説明

メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法

【課題】メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法であって、従来法よりも粒子径及びメソ孔の大きさが制御し易く、しかも球形・単分散で均質性の高いメソポーラスシリカナノ粒子が得られ易い製造方法を提供する。
【解決手段】下記工程を含むことを特徴とするメソポーラスシリカナノ粒子の製造方法:
(1)界面活性剤、水及び疎水性溶媒を含むエマルション溶液中において、下記工程A及び工程Bを同時又は順次に行うことにより、ポリマー粒子とシリカ粒子の複合粒子であるポリマー・シリカ複合粒子を得る工程1、
・モノマーと重合開始剤を加えてポリマー粒子を形成する工程A、
・加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源と塩基性触媒を加えて前記シラノール化合物を加水分解・脱水縮合させることによりシリカ粒子を形成する工程B、
(2)前記ポリマー・シリカ複合粒子から有機成分を除去する工程2。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メソポーラスシリカ(mesoporous silica)は、二酸化ケイ素(シリカ)を材質とし、均一で規則的な細孔(メソ孔)を持つ材料である。メソ孔とは、物質工学における細孔の大きさの表現であり、IUPACでは直径2〜50nmの細孔である。他方、直径2nm未満の細孔をマイクロ孔、直径50nmを超える細孔をマクロ孔と言う。
【0003】
1992年に米国のモービル社によりメソポーラス材料が開発された(特許文献1)。これは、界面活性剤の自己組織化分子集合体を有機テンプレートとして用い、セラミック等の材料のプリカーサと混合させて、複合ナノ粒子を形成した後、熱や酸処理により界面活性剤の分子集合体を取り除いて、均一な孔が蜂の巣状に配列したポーラス構造材料を得る手法である。
【0004】
モービル社の手法をマイクロエマルション法、ゾルーゲル法、噴霧加熱法等と組み合わせた方法が開示されている。界面活性剤を用いたマイクロエマルション法は、油と水のエマルション系での表面反応によりメソポーラスシリカを合成する方法である(非特許文献1、非特許文献2)。具体的には、界面活性剤を水に溶解した後、酸性又は塩基性の水溶液を添加する。この溶液にシリカのプリカーサを撹拌しながら混合し、エマルションにする。このプロセスは室温条件下で行なわれ、反応条件(撹拌速度、反応温度など)によりメソポーラス構造体として、薄膜状、リボン状、繊維状及び粒子状を合成できる。
【0005】
また、ゾル−ゲル法とは、金属の有機物又は無機化合物の溶液から出発し、溶液中で化合物の加水分解・重合反応によって生成したゾルを更に反応させてゲルを合成する方法である。1998年にUngerらはゾル−ゲル法をベースにして、界面活性剤をテンプレートとして溶液に加えることにより、球形で規則的配列したメソポーラスシリカ粒子を合成している(非特許文献3、非特許文献4)。
【0006】
しかし、上記の方法では粒径が100nm以下で、且つ孔径が5nm以上のメソポーラスシリカ粒子が得られたという報告はない。粒径が100nm以下のメソポーラスシリカ粒子の製造方法としては、例えば、特許文献2に記載されている。具体的には、「オルトケイ酸テトラエチル、オルトケイ酸テトラメチルなどの有機もしくは無機ケイ素化合物よりなる群から選択された一種類のケイ素化合物、ノナエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタンエステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニールエーテルよりなる群から選択された二種類の非イオン界面活性剤または非イオン界面活性剤一種とイオン性界面活性剤一種とを合わせて二種類の界面活性剤、および水からなる反応混合物、またはこれに硝酸等の酸とドデシルアルコール等のアルコール類もしくはそのいずれか一方を加えた反応混合物を調製し、反応させることにより、直径0.2〜0.5nmのミクロ孔をもつシリカによってその骨格が構成され、かつ直径4〜5nmのメソ孔がヘキサゴナル状に配列した多孔質構造と直径40〜80nmの球状形態を有することを特徴とするシリカナノ粒子を生成し、回収することを特徴とする製造方法。」が記載されている。この製法では、粒径が100nm以下のメソポーラスシリカを得ることは可能であるが、孔径を5nm以上にすることは困難であり、粒子も単分散ではなくブロック状に凝集している。
【0007】
ミセルをテンプレートとして用いない方法として噴霧加熱法を用いた方法が開示されている。噴霧加熱法とは、溶液やコロイダル分散液を液滴化し、加熱炉などにより噴霧された液滴を加熱することにより、液滴内の溶媒が蒸発し、溶質の反応が起こり(噴霧加熱分解法)又は反応せずに(噴霧乾燥法)、粒子を合成する方法である。合成された粒子の形状は殆ど球形であることが特徴である。この噴霧溶液に界面活性剤又はコロイド結晶をテンプレートとして加えることにより、噴霧加熱法による規則的に配列したメソポーラスとマクロポーラスの粒子を合成することができる(非特許文献5)。しかしながら、噴霧加熱法はポーラスシリカ粒子の粒径が大きく、粒径が100nm以下の粒子を合成することは困難である。
【0008】
このようなメソポーラスシリカ粒子は、医薬(DDS:ト゛ラック゛テ゛リハ゛リーシステム)、触媒、吸着材料として、その薄膜は光学デバイスやガスセンサー、分離膜などとして新しい応用が期待されている。よって、メソポーラスシリカ粒子の粒子径やメソ孔の大きさを制御し易い製造方法の開発が望まれているが、十分に満足できる製造方法は未だ開発されていない(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO91/11390号公報
【特許文献2】特開2006−69824号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Chem. Mater., 9, No.1, 1997, pp.14
【非特許文献2】Science, 273, No.5276, 1996, pp.768-771
【非特許文献3】Supramolecular Sci., 5, No.3-4, 1998, pp.253-259
【非特許文献4】Adv. Mater., 9, No.3, 1997, pp.254
【非特許文献5】Nano Lett., 1, No.5, 2001, pp.231-234
【非特許文献6】多孔体の精密制御と機能・物性評価, 2008,サイエンス&テクノロジー(株), pp.36-45
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、メソポーラスシリカナノ粒子の製造方法であって、従来法よりも粒子径及びメソ孔の大きさが制御し易く、しかも球形・単分散で均質性の高いメソポーラスシリカナノ粒子が得られ易い製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、界面活性剤、水及び疎水性溶媒を含むエマルション溶液中において、ポリマー粒子とシリカ粒子とを同時又は順次に形成する工程を有する製造方法によれば、好適な実施態様において外径が100nm未満で、尚且つ、細孔径が5nm以上の真球状で単分散なポーラスシリカ粒子が得られることを見出し、また、疎水性溶媒/水の重量比、並びにモノマー濃度を制御することにより、外径及び細孔径の制御されたメソポーラスシリカ粒子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、下記のメソポーラスシリカナノ粒子の製造方法に関する。
1.下記工程を含むことを特徴とするメソポーラスシリカナノ粒子の製造方法:
(1)界面活性剤、水及び疎水性溶媒を含むエマルション溶液中において、下記工程A及び工程Bを同時又は順次に行うことにより、ポリマー粒子とシリカ粒子の複合粒子であるポリマー・シリカ複合粒子を得る工程1、
・モノマーと重合開始剤を加えてポリマー粒子を形成する工程A、
・加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源と塩基性触媒を加えて前記シラノール化合物を加水分解・脱水縮合させることによりシリカ粒子を形成する工程B、
(2)前記ポリマー・シリカ複合粒子から有機成分を除去する工程2。
2.前記塩基性触媒は、塩基性アミノ酸である、上記項1に記載の製造方法。
3.前記界面活性剤は、第4級アンモニウム塩型である、上記項1又は2に記載の製造方法。
4.前記疎水性溶媒は、炭素数6〜10のアルカンである、上記項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
5.前記モノマーは、スチレンである、上記項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
6.前記シリカ源は、テトラアルコキシシランである、上記項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
7.前記メソポーラスシリカナノ粒子の平均粒子径が20〜80nmである、上記項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
8.前記メソポーラスシリカナノ粒子の平均細孔径が4〜15nmである、上記項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
9.前記疎水性溶媒と前記水の比率を制御することにより前記メソポーラスシリカナノ粒子の粒子径を制御する、上記項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
10.前記モノマーの濃度を制御することにより前記メソポーラスシリカナノ粒子の細孔径を制御する、上記項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
11.上記項1〜10のいずれかに記載の製造方法により得られる、外径が20〜100nm、且つ、細孔径が4〜15nmである、真球状で単分散なメソポーラスシリカナノ粒子。
【0014】
以下、本発明のメソポーラスシリカナノ粒子の製造方法について詳細に説明する。
【0015】
本発明のメソポーラスシリカナノ粒子の製造方法は、下記工程を含む。
(1)界面活性剤、水及び疎水性溶媒を含むエマルション溶液中において、下記工程A及び工程Bを同時又は順次に行うことにより、ポリマー粒子とシリカ粒子の複合粒子であるポリマー・シリカ複合粒子を得る工程1、
・モノマーと重合開始剤を加えてポリマー粒子を形成する工程A、
・加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源と塩基性触媒を加えて前記シラノール化合物を加水分解・脱水縮合させることによりシリカ粒子を形成する工程B、
(2)前記ポリマー・シリカ複合粒子から有機成分を除去する工程2。
【0016】
上記製造方法では、連続相である水相中に界面活性剤で安定化(ミセル化)された疎水性溶媒の微粒子が分散してエマルション溶液を形成している。このエマルション溶液中で工程Aと工程Bを同時又は順次に行うことにより、ミセル中にポリマー粒子とシリカ粒子の複合粒子であるポリマー・シリカ複合粒子が形成される。このようなポリマー・シリカ複合粒子から有機成分(ポリマー粒子及び複合粒子の表面に付着している界面活性剤等)を除去することにより、メソポーラスシリカナノ粒子が得られる。
【0017】
上記ナノ粒子の粒子径及びメソ孔の大きさを決める界面活性剤及びポリマー粒子はテンプレートとも称される。本発明の製造方法では、疎水性溶媒/水の比率を制御することによりメソポーラスシリカナノ粒子の粒子径を制御することができる。また、モノマー濃度を制御することにより、メソポーラスシリカナノ粒子の粒子径及びメソ孔の大きさを制御することができる。
【0018】
以下、工程ごとに本発明の製造方法を説明する。
【0019】
工程1では、界面活性剤、水及び疎水性溶媒を含むエマルション溶液中において、下記工程A及び工程Bを同時又は順次に行うことにより、ポリマー粒子とシリカ粒子の複合粒子であるポリマー・シリカ複合粒子を得る。
【0020】
・モノマーと重合開始剤を加えてポリマー粒子を形成する工程A、
・加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源と塩基性触媒を加えて前記シラノール化合物を加水分解・脱水縮合させることによりシリカ粒子を形成する工程B。
【0021】
界面活性剤(陽イオン界面活性剤)は、エマルションの形成のために用いられる。
【0022】
陽イオン界面活性剤としては、第1〜3級アミン型、第4級アンモニウム塩型が挙げられ、該化合物は、窒素原子に直接結合する基として、エステル結合、アミド結合又はエーテル結合で分断されていてもよい炭素数が4〜22のアルキル基又はアルケニル基を1つ又は2つ有し、かつ残りは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基もしくはヒドロキシアルキル基、又はべンジル基を有する化合物が好ましい。
【0023】
これらの中では、第4級アンモニウム塩型界面活性剤がより好ましく、具体的には下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩が最も好ましい。
【0024】
[RN] (1)
(式中、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜22の直鎖状又は分岐状のアルキル基又はアルケニル基であって、かつR及びRの少なくとも一方は炭素数が4以上である。R及びRは、炭素数1〜3のアルキル基もしくはヒドロキシアルキル基、又はベンジル基を示し、R及びRが同時にベンジル基であることばない。xは1価の陰イオンを示す。)
前記一般式(1)において、R及びRは、好ましくは炭素数4〜22、より好ましくは炭素数6〜18、更に好ましくは炭素数8〜16の直鎖状又は分岐状のアルキル基が好ましい。R及びRの何れか一方がメチル基であることがより好ましい。
【0025】
及びRの炭素数4〜22のアルキル基としては、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種へキシル基、各種へプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種へキサデシル基、各種オクタデシル基、各種エイコシル基等が挙げられる。これらの中では、R及びRは、メチル基が好ましい。
【0026】
一般式(1)におけるXは、高い結晶性を得るという観点から、好ましくはハロゲンイオン、水酸化物イオン、硝酸化物イオン、硫酸化物イオン等の1価陰イオンから選ばれる1種以上である。Xとしては、より好ましくはハロゲン化物イオンであり、更に好ましくは塩化物イオン又は臭化物イオンであり、特に好ましくは臭化物イオンである。
【0027】
一般式(1)で表されるアルキルトリメチルアンモニウム塩としては、ブチルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ブチルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(=セチルトリメチルアンモニウムブロミドCTBA)、ステアリルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
【0028】
一般式(1)で表されるジアルキルジメチルアンモニウム塩としては、ジブチルジメチルアンモニウムクロリド、ジヘキシルジメチルアンモニウムクロリド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロリド、ジヘキシルジメチルアンモニウムブロミド、ジオクチルジメチルアンモニウムブロミド、ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
【0029】
これらの陽イオン界面活性剤の中では、規則的なメソ細孔を形成させる観点から、特にアルキルトリメチルアンモニウム塩が好ましく、アルキルトリメチルアンモニウムブロミド又はアルキルトリメチルアンモニウムクロリドがより好ましく、セチルトリメチルアンモニウムブロミドが特に好ましい。
【0030】
疎水性溶媒としては、100℃で100g当たり約1g未満の水溶性を有する有機炭化水素系溶媒を用いる。このような疎水性溶媒としては、炭素数6〜10の直鎖状又は分岐状又は環状のアルカン、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタンが挙げられる。その中でもオクタンがより好ましい。
【0031】
疎水性溶媒の好ましい量は、ミセルの容量に依存する。好ましくは、ミセルの容量を飽和させるような十分な又は有効な量の溶媒を使用する。過剰な溶媒は避けるのが望ましい。
【0032】
界面活性剤、水及び疎水性溶媒の含有量は限定されないが、重量比で0.01〜1:20〜40:0.1〜50程度が好ましく、0.08〜0.12:25〜35:1〜30程度がより好ましい。
【0033】
疎水性溶媒/水の重量比は限定されないが、0.01〜2.0程度が好ましく、0.04〜1.0程度がより好ましい。特に疎水性溶媒がオクタンである場合には、重量比を0.05〜0.84に設定することにより最終生成物であるメソポーラスシリカナノ粒子の外径を20〜75nm程度に制御し易い。
【0034】
上記エマルション溶液中で下記工程A、Bを同時又は順次に行う。
【0035】
・モノマーと重合開始剤を加えてポリマー粒子を形成する工程A、
・加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源と塩基性触媒を加えて前記シラノール化合物を加水分解・脱水縮合させることによりシリカ粒子を形成する工程B。
【0036】
モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香環含有モノマー等の疎水性モノマーに由来する構成単位、その他の共重合可能なモノマー構成単位を含んでいるものが好ましい。その好適例としてば、炭素数3〜22のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートスチレン、2−メチルスチレン等のスチレン系モノマー、ベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のアリールエステル、炭素数6〜22の芳香族基含有ビニルモノマー、酢酸ビニル等が挙げられる。これらの中ではスチレンが好ましい。
【0037】
上記エマルション中のモノマー濃度は限定されないが、0.1〜200mg/ml程度が好ましく、0.3〜100mg/ml程度がより好ましい。特にモノマーがスチレンである場合には、スチレン濃度を0.3〜60mg/mlに設定することにより最終生成物であるメソポーラスシリカナノ粒子のメソ孔を4〜20nm程度に制御し易い。
【0038】
重合開始剤としては、公知の無機過酸化物、有機系開始剤、レドックス剤等を使用することができる。本発明では、有機化酸化物やアゾ化合物等のラジカル重合開始剤が好ましい。有機酸化物は、一般式RO−ORで示され、また、アゾ化合物は、一般式A−CN=CN−Aで示される。具体的には、過酸化ベンゾイルやアゾビスイソブチロニトニル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2-メチルプロピオアミド)ジヒドロクロライド(AAPH)であり、好ましくは2,2’−アゾビス(2-メチルプロピオアミド)ジヒドロクロライド(AAPH)である。
【0039】
上記モノマーを重合開始剤で重合させることにより、ミセル中にポリマー微粒子が形成される。このポリマー微粒子(一次粒子)の大きさは1〜30nm程度が好ましく、4〜20nm程度がより好ましい。
【0040】
シリカ源としては、加水分解によりシラノール化合物を生成するものを用いる。シリカ源としては、アルコキシシランが好ましく、具体的には、下記一般式(2)〜(6)で示される化合物を挙げることができる。
【0041】
SiY (2)
RSiY (3)
SiY (4)
SiY (5)
Si−R’−SiY (6)
(式中、Rはそれぞれ独立して、ケイ素原子に直接炭素原子が結合している有機基を示し、R’は炭素原子を1〜4個有する炭化水素基又はフェニレン基を示し、Yは加水分解によりヒドロキシ基になる1価の加水分解性基を示す。)
より好ましくは、一般式(2)〜(6)において、Rがそれぞれ独立して、水素原子の一部がフッ素原子に置換していてもよい炭素数1〜22の炭化水素基であり、具体的には炭素数1〜22、好ましくは炭素数4〜18、より好ましくは炭素数6〜18、特に好ましくは炭素数8〜16のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基であり、R’が炭素数1〜4のアルカンジイル基(メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロパン−1,2−ジイル基、テトラメチレン基等)又はフェニレン基であり、Yが炭素数1〜22、より好ましくは炭素数1〜8、特に好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基、またはフッ素を除くハロゲン基である。
【0042】
シリカ源の好適例としては、次の化合物が挙げられる。
・一般式(2)において、Yが炭素数1〜3のアルコキシ基であるか、又はフッ素を除くハロゲン基であるシラン化合物。
・一般式(3)又は(4)において、Rがフェニル基、ベンジル基、又は水素原子の一部がフッ素原子に置換されている炭素数1〜20.好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは炭素数1〜5の炭化水素基であるトリアルコキシシラン又はジアルコキシシラン。
・一般式(6)において、Yがメトキシ基であって、R’がメチレン基、エチレン基又はフェニレン基である化合物。
【0043】
本発明では、一般式Si(OR)で示される、アルコキシシラン又はこの類縁体が好ましい。Rはアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜8の低級アルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4の低級アルキル基である。具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソブチル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等を例示でき、Rがエチル基であるテトラエトキシシランがより好ましい。アルコキシシランの誘導体としては、前記アルコキシシランを部分的に加水分解して得られる低縮合体を例示できる。
【0044】
塩基性触媒としては、上記シリカ源を加水分解。脱水縮合しシリカを与えることのできる塩基であればよく、例えばアンモニウムハイドロオキサイド類(例えば。テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、アンモニウムハイドロオキサイド)、塩基性アミノ酸(例えば。リジン.アルギニン、オルニチン等)などが上げられる。シリカ源がテトラアルコキシシランの場合、塩基性アミノ酸(例えば。リジン.アルギニン、オルニチン等)が好ましく。特に好ましい塩基性触媒はリジンである。塩基性アミノ酸を用いることにより、複合シリカ粒子の表面を被覆して単分散させるのに役立つことから、望ましい塩基性触媒といえる。
【0045】
上記シリカ源は、塩基性触媒の存在下において加水分解・脱水縮合する。例えば、テトラアルコキシシランの場合には、以下のような化学反応が進行してシリカが生成する。
【0046】
Si(OR)+4H0 → Si(OH)+4ROH …加水分解
Si(OH) → SiO+HO …脱水縮合
上記シリカ源を加水分解・脱水縮合させることにより、ミセル中にシリカ微粒子が形成される。このシリカ微粒子の大きさは3〜100nm程度が好ましく、20〜80nm程度がより好ましい。この工程1により、ミセル中でシリカ微粒子内部に複数のポリマー微粒子を内包した複合粒子が形成される。
【0047】
工程2では、ポリマー・シリカ複合粒子から有機成分を除去する。
【0048】
ここでいう有機成分とは、シリカ以外の有機成分、つまり、工程1で形成されるポリマー、および未反応のモノマー、添加される重合開始剤、界面活性剤、更には疎水性溶媒、塩基性触媒を意味する。工程2では、工程1で得られたメソポーラスシリカ膜構造体を水溶液中から取り出し、必要に応じて、水洗、乾燥した後、構造体から有機成分を除去する。
【0049】
ポリマー・シリカ複合粒子のメソ細孔の内部にはポリマー及び界面活性剤等の有機分が詰まっているので、これを除去することによりメソ細孔内を中空とし、高機能性材料として使用しうるメソポーラスシリカ膜構造体を作製することができる。
【0050】
有機成分の除去方法としては、焼成、抽出等が挙げられる。焼成による場合は、焼成温度が低すぎるとメソ細孔形成剤であるポリマーおよび有機成分が残存する可能性があり、また焼成温度が高すぎると細孔構造が破壊するおそれがある。このため、電気炉等で好ましくは350〜650°C、より好ましくは450〜650℃特に好ましくは480〜650℃で、有機成分を除去するのに十分な時間をかけて焼成することによって、メソ構造を殆ど破壊することなく、メソ構造体から有機成分を除去することができる。
【0051】
上記過程を経て得られるメソポーラスシリカナノ粒子の粒子径としては、10〜1000nmが好ましく、より好ましくは20〜80nmである。また、細孔径としては2〜50nmが好ましく、より好ましくは4〜15nmである。
【発明の効果】
【0052】
本発明の製造方法によれば、連続相である水相中に界面活性剤で安定化(ミセル化)された疎水性溶媒の微粒子が分散してエマルション溶液を形成している。このエマルション溶液中で工程Aと工程Bを同時又は順次に行うことにより、ミセル中にポリマー粒子とシリカ粒子の複合粒子であるポリマー・シリカ複合粒子が形成される。このようなポリマー・シリカ複合粒子から有機成分(ポリマー粒子及び複合粒子の表面に付着している界面活性剤等)を除去することにより、メソポーラスシリカナノ粒子が得られる。ナノ粒子の粒子径及びメソ孔の大きさを決める界面活性剤及びポリマー粒子はテンプレートとも称される。本発明の製造方法では、疎水性溶媒/水の比率を制御することによりメソポーラスシリカナノ粒子の粒子径を制御することができる。また、モノマー濃度を制御することにより、メソポーラスシリカナノ粒子の粒子径及びメソ孔の大きさを制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明のメソポーラスシリカナノ粒子の製造過程を示す模式図である。
【図2】実施例1のメソポーラスシリカナノ粒子のSEM像(a)及びTEM像(b)を示す図である。右上の挿入図は高倍率像である。
【図3】本発明のメソポーラスシリカナノ粒子のTEM像である。(a)は実施例2、(b)は実施例5のメソポーラスシリカナノ粒子を示す。(c)はオクタン/水質量比と粒子径との相関を示す図である。各プロットは、左から実施例2、3、4及び5のメソポーラスシリカナノ粒子である。
【図4】本発明のメソポーラスシリカナノ粒子のTEM像である。(a)は実施例6、(b)は実施例7、(c)は実施例9のメソポーラスシリカナノ粒子を示す。(d)はスチレン濃度とポア径、粒子径(外径)との相関を示す。各プロットは、左から実施例4、1、6、7及び8のメソポーラスシリカナノ粒子である。
【図5】スチレン濃度0(a)、スチレン濃度0.39(b)、スチレン濃度9.64(c)、熱処理後(d)の各粒子のIRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。但し本発明は実施例に限定されない。
【0055】
実施例1
メソポーラスシリカナノ粒子を調製した。具体的には、シリカ源としてテトラエトキシシラン(TEOS)(98%、アルドリッチ製)、TEOS反応触媒としてL−リジン(アルドリッチ製)、テンプレートとしてスチレン(関東化学製)、テンプレートとして及び界面活性剤としてセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)(メルク製)、スチレン重合開始剤として2,2’−アゾビス(2-メチルプロピオアミド)ジヒドロクロリド(AAPH)(アルドリッチ製)、疎水性溶媒としてオクタン(98%、アルドリッチ製)を用いて調製した。
【0056】
先ず、水30mlにCTAB0.1gを60℃で溶解した溶液に、オクタン14.4ml、スチレン0.2mlを加えて60℃で20分間撹拌した。その後、L−リジン25mg、TEOS1ml及びAAPH水溶液(5mg/ml)0.8mlを順次添加した。なお、スチレンとしては、予め2.5M−NaOHで洗浄して安定剤を除去したものを使用した。
【0057】
反応は60℃の窒素雰囲気中で3時間続けた。次いで、懸濁物を一晩静置し、遠心分離により精製した。最後に大気下500℃で熱処理してテンプレートを完全に除去した。
【0058】
調製したメソポーラスシリカナノ粒子の形状及び粒子径をSEM(走査型電子顕微鏡:S−5000、S−5200、日立製、20kV条件)及びTEM(透過型電子顕微鏡:JEM-300F、日本電子製、300kV条件)にて特定した。また、得られた粒子の化学組成をFTIR(島津製、FTIR8700)で分析した。更に、BET解析は、77Kでの窒素吸着等温線を容量測定器(ベル製、BELSORP28SA)で測定し、解析を行った。

(考 察)
得られたメソポーラスシリカナノ粒子の形状及び粒子径をSEM及びTEMにより特定した(図2)。球状で平均粒子径が41nmのほぼ単分散粒子が得られた(図2(a))。この図から、本製造方法で従来品よりも大きなポア径5nmの粒子が得られたことが分かる。
【0059】
ポア構造を確認するためにTEMで観察した。図2(b)のTEM像より、得られた粒子は5nmのポア径を有していることが分かる。TEM像から分かる形状及び外径はSEMの結果とよく一致していた。高解像TEM(右上の拡大図)によれば、粒子の表面だけでなく粒子内部にもポアが存在することが分かる。更に、有機テンプレートを熱処理により除去した際に、膨張又は収縮した粒子は認められなかった。
【0060】
平均ポア径をBET解析により測定した結果、平均5nmであった。BET解析により測定された平均ポア径は、図2(b)のTEM像から測定されたフェレット直径とよく一致していた。得られた粒子は従来品よりも大きな比表面積とポア径を有していた。
【0061】
実施例2〜8
スチレン及びオクタンの使用量を下記表1に示す通りに変えた以外は、実施例1と同様にしてメソポーラスシリカナノ粒子を調製した。
【0062】
【表1】

実施例2〜8で得られたメソポーラスシリカナノ粒子をSEM及びTEMにより観察した結果、全ての粒子において実施例1と同様に均一性の高い多孔性粒子が得られた。
(オクタン/水の質量比と粒子径との関係)
次に、オクタン/水の質量比が外径に及ぼす影響を調べた(図3)。粒子形成の間、反応は油相及び水相で進行する。更にミセル形態(即ち、径及び形状)は、界面活性剤の化学構造を変化させたり、分散相、pH、イオン力及び温度条件を変化させたりすることにより容易に制御できる。よって、オクタン/水の質量比を変化させることにより粒子径は制御できると予測されるが、これを確認した。
【0063】
実施例2、3、4及び5で得られたメソポーラスシリカナノ粒子について、オクタン/水の質量比と粒子径の関係を調べた。
【0064】
TEM像(図3(a)、(b))から、比較的単分散で球状のメソポーラスシリカナノ粒子が異なる質量比の条件下で得られている。図3(c)の結果からは、オクタン/水と粒子径との間に相関関係があることが分かる。オクタンの割合が多くなるとメソポーラスシリカナノ粒子の粒子径が増大する。当初のオクタン/水質量比が0.05(実施例2)、0.17(実施例3)、0.32(実施例4)、0.84(実施例5)(何れも図3(c)のプロット)である場合に、それぞれ20nm、28nm、45nm、75nmの粒子径となる。本発明の製造方法は所望の粒子径を容易に調整できる点で有利である。
(モノマー濃度とポア径及び外径との関係)
モノマー濃度(ここではスチレン濃度)とポア径及び外径との関係を調べた。結果を図4に示す。図4(a)〜(c)は異なるスチレン濃度で得られたメソポーラスシリカナノ粒子のTEM像を示す。図4(d)はその相関グラフを示す。TEM解析より、異なるスチレン濃度において、ほぼ単分散で球状の粒子が得られたことが分かる。また、本発明の製造方法により得られる粒子のポア径は従来品よりも大きいことが分かる。
【0065】
TEM像から得られるフェレット直径によれば、当初のスチレン濃度が0.39mg/ml(実施例4)、9.64mg/ml(実施例6)、55mg/ml(実施例8)である場合に、平均ポア径は5.6、9.4、14.6nmであることが分かる。図4のプロットは、左から実施例4、1、6、7及び8を示す。
【0066】
この結果より、スチレン濃度を変えることにより得られるポア径が変化することがわかる。スチレン濃度が高いとスチレンの重合化が進み、シリカ/ポリスチレン複合粒子中のポリマー径が大きくなることが要因である。よって、ポリスチレンを除くと、粒子中に大きなポア径が得られる。
【0067】
これらの影響を調べるために、異なるスチレン濃度でFTIR分光分析した。結果を図5に示す。スチレン濃度が高くなるとアルキル基のピークとSi−NH結合のピークが増大する。そして熱除去過程においてそれらのピークは消滅する。ポリスチレンは凝集して粒子中を占拠し、熱処理により除去されてメソ構造粒子が得られる。
(シリカナノ粒子の吸着特性)
多孔質シリカ材料の優れた吸着特性は、その大きな比表面積に由来する。しかしながら、程良いポア径も重要である。多孔質粒子の能力はRhB(ローダミンB)をサンプル染料とすることにより調べることができる。
【0068】
シリカナノ粒子の最大分子吸着特性を測定した。市販品(XL*)及び実施例4、6及び8のシリカナノ粒子を用いた。焼成後に緩く凝集した粒子を軽く磨り潰し、水と混合して600ppm濃度の水分散液を調製した。一方で、RhBの1200ppm濃度の水溶液を調製した。両方の液を1:1の容積比で混合し、1分間撹拌した。そして速やかにサンプルの光吸収スペクトルを分光光度計(島津製、紫外−可視分光光度計UV−3150)を用いて測定した。標準比較としてRhBの600ppm濃度水溶液を用いた。測定の時間は3分以内とした。試験開始後1時間後、15時間後、100時間後に測定を行った。結果を下記表2に示す。
【0069】
【表2】

表2の結果から明らかなように、RhB溶液のままでは100時間処理後も初期濃度を保持したままである。市販のシリカナノ粒子(XL*)は吸着特性が殆ど認められず、100時間処理後も初期濃度を保持したままである。これに対し、実施例4、6及び8で調製したメソポーラスシリカナノ粒子は多孔性故に優れた吸着特性を有しており、RhBの濃度が経時的に顕著に減少することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含むことを特徴とするメソポーラスシリカナノ粒子の製造方法:
(1)界面活性剤、水及び疎水性溶媒を含むエマルション溶液中において、下記工程A及び工程Bを同時又は順次に行うことにより、ポリマー粒子とシリカ粒子の複合粒子であるポリマー・シリカ複合粒子を得る工程1、
・モノマーと重合開始剤を加えてポリマー粒子を形成する工程A、
・加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源と塩基性触媒を加えて前記シラノール化合物を加水分解・脱水縮合させることによりシリカ粒子を形成する工程B、
(2)前記ポリマー・シリカ複合粒子から有機成分を除去する工程2。
【請求項2】
前記塩基性触媒は、塩基性アミノ酸である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記界面活性剤は、第4級アンモニウム塩型である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記疎水性溶媒は、炭素数6〜10のアルカンである、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記モノマーは、スチレンである、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記シリカ源は、テトラアルコキシシランである、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記メソポーラスシリカナノ粒子の平均粒子径が20〜80nmである、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記メソポーラスシリカナノ粒子の平均細孔径が4〜15nmである、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記疎水性溶媒と前記水の比率を制御することにより前記メソポーラスシリカナノ粒子の粒子径を制御する、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記モノマーの濃度を制御することにより前記メソポーラスシリカナノ粒子の細孔径を制御する、請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法により得られる、外径が20〜100nm、且つ、細孔径が4〜15nmである、真球状で単分散なメソポーラスシリカナノ粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−173894(P2010−173894A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18489(P2009−18489)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000238164)扶桑化学工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】