説明

レンズシート、印刷方法および印刷物

【課題】 クロストークを抑制できるように視差画像の編集を行うことができるプログラムを備えない印刷装置で視差画像を印刷しても、クロストークの発生を抑制することができるレンズシート提供すること。
【解決手段】 シリンドリカルレンズ2が複数並列して設けられているレンチキュラーレンズ3と、レンチキュラーレンズ3のレンズ面8の反対側に配置される画像形成層5とを有するレンズシート1であって、画像形成層5には、シリンドリカルレンズ2の長手方向に沿って、シリンドリカルレンズ11が並列される配列ピッチP1よりも細い幅の黒線部11が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズシート、印刷方法および印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、シリンドリカルレンズが複数並列して設けられているレンチキュラーレンズ
のレンズ面と反対側に画像形成層が形成されているレンズシートが知られている。画像形
成層にシリンドリカルレンズの配列に対応させて視差画像や変わり絵画像(以下、単に視
差画像という。つまり、以下の記載および特許請求の範囲において、「視差画像」を、変
わり絵画像を含む概念として用いる。)が印刷されたレンズシートをレンズ面側から観察
すると、視差画像を立体画像や見る位置により画像が変化する変化画像として視認するこ
とができる。視差画像は、右目用と左目用に分離された複数の短冊状の画像であり、シリ
ンドリカルレンズが並列される方向に配列されている。
【0003】
レンズシートに設けられるシリンドリカルレンズは、たとえば、60lpi、100l
pi等、1インチ幅に数十本から100本を超えるピッチで形成されている。視差画像は
、上記ピッチで配列されるシリンドリカルレンズの1本につき、2以上の異なる視差画像
が印刷される。そのため、視差画像同士が極めて接近し、隣接する視差画像同士では、他
方の視差画像のインクが一方の視差画像の側にまで滲み、レンズを介して視差画像を観察
したときに、本来視覚するべきでない画像を視覚してしまうクロストークが発生する。
【0004】
このクロストークを防止するため、たとえば、特許文献1,2,3には、印刷される視
差画像が、隣接する視差画像との間に間隔を設けて印刷されるように、視差画像を印刷す
るための画像データー自体をプログラムにより処理する方法が開示されている。視差画像
を印刷するための画像データーを上述のように構成することで、隣接する視差画像の間に
間隔が形成され、隣接する2つの視差画像の間で発生するクロストークを抑制することが
できる。
【0005】
【特許文献1】特開平11−95168号
【特許文献2】特開平11−212024号
【特許文献3】特開平8−1922号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1から3に開示される構成は、画像データーをプログラムによ
り編集するものである。そのため、かかるプログラムを有しない印刷装置を用いてレンズ
シートに視差画像を印刷する場合には、クロストークの発生の抑制を行うことができない
という問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、クロストークを抑制できるように視差画像の編集を行うことができ
るプログラムを備えない印刷装置で視差画像を印刷しても、クロストークの発生を抑制す
ることができるレンズシート、印刷方法および印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するため、シリンドリカルレンズが複数並列して設けられているレン
チキュラーレンズと、レンチキュラーレンズのレンズ面の反対側に配置される画像形成層
とを有するレンズシートにおいて、画像形成層に、シリンドリカルレンズの長手方向に沿
って、画像形成層に形成される視差画像の隣接部に視差画像の幅よりも細い幅の黒線部が
形成されていることとする。
【0009】
レンズシートをこのように構成した場合には、画像形成層に印刷された視差画像の隣接
部に生じる滲み部に起因するクロストークの発生を抑制することができる。
【0010】
上記発明に加えて、黒線部は、複数のシリンドリカルレンズのそれぞれに形成されてい
ることとする。
【0011】
シリンドリカルレンズ毎に黒線部を設けることで、より効果的に視差画像の隣接部に生
じる滲み部に起因するクロストークの発生を抑制することができる。
【0012】
上記発明に加えて、各シリンドリカルレンズには、複数の黒線部が形成されていること
とする。
【0013】
シリンドリカルレンズ毎に複数の黒線部を設けることで、より一層効果的に視差画像の
隣接部に生じる滲み部に起因するクロストークの発生を抑制することができる。
【0014】
上記発明に加えて、シリンドリカルレンズの光軸と、このシリンドリカルレンズに対応
して設けられる黒線部との距離が、レンズシートのシリンドリカルレンズの並列方向の中
央から前記並列方向の端部に向かうにしたがって長くなることとする。
【0015】
レンズシートをこのように構成した場合には、互いに対応するシリンドリカルレンズと
視差画像とにおいて、シリンドリカルレンズが並列される方向におけるレンズシートの中
央から並列方向の端部に向かうにしたがって、視差画像とシリンドリカルレンズの光軸と
の距離が広くなるように視差画像が印刷される場合にも、視差画像の隣接部に生じる滲み
部に起因するクロストークの発生を抑制することができる
【0016】
上記発明に加えて、黒線部は、幅方向の中央から端部に向かうにしたがって、光の吸収
量が小さくなることとする。
【0017】
レンズシートをこのように構成した場合には、レンチキュラーレンズを介して視差画像
を観察したときに、視差画像と黒線部のエッジ部の境界が視覚し難くなる。
【0018】
上述の課題を解決するため、上述のレンズシートに対して、視差画像を印刷することと
する。
【0019】
レンズシートに対してこのように印刷を行った場合には、黒線部により視差画像のイン
クの滲み部に起因するクロストークの発生を抑制することができる。
【0020】
上記発明に加えて、視差画像の印刷には、黒線部を挟んで隣接する視差画像を印刷する
印刷が含まれることとする。
【0021】
レンズシートに対してこのように印刷を行った場合には、画像形成層に印刷された視差
画像の隣接部に生じる滲み部に起因するクロストークの発生を抑制することができる。
【0022】
上述の課題を解決するため、シリンドリカルレンズが複数並列して設けられているレン
チキュラーレンズと、レンチキュラーレンズのレンズ面とは反対側に配置される画像形成
層とを有するレンズシートの画像形成層に視差画像が印刷された印刷物は、画像形成層に
、シリンドリカルレンズの長手方向に沿って、シリンドリカルレンズが並列されるピッチ
よりも細い線幅で黒線部が形成され、この黒線部の両側に、視差画像の互いに隣接する視
差画像が印刷されていることとする。
【0023】
印刷物を上述のように構成した場合には、画像形成層に印刷された互いに隣接する視差
画像の隣接部の滲み部に起因するクロストークの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】レンズシートを表側から見た平面図である。
【図2】図1に示す切断線A−Aにおける断面の一部を拡大図して示す図である。
【図3】レンズシートに視差画像が形成された状態を示す断面図である。
【図4】図3の一部分を表面側から見たときの状態を示す図である。
【図5】1つのシリンドリカルレンズについて複数の黒線部が設けられた状態のレンズシートを示す図である。
【図6】レンズシートの中央から幅方向の端部に向かうにしたがって、黒線部のシリンドリカルレンズの光軸との距離が長くなるレンズシートの構成を示す図である。
【図7】黒線部の幅方向における色の濃さが中央から端部に向かって薄くなる構成を示す図である。
【図8】視差画像の印刷方法を説明する図である。
【図9】黒線部を光センサーにより検出し易くするための構成を示す図である。
【図10】黒線部を光センサーにより検出し易くするための構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施の形態)
本発明の実施の形態に係るレンズシート1の構成を図1,2等を参照しながら説明する
。以下の説明において、レンズシート1を観察する側を表側(表方向)とし、シリンドリ
カルレンズ(以下、SDレンズと記載する。)2が配列される方向を幅方向として説明を
行う。図1は、レンズシート1を表側から見た平面図である。図2は、図1に示す切断線
A−Aにおける断面の一部Bを拡大して示す図である。なお、図2において断面部につい
ては、図面を判り易くするため、ハッチングを省略している。
【0026】
レンズシート1は、図2に示すように、SDレンズ2が複数並列して設けられるレンチ
キュラーレンズ3と、接着層4と、画像形成層5とを有する。画像形成層5は、基材6と
インク受容層7と有している。画像形成層5は、基材6側を接着層4によりレンチキュラ
ーレンズ3のレンズ面8の反対側の面に接着されている。
【0027】
レンチキュラーレンズ3は、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PETG(グリ
コール変性ポリエチレンテレフタレート)、APET、PP、PS、PVC、アクリル、
UV、PC(ポリカーボネイト)樹脂やPMMA(メタクリル)樹脂などの透明な樹脂材
料から形成することができる。接着層4は、透明性を有する材料によって形成し、たとえ
ば、エポキシ系やシアノアクリレート系の接着剤などを材料として形成することができる
。基材6は、透明性を有する材料から薄板状に形成され、たとえば、PETG樹脂などを
用いて形成することができる。インク受容層7、例えば、PVA(ポリビニルアルコール
)等の親水性ポリマー樹脂、カチオン化合物、シリカ等の微粒子などを材料として形成す
ることができる。接着層4および基材6は透明である。そのため、インク受容層7に印刷
された画像をレンズ面8の側から観察することができる。
【0028】
レンズシート1への視差画像の印刷は、レンズシート1の裏面側から行う。インク受容
層7に対してインクを付着させると、付着したインクは、インク受容層7に吸収され、基
材6との境界面9に移動する。つまり、視差画像は、境界面9に沿って形成される(図3
参照)。SDレンズ2は、観察者が所定の観察距離(レンズ面8と観察者の目との間の距
離であり、たとえば、30cm)からレンズシート1を観察したときに、インク受容層7
の境界面9に形成された印刷画像を合焦状態で観察できるように焦点距離等が設定されて
いる。
【0029】
レンズシート1の裏面、すなわち、インク受容層7の露出面10には、SDレンズ2の
長手方向(母線方向)に伸びる複数の黒線部11が並列して形成されている。黒線部11
は、図2に示すように、SDレンズ2の配列ピッチP1の1/2のピッチで配列されてい
る。つまり、黒線部11は、SDレンズ2の光軸X上に対向する位置と隣接するSDレン
ズ2の境界部12に対向する位置にそれぞれ形成されている。
【0030】
(実施の形態の主な効果)
次に、図3,4を参照しながら、上述のように構成されるレンズシート1により奏され
る効果について説明する。図3は、視差画像13が印刷されたレンズシート1の断面拡大
図である。図4は、図3のC部分を表面側から見たときの状態を示す図である。図3にお
いて断面部については、図面を判り易くするため、視差画像13の部分を除いてハッチン
グを省略している。上述のように構成されるレンズシート1は、SDレンズ2毎に黒線部
11が形成されている。そのため、たとえば、図3に示すように、レンズシート1に、立
体画像として観察される視差画像13である右側画像13Rと左側画像13Lとが印刷さ
れた場合には、右側画像13Rと左側画像13Lとの境界部分14の裏面側に黒線部11
が位置する。
【0031】
視差画像13は、インクジェットプリンタ(図示省略)により印刷することができるが
、インクは、インク受容層7に吸収されたときに滲みを生ずる。そのため、図4に示すよ
うに、隣接する視差画像13(右側画像13Rと左側画像13L)の隣接部には、互いに
他方の視差画像13側にインクが滲みでた滲み部15が発生する。したがって、レンズ面
8から視差画像13を観察したときに、本来見えるべき視差画像13(たとえば、右側画
像13R)の端部に、隣接する本来見えるべきでない視差画像13(たとえば、左側画像
13L)の端部が見えてしまう、いわゆるクロストークが発生する。
【0032】
しかしながら、本実施の形態におけるレンズシート1は、右側画像13Rと左側画像1
3Lとの滲み部15の裏面側に黒線部11が配置されてる。黒色は白色に比べて、幅広い
波長域の光に対して吸収率が高い。そのため、滲み部15の裏面側に黒線部11が配置さ
れることで、表側から視差画像13を観察したときに、滲み部15が視覚し難くなり、ク
ロストークが抑制された立体画像を観察することができる。
【0033】
また、隣接する視差画像13の隣接部に生じる滲み部15に黒線部11が重なることで
、滲み部15が見え難くなり、たとえば滲み部15によるコントラストの低下等といった
表示上の問題を解消することも可能となる。つまり、視差画像13の視認性を向上させる
ことが可能となる。
【0034】
図4に示すように、黒線部11の線幅W1は、滲み部15の線幅W2以上の線幅である
ことが好ましい。黒線部11の線幅W1を滲み部15の線幅W2以上とすることで、滲み
部15が黒線部11内に含まれ、クロストークを効果的に抑制することができる。一方で
、黒線部11の線幅W1は、SDレンズ2の境界面9における収束幅以下とすることが好
ましい。黒線部11の線幅W1を該収束幅以下とすることで、表側から視差画像13を観
察したときに、黒線部11が視覚し難くなる。
【0035】
レンズシート1においては、右側画像13Rと左側画像13Lとは、それぞれ幅方向に
複数の画素が並べられて形成される。そして、滲み部15が形成されるのは、右側画像1
3Rと左側画像13Lとの境界に位置する画素間であることもある。したがって、黒線部
11の幅は、該境界に位置する画素間の細い滲み部15を覆えば足りるため、右側画像1
3Rおよび左側画像13Lの幅と比較して細いものとすることが可能となる。
【0036】
なお、SDレンズ2の境界部12は収差が極めて大きく、裏面側に印刷画像があっても
光学像としてほとんど観察者に到達しない。そのため、境界部12の裏面側に黒線部11
を設けない構成としても、クロストークの抑制に与える影響は小さい。しかしながら、境
界部12の裏面側に黒線部11を設けることで、境界部12で異常屈折した光線が黒線部
11に吸収され、観察者に視認される程度を抑制することができる。
【0037】
(他の実施の形態)
図2に示すレンズシート1は、SDレンズ2の境界部12以外に、それぞれのSDレン
ズ2について1本ずつの黒線部11が設けられる構成である。これに対し、図5に示すよ
うに、それぞれのSDレンズ2について複数の黒線部11が設けられる構成としてもよい
。図5は、SDレンズ2の境界部12以外に、それぞれのSDレンズ2について5本ずつ
の黒線部11が設けられている構成が示されている。かかる構成のレンズシート1に対し
て、6つの異なる視差画像13A,13B,13C,13D,13E,13Fが隣接する
部分、すなわち境界部分14を黒線部11に対応させて印刷した場合には、各視差画像間
で発生するクロストークを抑制することができる。境界部12の裏面側に設けられる黒線
部11については、視差画像のクロストークを抑制すると共に、境界部12で発生する異
常屈折した光線が観察者に視認される程度を抑制することができる。また、この場合にお
いても境界部分14で発生する滲み部15に黒線部11が重なることで、滲み部15(図
4参照)が見え難くなり、たとえば滲み部15によるコントラストの低下等といった表示
上の問題を解消することも可能となる。つまり、視差画像13の視認性を向上させること
が可能となる。
【0038】
(他の実施の形態)
レンズシート1に印刷される視差画像13は、SDレンズ2毎に印刷される。つまり、
1つのSDレンズ2に対して一組(たとえば、左右2視点の右側画像13R、左側画像1
3Lを一組として、あるいは3視点以上の視差画像であればこれらを一組として)の視差
画像13を対応させて印刷する。
【0039】
一方、レンズシート1に設けられる複数のSDレンズ2は、曲率等が同一である同一の
レンズであり、また、一定のピッチで並列に設けられている。そのため、レンズシート1
を所定の観察位置(たとえば、レンズシート1の中央から所定の観察距離だけ離れた位置
)から観察した場合、SDレンズ2を介して観察できる光学像と、この光学像が観察され
るSDレンズ2の光軸Xとの距離は、所定の観察位置の直下にあるSDレンズ2における
距離に比べて、レンズシート1の幅方向の端側に近いSDレンズ2ほど長くなる。
【0040】
したがって、図3に示すように、SDレンズ2の光軸Xに対して対称に視差画像13が
印刷された場合には、所定の観察位置の直下に配置されるSDレンズ2以外のSDレンズ
2については、このSDレンズ2に対応する視差画像13以外の視差画像13も観察され
てしまうことがある。そのため、観察される視差画像13の鮮明さが低下することがある

【0041】
そこで、図6に示すように、所定の観察位置VP(たとえば、レンズシート1の中央か
ら観察距離30cmだけ離れた位置)の直下、すなわちレンズシート1の中央に配置され
るSDレンズ2-1に対応する視差画像13−1は、SDレンズ2−1の光軸X−1に対
称に印刷する。そして、SDレンズ2−1よりもレンズシート1の幅方向の端側に配置さ
れるSDレンズ2-2,2−3,…,2−Nに対応する視差画像13−2,13−3,…
,13−Nについては、SDレンズ2−2,2−3,…,2−Nの光軸X−2,X−3,
…,X−Nからレンズシート1の端側に離れる方向に距離D−2,D−3,…,D−Nだ
け偏倚した位置に印刷する。
【0042】
観察位置VPからSDレンズ2−2,2−3,…,2−Nを介して視差画像13−2,
13−3,…,13−Nを観察する視線方向とSDレンズ2-2,2−3,…,2−Nの
光軸X−2,X−3,…,X−Nとの成す角度R−2,R−3,…,R−Nの大きさと、
距離D−2,D−3,…,D−Nとは対応し、該角度が大きくなるほど距離D−2,D−
3,…,D−Nは大きくなる。つまり、観察位置VPの直下に配置されるSDレンズ2(
2−1)からレンズシート1の幅方向の端部に向かうにしたがって、各SDレンズ2に対
応して印刷される視差画像13とSDレンズ2の光軸Xとの距離が長くなるように視差画
像13を印刷する。視差画像13が印刷される配置をこのようにすることで鮮明な視差画
像13を観察することができる。
【0043】
図6に示すように、黒線部11は、印刷される視差画像13に対応することができるよ
うに形成することが好ましい。つまり、観察位置VPから、SDレンズ2を介して視差画
像13を観察する視線方向とSDレンズ2との成す角度Rに対応して、角度Rが大きくな
るほど、黒線部11とこの黒線部11が対応するSDレンズ2の光軸Xとの距離Dが大き
くなるように黒線部11を形成する。すなわち、黒線部11と黒線部11が対応するSD
レンズ2の光軸Xとの距離は、レンズシート1の中央から幅方向の端部に向かうにしたが
って広くなる。
【0044】
このように黒線部11を形成することで、この黒線部11に対応させて視差画像13を
印刷した場合に、視差画像13間の滲みに起因するクロストークを抑制できる。また、視
差画像13を対応するSDレンズ2を介して観察することができる。
【0045】
(他の実施の形態)
図7に示すように、黒線部11は、幅方向の中央11Aから端部に向かうにしたがって
、黒色の濃さが薄くなるように、すなわち光の吸収量が小さくなるように構成することが
好ましい。黒線部11をこのように構成した場合には、黒線部11のエッジ部(縁部)の
光の吸収量が小さくなる(黒色の濃さが薄くなる)。そのため、黒線部11のエッジ部か
ら視差画像13への光の吸収量の変化の程度が小さくなり、レンズ面8を介して視差画像
13を観察したときに、視差画像13と黒線部11のエッジ部の境界が視覚し難くなる。
黒線部11の両側のエッジ部から黒線部11の太さの1/5以上1/3以下の範囲11B
を黒線部11の中央11Aの明度の30%以上50%以下とすることで、レンズ面8を介
して視差画像13を観察したときに、隣接する視差画像13間の滲み部15によるクロス
トークを効果的に抑制できる。また、視差画像13と黒線部11のエッジ部の境界を効果
的に視覚し難くすることができる。
【0046】
(黒線部11の形成方法)
黒線部11の線幅W1は、上述したように、滲み部15の線幅W2(図4参照)以上で
あって、SDレンズ2の境界面9における収束幅以下とすることが好ましい。一般に、イ
ンクのドットの直径は、20〜80μmであり、滲み部15の線幅W2はドットの直径内
に収まる。また、SDレンズ2の境界面9における収束幅は、35〜50μm程度である
。したがって、黒線部11の線幅W1を、インクのドットの直径以上でありSDレンズ2
の境界面9における収束幅以下とすることで、滲み部15を黒線部11に重ねることがで
きると共に、観察時に黒線部11を視覚し難いものとすることができる。たとえば、印刷
されるドットの直径が20μmであり、SDレンズ2の境界面9における収束幅が35μ
mの場合には、たとえば、黒線部11の幅W1を、20μm程度とすることで、滲み部1
5を黒線部11に重ねることができると共に、観察時に黒線部11を視覚し難いものとす
ることができる。なお、滲み部15の線幅W2が20μm未満である場合には、滲み幅W
2に併せて更に黒線部11の幅W1を更に狭くしてもよい。
【0047】
黒線部11は上述したように、極めて細い。そのため、インクジェットプリンターによ
る印刷によって形成することは難しい。つまり、インクドット径が20μmのプリンター
を用いても、画像形成層5に付着したインクに滲みが発生するため、幅20μmの黒線部
11を形成することは難しい。したがって、黒線部11は、たとえば、オフセット印刷や
フォトリソグラフィ等により形成することが好ましい。なお、黒線部11の線幅W1は、
20μmに限るものでなく、インクのドット径、滲み部の線幅W2、SDレンズ2の境界
面9における収束幅等を考慮し、クロストークを効果的に抑制したり視認性を向上させる
ことができる幅に設定する。
【0048】
なお、黒線部11をはっ水性を有するインクにより形成した場合には、隣接する視差画
像13について、他方の視差画像13にインクが滲むことを抑制でき、クロストークの抑
制および視認性の向上をより効果的に行うことができる。
【0049】
上述の各実施の形態においては、全てのSDレンズ2に対応させせて黒線部11を設け
る構成を示したが、複数のSDレンズ2のうち、一部のSDレンズ2のみに対応させて黒
線部11を設けるようにしてもよい。黒線部11を設けるとその分、観察される視差画像
13が暗くなり易い。したがって、一部のSDレンズ2のみに対応させて黒線部11を設
けることで、観察される視差画像13が暗くなることを抑えつつ、クロストークを抑制す
ることができ、また、視差画像13の視認性を向上させることが可能となる。
【0050】
たとえば、滲み易いインクが使われる視差画像を対象に黒線部11を設けてもよい。ま
た、たとえば、図6に示すように、視線方向とSDレンズ2の光軸Xとの角度Rは、観察
位置VPから離れたSDレンズ2ほど大きくなる。角度Rが大きくなるほど視差画像13
を観察する際の収差も大きくなり易い。したがって、観察位置VPの直下に位置するSD
レンズ2から所定距離離れたSDレンズ2を対象として、黒線部11を設ける構成として
もよい。
【0051】
上述の実施の形態においては、黒線部11が、画像形成層5の露出面10に形成された
構成が示されている。しかし、黒線部11は、画像形成層5に印刷された際、インク受容
層7に染み込み、黒線部11の層厚の一部あるいは全部が、露出面10よりも表側、すな
わち、画像形成層5内に形成されることもある。また、黒線部11は、画像形成層5の露
出面10に形成する他、基材6とインク受容層7との間、すなわち境界面9に形成しても
よい。レンズシート1を製造する際に、基材6の裏側に黒線部11を形成した後、インク
受容層7を積層することで、境界面9に黒線部11を形成することができる。また、基材
6と接着層4との間に形成してもよい。この場合には、レンズシート1を製造する際に、
基材6の表に黒線部11を形成した後、レンチキュラーレンズ3と基材6とを接着層4に
て接着することで、基材6と接着層4との間に黒線部11を形成することができる。
【0052】
なお、黒線部11の「線」は、点が集合し線状を呈するものや、矩形体が直線状に連続
して配列されているものを含む。また、黒線部11は、レンズシート1の一端から他端に
連続している必要はなく、一部において途切れていてもよい。黒線部11が存在する部分
では、クロストークを抑制し、また視認性も向上させるすることができる。
【0053】
(印刷方法および印刷物)
インクジェットプリンターを用いてレンズシートに視差画像を印刷する場合は、上述し
た黒線部11が形成されたレンズシート1に対して視差画像を印刷することが好ましい。
レンズシート1に視差画像を印刷する際には、たとえば、図3に示すように、黒線部11
の両側に隣接する視差画像13が配列されるように印刷する。上述のようにレンズシート
1に対して視差画像13が印刷された印刷物16(図3参照)は、黒線部11の両側に、
互いに隣接する視差画像13が印刷されている。そのため、印刷物16をレンズ面8から
観察したしたときに、クロストークの発生が抑制された視差画像13を観察することがで
きる。
【0054】
レンズシート1への視差画像13の印刷は、図8に示すように、隣接する視差画像13
の互いに対向する側の画素17と画素17が黒線部11に跨るように印刷することが好ま
しい。このように視差画像13をレンズシート1に印刷することで、クロストークの発生
がより効果的に抑制され、視認性を向上させた視差画像を観察することができる印刷物を
作成することができる。
【0055】
(本発明の応用例)
ところで、黒線部11が形成されるレンズシート1(図1、図5参照)に視差画像13
を印刷する際には、視差画像13を黒線部11に対して所定位置に印刷する必要ある。従
来、たとえば、特開平8−137034号(以下、参考文献1と記載する。)、特開20
07−38597号(以下、参考文献2と記載する。)に開示されるように、SDレンズ
の配列ピッチをキャリッジ等に取り付けられる光学センサーにより検出し、この検出結果
に基づいて、視差画像をSDレンズに対して所定の位置に印刷することが行われている。
したがって、黒線部11が形成されるレンズシート1についても、キャリッジ等に取り付
けられる光学センサーによりSDレンズ2の配列ピッチを検出し、この検出結果に基づい
て、視差画像を黒線部11に対して所定位置に印刷することができる。
【0056】
しかしながら、上記参考文献1,2に開示される構成の場合は、画像形成層を介して透
明なSDレンズを検出している。そのため、SDレンズの配列ピッチの検出精度が低下し
易いという問題がある。視差画像が黒線部11に対して所定の位置、すなわち、隣接する
視差画像による滲み部15が黒線部11に重なるように印刷されないと、クロストークを
効果的に抑制できない。
【0057】
そこで、黒線部11をプリンターのキャリッジ等に備えられた光学センサーにより検出
し、この検出結果から黒線部11の位置を特定し、黒線部11に対して視差画像13を所
定の位置に印刷するようにしてもよい。黒線部11は、画像形成層5に形成されるので、
参考文献1,2のように画像形成層を介して透明なSDレンズを検出する場合に比べて、
黒線部11の位置を精度よく検出することができる。したがって、黒線部11に対して視
差画像13を位置精度よく印刷することができる。
【0058】
しかしながら、黒線部11は、上述したように、たとえば、20μm程度であり、極め
て細い。そのため、黒線部11の線幅W1がキャリッジに備えられる光センサーの検出精
度未満となる場合がある。そこで、図9に示すように、レンズシート1の印刷領域1Aを
外れた一端に検出領域1Bを設ける。そして、この検出領域1Bにおいて、黒線部11の
端部に光センサーの検出精度以上となる拡幅11Cを設ける。かかる構成とすることで、
光センサーにより黒線部11の位置を検出することができる。
【0059】
また、光センサーの光スポットの中に複数の黒線部11が含まれてしまう場合にも、黒
線部11の位置検出の精度が著しく低下してしまう。そこで、図10に示すように、検出
領域1B内において隣接する黒線部11の間隔W3が光センサーの光スポット幅W4より
も広くなるように、一部の黒線部11のみを検出領域1Bに延設する構成とする。かかる
構成とすることで、光センサーにより黒線部11の位置を検出することができる。このと
きに、黒線部11のうち光センサーでの検出部分を、黒線11の他の部分よりも太くする
ことが好ましい。
【0060】
延設する黒線部11は、たとえば、図10に示すように、SDレンズ2の配設ピッチに
対応した黒線部11とすることができる。光スポット幅W4をよりも広い間隔であれば、
SDレンズ2の配設ピッチの1/2あるいはそれ以下のピッチに対応して黒線部11を検
出領域1Bに延設してもよい。また、光スポット幅W4が、SDレンズ2のピッチよりも
大きい場合は、SDレンズ2の2ピッチ毎に黒線部11を検出領域1Bに延設してもよい

【0061】
上述のように、検出領域1Bにおいて検出された黒線部11の位置情報に基づくことで
、視差画像13を黒線部11に対して所定の位置に印刷する際における位置精度を向上さ
せることができる。
【0062】
なお、検出領域1Bは、レンズシート1の両端部に設けてもよい。両端部に設けること
で、レンズシート1の何れの端部からプリンターに装填しても、黒線部11の位置を検出
することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 … レンズシート 2(2-1,2-2,2−3,…,2−N) … SDレンズ
(シリンドリカルレンズ) 3 … レンチキュラーレンズ 5 … 画像形成層
8 … レンズ面 11 … 黒線部 13(13A,13B,13C,13D,
13E,13F,13−1,13−2,13−3,…,13−N) … 視差画像 1
3R … 右側画像(視差画像) 13L … 左側画像(視差画像) 16 …
印刷物 P1 … 配列ピッチ D(D−2,D−3,…,D−N)… 距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンドリカルレンズが複数並列して設けられているレンチキュラーレンズと、前記レ
ンチキュラーレンズのレンズ面の反対側に配置される画像形成層とを有するレンズシート
であって、
前記画像形成層には、前記シリンドリカルレンズの長手方向に沿って、前記画像形成層
に形成される視差画像の隣接部に前記視差画像の幅よりも細い幅の黒線部が形成されてい
る、
ことを特徴とするレンズシート。
【請求項2】
請求項1に記載のレンズシートであって、
前記黒線部は、前記複数のシリンドリカルレンズのそれぞれに形成されている、
ことを特徴とするレンズシート。
【請求項3】
請求項2に記載のレンズシートであって、
前記各シリンドリカルレンズには、前記黒線部が複数形成されている、
ことを特徴とするレンズシート。
【請求項4】
請求項2または3に記載のレンズシートであって、
前記シリンドリカルレンズの光軸と、このシリンドリカルレンズに対応して設けられる
前記黒線部との距離が、前記レンズシートの前記シリンドリカルレンズの並列方向の中央
から前記並列方向の端部に向かうにしたがって長くなる、
ことを特徴とするレンズシート。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のレンズシートであって、
前記黒線部は、幅方向の中央から端部に向かうにしたがって、光の吸収量が小さくなる

ことを特徴とするレンズシート。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のレンズシートに対して視差画像を印刷する工程
を有することを特徴とする印刷方法。
【請求項7】
請求項6の印刷方法であって、
前記視差画像を印刷する工程には、隣接する前記視差画像を、前記黒線部を挟んで印刷
する工程を有する、
ことを特徴とする印刷方法。
【請求項8】
シリンドリカルレンズが複数並列して設けられているレンチキュラーレンズと、前記レ
ンチキュラーレンズのレンズ面とは反対側に配置される画像形成層とを有するレンズシー
トの前記画像形成層に視差画像が印刷された印刷物であって、
前記画像形成層には、前記シリンドリカルレンズの長手方向に沿って、前記シリンドリ
カルレンズが並列されるピッチよりも細い線幅で黒線部が形成され、
前記黒線部の両側には、前記視差画像の互いに隣接する視差画像が印刷されている、
ことを特徴とする印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−92650(P2013−92650A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234706(P2011−234706)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】