説明

ポリ乳酸繊維のチーズ状パッケージ

【課題】複数のパッケージの糸端同士を結んで高次工程を連続操業する場合、その高次加工性と製品品位の向上を可能にするポリ乳酸繊維のチーズ状パッケージの提供。
【解決手段】50重量%以上が乳酸モノマーで構成されるポリ乳酸からなり、伸度が30〜100%であるマルチフィラメントがボビンに巻き付けられたパッケージであり、該パッケージ最内層に巻き付けられたマルチフィラメントの伸度を該最内層より外層側に巻き付けられたマルチフィラメントの伸度に対し5%以下の伸度差にした構成からなるポリ乳酸繊維のチーズ状パッケージである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸繊維のチーズ状パッケージに関し、さらに詳しくは、複数のパッケージ間の糸端同士を結びつけて高次工程を連続操業する場合、高次加工性と製品品位の向上を可能にするポリ乳酸繊維のチーズ状パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、環境保全対策の一つとして、バイオマス利用の生分解性ポリマーが注目され、その生分解性ポリマーとして、特にポリ乳酸が注目されている。ポリ乳酸は、植物から抽出したでんぷんを発酵することにより得られた乳酸を原料とするポリマーであり、バイオマス利用の生分解性ポリマーの中では力学特性、耐熱性、コストのバランスが最も優れている。
【0003】
しかし、ポリ乳酸は有望な生分解性ポリマーではあるが、従来のナイロンやポリエステルなどに比べて高温力学特性が劣っていることが課題とされている。ポリ乳酸を繊維に利用する場合において高温力学特性を向上させる方法としては、ポリ乳酸を溶融高速紡糸法により延伸し繊維化する方法が種々提案されている。その一例として、特許文献1は、溶融吐出したポリ乳酸のマルチフィラメントを高速の紡糸速度で引き取り、複数の引取りロール間でストレッチした後、適正な巻取張力に制御しながら最終の引取りロールよりも低速でパッケージに巻き上げるようにして、伸度が30〜100%で高次加工を可能にする耐摩耗性を有するマルチフィラメントを得ることを提案している。
【0004】
しかし、特許文献1の方法で得られたポリ乳酸繊維チーズ状パッケージは、複数のパッケージ間でテール結びすること(糸端同士を結びつけること)により高次工程を連続操業する場合には、そのテール移行の部分において良好な高次通過性や製品品位が得られ難いという問題があることがわかった。
【0005】
一般にチーズ状パッケージから糸条を解除しながら高次工程の糸加工や編成、製織などを行うときには、先に使用するパッケージの最後の糸端に次に使用するパッケージの最初の糸端を順次結びつけ、複数のパッケージ間の糸条を連続化することによりパッケージ毎に作業を中断することなく連続操業するようにしている。しかし、上記特許文献1で得たポリ乳酸繊維のチーズ状パッケージで上記連続操業を行うと、テール移行の前後で糸切れを多発したり、また布帛にして染色したとき染色差などを発生し、製品品位が低下するという問題があった。
【0006】
本発明者らは上記原因につき詳細を検討した結果、ポリ乳酸マルチフィラメントのチーズ状パッケージの巻取り時に満巻毎に新ボビンへの糸切り替えをするときは、新ボビンへの巻取り開始時と正規巻取りに移行した時とでは巻取り張力が異なっており、その巻取り張力の違いにより最内層に巻き付けられたマルチフィラメントとその外層側に巻き付けられたマルチフィラメントとの間で高温力学特性の差が発生していることが原因になっていること、特に伸度差が拡大していることであることを知見し、本発明を得るに至った。
【特許文献1】特開2004−211222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、複数のパッケージの糸端同士を結んで高次工程を連続操業する場合、高次加工性と製品品位の向上を可能にするポリ乳酸繊維のチーズ状パッケージを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のポリ乳酸繊維のチーズ状パッケージは、50重量%以上が乳酸モノマーで構成されるポリ乳酸からなり、伸度が30〜100%であるマルチフィラメントがボビンに巻き付けられたパッケージであり、該パッケージ最内層に巻き付けられたマルチフィラメントの伸度を該最内層より外側の正規巻取り層に巻き付けられたマルチフィラメントの伸度に対して5%以下の伸度差にしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、チーズ状パッケージに巻き付けられたポリ乳酸マルチフィラメントの伸度を30〜100%にし、かつ最内層のマルチフィラメントの伸度を正規巻取り層のマルチフィラメントの伸度に対して5%以下の伸度差にしたので、複数のパッケージ間の糸端同士を連結して高次工程を連続操業する場合、糸端連結部分の前後で糸特性がほぼ均一であるため糸切れの発生を低減し、高次加工性を向上する。また、高次製品にした場合は、糸端連結部分の前後で糸特性がほぼ均一であることにより染色差などを発生しないので、製品品位を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本願発明についてさらに詳細に説明する。
本発明でいうポリ乳酸とは乳酸を重合したものをいう。乳酸にはD乳酸とL乳酸との2種類の光学異性体が存在するため、そのポリマーもD体からなるポリD乳酸とL体からなるポリL乳酸および両者からなるポリ乳酸とがあるが、特にL体あるいはD体の光学純度が90%以上であるものが融点が高いため好ましい。ここで、ポリL乳酸(PLLA)とは、L体光学純度が90%以上からなるポリ乳酸を指し、ポリD乳酸(PDLA)とは、D体光学純度が90%以上からなるポリ乳酸を指す。
【0011】
ポリ乳酸は、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していてもよく、またポリ乳酸以外のポリマーや粒子、難燃剤、帯電防止剤等の添加物を含有していてもよい。ただし、バイオマス利用、生分解性の観点から、ポリマーとして乳酸モノマーが50重量%以上であることが重要であり、好ましくは75重量%以上、より好ましくは96重量%以上であるものがよい。ポリ乳酸ポリマーの分子量としては、重量平均分子量で5万〜35万であるものが力学特性と成形性とのバランスを良好にする上で好ましく、より好ましくは10万〜25万のものがよい。
【0012】
また、ポリ乳酸は、繊維に成形するときポリ乳酸以外の熱可塑性重合体をブレンドしたり、複合(芯鞘、バイメタル)したりしてもよい。さらに改質剤として、粒子、難燃剤、帯電防止剤、抗酸化剤や紫外線吸収剤等の添加物を含有させていてもよい。
【0013】
ポリ乳酸中にはラクチド等の残存モノマーが存在するが、これら低分子量残留物は仮撚加工工程での加熱ヒーター汚れや染色加工工程での染め斑等の染色異常を誘発したり、繊維の加水分解性を促進し、耐久性を低下させたりする傾向にある。したがって、ポリ乳酸繊維に対する低分子量残留物の存在量としては、1重量%以下にすることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.2重量%以下にするのがよい。
【0014】
本発明におけるポリ乳酸からなる繊維には、滑剤として脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを含有させることが好ましい。従来のポリ乳酸繊維は、ポリエチレンテレフタレートやポリアミドなどの汎用の合成繊維と比較して、耐摩耗性が極めて悪い。これはポリ乳酸は分子鎖間相互作用が小さく、容易に分子鎖同士が剥がされやすいためであると考えられている。この傾向は高温になるほど顕著になる。そのため、製糸工程や製編織工程において高速で糸を走行させると、容易に繊維が削れて毛羽や断糸が発生したり、酷い場合には融着が生じたりする傾向がある。また、製品になってからも、繰り返し使用や強い摩擦力が加わると、摩耗により表面が荒れて色調異常をきたしたりする。
【0015】
このような耐摩耗性の問題は、脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを滑剤として添加することにより解消することができる。脂肪酸ビスアミドやアルキル置換型の脂肪酸モノアミドは繊維の表面摩擦係数を下げるため、過度の温度上昇を抑制したり、破壊に至るまでの応力が加わらないようにすることができる。また、脂肪酸ビスアミドやアルキル置換型の脂肪酸モノアミドは、一般の脂肪酸モノアミドに比べてアミドの反応性が低いため、溶融成形時においてポリ乳酸との反応が起こりにくい。さらに高分子量のものが多いため耐熱性が高く、溶融成形で昇華しにくいため、滑剤としての機能を損なうことなく優れた滑り性を発揮することができる。
【0016】
脂肪酸ビスアミドとは、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、芳香族系ビスアミド等の1分子中にアミド結合を2つ有する化合物を指し、例えば、メチレンビスカプリル酸アミド、メチレンビスカプリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスミリスチン酸アミド、メチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスイソステアリン酸アミド、メチレンビスベヘニン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスミリスチン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ブチレンビスベヘニン酸アミド、ブチレンビスオレイン酸アミド、ブチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘニン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、p−キシリレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、p−フェニレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N’−ジステアリルテレフタル酸アミド、メチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0017】
また、アルキル置換型の脂肪酸モノアミドとは、飽和脂肪酸モノアミドや不飽和脂肪酸モノアミド等のアミド水素をアルキル基で置き換えた構造の化合物を指し、例えば、N−ラウリルラウリン酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ベヘニルベヘニン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド等が挙げられる。該アルキル基は、その構造中にヒドロキシル基等の置換基が導入されていても良く、例えば、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミド、N−ステアリル−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイル12ヒドロキシステアリン酸アミド等も本発明のアルキル置換型の脂肪酸モノアミドに含むものとする。
【0018】
上記化合物の中でも脂肪酸ビスアミドは、アミドの反応性がより低いため、より好ましく用いることができ、エチレンビスステアリン酸アミドが特に好ましい。脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドの含有量は、0.1〜5重量%とすることが好ましい。0.1重量%以上とすることで、優れた滑り性を発揮することができる。また、5重量%以下とすることで、繊維の機械的物性が低下や黄味を帯びて染色したときに色調が悪くなるのを防ぐことができる。上記脂肪酸アミドの含有量は、より好ましくは0.2〜4重量%、さらに好ましくは0.3〜3重量%である。
【0019】
ポリ乳酸に脂肪酸ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪酸モノアミドを滑剤として含有させる方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
【0020】
まず、ポリ乳酸と滑剤をそれぞれ別々に乾燥した後、窒素シールされた押出混練機に供給して混練チップを作製する。次に、この混練チップを乾燥した後、紡糸機に供給することにより溶融紡糸を行う。また、混練工程では滑剤を高濃度で含有したマスターチップを作製しておき、これを紡糸機に供給する際にポリ乳酸チップとブレンドして希釈する方法も好適に用いられる。さらに紡糸パック内に静止混練器を内蔵させ、滑剤の分散性を向上させることも好ましい。
【0021】
本発明においてポリ乳酸からなるマルチフィラメントは、伸度が30〜100%であり、好ましくは35〜90%の範囲、さらに好ましくは40〜80%の範囲にするとよい。また、その伸度がパッケージに巻き付けられた状態で全長にわたり略均一であることが必要であり、パッケージ最内層に巻き付けられたマルチフィラメントの伸度が該最内層より外層側に巻き付けられたマルチフィラメントの伸度に対して5%以下の伸度差になっている必要がある。
【0022】
ポリ乳酸マルチフィラメントの伸度は、その繊維の内部構造と強い相関関係にあり、繊維構造が発達している程、伸度が低くなる。マルチフィラメントの伸度が100%以下であることにより配向結晶化が進んでいるため、温度がガラス転移点を超えて100℃近傍になっても軟化・流動しにくく、延伸仮撚等の高次加工で高温環境下で大変形を受ける場合にも、均一な伸長流動を起こすことができる。また、繊維の剛性も高くなるため、撚り掛かり性が良好になり、仮撚ヒーター上において安定して高い撚数で加撚することが可能になり、高品位の仮撚糸を安定して製造することができるようになる。一方、伸度が30%未満に低くなりすぎると、繊維構造の完全性が高くなるため捲縮形態が付与しにくくなり、延伸仮撚等の高次加工性が低くなる。
【0023】
本発明においてポリ乳酸マルチフィラメントの繊度は、特に限定されないが、例えば、衣料用途として使用する場合には総繊度が10dtex以上、300dtex以下であることが好ましく、単繊維繊度としては0.1〜6dtexであることが好ましい。また、ポリ乳酸からなる繊維の断面形状としては、丸断面、三角断面、マルチローバル断面、中空断面、偏平断面、W型断面、X型断面、その他の異形断面のいずれであってもよく、使用用途や狙いとする機能・触感に合わせて適宜選択すればよい。
【0024】
本発明のチーズ状パッケージ(以後、単に「パッケージ」という)は、上述したポリ乳酸マルチフィラメントが製糸工程においてボビンに層状に巻かれて形成される。製糸工程で形成されたパッケージは、仮撚り加工などの糸加工工程や編成、製織工程等の高次加工工程に対してマルチフィラメントが解除されながら供給される。一つのパッケージのマルチフィラメントが全て供給されると、次の新しいパッケージからの供給に糸切替えされるれるが、一般に、その糸切替えは前のパッケージにおける最後の糸端と次のパッケージにおける最初の糸端とをテール結びしておくことにより、作業を中断することなく連続操業するようになっている。
【0025】
本発明のチーズ状パッケージは、最内層に巻き付けられたマルチフィラメントの伸度が最内層よりも外側の正規巻取り層に巻き付けられたマルチフィラメントの伸度に対して5%以内の伸度差になるように設定され、好ましくは3%以内の伸度差に設定されている。このような伸度差の設定により、高次加工工程を連続操業する場合においても、テール結び部分の前後付近で糸切れを多発することなく安定操業を可能にし、また布帛などの高次製品にしたときテール結び部分の前後で染色の濃淡差などの品位欠陥を生じさせないようにする。
【0026】
最内層のマルチフィラメントと正規巻取り層のマルチフィラメントとの伸度差が5%を超えると、ポリ乳酸繊維の内部構造差が発現するため、布帛として染色したとき濃淡差となって製品欠点があらわれる。また、高次工程での通過性が悪化して糸切れが頻発するよになる。
【0027】
特許文献1などに記載された従来のパッケージでは、巻取り工程の満巻時に糸切替えするとき、新しいボビンへの巻取り開始時は安定な正規巻取りに移行する迄は、マルチフィラメントの巻取り張力が正規巻取り時よりも高いため、最内層に巻き取られたマルチフィラメントの伸度は正規巻取りされた外層側のマルチフィラメントの伸度よりも低くなり、伸度差が5%を超えた状態になる。ポリ乳酸繊維はナイロンやポリエステルなどの既存の熱可塑性重合体繊維に比べて高温力学特性が低いため、上記のように5%を超える伸度差が発生しやすく、前述したように高次加工工程を連続操業する際に糸切れの多発が避けられなくなる。
【0028】
本発明のパッケージにおいて「最内層」とは、糸切替え時の巻取り開始から正規巻取りに移行する迄にマルチフィラメントがボビンに巻き取られた巻取り開始初期の巻取り層のうち、ボビンに接する最内側の第1層をいう。後述するターレット型巻取機では、糸切替え時の巻取り初期の巻糸層にローラーベイルが接触を開始する迄に形成される巻糸層のうち、ボビンに接する最内側の第1層である。
【0029】
また、「正規巻取り層」とは、マルチフィラメントが正規巻取りされる巻糸層をいい、ターレット型巻取機の場合は、ローラーベイルが接触した以降に巻き取られる巻糸層である。なお、満巻に達すると、糸切替えのためパッケージはローラーベイルから離れるが、このようにローラーベイルが離れた後に形成される表層の部分は正規巻取り層には含まれない。この表層の巻取り部分は、一般に作業者が糸端同士を結ぶ際にパッケージから剥ぎ取っている。
【0030】
本発明のパッケージは、好ましくは1本当たりの重量を4〜20kgにするとよく、さらに好ましくは5〜10kgにするとよい。4kg未満の場合は、巻取り工程における糸切り替え回数が増加し、生産性が低下する。20kgを越えると、パッケージの梱包やクリール掛けなどの作業に作業者の負担が増大し、作業性を低下させる要因になる。
【0031】
本発明において、ポリ乳酸からなるマルチフィラメントの製造方法は特に限定されず、公知の溶融紡糸方法による製造方法をいずれも適用することができる。好ましくは、高速巻き取りを適用する溶融紡糸法を使用するとよい。例えば、ポリ乳酸を紡糸温度210〜250℃で多数の紡糸孔を有する口金から溶融吐出し、冷却風により冷却固化してマルチフィラメントにし、次いで繊維用油剤を付与したのち、必要に応じて圧空などによりフィラメント間を交絡して2500〜7000m/minの高速で引取り、そのままボビンに巻き取りチーズ状パッケージにする。
【0032】
本発明のポリ乳酸繊維のチーズ状パッケージの形成には、好ましくはターレット型巻取機を使用するとよい。図1は、そのターレット型巻取機の概略を例示する。
【0033】
図1において、1は巻取機の本体フレームで、この本体フレーム1にターレット盤2が水平方向のターレット軸(図示せず)に支持され、ターレット軸を中心に180°ずつ間欠回転するようになっている。ターレット盤2にはターレット軸を挟んで2本のスピンドル3a,3bが周方向に180°の間隔で立され、それぞれモーター(図示せず)により駆動されるようになっている。これらスピンドル3a,3bには、それぞれボビン4a,4bが装着されている。スピンドルとしては、必ずしも2本だけに限定されず、3本以上が等間隔に設けられたものであってもよい。
【0034】
上記2本のスピンドル3a,3bは、一方のスピンドル3aを上方の巻取側に、他方のスピンドル3bを下方の待機側に位置させ、巻取側スピンドル3aのボビン4aに対してマルチフィラメントYを巻き上げてパッケージ5を形成する。巻取り中のパッケージ5の表面にはローラーベイル6が接圧し、一定の回転速度で駆動されるようになっている。ローラベイル6は本体フレーム1に支持された昇降ボックス7に支持されており、パッケージ5の外径の成長に従って昇降ボックス7と共に上下方向に移動する。
【0035】
マルチフィラメントYの正規巻取り時には、上記のようにローラーベイル6がパッケージ5の表面に接圧し、そのローラーベイル6の回転数を不図示の制御部にフィードバックしながら、スピンドル3aの回転数をマルチフィラメントYの巻取り張力を一定にするように制御することにより巻取りが行われる。スピンドル3aの巻き上げによりパッケージ5が満巻になると、ローラーベイル6が上方に離れ、ターレット盤2が反時計方向に180°回転して2本のスピンドル3a,3bの位置を入れ換え、上方の巻取側に移動したスピンドル3bのボビン4bにマルチフィラメントYの糸切替えが行われる。次いで、ローラーベイル6が下降し、ボビン4b上に形成されつつある薄い巻糸層に接圧し、以後正規巻取りが満巻になるまで実施される。
【0036】
本発明のパッケージを形成するための巻き取りは、上記のように少なくとも2本のモーター駆動されるスピンドルを有するターレット型スピンドル駆動方式で、かつローラーベイルを強制駆動する巻取機で行うのがよい。一般にスピンドル駆動方式の巻取機は、巻取り開始時にローラーベイルがスピンドル上の空ボビン(裸のボビン)に直接接触しない機構になっている。これはローラーベイルが空ボビンに直接接触すると、その空ボビンの表面を損傷し、さらには巻き取られるマルチフィラメントに対する損傷を大きくするためである。そのためマルチフィラメントが所定の巻径まで巻太った後に、ローラーベイルを接圧するようになっている。したがって、従来の方法では、糸切替え時の巻取り開始から正規巻取り迄の巻取り張力は、ローラーベイルが非接触であることから正規巻取時の巻取り張力より高くなり、そのため最内層に巻かれるマルチフィラメントの伸度が正規巻取り時のマルチフィラメントの伸度より低くなっていた。
【0037】
本発明で行う巻取り方法では、50重量%以上が乳酸モノマーで構成されたポリ乳酸からなり、伸度が30〜100%であるマルチフィラメントをローラーベイルを接圧しながら巻き取り、満巻毎に巻取機をターレットさせて他のスピンドル上のボビンに糸切替えするに際し、糸切替え後のボビンに形成されつつある糸層にローラーベイルが接圧を開始する迄に巻き取られるマルチフィラメントの伸度変動を抑えるように、スピンドルの回転速度を定められたプログラムに従って制御するようにすればよい。
【0038】
すなわち、上記ターレット型巻取機を使用する糸切替え時の巻取り開始からローラーベイルが巻糸層に接圧し正規巻取りに移行する迄の巻取り張力を、正規巻取り時の巻取り張力と同じになるようにスピンドルの回転速度を制御する巻取りを行う。具体的には、ローラーベイルが接圧する迄の巻き取り時の張力を測定し、その測定張力が正規巻取り時の巻き取り張力と同じになるようにプログラムを設定し、そのプログラムに基づいてスピンドルの回転速度を制御する。このスピンドルの回転速度制御により、最内層に巻き取られるマルチフィラメントの伸度を正規巻取り時のマルチフィラメントの伸度に対して5%の伸度差にすることができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例を用いて具体的に説明する。なお、実施例中に使用した特性値の測定方法は以下の方法によって行った。
【0040】
A.重量平均分子量
ウォーター(Waters)社製のゲルパーミエーションクロマトグラフィー2690を用い、ポリスチレンを標準として測定した。
【0041】
B.伸度
試料をオリエンテック(株)社製テンシロン(TENSILONUCT−100)により、JIS L 1013(化学繊維フィラメント糸試験方法)に規定される定速伸長条件で破断伸度を測定した。なお、破断伸度はS−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。
【0042】
また、最内層の伸度はボビン表面から第1層のマルチフィラメントの伸度を測定した。また、正規巻取り層の伸度は、パッケージ厚さの1/2と2/3の箇所からサンプリングして測定した伸度の平均値を用いた。
【0043】
E.高次加工性(仮撚り加工性)
高次加工性は仮撚り加工性で評価した。仮撚加工条件は、汎用のフリクション仮撚機を用い、加工速度500m/分、ディスク回転数4500rpm(直径58mmウレタンディスク使用)、熱板温度130℃(熱板長2.0m)、未延伸糸の伸度が25%以上のパッケージについては延伸倍率を残留伸度25%になるように設定し、仮撚加工糸100kg(5kg/チーズを20本)当たりの糸切れ回数により、次の4段階の基準により評価した。
糸切れ回数が0回;◎、 1回;○、 2回;△、 3回以上;×
【0044】
F.高次製品の品位(仮撚加工糸の品位)
高次製品の品位は上記仮撚り加工性の評価で実施して得た仮撚加工糸の欠点で評価した。その評価は仮撚加工糸100kg(5kg/チーズを20本)当たりの毛羽立ち、ロール及びディスクへのラップの総数で下記の4段階で行った。
欠点回数が0回;◎、 1回;○、 2回;△、 3回以上;×
【0045】
(実施例1)
光学純度99.5%のL乳酸から製造したラクチドを、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ触媒(ラクチド対触媒モル比=10000:1)存在させてチッソ雰囲気下180℃で180分間重合を行った。得られたPLLAの重量平均分子量は19万、光学純度は99%L乳酸であった。
【0046】
得られたポリL乳酸と日本油脂製のエチレンビスステアリン酸アミド(“アロフロ−H−50L”)粉末を0.75重量%ブレンドし、220℃で溶融、孔径0.15mm丸型の吐出孔を有する紡糸口金から吐出し、一方向からの冷却風によって冷却し、繊維用油剤を、紡糸口金より800mmの位置で、繊維に対して1重量%塗布する給油をし、交絡を付与したのち、第1ゴデッドローラ(非加熱ローラー)に紡糸速度4500m/min、引き続き、第2ゴデッドローラ(非加熱ローラー)を介して巻き取りを行った。
【0047】
上記巻取りにおける糸切替時において、初期の巻糸層がローラーベイルに接触するまでのマルチフィラメント張力を測定し、その張力がローラーベイル接触後のマルチフィラメント張力と同じになるように制御して巻き取りを行うことにより、60dtex、40フィラメントのポリ乳酸マルチフィラメントの7.5kg巻きの巻き姿良好なチーズ状パッケージを得た。
【0048】
得られたチーズ状パッケージからマルチフィラメントを引き出し、最内層と正規巻取り層の伸度を測定したところ、正規巻取り層の伸度が52%、最内層の伸度が50%であった。また、このチーズ状パッケージを用いて仮撚り加工性、仮撚り品位の評価を行ったところ、仮撚り糸切れ回数は0回、仮撚り糸の欠点は0回であり、極めて良好であった。
【0049】
これらの結果を表1に示す。
(実施例2)
紡糸速度を2500m/minに変更した以外は実施例1と同じ条件でチーズ状パッケージを得た。正規巻取り層の伸度93%、最内層の伸度90%であった。また、仮撚り糸切れ回数は0回、仮撚り糸の欠点は1回であり、良好であった。
【0050】
これらの結果を表1に示す。
(実施例3)
紡糸速度7000m/minに変更した以外は実施例1と同じ条件でチーズ状パッケージを得た。正規巻取り層の伸度32%、最内層の伸度30%であった。また、仮撚り糸切れ回数は1回、仮撚り糸の欠点は1回であり良好であった。
【0051】
これらの結果を表1に示す。
(実施例4)
エチレンビスステアリン酸アミドの添加量を3%とした以外は実施例1と同じ条件でチーズ状パッケージを得た。正規巻取り層の伸度52%、最内層の伸度50%であった。また、仮撚り糸切れ回数は1回、仮撚り糸の欠点は0回であり良好であった。
【0052】
これらの結果を表1に示す。
(比較例1)
糸切替後、ローラーベイルの回転数設定を行わなかったこと以外は実施例1と同じ条件でチーズ状パッケージを得た。
【0053】
得られたチーズ状パッケージからフィラメントを引き出し、物性測定を行ったところ、正規巻取り層の伸度51%、最内層の伸度45%であった。また、仮撚り糸切れ回数は3回、仮撚り糸の欠点は4回であり、高次加工性、品位に満足するものではなかった。仮撚り糸切れ箇所、仮撚り加工糸の欠点箇所はパッケージ内層で発生した。
【0054】
これらの結果を表1に示す。
(比較例2)
紡糸速度を2000m/minに変更した以外は実施例1と同じ条件でチーズ状パッケージを得た。得られたフィラメントの伸度は正規巻取り層の伸度133%、最内層の伸度130%であった。また、仮撚り糸切れ回数は0回、仮撚り糸の欠点は4回であり、品位に満足するものではなかった。仮撚り糸の欠点箇所は、パッケージの内層、表層に関係なく発生した。
【0055】
これらの結果を表1に示す。
(比較例3)
紡糸速度8000m/minに変更した以外は実施例1と同じ条件でチーズ状パッケージを得た。得られたフィラメントの伸度は正規巻取り層の伸度21%、最内層の伸度200%であった。また、仮撚り糸切れ回数は4回、仮撚り糸の欠点は3回であり、高次加工性、品位に満足するものではなかった。仮撚り糸切れ箇所、仮撚り糸の欠点箇所は、パッケージの内層、表層に関係なく発生した。
【0056】
これらの結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のポリ乳酸繊維のチーズ状パッケージの形成に使用されるターレット型巻取機の一実施形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0059】
1 本体フレーム
2 ターレット盤
3a,3b スピンドル
4a,4b:ボビン
5 パッケージ
6 ローラーベイル
7 昇降ボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
50重量%以上が乳酸モノマーで構成されるポリ乳酸からなり、伸度が30〜100%であるマルチフィラメントがボビンに巻き付けられたパッケージであり、該パッケージ最内層に巻き付けられたマルチフィラメントの伸度を該最内層より外側の正規巻取り層に巻き付けられたマルチフィラメントの伸度に対して5%以下の伸度差にしたポリ乳酸繊維のチーズ状パッケージ。
【請求項2】
前記ポリ乳酸の重量平均分子量が5万〜35万である請求項1に記載のポリ乳酸繊維のチーズ状パッケージ。
【請求項3】
前記マルチフィラメントが脂肪族ビスアミド及び/又はアルキル置換型の脂肪族モノアミドを含有する請求項1又は2に記載のポリ乳酸繊維のチーズ状パッケージ。
【請求項4】
パッケージ重量が4〜20kgである請求項1、2又は3に記載のポリ乳酸繊維のチーズ状パッケージ。
【請求項5】
前記マルチフィラメントの総繊度が10〜300dtexで、単繊維繊度が0.1〜6dtexである請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸繊維のチーズ状パッケージ。

【図1】
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【公開番号】特開2007−197876(P2007−197876A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20448(P2006−20448)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】