説明

ポリ乳酸系樹脂フィルムの製造方法

【課題】厚み斑が少なく、かつ平面性に優れ、さらに長手方向、横方向の機械特性、光学特性のばらつきが少なく、特にボーイングが抑制され、フィルム幅方向で特性の分布が少ないポリ乳酸系樹脂フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸系樹脂未延伸フィルムを、縦延伸工程、横延伸工程、熱処理工程、弛緩処理工程にこの順に導くことによる二軸延伸ポリ乳酸系樹脂フィルムの製造方法において、前記弛緩処理工程の温度が、「ポリ乳酸系樹脂のTg」以上、「熱処理工程における最高温度」以下であり、以下の(A)及び/又は(B)を満たすことによりボーイングが抑制され、フィルム幅方向で物性が均一なポリ乳酸系樹脂フィルムが得られる。
(A):横延伸工程と熱処理工程の間に冷却工程を有し、該冷却工程の温度が、「ポリ乳酸系樹脂のTg+4℃」以下の温度である。
(B):熱処理工程が2つ以上のゾーンによって行われ、熱処理工程内の隣り合う2つのゾーンの関係について、弛緩処理工程側のゾーンの温度が、「横延伸工程側のゾーンの温度」以上、「横延伸工程側のゾーンの温度+70℃」以下であり、最も弛緩処理工程側に近いゾーンの温度が、「ポリ乳酸系樹脂のTg+50℃」以上、ポリ乳酸系樹脂のTm+20℃」以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚み斑が少なく、かつ平面性に優れ、さらに長手方向、横方向の機械特性、光学特性のばらつきが少なく、特にボーイングが抑制され、フィルム横方向で特性の分布が少ないポリ乳酸系樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりのもと、プラスチック製品の廃棄による土壌汚染問題、また、焼却による二酸化炭素増大に起因する地球温暖化問題が注目されている。前者への対策として、種々の生分解樹脂、後者への対策として、焼却しても大気中に新たな二酸化炭素の負荷を与えない植物由来原料からなる樹脂がさかんに研究、開発されている。各種商品の展示包装用などに用いられている保形具類や、食品トレー、飲料カップなどの容器類についても、種々の生分解樹脂、植物由来原料からなる樹脂を用いたものが開発されている。なかでも特に脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸は、生分解、植物由来プラスチックとしてはガラス転移温度が約60℃と高く、透明であることなどから、将来性のある素材として最も注目されている。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸樹脂を溶融した後にキャストドラム上で冷却固化して未延伸フィルムを得た後にフィルム長手方向、フィルム横方向に延伸・熱処理する逐次二軸延伸方式においては、ポリ乳酸樹脂の結晶性のため、横延伸工程から熱処理工程に導かれる過程でボーイングと呼ばれるフィルム横方向で物性が弓状になる現象が顕著に現れる。このボーイング現象のため、製膜条件によっては、フィルムに破断が生じたり、延伸できたとしてもフィルムの平面性が悪く、フィルム幅方向で光学特性、機械特性に分布を生じたフィルムしか得ることができないという問題があった。ここでボーイング現象とは、テンター内においてフィルムの両側端は把持手段により把持されているので、横延伸に伴う縦方向の収縮応力は把持手段によって拘束されている。これに対し、フィルム中央部分は把持手段による拘束力が比較的弱いので、上記収縮応力によって中央部分が移動する傾向がある。この傾向は、ただ単に常温状態のフィルムをステンター式熱処理装置で熱固定をする場合でも常温状態から熱固定する温度の温度差でも起こる。もし、横延伸以前にフィルム面上に横方向に直線を描いたとすれば、この直線はフィルム進行方向に向かって凹形の曲線に変形する。この現象をボーイングと称する。このボーイング現象が、フィルムの横方向の物性、特に配向角分布などの光学的特性、機械的特性、湿度膨張率、熱膨張率あるいは熱収縮率を不均一にする原因となっている。
【0004】
この問題を解決するための手段として、次のような方法が提案されている。
【0005】
特許文献1では、ポリ乳酸系樹脂よりなる未延伸フィルムの端部を把持し縦延伸の軌跡を横延伸の軌跡よりも先行させて同時2軸延伸するポリ乳酸系同時2軸延伸フィルムが提案されている。
【0006】
特許文献2では、テンター式横延伸機に設けられたクリップに接触して噛み込まれる際の該クリップの温度を70℃以下とするポリ乳酸フィルムの製造方法が提案されている。
【0007】
特許文献3では、脂肪族ポリエステルを主成分としてなる未延伸フィルムを、縦方向に延伸した後に横方向に延伸する逐次二軸延伸工程を有する脂肪族ポリエステル系二軸延伸フィルムの製造方法において、前記縦方向の延伸を、前記脂肪族ポリエステルのガラス転移温度(Tg)+20℃以上、低温結晶化温度(Tc)+20℃以下の温度範囲内で、少なくとも二段階に分けて、縦方向の総合倍率が2.0〜4.5倍となるように行うことを特徴とする脂肪族ポリエステル系二軸延伸フィルムの製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−260734号公報
【特許文献2】WO2008/035762号パンフレット
【特許文献3】特開2000−272001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、厚み斑が少なく、かつ平面性に優れ、さらに長手方向、横方向の機械特性、光学特性のばらつきが少なく、特にボーイングが抑制され、フィルム横方向で特性の分布が少ないポリ乳酸系樹脂フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
特許文献1に記載の製造方法では、横延伸工程での収縮を小さくはできるが熱処理工程との収縮差を解消するには不十分であり、また、縦延伸がクリップの間隙を大きくすることにより行うために、エッジ近傍のフィルム品質が劣るという問題がある。
【0011】
特許文献2に記載の製造方法だけでは、横延伸工程で発生する収縮応力と熱処理工程で発生する収縮応力差を解消することはできずフィルム幅方向の品質に斑が生じるという問題がある。
【0012】
特許文献3に記載の製造方法だけでは、横延伸工程で発生する収縮応力と熱処理工程で発生する収縮応力差を解消することはできずフィルム幅方向の品質に斑が生じるという問題がある。
【0013】
本発明のポリ乳酸系樹脂フィルムの製造方法は、上記課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
(I)ポリ乳酸系樹脂未延伸フィルムを、縦延伸工程、横延伸工程、熱処理工程、弛緩処理工程にこの順に導くことによる二軸延伸ポリ乳酸系樹脂フィルムの製造方法において、
前記弛緩処理工程の温度が、「ポリ乳酸系樹脂のTg」以上、「熱処理工程における最高温度」以下であり、
以下の(A)及び/又は(B)を満たすことを特徴とする、二軸延伸ポリ乳酸系樹脂フィルムの製造方法。
【0014】
(A):横延伸工程と熱処理工程の間に冷却工程を有し、該冷却工程の温度が、「ポリ乳酸系樹脂のTg+4℃」以下の温度である。
【0015】
(B):熱処理工程が2つ以上のゾーンによって行われ、熱処理工程内の隣り合う2つのゾーンの関係について、弛緩処理工程側のゾーンの温度が、「横延伸工程側のゾーンの温度」以上、「横延伸工程側のゾーンの温度+70℃」以下であり、最も弛緩処理工程側に近いゾーンの温度が、「ポリ乳酸系樹脂のTg+50℃」以上、ポリ乳酸系樹脂のTm+20℃」以下である。
(II)該弛緩処理工程における弛緩処理量が、0.1%以上30%以下であることを特徴とする(I)に記載のポリ乳酸系樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリ乳酸系フィルムの製造方法の製造方法によれば、厚み斑が少なく、かつ平面性に優れ、さらに長手方向、横方向の機械特性、光学特性のばらつきが少なく、特にボーイングが抑制され、フィルム横方向で特性の分布が少ないポリ乳酸系樹脂フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明者らは、前記課題、つまり、厚み斑が少なく、かつ平面性に優れ、さらに長手方向、横方向の機械特性、光学特性のばらつきが少なく、特にボーイングが抑制され、フィルム横方向で特性の分布が少ないポリ乳酸系フィルムを得る方法について、鋭意検討した結果、ポリ乳酸系樹脂未延伸フィルムを、縦延伸工程、横延伸工程、熱処理工程、弛緩処理工程にこの順に導くことによる二軸延伸ポリ乳酸系樹脂フィルムの製造方法において、前記弛緩処理工程の温度が、「ポリ乳酸系樹脂のTg」以上、「熱処理工程における最高温度」以下であり、以下の(A)及び/又は(B)を満たすことにより、前記課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0018】
(A):横延伸工程と熱処理工程の間に冷却工程を有し、該冷却工程の温度が、「ポリ乳酸系樹脂のTg+4℃」以下の温度である。
【0019】
(B):熱処理工程が2つ以上のゾーンによって行われ、熱処理工程内の隣り合う2つのゾーンの関係について、弛緩処理工程側のゾーンの温度が、「横延伸工程側のゾーンの温度」以上、「横延伸工程側のゾーンの温度+70℃」以下であり、最も弛緩処理工程側に近いゾーンの温度が、「ポリ乳酸系樹脂のTg+50℃」以上、ポリ乳酸系樹脂のTm+20℃」以下である。
【0020】
本発明の製造方法は、ポリ乳酸樹脂未延伸フィルムを、縦延伸工程、横延伸工程、熱処理工程、弛緩処理工程にこの順に導くことによって、二軸延伸ポリ乳酸系樹脂フィルムを得る方法である。
【0021】
縦延伸工程の温度は、特に限定されないが、続いて行われる横延伸工程における横延伸性から、「ポリ乳酸系樹脂のTg+5℃」以上、「ポリ乳酸系樹脂のTg+40℃」以下が好ましく、更に好ましいのは「ポリ乳酸系樹脂のTg+10」℃以上、「ポリ乳酸系樹脂のTg+30℃」以下である。
【0022】
また、縦延伸工程の縦延伸倍率は、特に限定されないが、続いて行われる横延伸工程における横延伸性及びフィルムの強度向上の点から、1.5倍〜5.0倍であることが好ましく、更に好ましくは、2.0倍〜4.5倍である。
【0023】
なお縦延伸工程では、縦延伸は、一段階で行っても良いが二段階以上の多段階で行っても良い。
【0024】
横延伸工程の温度は、特に限定されないが、フィルムの強度向上、寸法安定性、平面性の点から、「ポリ乳酸系樹脂のTg+10℃」以上、「ポリ乳酸系樹脂のTg+60℃」以下が好ましく、更に好ましくは「ポリ乳酸系樹脂のTg+10℃」以上、「ポリ乳酸系樹脂のTg+50℃」以下である。
【0025】
また、横延伸工程の横延伸倍率は、特に限定されないが、2.0倍〜6.0倍がフィルムの強度向上、寸法安定性、平面性の点から好ましく、更に好ましくは、2.0倍〜5.0倍である。
【0026】
本発明の弛緩処理工程の温度は、ボーイング量の抑制と熱収縮率の低減から「ポリ乳酸系樹脂のTg」以上、「熱処理工程における最高温度」以下であることが肝要である。
【0027】
より好ましくは、「ポリ乳酸系樹脂のTg」以上、「ポリ乳酸系樹脂のTm」以下である。
この範囲であると横延伸工程及び熱処理工程で発生するフィルム横方向の収縮差で発生したボーイング、フィルム横方向の特性の分布を低減することができる。
【0028】
また、弛緩処理工程の弛緩処理量は、0.1%以上30%以下であることが、ボーイング量の抑制と熱収縮率の低減から好ましく、更に好ましくは1%以上15%以下である。
【0029】
また本発明においては、前述の(A)及び/又は(B)を満たすことが重要である。そこで、(A)について最初に説明する。
【0030】
本発明の製造方法は、前述の(A)及び/又は(B)を満たすことが重要であるが、本発明が(A)を満たす場合には、横延伸工程と熱処理工程の間に冷却工程を有し、該冷却工程の温度が、ボーイング量の抑制、フィルム横方向の特性の分布の均一性から「ポリ乳酸系樹脂のTg+4℃」以下の温度であることが肝要である。なお、本発明が(A)を満たす場合には、横延伸工程と熱処理工程の間の冷却工程が「冷却」を意味するため、横延伸工程の温度及び熱処理工程の温度は、共に「ポリ乳酸系樹脂のTg+4℃」よりも高い温度であることが重要である。
【0031】
横延伸工程と熱処理工程の間に冷却工程を有することにより、分子運動が抑制され、結果として横延伸工程で発生する収縮応力と熱処理工程で発生する熱収縮応力とを遮断できるためにボーイング量が抑制されるために好ましい。
【0032】
冷却工程の温度は、より好ましくは「ポリ乳酸系樹脂のTg」以下である。また冷却工程の温度は、その温度が「ポリ乳酸系樹脂のTg」以下であれば、どれだけ低くても特に効果の点において影響は生じないが、25℃未満とするためには高額の設備を導入する必要性が生じるので、下限は25℃程度と考えられる。
【0033】
また横延伸工程と熱処理工程の間に冷却工程を設ける場合には、該冷却工程における冷却時間は、1〜30秒であると横延伸工程及び熱処理工程で発生するフィルム横方向の収縮が抑制され、ボーイング量の抑制、フィルム横方向の特性の分布の均一性から好ましく、更に好ましくは1〜10秒である。
【0034】
本発明においては、前述の通り(A)及び/又は(B)を満たすことが重要であるが、以下では(B)について説明する。
【0035】
本発明の製造方法が(B)を満たす場合には、本発明の製造方法は、熱処理工程が2つ以上のゾーンによって行われ、熱処理工程内の隣り合う2つのゾーンの関係について、弛緩処理工程側のゾーンの温度が、「横延伸工程側のゾーンの温度」以上、「横延伸工程側のゾーンの温度+70℃」以下であり、最も弛緩処理工程側に近いゾーンの温度が、「ポリ乳酸系樹脂のTg+50℃」以上、ポリ乳酸系樹脂のTm+20℃」以下であることが重要である。
【0036】
熱処理工程内の隣り合う2つのゾーンの関係について、弛緩処理工程側のゾーンの温度が、「横延伸工程側のゾーンの温度」以上、「横延伸工程側のゾーンの温度+70℃」以下であることにより、ボーイング量の抑制、フィルム横方向の特性の分布の均一性につながるために重要である。
【0037】
熱処理工程内の隣り合う2つのゾーンの関係について、より好ましくは、弛緩処理工程側のゾーンの温度が、「横延伸工程側のゾーンの温度」以上、「横延伸工程側のゾーンの温度+50℃」以下である。
【0038】
最も弛緩処理工程側に近いゾーンの温度が、「ポリ乳酸系樹脂のTg+50℃」以上、ポリ乳酸系樹脂のTm+20℃」以下であることにより、ボーイング量の抑制、フィルム横方向の特性の分布の均一性、フィルムの寸法安定性につながるために重要である。
【0039】
最も弛緩処理工程側に近いゾーンの温度は、より好ましくは、ポリ乳酸系樹脂のTg+60℃」以上、ポリ乳酸系樹脂のTm+10℃」以下である。
【0040】
なお、本発明の製造方法が(B)を満たす場合、熱処理工程のゾーンの数は、2つ以上であれば特に限定されないが、熱収縮差を極力小さくするためには、2〜10ゾーンであることが好ましく、より好ましくは2〜5ゾーンである。
【0041】
なお、本発明の製造方法が(B)を満たす場合、熱処理工程内の隣り合う2つのゾーンの関係が、弛緩処理工程側のゾーンの温度が、「横延伸工程側のゾーンの温度」以上、「横延伸工程側のゾーンの温度+70℃」以下であるとは、例えば、熱処理工程が2つのゾーンからなる場合には、(製膜工程における)下流側のゾーンが弛緩処理工程側のゾーンに該当し、下流側のゾーンの温度が「上流側のゾーンの温度」以上、「上流側のゾーンの温度+70℃」以下であることを意味する。
【0042】
本発明の製造方法が(B)を満たす場合、最も弛緩処理工程側に近いゾーンの温度が、「ポリ乳酸系樹脂のTg+50℃」以上、ポリ乳酸系樹脂のTm+20℃」以下であるとは、例えば、熱処理工程が2つのゾーンからなる場合には、製膜工程の上流側から2つめのゾーンが、最も弛緩処理工程側に近いゾーンを意味し、熱処理工程が5つのゾーンからなる場合には、製膜工程の上流側から5つめのゾーンが、最も弛緩処理工程側に近いゾーンを意味する。
【0043】
本発明においては、前述の通り(A)や(B)を単独で有していても構わないが、(A)及び(B)を組み合わせて行うことにより、更にボーイング量の抑制、フィルム幅方向の特性の分布の均一性につながるために、好ましい。
【0044】
本発明に用いられるポリ乳酸系樹脂とは、乳酸の構造単位がL−乳酸であるポリL−乳酸、構造単位がD−乳酸であるポリD−乳酸、L−乳酸とD−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸、またはこれらの混合体が挙げられる。
【0045】
ポリL−乳酸とは、ポリ乳酸重合体中のL−乳酸ユニットの含有割合が50mol%を超え100mol%以下のものが好ましく、結晶性の面から、L−乳酸ユニットの含有割合が80mol%以上100mol%以下であることが好ましく、95mol%以上100mol%以下であることがより好ましく、98mol%以上100mol%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
一方、ポリD−乳酸とは、ポリ乳酸重合体中のD−乳酸ユニットの含有割合が50mol%を超え100mol%以下のものが好ましく、結晶性の面から、D−乳酸ユニットの含有割合が80mol%以上100mol%以下であることが好ましく、95mol%以上100mol%以下であることがより好ましく、98mol%以上100mol%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
ポリL−乳酸は、該ポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合によって、樹脂自体の結晶性が変化する。つまり、ポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合が多くなれば、ポリL−乳酸の結晶性は低くなり非晶に近づき、逆にポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合が少なくなれば、ポリL−乳酸の結晶性は高くなっていく。同様に、ポリD−乳酸は、該ポリD−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有割合によって、樹脂自体の結晶性が変化する。つまり、ポリD−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有割合が多くなれば、ポリD−乳酸の結晶性は低くなり非晶に近づき、逆にポリD−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有割合が少なくなれば、ポリD−乳酸の結晶性は高くなっていく。
【0048】
本発明の製造方法を単膜で採用する場合は、ポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合を10mol%以下が好ましい。ポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合が10mol%を超えると、Tmを有さない非晶質のポリ乳酸系樹脂となってしまい、熱処理温度が低温でもフィルムが溶融したり、破断するために好ましくない。つまり本発明のフィルムが単層の場合、ポリ乳酸系樹脂として、Tmを有するポリ乳酸系樹脂を少なくとも含むことが好ましい。
【0049】
また、2層以上の積層フィルムを製造する場合は、一つの層がポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合を10mol%以下であれば、結晶性が維持されるので、他の層のポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合が10mol%を超えても構わない。つまり本発明のフィルムが積層フィルムの場合、少なくともいずれかの層においてTmを有するポリ乳酸系樹脂を含むことが好ましい。
【0050】
ポリ乳酸系樹脂は、乳酸以外の他の単量体ユニットを含んでいてもよい。他の単量体としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。上記の他の単量体ユニットの共重合量は、ポリ乳酸系樹脂の単量体ユニット全体に対し、0〜30モル%であることが好ましく、0〜10モル%であることがより好ましい。
【0051】
ポリ乳酸系樹脂の質量平均分子量は、適度な製膜性、延伸適性および実用的な機械特性を満足させるため、5万〜50万であることが好ましく、より好ましくは10万〜25万である。なお、ここでいう質量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でクロロホルム溶媒にて測定を行い、ポリメチルメタクリレート換算法により計算した分子量をいう。
【0052】
前述の通り、本発明ではポリ乳酸系樹脂のTgやTmに応じて各工程の温度を制御することが重要であるが、一般にポリ乳酸系樹脂のTgは30℃以上75℃以下程度であり、ポリ乳酸系樹脂のTmは、130℃以上200℃以下程度である。
【0053】
ポリ乳酸系樹脂のTg及びTmを変化させる方法としては、ポリ乳酸系樹脂に他の樹脂を含有させる方法を挙げることができる。例えば、ポリ乳酸系樹脂に、ポリエーテル系セグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体の可塑剤や、ポリエステル系セグメントとポリ乳酸セグメントとを有するブロック共重合体の可塑剤を含有することにより、ポリ乳酸系樹脂のTg及びTmを低くできる。また、ポリ乳酸系樹脂にポリ(メタ)アクリレート系樹脂を含有することにより、ポリ乳酸系樹脂のTgを高くでき、L−乳酸単位のみからなるポリ−L−乳酸とD−乳酸単位のみからなるポリ−D−乳酸を溶液あるいは溶融状態で混合することにより、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂とすることができ、ポリ乳酸系樹脂のTmを高くできる。
【0054】
本発明は、前述のポリ乳酸系樹脂を含むフィルム(ポリ乳酸系樹脂フィルム)の製造方法であるが、ポリ乳酸系樹脂フィルムには、ポリ乳酸系樹脂以外に他の樹脂、例えば、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂を含んでいてもよい。ここで本発明でいうポリ乳酸系樹脂フィルムとは、フィルムを構成する全成分100質量%において、ポリ乳酸系樹脂を50質量%以上100質量%以下含むフィルムを意味する。
【0055】
ポリ(メタ)アクリレート系樹脂としては、アクリレートおよびメタクリレートから選ばれる少なくとも1種の単量体を構成単位とするものであり、2種以上の単量体を共重合して用いても構わない。ポリ(メタ)アクリレートを構成するアクリレートおよびメタクリレートとしては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、シアノエチルアクリレート、シアノブチルアクリレートなどのアクリレート、およびメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどのメタクリレートが挙げられるが、ポリメチルメタクリレートを用いることが好ましい。
【0056】
ポリ乳酸系樹脂フィルムには、易滑性付与の観点や白色化のために充填剤を添加することが好ましい。充填剤としては、無機充填剤および/または有機充填剤が使用できる。
【0057】
無機充填剤の例としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等の各種炭酸塩、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の各種硫酸塩、酸化亜鉛、酸化ケイ素(シリカ)、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化鉄、アルミナ、ケイ酸アルミニウムなどの各種酸化物、その他、水酸化アルミニウム等の水酸化物、珪酸塩鉱物、ヒドロキシアパタイト、マイカ、タルク、カオリン、クレー、モンモリロナイト、ゼオライト等の各種複合酸化物、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等の各種リン酸塩、塩化リチウム、フッ化リチウム等の各種塩などを使用することができる。
【0058】
有機充填剤の例としては、シュウ酸カルシウム等のシュウ酸塩、カルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸等のビニル系モノマーの単独または共重合体からなる微粒子、ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機微粒子、木粉、パルプ粉等のセルロース系粉末、籾殻、木材チップ、おから、古紙粉砕材、衣料粉砕材等のチップ状のもの、綿繊維、麻繊維、竹繊維、木材繊維、ケナフ繊維、ジュート繊維、バナナ繊維、ココナツ繊維等の植物繊維、絹、羊毛、アンゴラ、カシミヤ、ラクダ等の動物繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維等の合成繊維などを使用することができる。
【0059】
本発明のポリ乳酸系樹脂フィルムの製造方法は、上記樹脂の単体フィルムでも効果を発現するが上記樹脂の組み合わせを用途により選定し、積層化した積層体フィルムでも効果を発現するので好ましく採用される。
【0060】
[特性の測定方法および効果の評価方法]
本発明における特性の測定方法及び効果の評価方法は次のとおりである。
【0061】
(1)ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)
セイコー電子(株)製示差走査熱量計RDC220型を用いて、室温より昇温速度20℃/分で昇温した時の吸熱ピークの温度より融点(Tm)を求めた。
【0062】
また、ガラス転移温度(Tg)は、セイコー電子(株)製示差走査熱量計RDC220型を用いて、280℃まで昇温し、280℃で5分間保持した後、液体窒素で急冷し、再度室温より昇温速度20℃/分で昇温して測定した。
【0063】
なお測定は、フィルム中に1種類のポリ乳酸系樹脂のみを使用している場合には、該樹脂を5mg採取し、上記方法で測定した。
【0064】
一方で、複数のポリ乳酸系樹脂を使用している場合、例えば積層フィルムであって各層に異なるポリ乳酸系樹脂を使用している場合や、単層フィルムであって2種類以上のポリ乳酸系樹脂を含有している場合には、原料を押出機で可塑化して口金より押出し、キャストドラム上で冷却硬化させた未延伸フィルム(縦延伸工程へ導入前のフィルム)を5mg採取し、上記方法で測定した。
【0065】
(2)ボーイング量(mm)
熱処理工程前の延伸フィルムの幅方向全幅にマジック(登録商標)等で直線を描いておいて、横延伸−熱処理を行う。熱処理後後のフィルムを取り出し、ボーイングにより変形した直線の絃と弧の最大距離(mm)を測定した。
【0066】
(3)フィルムの配向角分布
自動屈折率測定装置(王子計測機器株式会社製KOBRAー21ADH)を使用して測定した。測定はフィルムの中央の位置(これと中央部という)とフィルム最端部から200mmの位置(これを両端部という)で行った。測定温度は、25℃で行なった。この時フィルムの横方向を0°とし、中央部主配向角と両端部主配向角から得られる平均値を配向角分布とした。
【実施例】
【0067】
次に実施例および比較例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
実施例及び比較例に使用したポリ乳酸系樹脂は下記の通りである(表2)。
[ポリ乳酸系樹脂a]
回転式真空乾燥機にて100℃で4時間乾燥した結晶性ポリL−乳酸(Nature Works製“Ingeo”4032D;D体量=1.4mol%、Tm=168℃、Tg=58℃)。
[ポリ乳酸系樹脂b]
回転式真空乾燥機にて50℃で8時間乾燥した非晶性ポリL−乳酸(Nature Works製“Ingeo” 4060D;D体量=12mol%、Tg=58℃)。
[ポリ乳酸系樹脂c]
回転式真空乾燥機にて100℃で4時間乾燥した結晶性ポリL−乳酸(Nature Works製“Ingeo”4032D;D体量=1.4mol%、Tm=168℃、Tg=58℃)と回転式真空乾燥機にて80℃で8時間乾燥したアルケマ製VS−100 ポリメチルメタクリレート(Tg100℃)とを6:4の割合でドライブレンドした。
[ポリ乳酸系樹脂d]
回転式真空乾燥機にて50℃で8時間乾燥した非晶性ポリL−乳酸(Nature Works製“Ingeo”4060D;D体量=12mol%、Tg=58℃)と回転式真空乾燥機にて80℃で8時間乾燥したアルケマ製VS−100 ポリメチルメタクリレート(Tg100℃)とを6:4の割合でドライブレンドした。
【0069】
実施例1〜9
ポリ乳酸系樹脂aと水澤科学社製アルミナシリケート粒子(シルトンJC20(平均粒径2μm))を1質量%添加した原料を220℃に加熱したφ90mmの押出機で可塑化して、400mmの口金よりフィルム状に押出し、25℃に設定した直径が600mmの回転しているキャストドラム上で静電印可キャスト法により冷却硬化させて実質的に非晶質な未延伸フィルムを得た。
【0070】
この未延伸フィルムをロール式縦延伸機に導き、予熱温度70℃、延伸温度80℃で3.0倍縦延伸した後、テンター式延伸機に送り込み、予熱温度70℃、延伸温度75℃で3.0倍横延伸した後、表1の条件で冷却、熱処理、弛緩処理をおこなった。かくして得られた各ポリ乳酸系樹脂二軸延伸フィルムは、フィルム幅が800mmであり、表3に示すようにボーイング量も小さくフィルム横方向に沿って物性が均一であった。
【0071】
実施例10〜12
ポリ乳酸系樹脂aを220℃に加熱したφ90mmの押出機に、ポリ乳酸系樹脂bと水澤科学社製アルミナシリケート粒子(シルトンJC20(平均粒径2μm))を1質量%添加した原料を220℃に加熱したφ40mmの押出機に、それぞれ投入し、各押出機で可塑化した後、フィードブロックでb/a/b積層され、400mmの口金よりフィルム状に押出し、25℃に設定した直径が600mmの回転しているキャストドラム上で静電印可キャスト法により冷却硬化させて実質的に非晶質な未延伸フィルムを得た。
【0072】
この未延伸フィルムをロール式縦延伸機に導き、予熱温度70℃、延伸温度80℃で3.0倍縦延伸した後、テンター式延伸機に送り込み、予熱温度70℃、延伸温度75℃で3.0倍横延伸した後、表1の条件で冷却、熱処理、弛緩処理をおこなった。かくして得られた各ポリ乳酸系樹脂二軸延伸フィルムは、フィルム幅が800mmであり、表3に示すようにボーイング量も小さくフィルム横方向に沿って物性が均一であった。
【0073】
実施例13〜15
ポリ乳酸系樹脂aを220℃に加熱したφ90mmの押出機に、ポリ乳酸系樹脂cと水澤科学社製アルミナシリケート粒子(シルトンJC20(平均粒径2μm))を1質量%添加した原料を220℃に加熱したφ40mmの押出機に、それぞれ投入し、各押出機で可塑化した後、フィードブロックでc/a/c積層され、400mmの口金よりフィルム状に押出し、25℃に設定した直径が600mmの回転しているキャストドラム上で静電印可キャスト法により冷却硬化させて実質的に非晶質な未延伸フィルムを得た。
【0074】
この未延伸フィルムをロール式縦延伸機に導き、予熱温度80℃、延伸温度85℃で3.0倍縦延伸した後、テンター式延伸機に送り込み、予熱温度80℃、延伸温度85℃で3.0倍横延伸した後、表1の条件で冷却、熱処理、弛緩処理をおこなった。かくして得られた各ポリ乳酸系樹脂二軸延伸フィルムは、フィルム幅が800mmであり、表3に示すようにボーイング量も小さくフィルム横方向に沿って物性が均一であった。
【0075】
実施例16〜18
ポリ乳酸系樹脂aを220℃に加熱したφ90mmの押出機に、ポリ乳酸系樹脂dと水澤科学社製アルミナシリケート粒子(シルトンJC20(平均粒径2μm))を1質量%添加した原料を220℃に加熱したφ40mmの押出機に、それぞれ投入し、各押出機で可塑化した後、フィードブロックでd/a/d積層され、400mmの口金よりフィルム状に押出し、25℃に設定した直径が600mmの回転しているキャストドラム上で静電印可キャスト法により冷却硬化させて実質的に非晶質な未延伸フィルムを得た。
【0076】
この未延伸フィルムをロール式縦延伸機に導き、予熱温度80℃、延伸温度85℃で3.0倍縦延伸した後、テンター式延伸機に送り込み、予熱温度80℃、延伸温度85℃で3.0倍横延伸した後、表1の条件で冷却、熱処理、弛緩処理をおこなった。かくして得られた各ポリ乳酸系樹脂二軸延伸フィルムは、フィルム幅が800mmであり、表3に示すようにボーイング量も小さくフィルム横方向に沿って物性が均一であった。
【0077】
比較例1、2
ポリ乳酸系樹脂aと水澤科学社製アルミナシリケート粒子(シルトンJC20(平均粒径2μm))を1質量%添加した原料を220℃に加熱したφ90mmの押出機で可塑化して、400mmの口金よりフィルム状に押出し、25℃に設定した直径が600mmの回転しているキャストドラム上で静電印可キャスト法により冷却硬化させて実質的に非晶質な未延伸フィルムを得た。
【0078】
この未延伸フィルムをロール式縦延伸機に導き、予熱温度70℃、延伸温度80℃で3.0倍縦延伸した後、テンター式延伸機に送り込み、予熱温度70℃、延伸温度75℃で3.0倍横延伸した後、表1の条件で熱処理をおこなった。かくして得られた各ポリ乳酸系樹脂二軸延伸フィルムは、フィルム幅が800mmであり、表3に示すようにボーイング量が大きくフィルム横方向に沿って物性が不均一であった。
【0079】
比較例3、4
ポリ乳酸系樹脂aを220℃に加熱したφ90mmの押出機に、ポリ乳酸系樹脂bと水澤科学社製アルミナシリケート粒子(シルトンJC20(平均粒径2μm))を1質量%添加した原料を220℃に加熱したφ40mmの押出機に、ぞれぞれ投入し、各押出機で可塑化した後、フィードブロックでb/a/b積層され、400mmの口金よりフィルム状に押出し、25℃に設定した直径が600mmの回転しているキャストドラム上で静電印可キャスト法により冷却硬化させて実質的に非晶質な未延伸フィルムを得た。
【0080】
この未延伸フィルムをロール式縦延伸機に導き、予熱温度70℃、延伸温度80℃で3.0倍縦延伸した後、テンター式延伸機に送り込み、予熱温度70℃、延伸温度75℃で3.0倍横延伸した後、表1の条件で熱処理をおこなった。かくして得られた各ポリ乳酸系樹脂二軸延伸フィルムは、フィルム幅が800mmであり、表3に示すようにボーイング量が大きくフィルム横方向に沿って物性が不均一であった。
【0081】
比較例5、6
ポリ乳酸系樹脂aを220℃に加熱したφ90mmの押出機に、ポリ乳酸系樹脂cと水澤科学社製アルミナシリケート粒子(シルトンJC20(平均粒径2μm))を1質量%添加した原料を220℃に加熱したφ40mmの押出機に、それぞれ投入し、各押出機で可塑化した後、フィードブロックでc/a/c積層され、400mmの口金よりフィルム状に押出し、25℃に設定した直径が600mmの回転しているキャストドラム上で静電印可キャスト法により冷却硬化させて実質的に非晶質な未延伸フィルムを得た。
【0082】
この未延伸フィルムをロール式縦延伸機に導き、予熱温度80℃、延伸温度85℃で3.0倍縦延伸した後、テンター式延伸機に送り込み、予熱温度80℃、延伸温度85℃で3.0倍横延伸した後、表1の条件で熱処理をおこなった。かくして得られた各ポリ乳酸系樹脂二軸延伸フィルムは、フィルム幅が800mmであり、表3に示すようにボーイング量が大きくフィルム横方向に沿って物性が不均一であった。
【0083】
比較例7、8
ポリ乳酸系樹脂aを220℃に加熱したφ90mmの押出機に、ポリ乳酸系樹脂dと水澤科学社製アルミナシリケート粒子(シルトンJC20(平均粒径2μm))を1質量%添加した原料を220℃に加熱したφ40mmの押出機に、それぞれ投入し、各押出機で可塑化した後、フィードブロックでd/a/d積層され、400mmの口金よりフィルム状に押出し、25℃に設定した直径が600mmの回転しているキャストドラム上で静電印可キャスト法により冷却硬化させて実質的に非晶質な未延伸フィルムを得た。
【0084】
この未延伸フィルムをロール式縦延伸機に導き、予熱温度80℃、延伸温度85℃で3.0倍縦延伸した後、テンター式延伸機に送り込み、予熱温度80℃、延伸温度85℃で3.0倍横延伸した後、表1の条件で熱処理をおこなった。かくして得られた各ポリ乳酸系樹脂二軸延伸フィルムは、フィルム幅が800mmであり、表3に示すようにボーイング量が大きくフィルム横方向に沿って物性が不均一であった。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【0088】
ここで、表1中の「熱特性」のTg及びTmは、前述の「(1)ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)」に記載の方法によって得られた数値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂未延伸フィルムを、縦延伸工程、横延伸工程、熱処理工程、弛緩処理工程にこの順に導くことによる二軸延伸ポリ乳酸系樹脂フィルムの製造方法において、
前記弛緩処理工程の温度が、「ポリ乳酸系樹脂のTg」以上、「熱処理工程における最高温度」以下であり、以下の(A)及び/又は(B)を満たすことを特徴とする、二軸延伸ポリ乳酸系樹脂フィルムの製造方法。
(A):横延伸工程と熱処理工程の間に冷却工程を有し、該冷却工程の温度が、「ポリ乳酸系樹脂のTg+4℃」以下の温度である。
(B):熱処理工程が2つ以上のゾーンによって行われ、熱処理工程内の隣り合う2つのゾーンの関係について、弛緩処理工程側のゾーンの温度が、「横延伸工程側のゾーンの温度」以上、「横延伸工程側のゾーンの温度+70℃」以下であり、
最も弛緩処理工程側に近いゾーンの温度が、「ポリ乳酸系樹脂のTg+50℃」以上、ポリ乳酸系樹脂のTm+20℃」以下である。
【請求項2】
該弛緩処理工程における弛緩処理量が、0.1%以上30%以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2013−35263(P2013−35263A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175663(P2011−175663)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】