説明

リチウムループのトリチウム除去装置

【課題】トリチウムを大気中に拡散させることなく、リチウムターゲット流を形成するリチウムループの中からトリチウムを大気に拡散させることなく、安全にトリチウムを除去する。
【解決手段】リチウムループのトリチウム除去装置は、リチウム流に陽子線を衝突させ、中性子を発生する中性子源1と、この中性子源1を通過したリチウムを流路9を通して流入させ、一時的に貯留するリチウムタンク11と、このリチウムタンク11のリチウムを供給側の流路9’を通して前記中性子源1に還流し、供給するリチウムポンプ17とを有する。トリチウムを含む水素ガスが集まりやすいリチウムタンク11とリチウムポンプ17を不活性ガスを含む密閉容器7内に封入し、万が一密閉容器7にトリチウムを含む水素ガスが漏れても水素同位体除去フィルタによって除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、 例えば癌治療を目的として適用されるホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において、中性子源となるリチウムターゲットで発生する水素とその同位体元素であるトリチウム(三重水素)を、リチウムが循環流通するリチウムループから除去するトリチウム除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、0.5eV以下の比較的低エネルギーの熱中性子線をガン組織に照射し、予めガン組織に取り込ませた中性子捕獲断面積が大きいホウ素同位体(10B)化合物の10Bが中性子捕獲核反応によって生成するα線(ヘリウム核)とリチウム核(Li)の二次粒子線によって、選択的にガン細胞を殺すことを目的とした治療法である。α線等の飛程が非常に短い為、10Bを取り込んだ細胞だけを破壊するので極めて副作用の少ない癌治療として着目されている。
【0003】
当初のホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、原子炉からの中性子を減速して利用していたが、現在では陽子を加速器で加速して、水冷した固体のBeに陽子を照射して発生する中性子を利用するものと液体リチウムに陽子を照射して発生する中性子を利用するものがある。ここでは後者の液体リチウムに陽子を照射して発生する中性子を利用する方式にて説明する。以下説明に出てくるターゲット材とは、陽子が照射される物体の事である。
【0004】
ターゲット材に液体リチウムを用いる方式は、循環することによって連続除熱ができて、照射エネルギーを8MeV以下に選定すると核反応で発生する有害生成物が少なくなる。本件では、照射によって7LiがBeになるが、半減期が53日あまりで、またLiに戻り連続的に使用することが出来る。Beは放射性物質では有るが、リチウム中に溶けた状態でリチウムループ内に閉じ込められ、時間と共に非放射性のLiに戻る。更に陽子の照射エネルギーを2.0MeV以下にすれば減速する必要がない中性子が発生する領域になり、従ってこの2.0MeV以下、かつ中性子が発生する1.881MeV閾値反応エネルギー以上の照射エネルギーにするのが良い。この照射エネルギーに依る核反応で発生するBeはホウ素中性子捕捉療法(BNCT)用中性子発生源としては、2.5MeVに比べて数十分の1であり、このエネルギー帯の陽子を用いるのが最も良い。
【0005】
このホウ素中性子捕捉療法(BNCT)では、リチウムターゲットに陽子を衝突させることにより発生する0.5eV以下の熱中性子線を使用する。このとき中性子減速の必要がない閾値近傍反応の例として、陽子のエネルギーを2MeVとし、その電流を20mAとすると、40kWの大きな熱エネルギーがリチウムに与えられることになる。この大きな入熱でもリチウムが蒸発せず、連続運転出来る様にする為には、リチウムが中性子源のターゲット部を常に高速で安定した厚みで通過してリチウムの温度上昇を押さえ、かつリチウムの閉流路であるリチウムループの途中にリチウムを除熱する機器を備えたリチウムループを構成し、ターゲットとなるリチウムがこのリチウムループをたえず循環する必要がある。中性子源のターゲット部のリチウムは、陽子の照射方向に発生する中性子の軌道を乱さずかつ中性子の減衰を押さえる為にできるだけ薄く、且つブラックピークと呼ばれる照射された陽子が急激に吸収される深さの0.25mm以上の厚みである0.5mm程度の薄い層流からなる安定したリチウムターゲット流を形成し、ここに陽子線が当てられ、中性子を発生する。
【0006】
このような中性子源では、リチウムターゲット流に陽子が衝突することにより、治療の目的に使用する中性子が発生する。またこのとき陽子そのものが周囲のリチウムの電子を取り込み水素に戻り、この水素の一部はリチウムに溶けるが、多くがリチウムと反応して水素化リチウムとなる。照射陽子電流を20mAとして、陽子が全て水素に戻ってもその量は、1年間連続照射しても僅か6.53gであり、例えばリチウムが25Kg在ったとして、全ての水素が水素化リチウムになるとして水素化リチウム量を求めると52.24gとなり、反応に必要な全ての水素量の0.21%に過ぎずリチウム中に水素化リチウムとして溶けた状態に成っている。一方陽子照射でリチウムの中に発生した中性子は、リチウムの中に7.4%含まれるリチウム同位体のLiに取り込まれ、核反応によって水素同位体である三重水素(トリチウム)が僅かに発生する。1年間連続陽子照射によって発生するトリチウムの量は、更に少なくて2.44μgほどである。とは言えトリチウムは、半減期が12.3年と比較的長いので、このトリチウムをそのまま大気に放出するのは困難であり、トリチウムを除去して貯蔵し大気放出させないか、放出する場合には減衰させ法令基準値以下の濃度にしてから放出しなければならない。このトリチウムも同様に一部リチウムに溶けるが、殆どがリチウムと反応してトリチウム化リチウムとなる。
【0007】
このようにトリチウムは非常に少ないので、リチウムが25Kg在った場合にその全てのリチウムと反応する水素量からすれば、更に微々たるものになるのでトリチウム化リチウムとしてリチウム中に溶けた状態に成っている。これらリチウムと反応した水素化リチウムもトリチウム化リチウムも温度的には安定であり、686℃まで分解しないので、ガスとして真空排気系やアルゴンカバーガス系に出てくる量は、非常に少ない。
【0008】
しかし、僅かでもリチウムから真空排気系やアルゴンカバーガス系に放出される場合もあるので、前記のホウ素中性子捕捉療法(BNCT)では、発生するトリチウムが大気中に放出されないように、リチウムループの中からこの放射性物質のトリチウムを除去する必要がある。また、照射時のリチウム流れ中に発生した水素並びに水素同位体は、ほとんどが分解しづらいリチウム化合物になるが、僅か水素原子状態で溶けているものは、圧力が低い所などでガス化する可能性があり、例えばリチウム流れの中で圧力が低いターゲット部からクエンチ面までの真空中の流れ部や、クエンチ部で発生したガスが流速の遅いクエンチタンク部で気泡化して上昇したり、ポンプ入口部の負圧部に発生する可能性がある。発生したガスはポンプ入口部に於いてキャビテーション(Cavitation)を発生させたり、バルブ直後で脈流を発生させたり、ノズル直後で流れを変動させたり、リチウム流れを不安定化する。従って、リチウム流れを安定に循環するためにも、この水素並びに水素同位体のガスを除去しておく必要がある。
【0009】
従来において、原子力施設等から生じるトリチウムを除去するための技術としては、下記特許文献1〜4に記載されたように、幾つかのものが既に提案されている。しかしながら、従来においては、前述したような中性子源のためのリチウムループの中からトリチウムを除去する手段については提案されていない。このため、前述のホウ素中性子捕捉療法(BNCT)を医療機関に普及させるために、トリチウムを大気中に拡散させることなく、且つ安定したリチウムターゲット流を形成し、更にリチウムループの中から安全にトリチウムを除去することが出来る、トリチウム除去装置付きリチウムターゲットシステムの開発が望まれている。また、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)以外にも加速器駆動型中性子源用ターゲットシステムとして実用化が期待されている。
【0010】
一般に、トリチウム(T)は、水素が存在する処ではトリチウム分子としてほとんど存在せず、ほとんどが水素と結合してHTの状態で存在し、分離することが難しく、かつ性質がほとんど変わらないのでトリチウムを除去するときは水素と一緒に処理しなければならない。水素同位体のうち一般的な水素を軽水素と呼び、重水素(デューテリウム)と三重水素(トリチウム)を区別しているが、ここでは軽水素を単に水素と呼ぶ。また、水素と三重水素も含むガスを水素同位体ガスと呼び、この装置では常に軽水素も含まれるが放射性物質のトリチウムを際立たせる為、トリチウム除去が目的の場合はあえて水素同位体ガスと呼ばずにトリチウムと言う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−127718号公報
【特許文献2】特開平06−331791号公報
【特許文献3】特開平05−341096号公報
【特許文献4】特開平02−93399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は前記従来のトリチウム除去技術における課題を踏まえ、リチウムターゲット流を形成するリチウムループの中から水素と水素同位体のトリチウムを大気に拡散させることなく、安全にトリチウムを除去することが出来る水素と水素同位体除去装置を用いる事によって、リチウム内に発生するガスがポンプ入口でキャビテーションを発生させず、またバルブやノズルでも脈動や流体振動が発生せず安定したリチウム流れが得られるリチウムターゲットシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は前記の目的を達成するため、リチウムが循環流通するリチウムループのうち、陽子が物質と衝突せずリチウムターゲット部まで到達する為に、リチウムターゲット部を差動排気しながら真空を保つ真空ポンプと真空ポンプの排気側に水素同位体除去フィルタと水素貯蔵タンクを備え、中性子源であるリチウムターゲット部のリチウム内で発生する水素とトリチウムを含むリチウムを一旦貯めてリチウム液頭によるポンプ入口部の必要NPSH(正味吸込ヘッド:Net Positive Suction Head)を確保しつつ、更にタンク内で流れを減速してリチウム中にある水素とトリチウムガスを浮き上がらせてタンク上部に集め、リチウム内のガス成分を除去してガスに依るキャビテーションが発生しない様にし、タンク内に集められた水素とトリチウムを含むガスを吸引しガス圧調整するガス系を有し、リチウムを再び中性子源に戻すポンプの部分も含めてトリチウムガスの集まっている機器の周囲をアルゴン等の不活性ガス雰囲気の気密な密閉空間の中に閉じ込め、この密閉容器にリチウムループとそのアルゴンガス系からトリチウムが万が一漏れてしまった場合でも密閉容器の中からキャリアガスと共に排出されるトリチウムを水素同位体除去フィルタで除去するようにした。
【0014】
すなわち、本発明によるリチウムループのトリチウム除去装置は、リチウム流に陽子線を衝突させ、中性子を発生する中性子源1と、この中性子源1を通過したリチウムを流路9を通して流入させ、流路9にリチウム流のクエンチ面を作り、クエンチ面が出来る流路9の出口が一時的に貯留するリチウムタンク11中に接続され、このリチウムタンク11にガス圧を掛けられる様にし、このリチウムタンク11のリチウムを供給側の流路9’を通して前記中性子源1に還流し、供給するリチウムポンプ17とを有し、リチウムループのガス系に溜まるトリチウムを含む水素ガスを水素同位体除去フィルタによって除去し、更に前記リチウムタンク11とリチウムポンプ17を不活性ガスを含む密閉容器7内に封入し、この密閉容器7に水素同位体除去フィルタを介して排気系流路を接続したしたものである。
【0015】
この密閉容器7に接続されたトリチウム除去装置は、リチウムタンク11とリチウムポンプ17やそのガス系等から万が一トリチウムが漏れ出した全気体を、一旦不活性ガスを含む密閉容器7内に封入し、この密閉容器7に含まれる気体を、水素同位体除去フィルタを通して排気系流路に放出する。このため、リチウムタンク11とリチウムポンプ17等から万が一漏れ出した場合でも漏れ出す気体に含まれるトリチウムを除去したうえで、当該気体を大気に放出することが出来る。
【0016】
トリチウムガスを除去したガス系の当該気体中にトリチウムがどの程度含まれているかを、接続配管に気密性の優れた四重極質量分析計Q-massを差動排気して取り付けて、その分圧を四重極質量分析計により正確に測定し、その分圧に応じて基準値以下になるように空気にて希釈し、さらに希釈されたその濃度をトリチウムモニタ38で監視しながら排気する。
【0017】
トリチウムガスが多い場合は、一旦使用済みアルゴンタンク28,29,37に貯めて、改めてその分圧を四重極質量分析計Q-massにより正確に測定し、排気ガスを絞ってから、その分圧に応じて基準値以下になるように空気にて希釈し、さらに希釈されたその濃度をトリチウムモニタ38で監視しながら排気する。
【0018】
トリチウムガスが集まり易いリチウムタンク11とリチウムポンプ17とそのガス系は、不活性ガスを含む密閉容器7内に封入され、万が一漏れたガスもガス系からガス圧調整のため吸引したガスも水素同位体除去フィルタを介してトリチウムを除去しているため、それらから直接大気に拡散することはない。
【0019】
中性子源1からリチウムタンク11に至る排出側の流路9には、中性子源1側の気相とリチウムタンク11側の液相との境界を形成するクエンチ面8を設け、リチウムタンク11内の僅かな圧力により、同クエンチ面8の位置を保持する。こうすることにより、中性子源1からリチウムタンク11に流れ込むリチウムがリチウムタンク11内に気泡を持ち込むのを極力防止することが出来るだけでなく、合せてリチウムタンク11内の僅かな圧力により流路9内のクエンチ面8の位置を僅かに高く保持し、リチウム液頭とリチウムタンク11内の圧力を合せてポンプ入口のNPSHを高くし、減圧下でもキャビテーションを発生させずにポンプを安定に運転出来るようにする。
【0020】
リチウムの流路9、9’には、密閉容器7の壁部を通る部分にレベル計10、24を設け、それらリチウムの流路9、9’におけるリチウムの存在を監視する。特に、排出側のリチウムの流路9に設けた前記クエンチ面8の部分には、そのクエンチ面8の高さを監視するためレベル計10を設け、安定した運用を実現する。
【発明の効果】
【0021】
以上説明した本発明により、リチウムループやカバーガスのアルゴンガス系から万が一これらからトリチウムが漏れた場合のトリチウム除去装置は、陽子線照射でリチウム流に発生する水素と水素同位体であるトリチウムガスを取り除き、中性子源1のリチウムターゲット部が真空中で運用されるのでポンプ入口部のNPSHが低い状態でもガスによるガスキャビテーションの発生をおさえ、クエンチ面を流路9内に設け、更にリチウムタンク11内のリチウム流速を遅くしてガスを浮上させてリチウムタンク11上部のアルゴンガスから取り出し、トリチウムガスの多い場所であるリチウムタンク11とリチウムポンプ17等から万が一トリチウムが漏れ出した場合でも気体に含まれるトリチウムを除去したうえで、当該気体を大気に放出することが出来るので、中性子源1から排出されるリチウムに含まれるトリチウムが外部に漏れ出すことが無いようにしてリチウムを安全に安定して循環供給することが出来るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】トリチウム除去装置を装備したリチウムループの系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明では、中性子源から排出されたリチウムを一旦貯めるリチウムタンク11と、このリチウムタンク11から再びリチウムを中性子源1に戻すポンプの部分をアルゴン等の不活性ガス雰囲気の気密な密閉空間の中に閉じ込め、リチウムループのガス系に溜まったトリチウムをトリチウム除去フィルタで除去し、更にトリチウムを含む水素同位体が集まりやすいリチウムタンクやポンプ周辺から万が一トリチウムが漏れ出した場合でも、この密閉容器の中から排出されるトリチウムをトリチウム除去フィルタで除去することにより、前記の目的を達成するものである。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、実施例をあげて詳細に説明する。
【0024】
図1に示すように、中性子を発生する中性子源1は、陽子線を加速する加速器2と中性子を発生する中性子発生室5とがゲートバルブ4を介して区画されている。前者の加速器2側は、1×10−5Pa程度の真空に減圧され、本来なら中性子発生室5側も加速された陽子が気体と衝突しないように高真空にしたいが、高真空にするとリチウムの蒸発が促進される為に、止むを得ず陽子と気体とが衝突しづらいリチウムの蒸気圧程度の1×10−3Pa程度の真空に減圧維持せざるを得ないので、加速器2側と中性子発生室5側との短い間に2桁の圧力差を強制的に作り出さなければならない。前記ゲートバルブ4から中性子発生室5側に圧力差を付きやすくするための作動排気オリフィスを設けた陽子通過管3を介して連絡されている。この陽子通過管3は、リチウム蒸気を捕獲する為の金網が充填されたリチウム蒸気トラップ27、ターボ分子ポンプ26、ドライポンプDRPにより減圧される。
【0025】
このドライポンプDRPの排気側には、Mg−Ni等の水素吸蔵合金からなる水素同位体フィルタ30、バルブ、四重極形質量分析計Q-massを介してターボ分子ポンプTMP及びドライポンプDRPが接続されている。四重極形質量分析計Q-mass前のバルブの間にはオリフィス33が設けられ差動排気して四重極形質量分析計Q-massが動作する圧力にする。この四重極形質量分析計Q-massによって水素同位体除去フィルタ以降のトリチウム除去状態を確認し、前記陽子通過管3からリチウム蒸気トラップ27を通してターボ分子ポンプ26とドライポンプDRPにより吸引された気体は、Mg−Ni等の水素吸蔵合金からなる水素同位体フィルタ30を通して水素・水素同位体が除去された後、四重極形質量分析計Q-massで水素分圧が測定され、ドライポンプDRPにより使用済みアルゴンタンク37または使用済みアルゴンタンク28に排出され、一部のガスはオリフィス33を介して、残りの気体は使用済みアルゴン排気タンク37に排気される。使用済みアルゴンタンク28が満タンになったら、ドライポンプDRPによりもう一つの使用済みアルゴンタンク29へ排気する。
【0026】
またこのガス流路系にはバイパス通路が設けられているが、この流路系はリチウムループや真空ポンプ等のメンテナンスによって系内に空気が入った場合に使うルートであり、前記陽子通過管3からリチウム蒸気トラップ27を通してターボ分子ポンプ26とドライポンプDRPにより吸引する。この流路系では前記水素吸蔵合金を内蔵したフィルタ30に代えてMg−Ni/Mg等の水素、酸素吸蔵合金を内蔵したフィルタ31を介してドライポンプDRPが接続されている。前記陽子通過管3からリチウム蒸気トラップ27を通してターボ分子ポンプ26とドライポンプDRPにより吸引された気体に空気が混じった時、この気体を水素、酸素吸蔵合金を内蔵したフィルタ31を介してドライポンプDRPで吸引する。さらにバナジウム合金等を内蔵し外部にヒータを取り付けた水素兼窒素トラップ32を通し、水素、酸素及び窒素を除去した後、残りの気体は使用済みアルゴン排気タンク37に排気される。この流路系は、窒素トラップ32を通した後の気体をオリフィス34を介して作動排気する構造になっており、前記四重極形質量分析計Q-mass側に送るバイパス通路も用意されている。これら通路の切り替えは、何れもバルブ操作により行う。
【0027】
中性子発生室5には、薄いリチウムターゲット流を形成するための整流板6が設けられ、この整流板6には耐えずリチウムが供給され、その表面にリチウムの薄い層流のリチウムターゲット流が形成される。この整流板6の表面の薄いリチウムターゲット流に加速器2で加速された陽子を衝突させることにより衝突方向に熱中性子が発生する。ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)では、この方向性を持った熱中性子を用いてガン治療を行う。多くの陽子は、この中性子発生室5で周囲の電子を奪って水素になり、更に水素同位体であるトリチウムがLiから発生する。
【0028】
前記整流板6においてリチウムターゲット流に陽子が衝突した後、リチウムターゲット流を形成していたリチウムは、排出側のリチウム流路9を通してリチウムタンク11に送られる。リチウムタンク11のリチウムの量はレベル計13により監視され、同リチウムタンク11の中に概ね一定量のリチウムが常時貯えられる。
【0029】
リチウムタンク11の底部にバルブ及び浸漬形電磁ポンプ14を介してドレンタンク12が接続されている。このドレンタンク12の中のリチウムはレベル計16により監視される。リチウムタンク11のリチウムが余剰のときは、前記バルブの動作によりドレンタンク12に排出され、またリチウムタンク11のリチウムが所要の液位を維持するのに不足するときは、前記浸漬形電磁ポンプ14の駆動によりリチウムタンク11に汲み上げられる。
【0030】
前記リチウムタンク11とドレンタンク12には、容器に金網を詰めてリチウム蒸気を除去するリチウムベーパートラップ27’、27”とバルブを介してアルゴンガス供給系とドライポンプDRPが接続され、それらリチウムタンク11、ドレンタンク12は約1kPaの僅かな絶対圧に維持される。この1kPaの圧力は、リチウムの液頭(高さ)約200mmに相当する気圧である。この圧力は、圧力計Pにより監視される。
【0031】
運転時はリチウムタンク11とドレンタンク12とのガス系をガス道通状態にして同圧にしておき、緊急時はリチウムタンク11とドレンタンク12の間のバルブを開いて、自然落下でリチウムループ内のリチウムを緊急ドレン出来る様にする。やむを得ず真空にせざるを得ない中性子発生室5以外のリチウムタンク11とドレンタンク12とを1kPa程度の絶対圧力にする理由は、大気圧より圧力が低いのでリークが有ってもリチウムやアルゴンガスは直接大気に放出されず、更にリチウムループ内のアルゴンガス圧によってリチウムからの水素並びにトリチウムガスの放出を最小限にし、緊急ドレン時にトリチウムガスを出来るだけリチウム内に閉じ込め、緊急ドレン時の安全性を高める為である。緊急ドレン時は、加速器も自働的に瞬時に止め、リチウムループの中性子発生室5のゲートバルブ4も瞬時に閉めて放射性物質が僅かに出来てしまうリチウムループ側を隔離するが、ゲートバルブ4は大きいので完全密閉に1秒単位の時間が掛かるので、リチウム緊急ドレンが実施されている最中にリチウムがリチウムループ内である程度湯面が下がって初めて中性子発生室5側にアルゴンガスが行き渡る様にすることが加速器側の真空を維持して、加速器の再起動を早めるためには、必要なことであるからリチウムタンク11の横の下の方にリチウム流路9を接続して、この接続部までリチウムが下がって初めて1kPaのアルゴンガスが中性子発生室5に供給される事で、ゲートバルブ4の閉止に1秒単位に時間が掛かっても良いようにしている。図示はしていないがリチウム流路9をリチウムタンク11の上部フランジ面から突き刺して2重管方式にしても同じような効果が得られるが、2重管にする事によってリチウムタンクの径が太くなり、リチウムタンク11側のリチウム面を測定する為に液面計を2重管の環状部入れなければならず、リチウムは表面張力が大きいので狭い範囲では液面が吸い上がり誤差を大きくしてしまうので、液面計を入れる環状部をかなり広げなければならない。これでは更にリチウムタンク11の径が太くなって危険物であるリチウム量の増大をもたらす為に、あまり良い方法ではないので、あえてここでは図1の様に流路9とリチウムタンク11とは分けたものを選択し、最優先に説明する事にした。
【0032】
図示の例では、ドライポンプDRPが直列に2段に接続され、それぞれのドライポンプDRPの背後に第一の使用済みアルゴンタンク28と第二の使用済みアルゴンタンク29が接続され、リチウムタンク11とドレンタンク12とのガス系から排気される水素同位体ガスは、ドライポンプDRPにより水素同位体フィルタ42に送り込まれて水素同位体ガスを除去された後に使用済みアルゴンタンク28に蓄えられ、更に使用済みアルゴンタンク28が満タンになったらドライポンプDRPの排気により使用済みアルゴンタンク29に貯えられる。
【0033】
使用済みアルゴンタンク29に貯えられたガスも最終的には使用済みアルゴンタンク37から、オリフィス39を介して差動排気したガスを四重極形質量分析計Q-massで水素分圧が測定され、使用済みアルゴンタンク37のガスをそのトリチウム分圧に応じて基準値以下になるようにブロアによる空気にて希釈し、さらに希釈されたその濃度をトリチウムモニタ38で監視しながら排気する。
【0034】
前記アルゴンガス供給系とドライポンプDRPとのアルゴンガス圧調整により、リチウムタンク11内のリチウムの液位は、所要の高さが維持される。前記中性子発生室5からリチウムタンク11に至るリチウム流路9は、リチウムタンク11のリチウムの液位より低いリチウムタンク11の中腹位置に接続され、リチウム流路9の途中に上側の気相と下側の液相とを分けるリチウムの液面、クエンチ面8が保持される。このクエンチ面8がリチウムタンク11と別のリチウム流路9側にあることと、その高さが中性子源1からリチウムタンク11に流れ込むリチウムがトリチウムを含む水素ガスの気泡をリチウムタンク11内に持ち込むのを防止する働きもしている。
【0035】
リチウムタンク11にはまた、誘導電磁ポンプからなるリチウムポンプ17が接続されている。リチウムタンク11の中のリチウムは、このリチウムポンプ17の駆動により、供給側のリチウム流路9’を通して前記中性子発生室5の整流板6側に還流され、供給される。供給側のリチウム流路9’には、電磁流量計22が設けられ、供給側のリチウム流路9’を通るリチウムの流量が計測される。
【0036】
また、前記リチウムポンプ17と供給側のリチウム流路9’には、それぞれ熱交換器18、23が設けられ、熱交換器18がリチウムポンプ17の冷却又は加熱を行い、熱交換器23が供給側のリチウム流路9’を通るリチウムを冷却又は加熱し、所要の温度に調整する。この温度調整されたリチウムがバルブを介して前記中性子発生室5の整流板6側に供給される。前記リチウムポンプ17とリチウム流路9’の熱交換器18、23は、350℃耐熱性熱媒体を用いたそれぞれの冷却・加熱器20と冷却・加熱器21とによりそれぞれ冷却、加熱され、所要の温度に維持される。
【0037】
前記リチウムタンク11、ドレンタンク12、リチウムポンプ17及び電磁流量計22は、リチウムポンプ17とリチウム流路9’の熱交換器18、23を含めて密閉容器7の中に封入されている。この密閉容器7にはドライポンプDRPが接続され、大気に対して負圧に維持される。またこの密閉容器7には、バルブを介してアルゴン供給タンク40が接続され、このアルゴン供給タンク40から密閉容器7に送り出されるアルゴンガスにより、密閉容器7の内部は不活性ガス雰囲気に維持される。
【0038】
前記密閉容器7を減圧するドライポンプDRPで同密閉容器7から排気した気体は、水素同位体除去フィルタとしてのMg−Ni/Mg等の水素、酸素吸蔵合金からなるフィルタ35とバナジウム合金等からなる窒素トラップ36とを通して水素、酸素及び窒素を除去した後、残りの気体が前記使用済みアルゴンタンク37に排気される。この系は、リチウムやアルゴンガスガス系から万が一密閉容器7に漏れ出したトリチウムを処理する為に取り付けられたものである。使用済みアルゴンタンク37から排気する場合は、四重極形質量分析計Q-massで水素分圧が測定され、使用済みアルゴンタンク37のガスをそのトリチウム分圧に応じて基準値以下になるようにブロアによる空気にて希釈し、さらに希釈されたその濃度をトリチウムモニタ38で監視しながら排気する。
【0039】
この使用済みアルゴンタンク37の中に排気された気体は、オリフィス39を介して差動排気したガスを四重極形質量分析計Q-massでトリチウム分圧が測定され、トリチウム分圧が高い時は、使用済みアルゴン排気タンク37から戻り配管を通じてドライポンプDRPに戻り水素同位体フィルタ35と窒素トラップ36を循環して、トリチウムを除去してから使用済みアルゴン排気タンク37に戻される。その後、オリフィス39を通して作動排気し、四重極形質量分析計Q-massで測定した結果、使用済みアルゴン排気タンク37の中に排気された気体のトリチウム分圧が低い時はバルブを開いてダクト41に送り込み、ブロアによってダクト41に送り込まれる大量の空気で基準濃度以下に希釈して大気に放出される。この放出ガスのトリチウム濃度は、トリチウムモニタ38により監視する。
【0040】
このような構成からなるリチウムループのトリチウム除去装置では、リチウムループのガス系に溜まるトリチウムを含む水素ガスを水素同位体除去フィルタによって除去し、トリチウムを含む水素ガスの集まりやすいリチウムタンク11とリチウムポンプ17等から万が一漏れ出した場合の気体も一旦密閉容器の中に保持し、この密閉容器の中の気体に含まれるトリチウムを除去したうえで、当該気体を希釈して更にトリチウムモニタ38により監視しながら大気に放出することになる。よって中性子源1から排出されるリチウムに含まれる僅かなトリチウムが水素同位体除去フィルタによって除去され更にその分圧を四重極形質量分析計Q-massで測定し後にブロアに依る空気で希釈して、基準以下であることトリチウムモニタ38で監視しながら排気し、外部に直接トリチウムが漏れ出すことが無いようにしながらリチウムの循環供給を行うことが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、 例えば癌治療を目的として適用されるホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において、中性子源となるリチウムターゲットで発生する水素同位体元素であるトリチウムをリチウムが循環流通するリチウムループから除去するトリチウム除去装置として利用することが出来る。
【符号の説明】
【0042】
1 中性子源
7 密閉容器
8 クエンチ面
9 リチウムの流路
9’ リチウムの流路
11 リチウムタンク
17 リチウムポンプ
35 フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム流に陽子線を衝突させ、中性子を発生する中性子源(1)と、この中性子源(1)を通過したリチウムを流路(9)を通して流入させ、流路(9)にリチウム流のクエンチ面を作り、クエンチ面が出来る流路(9)の出口が一時的に貯留するリチウムタンク(11)中に接続され、このリチウムタンク(11)にガス圧を掛けられる様にし、このリチウムタンク(11)のリチウムを供給側の流路(9’)を通して前記中性子源(1)に還流し、供給するリチウムポンプ(17)とを有し、リチウムループのガス系に溜まるトリチウムを含む水素ガスを水素同位体除去フィルタによって除去し、更に前記リチウムタンク(11)とリチウムポンプ(17)を不活性ガスを含む密閉容器(7)内に封入し、この密閉容器(7)に前記水素同位体除去フィルタを介して排気系流路を接続したことを特徴とするリチウムループのトリチウム除去装置。
【請求項2】
トリチウムガスを除去したガス系の当該気体中のトリチウムを計測する四重極質量分析計(Q-mass)を接続配管に差動排気して取り付け、その分圧を前記四重極質量分析計により測定し、その分圧に応じて基準値以下になるように空気にて希釈することを特徴とする請求項1に記載のリチウムループのトリチウム除去装置。
【請求項3】
トリチウムガスを一旦使用済みアルゴンタンク(28),(29),(37)に貯めて、改めてその分圧を四重極質量分析計(Q-mass)により測定し、排気ガスを絞ってから、その分圧に応じて基準値以下になるように空気にて希釈することを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムループのトリチウム除去装置。
【請求項4】
希釈された気体中のトリチウムガスの濃度をトリチウムモニタ(38)で監視しながら排気することを特徴とする請求項2又は3に記載のリチウムループのトリチウム除去装置。
【請求項5】
前記中性子源(1)から前記リチウムタンク(11)に至る排出側の前記流路(9)には、前記中性子源(1)側の気相と前記リチウムタンク(11)側の液相との境界を形成するクエンチ面(8)を設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムループのトリチウム除去装置。
【請求項6】
前記リチウムタンク(11)内の圧力により、前記流路(9)の前記クエンチ面(8)の位置を保持することを特徴とする請求項5に記載のリチウムループのトリチウム除去装置。
【請求項7】
リチウムの前記流路(9)、(9’)の前記密閉容器(7)の壁部を通る部分にレベル計(10)、(24)を設け、それらリチウムの流路(9)、(9’)におけるリチウムの存在を監視することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムループのトリチウム除去装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−37792(P2013−37792A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170599(P2011−170599)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000183945)助川電気工業株式会社 (79)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】