説明

レバミピドの骨粗鬆症治療用途

【課題】副作用の少なく、効果的な新規な骨粗鬆症治療および/または予防剤の提供。
【解決手段】レバミピドまたはその医薬的に許容される塩を有効成分とする骨吸収性疾患の予防および/または治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨吸収性疾患の予防及び/又は治療剤、さらに詳しくは、一般式(1):
【化1】

で示される化合物またはその塩を有効成分とする骨吸収性疾患の予防及び/又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症は骨を形成する骨芽細胞と骨を吸収、破壊する破骨細胞の代謝バランスが崩れ、骨形成の抑制や骨破壊、吸収の進行により骨密度が減少することで起こる。その原因としては加齢や閉経などに伴うホルモン(エストロゲン)の変化や、寝たきりなどの運動不足状態、また、ダイエットなどによるカルシウム不足などが挙げられる。
【0003】
現在、日本における骨粗鬆症の患者は、800万人〜1,100万人と推定され、大腿骨頸部骨折は年間約9万人と急速に増加しており、様々な治療方法や予防剤が開発されている。
骨粗鬆症の予防または治療剤としては、血液中のカルシウム量を維持し、骨吸収作用を抑制するカルシウム製剤やカルシウムの吸収を促進し、血液中のカルシウム量を保つビタミンD製剤、骨吸収を抑制し、カルシウムを骨に運ぶカルシトニンの分泌とカルシウムの吸収、ビタミンDの活性化を促進するエストロゲン製剤、骨吸収を直接抑制し、カルシトニンの分泌を促進して骨吸収を抑制し、また破骨細胞の形成を阻害するイソフラボン誘導体、骨芽細胞に直接作用して、骨量を増加させ、また骨吸収抑制作用も有するビタミンK、破骨細胞を減少させて骨吸収を抑制し、骨芽細胞の骨形成を促進するカルシトニン製剤、破骨細胞の分化と活性化を抑制するビスホスホネ−ト系骨代謝改善剤等がある。
【0004】
これらの予防または治療剤を用いた薬物療法は骨粗鬆症の治療の中心的な治療方法として用いられている。一方で服用の仕方によっては、カルシウムとキレートをつくり、却って吸収を抑制してしまう場合や、高カルシウム血症を起こす場合もある。また、長期の服用で尿路結石が生じたり、悪心、嘔吐、食欲不振、嚥下困難、嚥下痛、下痢、軟便、皮膚の発疹などの様々な副作用が生じたりするなど、服用には注意が必要とされ、管理が難しい場合もある。従って、副作用等の心配がなく、安全で効果的な予防または治療剤が求められる。
【0005】
上記一般式(1)で示されるレバミピドに代表されるカルボスチリル化合物及びその製法は特許文献1に記載されており、それらが抗潰瘍剤として有用であることが記載されている。さらに、レバミピドが種々の疾患の治療に有用であること、例えば特許文献2にはレバミピドが胃炎治療剤として有用であること、特許文献3には抗糖尿病薬として有用であることが記載されている。さらに、特許文献4にはソマトスタチン増加作用又は低下抑制作用を有することが記載されている。また、特許文献5には腸粘膜障害保護剤として有用であること、特許文献6にはウレアーゼ阻害剤として有用であること、特許文献7にはインターロイキン−8阻害剤として有用であること、特許文献8には発癌抑制剤として有用であること、特許文献9には眼疾患治療剤として有用であることが記載されている。さらに、特許文献10にはADP−リボシル化阻害剤として有用であること、特許文献11には生体内毒素型細菌性感染症治療剤として有用であること、特許文献12にはNADアーゼ阻害剤として有用であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭63−35623号公報
【特許文献2】特開平3−74329号公報
【特許文献3】特開平5−148143号公報
【特許文献4】特開平6−509587号公報
【特許文献5】特開平6−211662号公報
【特許文献6】特開平7−101862号公報
【特許文献7】特開平8−12578号公報
【特許文献8】特開平9−71532号公報
【特許文献9】特開平9−301866号公報
【特許文献10】特開平10−231246号公報
【特許文献11】特開平10−231247号公報
【特許文献12】特開平11−228413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のとおり、骨粗鬆症の予防/治療剤についてはいくつかの予防/治療剤が臨床の場で用いられているものの、副作用の問題もあり、安全で効果的な新規な骨粗鬆症の予防/治療剤の開発が切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、前記胃炎・胃潰瘍治療剤として一般的に知られているレバミピドが、意外にも破骨細胞分化抑制作用を有することを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0009】
本発明は下記の態様を含む。
項1.レバミピドまたはその医薬的に許容される塩を有効成分とする破骨細胞分化抑制剤。
項2.レバミピドまたはその医薬的に許容される塩を有効成分とする骨吸収抑制剤。
項3.レバミピドまたはその医薬的に許容される塩を有効成分とする骨吸収性疾患の予防および/または治療剤。
項4.骨吸収性疾患が骨粗鬆症、骨量減少または骨折である項3に記載の予防および/または治療剤。
項5.骨吸収性疾患の予防および/または治療剤を製造するためのレバミピドまたはその医薬的に許容される塩の使用。
項6.骨吸収性疾患の予防および/または治療に使用するためのレバミピドまたはその医薬的に許容される塩。
項7.骨吸収性疾患の患者に、治療上の有効量のレバミピドまたはその医薬的に許容される塩を投与することを特徴とする骨吸収性疾患の予防および/または治療方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のレバミピドまたはその医薬的に許容される塩を含む薬剤は、破骨細胞分化の抑制に有効であり、ヒトの骨吸収抑制剤、骨吸収性疾患の予防および/または治療剤として使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1において観察された顕微鏡写真を示す。「positive control」、「1mM」および「3mM」はレバミピドの添加量がそれぞれ0、1および3mMであることを示し、「negative control」はM−CSF、RANKLおよびレバミピドが無添加であるコントロールを示す。
【図2】実施例2において観察された顕微鏡写真を示す。「0mM」および「3mM」はレバミピドの添加量がそれぞれ0および3mMであることを示し、「55h」および「127h」はタイムラプス撮影開始から55時間目および127時間目であることを示す。
【図3】実施例3において観察された顕微鏡写真を示す。「positive control」、「1mM」および「3mM」はレバミピドの添加量がそれぞれ0、1および3mMであることを示す。
【図4】実施例4において観察された顕微鏡写真を示す。「positive control」、「1mM」および「3mM」はレバミピドの添加量がそれぞれ0、1および3mMであることを示す。
【図5A】図5Aは実施例5においてレバミピドの添加量が0mMである破骨細胞の、低真空圧SEMにより観察された3D計測による解析結果を示す。
【図5B】図5Bは実施例5において各条件における吸収窩の3D形状を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のレバミピドおよびその塩、並びにその製造方法については、特許文献1に開示されている。
【0013】
本発明のレバミピドまたはその医薬的に許容される塩は、バルクで、または好ましくは通常の医薬担体もしくは希釈剤で医薬製剤の形態で用いられ得る。投与形態は特定の形態に制限されないが、いずれの通常の投与形態、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤のような経口投与の製剤、経口投与に適した様々な液体製剤、または注射剤、坐剤のような非経口投与用製剤であってもよい。活性化合物はその製剤の組成物に対して0.1〜70重量%含まれ、好ましくは、投与単位あたり1〜1000mg、好ましくは100〜300mgの量で製剤中含まれる。
本発明の薬物の投与量は、投与方法、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度により適宜選択されるが、通常レバミピドまたはその医薬的に許容される塩の量は1日当り体重1kg当り0.01〜50mg、好ましくは3〜5mgとするのがよく、1回または2〜数回に分けて投与してもよい。
【0014】
錠剤、カプセル剤、経口投与用液剤のような製剤は、通常の方法で調製され得る。錠剤は、ゼラチン、デンプン、乳糖、ステアリン酸マグネシウム、タルク、アラビアガムなどのような通常の医薬担体と混合して調製され得る。カプセル剤は、不活性な医薬充填剤または希釈剤と共に混合して調製し、硬ゼラチンカプセルまたは軟カプセルに詰められ得る。シロップ剤またはエリキシル剤のような経口液体製剤は、活性化合物と、甘味料(例えば、ショ糖)、保存剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、着色料、香料などとを混合して調製する。
【0015】
注射用製剤は通常、液剤、乳濁液、または懸濁液の形態で調製され、無菌化し、更に好ましくは血液に対して等張にされる。液体、乳濁液または懸濁液の形態の製剤は一般的に、通常の医薬希釈剤、例えば、水、エチルアルコール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを用いて調製される。これらの製剤には、塩化ナトリウム、ブドウ糖、グリセリンのような等張剤と、等張にするのに十分な量で混合してもよく、更に通常の可溶化剤、緩衝剤、麻酔剤、および適宜、着色剤、保存剤、芳香物質、香料、甘味料、および他の薬剤で混合してもよい。
【0016】
非経口投与用製剤はまた、通常の方法、例えば本発明のレバミピドまたはその医薬的に許容される塩を無菌の水性担体、好ましくは水または生理食塩水溶液に溶解しても調製され得る。
【0017】
本発明で用いる「破骨細胞分化抑制」とは、M−CSF(Macrophage Colony Stimulating Factor)およびRANKL(Receptor Activator of NF kappa B Ligand)の刺激による単球からの破骨細胞への分化を、特異的に制御することをいい、破骨細胞分化を抑制することで骨吸収性疾患の治療、予防、改善等に用いることができる。
本発明で用いる「骨吸収抑制」とは、骨吸収速度を減少または停止させることをいう。
本発明で用いる「骨吸収性疾患」とは、骨吸収が骨形成を上回ることに起因する疾患または状態を意味する。このような疾患または状態の例としては、骨量減少または骨粗鬆症、およびそれらに伴う腰痛や背部痛等の痛み、骨変形、骨強度低下、骨折等が挙げられる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を挙げて、本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1.ヒト破骨細胞分化(48ウェルプレート)
健常人末梢血由来の単球を、48ウェルプレートにおいてM−CSF(Macrophage Colony Stimulating Factor,100ng/ml)の存在下で3日間培養後、RANKL(Receptor Activator of NF kappa B Ligand,30ng/ml)を添加し、M−CSF(100ng/ml)およびRANKL(30ng/ml)の存在下で、0、1、3mMのレバミピドを添加し、培養を開始してから13日間、37℃において培養することにより破骨細胞へ分化させた。培養後、抗CD51/61(ビトロネクチン受容体)抗体による免疫染色を行った。顕微鏡による観察結果を図1に示す。破骨細胞の分化はレバミピド0、1、3mMの順に濃度依存的に抑制された。
【0019】
実施例2.ヒト破骨細胞分化(タイムラプス)
健常人末梢血由来の単球を、48ウェルプレートにおいてM−CSF(100ng/ml)の存在下で3日間培養後、RANKL(30ng/ml)を添加し、M−CSF(100ng/ml)およびRANKL(30ng/ml)の存在下で、0、1、3mMのレバミピドを添加し、培養を開始してから13日間、37℃において破骨細胞へ分化させた。破骨細胞への分化をタイムラプス(time lapse)機能にて1時間毎に、RANKL添加後の4日目〜10日目(すなわち、培養開始7日目〜13日目)までの7日間観察した。顕微鏡による観察結果を図2に示す。
3mMのレバミピド添加においては、単核の破骨細胞前駆細胞の段階からプレートへの付着能を低下させた(図2の上段 タイムラプス撮影開始から55時間目=RANKL添加後6日目)。タイムラプス撮影127時間目(RANKL添加後9日目)では、付着細胞は小型で細胞数は少なかった(図2の下段)。
【0020】
実施例3.ヒト破骨細胞活性化(オステオロジック)
オステオロジック(Osteologic,登録商標)プレートを用い、健常人末梢血由来の単球を、48ウェルプレートにおいてM−CSF(100ng/ml)の存在下で3日間培養後、RANKL(30ng/ml)を添加し、M−CSF(100ng/ml)およびRANKL(30ng/ml)の存在下で、0、1、3mMのレバミピドを添加し、培養を開始してから13日間、37℃で培養することにより、破骨細胞へ分化させた。破骨細胞の吸収活性はレバミピド0、1、3mMの順に濃度依存的に抑制された(図3)。
【0021】
実施例4.ヒト破骨細胞活性化
健常人末梢血由来の単球を、48ウェルプレートにおいてM−CSF(Macrophage Colony Stimulating Factor,100ng/ml)の存在下で3日間培養後、RANKL(30ng/ml)を添加し、M−CSF(100ng/ml)およびRANKL(30ng/ml)の存在下で、培養を開始してから13日間、37℃において培養することにより破骨細胞へ分化させた。形成した破骨細胞を剥離し、成熟破骨細胞を撒き直し、0、1、3mMのレバミピドを添加し、再培養を行いアクチンリングの形状を観察した。アクチンリングの形成はレバミピド0、1、3mMの順に濃度依存的に抑制された(図4)。
【0022】
実施例5.ヒト破骨細胞活性化(象牙質切片,低真空圧SEM)
象牙質切片(dentin slice)上で、健常人末梢血由来の単球を、M−CSF(100ng/ml)の存在下で3日間培養後、RANKL(50ng/ml)を添加し、M−CSF(100ng/ml)およびRANKL(50ng/ml)の存在下で、0、1、3mMのレバミピドを添加し、培養を開始してから13日間、37℃において破骨細胞へ分化させた。この象牙質切片(dentin slice)上の細胞を残したまま固定し、低真空圧走査電子顕微鏡(SEM)により、吸収窩の形状を30、100、500倍で観察した。3D計測を行い吸収窩の形状を定量化した。Positive controlにて深度40μmの吸収窩が観察された(図5A)。レバミピド3mM添加により吸収窩は観察されなかった(図5B)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レバミピドまたはその医薬的に許容される塩を有効成分とする破骨細胞分化抑制剤。
【請求項2】
レバミピドまたはその医薬的に許容される塩を有効成分とする骨吸収抑制剤。
【請求項3】
レバミピドまたはその医薬的に許容される塩を有効成分とする骨吸収性疾患の予防および/または治療剤。
【請求項4】
骨吸収性疾患が骨粗鬆症、骨量減少または骨折である請求項3に記載の予防および/または治療剤。
【請求項5】
骨吸収性疾患の予防および/または治療剤を製造するためのレバミピドまたはその医薬的に許容される塩の使用。
【請求項6】
骨吸収性疾患の予防および/または治療に使用するためのレバミピドまたはその医薬的に許容される塩。
【請求項7】
骨吸収性疾患の患者に、治療上の有効量のレバミピドまたはその医薬的に許容される塩を投与することを特徴とする骨吸収性疾患の予防および/または治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2012−144437(P2012−144437A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1375(P2011−1375)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(591173198)学校法人東京女子医科大学 (48)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】