説明

ヨウ素担持ポリイミド

【課題】優れた加工性を有し、ヨウ素含有率が制御可能なヨウ素担持ポリイミド及び抗菌性ポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】下記式(1)又は(2)で表わされる3級アミン化合物を、テトラカルボン酸二無水物と反応させて得られるポリイミドに、ヨウ素及び/又はヨウ化物イオンを担持させたヨウ素担持ポリイミドを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有するポリイミドにヨウ素及び/又はヨウ化物イオンを担持させた、ヨウ素担持ポリイミドに関する。
【背景技術】
【0002】
ヨウ素は広範囲に、且つ古くから利用され、例えば、殺菌剤や抗菌剤として医療現場で使用されている。近年では光学的性質を利用して、偏光膜として液晶テレビに多用されている。また、色素増感太陽電池では電解質としての利用が検討されている。ヨウ素には昇華性があるため、単独では利用し難いが、これらはヨウ素を基材に担持させ、昇華性を抑えてヨウ素の性質である殺菌性や光学的特性、電気的特性を発揮させているものである。
【0003】
ヨウ素の殺菌剤や抗菌剤としての利用はポビドンヨードに代表される。これはポリビニルピロリドンとヨウ素の錯体がアルコール−水の溶液に溶解したものであり、ウガイ薬や皮膚の消毒薬としてそのまま又は水で希釈して用いるには非常に利便性に優れるものである(例えば、特許文献1参照)。このように、ポリビニルピロリドンは、水溶性であるが、反面、ポリビニルピロリドンは機械的強度が弱く、脆い為、ヨウ素を担持したポリビニルピロリドンもまた単体でフィルムとして加工・使用することは困難である。例えば、液晶テレビに使用されている偏光膜もポリビニルアルコールにヨウ素を担持させたものであるが、偏光膜単体では強度が弱く、両面あるいは片面をアセテートフィルムで保護して使用されている。
【0004】
ポリオレフィンフィルムをガンマ線で改質し、N−アルキル−N−ビニルアルキルアミドをグラフト重合した後、ヨウ素を担持させる、フィルム状のヨウ素担持体の製造方法が報告されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この方法は、フィルムの改質のために大掛かりな装置が必要であり、工程数も多いため、必ずしも一般的な方法ではない。
【0005】
他に、固体の状態で、ヨウ素を担持させる方法として、アニオン性イオン交換樹脂にヨウ素を吸着させて使用することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、これは球状のイオン交換樹脂という限られた形態でのみ利用可能なものであり、イオン交換樹脂単体でフィルム状には加工されていない。
【0006】
以上のように、種々提案されているが、簡便な方法で得られ、且つ加工性・機械的強度の優れたヨウ素担持体は得られていないのが現状である。一方、ポリイミドは通常のポリマーと比較して高い機械的強度や耐熱性を有していることが知られており、その優れた電気特性のため、電子回路の絶縁材料として広く用いられている。また、ポリイミドは加工性に優れ、ゴム状、フィルム状、溶媒に溶解した状態等、様々な形態で提供することが可能である。しかしながら、ポリイミドとヨウ素を組み合わせたヨウ素担持ポリイミドは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭47−36878号
【特許文献2】特許第3885099号
【特許文献3】特開昭55−34140号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ヨウ素及び/又はヨウ化物イオンを担持した、新規なヨウ素担持ポリイミドを提供するものである。該ヨウ素担持ポリイミドは、簡便な方法で得られ、且つ単体で自立したフィルム状として提供する事が可能である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、3級アミン構造を有するジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られるポリイミドが、ヨウ素及び/又はヨウ化物イオンを担持することを見出し、本発明を完成させた。得られたヨウ素担持ポリイミドは溶媒可溶性であり、無定形のゴム状あるいはフレキシブル性のあるフィルム等への加工性に優れ、且つ抗菌性も有する。本発明は、以下の通りである。
【0010】
[1]3級アミン構造を有するジアミン化合物を含むジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られるポリイミドであって、該ポリイミドにヨウ素及び/又はヨウ化物イオンが担持されていることを特徴とするヨウ素担持ポリイミド。
[2]前記3級アミン構造を有するジアミン化合物が、下記式(1)又は下記式(2)で表わされる化合物であることを特徴とする、[1]記載のヨウ素担持ポリイミド。
【0011】
【化1】

【0012】
[3]更に、前記ジアミン成分として一般式(III)で表される化合物を少なくとも一種以上含有することを特徴とする、[1]又は[2]記載のヨウ素担持ポリイミド。
【0013】
【化2】

【0014】
(式中R、R、R、及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を表し、nは、1〜20の整数を表す)
[4]前記テトラカルボン酸二無水物が、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物及び3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物からなる群より選ばれる一種又は二種以上の化合物である、[1]〜[3]記載のヨウ素担持ポリイミド。
[5][1]〜[4]のいずれか記載のヨウ素担持ポリイミドから得られる、ヨウ素担持ポリイミドフィルム。
[6][1]〜[4]のいずれか記載のヨウ素担持ポリイミドを含む、抗菌性ポリイミド組成物。
[7][5]記載のヨウ素担持ポリイミドフィルムを含む、抗菌性フィルム。
【発明の効果】
【0015】
本発明で得られるヨウ素担持ポリイミドは、優れた加工性を有するため、ゴム状からフレキシブル性のあるフィルム状、溶媒に溶解した状態等、用途に応じて使い分ける事ができ、ポリイミドの組成を変更することでヨウ素含有率も制御する事が可能となる。また、得られたヨウ素担持ポリイミドは、抗菌性を有するため抗菌剤や殺菌剤等に利用可能である。さらに、ヨウ素及び/又はヨウ化物イオンを除放する性質を有するため、電解質の保持材料としての使用が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態について、場合により例を用いて詳細に説明するが、これらは本発明の実施形態の一例であり、これらに限定されるものではない。
【0017】
<ポリイミド>
本発明において、ヨウ素及び/又はヨウ化物イオンを担持させるポリイミドは、3級アミン構造を有するジアミン化合物を含むジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られるポリイミドである。
【0018】
本発明のポリイミドを構成する「3級アミン構造を有するジアミン化合物を含むジアミン成分」とは、「3級アミン構造を有するジアミン化合物」単独、又は「3級アミン構造を有するジアミン化合物」とその他の任意のジアミン化合物との混合物を意味する。
【0019】
「3級アミン構造を有するジアミン化合物」とは、式:HN−R−NH(式中、Rは、少なくとも1個の3級アミン構造を有する2価の有機基である)で表わされるジアミン化合物であればよい。具体的には、下記一般式(I)又は(II):
【0020】
【化3】

【0021】
(式中、S及びSは、それぞれ独立して、単結合、炭素数1〜6のアルキレン基、又はアリーレン基を表わし、Sは、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数2〜6のアルケニレン基、又はアリーレン基を表わし、
及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基を表わし、
Hetは、少なくとも1個の3級アミン構造を有する2価のヘテロ環基を表わし、
mは、0又は1を表わす)
で表わされるジアミン化合物を用いることができる。
【0022】
なお、本明細書において、他に断りの無い限り、「炭素数1〜6のアルキル基」とは、炭素数1〜6の直鎖状のアルキル基(メチル、エチル、n−プロピル、n−ヘキシル等)、あるいは炭素数3〜6の分岐鎖状のアルキル基(i−プロピル、i−ブチル、t−ブチル等)又は環状のアルキル基(シクロプロピレン基、シクロヘキシレン基等)を意味する。また「炭素数1〜6のアルキレン基」とは、炭素数1〜6の直鎖状のアルキレン基(メチレン、エチレン、トリメチレン、ヘキサメチレン等)、あるいは炭素数3〜6の分岐鎖状のアルキレン基(プロピレン、エチルエチレン等)又は環状のアルキレン基(シクロプロピレン、シクロヘキシレン等)を意味する。同様に、「炭素数2〜6のアルケニレン基」とは、炭素数2〜6の直鎖状のアルケニレン基(ビニレン、プロペニレン等)、あるいは炭素数3〜6の分岐鎖状のアルケニレン基(イソプロピリデン等)又は環状のアルケニレン基(シクロプロペニレン等)を意味する。
【0023】
同様に、他に断りの無い限り、「アリーレン基」は、フェニレン基又はナフチレン基を意味する。また「少なくとも1個の3級アミン構造を有する2価のヘテロ環基」は、5〜7員の飽和又は不飽和ヘテロ環の2価基であって、少なくとも1個の3級アミン構造がヘテロ環内に独立して存在するものであるか、あるいは2級アミン構造がS及びSとの結合点において3級アミン構造を形成するものを意味する。そのようなヘテロ環の例としては、ピロール、イミダゾール、トリアゾール、オキサジアゾール、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、ピペラジン、ホモピペラジンを挙げることができる。
【0024】
3級アミン構造を有するジアミン化合物、特に、一般式(I)又は(II)で表わされるジアミン化合物は、和光純薬株式会社や、Sigma-Aldrich Co.等の試薬供給業者からそれ自体を入手することができるか、又は入手することのできる試薬から当業者が公知の方法に従い容易に製造することができるものである。入手することのできるジアミン化合物の例としては、N,N−ビス(3−アミノプロピル)メチルアミン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、2,5−ビス(4−アミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,3−、2,5−若しくは2,6−ジアミノピリジン、2,4−若しくは4,6−ジアミノピリミジン、2,4−ジアミノ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メトキシ−1,3,5−トリアジン又は2,4−ジアミノ−6−メチル−1,3,5−トリアジン等を挙げることができる。
【0025】
一般式(I)で表わされる3級アミン構造を有するジアミン化合物として、好ましくは、下記式(1):
【0026】
【化4】

【0027】
で示されるものが挙げられる。また、一般式(II)で表わされる3級アミン構造を有するジアミン化合物として、好ましくは、下記式(2):
【0028】
【化5】

【0029】
で示されるものが挙げられる。3級アミン構造を有するジアミン化合物として、これらを単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
また、これら以外に、ジアミン成分として併用できる、その他の任意のジアミン化合物としては、式:HN−R′−NH(式中、R′は、2価の有機基である)で表わされるジアミン化合物であればよく、特に制限は無い。かかるジアミン化合物は、芳香族ジアミン、あるいは脂肪族又は脂環式ジアミンであってよく、したがってR′の例としては、炭素数6〜14の単環式若しくは縮合多環式芳香族化合物の二価の基(フェニレン、インデニレン、ナフチレン、フルオレニレン等)又は炭素数2〜12の脂肪族化合物の二価の基(炭素数2〜12のアルキレン、アルケニレン若しくはアルキニレン基等)、あるいは同一であっても異なっていてもよい、2つ以上の前記二価の基が、直接もしくは架橋員(ここで架橋員とは、−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−SO−、−S−、−(CH1,2−、−C(CH−及び−C(CF−等からなる群から選択される)により相互に連結されたもの(例えば、ビフェニル−4,4’−ジイル、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイル、ジフェニルエーテル−3,4’−ジイル、ベンゾフェノン−4,4’−ジイル)を挙げることができる。これらの芳香族ジアミン、あるいは脂肪族又は脂環式ジアミンは、炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基若しくはアルコキシル基、又はハロゲン原子から選択される1つ以上の置換基を有していてもよい。
【0031】
そのような芳香族ジアミンの例としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、3,3′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルチオエーテル、3,4′−ジアミノジフェニルチオエーテル、3,3′−ジアミノジフェニルチオエーテル、3,3′−ジアミノジフェニルメタン、3,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノベンズアニリド、3,4′−ジアミノベンズアニリド、3,3′−ジアミノベンズアニリド、4,4′−ジアミノベンゾフェノン、3,4′−ジアミノベンゾフェノン、3,3′−ジアミノベンゾフェノン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4−(4−アミノフェニキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4′−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4′−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4′−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0032】
脂肪族又は脂環式ジアミンの例としては、1,2−ジアミノエタン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,3−ジアミノペンタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、ジ(アミノメチル)シクロヘキサン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ジアミノジシクロヘキシルエーテル、ジアミノシクロヘキサン、ジアミノヘキサヒドロジフェニル、イソホロンジアミン等が挙げられる。
【0033】
これらの任意のジアミン化合物を、単独で、又は2種類以上を組み合わせて、ジアミン成分として用いることもできる。これらは主に、担持するヨウ素の量を調整する目的で使用される。
【0034】
さらに、ジアミン成分として下記一般式(III)
【0035】
【化6】

【0036】
(式中R、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を表し、nは、1〜20の整数を表す)
で表わされるジアミン化合物を用いてもよい。これらは、信越化学工業株式会社等の供給業者から入手することができる。一般式(III)のジアミン化合物を併用することで、ヨウ素を担持する時間が短縮される。用いる量は、全ジアミン成分に対して一般式(III)で示されるジアミン化合物が10〜50モル%、好ましくは10〜40モル%、更に好ましくは10〜30モル%である。この50モル%を超えて多く用いると、ヨウ素の担持速度は速くなるが、ヨウ素担持量が少なくなる。10モル%未満であると、ヨウ素の担持速度が遅くなる傾向が見られる。
【0037】
本発明のポリイミドを構成する「テトラカルボン酸二無水物」としては、式(IV):
【化7】

(式中、R″は、4価の有機基である)で表わされるテトラカルボン酸二無水物であればよく、特に制限は無いが、一般式(IV)のR″の例としては、炭素数4〜36の単環式又は縮合多環式の芳香族又は脂環式化合物、あるいは同一であっても異なっていてもよい前記芳香族又は脂環式化合物が直接又は架橋員(ここで架橋員は、前記R′と同義である)を介して相互に連結された非縮合多環式の芳香族又は脂環式化合物の4価の基である。そのような単環式又は縮合多環式の芳香族化合物の例としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等が挙げられる。また単環式又は縮合多環式の脂環式化合物としては、シクロブタン、シクロヘキサン、ノルボルナン、スピロ[4.5]デカン等が挙げられる。
【0038】
そのようなテトラカルボン酸二無水物としては、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物及び3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物からなる群より選ばれる一種又は二種以上を用いるのが好ましい。
【0039】
これらの他にも、例えばシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、4,4′−(4,4‐イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)等を、得られるポリイミドの物性を改良する目的で、併用することも可能である。例えば、後述するような加熱脱水によるイミド化の場合には、使用するテトラカルボン酸二無水物の組み合わせによっては、イミド化により溶媒に不溶となる場合があり、この様な時に、ポリイミドの溶解性を上げる目的等でこれらのテトラカルボン酸二無水物を併用するのが好ましい。これらは、その目的に応じて単独でも2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0040】
さらに、分子量を調節する目的で、あるいは他の目的で、モノアミンやジカルボン酸無水物を添加することも可能である。使用されるモノアミンとしては、アニリン、4−フェニルアニリン、4−フェノキシアニリン、シクロヘキシルアミン、m−アミノフェニルアセチレンなどであり、ジカルボン酸無水物としてはマレイン酸無水物、フタル酸無水物、ナジック酸無水物、フェニルエチニルフタル酸無水物、トリメリット酸無水物、アセチニルフタル酸無水物などである。
【0041】
<ポリイミドの製造方法>
本発明で用いるポリイミドは、以下に示すような、いずれか公知の方法で製造することができる。先ず、上述のテトラカルボン酸二無水物と、3級アミン構造を有するジアミン化合物を含むジアミン成分とを、溶媒中で反応させてポリアミック酸溶液を得る。反応温度は概ね0℃〜100℃の範囲であるが、好ましくは0℃〜60℃、さらに好ましくは0℃〜40℃である。温度は、使用するジアミン成分の反応性や得られるポリアミック酸の所望の分子量にもよるが、反応温度が低すぎると反応に時間がかかり、逆に高すぎると分子量が大きくなりにくい傾向があることを考慮し、前述の範囲から適宜設定すればよい。反応時間としてはおよそ30分〜48時間である。次いで得られたポリアミック酸溶液をイミド化することで、本発明で用いるポリイミドを得ることができる。具体的なイミド化方法としては、ポリアミック酸溶液を加熱脱水してイミド化する方法、あるいはこれを縮合触媒存在下の溶液中で化学閉環してイミド化する方法等が挙げられる。
【0042】
ポリアミック酸溶液を加熱脱水してイミド化する方法とは、ステンレス、アルミ、銅等の金属箔、ガラス板、シリコンフィルム等の基材表面にポリアミック酸溶液を塗布し、100℃〜500℃の範囲で加熱脱水してイミド化する方法である。基材から剥離することにより、ポリイミドはフィルム状態で得られる。
【0043】
あるいは、加熱脱水によるイミド化は、ポリアミック酸溶液に水と共沸する溶媒(例えばトルエン、キシレン等)を予め添加しておき、かかる溶液をイミド化に伴い副生する水を系外に排出しながら加熱することにより行うことができる。この場合、ポリイミドは、溶媒中に溶解した状態で、又は析出した状態で得られる。得られたポリイミドが溶媒中に溶解している場合は、上述したのと同様に、ステンレス、アルミ、銅等の金属箔、ガラス板、シリコンフィルム等の基材表面に該溶液を塗布し、乾燥機の中で溶媒の沸点以上に加熱して、溶媒を除去することにより、ポリイミドを単離することができる。また基材から剥離することにより、ポリイミドはフィルム状態で得られる。一方、溶媒中に析出した場合は、析出したポリイミドを濾過等の方法により分取すればよい。分取したポリイミドは乾燥させ、別の溶媒に溶解させてワニスとして、フィルム加工等に利用することもでき、また乾燥後に粉砕し、粉末状のポリイミドとして射出成形や圧縮成形等に供することもできる。
【0044】
さらには、加熱脱水によるイミド化は、テトラカルボン酸二無水物をメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコールで開環、エステル化し、続けてこのエステル化合物をジアミン成分と共にN−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒中、水と共沸する溶媒(例えばトルエン、キシレン等)を共存させ、イミド化に伴い副生する水を系外に排出しながら加熱することにより行うことができる。この場合もイミド化合物は溶媒中に溶解した状態でするか、又は析出した状態で得られる。得られたポリイミドが溶媒中に溶解している場合は、上述したのと同様に、ステンレス、アルミ、銅等の金属箔、ガラス板、シリコンフィルム等の基材表面に該溶液を塗布し、乾燥機の中で溶媒の沸点以上に加熱して、溶媒を除去することにより、ポリイミドを単離することができる。また基材から剥離することにより、ポリイミドがフィルム状態で得られる。一方、溶媒中に析出した場合は、析出したポリイミドを濾過等の方法により分取すればよい。分取したポリイミドを乾燥させ、別の溶媒に溶解させてワニスとして、フィルム加工等に利用することもでき、また乾燥後に粉砕し、粉末状のポリイミドとして射出成形や圧縮成形等に供することもできる。
【0045】
縮合触媒存在下の溶液中で化学閉環してイミド化する方法とは、得られたポリアミック酸溶液に無水酢酸、及びピリジン、ピコリン、イミダゾール、キノリン又はトリエチルアミン等の触媒を添加して、40℃〜160℃の範囲に1〜24時間加熱してイミド化を行うものである。反応終了後、ポリイミドは通常は溶液の状態で得られるので、この溶液を貧溶媒(例えば、水、メタノール、エタノール、トルエン、キシレン又はアセトン、あるいはこれらの混合物)に投入し、ポリイミドを析出させ、濾過することにより、目的物が固形物の状態で得られる。得られたポリイミドは別の溶媒に溶解させてワニスとして、フィルム加工等に利用することもでき、また乾燥後に粉砕し、粉末状のポリイミドとして射出成形や圧縮成形等に供することもできる。
【0046】
これらの反応で使用される溶媒としては、通常、非プロトン性極性溶媒が挙げられるが、他の溶媒を使用しても差し支えない。使用可能な溶媒の例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メトキシ−N−メチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン、ヘキサメチルホスホルアミド、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリム、ジグリム、トリグリム、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらの溶媒は単独あるいは二種以上混合して用いることができる。溶媒の使用量に特に制限はないが、生成するポリイミドの含量が5〜30重量%以下とするのが望ましい。これらの溶媒は、分取したポリイミドを再溶解してワニスとする場合に使用することもできる。
【0047】
このようにして得られたポリイミドは、その構造中に3級アミンを持ち、これがヨウ素を担持する能力を持つものである。
【0048】
<ヨウ素担持ポリイミドの製造>
本発明のヨウ素担持ポリイミドは、上述のようにして得られたポリイミドにヨウ素を吸着させることにより得られる。具体的には、ヨウ素/ヨウ化カリウム又はヨウ素/ヨウ化水素酸の水溶液あるいはアルコール溶液に、該ポリイミドを浸漬すれば良い。また、この時使用されるヨウ素/ヨウ化カリウム又はヨウ素/ヨウ化水素酸の水溶液あるいはアルコール溶液中のヨウ素濃度はヨウ素原子換算で、好ましくは0.01〜1.0モル/Lである。さらに好ましくは0.05〜0.5モル/L、最も好ましいのは0.1〜0.3モル/Lである。ヨウ素濃度が濃すぎると、ヨウ素の臭気のため作業性が悪く、薄過ぎるとヨウ素の吸着に時間を要する為である。浸漬時間としては使用するヨウ素/ヨウ化カリウム又はヨウ素/ヨウ化水素酸の水溶液あるいはアルコール溶液中のヨウ素濃度にもよるが、概ね10時間以内である。ヨウ素の吸着が終了したら水等で洗浄し、乾燥することによりヨウ素担持ポリイミドを得る事が出来る。得られたヨウ素担持ポリイミドはフラスコ燃焼法により、ヨウ素含有率が測定される。ヨウ素担持ポリイミドの使用用途にもよるが、通常0.1から60質量%のヨウ素を担持させることが可能である。ヨウ素の担持形態は、ヨウ素担持ポリイミドの共鳴ラマンスペクトルを測定することにより推定される。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明を具体的な実施例により示すが、本発明は実施例の内容に制限されるものではない。
【0050】
<略号の説明>
ODPA:ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物(マナック株式会社製)
PMDA:ピロメリット酸二無水物(ダイセル化学工業株式会社製)
BPDA:3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(宇部興産株式会社製)
APMA:N,N−ビス(3−アミノプロピル)メチルアミン(和光純薬株式会社製)
APP:1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン(和光純薬株式会社製)
KF-8010:シロキサンジアミン〔一般式(III)に相当するもの(R、R、R及びRがメチル基であり、官能基当量が415g/mol)。信越化学工業株式会社製〕
IPDA:イソホロンジアミン(和光純薬株式会社製)
ODA:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(和歌山精化株式会社製)
DMAc:ジメチルアセトアミド(和光純薬株式会社製)
【0051】
<分析方法>
ヨウ素含有率:JIS K 7299(フラスコ燃焼法)準拠
共鳴ラマンスペクトル:IN−VIAラマンマイクロスコープ(RENISHOW製)
抗菌試験:JIS Z 2801準拠
【0052】
<ヨウ素担持ポリイミドフィルムの製造>
(実施例1)
攪拌機、温度計、下向き冷却管、窒素ガス導入管を付けた四つ口フラスコに、ODPA62.04g(0.20モル)、DMAc100g、n−プロピルアルコール35gを投入し、80℃で1時間反応させ、ODPAをエステル化した。次に、この中にAPMA20.34g(0.14モル)とKF−8010を49.8g(0.06モル)投入して10分間攪拌した。さらに、キシレン50gを投入し、攪拌しながら加熱し、反応系内温度を125℃まで30分間で昇温した。その後、反応系内温度を125℃に保持しながら、12時間反応を継続した。途中、イミド化の進行に従い副生する水や反応溶媒を下向き冷却管より取り除いた。反応終了後、DMAc300gで系内反応物を溶解希釈し、フラスコより取り出した。得られたイミド化合物は淡黄色透明であった。
得られたイミド化合物溶液をフッ素樹脂コートされたステンレス板上に、乾燥後の厚みが40μmとなるように塗布し、80℃で3分間、120℃で3分間、160℃で3分間、200℃で3分間の合計12分間乾燥した。その後、フッ素樹脂コートされたステンレス板からフィルム状のイミド化合物を剥離した。得られたフィルムは自立性のあるものであった。
得られたフィルム(厚み40μm)5cm×5cmを切り出し、ポビドンヨード溶液(イソジン(登録商標)液10%)に20℃で8時間浸漬し、ヨウ素を吸着した。その後、フィルムを流水で良く洗浄して、60℃で1時間送風乾燥した。得られたフィルムのヨウ素含有率をフラスコ燃焼法で測定した。さらに、共鳴ラマンスペクトル測定を行い、ヨウ素担持状態を確認した。結果を表1に示す。
【0053】
(実施例2〜7及び比較例1〜2)
実施例1に従い、使用する酸二無水物とジアミンの種類と量を変えて合成したポリイミドからヨウ素担持ポリイミドを作成した。それぞれの組成及び分析結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
<抗菌性試験>
(試験例1)
実施例2において、ポビドンヨード溶液(イソジン(登録商標)液10%)に浸漬する前のフィルム(検体2)と、浸漬後の実施例2のフィルム(検体1)をJIS Z 2801に準拠して、抗菌性試験を行った。表2に試験に用いた試験片、フィルム及び菌液の概要を、表3に試験結果を示す。
【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のヨウ素担持ポリイミドは、従来のヨウ素担持体と比較して優れた加工性を有し、ゴム状からフレキシブル性のあるフィルム状、溶媒に溶解した状態等、様々な形態で提供することが可能となる。また、本発明のヨウ素担持ポリイミドは、高い抗菌性を有するため、抗菌性材料としての利用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3級アミン構造を有するジアミン化合物を含むジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られるポリイミドであって、該ポリイミドにヨウ素及び/又はヨウ化物イオンが担持されていることを特徴とするヨウ素担持ポリイミド。
【請求項2】
前記3級アミン構造を有するジアミン化合物が、下記式(1)又は下記式(2)で表わされる化合物であることを特徴とする、請求項1記載のヨウ素担持ポリイミド。
【化8】


【化9】

【請求項3】
更に、前記ジアミン成分として一般式(III)で表される化合物を少なくとも一種以上含有することを特徴とする請求項1又は2記載のヨウ素担持ポリイミド。
【化10】

(式中R、R、R、及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を表し、nは、1〜20の整数を表す)
【請求項4】
前記テトラカルボン酸二無水物が、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物及び3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物からなる群より選ばれる一種又は二種以上の化合物である、請求項1〜3記載のヨウ素担持ポリイミド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のヨウ素担持ポリイミドから得られる、ヨウ素担持ポリイミドフィルム。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項記載のヨウ素担持ポリイミドを含む、抗菌性ポリイミド組成物。
【請求項7】
請求項5記載のヨウ素担持ポリイミドフィルムを含む、抗菌性フィルム。

【公開番号】特開2011−137061(P2011−137061A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296778(P2009−296778)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000113780)マナック株式会社 (40)
【Fターム(参考)】