説明

マイクロニードルデバイスの製造方法

【課題】薬剤が定量的にかつ選択的に、マイクロニードルデバイスの針状等の突起部にコーティングするマイクロニードルデバイスの製造方法の提供。
【解決手段】薬液の状態を調整する薬液調整工程、薬液供給ノズルをマイクロニードルデバイスの突起部に位置合わせ、制御する第1の位置決め制御工程、分注した薬液を保持した薬液供給ノズルとマイクロニードルデバイスの突起部とを、分注した薬液と前記突起部とが接触可能な近接位置に相対的に移動制御する第2の位置決め制御工程、及び定量の薬液を薬液供給ノズルの開口部に分注制御し、分注した薬液と前記突起部とが接触し、かつ前記突起部に薬液を転着させる薬液転着工程を含むマイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量転着する方法において、該吐出ヘッドのノズル開口部に分注する薬液の粘度、温度状態を調整し、薬液を定量分注可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にマイクロニードルデバイスと呼ばれる薬剤の経皮吸収を促進するために提案されたデバイスの製造方法に関するものである。
本発明は、具体的には、マイクロニードルデバイスに形成された数十μm〜数mmの高さを有し、皮膚の最外層である角質層を貫通できる針状等の形状を有する突起部に分注した薬液を接触、転着することにより、マイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薬剤の投与方法として、経口投与と非経口投与の方法がある。しかし、経口投与は、消化器系を経由するので、薬剤の種類によっては患部へ効果的に到達しないなどの問題がある。また、非経口投与の一例である注射による投与は、注射針により皮下、筋肉などに直接薬剤を注入することが行われ、通常痛みを伴うなどの問題や、皮膚が損傷するなどの問題がある。
そこで、非経口投与であって、苦痛が少なくかつ広範の薬剤にも利用できる皮膚から薬剤を投与する経皮投与が求められ、開発が進められている。
【0003】
薬理活性物質等の薬剤を身体に投与する非経口投与方法として、塗り薬や貼り薬などの経皮投与がある。これらの経皮投与は、簡便であり、かつ長時間かけて投与量を調整することで、ある程度投与量を制御できるという利点がある。しかし、これらの方法では、角質層は新油性の強い薬剤であればある程度の浸透が可能であるが、親水性の薬剤では角質層のバリア機能によって浸透が妨げられてしまい、効果的な投与が困難である。
【0004】
このように、経皮経路で薬理活性物質等を投与する場合、角質層の機能によって、多くの薬理活性物質等の皮膚からの浸透性、透過性が制限を受けている。
このため、経皮吸収型の薬理活性物質等は、比較的皮膚からの浸透性、透過性の高いものが選択されており、皮膚からの浸透性、透過性の低い薬理活性物質等の経皮投与への適用は難しいとされている。
【0005】
そこで、近年、広範な薬理活性物質等を経皮投与する方法として、痛みが低減され、あるいは無痛である、微細な針状等の突起部を多数具備するマイクロニードルデバイスを用いて薬剤を経皮投与する方法が提案され、開発が進められ、注目を集めている。
このマイクロニードルデバイスは、微細な針状等の突起部により、バリア機能を有する角質層を穿刺し、表皮/あるいは真皮中に直接薬剤を投与することで、広範な薬理活性物質等の経皮投与を可能としたものである。針状等の突起部は様々な形状あるいはサイズにしたものが提案されており、非侵襲的な薬剤の投与方法、かつ従来のパッチ方式の鎮痛剤などの経皮投与とは異なり皮下注射の代替方法としても期待されている。
【0006】
このようなマイクロニードルデバイスを成型する方法としては、金型を用いインプリント法によってポリマー材料を成型する方法(特許文献1)やフォトリソグラフィによってレジストをマイクロニードルの針状等の突起部を加工する方法(特許文献2)、シリコン基板をドライエッチングやウエットエッチングすることで所望の形状に加工する方法(特許文献3)などが提案されている。
【0007】
一方で、マイクロニードルデバイスを用いて薬剤を経皮投与する際の薬剤の適用方法として、マイクロニードルデバイスの構造を溝や中空部分を含む形状とし、薬剤あるいは生体成分を透過可能とする方法(例えば特許文献4)、マイクロニードルデバイスを形成する材料内に薬剤を混合して成型し、体内で溶解させたり徐放させたりする方法(例えば非特許文献1)、マイクロニードル表面に薬剤単体、もしくはバインダー樹脂とともに、コーティングする方法(例えば特許文献5、6)など、様々な方法が提案されている。
【0008】
特許文献4に記載の直接薬液を微細な溝や中空部分を通じて浸透、供給するものでは、微細な溝や中空部分を多数にし、薬液を多量に継続的に注入できるものの、何れも高さ数十〜数百マイクロメートル程度の非常に小さな突起物を備えたデバイスであるため、溝や中空に形成することから、形成できる溝や貫通孔を微細化するには限りがあり、精緻な微細加工技術を必要とし、製造上のコスト高、効率的な薬液投与の困難性、薬液の孔や溝中への残留など解決すべき課題が多々あるのが現状である。
【0009】
薬液を針状部にコーティングするタイプのマイクロニードルデバイスにおいて、特許文献5に記載のスクリーン印刷方式によってニードル部にのみコーティングしているものがある。しかし、スクリーン版方式の孔の部分には常に一定量の薬液が一定の物性で充填される必要がある。
【0010】
スクリーン印刷方式では、薬液中の溶剤が揮発・乾燥したりして、粘度が僅かに変化するだけでもコーティングの定量性が悪化することが想定される。そのため、製造時の環境は温湿度を正確に管理しながら行う必要があり、製造が煩雑である。
また、スクリーン印刷方式では、孔に充填するために版上の全面にスキージを用いてコーティングするため、ムダになる薬液量が多いことが想定される。さらに、孔に充填された薬液は、マイクロニードルデバイスのニードル部にその一部が転写されるものであり、しかも、その転写量の調整は、薬液の状態、充填の加減などいろいろな要因が関与し、非常に困難で未だ所定量の薬液を制御してニードル部に塗着することは困難な状況である。
【0011】
特許文献6に記載のディップコーティング法による薬剤のマイクロニードルデバイスの突起部へ選択的に適用するものにあっては、投与時に正確な量の薬剤を針状等のニードル部のみに付着させようと試みられている。しかしながら、特許文献5と同様に、定量の薬剤をコーティングするには、一定量の薬剤が一定の物性で管理される必要がある。さらに、針状等の突起部のみを浸漬させる際に、正確に浸漬させるため精密な位置制御を行わなければならない。
ディップコーティング法では、その他にも、引き上げる速度の変化や引き上げ時に振動があるとコーティング量が変化することもあり、やはり製造が煩雑になる。
【0012】
薬剤は非常に高価なもの、加熱や冷却に弱いもの(例えばワクチン等)である。その上、マイクロニードルデバイスを用いた経皮投与では、体内に吸収される薬剤は、ニードル部にコーティングされている薬剤が有効に作用すると想定される。
上記したいろいろな試みのように、従来のマイクロニードルデバイスの薬剤の塗布方法では、前記デバイス全体に単に薬剤を塗布するものであり、無駄となる薬剤を生じさせることなく、最小限の薬剤を用いてマイクロニードルデバイスのニードル部のみに薬剤を塗着するという試みはあるものの、薬剤のムダあるいは量的に正確な制御を実現するには至っていなかった。
以上のことから、できる限り、薬剤が変質することのないように加熱や冷却をすることなく、また、薬剤の適用をニードル部のみに正確な量を制御して塗着することが求められる。
【0013】
また、非特許文献1のようにマイクロニードルデバイスの成型加工と同時に薬剤を成形材料に混入するのは、薬剤がムダに消費すること、経皮吸収の際に身体内に吸収されず、突起部等に残留すること、成形時に薬剤が変質することなど適正な薬剤投与を実現することが困難なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006−341089
【特許文献2】特開2008−46507
【特許文献3】特開2008−35874
【特許文献4】特開2008−154849
【特許文献5】WO2008/139648
【特許文献6】WO2006/138719
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Adv.Mater.2008,20,pp933〜938
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
先行技術等の状況を考慮したとき、成形されたマイクロニードルデバイスに対して適用薬剤を、吸収に関わる針状等の突起部に選択的にコーティングする塗着方法が、省資源、低コストなど生産が効率的であり、また、正確な量の薬剤を確実に突起部に付着させることにより、安定的に身体内に薬剤を吸収することを可能にすることから、有効な手法として着目され、そのような塗着方法が望まれている。
【0017】
したがって、本発明は、上記従来技術の方法の状況に鑑み、薬剤が定量的にかつ選択的に、マイクロニードルデバイスの針状等の突起部にコーティングすることを実現し、また、前記突起部にのみ薬剤を適用することにより、薬剤の使用量を少なくし、かつ付着させようとした正確な薬剤の量を突起部に塗着させる方法を実現させようとするものである。
【0018】
さらに、簡易なコーティング環境下で外部環境に影響されることの少ない安定的に生産できるコーティング方法を提供するものである。
しかも、コーティングの方法を維持管理するために費用が掛からない、低コストで歩留まりに優れた生産性の高いコーティング方法及び、低コストで優れた経皮吸収性を発揮するマイクロニードルデバイスを提供することである。
【0019】
本発明は、具体的には、薬剤を含有する薬液を、薬液の状態を調整し、薬液供給ノズルの開口部に薬液を定量分注し、その分注した薬液と、多数の突起部を有するマイクロニードルデバイスの突起部を接触させ、マイクロニードルデバイスの突起部に薬液を転着させることにより、薬剤を正確にかつ迅速に定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、従来の問題点を解決すべく種々検討の結果、薬理活性物質等の薬剤を含有する薬液を所定の薬液の状態とすることにより、薬液をノズル開口部に精度良く所定量を分注し、マイクロニードルデバイスの突起部のみに薬剤を液ダレなく、正確にかつ確実に塗着でき、しかも、迅速かつ効率的に定量塗着を繰り返し行うことができることを見出した。このような塗着方式を行える装置として、例えばディスペンサ装置を用いることができる。
【0021】
本発明は、ディスペンサ薬液分注装置を採用したことにより、薬液の薬液収容室から薬液供給ノズル開口部までの薬液供給を密閉系で取り扱い、所定の薬液の状態に調整、制御し、かつ分注した微量から比較的多めの量の薬液を、確実にかつ高精度で分注制御可能とし、さらに、分注した薬液を安定した状態で接触、転着することで正確な量を選択的にコーティングすることを可能とするものである。
【0022】
以上のようにして、本発明は、定量分注した薬液をマイクロニードルデバイスの微小な突起部に確実に転着しかつ使用する薬剤を低減できるものであり、簡易なコーティング環境下で安定的に生産できる、低コストで、生産性の高いマイクロニードルデバイスの製造方法を提供し、従来の問題点等を解決したものである。
【0023】
本発明は、具体的には、薬液の状態を調整し、かつディスペンサ薬液分注装置を用いて薬液の供給を制御し、ノズル開口部に薬液を定量分注し、分注した薬液をマイクロニードルデバイスの突起部に接触させ、転着させる塗着方法を採用したものであって、薬液の状態を調整する薬液調整工程、薬液供給ノズルをマイクロニードルデバイスの突起部に位置合わせ、制御する第1の位置決め制御工程、分注した薬液を保持した薬液供給ノズルと、マイクロニードルデバイスの突起部を、分注した薬液と前記突起部が接触可能な近接位置に相対的に移動制御する第2の位置決め制御工程、及び定量の薬液を薬液供給ノズルの開口部に分注制御し、分注した薬液と、前記突起部が接触し、かつ前記突起部に薬液を転着させる薬液転着工程を含むことにより、マイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着するマイクロニードルデバイスの製造方法により解決したものである。
【0024】
本発明は、該薬液分注装置を用い、精緻な吐出位置制御と、薬液の精密な分注量の制御により、ノズル開口部に分注制御した定量の薬液の全量をマイクロニードルデバイスの針状等の突起部の先端部から基端部のみに選択的に塗着することができるものである。
【0025】
また、本発明は、マイクロニードルデバイスの微細な針状等の突起部の先端部から基端部にかけて微量の薬液から比較的多めの薬液までの幅広い塗着を実現でき、取り巻く環境に影響されずに、正確にかつ簡単に適正な塗着条件を設定して自由度の高い塗着を、薬液の状態(:例えば、粘度、分注した薬液の大きさ)を制御することにより実現するものである。
【0026】
正確な量を針状等の突起部にコーティングし、かつ使用量を少なくした上で、簡易なコーティング環境下で安定的に生産でき、低コストで生産性の高いマイクロニードルデバイスの製造方法をこのディスペンサ装置による薬液を定量分注し、接触転着方式による塗着方法を採用することにより、実現したものである。
また、必要投与量の薬剤が経皮吸収に有効な針状等の突起部の先端部から基端部に付着した経皮吸収用マイクロニードルデバイスを実現したものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明のディスペンサ装置を採用して定量分注した薬液をマイクロニードルデバイスの突起部に選択的に接触転着する方法では、状態を調整した薬液を薬液供給ノズルの開口部に定量分注し、分注した薬液とマイクロニードルデバイスの突起部を接触させ、薬液を前記突起部に転着することにより、該突起部上に薬剤のコーティング層を形成するための薬液のムダを省き、容易に先端部に薬剤のコーティング層が形成されている突起部を得ることができる。
【0028】
本発明の薬剤を塗着する方法は、該ディスペンサ薬液分注装置を用いて薬液供給ノズルの開口部に分注される薬液を薬液分注装置により分注される薬液の大きさが所定の値になるように吐出条件を調節するようにしたので、薬液の分注する量を高精度に管理することができるため、均一な量の薬液を転着する突起部に選択的に塗着することができる。
【0029】
さらに、ディスペンサ薬液分注装置により分注される薬液の大きさが高精度に管理でき、かつ微量の薬液から比較的多めの薬液までの幅広い分注を高精度で制御可能であることにより、幅広い薬液及び塗着条件に適用できる塗着方法を実現できる。
【0030】
高精度に定量分注した薬液を突起部に接触、転着するものであり、分注した薬液を接触によってマイクロニードルデバイスの突起部に移すことができるので、選択的に正確に必要量の薬剤を塗着でき、かつマイクロニードルデバイス全面に薬液をコーティングするのと比較して使用する薬剤を大幅に低減できる。
【0031】
また、ディスペンサ薬液分注装置の使用により、薬液供給経路が密閉系の供給経路から構成され、かつ供給系全体が比較的コンパクトに集約できることにより、薬液の状態を調整し易く、その状態を維持できる。そのことにより、粘度、温度、濃度などの薬液の状態を容易に管理することができる。さらに、薬液の状態の変化が塗着結果に影響しやすい微量の薬液転着において、接触、転着により薬液を突起部に塗着できることにより、薬液の状態が転着するまでの一連の工程を安定した状態で実行でき、再現性のよい塗着が得られる。
【0032】
本発明は、ディスペンサ薬液分注装置を採用したとことにより、供給系及び吐出系の全体をコンパクトに形成することができ、かつ正確な分注量の制御及び位置制御などの機械制御を実現できることから、装置内の供給系及び吐出系の経路内に無駄な薬液が残留することを少なくすることができる。
【0033】
本発明のディスペンサ薬液分注装置を用いた定量分注、接触、転着による塗着方法は、マイクロニードルデバイスの突起部上のみに選択的に正確な量の薬剤をコーティングし、かつ高価な薬剤の使用量を低減した上で、安定したコーティングを実現できるものであり、歩留まりも良く、生産性に優れ、安定したマイクロニードルデバイスの製造を実現できる。
【0034】
そして、本発明の方法により製造される経皮吸収用マイクロニードルデバイスは、薬理活性物質等の薬剤塗着量の精度が高く、正確かつ確実に経皮吸収に有効な突起部のみに薬剤が選択的に定量塗着されているものであることが確認された。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明のマイクロニードルデバイスの突起部に分注した薬液を接触、転着することにより、該突起部に薬剤を定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法の実施の形態の一例を説明する。
なお、以下の本発明の実施形態は、本発明の一態様を示すものであり、当然のことながら、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0036】
本発明は、薬液の定量塗着する方法として、ディスペンサ装置を採用して薬液を薬液供給ノズルの開口部に定量分注するとともに、該定量分注した薬液とマイクロニードルデバイスの針状等の突起部を接触させ、該突起部に薬液を転着することにより、マイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法によりマイクロニードルデバイスを製造するものである。
その経皮吸収用マイクロニードルデバイスは、基本的な構造として、マイクロニードルデバイス基材と、該基材上に皮膚を穿孔可能な二次元状に配置された複数のマイクロニードルである針状等の突起部を有する。さらに、針状等の突起部には、マイクロニードルデバイスによって身体内へ経皮吸収される薬理活性物質等の薬剤が上記した方法により定量塗着している。
【0037】
針状等の突起部は、経皮吸収用マイクロニードルデバイスにより身体内に薬剤を経皮吸収させるために皮膚の角質層を穿刺するためものである。
針状等の突起部の形状は、穿刺に好ましい形状であることが望ましい。しかし、針状等の突起部は、ミクロン単位の微細突起体であることから、その形状は、特に限定されず、例えば、円錐状又は角錐状などの各種錐形状、円柱状や角柱状などの柱状、及びこれらに準ずる形状であってよく、あるいは別の形状でもよい。
【0038】
針状等の突起部上には、薬理活性物質等の薬剤が保持されている。マイクロニードルデバイスの突起部に薬液を保持しやすいように、例えば、前記突起部の頂部又は側部に凹所又は切り欠きを形成した形状とし、薬液を収容保持し、液ダレを防止できるようにしてもよい。
【0039】
また、突起部の表面に多数の微細な多孔又は凹凸を有するようにしてもよい。いずれにしても、突起部に薬液を確実にかつ効率よく保持するようにして、薬液が経皮吸収に関与する突起部のみに塗着しているように形成することは、本発明の目的と合致するものであり、その塗着効率を向上する限り、これに限定されない。
【0040】
該突起部は、薬理活性物質等の薬剤投与先を穿刺するために設けられるものであり、少なくとも1つあればよいが、薬剤供給効率を重視すれば、多数形成することが望ましい。突起部の列は、列内の突起部の空間に対し実質等しい距離だけ離れているものであってもよいし、なんらかの規則性をもって配列されていてもよい。突起部は、例えば、格子状、最密充填配列、同心円状、ランダムなどの配列を採用できる。その配列の仕方は限定されない。
【0041】
針状等の突起部の密度は1〜5cm2の面積中に10から10000本の密度を有することが好ましい。10本以上の針密度があると、経皮吸収で適用される薬理活性物質等の薬剤を効率よく、必要量投与することができ、また10000本を超える突起部の密度では、ニードル同士の間隔が狭くなり成型加工が困難になることがある。
【0042】
針状等の突起部の基端部の寸法は、突起部の全体形状、薬剤供給デバイスの用途などに応じて決定することができる。具体的には、人の皮膚に適用する場合、突起部の基端部の径は、穿刺する際の突起部の先端部との関係で決まるものであり、突起部の基端部の径は20μm〜3mm程度であってよい、50〜1000μmであることが好ましい。
【0043】
該突起部の高さ(長さ)は、無痛針としての機能を保持するために、皮膚における角質層の厚さ以上、表皮の厚さ以下とすることが好ましい。また、痛みを軽減する観点から、突起部の先端が鋭く尖った高さアスペクト比の構造であることが好ましい。具体的には、突起部の高さは、50〜1500μmの範囲が好ましい。突起部の先端の径は、0.5〜50μmが好ましい。
【0044】
該突起部は、微小構造であり、突起部の高さ(長さ)を、50μm以上とするのは薬理活性物質等の経皮からの投与を確実にするためであり、1500μm以下とするのは突起部による痛みの可能性を減少させることができると同時に出血の可能性を回避するためである。また、その長さが50〜1500μmであると、皮内に入る薬理活性物質等の量を効率良く投与することができる。
【0045】
マイクロニードルデバイスの基材は、多数の針状等の突起部を保持するものであり、その形状及び構造は、突起部を支持できるものであれば、特に限定されるものではなく、基板の厚さは、その目的により適宜設定可能であり、使用する用途に応じて適宜決定すればよく、経皮吸収用マイクロニードルデバイスとして機能できるような厚さに設定すればよい。さらに、省資源、省コスト化を考慮すると、薄く形成するのが望ましい。
【0046】
そして、マイクロニードルデバイスが人の皮膚に針状等の突起部を穿刺すること及び製造効率から、該基材と前記突起部は、一体成形するのがよい。しかし、マイクロニードルデバイスの基材とマイクロニードル部とは製造する際に別体であってもよい。
【0047】
マイクロニードルデバイスの基材の材料は、突起部を支持でき、皮膚へ突起部を穿刺することを可能にするものであれば、特に材料は限定されるものではなく、例えば、合成樹脂、天然樹脂、金属、セラミックなど、公知の材料を用いることができる。
【0048】
ニードルである針状等の突起部の材料は、基本的には、基板と同様、特に限定されず、基板と同じ材料を用いることができる。人の皮膚に突起部を穿刺し、薬剤を供給するマイクロニードルデバイスの突起部であり、突起部の折れなども生じることも考慮するならば、合成樹脂、天然樹脂、金属などの材料の中から、特に、生体への刺激が少ない材料、あるいは生体への親和性又は適合性のある材料を用いて作製されることが望ましい。
【0049】
針状等の突起部の材料として好ましい材料は、具体的には、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリメタクリル酸、エチレンビニルアセテート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオキシメチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の合成樹脂素材、澱粉、セルロース、ゼラチン、ポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリ乳酸−co−ポリグリコリド、プルラン、ヒアルロン酸、マルトース、フルクトース、デキストリンの単糖類、多糖類など糖類、カプロノラクトン、ポリ無水物等の生分解性ポリマーまたは天然樹脂素材、あるいはチタン、シリコンなどを挙げることができる。
【0050】
本発明のマイクロニードルデバイスは、針状等の突起部に薬理活性物質等の薬剤コーティングを有するものである。
薬理活性物質等の薬剤は、本発明のマイクロニードルデバイスにより、皮膚の表皮に突起部に付着した薬剤が接触することにより皮膚に薬剤が付着し、表皮内へ浸透することにより所定の薬剤が投与される。
【0051】
その薬理活性物質等の薬剤として、例えば、タンパク質、ポリペプチドなどのペプチド類、DNA、RNAなどの核酸、インフルエンザ、風疹、麻疹、百日咳、おたふくなどのワクチン、抗生物質、インシュリン、ペパリン、ニトログリセリン、喘息薬、鎮痛剤・医療用麻薬、局所麻酔剤、抗アナフェラキシー薬、皮膚疾患用薬、睡眠導入薬、ビタミン剤、禁煙補助剤、美容薬(例えばヒアルロン酸)等を挙げることができる。なお、薬剤は単独でも2種以上併用してもかまわない、薬剤として許容できる塩であれば、無機塩あるいは有機塩のいずれの形態でもかまわない。さらに、薬剤は、薬理学的に許容される担体などを含むものであってもよく、薬理学的に許容される担体として、賦形剤、希釈剤、滑沢剤、結合剤、安定剤などから適宜選択されるものが挙げられる。
【0052】
マイクロニードルデバイスの製造方法としては、樹脂又は金属を成形材料として用いての機械切削加工、射出成型加工、ホットエンボス加工、放電加工、レーザー加工、ダイシング加工等の精密成形加工、シリコン基板を用いたウエットエッチング加工又はドライエッチング加工等を挙げることができる。
これらの成形加工法により、突起部と該突起部を支持する基材は、一体に成形するか、別々に形成することができる。
【0053】
次に、以下、本発明に係るマイクロニードルデバイスの製造方法において、マイクロニードルデバイスの突起部のみに選択的に薬理活性物質等の薬剤を含む薬液を接触し、転着する塗着方法について説明する。
【0054】
本実施形態のマイクロニードルデバイスの製造工程は、マイクロニードルデバイスの材料を準備し、基材を成形する工程、成形した基材に針状等の突起部を成形する工程、及び該形成した突起部に薬理活性物質等の薬剤を含有する薬液を塗着する工程を有するものであって、特に、形成した突起部に薬理活性物質等の薬剤を含有する薬液を塗着する工程が、薬剤を含有する薬液を、薬液の状態を調整し、薬液供給ノズルの開口部に薬液を定量分注し、その分注した薬液と多数の突起部を有するマイクロニードルデバイスの突起部を接触させ、マイクロニードルデバイスの突起部に薬液を転着することにより、マイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着する方法を採用したものである。
【0055】
本実施形態のマイクロニードルデバイスの製造工程は、具体的には、薬液の状態を調整する薬液調整工程と、薬液供給ノズルをマイクロニードルデバイスの突起部に位置合わせ、制御する第1の位置決め制御工程、分注した薬液を保持した薬液供給ノズルとマイクロニードルデバイスの突起部を、分注した薬液と前記突起部とが接触可能な近接位置に移動制御する第2の位置決め制御工程、及び定量の薬液を薬液供給ノズルの開口部に分注制御し、分注した薬液と前記突起部とが接触し、かつ前記突起部に薬液を転着させる薬液転着工程を有しているものである。
【0056】
本実施態様のマイクロニードルデバイスの製造工程は、マイクロニードルデバイスの突起部にのみ薬剤を塗着する工程としてディスペンサ薬液分注装置により定量の薬液をノズル開口部に分注し、その定量分注した薬液と突起部を接触し、突起部に転着させることにより薬剤を前記突起部に塗着する工程を有している。
そこで、該ディスペンサを用いて薬液を分注するようにしたディスペンサ薬液分注装置の一例について説明する。
【0057】
本発明のディスペンサ装置は、該薬液分注装置の薬液供給ノズルがX−Y−Z3軸方向に駆動できる場合、マイクロニードルデバイスを移動する場合あるいは両者が駆動できる場合のいずれも採用できる。
ここでは、単純なX−Y−Z3軸方向に駆動可能な薬液分注装置と、X−Y−Z位置調整機構を有する可動テーブルとを備える場合について説明する。
ディスペンサ装置は、X軸方向駆動機構、Y軸方向駆動機構及びZ軸方向駆動機構並びに駆動機構等の制御装置を備える薬液分注装置と、可動テーブルを備え、可動テーブルは、マイクロニードルデバイスを載せるステージと、基台を備えている。
【0058】
本実施形態で用いられるディスペンサ装置の薬液分注装置には、例えばエアパルス方式(薬液への加圧調整、バルブの開放制御等をすべてエアで実施するもの)や、メカニカル方式(容積計量装置による液体の吸引、押出などのエアを用いない機械的な構造によるもの)などを用いることで薬液をディスペンサの薬液供給ノズルの開口部に、所定の微小量から比較的多い量の薬液を分注する定量分注が可能であるが、装置に適用する方式はこれらに限られたものではない。例えば、ディスペンサ装置として、圧力流体を用いて、薬液を薬液供給ノズルに定量分注することができる;武蔵エンジニアリング社製装置(SHOT miniα)を用いることができる。
【0059】
エアパルス式の薬液分注装置は、薬液分注装置内の薬液を加圧する圧縮エアを送り込むエアポンプ、そのエアポンプからの圧力流体(圧縮エア)を調整する可変可能なレギュレータ及び、ディスペンサへの圧縮エアの供給切り換えを行う高速切り換え弁が接続されており、制御装置が薬液の粘度に応じてディスペンサに供給する圧力流体の圧力とその加圧時間を制御して分注量、及び接触転着のタイミングを調節する。
【0060】
加圧流体は、圧縮エアでなく、薬液自体を加圧する液体ポンプによる薬液自体を加圧して供給することも可能である。
このように、薬液分注装置は、圧力流体を用いて、薬液を供給する薬液供給経路と連通した薬液供給ノズルを備えた薬液収容室内の薬液を加圧状態とする構造とし、圧力と加圧時間を制御すること、あるいは流量調整開閉弁の開閉時間を制御することなどにより薬液の供給量を制御しつつ、薬液供給ノズルの開口部に薬液を定量分注することができる構造となっているものである。
【0061】
1回に塗着する、取り扱う薬液量が多くないマイクロニードルデバイスの突起部への薬液の塗布においては、薬液収容室と、薬液供給ノズルと、薬液を加圧供給する供給系を含む薬液分注装置はコンパクトにできる。ここでは、薬液収容室と該室と一体に設けられた薬液供給ノズルを少なくとも備える薬液分注装置を用いて説明する。
【0062】
さらに、薬液分注装置は、吐出する薬液の状態に応じて安定な定量分注状態を維持、制御するため吐出口(ノズル)の口径及び数の異なったものを準備することができる。さらに、薬液収容室から薬液供給ノズルまでの温度制御及び供給制御を精密に行えるようできている。
本発明のディスペンサ装置は、薬液の状態を制御して、薬液を正確に定量分注し、正確な量の分注した薬液を、マイクロニードルデバイスの突起部に選択的に高い精度で接触転着できるようになっている。
【0063】
可動テーブルのステージは、基台上に取付位置を調整可能に支持されていて、薬液塗布装置により薬液を適用するマイクロニードルデバイスを支持するものであって、マイクロニードルデバイスの基材をステージの基準位置に固定する固定機構を備えている。
ステージへのマクロニードルデバイスの位置合わせは、目視でステージ上にセット、その後、マイクロニードルデバイス上に形成したリファレンスポイントを確認し、正確なニードル位置合わせを行った後、ニードル部への塗着を実行するようになっている。
【0064】
薬液分注装置の薬液供給ノズルは、X−Y−Z3軸方向駆動機構により、薬液供給ノズルの下方に位置するマイクロニードルデバイスのX−Y平面内の任意の位置に、及び薬液供給ノズルとマイクロニードルデバイスの突起部とを互いに接近した位置に、すなわちZ軸方向に互いに接近するように、駆動可能とされている。
【0065】
薬液供給ノズルをX−Y−Z3軸方向に駆動する各機構については、X、Y及びZ軸方向駆動軸があり、それぞれに駆動モータが接続されている。
X、Y及びZ軸方向駆動機構の駆動モータは、ステッピングモータ、パルスモータ等からなるもので、制御装置から駆動信号が供給されると、X軸方向駆動機構では、X軸方向駆動軸を回転させ、薬液供給ノズルをX軸方向に移動する。また、Y軸方向駆動機構では、Y軸駆動モータがX軸駆動軸をステージのY軸方向に移動する。
Z軸方向駆動機構は、駆動モータによりZ軸方向駆動軸を回転させ、薬液供給ノズルをマイクロニードルデバイスの突起部に接近又は離間するように上下動させる。
【0066】
制御装置は、供給ノズルの開口部に薬液を定量分注し、分注する薬液の分注制御用の制御信号を供給する。
また、薬液分注装置の薬液供給ノズルのX、Y及びZ軸方向駆動モータに薬液供給ノズルのX、Y及びZ軸方向の移動を制御する駆動信号を供給する。Z軸方向の駆動については、薬液分注装置の薬液供給ノズル開口部に分注した薬液をノズルからマイクロニードルデバイスの突起部の方へ接触、転着させるために必要に応じて転着を促進するための制御、動作を行うようにしてもよい。
【0067】
加熱装置は、基材又はディスペンサ薬液分注装置を加熱制御する手段であり、基材上に配置された薬液に含まれる溶媒の蒸発及び乾燥、並びに薬液の温度制御などを行うために用いるものである。この加熱装置の電源の投入及び遮断も制御装置により制御される。
【0068】
該薬液分注装置は、薬液供給ノズルを、基材を支持するステージに対して位置決めのための移動操作をしつつ、基材に対して、該薬液供給ノズルから薬液を定量分注するようになっている。
薬液供給ノズルは、1つ又は複数のノズルをX、Y及びZ軸方向駆動機構に配置し、一度に複数の薬液供給ノズルの開口部に薬液を定量分注し、該分注した薬液を多数の突起部に一度に適用できるようにしてもよい。
また、複数の薬液供給ノズルを設ける場合、作動時間にタイムラグを設けて連続的に作動するようにしてもよい。
【0069】
薬液分注装置又は可動テーブルの制御装置は、吐出位置設定部、吐出位置情報制御部、吐出制御部からなる。
【0070】
吐出位置設定部は、マイクロニードルデバイスに基づいてマイクロニードルデバイス上の突起部を吐出位置として設定するためのものであり、それぞれの突起部の間隔や配列等の位置情報やマイクロニードルデバイス中のリファレンスポイントとの位置関係を設定することができる。
【0071】
吐出位置情報制御部は、吐出位置設定部が指定したマイクロニードルデバイス上の接触転着位置に関する吐出位置情報を作成するものである。吐出位置情報制御部は、作成した吐出位置情報を吐出制御部に出力することができる。
詳細には、マイクロニードルデバイスには、マイクロニードルデバイス内の位置の基準となるリファレンスポイントを複数個設けておき、自動的にリファレンスポイントの位置を認識し、基準位置を設定できるようにする。これにより、吐出位置情報制御部は、吐出位置設定部が設定したマイクロニードルデバイス上の基準位置と実際のデバイスから認識した基準位置を同じ位置とし、基準位置から設定されている突起部の吐出位置情報を基に接触転着位置情報を作成する。この位置情報を吐出位置情報として吐出制御部に出力することができる。
【0072】
マイクロニードルデバイスをいったん取り外し、再び可動テーブルに取りつけた場合、又は、マイクロニードルデバイスを薬液分注装置に移動させた場合にも、そのリファレンスポイントを基にしてその吐出位置情報から、薬液供給ノズルをマイクロニードルデバイス内の吐出位置に正確に位置決めすることができる。
マイクロニードルデバイスを支持するテーブルは、テーブル位置調整機構により固定位置に調整するためX−Y平面内で移動させる際、ステージに設けたベースポイントを基に所定の位置に合わせ、固定するようにしてもよい。
【0073】
吐出制御部は、吐出位置設定部と吐出位置情報制御部が設定したマイクロニードルデバイス上の突起部を吐出位置として、薬液分注装置の薬液供給ノズルの下方に位置するように決定し、さらに、該薬液供給ノズルと前記突起部との間隔を分注する薬液に応じた間隔まで接近した位置まで移動する制御を行なう。
前記突起部と薬液供給ノズルのX−Y軸方向の位置合わせは、両者の可動可能範囲であるならばどちらを駆動して位置合わせしてもよく、最初に、可動テーブルにマイクロニードルデバイスをセットするときは、可動テーブルの位置調整機構を操作して行う。
【0074】
また、分注した薬液と針状等の突起部を近接位置に移動し、位置決めする場合、テーブルを上下すなわちZ軸方向に移動させてもよいし、薬液供給ノズルの開口部の位置をテーブルの方向に接近移動するようにしてもよい。
可動テーブル又は薬液供給ノズルの上下移動の精密な制御のし易さから、適宜選択すればよい。最初に位置合わせする場合は、可動テーブルを駆動して初期設定する方が好ましい。
【0075】
また、吐出制御部は、マイクロニードルデバイスと前記薬液供給ノズルとの相対的位置決めを行ない、前記薬液供給ノズルによる定量分注動作を制御することができる。
さらに、薬液を定量分注する吐出制御部は、分注機能を果たす薬液収容室と薬液供給ノズルに圧力を付与し、分注する薬液を供給制御するものであり、圧縮エアの圧力及びそのエアによる加圧時間あるいは薬液ポンプからの薬液の圧力とその供給時間を調節するものである。その他に、流量調節弁又は互いに隣接配置された入口弁及び出口弁の開閉操作することにより薬液の分注量を調節、制御できるものもある。
【0076】
吐出制御部が、圧力流体による駆動を制御するパラメータは、加圧流体の圧力の大きさ、弁の開閉時間などである。また、駆動モータによる駆動の制御であれば、電圧、作動時間などを制御することにより、薬液の分注量を調節できるものを用いてもよい。
【0077】
以上、本実施態様において、上記のとおり薬液分注装置の構成及びその装置の各構成の動作も併せて詳しく説明した。本発明は、上記装置を用いることで、直接マイクロニードルデバイスの突起部のみに選択的に分注した薬液全量を転着することにより、マイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着するマイクロニードルデバイスの製造方法を実施できることが理解される。
【0078】
上記本実施態様の他の実施態様として、薬液を塗布する際に、マイクロニードルデバイスの突起部のみが露出するように孔を有するマスク版を採用する方法がある。
【0079】
その方法において、マスク版は、薬液に対して濡れ性が低く、さらに乾燥後の固体に対して剥離性が高く、かつ前記突起部の高さより厚みを有することが好ましい。マスク版はマイクロニードルデバイスを被覆し、前記孔からマイクロニードルデバイスの突起部を露出するように利用する。マスク版を被覆した結果、突起部とマスク版の孔内壁とにより液溜部が形成され、定量分注した薬液が突起部に接触、転着されたときに、液ダレすることなく、該液溜部にとどまるようにすることができ、かつ薬液を乾燥処理した後にマスク版を容易に除去できる。
【0080】
次に、本発明の、ディスペンサ薬液分注装置を用いたマイクロニードルデバイスの突起部のみに薬理活性物質等の薬剤を含む薬液を転着し、薬剤を定量塗着するマイクロニードルデバイスの製造方法の実施態様について説明する。
【0081】
薬液を塗着する工程は、薬剤を含有する薬液を、薬液の状態を調整し、薬液分注装置に供給する薬液調整工程と、薬液分注装置の薬液供給ノズルと多数の突起部を有するマイクロニードルデバイスの突起部を、X−Y平面内で位置を合わせるために移動、制御する第1位置決め工程、さらに、該分注する薬液を保持する薬液供給ノズルとマイクロニードルデバイスの突起部を、分注する薬液に応じた間隔まで近接して、配置されるように移動を制御する第2の位置決め制御工程(Z軸位置決め)、及び定量の薬液を薬液供給ノズルの開口部に分注制御し、分注する薬液と前記突起部とが接触し、かつ前記突起部に薬液を転着させる薬液転着工程を有している。
【0082】
本発明は、身体へ正確に薬剤を必要量投与することができるようにマイクロニードルデバイスの突起部に付着させる際、薬剤の量は正確に許容範囲内で、必要量の薬剤を正確に塗着することが求められている。
そこで、まず、本発明において、薬液の塗着を実施するために、液状又は固体状の薬剤の状態を調整、制御して定量分注することができる薬液の状態に調整して、マイクロニードルデバイスの針状等の突起部に塗着する必要がある。
【0083】
ここで、「薬液の状態」とは、薬液の調製を含む、薬液の濃度、粘度、温度(加温、冷却)、粘度調整剤の添加などの塗着させる薬液の性状を特定するようなものを意味するものである。
また、薬液中にはマイクロニードルデバイス上に薬剤を担持させるために高分子または/および低分子化合物をコーティング用のバインダーとして混合させることが好ましい。このようなバインダー樹脂としては、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、プルラン、ヒアルロン酸等の高分子化合物、塩化ナトリウムなどの塩類やグルコースなどの糖類等の低分子化合物が挙げられるが、これらに限ったものではない。特にこれらの中でも、生体適合性が高いものとして、ヒドロキシプロピルセルロース、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、プルラン、ヒアルロン酸等が好ましい。これらバインダー樹脂の種類、濃度等を調整することも「薬液の状態」を調整することに含まれる。
【0084】
本発明の、マイクロニードルデバイスの突起部に塗着する薬液を調整する工程は、そのため、塗着される薬液の状態として、薬液の濃度、粘度が分注量の精度に影響することから、薬液の状態を制御して塗着状態を安定かつ正確なものとするため必須の工程である。
【0085】
使用する薬剤は、すでに述べたとおりの薬理活性物質等であり、薬液の調整では溶媒を使用する。
その溶媒として、微量に残留しても人体に害の少ない、水、エタノール、イソプロパノール、ジエチレングリコール、グリセリンのようなアルコール系などの水性溶媒を用いることが考えられる。その他溶媒として、脂肪族炭化水素系、トルエンのような芳香族炭化水素系、ハロゲン炭化水素系、酢酸エチル、酢酸プロピルのようなエステル系、ニトリル系、アミド系などの1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0086】
薬液の状態として、薬液の粘度は、薬液が定量分注されるとき、薬液分注装置の薬液供給ノズルの開口部に、薬液がどの程度まで留まることができるか、すなわち、分注される薬液がどの程度の容量となるかを左右し、さらに、外部環境の影響を受けずに、正確に容量制御を可能にするために重要である。
【0087】
また、薬液の粘度は、薬液がマイクロニードルデバイスの突起部に正確に塗着されて、突起部に留まるか、液ダレしてマイクロニードルデバイス基材の方にまで薬液が付着するか、すなわち、突起部の先端部から基端部の範囲に塗着した薬液が、無駄なく、その全量を経皮吸収に有効に利用され、必要投与量の薬液を正確に塗着することを可能にするために重要である。
【0088】
本発明において、薬液の粘度については、薬剤の濃度、温度又は薬剤と薬理学的に許容される添加剤を添加することなどにより変動することから、例えば前記バインダー樹脂の種類や濃度を調整するか、その他の増粘・減粘剤の粘度調整剤などにより粘度の状態を調整する必要がある。
【0089】
本発明において、定量分注し、かつ突起部の先端へ薬液が液ダレを起こさずに接触転着し、薬剤を定量塗着させるには、薬液が、液ダレすることのないような粘度を有していることが重要であり、かつ接触転着の際に定量的に転着できるような粘度を有していることが重要である。
【0090】
その粘度として10〜100000cp程度である。より好ましくは、300〜80000cp、さらに、好ましくは、500〜30000cpである。薬液の粘度がこの範囲にあることにより、マイクロニードルデバイスの突起部の材質に依存することなく、前記突起部の先端部から基端部に分注した所定量の薬液を効率よく、有効に接触転着し、薬液を塗着することができる。
なお、粘度に関しては例えばJIS K7117−2に規定されている方式による25℃下で測定した値であることが好ましい。本発明中ではJIS K7117−2に準拠し、測定温度は25℃下にて付属書B(規程)円すい−平板システムに記載されている内容を用いて測定した値として記載することとする。
【0091】
本発明の方法において、ディスペンサ薬液分注装置を採用することにより、薬液は薬液収容室と薬液供給ノズルとが近接したコンパクトな構造となり、閉鎖系で薬液を薬剤供給ノズルまで供給することができる。
また、その構造により、本発明では、分注する薬液が安定した状態で適用可能であり、薬液の温度を、薬液収容室及び又は薬液供給ノズルの開口部までを定温状態に維持制御可能とすることができ、薬液分注装置を取り巻く外部環境に影響されることなく、薬液を塗着できる。
【0092】
分注する薬液の温度変動がなく、安定した薬液の状態で、薬液を前記ノズル開口部に定量分注でき、接触転着することにより、所定の均一な定量分注した薬液を転着することができる。
前記ノズルの開口部に分注する薬液の温度は、外部環境に影響されないように、温度制御して所定の温度範囲に維持することが好ましいが、薬液分注装置全体を断熱状態に保護することで、格別な温度制御をせずに、薬液を塗着するようにしてもよい。
温度制御の必要性は、薬液の粘度に直接影響を与えることから、定量の薬液を分注するためあるいは液ダレしても突起部の先端部から基端部の範囲に薬液が塗着するように所定の温度範囲に維持することが好ましい。
【0093】
なお、薬液を定量状態で吐出するために、あるいは突起部上での液ダレを防ぐために、薬液の温度を制御して、薬液の粘度を安定した状態に維持することは、薬液の状態を調整することに含まれる。
【0094】
また、濃度が与える影響として、生産効率を向上させるためには薬剤等の添加剤の濃度が濃いほうが好ましい。一方で、薬液中の固形分濃度が高すぎるとノズル開口部に薬液を分注することが不安定になることもあり、使用する薬剤や添加剤によって適宜調整する必要がある。
【0095】
次に、薬液供給ノズルをマイクロニードルデバイスの突起部に位置合わせ、制御する第1の位置決め制御工程、分注する薬液を保持する薬液供給ノズルとマイクロニードルデバイスの突起部を、分注する薬液に応じた間隔まで近接して、配置されるように移動を制御する第2の位置決め制御工程について説明する。
【0096】
前記薬液供給ノズルの位置決めを制御する工程の第1の位置決め制御工程は、薬液を定量分注する薬液分注装置の薬液供給ノズルの開口部に分注した薬液をマイクロニードルデバイスの突起部に正確に吐出できるように、まず、マイクロニードルデバイスを保持させた可動テーブルの固定、位置合わせ調整するため、可動テーブルを移動させ、その後、前記薬液供給ノズルと前記突起部とを高精度で位置合わせする位置調整を実行するものである。
【0097】
本発明は、該可動テーブルのステージ上に、薬液が塗着されるマイクロニードルデバイスを載置すると、薬液分注装置の下方には配置されるステージのX−Y−Z軸方向の位置調整機構を操作して、ステージのベースポイントに基づいて、マイクロニードルデバイスを可動テーブルに位置固定する。
【0098】
次に、ディスペンサ薬液分注装置は、X−Y−Z3軸方向駆動機構を有する薬液供給ノズルを備えていることから、マイクロニードルデバイスの突起部に選択的に分注した薬液全量を接触、転着する動作を開始するために、X−Y軸方向駆動機構を動作して、リファレンスポイントに基づいてマイクロニードルデバイスの突起部に位置合わせする初期位置調整を行い、さらに、突起部の間隔、高さなどの接触、転着するための設定情報を設定する。
【0099】
前記薬液分注装置の薬液供給ノズルを、マイクロニードルデバイスの支持する面を縦方向(Y軸方向)に駆動するY軸駆動機構と、Y軸駆動機構に取りつけられ、マイクロニードルデバイスの支持する面を横方向(X軸方向)に駆動するX軸駆動機構とを備えていることから、マイクロニードルデバイス支持面はそのY軸駆動機構とX軸駆動機構により水平面内でY軸方向とX軸方向に移動し、支持面上に載置されたマイクロニードルデバイスの突起部を、薬液分注装置の供給ノズルの開口部の下方に来るように位置決めする(第1位置決め工程)。
それにより、可動テーブル上のマイクロニードルデバイスの突起部先端、分注した薬液を接触転着する薬液分注装置の薬液供給ノズル開口部、及び位置検知装置の相対的な位置関係が設定される。
【0100】
本発明では、さらに、上記X−Y平面内での薬液供給ノズルとマイクロニードルデバイスの突起部先端の位置合わせの位置決めに加えて、分注した薬液と前記突起部を接触し、突起部へ薬液を転着させるため、Z軸方向駆動機構を動作させ、転着可能な位置まで薬液供給ノズルと前記突起部を近接させる。すなわち、薬液供給ノズルとマイクロニードルデバイスの突起部の先端との間隔を、分注する薬液が所定量に分注制御可能な位置になるように薬液供給ノズルをZ軸方向に移動させるようになっている(第2位置決め工程)。
【0101】
位置決め工程後に、薬液を定量分注し、接触転着する薬液転着工程は、薬液分注装置が、薬液収容室から薬液供給ノズル開口部につながる流路を備えており、前記収容室又は流路にある薬液を加圧流体により押圧状態で、圧力を調整したり、弁を開閉したりすることにより該ノズルの開口部に定量分注するように制御するものである。
【0102】
そして、その後、分注した薬液が、直ちに、マイクロニードルデバイスの突起部と接触するように、ノズルを瞬間的に上下させる制御、あるいは、突起部の方へ薬液が移動するように圧力変動を加えるなどして、分注した薬液をノズル開口部からマイクロニードルデバイスの突起部に接触転着するものである。
【0103】
こうして突起部に転着された薬液は、分注した薬液が正確に定量塗着し、速やかに溶媒が揮散し、かつ乾燥処理と相俟って液ダレすることなく、突起部の先端部から基端部に塗着される。
【0104】
そして、薬液分注装置の薬液供給ノズルを位置決め制御して移動させて多数のマイクロニードルデバイスの突起部の位置で、薬液供給ノズルの開口部に定量分注させ、該分注する薬液を薬液供給ノズルからマイクロニードルデバイスの突起部に接触転着するように制御を繰り返し、突起部への薬液の定量塗着を繰り返す。
【0105】
本発明では、薬液を定量分注するその薬液量は、ノズル開口部に薬液が分注された時の量として、径が10μm以上500μm以下に分注した薬液の大きさとなるように圧力あるいは弁の流量開閉時間を制御することが重要であり、好ましくは、20μm以上250μm以下に相当する大きさとなるように制御する。液滴のサイズはノズルの口径サイズを適宜変更することで調整が容易になる。
【0106】
分注した薬液の量が多くなると、突起部以外の他の領域への液ダレを生じ、あるいは他の領域へ広く塗着が見られ定量分注した薬液を確実に突起部に転着することが妨げられることがある。分注した薬液が少量であると、薬液とノズルとの表面張力等により突起部への転着が妨げられることがある。
【0107】
また、薬液供給ノズルの開口部に供給する薬液の粘度は、10cp未満であると、薬液が低粘度のため分注されると、突起部以外の他の領域への液ダレを生じ、あるいは他の領域へ広く塗着が見られることがある。また、100000cp以上であると、粘度が高く、糸引きが見られ、ノズルから突起部への薬液の分注した薬液の転着ができないなど定量分注した薬液を確実に突起部に塗着することが妨げられることがある。
【0108】
次に、他の実施態様であるマスク版を採用する方法は、マイクロニードルデバイスをマスク版で被覆する工程が新たに工程として挿入した塗着方法である点で、今までの実施の態様とは異なる。
【0109】
マスク版を採用することで、針状等の突起部に薬液分注装置の薬液供給ノズルから分注した定量の薬液を、マスク版が該突起部の側面と協働して液溜部として機能させることができる。
そして、液ダレしやすい低粘度あるいは分注した薬液が大きい、すなわち液量が多くても、液ダレすることなく、また、マイクロニードルデバイスの他の領域に薬液が広がることがなく、薬液が突起部に乾燥塗着するまでの時間、その液溜部に薬液を確実に保持することができ、確実に定量塗着した薬液中の薬剤が突起部に転着し、一度に大量の薬液を精度良く塗着することができる。
【0110】
すなわち、薬液の粘度が小さくなってもあるいは薬液の分注される量が多くなっても、マスク版が突起部と一緒になって液溜部を形成するので、液ダレすることなく、また他の領域へ流れ広がることなく、薬液を接触している突起部に塗着することができる。
このことにより、薬液の状態を厳密に調整する必要がなくなり、製造方法としてより簡易に工程を管理することができる。
【0111】
マスク版は、薬液に対して濡れ性が低く、乾燥後の固体に対して剥離性を有し、かつ前記突起部の高さより厚みを有するものを選択することが好ましい。このようなマスク版を用いることで、マイクロニードルデバイスの突起部に塗着された定量吐出した薬液が、液ダレして突起部以外の他の領域に広がることなく、突起部とマスク版により形成された液溜部にとどまるようにできることから、薬剤が、該突起部により正確に定量塗着され、かつ塗着した薬剤を確実に突起部に付着させることができる。
【実施例】
【0112】
本発明を以下の実施例に基づいて説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
本発明における実施例は、下記測定又は評価方法を用いて各種測定又は観察を行い、評価した。以下に実施例の測定方法及び評価方法を説明する。
【0113】
(測定方法)
(1)分注した薬液の大きさの測定
圧力流体加圧下のディスペンサ装置(武蔵エンジニアリング社製装置:SHOT miniα)にてノズル先端に薬液を定量分注した。その際の薬液の液滴の大きさ、すなわちノズル開口部に分注した状態の液径を、顕微鏡レンズを装着したCCDカメラで撮影し、計5回の撮影画像から液径の大きさを測定し平均値を以ってその大きさとした。
【0114】
(2)薬液の塗着状態の評価
上記と同様のディスペンサ装置を用いて測定した液系のサイズを分注し、マイクロニードルデバイスの先端に転着させることで塗布した。結果は、光学顕微鏡(Carl zeiss社製:Axioskop40)で観察し、液ダレの有無、突起部以外の他の領域への塗着状態により塗着の適否を評価した。
塗着の適否を評価するため、薬液をノズル開口部に、定量分注する量を変更し、分注した薬液の径の大きさを変えて同様に薬液を突起部に接触転着させた。
【0115】
(マイクロニードルデバイスの製造)
本発明において、薬剤の定量塗着を測定、評価するために使用したマイクロニードルデバイスは、以下の公知の製造方法により製造した。
まず、アルミ金属板を切削加工にて底辺が0.25×0.25mm、高さ0.5mmの四角錘形状のニードルを1mmピッチで縦横に10本ずつ配置した100本のマイクロニードルのマスター形状を作製した。次に、作成したマイクロニードルデバイスのマイクロニードルの突起部を複製するために作成したマスターを母型とし、該母型から複製版を造るため電鋳を行うことでマスター形状とは逆の凹版を複製した。
ここで、マイクロニードルデバイスの基材として、ポリ乳酸(ユニチカ社製:テラマックTP−4000)を成形材料として圧縮成形により厚さ1mmのシートに成形したものを準備した。
【0116】
該ポリ乳酸のシートを電鋳で複製した該凹版に重ね、前記ポリ乳酸の基材に対して熱をかけながらプレスし、プレスしながら徐冷し室温付近まで冷えてから垂直に剥離することで、ポリ乳酸からなるマイクロニードルデバイスを得た。このように作成したポリ乳酸マイクロニードルデバイスを用いて以下の実験を行った。
【0117】
本発明について、以下に実施例を挙げてさらに具体的に説明する。
(実施例1)
次のような薬液を調整、調製して、ディスペンサ装置(武蔵エンジニアリング社製:SHOT miniα)を採用し、薬液を該薬液供給ノズル開口部に定量分注することで、マイクロニードルデバイスの突起部に分注した薬液を接触転着し、塗着させた。
調製した薬液は、ポリビニルピロリドン(日本触媒社製:PVP K−90)12g、塗布状況を観察しやすいように着色剤としてのエバンスブルー(東京化成品)1gを精製水87gに溶解させたものを使用した。
該薬液をディスペンサ薬液分注装置の薬液収容部内に充填し、該薬液分注装置をセットし、ポリ乳酸製マイクロニードルデバイスの基材上の基準マーキング(リファレンスポイント)した箇所を原点として、100本のマイクロニードルの突起部に対してディスペンサ装置のノズル(武蔵エンジニアリング社製:SN−LFシリーズ32G、ノズル開口部内径:0.1mmφ)に所定量を定量分注した薬液を接触させ、突起部に転着塗着した。
薬液をノズル開口部に分注し、該分注した薬液と突起部を接触し転着する塗着は1本のニードルに対して1回から数回行い、必要量が塗着するように繰り返し行った。
【0118】
ノズル開口部に分注し、該分注した薬液と突起部を接触し転着する塗着方法の薬液供給ノズルからの薬液の塗着条件は以下のとおりである。
流量調整弁開放時間:0.30sec
薬液供給ノズルの開口部口径:0.1mmφ
分注した薬液の径(最大径)の平均値:95(μm)
周囲雰囲気温度:25℃
薬液供給路の圧力:0.20MPa
薬液の温度:25℃
薬液の粘度:4000cp
マイクロニードルデバイスの基材保持温度:25℃
【0119】
(実施例2)
実施例1と以下の条件を変えて、実施例1と同様の方法によりマイクロニードルデバイスの突起部に薬液を接触転着し、塗着した。
PVP K−90の濃度を変更し、300cpとした。
【0120】
(実施例3)
実施例1と以下の条件を変えて、実施例1と同様の方法によりマイクロニードルデバイスの突起部に薬液を接触転着し、塗着した。
PVP K−90の濃度を変更し、80000cpとした。
【0121】
(実施例4)
実施例1とは、以下の条件に変えて、実施例1と同様の方法によりマイクロニードルデバイスの突起部に薬液を接触転着し、塗着した。
ノズルを高精細ノズル(武蔵エンジニアリング社製、FN−0.03N、ノズル開口部内径:0.03mmφ)として、弁開放時間0.1secとし、薬液の径のサイズを40μmとした。
【0122】
(実施例5)
実施例1とは、以下の条件を変えて、実施例1と同様の方法によりマイクロニードルデバイスの突起部に薬液を接触転着し、塗着した。
ノズルを武蔵エンジニアリング社製:SN−LFシリーズ26G、ノズル開口部内径:0.23mmφとして、弁開放時間0.4secとし、薬液の径のサイズを250μmとした。
【0123】
(実施例6)
実施例1とは、以下の条件を変えて、実施例1と同様の方法によりマイクロニードルデバイスの突起部に薬液を接触転着した。
マスク版をマイクロニードルデバイスの突起部にカバーして液溜部を形成し、下記定量分注した薬液を該突起部と接触転着し、塗着した。
ノズルを武蔵エンジニアリング社製:SN−LFシリーズ20G、ノズル開口部内径:0.58mmφとして、弁開放時間0.5secとし、薬液の径のサイズを600μmとした。
【0124】
(比較例1)
実施例1とは、以下の条件を変えて、実施例1と同様の方法によりマイクロニードルデバイスの突起部に薬液を塗着した。
PVP K−90の濃度を変更し、10cpとした。
【0125】
(比較例2)
実施例1と以下の条件を変えて、実施例1と同様の方法によりマイクロニードルデバイスの突起部に薬液を塗着した。
PVP K−90の濃度を変更し、120000cpとした。
【0126】
(比較例3)
実施例1とは、以下の条件を変えて、実施例1と同様の方法によりマイクロニードルデバイスの突起部に薬液を塗着した。
ノズルを高精細ノズル(武蔵エンジニアリング社製、FN−0.02N、ノズル開口部内径:0.02mmφ)として、弁開放時間0.1secとし、薬液の径のサイズを10μmとした。
【0127】
(比較例4)
実施例1とは、以下の条件を変えて、実施例1と同様の方法によりマイクロニードルデバイスの突起部に薬液を塗着した。
ノズルを武蔵エンジニアリング社製:SN−LFシリーズ20G、ノズル開口部内径:0.58mmφとして、弁開放時間0.5secとし、薬液の径のサイズを600μmとした。
【0128】
薬液分注装置の薬液供給ノズルとマイクロニードルデバイスの突起部先端との間隔を定量分注する薬液の大きさより僅かに狭い距離に位置決めし、上記本発明の各実施例及び比較例の薬液を薬液供給ノズルに定量分注し、突起部に薬液供給ノズルから薬液を接触転着し、塗着した。その後、薬液を乾燥し、薬剤の塗着状態について、塗膜の形成状態を上記測定方法又は評価方法に従い測定し、それぞれの評価を行った。
その結果は、以下のとおりである。
【0129】
(結果の評価)
まずは粘度に関連する項目の各条件の塗布結果を表1にまとめた。
【0130】
【表1】

【0131】
上記の実施例と比較例から明らかな通り、粘度が10cp以下であると、液ダレにより有効な塗着領域に所定量の薬剤を塗着させることが困難であった。また、300cp以上であれば、液ダレが生じても有効な塗着領域以外のところに塗着することがあるもののほとんど有効に塗着していた。粘度が120000cp以上の場合、薬液供給ノズル開口部に定量分注ができても、糸引きや粘度が高いため正確な突起部への接触転着が困難であった。
次に液滴サイズに関連する項目の各条件の塗布結果を表2にまとめた。
【0132】
【表2】

【0133】
分注した薬液の大きさが500μmを超えると、ノズル先端から液ダレすることや、転着時に基材まで液ダレすることが多く観察され、薬液の転着効率の悪化が観察された。また、10μm以下に分注した場合は、突起部への薬剤の転着が起こりにくく、薬剤を接触させても有効に塗着できないことが多く観察された。
分注した薬液の大きさが600μmの場合、殆ど薬液が突起部に留まらず、経皮吸収に有効な領域以外の基材部へ液ダレを生じ、定量塗着ができなかったが、マスク版を被せることで液ダレを防ぎ突起部への選択的な転着が可能であった。
【0134】
以上の結果から、薬液を定量分注して、該薬液を突起部に接触させて転着する方法は、幅広い粘度範囲において有効に選択的に塗着することができ、かつ薬液の大きさについても広範囲の定量分注した薬液の塗着が可能であり、一度に多量の薬液を精度良く塗着することが可能であった。
本発明の方式を用いることで、マイクロニードルデバイスの突起部のみに定量の薬剤を選択的に正確に塗着することができるようになり、更に、生産性が高まることが予想される。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明は、マイクロニードルデバイスの突起部への薬剤を塗着する方法として、薬液供給ノズルの開口部に薬液を定量分注し、分注した薬液と多数の突起部を有するマイクロニードルデバイスの突起部を接触させ、マイクロニードルデバイスの突起部に選択的に薬液を転着する方法は、歩留まり、生産効率がよく、かつ低コストで、経皮吸収に有効に機能できるマイクロニードルデバイスを、制御して安定的に製造できる。
また、得られた経皮吸収用マイクロニードルデバイスは、マイクロニードルデバイス上の微細な突起部の先端部から基端部に薬剤が定量塗着している、優れた経皮吸収効率を発揮できるものである。
本発明は、薬液を定量分注し、分注した薬液と突起部を接触し、転着し、マイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を選択的に定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法及び該方法により製造された経皮吸収用マイクロニードルデバイスは、マイクロニードルデバイスの製造及び経皮吸収用マイクロニードルデバイスの用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を含有する薬液を、薬液の状態を調整し、薬液供給ノズルの開口部に薬液を定量分注し、その分注した薬液と、多数の突起部を有するマイクロニードルデバイスの突起部を接触させ、マイクロニードルデバイスの突起部に薬液を転着させることにより、マイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項2】
薬液の状態を調整する薬液調整工程、
薬液供給ノズルとマイクロニードルデバイスの突起部を、位置を合わせるために移動、制御する第1の位置決め制御工程、
分注する薬液を保持する薬液供給ノズルとマイクロニードルデバイスの突起部を、分注する薬液に応じた間隔まで近接して、配置されるように移動を制御する第2の位置決め制御工程、及び
定量の薬液を薬液供給ノズルの開口部に分注制御し、分注する薬液と前記突起部とが接触し、かつ該突起部に薬液を転着させる薬液転着工程
を含む、請求項1に記載のマイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項3】
薬液供給ノズルがマイクロニードルデバイスの突起部に下降近接した後、分注した薬液と該突起部とが接触し、かつ該突起部に薬液を転着させる薬液転着工程を実行する、請求項1又は2に記載のマイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項4】
薬液の状態の調整が、薬液供給ノズルの開口部における薬液の粘度が、10〜100000cpとなるように調節し、薬液を分注供給する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のマイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項5】
薬液の状態の調整が、薬液供給ノズルの開口部における薬液の粘度が、300〜80000cpとなるように調節し、薬液を分注供給する、マイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項6】
薬液の定量分注において、薬液供給ノズルの開口部における分注した薬液の径の大きさが、10〜500μmとなるように分注する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のマイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項7】
薬液の定量分注において、薬液供給ノズルの開口部における分注した薬液の径の大きさが、20〜250μmとなるように分注する、請求項1〜6のいずれか一項に記載のマイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法
【請求項8】
分注した薬液が、薬液供給ノズルからマイクロニードルデバイスの突起部へ選択的に全量接触転着されるようにする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のマイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項9】
さらに、薬液を分注する前に、マイクロニードルデバイスの突起部が、マスク基体に形成した孔に挿入され、孔内に突起部が露出するようにマスク基体をマイクロニードルデバイスに被覆する工程を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載のマイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法。
【請求項10】
マイクロニードルデバイスの突起部を孔内に露出するマスク基体が、薬液に対する濡れ性が低く、かつ突起部の高さより厚みを有する、請求項9に記載のマイクロニードルデバイスの突起部に薬剤を定量塗着することを特徴とするマイクロニードルデバイスの製造方法。

【公開番号】特開2013−43035(P2013−43035A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184487(P2011−184487)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】