説明

マグネトロンスパッタリング装置

【課題】
構成元素や不純物添加量が膜中で変化した薄膜を短時間かつ低コストで形成可能なマグネトロンスパッタリング装置を提供する。
【解決手段】
マグネトロンスパッタリング装置10は、薄膜が堆積される基体30と、基体30と対向して配置されたターゲット20と、ターゲット20の表面に磁界を発生させる磁界発生手段として磁石50およびヨーク52を備える。ターゲット20が2つの領域に分割され、一方の領域にZnGeO:Mn(2at.%)を充填し、他方の領域にZnGeO:Mn(2at.%)を充填することにより、Ge含有量Xが基体上の長手方向に連続的に変化したZnSi1−XGe:Mn(2at.%)複合酸化物蛍光体薄膜を基体30上に形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透明導電膜、蛍光体薄膜及び高温超電導体薄膜等、各種金属材料及び各種無機材料等様々な新機能物質の薄膜形成技術の開発が活発に行われている。これらの機能性薄膜の形成においては、複数の元素を含む多元系薄膜を形成する必要がある場合がほとんどであり、且つ、優れた機能性の発現のためには膜中の構成元素や不純物の含有量等の最適化を図らなければならない。しかしながら、このような多元系物質の機能特性と薄膜作製条件との相関関係を理論的に予測することは極めて困難であり、実際には、トライアンドエラーを繰り返して作製条件の最適化を図らざるを得ないのが現状である。
【0003】
従来、薄膜形成技術として、マグネトロンスパッタリング装置が知られている。マグネトロンスパッタリング装置は、低温かつ短時間でのスパッタが可能であり、成膜装置として広く使用されている。マグネトロンスパッタリング装置では、放電などにより、ターゲット付近にプラズマを発生させ、このプラズマ中のイオンをターゲットに衝突させることにより粒子をスパッタさせ、その粒子を基体に付着させることにより薄膜が形成される。
特許文献1は、インジウム、スズ、マグネシウムからなる多元系酸化物用のスパッタリングターゲットを開示する。
【特許文献1】特開2005−194594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
薄膜作製技術として現在最も広く実用されているスパッタリング装置では、作製する薄膜中の構成元素や不純物の含有量の最適化を図るために、構成元素や不純物添加量を変化させた多数のターゲットを作製する必要があり、膨大な時間とコストがかかる。加えて、薄膜作製条件の最適化のためには、それらのターゲットの数だけ成膜を繰り返す必要がありこれにも膨大な手間とコストがかかるという問題がある。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、構成元素や不純物添加量が膜中で変化した薄膜を短時間かつ低コストで形成可能なマグネトロンスパッタリング装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、薄膜が堆積される基体と、基体と対向して配置されたターゲットと、前記ターゲットの表面に磁界を発生させる磁界発生手段と、を備え、ターゲットは、領域が複数に分割され、分割された領域ごとに組成の異なる複数の材料を有することを特徴とする。なお、ターゲットが有する複数の材料は、金属、合金、酸化物、硫化物、窒化物からなる群より選ばれた材料であってもよい。
【0007】
上記態様によれば、ターゲットが有する材料の種類、成膜温度、圧力、投入電力(成膜レート)の組み合わせをそれぞれに制御することにより、1回の成膜プロセスで同一基体上に構成元素や添加不純物の両方もしくはいずれかを変化させた薄膜を作製することができる。すなわち、膜の組成と膜中の不純物の両方もしくはいずれかが位置によって増減する傾斜型材料を作成することができる。また、これを活用すると、機能性薄膜の作製条件の最適化に必要なトライアンドエラーの回数を劇的に軽減し、材料開発における組成や添加不純物の最適化プロセスの効率を飛躍的に向上させる作用効果がある。
【0008】
ターゲットが有する複数の材料が、複合酸化物を構成する酸化物であってもよい。この態様によれば、多元系酸化物を構成する酸化物の比率が位置によって変化した薄膜を簡便に作製することができる。
【0009】
ターゲットが有する複数の材料が、複合窒化物を構成する窒化物であってもよい。この態様によれば、複合窒化物を構成する窒化物の比率が位置によって変化した薄膜を簡便に作製することができる。
【0010】
ターゲットが有する複数の材料が、複合硫化物を構成する硫化物でってもよい。この態様によれば、複合硫化物を構成する硫化物の比率が位置によって変化した薄膜を簡便に作製することができる。
【0011】
ターゲットが有する複数の材料が、複合酸窒化物を構成する酸化物および窒化物であってもよい。この態様によれば、複合酸窒化を構成する酸化物および窒化物の比率が位置によって変化した薄膜を簡便に作製することができる。
【0012】
ターゲットが有する複数の材料が、複合硫酸化物を構成する硫化物および酸化物であってもよい。この態様によれば、複合硫酸化物を構成する硫化物および酸化物の比率が位置によって変化した薄膜を簡便に作製することができる。
【0013】
ターゲットが有する複数の材料における組成の違いが各材料中の不純物の種類または不純物の濃度に起因していてもよい。この態様によれば、不純物の種類または濃度が位置によって変化した薄膜を簡便に作製することができる。
【0014】
ターゲットが有する複数の材料が、傾斜型材料を構成する材料であってもよい。この態様によれば、構成材料が位置によって異なる傾斜型材料を簡便に作製することができる。
【0015】
なお、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のマグネトロンスパッタリング装置によれば、構成元素や不純物添加量が膜中で変化した薄膜を短時間かつ低コストで形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0018】
(実施形態)
図1は実施形態に係るマグネトロンスパッタリング装置10の一例を示している。図1は、マグネトロンスパッタリング装置10の構成のうち、真空チェンバー(図示せず)に収容された構成を示す。マグネトロンスパッタリング装置10では、ターゲット20と薄膜が形成される土台となる基体30とが対向して配置されている。基体30の長手方向の長さはdである。ターゲット20と反対側の基体30の面に接する状態でアノード60が設けられている。一方、ターゲット20は、ターゲットホルダー22によって保持されている。ターゲットホルダー22は、ステンレスなどの金属で形成されている。ターゲットホルダー22には、電力供給手段40により直流電力または交流電力が供給され、カソードとしても機能する。ターゲットホルダー22の背面には、磁界発生手段として磁石50およびヨーク52が設けられている。磁石50およびヨーク52との隙間には、ターゲットホルダー22を冷却する手段として熱伝導性が良好なアルミニウムブロック54が設けられている。なお、ターゲットホルダー22を冷却する手段は、アルミニウムブロック54のような金属による放熱に限られず、冷却水の循環による放熱でもよい。磁石50およびヨーク52は、ステンレスなどの金属等で形成されたシールド板43によって囲まれている。シールド板43により、磁界がターゲット20の上方に集中する。
【0019】
図2は、ターゲット20の一例の平面図を示す。本実施形態のターゲット20は、直径がDの円形であり、第1の領域24および第2の領域26に分割されている。ターゲット20は、第1の領域24および第2の領域に、組成の異なる材料が組み込まれている。ターゲット20に組み込まれる材料としては、金属、合金、酸化物、硫化物、窒化物からなる群より選ばれた材料が挙げられる。ターゲット20は、焼結体、粉末あるいはこれらの組み合わせであってもよい。ターゲット20が粉末である場合には、ターゲットホルダー22を凹状の容器とすることにより、ターゲット20を保持することができる。ただし、ターゲット20の形状は上述の円形に限定されるものではなく、正方形や長方形等のように複数の領域に分割できる形状であればよい。図1のマグネトロンスパッタリング装置10は、第1の領域24と第2の領域26との間の境界線27が基体30の長手方向と直交するように構成されている。
【0020】
ターゲット20を用いることにより、基体30の位置に応じて構成元素や添加不純物の両方もしくはいずれかが変化した薄膜を1回の成膜プロセスで形成することができる。組成や不純物が位置に応じて増減する傾斜型材料を実現できる。さらに加えて、機能性薄膜の作製条件の最適化に必要なトライアンドエラーの回数が劇的に軽減し、最適化プロセスの効率を飛躍的に向上させることができる。
【0021】
上記実施形態のマグネトロンスパッタリング装置を用いて作製可能な機能性薄膜は、特に限定されないが、たとえば、蛍光体薄膜、透明電導性薄膜、高温超伝導体薄膜、誘電体薄膜、半導体薄膜、圧電体薄膜、合金層薄膜または強誘電体薄膜などが挙げられる。
【0022】
(実施例1)
図3は実施例1に係るマグネトロンスパッタリング装置10で使用されるターゲット20ならびに基体30、および作製された薄膜32の幾何学的な位置関係を示す。図3に示すようにターゲット20の第1の領域24には蛍光体粉末であるZnSiO:Mn(2at.%)を厚さ約1mmに充填し、第2の領域26に蛍光体粉末であるZnGeO:Mn(2at.%)を同様に厚さ約1mmに充填する。図1に示すように、基体30の材料としてセラミックス板をターゲット20の表面に対向して配置する。この配置下において、Ar雰囲気6Pa、基板温度250℃、高周波投入電力140Wの成膜条件下でセラミックス板からなる基体30上にZnSi1−XGe:Mn(2at.%)多元系酸化物蛍光体薄膜をGe含有量Xを基体上の長手方向(d)に連続的に変化させた薄膜を形成することができる。図4は、実施例1のターゲット20を用いて作製した薄膜のGe含有量Xの基体位置(d)依存性を示す。ターゲット20内のZnSiO:Mn側からZnGeO:Mn側へ基体位置が移動するのに伴って、膜中にGe含有量がリニアに増加しており、1回の成膜で、同一基体上にGe含有量を制御した薄膜を形成できた。
【0023】
上記のようにセラミックス製の基体30上に作製したZnSi1−XGe:Mn(2at.%)多元系酸化物蛍光体薄膜に、Ar雰囲気中、910℃で1時間熱処理を施すことにより、エレクトロルミネッセンス素子用発光層としての機能を付与した。この後、蛍光体薄膜上を5mm間隔に区分し、それぞれに直径4mmのAl添加ZnO透明導電膜を高周波マグネトロンスパッタ法で形成し、セラミックスの裏面にAl背面電極を真空蒸着法により形成して薄膜エレクトロルミネッセンス素子を作製した。図5は、作製したZnSi1−XGe:Mn(2at.%)多元系酸化物蛍光体薄膜エレクトロルミネッセンス素子の1kHz 正弦波駆動時の最高輝度のGe含有量依存性を示す。Ge含有量の増加に伴って、最高輝度が上昇し、Ge含有量X=0.4において、最高輝度10000cd/mの緑色発光を実現できた。また、それ以上のGe含有量においては、最高輝度は低下することがわかった。したがって、本実施例のマグネトロンスパッタリング装置を用いることにより、1回の成膜プロセスでZnSi1−XGe:Mn多元系酸化物蛍光体薄膜の最適Ge含有量を決定することができた。
【0024】
(実施例2)
マグネトロンスパッタリング装置10内に設置したステンレス製のターゲット20の任意に分割された領域に複数の粉末固体原料を充填する。具体的には、図6に示すようにターゲット20の第1の領域24には蛍光体粉末であるZnSi0.6Ge0.4:Mn(0.2at.%)を厚さ約1mmに充填し、第2の領域26に蛍光体粉末であるZnSi0.6Ge0.4:Mn(3at.%)を同様に厚さ約1mmに充填する。基体30の材料としてセラミックス板を図6に示すように、ターゲット20の表面に対向して配置する。この配置下において、Ar雰囲気6Pa、基板温度250℃、高周波投入電力140Wの成膜条件下でセラミックス基体上にZnSi0.6Ge0.4:Mn多元系酸化物蛍光体薄膜をMn含有量を基体30上の長手方向に連続的に約0.2at.%から約3at.%に変化させた薄膜を形成することができる。作製した該膜のMn含有量は、図7に示すように、ターゲット内のZnSi0.6Ge0.4:Mn(0.2at.%)側からZnSi0.6Ge0.4:Mn(3at.%)側へ基体位置(d)が移動するのに伴って、膜中にMn含有量がリニアに増加しており、1回の成膜で、同一基体上にMn含有量を制御した薄膜を形成できた。
【0025】
上記のようにセラミックス製の基体30上に作製したZnSi0.6Ge0.4:Mn(約0.2〜約3at.%)多元系酸化物蛍光体薄膜に、Ar雰囲気中、910℃で1時間熱処理を施すことにより、エレクトロルミネッセンス素子用発光層としての機能を付与した。この後、蛍光体薄膜上を5mm間隔に区分して、それぞれに直径4mmのAl添加ZnO透明導電膜を高周波マグネトロンスパッタ法で形成し、セラミックスの裏面にAl背面電極を真空蒸着法により形成して薄膜エレクトロルミネッセンス素子を作製した。Mn含有量の増加に伴って、最高輝度が上昇し、Mn含有量2at.%において、最高輝度10000cd/mの緑色発光を実現できた。また、それ以上のMn含有量においては、最高輝度は低下することがわかった。したがって、本実施例のマグネトロンスパッタリング装置を用いることにより、1回の成膜プロセスでZnSi1−XGe:Mn多元系酸化物蛍光体薄膜の最適Mn含有量を決定することができた。
【0026】
(実施例3)
マグネトロンスパッタリング装置10内に設置したステンレス製のターゲット20の任意に分割された領域に複数の粉末固体原料を充填する。具体的には、蛍光体粉末であるZnGa:Mn(2at.%)及びZnAl:Mn(2at.%)が、図2に示す第1の領域24および第2の領域26に配置される。基体30の材料としてセラミックス板をターゲット20の表面に対向して配置する。この配置下において、Ar雰囲気6Pa、基板温度250℃、高周波投入電力140Wの成膜条件下でセラミックス製の基体30上にZnGa1−XAl:Mn(2at.%)多元系酸化物蛍光体薄膜をGa含有量Xを基体上の長手方向(d)に連続的に変化させた薄膜を形成することができる。
【0027】
上記のようにセラミックス製の基体30上に作製したZn(Ga1−XAl:Mn(X=0〜1)多元系酸化物蛍光体薄膜に、Ar雰囲気中、910℃で1時間熱処理を施すことにより、エレクトロルミネッセンス素子用発光層としての機能を付与した。この後、蛍光体薄膜上を5mm間隔に区分して、それぞれに直径4mmのAl添加ZnO透明導電膜を高周波マグネトロンスパッタ法で形成し、セラミックスの裏面にAl背面電極を真空蒸着法により形成して薄膜エレクトロルミネッセンス素子を作製した。Ga含有量の増加に伴って、最高輝度が上昇し、Ga含有量X=0.6において、最高輝度3000cd/mの緑色発光を実現できた。また、それ以上のGa含有量においては、最高輝度は低下することがわかった。したがって、本実施例のマグネトロンスパッタリング装置を用いることにより、1回の成膜プロセスでZn(Ga1−XAl:Mn多元系酸化物蛍光体薄膜の最適Ga含有量を決定することができた。
【0028】
(実施例4)
図8は、実施例4で用いられるターゲット20の構成を示す平面図である。実施例4のターゲット20は、領域が120度の角度の扇形に3分割され、第1の領域24、第2の領域26および第3の領域28に分けられている。第1の領域24、第2の領域26および第3の領域28に、蛍光体粉末であるGdVO:Tm、GdVO:Er、及びGdVO:Euをそれぞれ配置する。基体30の材料としてセラミックス板をターゲット20の表面に対向して配置する。この配置下において、Ar雰囲気6Pa、基板温度250℃、高周波投入電力140Wの成膜条件下でセラミックス基体上にGdVO:Tm,Er,Eu酸化物蛍光体薄膜をターゲット中心部に対向した部分に近づくほど発光中心材料であるTm、Er及びEuの含有量を増加させたGdVO:Tm,Er,Eu酸化物蛍光体薄膜を形成することができる。
【0029】
上記のようにセラミックス製の基体30上に作製したGdVO:Tm,Er,Eu酸化物蛍光体薄膜に、大気中、1000℃で1時間熱処理を施した。その結果、ターゲット中心部から半径20%以内の領域に作製された薄膜において非常に強いフォトルミネッセンス及びカソードルミネッセンスを観測した。また、GdVO:Tm、GdVO:Er、及びGdVO:Eu領域のターゲット周辺部分に対向した領域においては、それぞれ発光中心材料に対応した青、緑及び赤色発光が観測された。したがって、本実施例のマグネトロンスパッタリング装置を用いることにより、1回の成膜プロセスでGdVO:Tm,Er,Eu酸化物蛍光体薄膜の色度調整の最適化ができた。
【0030】
(実施例5)
マグネトロンスパッタリング装置10内に設置したステンレス製のターゲット20の任意に分割された領域に複数の粉末固体原料を充填する。具体的には、蛍光体粉末であるGa:Eu(1at.%)及びSi:Eu(1at.%)が、図2に示す第1の領域24および第2の領域26に配置される。基体30の材料としてセラミックス板をターゲット20の表面に対向して配置する。この配置下において、N+H(10%)雰囲気6Pa、基板温度350℃、高周波投入電力140Wの成膜条件下でセラミックス基体上に(Ga1−X−(Si:Eu複合酸窒化物蛍光体薄膜をGa,Si,O及びN含有量Xを基体上の長手方向に連続的に変化させた薄膜を形成することができる。膜中のGa及びO含有量はターゲットホルダー22内のGa:Eu側からSi側に移動するに従ってほぼリニアに減少し、Si及びN含有量はターゲットホルダー内のGa:Eu側からSi側に移動するに従ってほぼリニアに増加した。
【0031】
上記のようにセラミックス製の基体30上に作製した(Ga1−X−(Si:Eu(X=0〜1)複合酸窒化膜に、N雰囲気中、950℃で1時間熱処理を施しエレクトロルミネッセンス素子用発光層としての機能を付与した。この後、蛍光体薄膜上を5mm間隔に区分して、それぞれに直径4mmのAl添加ZnO透明導電膜を高周波マグネトロンスパッタ法で形成し、セラミックスの裏面にAl背面電極を真空蒸着法により形成して薄膜エレクトロルミネッセンス素子を作製した。Ga含有量の増加に伴って、最高輝度が上昇し、Ga含有量X=0.5において、最高輝度160cd/mの橙色発光を実現できた。したがって、本実施例のマグネトロンスパッタリング装置を用いることにより、1回の成膜プロセスで(Ga1−X−(Si:Eu多元系酸窒化物蛍光体薄膜の最適Ga,Si,O及びN含有量を決定することができた。
【0032】
(実施例6)
マグネトロンスパッタリング装置10内に設置したステンレス製のターゲット20の任意に分割された領域に複数の粉末固体原料を充填する。具体的には、蛍光体粉末であるGa:Eu(1at.%)及びAlN:Eu(1at.%)が、図2に示す第1の領域24および第2の領域26に配置される。基体30の材料としてセラミックス板をターゲット20の表面に対向して配置する。この配置下において、N+H(10%)雰囲気6Pa、基板温度350℃、高周波投入電力140Wの成膜条件下でセラミックス製の基体30上に(Ga1−X−(AlN):Eu複合酸窒化物薄膜をGa,Al,O及びN含有量Xを基体30上の長手方向(d)に連続的に変化させた薄膜を形成することができる。膜中のGa及びO含有量はターゲットホルダー22内のGa:Eu側からAlN側に移動するに従ってほぼリニアに減少し、Al及びO含有量はターゲットホルダー22内のGa:Eu側からAlN側に移動するに従ってほぼリニアに増加した。
【0033】
上記のようにセラミックス製の基体30上に作製した(Ga1−X−(AlN):Eu(X=0〜1)複合酸窒化物薄膜に、N雰囲気中、800℃で1時間熱処理を施すことにより、エレクトロルミネッセンス素子用発光層としての機能を付与した。この後、蛍光体薄膜上を5mm間隔に区分して、それぞれに直径4mmのAl添加ZnO透明導電膜を高周波マグネトロンスパッタ法で形成し、セラミックスの裏面にAl背面電極を真空蒸着法により形成して薄膜エレクトロルミネッセンス素子を作製した。Ga含有量の増加に伴って、最高輝度が上昇し、Ga含有量X=0.75において、最高輝度10cd/mの橙色発光を実現できた。したがって、本実施例のマグネトロンスパッタリング装置を用いることによりを用いることにより、1回の成膜プロセスで(Ga1−X−(AlN):Eu複合酸窒化物蛍光体薄膜の最適なGa,Al,O及びN含有量を決定することができた。
【0034】
(実施例7)
マグネトロンスパッタリング装置10内に設置したステンレス製のターゲット20の任意に分割された領域に複数の粉末固体原料を充填する。具体的には、蛍光体粉末であるSi:Eu(1at.%)及びAlN:Eu(1at.%)が、図2に示す第1の領域24および第2の領域26に配置される。基体30の材料としてセラミックス板をターゲット20の表面に対向して配置する。この配置下において、N+H(10%)雰囲気6Pa、基板温度350℃、高周波投入電力140Wの成膜条件下でセラミックス基体上に(Si1−X−(AlN):Eu複合窒化物蛍光体薄膜をGa及びSi含有量Xを基体上の長手方向(d)に連続的に変化させた薄膜を形成することができる。膜中のSi含有量はターゲットホルダー22内のSi:Eu側からAlN側に移動するに従ってほぼリニアに減少し、Al含有量はターゲットホルダー内のSi:Eu側からAlN側に移動するに従ってほぼリニアに増加した。
【0035】
上記のようにセラミックス製の基体30上に作製した(Si1−X−(AlN):Eu(X=0〜1)複合窒化物蛍光体薄膜に、N雰囲気中、800℃で1時間熱処理を施すことにより、エレクトロルミネッセンス素子用発光層としての機能を付与した。この後、蛍光体薄膜上を5mm間隔に区分して、それぞれに直径4mmのAl添加ZnO透明導電膜を高周波マグネトロンスパッタ法で形成し、セラミックスの裏面にAl背面電極を真空蒸着法により形成して薄膜エレクトロルミネッセンス素子を作製した。Si含有量の増加に伴って、最高輝度が上昇し、Si含有量X=0.7において、最高輝度5cd/mの赤色発光を実現できた。したがって、本実施例のマグネトロンスパッタリング装置を用いることにより、1回の成膜プロセスで(Si1−X−(AlN):Eu複合窒化物蛍光体薄膜の最適Si含有量を決定することができた。
【0036】
(実施例8)
マグネトロンスパッタリング装置10内に設置したステンレス製のターゲット20の任意に分割された領域に複数の粉末固体原料を充填する。具体的には、蛍光体粉末であるZnS:Mn(2at.%)及びZnS:Tb(2at.%)が、図2に示す第1の領域24および第2の領域26に配置される。この配置下において、Ar雰囲気6Pa、基板温度250℃、高周波投入電力140Wの成膜条件下でセラミックス製の基体30上にZnS:Mn,Tb硫化物蛍光体薄膜をMn及びTb含有量を基体30上の長手方向(d)に連続的に変化させた薄膜を形成することができる。膜中のMn含有量はターゲットホルダー22内のZnS:Mn側からZnS:Tb側に移動するに従ってほぼリニアに減少し、Tb含有量はターゲットホルダー22内のZnS:Mn側からZnS:Tb側に移動するに従ってほぼリニアに増加した。
【0037】
上記のようにセラミックス製の基体30上に作製したZnS:Mn,Tb不純物傾斜型硫化物蛍光体薄膜に、Ar雰囲気中、800℃で1時間熱処理を施すことにより、エレクトロルミネッセンス素子用発光層としての機能を付与した。この後、蛍光体薄膜上を5mm間隔に区分して、それぞれに直径4mmのAl添加ZnO透明導電膜を高周波マグネトロンスパッタ法で形成し、セラミックスの裏面にAl背面電極を真空蒸着法により形成して薄膜エレクトロルミネッセンス素子を作製した。Tb含有量の増加に伴って、発光色が橙色から緑色へと変化した。したがって、本実施例のマグネトロンスパッタリング装置を用いることにより、1回の成膜プロセスでZnS:Mn,Tb傾斜型硫化物蛍光体薄膜EL素子の色度調整の最適化ができた。
【0038】
(実施例9)
マグネトロンスパッタリング装置10内に設置したステンレス製のターゲット20の任意に分割された領域に複数の粉末固体原料を充填する。具体的には、蛍光体粉末であるY:Eu(2at.%)及びY:Eu(2at.%)が、図2に示す第1の領域24および第2の領域26に配置される。基体30の材料としてセラミックス板をターゲット20の表面に対向して配置する。この配置下において、Ar雰囲気6Pa、基板温度250℃、高周波投入電力140Wの成膜条件下でセラミックス製の基体30上に(Y−(Y:Eu(2at.%)複合硫酸化物蛍光体薄膜を酸素及び硫黄含有量を基体30上の長手方向(d)に連続的に変化させた薄膜を形成することができる。膜中の酸素含有量はY:Eu側からY:Eu側に移動するに従ってほぼリニアに減少し、硫黄含有量はターゲットホルダー22内のY:Eu側からY:Eu側に移動するに従ってほぼリニアに増加した。
【0039】
上記のようにセラミックス製の基体30上に作製した(Y−(Y:Eu複合硫酸化物蛍光体薄膜に、Ar雰囲気中、800℃で1時間熱処理を施すことにより、エレクトロルミネッセンス素子用発光層としての機能を付与した。この後、蛍光体薄膜上を5mm間隔に区分して、それぞれに直径4mmのAl添加ZnO透明導電膜を高周波マグネトロンスパッタ法で形成し、セラミックスの裏面にAl背面電極を真空蒸着法により形成して薄膜エレクトロルミネッセンス素子を作製した。硫黄含有量の増加に伴って、発光色が橙色から赤色へと変化した。したがって、本実施例のマグネトロンスパッタリング装置を用いることにより、1回の成膜プロセスで(Y−(Y:Eu複合硫酸化物蛍光体薄膜の色度調整の最適化ができた。
【0040】
以上説明したように、ターゲットを任意に分割して、それぞれの区画された領域に異なるターゲット材料を配置し、基体はターゲット表面に対向して配置してなる任意のマグネトロンスパッタリング装置を用いることにより、構成元素及び添加不純物の両方もしくは一部が基体上で変化する薄膜を基体表面に形成でき、1回の成膜プロセスで薄膜の構成元素並びに添加不純物の含有量の最適化が可能となると言う顕著な効果が得られた。特に、ターゲットとして粉末材料を使用することにより、その生産性は飛躍的に向上する効果があり、蛍光体に代表されるような、複数の構成元素を含有する各種機能性複合系薄膜作製条件の最適化プロセスの省力化において、その効果は絶大である。
【0041】
本発明は、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施形態に係るマグネトロンスパッタリング装置の一例を示す図である。
【図2】ターゲットの一例の平面図である。
【図3】実施例1に係るマグネトロンスパッタリング装置で使用されるターゲットならびに基体、および作製された薄膜の幾何学的な位置関係を示す図である。
【図4】実施例1のターゲットを用いて成膜した薄膜におけるGe含有量Xの基体位置依存性を示すグラフである。
【図5】ZnSi1−XGe:Mn(2at.%)多元系酸化物蛍光体薄膜エレクトロルミネッセンス素子の1kHz 正弦波駆動時の最高輝度のGe含有量依存性を示すグラフである。
【図6】実施例2のターゲットならびに基体および作製された薄膜の幾何学的な位置関係を示す図である。
【図7】実施例2におけるZnSi0.6Ge0.4:Mn薄膜のMn含有量の基体位置依存性を示す図である。
【図8】実施例4で用いられるターゲットの構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0043】
10 マグネトロンスパッタリング装置、20 ターゲット、22 ターゲットホルダー、30 基体、40 電力供給手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜が堆積される基体と、
前記基体と対向して配置されたターゲットと、
前記ターゲットの表面に磁界を発生させる磁界発生手段と、
を備え、
前記ターゲットは、領域が複数に分割され、分割された領域ごとに組成の異なる複数の材料を有することを特徴とするマグネトロンスパッタリング装置。
【請求項2】
前記ターゲットが有する複数の材料が、金属、合金、酸化物、硫化物、窒化物からなる群より選ばれた材料であることを特徴とする請求項1に記載のマグネトロンスパッタリング装置。
【請求項3】
前記ターゲットが有する複数の材料が、複合酸化物を構成する酸化物であることを特徴とする請求項2に記載のマグネトロンスパッタリング装置。
【請求項4】
前記ターゲットが有する複数の材料が、複合窒化物を構成する窒化であることを特徴とする請求項2に記載のマグネトロンスパッタリング装置。
【請求項5】
前記ターゲットが有する複数の材料が、複合硫化物を構成する硫化物であることを特徴とする請求項2に記載のマグネトロンスパッタリング装置。
【請求項6】
前記ターゲットが有する複数の材料が、複合酸窒化物を構成する酸化物および窒化物であることを特徴とする請求項2に記載のマグネトロンスパッタリング装置。
【請求項7】
前記ターゲットが有する複数の材料が、複合硫酸化物を構成する硫化物および酸化物であることを特徴とする請求項2に記載のマグネトロンスパッタリング装置。
【請求項8】
前記ターゲットが有する複数の材料における組成の違いが各材料中の不純物の種類または不純物の濃度に起因していることを特徴とする請求項2に記載のマグネトロンスパッタリング装置。
【請求項9】
前記ターゲットが有する複数の材料が、傾斜型材料を構成する材料であることを特徴とする請求項2に記載のマグネトロンスパッタリング装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−111968(P2006−111968A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−272773(P2005−272773)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】