説明

レシオ法に基づいた酸素センサー

【課題】扱いが容易で、センサー物質の濃度や測定光学系に影響することなく、高感度、高精度、簡便に酸素濃度を測定することのできる酸素センサーを提供すること。
【解決手段】支持体および検出層を含む酸素センサーであって、該検出層が、蛍光化合物、りん光化合物およびポリマーを含む酸素センサー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレシオ法に基づいた酸素センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
酸素は、生命活動において必須な化合物であると同時に、様々な物質を酸化しその機能や構造を破壊してしまう性質もあり、気体、液体中に存在する酸素濃度(分圧)を簡便に計測する技術の開発が必要とされている。現在、酸素濃度(分圧)を測定する技術としては、電気化学的方法、磁気式、光学的測定法がある。電気化学的方法は、電極近傍で酸素が水と電子と反応することを利用している。これは、電極に鉛を用いる点と微小領域で使用すると酸素を消費してしまい濃度を低く見積もることが問題点である。磁気式は、酸素の常磁性としての性質を利用しており、問題点としては、気体をフローさせることや液体中の酸素は測定できない点である。
【0003】
光学的測定法は、酸素センサー物質に光を照射し、得られる発光強度の酸素依存性を利用している。これは酸素を消費することもなく、簡便な測定法であるが、酸素センサー物質の濃度や測定光学系に値が大きく依存してしまうため、使用範囲が限定される。
発明者らは、蛍光団とりん光団をリンカーでつないだ酸素センサーを開発した(特許文献1)。この方法は、酸素濃度が既知のものでキャリブレーションする必要がなく強度法に比べ計測が容易となる。また、酸素濃度により蛍光団の青色とりん光団の赤色の比率が異なることから、発光色が変化し酸素濃度を可視化から判断できる点も特徴である。ただし、蛍光団とりん光団を直接リンカーで結合するため、合成し難いことなどが課題となっている。
また、特許文献2にはりん光物質をポリマー中に分散させた酸素センサーが開示されているが、蛍光物質とりん光物質の両方を用いて酸素濃度を測定することは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2010/044465
【特許文献2】特表2002-501191
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、扱いが容易で、センサー物質の濃度や測定光学系に影響することなく、高感度、高精度かつ簡便に酸素濃度を測定することのできる酸素センサーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、ポリマーに蛍光化合物とりん光化合物を配合して薄膜化させることで、高感度、高精度かつ簡便に酸素濃度を測定することのできる酸素センサーを作製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)支持体および検出層を含む酸素センサーであって、該検出層が、蛍光化合物、りん光化合物およびポリマーを含む酸素センサー。
(2)蛍光化合物が下記のいずれかの化合物である、(1)に記載の酸素センサー。
【化1】

(3)りん光化合物が下記のいずれかの化合物である、(1)または(2)に記載の酸素センサー。
【化2】

(4)りん光化合物がPtTFPPである、(3)に記載の酸素センサー。
(5)ポリマーがポリスチレン、ポリトリフルオロエチルメタクリレートまたはこれらの共重合体である、(1)〜(4)のいずれかに記載の酸素センサー。
(6)ポリマーがポリトリフルオロエチルメタクリレートである、(1)〜(4)のいずれかに記載の酸素センサー。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の酸素センサーを含む酸素濃度測定装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、ポリマー中にりん光化合物と蛍光化合物を配合して薄膜化させて酸素センサーを作製することにより、酸素濃度に発光強度が依存しない蛍光と、酸素濃度に発光強度が著しく依存するりん光を計測し、それらの発光強度比((りん光強度)/(蛍光強度
))を測定することにより、センサー物質の濃度や測定光学系に影響することなく、高感度、高精度かつ簡便に酸素濃度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の酸素濃度測定装置の模式図。
【図2】実施例の酸素濃度測定システムの模式図。
【図3】発光スペクトルの酸素濃度依存性を示す図。
【図4】酸素分圧とRI/R0の関係を示す図。
【図5】本発明の酸素センサーの発光色の酸素濃度依存性を示す図(写真)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を詳しく説明する。
本発明の酸素センサーは、支持体および検出層を含み、該検出層が、蛍光化合物と、り
ん光化合物と、ポリマーとを含む。
【0011】
りん光化合物としては、酸素濃度に依存したりん光を発する化合物であれば特に制限されないが、イリジウム錯体、白金錯体、ルテニウム錯体またはパラジウム錯体を含む化合物であることが好ましい。
イリジウム錯体は、Ir(III)を中心金属とし、芳香族系分子を配位子とする金属錯体を
意味するが、例えば、下記文献1)〜4)に開示されたようなものが例示される。配位子の芳香族系分子としては、当該配位子を含むイリジウム錯体がりん光を発するものであれば特に制限されないが、窒素原子、酸素原子、硫黄原子などのヘテロ原子を含む芳香族系配位子が好ましい。
1) S. Lamansky, P. Djurovich, D. Murphy, F. Abdel-Razzaq, H. Lee, C. Adachi, P. E. Burrows, S. R. Forrest, and M. E. Thompson, J. Am. Chem. Soc., 123, 4303 (2001).
2) H. Konno,Chem. Times, 199, 13 (2006).
3) M. Nonoyama, Bull. Chem. Soc. Jpn., 47, 767 (1974).
4) S. Sprouse, K. A. King, P. J. Spellane, and R. J. Watts, J. Am. Chem. Soc.,
106, 6647 (1984)
【0012】
特に好ましいイリジウム錯体として、下記のものが挙げられる。
【化3】

【0013】
好ましい白金錯体として、下記のものが挙げられる。
【化4】

【0014】
蛍光化合物は特に制限されないが、NBD(4-Nitrobenzo-2-oxa-1,3-diazole)、FITC、
またはクマリン系色素、ローダミン類、BODIPY、シアニン系色素などが例示されるが、下記のNBD、FITC、C314またはC6が好ましい。
【化5】

【0015】
ポリマーの種類は蛍光化合物とりん光化合物を分散させた薄膜を形成できるものであれば特に制限されないが、透明なものが好ましく、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリシロキサン、含フッ素重合体が挙げられ、より具体的にはポリスチレン、ポリトリフルオロエチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリジメチルシロキサンなどが挙げられ、これらの共重合体でもよい。
【0016】
本発明の酸素センサーは、例えば、ポリマーとりん光化合物と蛍光化合物を適当な溶媒に溶解して溶液を用意し、該溶液を支持体上にコーティングし、乾燥させることで作製することができる。コーティングされる検出層の厚さは0.1μm〜100μmが好ましい。
【0017】
支持体の素材としては透明なものが好ましく、プラスチック、ガラス、石英などが挙げられる。支持体の形状は特に制限されないが、例えば、板状、棒状、シート状、球場などが例示される。
蛍光化合物とりん光化合物の割合(モル比)は10:1〜1:10の範囲が好ましく、2:1〜1:2がより好ましく、1:1が特に好ましい。
蛍光化合物とりん光化合物はポリマー重量に対してそれぞれ0.1〜5wt%の範囲で含まれることが好ましい。
【0018】
次に、本発明の酸素濃度測定装置の一例について、図1を参照して説明する。
酸素センサーAは先端が先鋭化された支持体1と、先鋭化部分に検出層(ポリマー+りん光化合物+蛍光化合物)がコートされた検出部2からなる。酸素センサーAの検出部を測定試料に接触させ、光源3から光を照射する。照射する光の波長はりん光化合物及び蛍光化合物の種類に応じて適宜選択される。検出部から発せられた蛍光とりん光を分光器付検出器4で検出し、接続されたコンピューター5にて酸素濃度を算出する。
【0019】
酸素センサーに光を照射することで、蛍光とりん光を同時に観測し、それらの強度比から酸素濃度の定量を行うことができる。
【数1】

RIは任意の酸素分圧(pO2)のときの強度比、R0は酸素分圧0における強度比である。KSVはStern-Volmer定数である。
【0020】
また、蛍光色とりん光色の混成度合に依存して発光色が変化するので、視覚的においても酸素の有無を識別できる。
さらに、用いるポリマーやりん光材料によって測定可能な酸素濃度範囲を調整することもできる。例えば、りん光寿命の長い化合物や酸素透過性の高いポリマーを用いることで、低酸素濃度領域(0.02atm以下、5ppm以下)の測定も可能となる。
【0021】
測定対象としては特に制限されず、大気中、河川中、海水中、土壌中の酸素濃度や、生体中の酸素濃度などが例示される。癌組織では酸素供給が不足しているので生体中の酸素濃度を測定することにより癌の診断に利用できる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0023】
以下に本発明で用いた蛍光材料、りん光材料、ポリマーの構造式を示す。
【化6】

蛍光材料(C314、C6)は青色および緑色蛍光を示す。
りん光材料(BTP-5CF3、BTP(Pt)、PtTFPP)は、りん光寿命が異なり、また、赤色りん光
を示す化合物を用いた。
【0024】
ポリマーは、ポリスチレン(PS)、ポリトリフルオロエチルメタクリレート(PTFEM)
およびPSとPTFEMの共重合体(PS-co-PTFEM;1:1)を用いた。
【0025】
酸素センサーは、ポリマー重量に対して蛍光材料とりん光材料をそれぞれ1wt%にな
るように調整し、テトラヒドロフランに溶解させ、その溶液を石英板にスピンコート(2000rpm、30sec)して作製した。
【0026】
図2に酸素センサーの評価システムを示す。酸素センサーを石英セルに入れ、LED光源
を用いて405nmあるいは455nmの光を照射し、分光器付き検出器で蛍光とりん光を同時測定する。酸素分圧は、酸素ガスと窒素ガスをマスフローコントローラで調節し、任意の混合ガスを石英セル内に導入した。
【0027】
図3は、蛍光性分子のクマリン314(C314)と、りん光性分子のイリジウム(Ir)錯体(BTP5CF3)または白金錯体(PtTFPP)、それにポリマーのポリスチレンを混ぜた酸素センサーチップの発光スペクトルの酸素分圧依存性を示している。
ここで、430-550nmにC314の蛍光、600-800nmにBTP-5CF3あるいはPtTFPPのりん光が観測されており、蛍光とりん光が同時測定可能であることが分かる。
また、C314の蛍光は、酸素分圧に対して強度が一定であるのに対して、りん光は酸素分圧の増加に伴って減少している。したがって、この両者の比から酸素濃度を計測することができる。
表1より、りん光材料に白金錯体を用いると発光強度比の変化が大きくなり、より高精度の酸素センサーとなることがわかる。
【0028】
蛍光極大波長およびりん光極大波長の±10nmの積分強度を計算し、蛍光強度に対するりん光強度(RI/R0)のプロットを図4に示す。ここでRIは任意の酸素分圧のときの強度比
、R0は酸素分圧0における強度比である。
図4のプロットを、式(1)を用いて解析することにより、Stern-Volmer定数(KSV
を決定した。表1に本発明で実施した酸素センサーのKSV値をまとめた。
同じりん光材料でKSV値を比較すると、PSに比べて、酸素透過性の高いPTFEMの方が大きな値である。また、りん光寿命が最も長いPtTFPPを用いた酸素センサーは、KSV値が他の
りん光材料よりも著しく大きく、酸素分圧0.05atm以下で高精度に機能することがわかる

【数2】

酸素分圧: 気圧×酸素濃度(純酸素を1.0とする)
【0029】
【表1】

【0030】
なお、比較例1は特許文献2のようにりん光化合物のみを用いた場合であるが、実施例7と比較してKsv値が小さかった。
また、比較例2,3は特許文献1のようにりん光団と蛍光団を結合させた化合物をポリマーにドープした場合であるが、Ksv値は小さかった。
【0031】
図4は、酸素濃度による発光色の変化であり、酸素濃度ゼロの赤色から空気飽和状態の紫まで変色することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
環境分析、食品化学、医療診断などの分野で有用である。
【符号の説明】
【0033】
A:酸素センサー
B:酸素濃度測定装置
1:支持体
2:検出部
3:光源
4:分光器付検出器
5:コンピューター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体および検出層を含む酸素センサーであって、該検出層が、蛍光化合物、りん光化合物およびポリマーを含む酸素センサー。
【請求項2】
蛍光化合物が下記のいずれかの化合物である、請求項1に記載の酸素センサー。
【化1】

【請求項3】
りん光化合物が下記のいずれかの化合物である、請求項1または2に記載の酸素センサー。
【化2】

【請求項4】
ポリマーがポリスチレン、ポリトリフルオロエチルメタクリレートまたはこれらの共重合体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸素センサー。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の酸素センサーを含む酸素濃度測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−53901(P2013−53901A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191551(P2011−191551)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行所 社団法人日本化学会 刊行物名 日本化学会第91回春季年会2011年講演予稿集IV 発行日 平成23年3月11日 発行人 太田信廣(光化学協会常任理事) 刊行物名 2011年光化学討論会講演要旨集 発行日 平成23年9月1日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構 研究成果最適展開支援事業 フィージビリティスタディステージ探索タイプ「発光色変化型低酸素用センサーチップの開発と応用」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】