説明

マイクロ波イメージングシステム及びイメージング処理方法

【課題】物体とそのモデルについての超短パルスの反射波信号をそれぞれ用いて物体表面での反射波成分を除去し、マスキングされていた物体内の検出対象物からの反射波成分を確実に取得して、検出対象物の状況を適切に画像化して評価可能とする、マイクロ波イメージングシステムを提供する。
【解決手段】物体50にこの物体表面形状を模したカバー80を被せた状態で取得した主反射波信号と、物体に近い誘電率の材料を用いて製作された物体モデルにカバーを被せた状態で取得した副反射波信号とを信号解析手段13で比較し、主反射波信号における表面部からの反射波成分を、副反射波信号における表面部からの反射波成分で打消すことで、主反射波信号での検出対象物からの反射波成分を相対的に強調でき、検出対象物の画像化を精度よく実行でき、画像再構成で得られた画像から検出対象物を適切に検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射した超短パルスの周波数帯域における物質の誘電率の差異に基づいて生じる反射波を用いて、周囲の物体とは性質の異なる検出対象物を画像として検出可能とするマイクロ波イメージングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用途において生体内情報を画像化(イメージング)する手法としては、X線や超音波を利用した方法の他、核磁気共鳴画像法も知られており、これらは広く利用されているが、特に、乳がん検出を目的とする場合には、X線マンモグラフィが最も有用なイメージング法として近年利用が進んでいる。
【0003】
ただし、X線マンモグラフィでは、透過力の低いX線を使用し、その照射強度も比較的小さい上、X線の周波数領域において正常な胸部細胞と腫瘍との誘電率の差異が小さく、得られた画像における正常な胸部組織と腫瘍とのコントラストが小さくなり、これらの見分けが付きにくいことに起因して、画像に基づく診断結果が偽陰性や偽陽性となる割合が高くなるといった問題がある。また、X線マンモグラフィでは、小さい放射線量で乳房の病変を撮影する必要から、乳房を専用の器具で圧迫して厚みを極力薄くする必要があり、これに伴い受診者が痛みを感じる場合があるという問題もあった。
【0004】
これに対し、マイクロ波の周波数帯域で正常な胸部組織と悪性腫瘍との誘電率の差が大きくなることを利用して、マイクロ波帯域の超短パルスレーダを用いて胸部からの反射波を取得し、反射波の飛行時間を計測して乳房内の腫瘍の検出と位置同定を行ういわゆるマイクロ波イメージングを用いた乳がん検出の手法が近年提案され、超短パルスを用いた非接触での測定により、X線マンモグラフィで生じていた諸問題を解決できるものとして、注目を集めている。こうした従来のマイクロ波イメージングを用いた乳がん検出の手法の一例として、特表2008−530546号公報に開示されるものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−530546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のマイクロ波イメージングによる乳がん検出の方法は、前記特許文献に示されるものとなっており、マイクロ波イメージングにおける最大の問題としての、体表面からの極めて大きい反射波の成分が体内の腫瘍検知の大きな障害となる点への対策として、反射波から校正信号を生成して反射波における体表面での反射波成分を打消す手法が提案されているが、この場合、表面での反射波成分を打消す対象の反射波と同じアンテナではなく、他のアンテナで得られた反射波に基づいて校正信号が生成されることから、反射波の表面での反射波成分と校正信号とを一致させることは難しく、表面での反射波成分を適切に打消せるとは限らないという課題を有していた。
【0007】
このように表面反射の影響は、マイクロ波イメージングの手法における大きな問題として存在し、表面反射の影響を回避する他の手法としては、反射波の処理対象とする時間範囲を絞って表面での反射波成分を取除くことも提案されているが、アンテナからの照射パルスがそもそも理想のパルス波形となっておらず、アンテナの周波数特性(分散特性)の影響を受けたチャープパルスとなり、リンギング等を有する状態となっていることから、理想パルスであれば体内の腫瘍等からの反射波成分と見分けられる表面での反射波成分も、現実にはパルスの後に前記リンギング等の後に続く波形を有するものとなっており、この波形部分に内部からの反射波成分が重なって隠されてしまい、時間の範囲を限定するだけではこの内部からの反射波成分のみを有効に取得することはできないという課題を有していた。
【0008】
本発明は、前記課題を解消するためになされたもので、二つの物体の表面形状が似ている場合、超短パルスの反射波信号における表面での反射波成分は、二つの物体の材質が異なっていても、誘電率が近い場合、同程度のレベルとなることを利用して、対象物検出を行おうとする物体とそのモデルの反射波信号をそれぞれ用いて物体表面での反射波成分を除去し、マスキングされていた検出対象物からの反射波成分を確実に取得して、物体内の検出対象物の状況を適切に画像化して評価可能とする、マイクロ波イメージングシステム、及びそのイメージング処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るマイクロ波イメージングシステムは、周波数成分がマイクロ波帯域に及ぶ超短パルスを、内部に誘電率の異なる検出対象物が存在するか又は存在すると予想される所定の物体に対し複数方向から照射し、複数方向の反射波の測定結果を用いて、合成開口処理を伴う画像再構成を実行し、前記物体内における検出対象物の位置を画像化するマイクロ波イメージングシステムにおいて、前記物体に対し超短パルスを複数方向から同時に又は順次時間をずらして照射すると共に、各照射方向ごとに物体や検出対象物からの反射波を受信し、反射波の信号を出力するパルス送受信手段と、前記パルス送受信手段から出力された反射波信号を記録する信号記録手段と、当該信号記録手段から読出される一の反射波信号と、新たに前記パルス送受信手段から出力されるか、前記信号記録手段から別途読出される、他の反射波信号とを比較解析する信号解析手段とを備え、前記一の反射波信号が、前記物体表面と略同じ形状に形成された誘電体製のカバーを被せた前記物体について、前記パルス送受信手段で超短パルスを照射して得られる各方向ごとの所定時間にわたる反射波信号である主反射波信号、及び、前記物体の誘電率に近い誘電率となる材料を用いて形成された前記物体のモデルに、前記カバーを被せたものについて、前記パルス送受信手段で超短パルスを照射して得られた各方向の所定時間にわたる反射波信号である副反射波信号、のいずれか一方であり、前記他の反射波信号が、前記主副の各反射波信号の他方であり、前記信号解析手段が、前記主反射波信号における表面部からの反射波成分を、前記副反射波信号における表面部からの反射波成分で打消し、検出対象物からの反射波成分が相対的に強調された主反射波信号を画像再構成用の新たな反射波信号とするものである。
【0010】
このように本発明においては、パルス送受信手段から出力された反射波信号をいったん信号記録手段に記録して、この記録された反射波信号と別の反射波信号との比較解析を信号解析手段で実行可能とし、対象物の検出を行おうとする物体にこの物体表面形状を模したカバーを被せた状態で取得した主反射波信号と、物体に近い誘電率の材料を用いて製作された物体モデルにカバーを被せた状態で取得した副反射波信号とをそれぞれ比較すると、物体内部やモデル内部からの反射波成分については信号強度の大きな差が生じるものの、カバーを同様に被せられて略同一形状となっている表面部での反射波成分については、同様の信号強度となることを用いて、信号解析手段で主反射波信号における表面部からの反射波成分から副反射波信号における表面部からの反射波成分を差引き、検出対象物からの反射波成分を残しつつ表面での反射波成分を打消している。これにより、主反射波信号における検出対象物からの反射波成分にほとんど影響を与えずに、効率よく表面での反射波成分を取除いて、主反射波信号での検出対象物からの反射波成分を相対的に強調できることとなり、物体表面での反射波成分の存在に関わりなく検出対象物からの反射波成分を確実に取得でき、画像再構成で検出対象物の画像化を精度よく実行可能となり、得られた画像から検出対象物を適切に検出することができる。
【0011】
また、本発明に係るマイクロ波イメージングシステムは、周波数成分がマイクロ波帯域に及ぶ超短パルスを、内部に誘電率の異なる検出対象物が存在するか又は存在すると予想される所定の物体に対し複数方向から照射し、複数方向の反射波の測定結果を用いて、合成開口処理を伴う画像再構成を実行し、前記物体内における検出対象物の位置を画像化するマイクロ波イメージングシステムにおいて、前記物体に対し超短パルスを複数方向から同時に又は順次時間をずらして照射すると共に、各照射方向ごとに物体や検出対象物からの反射波を受信し、反射波の信号を出力するパルス送受信手段と、前記パルス送受信手段から出力された反射波信号を記録する信号記録手段と、当該信号記録手段から読出される一の反射波信号と、新たに前記パルス送受信手段から出力されるか、前記信号記録手段から別途読出される、他の反射波信号とを比較解析する信号解析手段とを備え、前記一の反射波信号が、前記物体について、前記パルス送受信手段で超短パルスを照射して得られる各方向ごとの所定時間にわたる反射波信号である主反射波信号、及び、前記物体表面と略同じ形状に形成された表面部を有する誘電体製の前記物体のモデルについて、前記パルス送受信手段で超短パルスを照射して得られた各方向の所定時間にわたる反射波信号である副反射波信号、のいずれか一方であり、前記他の反射波信号が、前記主副の各反射波信号の他方であり、前記信号解析手段が、前記主反射波信号における表面部からの反射波成分を、前記副反射波信号における表面部からの反射波成分で打消し、検出対象物からの反射波成分が相対的に強調された主反射波信号を画像再構成用の新たな反射波信号とするものである。
【0012】
このように本発明においては、パルス送受信手段から出力された反射波信号をいったん信号記録手段に記録して、別の反射波信号との比較解析を信号解析手段で実行可能とし、対象物の検出を行おうとする物体について取得した主反射波信号と、物体の表面形状に略一致する表面形状を有する物体モデルについて取得した副反射波信号とをそれぞれ比較すると、物体内部やモデル内部からの反射波成分については信号強度の大きな差が生じるものの、同様の形状である表面部での反射波成分については同様の信号強度となることを用いて、信号解析手段で主反射波信号における表面部からの反射波成分から副反射波信号における表面部からの反射波成分を差引き、検出対象物からの反射波成分を残しつつ表面での反射波成分を打消している。これにより、主反射波信号における検出対象物からの反射波成分にほとんど影響を与えずに、効率よく表面での反射波成分を取除いて、主反射波信号での検出対象物からの反射波成分を相対的に強調できることとなり、物体表面での反射波成分の存在に関わりなく検出対象物からの反射波成分を確実に取得でき、画像再構成で検出対象物の画像化を精度よく実行可能となり、得られた画像から検出対象物を適切に検出することができる。
【0013】
また、本発明に係るマイクロ波イメージングシステムは必要に応じて、前記カバーが、当該カバーをなす誘電体材料中での超短パルスの照射波及び反射波における実効波長の1/4に相当する寸法の厚さとされるものである。
【0014】
このように本発明によれば、カバーの厚みを、超短パルスの照射波における、カバーをなす誘電体媒質中での実効波長の1/4に相当する寸法として、カバー表面と裏面の間の多重反射に起因する反射波の干渉効果により、反射波を相殺する状態を得ることにより、各反射波信号における表面部の反射波成分を減少させることとなり、主反射波信号と副反射波信号の各表面での反射波成分をより確実に打消して、打消しで得られる新たな反射波信号における表面部での反射波成分に起因する不要成分をより一層低減でき、主反射波信号における検出対象物からの反射波成分の存在をより一層明確化でき、反射波信号より得た検出対象物からの反射波成分に基づく画像再構成等処理を正確に実行して、確実に検出対象物の存在に対応した画像を得られる。
【0015】
また、本発明に係るマイクロ波イメージングシステムは必要に応じて、前記カバーが、前記物体より比誘電率の高い誘電体材料で形成されるものである。
【0016】
このように本発明によれば、カバーを物体より比誘電率の高い誘電体材料で形成して、高い比誘電率に伴う波長短縮効果によってカバー中での超短パルスの照射波及び反射波における実効波長を小さくし、この小さくした実効波長に対応してカバーの厚さも小さく形成できることにより、カバー表面で入射波と反射波が相殺する状態を確保しつつ、カバーの厚さを小さくできる分、カバーの軽量化が図れ、取扱い性を向上させられると共に、カバーを形成する材料の量を削減してコストダウンも図れる。
【0017】
また、本発明に係るマイクロ波イメージングシステムは必要に応じて、前記信号解析手段が、前記主反射波信号における表面部からの反射波成分を打消す処理として、前記副反射波信号に、副反射波信号の信号レベルに対する主反射波信号の信号レベルの割合を乗じて、規格化を行ったものを、主反射波信号から差引くものである。
【0018】
このように本発明によれば、信号解析手段で、表面での反射波成分を同様に含んだ主反射波信号と副反射波信号の信号レベルを合わせた上で両者の差を得る規格化差分処理を実行し、表面部の反射波成分を打消すようにすることにより、各反射波信号が測定時期の違い等で信号レベルに差が生じており、単純な反射波信号の差引きでは表面部の反射波成分を打消せず、検出対象物の反射波成分を明確化しにくい場合でも、適切に反射波信号を処理して、検出対象物からの反射波成分の存在を明確化でき、反射波信号より得た検出対象物からの反射波成分に基づく画像再構成等処理を正確に実行して、確実に検出対象物の存在に対応した画像を得られる。
【0019】
また、本発明に係るマイクロ波イメージング処理方法は、周波数成分がマイクロ波帯域に及ぶ超短パルスを、内部に誘電率の異なる検出対象物が存在するか又は存在すると予想される所定の物体に対し複数方向から照射し、複数方向の反射波の測定結果を用いて、合成開口処理を伴う画像再構成を実行し、前記物体内における検出対象物の位置を画像化するマイクロ波イメージング処理方法において、パルス送受信手段が、前記物体表面と略同じ形状に形成された誘電体製のカバーを被せた前記物体に対し、超短パルスを複数方向から同時に又は順次時間をずらして照射すると共に、各照射方向ごとに反射波を受信して、反射波の信号を主反射波信号として出力し、また、前記パルス送受信手段が、前記物体の誘電率に近い誘電率となる材料を用いて形成された前記物体のモデルに、前記カバーを被せたものに対し、超短パルスを複数方向から同時に又は順次時間をずらして照射すると共に、各照射方向ごとに反射波を受信して、反射波の信号を副反射波信号として出力し、信号記録手段が、前記パルス送受信手段から出力される主反射波信号及び/又は副反射波信号を記録し、信号解析手段が、前記信号記録手段から読出される前記主副の反射波信号のいずれか一方と、新たに前記パルス送受信手段から出力されるか、前記信号記録手段から別途読出される、前記主副の各反射波信号の他方とを比較解析し、前記主反射波信号における表面部からの反射波成分を、前記副反射波信号における表面部からの反射波成分で打消し、検出対象物からの反射波成分が相対的に強調された主反射波信号を画像再構成用の新たな反射波信号として出力するものである。
【0020】
このように本発明においては、対象物の検出を行おうとする物体にこの物体表面形状を模したカバーを被せた状態で得られた主反射波信号と、物体に近い誘電率の材料を用いて製作された物体モデルに前記同様のカバーを被せた状態で得られた副反射波信号とを信号解析手段で比較し、二つの反射波信号で、カバーを同様に被せられて略同一形状となっている表面部での反射波成分が、同様の信号強度となることを用いて、信号解析手段で主反射波信号における表面部からの反射波成分から副反射波信号における表面部からの反射波成分を差引き、表面での反射波成分を打消す処理を行う。これにより、主反射波信号における検出対象物からの反射波成分にほとんど影響を与えずに、効率よく表面での反射波成分を取除いて、主反射波信号での検出対象物からの反射波成分を相対的に強調できることとなり、物体表面での反射波成分の存在に関わりなく検出対象物からの反射波成分を確実に取得でき、画像再構成で検出対象物の画像化を精度よく実行して、得られた画像からの検出対象物の高精度な検出を可能とする。
【0021】
また、本発明に係るマイクロ波イメージング処理方法は、周波数成分がマイクロ波帯域に及ぶ超短パルスを、内部に誘電率の異なる検出対象物が存在するか又は存在すると予想される所定の物体に対し複数方向から照射し、複数方向の反射波の測定結果を用いて、合成開口処理を伴う画像再構成を実行し、前記物体内における検出対象物の位置を画像化するマイクロ波イメージング処理方法において、パルス送受信手段が、前記物体に対し、超短パルスを複数方向から同時に又は順次時間をずらして照射すると共に、各照射方向ごとに反射波を受信して、反射波の信号を主反射波信号として出力し、また、前記パルス送受信手段が、前記物体表面と略同じ形状に形成された表面部を有する誘電体製の前記物体のモデルに対し、超短パルスを複数方向から同時に又は順次時間をずらして照射すると共に、各照射方向ごとに反射波を受信して、反射波の信号を副反射波信号として出力し、信号記録手段が、前記パルス送受信手段から出力される主反射波信号及び/又は副反射波信号を記録し、信号解析手段が、前記信号記録手段から読出される前記主副の反射波信号のいずれか一方と、新たに前記パルス送受信手段から出力されるか、前記信号記録手段から別途読出される、前記主副の各反射波信号の他方とを比較解析し、前記主反射波信号における表面部からの反射波成分を、前記副反射波信号における表面部からの反射波成分で打消し、検出対象物からの反射波成分が相対的に強調された主反射波信号を画像再構成用の新たな反射波信号として出力するものである。
【0022】
このように本発明においては、対象物の検出を行おうとする物体について取得した主反射波信号と、物体の表面形状に略一致する表面形状を有する物体モデルについて取得した副反射波信号とを信号解析手段で比較し、二つの反射波信号で、同様の形状である表面部での反射波成分が、同様の信号強度となることを用いて、信号解析手段で主反射波信号における物体表面からの反射波成分から副反射波信号におけるモデル表面からの反射波成分を差引き、表面での反射波成分を打消す処理を行う。これにより、主反射波信号における検出対象物からの反射波成分にほとんど影響を与えずに、効率よく表面での反射波成分を取除いて、主反射波信号での検出対象物からの反射波成分を相対的に強調できることとなり、物体表面での反射波成分の存在に関わりなく検出対象物からの反射波成分を確実に取得でき、画像再構成で検出対象物の画像化を精度よく実行して、得られた画像からの検出対象物の高精度な検出を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムのブロック構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおけるアンテナ移動機構の説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおける測定対象の物体及びモデルへのカバー被覆状態説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおける主副各反射波信号を用いた打消し処理の概念説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおけるパルス送受信手段で得た所定測定方向での主反射波信号の波形のグラフである。
【図6】本発明の第1の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおけるパルス送受信手段で得た所定測定方向での副反射波信号の波形のグラフである。
【図7】本発明の第1の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおける信号解析手段による打消し処理で得られた所定測定方向での反射波信号の波形のグラフである。
【図8】本発明の第1の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおける信号解析手段による打消し処理で得られたカバー使用時についての全測定方向での反射波信号の時間変化をあらわす信号強度図及びその要部拡大図である。
【図9】本発明の第1の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおける信号解析手段による打消し処理で得られたカバー不使用時についての全測定方向での反射波信号の時間変化をあらわす信号強度図及びその要部拡大図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおける主副各反射波信号を用いた打消し処理の概念説明図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムで得られる全測定方向での主反射波信号及び石膏モデルについての副反射波信号の各時間変化をあらわす信号強度図である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおける石膏モデル使用時の信号解析手段による打消し処理で得られた全測定方向での反射波信号の時間変化をあらわす信号強度図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムで得られる全測定方向での主反射波信号及び寒天モデルについての副反射波信号の各時間変化をあらわす信号強度図である。
【図14】本発明の第2の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおける寒天モデル使用時の信号解析手段による打消し処理で得られた全測定方向での反射波信号の時間変化をあらわす信号強度図である。
【図15】本発明の第2の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおける同形状ファントム使用時の信号解析手段による打消し処理で得られた全測定方向での反射波信号の時間変化をあらわす信号強度図及びその要部拡大図である。
【図16】本発明の第2の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおける異形状ファントム使用時の信号解析手段による打消し処理で得られた全測定方向での反射波信号の時間変化をあらわす信号強度図及びその要部拡大図である。
【図17】本発明の他の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムのブロック構成図である。
【図18】本発明のマイクロ波イメージングシステムにおけるパルス発生器で生じたパルス出力波形、及び照射アンテナからの実際の出力波形の各グラフである。
【図19】本発明のマイクロ波イメージングシステムにおける画像再構成手段で実施例1の第一例に係る反射波信号について画像再構成を行って得られた画像の説明図である。
【図20】本発明のマイクロ波イメージングシステムにおける画像再構成手段で実施例1の第二例に係る反射波信号について画像再構成を行って得られた画像の説明図である。
【図21】本発明のマイクロ波イメージングシステムにおける画像再構成手段で実施例1の第三例に係る反射波信号について画像再構成を行って得られた画像の説明図である。
【図22】本発明のマイクロ波イメージングシステムにおける信号解析手段による打消し処理で得られた実施例2の第一例に係る全測定方向での反射波信号の時間変化をあらわす信号強度図である。
【図23】本発明のマイクロ波イメージングシステムにおける信号解析手段による打消し処理で得られた実施例2の第二例に係る全測定方向での反射波信号の時間変化をあらわす信号強度図である。
【図24】本発明のマイクロ波イメージングシステムにおける信号解析手段による打消し処理で得られた実施例2の第三例に係る全測定方向での反射波信号の時間変化をあらわす信号強度図である。
【図25】本発明のマイクロ波イメージングシステムにおける信号解析手段による打消し処理で得られた実施例2の第四例に係る全測定方向での反射波信号の時間変化をあらわす信号強度図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムを前記図1ないし図9に基づいて説明する。本実施形態においては、検出対象物としての腫瘍が物体としての人体胸部組織の内部に存在するか否かを、物体とそのモデルとを用い、これらからの反射波を解析して得た画像から検出可能とする乳がん検出用のシステムの例について説明する。
【0025】
前記各図において本実施形態に係るマイクロ波イメージングシステム1は、マイクロ波帯域の超短パルスを、内部に検出対象物60が存在すると予想される物体50に対し複数方向から照射すると共に、物体50表面部や検出対象物60等からの反射波を受信し、反射波の信号を出力するパルス送受信手段11と、各測定方向ごとに得られる反射波信号を記録する信号記録手段12と、信号記録手段12から読出した一の反射波信号と、新たにパルス送受信手段11から出力される他の反射波信号とを比較解析し、物体50表面部からの反射波成分が打消された反射波の新たな信号を得る信号解析手段13と、この信号解析手段13で得られた各測定方向ごとの信号から画像再構成を行って物体内表示画像を得る画像再構成手段15と、得られた物体内表示画像を表示する表示手段16とを備える構成である。
【0026】
なお、いったん信号記録手段12に記録されてから読出される前記一の反射波信号は、前記物体(人体胸部組織)50の誘電率に近い誘電率となる材料を用いて形成された物体のモデル70に、物体表面と略同じ形状に形成された誘電体製のカバー80を被せたものについて、前記パルス送受信手段11で各方向ごとに所定時間にわたり超短パルスを照射し且つ反射波を受信することで得られる反射波信号である。
【0027】
また、新たにパルス送受信手段11から出力される前記他の反射波信号は、前記同様のカバー80を被せた物体50について、パルス送受信手段11で各方向ごとに所定時間にわたり超短パルスを照射し且つ反射波を受信することで得られる反射波信号である。この他の反射波信号を、物体50に対応する点から主反射波信号とし、前記一の反射波信号を副反射波信号とする。
【0028】
前記パルス送受信手段11は、検出対象物60(例えば、乳がんをなす腫瘍)が存在するか、存在すると予想される物体50(例えば、胸部組織)に対し、その表面を覆うカバー80を介して、パルス幅が1〜100psとなる超短パルスを照射し、且つ物体50や検出対象物60等からの反射波を受信する一連の測定動作を実行して、反射波の信号を出力するものである。
【0029】
詳細には、パルス送受信手段11は、図1に示すように、カバー80を表面に配設した測定対象の物体50に超短パルスを照射する照射アンテナ11aと、この照射アンテナ11a近傍に配設されて物体50や検出対象物60等からの反射波を受信する受信アンテナ11bと、超短パルスを発生させるパルス発生器11cと、照射アンテナ11aと受信アンテナ11bの組を物体50の周囲で移動させて超短パルスの照射方向を変化させるアンテナ移動機構11dと、受信アンテナ11bからの反射波が入力され、外部へ解析可能な状態の反射波信号として出力する信号入出力部11eと、パルス照射のタイミングに合わせてアンテナ移動機構11dを制御する制御部11fとを備える構成である。
【0030】
このパルス送受信手段11では、パルス発生器11cから出力される超短パルスが、照射アンテナ11aから照射波としてカバー80越しに物体50に照射される。そして、物体50表面部、すなわちカバー80表裏面と物体50表面、や内部の検出対象物60で反射された反射波の信号を受信アンテナ11bで受信し、得られた反射波の信号が信号解析手段13に入力される。
【0031】
照射される超短パルスの波形は、ピコ秒のパルス幅を持つインパルスであり、例えば、パルス幅10〜100psで、そのフーリエ変換後の周波数成分がマイクロ波帯域で約1〜12GHzの超広帯域(UWB)となるものである。照射アンテナ11aや受信アンテナ11bとしては、こうした超広帯域に対応した、すなわち周波数による特性変化が小さく、照射及び受信波形がパルス発生器でのパルス波形になるべく近くなるような分散特性が小さいものを用いるのがより好ましい。このような特性を有するアンテナとして、ボウタイアンテナ、ログスパイラルアンテナ、ビバルディアンテナ等を用いる。
【0032】
超短パルスを物体50に照射すると、誘電率が大きく変化する部位、すなわち、誘電率の異なる二つの物質の境界である物体50の表面部、詳細にはカバー80表裏面や物体表面で、また、検出対象物60の表面部分で、反射した反射波が得られる。受信アンテナ11bで受信した反射波には、こうした物体50表面部での反射波成分や検出対象物60からの反射波成分が含まれており、このうち、検出対象物60からの反射波成分の照射時からの遅れ時間、すなわちパルスの飛行時間を算出することで、反射面、すなわち検出対象物60の表面位置を求めることができる。さらに、アンテナ移動機構11dにより各アンテナ位置を動かして、物体50への超短パルスの照射方向を変えて繰返し測定した同様の結果から、合成開口処理により画像再構成を実行すれば、物体50中の検出対象物60の位置を特定できる画像情報が得られることとなる。反射面位置を求める原理自体は、照射時から反射波到来までの遅れ時間により決定するいわゆるレーダと同じ原理である。
【0033】
前記アンテナ移動機構11dは、物体50を取囲む所定の測定経路上で、物体50を中心とした所定角度分だけ、照射アンテナ11a及び受信アンテナ11bを移動させるものである(図2参照)。このアンテナ移動機構11dは、照射アンテナ11a及び受信アンテナ11bを所定角度に位置させ、この角度における一回の測定過程が終了したら、制御部11fによる制御を受けて、アンテナ位置を次の角度まで動かし、これを繰返して各方向からの測定を実行可能とする。
【0034】
一回の測定過程は、所定回の繰返しパルス照射と各パルスに対応する物体50内の検出対象物60からの反射波を得、これらを信号入出力部11eで積分し、信号対雑音(S/N)比を向上させた反射波信号を取得する手順で行われる。例えば、信号入出力部11eに高速ディジタイジングスコープ(サンプリングスコープ)を使用し、パルスの繰返し周波数を1MHz(1マイクロ秒間隔)とすると、サンプリング方式で2000点の1トレースを得るには、1マイクロ秒×2000=2ミリ秒の測定時間がかかる。この信号入出力部11eで測定精度を向上させるために16回のトレースの積分を行う場合、一回の測定過程に費やす時間は、2ミリ秒×16=32ミリ秒となる。
【0035】
このアンテナ移動機構11dで、各アンテナを物体50を中心とした物体50上の180°の角度範囲にわたって所定角度ずつずらしながら、各角度位置での測定方向について反射波信号を得ていくことで、画像再構成手段15が合成開口処理を伴う画像再構成により物体内部の二次元画像(図19〜図21参照)を得られる仕組みであるが、さらにアンテナ移動機構を用いて、横方向における物体50周りに各アンテナを180°の角度範囲にわたって所定角度ごとに上記の一連の測定を繰返し行うようにして、物体内の全ての領域の情報を得て、最終的に三次元の画像を得るようにすることもできる。
【0036】
パルス送受信手段11は、物体50の場合と同様、カバー80を被せたモデル70に対しても、超短パルスを照射する一方、モデル70の表面部、すなわち、カバー80表裏面やモデル表面からの反射波を受信して、反射波の信号を出力可能である。こうしたモデル70が測定対象となる場合、パルス送受信手段11は、得られた反射波の信号を信号記録手段12に出力し、信号記録手段12でこの反射波信号を記録することとなる。
【0037】
前記信号記録手段12は、パルス送受信手段11でのパルス照射及び反射波の受信が、カバー80を被せた物体50やモデル70に対するパルス送受信手段11の各アンテナ角度位置を切換えつつ、各角度ごとに時間を変えて実行されるため、パルス送受信手段11から全ての測定方向の反射波信号が得られるまで、各測定方向ごとの反射波信号をデータとして記録し、この反射波信号のデータを、所望時点で信号解析手段13に提供するなど、まとめて取扱い可能とするものである。
【0038】
信号記録手段12が、パルス送受信手段11で得られる各測定方向ごとの反射波信号をデータとして記録し、必要に応じ読出せるようにしていることで、この記録された一の反射波信号と、後で別途得られる他の反射波信号との比較解析を信号解析手段13において行えることとなる。
【0039】
また、信号記録手段12は、パルス送受信手段11からの出力分とは別に、信号解析手段13から出力される各測定方向ごとの新たな反射波信号もデータとして記録して、この反射波信号のデータをまとめて画像再構成手段15に提供できるようにしている。
こうした信号記録手段12の構成自体は、電子データを外部に取り出し可能に保持する公知の記録装置と同様のものであり、説明を省略する。
【0040】
前記信号解析手段13は、信号記録手段12から読出される一の反射波信号と、新たにパルス送受信手段11から出力される他の反射波信号とを比較解析するものである。
【0041】
詳細には、信号解析手段13は、前記一の反射波信号である、カバー80を被せたモデル70について得られた副反射波信号を信号記録手段12から読出す一方、前記他の反射波信号である、カバー80を被せた物体50についてパルス送受信手段11で得られる主反射波信号の入力を受け、主反射波信号における表面部からの反射波成分を、副反射波信号における表面部からの反射波成分で打消し、検出対象物60からの反射波成分が相対的に強調された主反射波信号を画像再構成用の新たな反射波信号として、信号記録手段12を介して画像再構成手段15に送出すものである。
【0042】
なお、信号解析手段13で取扱う他の反射波信号は、前記一の反射波信号が信号記録手段12に記録された後、新たにパルス送受信手段11から測定方向ごとに出力されて信号解析手段13に入力されるものに限られず、一の反射波信号と同様の手順で信号記録手段12の別の記録領域又は別の信号記録手段に記録され、信号解析手段13により一の反射波信号と共に読出されるものであってもよい。すなわち、測定による反射波信号出力と解析を必ずしも同時に進めなくてもかまわず、二つの反射波信号の取得を先行して行い、後で反射波信号の解析のみ行うことができる。
【0043】
この信号解析手段13での、前記主反射波信号における表面部からの反射波成分を打消せる仕組みについてより詳細に説明する。
パルス送受信手段11で超短パルスを照射する複数の物質について、それらの材質が異なっていても、互いの比誘電率が近く、パルスの照射波が反射する物質表面の形状が互いに似ている場合、反射波信号のうち、各物質の表面からの反射波成分は同程度の信号レベルとなる性質がある。
【0044】
よって、この性質を利用して、物体内部の検出対象物からの反射波成分が減衰により大きく低下する状況下において、事前に物体と表面形状は同じであるものの材質の異なるモデルについて、表面の反射波成分を含む反射波信号を取得しておき、リファレンス信号として活用する。すなわち、実際の対象物検出を行おうとする物体についての反射波信号を取得する際に、この反射波信号に含まれる表面からの反射波成分を、先のモデルについての反射波信号における表面からの反射波成分で打消すことで、マスキングされていた検出対象物からの反射波成分を確実に取得できることとなる(図4参照)。
【0045】
具体的には、対象物検出を行おうとする物体50と、この物体50とは材質の異なるモデル70に対し、同様に表面に被せるカバー80を使用することにより、表面形状の一致を図り、信号解析手段13で表面部からの反射波成分を打消せるようにしている。
【0046】
モデル70については、パルス送受信手段11で得られる反射波信号を物体50の場合とより近いものとするため、その誘電率は、物体50としての胸部の誘電率、より具体的には、胸部主要組織(乳房脂肪)の誘電率と近い値、すなわち、約5〜20とするのが好ましい。形状についても、カバー80との密着性を考慮して、物体50の形状に近いものとするのが好ましい。
【0047】
このモデル70としては、乳がん検出の場合、人体の胸部を模して作成された胸部ファントムを利用できるが、これ以外にも、プラスチック、石膏、寒天や油を用いたものでも同様の効果が可能となり、これらの材料を使用した場合、モデルの製作が容易且つ低コストで行える。
【0048】
前記カバー80は、本実施形態の人体胸部組織である物体50に対し、人体の統計的な胸部の形状や大きさに合わせて製作されて、物体50やモデル70の表面に配設されるものである。人の胸部の様々な形状や大きさに対し、コスト面等で実現可能な範囲で対応できるよう、複数通りの大きさのカバー80があらかじめ用意され、実際の測定時に適切な大きさのカバー80を選択して使用することとなる。もちろん、カバー80を測定時の物体50の表面形状に完全に合わせた形状として形成するのが、カバーと物体との完全な密着を得やすく、表面部での反射波成分除去の効果の点のみ考慮すれば最も好ましい。
【0049】
カバー80の形状としては、物体50やモデル70の表面に沿う形状の本体部分の他に、この本体部分の周囲に物体50やモデル70のある領域より外側に張出す部分を設けるようにして、この張出し部分80aを物体50やモデル70を支持する台等に対し固定状態とするのが好ましい(図3参照)。また、カバー80の位置を固定する場合には、前記張出し部分を押え板17等を併用して本体部分の周囲全周にわたって固定して、物体50やモデル70の表面に沿って反射波に影響を与えるカバー本体部分に、歪みが生じるのを抑えるようにするのが好ましい。
【0050】
このカバー80は、誘電体で形成されるが、信号解析手段13でこのカバー表面の反射波成分を打消す処理が行われるため、その比誘電率は物体とカバーの周囲媒体(通常は空気)との間の値であれば、特に限定されない。すなわち、カバーとする誘電体材料の比誘電率が小さい、例えば比誘電率が2に近い場合、屈折率が1に近く、空気との屈折率の差が小さくなるため、表面部での反射波に着目すると、カバー表面からの反射波は小さく、主としてカバー裏面と、物体50又はモデル70との境界面からの成分が支配的となる。一方、誘電体材料の誘電率が大きく、物体50又はモデル70の誘電率に近い場合は、カバー表面からの反射波が支配的となる。そして、これらのいずれの場合も、反射波成分の打消しが可能であるため、反射波の生じる位置並びにそれを左右するカバー材質の誘電率は問題とはならない仕組みである。
【0051】
さらに、物体50としての胸部とカバー80との間にわずかな隙間が空気層として残り、照射された超短パルスの新たな反射を招く、誘電率の異なる二つの物質の境界(カバー80裏面と空気層との境界、空気層と物体50との境界)が生じてしまうのを防ぐために、カバー80と物体50との位置関係を調整し、カバー80を適切な押圧力で相対的に物体50に向けて押付ける状態を得て、カバー80を物体50に密着させるほか、必要に応じて、カバー80又は物体50に近い誘電率となるジェルなどを塗布使用して隙間を埋めることで、より高精度の反射波信号の取得が行えるようにする。モデル70に対してカバー80を適用する場合も同様である。
【0052】
例えば、物体50を載せた支持台18に、カバー80に形成した張出し部分を固定する場合(図3参照)、支持台18の物体50を載せる部分の高さを調整して、カバー80が物体50に相対的に押付けられる状態を変え、カバー80を物体50と隙間無く密着させるようにする。ただし、支持台18の物体50を載せる部分を高くしすぎると、カバー80で物体50を過剰に押える状態となって物体50とカバー80の両方に力が加わり、物体50やカバー80の形状変化を招き、不要な隙間とそれに伴う誘電率の異なる二つの物質の境界面が新たに発生し、測定に悪影響を与えるため、前記高さは、物体50やモデル70、カバー80の各弾性等の性質や形状に応じた適切な値を選択する。この他、物体50の接する側を上に向けて固定したカバー80に、上から物体50やモデル70を載せるようにして、こうした物体等の重みにより物体50やモデル70がカバー80に適度に押付けられて密着する状態を得られる支持構成を採用してもよい。この場合、パルス送受信手段11による測定はカバー80の下方から行われることとなる。
【0053】
また、カバー80の厚さは、物体50等の表面に被せる関係上、カバー自体の強度を維持できる範囲内で薄い方が好ましい。特に、カバー80の厚さを、カバーをなす誘電体材料中での超短パルスの照射波及び反射波における実効波長の1/4に相当する寸法とした場合、カバー表面における入射波と反射波の相殺が生じることにより、物体やモデルにおける表面部からの反射波成分を減少させることができ、信号解析手段13でのこうした表面部からの反射波成分の打消し処理を簡易に行えることとなり、好ましい。さらに、このカバー80の厚さを前記1/4波長相当寸法とする場合に、カバー80を物体50やモデル70より誘電率の高い誘電体材料、例えば、物体50としての胸部組織の比誘電率が4〜10の場合、カバー80を比誘電率が12〜20となる材料で形成すれば、波長短縮効果によりカバーをなす誘電体中における実効波長が小さくなる関係から、実際のカバーの厚さを小さくすることができ、カバーの小型化及び材料削減が可能となり、より一層好ましい。
【0054】
なお、この乳がん検出用途、すなわち、物体50が胸部組織で、検出対象物60が腫瘍の場合、年齢やがん進行度合など、人体組織の差異によって物体50としての胸部組織や検出対象物60としての腫瘍の誘電率が異なる上、検出対象としたい腫瘍の大きさやその存在位置も反射波に大きく影響を与えることから、カバー80やモデル70の誘電率、形状等は、胸部組織や腫瘍の誘電率、検出対象としたい腫瘍の大きさやその存在位置により調整して、信号解析手段13で物体表面部での反射波成分を適切に打消せるものとすることが好ましい。
【0055】
信号解析手段13で、主副の各反射波信号を用いて、不要な成分である物体50表面部での反射波成分を打消して検出対象物からの反射波成分を確実に際立たせることで、後の画像再構成で得られる画像における腫瘍とその他の部分とのコントラストを鮮明化することが可能となり、画像からの乳がん検出の精度を高められる。
【0056】
そして、信号解析手段13での、主反射波信号における表面部からの反射波成分の打消しに係る具体的な処理は、信号記録手段12から読出した副反射波信号に、この副反射波信号の信号レベルに対する主反射波信号の信号レベルの割合を乗じて、規格化を行ったものを、主反射波信号から差引く、いわゆる規格化差分処理となっている。こうして、主反射波信号と副反射波信号の信号レベルを合わせることで、環境の変化や、測定条件などにより、主反射波信号と副反射波信号の信号レベルが大きくずれた場合にも、表面部からの反射波成分の打消しが適切に行える。このようにして主反射波信号における表面部での反射波成分を除去したものが、信号解析手段13から、新たな反射波信号として信号記録手段12を介して画像再構成手段15に送出されることとなる。
【0057】
なお、検出対象物60が腫瘍の場合、その進行度合により誘電率が変化し、この検出対象物60の誘電率の違いによって、反射波の状態が変化し、画像再構成で得られる画像も、検出対象物60とその他の部分とのコントラストが変化するといったような影響を受けることから、逆に誘電率の変化に基づいて、信号解析手段13で反射波の変化状態を識別するようにして、がんの進行度合を判定することもできる。
【0058】
信号解析手段13による前記二つの反射波信号を用いた処理は、測定方向ごとに実行されて、そのつど新たな反射波信号が出力されることに伴い、信号解析手段13が全ての測定方向について処理を実行して物体表面での反射波成分を打消した反射波信号を出力するまで、信号記録手段12では、信号解析手段13から出力された各測定方向ごとの反射波信号をデータとして記録して、この反射波信号のデータをまとめて画像再構成手段15に提供できるようにしている。
【0059】
すなわち、画像再構成手段15では全ての測定方向での反射波信号が得られた段階で合成開口処理を伴う画像再構成を実行する関係から、信号記録手段12で、全ての測定方向での反射波信号が得られるまで、信号解析手段13からの各測定方向ごとの反射波信号をデータとして記録し、全ての測定方向についての反射波信号のデータをまとめて画像再構成手段15に提供することで、画像再構成手段15での画像再構成が問題なく実行されるようにしている。
【0060】
前記画像再構成手段15は、各方向ごとの複数の反射波信号から合成開口処理を伴う画像再構成を行い、物体中に検出対象物の示された画像(図19〜図21参照)を得るものである。合成開口処理を伴う画像再構成そのものは公知の手法であり、詳細な説明を省略する。
【0061】
前記表示手段16は、画像再構成手段15での画像再構成により得られた画像を表示画面上に表示するものであり、その構成自体は、CRTや液晶、有機EL等を表示用デバイスとして使用した公知のディスプレイ装置と同様のものであり、説明を省略する。なお、この表示手段16を、後述するコンピュータのディスプレイ装置が兼ねるようにしてもかまわない。
【0062】
前記パルス送受信手段11の制御部11f、信号記録手段12、信号解析手段13、及び、画像再構成手段15は、そのハードウェア構成として、CPUやメモリ、入出力インターフェース等を備えるコンピュータとなっており、メモリ等に格納されるプログラムにより、コンピュータを前記制御部11f、信号記録手段12、信号解析手段13、及び、画像再構成手段15として動作させる仕組みである。パルス送受信手段11で得られた反射波信号や、信号解析手段13で得られた主反射波信号に基づく新たな反射波信号等の測定、算出結果は、信号記録手段12をなすこのコンピュータのメモリ等に各角度位置での測定毎に記録保存される。なお、前記信号記録手段12、信号解析手段13、及び、画像再構成手段15は、それぞれ独立に、あるいは複数まとめた状態として、複数のコンピュータをなすものとすることもできる。また、こうしたコンピュータは、CPUやメモリ、ROM等を一体的に形成されたマイクロコンピュータとしてもかまわない。
【0063】
次に、本実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムの使用状態について説明する。まず、後述する物体50の場合と同じカバー80を被せたモデル70に対し、あらかじめ設定された測定時間(例えば、32ミリ秒)の間、パルス送受信手段11の各アンテナ11a、11bが、アンテナ移動機構11dにより測定開始角度位置(0°)に位置して、この角度に対応する測定方向を向いた照射アンテナ11aから超短パルスを照射すると共に、カバー80及びモデル70からの反射波を受信アンテナ11bで受信し、反射波を信号入出力部11eで処理して得た反射波信号を信号記録手段12に入力する。
【0064】
こうした測定の際、モデル70に被せたカバー80をモデル側に押すかモデル70をカバー80側へ押すようにして、カバー80がモデル70に相対的に押付けられる状態として、カバー80をモデル70と隙間無く密着させるのが好ましい。
【0065】
信号記録手段12は入力された反射波信号を副反射波信号として記録する。
この測定角度位置でのパルス送受信手段11からの反射波信号が信号記録手段12に記録されたら、アンテナ移動機構11dを動作させて各アンテナ11a、11bを次の角度位置に移行させ、前記同様の測定及び処理を実行し、これを全ての測定角度位置(180°まで)について繰返し行う。
モデル70に対し全ての測定角度位置での測定を終了し、モデル70についての各測定方向ごとの副反射波信号が全て得られたら、続いて、物体50に対しての測定を実行する。
【0066】
物体50としての胸部組織に対し、モデル70の場合と同一の、適切な大きさのカバー80を被せた状態で、あらかじめ設定された測定時間(例えば、32ミリ秒)の間、パルス送受信手段11が、アンテナ移動機構11dにより測定開始角度位置(0°)に位置して、この角度に対応する測定方向を向いた照射アンテナ11aから超短パルスを照射すると共に、カバー80、物体50及び検出対象物60からの反射波を受信アンテナ11bで受信し、反射波を信号入出力部11eで処理して得た反射波信号を主反射波信号として信号解析手段13に入力する。
【0067】
こうした測定の際は、モデル70の場合と同様、物体50に被せたカバー80を物体側に押すか物体50をカバー80側へ押すようにして、カバー80が物体50に相対的に押付けられる状態として、カバー80を物体50と隙間無く密着させるのが好ましい。
【0068】
信号解析手段13は、パルス送受信手段11から物体50についての主反射波信号(図5参照)を取得する一方、信号記録手段12から物体50における測定方向と同じ測定方向の副反射波信号(図6参照)を読出す。
【0069】
ここで、主反射波信号には、カバー80のある物体50表面部での反射波成分や、検出対象物60が存在する場合における検出対象物60からの反射波成分等が所定の信号レベルで含まれている。また、副反射波信号には、カバー80のあるモデル70表面部での反射波成分が含まれている。
【0070】
信号解析手段13は、副反射波信号が、主反射波信号とほぼ同様の信号レベルである場合は、そのまま主反射波信号から副反射波信号を差引いてもよいが、副反射波信号の信号レベルが、主反射波信号とは大きく異なっている場合には、前記副反射波信号に、副反射波信号に対する主反射波信号の信号レベルの割合を乗じて、規格化を行ったものを、主反射波信号から差引く処理を実行する。
【0071】
主反射波信号における物体50表面部での反射波成分と副反射波信号におけるモデル70表面部での反射波成分とがほぼ同様のものとなっていることから、主反射波信号に含まれる物体50表面部での反射成分が、副反射波信号に含まれるモデル70表面部での反射成分で打消されて除去され、主反射波信号における検出対象物60からの反射成分が相対的に強調されることとなる。信号解析手段13では、この物体50表面部での反射波成分が打消された主反射波信号を、新たな反射波信号(図7参照)とする。
【0072】
この時、信号解析手段13は、超短パルスを照射する物体50としての乳房や検出対象物60としての腫瘍の各誘電率、並びに検出しようとする腫瘍の大きさや胸部組織における位置関係に基づいて、実際に解析対象とする周波数範囲を限定することもできる。具体的には、信号解析手段13が、反射波信号をフーリエ変換し、得られた周波数領域の信号から不要帯域の信号成分を除去し、解析対象としてあらかじめ設定された周波数範囲に合致する信号成分のみを抽出し、この信号成分を逆フーリエ変換して、時間領域の信号に戻すプロセスを経て、解析対象の周波数範囲を適切なものとした主反射波信号と副反射波信号を得ることとなる。周波数領域でのフィルタリングで、主反射波信号における検出対象物60からの反射波成分がノイズから分離して相対的に強調された状態を得られ、画像再構成等を経て検出対象物を示すイメージを正確に導くことができる。これについては、主反射波信号を、解析対象の周波数範囲のみ通過させる第一のフィルタ回路に通して調整後の主反射波信号を得ると共に、副反射波信号を前記周波数範囲のみ通過させる第二のフィルタ回路に通して調整後の副反射波信号を得るなど、ハードウェアによるフィルタリングを行うようにすることもできる。
【0073】
また、信号解析手段13は、反射波信号において検出対象物60の表面からの反射波成分が、どれだけの時間経過後に現れるかが事前にある程度予測できることから、検出対象物60の表面からの反射波が到来し得ない時間帯をフィルタリングする、時間フィルタリングを実行することもできる。例えば、乳がん検出を行う場合、体表面から1cm以内は腫瘍の存在確率が小さく、また触診等、より容易な他の手法による腫瘍の有無の確認精度が高いことから、その範囲分の反射波が到来する時間まではカットすることができ、また、胸部組織(乳房)全域の反射波が既に到来したと見なせる時間以降も、同様にカットすることで、反射波信号のデータ量を抑え、後の画像再構成等における処理負荷の軽減を図ることができると共に、検出対象物60である腫瘍からの反射波成分を明確化して画像化の精度を高められ、検出精度向上に繋げられる。
【0074】
この時間フィルタリングにおいても、物体50としての胸部組織や検出対象物60としての腫瘍の誘電率の変化、検出対象としたい腫瘍の大きさやその存在位置の変化に応じて、フィルタリングの特性を変化させる、具体的には検出対象物60の表面からの反射波が到来し得ない時間帯と見なしてカットする時間の幅を変えるようにすることもでき、画像再構成で得られる画像における検出対象物60のより一層の鮮明化が図れることとなる。
【0075】
信号解析手段13により、物体50表面での反射波成分が打消されて、検出対象物60からの反射成分が明瞭となった主反射波信号を、新たにこの測定方向での反射波信号として信号記録手段12に記録したら、アンテナ移動機構11dを動作させて各アンテナ11a、11bを次の角度位置に移行させ、前記同様の測定及び処理を実行し、これを全ての測定角度位置(180°まで)について繰返し行う。
【0076】
物体50に対し全ての測定角度位置での測定を終了し、各測定方向ごとの反射波信号が全て得られたら、画像再構成手段15が、信号記録手段12から読出した各測定方向ごとの反射波信号を用いて、合成開口処理により画像再構成を行う。これにより、物体50内に検出対象物60が存在する場合には、この検出対象物60が明確に画像化された物体50内部の画像が取得され、この画像が表示手段16に表示されることとなる。表示された画像から、検出対象物60の有無や状態を判断することができる。
【0077】
ここで、カバー80を被せた物体50とモデル70を用いて、物体50表面部の反射波成分を打消す処理を適用した場合の、ノイズ低減効果の例を画像化して示す。物体50とみなす胸部ファントム(ただし検出対象物は含まない)と、このファントムと同一形状ではないが近い形状の、モデルとしての別の胸部ファントムをそれぞれ用意し、各々の表面に胸部を模したカバー80を被せて覆い、カバー80と各ファントムとをそれぞれ密着させた条件で、各ファントムについてそれぞれ反射波信号を取得した。これら二つの反射波信号を用いて、物体50をなすファントムの反射波信号における表面部の反射波成分を打消す処理を、各測定方向ごとに行って得られた新たな反射波信号を、全ての測定方向分を一つの表示にまとめて画像化した信号強度図を、図8に示す。
【0078】
また、比較のために、前記同様の二つのファントムにカバー80を適用しない状態で、各ファントムについてそれぞれ反射波信号を取得し、物体50をなすファントムの反射波信号における表面部の反射波成分を打消す処理を行って得られた新たな反射波信号を、前記同様に全ての測定方向分を一つの表示にまとめて画像化したものを、図9に示す。なお、前記各図の縦軸(左)は物体(又はモデル)に対する測定方向と対応するアンテナの角度位置[deg.]、横軸は計測時間[ns]で、明暗(右)が反射波信号のピークの信号レベル[V]、すなわちノイズ成分の大小を示す(明るいほど大)。
【0079】
図8及び図9から、物体及びモデルとしての各ファントムにカバー80を被せた状態について処理を行い画像化した結果の方が、カバー31を用いない状態について処理を実行して画像化した結果に比べて、ノイズ分である表面部の反射波成分を表すピーク(明部)の信号レベル及びその周辺部の信号レベルが、各図中の右側の信号レベルを示す明暗遷移帯の強度表示値に見られるように小さくなっており、表面部の反射波成分が打消しの処理を経て小さくなる分、画像再構成で得られる画像中に表面部の反射波成分は現れにくくなって、検出対象物が存在する場合にはこれを画像中でより明確に示せることがわかる。
【0080】
このように、本実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムは、パルス送受信手段11から出力された反射波信号をいったん信号記録手段12に記録して、この記録された反射波信号と別の反射波信号との比較解析を信号解析手段13で実行可能とし、対象物の検出を行おうとする物体50にこの物体表面形状を模したカバー80を被せた状態で取得した主反射波信号と、物体50に近い誘電率の材料を用いて製作された物体モデル70にカバー80を被せた状態で取得した副反射波信号とを、信号解析手段で比較解析し、主反射波信号における表面部からの反射波成分から副反射波信号における表面部からの反射波成分を差引き、検出対象物60からの反射波成分を残しつつ表面での反射波成分を打消している。
【0081】
これにより、主反射波信号における検出対象物60からの反射波成分にほとんど影響を与えずに、効率よく表面での反射波成分を取除いて、主反射波信号での検出対象物60からの反射波成分を相対的に強調できることとなり、物体50表面での反射波成分の存在に関わりなく検出対象物60からの反射波成分を確実に取得でき、画像再構成で検出対象物60の画像化を精度よく実行可能となり、得られた画像から検出対象物60を適切に検出、評価できる。
【0082】
胸部組織である物体50からこの胸部組織内の腫瘍である検出対象物60を検出しようとする乳がん検出の場合、信号解析手段13で、物体50についての主反射波信号から、物体50表面部での反射波成分を適切に打消すことで、検出対象物60としての腫瘍からの反射波成分を相対的に際立たせることとなり、後の画像再構成の処理を経て、胸部組織内部の画像における腫瘍の画像部分を鮮明に取得でき、乳がん検出の精度を高められる。
【0083】
なお、前記第1の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおいては、物体50に被せるカバーと同じものであることが既知であるカバー80を、モデル70に被せて、パルス送受信手段11で測定動作を実行して反射波信号を出力し、これを信号記録手段12に記録して副反射波信号とし、この副反射波信号を、信号解析手段13で主反射波信号における表面部での反射波成分打消しの際に信号記録手段12から読出して用いる構成としているが、これに限らず、あらかじめ、複数種類のカバーをそれぞれモデル70に被せてパルス送受信手段11で測定動作を実行してそれぞれ反射波信号を得てから、この反射波信号をカバーごとの副反射波信号として信号記録手段にまとめて記録しておき、物体50についてパルス送受信手段11で測定動作を行う時点で実際に物体に適用するカバーが決ったら、信号記録手段からそのカバーに対応する副反射波信号を信号解析手段が読出して解析に用いるようにすることもできる。
【0084】
この場合、物体についての主反射波信号を取得し解析する機会に、そのつど、物体と同じカバーを被せたモデルについて、パルス送受信手段11で測定動作を実行し反射波信号を得ておく手間を省くことができ、多数の物体についてカバーを変えながら反射波信号を取得してその解析を順次行うような場合(例えば、乳がんの集団検診など)に、測定と解析、再構成後の画像からの検出対象物の検出が、一連でスムーズに進められる
【0085】
また、前記第1の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおいては、一の反射波信号として先にパルス送受信手段11での測定動作を経て出力され、信号記録手段12に記録される反射波信号が、モデルについての副反射波信号であり、他の反射波信号として、後でパルス送受信手段11での新たな測定動作を経て出力され、信号解析手段13で前記一の反射波信号と共に解析される反射波信号が、物体についての主反射波信号である、すなわち、モデルについての副反射波信号を得て記録した後、物体についての主反射波信号を得つつ解析を行う構成としているが、これに限らず、前記の場合と逆に、一の反射波信号が主反射波信号となり、他の反射波信号が副反射波信号となる、つまり、物体についての主反射波信号を得ていったん記録した後に、モデルについての副反射波信号を得つつ解析を行う構成としてもかまわない。
【0086】
前記第1の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおいては、信号解析手段13での主反射波信号における表面部からの反射波成分の打消し処理として、副反射波信号に、この副反射波信号の信号レベルに対する主反射波信号の信号レベルの割合を乗じて、規格化を行ったものを、主反射波信号から差引く処理を、信号解析手段13に実行させる構成としているが、これに限らず、他の打消し処理として、信号解析手段が、主反射波信号に、主反射波信号の信号レベルに対する副反射波信号の信号レベルの割合を乗じて、規格化を行ったものから、副反射波信号を差引く処理を実行する構成とすることもでき、前記実施形態同様、環境の変化や、測定条件などにより、主反射波信号と副反射波信号の信号レベルが大きくずれた場合でも、表面部からの反射波成分の打消しを適切に行って、確実に検出対象物からの反射波成分を際立たせた新たな反射波信号を得ることができる。
【0087】
また、前記第1の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおいては、信号解析手段13で必要に応じ時間フィルタリングを実行することで、不要な時間帯の反射波信号の他、照射アンテナ11aからの照射後に反射によらず極短時間で受信アンテナ11bに直接到達するクロストーク成分も同時に除去できる構成としているが、この他、パルスの送受信を行えば発生するクロストーク成分をあらかじめ把握し、実際に物体や検出対象物から反射された反射波信号からこのクロストーク成分を減算して、クロストーク成分の除去された反射波信号を得る構成とすることもでき、検出対象物からの反射波成分を含む反射波信号から確実に不要なクロストーク成分を除去して、反射波信号のS/N比を高め、検出対象物からの反射波成分を際立たせることができ、画像再構成で得られる画像における検出対象物の画像化の精度を高めて検出対象物の検出性向上が図れると共に、各信号成分の抽出取得から画像再構成までの計算処理量を軽減できる。
【0088】
(本発明の第2の実施形態)
前記第1の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおいては、物体50とモデル70にそれぞれ同じカバー80を被せることで表面形状の同一化を図り、信号解析手段13で表面部の反射波成分を除去可能とする構成としているが、これに限らず、第2の実施形態として、図10に示すように、物体50の表面形状と同じ表面形状に形成したモデル71を用い、カバーは使用しない構成とすることもできる。
この場合も、前記第1の実施形態同様、パルス送受信手段11から出力された一の反射波信号をいったん信号記録手段12に記録し、新たに出力される他の反射波信号との比較解析を信号解析手段13で実行可能とする構成を用いる。
【0089】
なお、いったん信号記録手段12に記録されてから読出される一の反射波信号は、誘電体材料、好ましくは、物体50の誘電率に近い誘電率となる材料を用いて形成された物体のモデル71について、パルス送受信手段11で各方向ごとに所定時間にわたり超短パルスを照射し且つ反射波を受信することで得られる反射波信号である。
【0090】
また、新たにパルス送受信手段11から出力される他の反射波信号は、物体50にパルス送受信手段11で各方向ごとに所定時間にわたり超短パルスを照射し且つ反射波を受信することで得られる反射波信号である。この他の反射波信号を、物体50に対応する点から主反射波信号とし、前記一の反射波信号を副反射波信号とする点は、前記第1の実施形態と同様である。
【0091】
信号解析手段13において、対象物の検出を行おうとする物体50について取得された主反射波信号と、物体50の表面形状に略一致する表面形状を有するモデル71について取得され、信号記録手段12に記録されていた副反射波信号とをそれぞれ比較すると、物体50内部やモデル71内部からの反射波成分については信号強度の大きな差が生じるものの、同様の形状である表面部での反射波成分については同様の信号強度となることに基づき、主反射波信号における表面部からの反射波成分から副反射波信号における表面部からの反射波成分を差引き、検出対象物からの反射波成分を残しつつ表面での反射波成分を打消す処理を実行する。
【0092】
これにより、主反射波信号における検出対象物からの反射波成分にほとんど影響を与えずに、効率よく表面での反射波成分を取除いて、主反射波信号での検出対象物からの反射波成分を相対的に強調できることとなり、物体表面での反射波成分の存在に関わりなく検出対象物60からの反射波成分を確実に取得でき、画像再構成で検出対象物60の画像化を精度よく実行可能となり、得られた画像から検出対象物60を適切に検出することができる。
【0093】
ここで、表面形状を一致させた物体50とモデル71を用いて、物体50表面部の反射波成分を打消す処理を適用した場合の、ノイズ低減効果の例を画像化して示す。物体50とみなす胸部ファントム(ただし検出対象物は含まない)と、このファントムと表面が同一形状となる、石膏で製作したモデル71をそれぞれ用意し、物体50とモデル71についてそれぞれ反射波信号を取得した。まず、物体50としてのファントムについて各測定方向ごとに得た反射波信号を、全ての測定方向分を一つの表示にまとめて画像化した信号強度図を、図11(A)に示す。また、石膏製のモデル71について各測定方向ごとに得た反射波信号を、全ての測定方向分を一つの表示にまとめて画像化した信号強度図を、図11(B)に示す。
【0094】
そして、物体50とモデル71の各反射波信号を用いて、物体50の反射波信号における表面部の反射波成分を打消す処理を、各測定方向ごとに行って得られた新たな反射波信号を、全ての測定方向分を一つの表示にまとめて画像化した信号強度図を、図12に示す。なお、前記各図の縦軸(左)は物体(又はモデル)に対する測定方向と対応するアンテナの角度位置[deg.]、横軸は計測時間[ns]で、明暗(右)が反射波信号のピークの信号レベル[V]、すなわちノイズ成分の大小を示す(明るいほど大)。
【0095】
図11及び図12から、単に反射波信号を画像化したものより、二つの反射波信号を用いて物体表面部の反射波成分を打消す処理を行ったものの方が、ノイズ分である表面部の反射波成分を表すピーク(明部)の信号レベル及びその周辺部の信号レベルが、図中の右側の信号レベルを示す明暗遷移帯の強度表示値に見られるように小さくなっており、表面部の反射波成分が画像中に現れにくくなる分、検出対象物が存在する場合にはこれを画像中でより明確に示せることがわかる。
【0096】
さらに、同様に表面形状を一致させた物体50とモデル71を用いて、物体50表面部の反射波成分を打消す処理を適用した場合で、石膏に代えて寒天で製作したモデル71を使用した条件での、ノイズ低減効果の例を画像化して示す。前記同様、物体50としてのファントムについて各測定方向ごとに得た反射波信号を、全ての測定方向分を一つの表示にまとめて画像化した信号強度図を、図13(A)に示す。また、ファントムと表面が同一形状の寒天製のモデル71について各測定方向ごとに得た反射波信号を、全ての測定方向分を一つの表示にまとめて画像化した信号強度図を、図13(B)に示す。
【0097】
そして、物体50とモデル71の各反射波信号を用いて、物体50の反射波信号における表面部の反射波成分を打消す処理を、各測定方向ごとに行って得られた新たな反射波信号を、全ての測定方向分を一つの表示にまとめて画像化した信号強度図を、図14に示す。この寒天の場合も、前記各図の縦軸(左)は物体(又はモデル)に対する測定方向と対応するアンテナの角度位置[deg.]、横軸は計測時間[ns]で、明暗(右)が反射波信号のピークの信号レベル[V]を示す。
【0098】
図13及び図14から、モデルの媒質が異なる場合でも、二つの反射波信号を用いて物体表面部の反射波成分を打消す処理を行えば、ノイズ分である表面部の反射波成分を表すピーク(明部)の信号レベル及びその周辺部の信号レベルが、図中の右側の信号レベルを示す明暗遷移帯の強度表示値に見られるように小さくなっており、表面部の反射波成分が画像中に現れにくくなる効果を確実に得ていることがわかる。
【0099】
続いて、前記物体50として、腫瘍を模した異物(金属球)を内蔵した胸部ファントムを用いると共に、同じ胸部ファントムで異物を内蔵しないものをモデル71として用いて、物体50表面部の反射波成分を打消す処理を適用した場合の、ノイズ低減効果の例を画像化して示す。物体50としての胸部ファントムには、中央表面から約5mmの深さ位置に金属球が内蔵されている。この物体50とモデル71についてそれぞれ反射波信号を取得し、これら二つの反射波信号を用いて、物体50をなすファントムの反射波信号における表面部の反射波成分を打消す処理を、各測定方向ごとに行って得られた新たな反射波信号を、全ての測定方向分を一つの表示にまとめて画像化した信号強度図を、図15に示す。
【0100】
また、比較のために、モデル71をなすファントムの代りに、物体50をなすファントムとは異なる形状の別のファントムを用いて、前記同様に物体50と異形状のファントムとについてそれぞれ反射波信号を取得し、物体50をなすファントムの反射波信号における表面部の反射波成分を打消す処理を行って得られた新たな反射波信号を、前記同様に全ての測定方向分を一つの表示にまとめて画像化したものを、図16に示す。ここで、前記各図の縦軸(左)は物体(又はモデル)に対する測定方向と対応するアンテナの角度位置[deg.]、横軸は計測時間[ns]で、明暗(右)が反射波信号のピークの信号レベル[V]、すなわち検出対象物の存在確度又はノイズ成分の、大小を示す(明るいほど大)。
【0101】
図15及び図16から、モデル71として物体50と同じ表面形状のファントムを用いた場合の結果の方が、物体とは異なる形状のファントムを用いた場合の結果に比べて、ノイズ分である表面部の反射波成分を表すピーク(明部)の信号レベル及びその周辺部の信号レベルが、各図中の右側の信号レベルを示す明暗遷移帯の強度表示値に見られるように小さくなっていることに加え、画像中の異物部分を示す0.7〜0.8nsの時間領域における反射波成分において明らかな明部が表示されており、表面部の反射波成分が画像中に現れにくくなることと合わせて、検出対象物を画像中でより明確に示せることがわかる。
【0102】
(他の実施形態)
前記第1の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおいては、カバー80を被せた物体50についての主反射波信号と、カバー80を被せたモデル70についての副反射波信号とを用い、信号解析手段13で主反射波信号における表面部からの反射波成分を、副反射波信号における表面部からの反射波成分で打消すことで、画像再構成の画像において表面部からの反射波成分によるノイズ分を減らし、検出対象物60が相対的に明確化される状態を得る構成としているが、この他、モデルを用いず、対象物の検出を行おうとする物体表面と略同じ形状に形成された誘電体製カバーで、且つその厚さを、カバー中での超短パルスの照射波及び反射波における実効波長の1/4に相当する寸法としたものを、物体50に被せて、パルス送受信手段11により各測定方向ごとの反射波信号を得、この反射波信号をパルス送受信手段11が全ての測定方向について出力するまで、各測定方向ごとの反射波信号を信号記録手段22でそのまま記録し、全ての測定方向での反射波信号が得られたら信号記録手段22が反射波信号のデータをまとめて画像再構成手段15に提供し、画像再構成手段15で合成開口処理を伴う画像再構成を実行し、物体内画像を生成する構成とすることもできる(図17参照)。
【0103】
この場合、カバー81をなす誘電体の厚さが、誘電体媒質中での実効波長の1/4に相当する寸法であることから、カバー表面と裏面の間の多重反射に起因する反射波の干渉効果、すなわち、板の表面からの反射波、裏面からの反射波、さらに反射を繰り返す成分の位相差に起因する干渉効果により、反射波の相殺が生じて、物体50における表面部からの反射波成分がキャンセルされることとなる。こうして、このマイクロ波イメージングシステム2では、モデルを用いて打消し処理用の反射波信号を取得する必要がなくなり、また信号解析手段による表面反射成分の打消し処理も行わずに済むため、信号処理を簡略化でき、システムのコスト低減や処理の高速化が図れる。
【0104】
さらに、このカバー81を、物体より比誘電率の高い誘電体材料で形成する構成とすることもでき、その場合、誘電体における波長短縮効果により、カバーをなす誘電体中における実効波長が小さくなる関係から、この実効波長に対応するカバーの厚さを小さくすることができ、カバーの小型化及び材料削減が可能となる。
【0105】
例えば、超短パルスの中心周波数を仮に4GHzとすると、自由空間中における波長は7.5cmとなり、1/4波長は1.88cmとなるが、カバーをなす誘電体の比誘電率が2.5の場合、この誘電体中の1/4波長は約1.19cmとなり、この値がカバーの厚さを決定する。カバーの厚さが大きいと、システム全体のサイズが大きくなるだけでなく、カバー材料のコストも増加する。
【0106】
こうした点に対応して、カバーとする誘電体材料の誘電率を高くすれば、カバー中における実効波長を短くすることができ、カバーのサイズの小型化及び材料の削減が可能となる。例として、比誘電率が12の材料を使用したカバーを製作した場合、同じ周波数条件で、カバーをなす誘電体中の1/4波長は約0.54cmとなり、前記比誘電率2.5の誘電体からなるカバーの場合と比べて、半分以下の厚みを実現できる。
【0107】
なお、前記各実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムにおいては、物体50を胸部組織、検出対象物60を腫瘍として、乳がん検出に適用する例を挙げているが、これ以外にも生体におけるほぼ均一な誘電率の組織内に誘電率の異なるものが存在し得る状況で、この誘電率の異なる部分を、画像を利用して検出する用途に適用でき、生体の場合は乳がんの他に脳血栓、脳腫瘍等の検出にも適用できる。なお、こうした生体の場合に限られず、マイクロ波帯域で略一定の誘電率となる均質な物体内に誘電率が異なる異物が存在するか存在が予想される場合に、物体内の画像からこの異物を識別する用途にも適用することもできる。この場合、超短パルスの周波数成分の周波数帯域は、物体や異物の誘電率に対応する値として、物体内画像に異物のイメージが明瞭に現れるようにするのが望ましい。
【実施例1】
【0108】
本発明のマイクロ波イメージングシステムで、対象物の検出を行おうとする物体とそのモデルとについての各反射波信号を用いて物体表面での反射波成分を打消す処理を実行し、画像再構成により得られた画像における検出対象物の表示状態について評価した。
【0109】
なお、物体は、非球体の人体胸部を模したファントム(模擬体)であり、ファントム内の検出対象物としての腫瘍に相当するφ0.6〜0.9cmの大きさとなる金属球(異物)以外の部分の誘電率εr=10〜20となっている。腫瘍を模した異物の大きさと配置の組合せは、大きさφ0.9cmの異物をファントム上部中心位置から下方に1cm下がった内部位置に配置する第一例、大きさφ0.9cmの異物をファントム上部中心位置から下方に1.5cm下がった内部位置に配置する第二例、及び、大きさφ0.6cmの異物をファントム上部中心位置から下方に0.5cm下がった内部位置に配設する第三例、の計三通りとする。
【0110】
また、モデルは、物体をなすファントムと形状は近いが同じではない、人体胸部を模した別のファントムであり、前記三通りの物体に対し同じものを用いる。さらに、物体及びモデルにそれぞれ被せるカバーには、比誘電率が約2〜2.5となる誘電体製のものを用いた。
【0111】
物体内部の画像を取得するにあたっては、前記第1の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムと同様に、物体やモデルに対しアンテナの角度を変えて複数方向から測定を行うために、パルス送受信手段のアンテナは、アンテナ移動機構に取付けられて、カバーを被せた物体又はモデルの近傍に配置され、照射角度を少しずつ変えながら、カバーを被せた物体又はモデルに超短パルスを照射し、各測定角度ごとに物体や検出対象物等からの反射波を測定するようにした。
【0112】
物体又はモデルに向けられた各アンテナはアンテナ移動機構に取付けられて、物体又はモデルの周囲を真横(0°)から反対側(180°)まで物体又はモデルの真上を通る経路上で5°ずつ移動して、物体又はモデルに対するパルス照射方向を変えつつ、合計37箇所で超短パルスを物体又はモデルに向けて照射すると共に反射波を受信することとなる。
【0113】
パルス発生器で生成される超短パルスは、パルス幅が65ps、振幅が8Vである。この超短パルスが、ビバルディアンテナとして形成された照射アンテナから照射される。
物体や検出対象物からの反射波は、照射アンテナと同形状の受信アンテナで受信され、前記信号入出力部としてのサンプリングスコープで波形を確認可能としつつ反射波信号が出力される。
【0114】
物体の前記三通りの各異物配置の全ての場合、及び、モデルの場合も、静止環境としてファントムが静止した状況下で測定され、その測定時間は32ミリ秒となっている。各場合に共通する、パルス発生器で生じたパルス出力波形と、照射アンテナからの実際の出力波形を、図18(A)、(B)に示す。
【0115】
まず、カバーを被せたモデルについて、パルス送受信手段により得られた各測定方向ごとの反射波信号(図6参照)が、信号記録手段に入力され、副反射波信号として信号記録手段に記録される。
モデルについて、各測定方向ごとの副反射波信号が全て得られた後、モデルに代って物体に対しての測定が実行される。この実施例1の場合、カバーを被せた物体について、パルス送受信手段により得られた各測定方向ごとの反射波信号(図5参照)が、モデルの場合と同様、信号記録手段に入力され、主反射波信号として信号記録手段に記録される。
【0116】
各測定方向ごとの主反射波信号が全て得られたら、信号解析手段は、各測定方向ごとの主反射波信号と、この主反射波信号に対応する測定方向の副反射波信号を、信号記録手段からそれぞれ読出して、主反射波信号における表面部の反射波成分を打消す処理を実行し、表面部での反射波成分が打消された主反射波信号を、新たな反射波信号とする。この新たな反射波信号(図7参照)が全ての測定方向について得られたら、これらを用いて画像再構成手段が合成開口処理を伴う画像再構成を実行し、物体内画像が生成される。
【0117】
このように、物体の前記三通りの異物配置例について、胸部を模したカバーを被せた物体とモデルの各ファントムを用いて、主反射波信号と副反射波信号を得て、物体表面部の反射波成分を打消す処理を適用し、最終的に反射波信号の画像再構成を経て取得した物体内画像を、第一例の場合を図19に、第二例の場合を図20に、第三例の場合を図21にそれぞれ示す。
ここで、各図の縦軸(左)は物体頂点からの縦方向距離[m]、横軸は物体の頂点直下からの横方向距離[m]で、明暗(右)が反射波信号の強さ[任意単位(a.u.)]、すなわち検出対象物の存在確度を示す(明るいほど大)。なお、画像中の白線は物体の表面位置を示す線である。
【0118】
前記各図から、画像再構成後のいずれの物体内画像も、信号レベルの高い、検出対象物と見なせる周囲と明らかに異なるイメージ部分がごく限られた位置に集中的に生成されており、画像から検出対象物を特定することが可能となっている。
【0119】
以上から、本発明のマイクロ波イメージングシステムで、対象物の検出を行おうとする物体についての主反射波信号と、物体に近い誘電率の材質からなるモデルについての副反射波信号とをそれぞれ取得し、各反射波信号で同様に現れる物体表面での反射波成分を、主反射波信号から副反射波信号を減算し打消すことで、主反射波信号から物体表面での反射波成分が取除かれる一方で、検出対象物からの反射波成分は残すことができ、こうして残った検出対象物からの反射波成分を画像再構成に利用して、物体内画像に物体表面での反射波成分の影響を受けない明確な検出対象物のイメージを生成でき、物体内画像から検出対象物を確実に検出可能であることがわかる。
【実施例2】
【0120】
続いて、本発明のマイクロ波イメージングシステムを用いて、対象物の検出を行おうとする物体とそのモデルとについての各反射波信号を測定する際の、カバーが物体又はモデルに相対的に押付けられる度合を変化させて測定を行い、物体表面での反射波成分を打消す処理を経て反射波信号を得、この反射波信号を画像化した画像における、カバー押付け状態の影響について評価した。
なお、物体は、非球体の人体胸部を模したファントム(模擬体)であり、ファントム内に検出対象物が存在しないものを用いる。また、モデルは、物体をなすファントムと形状は近いが同じではない、人体胸部を模した別のファントムである。
【0121】
さらに、物体及びモデルにそれぞれ被せるカバーには、比誘電率が約2〜2.5となる誘電体製のものを用い、物体やモデルのある領域より外側へ略鍔状に張出す部分を設け、この張出し部分を物体やモデルを支持する支持台に対し全周にわたり均一に力を加えるようにして固定状態とする。物体やモデルにカバーを被せるにあたり、支持台の物体やモデルを載せる部分の高さを調整することで、カバーが物体やモデルに相対的に押付けられる状態を変えられる仕組みとした。
【0122】
画像を取得するにあたっては、前記第1の実施形態に係るマイクロ波イメージングシステムと同様に、パルス送受信手段のアンテナは、アンテナ移動機構に取付けられて、カバーを被せた物体又はモデルの近傍に配置され、照射角度を少しずつ変えながら、カバーを被せた物体又はモデルに超短パルスを照射し、各測定角度ごとに物体や検出対象物等からの反射波を測定するようにした。
【0123】
測定では、物体としてのファントムと、モデルとしての別のファントムの各表面に同一のカバーを被せ、カバーと各ファントムの位置関係を四通りに設定した各条件で、各ファントムについてそれぞれ反射波信号を取得した。
まず、カバーを被せたモデルについて、パルス送受信手段により得られた各測定方向ごとの反射波信号が、信号記録手段に入力され、副反射波信号として信号記録手段に記録される。
【0124】
モデルについて、各測定方向ごとの副反射波信号が全て得られた後、モデルに代って物体に対しての測定が実行される。この実施例2の場合も、カバーを被せた物体について、パルス送受信手段により得られた各測定方向ごとの反射波信号が、モデルの場合と同様、信号記録手段に入力され、主反射波信号として信号記録手段に記録される。
【0125】
各測定方向ごとの主反射波信号が全て得られたら、信号解析手段は、各測定方向ごとの主反射波信号と、この主反射波信号に対応する測定方向の副反射波信号を、信号記録手段からそれぞれ読出して、主反射波信号における表面部の反射波成分を打消す処理を実行し、表面部での反射波成分が打消された主反射波信号を、新たな反射波信号とする。この反射波信号が全ての測定方向について得られたら、これら各測定方向ごとの新たな反射波信号を、全ての測定方向分を一つの表示にまとめて画像化した。
【0126】
物体又はモデルとしての各ファントムと、カバーとの位置関係として、カバーを支持台に適切に固定せず、カバーと物体又はモデルとが完全に密着せず、カバーと物体又はモデルとの間に隙間が生じていると考えられる第一例、支持台の各ファントムを載せる部分の高さを3mmとし、カバーを支持台に適切に固定した第二例、支持台の各ファントムを載せる部分の高さを5mmとし、カバーを支持台に適切に固定した第三例、及び、支持台の各ファントムを載せる部分の高さを8mmとし、カバーを支持台に適切に固定した第四例、の計四通りについて、各ファントムについてそれぞれ反射波信号を取得し、物体をなすファントムの反射波信号における表面部の反射波成分を打消す処理を、各測定方向ごとに行って得られた新たな反射波信号を、全ての測定方向分を一つの表示にまとめて画像化した信号強度図を、図22〜図25に示す。
ここで、前記各図の縦軸(左)は物体(又はモデル)に対する測定方向と対応するアンテナの角度位置[deg.]、横軸は計測時間[ns]で、明暗(右)が反射波信号のピークの信号レベル[V]、すなわちノイズ成分の大小を示す(明るいほど大)。
【0127】
図22及び図23によれば、カバーと物体又はモデルとが完全に密着してないとみなせる第一例に比べ、支持台のファントム載置部分の高さを3mmとした第二例の結果の方が、ノイズ分である表面部の反射波成分を表すピーク(明部)の信号レベル及びその周辺部の信号レベルが、各図中の右側の信号レベルを示す明暗遷移帯の強度表示値に見られるように小さくなっている。具体的には、図22で示される第一例のピークの最大レベルが5.8×10-3であるのに対し、図23で示される第二例では2.4×10-3となっており、カバーと物体又はモデルとの密着で、表面部での不要な反射波成分の発生が抑えられ、打消しの処理を経た反射波信号においてもその好影響があらわれていることがわかる。
【0128】
一方、図24の第三例や図25の第四例に見られるように、支持台のファントム載置部分の高さを5mm、8mmとさらに大きくしていくと、前記3mmの場合(第二例)と比べて、ノイズ成分である表面部の反射波成分を表すピーク(明部)の信号レベル及びその周辺部の信号レベルが大きくなっている。具体的には、第三例のピークの最大レベルが2.7×10-3、また第四例では4.9×10-3となっている。これは、ファントムに対しカバーを押さえ過ぎる状態となった場合、ファントムやカバーに加わる力でこれらの間にわずかな隙間をもたらすような形状の変化が起り、誘電率の異なる二つの物質の境界面が新たに発生した影響により、ノイズの点でかえって悪化する結果となったと考えられる。
【0129】
以上から、本発明のマイクロ波イメージングシステムで、カバーを被せた物体についての主反射波信号と、カバーを被せたモデルについての副反射波信号とをそれぞれ取得する際、カバーと物体又はモデルとの位置関係を調整し、カバーや物体等が過剰に変形しない程度に、カバーを相対的に物体又はモデルに向けて押付ける状態を得て、カバーを物体又はモデルに均一に密着させることで、ノイズ成分となる反射波の発生を抑え、主反射波信号から物体表面での反射波成分を打消す処理を経て得られる新たな反射波信号において、検出対象物からの反射波成分へのノイズによる悪影響を抑制して、画像再構成後の物体内画像における検出対象物イメージの明確化に繋げられることがわかる。
【符号の説明】
【0130】
1、2 マイクロ波イメージングシステム
11 パルス送受信手段
11a 照射アンテナ
11b 受信アンテナ
11c パルス発生器
11d アンテナ移動機構
11e 信号入出力部
11f 制御部
12、22 信号記録手段
13 信号解析手段
15 画像再構成手段
16 表示手段
17 押え板
18 支持台
50 物体
60 検出対象物
70、71 モデル
80、81 カバー
80a 張出し部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数成分がマイクロ波帯域に及ぶ超短パルスを、内部に誘電率の異なる検出対象物が存在するか又は存在すると予想される所定の物体に対し複数方向から照射し、複数方向の反射波の測定結果を用いて、合成開口処理を伴う画像再構成を実行し、前記物体内における検出対象物の位置を画像化するマイクロ波イメージングシステムにおいて、
前記物体に対し超短パルスを複数方向から同時に又は順次時間をずらして照射すると共に、各照射方向ごとに物体や検出対象物からの反射波を受信し、反射波の信号を出力するパルス送受信手段と、
前記パルス送受信手段から出力された反射波信号を記録する信号記録手段と、
当該信号記録手段から読出される一の反射波信号と、新たに前記パルス送受信手段から出力されるか、前記信号記録手段から別途読出される、他の反射波信号とを比較解析する信号解析手段とを備え、
前記一の反射波信号が、前記物体表面と略同じ形状に形成された誘電体製のカバーを被せた前記物体について、前記パルス送受信手段で超短パルスを照射して得られる各方向ごとの所定時間にわたる反射波信号である主反射波信号、及び、前記物体の誘電率に近い誘電率となる材料を用いて形成された前記物体のモデルに、前記カバーを被せたものについて、前記パルス送受信手段で超短パルスを照射して得られた各方向の所定時間にわたる反射波信号である副反射波信号、のいずれか一方であり、
前記他の反射波信号が、前記主副の各反射波信号の他方であり、
前記信号解析手段が、前記主反射波信号における表面部からの反射波成分を、前記副反射波信号における表面部からの反射波成分で打消し、検出対象物からの反射波成分が相対的に強調された主反射波信号を画像再構成用の新たな反射波信号とすることを
特徴とするマイクロ波イメージングシステム。
【請求項2】
周波数成分がマイクロ波帯域に及ぶ超短パルスを、内部に誘電率の異なる検出対象物が存在するか又は存在すると予想される所定の物体に対し複数方向から照射し、複数方向の反射波の測定結果を用いて、合成開口処理を伴う画像再構成を実行し、前記物体内における検出対象物の位置を画像化するマイクロ波イメージングシステムにおいて、
前記物体に対し超短パルスを複数方向から同時に又は順次時間をずらして照射すると共に、各照射方向ごとに物体や検出対象物からの反射波を受信し、反射波の信号を出力するパルス送受信手段と、
前記パルス送受信手段から出力された反射波信号を記録する信号記録手段と、
当該信号記録手段から読出される一の反射波信号と、新たに前記パルス送受信手段から出力されるか、前記信号記録手段から別途読出される、他の反射波信号とを比較解析する信号解析手段とを備え、
前記一の反射波信号が、前記物体について、前記パルス送受信手段で超短パルスを照射して得られる各方向ごとの所定時間にわたる反射波信号である主反射波信号、及び、前記物体表面と略同じ形状に形成された表面部を有する誘電体製の前記物体のモデルについて、前記パルス送受信手段で超短パルスを照射して得られた各方向の所定時間にわたる反射波信号である副反射波信号、のいずれか一方であり、
前記他の反射波信号が、前記主副の各反射波信号の他方であり、
前記信号解析手段が、前記主反射波信号における表面部からの反射波成分を、前記副反射波信号における表面部からの反射波成分で打消し、検出対象物からの反射波成分が相対的に強調された主反射波信号を画像再構成用の新たな反射波信号とすることを
特徴とするマイクロ波イメージングシステム。
【請求項3】
前記請求項1に記載のマイクロ波イメージングシステムにおいて、
前記カバーが、当該カバーをなす誘電体材料中での超短パルスの照射波及び反射波における実効波長の1/4に相当する寸法の厚さとされることを
特徴とするマイクロ波イメージングシステム。
【請求項4】
前記請求項3に記載のマイクロ波イメージングシステムにおいて、
前記カバーが、前記物体より比誘電率の高い誘電体材料で形成されることを
特徴とするマイクロ波イメージングシステム。
【請求項5】
前記請求項1ないし4のいずれかに記載のマイクロ波イメージングシステムにおいて、
前記信号解析手段が、前記主反射波信号における表面部からの反射波成分を打消す処理として、前記副反射波信号に、副反射波信号の信号レベルに対する主反射波信号の信号レベルの割合を乗じて、規格化を行ったものを、主反射波信号から差引くことを
特徴とするマイクロ波イメージングシステム。
【請求項6】
周波数成分がマイクロ波帯域に及ぶ超短パルスを、内部に誘電率の異なる検出対象物が存在するか又は存在すると予想される所定の物体に対し複数方向から照射し、複数方向の反射波の測定結果を用いて、合成開口処理を伴う画像再構成を実行し、前記物体内における検出対象物の位置を画像化するマイクロ波イメージング処理方法において、
パルス送受信手段が、前記物体表面と略同じ形状に形成された誘電体製のカバーを被せた前記物体に対し、超短パルスを複数方向から同時に又は順次時間をずらして照射すると共に、各照射方向ごとに反射波を受信して、反射波の信号を主反射波信号として出力し、
また、前記パルス送受信手段が、前記物体の誘電率に近い誘電率となる材料を用いて形成された前記物体のモデルに、前記カバーを被せたものに対し、超短パルスを複数方向から同時に又は順次時間をずらして照射すると共に、各照射方向ごとに反射波を受信して、反射波の信号を副反射波信号として出力し、
信号記録手段が、前記パルス送受信手段から出力される主反射波信号及び/又は副反射波信号を記録し、
信号解析手段が、前記信号記録手段から読出される前記主副の反射波信号のいずれか一方と、新たに前記パルス送受信手段から出力されるか、前記信号記録手段から別途読出される、前記主副の各反射波信号の他方とを比較解析し、前記主反射波信号における表面部からの反射波成分を、前記副反射波信号における表面部からの反射波成分で打消し、検出対象物からの反射波成分が相対的に強調された主反射波信号を画像再構成用の新たな反射波信号として出力することを
特徴とするマイクロ波イメージング処理方法。
【請求項7】
周波数成分がマイクロ波帯域に及ぶ超短パルスを、内部に誘電率の異なる検出対象物が存在するか又は存在すると予想される所定の物体に対し複数方向から照射し、複数方向の反射波の測定結果を用いて、合成開口処理を伴う画像再構成を実行し、前記物体内における検出対象物の位置を画像化するマイクロ波イメージング処理方法において、
パルス送受信手段が、前記物体に対し、超短パルスを複数方向から同時に又は順次時間をずらして照射すると共に、各照射方向ごとに反射波を受信して、反射波の信号を主反射波信号として出力し、
また、前記パルス送受信手段が、前記物体表面と略同じ形状に形成された表面部を有する誘電体製の前記物体のモデルに対し、超短パルスを複数方向から同時に又は順次時間をずらして照射すると共に、各照射方向ごとに反射波を受信して、反射波の信号を副反射波信号として出力し、
信号記録手段が、前記パルス送受信手段から出力される主反射波信号及び/又は副反射波信号を記録し、
信号解析手段が、前記信号記録手段から読出される前記主副の反射波信号のいずれか一方と、新たに前記パルス送受信手段から出力されるか、前記信号記録手段から別途読出される、前記主副の各反射波信号の他方とを比較解析し、前記主反射波信号における表面部からの反射波成分を、前記副反射波信号における表面部からの反射波成分で打消し、検出対象物からの反射波成分が相対的に強調された主反射波信号を画像再構成用の新たな反射波信号として出力することを
特徴とするマイクロ波イメージング処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図17】
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【図18】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2013−113603(P2013−113603A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257384(P2011−257384)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】