説明

レーザ蒸着用ターゲットおよびその製造方法

【課題】バッキングプレートを用いないでレーザが照射された場合でも、クラックが入り難く、且つ、適用可能な酸化物超電導焼結体の組成範囲が広いレーザ蒸着用ターゲットを提供する。
【解決手段】酸化物超電導焼結体を含むレーザ蒸着用のターゲットであって、当該ターゲット使用面に垂直な向きにおける線熱膨張率の値が、当該ターゲット使用面に平行な向きにおける線熱膨張率の値より10%以上大きいことを特徴とするレーザ蒸着用ターゲットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ蒸着法に用いる酸化物超電導焼結体を含むレーザ蒸着用ターゲットに関し、さらには、バッキングプレートがボンディングされていないレーザ蒸着用ターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、YAGレーザ、エキシマレーザ、COレーザ等のいろいろなレーザ源を用い、酸化物超電導体のターゲットにパルスレーザ光を照射して当該酸化物超電導体を蒸発させ、次に、当該蒸発した酸化物超電導体をテープ状の金属基板上に成膜させることで、薄膜状の酸化物超電導線材が開発されてきた。
【0003】
近年、レーザ蒸着法による成膜を用いた線材作製において、基板になる金属テープの長さが長くなるに従い、ターゲットのサイズが大きくなってきた。また、成膜速度を上げるために、レーザ出力が増大してきた。この結果、大型のターゲットへ高出力のレーザが照射されることになった。すると、パルスレーザ光を照射されたターゲットに、部分的な熱歪みが起こり、そこを起点としてターゲット全面にクラックが入り、ターゲットが破損することで薄膜の作製が困難になった。
【0004】
当該ターゲットの破損を防止し安定して成膜する方法として、ターゲット裏面に無酸素銅などの金属板(以下、バッキングプレートと記載する。)を接合(以下、ボンディングと記載する。)することが行われてきた。ターゲット裏面にバッキングプレートがボンディングされていることで、たとえ、ターゲットにクラックが入った場合でも、バッキングプレート上にターゲットの形状を維持することでパルスレーザ光の照射を維持するものである。しかしながら、当該レーザ蒸着用ターゲットにバッキングプレートをボンディングする方法は、バッキングプレートおよびボンディング加工の費用が発生する、ターゲットをボンディングするための工程が必要で製造が長時間になる、などの欠点があった。
【0005】
ここで、バッキングプレートをボンディングしていないのにも拘わらず、高出力のレーザが照射されてもクラックが入り難い大型のターゲットの製造方法の発明として、特許文献1がある。
【特許文献1】特開2007−63631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で提案されているターゲットは、当該ターゲットを構成する酸化物超電導焼結体の組成をREBaCuで表記した場合、a+b+c=6、0.95<a<1.05、1.505≦c/b<1.6と、限られた範囲に限定することで、高出力のレーザが照射されてもクラックが入り難い効果を実現している。しかしながら、当該酸化物超電導焼結体の組成範囲限定をすることで、今度は、超電導薄膜の特性を向上させる目的で、酸化物超電導焼結体の組成を変化させることに制限がかかる、などの課題が明らかとなった。
【0007】
本発明は、上述の状況の下でなされたものであり、バッキングプレートを用いないでレーザが照射された場合であってもクラックが入り難く、且つ、適用可能な酸化物超電導焼結体の組成範囲が広いレーザ蒸着用ターゲットおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは、鋭意研究をおこなった。そして、ターゲット使用面に垂直な向きにおける線熱膨張率を、使用面に平行な向きにおける線熱膨張率より10%以上大きくすることで、バッキングプレートを用いなくとも、当該ターゲットにレーザが照射された際、クラックが入らなくなるとの知見を得て本発明を完成した。
尚、本願において線熱膨張率とは、特に断りのない場合、測定温度50℃に対する測定温度600℃の線熱膨張率を示す。当該線熱膨張率の測定方法の詳細は、後述する実施例1にて説明する。
【0009】
ターゲット表面における数mm程度の領域にパルスレーザ光が照射された場合、ターゲット使用面に対して垂直な方向の線熱膨張を、平行な方向の線熱膨張より大きくすることで、レーザ加熱による熱歪がターゲット使用面に平行な方向よりターゲット使用面に垂直な方向へ膨張する。すると、本発明に係るターゲット使用面に平行な方向の熱膨張は、線熱膨張率の差を付けていない従来の技術に係るターゲットより低くなる。この結果、ターゲット使用面に平行な方向の熱膨張による熱歪応力に起因するクラックの発生が抑制されるのだと考えられる。
【0010】
さらに、本発明者等は、ターゲットをペロブスカイト型構造をもつRE系酸化物超電導体で構成し、当該ペロブスカイト型構造をもつRE系酸化物超電導体の結晶粒子にアスペクト比を持たせ、当該アスペクト比を有する結晶粒子をターゲット使用面に対して平行に配向させる構成に想到した。アスペクト比を有する結晶粒子をターゲット使用面に対して平行に配向させることで、広い組成範囲にわたって、ターゲット使用面に垂直な向きにおける線熱膨張率を、使用面に平行な向きにおける線熱膨張率より10%以上大きくすることを、容易に実現することが出来た。
【0011】
即ち、上述の課題を解決するための第1の手段は、
酸化物超電導焼結体を含むレーザ蒸着用のターゲットであって、当該ターゲット使用面に垂直な向きにおける線熱膨張率の値が、当該ターゲット使用面に平行な向きにおける線熱膨張率の値より10%以上大きいことを特徴とするレーザ蒸着用ターゲットである。
【0012】
第2の手段は、
前記酸化物超電導焼結体が、REBaCu(但し、REは、イットリウムおよび/または希土類元素のうちから選択される1つ以上の元素)で表記されるRE酸化物超電導体であることを特徴とする第1の手段にかかるレーザ蒸着用ターゲットである。
【0013】
第3の手段は、
前記酸化物超電導焼結体が、前記RE酸化物超電導体を80wt%以上含むことを特徴とする第2の手段にかかるレーザ蒸着用ターゲットである。
【0014】
第4の手段は、
第1の手段に記載のレーザ蒸着用ターゲットの製造方法であって、
REを含む原料と、Baを含む原料と、銅を含む原料とを秤量混合して、混合物を得る工程と、
当該混合物を、酸素を10〜30%含有する雰囲気にて880℃〜960℃で5時間〜50時間加熱して、仮焼粉を得る工程と、
当該仮焼粉を粉砕してメディアン径50μm以下の粉砕粉とする1次粉砕工程と、
当該1次粉砕粉をメディアン径15μm以下、且つ、アスペクト比が3以上の粉砕粉とする2次粉砕工程と、
当該2次粉砕粉を圧縮成型して成形体を得る工程を有する、ことを特徴とするレーザ蒸着用ターゲットの製造方法である。
【0015】
第5の手段は、
第1の手段に記載のレーザ蒸着用ターゲットの製造方法であって、
REを含む原料溶液と、Baを含む原料溶液と、銅を含む原料溶液とを秤量混合して、混合溶液を得る工程と、
当該混合溶液から共沈法にて、RE、Ba、Cuの各元素を含む混合物を沈殿させる沈殿工程と、
当該混合物を、酸素を10〜30%含有する雰囲気にて880℃〜960℃で5時間〜50時間加熱して、仮焼粉を得る工程と、
当該仮焼粉を粉砕してメディアン径50μm以下の粉砕粉とする1次粉砕工程と、
当該1次粉砕粉をメディアン径15μm以下、且つ、アスペクト比が3以上の粉砕粉とする2次粉砕工程と、
当該2次粉砕粉を圧縮成型して成形体を得る工程を有する、ことを特徴とするレーザ蒸着用ターゲットの製造方法である。
【0016】
第6の手段は、
前記2次粉砕工程において、ボール径3mm以下の粉砕ボールまたは粉砕ビーズを用いることを特徴とする第4又は第5の手段にかかるレーザ蒸着用ターゲットの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るレーザ蒸着用ターゲットは、レーザー光が照射された際、バッキングプレートが用いられていない場合でも、クラックが入り難く、且つ、適用可能な酸化物超電導焼結体の組成範囲が広い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、レーザ蒸着用ターゲットにレーザ光が照射されている際の概念図であり、図2は、図1のI−I断面図である。
上述したように、レーザ蒸着用ターゲットは、ターゲット表面における数mm四方程度の領域にパルスレーザ光が照射される。この数mm四方程度の領域に対するパルスレーザ光照射によりターゲットは局所的に加熱され、当該加熱部分と、それ以外の部分との熱歪応力に起因してクラックが発生してしまう。
ここで、図1、2に示す、本発明に係るレーザ蒸着用ターゲット1は、酸化物超電導焼結体を用いたレーザ蒸着用ターゲットである。当該ターゲット表面における数mm四方程度の領域2にパルスレーザ光3が照射された際、ターゲット使用面である平面に対して垂直な方向4の線熱膨張率を、ターゲット使用面である平面に対して平行な方向5の線熱膨張率に差異をつけたものである。この線膨張率の差により、本発明に係るレーザ蒸着用ターゲットにおいては、レーザ照射によるターゲットの熱歪が、主に、ターゲット使用面である平面に垂直な方向4へ膨張するかたちで現れる。一方、ターゲット使用面である平面に平行な方向5の熱膨張は、従来の技術に係るターゲットより低くなる。この結果、ターゲット使用面である平面に平行な方向の熱膨張による熱歪応力に起因するクラックの発生が抑制されるのだと考えられる。
【0019】
本発明者らは、上記知見に基づき、ターゲット使用面である平面に対して垂直な方向と平行な方向との線膨張差がどの位あればクラックの発生が抑制出来るのかについて、多数のターゲット試料を用いて検討した。そして、当該検討の結果、ターゲット使用面である平面に対して垂直な方向と平行な方向との線膨張差が10%以上、好ましくは12%以上あればクラックの発生が抑制出来ることを知見した。
【0020】
上述したターゲット使用面である平面に垂直な方向4における線熱膨張率を、使用面である平面に平行な方向5における線熱膨張率より、10%以上大きくする手段について説明する。
前記レーザ蒸着用ターゲット1を構成する酸化物超電導体焼結体6の組成が、実質的にREBaCu(REは、イットリウムおよび/または希土類元素のうち少なくとも1つ以上を含む)である場合、当該酸化物超電導体焼結体6がペロブスカイト構造であり、ab軸方向の線膨張率に較べてc軸方向の線膨張率が大きいことを用いることが出来る。即ち、本発明に係るレーザ蒸着用ターゲット1において、酸化物超電導体焼結体のc軸の方向を、ターゲット使用面である平面に対して垂直に揃えて成型することにより、容易にターゲット使用面に垂直な方向4における線熱膨張率を、使用面に平行な方向5における線熱膨張率より大きくすることが出来ることに想到したものである。
【0021】
具体的には、酸化物超電導体焼結体としてREBaCuを用いる場合、まず、REを含む原料と、Baを含む原料と、銅を含む原料とを秤量混合して混合物を得る。次に、当該混合物を、酸素を10〜30%含有する雰囲気にて880℃〜960℃で5時間〜50時間加熱して、仮焼粉を得る。そして、当該仮焼粉を粉砕してメディアン径50μm以下の粉砕粉し、さらに、当該粗粉砕粉を、ボール径3mm以下の粉砕ボールまたは粉砕ビーズを用いて、メディアン径15μm以下、且つ、アスペクト比が3以上の粉砕粉を得る。当該メディアン径15μm以下、且つ、アスペクト比が3以上の粉砕粉を圧縮成型してc軸が配向した成形体とすることで、ターゲット使用面である平面に垂直な方向4における線熱膨張率を、使用面である平面に平行な方向5における線熱膨張率より、10%以上大きくすることが出来た。
【0022】
尚、種々の目的で、酸化物超電導体焼結体に他の添加剤を加える場合がある。この場合、当該酸化物超電導体焼結体において、REBaCuが80wt%以上含まれていると、上述したab軸方向の線膨張率に較べたc軸方向の線膨張率を確保することが出来る。
【0023】
(本発明に係るレーザ蒸着用ターゲットの製造方法)
本発明に係るレーザ蒸着用ターゲットの製造方法について、酸化物超電導体焼結体の組成として、REBaCuであるものを用いた場合を例として、工程毎に説明する。
〈混合物を得る工程〉
RE(但し、REは、イットリウムおよび/または希土類元素のうちから選択される1つ以上の元素)、BaCO、CuOの各原料粉末を、所望のモル比となるように秤量し混合する。具体的には、RE1±αBa2±βCu3±γ(α≦0.8、Ba≦0.8、γ≦0.8)を満たす範囲で秤量混合すればよい。ここでα、β、γの範囲を当該範囲とすることで、後工程で得られる焼結体が酸化物超電導体の特性を発揮するためである。
各原料粉末の混合は、各原料粉末を湿式ボールミルに装填し、ボールを加えて有機溶媒中にて20時間以上行った。または、循環式のビーズミルに各原料粉末を装填し、ビーズを加えて有機溶媒中にて2時間以上行った。そして、得られたスラリーを乾燥機にいれ、有機溶媒を十分に揮発させて混合物を得た。
【0024】
また、当該混合において、各原料粉末を秤量し混合するのではなく、RE、Ba、Cuの各元素を含む原料溶液を準備し、当該原料溶液を、後工程で得られる焼結体が酸化物超電導体の特性を発揮所定のモル比になるように混合・調整することもできる。当該原料溶液としては、RE、Ba、Cuの各元素の硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩等の無機酸塩の水溶液、または、クエン酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩等の有機酸塩の水溶液を好適に用いることが出来る。
この場合、当該混合溶液から共沈法等にて、RE、Ba、Cuの各元素を含む混合物を沈殿させる。
【0025】
〈仮焼粉を得る工程〉
次に、この混合物を、酸素を10%〜30%含有する雰囲気(例えば、大気でもよい。)中にて焼成(本発明において1次焼成と記載する場合がある。)して仮焼粉を得る。当該1次焼成条件は、880℃〜960℃、より好ましくは900℃〜950℃で、5時間〜20時間の加熱である。
【0026】
〈粗粉砕工程〉
仮焼粉を粗粉砕して粗粉砕粉を得る。
具体的には、仮焼粉を、ジルコニアボールおよびトルエン等の有機溶媒とともにセラミックスポットに入れて、ボールミル粉砕あるいは振動ミル粉砕により粗粉砕をおこなう。そして、粗粉砕が終了したスラリー状の仮焼粉を、乾燥機で乾燥させて、粗粉砕粉を得る。
当該ボールミル粉砕および当該振動ミル粉砕の操作によって仮焼粉を粗粉砕し、仮焼粉の均一性を向上させるとともに、後述する2次焼成工程において当該仮焼粉の熱的反応性を上げることができる。
【0027】
〈焼成粉を得る工程〉
得られた粗粉砕粉を、酸素を10%〜30%含有する雰囲気中で、880℃〜960℃より好ましくは900℃〜950℃、5時間〜50時間加熱して2次焼成(本発明において2次焼成と記載する場合がある。)し、焼成粉を得た。当該2次焼成は、仮焼粉を得る1次焼成より高い温度、長い焼成時間が求められる。2次焼成温度を、1次焼成温度より高く、且つ、2次焼成時間を、1次焼成時間より長くするのは、2次焼成温度を高く、且つ、焼成時間を長くすることで、ペロブスカイト構造をもつ酸化物超電導体粒子が異方性をもって成長することによる。すなわち、得られた焼成粉における結晶成長は、当該結晶のab軸方向が、c軸方向に比較してより大きく成長した。
【0028】
〈微粉砕工程〉
得られた焼成粉を、まず、セラミックス製のロールミルまたはディスクミルに装填して微粉砕(本発明において1次微粉砕と記載する場合がある。)を行い、メディアン径50μm以下の1次微粉砕粉を得る。当該1次微粉砕を行う理由は、上述した焼成により成長した板状結晶の粒子が相互に焼結している状態を、当該1次微粉砕により結晶粒が数個から数十個の塊の状態にすることにある。結晶粒を数個から数十個の塊の状態にすることで、次の後述する2次微粉砕において、より小さいボールあるいはビーズで、粒子形状をあまり変化させることなく、効率よく粉砕できるからである。さらに、メディアン径を50μm以下とすることで、後述する2次微粉砕において粉砕されない粗粒子が残ることを回避出来る。
【0029】
1次微粉砕粉を、直径3mm以下のジルコニアボールあるいはジルコニアビーズおよびトルエン等の有機溶媒とともにセラミックスポットへ装填して、ボールミルあるいは振動ミルによる微粉砕(本発明において2次微粉砕と記載する場合がある。)をおこなう。当該2次微粉砕は、1次微粉砕粉をRE系酸化物超電導焼結体を作製するために適した粒度分布と粒子形状とするための操作である。そこで、2次微粉砕粉のメディアン径(D50)が、15μm以下、好ましくは10μm以下になるよう粉砕時間を調整する。且つ、2次微粉砕粉粒子の異方性を表す、板状結晶の長軸と短軸との比であるアスペクト比が3以上になるよう、直径0.2mm以上、3mm以下のボールあるいはビーズを用いる。
【0030】
2次微粉砕において、ボールあるいはビーズの直径を3mm以下とするのは、板状結晶
である1次微粉砕粉が有する当該板状構造を破壊することなく保存して、高いアスペクト比を保たせるためである。ボールあるいはビーズの直径が0.2mm以上あれば、粉砕が短時間で済み、生産性の観点から好ましい。
2次微粉砕粉粒子の粉砕粒径を15μm以下、且つ、アスペクト比を3以上とする理由は、粒径が細かく、アスペクト比が高くなるよう微粉砕した粒子は、成形による圧縮をかけた場合、より高密度になり易く、且つ、粒子のc軸がターゲットの使用面に対して垂直に配向し易いと考えられるからである。粒子のc軸がターゲットの使用面に対して垂直に配向することにより、ペロブスカイト構造を持つ酸化物超電導体の板状結晶においても、c軸がターゲットの使用面に対して垂直に配向し易くなる。
尚、本発明者らの検討によると、アスペクト比が3以上あれば上述の効果を十分に得ることが出来ることを確認している(後述する実施例・比較例を参照)。
【0031】
アスペクト比の測定方法について図面を参照しながら説明する。
図3は、SEMで観察した本発明に係る2次微粉砕粉粒子の概念図である。
本発明に係る2次微粉砕粉粒子は、RE系酸化物超電導耐の板状結晶である。ここで、当該板状結晶の厚みをa、板面の最長の長さをbとしてb/aの値を当該SEM画像から求め、当該b/aの値をアスペクト比とする。
【0032】
〈圧縮成型により成形体を得る工程〉
得られた2次微粉砕粉を金型に充填し、98MPa〜196MPaの圧力で成形し成型体を得る。尚、この圧力成形は一軸成形で行うことが望ましい。次に、この成形体を、焼成炉内に設置し、酸素を10%〜30%含有する雰囲気(例えば、大気でもよい。)で900℃〜980℃より好ましくは、900℃〜940℃の温度で10時間〜50時間加熱して焼成し、RE系酸化物超電導焼結体を得る。得られたRE系酸化物超電導焼結体は、所望の大きさに切断加工するだけで、バッキングプレートにボンディングすることなく、単体でレーザ蒸着法に使用可能なターゲットである。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
原子比でY:Ba:Cu=1:2:3となるようにY、BaCO、CuOの各種粉末を秤量した。この原料をセラミックス製ボールミルに装填し、ジルコニアボールを用いて有機溶媒(トルエンなど)中で24時間混合した。この混合物を焼成炉で900℃、10時間加熱して1次焼成し仮焼粉を得た。焼成雰囲気は大気である。得られた仮焼粉を、セラミックス製ディスクミルで粉砕を行った後、セラミックス製ボールミルに装填して、ジルコニアボールを用いて有機溶媒(トルエンなど)中で10時間粉砕し、粗粉砕粉を得た。この粗粉砕粉を、焼成炉で920℃、30時間、2次焼成して焼成粉を得た。当該焼成粉をセラミックス製ディスクミルで1次微粉砕を行った。得られた1次微粉砕粉に対し、SYMPATEC製HELOS&RODOSレーザ回折式粒度分布測定装置(以下、粒度分布測定装置と記載する。)を用いて平均粒径を測定した。測定結果は、D50(メディアン径)=24.3μmとなった。
【0034】
得られた1次微粉砕粉をセラミックス製ボールミルに装填し、直径3mmのジルコニアボールを用いて有機溶媒(トルエンなど)中で8時間の2次微粉砕を行った。得られた2次微粉砕粉に対し、上述した粒度分布測定装置を用いて平均粒径を測定した。測定結果は、D50(メディアン径)=5.38μmとなった。
得られた2次微粉砕粉のSEM写真を観察したところ、アスペクト比が4の粒子であることが判明した。
【0035】
次に、この2次微粉砕粉を100φの金型に充填し、147MPaの圧力で1軸成型して、厚さ7mmの円板状成型物を得た。この成型物をセラミックス製焼成治具に置き、焼
成炉内に入れ、920℃、30時間加熱して焼成し、RE系酸化物超電導焼結体Aを得た。このRE系酸化物超電導焼結体Aを、このままの状態でレーザ蒸着用ターゲット試料Aとした。
【0036】
レーザ蒸着用ターゲット試料Aの中心部より、一面がターゲット使用面と平行になるように5mmの立方体試料を切り出した。当該立方体試料の切り出しの概念図を図4に示す。
この5mm立方体の線熱膨張率を、ブルカーAXS社製DILATO METER熱膨張計(以下、熱膨張計と記載する。)を用いて、50℃から600℃までの範囲で測定した。当該測定結果を図5に示す。図5は、横軸に温度をとり、縦軸に線膨張率をとり、ターゲット使用面に垂直な方向における線熱膨張率を○でプロットし実線で結び、ターゲット使用面に平行な方向における線熱膨張率を□でプロットし破線で結んだグラフである。
【0037】
ここで、当該温度範囲の上限を600℃とした理由について説明する。
焼結体をレーザ蒸着用ターゲットとして使用する場合、ターゲット中心部は最大で600℃程度になることが予測される。さらに、ターゲット温度が600℃を超えると、当該ターゲットを構成する酸化物超電導体結晶から酸素が脱離し、酸素欠陥が発生する為、温度に対する線熱膨張率の変化が不可逆的な挙動を示すことによる。つまり、実際のターゲット使用状況においても、ターゲット到達温度は最大で600℃とすべきことによる。
【0038】
図5に示す測定結果から明らかなように、ターゲット試料Aのターゲット使用面に垂直な方向な線熱膨張率は、300℃で0.20%、400℃で0.27%、500℃で0.38%、600℃で0.53%となり、ターゲット使用面に垂直な方向の線熱膨張率は、300℃で0.17%、400℃で0.23%、500℃で0.32%、600℃で0.44%となった。ターゲット使用面に垂直な方向の線熱膨張率は、ターゲット使用面に平行な方向の線熱膨張率より、300℃で18%、400℃で17%、500℃で19%、
600℃で20%それぞれ大きくなった。
【0039】
10個のターゲット試料Aに対し、実際のパルスレーザ蒸着法に相当するレーザ照射を行った。
但し、レーザ照射源:エキシマレーザ、レーザ出力:400mJ、レーザ照射条件:200Hzとし、当該レーザ照射元を固定した。そしてターゲット試料を、レーザ照射元に対して10mm/secの速度で相対的に移動させて、各試料中央部50mm×50mmの領域にパルスレーザ光の照射を行った。
その結果、10個のターゲット試料Aの全てにおいて、ターゲットの破断が起こらなかった。
本実施例に係る試料の作成条件、特性測定結果を表1に記載する。
【0040】
(実施例2)
原子比でGd:Ba:Cu=1:2:3となるようにGd、BaCO、CuOの各種粉末を秤量した。この原料をセラミックス製ボールミルに装填し、ジルコニアボールを用いて有機溶媒(トルエンなど)中で24時間混合した。この混合物を焼成炉で900℃、10時間加熱して1次焼成し、仮焼粉を得た。焼成雰囲気は大気である。得られた仮焼粉を、セラミックス製ディスクミルで粉砕を行った後、セラミックス製ボールミルに装填して、ジルコニアボールを用いて有機溶媒(トルエンなど)中で10時間粉砕し、粗粉砕粉を得た。この粗粉砕粉を、焼成炉で940℃、30時間、2次焼成して焼成粉を得た。当該焼成粉をセラミックス製ディスクミルで1次微粉砕した。得られた1次微粉砕粉を、実施例1と同様にして平均粒径を測定した。測定結果は、D50(メディアン径)=32.4μmとなった。
【0041】
得られた1次微粉砕粉をセラミックス製ボールミルに装填し、直径3mmのジルコニアボールを用いて有機溶媒(トルエンなど)中で8時間、2次微粉砕した。得られた2次微粉砕粉を、上述した粒度分布測定装置を用いて平均粒径を測定した。測定結果は、D50(メディアン径)=8.56μmとなった。
得られた2次微粉砕粉のSEM写真を観察したところ、当該2次微粉砕粉は、アスペクト比が3の粒子であることが判明した。
【0042】
次に、この2次微粉砕粉を100φの金型に充填し、147MPaの圧力で1軸成型して、厚さ7mmの円板状成型物を得た。この成型物をセラミックス製焼成治具に置き、焼成炉内に入れ、940℃、30時間加熱して焼成し、RE系酸化物超電導焼結体Bを得た。このRE系酸化物超電導焼結体Bを、このままの状態でレーザ蒸着用ターゲット試料Bとした。
【0043】
レーザ蒸着用ターゲット試料Bより、実施例1と同様にして5mmの立方体試料を切り出した。この5mm立方体の線熱膨張率を、実施例1と同様にして測定した。当該測定結果を図6に示す。図6は図5と同様に、横軸に温度をとり、縦軸に線膨張率をとり、ターゲット使用面に垂直な方向における線熱膨張率を○でプロットし実線で結び、ターゲット使用面に平行な方向における線熱膨張率を□でプロットし破線で結んだグラフである。
【0044】
図6に示す測定結果から明らかなように、ターゲット試料Bのターゲット使用面に垂直な方向な線熱膨張率は、300℃で0.22%、400℃で0.29%、500℃で0.35%、600℃で0.51%となり、ターゲット使用面に垂直な方向の線熱膨張率は、300℃で0.14%、400℃で0.20%、500℃で0.27%、600℃で0.44%となった。ターゲット使用面に垂直な方向の線熱膨張率は、ターゲット使用面に平行な方向の線熱膨張率より300℃で57%、400℃で45%、500℃で30%、600℃で16%、それぞれ大きくなった。
【0045】
10個のターゲット試料Bに対し、実施例1と同様のレーザ照射を行った。
その結果、10個のターゲット試料Bの全てにおいて、ターゲットの破断が起こらなかった。
本実施例に係る試料の作成条件、特性測定結果を表1に記載する。
【0046】
(比較例1)
原子比でY:Ba:Cu=1:2:3となるようにY、BaCO、CuOの各種粉末を秤量した。この原料をセラミックス製ボールミルに装填し、ジルコニアボールを用いて有機溶媒(トルエンなど)中で24時間混合した。この混合物を焼成炉で900℃、10時間加熱して1次焼成し、仮焼粉を得た。焼成雰囲気は大気である。得られた仮焼粉を、セラミックス製ディスクミルで粉砕を行った後、セラミックス製ボールミルに装填して、ジルコニアボールを用いて有機溶媒(トルエンなど)中で10時間粉砕し、粗粉砕粉を得た。この粗粉砕粉を、焼成炉で900℃、10時間、2次焼成して焼成粉を得た。得られた焼成粉を、実施例1と同様にして平均粒径を測定した。測定結果は、D50(メディアン径)=78.1μmとなった。
【0047】
得られた焼成粉を、1次微粉砕を施すことなくセラミックス製ボールミルに装填し、直径5mmのジルコニアボールを用いて有機溶媒(トルエンなど)中で8時間、2次微粉砕した。得られた2次微粉砕粉を、上述した粒度分布測定装置を用いて平均粒径を測定した。測定結果は、D50(メディアン径)=4.69μmとなった。
得られた2次微粉砕粉のSEM写真を観察したところ、アスペクト比が2の粒子であることが判明した。
【0048】
次に、この2次微粉砕粉を100φの金型に充填し、147MPaの圧力で1軸成型して、厚さ7mmの円板状成型物を得た。この成型物をセラミックス製焼成治具に置き、焼成炉内に入れ、940℃、30時間加熱して焼成し、RE系酸化物超電導焼結体Cを得た。このRE系酸化物超電導焼結体Cを、このままの状態でレーザ蒸着用ターゲット試料Cとした。
【0049】
レーザ蒸着用ターゲット試料Cより、実施例1と同様にして5mmの立方体試料を切り出した。この5mm立方体の線熱膨張率を、実施例1と同様にして測定した。当該測定結果を図7に示す。図7は図5と同様に、横軸に温度をとり、縦軸に線膨張率をとり、ターゲット使用面に垂直な方向における線熱膨張率を○でプロットし実線で結び、ターゲット使用面に平行な方向における線熱膨張率を□でプロットし破線で結んだグラフである。
【0050】
図7に示す測定結果から明らかなように、ターゲット試料Cのターゲット使用面に垂直な方向な線熱膨張率は、300℃で0.20%、400℃で0.27%、500℃で0.34%、600℃で0.48%となり、ターゲット使用面に垂直な方向の線熱膨張率は、300℃で0.20%、400℃で0.27%、500℃で0.34%、600℃で0.47%となった。ターゲット使用面に垂直な方向の線熱膨張率は、ターゲット使用面に平行な方向の線熱膨張率より、300℃で同様、400℃で同様、500℃で同様となりほとんど差がなかった。600℃で2%大きくなった。
【0051】
10個のターゲット試料Cに対し、実施例1と同様のレーザ照射を行った。
その結果、10個のターゲット試料Cの全てにおいて、ターゲットの全部または一部破断が起った。
本実施例に係る試料の作成条件、特性測定結果を表1に記載する。
【0052】
(実施例3)
原子比でGd:Ba:Cu=1:2:3となるようにGd、BaCO、CuOの各種粉末を秤量した。この原料をセラミックス製ボールミルに装填し、ジルコニアボールを用いて有機溶媒(トルエンなど)中で24時間混合した。この混合物を焼成炉で900℃、10時間加熱して1次焼成し、仮焼粉を得た。焼成雰囲気は大気である。得られた仮焼粉を、セラミックス製ディスクミルで粉砕を行った後、セラミックス製ボールミルに装填して、ジルコニアボールを用いて有機溶媒(トルエンなど)中で10時間粉砕し、粗粉砕粉を得た。この粗粉砕粉を、焼成炉で950℃、30時間、2次焼成して焼成粉を得た。当該焼成粉をセラミックス製ディスクミルで1次微粉砕した。得られた1次微粉砕粉を、実施例1と同様にして平均粒径を測定した。測定結果は、D50(メディアン径)=39.2μmとなった。
【0053】
得られた1次微粉砕粉をセラミックス製ボールミルに装填し、直径3mmのジルコニアボールを用いて有機溶媒(トルエンなど)中で6時間、2次微粉砕した。得られた2次微粉砕粉を、上述した粒度分布測定装置を用いて平均粒径を測定した。測定結果は、D50(メディアン径)=12.99μmとなった。
【0054】
次に、この2次微粉砕粉を100φの金型に充填し、147MPaの圧力で1軸成型して、厚さ7mmの円板状成型物を得た。この成型物をセラミックス製焼成治具に置き、焼成炉内に入れ、940℃、30時間加熱して焼成し、RE系酸化物超電導焼結体Dを得た。このRE系酸化物超電導焼結体Dを、このままの状態でレーザ蒸着用ターゲット試料Dとした。
得られた2次微粉砕粉のSEM写真を観察したところ、当該2次微粉砕粉は、アスペクト比が3の粒子であることが判明した。
【0055】
レーザ蒸着用ターゲット試料Dより、実施例1と同様にして5mmの立方体試料を切り出した。この5mm立方体の線熱膨張率を、実施例1と同様にして測定した。
【0056】
当該測定結果から、600℃においてターゲット使用面に垂直な方向な線熱膨張率は0.51%となり、ターゲット使用面に平行な方向の線熱膨張率は0.45%となった。ターゲット使用面に垂直な方向の線熱膨張率は、ターゲット使用面に平行な方向の線熱膨張率より、600℃において13%大きくなった。
【0057】
10個のターゲット試料Dに対し、実施例1と同様のレーザ照射を行った。
その結果、10個のターゲット試料Dの全てにおいて、ターゲットの破断が起こらなかった。
本実施例に係る試料の作成条件、特性測定結果を表1に記載する。
【0058】
(実施例4)
1次微粉砕粉をセラミックス製ボールミルに装填し、直径0.8mmのジルコニアビーズを用いて有機溶媒(トルエンなど)中で4時間、2次微粉砕した以外は、実施例3と同様の操作を行って、D50(メディアン径)=4.58μmの2次微粉砕粉を得た。
得られた2次微粉砕粉のSEM写真を観察したところ、当該2次微粉砕粉は、アスペクト比が3の粒子であることが判明した。
【0059】
次に、この2次微粉砕粉を100φの金型に充填し、147MPaの圧力で1軸成型して、厚さ7mmの円板状成型物を得た。
この成型物をセラミックス製焼成治具に置き、焼成炉内に入れ、940℃、30時間加熱して焼成し、RE系酸化物超電導焼結体Eを得た。このRE系酸化物超電導焼結体Eを、このままの状態でレーザ蒸着用ターゲット試料Eとした。
【0060】
レーザ蒸着用ターゲット試料Eより、実施例1と同様にして5mmの立方体試料を切り出した。この5mm立方体の線熱膨張率を、実施例1と同様にして測定した。
【0061】
当該測定結果から、600℃においてターゲット使用面に垂直な方向な線熱膨張率は0.50%となり、ターゲット使用面に平行な方向の線熱膨張率は0.44%となった。ターゲット使用面に垂直な方向の線熱膨張率は、ターゲット使用面に平行な方向の線熱膨張率より、600℃において14%大きくなった。
【0062】
10個のターゲット試料Eに対し、実施例1と同様のレーザ照射を行った。
その結果、10個のターゲット試料Eの全てにおいて、ターゲットの破断が起こらなかった。
本実施例に係る試料の作成条件、特性測定結果を表1に記載する。
【0063】
(比較例2)
原子比でGd:Ba:Cu=1:2:3となるようにGd、BaCO、CuOの各種粉末を秤量した。この原料をセラミックス製ボールミルに装填し、ジルコニアボールを用いて有機溶媒(トルエンなど)中で24時間混合した。この混合物を焼成炉で900℃、10時間加熱して1次焼成し、仮焼粉を得た。焼成雰囲気は大気である。得られた仮焼粉を、セラミックス製ディスクミルで粉砕を行った後、セラミックス製ボールミルに装填して、ジルコニアボールを用いて有機溶媒(トルエンなど)中で10時間粉砕し、粗粉砕粉を得た。この粗粉砕粉を、焼成炉で960℃、30時間、2次焼成して焼成粉を得た。
【0064】
得られた焼成粉を、実施例1と同様にして平均粒径を測定した。測定結果は、D50(メ
ディアン径)=164μmとなった。
【0065】
得られた焼成粉を、1次微粉砕を施すことなく、セラミックス製ボールミルに装填し、直径5mmのジルコニアボールを用いて有機溶媒(トルエンなど)中で21時間、2次微粉砕粉した。得られた2次微粉砕粉を、上述した粒度分布測定装置を用いて平均粒径を測定した。測定結果は、D50(メディアン径)=13.35μmとなった。
得られた2次微粉砕粉のSEM写真を観察したところ、当該2次微粉砕粉は、アスペクト比が2の粒子であることが判明した。
【0066】
次に、この2次微粉砕粉を100φの金型に充填し、147MPaの圧力で1軸成型して、厚さ7mmの円板状成型物を得た。この成型物をセラミックス製焼成治具に置き、焼成炉内に入れ、940℃、30時間加熱して焼成し、RE系酸化物超電導焼結体Fを得た。このRE系酸化物超電導焼結体Fを、このままの状態でレーザ蒸着用ターゲット試料Fとした。
【0067】
レーザ蒸着用ターゲット試料Fより、実施例1と同様にして5mmの立方体試料を切り出した。この5mm立方体の線熱膨張率を、実施例1と同様にして測定した。
【0068】
当該測定結果から、600℃においてターゲット使用面に垂直な方向な線熱膨張率は0.48%となり、ターゲット使用面に平行な方向の線熱膨張率は0.46%となった。ターゲット使用面に垂直な方向の線熱膨張率は、ターゲット使用面に平行な方向の線熱膨張率より600℃で4%大きくなった。
【0069】
10個のターゲット試料Fに対し、実施例1と同様のレーザ照射を行った。
その結果、10個のターゲット試料Fの7個において、ターゲットの全部または一部破断が起った。
本実施例に係る試料の作成条件、特性測定結果を表1に記載する。
【0070】
(比較例3)
2次焼成温度を950℃に変更した以外は比較例2と同様にして焼成粉を製造した。当該焼成粉に対し、セラミックス製ディスクミルで1次微粉砕を行った。
得られた1次微粉砕された焼成粉を、実施例1と同様にして平均粒径を測定した。測定結果は、D50(メディアン径)=39.2μmとなった。
【0071】
セラミックス製ボールミルに装填して、5mmのジルコニアボールを用いて有機溶媒(トルエンなど)中で6時間、2次微粉砕した。得られた2次微粉砕粉を、上述した粒度分布測定装置を用いて平均粒径を測定した。測定結果は、D50(メディアン径)=6.94μmとなった。
得られた2次微粉砕粉のSEM写真を観察したところ、当該2次微粉砕粉は、アスペクト比が2の粒子であることが判明した。
【0072】
次に、この2次微粉砕粉を100φの金型に充填し、147MPaの圧力で1軸成型して、厚さ7mmの円板状成型物を得た。この成型物をセラミックス製焼成治具に置き、焼成炉内に入れ、940℃、30時間加熱して焼成し、RE系酸化物超電導焼結体Gを得た。このRE系酸化物超電導焼結体Gを、このままの状態でレーザ蒸着用ターゲット試料Gとした。
【0073】
レーザ蒸着用ターゲット試料Gより、実施例1と同様にして5mmの立方体試料を切り出した。この5mm立方体の線熱膨張率を、実施例1と同様にして測定した。
【0074】
当該測定結果から、600℃においてターゲット使用面に垂直な方向な線熱膨張率は0.49%となり、ターゲット使用面に平行な方向の線熱膨張率は0.46%となった。ターゲット使用面に垂直な方向の線熱膨張率は、ターゲット使用面に平行な方向の線熱膨張率より600℃で7%大きくなった。
【0075】
10個のターゲット試料Gに対し、実施例1と同様のレーザ照射を行った。
その結果、10個のターゲット試料Gの5個において、ターゲットの全部または一部破断が起った。
本実施例に係る試料の作成条件、特性測定結果を表1に記載する。
【0076】
(実施例5)
原子比でY:Ba:Cu=1:2:3となるように硝酸イットリウム、硝酸バリウム、硝酸銅の各原料溶液を秤量した。この原料溶液を水酸化ナトリウムで中和して共沈沈澱物を得た。この沈殿物をろ過、洗浄して、180℃、10時間焼成することで原料混合物を得た。
この混合物を焼成炉で900℃、10時間加熱して1次焼成し、仮焼粉を得た。焼成雰囲気は大気である。得られた仮焼粉を、セラミックス製ディスクミルで粉砕を行った後、セラミックス製ボールミルに装填して、ジルコニアボールを用いて有機溶媒(トルエンなど)中で10時間粉砕し、粗粉砕粉を得た。この粗粉砕粉を、焼成炉で920℃、20時間、2次焼成して焼成粉を得た。当該焼成粉をセラミックス製ディスクミルで1次微粉砕した。得られた1次微粉砕粉を、実施例1と同様にして平均粒径を測定した。測定結果は、D50(メディアン径)=22.6μmとなった。
【0077】
得られた1次微粉砕粉をセラミックス製ボールミルに装填し、直径3mmのジルコニアボールを用いて有機溶媒(トルエンなど)中で9時間、2次微粉砕した。得られた2次微粉砕粉を、上述した粒度分布測定装置を用いて平均粒径を測定した。測定結果は、D50(メディアン径)=3.48μmとなった。
得られた2次微粉砕粉のSEM写真を観察したところ、アスペクト比が5の粒子であることが判明した。
【0078】
次に、この2次微粉砕粉を100φの金型に充填し、147MPaの圧力で1軸成型して、厚さ7mmの円板状成型物を得た。この成型物をセラミックス製焼成治具に置き、焼成炉内に入れ、920℃、30時間加熱して焼成し、RE系酸化物超電導焼結体Hを得た。このRE系酸化物超電導焼結体Hを、このままの状態でレーザ蒸着用ターゲット試料Hとした。
【0079】
レーザ蒸着用ターゲット試料Hより、実施例1と同様にして5mmの立方体試料を切り出した。この5mm立方体の線熱膨張率を、実施例1と同様にして測定した。
【0080】
当該測定結果から、600℃においてターゲット使用面に垂直な方向な線熱膨張率は0.47%となり、ターゲット使用面に平行な方向の線熱膨張率は0.41%となった。ターゲット使用面に垂直な方向の線熱膨張率は、ターゲット使用面に平行な方向の線熱膨張率より、600℃において15%大きくなった。
【0081】
10個のターゲット試料Hに対し、実施例1と同様のレーザ照射を行った。
その結果、10個のターゲット試料Hの全てにおいて、ターゲットの破断が起こらなかった。
本実施例に係る試料の作成条件、特性測定結果を表1に記載する。
【0082】
(実施例6)
原子比でGd:Ba:Cu=1:2:3となるようにGd、BaCO、CuOの各種粉末を秤量した。この原料をセラミックス製ボールミルに装填し、ジルコニアボールを用いて有機溶媒(トルエンなど)中で24時間混合した。この混合物を焼成炉で910℃、20時間加熱して1次焼成し、仮焼粉を得た。焼成雰囲気は大気である。尚、2次焼成は実施しなかった。
当該仮焼粉をセラミックス製ディスクミルで1次微粉砕した。得られた1次微粉砕粉を、実施例1と同様にして平均粒径を測定した。測定結果は、D50(メディアン径)=18.6μmとなった。
【0083】
得られた1次微粉砕粉を、湿式循環型連続粉砕機(三井鉱山(株)製SCミル)に装填し、直径0.8mmのジルコニアビーズを用いて、有機溶媒(トルエン)中で、1400回転、1時間、2次微粉砕した。
得られた2次微粉砕粉を、上述した粒度分布測定装置を用いて平均粒径を測定した。測定結果は、D50(メディアン径)=1.89μmとなった。
得られた2次微粉砕粉のSEM写真を観察したところ、アスペクト比が3の粒子であることが判明した。
【0084】
次に、この2次微粉砕粉を100φの金型に充填し、147MPaの圧力で1軸成型して、厚さ7mmの円板状成型物を得た。この成型物をセラミックス製焼成治具に置き、焼成炉内に入れ、940℃、30時間加熱して焼成し、RE系酸化物超電導焼結体Iを得た。このRE系酸化物超電導焼結体Iを、このままの状態でレーザ蒸着用ターゲット試料Iとした。
【0085】
レーザ蒸着用ターゲット試料Iより、実施例1と同様にして5mmの立方体試料を切り出した。この5mm立方体の線熱膨張率を、実施例1と同様にして測定した。
【0086】
当該測定結果から、600℃においてターゲット使用面に垂直な方向な線熱膨張率は0.52%となり、ターゲット使用面に平行な方向の線熱膨張率は0.43%となった。ターゲット使用面に垂直な方向の線熱膨張率は、ターゲット使用面に平行な方向の線熱膨張率より、600℃において21%大きくなった。
【0087】
10個のターゲット試料Iに対し、実施例1と同様のレーザ照射を行った。
その結果、10個のターゲット試料Iの全てにおいて、ターゲットの破断が起こらなかった。
本実施例に係る試料の作成条件、特性測定結果を表1に記載する。
【0088】
(実施例7)
実施例1で作製した2次微粉砕粉と、当該2次微粉砕粉の総重量に対する重量比で20wt%になるようCaO粉末とを秤量し、混合した。
当該混合した粉をセラミックス製ボールミルに装填し、直径3mmのジルコニアボールを用いて有機溶媒(トルエン)中で2時間混合して、混合粉を得た。
【0089】
次に、前記混合粉を100φの金型に充填し、147MPaの圧力で1軸成型して、厚さ7mmの円板状成型物を得た。この成型物をセラミックス製焼成治具に置き、焼成炉内に入れ、920℃、30時間加熱して焼成し、RE系酸化物超電導焼結体Jを得た。このRE系酸化物超電導焼結体Jを、このままの状態でレーザ蒸着用ターゲット試料Jとした。
【0090】
レーザ蒸着用ターゲット試料Jより、実施例1と同様にして5mmの立方体試料を切り出した。この5mm立方体の線熱膨張率を、実施例1と同様にして測定した。
【0091】
当該測定結果から、600℃においてターゲット使用面に垂直な方向な線熱膨張率は0.51%となり、ターゲット使用面に平行な方向の線熱膨張率は0.45%となった。ターゲット使用面に垂直な方向の線熱膨張率は、ターゲット使用面に平行な方向の線熱膨張率より、600℃において13%大きくなった。
【0092】
10個のターゲット試料Jに対し、実施例1と同様のレーザ照射を行った。
その結果、10個のターゲット試料Jの全てにおいて、ターゲットの破断が起こらなかった。
本実施例に係る試料の作成条件、特性測定結果を表1に記載する。
【0093】
本実施例において2次微粉砕粉へ添加されるCaO粉末は、作製されるターゲットに超電導以外の酸化物を添加することを目的としたものである。超電導以外の酸化物を添加されたターゲットを用いて成膜操作を行うことで、成膜される超電導薄膜結晶内部に非超電導物質の粒子が導入される。当該導入された非超電導物質の粒子は、当該超電導薄膜結晶に磁場が引加された際にピンニングセンターとして働き、当該超電導薄膜結晶の超電導特性の向上を図ることが出来るものである。
本実施例では、上述の目的で、作製されるターゲットに超電導以外の酸化物が添加された場合でも、本発明の効果が発揮されることを確認するために行ったものである。
【0094】
(比較例4)
実施例1で作製した2次微粉砕粉と、当該2次微粉砕粉の総重量に対する重量比で40wt%になるようCaO粉末とを秤量し、混合した以外は、実施例7と同様の操作を行い、RE系酸化物超電導焼結体Kを得た。このRE系酸化物超電導焼結体Kを、このままの状態でレーザ蒸着用ターゲット試料Kとした。
【0095】
レーザ蒸着用ターゲット試料Kより、実施例1と同様にして5mmの立方体試料を切り出した。この5mm立方体の線熱膨張率を、実施例1と同様にして測定した。
【0096】
当該測定結果から、600℃においてターゲット使用面に垂直な方向な線熱膨張率は0.47%となり、ターゲット使用面に平行な方向の線熱膨張率は0.46%となった。ターゲット使用面に垂直な方向の線熱膨張率は、ターゲット使用面に平行な方向の線熱膨張率より、600℃において2%大きくなった。
【0097】
10個のターゲット試料Kに対し、実施例1と同様のレーザ照射を行った。
その結果、10個のターゲット試料Kの6個において、ターゲットの全部または一部破断が起った。
本実施例に係る試料の作成条件、特性測定結果を表1に記載する。
【0098】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】レーザ蒸着用ターゲットにレーザ光が照射されている際の概念図である。
【図2】図1のI−I断面図である。
【図3】SEMで観察した本発明に係る粗粉砕粉の概念図である。
【図4】レーザ蒸着用ターゲット試料より立方体試料の切り出しの概念図である。
【図5】実施例1に係る立方体試料の線熱膨張率を示すグラフである。
【図6】実施例2に係る立方体試料の線熱膨張率を示すグラフである。
【図7】比較例1に係る立方体試料の線熱膨張率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0100】
1.レーザ蒸着用ターゲット
2.ターゲット表面における数mm四方程度の領域
3.パルスレーザ光
4.ターゲット使用面である平面に対して垂直な方向
5.ターゲット使用面である平面に平行な方向
6.酸化物超電導体焼結体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物超電導焼結体を含むレーザ蒸着用のターゲットであって、当該ターゲット使用面に垂直な向きにおける線熱膨張率の値が、当該ターゲット使用面に平行な向きにおける線熱膨張率の値より10%以上大きいことを特徴とするレーザ蒸着用ターゲット。
【請求項2】
前記酸化物超電導焼結体が、REBaCu(但し、REは、イットリウムおよび/または希土類元素のうちから選択される1つ以上の元素)で表記されるRE酸化物超電導体であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ蒸着用ターゲット。
【請求項3】
前記酸化物超電導焼結体が、前記RE酸化物超電導体を80wt%以上含むことを特徴とする請求項2に記載のレーザ蒸着用ターゲット。
【請求項4】
請求項1に記載のレーザ蒸着用ターゲットの製造方法であって、
REを含む原料と、Baを含む原料と、銅を含む原料とを秤量混合して、混合物を得る工程と、
当該混合物を、酸素を10〜30%含有する雰囲気にて880℃〜960℃で5時間〜50時間加熱して、仮焼粉を得る工程と、
当該仮焼粉を粉砕してメディアン径50μm以下の粉砕粉とする1次粉砕工程と、
当該1次粉砕粉をメディアン径15μm以下、且つ、アスペクト比が3以上の粉砕粉とする2次粉砕工程と、
当該2次粉砕粉を圧縮成型して成形体を得る工程を有する、ことを特徴とするレーザ蒸着用ターゲットの製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のレーザ蒸着用ターゲットの製造方法であって、
REを含む原料溶液と、Baを含む原料溶液と、銅を含む原料溶液とを秤量混合して、混合溶液を得る工程と、
当該混合溶液から共沈法にて、RE、Ba、Cuの各元素を含む混合物を沈殿させる沈殿工程と、
当該混合物を、酸素を10〜30%含有する雰囲気にて880℃〜960℃で5時間〜50時間加熱して、仮焼粉を得る工程と、
当該仮焼粉を粉砕してメディアン径50μm以下の粉砕粉とする1次粉砕工程と、
当該1次粉砕粉をメディアン径15μm以下、且つ、アスペクト比が3以上の粉砕粉とする2次粉砕工程と、
当該2次粉砕粉を圧縮成型して成形体を得る工程を有する、ことを特徴とするレーザ蒸着用ターゲットの製造方法。
【請求項6】
前記2次粉砕工程において、ボール径3mm以下の粉砕ボールまたは粉砕ビーズを用いることを特徴とする請求項4または5に記載のレーザ蒸着用ターゲットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−215629(P2009−215629A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62631(P2008−62631)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】