説明

ヨウ素放射性標識法

本発明は、関心のある生体ターゲティング分子(BTM)を放射性ヨウ素で標識する新規方法を提供する。また、本方法を用いて調製した新規放射性ヨウ素化BTM並びにかかる放射性ヨウ素化BTMを含む放射性医薬組成物も提供する。本発明はまた、本方法に有用な、放射性ヨウ素化中間体並びに放射性ヨウ素化BTMを用いるインビボイメージング法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関心のある生体ターゲティング分子(BTM)を放射性ヨウ素で標識する新規方法を提供する。また、本方法を用いて調製した新規放射性ヨウ素化BTM並びにかかる放射性ヨウ素化BTMを含む放射性医薬組成物も提供される。本発明は、本方法に有用な放射性ヨウ素化中間体並びに放射性ヨウ素化BTMを用いるインビボイメージング法も提供する。
【背景技術】
【0002】
有機分子に放射性ハロゲンを導入する方法は公知である[Bolton,J.Lab.Comp.Radiopharm.,45,485−528(2002)]。123I標識放射性医薬品のEersels他[J.Lab.Comp.Radiopharm.,48,241−257(2005)]によって以下の以下の4つの主要な合成経路が比較されている。
(I)酸化的放射性ヨウ素化
(ii)求核性同位体交換
(iii)求核性非同位体交換
(iv)求電子性標識。
【0003】
経路(iv)は、通例、トリアルキルスズ、トリアルキルシリル又は有機水銀又は有機タリウム誘導体のような有機金属前駆体の使用を伴う。これらのうち、室温での位置特異的放射性ヨウ素化が可能である点で、放射性ヨードデスタニレーション(radioiododestannylation)経路が好ましい求電子性標識法として認識されている。ただし、Eersels他は、選択は放射性ヨウ素化すべき化合物の性状に依存するので、全般に好ましい放射性ヨウ素化法はないと結論づけている。
【0004】
放射性医薬品合成における有機スズ中間体の使用は、Ali他[Synthesis,423−445(1996)]の総説に記載されている。Kabalka他は、放射性同位体及び放射性ハロゲン標識が可能となる有機ボラン前駆体の使用に関して広範な報文を発表している[例えば、J.Lab.Comp.Radiopharm.,50,446−447及び888−894(2007)参照]。
【0005】
クリックケミストリーはバイオテクノロジー研究の成長分野である[”Click Chemistry for Biotechnology and Materials Science”,J.Lahann(Ed),Wily,(2009)]。Hein他は、1−ヨードアルキンがアジドと以下のクリック環化反応を起こすと報告している[Ang.Chem.Int.Ed.Engl.,48,8018−8021(2009)]。
【0006】
【化1】

Heinの報告は内部アルキン(RがHでないもの)に関するものであり、放射化学に関しては何ら記載されていない。
【0007】
放射化学を始めとする生物医学研究に「クリックケミストリー」を応用することは、Nwe他[Cancer Biother.Radiopharm.,24(3),289−302(2009)]の総説に記載されている。この総説に記載されている通り、主たる関心はPET放射性同位体18F(及び程度は少ないが11C)と、SPECTイメージングに適した99mTc又は111Inのような放射性金属に対する「キレート用クリック(click to chelate)」アプローチであった。Glaser及びRobinsは、PET放射化学標識反応におけるクリックケミストリーの使用について、放射性同位体18F及び11Cに焦点を当てて概説している[J.Lab.Comp.Radiopharm.,52,407−414(2009)]。
【0008】
ターゲティングペプチドを18Fクリック標識して、18F−フルオロアルキル置換トリアゾールが導入された生成物を得ることは、Li他[Bioconj.Chem.,18(6),1987−1994(2007)]及びHausner他[J.Med.Chem.,51(19),5901−5904(2008)]に記載されている。
【0009】
国際公開第2006/067376号には、Cu(I)触媒の存在下での、式(I)の化合物と式(II)の化合物又は式(III)の化合物と式(IV)の化合物との反応によって、それぞれ式(V)又は(VI)のコンジュゲートを得ることを含むベクターの標識法が開示されている。
【0010】
【化2】

式中、L1、L2、L3及びL4は各々リンカー基であり、R*は放射性核種を含むレポーター部分である。
【0011】
国際公開第2006/067376号のR*は、放射性核種(例えば、陽電子放出性放射性核種)を含むレポーター部分である。その目的に適した陽電子放出性放射性核種としては、11C、18F、75Br、76Br、124I、82Rb、68Ga、64Cu及び62Cuがあり、11C及び18Fが好ましいと記載されている。その他の有用な放射性核種としては、123I、125I、131I、211At、99mTc及び111Inが挙げられると記載されている。
【0012】
国際公開第2007/148089号には、Cu(I)触媒の存在下での、式(I)の化合物と式(II)の化合物又は式(III)の化合物と式(IV)の化合物との反応を含むベクターの放射性標識法が開示されている。
【0013】
【化3】

式中、L1、L2、L3及びL4は各々リンカー基であり、R*は放射性核種を含むレポーター部分である。
【0014】
国際公開第2006/067376号及び同2007/148089号のいずれにも、例えば、当業者に公知の方法による直接導入によって、金属放射性核種がキレート剤に適切に導入されると記載されている。国際公開第2006/067376号又は同2007/148089号のいずれにも、クリック放射性ヨウ素化に特有の方法論は開示されておらず、特に、どのような組合せの式(I)〜(IV)の化合物や、どのような組合せのリンカー基L1、L2、L3、L4及びどのような種類のR*基が適しているかについては何ら開示されていない。
【0015】
国際公開第2006/116629号(Siemens Medical Solutions USA,Inc.)には、標的生体高分子に対して親和性を有する放射性標識リガンド又は基質を調製する方法が開示されており、この方法は、
(a)(i)第1の分子構造と、
(ii)脱離基と、
(iii)クリックケミストリー反応に参加できる第1の官能基と、適宜、
(iv)第1の官能基と分子構造の間のリンカーと
を含む第1の化合物を、脱離基を放射性試薬の放射性成分で置換するのに十分な条件下で、放射性試薬と反応させて、第1の放射性化合物を形成する工程と、
(b)(i)第2の分子構造と、
(ii)第1の官能基とのクリックケミストリー反応に参加できる第2の相補的官能基と
を含む第2の化合物であって、第2の化合物と第2の官能基の間にリンカーを適宜含んでいてもよい第2の化合物を用意する工程と、
(c)クリックケミストリー反応によって、第1の放射性化合物の第1の官能基を、第2の化合物の相補的官能基と反応させて、放射性リガンド又は基質を生成させる工程と、
(d)放射性リガンド又は基質を単離する工程と
を含んでいる。
【0016】
国際公開第2006/116629号には、上記方法は放射性同位体124I、18F、11C、13N及び15Oとの使用に適しており、好ましい放射性同位体は18F、11C、123I、124I、127I、131I、76Br、64Cu、99mTc、90Y、67Ga、51Cr、192Ir、99Mo、153Sm及び201Tlであると教示されている。国際公開第2006/116629号には、使用し得る他のの放射性同位体として、72As、74As、75Br、55Co、61Cu、67Cu、68Ga、68Ge、125I、132I、111In、52Mn、203Pb及び97Ruが挙げられると教示されている。しかし、国際公開第2006/116629号は、この方法を生体分子の放射性ヨウ素化にどのように応用するかについて、具体的な教示は何ら記載されていない。
【0017】
Qu他[J.Med.Chem.,50(14),3380−3387(2007)]には、125I標識アミンの調製が開示されている。
【0018】
【化4】

非放射性ヨードフェニル−トリアゾール前駆体は、R−≡−H及びI−C64−N3のクリック環化によって調製される。国際公開第2008/131148号は、同様の化学について開示したQu他の対応特許出願である。
【0019】
Dong他[ChemBioChem,10,1149−1151(2009)]には、クリックケミストリーを用いたタンパク質のヨウ素化法が開示されている。
【0020】
【化5】

Dong他は、N末端Met残基の代わりに、合成アミノ酸ホモプロパルギルグリシンを用いてタンパク質にアルキン基を導入している。検討されたタンパク質は、システインを含まないよう操作され、90残基のアミノ酸からなる。Dong他は、この方法は、放射性同位体125Iを用いたラジオイムノアッセイに役立てることができると示唆しているが、放射性化学については何ら記載されていない。
【0021】
国際公開第2010/131745号には、以下の式の18F標識フェニルアジド、並びにそれをクリック環化付加によるアルキン官能化オリゴヌクレオチドの放射性標識に使用してトリアゾール環を形成することが開示されている。
【0022】
【化6】

そこで、インビボ代謝による脱ヨウ素化に耐性をもつ化学的形態のヨウ素標識で、インビボイメージングに適した放射性ヨウ素化生体ターゲティング分子を得ることのできる代替放射性ヨウ素化法に対するニーズが依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】国際公開第2007/148089号
【発明の概要】
【0024】
本発明は、クリック放射性ヨウ素化反応を用いた生体ターゲティング分子(BTM)の放射性ヨウ素化の方法を提供する。本方法は、穏和な条件下で実施でき、そのため、放射性ヨウ素化反応条件下でのBTMの不安定性のため従来の直接ヨウ素化法を実施できないおそれのあった分子を始めとして、広範な生体分子に適合しているという利点がある。かかる感受性の例として、従来の放射性ヨウ素化に必要とされる酸化性条件との不適合性又は不安定性が挙げられる。本方法は、非酸化性条件下で実施でき、したがって、酸化に鋭敏なBTMの標識に特に有利な放射性ヨウ素化法を提供する。
【0025】
本方法で使用されるクリック環化は選択性が高く、放射性ヨウ素化は、式Iの官能化BTMのアルキン基で位置選択的に起こる。本方法は、炭素−ヨウ素結合のインビボ代謝に耐性であるように選択される基(Y1)に放射性ヨウ素が直接結合した生成物を与える。放射性ヨウ素化生成物は、インビボでの代謝による脱ヨウ素化に対して良好な安定性を呈し、放射性ヨウ素の不要な胃及び/又は甲状腺取込みに対しても良好な安定性を示すと予想される。したがって、生成物は、インビボイメージング用の放射性医薬品としての使用に適しており、これは重要な利点である。
【0026】
クリック放射性ヨウ素化法は、自動合成装置での使用に容易に適合化させることができる。その選択性のために、保護基の使用を必要とせずにBTM標識を行うことができる。さらに、さらに、本標識法は、例えば、活性エステルカップリングを用いた従来の結合反応よりも高い放射性標識収率を達成できる可能性がある。
【発明を実施するための形態】
【0027】
第1の態様では、本発明は、生体ターゲティング部分の放射性ヨウ素化する方法であって、
(i)次の式(I)の化合物を準備する工程と、
【0028】
【化7】

(ii)クリック環化付加触媒の存在下で、式(I)の化合物を以下の式(IIa)又は式(IIb)の化合物と反応させて、それぞれ以下の式(IIIa)又は(IIIb)のコンジュゲートを得る工程と
【0029】
【化8】

【0030】
【化9】

を含む方法を提供する。
式中、
*は、123I、124I又は131Iから選択されるインビボイメージングに適したヨウ素の放射性同位体であり、
1、L2及びL3は各々独立にリンカー基であって、存在していても、存在していなくてもよく、
1は−Ar1−又はX1−であって、−Ar1−はC3-10アリーレンであり、−X1−は−CH=CH−(CH2n−(Ar1j−又はCH=CH−(Ar1j−(CH2n−であり、jは0又は1であり、nは値0〜4の整数であるが、Y1が−X1−のときは、I*はX1の−CH=CH末端に結合しており、
BTMは生体ターゲティング部分である。
【0031】
「放射性ヨウ素化」という用語は、その通常の意味を有しており、放射性標識に用いられる放射性同位体がヨウ素の放射性同位体である放射性標識法を意味する。
【0032】
リンカー基(L1)が存在しないときは、式(I)のアルキン基がBTMに直接結合していることを意味する。例えば、アルキンが、BTMペプチド若しくはタンパク質のアミノ酸の側鎖に結合していることを意味することもあるし、BTMペプチドのN末端又はC末端に直接結合していることを意味することもある。リンカー基(L1)が存在する場合、各リンカー基は好ましくは合成品であり、独立に式−(A)m−の基を含んでいるが、各Aは独立に−CR2−、−CR=CR−、−C≡C−、−CR2CO2−、−CO2CR2−、−NRCO−、−CONR−、−NR(C=O)NR−、−NR(C=S)NR−、−SO2NR−、−NRSO2−、−CR2OCR2−、−CR2SCR2−、−CR2NRCR2−、C4-8シクロヘテロアルキレン基、C4-8シクロアルキレン基、C5-12アリーレン基又はC3-12ヘテロアリーレン基、アミノ酸、糖又は単分散ポリエチレングリコール(PEG)構成ブロックであり、各Rは独立にH、C1-4アルキル、C2-4アルケニル、C2-4アルキニル、C1-4アルコキシアルキル又はC1-4ヒドロキシアルキルから選択され、mは1〜20の整数である。
【0033】
「生体ターゲティング部分」(BTM)という用語は、投与後に、インビボで哺乳類の身体の特定の部位に選択的に取り込まれるか又は局在化する化合物を意味する。かかる部位は、例えば、特定の病態に関係していることもあるし、臓器又は代謝過程がいかに機能しているかの指標となることもある。
【0034】
ヨウ素の放射性同位体という用語は、その通常の意味を有しており、放射性であるヨウ素元素の同位体を意味する。かかる放射性同位体でインビボイメージングに適しているのは123I、124I及び131Iである。125Iはインビボイメージングには適しておらず、特許請求の範囲に記載されたものには該当しない。放射性ヨウ素化生成物は、画像診断又はインビボ治療用の放射性医薬品として有用である。かかる治療用途として、BTMが抗体又は抗体フラグメントである場合の放射免疫治療が挙げられる。131Iがインビボ治療用の好ましい放射性同位体である。
【0035】
「クリック環化付加触媒」という用語は、第1の態様のクリック(アルキン+アジド)又はクリック(アルキン+イソニトリルオキシド)環化付加反応を触媒することが知られている触媒を意味する。クリック環化付加反応での使用に適した触媒は、当技術分野で公知である。好ましい触媒として、Cu(I)があり、これについては以下で説明する。好適な触媒についての詳細は、Wu and Fokin[Aldrichim.Acta,40(1),7−17(2007)]及びMeldal and Tornoe [Chem. Rev.,108,2952−3015(2008)]に記載されている。
【0036】
「C3-10アリーレン」という用語は、炭素原子数3〜10の二価アリール基を意味する。この用語には、含炭素ヘテロアリール基が包含される。好適なヘテロアリール基として、ピリジン環、インドール環又はイミダゾール環が挙げられる。式(IIa)又は(IIb)において、放射性ヨウ素同位体(I*)はY1のアリール環又はビニル基に直接結合している。
【0037】
1がX1である場合、「I*はX1の−CH=CH末端に結合」しているという表現は、式(IIa)の化合物がI*−CH=CH−(CH2n−(Ar1m−N3又はI*−CH=CH−(Ar1m−(CH2n−N3であることを意味する(式中、mは0又は1であり、nは0〜4の整数である)。化合物(IIb)、(IIIa)及び(IIIb)についても同様である。
【0038】
好ましい態様
第1の態様の方法での使用に好ましい前駆体は、式(IIa)のアジドであり、好ましい生成物は式(IIIa)のトリアゾールである。
【0039】
本発明での使用に好ましいヨウ素の放射性同位体は、PET又はSPECTを用いたインビボ医用イメージングに適したものである。したがって、I*は好ましくは123I又は124Iであり、123IはSPECTイメージングに適しており、124IはPETイメージングに適している。I*は、最も好ましくは123Iである。
【0040】
1基はI*と直接結合し、Y1−I*結合は式(IIIa)又は(IIIb)の生成物の一部をなす。したがって、本発明のY1基は、放射性ヨウ素標識(I*)がインビボ脱ヨウ素化を起こしにくい生成物が得られるように設計される。Y1がAr1である場合、好ましいAr1基はC4-6アリーレンであり、さらに好ましくは置換又は非置換フェニル又はピリジン環、最も好ましくはフェニレン環を含む。Y1がX1である場合、ビニル基は、E又はZ配置のいずれでもよく、いずれのジアステレオマーも本発明の技術的範囲に属する。X1は、好ましくはnが1〜4であるように、さらに好ましくはnが1〜4であってjが0であるように選択される。Y1は、好ましくは、上述の好ましいAr1基を含むAr1である。
【0041】
BTMは、合成したものでも、天然のものでもよいが、好ましくは合成品である。「合成品」という用語とは、その通常の意味を有しており、天然の起源(例えば哺乳類の身体)から単離したものとは対照的に、人工のものを意味する。かかる化合物は、その製造及び不純物プロファイルを十分に制御できるという利点を有する。したがって、天然起源のモノクローナル抗体及びそのフラグメントは、本明細書で用いる「合成品」には属さない。BTMは、好ましくは非タンパク質性もの、つまりタンパク質を含まないものである。
【0042】
BTMの分子量は、好ましくは10000ダルトン以下である。さらに好ましくは、分子量は200〜9000ダルトン、最も好ましくは300〜8000ダルトンであり、400〜6000ダルトンが特に好ましい。BTMが非ペプチドである場合、BTMの分子量は好ましくは3000ダルトン以下であり、さらに好ましくは200〜2500ダルトン、最も好ましくは300〜2000ダルトンであり、400〜1500ダルトンが特に好ましい。
【0043】
生体ターゲティング部分には、好ましくは、線状又は環状ペプチド又はその組合せのいずれでもよい3〜80量体ペプチド、ペプチド類似体、ペプトイド又はペプチド模倣体()、1個のアミノ酸、酵素基質、酵素アンタゴニスト、酵素アゴニスト(部分アゴニストを含む)又は酵素阻害剤、受容体結合化合物(受容体基質、アンタゴニスト、アゴニスト又は基質を含む)、オリゴヌクレオチド又はオリゴDNA若しくはオリゴRNAフラグメントがある。
【0044】
「ペプチド」という用語は、ペプチド結合(つまり、あるアミノ酸のアミンと別のアミノ酸のカルボキシルとを連結するアミド結合)で連結した2以上のアミノ酸(以下で定義)を含む化合物を意味する。「ペプチド模倣体」又は「模倣体」という用語は、ペプチド又はタンパク質の生物活性を模倣するが、化学的性状がペプチドでない(つまり、ペプチド結合(アミノ酸間のアミド結合)を含まない)生物活性化合物をいう。ここでは、ペプチド模倣体という用語は広義に用いられ、性状が完全にはペプチドでない分子(例えば、プソイドペプチド、セミペプチド及びペプトイド)を包含する。「ペプチド類似体」という用語は、以下に記載する1種以上のアミノ酸類似体を含むペプチドをいう。”Methods in Organic Chemistry”,Thieme(2004)のSynthesis of Peptides and Peptidomimetics,M.Goodman他,Houben−Weyl Vol E22c参照。
【0045】
「アミノ酸」という用語は、Lアミノ酸又はDアミノ酸、アミノ酸類似体(例えば、ナフチルアラニン)又はアミノ酸模倣体を意味し、天然のものでも純粋な合成品であってもよく、光学的に純粋つまり単一の鏡像異性体(従ってキラルなもの)であってもよいし、鏡像異性体の混合物であってもよい。本明細書では、アミノ酸の慣用三文字略語又は一文字略語を用いる。好ましくは、本発明のアミノ酸は光学的に純粋なものである。「アミノ酸模倣体」という用語は、アイソスター(つまり、天然化合物の立体構造及び電子構造を模倣するように設計されたもの)である天然アミノ酸の合成類似体を意味する。かかるアイソスターは当業者に周知であり、特に限定されないが、デプシペプチド、レトロ−インベルソペプチド、チオアミド、シクロアルカン又は1,5−二置換テトラゾールが挙げられる[M.Goodman,Biopolymers,24,137,(1985)参照]。チロシン、ヒスチジン、メチオニン又はプロリンのような放射性標識アミノ酸は、有用なインビボ造影剤として知られている。
【0046】
BTMが、酵素基質、酵素アンタゴニスト、酵素アゴニスト、酵素阻害剤又は受容体結合化合物である場合、BTMは好ましくは非ペプチド、さらに好ましくは合成品である。「非ペプチド」という用語は、ペプチド結合(2つのアミノ酸残基間のアミド結合)を全く含まない化合物を意味する。好適な酵素基質、アンタゴニスト、アゴニスト又は阻害剤には、グルコース及びグルコース類似体(例えばフルオロデオキシグルコースなど)、脂肪酸、又はエラスターゼ、アンジオテンシンII又はメタロプロテイナーゼ阻害剤がある。好ましい非ペプチド系アンジオテンシンIIアンタゴニストはロサルタンである。好適な合成受容体結合化合物には、エストラジオール、エストロゲン、プロゲスチン、プロゲステロンその他のステロイドホルモン、ドーパミンD−1又はD−2受容体リガンド、及びトロパンのようなドーパミン輸送体用リガンド、並びにセロトニン受容体用リガンドがある。
【0047】
BTMは、最も好ましくは3〜100量体ペプチド又はペプチド類似体である。BTMがペプチドである場合、好ましくは4〜30量体ペプチド、最も好ましくは5〜28量体ペプチドである。
【0048】
BTMが、酵素基質、酵素アンタゴニスト、酵素アゴニスト又は酵素阻害剤である場合、本発明の好ましい生体ターゲティング分子は、合成薬物様低分子、すなわち、医薬分子である。好ましいドーパミン輸送体リガンドはトロパン、脂肪酸、ドーパミンD−2受容体リガンド、ベンズアミド、アンフェタミン、ベンジルグアニジン、イオマゼニル、ベンゾフラン(IBF)又は馬尿酸などである。好ましいトロパン誘導体は、123I−CIT(Dopascan(商標))、123I−CIT−FP(DaTSCAN(商標))及び123I−2β−カルボメトキシ−3β−(4−フルオロフェニル)−N−(1−ヨードプロパ−1−エン−3−イル)ノルトロパンのE異性体(Altropane(商標))である。Dopascan(商標)及びDaTSCAN(商標)が特に好ましい。上記その他のトロパン剤は、Morgan and Nowotnik [Drug News Perspect.,12(3),137−145(1999)に記載されている。好ましい脂肪酸は123I−BMIPP及び123I−IPPAである。好ましいアンフェタミン誘導体は123I−IMPである。好ましいベンジルグアニジンはメタ−ヨードベンジルグアニジン(MIBG)、すなわち123I−MIBGである。
【0049】
BTMがペプチドである場合、好ましいペプチドには以下のものがある。
・ソマトスタチン、オクトレオチド及び類似体。
・ST受容体に結合するペプチド(ここで、STとは大腸菌(E.coli)その他の微生物によって産生される耐熱性毒素をいう。)。
・ボンベシン。
・血管作用性小腸ペプチド。
・ニューロテンシン。
・ラミニンフラグメント、例えば、YIGSR、PDSGR、IKVAV、LRE及びKCQAGTFALRGDPQG。
・白血球集積部位をターゲティングするためのN−ホルミル走化性ペプチド。
・血小板第4因子(PF4)及びそのフラグメント。
・例えば、血管形成をターゲティングし得るRGD(Arg−Gly−Asp)含有ペプチド[R.Pasqualini他,Nat Biotechnol.1997 Jun;15(6):542−6]、[E.Ruoslahti,Kidney Int.1997 May;51(5):1413−7]。
・α2−抗プラスミン、フィブロネクチン、β−カゼイン、フィブリノーゲン又はトロンボスポンジンのペプチドフラグメント。α2−抗プラスミン、フィブロネクチン、β−カゼイン、フィブリノーゲン又はトロンボスポンジンのアミノ酸配列は、以下の参考文献に見出すことができる。α2−抗プラスミン前駆体[M.Tone他,J.Biochem,102,1033(1987)]、β−カゼイン[L.Hansson他,Gene,139,193(1994)]、フィブロネクチン[A.Gutman他,FEBS Lett.,207,145(1996)]、トロンボスポンジン1前駆体[V.Dixit他,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,83,5449(1986)]、R.F.Doolittle,Ann.Rev.Biochem.,53,195(1984)。
・アンジオテンシンII:Asp−Arg−Val−Tyr−Ile−His−Pro−Phe(E.C.Jorgensen他,J.Med.Chem.,1979,Vol 22,9,1038−1044)及び[Sar,Ile]アンジオテンシンII:Sar−Arg−Val−Tyr−Ile−His−Pro−Ile(R.K.Turker他,Science,1972,177,1203)のようなアンジオテンシンの基質又は阻害剤であるペプチド。
・アンジオテンシンI:Asp−Arg−Val−Tyr−Ile−His−Pro−Phe−His−Leu。
【0050】
好ましいBTMペプチドは、RGDペプチドである。さらに好ましいRGDペプチドは、以下のフラグメントを含む。
【0051】
【化10】

かかるRGDペプチドとして最も好ましいのは、BTMが式(A)のペプチドであるものである。
【0052】
【化11】

式Aにおいて、aは好ましくは1である。
【0053】
BTMがペプチドである場合、ペプチドの一端又は両端(好ましくは両端)に代謝阻害基(MIG)が結合している。このように両方のペプチド末端を保護することは、インビボイメージング用途で重要である。さもないと、急速な代謝が起こって、BTMペプチドに対する選択的結合親和性が失われてしまうと予想されるからである。「代謝阻害基(MIG)」という用語は、アミノ末端又はカルボキシ末端でのBTMペプチドの酵素(特にペプチダーゼ)代謝を阻害又は抑制する生体適合性基を意味する。かかる基はインビボ適用に特に重要であり、当業者に周知であり、好適には、ペプチドアミン末端に関してはN−アシル化基−NH(C=O)RG(式中、アシル基−(C=O)RGはC1-6アルキル、C3-10アリール及びポリエチレングリコール(PEG)構成ブロックから選択されるRGを有する。)から選択される。好適なPEG基については、リンカー基(L)に関して後述する。好ましいPEG基は、式Bio1又はBio2(後記)のバイオモディファイアーである。好ましいアミノ末端MIG基はアセチル、ベンジルオキシカルボニル又はトリフルオロアセチルであり、最も好ましくはアセチルである。
【0054】
ペプチドカルボキシル末端に適した代謝阻害基には、カルボキサミド、tert−ブチルエステル、ベンジルエステル、シクロヘキシルエステル、アミノアルコール及びポリエチレングリコール(PEG)構成ブロックがある。BTMペプチドのカルボキシ末端アミノ酸残基に適したMIG基は、アミノ酸残基の末端アミンをC1-4アルキル基(好ましくはメチル基)でN−アルキル化したものである。好ましいMIG基はカルボキサミド又はPEGであり、最も好ましい基はカルボキサミドである。
【0055】
第1の態様の方法では、リンカー基L1が好ましくは存在する。リンカー基L2及びL3は、任意ではあるが、存在しないのが好ましい。リンカー基がC3-12ヘテロアリーレン基を含む場合、ヘテロ原子は好適にはN、O及びSから選択され、好ましくはN及びOである。
【0056】
1が1〜10アミノ酸残基のペプチド鎖を含む場合、アミノ酸残基は好ましくはグリシン、リシン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸又はセリンから選択される。L1がPEG部分を含む場合、好ましくは式Bio1又はBio2の単分散PEG様構造のオリゴマー化で得られる単位を含む。
【0057】
【化12】

かかるPEG様構造は、式Bio1(式中、pは1〜10の整数である。)の17−アミノ−5−オキソ−6−アザ−3,9,12,15−テトラオキサヘプタデカン酸でよい。或いは、式Bio2のプロピオン酸誘導体に基づくPEG様構造も使用できる。
【0058】
【化13】

式中、pは式Bio1について定義した通りであり、qは3〜15の整数である。
【0059】
式Bio2において、pは好ましくは1又は2であり、qは好ましくは5〜12である。
【0060】
リンカー基がPEG又はペプチド鎖を含まない場合、好ましいL1基は、2〜10の原子、最も好ましくは2〜5の原子、特に好ましくは2又は3の原子を含む−(A)m−部分を構成する結合原子の主鎖を有している。
【0061】
市販されていないBTMペプチドは、P.Lloyd−Williams,F.Albericio and E.Girald;Chemical Approaches to the Synthesis of Peptides and Proteins,CRC Press,1997に記載されているような固相ペプチド合成法によって合成できる。
【0062】
第1の態様の方法では、式(I)の化合物は、適宜、式(Ia)の化合物の脱保護によって生成させることができる。
【0063】
【化14】

式中、M1はアルキン保護基である。
【0064】
式(Ia)におけるL1の好ましい態様は、式(I)について記載した通りである。
【0065】
本発明の方法は、BTMで広範な官能基を許容する。ただし、BTMが遊離チオール基(例えば、還元型システイン含有ペプチド)を含む場合、かかるチオール基は、第1の態様の反応を実施する前に保護しておくのが好ましい。同様に、キレート官能基又は銅(I)に良好に配位する基も保護が必要とされることがある。
【0066】
「保護基」という用語は、望ましくない化学反応を阻害又は抑制するが、分子の残部を改質しない十分に穏和な条件下で問題の官能基から脱離させることのできる十分な反応性を有するように設計された基を意味する。脱保護後には所望の生成物が得られる。好適な保護基は、‘Protective Groups in Organic Synthesis’,Theodora W.Greene and Peter G.M.Wuts,4th edition(John Wiley & Sons,2007)に記載されている。アルキン保護基は、その第8章927〜933頁に記載されており、その例ごして、トリアルキルシリル基(各アルキル基が独立にC1-4アルキルであるもの)、アリールジアルキルシリル基(アリール基が好ましくはベンジル又はビフェニルであり、アルキル基が各々独立にC1-4アルキルであるもの)、ヒドロキシメチル又は2−(2−ヒドロキシプロピル)が挙げられている。好ましいアルキン保護基はトリメチルシリルである。式(Ia)の保護アルキンは、式(I)の所望のアルキンを制御下に生成させることができ、式(IIa)又は(IIb)の化合物でのクリック環化付加反応の効率を最大限にすることができるという利点を有する。
【0067】
第1の態様のクリック放射性ヨウ素化法は、適当な溶媒(例えば、アセトニトリル、C1-4アルキルアルコール、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン又はジメチルスルホキシド、或いはそれらの水性混合物)中又は水中で実施できる。pH域4〜8、さらに好ましくは5〜7の水性緩衝液を使用してもよい。反応温度は好ましくは5〜100℃、さらに好ましくは75〜85℃、最も好ましくは室温(通例15〜37℃)である。クリック環化付加は、Meldal and Tornoe [Chem.Rev. 108,2952,Table 1(2008)]に記載の通り、適宜、有機塩基の存在下で実施してもよい。
【0068】
好ましいクリック環化付加触媒はCu(I)を含む。Cu(I)触媒は、反応を進行させるのに十分な量、通例、触媒量又は過剰量(例えば、式(IIa)又は(IIb)の化合物に対して0.02〜1.5モル当量)で存在する。好適なCu(I)触媒として、CuI又は[Cu(NCCH34][PF6]のようなCu(I)塩が挙げられるが、好適には、硫酸銅(II)のようなCu(II)塩を還元剤存在下で使用してCu(I)をインサイチュで生成させてもよい。好適な還元剤には、アスコルビン酸又はその塩(例えば、アスコルビン酸ナトリウム)、ヒドロキノン、金属銅、グルタチオン、システイン、Fe2+又はCo2+が挙げられる。Cu(I)は元素態銅粒子の表面にも内因的に存在し、したがって、例えば粉体又は顆粒の形態の元素態銅も触媒として使用し得る。粒径の制御された元素態銅が好ましいCu(I)触媒源である。さらに好ましい触媒は、0.001〜1mm、好ましくは0.1mm〜0.7mm、さらに好ましくは約0.4mmの粒径を有する銅粉体としての元素態銅である。或いは、0.01〜1.0mm、好ましくは0.05〜0.5mmの直径、さらに好ましくは0.1mmの直径を有する巻き銅線を使用してもよい。Cu(I)触媒は、適宜、クリックケミストリーでCu(I)の安定化に使用されるバソフェナントロリンの存在下で使用してもよい。
【0069】
BTMがペプチド又はタンパク質である式(I)の非放射性前駆体化合物は、標準的なペプチド合成法、例えばAtherton,E.and Sheppard,R.C.;“Solid Phase Synthesis”;IRL Press:Oxford,1989に記載されているような固相ペプチド合成法によって調製できる。式(Ia)又は式(Ib)の化合物へのアルキン基の導入は、ペプチドのN又はC末端の反応、或いはペプチド配列に含まれる他の官能基であって、その修飾がベクターの結合特性に影響を及ぼさない官能基との反応によって達成できる。アルキン基は、好ましくは、例えばペプチドのアミン官能基と活性化酸との反応或いはペプチドの酸官能基とアミン官能基との反応による安定なアミド結合の形成によって導入され、ペプチドの合成中又は合成後に導入される。細胞、ウイルス、細菌のようなベクターにアルキン基を導入する方法は、H.C.Kolb and K.B.Sharpless,Drug Discovery Today,Vol 8(24),December 2003及びその引用文献に見出すことができる。式(I)の化合物へのアルキン基の導入に有用である好適な二官能性中間体には以下のものがある。
【0070】
【化15】

式中、L1及びその好ましい実施形態は上記で定義した通りである。
【0071】
上記式中、L1は好適には存在している。しかし、アジド官能化アミノ酸では、アジド官能基は任意にはいかなるリンカー基も介さずにアミノ酸の側鎖に直接結合していてもよい。この種のアルキン前駆体は、Glaser and Arstad [Bioconj.Chem.,18,989−993(2007)]に記載されている。同報文には、アルキン基をペプチドに導入する方法についても記載されている。
【0072】
BTMをアルキン基で官能化するためのその他のアプローチは、Nwe他[Cancer Biother.Radiopharm.,24(3),289−302(2009)]に記載されている。Smith他は、アルキン官能化イサチン前駆体の合成法について報告しており、イサチン化合物は、カスパーゼ−3又はカスパーゼ−7に特異的である[J.Med.Chem.,51(24),8057−8067(2008)]。De Graaf他[Bioconj.Chem.,20(7),1281−1295(2009)]には、アルキン側鎖を有する非天然アミノ酸と、後段でのクリックコンジュゲーションのためのペプチド又はタンパク質への部位特異的導入法が記載されている。実施例7(後記)では、二官能性アルキン−マレイミドについて報告するが、これは、後段でのクリック環化付加に適したアルキン基を導入するためのチオール含有BTMのチオール基との結合に用いることができる。
【0073】
式(IIa)の放射性ヨウ素化アジドは、Bercovici他[Biochemistry,17(8),1484−1489(1978)]の方法で合成することができる。1−アジド−4−[125I]ヨードベンゼン(つまり、Y1が1,4−フェニレン基であるもの)は、Booth他の方法[Biochem.J.,179,397−405(1979)]で以下の通り(I*125I)得ることができる。
【0074】
【化16】

追加の選択肢は、アニリンを出発原料として、求電子置換及び適当な酸化剤を用いて、それを直接放射性ヨウ素化すること(パラ位が最も活性が高いので)である。このようにアニリンをヨウ素化し、次いでジアゾ化して上述のジアゾニウム中間体を得ることができる。或いは、位置特異性を担保すべくトリアルキルスズ前駆体を使用してもよい。
【0075】
式(IIb)のニトリルオキシドは、Ku他[Org.Lett.,(26),4185−4187(2001)]及びその引用文献に記載された方法によって得ることができる。例えば、これらは、通例、α−ハロアルドキシムをトリエチルアミンのような有機塩基で処理することによってインサイチュで生成される。好ましい合成方法並びにその後で所望のイソキサゾールを得るためのクリック環化の条件は、Hansen他[J.Org.Chem.,70(19),7761−7764(2005)]に記載されている。Hansen他は、対応アルデヒドをクロラミン−T三水和物と反応させ、次いで水酸化ナトリウムで脱塩素化することによって、所望のα−ハロアルドキシムをインサイチュで生成させている。対応アルドキシムは、対応アルデヒドをヒドロキシルアミン塩酸塩とpH9〜10で反応させることによって調製される。K.B.G.Torsell ”Nitrile Oxides,Nitrones and Nitronates in Organic Synthesis” [VCH,New York(1988)]も参照されたい。
【0076】
ニトリルオキシド基の不安定性のため、これらは、最も好適には、例えば対応アルデヒド又はマスクされたニトリルオキシド(例えば環状亜硫酸エステル)から式(IIa)の化合物にインサイチュで導入される。
【0077】
【化17】

一実施形態では、Y1が1,4−フェニレンである式(IIa)の化合物を提供するが、かかる化合物は、実施例1(後記)に従って容易に調製される。
【0078】
式(IIa)又は(IIb)の化合物は、好ましくは、以下の式(IVa)又は式(IVb)の前駆体を酸化剤の存在下で放射性ヨウ素イオン原料とで反応させて、それぞれ式(IIa)又は(IIb)の化合物を得ることによって、生成させる。
【0079】
【化18】

式中、Y1、L2及びL3並びにその好ましい実施形態は、上記で定義した通りであり、各Raは独立にC1-4アルキルである。
【0080】
式(IVa)又は(IVb)の前駆体は非放射性である。有機スズ中間体は、Ali他[Synthesis,423−445(1996)]に記載されている。好適な酸化剤は、Bolton [J.Lab.Comp.Radiopharm.,45,485−528(2002)]に記載されている。好ましい酸化剤は、pH約4の過酢酸及びpH約1の過酸化水素/HCl水溶液である。カリウムアルキニルトリフルオロボレート前駆体の合成は、Kabalka他[J.Lab.Comp.Radiopharm.,48,359−362(2005)及びJ.Lab.Comp.Radiopharm.,49,11−15(2006)]に記載されている。カリウムアルキニルトリフルオロボレート前駆体は、空気及び水の両方に安定な結晶性固体であると記載されている。
【0081】
本発明は、化学選択性の高い放射性ヨウ素化法を提供する。連結反応は、BTMの所定部位で起こり、1種類の生成物しか与えない。したがって、この方法は化学選択的である。さらに、アルキン及びアジド官能基はいずれもほとんどの反応条件下で安定であり、大半の一般的ペプチド官能基とは非反応性であり、放射性標識合成の際に必要とされる保護及び脱保護段階が最小限となる。さらに、標識反応の際に形成されるトリアゾール及びイソキサゾール環は加水分解せず、酸化及び還元に対して極めて安定であるが、これは標識BTMが高いインビボ安定性を有することを意味する。トリアゾール環は、大きさ及び極性の点でアミドと同程度であり、その結果、標識ペプチド又はタンパク質は、その天然の対応物の優れた摸倣となる。特に、トリアゾール環は公知のアミド模倣基又はバイオアイソスターである。
【0082】
第1の態様の方法は、好ましくは、式(IIIa)又は(IIIb)の生成物が放射性医薬組成物として得られるように、無菌的に実施される。放射性医薬組成物についての詳細は、第4の態様(後記)で説明する。このように、本方法は無菌製造条件下で実施され、所望の無菌で非発熱性の放射性医薬品生成物が得られる。したがって、重要な部品、特に式(IIIa)又は(IIIb)の生成物と接触する装置の部材(例えば、バイアル及び輸送管)は無菌であるのが好ましい。部品及び試薬は、無菌濾過或いは(例えば、γ線照射、オートクレーブ処理、乾熱又は(例えば、エチレンオキシドによる)化学処理を用いる)最終滅菌を始めとする、当技術分野で公知の方法によって滅菌できる。非放射性成分を予め滅菌しておけば、放射性ヨウ素化された放射性医薬品生成物に関して最小限の数の操作を実施すれば済むので好ましい。しかし、予防策として、少なくとも最終無菌濾過段階を含めておくのが好ましい。
【0083】
式(Ia)、式(Ib)及び式(II)の化合物、Cu(I)触媒、その他の試薬及び溶媒は、各々、無菌健全性及び/又は放射能安全性、さらに適宜ヘッドスペースの不活性ガス(例えば、窒素又はアルゴン)を維持できるとともに、注射器又はカニューレでの溶液の添加及び吸引も行うことのできる密封容器からなる適当なバイアル又は容器に入れた状態で供給される。かかる容器として好ましいのは、気密蓋をオーバーシール(通例アルミニウム製)と共にクリンプオンしたセプタムシールバイアルである。蓋は、無菌健全性を維持したまま皮下注射針で1回又は複数回穿刺するのに適したもの(例えば、クリンプオン式セプタムシール蓋)である。かかる容器は、所望に応じて(例えばヘッドスペースガスの交換又は溶液の脱気のため)真空に蓋が耐えるとともに、酸素や水蒸気のような外部雰囲気ガスを侵入させずに減圧のような圧力変化に耐えるという追加の利点がある。反応容器は好適にはこのような容器及びその好ましい実施形態から選択される。反応容器は、好ましくは生体適合性プラスチック(例えば、PEEK)から製造される。
【0084】
第1の態様の方法は、好ましくは自動合成装置を用いて実施される。「自動合成装置」という用語は、Satyamurthy他[Clin.Positr.Imag.,(5),233−253(1999)]に記載されているような単位操作の原理に基づく自動化モジュールを意味する。「単位操作」という用語は、複雑なプロセスが一連の簡単な操作又は反応に集約されることを意味し、広範な材料に適用できる。かかる自動合成装置は、本発明の方法、特に放射性医薬品生成物が所望される場合の本発明の方法に好ましい。これらは、GE Healthcare社、CTI社.、Ion Beam Applications社(ベルギー国、B−1348ルヴァン・ラ・ヌーブ、シュマン・デュ・シクロトロン3)、Raytest社(ドイツ)及びBioscan社(米国)を始めとする様々な供給業者から市販されている[Satyamurthy他、上掲]。
【0085】
市販の自動合成装置は、放射性医薬品の製造の結果として生じる液体放射性廃棄物用の適当な容器も提供する。自動合成装置は、適切に設計された放射能作業セル内で使用するように設計されているので、通例、放射線遮蔽が設けられていない。放射能作業セルは、潜在的な放射線量からオペレーターを保護するのに適した放射線遮蔽をもたらすとともに、化学薬品蒸気及び/又は放射性蒸気を除去するための換気装置を与える。自動合成装置は、好ましくは、第7の態様(後記)に記載する「カセット」を備える。
【0086】
第2の態様では、本発明は、式(IIIa)又は(IIIb)の化合物を提供する。
【0087】
【化19】

式中、L1、L2、L3、Y1、BTM及びI*は、その好ましい態様を含めて、第1の態様(上述)で定義した通りである。
【0088】
好ましくは、第2の態様の化合物は式(IIIa)のものである。式(IIIa)及び(IIIb)の化合物において、リンカー基(それぞれL2及びL3)は好ましくは存在しない。本発明は、医学用途のための第2の態様で定義される式(IIIa)又は(IIIb)の化合物、好ましくは式(IIIa)の化合物を提供する。
【0089】
第3の態様では、本発明は、第1の態様の方法に有用な式(IIaa)又は(IIbb)の化合物を提供する。
【0090】
【化20】

式中、I*及びY1は、その好ましい態様を含めて、上記で定義した通りである。
【0091】
式(IIaa)又は(IIbb)の化合物は、好ましくは、生体適合性担体と共に医薬組成物として供給することができる。かかる組成物については、その好ましい態様を含めて、第4の態様(後記)で定義する。
【0092】
第4の態様では、本発明は、第2の態様の式(IIIa)又は(IIIb)の化合物の有効量を、生体適合性担体と共に含む放射性医薬組成物を提供する。I*、L1及びBTMの好ましい実施形態は、第1の態様(上述)で定義した通りである。第3の態様の化合物は、好ましくは式(IIIa)のトリアゾールである。
【0093】
「生体適合性担体」は、1種以上の薬学的に許容される補助剤、賦形剤又は希釈剤を含む。これは、好ましくは、式(IIIa)又は式(IIIb)の化合物を懸濁又は溶解できる流体、特に液体であって、組成物が生理学的に認容できるもの、つまり毒性も耐え難い不快感も伴わずに哺乳類の身体に投与することができるようなものである。生体適合性担体は好適には注射可能な担体液であり、例えば、発熱物質を含まない注射用の滅菌水、食塩液のような水溶液(これは注射用の最終製剤が等張性又は非低張性となるように調整するのに都合がよい)、1種以上の張度調節物質(例えば血漿陽イオンと生体適合性対イオンとの塩)、糖(例えばグルコース又はスクロース)、糖アルコール(例えばソルビトール又はマンニトール)、グリコール(例えばグリセロール)その他の非イオン性ポリオール材料(例えばポリエチレングリコール、プロピレングリコールなど)の水溶液である。生体適合性担体は、エタノールのような生体適合性有機溶媒を含んでいてもよい。かかる有機溶媒は、親油性化合物又は製剤を可溶化するのに有用である。好ましくは、生体適合性担体は発熱物質を含まない(パイロジェンフリーの)注射用水、等張食塩水又はエタノール水溶液である。静注用の生体適合性担体のpHは、好適には4.0〜10.5の範囲内にある。
【0094】
第5の態様では、本発明は、インビボイメージング又はインビボ放射線療法に使用するための放射性医薬品の製造のための、第2又は第4の態様の化合物の使用を提供する。好ましくは、使用はインビボイメージング法におけるものであり、さらに好ましくは哺乳類(特にヒト)のインタクトな身体のインビボイメージング、最も好ましくはPET又はSPECTによるイメージングにおけるものである。好ましくは、第5の態様の使用は式(IIIa)又は式(IIIb)の化合物、さらに好ましくは式(IIIa)の化合物を含む。
【0095】
第6の態様では、本発明は、第1の態様の方法を実施するための自動合成装置の使用を提供する。
【0096】
自動合成装置及びその好ましい実施形態は、第1の態様(上述)で記載した通りである。
【0097】
第7の態様では、本発明は、第1の態様の好ましい実施形態の自動合成装置での使用に適した使い捨て無菌カセットであって、第1の態様の方法を実施するのに必要な非放射性試薬を無菌の非発熱原性形態で含むカセットを提供する。
【0098】
第7の態様では使用するための上記方法の好ましい実施形態は、第1の態様で記載した通りである。
【0099】
「カセット」という用語は、合成装置の可動部材の機械的運動がカセットの外側から(即ち、外部から)カセットの動作を制御するように、自動合成装置(以下に定義する)に着脱自在かつ交換可能に装着できるように設計された装置を意味する。好適なカセットは直線状に並んだ弁の列を含み、その各々は倒立セプタムシールバイアルの針穿刺又は気密連結継手によって試薬又はバイアルを装着することができるポートに結合している。各弁は、自動合成装置の対応する可動アームとかみ合うはめ込み型継手を有している。カセットを自動合成装置に装着した場合、アームの外部回転が弁の開閉を制御する。自動合成装置の追加の可動部材は、注射器のプランジャー先端をつかみ、注射器外筒を上昇又は降下させるように設計されている。
【0100】
カセットは融通性の高いものであって、通例は試薬を装着することができる複数の位置、及び試薬のシリンジバイアル又はクロマトグラフィー用カートリッジ(例えば、SPE)を装着するために適した複数のポートを有している。カセットは常に反応容器を含んでいる。かかる反応容器は好ましくは1〜10cm3、最も好ましくは2〜5cm3の容積を有しており、カセットの様々なポートから試薬又は溶媒を移送できるように、カセットの3以上のポートが反応容器に連結されるように構成されている。好ましくは、カセットは直線状に並んだ15〜40個の弁、最も好ましくは20〜30個の弁を有しており、25個の弁が特に好ましい。カセットの弁は好ましくは各々同一であり、最も好ましくは三方弁である。本発明のカセットは放射性医薬品製造に適するように設計され、医薬グレードの材料であって理想的には放射線分解にも耐える材料で製造される。
【0101】
本発明の好ましい自動合成装置は、放射性ヨウ素化された放射性医薬品の所定バッチの製造を実施するのに必要なすべての試薬、反応容器及び機器を含むディスポーザブルつまり使い捨てカセットを備えているものである。かかるカセットは、単にカセットを交換するだけで、自動合成装置が相互汚染のリスクを最小限に抑えながら各種の放射性ヨウ素標識放射性医薬品を製造できる融通性を有することを意味する。カセットアプローチには、装置構成の単純化とそれに伴うオペレーターエラーのリスクの低減、GMP(Good Manufacturing Practice)コンプライアンスの向上、マルチトレーサー能力、生産作業間の迅速な変更、カセット及び試薬の作業前自動診断検査、実施すべき合成と化学試薬との自動バーコードクロスチェック、試薬のトレーサビリティ、使い捨てであり、そのため相互汚染のリスクがなく、改竄及び誤用を防ぐことができるという利点がある。
【0102】
第8の態様では、本発明は、ヒト又は動物の身体の画像を形成する方法であって、第2の態様の化合物又は第3の態様の放射性医薬組成物を投与して、該化合物又は組成物が分布した身体の少なくとも一部分の画像をPET又はSPECTを用いて生成させることを含む方法を提供する。
【0103】
追加の態様では、本発明は、薬剤によるヒト又は動物の身体の治療効果をモニタリングする方法であって、第2の態様の化合物又は第3の態様の組成物を身体に投与し、化合物又は組成物が分布した身体の少なくとも一部の化合物又は組成物の取込みをPET又はSPECTを用いて検出することを含む方法を提供する。
【0104】
この最後の態様における投与と検出は、ヒト又は動物における薬剤治療の効果を求めることができるように、好ましくは薬剤による治療の前後に実施される。薬剤治療が、治療の過程を含む場合、イメージングは治療の途中に実施することもできる。
【実施例】
【0105】
本発明を以下の実施例によって例示する。実施例1は、非放射性(ヨウ素同位体127I)ヨウ素化トリアゾール類似体化合物1及び化合物2の標準試料の合成を例示する。実施例2は、123I−4−ヨードフェニルアジド、本発明のクリック放射性標識化学の重要な前駆体の合成を例示する。実施例3は、2種類の代替クリック環化付加触媒を用いて、本発明のクリック環化付加法を用いた放射性ヨウ素化トリアゾール環(化合物1A)の合成を例示する。合成は室温で実施することができ、穏和な条件下でのBTMの標識に適していることを実証している。実施例4は、放射性ヨウ素化トリアゾール環(化合物2A)の追加の合成法を例示する。実施例5は、非放射性(ヨウ素同位体127I)ヨウ素化イソキサゾール類似体化合物3の標準試料を例示する。実施例6は、本発明のクリック環化付加法を用いた放射性ヨウ素化イソキサゾール環(化合物3A)の合成を例示する。実施例7は、アルキン基の導入のための、BTMのチオール基との共有結合に適した二官能性アルキン−マレイミドの合成を例示する。
【0106】
略語
DCM: ジクロロメタン
DMF: ジメチルホルムアミド
HPLC: 高速液体クロマトグラフィー
MeCN: アセトニトリル
PAA: 過酢酸
RCP: 放射化学純度
RT: 室温
R: 保持時間。

本発明の化合物
【0107】
【化21】

実施例1:N−ベンジル1−(4−ヨードフェニル)−1,2,3−トリアゾリル−4−カルボキサミド(化合物1)及び1−(4−ヨードフェニル)−4−フェニル−1,2,3−トリアゾール(化合物2)の調製
段階(a):N−ヒドロキシスクシンイミジルプロピオレートの調製
1,2−ジメトキシエタン(40mL)中のプロピオル酸(2.1g、30mmol)及びN−ヒドロキシスクシンイミド(3.45g、30mmol)の溶液を、1,2−ジメトキシエタン(35mL)中の1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(6.19g、30mmol)を室温で滴下することによって処理した。添加の途中に混合物が濁った。混合物を一晩撹拌し、固体を濾別し、濾液を蒸発させて5.1gの淡褐色固体を得た。
1H NMR(300MHz,CDCl3)δH2.83(4H,s,2×C2)及び3.38(1H,s,C)。
【0108】
段階(b):N−ベンジルプロピンアミドの調製
ジクロロメタン(100mL)中のN−ヒドロキシスクシンイミジルプロピオレート(5.1g、30mmol)の溶液を、氷浴で30分間冷却した。ベンジルアミン(2.89g、27mmol、2.95mL)を2〜3分間滴下した。混合物を、氷浴を溶かすことによって室温まで加温させた。この間に、反応に沈殿が生じた。次いで、混合物を一晩撹拌した。固体を濾別し、濾液を蒸発させて5.4gの暗黄色の油を得た。約2.2gの物質をシリカゲルの層に通して濾過し、ジクロロメタンで溶出した。こうして1.3g(27%)の淡黄色固体を得た。1H NMRによって、この物質が所望の物質と一致することが判明した。純度80〜90%。
1H NMR(CDCl3,300MHz)δH 2.80(1H,s,CC)、4.48(2H,d,J=2.7Hz,C2)、6.19(1H,br s,N)、及び7.33(5H,m,5×Ar
【0109】
段階(c):1−(4−ヨードフェニル)−4−フェニル−1,2,3−トリアゾール(化合物2)及びN−ベンジル1−(4−ヨードフェニル)−1,2,3−トリアゾリル−4−カルボキサミド(化合物1)の調製
メタノール(6mL)中の硫酸銅(50mg、0.2mmol)及びアジ化ナトリウム(1.56mg、2.4mmol)の暗黄色の撹拌溶液に、4−ヨードフェニルボロン酸(496mg、2mmol)を加えた。混合物を24時間激しく撹拌した。反応の経過に伴って、暗黄色の溶液が、黄色を帯びた緑色の微細懸濁液になった。水(7mL)を加えて、混合物を緑色の乳状懸濁液にした。これを2部に分けた。各懸濁液をアスコルビン酸ナトリウム(99mg)で処理し、一方は(A)N−ベンジルプロピンアミド(159mg)で処理し、他方(B)はフェニルアセチレン(102mg、110μL)で処理した。2種類の混合物を、室温で6時間激しく撹拌した。数分で混合物は緑色の乳状懸濁液から黄色の乳状懸濁液へと変化し、次いで分離して水/メタノール混液中に懸濁した粉末状固体が得られた。固体を濾別し、水で洗浄し、一晩真空乾燥させて2種類の所望の物質を得た。
A)化合物1(140mg、35%)、灰白色粉末。1H NMR(300MHz,D6−DMSO)4.49(2H,d,J=6.4Hz,C2)、7.20〜7.35(5H,m,CH265)、7.80(2H,d,J=8.7Hz,1−(2,6−Ar))、7.98(2H,d,J=8.7Hz,1−(3,5−Ar))、9.26(1H,t,J=6.4Hz,N)、及び9.32(1H,s,5−Ar)。
1613IN4Oのm/z計算値404.0;実測値404.5。
B)化合物2(190mg、55%)、淡黄色粉末。1H NMR(300MHz,D6−DMSO)7.39(1H,t,J=7.4Hz,4−(4−ArH))、7.51(2H,t,J=7.4Hz,4−(3,5−ArH))、7.79(2H,d,J=8.4Hz,1−(2,6−Ar))、7.94(2H,d,J=7.4Hz,4−(2,6−ArH))、8.02(2H,d,J=8.4Hz,1−(3,5−Ar))、及び9.35(1H,s,5−Ar)。
1410IN3のm/z計算値347.0;実測値347.6。
【0110】
実施例2:[123I]−4−ヨードフェニルアジドの調製
【0111】
【化22】

これは、Booth他[Biochem.J.,179,397−405(1979)]の方法に基づく。
【0112】
一塩化ヨウ素(ICl)試薬を、以下の通りに調製した。10mLの1M塩酸に、塩化ナトリウム(1.168g)、ヨウ化カリウム(20.8mg)及びヨウ素酸カリウム(13.4mg)を溶解した。次いで、この橙色の溶液1.0mLを、3.3mMヨウ素酸カリウム溶液(水10mL中7.06mg)1.2mL、37%塩酸0.9mL及び2M塩化ナトリウム3.7mLを含有するシンチレーションバイアルに移した。淡黄色/橙色の溶液を−4℃で保存した。
【0113】
約5μLのヨウ化ナトリウム[123I](137MBq)に、水酸化ナトリウム水溶液(20μL 0.01M)、0.5M塩酸(0.1mL)に溶解した4−ヨードアニリン(100μg、4.6×10-7モル)及び一塩化ヨウ素試薬(20μL)を加えた。反応混合物を室温で20分間インキュベートした。HPLC分析で、4−[123I]ヨードアニリン(tR5分、系A)が>90%のRCPで確認された。
【0114】
氷浴中で冷却した粗[123I]−4−ヨードアニリンに、亜硝酸ナトリウム(水0.5mL中1.6mg、9.4×10-7モル、20μL)を加えた。20分後、尿素(水0.5mL中2.5mg、1.67×10-6モル、20μL)及びアジ化ナトリウム(15μL、1.42×10-6モル、水0.5mL中3.12mg)を加えた。10分後、氷を除去し、濁った溶液をシンチレーションバイアルに移した。反応バイアルを2×0.5mLアセトニトリルで濯ぎ、同じシンチレーションバイアルに移した。得られた透明な溶液を、10mLの水で希釈し、tC18−ライト(2.5mLのMeCN及び5mLの水で前処理)にロードし、0.6mLのアセトニトリルで溶出すると、精製標品4−[123I]ヨードフェニルアジドが55%の収率(崩壊補正せず)、>90%のRCP(HPLC tR13分、系A)で得られた。
【0115】
【表1】

実施例3:[123I]−N−ベンジル1−(4−ヨードフェニル)−1,2,3−トリアゾリル−4−カルボキサミド(化合物1A)の調製
選択肢1:銅粉体を使用
【0116】
【化23】

この方法は、Glaser他[Bioconj.Chem.,18(3),989−993(2007)]に基づく。
【0117】
Wheatonバイアル中の銅粉体(−40メッシュ、200mg)に、リン酸ナトリウム緩衝液(200μL、pH6、50mM)、N−ベンジルプロピンアミド(DMF0.1mL中1.0mg、6.3×10-6モル)及び0.2mL MeCN中の4−[123I]ヨードフェニルアジド(22MBq)を加えた。反応混合物を84℃で20分間加熱した。冷却した後、10μLの試料をHPLCで分析したところ、84%のRCPで目的生成物が確認された(HPLC tR約9分、系A、実施例2)。粗標品を、アセトニトリル中の0.1% TFA0.5mL及び水中の0.1% TFA0.6mLで希釈し、目的生成物を、100%のRCPで、HPLC(系A、実施例2)によって58%の収率(崩壊補正せず)で単離した。精製標品と基準化合物1(実施例1)との共溶出が観察された。
【0118】
この反応は室温でも実施でき、収率は17%でRCPは100%であった。
【0119】
選択肢2:硫酸銅(II)及びアスコルビン酸ナトリウムを使用
Wheatonバイアル中の硫酸銅(II)溶液(50μL、0.045M溶液)に、アスコルビン酸ナトリウム溶液(50μL、0.15M溶液)、リン酸ナトリウム緩衝液(100μL、pH6、50mM)、N−ベンジルプロピンアミド(DMF0.1mL中1.0mg、6.3×10-6モル)及びMeCN中の4−[123I]ヨードフェニルアジド0.2mL(22MBq)を加えた。反応混合物を84℃で20分間加熱した。冷却した後、粗標品をアセトニトリル中の0.1% TFA 0.5mL及び水中の0.1%TFA0.6mLで希釈し、HPLC(系A、実施例2)によって目的生成物を56%の収率(崩壊補正せず)、100%ののRCPで単離した。精製標品と基準化合物1(実施例1)との共溶出が観察された。
【0120】
実施例4:[123I]−1−(4−ヨードフェニル)−4−フェニル−1,2,3−トリアゾール(化合物2A)の調製
【0121】
【化24】

この方法は、Glaser他[Bioconj.Chem.,18(3),989−993(2007)]に基づく。
【0122】
Wheatonバイアル中の銅粉体(−40メッシュ、200mg)に、リン酸ナトリウム緩衝液(200μL、pH6、50mM)、フェニルアセチレン(DMF0.1mL中0.64mg、6.3×10-6モル)及び最後に、MeCN中の4−[123I]ヨードフェニルアジド0.2mL(28MBq)を加えた。反応混合物を84℃で20分間加熱した。冷却した後、10μLの試料をHPLCで分析したところ、85%のRCPで目的生成物が確認された(HPLC tR22.5分、系B)。粗標品を、アセトニトリル中の0.1% TFA0.4mL及び水中の0.1% TFA0.7mLで希釈し、HPLC(系B)によって目的生成物を48%の収率(崩壊補正せず)、100%のRCPで単離した。精製標品と基準化合物2(実施例1)との共溶出が観察された。
【0123】
【表2】

実施例5:3−(4−ヨードフェニル)−5−フェニルオキサゾール(phenylioxazole)(化合物3)の合成
【0124】
【化25】

J.Org.Chem. 70,7761−7764(2005)参照。
【0125】
t−ブタノール(8mL)及び水(8mL)中のヒドロキシルアミン塩酸塩(79mg、1.13mmol)の溶液に、4−ヨードベンズアルデヒド(250mg、1.07mmol)、次いで水酸化ナトリウム(45mg、1.05mmol)を加え、混合物を室温で30分間撹拌した。次いで、クロラミン−T三水和物(318mg、1.13mmol)を一度に加え、続いて、硫酸銅(7.5mg、0.03mmol)及び銅削り屑(約20mg)、エチニルベンゼン(115mg、1.13mmol、120μL)を加えた。2N HClを数滴添加してpHを約6に調整し、室温で18時間撹拌した。反応混合物を氷/水(30mL)に注ぎ込み、希水酸化アンモニウム溶液(10mL)を加え、生成物を濾過によって回収した。生成物をDCMに再溶解し、シリカゲルの層に通し、20%酢酸エチル:石油エーテル(75mL)で溶出すると、不純物を含む灰白色固体が得られた。この物質を、さらに、シリカゲルクロマトグラフィーで、石油中の5〜10%EtOAcで溶出して精製した。こうして白色固体(10mg、3%)を得た。1H NMR(300MHz,CDCl3):δH 6.80(1H,s)、7.47(3H,m)、7.60(2H,m)、及び7.82(4H,m);13C NMR(75MHz,CDCl3):δH 96.4、97.2、125.9、127.3、128.4、128.6、129.0、130.4、162.2、及び170.7。
【0126】
実施例6:[123I]−3−(4−ヨードフェニル)−5−フェニルイソキサゾール(化合物3A)の調製
段階(a):[123I]4−ヨードベンズアルデヒドの調製
5.2μLのヨウ化ナトリウム[123I](138.1MBq)に、酢酸アンモニウム緩衝液(100μL、pH4、0.2M)、ヨウ化ナトリウム[127I](51μL、0.01M水酸化ナトリウム中の10mM溶液、5.1×10-7モル)、過酢酸(11μL、50mM溶液、5.5×10-7モル)及び4−トリブチルスタンニルベンズアルデヒド(100μL、200μg、アセトニトリル中の2mg/mL溶液、5.06×10-7モル)を加えた。追加の50μLのアセトニトリルを加えて、4−トリブチルスタンニルベンズアルデヒドの溶解性を促進し、反応混合物を室温で約20分間インキュベートしてから、HPLC分析を行ったところ、[123I]−4−ヨードベンズアルデヒド(tR約8分、系A、実施例2)が>90%のRCPで確認された。反応混合物に、1mLのアセトニトリル及び10mLの水を加え、得られた溶液をtC−18ライトカートリッジ(2.5mLのメタノール及び5mLの水で前処理)にロードした。1:1 t−ブタノール:水0.5mLで、[123I]4−ヨードベンズアルデヒドが溶出し、収率は48%(崩壊補正せず)であった。
【0127】
段階(b):化合物3Aの調製
【0128】
【化26】

Wheatonバイアル中の精製[123I]−4−ヨードベンズアルデヒド(0.5mL)に、ヒドロキシルアミン塩酸塩(74μg、水中の4mg/mL溶液18.5μL、1.06×10-6モル)及び水酸化ナトリウム(106.5μg、水中の10mg/mL溶液10.6μL、2.65×10-6モル)を加えた。pHを約10と測定し、反応混合物を室温で30分間撹拌した。HPLC分析によって、オキシムと考えられる親水性種への81%の転化が確認された(tR7.0分、系A、実施例2)。粗オキシムに、以下の順序、クロラミン−T三水和物(750μg、水中の100mg/mL溶液7.5μL、2.66×10-6モル)、硫酸銅(II)(3.8μg、水中の0.5mg/mL溶液7.6μL、1.53×10−8モル)、−40メッシュ銅粉体(50mg)、リン酸ナトリウム緩衝液(100μL、pH6、50mM)及びフェニルアセチレン(DMF0.1mL中の0.64mg、6.3×10-6モル)を添加した。反応混合物のpH測定値は6であり、反応混合物を80℃で20分間加熱した。冷却後、10μLの試料をHPLCで分析したところ、目的生成物の生成が11.6%のRCPで確認された(HPLC tR19.5分、系A、実施例2)。粗標品を、アセトニトリル中の0.1%TFA0.4mL及び水中の0.1%TFA0.4mLで希釈し、HPLC(系A、実施例2)によって目的生成物を3%の収率(崩壊補正せず)、100%のRCPで単離した。精製標品と基準化合物3(実施例5)との共溶出が観察された。
【0129】
実施例7:マレイミド−アルキン二官能性リンカー(1)の合成
【0130】
【化27】

無水DMF1.0mLに、N−[β−マレイミドプロピルオキシ]スクシンイミドエステル(50mg、1.25当量)を溶解した。無水DMF0.5mL及びジイソプロピルエチルアミン(DIEA)26μLに、3−ブチン−1−アミンヒドロクロリド(16mg、1.0当量)を溶解した。このアミン溶液を、スクシンイミドエステルに滴下し、その間エステル溶液は氷浴に保持した。混合物を0℃で10分間撹拌した。溶液を室温まで加温し、18時間撹拌した。溶媒を真空下で蒸発させ、残渣を5mL CH2Cl2に溶解した。有機溶液を、ブライン(3×5mL)で抽出し、MgSO4で乾燥させた。溶媒を減圧下で除去し、粗生成物を、フラッシュクロマトグラフィー(シリカ、MeOH/CH2Cl2)で精製した。生成物(1)を、試料を最小限の量のCH2Cl2(約2mL)に溶解した後、ヘキサンで3回洗浄することによってグリースから精製した。生成物(1)は、綿毛状の白色固体として沈殿した。生成物の特性決定は、1H−NMRを用いて行った。1H−NMR。収率:8.2mg(25%)。1H−NMR(500MHz,CDCl3):δ2.02(s,1)、2.41(t,J=5Hz,2)、2.57(t,J=5Hz,2)、3.42(td,J=5Hz,2)、3.88(t,J=5Hz)、5.90(bs,1)、6.73(s,2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体ターゲティング部分の放射性ヨウ素化の方法であって、
(i)次の式(I)の化合物を準備する工程と、
【化1】

(ii)クリック環化付加触媒の存在下で、式(I)の化合物を以下の式(IIa)又は式(IIb)の化合物と反応させて、それぞれ以下の式(IIIa)又は(IIIb)のコンジュゲートを得る工程と
【化2】

【化3】

を含む方法。
式中、
*は、123I、124I又は131Iから選択されるインビボイメージングに適したヨウ素の放射性同位体であり、
1、L2及びL3は各々独立にリンカー基であって、存在していても、存在していなくてもよく、
1は−Ar1−又はX1−であって、−Ar1−はC3-10アリーレンであり、−X1−は−CH=CH−(CH2n−(Ar1j−又はCH=CH−(Ar1j−(CH2n−であり、jは0又は1であり、nは値0〜4の整数であるが、Y1が−X1−のときは、I*はX1の−CH=CH末端に結合しており、
BTMは生体ターゲティング部分である。
【請求項2】
*123Iである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
BTMが、1個のアミノ酸、3〜80量体ペプチド、酵素基質、酵素アンタゴニスト、酵素アゴニスト、酵素阻害剤又は受容体結合化合物である、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
BTMがRGDペプチドである、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
BTMが、次式のフラグメントを含むペプチドである、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
【化4】

【請求項6】
BTMが、次の式(A)のペプチドである、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【化5】

【請求項7】
クリック環化付加触媒が、元素態銅を含むCu(I)触媒である、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
元素態銅が、
(i)0.001〜1mmの範囲内の粒径を有する銅粉体、
(ii)0.01〜1.0mmの範囲内の直径を有する銅線
を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
式(I)の化合物が、次の式(Ia)の化合物の脱保護によって生成する、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【化6】

式中、M1はアルキン保護基である。
【請求項10】
式(IIa)又は(IIb)の化合物が、以下の式(IVa)又は式(IVb)の前駆体を放射性ヨウ素イオン原料と酸化剤の存在下で反応させて、それぞれ式(IIa)又は(IIb)の化合物を得ることによって、生成する、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の方法。
【化7】

式中、Y1、L2及びL3は、請求項1で定義した通りであり、各Raは独立にC1-4アルキルである。
【請求項11】
式(IIIa)又は(IIIb)の生成物が放射性医薬組成物として得られるように、当該方法が無菌的に実施される、請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
自動合成装置を用いて実施される、請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
次の式(IIIa)又は(IIIb)の化合物。
【化8】

式中、L1、L2、L3及びY1は、請求項1で定義した通りであり、I*は請求項1又は請求項2で定義した通りであり、BTMは請求項1又は請求項3乃至請求項6のいずれか1項で定義した通りである。
【請求項14】
請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の方法に有用な、次の式(IIaa)又は(IIbb)の化合物。
【化9】

式中、I*、Y1、L2及びL3は請求項1又は請求項2で定義した通りである。
【請求項15】
有効量の請求項13記載の化合物を生体適合性担体と共に含む放射性医薬組成物。
【請求項16】
インビボイメージング又はインビボ放射線療法の方法に使用するための放射性医薬品の製造のための請求項13又は請求項14記載の化合物の使用。
【請求項17】
請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の方法を実施するための自動合成装置の使用。
【請求項18】
請求項17記載の自動合成装置法における使用に適した、単回使用の無菌カセットであって、無菌非発熱性形態の、請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の方法を実施するのに必要な非放射性試薬を含むカセット。
【請求項19】
ヒト又は動物の身体の画像を形成する方法であって、請求項13記載の化合物又は請求項15記載の組成物を投与して、化合物又は組成物が分布した身体の少なくとも一部分の画像をPET又はSPECTを用いて生成させることを含む方法。
【請求項20】
薬剤によるヒト又は動物の身体の治療効果をモニタリングする方法であって、請求項13記載の化合物又は請求項15記載の組成物を身体に投与し、化合物又は組成物が分布した身体の少なくとも一部の化合物又は組成物の取込みをPET又はSPECTを用いて検出し、投与と検出を任意ではあるが好ましくは薬剤による治療の前後又は途中に実施することを含む方法。

【公表番号】特表2013−513578(P2013−513578A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542557(P2012−542557)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069341
【国際公開番号】WO2011/070136
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【Fターム(参考)】