説明

メッキ装置

【課題】表面に導電性を有する基材粒子に、均一な厚みのメッキ層を高い収率で形成可能なメッキ装置を提供する。
【解決手段】基材粒子が接触しつつ周回可能な底面とその底面の周縁に沿い立設した周壁面とを備え基材粒子を含む粒子群9とメッキ液とを収納可能なメッキ室を有するメッキ槽1jと、メッキ室の底面より上方に開口する供給口1fを有しメッキ室の周壁面に沿い旋回するように供給口からメッキ液を供給するメッキ液供給管1eと、メッキ室に開口する排出口を有するメッキ液排出管1cと、メッキ室の底面に配置された基材粒子に接触する陰極1nと、メッキ室に収納されたメッキ液に浸漬する位置に配置された陽極1oと、陰極及び陽極に接続された電源1hとを有し、メッキ液排出管の排出口1dは、メッキ液は透過するが基材粒子は透過しないメッキ液透過部材4で塞がれているメッキ装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に導電性を有する基材粒子のメッキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に導電性を有する基材粒子にメッキを施す技術の一例として、Cuを主体としたコアボールの表面に半田をメッキして半田被覆Cuコアボール(以下Cuコアボールと略して記載する。)を形成する技術がある。なお、従来技術の問題点を明確にするために、Cuコアボールを例として本発明のメッキ技術を説明するが、本発明はCuコアボールに限定されるものではない。
【0003】
近年の多ピッチ化・狭ピッチ化による高密度実装の進むBGA(Ball Grid Array)やCSP(Chip Scale Package)などの半導体パッケージでは、入出力端子用バンプとして小径のCuコアボールが採用されている。Cuコアボールは、そのコアボールがリフロー時に溶融しないため、半導体素子と基板との間に一定の距離を維持でき、半導体素子の起動・停止により生じる熱サイクル負荷等に対して接続信頼性を確保することができる。
【0004】
Cuコアボールの製造技術として、メッキ液が流通可能な多数の開口を有するバレル内にコアボールを収納し、バレルをメッキ浴に配置し自転させることで半田を被覆するバレル電気メッキ法が知られている。しかしながら、特に直径が100μm以下の小径のCuコアボールを製造する場合、バレルの自転にともなうコアボールの転動だけではコアボールの攪拌が不十分になる。その結果、コアボール同士がメッキ層を介して連結し凝集したり、メッキ層の表面が粗面化したりすることで、メッキ層の厚みが部分的に不均一となり、歩留まりが低下するという問題が生じていた。
【0005】
このバレル式電気メッキ法の問題を解消する技術の一例が特許文献1に記載されている。特許文献1には、充分かつ均一なメッキ層を短時間で得るため、「上端が開放した下開き椀形の樹脂ドームの外周部下面と、樹脂底板の外周部上面の間に被めっき物が回転中に押付けられるコンタクトリングと、処理液が流通飛散するポーラスリングを一体に結合してセルを形成し、上記セルを相対回転不能に支持しコンタクトリングと通電する導電ロータリープレートの中央部下面に垂直な導電駆動シャフトの上端を固定し、上記シャフトにコンタクトブラシを押圧してマイナス極に接続し、上記ドーム内に陽極バスケットを配置し、セルを覆うカバーを設けた」、小物の回転メッキ装置が記載されている。そして、かかる構成の回転メッキ装置によれば、セル内に収納された被メッキ物は、セルの回転により生ずる遠心力の作用によりコンタクトリングに強制的に押し付けられ、セルの回転と、停止又は減速を繰り返すことにより均一に混合され、被メッキ物の表面におけるメッキ液の更新も活発となり、均一な厚みのメッキ層を形成することができると記載されている。
【0006】
また、バレル式電気メッキ法の問題を解消する他の技術例が特許文献2に記載されている。特許文献2には、特に曲がり易い性質を持ったワークのメッキ時の変形等を防止することを目的とし、「上面開口としたメッキ槽と、そのメッキ槽の上面開口を閉塞する着脱蓋とを有し、前記メッキ槽の底面に陰極を備え、着脱蓋の裏面に陽極を備えるとともに、前記メッキ槽の底面沿いの周壁に、その周壁の内面方向に向けたメッキ液の噴射ノズルを備えていることを特徴とする」、メッキ装置が記載されている。そして特許文献2には、かかる構成を採用することにより、メッキ槽内に投入されたワークは噴射ノズルから噴射されるメッキ液とともにメッキ槽内を回り、その回転を伴いながらメッキ処理が施されるため、曲がりや変形を生じるようなワーク同士の衝突がなくなり、すべてのワークが原形を保持したままメッキ加工処理を終了できる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−239799号公報
【特許文献2】実開平7−6267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術を鑑みてなされた発明であり、表面に導電性を有する基材粒子に均一な厚みのメッキ層を、高い収率で形成可能なメッキ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明に係わるメッキ装置は、表面に導電性を有する基材粒子のメッキ装置であって、前記基材粒子が接触しつつ周回可能な底面とその底面の周縁に沿い立設した周壁面とを備え前記基材粒子を含む粒子群とメッキ液とを収納可能なメッキ室を有するメッキ槽と、前記メッキ室の底面より上方に開口する供給口を有し前記メッキ室の周壁面に沿い旋回するように前記供給口からメッキ液を供給するメッキ液供給管と、前記メッキ室に開口する排出口を有するメッキ液排出管と、前記メッキ室の底面に配置された前記基材粒子に接触する陰極と、前記メッキ室に収納されたメッキ液に浸漬する位置に配置された陽極と、前記陰極及び陽極に接続された電源とを有し、前記メッキ液排出管の排出口は、メッキ液は透過するが基材粒子は透過しないメッキ液透過部材で塞がれているメッキ装置である。
【0010】
かかるメッキ装置では、メッキ室の底面が円形状であるとともに前記メッキ室の周壁面は前記メッキ室の底面に向い縮径した円錐台形状をなし、前記メッキ液排出管が前記円錐台形状の軸芯と同軸に配置されるのが好ましく、前記排出口が前記供給口よりも下方に配置されるメッキ装置にすることでより顕著な効果が発揮される。
【0011】
さらに、メッキ液排出口を塞ぐメッキ液透過部材は、基材粒子が接触する接触面を有し、接触面は、少なくとも前記メッキ液排出管の軸芯と垂直でない傾斜面を有するのが好ましい。
【0012】
かかるメッキ装置は、次のような作用を奏する。すなわち、メッキ液供給管の供給口から供給されたメッキ液は、メッキ室の周壁面に沿い旋回しつつその底面側に向い流下する。そして、メッキ室がメッキ液で満たされると、メッキ室に開口する排出口を通じメッキ液排出管から排出され、メッキ液供給管から新たなメッキ液を供給することによりメッキ室は常に新鮮なメッキ液で満たされる。
【0013】
メッキ室の底面に達した旋回流動するメッキ液は、メッキ室に収納された粒子群をメッキ室の底面に接触させつつ旋回運動させる。この底面において陰極に接触した基材粒子は、メッキ液に浸漬する位置に配置された陽極との間でメッキ処理され、メッキ層が基材粒子の表面に形成される。粒子群は、旋回流動するメッキ液により分散することなく互いに混合されながら底面に接触して転動しつつ底面上を旋回運動するので、基材粒子の凝集が抑止されるとともに基材粒子の表面の各部位がメッキ液に触れる機会が均等となり、その結果均一な厚みのメッキ層が形成される。なお、一旦旋回運動を始めた粒子は浮遊することなく、底面に間欠的な接触を繰り返しながら旋回運動を継続する。さらに、メッキ液の旋回流により基材粒子はメッキ室の底面に接触しつつ転動するため、基材粒子は他の基材粒子と接触する確率が高まり、よって陰極と接触した基材粒子と高頻度で電気的に接続され、連続メッキに近い処理を行うことが可能となり、基材粒子に効率的にメッキ層を形成することができ、さらに基材粒子同士の接触により形成されたメッキ層が平滑化され、表面が極めて平滑でかつ均一な厚みのメッキ層が形成される。
【0014】
ここで、メッキ室の底面を旋回運動している基材粒子は、メッキ液排出管に向うメッキ液の流れに乗り当該底面を離れ、メッキ液とともにメッキ液排出管から流出する可能性がある。しかしながら、メッキ液排出管の排出口は、メッキ液は透過するが基材粒子は透過しないメッキ液透過部材で塞がれているので、メッキ液透過部材はメッキ室からのメッキ液の排出を阻害することなく、基材粒子の流出を阻止する。メッキ液透過部材で流出が阻止された基材粒子は、上記したメッキ室の周壁面に沿う旋回流に捕捉され再びメッキ室の底面まで運ばれ、メッキ処理が施される。このようにメッキ液透過部材を設けることでメッキ室から基材粒子が流出することを防止でき、高い収率で基材粒子にメッキ処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
上記説明のとおり、本発明に係るメッキ装置によれば、表面に導電性を有する基材粒子に均一な厚みのメッキ層を高い収率で形成可能なメッキ装置を提供するという本発明の目的を達成することができる。なお、上記メッキ装置の好ましい態様及びその効果は以下で詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係わる一実施態様のメッキ装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1のメッキ装置及びその好ましい態様のメッキ装置の平面図である。
【図3】図1のメッキ装置及びその好ましい態様のメッキ装置の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るメッキ装置をその実施態様に基づき図面を参照しつつ説明する。下記の実施態様では、基材粒子であるCuを主体とした球形のコアボールの表面にSnを主体としたメッキ層を被覆するメッキ装置を例として説明するが、本発明はこれに限定されることなく、例えば無電解メッキでニッケル等の導電性を有する金属層を表面に形成した樹脂又はセラミックス粒子その他表面に導電性を有する基材粒子の表面に金属被覆層を電気メッキ法で形成する場合に適用することもできる。また、コアボールのように球状の基材粒子のみならず、例えば長軸と短軸を有する針状の基材粒子や形状的特徴のない不定形の基材粒子にも適用することができる。さらに、下記で説明するメッキ装置の各構成要素は、単独に又は適宜組み合わせて使用することもできる。
【0018】
メッキ装置の概略構成である図1の正面図と、図1の密閉蓋1Lを取り外した状態である図2(a)の平面図に示されるように、メッキ装置1は、本体部1a、メッキ液供給管1e及びメッキ液排出管1cを介して本体部1aに接続されたメッキ液循環手段1b、直流電源回路1hを基本的な構成として備えている。
【0019】
本体部1aにおいて、符号1jは、円形状の底面1pとその底面1pに向い縮径した円錐台形状の周壁面1qを有するメッキ室1mが形成されたメッキ槽である。メッキ液に対し耐食性を有する非導電性の絶縁物である樹脂等で構成されたメッキ槽1jは、上部が開口した碗型の容器1kと、上部開口を閉塞するように容器1kの上面に密着された密閉蓋1Lとを有している。この容器1kと密閉蓋1Lとで形成される空間がメッキ室1mを構成し、多数のコアボール91を含むボール群(粒子群)9と所定量のメッキ液Lとがメッキ室1mに収納される。なお、メッキ室を構成している底面及び周壁面は、上記構成に限定されず、底面は楕円形状などコアボールが接触しつつ周回可能な形状を有していればよく、また周壁面は底面に立設され当該底面とともにメッキ室を構成できるものであれば良い。
【0020】
メッキ液供給管1eは、メッキ室1mの周壁面1qの接線方向にその軸心が沿い、メッキ室1mの上部にメッキ液供給口1fが開口するようにメッキ槽1jにその一端が水平に接続され、メッキ液排出管1cは、密閉蓋1Lの中央部においてメッキ室1mの軸芯と同軸にメッキ液排出口1dがメッキ室1mに開口するようにメッキ槽1jにその一端が接続され、それぞれの他端はメッキ液循環手段1bに接続されている。メッキ液排出管1cはメッキ室1mの軸芯と同軸に配置されることで、旋回流aに与える影響を抑制でき、底面1pにおけるコアボール91の旋回運動を安定させることが可能となる。なお、メッキ液供給管1eは、旋回流aが形成されるよう、その一端をメッキ槽1jに対して水平でなく、上下に一定の角度をなすようメッキ液供給口1fを開口して接続しても良い。また、単にメッキ室1mからオーバーフローするメッキ液Lを排出させるだけであればメッキ液排出管1cは密閉蓋1Lの外周部に配置しても良い。
【0021】
本態様のメッキ液排出管1cは、密閉蓋1Lの中央部を貫通しメッキ室1mの中に突き出た状態となるように配置され、メッキ液排出口1dが軸芯方向においてメッキ室1mの中間部、具体的にはメッキ液供給口1fよりも下方に位置させ、更にメッキ液排出管1cを矢印dで示すように軸心方向に沿い移動できるようにした態様である。かかるメッキ液排出管1cを備えたメッキ装置1によれば、メッキ液排出口1dはメッキ室1mの底面1pに近接しているので、メッキ液Lの上昇流bは底面1pの近くで排出され、上昇流bが旋回流aに与える影響が抑制され、底面1pにおけるコアボール91の旋回運動を安定させることが可能となる。メッキ液排出管1cは、旋回流aの流れを阻害しない外壁と、上昇流bの流れを阻害しない内壁からなる形状の管であれば良いが、円筒状の管が好ましい。
【0022】
メッキ液循環手段1bは、図示しないメッキ液貯蔵タンク、メッキ液循環用ポンプ、メッキ液浄化用フィルタ及び流量制御弁等で構成されており、メッキ液循環手段1bから送り出されたメッキ液Lは、メッキ液供給管1eを流通してメッキ液供給口1fからメッキ室1mに供給され、図1及び図2(a)において破線で示される旋回流aを形成してメッキ室1mの周壁面1qに沿い流下する。また、メッキ液循環手段1bのメッキ液循環用ポンプや流量制御弁を調整すればメッキ室1mに供給されるメッキ液Lの流速や流量を経時的に変化させることができる。また、上記メッキ液供給管1eは複数本設けても良い。この場合、メッキ室1mの周壁面1qの同一円周上に例えば一定の角度ピッチで複数のメッキ液供給口1fが開口するようメッキ液供給管を配置しても良いし、旋回流aを形成して流下するメッキ液Lの流れに沿い、複数のメッキ液供給口1fが開口するようメッキ液供給管1eを配置しても良い。以上の構成によりメッキ液Lは、図1に示すように、下方に傾斜した周壁面1qに沿い旋回流動しつつ螺旋状に流下し、メッキ室1mの底面1pに達し、その後、図において破線bで示すような上昇流となり、メッキ液排出口1dを通じてメッキ液排出管1cから排出されてメッキ液循環手段1bに戻る。
【0023】
ここで、本発明の特徴の一つであるメッキ液透過部材について、図1及び図1の部分拡大断面図である図3(a)を参照しつつ説明する。メッキ液排出管1cの下方底面に固定され、その排出口1dを塞いでいる板状のメッキ液透過部材3は、メッキ液Lは透過してコアボール91は透過しない、例えばコアボール91よりも小さな空隙を有するメッシュ状の非導電性のフィルタにより形成されている。フィルタのメッシュ形状は四角、六角、多角、円形等の形状とすることが可能であり、メッキ液排出管1cへの固定は接着剤で直接固定しても良いし、部材を介してメッキ液排出管1cと嵌合固定しても良い。メッキ液透過部材3は、図3(a)に示すように、メッキ液を透過させてメッキ液排出管1cを通じてメッキ室1mからメッキ液Lを円滑に排出するとともに、コアボール91が接触するボール接触面3aであるその底面で、上昇するメッキ液の流れbに捕捉されメッキ液排出管1cから流出しようとするコアボール91aの流れを阻止するものである。なお、メッキ液透過部材3としては、コアボール91が透過しない所定の空隙を有する金属、樹脂、セラミックスその他の素材からなるフィルタが使用できる。また、メッキ液透過部材3として空隙がほぼ直線状に配置された蜂巣状のフィルタを用いれば、メッキ液透過部材3をメッキ液が透過する際の流動抵抗を低下せしめ、メッキ液の排出を円滑に行うことができるので好ましい。
【0024】
そして、メッキ液透過部材3のボール接触面(底面)3aで動きが阻止されたコアボール91aは、メッキ液の上昇流bがボール接触面3aに衝突し横方向への向きを変えた流れ(図示矢印c参照)に押されて接触面3aに接しつつメッキ室1mの周壁面1qの方向へ移動する。周壁面1qの側に移動したコアボール91bは、メッキ室1mの周壁面1qに沿い流れるメッキ液Lの旋回流aに捕捉されその底面1pに運ばれ、再びメッキ処理される。したがって、ボール接触面3aにおけるコアボール91aの移動が阻害されないように、ボール接触面3aは平滑な面であるか、或いはボール接触面3aの外周に向って放射状のパターンが形成された面であることが好ましい。なお、ボール接触面3aの断面視は必ずしも直線的である必要は無く、底面に向かって凸に膨らむ曲線的な断面であっても良い。
【0025】
メッキ液透過部材の好ましい態様について、図3(b)〜(e)を参照しつつ説明する。図3(b)〜(e)に示すメッキ液透過部材4〜7は、そのボール接触面4a〜7aが、水平面内においてメッキ液排出口1dの中央4b〜7bから周壁面1qへ向い延び、かつ周壁面1qと相対してメッキ液排出管の軸芯に垂直でない傾斜面4c〜7cを有する点で共通している。まず、メッキ液透過部材4について説明するが、各図において図3(a)と同一の構成については同一符号を付しており、詳細な説明を省略する。
【0026】
第1の好ましい態様のメッキ液透過部材4は、図3(b)に示すように、メッキ室1mの底面1pの側に中央の先端鋭部が向いた略傘形状をなし、水平面内において先端鋭部がメッキ液排出口1dの中央に位置してメッキ液排出口1dを塞ぐようにメッキ液排出管1cの下部底面に接着剤で固定されている。本態様のメッキ液透過部材4において、その底面、つまり、水平面内においてメッキ液排出口1dの中央4bから周壁面1qの全円周に向い等角度で延びかつ周壁面1qと相対している錐形状をなすボール接触面4aは、その全ての面がメッキ液排出管の軸芯に垂直でない傾斜面4cとなっている。
【0027】
かかる傾斜面4cを有するメッキ液透過部材4は、以下のような好ましい作用を奏する。すなわち、メッキ液の上昇流bに捕捉されてメッキ液排出管1cに向うコアボール91aは、メッキ液透過部材4の接触面4aで流動が阻止される。ボール接触面4aで動きが阻止されたコアボール91は、メッキ液の上昇流bが傾斜面4cに衝突し、傾斜面4cの傾斜に沿い向きを変えた流れ(図示矢印d参照)に押されて傾斜面4cに接しつつメッキ室1mの周壁面1qの方向へ移動するが、このときのコアボール91の移動は、図3(a)のメッキ透過部材3を用いた場合に比べて速やかな移動となる。周壁面1qの側に移動したコアボール91bは、メッキ室1mの周壁面1qに沿い流れるメッキ液Lの旋回流aに捕捉されその底面1pに運ばれ、再びメッキ処理される。なお、本態様のメッキ液透過部材4では、ボール接触面4aの全てが傾斜面4cとなるよう構成されているので、ボール接触面4aのいずれの箇所でコアボール91aを捕捉したとしても、上記した作用を奏することができる。
【0028】
なお、傾斜面は、上記メッキ液透過部材4の傾斜面4cのように断面視が直線で構成されるものに限定されず、例えば図3(c)に示すメッキ液透過部材5の傾斜面5cのように曲線で構成される傾斜面であってもよく、また中央に平坦面5dが形成されその平坦面5dの外周縁5bから傾斜面5cが延びる形態であっても問題ない。
【0029】
図1において、符号1nは容器1kの底部に配置された円板状の陰極であり、陰極1nの上面がメッキ室1mの底面1pとなるよう構成されている。直流電源回路1hの負極に接続された陰極1nは、例えばステンレススチール、チタン、白金メッキされたチタン等で形成されている。ボール群9は、メッキ室1mを旋回流動するメッキ液Lにより、図において符号Cで示すように外周端から半径方向に所定の範囲の中で底面1pと接触しつつ旋回運動し、これによりコアボール91は底面1pの上を攪拌されながら転動する。
【0030】
底面1pに配置された多数のコアボール91のうちのごく一部にのみ接するよう陰極を配しても良いが、陰極に直に接しないコアボール91は陰極に接するコアボール91を介して通電されるため、コアボール91同士の接触抵抗により陰極から離れた位置にあるコアボール91の電位が低下して当該コアボール91における電流密度が低くなり、メッキ効率が低下する可能性がある。したがって、平面視で見たとき、図2(a)に示すように、陰極はボール群9と十分な接触面積を有することが好ましく、本実施態様のように円板形状に形成しておくことが好ましい。この場合には、容器1kそのものを陰極材料で形成し、容器1kの内側面に耐食性及び絶縁性のある樹脂被覆を施し、容器1kの底面が陰極1nとして作用するように構成しても良い。
【0031】
一方で、図1及び図2(a)に示すように、メッキ室1mの底面1pの全てを陰極1nで構成した場合には、メッキ層の形成速度が低下するおそれがある。すなわち、ボール群9は、旋回流動するメッキ液Lで底面1p(陰極1nの上面)の外周縁部の所定の領域Cを旋回運動するため、ボール群9の存在しない陰極1nの上面の中央部にもメッキが無駄に析出してしまうからである。したがって、図2(b)及びその中心線に沿う断面図である図2(c)において符号2nで示すように、陰極は、ボール群9が旋回運動する領域に対応し底面2pの外周縁に円環状に設けておき、底面2pの中央部2zは電気的絶縁材で構成しておくことが好ましい。なお、図2(b)(c)の場合には、中央部2zは容器1kと一体に構成されているが、例えば中央部2zを絶縁性セラミックスなどで別体に形成し、容器1kに組み込むようにしても良い。
【0032】
さらに、図2(c)に示すように、陰極2nは、その表面が底面2pと同一平面を形成するように露出する第1の陰極2yのみならず、その表面が周壁面1qと同一の内周面を形成するように露出する第2の陰極2xを容器1kの基端部に備えていても良い。この陰極2xと2yは、図示するように、横断面がくの字状となるよう各々の一端において結合させた陰極2nとして容器1kに組み込むことができる。かかる第2の陰極2xを設けることによりボール群9が接触することが可能な陰極2nの面積を増加させることができ、高いメッキ効率を維持したまま均一なメッキ層をコアボール91に形成することが可能となる。なお、陰極2nの表面におけるメッキの析出を防止しメッキ効率を高めるためには、図2(c)に示すように、陰極2nは、ボール群9が旋回流動する範囲Cの中に含まれるのが好ましい。また、図2(b)で示す陰極2nは円周方向において連続的な円環形状に形成してあるが、一部に不連続部分があっても実質的に円環状に形成されていれば良い。
【0033】
図1において符号1oは、陰極1nと相対するよう、メッキ液排出管1cの外周面に配置された錫を含む陽極である。陽極1oは、メッキ室1mを満たすメッキ液Lに浸漬する位置に位置するよう、ステンレススチール、チタン、白金メッキされたチタン等の支持部材を介して密閉蓋1Lに固定され、直流電源回路1hの正極に接続されている。
【0034】
上記メッキ装置1の動作について、図1及び図3(a)を参照して説明する。まず、準備工程である。準備工程では、密閉蓋1Lを開けて所定数のコアボール91をメッキ室1mの底面1p(陰極1nの上面)に載置し、メッキ液Lをメッキ液循環手段1bのメッキ液貯蔵タンクに格納する。なお、コアボール91としては、酸洗処理し表面を清浄化したものを使用し、更に必要に応じ表面に下地層としてニッケルメッキ層を形成したものを使用しても良い。また、半田メッキするためのメッキ液は、例えばSn−Ag−Cu系の液組成を有する大和化成製の商品名「DAIN TINSIL SBB 2」やローム&ハース製の商品名「SOLDERON BP SAC5000」等に添加剤を添加して、例えばホウフッ化浴など周知のメッキ浴に適宜調整して使用することができる。ボール群9を構成する粒子はコアボール91に限定されず、例えばボール群9の攪拌を促進するための攪拌促進体として、例えば半田や鋼を主体とした導電性ダミーボール、樹脂やセラミックス等を主体とした非導電性ダミーボールを適量加えても良い。
【0035】
密閉蓋1Lを閉じてメッキ室1mを密閉空間にした後、メッキ装置1を作動させる。メッキ装置1は、メッキ液循環手段1bを作動させてメッキ液供給管1eを通じてメッキ室1mへ所定の流量でメッキ液Lを供給する。メッキ室1mがメッキ液Lで満たされると、メッキ液Lは、メッキ室1mの周壁面1qに沿い旋回するとともに周壁面1qの傾きに沿い底面1pに向い螺旋状に流下する旋回流aとなる。なお、メッキ液Lの供給の初期段階ではメッキ液Lの流れが不安定であるため、不安定なメッキ液Lの流れに乗りメッキ室1mの外にコアボール91が流出する場合があるが、メッキ装置1にはメッキ液透過部材3が設けられているのでこの初期段階での流出を防止することができる。
【0036】
下方に向い縮径する円錐台形状をなすメッキ室1mの周壁面1qに沿いメッキ室1mを旋回流下するメッキ液Lは底面1pに近づくに従い旋回速度が増加し、底面1pに達する。底面1pに達したメッキ液Lの旋回流aは、底面1pに接触しているボール群9を当該底面1pに押し付けつつ旋回運動させる。ここで、ボール群9に含まれるコアボール91は、底面1p、すなわち直流電源回路1hの負極に接続された陰極1nの上面に接触しているので、陽極1oとの間でメッキ処理され、その表面にはメッキ層が形成される。そして、メッキ室1mの底面1pに達したメッキ液Lは、底面1pの中央部で上昇流bとなりメッキ液排出口1dを通じてメッキ液排出管1cから排出されメッキ液循環手段1bに戻るため、常に新鮮なメッキ液Lがメッキ室1mに供給され、メッキ室1mの中のメッキ液Lの状態を常に一定とすることができ、その結果コアボール91の表面に均一な厚みのメッキ層が形成される。
【0037】
ここで、メッキ液排出管1cの排出口1dを塞いでいるメッキ液透過部材3は、メッキ液Lは透過させるがコアボール91は透過させないので、図3(a)に示すように、メッキ液排出管1cを通じてメッキ室1mからメッキ液Lは円滑に排出され、メッキ液排出管1cから流出しようとするコアボール91aの流れはボール接触面3aで阻止される。そして、ボール接触面3aで阻止されたコアボール91aは、ボール接触面3aに沿うメッキ液の流れcに押されメッキ室1mの周壁面1qの方向へ移動する。周壁面1qの側に移動したコアボール91bは、メッキ室1mの周壁面1qに沿い流れるメッキ液Lの旋回流aに捕捉され底面1pに運ばれ、メッキ処理される。これにより、投入したコアボール91のメッキ室1mからの流出が抑制され、コアボール91がメッキ処理されたCuコアボールを高い収率で得ることができる。
【0038】
なお、メッキ室1mの底面1pに接触しつつ旋回運動するコアボール91は底面1pの上を転動し、コアボール91同士が擦り合うように衝突するので、コアボール91同士が付着しがたくコアボール91の凝集が防止され、かつ転動によりコアボール91の表面が底面1pに触れる機会が均等になるので、均一な厚みのメッキ層が形成される。また、コアボール91を充分に転動させ、コアボール91同士が擦り合うように衝突させることにより、コアボール91の表面の一部に形成されたメッキ層を、転動する他のコアボール91で擦り合わせて押し広げるというメッキ層の表面の平滑化効果が生じて表面の一部に選択的にメッキ層が形成されることを防止し、表面が極めて平滑でメッキ層の内部にボイドの少ない均一な厚みのメッキ層を形成することができる。本発明のメッキ装置は、100μm以下の小径のコアボールにメッキ層を形成するのに好適な装置であり、かかる装置で製造した小径のCuコアボールはメッキ層が平滑で真球度が極めて高く、フリップチップ用の接続部材として特に好適である。
【符号の説明】
【0039】
1:メッキ装置
1a:本体部
1b:メッキ液循環手段
1c:メッキ液排出管
1d:メッキ液排出口
1e:メッキ液供給管
1f:メッキ液供給口
1h:直流電源回路
1j:メッキ槽
1k:容器
1L:密閉蓋
1m:メッキ室
1n(2n):陰極
1o:陽極
1p(2p):底面
1q:周壁面
3、4、5:メッキ液透過部材
3a、4a、5a:接触面
4c、5c:傾斜面
9:ボール群(粒子群)
91:コアボール(基材粒子)
a:旋回流
b:上昇流
L:メッキ液



【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に導電性を有する基材粒子のメッキ装置であって、前記基材粒子が接触しつつ周回可能な底面とその底面の周縁に沿い立設した周壁面とを備え前記基材粒子を含む粒子群とメッキ液とを収納可能なメッキ室を有するメッキ槽と、前記メッキ室の底面より上方に開口する供給口を有し前記メッキ室の周壁面に沿い旋回するように前記供給口からメッキ液を供給するメッキ液供給管と、前記メッキ室に開口する排出口を有するメッキ液排出管と、前記メッキ室の底面に配置された前記基材粒子に接触する陰極と、前記メッキ室に収納されたメッキ液に浸漬する位置に配置された陽極と、前記陰極及び陽極に接続された電源とを有し、前記メッキ液排出管の排出口は、メッキ液は透過するが基材粒子は透過しないメッキ液透過部材で塞がれているメッキ装置。
【請求項2】
前記メッキ室の底面は円形状であるとともに前記メッキ室の周壁面は前記メッキ室の底面に向い縮径した円錐台形状をなし、前記メッキ液排出管は前記円錐台形状の軸芯と同軸に配置されている請求項1に記載のメッキ装置。
【請求項3】
前記排出口は前記供給口よりも下方に配置されている請求項2に記載のメッキ装置。
【請求項4】
前記メッキ液透過部材は、前記基材粒子が接触する接触面を有し、前記接触面は、少なくとも前記メッキ液排出管の軸芯に垂直でない傾斜面を有する請求項2または3のいずれかに記載のメッキ装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−107267(P2012−107267A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254776(P2010−254776)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)