説明

ポリ乳酸二軸延伸積層フィルム及びその用途

【課題】二軸延伸ポリ乳酸フィルム本来の特徴である透明性及びグロス等の光学特性を損なわずに、低温ヒートシール性、生分解性を有するポリ乳酸二軸延伸積層フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】ポリ乳酸(A)からなる二軸延伸フィルム基材層(I)の少なくとも片面に、融点(Tm)が80〜120℃、結晶化温度(Tc)が35〜75℃及び(Tm)−(Tc)が35〜55℃の範囲にある、脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分(b1)、脂肪族または脂環式ジヒドロキシ化合物成分(b2)及び2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(b3)からなる脂肪族ポリエステル共重合体(B)及びD−乳酸を7〜30重量%含むポリ乳酸共重合体(Cとの脂肪族ポリエステル組成物(D)からなる被覆層(II)が積層されてなることを特徴とするポリ乳酸二軸延伸積層フィルム及びその用途である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性を備え、透明性及びグロス等の光学特性並びに低温ヒートシール性に優れた包装用フィルムに好適なポリ乳酸二軸延伸積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムの廃棄処理を容易にする目的で生分解性のあるフィルムが注目され、種々のフィルムが開発されている。その生分解性フィルムは、土壌中や水中で加水分解や生分解を受け、徐々にフィルムの崩壊や分解が進み、最後には微生物の作用で無害な分解物へと変化するものである。そのようなフィルムとして、芳香族系ポリエステル樹脂やポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族系ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース、デンプン等から成形したフィルムが知られている。
かかる生分解性樹脂の一つであるポリ乳酸からなる二軸延伸フィルムは、透明性が優れることから包装用フィルムとして使用され始めているが、そのままでは熱融着性(ヒートシール性)がない。ポリ乳酸二軸延伸フィルムに熱融着性を付与する方法として、ポリ乳酸からなる二軸延伸フィルムの片面にD−乳酸の含有量が多いポリ乳酸系重合体を積層するポリ乳酸系積層二軸延伸フィルム(特許文献1)、ポリ乳酸からなる二軸延伸フィルムの片面にコハク酸・1,4−ブタンジオール等の低融点の脂肪族ポリエステルを積層する多層生分解性プラスチックフィルム(特許文献2)提案されているが、熱融着性は付与されるものの、低温ヒートシール性が不十分であったり、光学特性に劣るフィルムであったりして、いずれも包装用フィルムとしての性能が不十分である。
【0003】
【特許文献1】特開2001−219522公報(請求項1)
【特許文献2】特開平8−323946号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ポリ乳酸二軸延伸フィルム本来の特徴である透明性及びグロス等の光学特性を損なわずに、低温ヒートシール性、生分解性を有するポリ乳酸二軸延伸積層フィルムを提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ポリ乳酸(A)からなる二軸延伸フィルム基材層(I)の少なくとも片面に、融点(Tm)が80〜120℃、結晶化温度(Tc)が35〜75℃及び(Tm)−(Tc)が35〜55℃の範囲にある、脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分(b1)、脂肪族または脂環式ジヒドロキシ化合物成分(b2)及び2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(b3)からなる脂肪族ポリエステル共重合体(B)97〜5重量%及びD−乳酸を7〜30重量%含むポリ乳酸共重合体(C)3〜95重量%との脂肪族ポリエステル組成物(D)〔(B)と(C)の合計は100重量%である。〕からなる被覆層(II)が積層されてなることを特徴とするポリ乳酸二軸延伸積層フィルムに関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリ乳酸二軸延伸積層フィルムは二軸延伸ポリ乳酸フィルム本来の特徴である透明性及びグロス等の光学特性を損なわずに、低温ヒートシール性、生分解性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
ポリ乳酸(A)
本発明のポリ乳酸二軸延伸積層フィルムの二軸延伸フィルム基材層(I)を形成するポリ乳酸(A)は、通常、D−乳酸若しくはL−乳酸の含有量が5重量%未満、好ましくは3重量%未満のL−乳酸若しくはD−乳酸の単独重合体若しくは共重合体であり、通常、融点が150〜170℃、好ましくは160〜170℃の範囲にある。
かかるポリ乳酸(A)としては、D−乳酸若しくはL−乳酸以外に、乳酸と共重合可能なコモノマーとしては、例えば3−ヒドロキシブチレート、カプロラクトン、グリコール酸などを共重合したものであってもよい。ポリ乳酸(A)は、MFR(ASTM D−1238による、荷重2160g、温度190℃)が通常、0.1〜100g/10分、好ましくは1〜50g/10分、特に好ましくは2〜10g/10分のものが使用される。
かかるポリ乳酸(A)の重合法としては、縮合重合、開環重合法など公知のいずれの方法を採用することができる。例えば、縮合重合ではL−乳酸またはD−乳酸あるいはこれらの混合物を直接脱水縮合重合して任意の組成を持ったポリ乳酸を得ることができる。
本発明に係わるポリ乳酸(A)には、本発明の目的を損なわない範囲で、通常用いられる酸化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、抗菌剤、核剤、無機化合物あるいは有機化合物充填材等の添加剤を必要に応じて配合してもよい。
【0008】
脂肪族ポリエステル共重合体(B)
本発明に係わる脂肪族ポリエステル共重合体(B)は、融点(Tm)が80〜120℃、好ましくは80〜115℃、より好ましくは80〜95℃、結晶化温度(Tc)が35〜75℃、好ましくは37〜73℃及び(Tm)−(Tc)が30〜55℃、好ましくは35〜50℃の範囲にある、脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分(a1)、脂肪族または脂環式ジヒドロキシ化合物成分(a2)及び2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(a3)からなる脂肪族ポリエステル共重合体(A)である。
融点(Tm)が80℃未満の脂肪族ポリエステル共重合体は、後述のポリ乳酸共重合体(C)との脂肪族ポリエステル組成物(D)として本発明のポリ乳酸二軸延伸積層フィルムの被覆層(II)として用いた場合、得られる被覆層の融点が低過ぎ、二軸延伸後の熱固定工程で被覆層が溶融する場合があることから、冷却時に再結晶して表面光沢が失われグロスが低下し、光学特性に劣るフィルムとなる虞があり、また、包装用フィルムとして用いた場合、べたつく虞があり、包装適性にも劣る虞がある。一方、融点(Tm)が120℃を越える脂肪族ポリエステル共重合体は、得られる熱融着層の融点が高くなり、ヒートシール性が劣る虞がある。
結晶化温度(Tc)が35℃未満の脂肪族ポリエステル共重合体は、結晶化温度が低過ぎ、かかる共重合体を被覆層として含む積層フィルムの延伸原反をキャスト成形で得ようとしても、通常の冷却温度(5〜30℃)では完全に固化せず、得られる延伸原反にニップロール等の押し跡が転写されたり、冷却ロールから容易に剥がれず、外観に劣るフィルムとなる虞がある。
(Tm)−(Tc)が30℃未満の脂肪族ポリエステル共重合体は、得られるポリ乳酸二軸延伸積層フィルムの透明性、ヒートシール性(特にヒートシール強度)が劣る虞がある。
本発明に係わる脂肪族ポリエステル共重合体(A)は、好ましくは2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(a3)の含有量が0.1〜25モル%、より好ましくは1〜10モル%〔脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分(a1)、脂肪族または脂環式ジヒドロキシ化合物成分(a2)及び2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(a3)で、脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分(a1)と脂肪族または脂環式ジヒドロキシ化合物成分(a2)量は実質的に等しく、脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分(a1)、脂肪族または脂環式ジヒドロキシ化合物成分(a2)及び2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(a3)の量の合計は100モル%である。〕の範囲にある。
本発明に係わる脂肪族ポリエステル共重合体(A)のメルトフローレート(MFR:ASTM D−1238、190℃、荷重2160g)は、フィルム形成能がある限り特に限定はされないが、通常0.1〜100g/10分、好ましくは0.2〜50g/10分、さらに好ましくは0.5〜20g/10分の範囲にある。
【0009】
脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分(b1)
本発明に係わる脂肪族ポリエステル共重合体(B)を構成する成分である脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分(b1)は、特に限定はされないが、通常、脂肪族ジカルボン酸成分は2〜10個の炭素原子(カルボキシル基の炭素も含めて)、好ましくは4〜6個の炭素原子を有する化合物であり、線状であっても枝分れしていてもよい。脂環式ジカルボン酸成分は、通常、7〜10個の炭素原子、特に8個の炭素原子を有するものが好ましい。
また、脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分(b1)は、2〜10個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸を主成分とする限り、より大きい炭素原子数、例えば30個までの炭素原子を有するジカルボン酸成分を含むことができる。
かかる脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分(b1)としては、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、スベリン酸、1,3−シクロペンタジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、ジグリコール酸、イタコン酸、マレイン酸および2,5−ノルボルナンジカルボン酸等のジカルボン酸、かかるジカルボン酸のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジ−n−プロピルエステル、ジ−イソプロピルエステル、ジ−n−ブチルエステル、ジ−イソブチルエステル、ジ−t−ブチルエステル、ジ−n−ペンチルエステル、ジ−イソペンチルエステルまたはジ−n−ヘキシルエステル等のエステル形成誘導体を例示できる。
これら、脂肪族または脂環式ジカルボン酸あるいはそのエステル形成誘導体は、単独かまたは2種以上からなる混合物として使用することもできる。
脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分(b1)としては、特に、コハク酸またはそのアルキルエステルまたはそれらの混合物が好ましく、融点(Tm)が低い脂肪族ポリエステル共重合体(B)を得るために、コハク酸を主成分とし、副成分としてアジピン酸を併用してもよい。
【0010】
脂肪族または脂環式ジヒドロキシ化合物成分(b2)
本発明に係わる脂肪族ポリエステル共重合体(B)を構成する成分である脂肪族または脂環式ジヒドロキシ化合物成分(b2)は、特に限定はされないが、通常、脂肪族ジヒドロキシ化合物成分であれば、2〜12個の炭素原子、好ましくは4〜6個の炭素原子を有する枝分かれまたは線状のジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物成分であれば、5〜10個の炭素原子を有する環状の化合物が挙げられる。
かかる脂肪族または脂環式ジヒドロキシ化合物成分(b2)としては、具体的には、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,4−ジメチル−2−エチルヘキサン−1,3−ジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−イソブチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、とくには、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール及び2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール);シクロペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール及び2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール類及びジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びポリオキシエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール並びにポリテトラヒドロフラン等が例示でき、特には、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びポリオキシエチレングリコール又はこれらの混合物又は異なる数のエーテル単位を有する化合物が挙げられる。脂肪族または脂環式ジヒドロキシ化合物成分は、異なる脂肪族または脂環式ジヒドロキシ化合物の混合物も使用することができる。
脂肪族または脂環式ジヒドロキシ化合物成分(b2)としては1,4−ブタンジオールが好ましい。
【0011】
2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(b3)
本発明に係わる脂肪族ポリエステル共重合体(B)を構成する成分である2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(b3)は、特に限定はされないが、通常、1〜10個の炭素原子を有する枝分かれまたは線状の二価脂肪族基を有する化合物が挙げられる。
かかる2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(b3)としては、具体的には、例えば、グリコール酸、L−乳酸、D−乳酸、D,L−乳酸、2−メチル乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、ヒドロキシピバリン酸、ヒドロキシイソカプロン酸、ヒドロキシカプロン酸等、かかる2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、シクロヘキシルエステル等の2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸エステル形成誘導体を挙げることができる。
【0012】
本発明に係る脂肪族ポリエステル共重合体(B)は種々公知の方法で製造し得る。具体的な重合方法としては、例えば、特開平8−239461号公報、特開平9−272789号公報に記載されている。又、本発明に係る脂肪族・芳香族ポリエステル(A)としては、例えば、三菱化学株式会社からGS Pla(商品名)として製造・販売されている。
【0013】
ポリ乳酸共重合体(C)
本発明に係わるポリ乳酸共重合体(C)は、D−乳酸を7〜30重量%、好ましくは8〜25重量%含むD−乳酸とL−乳酸の共重合体である。
D−乳酸の含有量が7重量%未満のものは、得られるポリ乳酸二軸延伸積層フィルムの低温ヒートシール性が損なわれるおそれがあり、一方、30重量%を超えるものは成形性が劣るお傾向にある
なお、ポリ乳酸共重合体(C)におけるD−乳酸含有量は、クロムバック社製ガスクロマトグラフCP CYCLODEX B 236Mを用いて測定した値である。
ポリ乳酸共重合体(C)は、好ましくはガラス転移点温度(Tg)が58℃未満、更に好ましくは、50〜57.5℃の範囲にある。
ポリ乳酸共重合体(C)の重量平均分子量はフィルム成形能がある限り特に限定はされないが、MFR(ASTM D−1238による、荷重2160g、温度190℃)が、通常、0.1〜100g/10分、好ましくは1〜50g/10分、特に好ましくは2〜10g/10分のものが使用される。
【0014】
脂肪族ポリエステル組成物(D)
本発明のポリ乳酸二軸延伸積層フィルムの被覆層(II)を構成する脂肪族ポリエステル組成物(D)は、前記脂肪族ポリエステル共重合体(B)97〜5重量%、好ましくは95〜25重量%、更に好ましくは95〜55重量%と前記ポリ乳酸共重合体(C)3〜95重量%、好ましくは5〜75重量%、更に好ましくは5〜45重量%との組成物(脂肪族ポリエステル共重合体(B)とポリ乳酸共重合体(C)の合計は100重量%である)である。
ポリ乳酸共重合体(C)の量が3重量%未満の脂肪族ポリエステル組成物をポリ乳酸二軸延伸積層フィルムの被覆層(II)に用いた場合には、基材層(I)との接着性に劣ることから、充分なヒートシール強度が得られない虞があり、一方、95重量%を超える脂肪族ポリエステル組成物はポリ乳酸二軸延伸積層フィルムの被覆層(II)に用いても低温シール性、シール強度が改良されない虞がある。
本発明に関わる脂肪族ポリエステル組成物(D)は、ポリ乳酸共重合体(C)の量を5〜45重量%の範囲にした脂肪族ポリエステル組成物を被覆層(II)に用いると、特に透明性、グロス、低温ヒートシール性(低温熱融着性)、ヒートシール強度に優れたポリ乳酸二軸延伸積層フィルムが得られるので好ましい。
脂肪族ポリエステル組成物(D)は、脂肪族ポリエステル共重合体(B)及びポリ乳酸共重合体(C)を夫々上記範囲でヘンシェルミキサー、V−ブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーミキサー等で混合する方法、混合後更に単軸押出機、多軸押出機、バンバリーミキサー等で溶融混練する方法等により得られる。
本発明に係わる脂肪族ポリエステル組成物(D)には、脂肪族ポリエステル共重合体(B)及びポリ乳酸共重合体(C)の夫々別個に、あるいは脂肪族ポリエステル組成物(D)を製造する際に、本発明の目的を損なわない範囲で、通常用いられる酸化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、抗菌剤、核剤、無機化合物あるいは有機化合物充填材等の添加剤を必要に応じて配合してもよい。
【0015】
ポリ乳酸二軸延伸積層フィルム
本発明のポリ乳酸二軸延伸積層フィルムは、前記ポリ乳酸(A)からなる二軸延伸フィルム基材層(I)の少なくとも片面に前記脂肪族ポリエステル組成物(D)からなる被覆層(II)を有してなる二軸延伸積層フィルムである。本発明のポリ乳酸二軸延伸積層フィルムは、基材層(I)として、ポリ乳酸(A)を用いてなるので、得られるポリ乳酸二軸延伸積層フィルムは透明性及びグロス等の光学特性、剛性に優れており、且つ表面には、脂肪族ポリエステル組成物(D)から得られる被覆層(II)を有することにより基材層(I)の光学特性を損なうことなく低温ヒートシール性が付与されている。
本発明のポリ乳酸二軸延伸積層フィルムの基材層(I)及び被覆層(II)の厚さは用途に応じて種々決め得るが、通常、基材層(I)の厚さは5〜500μm、好ましくは10〜200μm、被覆層(II)の厚さは0.1〜5μm、好ましくは0.3〜2μmの範囲にあり、ポリ乳酸二軸延伸積層フィルムの全体の厚さは5〜500μm、好ましくは10〜200μmの範囲にある。
本発明のポリ乳酸二軸延伸積層フィルムは、種々公知の製造方法、例えば、二軸延伸フィルム(基材層(I))としてポリ乳酸(A)を用い、被覆層(II)として脂肪族ポリエステル組成物(D)を用いて共押出し成形して得た積層シートを、公知の同時二軸延伸法あるいは逐次二軸延伸法等の二軸延伸フィルム製造方法により製造し得る。
二軸延伸の条件は、ポリ乳酸(A)を延伸し得る条件、例えば、逐次二軸延伸法では、縦延伸温度を60〜100℃、延伸倍率を2〜6倍の範囲、横延伸温度を60〜120℃、延伸倍率を2〜12倍の範囲にすればよい。又、同時二軸延伸法では、延伸温度を60〜120℃、延伸倍率を2〜12倍(面倍率で4〜150倍)の範囲にすればよい。二軸延伸後はポリ乳酸二軸延伸積層フィルムの用途に応じて種々条件でヒートセット(熱処理)を行うことにより、得られるポリ乳酸二軸延伸積層フィルムの熱収縮率を任意の範囲、例えば80℃、15分の条件下における縦方向の熱収縮率を1〜5%、横方向の熱収縮率を5〜10%の範囲に、また100℃、15分の条件下における縦方向の熱収縮率を5〜15%、横方向の熱収縮率を10〜20%の範囲にすることができる。
熱収縮フィルムを得るためにはヒートセットを行わないか、あるいは延伸温度近辺またはそれ以下の温度に置くことで、例えば、80℃、15分の条件下における縦方向の熱収縮率を5〜10%、横方向の熱収縮率を10〜15%、また100℃、15分の条件下における縦方向の熱収縮率を20〜70%、横方向の熱収縮率を20〜70%の範囲にすることができる。
ポリ乳酸二軸延伸積層フィルムを製造する方法としては前記共押出し積層シートを延伸せずに、予め前記方法でポリ乳酸(A)を用いて二軸延伸フィルムを製造した後、かかる二軸延伸フィルム基材層(I)の少なくとも片面に脂肪族ポリエステル組成物(D)を押出し被覆する方法(押出しラミ法)、あるいは予め脂肪族ポリエステル組成物(D)からなるフィルムを得た後、二軸延伸フィルム基材層(I)と貼り合せる方法(ラミネート法)をとり得るが、共押出し積層シートを延伸する方法が、押出しラミ法と比べると一工程で積層できるのでコストが安く、またラミネート法に比べても加工工程が少な、また熱融着層を例えば0.5〜2μmという厚さまで薄くできるので好ましい。
【0016】
オーバーラップ包装用フィルム
本発明のオーバーラップ包装用フィルムは、上記基材層(I)の両面に上記被覆層(II)を有するポリ乳酸二軸延伸積層フィルムからなる。
本発明のオーバーラップ包装用フィルムは、基材層(I)として、ポリ乳酸(A)を用いてなるので、得られるオーバーラップ包装用フィルムは透明性及びグロス等の光学特性、剛性に優れ、且つ両面に、脂肪族ポリエステル組成物(D)から得られる被覆層(II)を有しているので、光学特性を損なうことなく両表面が低温ヒートシール性、ヒートシール強度を有するので、オーバーラップ包装適性に優れている。
【実施例】
【0017】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限りこれらの実施例に制約されるものではない。
【0018】
実施例及び比較例等で使用した原料は次の通りである。
(1)ポリ乳酸(A−1)
D−乳酸含有量:1.9重量%、MFR(温度190℃、荷重2160g):6.7g/10分、融点(Tm):168.0℃、ガラス転移温度(Tg):59.8℃、密度:1.3g/cm
(2)脂肪族ポリエステル共重合体
(i)コハク酸・1,4−ブタンジオール・乳酸・三元共重合体(B−1)
三菱化学社製、商品名 GS−Pla AZ91T MFR(190℃、荷重2160g):4.5g/10分、融点(Tm):108.9℃、結晶化温度(Tc):68.0℃、(Tm)−(Tc):40.9℃、密度:1.3(1.25)g/cm
(ii)コハク酸・1,4−ブタンジオール共重合体(E−1)
昭和高分子社製、商品名 ビオノーレ#1001 MFR(190℃、荷重2160g):1.5g/10分、融点(Tm):112.6℃、結晶化温度(Tc):86.8℃、(Tm)−(Tc):17.7℃、密度:1.3(1.26)g/cm
(3)ポリ乳酸共重合体(C−1):
D−乳酸含有量:12.6重量%、MFR(温度190℃、荷重2160g):2.6g/10分、融点(Tm):なし、ガラス転移温度(Tg):56.9℃。密度:1.3g/cm
【0019】
本発明における各種測定方法は以下のとおりである。
(1)光学特性
日本電色工業社製ヘイズメーター300Aを用いて、ヘイズ(HZ:%)、平行光線透過率(PT:%)及びグロス(%)を測定した。測定値は5回の平均値である。
(2)引張り試験
試験片として、ポリ乳酸二軸延伸積層フィルムから縦方向(MD)及び横方向(TD)に短冊状フィルム片(長さ:150mm、幅:15mm)を切出し、引張り試験機(オリエンテック社製テンシロン万能試験機RTC-1225)を用い、チャック間距離:100mm、クロスヘッドスピード:300mm/分(但し、ヤング率の測定は5mm/分)の条件で引張試験を行い、破断点における強度(MPa)、伸び(%)及びヤング率(MPa)を求めた。なお、伸び(%)はチャック間距離の変化とした。測定値は5回の平均値である。
(3)ヒートシール強度
ポリ乳酸二軸延伸積層フィルムの被覆層面同士を重ね合わせた後に、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製 商品名 ルミラー)で挟み、テスター産業株式会社製TP−701−B HEATSEALTESTERを用いて、所定の温度で、シール面圧:1kg/cm、時間:0.5秒の条件下で熱融着した。尚、加熱は上側のみとした。次いで、熱融着したポリ乳酸二軸延伸積層フィルムから幅:15mmの試験片を切出し、引張り試験機(オリエンテック社製テンシロン万能試験機RTC-1225)を用いて300mm/分の引張り速度で剥離し、その最大強度をヒートシール強度(熱融着強度:N/15mm)とした。
【0020】
実施例1
<脂肪族ポリエステル組成物(D−1)の製造>
被覆層に用いる脂肪族ポリエステル組成物として、前記コハク酸・1,4−ブタンジオール・乳酸・三元共重合体(B−1)及び前記ポリ乳酸共重合体(C−1)を90:10(重量%)で計量し、この混合物100重量部に、平均粒径3μmのシリカ(商品名サイリシア730、富士シリシア化学(株)製)を0.1重量部加え、40mmφの1軸押出機を用いて180℃で溶融混練し、脂肪族ポリエステル組成物(D−1)を用意した。
<無延伸積層シートの製造>
基材層(中間層)用として60mmφの1軸押出機、被覆層(両表面層)用として二台の30mmφの1軸押出機の先端にマルチマニホールド式のT−ダイを備えた三層共押出シート成形機を用い、基材層用樹脂として前記ポリ乳酸(A−1)、被覆層用樹脂として前記脂肪族ポリエステル組成物(D−1)を用い、夫々190℃の温度で溶融し、被覆層(II)/基材層(I)/被覆層(II)の比が、10/80/10の厚み比率となるように溶融樹脂の吐出量を調整して、200℃に加熱したT−ダイから、共押出シートを押出した後、30℃のキャスティングロールで急冷することにより、厚さ200μmの三層無延伸積層シートを用意した。
<ポリ乳酸二軸延伸積層フィルムの製造>
前記三層無延伸積層シートから、85mm×85mmの延伸用シートを切り出した後、パンタグラフ式バッチ二軸延伸装置〔ブルックナー(BRUCKNER)社製 Laboratory Film Stretcher Type KARO IV)を用い、該延伸用シートを75℃×5秒のホットエアーにより予熱した後、8m/分の速度で縦横方向に3倍延伸(同時二軸延伸)し、180℃雰囲気中で10秒間ヒートセットした後、直ちに延伸フィルムを扇風機で冷却して、厚さ20μm(基材層16μm、被覆層各2μm)のポリ乳酸二軸延伸積層フィルムを得た。
得られたポリ乳酸二軸延伸積層フィルムの物性を前記方法で測定した。測定結果を表1に示す。
【0021】
実施例2
実施例1で用いた脂肪族ポリエステル組成物(D−1)に代えて、(B−1):(C−1)を80:20(重量%)からなる脂肪族ポリエステル組成物(D−2)を用いる以外は、実施例1と同様に行いポリ乳酸二軸延伸積層フィルムを得た。
得られたポリ乳酸二軸延伸積層フィルムの測定結果を表1に示す。
【0022】
比較例1
実施例1で用いた脂肪族ポリエステル組成物(D−1)に代えて、コハク酸・1,4−ブタンジオール・乳酸三元共重合体(B−1)を単独で用いる以外は、実施例1と同様に行いポリ乳酸二軸延伸積層フィルムを得た。
得られたポリ乳酸二軸延伸積層フィルムの測定結果を表1に示す。
【0023】
比較例2
実施例1で用いた脂肪族ポリエステル組成物(D−1)に代えて、ポリ乳酸共重合体(C−1)を単独で用いる以外は、実施例1と同様に行いポリ乳酸二軸延伸積層フィルムを得た。
得られたポリ乳酸二軸延伸積層フィルムの測定結果を表1に示す。
【0024】
比較例3
実施例1で用いた脂肪族ポリエステル組成物(D−1)に代えて、前記コハク酸・1,4−ブタンジオール共重合体(E−1):前記ポリ乳酸共重合体(C−1)からなる脂肪族ポリエステル組成物(F−1)用いる以外は、実施例1と同様に行いポリ乳酸二軸延伸積層フィルムを得た。
得られたポリ乳酸二軸延伸積層フィルムの測定結果を表1に示す。
【0025】
比較例4
比較例3で用いた脂肪族ポリエステル組成物(F−1)に代えて、(E−1):(C−1)を80:20(重量%)からなる脂肪族ポリエステル組成物(F−2)を用いる以外は、比較例3と同様に行いポリ乳酸二軸延伸積層フィルムを得た。
得られたポリ乳酸二軸延伸積層フィルムの測定結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1から明らかなように、被覆層として本発明に係わる脂肪族ポリエステル共重合体(B−1)とポリ乳酸共重合体(C−1)とからなる脂肪族ポリエステル組成物を用いてなるポリ乳酸二軸延伸積層フィルム(実施例1、2)は、光学特性に優れ、且つヒートシール性を有する。
それに対し、被覆層として脂肪族ポリエステル共重合体(B−1)を単体で用いたポリ乳酸二軸延伸積層フィルム(比較例1)は、グロスが低下し、表面光沢が劣る。
また、脂肪族ポリエステル組成物の成分として結晶化温度(Tc)が86.8℃及び(Tm)−(Tc)が17.7℃と、結晶化温度(Tc)及び(Tm)−(Tc)が範囲外にある脂肪族ポリエステル共重合体を用いた脂肪族ポリエステル組成物(F−1及びF−2)を被覆層とするポリ乳酸二軸延伸積層フィルム(比較例2、3)は、光学特性が低下し、且つヒートシール強度も低い。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のポリ乳酸二軸延伸積層フィルムは、光学特性に優れ、且つヒートシール性を有するので、例えば、ラーメン、うどん、そば、焼きそば等の即席カップ麺食品、ヨーグルト、プリン、ゼリー等の乳酸菌飲料のような飲料デザート類カップ食品の個別あるいは複数個等の包装用フィルムに限らず、エアゾール製品、インテリア製品、CD類、磁気テープ製品の一般シュリンク包装、缶・瓶詰飲料、調味料などの集積シュリンクパックや、プラスチック容器、ガラス瓶などの胴張りシュリンクラベル、ワイン、ウイスキー等の瓶のキャップシール等、種々の包装用フィルム等に用い得る。
また、本発明のオーバーラップ包装用フィルムは、透明性、グロス、剛性に優れ、両面にヒートシール性を備えており、又、運搬に耐え得る耐衝撃性も有しているので、従来ポリオレフィンフィルムからなるオーバーラップ包装用フィルムが使用されているあらゆる用途、例えば、チョコレート、ガム、キャンデー等の菓子類、たばこ、化粧品等の嗜好品、カセットテープ、ビデオテープ、CD、CDR、DVD、ゲームソフト等の記録材料、およびそれらの集積包装材料等の、箱物包装の包装用フィルムとして好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸(A)からなる二軸延伸フィルム基材層(I)の少なくとも片面に、融点(Tm)が80〜120℃、結晶化温度(Tc)が35〜75℃及び(Tm)−(Tc)が35〜55℃の範囲にある、脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分(b1)、脂肪族または脂環式ジヒドロキシ化合物成分(b2)及び2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(b3)からなる脂肪族ポリエステル共重合体(B)97〜5重量%及びD−乳酸を7〜30重量%含むポリ乳酸共重合体(C)3〜95重量%との脂肪族ポリエステル組成物(D)〔(B)と(C)の合計は100重量%である。〕からなる被覆層(II)が積層されてなることを特徴とするポリ乳酸二軸延伸積層フィルム。
【請求項2】
脂肪族ポリエステル共重合体(B)が、2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(b3)の含有量が0.1〜25モル%〔脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分(b1)、脂肪族または脂環式ジヒドロキシ化合物成分(b2)及び2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(b3)で、脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分(b1)と脂肪族または脂環式ジヒドロキシ化合物成分(b2)量は実質的に等しく、脂肪族または脂環式ジカルボン酸成分(b1)、脂肪族または脂環式ジヒドロキシ化合物成分(b2)及び2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(b3)の量の合計は100モル%である。〕の範囲にある請求項1記載のポリ乳酸二軸延伸積層フィルム。
【請求項3】
2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(b3)が、乳酸である請求項1若しくは2記載のポリ乳酸二軸延伸積層フィルム。
【請求項4】
ポリ乳酸(A)と脂肪族ポリエステル組成物(D)とを共押出し成形して得られる積層シートを二軸延伸してなる請求項1〜3の何れか1項に記載のポリ乳酸二軸延伸積層フィルム。
【請求項5】
被覆層(II)がポリ乳酸(A)からなる二軸延伸フィルム基材層(I)の両面に積層されてなる請求項1〜4の何れか1項に記載のポリ乳酸二軸延伸積層フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載のポリ乳酸二軸延伸積層フィルムからなるオーバーラップ包装用フィルム。

【公開番号】特開2006−27245(P2006−27245A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213701(P2004−213701)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(000220099)東セロ株式会社 (177)
【Fターム(参考)】