説明

リン酸澱粉の製造方法

【課題】 加熱焙焼でリン酸化率が70%以上となるリン酸エステル澱粉を製造できる工業的な生産方法を提供する。
【解決手段】 リン酸エステル澱粉の製造において、加熱焙焼工程で発生する水分子を系外に取り出しながらリン酸化反応を行うことを特徴とする、リン酸化率が70%以上となるリン酸エステル澱粉の製造方法;並びに還元デキストリン及び/又は還元オリゴ糖をリン酸化するに当たり、加熱焙焼工程で発生する水分子を系外に取り出しながらリン酸化反応を行うことを特徴とする、リン酸化率が70%以上となるリン酸エステル還元デキストリン及び/又はリン酸エステル還元オリゴ糖の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸化率が高く、結合リンを多く含むリン酸エステル澱粉及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の天然の澱粉にリン酸基がエステル結合していることは良く知られており、リン酸基の導入が澱粉の糊物性に与える効果を利用して、食品加工及び工業用糊剤として有効に利用されている。しかしながら、天然の澱粉に含まれる結合リン含量は多くても0.1質量%程度であり、リン酸基の効果を高めるにはより多くのリン酸基が必要となる。従って、化学的にリン酸化したリン酸澱粉が生産され、食品加工用途で重要な役割を果たしている。
【0003】
食品添加物として認可されているリン酸澱粉は、でん粉リン酸エステルナトリウムであり、結合リン含量として0.2〜3質量%のリンを含み、遊離のリン、すなわち無機リンの含量は全体のリン(全リン)含量の20%以下と規定されている。本発明者らは、特許文献1において高いCa可溶化作用を有するリン酸マルトデキストリン(PMD)やリン酸オリゴ糖(POS)、及びそれらの製造法を開示している。この特許文献1は、PMDやPOSの製造法として結合リンの多いリン酸エステル澱粉を酵素などで低分子化することにより、極めて高いCa可溶化作用を有するPMDやPOSの得られる方法を開示している。更に、澱粉にリン酸又はその塩を混合し糊化してから乾燥し、焙焼させるリン酸エステル澱粉の製造方法、及び澱粉にリン酸又はその塩を混合し、その水分を10質量%未満となるまで乾燥してから焙焼させるリン酸エステル澱粉の製造法も併せて開示している。しかしながら、これらの製造方法は結合リンの多いリン酸エステル澱粉を得るには優れた方法であるものの、遊離のリンが多く発生する欠点があり、前述の食品添加物に適合するでん粉リン酸エステルナトリウムを得ることはできなかった。従って、食品添加物に適合するには無機リンを除去するための精製工程が必須であった。更に、本発明者らは特許文献2において、PMDやPOSの多価金属塩の製造法を開示しているが、原料となるリン酸エステル澱粉の無機リンが多いため脱塩処理工程の負荷の大きいことが問題であった。更に又、本発明者らは特許文献4において、リン酸エステル澱粉を酵素分解して得られるPMDやPOSの組成物を成分とする再石灰化促進剤を開示している。
【0004】
澱粉のリン酸化法については成書(非特許文献1)に記載されているが、更に、特許文献3にも開示されている。特許文献3によれば、公知であるリン酸化反応を流動層反応容器内で行うに当り、リン酸含浸澱粉の水分を1%未満となるまで115℃で一旦保持してから、昇温加熱する二段加熱法が開示されている。従来のリン酸化法に比べて、特許文献3のリン酸化法は同じ結合リン含量で粘弾性に優れたリン酸エステル澱粉の得られる製造法である。しかしながら、全て結合リン含量が0.4質量%以下と結合リンの少ないリン酸エステル澱粉の製造法であり、しかもリン酸化率({結合リン含量(質量%)/全リン含量(質量%)}×100)は40%以下である。
【0005】
現状のリン酸エステル澱粉の製造法では、リン酸化率が70%以上となる焙焼方法は見出されておらず、ましてや食品添加物に規定されている無機リン含量20質量%以下というリン酸エステル澱粉を、脱塩精製工程を経ることなく加熱焙焼法で直接生産することは工業的には不可能と思われている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−255803号公報
【特許文献2】特開2002−145893号公報
【特許文献3】特開2002−194002号公報
【特許文献4】PCT/JP2004/009443
【非特許文献1】D. B. Solarek, Phosphorylated Starchs and Miscellaneous Inorganic Eaters, in Modified Starches : Properties and Uses, O. B. Wurzburg, Ed., CRC Press, Florida, 1986, 97
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、リン酸化率が70%以上のリン酸エステル澱粉、好ましくはリン酸化率が80%以上のリン酸エステル澱粉を加熱焙焼により製造できる工業的な生産方法を提供することである。更に又、結合リン含量が0.5質量%以上であって、リン酸化率が70%以上であるリン酸エステル澱粉、好ましくはリン酸化率が80%以上のリン酸エステル澱粉を加熱焙焼により製造できる工業的な生産方法を提供することである。これにより、精製負荷が少なく、容易に食品添加物の規定に対応したリン酸エステル澱粉の製造に寄与することができる。リン酸化率の高いリン酸澱粉が得られれば、リン酸エステル澱粉を低分子化して得られるPMDやPOSの製造においても、同伴する無機リンが少なくなることにより精製負荷を低減できる有用な製造法を提供することにつながる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の発明を包含する。
(1)澱粉をリン酸化するリン酸エステル澱粉の製造において、加熱焙焼工程で水分を系外に取り出しながらリン酸化の反応を行うことを特徴とするリン酸化率が70%以上であるリン酸エステル澱粉の製造方法。
【0009】
(2)リン酸エステル澱粉の結合リン含量が0.5質量%以上である前記(1)に記載のリン酸エステル澱粉の製造方法。
【0010】
(3)澱粉にリン酸化試薬を混合して水分が15質量%未満となるように乾燥してから、熱風で該混合物を流動加熱すると同時に加熱後の熱風を焙焼装置の系外に排出することにより、加熱焙焼工程で水分を系外に取り出しながらリン酸化反応を行うことを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のリン酸エステル澱粉の製造方法。
【0011】
(4)糊化した澱粉にリン酸化試薬を混合したもの、又は澱粉にリン酸化試薬を混合して糊化したものの水分が15質量%未満となるように乾燥した後、熱風で該混合物を流動加熱すると同時に加熱後の熱風を焙焼装置の系外に排出することにより、加熱焙焼工程で水分を系外に取り出しながらリン酸化反応を行うことを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のリン酸エステル澱粉の製造方法。
【0012】
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法により得られ、リン酸化率が70%以上であるリン酸エステル澱粉。
【0013】
(6)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法により得られ、結合リン含量が0.5質量%以上であり、リン酸化率が70%以上であるリン酸エステル澱粉。
【0014】
(7)前記(5)又は(6)に記載のリン酸エステル澱粉を低分子化して得られるリン酸マルトデキストリン、リン酸オリゴ糖又はこれらの混合物。
【0015】
(8)還元デキストリン及び/又は還元オリゴ糖とリン酸化試薬を水に溶解して得られる混合物を乾燥した後、熱風で該混合物を流動加熱すると同時に加熱後の熱風を焙焼装置の系外に排出することにより、加熱焙焼工程で水分を系外に取り出しながらリン酸化反応を行うことを特徴とするリン酸化率が70%以上であるリン酸エステル還元デキストリン及び/又はリン酸エステル還元オリゴ糖の製造方法。
【0016】
(9)前記(8)に記載の製造方法により得られるリン酸エステル還元デキストリン、リン酸エステル還元オリゴ糖又はこれらの混合物。
【0017】
(10)食品、飲料、調味料、味質改善剤、口腔衛生剤、洗剤、入浴剤、医薬品、化粧品、金属補給剤、金属吸収促進剤、糊剤、混和剤、塗料、顔料、飼料又は肥料の成分として用いられる前記(5)又は(6)に記載のリン酸エステル澱粉、前記(7)に記載のリン酸マルトデキストリン、リン酸オリゴ糖又はこれらの混合物、前記(9)に記載のリン酸エステル還元デキストリン、リン酸エステル還元オリゴ糖又はこれらの混合物、又はこれらの少なくとも2種の混合物。
【0018】
(11)前記(5)又は(6)に記載のリン酸エステル澱粉、前記(7)に記載のリン酸マルトデキストリン、リン酸オリゴ糖又はこれらの混合物、前記(9)に記載のリン酸エステル還元デキストリン、リン酸エステル還元オリゴ糖又はこれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む食品、飲料、調味料、味質改善剤、口腔衛生剤、洗剤、入浴剤、医薬品、化粧品、金属補給剤、金属吸収促進剤、糊剤、混和剤、塗料、顔料、飼料又は肥料。
【0019】
本発明において、「澱粉」とは、広義の澱粉をいい、澱粉分解物を包含し、又「リン酸エステル澱粉」とは、「広義の澱粉」のリン酸エステルをいう。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、リン酸化率が70%以上のリン酸エステル澱粉、好ましくはリン酸化率が80%以上のリン酸エステル澱粉を加熱焙焼によって製造でき、更に又、結合リン含量が0.5質量%以上であって、リン酸化率が70%以上であるリン酸エステル澱粉、好ましくはリン酸化率が80%以上のリン酸エステル澱粉を加熱焙焼によって製造できる。これにより、精製負荷が少なく、容易に食品添加物の規定に対応したリン酸エステル澱粉の製造が可能となる。リン酸化率の高いリン酸澱粉が得られれば、リン酸エステル澱粉を低分子化して得られるPMDやPOSの製造においても、同伴する無機リンが少なくなることにより精製負荷を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
特許文献1に開示しているように、換気装置を持たないオーブンによる加熱焙焼では、結合リンは最大で4%が得られているものの、尿素リン酸澱粉を除くリン酸エステル澱粉のリン酸化率は最大で67%である。本発明者らは、食品添加物の規格を満たすリン酸澱粉を精製操作なしで得られる製造法を確保するため、焙焼条件の検討を進めた。当初、実験室レベルで焙焼装置を種々変更して加熱焙焼の条件を探索している内に、熱風を大量に送り込んで加熱する棚段乾燥機による加熱処理を行えば70%を越える高いリン酸化率の得られる条件を見出すことができた。しかしながら、この加熱条件ではリン酸化試薬を混合した澱粉(なお、本発明ではリン酸を混合した澱粉の乾燥品を「リン酸含浸澱粉」という)を1cm以下、好ましくは5mm程度の厚さで均一に広げて加熱処理する必要があり、大量に生産する工業的なリン酸澱粉の製造法としては不適切であった。そこで、本発明者らは無機リンの残留を抑制できるリン酸化法を開発すべく、澱粉とリン酸化試薬との混合法、リン酸を混合した澱粉の乾燥法、リン酸化するための加熱法など、各ステップ毎にリン酸化率の高くなる条件の探索を進め、本発明を完成することができた。
【0023】
澱粉とリン酸化試薬との混合については、多くの場合、澱粉スラリーにリン酸化試薬を添加する方法、あるいはリン酸化試薬溶液に澱粉を分散させる方法が取られ、リン酸を混合した澱粉をろ過機で脱水回収する方法が採用されている。しかしながら、この回収法では、ろ液にリン酸化試薬が溶出するため、その回収が問題となる。所定の攪拌・混合能力を備えた混合機を用いて、例えばタービュライザ、フロージェットミキサーやピンミキサーなどの混合機で乾燥された澱粉にリン酸化試薬溶液を混合した後、乾燥すれば、リン酸化率の高くなるリン酸化反応が可能であることを見出した。また、澱粉スラリーをろ過機にかけて得られる澱粉の脱水ケーキにリン酸化試薬の粉末を加えて、リボンブレンダーやレディゲミキサーのような所定の攪拌・混合能力を備えた混合機で混合してから乾燥しても同様に効果的なリン酸化反応が可能となるリン酸含浸澱粉を得ることができる。
【0024】
リン酸を混合した澱粉の乾燥は、実験室的には加熱送風機を備えた棚段乾燥機で容易に乾燥できる。しかしながら、結合リン含量が1質量%以上とリン含量の多いリン酸エステル澱粉を生産するには、リン酸化試薬の添加量が多くなり、得られるリン酸含浸澱粉の流動性が低下する場合があり、工業的に汎用されているフラッシュ・ドライヤーで乾燥することは困難となる。このような場合は、特許文献1に開示されているように、リン酸を混合した澱粉をドラムドライヤーやエクストルーダーで処理して糊化・乾燥する方法も選択できる。
【0025】
リン酸含浸澱粉を得る方法が設定されてから、リン酸化を効率よく進めるための焙焼条件を種々検討した。前述のように、実験室的には、加熱送風機を備えた棚段乾燥機を用いて、140〜200℃に1〜3時間保持すれば、結合リンの多いリン酸エステル澱粉をリン酸化率80%前後で得ることは可能であった。しかしながら、工業的な焙焼設備では、リン酸化率の高いリン酸エステル澱粉を製造することは困難を極めた。特許文献3に開示されているように、流動層が比較的リン酸化の進む設備と認められるが、リン酸化率を70%以上に高くすることは、当初、不可能と思われた。前述のリン酸化率が80%に達する棚段乾燥機での反応を観察すると、熱風の送風量が多く、しかも、加熱処理後の熱風の50%がダンパーにより系外に排気されていることが分かった。そこで、流動層の熱風を系外に排出すると、層内のリン酸含浸澱粉の水分減少が速やかとなり、リン酸化が促進されることを見出した。結合リンの多いリン酸エステル澱粉を得ようとすれば、リン酸化反応が脱水縮合反応であるため、リン酸化により発生する水分子も多くなり、この水分子がリン酸化反応を妨げるだけでなく、製品の着色を著しく進める要因であった。そこで、流動層における加熱反応工程の原料投入、昇温、一定温度保持、冷却、製品排出の各操業段階において、加熱後の熱風を流動層の系外に排出して水分子を除去しながらリン酸化反応を進めた。このように、加熱焙焼工程で脱水縮合反応により発生する水分子を系外に取り出す方法により、結合リンの多いリン酸エステル澱粉を高いリン酸化率で製造する方法を開発することができた。本発明の方法によれば、高いリン酸化率が得られるだけでなく、従来の製造方法に比べて、脱塩の精製負荷が少なく、着色度の低いリン酸エステル澱粉を製造することが可能となる。
【0026】
本発明において原料として使用される澱粉は特に限定されず、一般に利用されている植物由来の澱粉だけでなく、いずれの起源の澱粉でも使用できる。穀類、塊茎、根、豆、草本類などが使用可能である。例えばコーンスターチ、ハイアミロース・コーンスターチ、ワキシー・コーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉等が用いられる。更に、澱粉を各種処理して得られる澱粉分解物も原料となり、それらの多くは澱粉と表示されている。従って、本発明において原料として用いられる「澱粉」中には澱粉分解物も包含される。すなわち、澱粉を物理的に一次処理した澱粉、例えば、ドラムドライヤーやエクストルーダー処理した糊化澱粉、又は酸やアルカリで化学的に処理して得られる澱粉やデキストリンも原料として使用できる。同様に、澱粉を酵素処理して得られる糊化澱粉やデキストリン、オリゴ糖なども澱粉分解物であり、原料となり得る。更に又、澱粉を低分子化した後、水添還元して得られる還元デキストリンや還元オリゴ糖も原料として使用される。なお、還元デキストリンや還元オリゴ糖は澱粉分解物を二次的に還元処理して得られるものであり、本発明では澱粉分解物の範疇には入れないものとする。
【0027】
リン酸化に使用されるリン酸化試薬としては、リン酸、リン酸のナトリウム塩である第一リン酸ナトリウム(リン酸二水素ナトリウム)、第二リン酸ナトリウム(リン酸水素二ナトリウム)、第三リン酸ナトリウム(リン酸三ナトリウム)、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、更にリン酸のカリウム塩である第一リン酸カリウム(リン酸二水素カリウム)、第二リン酸カリウム(リン酸水素二カリウム)、第三リン酸カリウム(リン酸三カリウム)、トリポリリン酸カリウム、トリメタリン酸カリウム、又、オキシ塩化リンなどが上げられる。
【0028】
リン酸化試薬は、澱粉(澱粉分解物を含む)に対して、通常、リンとして0.2質量%以上の添加量で添加することによりリン酸含浸澱粉を調製することができる。食品添加物の規格に適応するには、結合リン含量を3質量%以内とするため、リンの添加量は4質量%程度が限度となるが、必要に応じてリンの添加量を4質量%以上のリン酸含浸澱粉を調製し、結合リン3質量%以上のリン酸エステル澱粉を製造することも可能である。前述のように、リン酸化試薬の添加は、水分を含んだ澱粉スラリーに粉末のリン酸化試薬を添加する方法や液体のリン酸化試薬に澱粉の乾粉を添加する方法を適宜選択することができる。生じたリン酸含浸澱粉のpHは通常、4〜10に、好ましくは5〜7に調整される。pHを調整するために澱粉とリン酸化試薬との混合液に酸やアルカリを添加することができる。酸としては、当然リン酸を用いることができ、リン酸以外に塩酸、硫酸、亜硫酸などを用いても良い。アルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0029】
澱粉の乾粉と粉末のリン酸化試薬を混合すれば、乾燥状態のままで加熱焙焼できるが、リン酸化率はきわめて低いものとなる。従って、少なくとも澱粉か、リン酸化試薬のいずれかが液体又は水を含んだ流動体の状態で混合することとなる。混合直後のリン酸含浸澱粉は、そのままでは流動性が極めて悪く操業困難であり、流動性を改善するため乾燥が必要となる。リン酸含浸澱粉の水分を15質量%未満にすれば、流動性がかなり改善され、更に10質量%未満にまで乾燥されると操業が容易となる場合が多い。リン酸を混合した澱粉の乾燥は、澱粉の乾燥装置として汎用されているフラッシュ・ドライヤーで水分を容易に10質量%未満に減らすことができる。しかしながら、高い結合リン含量を得るためリン酸化試薬を大量に添加すると、得られるリン酸含浸澱粉の流動性が更に悪くなる場合があり、フラッシュ・ドライヤーによる乾燥が困難となる。このような場合には、特許文献1に開示しているドラムドライヤーやエクストルーダーによる糊化・乾燥法が流動性に優れた乾燥状態のリン酸含浸澱粉を生成させるのに適した方法である。しかも、特許文献1で示しているように、糊化・乾燥法で得たリン酸含浸澱粉を加熱焙焼して得られるリン酸エステル澱粉を、酵素分解により低分子化して生成するPMDやPOSはCa可溶化作用に優れている。従って、リン酸化試薬の添加量を多くして糊化・乾燥法で得たリン酸含浸澱粉を本発明の加熱焙焼法でリン酸化すれば、結合リンの多いリン酸エステル澱粉を製造することができるだけでなく、高結合リンのリン酸エステル澱粉を原料としてCa可溶化作用に極めて優れたPMDやPOSを製造することが可能となる。特許文献4に開示しているように、高結合リンのリン酸エステル澱粉を原料として、再石灰化作用に優れたPMDやPOSを含む組成物を製造することができる。なお、水溶性の澱粉や澱粉分解物、還元デキストリンや還元オリゴ糖を原料とする場合は、当然、リン酸混合品の乾燥が必要となり、常用されている乾燥機が使用される。例えば、スプレードライヤー、凍結乾燥機、濃縮乾燥機などが使用できる。
【0030】
水分15質量%未満に乾燥されたリン酸含浸澱粉は焙焼装置で加熱処理される。加熱処理の条件としては、リン酸含浸澱粉を焙焼装置に投入して熱風で流動加熱し、昇温して品温を通常100〜250℃、好ましくは130〜190℃の一定温度に維持した後、冷却してから製品を排出する。昇温及び冷却・排出に要する時間は、通常10〜60分程度であるが、装置の大きさや原料の搬送能力によって大きく異なり、又リン酸含浸澱粉の流動性が低下すれば長時間を要することとなる。一定温度に維持する加熱時間は通常5分〜4時間、好ましくは30〜150分である。なお、焙焼装置における加熱反応工程の原料投入、昇温、一定温度保持、冷却、製品排出の各操業段階において、水分子が蒸気となって発生する。例えば、リン酸含浸澱粉に付随する水分子、リン酸がポリリン酸に脱水縮合されて生ずる水分子、リン酸と糖が脱水縮合して生ずる水分子などが水蒸気となって発生する。従って、加熱後の熱風を焙焼装置の系外に排出することにより、加熱焙焼により発生する水分を除去しながらリン酸化反応を進めることが、リン酸化率が70%以上であるリン酸エステル澱粉を得るための製造条件として極めて重要となる。
【0031】
なお、特許文献3では、流動層による二段階焙焼で、水分が1質量%以下となるまで115℃に維持した後、温度を120〜140℃に昇温すれば目的のリン酸エステル澱粉が得られるとしている。しかし、この場合、得られるリン酸エステル澱粉の結合リン含量は0.4質量%以下であり、なおかつリン酸化率は最大40%程度でしかない。本発明者らの研究では、熱風を焙焼装置の系外に排出しながら加熱焙焼すれば、流動層に原料を投入してから設定温度に達する頃には原料の水分は1質量%程度まで減少している。しかし、昇温後、熱エネルギーを回収するため、熱風の排気を循環回収して再利用する条件に変更すると、リン酸化率は最大でも65%程度で留まることが判明した。そこで、温度を一定に維持している加熱焙焼段階でも熱風の排気を系外に除去して、発生する水分を除去しながら加熱を続けることにより、高いリン酸化率の得られる条件が見出された。焙焼が終了して冷却・製品排出時にもリン酸化反応が進んでいる場合、水分の除去が必要である。又、反応終了後は速やかに冷却することにより製品の白色度低下を防ぐ効果が期待されるので、熱風の排気を系外に除去することが望ましい。なお、1質量%以下と比較的少ない結合リン含量のリン酸エステル澱粉を製造する場合やリン酸化反応が充分進んでから冷却・製品排出を行う場合は、冷却開始時から熱風の排気を循環回収して再利用する条件に変更しても70%のような高いリン酸化率が得られる場合がある。
【0032】
焙焼装置としては流動層加熱機が推奨される。当然のことながら、他の加熱攪拌装置を用いても、熱風の投入、排気装置を有していれば同様の効果が得られる。本発明では、流動層加熱機として王子コーンスターチ(株)にて設計、建設されたものを使用した。この装置は熱風を装置下部より送り込み、加熱、流動を行うと同時に、熱風の排気を循環又は開放に切り替えることができる。
【0033】
本発明によれば、70%以上と高いリン酸化率のリン酸エステル澱粉が得られ、また結合リンが0.5質量%以上と結合リンの多いリン酸エステル澱粉においても70%以上の高いリン酸化率の得られることが明らかとなった。更に、反応条件を選ぶことにより、80%以上もの高いリン酸化率のリン酸エステル澱粉が得られ、又結合リンが0.5質量%以上と結合リンの多いリン酸エステル澱粉においても、80%以上の高いリン酸化率が得られる。これにより、加熱焙焼して得られる製品から無機リンを除去する精製操作を必要としないで、食品添加物の規格に適応したリン酸エステル澱粉の生産が可能となった。本発明で得られるリン酸エステル澱粉、リン酸マルトデキストリン、リン酸オリゴ糖又はこれらの混合物、リン酸エステル還元デキストリン、リン酸エステル還元オリゴ糖又はこれらの混合物、又はこれらの少なくとも2種の混合物は、食品、飲料、調味料、味質改善剤、口腔衛生剤、洗剤、入浴剤、医薬品、化粧品、金属補給剤、金属吸収促進剤、糊剤、混和剤、塗料、顔料、飼料、肥料などの成分として利用することができる。また、本発明のリン酸エステル澱粉、リン酸マルトデキストリン、リン酸オリゴ糖又はこれらの混合物、リン酸エステル還元デキストリン、リン酸エステル還元オリゴ糖又はこれらの混合物、又はこれらの少なくとも2種の混合物を、食品、飲料、調味料、味質改善剤、口腔衛生剤、洗剤、入浴剤、医薬品、化粧品、金属補給剤、金属吸収促進剤、糊剤、混和剤、塗料、顔料、飼料、肥料などの添加用組成物として利用することができる。
【実施例】
【0034】
以下、比較例及び実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。又、以下の比較例及び実施例において、(a)結合リンの測定、(b)リン酸化率の算出は以下の方法で行った。なお、別に断らない限りリン含量の質量%は乾物質量に対する%として表示した。
【0035】
(a)結合リンの測定
リン含量はでん粉・関連糖質実験法(学会出版センター、中村道徳ら)に記載の方法に準じて測定した。リン酸エステル澱粉のリン含量を測定するため、試料にα−アミラーゼ(ターマミル120L,ノボザイムズ ジャパン株式会社製)0.1質量%(対乾燥試料)を加えて95℃、10分間加熱分解して均一な溶液を調製した。直ちに水道水で冷却し、塩酸を加えてpHを2に調整してから Fiske-Subbarow 法で無機リンを測定した。なお、これらの酵素分解反応では結合リンが無機リンとして遊離しないことを確認している。また、比色分析の発色時に濁りが認められるものは、遠心分離(3000rpm,3分間)して上清の吸光度を測定した。全リン含量は無機リン測定時にpH2に調整した試料を湿式灰化処理してから無機リンを測定した。結合リン含量(質量%)は下記の式で算出した。
【0036】
結合リン含量(質量%)=全リン含量(質量%) − 無機リン含量(質量%)
【0037】
(b)リン酸化率の算出
リン酸化率は下記の式で算出した。
リン酸化率(%)={結合リン含量(質量%) ÷ 全リン含量(質量%)}× 100
【0038】
実施例1
第一リン酸ナトリウム・2水塩 147gと無水第二リン酸ナトリウム 26gを水に溶解して全量 546gのリン酸溶液(溶液中のリン含量6.4質量%、pH6.0)を調製した。コーンスターチ(王子コーンスターチ株式会社製、水分13質量%)1000gをヘンシェルミキサーに入れ、1500rpmで攪拌しながら前記リン酸溶液を1分間に100gのペースで投入し、リン酸を混合した澱粉(リン含量3.5質量%、pH5.6)を得た。得られたリン酸混合澱粉 500gを320メッシュの金網の上に平均厚さ5mmとなるように均一に広げて置き、この金網を棚段乾燥機に装着した。熱風の温度を95℃に設定して1時間乾燥し、リン酸含浸澱粉の水分含量が1%となることを確認した。引き続いて熱風の温度を175℃に昇温して、2時間保持した。ヒーターを停止して冷風とし、品温が50℃以下となってからリン酸エステル澱粉を回収した。得られたリン酸エステル澱粉の結合リン含量は2.8質量%、リン酸化率は80%であった。
【0039】
比較例1
コーンスターチ(王子コーンスターチ株式会社製、水分13質量%)1200kgを一定の流速でタービュライザに導入し、同時に第一リン酸ナトリウム・2水塩 176kgと無水第二リン酸ナトリウム 32kgを水に溶解して全量 655kgのリン酸溶液(溶液中のリン含量6.4質量%、pH6.0)を一定の流速で添加して均一に混合した。このリン酸混合澱粉をフラッシュ・ドライヤーで水分6質量%となるまで乾燥し、得られたリン酸含浸澱粉(リン含量3.5質量%、pH5.6)500kgを流動層加熱機(王子コーンスターチ株式会社製)に投入した。加熱した熱風を供給して流動加熱し、排気される熱風は流動層の系外に排出した。加熱開始後、30分で170℃まで昇温し、水分が1質量%以下となったので、熱風の排気を回収する循環に切り替えて170℃で150分加熱反応を続けた。加熱反応終了後、送風を冷風に切り替えて、更に熱風の排気を系外に排出するように切り替えて品温を100℃以下にまで冷却した。回収されたリン酸エステル澱粉は450kgであり、その結合リン含量は2.3質量%、リン酸化率は66%であった。
【0040】
実施例2
比較例1と同様に調製したリン酸含浸澱粉(リン含量3.5質量%、pH5.6)500kgを流動層加熱機(王子コーンスターチ株式会社製)に投入した。加熱した熱風を供給して流動加熱し、排気される熱風は流動層の系外に排出した。加熱開始後、30分で160℃まで昇温し、水分は1質量%以下となったが、そのまま熱風の排気は系外に排出し続けて、160℃で150分加熱反応した。加熱反応終了後、送風を冷風に切り替え、更に熱風の排気を系外に排出し続けて、品温を100℃以下にまで冷却した。回収されたリン酸エステル澱粉は450kgであり、その結合リン含量は2.6質量%、リン酸化率は74%であった。
【0041】
実施例3
比較例1と同様に調製したリン酸含浸澱粉(リン含量3.5質量%、pH5.6)750kgを流動層加熱機(王子コーンスターチ株式会社製)に投入した。加熱した熱風を供給して流動加熱し、排気される熱風は流動層の系外に排出した。加熱開始後、30分で175℃まで昇温し、熱風の排気はそのまま系外に排出し続けて、175℃で120分加熱反応した。加熱反応終了後、送風を冷風に切り替え、更に熱風の排気を系外に排出し続けて、品温を100℃以下にまで冷却した。回収されたリン酸エステル澱粉は700kgであり、その結合リン含量は2.8質量%、リン酸化率は81%であった。
【0042】
実施例4
比較例1と同様に調製したリン酸含浸澱粉(リン含量3.5質量%、pH5.6)750kgを流動層加熱機(王子コーンスターチ株式会社製)に投入した。加熱した熱風を供給して流動加熱し、排気される熱風は流動層の系外に排出した。加熱開始後、30分で180℃まで昇温し、熱風の排気はそのまま系外に排出し続けて、180℃で90分加熱反応した。加熱反応終了後、送風を冷風に切り替え、更に熱風の排気を系外に排出し続けて、品温を100℃以下にまで冷却した。回収されたリン酸エステル澱粉は700kgであり、その結合リン含量は2.9質量%、リン酸化率は82%であった。
【0043】
実施例5
2000Lの水に第一リン酸ナトリウム・2水塩 361kgと無水第二リン酸ナトリウム 65kgを添加して溶解してから、コーンスターチ(王子コーンスターチ株式会社製、水分13質量%)1200kgを懸濁し、混合した。このリン酸と澱粉の混合液をドラムドライヤーにかけて糊化し、水分5質量%となるまで乾燥し、粉砕した。得られたリン酸含浸澱粉(リン含量6.2質量%、pH5.6)750kgを流動層加熱機(王子コーンスターチ株式会社製)に投入した。加熱した熱風を供給して流動加熱し、排気される熱風は流動層の系外に排出した。加熱開始後、30分で180℃まで昇温し、熱風の排気はそのまま系外に排出し続けて、180℃で90分加熱反応した。加熱反応終了後、送風を冷風に切り替え、更に熱風の排気を系外に排出し続けて、品温を100℃以下にまで冷却した。回収されたリン酸エステル澱粉は700kgであり、その結合リン含量は5.1質量%、リン酸化率は82%であった。
【0044】
実施例6
60KLの水に第一リン酸ナトリウム・2水塩 380kgと無水第二リン酸ナトリウム 146kgを添加して溶解してから、コーンスターチ(王子コーンスターチ株式会社製、水分13質量%)1320kgを懸濁し、混合した。このリン酸と澱粉の混合液をジェット・クッカーにかけて糊化し、スプレードライヤーで噴霧乾燥した。得られたリン酸含浸澱粉(水分6.8質量%、リン含量6.8質量%、pH6.0)の750kgを流動層加熱機(王子コーンスターチ株式会社製)に投入した。加熱した熱風を供給して流動加熱し、排気される熱風は流動層の系外に排出した。加熱開始後、30分で170℃まで昇温し、熱風の排気はそのまま系外に排出し続けて、170℃で120分加熱反応した。加熱反応終了後、送風を冷風に切り替え、更に熱風の排気を系外に排出し続けて、品温を100℃以下にまで冷却した。回収されたリン酸エステル澱粉は700kgであり、その結合リン含量は5.5質量%、リン酸化率は81%であった。
【0045】
実施例7
コーンスターチ(王子コーンスターチ株式会社製、水分13質量%)1200kgを一定の流速でエクストルーダーに投入し、同時に第一リン酸ナトリウム・2水塩 362kgと無水第二リン酸ナトリウム 65kgを水に溶解して全量を780kgとしたリン酸溶液(溶液中のリン含量11.1質量%、pH6.0)を一定の流速で添加して均一に混練混合し、乾燥して粉砕した。得られたリン酸含浸澱粉(水分7.5質量%、リン含量6.2質量%、pH5.6)750kgを流動層加熱機(王子コーンスターチ株式会社製)に投入した。加熱した熱風を供給して流動加熱し、排気される熱風は流動層の系外に排出した。加熱開始後、30分で180℃まで昇温し、熱風の排気はそのまま系外に排出し続けて、180℃で90分加熱反応した。加熱反応終了後、送風を冷風に切り替え、更に熱風の排気を系外に排出し続けて、品温を100℃以下にまで冷却した。回収されたリン酸エステル澱粉は700kgであり、その結合リン含量は5.0質量%、リン酸化率は81%であった。
【0046】
実施例8
澱粉製造工場(王子コーンスターチ株式会社千葉工場)で製造されたコーンスターチの脱水ケーキ(水分34質量%)600kgを混合器(レディゲミキサー)に投入し、次いで第一リン酸ナトリウム・2水塩 110kgと無水第二リン酸ナトリウム 20kgを投入して室温で1時間混合した。澱粉とリン酸の混合を2回行って得たリン酸混合澱粉をフラッシュ・ドライヤーで水分6質量%となるまで乾燥した。得られたリン酸含浸澱粉(リン含量5.2質量%、pH5.4)750kgを流動層加熱機(王子コーンスターチ株式会社製)に投入した。加熱した熱風を供給して流動加熱し、排気される熱風は流動層の系外に排出した。加熱開始後、30分で180℃まで昇温し、熱風の排気はそのまま系外に排出し続けて、180℃で90分加熱反応した。加熱反応終了後、送風を冷風に切り替え、更に熱風の排気を系外に排出し続けて、品温を100℃以下にまで冷却した。回収されたリン酸エステル澱粉は700kgであり、その結合リン含量は4.3質量%、リン酸化率は82%であった。
【0047】
実施例9
コーンスターチ(王子コーンスターチ株式会社製、水分13質量%)3800kgを一定の流速でピンミキサーに導入し、同時に第一リン酸ナトリウム・2水塩 100kgと無水第二リン酸ナトリウム 18kgを水に溶解して全量を580kgとしたリン酸溶液(溶液中のリン含量4.1質量%、pH6.0)を一定の流速で添加して均一に混合した。このリン酸混合澱粉をフラッシュ・ドライヤーで水分6質量%となるまで乾燥し、得られたリン酸含浸澱粉(リン含量0.7質量%、pH5.6)750kgを流動層加熱機(王子コーンスターチ株式会社製)に投入した。加熱した熱風を供給して流動加熱し、排気される熱風は流動層の系外に排出した。加熱開始後、30分で180℃まで昇温し、熱風の排気はそのまま系外に排出し続けて、180℃で30分加熱反応した。加熱反応終了後、送風を冷風に切り替え、更に熱風の排気を系外に排出し続けて、品温を100℃以下にまで冷却した。回収されたリン酸エステル澱粉は700kgであり、その結合リン含量は0.6質量%、リン酸化率は86%であった。
【0048】
実施例10
910Lの水に第一リン酸ナトリウム・2水塩 71kgと無水第二リン酸ナトリウム 28kgを添加して溶解してから、還元デキストリン(PO−10、東和化成工業株式会社製、水分6質量%)480kgを溶解し、混合してスプレードライヤーで噴霧乾燥した。得られたリン酸含浸還元デキストリン(水分5.3質量%、リン含量3.8質量%、pH6.0)の500kgを流動層加熱機(王子コーンスターチ株式会社製)に投入した。加熱した熱風を供給して流動加熱し、排気される熱風は流動層の系外に排出した。加熱開始後、30分で170℃まで昇温し、熱風の排気はそのまま系外に排出し続けて、170℃で90分加熱反応した。加熱反応終了後、送風を冷風に切り替え、更に熱風の排気を系外に排出し続けて、品温を100℃以下にまで冷却した。回収されたリン酸エステル還元デキストリンは450kgであり、その結合リン含量は3.1質量%、リン酸化率は82%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉をリン酸化するリン酸エステル澱粉の製造において、加熱焙焼工程で水分を系外に取り出しながらリン酸化反応を行うことを特徴とするリン酸化率が70%以上であるリン酸エステル澱粉の製造方法。
【請求項2】
リン酸エステル澱粉の結合リン含量が0.5質量%以上である請求項1記載のリン酸エステル澱粉の製造方法。
【請求項3】
澱粉にリン酸化試薬を混合して水分が15質量%未満となるように乾燥してから、熱風で該混合物を流動加熱すると同時に加熱後の熱風を焙焼装置の系外に排出することにより、加熱焙焼工程で水分を系外に取り出しながらリン酸化反応を行うことを特徴とする請求項1又は2記載のリン酸エステル澱粉の製造方法。
【請求項4】
糊化した澱粉にリン酸化試薬を混合したもの、又は澱粉にリン酸化試薬を混合して糊化したものの水分が15質量%未満となるように乾燥した後、熱風で該混合物を流動加熱すると同時に加熱後の熱風を焙焼装置の系外に排出することにより、加熱焙焼工程で水分を系外に取り出しながらリン酸化反応を行うことを特徴とする請求項1又は2記載のリン酸エステル澱粉の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法により得られ、リン酸化率が70%以上であるリン酸エステル澱粉。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法により得られ、結合リン含量が0.5質量%以上であり、リン酸化率が70%以上であるリン酸エステル澱粉。
【請求項7】
請求項5又は6記載のリン酸エステル澱粉を低分子化して得られるリン酸マルトデキストリン、リン酸オリゴ糖又はこれらの混合物。
【請求項8】
還元デキストリン及び/又は還元オリゴ糖とリン酸化試薬を水に溶解して得られる混合物を乾燥した後、熱風で該混合物を流動加熱すると同時に加熱後の熱風を焙焼装置の系外に排出することにより、加熱焙焼工程で水分を系外に取り出しながらリン酸化反応を行うことを特徴とするリン酸化率が70%以上であるリン酸エステル還元デキストリン及び/又はリン酸エステル還元オリゴ糖の製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の製造方法により得られるリン酸エステル還元デキストリン、リン酸エステル還元オリゴ糖又はこれらの混合物。
【請求項10】
食品、飲料、調味料、味質改善剤、口腔衛生剤、洗剤、入浴剤、医薬品、化粧品、金属補給剤、金属吸収促進剤、糊剤、混和剤、塗料、顔料、飼料又は肥料の成分として用いられる、請求項5又は6記載のリン酸エステル澱粉、請求項7記載のリン酸マルトデキストリン、リン酸オリゴ糖又はこれらの混合物、請求項9記載のリン酸エステル還元デキストリン、リン酸エステル還元オリゴ糖又はこれらの混合物、又はこれらの少なくとも2種の混合物。
【請求項11】
請求項5又は6記載のリン酸エステル澱粉、請求項7記載のリン酸マルトデキストリン、リン酸オリゴ糖又はこれらの混合物、請求項9記載のリン酸エステル還元デキストリン、リン酸エステル還元オリゴ糖又はこれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む食品、飲料、調味料、味質改善剤、口腔衛生剤、洗剤、入浴剤、医薬品、化粧品、金属補給剤、金属吸収促進剤、糊剤、混和剤、塗料、顔料、飼料又は肥料。

【公開番号】特開2006−249316(P2006−249316A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69205(P2005−69205)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(000122243)王子コーンスターチ株式会社 (17)
【Fターム(参考)】