説明

マイクロチップ薬物送達デバイス

【課題】一度に数週間または数年の間作用し得る薬物および他の分子のための分与可能なマルチウェル化送達デバイスの簡便な使用および製造を提供すること。
【解決手段】分子の放出のためのデバイスを製造する方法であって、基板を提供する工程;エッチマスクとして使用するために、基板上に絶縁性材料を堆積させ、そしてパターニングする工程;基板中に複数のリザーバをエッチングする工程;リザーバに放出システムおよびキャップ材料を充填する工程;および放出システムおよびキャップ材料をエッチングする工程を包含する、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、小型化薬物送達デバイスに関し、そしてより詳細には、制御された時間および速度放出マルチウェル化薬物送達デバイスに関する。
【0002】
薬物送達は、医療処置の重要な局面である。多くの薬物の効力は、それらが投与される経路に直接関連している。いくつかの療法は、薬物が長期間にわたって患者に繰り返し投与されることを必要とする。このことは、適切な薬物送達方法の選択において問題となる。患者はしばしば医薬を服用することを忘れたり、気が向かなかったり、またはできなかったりする。薬物送達はまた、薬物が全身送達には強すぎる場合、問題となる。従って、薬物および他の治療薬を包含するがこれらに限定されない広範な種々の分子の制御された放出、脈動的な放出、または持続した放出を可能にする送達デバイスを設計および製造する試みが行われている。
【0003】
制御放出ポリマーデバイスは、患者への投与後所望の期間にわたるポリマーからの薬物の拡散および/またはポリマーの分解により、ある期間にわたる薬物放出を提供するように設計されている。しかし、これらのデバイスは、比較的単純である。
【0004】
Cimaらの米国特許第5,490,962号は、所望の時間枠にわたる1つ以上の薬物の放出を提供するより複雑なデバイスを製造するために、三次元プリンティング法の使用を開示している。複雑なデバイスを製造するための一般的な手順が記載されているが、特定の設計は詳述されていない。
【0005】
Ellinwoodの米国特許第4,003,379号は、可撓性の格納式の壁を有する容器を備える移植可能な、電気機械駆動デバイスを記載している。このデバイスは、注入口を介して貯蔵域から医薬を受容し、次いで注出口を介して体内に医薬を分与する。Ellinwoodの米国特許第4,146,029号および米国特許第3,692,027号は、プログラム可能な小型化分与手段を有する自家動力投薬システムを開示している。Jassawallaの米国特許第4,360,019号は、カテーテルを通じた薬物の送達のための作動手段を備える移植可能な注入デバイスを開示している。作動手段は、ソレノイド駆動小型ポンプを備える。これらのデバイスの全ては、体内で作用するのに必要な小型出力駆動機械部(すなわち、それらが引っ込むか、分与するか、または押し出す)を備える。これらは複雑であり、そして壊れやすい。さらに、複雑さおよびサイズの制限のために、それらは、一度に数種より多くの薬物または薬物混合物を送達するのに不適切である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、一度に数週間または数年の間作用し得る薬物および他の分子のための分与可能なマルチウェル化送達デバイスの簡便な使用および製造を提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、脈動様式または持続様式のいずれかでの薬物または他の分子の送達を可能にするこのようなデバイスを提供することである。
【0008】
本発明のさらに別の目的は、送達が受動または能動のいずれかで制御されることを可能にするこのようなデバイスを提供することである。
【0009】
本発明の目的はまた、種々の投与量の多くの異なる薬物または他の分子を保持し得、そして所望ならば、移植、注入、または飲み込まれるのに十分に小さいこのようなデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
本発明により、以下が提供される。
(項目1)分子の放出のためのマイクロチップデバイスであって、
基板および
該基板中の複数のリザーバを備え、ここで該リザーバがその中に組み込まれている分子を制御可能に放出する、マイクロチップデバイス。
(項目2)前記リザーバが、異なるタイプの分子、異なる量の分子、またはそれらの組合せを含む、項目1に記載のデバイス。
(項目3)前記分子の放出が、前記リザーバ中に分子を組み込む放出システムにより制御される、項目1に記載のデバイス。
(項目4)前記放出システムの上の前記リザーバ上に位置した分解性リザーバキャップをさらに備え、ここで前記キャップの分解速度が分子が該リザーバから放出される時間を決定する、項目3に記載のデバイス。
(項目5)前記リザーバキャップが異なる厚さを有する、項目4に記載のデバイス。
(項目6)前記リザーバキャップが分解または溶解された後、リザーバ中の前記放出システムが分解または溶解し、前記分子を放出する、項目4に記載のデバイス。
(項目7)脈動放出が、1つのリザーバ中に異なる放出システムおよびリザーバキャップ材料を重層することにより、該リザーバから得られる、項目4に記載のデバイス。
(項目8)前記放出システムが非分解性であり、そして前記分子の該放出システムからの拡散が、前記リザーバキャップの分解後に該分子の脈動放出を提供する、項目4に記載のデバイス。
(項目9)放出システムの上のリザーバ上に位置した非分解性リザーバキャップをさらに備え、前記分子のキャップを通じる拡散速度が、分子がリザーバから放出される速度を決定する、項目3に記載のデバイス。
(項目10)カソード、マイクロプロセッサ、タイマー、デマルチプレクサ、および電源をさらに備え、ここで該リザーバキャップがアノードであり、そしてそれぞれ該カソードの1つによって囲まれ、ここで各カソードとアノードとの間の電位の印加の際に、該リザーバキャップが酸化し、溶液中に溶解し、そして下にある放出システムを周囲液に露出する、項目4に記載のデバイス。
(項目11)前記マイクロプロセッサ機能が、特定の時間で個々のリザーバの電極を活性化させるように予めプログラムされたメモリソースにより指示される、項目10に記載のデバイス。
(項目12)前記マイクロプロセッサ機能が、各リザーバの電極を活性化させるようにリモートコントロールにより指示される、項目10に記載のデバイス。
(項目13)バイオセンサをさらに備え、ここで前記マイクロプロセッサ機能が、各リザーバの電極を活性化するように該バイオセンサにより指示される、項目10に記載のデバイス。
(項目14)前記放出システムが賦形剤または希釈剤中に薬物分子を含む、項目2に記載のデバイス。
(項目15)各リザーバ中の前記放出システムが、放出される分子で形成され、ここで該分子の溶解速度が該分子の放出速度を決定する、項目14に記載のデバイス。
(項目16)分子の放出のためのデバイスを製造する方法であって、
基板を提供する工程;
エッチマスクとして使用するために、該基板上に絶縁性材料を堆積させ、そしてパターニングする工程;
該基板中に複数のリザーバをエッチングする工程;
該リザーバに放出システムおよびキャップ材料を充填する工程;および
放出システムおよびキャップ材料をエッチングする工程
を包含する、方法。
(項目17)前記リザーバの上の絶縁性材料の薄いフィルムを取り除く工程をさらに包含する、項目16に記載の方法。
(項目18)各リザーバを、異なるタイプおよび量のキャップ材料および、送達される分子を含む放出システムで充填する工程をさらに包含する、項目16に記載の方法。
(項目19)前記リザーバが、注入、インクジェットプリント、またはスピンコーティングによって充填される、項目16に記載の方法。
(項目20)前記リザーバが、インクジェットプリントによって充填される、項目19に記載の方法。
(項目21)各リザーバの上の絶縁性材料の薄いフィルムの上に誘電性材料の薄いフィルムをを堆積させる工程をさらに包含する、項目17に記載の方法。
(項目22)アノードが各開口部を被覆し、そしてカソードが各アノードの周囲にあるように、誘電性フィルムを電極にパターニングする工程をさらに包含する、項目21に記載の方法。
(項目23)前記アノードが直に前記リザーバの上にあり、そして前記カソードが各アノードの露出された部分の周囲にあることを除いて、各電極の上に材料を堆積させる工程をさらに包含する、項目22に記載の方法。
(項目24)分子の送達のための方法であって、
分子が送達されるべき部位に、基板および該基板中の複数のリザーバを含む、分子の放出のためのマイクロチップデバイスを提供する工程であって、ここで該リザーバがその中に組み込まれている分子を制御可能に放出する、工程
を包含する、方法。
(項目25)前記分子が薬物であり、前記マイクロチップを患者に投与するか、移植するか、または注入することを包含する、項目24に記載の方法。
(項目26)前記分子が、核酸、タンパク質、アミノ酸、多糖類、および有機分子または合成分子からなる群から選択される薬物である、項目25に記載の方法。
(項目27)前記薬物が、薬学的に受容可能なキャリアと組み合わされている、項目26に記載の方法。
(項目28)前記分子が診断試薬または化学試薬である、項目24に記載の方法。
(項目29)前記分子が、脈動様式または持続様式で放出される、項目24に記載の方法。
(項目30)前記放出システムが、放出される分子により形成されている、項目24に記載の方法。
(項目31)分解性リザーバキャップが、前記放出システムの上のリザーバ上に位置し、ここで前記キャップの分解、溶解、または拡散速度が、前記分子が該リザーバから放出される時間を決定する、項目24に記載の方法。
(項目32)前記デバイスが、カソード、マイクロプロセッサ、タイマー、デマルチプレクサ、および電源をさらに備え、前記リザーバキャップがアノードであり、そしてそれぞれ該カソードの1つにより囲まれ、ここで前記方法が、各カソードとアノードとの間で電位を印加して、該リザーバキャップを酸化し、そして下にある放出システムを周囲液に露出する工程を包含する、項目24に記載の方法。
(項目33)前記マイクロプロセッサ機能が、特定の時間で個々のリザーバの電極を活性化させるようにプログラムされたメモリソースにより指示され、ここで前記方法が該メモリをプログラムする工程を包含する、項目32に記載の方法。
(項目34)前記マイクロプロセッサ機能が、各リザーバの電極を活性化させるようにリモートコントロールにより指示される、項目32に記載の方法。
(項目35)前記デバイスがバイオセンサをさらに備え、ここで前記マイクロプロセッサ機能が、各リザーバの電極を活性化するように該バイオセンサにより指示される、項目32に記載の方法。
【0011】
広範な種々の分子の送達のためのマイクロチップが提供される。マイクロチップは、集積回路の製造に一般に適用される方法(例えば、紫外線(UV)フォトリソグラフィー、リアクティブイオンエッチング、および電子ビームエバポレーション)を用いて構築された小型化デバイスである。マイクロチップは、分子が放出される速度ならびに放出が開始する時間について制御を提供する。放出の時間は、受動的または能動的に制御され得る。
【0012】
好ましい実施態様では、周囲液(surrounding fluid)および送達されるべき分子に不透過性である材料が基板として使用される。基板材料の例は、セラミクス、半導体(例えば、シリコン)、および分解性および非分解性ポリマーである。リザーバは、マイクロ製造の分野において一般に用いられる化学(湿潤)エッチング技術またはイオンビーム(乾燥)エッチング技術のいずれかを用いて基板にエッチングされる。数百から数千のリザーバが、これらの技術を用いて1つのマイクロチップで製造され得る。代表的には、送達される分子を含むか、カプセル化するか、または分子からなる放出システムは、注入、インクジェットプリント、または他の手段によりリザーバに挿入される。放出システムは、分子の放出速度を制御する。放出速度は、放出システムの組成および構造の関数である。デバイス設計により、リザーバに、固体、液体、またはゲル形態で放出システムを充填することが可能になる。1つのマイクロチップのリザーバのそれぞれは、異なる分子および/または異なる量および濃度を含み得、これらは独立して放出され得る。
【0013】
好ましい実施態様では、リザーバキャップは、電源を必要としない、分子の受動的な定時放出(timed release)を可能にする。リザーバは、送達される分子について既知の速度で分解または溶解する材料、または既知の透過性(拡散定数)を有する材料でキャップされる。従って、キャップ材料の分解、溶解、または拡散特性は、特定のリザーバ中で分子の放出が開始する時間を決定する。実際は、マイクロチップは、放出システム(速度コントローラ)の選択およびキャップ材料(タイムコントローラ、およびいくつかの場合では速度コントローラ)の選択による、分子の放出の二重制御を提供する。
【0014】
別の好ましい実施態様では、リザーバキャップは、電源を必要とする、分子の能動的な定時放出を可能にする。この実施態様では、リザーバキャップは、リザーバの上に堆積され、所望の幾何学にパターニングされ、そしてアノードとして働く誘電性材料の薄いフィルムからなる。カソードもまた、デバイスの適用および電位制御方法に依存するそれらの大きさおよび堆積を有するデバイス上で製造される。溶液中に溶解し得るか、または電位の印加の際に可溶性化合物またはイオンを形成し得る誘電性材料(金属(例えば、銅、金、銀、および亜鉛)およびいくつかのポリマーを含む)が、能動定時放出デバイスにおいて用いられる。アノードとカソードとの間に電位が印加される場合、リザーバの上方のアノードの誘電性材料が酸化して、溶液中に溶解する可溶性化合物またはイオンを形成し、送達される分子を含む放出システムを周囲液に露出する。あるいは、電位の印加は、アノードリザーバキャップ付近の局所的なpHの変化を生じさせ、通常不溶性のイオンまたは酸化生成物を可溶性にするために用いられ得る。このことにより、リザーバが溶解し、そして送達システムを周囲液に露出させる。いずれの場合においても、送達される分子は、放出システムからの拡散または放出システムの分解もしくは分離によって、周囲液に放出される。放出の頻度は、マイクロチップ上に小型化電源およびマイクロプロセッサを取り付けることによって制御される。任意のリザーバの活性化は、マイクロプロセッサの予備プログラミング、リモートコントロール、またはバイオセンサからの信号によって達成され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(発明の詳細な説明)
患者または他の実験システムの必要性に従って規定された速度および時間で薬物および他の分子を正確に送達し得るマイクロチップデバイスが、提供される。本明細書中で使用される「マイクロチップ」は、例えば以下によって記載されるような、紫外線(UV)、フォトリソグラフィー、リアクティブイオンエッチング、および電子ビームエバポレーションのような集積回路の製造に一般的に適用される方法を使用して構成された小型化デバイスである:例えば、S.WolfおよびR.N.Tauber,Silicon Processing for the VLSI Era, 第1巻−Process Technology,Lattice Press, Sunset Beach,CA,1986;およびR.C.Jaeger,Introduction to Microelectronic Fabrication,第V巻,Modular Series on Solid State Devices,Addison−Wesley,Reading,MA,1988。マイクロチップは、分子が放出される速度および放出が開始する時間の制御を提供する。放出時間は、受動的または能動的に制御され得る。マイクロチップの製造の手順は、数ミリメートルから数センチメートルまでの範囲の基本的な寸法(四角形もしくは方形である場合は側部の長さ、または円形である場合は直径)を有するデバイスの製造を可能にする。代表的なデバイスの厚さは、300μmである。しかし、デバイスの厚さは、約10μmから数ミリメートルまでで変化し得る。デバイスの厚さの変化は、マイクロチップに組み込まれ得るリザーバの最大数、および各リザーバの容積に影響を与える。デバイスのインビボの適用は、代表的には、2cm以下の一次元の寸法を有するデバイスを必要とする。インビボの適用のためのデバイスは、最小の侵襲手順を使用して飲み込まれるか、または移植されるに十分に小さい。より小さいインビボのデバイスが(およそ1ミリメートル)が、カテーテルまたは他の注射可能な手段を使用して移植され得る。インビトロの適用のためのデバイスは、より少ない大きさの制限を有し、そして必要であれば、インビボのデバイスの寸法の範囲よりもはるかに大きく作製され得る。
【0016】
(デバイス製造のための材料)
各デバイスは、基板、リザーバ、および送達される分子を含む、囲む、または層状にされた放出システムから構成される。分子の放出時間を制御するデバイスは、リザーバキャップを含み得る。能動なデバイスは、制御回路および電源を含み得る。
【0017】
(基板)
基板は、エッチングされたか(etched)または機械加工されたリザーバを含み、これはマイクロチップの支持体として作用する。支持体として作用し得るエッチングまたは機械加工に適切であり、そして送達される分子および周辺を取りまく液体(例えば、水、血液、電解質、または他の溶液)に対して不浸透性である任意の材料が基板として使用され得る。基板の材料の生体適合性が好ましいが、必要ではない。インビボの適用について、使用の前に、非生体適合性材料が生体適合性材料(例えば、ポリ(エチレングリコール)またはポリテトラフルオロエチレン様材料)中にカプセル化され得る。送達される分子に不浸透性であり、そして液体で取り囲まれている、強力な、非分解性の、容易にエッチングされる基板の一例は、シリコンである。別の実施態様において、基板は、生体適合性成分中でのある期間を超えると分解するかまたは溶解する頑丈な材料から作製される。この実施態様は、デバイスが移植され、そして後の時点でのデバイスの物理的な除去が不可能であるかまたは薦められないインビボでの適用(例えば、脳の移植)に好ましい。頑丈な生体適合性の材料のクラスの例は、K.E.Uhrichら、「Synthesis and characterization of degradable poly(anhydride−co−imides)」、Macromolecules,1995,28,2184−93によって議論されるポリ(無水物−co−イミド)である。
【0018】
(放出システム)
送達される分子は、それらの純粋な形態で(液体の溶液、またはゲルとして)リザーバに挿入され得るか、またはそれらは、放出システム内または放出システムによってカプセル化され得る。本明細書中で使用される「放出システム」は、分子が固体もしくは液体のいずれかとして純粋な形態で存在するか、あるいは分解性材料またはマトリックスの拡散もしくはマトリックスの崩壊によって取り込まれた分子を放出する材料で形成されるマトリックス中に存在する両方の状況を含む。分子は、放出システムにしばしば含まれ得る。なぜなら、放出システムの分解、溶解、分散特性が分子の放出速度を制御するための方法を提供するからである。分子は、放出システム内に均一または不均一に分布し得る。放出システムの選択は、所望される分子の放出速度に依存する。非分解性放出システムおよび分解性放出システムの両方が、分子の送達に使用され得る。適切な放出システムとして、ポリマーおよびポリマー性マトリックス、非ポリマー性マトリックス、または無機および有機の賦形剤ならびに希釈物(例えば、炭酸カルシウム、およびショ糖、しかし、これらに限定されない)が挙げられる。放出システムは、天然または合成であり得るが、放出プロフィールの良好な特徴のために合成の放出システムが好ましい。放出システムは、放出が所望される期間に基づいて選択される。対照的に、数秒のように短い放出時間が、いくつかのインビボの適用に所望され得る。いくつかの場合において、リザーバからの持続(一定)放出が最も有用であり得る。他の場合において、リザーバからのパルス(バルク)放出がより有効な結果を提供し得る。1つのリザーバからの1回のパルスが複数のリザーバを使用することによる脈動放出に転換され得ることに留意すること。放出システムのいくつかの層および他の材料を単一のリザーバに組み込んで単一のリザーバからの脈動送達を達成することもまた可能である。持続放出は、分解するか、溶解するか、または長時間にわたってそれを通って分子の分散を可能にする放出システムを組み込むことによって達成され得る。さらに、持続放出は、迅速に連続する数回の分子のパルスを放出することによって、刺激され得る。
【0019】
放出システム材料は、種々の分子量の分子が、材料からもしくは材料による分散によるか、または材料の分解によってリザーバから放出されるように選択され得る。生分解性ポリマー、生体侵食性ヒドロゲル、およびタンパク質送達システムが、分散、分解、または溶解による分子の放出に好ましい。一般に、これらの材料は、酵素的加水分解またはインビボもしくはインビトロでの水への露出によって、あるいは表面または多量の侵食によってのいずれかで、分解または溶解する。代表的な合成の生分解性ポリマーとして、以下が挙げられる:ポリ(アミノ酸)およびポリ(ペプチド)のようなポリ(アミド);ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)、およびポリ(カプロラクトン)のようなポリ(エステル);ポリ(無水物);ポリ(オルトエステル);ポリ(カーボネート);ならびにそれらの化学的誘導体(置換体、化学基の付加(例えば、アルキル、アルキレン、ヒドロキシル化、酸化)および当業者によって日常的に作製される他の改変体)、コポリマー、ならびにそれらの混合物。
【0020】
代表的な合成の非生分解性ポリマーとして、以下が挙げられる:ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)、およびポリ(テトラメチレンオキシド)のようなポリ(エーテル);ビニルポリマー−ポリ(アクリレート)およびポリ(メタクリレート)(例えば、メチル、エチル、他のアルキル、ヒドロキシエチル、メタクリレート、アクリル酸およびメタクリル酸、ならびにポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、およびポリ(ビニルアセテート)のような他のもの);ポリ(ウレタン);セルロースおよびその誘導体(例えば、アルキル、ヒドロキシアルキル、エーテル、エステル、ニトロセルロース、および種々のセルロースアセテート);ポリ(シロキサン);ならびにそれらの任意の化学的誘導体(置換体、化学基の付加(例えば、アルキル、アルキレン、ヒドロキシル化、酸化)および当業者によって日常的に作製される他の改変体)、コポリマー、ならびにそれらの混合物。
【0021】
(放出される分子)
任意の天然もしくは合成の、有機分子もしくは無機分子、またはその混合物が送達され得る。1つの実施態様において、マイクロチップが薬物をそれを必要とする患者に全身的に送達するために用いられる。別の実施態様において、患者におけるマイクロチップの構築および配置は、全身的な送達には強力すぎ得る薬物の局在化した放出を可能にする。本明細書中で使用される場合、薬物は、生物活性効果を有する有機または無機分子(タンパク質、核酸および合成有機分子を包含する)であり、例えば、麻酔薬、ワクチン、化学療法剤、ホルモン、代謝物、糖、免疫調節因子、抗酸化剤、イオンチャンネル調節因子、および抗生物質を含む。薬物は、単一の薬物または薬物の混合物の形態であり得、そして薬学的に受容可能なキャリアを含み得る。別の実施態様において、分子は、例えば、分析化学または医学的診断の分野において少量(ミリグラム〜ナノグラム)の1つ以上の分子の制御された放出が必要とされる任意のシステムにおいて、インビトロで放出される。分子は、pH緩衝剤、診断剤、およびポリメラーゼ連鎖反応または他の核酸増幅手順のような複雑な反応における試薬として有効であり得る。
【0022】
(リザーバキャップ)
受動的な定時放出薬物送達デバイスにおいて、リザーバキャップは、経時的に分解もしくは溶解する材料、または分解や溶解はしないが送達される分子に対して透過性である材料から形成される。これらの材料は、好ましくはポリマー材料である。材料は、異なるリザーバから異なる時間に、いくつかの場合には、異なる速度で分子を放出し得るように、種々の分解速度または溶解速度または透過性を与えるためのリザーバキャップとしての使用のために選択され得る。異なる放出時間(放出時間遅延の量)を得るために、キャップが異なるポリマー、異なる架橋の程度を有する同じポリマー、またはUV重合可能ポリマーで形成され得る。後者の場合、このポリマーのUV光への露出を変えることによって、種々の程度の架橋を生じ、そしてキャップ材料に異なる拡散特性または分解もしくは溶解速度を与える。異なる放出時間を得るための別の方法は、1つのポリマーを用いてではあるが、そのポリマーの厚さを変える。いくつかのポリマーのより厚いフィルムは、遅延した放出時間を生じる。ポリマーの任意の組合せ、架橋の程度、またはポリマーの厚さは、特定の放出時間または速度を得るために改変し得る。1つの実施態様において、送達されるべき分子を含有する放出システムは、分子にとってほとんど不透過性である分解可能なキャップ材料によって覆われる。リザーバからの分子の放出時間は、キャップ材料が分解または溶解するために必要な時間によって制限される。別の実施態様において、キャップ材料は、非分解性であり、そして送達される分子に対して透過性である。使用される材料の物理的な特性、その架橋の程度、およびその厚さは、キャップ材料を通して拡散する分子に必要とされる時間を決定する。放出システムからの拡散が制限される場合、キャップ材料は、放出の開始を遅延させる。キャップ材料からの拡散が制限される場合、キャップ材料は、分子の放出速度ならびに放出の開始の遅延を決定する。
【0023】
能動定時放出デバイスにおいて、リザーバキャップは、リザーバの上に堆積した、所望の幾何学にパターニングされた、そしてアノードとして作用する誘電性材料の薄いフィルムからなる。カソードはまた、そのサイズおよび配置がデバイスの適用および電位制御の方法に依存するデバイス上に作製される。アノードは、酸化が起こる電極として規定される。溶液中に溶解し得るか、または電位の適用に際して可溶性のイオンもしくは酸化化合物を形成し得る任意の誘導性材料が、アノードおよびカソードの作製のために使用され得る。さらに、電位に応答して不溶性のイオンまたは酸化生成物を通常形成する材料は、例えば、アノード付近での局所的なpH変化がこれらの酸化生成物が可溶性になるようにする場合、使用され得る。適切なリザーバキャップ材料の例には、銅、金、銀、および亜鉛、ならびに例えば、I.C.Kwonら「Electrically erodible polymer gel for controlled release of drugs」、Nature,1991,354,291−93;およびY.H.Baeら、「Pulsatile drug release by electric stimulus」、ACS Symposium Series,1994,545,98−110に記載されるいくつかのポリマーが含まれる。
【0024】
(デバイスパッケージング、制御回路、および電源)
マイクロエレクトロニックデバイスパッケージは、代表的には、酸化アルミニウムまたは窒化シリコンのような絶縁性材料または誘電性材料から作製される。これらの目的は、デバイスの全ての構成要素が密接に配置されることを可能にし、そして電源および互いへの構成要素の相互連結を容易にすることである。送達デバイスのインビボ適用のために、全パッケージング(全ての構成要素(すなわち、デバイス、マイクロプロセッサ、および電源)を含む)が、ポリ(エチレングリコール)またはポリテトラフルオロエチレン様材料のような生体適合性材料中にコートまたはカプセル化される。インビトロ適用のために必要とされる材料は、それほどストリンジェントでなくてもよく、そして特定の状況に依存する。
【0025】
制御回路は、タイマー、デマルチプレクサ、マイクロプロセッサ、およびインプットソース(例えば、メモリソース、信号レシーバ、またはバイオセンサ)からなる。タイマーおよびデマルチプレクサ回路は、電極の作製の間にマイクロチップの表面上に直接設計および組み込まれ得る。マイクロプロセッサの選択のための基準は、小サイズ、低出力要求、およびメモリソース、信号レシーバ、またはバイオセンサからの出力をデマルチプレクサから送達デバイス上の特定のリザーバへの出力の方向のアドレスに翻訳する能力である。メモリソース、信号リザーバ、またはバイオセンサのようなマイクロプロセッサへの入力のソースの選択は、送達デバイスの特定の適用およびデバイスオペレーションが予めプログラムされ、リモート手段により制御され、またはその環境からのフィードバック(例えば、バイオフィードバック)により制御されているか否かに依存する。
【0026】
電源の選択のための基準は、小サイズ、十分な出力能、制御回路に組み込まれる能力、再充電される能力、および再充電が必要とされるまでの時間の長さである。いくつかのリチウムベースの、再充電可能なマイクロ電池がS.D.JonesおよびJ.R.Akridge、「Development and performance of a rechargeable thin−film solid−state microbattery」、Journal of Power Sources,1995,54,63−67;およびJ.B.BAtesら、「New amorphous thin−film lithium electrolyte and rechargeable microbattery」、IEEE 35th International Power Sources Symposium,1992,337−39に記載されている。これらの電池は、代表的には、わずか厚さ10ミクロンであり、そして1cmの面積を占める。1つ以上のこれらの電池が送達デバイス上に直接組み込まれ得る。
【0027】
(デバイス製造の方法)
(リザーバの製造)
デバイスは、当業者に公知の方法を用いて製造され、例えばWolfら(1986);およびJaeger (1988);Kwonら(1991)によって総説される。
【0028】
図1および2に図示されるマイクロチップ製造(それぞれ、受動デバイスおよび能動デバイス)の好ましい方法において、製造は、材料、代表的には絶縁性または誘電性材料を、リザーバエッチングの間にエッチマスクとして作用するように基板上に堆積すること、およびフォトリソグラフィー的にパターニングすることによって始める。マスクとしての使用のための代表的な絶縁性材料は、窒化シリコン、シリコンジオキシド、およびポリイミドのようないくつかのポリマーを含む。好ましい実施態様において、無定形窒化シリコン(SiN)の薄いフィルム(約1000〜3000Å)は、Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition(PECVD)によってシリコンウェハ30/300の両側面上に堆積される。あるいは、低応力のシリコン豊富な窒化物がVertical Tube Reactor(VTR)に堆積され得るか、または化学量論的多結晶窒化物が、Low Pressure Chemical Vapor Deposition(LPCVD)によって堆積され得る。リザーバは、紫外線フォトリソグラフィー、およびプラズマエッチング、または熱リン酸からなる化学的エッチングのいずれかによって、ウェハ32/320の一側面上の窒化シリコンフィルム中にパターニングされる。パターニングされた窒化シリコンは、濃縮された水酸化カリウム溶液(80〜85℃の温度にて約38.5重量%)によって、露出されたシリコン34/340の化学的エッチング用のエッチマスクとし作用する。あるいは、リザーバは、リアクティブイオンエッチングまたはイオンビームエッチングのような、乾燥エッチング技術によって、基板中においてエッチングされ得る。これらの技術は、例えばWolfら(1986)およびJaeger (1988)によって総説されるように、マイクロエレクトロニックデバイスの製造において通常使用される。これらのマイクロ製造技術の使用は、単一のマイクロチップ上への数百から数千のリザーバの組込みを可能にする。受動デバイスにおいて、リザーバは、1μmほど小さく離れ得る。能動デバイスにおいて、リザーバ間の距離は、各リザーバ上またはその近傍の電極によって占められる空間に起因して、わずかに大きく(約10〜15μm)あり得る。リザーバは、ほとんど任意の形状および深さに作製され得、そして基板を完全に貫通する必要はない。好ましい実施態様において、水酸化カリウムによってシリコン基板(100)中にエッチングされたリザーバは、54°でのスロープの側面壁を有する方形ピラミッドの形状にあり、そして基板(約300μm)を完全に通って基板の他方の側面上の窒化シリコンフィルムに達し、SiN膜を形成する。(ここで、窒化シリコンフィルムは、水酸化カリウムエッチングストップとして作用する。)ピラミッド形状は、基板のパターニングされた側面上のリザーバ(約500μm×500μm)の大きな開口を通るリザーバの容易な充填を可能にし、基板の他方の側面上のリザーバ(約30μm×30μm)の小さな開口を通って放出し、そして送達される薬物または他の分子を貯蔵するためのデバイスの内側に大きな空胴を提供する。
【0029】
(受動定時放出リザーバキャップの製造)
受動定時放出マイクロチップの製造において、リザーバキャップ材料は、微量注射器36aで注入されるか、インクジェットプリンターカートリッジでプリントされるか、またはリザーバの小さな開口上になお存在する絶縁性マスク材料の薄いフィルムを有するリザーバ中にスピンコーティング36bされる。注入またはインクジェットプリント方法が使用される場合、キャップ形成は、材料がリザーバ38a中に注入されるかまたはプリントされた後、完全であり、そしてさらなる処理を必要としない。スピンコーティングが使用される場合、キャップ材料は、複数のスピンコーティング36bによってプラナライズ(planarize)される。次いで、フィルムの表面は、プラズマ、イオンビーム、または化学的エッチング液によって、所望のキャップ厚さが得られるまで38bエッチングされる。好ましい実施態様において、使用される絶縁性材料は、窒化シリコンであり、そしてキャップ材料は、キャップ材料の溶液で充填されるインクジェットカートリッジで、リザーバ中にプリントされる。
【0030】
リザーバキャップは、分子がリザーバから放出される時間を制御する。各リザーバキャップは、異なる厚さであり得るか、または異なる物理的性質を有し得、分子を含む各放出システムが、周囲液に露出される時間を変化させ得る。注入、インクジェットプリント、およびスピンコーティングは、リザーバ充填の好ましい方法であり、そして任意のこれらの方法は、リザーバの形状またはサイズにかかわらず、リザーバを充填するために使用され得る。しかし、注入およびインクジェットプリントは、深い(10μmより深い)リザーバまたは大きな開口(100μmより大きい)を有するリザーバを充填する好ましい方法である。例えば、注入を用いて異なるキャップ厚さを得るために、異なる量のキャップ材料が各個々のリザーバ中に注入されるか、または直接プリントされる。スピンコーティングは、浅い(10μmより浅い)リザーバ、基板を完全には貫通しないリザーバ、または小さな(100μmより小さい)開口を有するリザーバを充填する好ましい方法である。スピンコーティングによるキャップ厚さまたは材料の変化は、スピンコーティング、選択されたリザーバをマスクすること、およびエッチングの繰り返しの段階的なプロセスによって達成され得る。例えば、スピンコーティングでキャップの厚さを変化させるために、キャップ材料は、全基板にわたってスピンコーティングされる。必要ならば、材料がほぼプラナライズされるまで、スピンコーティングは繰り返される。フォトレジストのようなマスク材料が、1つを除くすべてのリザーバにおいてキャップ材料を覆うためにパターニングされる。プラズマ、イオンビーム、または化学的エッチング液は、所望の厚さに、露出されたリザーバにおいてキャップ材料をエッチングするために使用される。次いで、フォトレジストは、基板から取り除かれる。このプロセスは繰り返され、その間、フォトレジストの新たな層が、1つを除く全てのリザーバにおいてキャップ材料を覆うように堆積され、そしてパターニングされる(露出されたリザーバは、その所望の厚さにすでにエッチングされたリザーバと同じリザーバではない)。このリザーバにおける露出されたキャップ材料のエッチングは、所望のキャップ厚さが得られるまで続く。フォトレジストのようなマスク材料の堆積およびパターニング、エッチング、およびマスク除去のこのプロセスは、各リザーバが、それ自体の固有のキャップ厚さを有するまで繰り返され得る。技術(UVフォトリソグラフィー、プラズマ、またはイオンビームエッチングなど)は、マイクロ製造の分野の当業者に周知である。
【0031】
注入、インクジェットプリント、およびスピンコーティングは、キャップ製造の好ましい方法であるが、各リザーバは、毛管現象によって、真空または他の圧力勾配を用いて材料をリザーバ中に引くまたは押すことによって、材料をリザーバ中に融解することによって、遠心分離および関連するプロセスによって、固体をリザーバ中に手動でパックすることによって、またはこれらの技術かもしくは類似のリザーバ充填技術の任意の組合せによって、独立的にキャップされ得ることが理解される。
【0032】
一旦キャップ製造方法が選択されると、リザーバからの分子の放出の時間を制御するためのさらなる方法が、利用され得る。2つの非限定的な例は、UV重合可能ポリマー、または放出システムおよびキャップ材料の層化のいずれかを含む。第1に、リザーバキャップが、注入されるか、インクジェットプリントされるか、またはスピンコーティングされるかのいずれかのUV重合可能ポリマーから作製される場合、各キャップは、異なる強度のUV光に露出され得、種々の程度の架橋、およびそれゆえ、分解性キャップについての異なる分解もしくは溶解の速度、または非分解性キャップについての分子に対する異なる透過性を与える。第2に、分解性および非分解性の両方のキャップ材料の層は、注入、インクジェットプリント、スピンコーティング、または選択的な架橋によって、送達されるべき分子を含む放出システムの層間で挿入され得る。これらの方法および他の類似の方法は、複雑な放出プロフィール(すなわち、不規則な時間間隔での脈動送達)が、単一のリザーバから達成されることを可能にする。
【0033】
所望であれば、受動定時放出デバイスは、リザーバキャップなしで製造され得る。したがって、分子の放出の速度は、送達されるべき分子を含む放出システムの物理的および物質的性質によって単に制御される。
【0034】
(能動定時放出リザーバキャップの製造)
好ましい実施態様では、フォトレジストが、絶縁性材料または誘電性材料の薄膜により被覆されたリザーバを有する基板の表面上で電極の形態でパターニングされる。フォトレジストは、リザーバの被覆された開口部の直上領域がフォトレジストによって被覆されていないままであり、そしてアノードの形状にあるように現像される。溶液中に溶解し得るか、または電位の印加の際に可溶性イオンまたは酸化化合物を形成し得る誘電性材料の薄いフィルムが、堆積技術(例えば、化学蒸着、電子ビームまたはイオンビームエバポレーション、スパッタリング、スピンコーティング、および当該分野で公知の他の技術)を用いて全表面の上に堆積される。例示の材料は、Kwonら(1991)およびBaeら(1994)により開示されるような、金属(例えば、銅、金、銀、および亜鉛)およびいくつかのポリマーを含む。フィルム堆積後、フォトレジストは、基板から剥がされる。これにより、フォトレジストにより被覆されていない領域を除いて、堆積されたフィルムが除かれる(リフトオフ技術)。これにより、電極360の形態で基板の表面上に誘電性材料が残される。代替的な方法は、デバイスの全表面上に誘電性材料を堆積させる工程、UVまたは赤外線(IR)フォトリソグラフィーを用いて誘電性フィルムの頂上部に、フォトレジストがアノードの形状でリザーバ上に位置するように、フォトレジストをパターニングする工程、およびプラズマ、イオンビーム、または化学エッチング技術を用いて、マスクされていない誘電性材料をエッチングする工程を包含する。次いで、フォトレジストを剥がし、リザーバを被覆する誘電性フィルムアノードを残す。誘電性材料の代表的なフィルム厚は、0.05〜数ミクロンまでの範囲であり得る。アノードは、リザーバキャップとして働き、そしてデバイス上のカソードの配置は、デバイスの用途および電位制御の方法に依存する。
【0035】
酸化シリコン(SiO)または窒化シリコン(SiN)のような絶縁性材料または誘電性材料は、化学蒸着(CVD)、電子ビームまたはイオンビームエバポレーション、スパッタリング、またはスピンコーティングのような方法によってデバイスの全表面上に堆積される。フォトレジストは、各リザーバ380の直上にあるカソードおよびアノードの一部を除いて、誘電体をエッチングから保護するために、その頂上にパターニングされる。誘電性材料は、プラズマ、イオンビーム、または化学エッチング技術によりエッチングされ得る。このフィルムの目的は、電極フィルムが放出に必要でない全ての領域における腐食、分解、または溶解から電極を保護することである。
【0036】
電極は、アノードとカソードとの間の電気が生じるとき、アノードリザーバキャップの非保護(誘電体によって被覆されていない)部分が酸化して、溶液中に溶解する可溶性化合物またはイオンを形成し、放出される分子を含む放出システムを周囲液に露出するように位置される。分子は、分解性の放出システムの分解または分離速度あるいは非分解性の放出システムからの分子の拡散の速度に依存する速度で、リザーバから放出される。
【0037】
(絶縁性膜(リザーバエッチストップ)の除去)
リザーバ製造の間にマスクおよびエッチストップとして使用されるリザーバを被覆する絶縁性材料または誘電性材料の薄膜は、リザーバ400の充填前に能動定時放出デバイスから、そして(リザーバが基板を完全に通している場合)リザーバ44の充填後に受動定時放出デバイスから除去されなければならない。フィルムは2つの方法で除去され得る。第一には、フィルムは、イオンビームまたはリアクティブイオンプラズマによって除去され得る。好ましい実施態様では、絶縁性材料として用いられる窒化シリコンは、CHFまたはCFのような酸素およびフッ素含有気体で構成されたリアクティブイオンプラズマによって除去され得る。第二には、フィルムは、化学エッチングにより除去され得る。例えば、緩衝化フッ化水素酸(BHFまたはBOE)が、シリコンジオキシドをエッチングするために用いられ得、そして熱リン酸が、窒化シリコンをエッチングするために用いられ得る。
【0038】
(リザーバ充填)
送達用分子を含む放出システムは、注入、インクジェットプリント、またはスピンコーティングによって、リザーバの大きな開口部に挿入される(40a/40b/400)。各リザーバは、異なる分子および投与量を含み得る。同様に、各リザーバ中の分子の放出速度論は、放出システムおよびキャップ材料の選択により変動され得る。さらに、各リザーバにおける放出システムおよびキャップ材料の混合または重層が、特定の適用の必要性に放出速度論を適合させるように用いられ得る。
【0039】
送達される分子を含む放出システムが充填されたリザーバのマイクロチップの上の分布は、患者の医学的必要性またはシステムの他の要件に依存して変動し得る。薬物送達における適用のために、例えば、各列における薬物は、互いに異なり得る。1つの列はホルモンを含み得、そして別の列は代謝物を含み得る。また、放出システムは、各列内で、1つのリザーバからは高い速度でそして別のリザーバからは遅い速度で薬物を放出するように異なり得る。投与量はまた、各列内で変動し得る。深い(10μmより大きい)リザーバまたは大きな(100μmより大きい)開口部を有するリザーバを有するこれらのデバイスについて、リザーバローディングの差異は、各リザーバに直に異なる量の材料を注入またはインクジェットプリントすることにより達成され得る。リザーバ間の変動は、浅い(10μm未満)リザーバ、基板を完全に通過していないリザーバ、または小さい(100μm未満)の開口部を有するリザーバを有するデバイスにおいて、受動定時放出リザーバキャップのスピンコーティングによる製造について上述したように、選択されたリザーバのマスキング、スピンコーティング、およびエッチングの繰り返し段階状プロセスによって達成され得る。好ましくは、放出システムおよび送達される分子は、リザーバへの適用の前に送達および混合される。注入、インクジェットプリント、およびスピンコーティングがリザーバ充填の好ましい方法であるが、各リザーバは、キャピラリー作用、真空または他の圧力勾配を用いるリザーバへの材料の引き寄せまたは押し込み、リザーバへの材料の溶融、遠心分離および関連プロセス、リザーバへの固体の手動充填、またはこれらまたは同様のリザーバ充填技術の任意の組み合わせによって、個々に充填され得ることが理解される。
【0040】
(デバイスパッケージング、制御回路、および電源)
受動リザーバおよび能動リザーバが充填されている開口部は、ウェハー結合または防水性エポキシまたは周囲液44/440に不透性の他の適切な材料によって密封されている。インビトロの適用については、全体のユニット、リザーバおよび電極を含むデバイスの正面を除いて、システムに適切な材料中に入れられる。インビボの適用については、ユニットは生体適合性材料(例えば、ポリ(エチレングリコール)またはポリテトラフルオロエチレン)中にカプセル化されている。
【0041】
能動定時放出デバイスによる分子の放出についての機構は、撤回するかまたは取り除かなければならない互いに適合するかまたは接着した複数の部分に依存しない。各リザーバの放出時間の制御は、図3に示したように、予めプログラムしたマイクロプロセッサ、リモートコントロール、バイオセンサからの信号、またはこれらの方法の任意の組合せによって達成され得る。まず、マイクロプロセッサをメモリーのソース(例えば、プログラム可能な読み出し専用メモリ(PROM))、タイマー、デマルチプレクサ、および電源(例えば、マイクロ電池)と共に使用される。これは、例えば、Jonesら(1995)およびBatesら(1992)によって記載される。放出パターンは、使用者によりPROMに直接書き込まれる。PROMは、これらの指示をマイクロプロセッサにを送る。放出の時間がタイマーによって指示される時間に達した場合、マイクロプロセッサは、デマルチプレクサへの特定のリザーバのアドレス(場所)に対応する信号を送る。デマルチプレクサは、インプット(例えば、電位)をマイクロプロセッサによってアドレスづけられたリザーバに送る。マイクロ電池は、PROM、タイマー、およびマイクロプロセッサを操作するための電源を提供し、そしてデマルチプレクサにより特定のリザーバに指向される電位インプットを提供する。これらの構成要素の各々の製造、大きさ、および場所は、特定の適用の要件に依存する。好ましい実施態様において、メモリ、タイマー、マイクロプロセッサ、およびデマルチプレクサ回路は、チップの表面上に直接組み込まれる。マイクロ電池は、チップの反対面に接着しており、そしてデバイス回路にバイアまたは薄いワイヤにより連結されている。しかし、いくつかの場合、メモリー、タイミング、プロセシング、およびデマルチプレキシングについて、別々の、予め作製したコンポーネントチップを使用することも可能である。これらは、電池が付いたミニチュア化送達デバイスの背面に接着している。使用される予め作製したチップの大きさおよび型は送達デバイスの全体の寸法およびリザーバの数に依存する。第二に、特定のリザーバの電位の適用による活性化は、リモートコントロールにより外的に制御される。リモートコントロールに使用される回路の多くは、予めプログラムされた方法に使用されるものと同一である。主要な差違は、PROMが信号レシーバによって置換されていることである。ラジオ波、低出力レーザ、または超音波のような信号は、外部ソースによりレシーバ(例えば、コンピュータ、または超音波生成器)に送られる。信号はマイクロプロセッサに送られ、ここでこれはリザーバアドレスに翻訳される。次いで、電力はデマルチプレクサを通って適切なアドレスを有するリザーバへと指向される。第三に、バイオセンサをマイクロチップに組み込み、周囲液中の分子を検出する。分子の濃度が特定のレベルに達する場合、センサはマイクロプロセッサに信号を送り、1つ以上のリザーバを活性化する。マイクロプロセッサは、特定の電力をデマルチプレクサを通してリザーバ(単数または複数)へと指向させる。
【0042】
(電位制御法)
活性型デバイスリザーバキャップはアノードであり、これは電位がアノードとカソードとの間に適用される場合、酸化して可溶性化合物およびイオンを形成する。所定の電極材料および電解質について、これらの酸化反応が熱力学的および動力学的に好ましい電位の範囲が存在する。デバイスのリザーバキャップを再現性よく酸化し、そして開けるために、アノード電位は、この電位の範囲に維持されなければならない。
【0043】
2つの特定の電位範囲の電極を維持する2つの主要な制御方法が存在する。第一の方法は、定電位制御と呼ばれる。名称が示すように、電位は、リザーバ活性化の間、一定に保たれる。電位の制御は、代表的に参照電極と呼ばれる既知の一定電位を有する第三の電極を系へ組み込むことにより達成される。参照電極は、外部プローブの形態を取り得、その先端がアノード表面から1〜3mm以内に配置される。アノードの電位は、飽和カロメル電極(SCE)のような参照電極の既知の電位を参照して測定され制御される。定電位制御の好ましい実施態様において、薄層フィルム参照電極および電位フィードバック制御回路がマイクロチップの表面に直接構成され得る。例えば、マイクロチップデバイスとともに組み込まれた微小構成されたAg/AgCl参照電極は、酸化レジーム内でリザーバが完全に開くまでデバイスが活性化リザーバのアノード電位を維持することを可能にする。第二の方法は定電流制御と呼ばれる。名称が示すように、電流がリザーバ活性化の間一定に保たれる。この制御の方法の1つの欠陥は、所定の電流密度に対して1つを超える安定電位が存在することである。しかし、電流密度対電位の挙動が特定の電解質系におけるマイクロチップデバイスについて十分に特徴づけられる場合、酸化レジームにおけるアノードを維持する電流密度は、明らかになる。この場合、電位制御の定電流法は、定電位制御よりも好ましい。なぜなら、定電流制御は参照電極を必要としないからである。
【0044】
(マイクロチップ適用)
受動および能動のマイクロチップデバイスは、多数のインビトロおよびインビボの適用を有する。マイクロチップは、正確に制御された時間および速度で溶液または反応混合物へインビトロで小さな制御された量の化学試薬または他の分子を送達するために使用され得る。分析化学およっび医学的診断は、マイクロチップ送達デバイスが使用され得る分野の例である。マイクロチップは、インビボで薬物送達デバイスとして使用され得る。マイクロチップは、外科技術または注射のいずれかにより患者に移植され得るか、あるいは嚥下され得る。マイクロチップは、医薬品を飲むことを覚えられないかまたは十分に移動し得ない動物またはヒトへの薬物の送達を提供する。マイクロチップは、異なる送達速度および異なる回数での多くの異なる薬物の送達をさらに提供する。
【0045】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照することによってさらに理解される。
【0046】
(実施例1:受動定時薬物放出を伴うマイクロチップ)
受動定時放出デバイス、マイクロチップ10を図4に示す。マイクロチップ10は、基板14から形成される。リザーバ16は、基板14にエッチングされている。リザーバ16に配置されているのは送達のための分子18を含有する放出システムである。リザーバはリザーバキャップ12で蓋がされている。放出システムおよび送達のための分子18は、列20a、20b,,20cの間、および各々の列のリザーバ内で変化し得る。
【0047】
マイクロチップ10は、インビトロ適用のための溶液に挿入され得るか、または身体の選択された部分に移植され得るか、またはインビボ適用のために嚥下され得、そしてさらなる監視を必要とすることなく放置して作動させられ得る。周囲液に曝される場合、リザーバキャップ12は分解し、溶解し、または送達のための分子18を含有する放出システムにたいして透過性になる。
【0048】
図7a〜iは、受動送達デバイスのためのいくつかのさらなる潜在的な構成を示す。
【0049】
(実施例2:能動制御時間放出を伴うマイクロチップ)
能動定時放出を提供する薬物送達デバイスを図5のマイクロチップ100に示す。マイクロチップ100は、マイクロチップ100は、能動定時放出を提供する電極を含むことを除いて、マイクロチップ10に類似する。マイクロチップ100は、基板160、送達のための分子180を含有する放出システム、アノードリザーバキャップ120、およびカソード140から形成される。好ましくは、マイクロチップ100は、インプット源、マイクロプロセッサ、タイマー、デマルチプレクサ、および電源(示していない)をさらに含む。電源は、反応を選択したアノードとカソードとの間の反応を駆動するためのエネルギーを提供する。アノードとカソードとの間小さな電位の適用の際に、電子はアノードからカソードへ外部回路を通って通過して、アノード材料を酸化し、そして可溶性の化合物またはイオンを形成し、周囲液に溶解し、送達のための分子180を含有する放出システムを周囲液へ露出する。マイクロプロセッサはPROM、リモートコントロール、またはバイオセンサによって指示されるようにデマルチプレクサを通って特定の電極対へと電力を指向させる。
【0050】
図6は、アノードとカソードとの間の電位の適用の際にデバイスから能動的に薬物280を放出する、基板260由来のマイクロチップ200の第二の実施態様の模式図である。これは、図5のデバイスとは異なり、絶縁体オーバーレイヤを含む。
【0051】
図8a〜cは、能動送達デバイスについての3つのさらなる潜在的な構成を示す。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、受動送達デバイスのための代表的な製造スキームを示す。
【図2】図2は、能動送達デバイスのための代表的な製造スキームを示す。
【図3】図3は、代表的なデバイス制御回路フローシートを示す。
【図4】図4は、受動送達デバイスを示す。
【図5】図5は、能動送達デバイスを示す。
【図6】図6は、絶縁体オーバーレイヤを含む能動デバイスを示す。
【図7】図7a−iは、受動送達デバイスのいくつかの堆積の模式図である。
【図8】図8a−cは、能動送達デバイスのいくつかの堆積の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子の放出のためのデバイスを製造する方法であって、
基板を提供する工程;
エッチマスクとして使用するために、該基板上に絶縁性材料を堆積させ、そしてパターニングする工程;
該基板中に複数のリザーバをエッチングする工程;
該リザーバに放出システムおよびキャップ材料を充填する工程;および
放出システムおよびキャップ材料をエッチングする工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記リザーバの上の絶縁性材料の薄いフィルムを取り除く工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各リザーバを、異なるタイプおよび量のキャップ材料および、送達される分子を含む放出システムで充填する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記リザーバが、注入、インクジェットプリント、またはスピンコーティングによって充填される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記リザーバが、インクジェットプリントによって充填される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
各リザーバの上の絶縁性材料の薄いフィルムの上に誘電性材料の薄いフィルムを堆積させる工程をさらに包含する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
アノードが各リザーバーの開口部を被覆し、そしてカソードが各アノードの周囲にあるように、誘電性フィルムを電極にパターニングする工程をさらに包含する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アノードが直に前記リザーバの上にあり、そして前記カソードが該アノードの露出された部分の周囲にあることを除いて、各電極の上に材料を堆積させる工程をさらに包含する、請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−96760(P2006−96760A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325452(P2005−325452)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【分割の表示】特願平10−504460の分割
【原出願日】平成9年7月2日(1997.7.2)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ・インスティテュート・オブ・テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】