説明

マグネトロンスパッタ装置

【課題】成膜速度の面内均一性を確保しながら、成膜速度を高め、ターゲットの使用効率を向上したマグネトロンスパッタ装置を提供する。
【解決手段】ターゲット31の背面側に設けられたマグネット配列体5は、両端が互に異極である棒状マグネットが網の目状に配置されると共に、網の目の交点にて、棒状マグネットの端面に囲まれる領域には透磁性のコア部材を設けるように構成されている。棒状マグネットの両端の極からの磁束がコア部材を通して出ていくため、隣接する棒状マグネット同士の磁束の反発が抑えられて磁束線の歪みが抑制され、水平磁場が広い範囲で形成される。このため、高密度のプラズマが広範囲に均一に形成され、成膜速度の面内均一性を確保しながら、速い成膜速度が得られる。また、ターゲット31のエロージョンの面内均一性が良好であり、エロージョンが均一性を持って進行するため、ターゲット31の使用効率が高くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程で用いられるマグネトロンスパッタ装置は、例えば図13に示すように、低圧雰囲気に設定された真空容器11内に、基板12と対向するように成膜材料よりなるターゲット13を配置すると共に、ターゲット13の上面側にマグネット体14を設け、ターゲット13が導電体例えば金属である場合には、負の直流電圧を印加した状態でターゲット13の下面近傍に磁場を形成するように構成されている。また、真空容器11の内壁への粒子の付着を防止するために防着シールド(図示せず)が設けられている。
【0003】
前記マグネット体14は図14に示すように、一般的には例えば環状のマグネット15の内側に、当該マグネット15と異なる極性の円形のマグネット16を配置して構成されている。なお、図14はマグネット体14をターゲット13側から見た平面図であり、この例では、外側のマグネット15の極性はターゲット13側がS極、内側のマグネット16の極性はターゲット13側がN極になるように夫々設定されている。こうして、ターゲット13の下面近傍には前記外側のマグネット15に基づくカスプ磁界と内側のマグネット16に基づくカスプ磁界とにより水平磁場が形成される。
【0004】
前記真空容器11内に、アルゴン(Ar)ガス等の不活性ガスを導入して、DC電源部15からターゲット13に負の直流電圧を印加すると、この電界によってArガスが電離し、電子が生成する。この電子は、前記水平磁場と電界とによってドリフトし、こうして高密度プラズマが形成される。そして、プラズマ中のArイオンがターゲット13をスパッタしてターゲット13から金属粒子を叩き出し、当該放出された金属粒子によって基板12の成膜が行われる。
【0005】
このようなメカニズムであることから、ターゲット13の下面では、図15に示すように、外側のマグネット15と内側のマグネット16との中間部直下に、マグネットの配列に沿った環状のエロージョン17が形成される。この際、ターゲット13全面でエロージョン17を形成するためにマグネット体14を回転させているが、既述のマグネット配列では、ターゲット13の半径方向において均一にエロージョン17を形成することは困難である。
【0006】
一方、基板面内の成膜速度分布はターゲット13面内のエロージョン17の強弱(スパッタ速度の大小)に依存する。従って、上記のようにエロージョン17の均一性が悪い場合には、図15に点線で示すように、ターゲット13と基板12との距離を小さくすると、エロージョンの形状がそのまま反映されて基板面内の成膜速度の均一性が悪化してしまう。このようなことから、従来ではターゲット13と基板との距離を50mm〜100mm程度と大きくしてスパッタ処理を行っている。
【0007】
この際、ターゲット13からスパッタにより放出された粒子は外方へ飛散していくので、ターゲット13から基板12を離すと、防着シールドに付着するスパッタ粒子が多くなり、基板外周部の成膜速度が低下してしまう。このため、外周部のエロージョンが深くなるように、即ち外周のスパッタ速度を高めるようにして、基板面内の成膜速度の均一性を確保することが一般的に行われている。しかしながら、この構成では、既述のように防着シールドに付着するスパッタ粒子が多くなることから、成膜効率が10%程度と非常に低く、速い成膜速度が得られない。
【0008】
また、ターゲット13はエロージョン17が裏面側に到達する直前に交換する必要があるが、既述のように、エロージョン17の面内均一性が低く、エロージョン17の進行が早い部位が局所的に存在すると、この部位に合わせてターゲット13の交換時期が決定されるため、ターゲット13の使用効率は40%程度と低くなる。製造コストを低減し、生産性を向上させるためには、ターゲット13の使用効率を高くすることも要求されている。
【0009】
ところで近年では、メモリーデバイスの配線材料としてタングステン(W)膜が注目されており、例えば300nm/min程度の成膜速度で成膜することが要請されている。上述の構成では、例えば印加電力を15kWh程度に大きくすることにより前記成膜速度を確保することができるが、機構が複雑であり、稼働率が低く、製造コストが高くなってしまう。
【0010】
ここで、成膜速度の面内均一性を確保するためには、エロージョンの面内均一性を向上させる必要があるが、この手法として複数のマグネットを平面的に配列することが検討されている。特許文献1には、任意の2つの間で等距離を有し、かつ交互の極性を有する複数のマグネットをターゲットと対向するように平面的に配列し、ターゲットの下側にポイントカスプ磁界を生成する構成が提案されている。また、特許文献2には、各々ターゲットの表面と平行な中心軸を備える複数のマグネットを、互いの中心軸が略平行になるように配置すると共に、複数のマグネットをN極とS極とが前記中心軸に対して略直角方向に互いに対向するように形成した技術が記載されている。
【0011】
このようにマグネットを配列する構成において、成膜速度を高める場合、マグネットの配列間隔を狭めたり、表面磁束密度を大きくして磁場の強度を大きくすることが考えられる。しかしながら、このようにすると、互いに磁束の反発が強くなり、磁束線が歪み、水平磁場が得られる範囲が狭くなってしまう。これら特許文献1及び特許文献2には、水平磁場を広い範囲で形成するマグネット配列については記載されておらず、これらの技術を用いても、成膜速度の面内均一性を確保しながら、速い成膜速度を得るという本発明の課題を解決することはできない。
【0012】
【特許文献1】特開2004−162138号公報
【特許文献2】特開2000−309867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、その目的は、成膜速度の面内均一性を確保しながら、速い成膜速度を得ると共に、ターゲットの使用効率を向上させることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、真空容器内に載置された被処理基板に対向するようにターゲットを配置し、このターゲットの背面側にマグネットを設けたマグネトロンスパッタ装置において、
前記ターゲットに電圧を印加する電源部と、
前記ターゲットの背面側に設けられたベース体にマグネット群を配列したマグネット配列体と、を備え、
前記マグネット配列体は、
両端が互いに異極である棒状のマグネットを、ターゲットに対向する面に沿って網の目状に配置したことと、
各網の目の形状が2n(nは2以上の整数)角形であることと、
網の目の交点にて棒状のマグネットの端面に囲まれる領域には透磁性のコア部材が設けられていることと、
コア部材を囲む棒状のマグネットの端部同士は互いに同極であることと、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、マグネトロンスパッタ装置において、ターゲットの背面側に設けられたベース体にマグネット群を配列したマグネット配列体を備え、このマグネット配列体は、両端が互に異極である棒状のマグネットが網の目状に配置されると共に、網の目の交点にて、棒状のマグネットの端面に囲まれる領域には透磁性のコア部材が設けられる領域を備えている。この領域では、棒状のマグネットの両端の極からの磁束がコア部材を通して出ていくため、隣接する棒状のマグネット同士の磁束の反発が抑えられて磁束線の歪みが抑制され、水平性が高い磁場(水平磁場)が広い範囲で形成される。この結果、高密度のプラズマが広範囲で均一に形成されるため、成膜速度の面内均一性を確保しながら、速い成膜速度を得ることができる。
【0016】
また、棒状のマグネットが網の目状に配置されているため、ターゲットに形成されるエロージョンの面内均一性が良好であり、さらにプラズマ密度の均一性が高いことからターゲットの面内においてエロージョンが均一性を持って進行する。このため、局所的にエロージョンが進行する場合に比べてターゲットの寿命が長くなり、ターゲットの使用効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかるマグネトロンスパッタ装置の一実施の形態を示す縦断面図である。
【図2】前記マグネトロンスパッタ装置に設けられたマグネット配列体の一例を示す平面図である。
【図3】マグネット配列体を示す側面図である。
【図4】マグネット配列体に設けられた棒状マグネットとコア部材の一部を示す斜視図である。
【図5】マグネット配列体を示す平面図である。
【図6】マグネット配列体の作用を示す側面図である。
【図7】ターゲットと基板との距離と成膜効率及び成膜速度の面内均一性との関係を示す特性図である。
【図8】マグネット配列体の他の例を示す平面図である。
【図9】マグネット配列体のさらに他の例を示す平面図である。
【図10】マグネット配列体の一部を示す平面図である。
【図11】マグネット配列体のさらに他の例を示す平面図である。
【図12】マグネトロンスパッタ装置の他の例を示す縦断面図である。
【図13】従来のマグネトロンスパッタ装置を示す縦断面図である。
【図14】従来のマグネトロンスパッタ装置に用いられるマグネット体を示す平面図である。
【図15】従来のマグネトロンスパッタ装置の作用を説明する縦断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の一実施の形態に係るマグネトロンスパッタ装置について、図面を参照しながら説明する。図1は、前記マグネトロンスパッタ装置の一例を示す縦断面図であり、図中2は例えばアルミニウム(Al)により構成され、接地された真空容器2である。この真空容器2は天井部が開口しており、この開口部21を塞ぐようにターゲット電極3が設けられている。このターゲット電極3は、成膜材料例えばタングステン(W)よりなるターゲット31を、例えば銅(Cu)若しくはアルミニウム(Al)よりなる導電性のベース板32の下面に接合することにより構成されている。前記ターゲット31は例えば平面形状が円形状に構成され、その直径は被処理基板をなす半導体ウエハ(以下「ウエハ」という)10よりも大きくなるように、例えば400乃至450mmに設定されている。
【0019】
前記ベース板32はターゲット31よりも大きく形成され、ベース板32の下面の周縁領域が真空容器2の開口部21の周囲に載置されるように設けられている。この際、ベース板32の周縁部と真空容器2との間には、環状の絶縁部材22が設けられており、こうして、ターゲット電極3は、真空容器2とは電気的に絶縁された状態で真空容器2に固定されている。また、このターゲット電極3には電源部33により負の直流電圧が印加されるようになっている。
【0020】
真空容器2内には前記ターゲット電極3と平行に対向するように、ウエハ10を水平に載置する載置部4が設けられている。この載置部4は例えばアルミニウムからなる電極(対向電極)として構成され、高周波電力を供給する高周波電源部41が接続されている。当該載置部4は、昇降機構42により、ウエハ10を真空チャンバ2に対して搬入出する搬送位置と、スパッタ時における処理位置との間で昇降自在に構成されている。前記処理位置では、例えば載置部4上のウエハ10の上面と、ターゲット31の下面との距離hが例えば10mm以上100mm以下、好ましくは10mm以上50mm以下、より好ましくは10mm以上30mm以下に設定されている。
【0021】
また、この載置部4の内部には、加熱機構をなすヒータ43が内蔵され、ウエハ10が例えば400℃に加熱されるようになっている。さらに、この載置部4には、当該載置部4と図示しない外部の搬送アームとの間でウエハ10を受け渡すための図示しない突出ピンが設けられている。
【0022】
真空容器2の内部には、ターゲット電極3の下方側を周方向に沿って囲むように環状のチャンバシールド部材44が設けられていると共に、載置部4の側方を周方向に沿って囲むように環状のホルダシールド部材45が設けられている。これらは、真空容器2の内壁へのスパッタ粒子の付着を抑えるために設けられるものであり、例えばアルミニウム若しくはアルミニウムを母材とする合金等の導電体により構成されている。チャンバシールド部材44は例えば真空容器2の天井部の内壁に接続されており、真空容器2を介して接地されている。また、ホルダシールド部材45を介して載置部4が接地されるように、ホルダシールド部材45が接地されている。
【0023】
さらに、真空容器2は、排気路23を介して真空排気機構である真空ポンプ24に接続されると共に、供給路25を介して不活性ガス例えばArガスの供給源26に接続されている。図中27は、ゲートバルブ28により開閉自在に構成されたウエハ10の搬送口である。
【0024】
ターゲット電極3の上部側には、当該ターゲット電極3と近接するようにマグネット配列体5が設けられている。このマグネット配列体5は、図2及び図3(図2のL1線側面図)に示すように、比透磁率の高い材料例えば鉄(Fe)よりなるベース体51にマグネット群52を配列することにより構成されている。図2は、ターゲット31側からマグネット群52を見たときの平面図である。前記ベース体51はターゲット31と対向するように設けられ、その平面形状はターゲット31よりも大きい円形状に形成されている。このベース体51は、その中心Oがターゲット31の中心と対向する位置になるように配置されており、例えばベース体51の直径はターゲット径よりも60mm程度大きい値に設定されている。
【0025】
前記マグネット群52は、両端が互に異極である棒状のマグネット6と、透磁性のコア部材7とより構成された内側マグネット群53と、この内側マグネット群53の外側に設けられたリターン用のマグネット8を備えている。これら棒状マグネット6、コア部材7及びリターン用のマグネット8は、カスプ磁界による電子のドリフトに基づいてウエハ10の投影領域全体に亘ってプラズマが発生するように、ターゲット31に対向する面に沿って配列されている。
【0026】
前記棒状マグネット6は、ターゲット31に対向する面に沿って網の目状に配置されており、各網の目の形状が2n(nは2以上の整数)角形に形成されている。また、網の目の交点にて棒状マグネット6の端面に囲まれる領域にはコア部材7が設けられ、コア部材7を囲む棒状マグネット6の端部同士は互いに同極になるように配置されている。
【0027】
具体的には、棒状マグネット6及びコア部材7は、図2に示すように、碁盤のライン状の線状部分に棒状マグネット6、交点部分にコア部材7が夫々配置されている。こうして、棒状マグネット6を正方形状(n=2の2n角形状)に配列すると共に、4つの交点部分に夫々コア部材7を配置し、棒状マグネット6のコア部材7を囲む部分は同極となるように設定されている。これにより、図4に中心のコア部材71を例にして示すように、一つのコア部材7(71)の周りに、同じ極性を当該コア部材7(71)に向けるように、4本の棒状マグネット6(61a〜61d)が90度間隔で放射状に配置されたユニット60が、ベース体51の下面側(ターゲット31側)に多数配列されることになる。
【0028】
また、前記内側マグネット群53には、例えばベース体51の中心Oを中心に回転させたときに回転対象となるように、棒状マグネット6及びコア部材7が配列されている。図2の例では、前記中心Oにコア部材71が配置され、前記中心Oにて互いに直交する2本の直線L1、L2上に夫々棒状マグネット6を配列するようにレイアウトされている。
【0029】
例えば図2において、ターゲット31の左右方向をX方向、ターゲット31の奥行方向をY方向とすると、前記直線L1は前記左右方向に伸び、直線L2は前記奥行方向に伸びるように設けられている。そして、棒状マグネット6は例えば平面形状が長方形状に構成され、その長さ方向が前記左右方向と、前記奥行方向に夫々平行になるように配列されて、4本の棒状マグネット6により正方形を形成するように配列されている。
【0030】
前記コア部材7は、透磁性の材料例えば鉄(Fe)により構成される。ここで、透磁性とは、比透磁率が1000以上であることをいい、前記鉄の他、珪素鋼、パーマロイ等をコア部材7として用いることができる。このコア部材7は、例えば平面形状が正方形状に構成され、この例では棒状マグネット6との間に僅かな隙間を介して設けられている。例えば全ての棒状マグネット6及びコア部材7が同じ形状及び大きさに構成されると共に、棒状マグネット6とコア部材7との離間間隔が揃うように配置され、こうして、この例では棒状マグネット6とコア部材7が4回対象に配列されている。
【0031】
ここで、コア部材7を中心として電子のドリフト運動が発生するように、棒状マグネット6とコア部材7の配列体が構成されている。電子のドリフトを起こりやすくするためには、水平性の高い磁場を広く形成することが必要であり、このため、コア部材7と棒状マグネット6をできるだけ接近させ、かつコア部材7を囲む棒状マグネット6同士の間では、コア部材7の端部から棒状マグネット6の端部までの距離が揃っていることが好ましい。ここで前記距離が揃っているとは、コア部材7の端部とこれに隣接する棒状マグネット6の端部との距離の平均値に対して、各々の距離が±10%以内にあることをいう。また、図2にはコア部材7と棒状マグネット6とを離間して配列する例を記載したが、棒状マグネット6同士はコア部材7を介してできるだけ接近して設けることが好ましいことから、磁場の漏れをなくすために、棒状マグネット6とコア部材7とを接触させて設けるようにしてもよい。このため、コア部材7と棒状マグネット6との離間間隔D1は0mm〜3mmに設定される。
【0032】
また、均一な磁場を形成するためには、コア部材7を囲む棒状マグネット6同士の間では、コア部材7の中心から棒状マグネット6の端部までの距離が揃っていることが好ましい。このため、上述の例では、コア部材7を中心として四方向に棒状マグネット6が放射状に配列されるため、コア部材7は正方形状に構成され、コア部材7の一辺は、棒状マグネット6の幅と同じ程度に構成されている。
【0033】
ここで、例えば棒状マグネット6とコア部材7の大きさの一例を示すと、棒状マグネット6は、長さが10mm〜50mm、幅が5mm〜20mm、高さが5mm〜20mm程度であり、コア部材7は、その大きさは一辺が5mm〜20mm、高さが5mm〜20mm程度である。この際、磁場の漏れを少なくするためには、棒状マグネット6の両端の端面形状と、コア部材7の棒状マグネット6に対応する端面の形状とが揃っていることが好ましいが、必ずしも両者の形状が揃うように構成する必要はない。
【0034】
マグネット群52の最外周にはリターン用のマグネット8が設けられており、このリターン用マグネット8は、電子がカスプ磁界による拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことを阻止するように、ライン状に配列されている。ここで、内側マグネット群53において、最も外側に位置する棒状マグネットを外側マグネット62と呼ぶことにすると、図2の構成では、マグネット62a,62b、62c,62d、62e,62f、62g,62hが外側マグネットに相当する。そして、この例では、外側マグネット62a,62bの組と外側マグネット62e,62fの組は、前記左右方向に平行に配列され、外側マグネット62c,62dの組と外側マグネット62g,62hの組は、前記奥行方向に平行に配列されている。
【0035】
前記リターン用マグネット8(8a〜8h)は例えば8個設けられており、前記外側マグネット62の組に対向するように前記左右方向又は奥行方向に平行に配置されると共に、外側マグネット62の組に対向しないものは斜めに配置され、こうして内側マグネット群53の周囲に、互いに間隔を開けて略八角形を形成するように配列されている。
【0036】
このリターン用マグネット8は例えば平面形状が長方形状に形成されている。また、外側マグネット62の組に対向して設けられたリターン用マグネット8について、リターン用マグネット8aを例にして説明すると、その長さ方向の中心が外側マグネット62a,62bの中央に位置するコア部材72bと対応するように設けられ、その長さ方向の両端部が外側マグネット62a,62bの両端部に夫々位置するコア部材72a,72cよりも内側に位置するように設けられている。さらに、リターン用マグネット8aの極性は、前記中央に位置するコア部材72bを囲む棒状マグネット62a,62bの端面の極性と異なる極性、この例ではS極に設定されている。図2は、ターゲット電極3側からマグネット配列体5を見た図であり、リターン用マグネット8aは、ターゲット電極3側がS極、ベース体51側がN極になっている。また、内側マグネット群53の最外周である外側マグネット62と対向するリターン用マグネット8は、前記外側マグネット62との離間間隔D2が互いに等しくなるように設けられている。
【0037】
前記マグネット群52は、ドリフトしている電子群の運動領域よりもウエハ10の周縁位置が内側になるように構成されている。また、ウエハ10の外縁から50mm外方の領域に、内側マグネット群53とリターン用マグネット8の離間部分があると、成膜速度分布の均一性が良好であることがシミュレーションより明らかであり、このように構成することが好ましい。
【0038】
さらに、ターゲット31の外縁位置が内側マグネット群53とリターン用のマグネット8の離間部分にあるように設定すると、リターン用マグネット8による水平磁場がターゲット31外周を覆い、ターゲット31全面でのエロージョンが可能となる。ターゲット31よりマグネットの形成領域が大きくなると、異常放電が発生するおそれがあるが、リターン用マグネット8の磁束と、内側マグネット群53を構成する棒状マグネット6の磁束の収支を合わせることによって、異常放電を防ぐことができると捉えている。
【0039】
さらに、各リターン用マグネット8の磁束と、これに対応する内側マグネット群53の外側マグネット62の磁束の収支が合うように、リターン用マグネット8と内側マグネット群53の夫々の表面磁束密度が調整されている。また、水平磁場(磁束密度)の強度は、安定した放電を得るために、例えば100〜300Gに設定することが好ましい。この磁束密度は、棒状マグネット6の大きさ、表面磁束密度、配列数、コア部材7と棒状マグネットとの間隔D1、リターン用マグネット8と内側マグネット群53との間隔D2、後述する回転偏心量等により適宜設計される。
【0040】
さらに、後述するように、リターン用マグネット8と内側マグネット群53との夫々に電離が起こり、リターン用マグネット8と内側マグネット群53とでは電離の強さが異なるが、リターン用マグネット8の大きさや表面磁束密度、内側マグネット群53との離間間隔D2を調整することによって、電離の強さを制御することができる。
【0041】
このように、棒状マグネット6やコア部材7の形状や大きさや、配列間隔等の種々の条件を調整することにより、ターゲット31の直下で均一な磁界が形成されるようにマグネット配列体5が設計される。この際、図2に示す例は、マグネット群52とウエハ10とベース体51との相対的大きさを示すものであるが、このマグネット群52は構成例の一つであり、ウエハ10の大きさに合わせて、棒状マグネット6、リターン用のマグネット8の設置数が適宜増減される。
【0042】
ここで、設計例の一つを示すと、リターン用マグネット8は、縦断面の大きさが例えば10mm×20mm、長さが例えば120mm、表面磁束密度は2乃至3kGであるが、その大きさや積層数を調整することにより、内側マグネット群53の外側マグネットとに対する磁力の最適化を図ることができる。また、内側マグネット群53の最外周の外側マグネット62とリターン用マグネット8との離間間隔D2は例えば5乃至30mmに夫々設定されている。
【0043】
また、例えばマグネット群52を構成する棒状マグネット6,リターン用のマグネット8とは同じ高さに設定され、これらマグネット6,8の下面の高さ位置は揃うように構成されている。そして、これらマグネット6,8の下面とターゲット31の上面までの距離は、例えば15〜40mmに設定される。但し、棒状マグネット6、コア部材7及びリターン用マグネット8は、必ずしも同じ高さに設定する必要はない。
【0044】
前記マグネット配列体5のベース体51の上面は、回転軸55を介して回転機構56に接続されており、この回転機構56によりマグネット配列体5は、ウエハ10に対して直交する軸の周りに回転自在に構成されている。この例では、図3に示すように、回転軸55はベース板51の中心Oから偏心した位置に設けられている。この際の偏心距離については、ターゲット31全面でのエロージョンを可能とするためには、偏心して回転させたときにも、ターゲット31の外縁がマグネット群52よりも内側に位置するように設定することが好ましい。このため、この例では、回転軸55はベース板51の中心Oから20乃至30mm偏心した位置に設けられている。
【0045】
このマグネット配列体5の周囲には、当該マグネット配列体5の回転領域を形成した状態で、マグネット配列体5の上面及び側面を覆うように、冷却機構をなす冷却ジャケット57が設けられている。この冷却ジャケット57の内部には冷却媒体の流路58が形成されており、当該流路58内に所定温度に調整された冷却媒体例えば冷却水を供給部59から循環供給することにより、マグネット配列体5及び当該マグネット配列体5を介してターゲット電極3が冷却されるように構成されている。
【0046】
以上に説明した構成を備えるマグネトロンスパッタ装置は、電源部33や高周波電源部41からの電力供給動作、Arガスの供給動作、昇降機構42による載置部4の昇降動作、回転機構56によるマグネット配列体5の回転動作、真空ポンプ24による真空容器2の排気動作、ヒータ43による加熱動作等を制御する制御部100を備えている。この制御部100は、例えば図示しないCPUと記憶部とを備えたコンピュータからなり、この記憶部には、当該マグネトロンスパッタ装置によってウエハ10への成膜を行うために必要な制御についてのステップ(命令)群が組まれたプログラムが記憶されている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリーカード等の記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0047】
続いて、上述のマグネトロンスパッタ装置の作用について説明する。先ず、真空容器2の搬送口27を開き、載置部4を受け渡し位置に配置して、図示しない外部の搬送機構及び突き上げピンの協働作業により、載置部4にウエハ10を受け渡す。次いで、搬送口27を閉じ、載置部4を処理位置まで上昇させる。また、真空容器2内にArガスを導入すると共に、真空ポンプ24により真空排気して、真空容器2内を所定の真空度例えば0.665〜13.3Pa(5〜100mTorr)に維持する。一方、マグネット配列体5を回転機構56により回転させながら、電源部33からターゲット電極3に例えば100W〜3000Wの負の直流電圧を印加すると共に、高周波電源部43から載置部4に数百KHz〜百MH程度の高周波電圧を10W〜1000W程度印加する。また、冷却ジャケット57の流路58には、常時冷却水を通流させておく。
【0048】
ターゲット電極3に直流電圧を印加すると、この電界によりArガスが電離して電子を発生する。一方、マグネット配列体5のマグネット群52により、内側マグネット群53の棒状マグネット6同士の間、及び内側マグネット群53の外側マグネットとリターン用マグネット8同士の間にカスプ磁界が形成され、このカスプ磁界が連続してターゲット31の表面(スパッタされる面)近傍に水平磁場が形成される。
【0049】
こうして、ターゲット31近傍の電界と前記水平磁場によりマグネトロン放電が起こる。そして、ターゲット31近傍の電界Eと前記水平磁場BによるE×Bの方向に前記電子が加速され、ドリフト運動を起こす。そして、加速によって十分なエネルギーを持った電子が、さらにArガスと衝突し、電離を起こしてプラズマを形成する。
【0050】
ここで、前記電子のドリフトの方向について図5に模式的に示す。このように例えば、コア部材7の周囲がN極で囲まれた棒状マグネット6のユニット60Aでは、当該コア部材7を反時計回りに周回するように電子がドリフトし、コア部材の周囲がS極で囲まれた棒状マグネット6のユニット60Bでは、当該コア部材を時計回りに周回するように電子がドリフトする。
【0051】
この際、内側マグネット群53では、コア部材7を介して棒状マグネット6が隣接するが、コア部材7は透磁性であり、比透磁率が高いため、棒状マグネット6の両端からの磁束は、図6(a)に磁束線を点線にて示すようにコア部材7を透過する。そして、コア部材7と棒状マグネット6とは互いに接触しているか、あるいは接近しているので、コア部材7から新たに磁束が出て行く状態が得られ、コア部材7が設けられた交差領域の下方側においても水平性の高い磁場(水平磁場)が形成される。こうして、コア部材7を設けることにより、前記交差領域側に磁場の形成範囲を寄せることができるので、棒状マグネット6による水平磁場がマグネットの長さ方向及び上下方向(図中Z方向)の広い範囲で形成される。
【0052】
この例のマグネット群52のレイアウトによれば、既述のようにドリフトしている電子群の運動領域よりもウエハ10の周縁位置が内側になるように設定されている。これにより、マグネット配列体5が静止している時に、電子のドリフトに基づいてウエハ10の投影領域全体に亘ってプラズマが発生することになる。そして電子は、一つのコア部材7の周囲のみだけではなく、全てのコア部材7の周囲を周回するように飛び回りながら加速され、Arガスとの衝突と電離を繰り返し、プラズマ中のArイオンがターゲット31をスパッタする。また、このスパッタにより生成された二次電子は前記水平磁場に捕捉されて、同様にドリフトして、内側マグネット群53が形成された領域全体の電離に寄与する。
【0053】
このように、棒状マグネット6を網の目状に配置すると共に、網の目の交点にて、棒状マグネット6の端面に囲まれる領域には透磁性のコア部材7を設け、コア部材7を囲む棒状マグネット6の端部同士は互いに同極になるようにマグネット配列体5を構成しているので、コア部材7が設けられた交差領域側に磁場を引き寄せることができ、水平磁場を広く形成することができる。水平磁場ではドリフト運動が強く起こり、電子密度が高くなるため、水平磁場を広く形成することにより、結果としてターゲット31の直下近傍において、高密度のプラズマを広範囲に、高い面内均一性を確保しながら生成することができる。また、プラズマ密度が高くなることから、速い成膜速度を得ることができる。
【0054】
一方、コア部材7を設けない場合には、棒状マグネット6同士を接近させると、図6(b)に示すように、互いの磁束の反発が強くなり、磁束線が棒状マグネット6側に歪んでしまう。このため、前記交差領域の下方側近傍領域では磁場が歪み、水平性が高い磁場を形成することが難しくなる。また、棒状マグネット6同士を離すと、図6(c)に示すように、互いの磁束の反発が弱くなるため、磁場の歪みが小さくなるが、前記交差領域には下方側近傍領域では磁場が弱くなってしまう。さらに上下方向の磁場の減衰が大きく、強い磁場が得られなくなってしまう。このように、棒状マグネット6を網の目状に配列しただけでは、水平磁場の形成領域が小さくなってしまうので、電子のドリフト運動が弱くなる。この結果、高いプラズマ密度を得られないため、速い成膜速度を得ることが難しい。
【0055】
さらに、上述の例ではリターン用マグネット8を設けているので、カスプ磁界の拘束によって電子がカスプ磁界の外に飛び出すことが阻止される。リターン用マグネット8aを例にして説明すると、当該リターン用マグネット8aは、既述のように直線状に伸びる帯状に形成されている。従って、コア部材72bは、棒状マグネット62a,62b,61gと、リターン用マグネット8aにより囲まれた状態になる。そして、リターン用マグネット8a由来のカスプ磁界の磁束と、棒状マグネット62a,62b,61g由来のカスプ磁界の磁束とが結合するため、電子はカスプ磁界に沿って動き、コア部材72bの周りを反時計周りに周回するようにドリフトし、再び棒状マグネット6群による領域(内側マグネット群53)に戻される。
【0056】
このようにリターン用マグネット8を設けることにより、リターン用マグネット8と内側マグネット群53との間においても電離は起こり、マグネット群52が形成された領域全体の電離に寄与するため、より高密度のプラズマを高い面内均一性で生成することができる。
【0057】
こうして、Arガスの電離を繰り返すことによりArイオンを生成し、このArイオンによりターゲット31がスパッタされる。これによりターゲット31表面から叩き出されたタングステン粒子は真空容器2内に飛散していき、この粒子が載置部4上のウエハ10表面に付着することで、ウエハ10にタングステンの薄膜が形成される。また、ウエハ10から外れた粒子は、チャンバシールド部材44やホルダシールド部材45に付着する。この際、載置部4には高周波電力が供給されているので、Arイオンのウエハ10への入射が誘引され、ヒータ43による加熱との相乗作用により緻密で抵抗の低い薄膜が形成される。
【0058】
ところで、ターゲット31のエロージョンは既述のように、互いに異極のマグネット同士の間の中間部(中心及びその付近)に形成されるが、上述のマグネット配列体5では、棒状マグネット6を網の目状に配列しているので、エロージョンが発生する箇所が多く、ターゲット31の全面に亘って周期的にエロージョンが形成される。また、既述のように、ウエハ10の投影領域全体に亘って、プラズマ密度を均一にすることができるため、エロージョンの進行の程度が揃えられ、この点からも面内均一性が高くなる。
【0059】
この際、エロージョンの均一性をより高くするために、マグネット配列体5を回転機構56により鉛直軸回りに回転させている。プラズマ密度をミクロ的に見ると、水平磁場に基づく高低が形成されているが、マグネット配列体5を回転させることにより、このプラズマ密度の高低が均されるからである。さらに、この実施の形態では、マグネット配列体5を、ベース体51の中心から偏心させた位置を中心として回転させているので、成膜速度分布の均一性がより高くなる。
【0060】
つまり、マグネット配列体5の下方側では、マグネット配列体5を静止させているときには、水平磁場がなくて電離が起こらずにスパッタが起きにくい部位が周期的に存在する。このため、マグネット配列体5の直径方向でみれば、成膜速度分布は小さな凹凸が周期的に存在する形状となる。従って、マグネット配列体5を偏心回転させると、この凹凸が相殺され、より均一な成膜速度分布を得ることができる。
【0061】
このようにエロージョンの面内均一性が高いことから、ウエハ10をターゲット31に接近させてスパッタ処理を行うことができる。これにより、ターゲット31からスパッタされた粒子が速やかにウエハ10へ付着していくため、ウエハ10の薄膜の形成に寄与するスパッタ粒子が多くなり、成膜効率が高くなる。ここで、図7に、ターゲット31とウエハ10との距離と、成膜効率及び成膜速度の面内均一性との各関係を示す。横軸がターゲット31とウエハ10との距離、左縦軸が成膜効率、右縦軸が成膜速度の面内均一性を夫々示している。成膜速度の面内均一性については、実線A1にて本発明の構成、二点鎖線A2にて従来の構成(図13に示す構成)のデータを夫々示し、成膜効率については、一点鎖線B1にて本発明の構成、点線B2にて従来の構成のデータを夫々示している。
【0062】
面内均一性に着目すると、本発明では、ターゲット31とウエハ10との距離が小さい程均一性が高く、前記距離が大きくなるにつれて次第に低下していく。また、成膜効率に着目すると、ターゲット31とウエハ10との距離が小さい程、成膜効率が高く、前記距離が大きくなるにつれて次第に低下していく。このように、本発明の構成では、ターゲット31とウエハ10との距離が小さい程、成膜速度の面内均一性、成膜効率が共に良好になる。但し、ターゲット31とウエハ10とを接近させ過ぎると、プラズマの生成空間が小さくなり過ぎ、放電が発生しにくいため、ターゲット31とウエハ10との距離は10mm以上50mm以下、特に10mm以上30mm以下に設定することが好ましい。
【0063】
これに対して、従来の構成では、ターゲット31とウエハ10との距離が小さい場合には、成膜速度の面内均一性が非常に低く、前記距離が大きくなるにつれて高くなり、ある距離を過ぎると再び低下していく。このため、高い面内均一性を確保しようとすると、ターゲット31とウエハ10との距離を大きく取らざるを得ないが、前記距離を大きくすると、成膜効率については本発明の構成に比べてかなり低くなってしまう。
【0064】
上述の実施の形態によれば、棒状マグネット6を網の目状に配置すると共に、網の目の交点にて、棒状マグネット6の端面に囲まれる領域には透磁性のコア部材7を設け、コア部材7を囲む棒状マグネット6の端部同士は互いに同極になるようにマグネット配列体5を構成しているので既述のように水平磁場を広い範囲で形成できる。このため、高密度なプラズマを広い範囲で均一に形成できるので、成膜速度の面内均一性を確保しながら、速い成膜速度を得ることができる。また、マグネットの水平磁場に基づいてターゲットに形成されるエロージョンの面内均一性が向上し、面内全体で一様にエロージョンが進行する。これにより、ターゲット31の寿命が長くなり、ターゲット31の使用効率を高くすることができる。
【0065】
また、リターン用マグネット8を設ける場合には、電子損失を抑制することができるので、より成膜速度の面内均一性が向上し、速い成膜速度が得られる。さらに、マグネット配列体5を回転させる場合には、エロージョンの面内均一性をより高めることができるので、成膜速度の面内均一性がさらに向上する。さらにまた、ウエハ10とターゲット31を50mm以下に接近させると、ウエハ10の薄膜の形成に寄与するスパッタ粒子が多くなることから、成膜速度を高めて成膜効率を向上させることができ、既述の図7に示すように、成膜速度の面内均一性も高くなる。
【0066】
実際に、上述の条件で、ウエハ10とターゲット31との離間間隔を10〜50mmに設定して、300mmサイズのウエハ10に対してW膜を形成したところ、400nm/min程度の成膜速度を確保することができ、成膜速度の面内均一性も1〜3%と良好であることが確認された。また、ターゲット31とウエハ10との距離が20mmの場合には、300nm/min程度の成膜速度で厚さ50nmのW膜を成膜する場合の印加電力は4kWh程度であり、図13に示す従来のマグネトロンスパッタ装置に比べて成膜効率を3〜4倍に向上させることができることが認められた。これにより、消費電力を抑えて、低コスト化を図ることができ、また、ターゲット31の使用効率も80%程度と高くなるので、この点からも低コスト化を図ることができることが理解される。
【0067】
続いて、マグネット配列体511の他の例について説明する。図8に示すマグネット群521は、コーナー部にも棒状マグネット6とコア部材7のユニット601〜602を配置し、このコーナー部のユニット601〜602を囲むように略L字状のリターン用のマグネット81〜84を設けるようにマグネットが配列されている。図8中矢印は電子がドリフトする方向を示している。その他の構成は図2のマグネット配列体5と同様である。
【0068】
このような構成では、コーナー部においても、リターン用マグネット81〜84により電子の逃げが抑えられるため、電子損失を効率的に抑制することができる。従って、この例においても、上述の実施の形態と同様に、ターゲット31の直下において、ウエハ10の投影領域全体に亘って均一なプラズマを形成することができ、またエロージョンの面内均一性が高い。このため、高い成膜速度の面内均一性を確保しながら、成膜速度を大きくでき、ターゲット31の使用効率も向上する。
【0069】
また、図9に示すマグネット配列体512のマグネット群522は、電子ドリフトを更に起こしやすくするように構成した例である。このマグネット群522では、図10に、その中心部を拡大して示すように、一つのコア部材7(711)から8方向に棒状マグネットが配置されている。これらの棒状マグネットは、コア部材7と共に2n角形(この例では、n=2の正方形)を形成する主棒状マグネット6と、この主棒状マグネット6よりも短い補助棒状マグネット9とを備えている。主棒状マグネット6はコア部材7と共に、上述の図2に示すレイアウトと同様に配列されている。また、補助棒状マグネット9は、主棒状マグネット6同士の間に配置されると共に、補助棒状マグネット9のコア部材7を囲む部分は同極になるように設定されている。
【0070】
こうして、主棒状マグネット6と補助棒状マグネット9とがコア部材7の周囲に等角度間隔で配置され、補助棒状マグネット9は、主棒状マグネット6より形成される正方形の対角線上に、2つのマグネットが長さ方向を揃えた状態で配列されることになる。また、最外周の補助棒状マグネット9の外方には、これら補助棒状マグネット9と平行に、これら補助棒状マグネット9とは間隔を開けてリターン用マグネット85が設けられている。このリターン用のマグネット8,85は、電子がターゲット31の外側に飛び出しを抑えるために、電子のドリフト方向が形成されるように配置されている。
【0071】
このようなマグネット群522では、図9中に矢印で電子のドリフト方向を示すように、補助棒状マグネット9は、主棒状マグネット6と同様に水平磁場を形成し、マグネットの長さ方向と直角方向にE×Bにより電子を加速する。これにより、コア部材7を中心とした電子を加速する場所が増え、より安定したドリフト運動が起こる。その結果、より電離が激しく起こるため、放電密度が高くなり、成膜速度が増大する。
【0072】
このように、この例においても、上述の実施の形態と同様に、ターゲット31の直下において、ウエハ10の投影領域全体に亘って均一なプラズマを形成することができ、またエロージョンの面内均一性が高い。このため、成膜速度を大きくしながら、高い成膜速度の面内均一性を確保することができ、ターゲット31の使用効率も向上する。実際に、電源部33へのDC電力が100〜3000W、真空容器2内の圧力が0.665〜13.3Pa(5〜100mTorr)、ターゲット31とウエハ10との距離が10〜100mm、高周波電源部41からの高周波電力が10〜1000Wの条件下で、300mmサイズのウエハ10に対してW膜を成膜したところ、得られた成膜速度は、300〜600nm/min、均一性は約1〜3%と良好であることが認められた。
【0073】
以上において、本発明のマグネット配列体は、両端が互いに異極である棒状のマグネットを、ターゲットに対向する面に沿って網の目状に配置し、各網の目の形状が2n(nは2以上の整数)角形であり、網の目の交点にて棒状のマグネットの端面に囲まれる領域には透磁性のコア部材が設けられ、コア部材を囲む棒状のマグネットの端部同士は互いに同極であるように構成すればよい。このため、図11にマグネット配列体512のマグネット群523において、棒状マグネットの網の目を模式的に示すように、棒状マグネットを六角形状に配列するようにしてもよい。この際、図11に点線にて補助棒状マグネット9Aを示すように、主棒状マグネット6Aを2n角形(六角形状)に構成し、その内側に補助棒状マグネット9Aを配列するようにしてもよい。この例では、コア部材7Aは、その平面形状が六角形に形成されている。
【0074】
ここで、棒状マグネットの平面形状は、長方形状に限らず、長楕円形状であってもよい。また、コア部材7の平面形状は、棒状マグネット6の配列形状に合わせて選択され、六角形や八角形等の多角形状や、円形状等に構成することができる。
【0075】
さらに、本発明では、リターン用のマグネットは必ずしも設ける必要はないが、設ける場合には、電子をマグネット群の隙間からマグネット群の外に飛び出させずに内側に戻す役割を果たすようにライン状に配列されればよい。この場合、ライン状とは直線状でも曲線状でもよく、既述のように1つのマグネットをライン状に形成してもよいし、複数個のマグネットを互いに接触させて配列してもよい。電子の飛び出しを防いで内側に戻す役割を果たす場合には、複数個のマグネットを互いに僅かに間隔を開けて配列するようにしてもよい。
【0076】
さらに、マグネット配列体5は必ずしも回転させる必要はないが、回転させるときには、マグネット配列体5は回転機構56により、ベース体51の中心Oを回転中心として鉛直軸まわりに回転させるようにしてもよい。また、マグネット群52は、マグネット配列体5を回転させたときに、ウエハ10の投影領域全体に亘ってプラズマが発生するように構成されればよい。従って、マグネット配列体5を偏心回転させるときには、回転時にウエハ10の外縁の一部がマグネット群52の外側に位置する場合も、ウエハ10の投影領域全体に亘ってプラズマが発生する場合に含まれる。
【0077】
さらに、ベース体51の中心Oから偏心させて回転させるときには、この偏心回転時に、ウエハ10の外縁から50mm外方の領域に、内側マグネット群53とリターン用のマグネット53の離間部分があるように設定すれば、成膜速度分布の均一性を良好にすることができる。同様に、偏心回転時にターゲット31の外縁が内側マグネット群53の外縁とリターン用マグネット8との離間部分に位置するようにターゲット31とマグネット配列体5の大きさを設定すれば、ターゲット31の全面でエロージョンを形成することができ、均一な成膜処理を行うことができる。
【0078】
さらにまた、本発明では必ずしも載置部4を電極として用いる必要はなく、当該載置部4に高周波電力を供給する必要はない。さらにまた、電子のドリフトに基づいてプラズマが発生するように、棒状マグネット6が配列されればよく、マグネットの配列は上述の例に限らない。例えば、棒状マグネット6の配列間隔や形状をベース体51の面内において変化させるようにしてもよい。
【0079】
また、ターゲット31の材質としては、タングステン以外に、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、窒化チタン(TiN)、タンタル(Ta)、窒化タンタル(TaNx)、ルテニウム(Ru)、ハフニウム(Hf)、モリブデン(Mo)等の導電体や、酸化シリコン、シリコンナイトライド等の絶縁体が用いることができる。この場合、絶縁体よりなるターゲットを用いる場合には、電源部から高周波電圧を印加することにより、プラズマが生成される。また、導電体よりなるターゲットに対して高周波電圧を印加してプラズマを生成するようにしてもよい。
【0080】
さらに、本発明のマグネトロンスパッタ装置は、図12に示すように、ターゲット電極3に、ターゲット電極用の高周波電源部91を接続して、ターゲット電極3に数百kHz〜100MHzの高周波電圧を印加するようにしてもよい。図12中92は、高周波電源部91からの高周波電圧が電源部33の回路に侵入することを抑制するためのフィルタ回路である。また、ターゲット31とスパッタ位置にあるウエハ10との間に、このウエハ10を囲むように、複数の補助電極93をウエハ10の周方向に間隔を開けて配置し、この補助電極93に補助電極用の高周波電源部94から高周波電圧を印加するようにしてもよい。
【0081】
ターゲット電極3に、電源部33から直流電圧を印加すると共に、高周波電源部91から高周波電圧を印加しながらスパッタ処理を行うと、ターゲット電極3の電流密度が高くなり、より成膜速度が速くなる。また、ターゲット電極3に、電源部33とターゲット電極用の高周波電源部91のいずれか一方から電圧を印加すると共に、補助電極93に高周波電源部94から高周波電圧を印加しながらスパッタ処理を行なうと、ターゲット電極3の電流密度が高くなり、より成膜速度が速くなる。図12の構成においても、載置部4にバイアス電圧を印加してスパッタ処理を行うようにしてもよい。
【0082】
以上において、本発明のマグネトロンスパッタ装置は、半導体ウエハ以外の液晶や太陽電池向けガラス、プラスチック等の被処理基板のスパッタ処理に適用できる。
【符号の説明】
【0083】
10 半導体ウエハ
2 真空容器
24 真空ポンプ
3 ターゲット電極
31 ターゲット
4 載置部
41 高周波電源部
5 マグネット配列体
52 マグネット群
53 内側マグネット群
6 棒状マグネット
7 コア部材
8 リターン用マグネット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内に載置された被処理基板に対向するようにターゲットを配置し、このターゲットの背面側にマグネットを設けたマグネトロンスパッタ装置において、
前記ターゲットに電圧を印加する電源部と、
前記ターゲットの背面側に設けられたベース体にマグネット群を配列したマグネット配列体と、を備え、
前記マグネット配列体は、
両端が互いに異極である棒状のマグネットを、ターゲットに対向する面に沿って網の目状に配置したことと、
各網の目の形状が2n(nは2以上の整数)角形であることと、
網の目の交点にて棒状のマグネットの端面に囲まれる領域には透磁性のコア部材が設けられていることと、
コア部材を囲む棒状のマグネットの端部同士は互いに同極であることと、を備えていることを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項2】
前記マグネット配列体は、被処理基板の投影領域全体に亘ってプラズマが発生するように、マグネット群を構成する複数のN極及びS極が配列されていることを特徴とする請求項1記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項3】
前記マグネット群は、最外周に電子がカスプ磁界の拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことを阻止するようにライン状に配列されたリターン用のマグネットを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項4】
前記マグネット配列体を被処理基板に対して直交する軸の周りに回転させるための回転機構を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項5】
前記被処理基板におけるターゲットとは反対側に設けられた電極と、
この電極に高周波電力を供給する高周波電源部と、を備えることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項6】
スパッタ時における前記ターゲットと被処理基板との距離が10mm以上50mm以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項7】
コア部材を囲む棒状のマグネット同士の間では、前記コア部材の端部から棒状マグネットの端部に至る距離が揃っていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一つに記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項8】
前記網の目の形状は正方形であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一つに記載のマグネトロンスパッタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−108100(P2013−108100A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241673(P2011−241673)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】