説明

マイクロニードルデバイスおよびその製造方法

【課題】皮膚に対して小さい力で痛みなく穿刺可能で、穿刺後は薬剤注入または血液、体液等の吸引を円滑に行うことが可能な高品質のマイクロニードルデバイスを提供する。
【解決手段】平坦な基板11の上面に複数の針状突起物12を基板と一体的に整列した構造体であって、針状突起物は内部に基板に対し垂直もしくは略垂直な流体管路15を有し、前記流体管路は境界面から僅かに針状突起物の先端側に近い位置から基板の底面までを貫通して形成され、針状突起物は基板に対して水平もしくは略水平な境界面を境に上下2層の異なる材料からなり、境界面よりも先端側部分の第1の材料14aが人体の皮膚に接触すると溶解する可溶性材料であり、境界面よりも基板側部分の第2の材料14bが人体の皮膚に接触しても溶解しない不溶性材料であり、かつ針状突起物の先端部17は針状突起物の側面よりも小さな傾斜を持つ傾斜平面70が形成された形状を有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロニードルデバイスおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロニードルデバイスは、人体の皮膚を通して薬液を体内に移送する、または体内より血液や体液を吸引する、複数の微細な針状突起物を備えた構造を有する。例えば、特許文献1、2には基板上に複数の微細な針状突起物を形成し、かつ針状突起物に貫通孔を設けたマイクロニードルデバイスにおいて、前記貫通孔の針側の開口部を針状突起物の最先端部に設けた構造のものが開示されている。
【0003】
また、人体の皮膚への穿刺性向上や複製の容易化などの理由から、貫通孔の針側開口部を針状突起物の傾斜面上に設けた構造が多く採用されている(例えば、特許文献3、4参照)。
【0004】
前記貫通孔を有するマイクロニードルデバイスの複製および成形方法は、特許文献2、4に記載されている。すなわち、1つ目の複製および成形方法は針状突起物の反転形状を有する第1のモールド型と、貫通孔の反転形状を有する支柱を針状突起物と同ピッチ設けた第2のモールド型とを対向させ、上下の半型間にシート状の樹脂材料を挟み込むように設置し、熱によって樹脂材料を溶融させつつ、上下の半型間の隙間を狭めて材料をプレスすることによって所定のマイクロニードル形状に成形する方法である。2つ目の複製および成形方法は、予め貫通孔の無いマイクロニードルデバイスを熱プレス等で成形し、貫通孔の反転形状を有する支柱を基板上に設けた剣山状の型を加熱し、剣山状の型の支柱に前記貫通孔の無いマイクロニードルの底面側より突き刺すことによって貫通孔を設ける方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−521222号公報
【特許文献2】特表2003−501161号公報
【特許文献3】特表2004−507371号公報
【特許文献4】特表2006−518675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2のように貫通孔の開口部を針状突起物の最先端部に設けたマイクロニードルデバイスの場合には、構造上、皮膚との接触面積が比較的大きくなる。その結果、穿刺時の抵抗が増加して複数の針状突起物を皮膚内に確実に刺し込むために大きな力が必要となる。その上、穿刺抵抗の増大が痛みを増大させる要因にもなる。さらに、皮膚組織の一部が貫通孔に入り込んで詰まり、薬液の注入または血液、体液等の吸引が非常に困難となる。
【0007】
また、特許文献3、4のように貫通孔の開口部を針状突起物の傾斜面に設けた場合、皮膚との初期の接触面積を小さくできるため、穿刺能力は先端に開口部がある場合に比較して改善が見込める。しかしながら、穿刺後の皮膚内部では周囲に押しのけられた皮膚組織が針状突起物表面に密着するため、貫通孔の開口部が塞がれた状態となり、円滑な薬剤注入または血液、体液等の吸引が行えなくなるという課題がある。
【0008】
さらに、マイクロニードルデバイスの複製および成形方法についても課題がある。例えば、特許文献2、4のように上下に分割されたモールド間にある材料をプレスして最終形状を得るような複製および成形方法の場合では、バリ(型同士の合わせ面の隙間に樹脂が流れ込む現象)が無く一様な貫通孔を形成するために、針状突起物の反転形状を有する窪み部を備えた第1のモールド型の窪み部ピッチと、貫通孔の反転形状を有する複数の細長い支柱を備えた第2のモールド型の支柱ピッチとを高精度で合わせ込む必要がある。
【0009】
また、ピッチのみならず、支柱先端が隙間なく第1のモールド型の針状突起物の反転形状を有する窪み部分に密着していることが重要となる。すなわち、第2のモールド型の支柱上面と第1のモールド型との合わせ面の高さ位置も非常に高い精度が要求される。
【0010】
さらに、成形硬化後の樹脂材料をモールド型より剥離する際に、第1のモールド型の窪み部が先細りの微細な止まり穴形状であるため、その窪み部に充填された樹脂が固着し易くなり、針状突起物の先端部分に破断や塑性変形を生じる課題もある。
【0011】
本発明は、流体管路を有するマイクロニードルデバイスにおいて、皮膚に対して小さい力で痛みがなく穿刺可能で、かつ穿刺後は薬剤注入または血液、体液等の吸引を円滑に行うことが可能な高品質のマイクロニードルデバイスを提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は分割されたモールド型の合わせ部分での高い精度を必要とせずにバリ等が少なく、かつ剥離時の針状突起物の破断や塑性変形が生じることない、高品質なマイクロニードルデバイスを簡単に複製、成形することが可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様によると、
平坦な基板の上面に複数の円錐状または多角錐状の微細な針状突起物を前記基板と一体的に整列した構造体であって、
前記針状突起物は、内部に前記基板に対し垂直もしくは略垂直な流体管路を有し、前記流体管路は前記境界面から僅かに前記針状突起物の先端側に近い位置から前記基板の底面までを貫通して形成され、
前記針状突起物は、前記基板に対して水平もしくは略水平な境界面を境に上下2層の異なる材料からなり、前記境界面よりも先端側部分の第1の材料が人体の皮膚に接触すると溶解する可溶性材料であり、前記境界面よりも基板側部分の第2の材料が人体の皮膚に接触しても溶解しない不溶性材料であり、かつ
前記針状突起物の先端部は、針状突起物の側面よりも小さな傾斜を持つ傾斜平面が形成された形状を有することを特徴とするマイクロニードルデバイスが提供される。
【0014】
本発明の第2の態様によると、
前記第1の態様のマイクロニードルデバイスの製造方法であって、
(a)前記針状突起物の反転形状の窪み部を有する第1のモールド型を準備する工程で、前記第1のモールド型は前記針状突起物の前記傾斜平面を含む境界面で第1、第2の分割モールド型に分割された構造を有し、前記2つの分割モールド型のうち、針状突起物の反転形状を有する側の第1の分割モールド型の窪み部に前記針状突起物の前記傾斜平面で分断される切断面形状の貫通孔を有すること、
(b)前記第1のモールド型における前記第1、第2の分割モールド型の境界面を含む全域に離型処理を施す工程と、
(c)前記第1のモールド型の各窪み部に人体の皮膚に接触すると溶解する可溶性材料からなる第1の材料を一定量充填する工程と、
(d)前記第1のモールド型の上に、前記流体管路の反転形状を有する複数の細長い支柱を備えた第2のモールド型を前記窪み部と前記支柱が同じ位置となるように対向密着させ、これらのモールド型内に目的となる成形物の形状を有するキャビティ空間を形成する工程と、
(e)前記キャビティ空間内の前記第1の材料を硬化させる工程と、
(f)前記キャビティ空間に人体の皮膚に接触しても溶解しない不溶性材料からなる第2の材料を射出充填する工程と、
(g)前記第2のモールド型と前記第1のモールド型とを引き離し、硬化一体化した前記第1および第2の材料による成形物を取り出す工程と、
を含むことを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、流体管路(貫通孔)を有するマイクロニードルデバイスにおいて、皮膚に対して小さい力で痛み無く穿刺可能で、かつ穿刺後は薬剤注入または血液、体液等の吸引を円滑に行うことが可能な高品質のマイクロニードルデバイスを提供することができる。
【0016】
また、本発明によれば分割されたモールド型の合わせ部分での高い精度を必要とせずにバリ等が少なく、かつ剥離時の針状突起物の破断や塑性変形が生じることない、高品質なマイクロニードルデバイスを簡単に複製、成形することが可能な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係るマイクロニードルデバイスを概略的に示す縦断側面図である。
【図2】図1の針状突起物単体の構造を示す斜視図である。
【図3】マイクロニードルデバイスの外観形態例を概略的に示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に係るマイクロニードルデバイスの製造に用いられるモールド型の構造を示す断面模式図である。
【図5】本発明の実施形態に係るマイクロニードルデバイスの製造に用いられるモールド型の構造を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施形態に係るマイクロニードルデバイスの製造に用いられる第1のモールド型における第1の分割モールド型の構造を示す斜視図である。
【図7】図6の第1のモールド型の離型処理状態を示す部分拡大断面模式図である。
【図8】本発明の実施形態に係るマイクロニードルデバイスの製造方法を工程順に示す縦断側面図である。
【図9】本発明の実施形態に係るマイクロニードルデバイスのアプリケータへの装着形態を概略的に示す縦断側面図である。
【図10】本発明の実施形態に係るマイクロニードルデバイスのアプリケータへの装着形態を概略的に示す斜視図である。
【図11】本発明の実施形態に係るマイクロニードルデバイスの皮膚への穿刺および薬液投与の手順を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係るマイクロニードルデバイスおよび製造方法を図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、実施形態に係るマイクロニードルデバイスを示す概略縦側面図、図2は図1のマイクロニードルデバイスの針状突起物単体の構造を示す拡大斜視図である。
【0020】
図1、図2に示すように実施形態に係るマイクロニードルデバイス10は、平坦な基板11に複数の針状突起物12が前記基板11と一体的に整列した構造体である。
【0021】
前記針状突起物12は基本部分が円錐もしくは多角錐形状であり、先端鋭角部分に傾斜平面70を形成した形状を有する。傾斜平面70は、針状突起物12の錐形状を構成する側面と基板11表面とがなす角度よりも小さな角度を持つ。傾斜平面70の角度は、錐形状を構成する側面と基板11表面とがなす角度よりも5〜45°小さいことが好ましい。
【0022】
針状突起物12は、基板11に対して水平もしくは略水平な境界面13を境に上下2層の異なる第1、第2の材料14a,14bで構成されている。なお、略水平とは水平に対し、±30°の範囲で傾いた状態を意味する。また、針状突起物12の内部には基板11に対して垂直もしくは略垂直な流体管路15が形成されている。なお、略垂直とは垂直に対し、±20°の範囲で傾いた状態を意味する。流体管路15は、一端が基板11の底面に開口して開口部16を形成し、他端が針状突起物12の先端側の表面には開口せず、境界面13よりも僅かに先端部17に近い側の位置で止まり穴となっている。
【0023】
針状突起物12を構成する第1の材料14aは、境界面13よりも先端部17側に位置し、人体の皮膚に接触するとその体温で溶解する可溶性の材料で構成される。第2の材料14bは、境界面13よりも基板11側に位置し、人体の皮膚に接触してもその体温で溶解しない不溶性の材料で構成されている。なお、基板11の材料は、針状突起物12の下層の第2の材料(不溶性材料)14bと同じであることが望ましいが、人体の皮膚との接触で不溶であれば、これに限定するものではない。
【0024】
針状突起物12は、基板11の上面からの長さが100〜2000μm、より好ましくは1500〜1800μmであることが望ましい。針状突起物12の第1の材料(可溶性材料)14aで構成される部分の長さは、100〜300μmであることが好ましい。
【0025】
流体管路15の止まり穴位置における内径は、10〜50μmであることが好ましい。流体管路15の開口部16内径は、流動抵抗を減らすために、少なくとも前記止まり穴位置の内径と同じか、隣り合う流体管路15のピッチ間隔以下で可能な限り大きくとることがより望ましい。また、流体管路15自体の内径は、止まり穴位置から開口部16までは段階的もしくはテーパ状に徐々に大きくなることが好ましい。
【0026】
なお、針状突起物12の先端側を構成する第1の材料(可溶性材料)14aは、人体の皮膚内の水分で比較的短時間で溶融すること、生体との適合性および高い安全性が必要となることから、例えばキトサン、ペクチン、アルギン酸塩等が挙げられる。
【0027】
針状突起物12の境界面13よりも基板11側部分および基板11を構成する第2の材料(不溶性材料)14bは、例えばポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリカーボネート樹脂(PC)などの汎用樹脂が挙げられる。また、生体との適合を考慮して、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)などの生分解性の熱可塑性プラスチックも好適である。
【0028】
実施形態に係るマイクロニードルデバイス10は、前述した図1、図2に示す構造に限定されず、例えば以下に説明する図3の(a)〜(c)に示す構造であってもよい。
【0029】
すなわち、図3の(a)は基板11が円形で、針状突起物12が円錐形状を有するマイクロニードルデバイス10の一例を示し、後述する穿刺器具への装着を考慮して基板11の外周縁部分に段差部18が形成されている。
【0030】
図3の(b)は、同様に基板11が円形で、針状突起物12が四角錐形状を有する一例を示している。また、図3の(c)は、基板11が四角形状を有し、針状突起物12が四角錘形状を有する一例を示している。
【0031】
各例とも、針状突起物11が異なる第1、第2の材料14a,14bの2層で構成され、内部に流体管路15を備えている。流体管路15は、針状突起物12の表面には開口していないため、前記針状突起物12の外観は円錐もしくは角錐の先端部分に傾斜平面70を形成された中実構造のように見える。そのため、図3において流体管路15を破線で表した。
【0032】
次に、実施形態に係るマイクロニードルデバイス10の製造方法を図4〜図7および図8の(a)〜(e)を参照して説明する。図4〜図7は、マイクロニードルデバイス10の製造工程の成形に用いるモールド型を詳述する図である。
【0033】
図4は、マイクロニードルデバイスの成形に使用するモールド型の構造を示す断面模式図である。モールド型は、前記針状突起物12の反転形状を有する複数の窪み部21が等ピッチで形成された第1のモールド型20と、前記流体管路15の反転形状を有する複数の細長い支柱31が前記窪み部21と等しいピッチで配置された第2のモールド型30から構成されている。成形時には、第1のモールド型20と第2のモールド型30がパーティング面23で互いに対向密着し、これらのモールド型20,30の内部に目的となる成形物であるマイクロニードルデバイス10の形状を有するキャビティ空間40が形成される。
【0034】
また、第1のモールド型20は前記針状突起物12の反転形状を有する窪み部21の前記傾斜平面70を含む境界面24を境に、第1の分割モールド型20aと第2の分割モールド型20bに分割可能な構造となっている。
【0035】
図5は、マイクロニードルデバイスの成形に使用するモールド型の外観を示す斜視図である。第1のモールド型20のパーティング面23側には、マイクロニードルデバイス10の外形形状を有する円形の段差形状と、その底面には前記針状突起物12の反転形状を有する複数の窪み部21が等ピッチで形成されている。他方、第2のモールド型30のパーティング面23側には、前記流体管路15の反転形状を有する複数の細長い支柱31が前記窪み部21と等しいピッチで配置されている。成形時には、これらのモールド型20、30のパーティング面23同士を密着させる。この密着によって、前記支柱31は前記窪み部21に嵌合される。
【0036】
図6は、第1のモールド型の分割構造を示す斜視図で、第1の分割モールド型20aおよび第2の分割モールド型20bの合わせ面である境界面24が共に上向きになっている状態を示す。第1の分割モールド型20aの境界面24上には、前記針状突起物12の反転形状を有する窪み部21(図示せず)が前記傾斜平面70によって分断された断面形状を有する複数の貫通孔71が配置されている。
【0037】
第1のモールド型20における材料の離型性を向上させる表面処理を図7を参照して詳述する。第1のモールド型20は、境界面24によって第1の分割モールド型20aと第2の分割モールド型20bに分割した状態で表面処理を行うことが可能である。第1のモールド型を止まり穴形状にすると、離型処理が困難になる。図6および図7に示すように第1の分割モールド型20aの微細な窪み部21は、前記貫通孔71から露出するため、離型処理剤の流れ81が発生し、離型処理面80a全域に均等な離型処理が可能になる。また、第2の分割モールド型20bも離型処理面80b全域が露出しているため、同様に均一の離型処理が可能になる。
【0038】
実施形態に係るマイクロニードルデバイスの製造方法を前述した図4〜図7のモールド型に関する記述を参考にし、図8の(a)〜(e)を参照して具体的に説明する。なお、以下の実施形態に係るマイクロニードルデバイス10の製造方法は、好適な一例であり、この方法のみに限定するものではなく、その他の製造方法も適宜適用することが可能である。
【0039】
まず、図8(a)に示すように前記針状突起物12の反転形状の複数の窪み部21を有する第1のモールド型20を用意する。第1のモールド型20は、互に分割可能な第1の分割モールド型20aおよび第2の分割モールド型20bからなり、各分割モールド型20a,20bは前述したように離型処理面80a,80b全域に均等な離型処理が施されている。つづいて、第1のモールド型20の各窪み部21に第1の材料(可溶性材料)14aを微量吐出手段22によって一定量充填する。微量吐出手段22は、ピエゾ方式、電磁ピストン方式のような微量吐出ディスペンサ等が好適である。
【0040】
次いで、図8(b)に示すように前記流体管路15の反転形状を有し、かつ第1のモールド型20の窪み部21と同数、同間隔で配置された複数の細長い支柱31を備えた第2のモールド型30を用意する。つづいて、この第2のモールド型30を第1のモールド型20の上方に対向配置する。この型締めによって、第1のモールド型20の窪み部21と第2のモールド型30の支柱31とが一対一に嵌合し合うように位置決めされ、かつ窪み部21の傾斜表面と支柱31の先端部とが接触することなく僅かな間隔を維持した状態で固定される。このため、第1、第2のモールド型20,30の合わせ部分に目的となる成形物であるマイクロニードルデバイス10の形状を有するキャビティ空間40が形成される。
【0041】
なお、図8の(b)に示す工程における第1の材料14aの充填量は、乾燥硬化後の収縮した状態において前記支柱31の先端部を下回らないように予め調整されている。
【0042】
次いで、図8(c)に示すように前記キャビティ空間40内の第1の材料14aを硬化させる。すなわち、第1の材料14aは人体の皮膚に接触すると溶解する可溶性材料を溶液化したものであり、第1のモールド型20に設けられたゲート32もしくは図示しないベント経路を通して図示しない減圧手段によってキャビティ空間40を減圧することによって、第1の材料14aの脱気を行い、さらに図示しない加熱手段によって第1の材料14aを加熱し乾燥硬化させる。
【0043】
次いで、図8(d)に示すように前記キャビティ空間40に第2の材料14bを射出充填する。すなわち、第1のモールド型20に設けられたゲート32を通して図示しない射出手段により溶融した第2の材料14bをキャビティ空間40に高圧充填する。この充填過程において、射出された第2の材料14bはゲート32からキャビティ空間40の末端へと流れて行き、前記支柱31と前記針状突起物12の反転形状を有する窪み部21との隙間を通じて、既に硬化している第1の材料14aの位置まで到達し、最終的にキャビティ空間40の全域が第1、第2の材料14a,14bによって満たされる。
【0044】
次いで、図8(e)に示すように第1、第2のモールド型20,30から成形物であるマイクロニードルデバイス10を取り出す。すなわち、第2の材料14bの冷却硬化後、初めに第2のモールド型30が第1のモールド型20の上方向へ離れ、支柱31が成形物より抜かれる。つづいて、第1のモールド型20側に残った成形物が第1のモールド型20に組み込まれた排出ピン25によって排出される。取り出された成形物は、周囲のランナー部19を除去することによって、最終形態である平坦な基板11に2層の異なる材料からなる複数の針状突起物12を形成した、前述した図1、図2に示す構造のマイクロニードルデバイス10が得られる。
【0045】
次に、実施形態のマイクロニードルデバイス10の実際の皮膚への穿刺時に使用するアプリケータへの装着形態について説明する。
【0046】
図9は、マイクロニードルデバイス10をアプリケータ50に装着した状態を示す。アプリケータ50は、マイクロニードルデバイス10を直接的に固定するホルダ51と、実際に薬液の注入や血液、体液の吸引を行うシリンジ52とから構成される。
【0047】
ホルダ51は、マイクロニードルデバイス10とシリンジ52とを実質的に結合する異なる内径のフランジ構造を有する支持ベース56と、マイクロニードルデバイス10を支持ベース56に密着固定するためのスリーブ55とから構成される。
【0048】
支持ベース56の大きい側の開口部の外径は、マイクロニードル10の基板寸法に合わせて設定されている。マイクロニードルデバイス10は、その裏面を支持ベース56の開口口元部に密着させた状態でスリーブ55によって固定される。固定の圧力によりマイクロニードルデバイス10と支持ベース56で囲まれたリザーバ空間59は密閉が確保される。
【0049】
支持ベース56の小さい側の円筒部外側には、ロック部57が設けられている。このロック部57によって、マイクロニードルデバイス10を含む支持ベース56とシリンジ52とを漏れなく確実に密着固定する。
【0050】
このような図9に示す構成によれば、シリンジ52内部の薬液58は、リザーバ空間59およびマイクロニードルデバイス10の流体管路15を通して人体の皮膚内に注入可能な状態となる。
【0051】
図10は、前記アプリケータ50の実体を示している。マイクロニードルデバイス10は、ホルダ51を介してシリンジ52に装着可能に設けられている。このようなアプリケータ50において、マイクロニードルデバイス10の針状突起物12部分のみがホルダ51のスリーブ55の円柱形状断面側に突出したような形態となるため、通常の注射針と比較して針を差し込む深さおよび角度に細かく配慮することなく、スキルレスに穿刺可能になる。
【0052】
次に、マイクロニードルデバイス10を用いて実際に皮膚に穿刺して、薬液を体内に投与する状況を図11の(a)〜(d)を参照して説明する。
【0053】
最初に、図11の(a)に示すようにホルダ51に装着されたマイクロニードルデバイス10を皮膚60に穿刺する。皮膚60は、表面の角質層を含む表皮61(厚さ0.2mm程度)と、毛細血管や神経、汗腺などがある真皮62(厚さ1.5〜2.0mm程度)、およびその下の主に脂肪等からなる皮下組織63で構成される。第1の材料(可溶性材料)14aからなる針状突起物12の先端部17は、未だこの時点では溶融しておらず、鋭角な状態を保っているため、比較的硬い表皮61を容易に貫くことが可能である。
【0054】
次いで、図11の(b)に示すようにマイクロニードルデバイス10の針状突起物12は表皮60に貫通して、真皮62もしくは皮下組織63の上面まで達する。この状態を僅かな時間維持することで、第1の材料14aからなる針状突起物12の先端部17が皮膚内に溶融し始める。
【0055】
次いで、図11の(c)に示すように第1の材料14aからなる針状突起物12の先端部17のほぼ全体が溶融し、針状突起物12内の流体管路15が皮膚60内に露出する。その結果、体内とリザーバ空間59とがマイクロニードルデバイス10の流体管路15を通して直接導通する。この状態で図示しないシリンジの加圧することによって、リザーバ空間59内に満たされた薬液58を小さい力で容易に体内に注入することが可能になる。
【0056】
次いで、図11の(d)に示すようにマイクロニードルデバイス10を皮膚60から引き抜いく。引き抜き直後には、皮膚60に穿刺痕65として微細な穴が残るが、通常、短時間でこの穴は塞がり、注入した薬液58などの流出は殆ど起きない。
【0057】
以上説明したように実施形態に係る本発明のマイクロニードルデバイスによれば、平坦な基板11上に複数の針状突起物12を基板11と一体的に整列して形成した構造体であり、人体を含む生体の皮膚に針状突起物12を穿刺することによって内部に設けた流体管路15を通して体内に薬液を移送することが可能となり、体内からの血液、体液等を吸引することも可能なマイクロニードルデバイス10を提供することができる。
【0058】
また、前記針状突起物12の先端部17には針状突起物12を構成する側面よりも小さな傾斜を持つ傾斜平面70が形成された形状を有し、前記針状突起物12内部の流体管路15がその先端側には開口することなく、前記基板11の底面のみ貫通する構造であるため、前記針状突起物12の表面は連続面で覆われた一体の鋭利な針形状とすることができる。その結果、皮膚への穿刺は小さい力で円滑に行うことができるようになり、穿刺に伴う痛みも大幅に低減することが可能となる。
【0059】
さらに、針状突起物12は基板11に対して水平もしくは略水平な境界面13を境に上下二層の異なる材料から形成され、前記境界面13より上側の第1の材料14aが人体の皮膚に接触すると溶解する可溶性材料であり、前記境界面13より下側の第2の材料14bが人体の皮膚に接触しても溶解しない不溶性材料で構成され、針状突起物12内部の流体管路15の未開口側の位置が境界面13から僅かに針状突起物12の先端側に近い位置とすることによって、穿刺後は針状突起物12の先端部17が皮膚内で溶融し、流体管路15が皮膚内で開口、露出し、基板11裏面すなわち皮膚外部、から皮膚内部までが流体管路15を通して導通された状態になるため、体内への薬液の移送、または体内からの血液、体液の吸引を非常に円滑かつ効率的に行うことが可能となる。
【0060】
実施形態に係るマイクロニードルデバイスの製造方法によれば、(a)針状突起物12の反転形状の窪み部21を有する第1のモールド型20を準備する工程で、前記第1のモールド型20は針状突起物12の傾斜平面70を含む境界面で第1、第2の分割モールド型20a,20bに分割された構造を有し、前記2つの分割モールド型20a,20bのうち、針状突起物12の反転形状を有する側の第1の分割モールド型20aの窪み部21に針状突起物12の傾斜平面70で分断される切断面形状の貫通孔71を有すること、(b)第1のモールド型20における第1、第2の分割モールド型20a,20bの境界面を含む全域に離型処理を施す工程と、(c)第1のモールド型20の各窪み部21に人体の皮膚に接触すると溶解する可溶性材料からなる第1の材料14aを一定量充填する工程と、(d)第1のモールド型20の上に、前記流体管路15の反転形状を有する複数の細長い支柱31を備えた第2のモールド型30を、窪み部21と支柱31が同じ位置となるように対向密着させ、これらのモールド型20,30内に目的となる成形物の形状を有するキャビティ空間40を形成する工程と、(e)キャビティ空間40内の第1の材料14aを硬化させる工程と、(f)キャビティ空間40に人体の皮膚に接触しても溶解しない不溶性材料からなる第2の材料14bを射出充填する工程と、(g)第2のモールド型30と第1のモールド型20とを引き離し、硬化一体化した第1および第2の材料14a、14bからなる成形物を取り出す工程とを含む。このために、基板11上面に複数の針状突起物12を基板11と一体的に整列した構造体のマイクロニードルデバイス10を容易に製造することができる。
【0061】
また、第1のモールド型20は針状突起物12の傾斜平面70を含む境界面を境に2つの分割モールド型20a,20bからなり、針状突起物12の反転形状を有する側の第1の分割モールド型20aの窪み部に針状突起物12の傾斜平面70で分断される切断面形状の貫通孔を有するため、予めモールド型の離型性を向上させる表面処理において、前記分割モールド型20a,20bを分離した状態でそれぞれ処理を行うことができる。その結果、針状突起物12の反転形状を有する微細な溝部先端部17まで離型処理を十分に行うことが可能となる。従って前記製造工程(g)において、成形硬化後の樹脂材料を第1のモールド型20より剥離する際に、材料が第1のモールド型20に固着し難くなり、針状突起物12部分に破断や塑性変形を生じることなく、高品質のマイクロニードルデバイス10を安価かつ容易に製造することができる。
【0062】
特に、前記工程(d)において第2のモールド型30の支柱31の先端部が、充填された第1の材料14a内に少なくとも僅かに沈み込み、かつ第1のモールド型20の窪み部21の側壁には接触しない位置に保たれているために、第1のモールド型20の窪み部21と第2のモールド型30の支柱31との間に高い位置合せ精度が必要なくなり、針状突起物12および内部の流体経路15部分にバリ等が発生することを回避できる。
【0063】
また、前記工程(e)において,キャビティ空間40内を減圧および加熱することによって、第1の材料14aの脱泡および乾燥硬化を促進させることが可能となるため、成形時間の短縮および品質の向上を達成することができる。
【符号の説明】
【0064】
10…マイクロニードルデバイス、11…基板、12…針状突起物、13…境界面、14a…第1の材料(可溶性材料)、14b…第2の材料(不溶性材料)、15…流体管路、16…開口部、17…先端部、20…第1のモールド型、20a…第1の分割モールド型,20b…第2の分割モールド型、21…窪み部、30…第2のモールド型、31…支柱、40…キャビティ空間、50…アプリケータ、51…ホルダ、52…シリンジ、55…スリーブ、56…支持ベース、57…ロック部、58…薬液、59…リザーバ空間、70…傾斜平面、71…貫通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦な基板の上面に複数の円錐状または多角錐状の微細な針状突起物を前記基板と一体的に整列した構造体であって、
前記針状突起物は、内部に前記基板に対し垂直もしくは略垂直な流体管路を有し、前記流体管路は前記境界面から僅かに前記針状突起物の先端側に近い位置から前記基板の底面までを貫通して形成され、
前記針状突起物は、前記基板に対して水平もしくは略水平な境界面を境に上下2層の異なる材料からなり、前記境界面よりも先端側部分の第1の材料が人体の皮膚に接触すると溶解する可溶性材料であり、前記境界面よりも基板側部分の第2の材料が人体の皮膚に接触しても溶解しない不溶性材料であり、かつ
前記針状突起物の先端部は、針状突起物の側面よりも小さな傾斜を持つ傾斜平面が形成された形状を有することを特徴とするマイクロニードルデバイス。
【請求項2】
前記第1の材料は、キトサン、ペクチン、アルギン酸塩から選ばれることを特徴とする請求項1記載のマイクロニードルデバイス。
【請求項3】
前記第2の材料は、汎用樹脂またはポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸から選ばれることを特徴とする請求項1または2記載のマイクロニードルデバイス。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか1項記載のマイクロニードルデバイスの製造方法であって、
(a)前記針状突起物の反転形状の窪み部を有する第1のモールド型を準備する工程で、前記第1のモールド型は前記針状突起物の前記傾斜平面を含む境界面で第1、第2の分割モールド型に分割された構造を有し、前記2つの分割モールド型のうち、針状突起物の反転形状を有する側の第1の分割モールド型の窪み部に前記針状突起物の前記傾斜平面で分断される切断面形状の貫通孔を有すること、
(b)前記第1のモールド型における前記第1、第2の分割モールド型の境界面を含む全域に離型処理を施す工程と、
(c)前記第1のモールド型の各窪み部に人体の皮膚に接触すると溶解する可溶性材料からなる第1の材料を一定量充填する工程と、
(d)前記第1のモールド型の上に、前記流体管路の反転形状を有する複数の細長い支柱を備えた第2のモールド型を前記窪み部と前記支柱が同じ位置となるように対向密着させ、これらのモールド型内に目的となる成形物の形状を有するキャビティ空間を形成する工程と、
(e)前記キャビティ空間内の前記第1の材料を硬化させる工程と、
(f)前記キャビティ空間に人体の皮膚に接触しても溶解しない不溶性材料からなる第2の材料を射出充填する工程と、
(g)前記第2のモールド型と前記第1のモールド型とを引き離し、硬化一体化した前記第1および第2の材料による成形物を取り出す工程と、
を含むことを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項5】
前記工程(d)において前記第2のモールド型の前記支柱の先端部が充填された前記第1の材料内に少なくとも僅かに沈み込み、かつ前記第1のモールド型の前記窪み部の側壁には接触しない位置に保たれていることを特徴とする請求項4記載のマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項6】
前記製造工程(e)において、前記キャビティ空間内を減圧および加熱することにより、前記第1の材料を脱泡および乾燥硬化させることを特徴とする請求項4記載のマイクロニードルデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−94224(P2013−94224A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236992(P2011−236992)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】