温度141℃で本留分456.6gを得た。この生成物を1H−および13C−NMRならびにガスクロマトグラフィーで分析したところ、目的とするイソアミルプロピオネートが99.8%含まれていることがわかった。
【0049】
製造例7
3−メチル−1,5−ペンタンジアセテート(R1=アセトキシメチル基、R2=水素、R3=アセチル基)の製造
3−メチル−1,5−ペンタンジオール(商品名:3−メチル−1,5−ペンタンジオール、株式会社クラレ製)591.2g(5モル)に酢酸774.5g(12.9モル)を混ぜて130℃〜160℃に加熱して蒸留し、留出温度98℃〜105℃の留分を得た。25時間後140gの水および酢酸が留出した。
【0050】
ガスクロマトグラフィーで、原料3−メチル−1,5−ペンタンジオールがほぼ消失したことを確認後、アスピレーターにより減圧し、減圧下(減圧度7.1〜5.0kPa)に蒸留し、留出温度62〜75℃で未反応の酢酸を回収した。その後、減圧度0.3kPa、留出温度92〜93℃で本留分852.2gを得た。この生成物を1H−および13C−NMRならびにガスクロマトグラフィーで分析したところ、目的とする3−メチル−1,5−ペンタンジアセテートが99.1%含まれていることがわかった。
【0051】
実施例1
各種PVdFに対する前記式(1)で表されるPVdF樹脂用溶剤の溶解性
50ml共栓付三角フラスコに本発明のPVdF樹脂用溶剤を入れ、各種PVdFをそれぞれ入れて加熱しながら攪拌した。その後20℃に冷却し、PVdFの溶解状態を目視で確認した。なお、溶剤およびPVdFの使用量、加熱温度は表1に記した。また溶解状態として良好は○、一部未溶解は△、ほとんど溶けないは×で示し、さらにしばらく室温に放置後の様子を示した。
【0052】
【表1−1】

【0053】
【表1−2】

【0054】
比較例1
各種PVdFに対する一般溶剤の溶解性
表2に、実施例1と同様な方法により一般的な溶剤を用いてPVdFの溶解性試験を行った結果を示す。溶剤およびPVdFの使用量、加熱温度は表2に記した。また溶解状態として、良好は○、一部未溶解は△、ほとんど溶けないは×で示しさらにしばらく室温に放置後の様子を示した。
【0055】
【表2】

【0056】
実施例2
各種PVdFに対する前記式(1)で表されるPVdF樹脂用溶剤とN−メチル−2−ピロリドンとの混用溶液での溶解性
50ml共栓付三角フラスコに本発明のPVdF樹脂用溶剤を入れ、各種PVdFをそれぞれ入れて室温で数分間攪拌した。その後、N−メチル−2−ピロリドンを所定量添加してしばらく攪拌し、PVdFの溶解状態を目視で確認した。なお、溶剤およびPVdFの使用量、N−メチル−2−ピロリドンの使用量は表3に記した。また溶解状態として良好は○、一部未溶解は△、ほとんど溶けないは×で示し、さらにしばらく室温に放置後の様子を示した。
【0057】
【表3−1】

【0058】
【表3−2】

【0059】
実施例3
3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート、N−メチル−2−ピロリドン、および3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテートとN−メチル−2−ピロリドンの混合液の蒸発特性
TG分析装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 TG/DTA6300
TG測定条件:30℃〜600℃、10℃/分昇温、空気流量100ml/分
図1に3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート、N−メチル−2−ピロリドンおよび3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテートとN−メチル−2−ピロリドンとの1:1混合溶液のTG(Thermogravimetry:熱重量測定)による測定結果を図1示す。
【0060】
図1から、上記の2種類の溶剤あるいはこれらの溶剤の混合溶剤は、ほぼ同じ蒸発特性を示すことが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、従来PVdF用溶剤として用いられているN−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶剤の代替え品または該アミド系溶剤の使用量の低減を可能にする無毒性かまたは殆ど毒性がないPVdF用溶剤が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式中、R1は水素、ヒドロキシメチル基またはC1〜C4アシロキシメチル基であり、R2は水素、水酸基、C1〜C4アシルオキシ基またはC1〜C4アルコキシ基であり、R3は水素またはC1〜C4アシル基である)
で示されるイソプレン誘導体であることを特徴とするポリフッ化ビニリデン系樹脂用溶剤。
【請求項2】
前記イソプレン誘導体が、単独で用いられるかまたは2種以上の混合物として用いられる請求項1に記載の溶剤。
【請求項3】
前記イソプレン誘導体が、さらにN−メチル−2−ピロリドンとの混合物として用いられる請求項1または2に記載の溶剤。
【請求項4】
前記C1〜C4アシルオキシメチル基がホルミルオキシメチル、アセトキシメチル、プロピオニルオキシメチル、ブチリルオキシメチルおよびイソブチリルオキシメチル基からなる群から選択され、前記C1〜C4アシルオキシ基がホルミルオキシ、アセトキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシおよびイソブチリルオキシ基からなる群から選択され、前記C1〜C4アルコキシ基がメトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシおよびイソブトキシ基からなる群から選択され、前記C1〜C4アシル基がホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリルおよびイソブチリル基からなる群から選択される請求項1〜3のいずれか1つに記載の溶剤。
【請求項5】
前記イソプレン誘導体が、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブタノール、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチルホルメート、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチルプロピオネート、3−ホルミル−3−メチル−1−ブチルホルメート、3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルホルメート、3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート、3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルプロピオネート、3−プロピオニルオキシ−3−メチル−1−ブチルプロピオネート、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシ−1−ブチルプロピオネート、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−5−ヒドロキシ−1−ペンチルアセテート、3−メチル−5−ヒドロキシ−1−ペンチルプロピオネート、3−メチル−1,5−ペンタンジアセテート、3−メチル−1,5−ペンタンジプロピオネートおよび3−メチル−1,5−ペンタンジブチレートからなる群から選択される1種または2種以上の混合物である、請求項1〜4のいずれか1つに記載の溶剤。
【請求項6】
前記イソプレン誘導体が、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート、3−アセトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチルプロピオネート、3−プロピオニルオキシ−3−メチル−1−ブチルプロピオネート、イソアミルアセテート、イソアミルプロピオネートまたは3−メチル−1,5−ペンタンジアセテートである請求項1〜5のいずれか1つに記載の溶剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の溶剤とポリフッ素ビニリデン系樹脂を含むビヒクル。

【図1】
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【公開番号】特開2013−112747(P2013−112747A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260441(P2011−260441)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000229254)日本テルペン化学株式会社 (5)
【Fターム(参考)】