メラニン産生抑制化粧料
【課題】 生薬であるヤバツイの抽出物を含有することを特徴とするヒートショックプロテイン(HSP)発現・誘導作用に基づくメラニン産生抑制化粧料、すなわち美白用化粧料を提供すること。
【解決手段】 サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)の抽出物を含有することを特徴とするヒートショックプロテイン(HSP)発現誘導作用に基づくメラニン産生抑制化粧料であり、ヤバツイのアルコール抽出物を各種カラムクロマトグラフィー、更にはHPLCによる分画操作により分画させたHSP70を特異的に発現・誘導する画分を含有するメラニン産生抑制化粧料である。
【解決手段】 サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)の抽出物を含有することを特徴とするヒートショックプロテイン(HSP)発現誘導作用に基づくメラニン産生抑制化粧料であり、ヤバツイのアルコール抽出物を各種カラムクロマトグラフィー、更にはHPLCによる分画操作により分画させたHSP70を特異的に発現・誘導する画分を含有するメラニン産生抑制化粧料である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミの原因であるメラニン合成の抑制効果を有する熱ショックタンパク質の発現・誘導による、特異的なメラニン産生抑制化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞、組織あるいは固体においては、一般的な生理的温度より3℃以上高い温度に晒されたときに、生体の防御システムの一つとして、特異的タンパク質の発現(産生)が誘導されることが知られている。
このタンパク質は、SDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法)によって測定した場合、分子量範囲10〜110KDaを有する一群のタンパク質として存在しており、熱ショックタンパク質(ヒートショックプロテイン:heat shock proteins、以下、「HSP」と称する場合もある)と呼ばれている。
【0003】
HSPは、その分子量の相違により幾つかのファミリーが形成されており、例えば、HSP90ファミリー(分子量:90kDa以上110kDa以下)、HSP70ファミリー(分子量:70kDa以上80kDa未満)、HSP60ファミリー(分子量:60kDa以上70kDa未満)、及び低分子量HSPファミリー(分子量:60kDa未満)のように分類されている。
【0004】
HSPの機能は多岐にわたっており、例えば、HSP70及びHSP60ファミリーは、変性タンパク質に結合して、天然のフォールディング(高次構造・折り畳み構造)に巻き戻す作用や、第三のタンパク質や核酸との会合、細胞内での局在化や膜透過への関与など、いわゆる分子シャペロンと呼ばれる機能を担っていることが明らかにされている(非特許文献1及び2)。
なお、分子シャペロンとは、ポリペプチド鎖の合成に引き続くフォールディングや酵素の不可逆的な熱変性の抑制に関与している一連の蛋白質をさす。
【0005】
このHSP発現の誘導(産生)を利用した療法の一つとして、癌温熱免疫療法がある。すなわち、全身を加温することによりHSPの生成を誘導し、全身の免疫機能を活発にするのと同時に、がん細胞と正常細胞の識別能力を向上させ、副作用が無く、癌細胞のみを死滅させる治療法である。
【0006】
ところで、このHSPは、高温ばかりではなく、外的傷害、放射線、紫外線などの外界からのストレスに晒された場合にも、生体防御システムとして、その発現(産生)が誘導される。
すなわち、高温、紫外線などの生体に対するストレスは、細胞のタンパク質を変性させ、不溶性沈殿を形成して細胞にダメージを与える。したがって、かかる細胞へのダメージを防御する目的で、HSPの生成が誘導されることとなる。
【0007】
かかる観点から、水生プランクトンであるアルテミアの孵化直前の耐久卵から水抽出した活性エキス(アルテミアエキス)成分が、ヒト皮膚細胞においてHSP70の産生を誘発することが見出され、かかる作用を利用した抗皮膚ストレス(ストレス防御)用化粧料が提案されている(特許文献1)。
しかしながら、アルテミアエキスは、化粧料への配合条件として40℃以下での配合が望ましく、また、タンパク分解酵素との配合禁忌があるなど、その使用に種々の制約を受けている。
【0008】
人の皮膚は、紫外線を吸収すると、身体を紫外線から守るために、皮膚基底層にあるメラノサイトにおいてチロシナーゼという酵素が紫外線を浴びて活発化され、メラニンが生成される。すなわち、メラニンは、皮膚に日光が当たることで生成される色素であり、紫外線を吸収したり散乱したりするため、強い紫外線から細胞や皮膚を守る働きを有している。
その一方で、皮膚のシミの発生は、このメラニン色素の部分的な異常増加が原因であると考えられている。
【0009】
したがって、皮膚のシミ等の発生を予防する美白作用を発揮させるためには、紫外線による皮膚ストレスを防御するべく、HSPの発現を効果的に誘導させてやればよいが、これまでかかる考え方に立脚した美白化粧品は登場してきていない。
本発明者は、HSP誘導を発現させる植物成分の検索を検討してきており、これまでに幾つかの生薬成分の抽出物を含有するヒートショックタンパク質誘導剤が提案されているが、美白化粧への応用は一切記載されていない(特許文献2)。
【0010】
更に最近、本発明者は、HSPの発現誘導剤によるHSPの一種であるHSP70の特異的な発現・誘導により、生成したHSP70がチロシナーゼ及び小眼球症関連転写因子(MITF:microphthalmia転写因子)を制御させ、メラニン産生を抑制すること確認し、かかるHSPの発現誘導剤を含有する皮膚外用剤、及び美白化粧料を提供している(特許文献3)。
【0011】
したがって、ヒートショックプロテイン(HSP)発現・誘導は、メラニン産生を抑制するものであり、効果的なHSP70発現誘導作用を有する成分は、極めて強力なメラニン産生抑制化粧料、すなわち、美白化粧料となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−238297号公報
【特許文献2】特開2008−127296号公報
【特許文献3】特開2010−083804号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Hendrick, J. P. & Hartl, F. -U., Ann. Rev. Biochem., 62, 349-384 (1993)
【非特許文献2】Georgopoulos, C. & Welch. W. J., Ann. Rev. Cell Biol., 9, 601-634 (1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者は、更に検討を進め、各種植物成分(生薬)について、HSP70誘導を発現する安全性の高い成分の検索を行ってきていたが、その検討の中で、植物成分としてサワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部の乾燥生薬(ヤバツイ)の抽出物が、HSP誘導の発現を強化させることを見出した。
特に、ヤバツイのエタノール抽出エキスを、各種カラムクロマトグラフィー、或いは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等で分画して得た成分(画分)に、極めて強いHSP70の発現・誘導が認められることを確認し、その結果、本発明を完成させるに至った。
したがって、本発明は、生薬であるヤバツイの抽出物を含有することを特徴とするヒートショックプロテイン(HSP)発現・誘導作用に基づくメラニン産生抑制化粧料、すなわち美白用化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる課題を解決するための本発明は、その基本的態様は、サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)の抽出物を含有することを特徴とするヒートショックプロテイン(HSP)発現誘導作用に基づくメラニン産生抑制化粧料である。
【0016】
より具体的な本発明は、サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)の抽出物が、下記の操作により抽出・分画処理して得られた画分(画分A〜C、D1〜D12)のいずれかからなるものであるメラニン産生抑制化粧料である。
(a)サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)をエタノール抽出して得た抽出物を、ヘキサンにより脱脂処理を行った後、90%メタノール溶液に溶解して得た90%メタノール溶液画分(画分A);
(b)上記90%メタノール溶液画分(画分A)を、MCl・GEL CHP−20Pカラムクロマトグラフィーに付し、順次、水溶出−50%メタノール溶出−メタノール溶出−アセトン溶出を行い得られたメタノール溶出画分(画分B);
(c)上記メタノール溶出画分(画分B)を、更にODSカラムクロマトグラフィーに付し、順次50%メタノール溶液、75%メタノール溶液、及びメタノール溶液で溶出を行い得た50%メタノール溶出画分(画分C);及び
(d)上記50%メタノール溶出画分(画分C)をHPLC(カラム:AR−II ODS)に付し、40%メタノールにて溶出して得た画分(画分D1〜D12)。
【0017】
より好ましい本発明は、サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)の抽出物が、上記画分(画分A〜C、D1〜D12)のうち、画分D3及び/又は画分D7であることを特徴とするメラニン産生抑制化粧料である。
【0018】
最も具体的には、本発明は美白用化粧料である上記に記載のメラニン産生抑制化粧料である。
【0019】
かくして調製されたヤバツイの抽出物は、後記する試験例から明らかなように、HSP70の発現・誘導により、生成したHSP70がチロシナーゼ、及び小眼球症関連転写因子(MITF:microphthalmia転写因子)を制御させ、メラニン産生を抑制することにより、美白効果が発揮されるといった、極めて特異的な化粧料である。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)の抽出物からなる、新規な作用機序に基づく、効果的なメラニン産生抑制作用剤、すなわち、美白化粧料が提供される。
本発明が提供するメラニン産生抑制作用剤並びに美白化粧料は、HSP70の発現を誘導させ、生成されたHSP70がメラニン産生に関与するチロシナーゼや小眼球症関連転写因子(MITF:microphthalmia転写因子)を制御させ、その結果、メラニンの産生を抑制するものであり、その結果、シミの予防・改善作用のある有用な美白化粧料を提供することができる。
【0021】
特に本発明が提供する美白化粧料は、HSP70の発現誘導により、紫外線による直接的な肌への刺激、或いは心身ストレス、ホルモンバランス等の異常に起因するシミなどの発生に対処する、これまで何等検討されていなかった新たな作用機序に基づく美白化粧料を提供する点で、極めて特異的なものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1で行った、ヤバツイの抽出物について、その分画操作の流れを示したフロー図である。
【図2】実施例3における、ヤバツイの抽出画分D1〜D12についての、HSP70の発現誘導の強度を示した図である。
【図3】実施例3における、ヤバツイの抽出画分D1〜D12についての、細胞生存率を示した図である。
【図4】実施例3における、発現誘導強度が強かった画分D3について、HSP70発現及び細胞生存率と、その濃度との関係に示した図である。
【図5】実施例3における、発現誘導強度が強かった画分D7について、HSP70発現及び細胞生存率と、その濃度との関係に示した図である。
【0023】
【図6】実施例4における、本発明の画分D3及びD7によるIBMX刺激によるメラニン生成抑制効果を示す、メラニン含有量を示した図である。
【図7】実施例4における、本発明の画分D3及びD7によるIBMX刺激によるメラニン生成抑制効果を示す、チロシナーゼ活性を示した図である。
【図8】実施例4における、本発明の画分D3及びD7のIBMXによるメラニン合成酵素の一つであるチロシナーゼのmRNA発現誘導に対する効果発現を示した結果である。
【図9】実施例4における、本発明の画分D3及びD7のMITFのmRNA発現誘導に対する効果発現を示した図である。
【図10】実施例5における、本発明の画分D3及びD7によるUV照射による細胞毒性に対する効果である、細胞生存率を示した図である。
【図11】実施例5における、本発明の画分D3及びD7によるUV照射による細胞毒性に対する効果である、アポトーシスを起こした細胞(sub-G1中の細胞)率を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明で使用されるサワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)は、キク科ヒヨドリバナ属植物に属し、日本全国、東南アジアに生育する多年草である。この地上部乾燥生薬は、ヤバツイ(野馬追)と称され、中国においては解熱・解毒薬として使用されている生薬成分である。
【0025】
本発明は、上記したように、その基本は、HSP70の発現の誘導によるメラニン産生抑制作用剤であり、具体的には、ヤバツイの抽出物を含有することを特徴とするヒートショックプロテイン(HSP)発現誘導、特にHSP70の生成により、チロシナーゼ及び小眼球症関連転写因子(MITF:microphthalmia転写因子)を制御させ、メラニン産生を抑制することを特徴とするメラニン産生抑制化粧料、特に美白化粧料である。
なお、HSP70の発現の誘導によるメラニン産生抑制作用のメカニズムについては、先に本発明者が出願している特許文献3に詳細に検討しており、したがって、その内容は本願明細書の一部として取り込まれるものである。
【0026】
本願発明における、有効成分となるヤバツイの抽出物は、具体的には以下のようにして調製することができる。
すなわち、サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(以下、特に断らない限り、「ヤバツイ」と称する。)の抽出物をエタノール抽出してエタノール抽出物を得る。
なお、ヤバツイは、生薬として市販されており、例えば、丸善製薬(株)から入手することができる。
抽出にあたっては、ヤバツイ100gに対して、エタノールを0.5〜2L程度加え、加熱還流条件下で抽出を行うのがよい。抽出時間は一概に限定できないが、1〜5時間程度、好ましくは2時間程度でよい。また、抽出温度は、70℃〜エタノールの沸点付近の温度で行うのがよい。抽出操作を完了した段階で、冷却後綿栓濾過を行い、エタノール抽出液を得る。
この抽出操作を2〜5回、好ましくは3〜4回程度繰り返し、併せたエタノール抽出溶液を減圧下に濃縮し、残渣として、ヤバツイの粗エタノール抽出物を得る。
【0027】
本発明で使用するヤバツイの抽出物は、上記で得たヤバツイの粗エタノール抽出物を分画操作により分画して得た抽出画分であり、具体的には以下のようにして行うことができる。
最初に、ヤバツイの粗エタノール抽出物を、ヘキサンにより脱脂処理を行う。具体的には、粗エタノール抽出物を90%メタノール溶液に懸濁させ、分液漏斗に移して少量のヘキサンにより抽出することにより脱脂処理を行う。
脱脂処理した90%メタノール層を減圧乾固し、90%メタノール溶液画分(画分A)が得られる。
【0028】
次いで、上記で得られた90%メタノール溶液画分(画分A)を、ポリスチレンゲルカラムクロマトグラフィー、具体的には、MCl・GEL CHP−20P(和光純薬工業)カラムクロマトグラフィーに付し、順次、水、50%メタノール、メタノール溶液の段階的グラジエント法、及びアセトン溶液にて溶出を行い、各溶出画分を得る。
かかる操作において得られたメタノール溶出画分(画分B)に、HSP発現誘導が強く認められた。
【0029】
HSP発現誘導が強く観察されたメタノール溶出画分(画分B)を、更にODSカラムクロマトグラフィーに付し、順次50%メタノール溶液、75%メタノール溶液、及びメタノール溶液による段階的グラジエント法で溶出を行い、それぞれの溶出画分を得た。
かかる操作において得られた50%メタノール溶出画分(画分C)に、HSP発現誘導が強く認められた。
【0030】
次いで、HSP発現誘導が強く観察された50%メタノール溶出画分(画分C)を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、カラム:AR−II ODS)に付し、40%メタノールにて溶出して全12個の溶出画分(画分D1〜D12)を得た。
かくして得られた溶出画分D1〜D12のうち、特に、画分D3並びに画分D7に、極めて強いHSP発現誘導作用があることが判明した。
【0031】
この画分D3及びD7について、HSP発現誘導作用物質の特定を検討したところ、画分D3には、セスキテルペンラクトンであるユーパリノライドA(Eupalinolide A)、画分D7にはユーパリノライドB(Eupalinolide B)が主成分として含有されていることが判明した。
【0032】
本発明が提供するメラニン産生抑制化粧料は、ヤバツイの抽出物を含有するものであるが、特に、上記の操作により抽出・分画処理して得られた画分(画分A〜C、D1〜D12)のいずれかからなるものを含有するメラニン産生抑制化粧料であり、より好ましくは、上記画分(画分A〜C、D1〜D12)のうち、画分D3及び/又は画分D7を含有するメラニン産生抑制化粧料である。
【0033】
本発明が提供するメラニン産生抑制化粧料は、ヒートショックプロテイン(HSP)のなかでも、特に、HSP70の発現誘導によるメラニン産生抑制作用に基づく化粧料である。
すなわち、HSP70は、メラニン産生に関与するチロシナーゼ及び小眼球症関連転写因子(MITF:microphthalmia転写因子)を制御させるものであり、その結果、メラニンの産生が抑制されるものである。
特に、MITFは、メラニン産生に必須であるチロシナーゼ、TRP−1及び2(チロシナーゼ関連タンパク−1及び2)の発現を制御する転写因子であり、このMITFの制御は、メラニン産生をコントロールすることとなり、その結果、美白作用が効果的に発現される。
【0034】
上記したように、本発明が提供するメラニン産生抑制化粧料は、ヤバツイの抽出物、特に、上記の操作により抽出・分画処理して得られた画分(画分A〜C、D1〜D12)のいずれかからなるものを含有するメラニン産生抑制化粧料であり、より好ましくは、上記画分(画分A〜C、D1〜D12)のうち、画分D3及び/又は画分D7を含有するメラニン産生抑制化粧料である。
かかる化粧料としては、具体的には、化粧水、乳液、クリーム、美容液、パック等の皮膚化粧料、メイクアップベースローション、メイクアップベースクリーム等の下地化粧料、乳液剤、油性、固形状等の各剤型のファンデーション、アイカラー、チークカラー等のメイクアップ化粧料、ハンドクリーム、レッグクリーム、ネッククリーム、ボディローション等の身体用化粧料等を挙げることができる。
【0035】
本発明が提供する化粧料においては、ヤバツイの抽出物を含有するものであるが、ヤバツイの抽出物をそのまま、或いは、各種化粧料成分として使用されている他の成分と共に、所望の化粧品の形態で使用することができる。
本発明は、HSP発現誘導に基づくメラニン産生抑制化粧料であり、特に美白用化粧料として極めて効果的なものであるが、他の美白成分を併用することにより、相乗的に美白効果が得られることが判明した。
【0036】
この場合において、ヤバツイの抽出物の含有量は、含有させる抽出・分画処理して得られた画分(画分A〜C、D1〜D12)のHSP70発現誘導作用の強さにより一概に限定できず、また、シミの予防・改善の目的、用いる人の性別、体重、年齢、剤型、シミの種類や程度、使用部位、使用回数などの種々の条件により一概に限定できない。
例えば、皮膚に塗布する場合には、0.1μg〜10mg(活性成分乾燥重量)/kg/日で、一日1回から数回に分けて適用することができるが、使用量はこの範囲に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
以下に本発明を、ヤバツイの抽出物の調製の実際、その抽出物のHSP70の発現の誘導を説明しながら、より詳細に説明していく。
【0038】
なお、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0039】
実施例1:ヤバツイの溶媒抽出物の調製(画分A〜C、D1〜D12の調製)
丸善製薬(株)から入手したヤバツイ[サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬]の10.1gを500mLのナス型フラスコに入れ、100mLのエタノールを加え、70℃の水浴上で2時間還流抽出した。冷却後、綿栓濾過してエタノール抽出液を得た。
この還流抽出操作を3回繰り返した後、得られたエタノール抽出液を合わせて減圧濃縮し、エタノール抽出物(499mg)を得た。
このエタノール抽出物を100mLの90%メタノールに懸濁させ、分液漏斗に移して30mLのヘキサンにて3回処理を行い、脱脂した。90%メタノール溶液層をエバポレーターで減圧乾固し、310mgの90%メタノール溶液画分(画分A)を得た。
この段階で得られた、ヘキサン溶液溶解画分と、90%メタノール溶液画分(画分A)について、免疫ブロット法により活性を検討したところ、90%メタノール溶液画分(画分A)が、活性が強いものであった。
【0040】
この活性の強かった90%メタノール溶出画分を、MCl・GEL CHP−20Pカラムクロマトグラフィー(φ17mm×100mm:和光純薬工業)の段階的グラジエント法に付し、順次、水(80mL)、50%メタノール(100mL)、メタノール(100mL)、及びアセトン(100mL)溶液にて溶出を行い、各溶出画分を得た。
その結果、水溶出画分(119mg)、50%メタノール溶出画分(49mg)、メタノール溶出画分(画分B)(125mg)及びアセトン溶出画分(20mg)を得た。
得られた四つの画分のうち、メタノール溶出画分(画分B)(125mg)が最も活性が強いものであった。
【0041】
次いで、活性の強かったメタノール溶出画分(画分B)を、Chromatorex ODSカラムロマトグラフィー(φ15mm×150mm)に付し、水−メタノール(1:0→0:1、v/v)の段階的グラジエント法により溶出し、これにより、順次50%メタノール溶液、75%メタノール溶液、及びメタノール溶液で溶出を行い得た50%メタノール溶出画分(画分C)(49mg)を得た。
得られた三つの画分のうち、50%メタノール溶出画分(画分C)が最も活性が強いものであった。
【0042】
最後に、得られた50%メタノール溶出画分(画分C)を高速液体クロマトグラフィー(HPLC,Cosmosil AR−II ODSカラム:φ20mm×350mm)に付し、40%メタノールにて分取し、12個の溶出画分(画分D1〜D12)を得た。
これらの溶出画分D1〜D12について活性を検討したところ、画分D3及び画分D7が最も活性が強いものであった。
【0043】
以上の分画処理の流れ(フロー)を、図1に示した。
【0044】
実施例2:細胞培養法におけるHSP70の効果の確認
<細胞培養法及びHSP過剰発現株の作成>
マウスメラノーマ由来のB16細胞(理研バイオリソースセンター)を、DMEM培地(10%の牛胎児血清、100U/mLのペニシリン、100U/mLのストレプトマイシン)で、37℃/5%CO2雰囲気下で培養した。
HSP70安定発現株は、次の方法で作成した。
リポフェクタミン(TM2000:Invitrogen社)を用いて、pcDNA3.1/hHSP70(山口大学、A.Nakai博士より供与)、又はpcDNA3.1をB16細胞に導入したのち、200μg/mLのG418(Sigma社)を用いて安定発現株を選択した。
その発現を、イムノブロット法により調べ、HSP70安定発現株を得た。
【0045】
<イムノブロット法>
ヒートショックを1時間行い、更に6時間培養した後、細胞を遠心して回収し、PBS(リン酸緩衝生理食塩水:137mM NaCl, 2.7mM KCl, 1.5mM KH2PO4, 4.3mM NaHPO4)で洗った後、RIPA緩衝液[50mM Tris-HCl (pH 7.2), 150mM NaCl, 1% NP-40, 1% Sodium, deoxycolate, 0.05% SDS]に溶解し、遠心した後の上清を全細胞抽出液として実験に用いた。
各サンプルの蛋白質量を、Bio-Rad protein assay kit(Bradford法:Bio Rad社)により求め、同量の蛋白質量に揃えた後、実験に使用した。
サンプルはポリアクリルアミドを用いてSDS−PAGEを行い、PVDF膜にトランスファーした。その後、1次抗体 (against HSP70(R&D system社)、 1:1000 dilution)、及び2次抗体で免疫ブロットし、SuperSignal WestDura(化学発光法:Pierce社)により目的的のバンドをLAS-3000 mini を用いて検出した。
また、HSP70の発現を2倍にする最小有効濃度(MEC2.0(μg/ml))として、表示した。
【0046】
実施例3:HSP70発現の確認
培養液を満たした培養皿に、ヒト線維芽細胞株(NBIRGB:理化学研究所、バイオリソースセンター)を1×102個/mLの細胞懸濁となるように播種し、5%炭酸ガス雰囲気下に37℃にて24時間培養を行った。
この培養液に、上記実施例1で調製したヤバツイの溶媒抽出物(画分A〜C、D1〜D12)を上記したイムノブロット法に従ってHSP70の発現誘導を検討した。
あわせて、その時の細胞生存率(Safe Induction(SI)Index)(%)も検討した。
その結果を下記表1に示した。
なお、表中には、実施例1で調製したヤバツイのエタノール抽出物、並びにヤバツイの溶媒抽出物として画分A〜C、及びD3、D7の結果を示した。
【0047】
【表1】
【0048】
表中の結果より明らかなように、ヤバツイの抽出画分A〜Cには、極めて強いHSP70の発現誘導作用があることが判明する。
また、図2から判るように、画分D1〜D12の中でも画分D3並びにD7には、更に強いHSP70発現誘導作用があることが判明する。
また、ヤバツイ自体はすでに中国において解熱・解毒薬として使用されている生薬であることから、ヤバツイの抽出画分には細胞毒性もなく、安全なものであることが確認された。
【0049】
既に上記で説明したように、HSPの発現誘導、特にHSP70の発現誘導は、メラニン産生を抑制するものであり、したがって、本発明が提供するヤバツイの抽出物からなるHSP発現誘導作用を有する成分は、極めて強力なメラニン産生抑制化粧料、すなわち、美白化粧料となる。
【0050】
なお、上記で得られた画分D1〜D12についての、HSP70の発現誘導の強度、並びに細胞生存率を図2及び図3に示し、さらに、その画分の中で特に発現誘導強度が強かった画分D3及びD7の、HSP70発現、細胞生存率と濃度との関係を図4(画分D3)及び図5(画分D7)に示した。
【0051】
実施例4:画分D3及び画分D7によるIBMX刺激によるメラニン生成抑制効果
B16細胞を、画分D3又は画分D7の各濃度(5.0及び10.0μg/mL)と共に培養した。細胞を、さらに100μMのIBMX(3-isobutyl-1-methylxanthine:Sigma社)の添加、或いは無添加にて72時間、或いは48時間培養した。
各サンプルの蛋白質量を、Bio-Rad protein assay kitにより求め、同量の蛋白質量に揃えた後、490nmの吸光度を、プレートリーダー(Fluostar Galaxy社)により測定した。
細胞抽出中のメラニンの量を測定し、コントロールとの比較で表示した。
また、チロシナーゼ活性をコントロールとの比較で表示した。
【0052】
その結果を、図6及び図7に示した。
図6に、メラニン含有量を示し、図7にチロシナーゼ活性を示した。
いずれの場合において、画分D3又は画分D7は、メラニン生成を抑制し、チロシナーゼ活性も低下させていることが理解される。
特に、IBMXの添加におけるメラニン生成の抑制、並びにチロシナーゼ活性の低下は強いものであることが判明した。
【0053】
一方、B16細胞を、画分D3又は画分D7の各濃度(5.0及び10.0μg/mL)で、IBMX 100μM存在下並びに非存在下、12時間[Microphthalmia transcription factor (MITF)]、または48時間(Tyrosinase)培養した後、RNeasy kitを用いて細胞から全RNAを抽出した。
RNA 2.5μgを、first-strand cDNA synthesis kitを用いて逆転写し、cDNAを合成した。合成したcDNAは、iQ SYBR GREEN Supermixを用いてreal-time RT-PCRに利用し、Opticon Monitor Softwareを用いて解析した。PCR反応は、50℃で2分、90℃で10分の後に、95℃で30秒、63℃で60秒のサイクルを、45サイクルという条件で行った。
特異性は、反応生成物をテンプレート(−)及び逆転写(−)のコントロールと一緒にアガロースゲル電気泳動を行って確認した。それぞれの反応において、GAPDH遺伝子を内部標準として用いた。
【0054】
プライマーは、Primer3 Web site(http://frodo.wi.mit.edu/cgi-bin/primer3/primer3_ www.cgi)により設計した。プライマーの配列を以下に記載する。
【0055】
Tyrosinase 5'-ctcctggcagatcatttgt-3' 5'-ggttttggctttgtcatggt-3'
MITF 5'-ctagagcgcatggactttcc-3' 5'-acaagttcctggctgcagtt-3'
GAPDH 5'-aactttggcattgtggaagg-3' 5'-acacattgggggtaggaaca-3'
【0056】
その結果を、図8及び図9に示した。
図8は、チロシナーゼのmRNA発現誘導に対する効果発現を、図9にMITFのmRNA発現誘導に対する効果発現を示した。
図中に示した結果より、IBMXによるメラニン合成酵素の一つであるチロシナーゼやメラニン産生の転写因子であるMITFの発現誘導を、画分D3又は画分D7は、HSP70を発現誘導し、チロシナーゼやMITFの産生を抑制することでメラニンの産生を抑制していることが示された。
【0057】
実施例5:画分D3及び画分D7によるUV照射による細胞毒性に対する効果
PAM212細胞を、画分D3又は画分D7の各濃度と共に6時間培養し、新鮮な培地で洗浄し、さらに18時間培養した。次いで、細胞を新鮮な培地で洗浄後、各照射量のUVで照射し、24時間培養した。
細胞の生存率は、前記した実施例と同様にMTT法により行った。アポトーシスを起こした細胞(sub-G1中の細胞)は、fluorescence activated cell sortingによりカウントした、値は、平均値±S.D.で表示した。
【0058】
その結果を、図10及び図11に示した。
図10に細胞生存率を示し、図11にアポトーシスを起こした細胞(sub-G1中の細胞)率を示した。
図中に示した結果からも判明するように、画分D3及び画分D7によりHSP70を誘導発現し、UV照射による細胞毒性に対する保護効果が確認された。
【0059】
実施例6:皮膚外用剤
以下の処方により、皮膚外用剤(クリーム剤)を得た。
スクワラン 20重量%
ミツロウ 5
精製ホホバ油 5
グリセリンモノステアレート 2
ソルビタンモノステアレート 2
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート 2
グリセリン 5
ヤバツイ抽出画分D3 1
ヤバツイ抽出画分D7 1
精製水 100とする残部
【0060】
実施例7:美白化粧料
(1)ローション
以下の処方により、ローションを得た。
ソルビット 2重量%
1,3−ブチレングリコール 2
ポリエチレングリコール1000 1
ポリオキシエチレンオレイルエーテル(25EO) 2
エタノール 10
ヤバツイ抽出画分D3 1
ヤバツイ抽出画分D7 1
防腐剤 適量
精製水 100とする残部
【0061】
(2)乳液
以下の処方により、乳液を得た。
スクワラン 1重量%
グリセリン 1
ステアリルアルコール 0.3
ソルビタンモノステアレート 1.5
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート 2
1,3−ブチレングリコール 5
ヤバツイ抽出画分D3 1
ヤバツイ抽出画分D7 1
精製水 100とする残部
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上記載のように、本発明により、サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)の抽出物からなる、新規な作用機序に基づく、効果的なメラニン産生抑制作用剤、すなわち、美白化粧料が提供される。
本発明が提供するメラニン産生抑制作用剤並びに美白化粧料は、HSP70の発現を誘導させ、生成されたHSP70がメラニン産生を制御させ、その結果、メラニンの産生を抑制するものであり、その結果、シミの予防・改善作用のある有用な美白化粧料を提供することができる。
したがって、本発明が提供する美白化粧料は、HSP70の発現誘導により、紫外線による直接的な肌への刺激、或いは心身ストレス、ホルモンバランス等の異常に起因するシミなどの発生に対処する美白化粧料として、極めて特異的なものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミの原因であるメラニン合成の抑制効果を有する熱ショックタンパク質の発現・誘導による、特異的なメラニン産生抑制化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞、組織あるいは固体においては、一般的な生理的温度より3℃以上高い温度に晒されたときに、生体の防御システムの一つとして、特異的タンパク質の発現(産生)が誘導されることが知られている。
このタンパク質は、SDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法)によって測定した場合、分子量範囲10〜110KDaを有する一群のタンパク質として存在しており、熱ショックタンパク質(ヒートショックプロテイン:heat shock proteins、以下、「HSP」と称する場合もある)と呼ばれている。
【0003】
HSPは、その分子量の相違により幾つかのファミリーが形成されており、例えば、HSP90ファミリー(分子量:90kDa以上110kDa以下)、HSP70ファミリー(分子量:70kDa以上80kDa未満)、HSP60ファミリー(分子量:60kDa以上70kDa未満)、及び低分子量HSPファミリー(分子量:60kDa未満)のように分類されている。
【0004】
HSPの機能は多岐にわたっており、例えば、HSP70及びHSP60ファミリーは、変性タンパク質に結合して、天然のフォールディング(高次構造・折り畳み構造)に巻き戻す作用や、第三のタンパク質や核酸との会合、細胞内での局在化や膜透過への関与など、いわゆる分子シャペロンと呼ばれる機能を担っていることが明らかにされている(非特許文献1及び2)。
なお、分子シャペロンとは、ポリペプチド鎖の合成に引き続くフォールディングや酵素の不可逆的な熱変性の抑制に関与している一連の蛋白質をさす。
【0005】
このHSP発現の誘導(産生)を利用した療法の一つとして、癌温熱免疫療法がある。すなわち、全身を加温することによりHSPの生成を誘導し、全身の免疫機能を活発にするのと同時に、がん細胞と正常細胞の識別能力を向上させ、副作用が無く、癌細胞のみを死滅させる治療法である。
【0006】
ところで、このHSPは、高温ばかりではなく、外的傷害、放射線、紫外線などの外界からのストレスに晒された場合にも、生体防御システムとして、その発現(産生)が誘導される。
すなわち、高温、紫外線などの生体に対するストレスは、細胞のタンパク質を変性させ、不溶性沈殿を形成して細胞にダメージを与える。したがって、かかる細胞へのダメージを防御する目的で、HSPの生成が誘導されることとなる。
【0007】
かかる観点から、水生プランクトンであるアルテミアの孵化直前の耐久卵から水抽出した活性エキス(アルテミアエキス)成分が、ヒト皮膚細胞においてHSP70の産生を誘発することが見出され、かかる作用を利用した抗皮膚ストレス(ストレス防御)用化粧料が提案されている(特許文献1)。
しかしながら、アルテミアエキスは、化粧料への配合条件として40℃以下での配合が望ましく、また、タンパク分解酵素との配合禁忌があるなど、その使用に種々の制約を受けている。
【0008】
人の皮膚は、紫外線を吸収すると、身体を紫外線から守るために、皮膚基底層にあるメラノサイトにおいてチロシナーゼという酵素が紫外線を浴びて活発化され、メラニンが生成される。すなわち、メラニンは、皮膚に日光が当たることで生成される色素であり、紫外線を吸収したり散乱したりするため、強い紫外線から細胞や皮膚を守る働きを有している。
その一方で、皮膚のシミの発生は、このメラニン色素の部分的な異常増加が原因であると考えられている。
【0009】
したがって、皮膚のシミ等の発生を予防する美白作用を発揮させるためには、紫外線による皮膚ストレスを防御するべく、HSPの発現を効果的に誘導させてやればよいが、これまでかかる考え方に立脚した美白化粧品は登場してきていない。
本発明者は、HSP誘導を発現させる植物成分の検索を検討してきており、これまでに幾つかの生薬成分の抽出物を含有するヒートショックタンパク質誘導剤が提案されているが、美白化粧への応用は一切記載されていない(特許文献2)。
【0010】
更に最近、本発明者は、HSPの発現誘導剤によるHSPの一種であるHSP70の特異的な発現・誘導により、生成したHSP70がチロシナーゼ及び小眼球症関連転写因子(MITF:microphthalmia転写因子)を制御させ、メラニン産生を抑制すること確認し、かかるHSPの発現誘導剤を含有する皮膚外用剤、及び美白化粧料を提供している(特許文献3)。
【0011】
したがって、ヒートショックプロテイン(HSP)発現・誘導は、メラニン産生を抑制するものであり、効果的なHSP70発現誘導作用を有する成分は、極めて強力なメラニン産生抑制化粧料、すなわち、美白化粧料となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−238297号公報
【特許文献2】特開2008−127296号公報
【特許文献3】特開2010−083804号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Hendrick, J. P. & Hartl, F. -U., Ann. Rev. Biochem., 62, 349-384 (1993)
【非特許文献2】Georgopoulos, C. & Welch. W. J., Ann. Rev. Cell Biol., 9, 601-634 (1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者は、更に検討を進め、各種植物成分(生薬)について、HSP70誘導を発現する安全性の高い成分の検索を行ってきていたが、その検討の中で、植物成分としてサワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部の乾燥生薬(ヤバツイ)の抽出物が、HSP誘導の発現を強化させることを見出した。
特に、ヤバツイのエタノール抽出エキスを、各種カラムクロマトグラフィー、或いは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等で分画して得た成分(画分)に、極めて強いHSP70の発現・誘導が認められることを確認し、その結果、本発明を完成させるに至った。
したがって、本発明は、生薬であるヤバツイの抽出物を含有することを特徴とするヒートショックプロテイン(HSP)発現・誘導作用に基づくメラニン産生抑制化粧料、すなわち美白用化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる課題を解決するための本発明は、その基本的態様は、サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)の抽出物を含有することを特徴とするヒートショックプロテイン(HSP)発現誘導作用に基づくメラニン産生抑制化粧料である。
【0016】
より具体的な本発明は、サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)の抽出物が、下記の操作により抽出・分画処理して得られた画分(画分A〜C、D1〜D12)のいずれかからなるものであるメラニン産生抑制化粧料である。
(a)サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)をエタノール抽出して得た抽出物を、ヘキサンにより脱脂処理を行った後、90%メタノール溶液に溶解して得た90%メタノール溶液画分(画分A);
(b)上記90%メタノール溶液画分(画分A)を、MCl・GEL CHP−20Pカラムクロマトグラフィーに付し、順次、水溶出−50%メタノール溶出−メタノール溶出−アセトン溶出を行い得られたメタノール溶出画分(画分B);
(c)上記メタノール溶出画分(画分B)を、更にODSカラムクロマトグラフィーに付し、順次50%メタノール溶液、75%メタノール溶液、及びメタノール溶液で溶出を行い得た50%メタノール溶出画分(画分C);及び
(d)上記50%メタノール溶出画分(画分C)をHPLC(カラム:AR−II ODS)に付し、40%メタノールにて溶出して得た画分(画分D1〜D12)。
【0017】
より好ましい本発明は、サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)の抽出物が、上記画分(画分A〜C、D1〜D12)のうち、画分D3及び/又は画分D7であることを特徴とするメラニン産生抑制化粧料である。
【0018】
最も具体的には、本発明は美白用化粧料である上記に記載のメラニン産生抑制化粧料である。
【0019】
かくして調製されたヤバツイの抽出物は、後記する試験例から明らかなように、HSP70の発現・誘導により、生成したHSP70がチロシナーゼ、及び小眼球症関連転写因子(MITF:microphthalmia転写因子)を制御させ、メラニン産生を抑制することにより、美白効果が発揮されるといった、極めて特異的な化粧料である。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)の抽出物からなる、新規な作用機序に基づく、効果的なメラニン産生抑制作用剤、すなわち、美白化粧料が提供される。
本発明が提供するメラニン産生抑制作用剤並びに美白化粧料は、HSP70の発現を誘導させ、生成されたHSP70がメラニン産生に関与するチロシナーゼや小眼球症関連転写因子(MITF:microphthalmia転写因子)を制御させ、その結果、メラニンの産生を抑制するものであり、その結果、シミの予防・改善作用のある有用な美白化粧料を提供することができる。
【0021】
特に本発明が提供する美白化粧料は、HSP70の発現誘導により、紫外線による直接的な肌への刺激、或いは心身ストレス、ホルモンバランス等の異常に起因するシミなどの発生に対処する、これまで何等検討されていなかった新たな作用機序に基づく美白化粧料を提供する点で、極めて特異的なものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1で行った、ヤバツイの抽出物について、その分画操作の流れを示したフロー図である。
【図2】実施例3における、ヤバツイの抽出画分D1〜D12についての、HSP70の発現誘導の強度を示した図である。
【図3】実施例3における、ヤバツイの抽出画分D1〜D12についての、細胞生存率を示した図である。
【図4】実施例3における、発現誘導強度が強かった画分D3について、HSP70発現及び細胞生存率と、その濃度との関係に示した図である。
【図5】実施例3における、発現誘導強度が強かった画分D7について、HSP70発現及び細胞生存率と、その濃度との関係に示した図である。
【0023】
【図6】実施例4における、本発明の画分D3及びD7によるIBMX刺激によるメラニン生成抑制効果を示す、メラニン含有量を示した図である。
【図7】実施例4における、本発明の画分D3及びD7によるIBMX刺激によるメラニン生成抑制効果を示す、チロシナーゼ活性を示した図である。
【図8】実施例4における、本発明の画分D3及びD7のIBMXによるメラニン合成酵素の一つであるチロシナーゼのmRNA発現誘導に対する効果発現を示した結果である。
【図9】実施例4における、本発明の画分D3及びD7のMITFのmRNA発現誘導に対する効果発現を示した図である。
【図10】実施例5における、本発明の画分D3及びD7によるUV照射による細胞毒性に対する効果である、細胞生存率を示した図である。
【図11】実施例5における、本発明の画分D3及びD7によるUV照射による細胞毒性に対する効果である、アポトーシスを起こした細胞(sub-G1中の細胞)率を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明で使用されるサワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)は、キク科ヒヨドリバナ属植物に属し、日本全国、東南アジアに生育する多年草である。この地上部乾燥生薬は、ヤバツイ(野馬追)と称され、中国においては解熱・解毒薬として使用されている生薬成分である。
【0025】
本発明は、上記したように、その基本は、HSP70の発現の誘導によるメラニン産生抑制作用剤であり、具体的には、ヤバツイの抽出物を含有することを特徴とするヒートショックプロテイン(HSP)発現誘導、特にHSP70の生成により、チロシナーゼ及び小眼球症関連転写因子(MITF:microphthalmia転写因子)を制御させ、メラニン産生を抑制することを特徴とするメラニン産生抑制化粧料、特に美白化粧料である。
なお、HSP70の発現の誘導によるメラニン産生抑制作用のメカニズムについては、先に本発明者が出願している特許文献3に詳細に検討しており、したがって、その内容は本願明細書の一部として取り込まれるものである。
【0026】
本願発明における、有効成分となるヤバツイの抽出物は、具体的には以下のようにして調製することができる。
すなわち、サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(以下、特に断らない限り、「ヤバツイ」と称する。)の抽出物をエタノール抽出してエタノール抽出物を得る。
なお、ヤバツイは、生薬として市販されており、例えば、丸善製薬(株)から入手することができる。
抽出にあたっては、ヤバツイ100gに対して、エタノールを0.5〜2L程度加え、加熱還流条件下で抽出を行うのがよい。抽出時間は一概に限定できないが、1〜5時間程度、好ましくは2時間程度でよい。また、抽出温度は、70℃〜エタノールの沸点付近の温度で行うのがよい。抽出操作を完了した段階で、冷却後綿栓濾過を行い、エタノール抽出液を得る。
この抽出操作を2〜5回、好ましくは3〜4回程度繰り返し、併せたエタノール抽出溶液を減圧下に濃縮し、残渣として、ヤバツイの粗エタノール抽出物を得る。
【0027】
本発明で使用するヤバツイの抽出物は、上記で得たヤバツイの粗エタノール抽出物を分画操作により分画して得た抽出画分であり、具体的には以下のようにして行うことができる。
最初に、ヤバツイの粗エタノール抽出物を、ヘキサンにより脱脂処理を行う。具体的には、粗エタノール抽出物を90%メタノール溶液に懸濁させ、分液漏斗に移して少量のヘキサンにより抽出することにより脱脂処理を行う。
脱脂処理した90%メタノール層を減圧乾固し、90%メタノール溶液画分(画分A)が得られる。
【0028】
次いで、上記で得られた90%メタノール溶液画分(画分A)を、ポリスチレンゲルカラムクロマトグラフィー、具体的には、MCl・GEL CHP−20P(和光純薬工業)カラムクロマトグラフィーに付し、順次、水、50%メタノール、メタノール溶液の段階的グラジエント法、及びアセトン溶液にて溶出を行い、各溶出画分を得る。
かかる操作において得られたメタノール溶出画分(画分B)に、HSP発現誘導が強く認められた。
【0029】
HSP発現誘導が強く観察されたメタノール溶出画分(画分B)を、更にODSカラムクロマトグラフィーに付し、順次50%メタノール溶液、75%メタノール溶液、及びメタノール溶液による段階的グラジエント法で溶出を行い、それぞれの溶出画分を得た。
かかる操作において得られた50%メタノール溶出画分(画分C)に、HSP発現誘導が強く認められた。
【0030】
次いで、HSP発現誘導が強く観察された50%メタノール溶出画分(画分C)を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、カラム:AR−II ODS)に付し、40%メタノールにて溶出して全12個の溶出画分(画分D1〜D12)を得た。
かくして得られた溶出画分D1〜D12のうち、特に、画分D3並びに画分D7に、極めて強いHSP発現誘導作用があることが判明した。
【0031】
この画分D3及びD7について、HSP発現誘導作用物質の特定を検討したところ、画分D3には、セスキテルペンラクトンであるユーパリノライドA(Eupalinolide A)、画分D7にはユーパリノライドB(Eupalinolide B)が主成分として含有されていることが判明した。
【0032】
本発明が提供するメラニン産生抑制化粧料は、ヤバツイの抽出物を含有するものであるが、特に、上記の操作により抽出・分画処理して得られた画分(画分A〜C、D1〜D12)のいずれかからなるものを含有するメラニン産生抑制化粧料であり、より好ましくは、上記画分(画分A〜C、D1〜D12)のうち、画分D3及び/又は画分D7を含有するメラニン産生抑制化粧料である。
【0033】
本発明が提供するメラニン産生抑制化粧料は、ヒートショックプロテイン(HSP)のなかでも、特に、HSP70の発現誘導によるメラニン産生抑制作用に基づく化粧料である。
すなわち、HSP70は、メラニン産生に関与するチロシナーゼ及び小眼球症関連転写因子(MITF:microphthalmia転写因子)を制御させるものであり、その結果、メラニンの産生が抑制されるものである。
特に、MITFは、メラニン産生に必須であるチロシナーゼ、TRP−1及び2(チロシナーゼ関連タンパク−1及び2)の発現を制御する転写因子であり、このMITFの制御は、メラニン産生をコントロールすることとなり、その結果、美白作用が効果的に発現される。
【0034】
上記したように、本発明が提供するメラニン産生抑制化粧料は、ヤバツイの抽出物、特に、上記の操作により抽出・分画処理して得られた画分(画分A〜C、D1〜D12)のいずれかからなるものを含有するメラニン産生抑制化粧料であり、より好ましくは、上記画分(画分A〜C、D1〜D12)のうち、画分D3及び/又は画分D7を含有するメラニン産生抑制化粧料である。
かかる化粧料としては、具体的には、化粧水、乳液、クリーム、美容液、パック等の皮膚化粧料、メイクアップベースローション、メイクアップベースクリーム等の下地化粧料、乳液剤、油性、固形状等の各剤型のファンデーション、アイカラー、チークカラー等のメイクアップ化粧料、ハンドクリーム、レッグクリーム、ネッククリーム、ボディローション等の身体用化粧料等を挙げることができる。
【0035】
本発明が提供する化粧料においては、ヤバツイの抽出物を含有するものであるが、ヤバツイの抽出物をそのまま、或いは、各種化粧料成分として使用されている他の成分と共に、所望の化粧品の形態で使用することができる。
本発明は、HSP発現誘導に基づくメラニン産生抑制化粧料であり、特に美白用化粧料として極めて効果的なものであるが、他の美白成分を併用することにより、相乗的に美白効果が得られることが判明した。
【0036】
この場合において、ヤバツイの抽出物の含有量は、含有させる抽出・分画処理して得られた画分(画分A〜C、D1〜D12)のHSP70発現誘導作用の強さにより一概に限定できず、また、シミの予防・改善の目的、用いる人の性別、体重、年齢、剤型、シミの種類や程度、使用部位、使用回数などの種々の条件により一概に限定できない。
例えば、皮膚に塗布する場合には、0.1μg〜10mg(活性成分乾燥重量)/kg/日で、一日1回から数回に分けて適用することができるが、使用量はこの範囲に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
以下に本発明を、ヤバツイの抽出物の調製の実際、その抽出物のHSP70の発現の誘導を説明しながら、より詳細に説明していく。
【0038】
なお、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0039】
実施例1:ヤバツイの溶媒抽出物の調製(画分A〜C、D1〜D12の調製)
丸善製薬(株)から入手したヤバツイ[サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬]の10.1gを500mLのナス型フラスコに入れ、100mLのエタノールを加え、70℃の水浴上で2時間還流抽出した。冷却後、綿栓濾過してエタノール抽出液を得た。
この還流抽出操作を3回繰り返した後、得られたエタノール抽出液を合わせて減圧濃縮し、エタノール抽出物(499mg)を得た。
このエタノール抽出物を100mLの90%メタノールに懸濁させ、分液漏斗に移して30mLのヘキサンにて3回処理を行い、脱脂した。90%メタノール溶液層をエバポレーターで減圧乾固し、310mgの90%メタノール溶液画分(画分A)を得た。
この段階で得られた、ヘキサン溶液溶解画分と、90%メタノール溶液画分(画分A)について、免疫ブロット法により活性を検討したところ、90%メタノール溶液画分(画分A)が、活性が強いものであった。
【0040】
この活性の強かった90%メタノール溶出画分を、MCl・GEL CHP−20Pカラムクロマトグラフィー(φ17mm×100mm:和光純薬工業)の段階的グラジエント法に付し、順次、水(80mL)、50%メタノール(100mL)、メタノール(100mL)、及びアセトン(100mL)溶液にて溶出を行い、各溶出画分を得た。
その結果、水溶出画分(119mg)、50%メタノール溶出画分(49mg)、メタノール溶出画分(画分B)(125mg)及びアセトン溶出画分(20mg)を得た。
得られた四つの画分のうち、メタノール溶出画分(画分B)(125mg)が最も活性が強いものであった。
【0041】
次いで、活性の強かったメタノール溶出画分(画分B)を、Chromatorex ODSカラムロマトグラフィー(φ15mm×150mm)に付し、水−メタノール(1:0→0:1、v/v)の段階的グラジエント法により溶出し、これにより、順次50%メタノール溶液、75%メタノール溶液、及びメタノール溶液で溶出を行い得た50%メタノール溶出画分(画分C)(49mg)を得た。
得られた三つの画分のうち、50%メタノール溶出画分(画分C)が最も活性が強いものであった。
【0042】
最後に、得られた50%メタノール溶出画分(画分C)を高速液体クロマトグラフィー(HPLC,Cosmosil AR−II ODSカラム:φ20mm×350mm)に付し、40%メタノールにて分取し、12個の溶出画分(画分D1〜D12)を得た。
これらの溶出画分D1〜D12について活性を検討したところ、画分D3及び画分D7が最も活性が強いものであった。
【0043】
以上の分画処理の流れ(フロー)を、図1に示した。
【0044】
実施例2:細胞培養法におけるHSP70の効果の確認
<細胞培養法及びHSP過剰発現株の作成>
マウスメラノーマ由来のB16細胞(理研バイオリソースセンター)を、DMEM培地(10%の牛胎児血清、100U/mLのペニシリン、100U/mLのストレプトマイシン)で、37℃/5%CO2雰囲気下で培養した。
HSP70安定発現株は、次の方法で作成した。
リポフェクタミン(TM2000:Invitrogen社)を用いて、pcDNA3.1/hHSP70(山口大学、A.Nakai博士より供与)、又はpcDNA3.1をB16細胞に導入したのち、200μg/mLのG418(Sigma社)を用いて安定発現株を選択した。
その発現を、イムノブロット法により調べ、HSP70安定発現株を得た。
【0045】
<イムノブロット法>
ヒートショックを1時間行い、更に6時間培養した後、細胞を遠心して回収し、PBS(リン酸緩衝生理食塩水:137mM NaCl, 2.7mM KCl, 1.5mM KH2PO4, 4.3mM NaHPO4)で洗った後、RIPA緩衝液[50mM Tris-HCl (pH 7.2), 150mM NaCl, 1% NP-40, 1% Sodium, deoxycolate, 0.05% SDS]に溶解し、遠心した後の上清を全細胞抽出液として実験に用いた。
各サンプルの蛋白質量を、Bio-Rad protein assay kit(Bradford法:Bio Rad社)により求め、同量の蛋白質量に揃えた後、実験に使用した。
サンプルはポリアクリルアミドを用いてSDS−PAGEを行い、PVDF膜にトランスファーした。その後、1次抗体 (against HSP70(R&D system社)、 1:1000 dilution)、及び2次抗体で免疫ブロットし、SuperSignal WestDura(化学発光法:Pierce社)により目的的のバンドをLAS-3000 mini を用いて検出した。
また、HSP70の発現を2倍にする最小有効濃度(MEC2.0(μg/ml))として、表示した。
【0046】
実施例3:HSP70発現の確認
培養液を満たした培養皿に、ヒト線維芽細胞株(NBIRGB:理化学研究所、バイオリソースセンター)を1×102個/mLの細胞懸濁となるように播種し、5%炭酸ガス雰囲気下に37℃にて24時間培養を行った。
この培養液に、上記実施例1で調製したヤバツイの溶媒抽出物(画分A〜C、D1〜D12)を上記したイムノブロット法に従ってHSP70の発現誘導を検討した。
あわせて、その時の細胞生存率(Safe Induction(SI)Index)(%)も検討した。
その結果を下記表1に示した。
なお、表中には、実施例1で調製したヤバツイのエタノール抽出物、並びにヤバツイの溶媒抽出物として画分A〜C、及びD3、D7の結果を示した。
【0047】
【表1】
【0048】
表中の結果より明らかなように、ヤバツイの抽出画分A〜Cには、極めて強いHSP70の発現誘導作用があることが判明する。
また、図2から判るように、画分D1〜D12の中でも画分D3並びにD7には、更に強いHSP70発現誘導作用があることが判明する。
また、ヤバツイ自体はすでに中国において解熱・解毒薬として使用されている生薬であることから、ヤバツイの抽出画分には細胞毒性もなく、安全なものであることが確認された。
【0049】
既に上記で説明したように、HSPの発現誘導、特にHSP70の発現誘導は、メラニン産生を抑制するものであり、したがって、本発明が提供するヤバツイの抽出物からなるHSP発現誘導作用を有する成分は、極めて強力なメラニン産生抑制化粧料、すなわち、美白化粧料となる。
【0050】
なお、上記で得られた画分D1〜D12についての、HSP70の発現誘導の強度、並びに細胞生存率を図2及び図3に示し、さらに、その画分の中で特に発現誘導強度が強かった画分D3及びD7の、HSP70発現、細胞生存率と濃度との関係を図4(画分D3)及び図5(画分D7)に示した。
【0051】
実施例4:画分D3及び画分D7によるIBMX刺激によるメラニン生成抑制効果
B16細胞を、画分D3又は画分D7の各濃度(5.0及び10.0μg/mL)と共に培養した。細胞を、さらに100μMのIBMX(3-isobutyl-1-methylxanthine:Sigma社)の添加、或いは無添加にて72時間、或いは48時間培養した。
各サンプルの蛋白質量を、Bio-Rad protein assay kitにより求め、同量の蛋白質量に揃えた後、490nmの吸光度を、プレートリーダー(Fluostar Galaxy社)により測定した。
細胞抽出中のメラニンの量を測定し、コントロールとの比較で表示した。
また、チロシナーゼ活性をコントロールとの比較で表示した。
【0052】
その結果を、図6及び図7に示した。
図6に、メラニン含有量を示し、図7にチロシナーゼ活性を示した。
いずれの場合において、画分D3又は画分D7は、メラニン生成を抑制し、チロシナーゼ活性も低下させていることが理解される。
特に、IBMXの添加におけるメラニン生成の抑制、並びにチロシナーゼ活性の低下は強いものであることが判明した。
【0053】
一方、B16細胞を、画分D3又は画分D7の各濃度(5.0及び10.0μg/mL)で、IBMX 100μM存在下並びに非存在下、12時間[Microphthalmia transcription factor (MITF)]、または48時間(Tyrosinase)培養した後、RNeasy kitを用いて細胞から全RNAを抽出した。
RNA 2.5μgを、first-strand cDNA synthesis kitを用いて逆転写し、cDNAを合成した。合成したcDNAは、iQ SYBR GREEN Supermixを用いてreal-time RT-PCRに利用し、Opticon Monitor Softwareを用いて解析した。PCR反応は、50℃で2分、90℃で10分の後に、95℃で30秒、63℃で60秒のサイクルを、45サイクルという条件で行った。
特異性は、反応生成物をテンプレート(−)及び逆転写(−)のコントロールと一緒にアガロースゲル電気泳動を行って確認した。それぞれの反応において、GAPDH遺伝子を内部標準として用いた。
【0054】
プライマーは、Primer3 Web site(http://frodo.wi.mit.edu/cgi-bin/primer3/primer3_ www.cgi)により設計した。プライマーの配列を以下に記載する。
【0055】
Tyrosinase 5'-ctcctggcagatcatttgt-3' 5'-ggttttggctttgtcatggt-3'
MITF 5'-ctagagcgcatggactttcc-3' 5'-acaagttcctggctgcagtt-3'
GAPDH 5'-aactttggcattgtggaagg-3' 5'-acacattgggggtaggaaca-3'
【0056】
その結果を、図8及び図9に示した。
図8は、チロシナーゼのmRNA発現誘導に対する効果発現を、図9にMITFのmRNA発現誘導に対する効果発現を示した。
図中に示した結果より、IBMXによるメラニン合成酵素の一つであるチロシナーゼやメラニン産生の転写因子であるMITFの発現誘導を、画分D3又は画分D7は、HSP70を発現誘導し、チロシナーゼやMITFの産生を抑制することでメラニンの産生を抑制していることが示された。
【0057】
実施例5:画分D3及び画分D7によるUV照射による細胞毒性に対する効果
PAM212細胞を、画分D3又は画分D7の各濃度と共に6時間培養し、新鮮な培地で洗浄し、さらに18時間培養した。次いで、細胞を新鮮な培地で洗浄後、各照射量のUVで照射し、24時間培養した。
細胞の生存率は、前記した実施例と同様にMTT法により行った。アポトーシスを起こした細胞(sub-G1中の細胞)は、fluorescence activated cell sortingによりカウントした、値は、平均値±S.D.で表示した。
【0058】
その結果を、図10及び図11に示した。
図10に細胞生存率を示し、図11にアポトーシスを起こした細胞(sub-G1中の細胞)率を示した。
図中に示した結果からも判明するように、画分D3及び画分D7によりHSP70を誘導発現し、UV照射による細胞毒性に対する保護効果が確認された。
【0059】
実施例6:皮膚外用剤
以下の処方により、皮膚外用剤(クリーム剤)を得た。
スクワラン 20重量%
ミツロウ 5
精製ホホバ油 5
グリセリンモノステアレート 2
ソルビタンモノステアレート 2
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート 2
グリセリン 5
ヤバツイ抽出画分D3 1
ヤバツイ抽出画分D7 1
精製水 100とする残部
【0060】
実施例7:美白化粧料
(1)ローション
以下の処方により、ローションを得た。
ソルビット 2重量%
1,3−ブチレングリコール 2
ポリエチレングリコール1000 1
ポリオキシエチレンオレイルエーテル(25EO) 2
エタノール 10
ヤバツイ抽出画分D3 1
ヤバツイ抽出画分D7 1
防腐剤 適量
精製水 100とする残部
【0061】
(2)乳液
以下の処方により、乳液を得た。
スクワラン 1重量%
グリセリン 1
ステアリルアルコール 0.3
ソルビタンモノステアレート 1.5
ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート 2
1,3−ブチレングリコール 5
ヤバツイ抽出画分D3 1
ヤバツイ抽出画分D7 1
精製水 100とする残部
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上記載のように、本発明により、サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)の抽出物からなる、新規な作用機序に基づく、効果的なメラニン産生抑制作用剤、すなわち、美白化粧料が提供される。
本発明が提供するメラニン産生抑制作用剤並びに美白化粧料は、HSP70の発現を誘導させ、生成されたHSP70がメラニン産生を制御させ、その結果、メラニンの産生を抑制するものであり、その結果、シミの予防・改善作用のある有用な美白化粧料を提供することができる。
したがって、本発明が提供する美白化粧料は、HSP70の発現誘導により、紫外線による直接的な肌への刺激、或いは心身ストレス、ホルモンバランス等の異常に起因するシミなどの発生に対処する美白化粧料として、極めて特異的なものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)の抽出物を含有することを特徴とするヒートショックプロテイン(HSP)発現誘導作用に基づくメラニン産生抑制化粧料。
【請求項2】
サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)の抽出物が、下記の操作により抽出・分画処理して得られた画分(画分A〜C、D1〜D12)のいずれかからなるものである請求項1に記載のメラニン産生抑制化粧料。
(a)サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)をエタノール抽出して得た抽出物を、ヘキサンにより脱脂処理を行った後、90%メタノール溶液に溶解して得た90%メタノール溶液画分(画分A);
(b)上記90%メタノール溶液画分(画分A)を、MCl・GEL CHP−20Pカラムクロマトグラフィーに付し、順次、水溶出−50%メタノール溶出−メタノール溶出−アセトン溶出を行い得られたメタノール溶出画分(画分B);
(c)上記メタノール溶出画分(画分B)を、更にODSカラムクロマトグラフィーに付し、順次50%メタノール溶液、75%メタノール溶液、及びメタノール溶液で溶出を行い得た50%メタノール溶出画分(画分C);及び
(d)上記50%メタノール溶出画分(画分C)をHPLC(カラム:AR−II ODS)に付し、40%メタノールにて溶出して得た画分(画分D1〜D12)。
【請求項3】
サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)の抽出物が、上記画分(画分A〜C、D1〜D12)のうち、画分D3及び/又は画分D7であることを特徴とする請求項2に記載のメラニン産生抑制化粧料。
【請求項4】
美白用化粧料である請求項1〜3のいずれかに記載のメラニン産生抑制化粧料。
【請求項1】
サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)の抽出物を含有することを特徴とするヒートショックプロテイン(HSP)発現誘導作用に基づくメラニン産生抑制化粧料。
【請求項2】
サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)の抽出物が、下記の操作により抽出・分画処理して得られた画分(画分A〜C、D1〜D12)のいずれかからなるものである請求項1に記載のメラニン産生抑制化粧料。
(a)サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)をエタノール抽出して得た抽出物を、ヘキサンにより脱脂処理を行った後、90%メタノール溶液に溶解して得た90%メタノール溶液画分(画分A);
(b)上記90%メタノール溶液画分(画分A)を、MCl・GEL CHP−20Pカラムクロマトグラフィーに付し、順次、水溶出−50%メタノール溶出−メタノール溶出−アセトン溶出を行い得られたメタノール溶出画分(画分B);
(c)上記メタノール溶出画分(画分B)を、更にODSカラムクロマトグラフィーに付し、順次50%メタノール溶液、75%メタノール溶液、及びメタノール溶液で溶出を行い得た50%メタノール溶出画分(画分C);及び
(d)上記50%メタノール溶出画分(画分C)をHPLC(カラム:AR−II ODS)に付し、40%メタノールにて溶出して得た画分(画分D1〜D12)。
【請求項3】
サワヒヨドリ(Eupatorium lindleyanum)の地上部乾燥生薬(ヤバツイ)の抽出物が、上記画分(画分A〜C、D1〜D12)のうち、画分D3及び/又は画分D7であることを特徴とする請求項2に記載のメラニン産生抑制化粧料。
【請求項4】
美白用化粧料である請求項1〜3のいずれかに記載のメラニン産生抑制化粧料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−71901(P2013−71901A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210756(P2011−210756)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(399088289)株式会社再春館製薬所 (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(399088289)株式会社再春館製薬所 (6)
【Fターム(参考)】
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