説明

リパーゼ活性阻害剤

【課題】 本発明は、肥満、高脂血症および、その合併症を防ぐ機能性食品に使用できる、植物由来の安全で有効なリパーゼ活性阻害剤を提供することを課題とする。
【解決手段】 サラシア属植物の葉から単離された特異的ポリフェノールオリゴマーであり、構成ユニットに、エピアフゼレチンを含有するプロアントシアニジンオリゴマーであること、また、さらに、構成ユニットに、エピガロカテキン、エピカテキン及びエピアフゼレチンを構成ユニットとするプロアントシアニジンオリゴマーであって、リパーゼ活性阻害作用を有し、植物成分由来のリパーゼ阻害活性剤として、抗肥満剤、メタボリックシンドローム抑制剤、或いは、高脂血症の予防・改善剤に対する機能成分となる、安全性の高い、リパーゼ活性阻害剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は肥満、メタボリックシンドローム、高脂血症などを予防・改善するリパーゼ活性阻害剤、あるいは医薬品素材、食品素材に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化を向かえたわが国では、生活習慣病をいかに回避するかが大きな問題になっている。なかでも、メタボリックシンドロームの大きな要因である肥満、および肥満と関わりの深い高脂血症や、その合併症の予防は急務の課題ということができる。高脂血症は、高血圧、動脈硬化、糖尿病などの各種生活習慣病の発症に密接に関与している。一方、肥満は、体質的因子、食餌性因子、精神的因子、中枢性因子、代謝的因子、運動不足などが要因となり、摂取するカロリーが消費カロリーを上回った結果、脂肪が蓄積して起こる。
【0003】
食餌中、最も高カロリー成分である脂肪の殆どを占めるトリアシルグリセロールは、膵液中のリパーゼによってモノアシルグリセロールと遊離脂肪酸とに分解されて小腸に吸収されるため、この膵リパーゼ作用を阻害することによって、食餌由来の脂肪の吸収を抑制し、肥満や高脂血症を予防することができる。
したがって、強い膵リパーゼ活性阻害、すなわち脂質の吸収阻害活性を有する天然由来成分の探索が精力的に行われている。
【0004】
これまでに、リパーゼ活性阻害作用を有する植物として、杜仲茶および白茶(特許文献1参照)、緑茶、紅茶、ウーロン茶、生姜(特許文献2参照)などの種々の茶、またはその抽出物が報告されている。
【0005】
また、リパーゼ活性阻害作用を有する植物由来の精製成分についても、明らかにされている。たとえば、茶に起源を発するテアフラビン類などのフラバン−3−オールの2量体(特許文献3参照)、タマリンドを起源とするプロシアニジンの三量体(特許文献4参照)、茶に起源を発するエピガロカテキンの二量体および三量体(特許文献5および10参照)、エピガロカテキンガレートの二量体(特許文献6参照)、茶およびテリマ グランディフローラより分取したガロタンニンやエラジタンニン(特許文献7参照)、茶を起源とする(−)−エピカテキン3,5−ジ−O−ガレート(特許文献8参照)、フコダインを起源とするフコダインオリゴ糖(特許文献9参照)、ハナショウガ由来のガランギン3−メチルーテル(非特許文献1)、ウチワドコロ由来のジオシン(非特許文献2)などが報告されている。
【0006】
一方、茶の葉とビワ葉を混合、揉捻した発酵茶には、テアシネンシンA、ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、エピアフレゼチンガレートを構成ユニットとするプロアントシアニジン、および分子量1000〜1500を中心としたカテキンガレート類の酸化縮合したポリフェノール類が含まれており、いずれも高いα−グルコシダーゼ阻害活性を示すことが報告されている(特許文献11)。
【0007】
なお、これまで、エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとするプロアントシアニジンは、烏龍茶から得られる二量体が1種知られているのみであるが、HPLCのピーク形から考えて本発酵茶に含まれるエピアフゼレチン含有するプロアントシアニジンオリゴマーは三量体以上であろうと推定されている(特許文献11)。α−グルコシダーゼは糖の消化吸収に関与する酵素であることから、これらの成分を含む茶葉・ビワ茶発酵茶およびその抽出物は、血糖上昇抑制組成物であることが記載されている(特許文献12)。また、特許文献12には、本発酵茶を成人が摂取したところ、血糖上昇抑制に加えて、中性脂肪低減、コレステロール低減、血清過酸化脂質低減、体脂肪蓄積抑制、血圧上昇抑制の効果が認められたことから、健康茶として好適であることが記載されているが、リパーゼ阻害活性については触れられていない。
【0008】
ところで、サラシア属植物は、多年生蔓性木本で、デチンムル科(Hippocrateaceae)あるいはニシキギ科(Celastraceae)に分類され、約4000年前からインド、スリランカを中心に愛用されている。サラシア属植物の幹や根はインドの有名な伝承医学である「アーユルヴェーダ医学」では、昔から伝承薬あるいは茶として用いられており、リウマチ、淋病、糖尿病に有効とされてきた。近年、医学的、薬学的見地から、特に糖尿病に有効な成分とその作用メカニズムについて多くの研究が進められている。
【0009】
サラシア・オブロンガ(Salasia oblonga)とサラシア・レティキュラータ(Salasia reticulata)幹や根のエキスには、いずれもショ糖負荷ラットにおける強い血糖値上昇抑制効果のあることが判明し、とくに糖の消化吸収に関与するα−グルコシダーゼを強く阻害するチオ糖の2成分(サラシノールとコタラノール)が明らかにされた(非特許文献3)。さらに、幹の熱水抽出物が肝臓の糖生を抑制し、インスリン抵抗性により発症するとされる、II型糖尿病に有効であることが明らかにされている(非特許文献4)。さらに、糖尿病合併症のキー酵素であるアルドースレダクターゼ阻害活性を示す新規トリテルペン類やセスキテルペン類の存在も明らかにされており(非特許文献5)、生活習慣病が懸念される現代では、S. oblongaとS. reticulataの幹や根の微粉砕物あるいは水抽出エキスは、糖尿病の改善・予防食として広く用いられるようになっている。
【0010】
さらに、非特許文献5には、抗糖尿病作用との関わりから、サラシア属植物の根と幹抽出物由来の成分が詳細に報告されており、6種類のフェノール化合物、29種類のトリテルペン、2種類のジテルペン、3種類のセキテルペン、3種類のリグナンが網羅されている。フェノール化合物はいずれも糖の吸収抑制効果はさほど強くないが、マンギフェリンには低血糖作用のあることが記載されている。また、フェノール化合物の一つはエピアフゼレチン−(4β−8)−(−)−4’−O−メチルエピガロカテキンであることが記載されているが、このものの活性については特段述べられていない。
【0011】
さらに、S. reticulataの幹の熱水抽出物が膵リパーゼなどに対して阻害活性を示し、ラットの穏やかな抗肥満作用を示すことが報告されている(非特許文献6)。熱水抽出物のうち、エピガロカテキン、エピカテキン−(4β−8)−4’−O−メチルガロカテキン、エピカテキン、タンニンなどがリパーゼ阻害活性を示し、また、タンニンは脂肪合成に関与する酵素(GPDH)の阻害活性があること、マンギフェリンには脂質分解を促す作用のあることが記載されている。このことから、これらの成分が総合的に働いて、抗肥満作用を発揮するのだろうと結論づけられている。
【0012】
以上のサラシア属植物の研究は、その幹と根についてであり、葉については殆ど研究がされていなかった。しかし、S. reticulataの葉の水抽出物にも幹や根と同様に、糖の吸収抑制効果や血糖上昇抑制効果があることが報告されている(非特許文献7)。
また、S. reticulataの葉の60%エタノール抽出物は幹よりも強いリパーゼ阻害活性のあることが明らかにされ、その抽出液を精製した活性画分が報告されている(特許文献13)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−179586号公報
【特許文献2】特開2002−275077号公報
【特許文献3】国際公開 WO2006/004114号
【特許文献4】特開平09−2901039号公報
【特許文献5】特開2005−336117号公報
【特許文献6】特開2006−026367号公報
【特許文献7】特開2006−056850号公報
【特許文献8】特開2010−143832号公報
【特許文献9】国際公開 WO2008/090631号
【特許文献10】特開2010−280716号公報
【特許文献11】特開2007−231009号公報
【特許文献12】特開2007−228964号公報
【特許文献13】特開2009−179579号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Biol. Pharm. Bull., 26(6), 854-857 (2003)
【非特許文献2】Biosci. Biotechnol. Biochem., 67(7), 1451-1456 (2003)
【非特許文献3】Yoshikawa M., Nishida N., Shimoda H., Takada M., Kawahara Y., Matsuda H., Yakugaku Zassshi, 121(5), 371-8 (2001)
【非特許文献4】Im R., Mano H., Nakatani S., Shimizu J., Wada M., J. Health Sci., 54(6), 645-653 (2008)
【非特許文献5】Matsuda H., Yoshikawa M., Morikawa T., Tanabe G., Muraoka O., J. Trad. Med. 22, 145-153 (2005)
【非特許文献6】Yoshikawa M., Shimoda H., Nishida N., Takada M., Matsuda H., J. Nutr., 132(7), 1819-1824 (2002)
【非特許文献7】Yoshino K., Miyauchi Y., Kanetaka T., Takagi Y., Koga K., Biosci. Biotechnol. Biochem., 73(5), 1096-1104 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、肥満、高脂血症および、その合併症を防ぐ機能性食品に使用できる、植物由来の安全で有効なリパーゼ活性阻害剤を提供することを課題とする。
【0016】
かかる課題を解決するべく、以下の検討を行った。すなわち、肥満や高脂血症、メタボリックシンドロームの軽減に対してのニーズが益々高まっている現状を考慮すれば、それらの症状の軽減する成分をもっと増やす必要があるといえる。
そのためには、サラシア属植物の葉の膵リパーゼ阻害活性画分を手軽に取得し、その活性成分を明らかにすることができれば、より一層の利用機会が向上し、肥満、高脂血症、メタボリックシンドロームの軽減に寄与ができると考えられる。
【0017】
本発明者らは、サラシア属植物の葉の膵リパーゼ阻害活性画分から、ほぼ活性成分のみを取得する精製法を確立し、その活性成分を明らかにすることを目的に検討を行った。
その結果、サラシア属植物の葉の膵リパーゼ阻害活性画分から、活性成分として、特異的ポリフェノールオリゴマーを純度よく取得することに成功し、かかるポリフェノールオリゴマーが、構成ユニットに、エピアフゼレチンを含有するプロアントシアニジンオリゴマーであること、また、さらに、構成ユニットに、エピガロカテキン、エピカテキン及びエピアフゼレチンを構成ユニットとするプロアントシアニジンオリゴマーであることを確認し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0018】
したがって、本発明は、一つの態様として、リパーゼ活性阻害成分が、構成ユニットにエピアフゼレチンを含有するプロアントシアニジンオリゴマーあるいはその配糖体であることを特徴とするリパーゼ活性阻害剤である。
【0019】
また、本発明は、別の態様として、リパーゼ活性阻害成分が、エピガロカテキン、エピカテキン及びエピアフゼレチンを構成ユニットとするプロアントシアニジンオリゴマーあるいはその配糖体であることを特徴とするリパーゼ活性阻害剤である。
【0020】
より詳細には、本発明は、リパーゼ活性阻害成分が、サラシア・レティキュラータ(Salacia reticulata)由来のものであることを特徴とするリパーゼ活性阻害剤である。
【0021】
より具体的には、本発明は、リパーゼ活性阻害成分が、サラシア・レティキュラータ(Salacia reticulata)の葉由来のものであることを特徴とするリパーゼ活性阻害剤である。
【0022】
さらに本発明は、また別の態様として、上記のリパーゼ活性阻害剤を機能成分とする抗肥満剤、メタボリックシンドローム抑制剤、或いは、高脂血症の予防・改善剤である。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、肥満、メタボリックシンドローム、高脂血症などを予防・改善するリパーゼ活性阻害剤、あるいは医薬品素材、食品素材として、特異的なポリフェノールオリゴマーが提供される。
当該ポリフェノールオリゴマーは、エピアフゼレチン、或いは、エピガロカテキン、エピカテキン及びエピアフゼレチンを構成ユニットとするポリフェノールオリゴマー、特にプロアントシアニジンオリゴマー、或いはその配糖体であり、かかるポリフェノールオリゴマーの存在は、自然界では極めて特異的なものである、
【0024】
かかるポリフェノールオリゴマーは、サラシア属植物、特にサラシア属植物の葉に多く存在し、したがって、植物成分由来のリパーゼ活性阻害剤として、安全なものであり、その応用範囲は極めて広い利点を有している。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の活性成分であるプロアントシアニジンオリゴマーの構造と、その構造を解析した課程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、上記したように、その基本的態様は、リパーゼ活性阻害成分が、活性ポリフェノールであり、構成ユニットにエピアフゼレチンを含有するプロアントシアニジンオリゴマーあるいはその配糖体であることを特徴とするリパーゼ活性阻害剤であり、また、リパーゼ阻害活性成分が、エピガロカテキン、エピカテキン及びエピアフゼレチンを構成ユニットとするプロアントシアニジンオリゴマーあるいはその配糖体であることを特徴とするリパーゼ活性阻害剤である。
【0027】
この、リパーゼ阻害活性成分である活性ポリフェノールは、特にサラシア属植物であるサラシア・レティキュラータ(Salacia reticulata)から単離され、殊に、サラシア・レティキュラータ(Salacia reticulata)の葉から単離される。
なお、活性成分である活性ポリフェノール、すなわち、構成ユニットにエピアフゼレチンを含有するプロアントシアニジンオリゴマーは、自然界に存在するポリフェノールとして極めて特異的なものであるが、サラシア属植物に由来するものに限るものではない。
【0028】
以下に、具体的な活性ポリフェノールの単離・精製、及びその活性等について説明することにより、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例、製造例によって、限定されるものではない。
【0029】
活性成分の単離は、具体的には以下のようにして行われる。
すなわち、サラシア・レティキュラータ(Salasia reticulata)葉を乾燥後、微粉砕する。
乾燥の程度は特に限定されないが、葉を室温〜80℃程度の温度条件下に、乾燥させるのがよい。
乾燥された葉を微粉砕するのであるが、抽出に適した微粉砕とすればよい。
【0030】
得られた微粉砕物に、5〜15倍、好ましくは10倍量程度の水を加え、30〜100℃、好ましくは50〜80℃程度に加温し、1〜4時間、好ましくは2時間程度の振とう抽出を行い、水抽出画分を除く。
残渣に5〜15倍、好ましくは10倍量程度のアルコール水溶液、例えば、60%エタノール水溶液を加えて、30〜100℃、好ましくは50〜80℃程度に加温し、1〜4時間、好ましくは2時間程度の振とう抽出を行い、60%エタノール抽出画分を得る。
【0031】
この60%エタノール抽出画分をイオン交換樹脂HP20(三菱化学社製)充填カラムにチャージした後、0〜20%アセトン溶出画分を除き、次いで50%アセトンで溶出し、50%アセトン溶出画分を得る。
得られた50%アセトン溶出画分を、ゲル濾過用のセファデックスLH20充填カラムにチャージした後、エタノール水溶液の10%〜99.8%までのグラジエント溶出画分を除き、さらにアセトン10〜20%溶出画分を除き、最後に40%アセトン溶液にて溶出し、40%アセトン溶出画分を得る。
【0032】
この40%アセトン溶出画分に、本発明が目的とするリパーゼ阻害活性を有する活性成分である活性ポリフェノールオリゴマーが高純度で含有されている。
なお、本発明の活性ポリフェノールの取得方法は、上記の手段に限定されず、用いる溶媒、その濃度等を種々変更できることはいうまでもない。
【0033】
かくして得られた活性ポリフェノールオリゴマー含有画分を用いて、活性成分の構造を決定した結果、活性成分は、構成ユニットとするエピアフゼレチンを含有するプロアントシアニジンオリゴマーあるいはその配糖体、或いは、エピガロカテキン、エピカテキン及びエピアフゼレチンを構成ユニットとするプロアントシアニジンオリゴマーあるいはその配糖体であることが判明した。
【0034】
本発明が提供するリパーゼ活性阻害剤は、上記で得られた活性ポリフェノールオリゴマーを含有する組成物であり、その形態は種々の態様を採用することができる。具体的には例えば、固形組成物、液状組成物などが挙げられる。
固形組成物としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤等の形態を採ることができ、固形組成物の調製時には、各種の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。
そのような添加剤としては、例えば、一般的な賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、増量剤、被覆剤、酸味料、及び保存料などが挙げられる。
【0035】
また液状組成物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記抽出物を濃縮したもの、乳化剤を用いて水に溶解・分散させたもの、エチルアルコール等の可溶性溶媒に溶解させた後水に溶解させたもの、などが挙げられる。
【0036】
本発明が提供するリパーゼ活性阻害剤の使用方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、健康食品、医薬品、及び医薬部外品などとして使用することができ、これらのものは、具体的には、上記のリパーゼ阻害剤を機能成分とする抗肥満剤、メタボリックシンドローム抑制剤、或いは、高脂血症の予防・改善剤等である。
なお、本発明のリパーゼ活性阻害剤の摂取量としては、目的とする症状等の改善のレベルに応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0037】
以下に本発明を、実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
実施例1:活性成分の取得方法
サラシア・レティキュラータ葉の乾燥粉砕物50gに、9倍量(450mL)の水を加えて50℃/2時間の振とう抽出を行った後、3000rpm/10分で遠心を行い、上澄み液を廃棄した。
得られた残渣に、60%エタノール水溶液450mLを加えて、50℃/2時間の振とう抽出を行った後、3000rpm/10分で遠心を行い、得られた上澄み液を、60%エタノール水溶液抽出液とした。当該60%エタノール水溶液抽出液中には、約400mgの不揮発成分が含まれていた。
得られた60%エタノール水溶液抽出液を、イオン交換樹脂HP20(三菱化学社製)に通液してチャージした後、水溶出、アセトン20%水溶液溶出画分を廃棄し、次いでアセトン50%水溶液溶出画分を取得した。このアセトン50%水溶液溶出画分には約100mgの不揮発成分が含まれていた。
得られた50%アセトン水溶液溶出画分を、セファデックスLH20で充填したゲル濾過カラムに通液してチャージした後、まずエタノール50%〜99.8%水溶液、次いで、アセトン20%〜40%水溶液を通液して、得られた画分を廃棄し、最後にアセトン60%水溶液を通液して、溶出画分を取得した。
このアセトン60%水溶液溶出画分には、活性成分として、約7〜10mgの不揮発成分が含まれていた。
【0039】
実施例2:精製画分のポリフェノール含量
上記の実施例1で得たアセトン60%水溶液溶出画分(精製画分)中のポリフェノール含量を、フォーリン・チオカルト法にて求めた。
すなわち、標準試料として種々の濃度(0〜40ppm)の試薬ガーリック酸溶液を調製した。次いで、この標準試料溶液0.5mとフォーリン・チオカルト、フェノール試薬5mLを加え、攪拌後、25℃で静置3分後に20%炭酸ナトリウム水溶液5mLを加え、25℃で1時間静置後の700nmの吸光度を測定し、検量線を作成した。
ついで、40ppmの不揮発成分を含む精製画分試料溶液0.5mLを前記と同様の操作を行って、吸光度を測定した結果、34ppmのガーリック酸(没食子酸:gallic acid)に相当する吸光度を示した。
したがって、精製画分には、ガーリック酸として85%相当のポリフェノールが含まれていることになる。
活性成分には糖が含まれている可能性があること、また、活性成分はポリフェノールのポリマーである可能性が高いことなどを考慮すると、取得した精製画分のほぼすべてがポリフェノール成分であると推測された。
【0040】
実施例3:活性ポリフェノール成分の構造
活性ポリフェノール成分は、薄層クロマトグラフィー(TLC)分析では原点として検出されること、また、サラシア属植物ポリフェノールには、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)などを構成ユニットとするプロアントシアニジンが多く存在することから、分子量の比較的大きいプロアントシアニジンと推察された。
そこで、活性ポリフェノール成分の構成ユニットを明らかにする目的で、下記の方法でメルカプトエタノールによるチオール分解を行った。
すなわち、試料溶液(活性ポリフェノール溶液)100μLを1mLのバイアル瓶に移し、窒素ガスを吹き込み、アセトンを除き、水溶液とした。メルカプトエタノール試液(2−メルカプトエタノール50mL、0.05M塩酸80mL、エタノール550mL、水320mLを混合したもの)200μLを加え、密栓して75℃で7時間加熱し、反応液をHPLCで分析した。
【0041】
HPLC測定条件
カラム:Cosmosil 5C18-AR II(ナカライテスク)、4.6mm×250mm
移動相:アセトニトリル(50mMリン酸)溶液、4−30%(39分)、30−75%(15分)のグラジエント
流速:0.8mL/分
【0042】
その結果、チオール分解すると、分解前には認められないピークが多数出現した。分解前には認められなかったピーク、および分解前よりも増大したピークについて、標品(Tanaka, T., et al., J. Chem. Soc. Perkin Trans 1, 1994, 3013)の保持時間、及び紫外吸収スペクトルとの比較を行った結果、図1に示したエピガロカテキン(EGC)、エピカテキン(EC)、エピアフゼレチン−ME(FAF−ME)、EGC−ME、EC−MEが同定され、本発明の活性ポリフェノールは、次式:
【0043】
【化1】

【0044】
で示されるプロアントシアニジンオリゴマーであることが判明した。
なお、これら同定された構成ユニットのうち、EGC、ECは高分子化合物の末端ユニットに由来し、チオエーテル化合物である、FAF−ME、EGC−ME、及びEC−MEは延長ユニットに由来する。したがって、チオエーテル分解される前の高分子化合物の構造、すなわち活性ポリフェノールであるプロアントシアニジンの構造は、上記の化学式に記載のものであり、例えば図1に示したようなチオール分解構造を有するものと推測された。
【0045】
実施例4:活性ポリフェノールの膵リパーゼ阻害活性
膵リパーゼは、ブタ由来膵リパーゼ(MP Biochemicals, Inc.,カリホルニア、米国)を用い、その活性測定はリパーゼキットS(大日本製薬製)を用いて、定法に従って行った。
リパーゼ活性は、反応液に酵素を入れた場合と入れない場合の反応に伴って発色する反応液の吸光度(412nm)の差で評価した。
試料の阻害活性は、反応液中に試料を添加した場合と、試料の代わりにバッファーを添加した場合のリパーゼ活性の比較を行うことによって求めた。
反応は30℃、30分で行った。
反応液中の活性ポリフェノール濃度と阻害率の関係を、下記表1に示した。
この結果から、活性ポリフェノール(エピアフレゼチン含有プロアントシアニジンオリゴマー)のIC50は、22ppmと評価された。
【0046】
表1 活性ポリフェノール成分の反応液中の濃度と阻害率
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
以上記載のように、本発明により、肥満、メタボリックシンドローム、高脂血症などを予防・改善するリパーゼ活性阻害剤、あるいは医薬品素材、食品素材として、特異的なポリフェノールオリゴマーが提供される。
当該ポリフェノールオリゴマーは、エピアフゼレチン(EAF)、或いは、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキン(EC)及びエピアフゼレチン(EAF)を構成ユニットとするポリフェノールオリゴマー、特にプロアントシアニジンオリゴマー、或いはその配糖体であり、サラシア属植物、特にサラシア属植物の葉に多く存在することから、植物成分由来のリパーゼ活性阻害剤として、安全なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リパーゼ阻害活性成分が、構成ユニットにエピアフゼレチンを含有するプロアントシアニジンオリゴマーあるいはその配糖体であることを特徴とするリパーゼ阻害剤。
【請求項2】
リパーゼ阻害活性成分が、エピガロカテキン、エピカテキン及びエピアフゼレチンを構成ユニットとするプロアントシアニジンオリゴマーあるいはその配糖体であることを特徴とするリパーゼ阻害剤。
【請求項3】
リパーゼ阻害活性成分が、サラシア・レティキュラータ(Salacia reticulata)由来のものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のリパーゼ阻害剤。
【請求項4】
リパーゼ阻害活性成分が、サラシア・レティキュラータ(Salacia reticulata)の葉由来のものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のリパーゼ阻害剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のリパーゼ阻害剤を機能成分とする抗肥満剤。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のリパーゼ阻害剤を機能成分とするメタボリックシンドローム抑制剤。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のリパーゼ阻害剤を機能成分とする高脂血症の予防・改善剤。

【図1】
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【公開番号】特開2013−107854(P2013−107854A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254786(P2011−254786)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(502365977)株式会社盛光 (10)
【Fターム(参考)】