説明

レーダ型探査装置

【課題】 広範囲のターゲットに対して利用することができる汎用性を持たせたレーダ型探査装置に対して好適に採用し得るSTC回路を提供すること。
【解決手段】 スキャン信号発生部2からのスキャン信号に基づいてランプ信号生成部4よりスローランプ信号が生成される。キャリア信号発生部1からのキャリア信号は、前記スローランプ信号により位相変調される。位相変調されたキャリア信号は波形整形回路9において、その立下がりもしくは立上がりが、より急峻となるように波形整形され、これにより発生する高次高調波が送信アンテナ11より送信される。受信アンテナ12により受信された受信信号はSTC回路29とFET28により利得制御される。この場合、STC回路29はキャリア信号に対して位相変調を行うための前記ランプ信号の波高値をそのまま利用するように構成されており、比較的単純な回路構成によって精度の高い利得制御動作が実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば地雷等のような地中埋設物を探査することができる地中レーダ、もしくは気中レーダにも応用することができ、特にターゲットの比誘電率に左右されずに、探査機能を発揮することができる探査装置に対して好適に採用し得るSTC(Sencitive Timing Control)回路を備えたレーダ型探査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、対人地雷に代表される地雷が世界中の紛争地域で使用され、紛争終結後においても多数が地中に埋設されたままとなっており、これらの探査および除去は困難をきわめている。地中に埋設された地雷の探索方法としては、金属探知器を利用する方法が主流であるが、前記した対人地雷の多くは金属以外の素材、例えばプラスチックが利用されており、対人地雷を金属探知器のみで探知することは困難な場合が多い。
【0003】
そこで、送信アンテナからのマイクロ波を地中に伝播させて、その反射波を受信アンテナで検出し、検出された反射波を画像処理することで、対象物の有無およびその埋設位置(距離)を検証しようとする地中レーダの提案が多数なされており、例えば次に示す特許文献1〜3に開示されている。
【特許文献1】特開平5−142343号公報
【特許文献2】特開2002−228760号公報
【特許文献3】特開2002−228599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この場合、ターゲットとしての前記地雷の主要な素材が金属であるかプラスチックであるかによって、その比被誘電率が大きく異なるために、送信マイクロ波の周波数を対象物に応じて選択しなければならないという問題が発生する。
【0005】
換言すれば、金属を対象とした専用の地中レーダ、および前記したプラスチックを対象とした専用の地中レーダを用意し、これらを使い分けなければならない。したがって、きわめて非能率的な探査作業を余儀なくされるだけでなく、それぞれ専用の探査装置を用意することによる経済的な負担も抱えることになる。
【0006】
そこで、本件出願人はターゲットの性質にかかわらず、広範囲のターゲットに対して利用することができる汎用性を持たせたレーダ型探査装置を提案しており、この発明は特に前記した構成の探査装置に対して好適に採用し得るSTC回路を備えたレーダ型探査装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するためになされたこの発明にかかるレーダ型探査装置は、請求項1に記載のとおり、スキャン信号発生部より生成されるスキャン信号に基づいてランプ信号を生成するランプ信号生成手段と、前記ランプ信号生成手段により生成されるランプ信号を変調波として、キャリア信号発生部より生成されるキャリア信号を位相変調させる位相変調手段と、矩形状のキャリア信号の立下がり、もしくは立上がりをより急峻な形態に波形整形することで、前記キャリア信号の立下がり、もしくは立上がりのタイミングにおいてキャリア信号の高次高調波を発生させる波形整形手段と、前記波形整形手段によって得られる高次高調波を含むマイクロ波信号を送信する送信アンテナと、前記送信アンテナによって送信されたマイクロ波信号の反射信号を受信する受信アンテナと、前記送信アンテナより送信されるマイクロ波信号の位相変調成分と受信アンテナにより受信される反射波の位相変調成分との間の位相の変化分を取得することができる位相変化分取得手段と、前記位相変化分取得手段により得られるアナログ出力のレベルを制御するレベル制御手段とが具備され、前記レベル制御手段には、前記ランプ信号の時間経過に対応して変化する波高値に基づく制御信号を受けて、両端子間の電気抵抗が変化する能動素子が備えられ、前記能動素子の電気抵抗の変化により、前記アナログ出力の減衰制御を実行させるように構成されている点に特徴を有する。
【0008】
この場合、請求項2に記載のとおり、前記レベル制御手段には、好ましくは前記ランプ信号生成手段により得られるランプ信号の位相を反転させる位相反転手段と、前記位相反転手段による反転ランプ信号の波高値に基づく制御信号を前記能動素子における制御極端子に加えるドライバ回路が備えられる。
【0009】
そして、前記した能動素子としては、請求項3に記載のようにFET(電界効果型トランジスタ)を好適に採用することができ、前記した電気抵抗をもたらす両端子がドレイン電極およびソース電極になされ、前記した制御極端子がゲート電極になされる。
【発明の効果】
【0010】
前記したレーダ型探査装置によると、請求項1の記載の構成に代表されるように、スキャン信号発生部より生成されるスキャン信号に基づいてランプ信号が生成され、ランプ信号を変調波として、キャリア信号発生部より生成されるキャリア信号を位相変調させるように構成される。そして、ランプにより位相変調された前記キャリア信号の例えば立下がりのタイミングにおいてマイクロ波信号が送信アンテナより送信されるようになされる。
【0011】
一方、受信アンテナにより受信される反射波の復調分は、STC回路によりターゲットの距離に応じた利得調整を図ることになるが、前記したキャリア信号に対して位相変調を行う前記ランプ信号の波高値をそのまま利用することで、比較的単純な回路構成によって、精度の高い利得制御動作を実現させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明にかかるレーダ型探査装置について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。図1は前記探査装置の全体構成をブロック図によって示したものである。この探査装置においては、2つの基準信号発生部が具備されており、その一つはキャリア信号発生部1であり、他の一つはスキャン信号発生部2である。
【0013】
前記キャリア信号発生部1においては、例えば2MHz〜5MHzの矩形波信号が生成されるが、この実施の形態においてはキャリア信号発生部1からは2MHzの矩形波信号が生成されることを前提として説明する。このキャリア信号発生部1からの矩形波は後で詳細に説明するが、スローランプ信号により電圧シフトを受けるのでハイランプ(High Rump)基準信号発生部ということもできる。
【0014】
一方、前記スキャン信号発生部2においては、例えば40Hz〜80Hzの矩形波信号が生成されるが、この実施の形態においてはスキャン信号発生部からは40Hzの矩形波信号が生成されることを前提として説明する。このスキャン信号発生部2からの矩形波についても後で詳細に説明するが、ランプ信号生成手段における基本波として利用されるので、前記スキャン信号発生部2は、スローランプ(Slow Rump)基準信号発生部ということもできる。
【0015】
なお、前記キャリア信号発生部1からのキャリア信号、およびスキャン信号発生部2からのスキャン信号は、それぞれ例えばCR発振器により得られる信号波を矩形波に整形して出力するように構成されている。しかしながら、前記各矩形波信号は例えば50〜100MHz程度のクロック信号を基準にして、これをそれぞれ分周して得るように構成されていてもよい。この構成によると、前記キャリア信号発生部1からの矩形波、およびスキャン信号発生部2からの矩形波の立上がりは、共に同期した状態で生成される。
【0016】
図2(a)に前記キャリア信号発生部1からのキャリア信号を、図2(b)にスキャン信号発生部2からのスキャン信号の波形形態を示している。なお、前記両信号の周波数は前記したとおり大きな差があり、したがって、図2(a)および(b)に示す各信号波形における周期の時間軸は同一ではない。この実施の形態においては、前記したキャリア信号およびスキャン信号の二つの信号を用いて、後述するように送信タイミング、受信タイミング、およびSTC回路の動作等のすべてを制御することになる。
【0017】
前記スキャン信号発生部2からのスキャン信号は、増幅器3によって電圧増幅され、ランプ信号生成部4に供給される。このランプ信号生成部4は、前記スキャン信号の立上がりのタイミングを利用して、ランプ信号すなわち鋸歯状波を生成するものである。この鋸歯状波は図2(c)に示すようにスキャン信号の立上がりに同期してリニアにレベル上昇し、スキャン信号の周期の最後において急峻に基準電位にシフトする波形形態になされ、これが40Hzに相当する周期をもって連続的にくり返す信号波形になされる。
【0018】
前記ランプ信号生成部4からのスローランプ信号は、ゲイン調整回路5に供給される。このゲイン調整回路5は前記したランプ信号生成部4によって得られたスローランプ信号のレベル(波高値)を調整すると共に、レンジオフセットの機能も果たすものであり、これにより後述するSTC回路における精度の高い利得制御動作を保証させると共に、前記キャリア信号に与える位相変調レベルを適正なものに調整するように作用する。
【0019】
前記ゲイン調整回路5より出力されるスローランプ信号は、サーキュレータにより構成されるローパスフィルタ6を介して、鎖線で囲まれた送信信号系Aおよびゲートパルス生成系Bにそれぞれ供給される。前記ローパスフィルタ6は、前記したスローランプ信号を送信信号系Aおよびゲートパルス生成系Bに伝達すると共に、前記したキャリア信号発生部1からのキャリア信号が、後述するSTC回路に伝達されるのを阻止するアイソレータとしての機能も果たす。
【0020】
前記ローパスフィルタ6を介したスローランプ信号は、前記キャリア信号発生部1より出力されるキャリア信号をランプ信号によりレベルシフトするように動作する。これにより、キャリア信号はスローランプ信号により位相変調を受ける。図2(d)には、前記スローランプ信号により位相変調を受けたキャリア信号の状態を模式的に示しており、2MHzのキャリア信号は、40Hzのスローランプ信号のレベルに応じて、その位相遅れの度合いが変化する位相変調を受ける。
【0021】
なお、図2(d)においては実線で示した矢印の間隔がキャリア信号の半周期を示しており、破線で示した矢印の間隔が最大の位相変調を受けた時のキャリア信号の半周期の位置を例示している。また、図2(d)に示したキャリア信号は紙面に描く便宜上、図2(a)に示したキャリア信号に対して遥かに大きな周期に描かれているが、両者の周期(周波数)は、同一である。
【0022】
図1に戻り、前記スローランプ信号により位相変調されたキャリア信号は、レンジオフセット回路7に供給され、ここで位相変調されたキャリア信号のレベルおよびオフセット電位点が調整される。すなわち、このレンジオフセット回路7は、前記スローランプ信号のレベルに応じて出力のオフセットを変更するようにし、スローランプ信号によるレベルシフト量にかかわらず、出力レベルのオフセット値を平均化するようにスローランプ信号と逆特性のレベルシフト動作を実行する。これにより、送信信号系Aの後段におけるゲートIC等が、前記スローランプ信号によって飽和するのを防止するように作用する。
【0023】
続いて、前記したレンジオフセット回路7の出力は位相可変回路8に供給されて、位相可変される。この位相可変回路8は例えばゲートICによる半導体ディレイ回路により構成されており、位相変調されたキャリア信号を数nsec程度遅延させるように作用する。これは後述するゲートパルス生成系Bにおける例えば移相器によるゲートパルスの出力タイミングとの調整を図る目的で採用される。
【0024】
前記位相可変回路8からの出力は、波形整形回路9に供給されるように構成されている。この波形整形回路9の作用については後で詳細に説明するが、この実施の形態においては波形整形回路9は、位相変調されたキャリア信号の立上がりを鈍らせ、立下がりを加速(急峻に)させる波形整形処理を実行する。これにより、位相変調されたキャリア信号の立下がりのタイミングにおいてキャリア信号の奇数次を含む高次高調波が発生する。
【0025】
そして、波形整形回路9によって生成される高調波出力は、200MHz以上のマイクロ波を増幅する送信アンプ10によって電流増幅され、送信用キャビティアンテナ11に給電される。したがって送信用キャビティアンテナ11からは、位相変調されたキャリア信号の立下がりのタイミングにおいて発生する高調波が送信信号として送信され、これが前記キャビティアンテナが対峙する地表面から地中に向かって伝播される。
【0026】
図3は主に前記した波形整形回路9の構成例を示したものであり、図4は図3に示す波形整形回路の作用を説明するタイミング図である。図3に示す波形整形回路9においては、ノンポーラ型のコンデンサC1に対して放電用抵抗R1が並列接続されており、この並列接続体の一端に前記したスローランプ信号により位相変調を受けたキャリア信号が供給されるように構成されている。また前記並列接続体の他端は、npn型バイポーラトランジスタQ1のベース電極に接続されている。
【0027】
前記トランジスタQ1は、前記した送信アンプ10として機能するものであり、そのコレクタ端子に負荷抵抗R2を備え、負荷抵抗R2を介して動作電源Vccに接続されている。そして、前記コレクタ端子は前記した送信用キャビティアンテナ11に接続されている。またトランジスタQ1のエミッタ端子は回路の基準電位点であるグランドに接続されている。
【0028】
図4(a)は前記したスローランプ信号により位相変調を受けたキャリア信号(この波形整形回路9の説明中においては、これを単に矩形波パルスと言うこともある。)の形態を示している。また、図4(b)は波形整形後の信号、すなわちトランジスタQ1に印加されるベース電位を示し、さらに図4(c)は図4(b)に示す波形整形後の信号の一つを拡大して示したものである。なお、図4(a)に示した矩形波パルスは、図4(b)および(c)に示した波形整形後の信号との差異を明確にさせるため、その立上がりおよび立下がりに若干スロープが存在するように誇張して示している。
【0029】
ここで、図3に示す波形整形回路9には、図4(a)に示した矩形波パルスが供給される。そのパルス信号が図3に示すように、例えば0Vから5Vに立上がった場合においては、抵抗R1は矩形波パルスの波高値を減衰させた状態でトランジスタQ1のベース電極に伝達させる。一方コンデンサC1には、図3に示した極性をもって電荷が充電される。したがってコンデンサC1への充電作用により、トランジスタQ1のベース電位は入力パルスの波高値に向かって徐々に上昇する。それ故、図4(a)に示した矩形波パルスの立上がりのタイミングにおいては、図4(b)に示すようにベース電位は緩慢に上昇するように動作する。この状態を図4(c)において符号hで示している。
【0030】
時間の経過とともに前記コンデンサC1への充電作用は終了し、その両端電位は等しくなる。これにより前記ベース電位は、矩形波パルスの波高値である5Vに到達する。この状態を図4(c)において符号iで示している。
【0031】
次に、前記矩形波パルスが立下がり、5Vから0Vに変化した場合には、前記コンデンサC1を介してベース電極側に0Vの電位を瞬時に伝達させるように作用する。同時に前記コンデンサC1の両端間に接続された抵抗R1は、コンデンサC1の放電抵抗として作用し、この放電抵抗R1を介してコンデンサC1のベース電極側の端子を0V側に引き落とす動作が実行される。したがって、コンデンサC1のベース電極側の電位変化は矩形波パルスの立下がり動作よりも遥かに加速され、その立下がり波形はより急峻となるように波形整形される。このような動作が実行される前記コンデンサは、スピードアップコンデンサとも言われている。
【0032】
したがって、矩形波パルスの立下がりのタイミングにおいて、キャリア信号である2MHzを基本波とした奇数次の高調波が多量に重畳された高次高調波信号が発生する。この状態を図4(c)において符号jで示している。要するに、前記した波形整形回路9を構成する前記コンデンサC1と抵抗R1は、2MHzの周波数に対応する周期内において、前記したチャージ(充電)およびディスチャージ(放電)の繰り返し動作がなされるように時定数が設定されている。
【0033】
前記した図4(c)に示す信号波形は、送信アンプ10として機能するトランジスタQ1のベース電極に加えられる。したがって、図4(c)に示す信号波形において、符号hで示されたように緩慢に電位が上昇する期間においては、トランジスタQ1のスレッショルド電圧に達した時にトランジスタQ1はオン動作する。そして、図4(c)に示す符号iで示す状態から符号jに示す状態に至った時に、瞬時にして高調波信号がベース電極に印加され、そのコレクタ電極より前記高調波信号が電流変換されて送信用キャビティアンテナ11に給電される。
【0034】
なお、前記した高調波信号の出力は、すでに述べたとおり2MHzのキャリア信号を40Hzで位相変調した場合の変調されたキャリア信号の立下がりのタイミングで発生する。したがって、1秒間に200万回の高調波信号(マイクロ波)がアンテナ11より送信されることになる。しかも2MHzのキャリア信号は40Hzのランプ信号により位相変調されているために、40Hzの周期の初めの段階における高調波信号の出力間隔に比較して、40Hzの周期の終わりの段階における高調波信号の出力間隔が大きくなる。
【0035】
すなわち、前記高調波信号の出力タイミングは40Hzのスキャン周期に対応する期間内において、変調度にしたがって密から粗になるように徐々に変化する動作を繰り返す。この動作については、ゲートパルス制御系Bの説明において詳しく述べることにする。
【0036】
前記キャビティアンテナ11においては、所定の誘電率を持った板の上に銅板が貼られた構成になされ、給電点を所定のポイントにおいて、高周波電流が前記アンプ10より流される。前記高周波信号はきわめて大きな歪みを含んだものであるが、リニア系の前記アンプ10を介してキャビティアンテナ11に給電することで、前記キャビティアンテナ11はいわゆる共鳴函として作用し、2MHzを基本波とした奇数次のサインウェーブを含んだマイクロ波がアンテナ11より送信されることになる。この場合、前記アンテナ11から送信される例えば200MHz〜2GHzの範囲のすべての周波数は、それぞれ前記した40Hzの変調が加わったものとなる。
【0037】
一方、前記したキャリア信号発生部1からのキャリア信号、およびゲイン調整回路5より出力されるスローランプ信号は、ゲートパルス制御系Bに供給される。このゲートパルス制御系Bは、前記キャリア信号とスローランプ信号に基づいて、後述するターゲットからのエコー(反射波)信号の受信タイミングを制御するように動作する。
【0038】
前記ゲイン調整回路5より出力されるスローランプ信号は、前記キャリア信号発生部1より出力されるキャリア信号を位相変調する。これはすでに説明した送信信号系Aにおける位相変調作用と同様である。そして、位相変調されたキャリア信号は時間軸可変回路16に供給される。
【0039】
時間軸可変回路16は、例えばトリマコンデンサ等を利用することで、位相変調を受けたキャリア信号の時間軸を可変するように動作する。図2(e)は時間軸可変回路16により、キャリア信号の時間軸が変更される様子を示している。この時間軸可変回路16からの出力は、さらに移相器17により遅延作用を受ける。前記時間軸可変回路16および移相器17による遅延出力は波形整形回路18に供給され、ここでゲートパルス信号が生成される。すなわち、前記時間軸可変回路16および移相器17は、前記した送信信号系Aによってもたらされる高調波(マイクロ波)の出力タイミングに対するゲートパルス信号の出力タイミングを調整するように作用する。
【0040】
図2(f)は前記波形整形回路18において生成されるゲートパルス信号の例を示したものである。図2(f)に示されたゲートパルス信号は、図2(g)に示したように2MHzのキャリア信号の立下がりと、スローランプ信号とのクロス点において出力されるように作用し、このゲートパルス信号の出力タイミングにおいて、後述する受信ゲート回路におけるゲートを閉じ、それ以外の時間においてはゲートを開けて受信状態となるように制御される。
【0041】
なお、前記した2MHzのキャリア信号は、前記スローランプ信号のレベルに応じて位相変調されているので、結果として前記ゲートパルス信号の発生タイミングは、40Hzのスキャン周期に対応する期間内において、変調度にしたがって密から粗になるように徐々に変化する。すなわち、図2(f)に示されたゲートパルス信号の発生間隔は、図2(g)に示すように、t1<t2<t3……となる。これはすでに説明した送信信号系Aにおいて出力される高調波(マイクロ波)の出力間隔と同様になる。
【0042】
前記波形整形回路18において生成されるゲートパルス信号は、バッファアンプ19を介して受信ゲート回路21に供給される。これにより、送信信号系Aにおいて出力される高調波(マイクロ波)の出力タイミングにおいては受信ゲート回路21を閉じ、送信出力タイミング以外(受信状態)において受信ゲート回路21を開き、前記したターゲットによるエコー信号を受け取るように作用する。
【0043】
この実施の形態によると、すでに説明したように送信信号系Aにおいてはスローランプ信号により位相変調されたキャリア信号の立下がりにおいて送信出力を発生するように動作し、ゲートパルス生成系Bにおいても同じくスローランプ信号により位相変調されたキャリア信号の立下がりにおいてゲートパルス信号を生成するように構成されている。したがって、送信信号系Aおよびゲートパルス生成系Bにそれぞれ供給されるキャリア信号の位相の関係を相互に調整することで、送信のタイミングおよび受信のタイミングを正確に作り出すことができる。これにより送信信号系Aとゲートパルス生成系Bにおける各動作の同期が正確にとられるように作用する。
【0044】
ここで、図5に模式的に描いたように送信用キャビティアンテナ11より送信された高次高調波を含むマイクロ波は、ターゲットTaすなわちこの説明の例においては地中に埋設された地雷に投射され、その反射波が受信用キャビティアンテナ12によって受信される。この場合、ターゲットTaの比誘電率に対応した前記高調波に含まれるいずれかの特定な周波数がターゲットTaに反応し、その特定な周波数が図5に模式的に描いたように位相が反転した状態で戻り、これが受信アンテナ12によって受信される。
【0045】
前記受信アンテナ12によって受信される前記特定な周波数信号は、反転位相のキャリア信号であり、これは前記したスローランプ信号により位相変調されたものである。ここでレーダの機能としては、送信波と受信反射波との間における遅延度合い、すなわち位相変化分を抽出することになる。そこで、前記した反転位相のキャリア信号を捕らえて、その周波数の変化分から位相変化分を抽出することは、一般的にはフーリエ変換等の手法を採用しなければならない。したがって、これを採用するには回路構成がきわめて複雑となり、また比較的強度が高い受信電波を必要とする。このように強度が高い受信電波を得るためには、必然的に送信時の出力電力を高めなければならないという問題に帰着する。
【0046】
そこで、送信時に対する受信時の位相変化分を捕らえようとした場合、前記した40Hzの中のサンプル点で位相が動いているか否かを検証すればよい。すなわち変調波形はキャリア信号と同期しているので、きわめて高い周波数であるキャリア信号を検証しなくても、40Hzの変調波形を検証することで、位相変化分を捕らえることができる。これには送信信号と受信信号とをそれぞれローパスフィルタを介してキャリア成分を除去し、それぞれの変調波を抽出して両者の位相の変化分を見るように構成すればよい。すなわち、送信時の変調波の位相に対する受信時の変調波(これは逆相になる)との位相のずれ分を抽出することになる。
【0047】
前記したローパスフィルタとしては、例えば50KHz程度のカットオフ周波になされたものを使用することで、前記キャリア信号を効果的に除去することができる。また、前記した位相のずれ分を抽出する手段としては、アナログ的に動作するオペアンプを位相変化分取得手段として利用すればよい。
【0048】
以下に説明する図1の符号21〜27で示す各構成は、前記した技術的な観点にしたがって構成されたものであり、送信波と受信反射波との間における遅延度合い、すなわち位相変化分を検証する手段を構成するものである。まず、前記受信ゲート回路21にはゲートG1およびG2が具備されており、このゲートG1およびG2は、前記したゲートパルス生成系Bにおける波形整形回路18からのゲートパルス信号により同期して制御される。なお、図1に示すゲートG1およびG2の状態はゲートオープンである受信状態を示しており、前記したゲートパルス信号の到来時にはゲートG1およびG2は共にグランドに落とされてゲートクロズの状態になされる。
【0049】
前記ゲートG1には送信用キャビティアンテナ11および受信用キャビティアンテナ12の共通グランド点より、グランド点に回り込んだ送信信号、すなわちスローランプ信号により位相変調された高調波信号に対応する信号電圧が供給される。これは電圧増幅器23を介して第1のローパスフィルタ24に供給される。また、ゲートG2には受信用キャビティアンテナ12による受信信号に対応する信号電圧が供給される。これも電圧増幅器25を介して第2のローパスフィルタ26に供給される。
【0050】
前記各ローパスフィルタ24,26は、すでに説明したとおり例えば50KHz程度のカットオフ周波数に設定されており、したがって前記ゲートG1を介して得られる送信信号におけるキャリア信号成分は除去され、変調成分すなわち前記40Hzのスキャン信号に対応する信号波(ベースバンド信号とも言える。)を得ることができる。この信号波は前記したスローランプ信号により変調された信号波に対応するものである。このベースバンド信号の例が図6(a)にゼロクロス信号の態様で示されている。
【0051】
一方、受信アンテナ12で受信された受信信号は、前記したとおりゲートG2および電圧増幅器25を介してローパスフィルタ26に供給される。このローパスフィルタ26は、前記したカットオフ周波数に設定されている関係から、アンテナ12で受信されたキャリア信号成分は除去され、結果として変調成分すなわち前記スキャン信号に対応する信号波を得ることができる。この信号波はスローランプ信号により変調された信号波の逆相成分となる。この逆相成分の信号波の例を図6(b)に破線で示されたゼロクロス信号の態様で示している。
【0052】
ただし、図6(b)に破線で示された逆相成分の信号波は、図6(a)に示されベースバンド信号に対して遅延が生じていない状態を示したものであり、送信アンテナ11から送信されたマイクロ波がターゲットTaに投射されて反射し、受信アンテナ12に戻るまでの時間に対応した遅延が必ず生ずる。図6(b)における実線は前記したローパスフィルタ26において得られる前記ベースバンド信号に対して遅延した状態の信号波形を例示している。
【0053】
図1に示すオペアンプによる差動増幅器27は、前記した図6(a)に示されベースバンド信号に対する図6(b)に実線で示された遅延信号との位相の変化分を取得することができる位相変化分取得手段を構成している。すなわち、図1に示すオペアンプによる差動増幅器27の非反転入力端には、前記図6(a)に示したベースバンド信号が供給され、また非反転入力端には図6(b)に実線で示された遅延受信信号のベースバンド成分が供給される。したがって、前記差動増幅器27の出力端にはその差分が出力される。この差分信号は、一例として図6(c)のように示すことができ、前記したベースバンド信号の1周期に同期して、ピーク値pが発生する。
【0054】
したがって、前記ベースバンド信号の1周期の開始タイミングから、ピーク値pのセンタに至るまでの時間Tを計測することで、送信アンテナ11からターゲートTaに至り、さらにそのエコーが受信アンテナ12に到着する時間、すなわちターゲットの位置を知ることができる。また図6に示すピークpの振幅分Lは、ターゲットTaの比誘電率に対応し、高調波に含まれるいずれの周波数に反応したかの情報として捕らえることができる。すなわち、この振幅分Lを知ることにより、ターゲットTaが何であるかについて推測することができる。
【0055】
ここで、前記した送受信アンテナ11,12に対するターゲットTaの位置が遠い場合は探査の感度を高くし、近い場合には探査の感度を低くすることは、この種のレーダ型探査装置においてなされる基本動作である。前記した動作を実現するために、この実施の形態においては、STC(Sencitive Timing Control)回路29と共にゲイン調整手段として機能する能動素子28としてのFETが使用されている。
【0056】
すなわち、前記した差動増幅器27における出力は、FETのドレイン端子に供給されるように構成されている。なお、前記FETのソース電極はグランドに接続されており、同FETのソース電極には前記STC回路29よりゲイン調整信号が供給されるように構成されている。
【0057】
要するに前記STC回路29よりFETのゲートに加わる制御電圧により、FETのドレイン・ソース間の電気抵抗を制御し、図1には示されていないが差動増幅器27と前記FETとの間に挿入された分圧抵抗により、差動増幅器27におけるアナログ出力を分圧することで減衰制御させるレベル制御手段を構成している。分圧された差動増幅器27による出力は、電圧増幅器30により増幅され、ビデオ信号出力端子32に出力されるように構成されている。
【0058】
ところで、前記したSTC回路29においては、すでに説明したランプ信号生成部4からのスローランプ信号を利用して効果的に感度調整が行われるように構成されている。すなわち、図6に模式的に示したようにターゲットTaがアンテナの近くに存在する場合においてはエコー(反射波)が早く戻り、この場合の反射波の実質的なレベルは大きい。またアンテナに対するターゲットTaの位置が遠くなるほどエコーの戻りが遅くなり、この場合の反射波の実質的なレベルは小さくなる。したがって、アンテナに対するターゲットTaの位置に応じてレーダの受信感度を調整する操作が実行されるが、この場合、前記したランプ信号生成部4からのスローランプ信号を効果的に利用することができる。
【0059】
図7は前記したSTC回路29の基本構成を示したものであり、図8はSTC回路29と前記FET28による利得調整作用を説明するものである。図7に示す構成においては、ゲイン調整回路5からのスローランプ信号がオペアンプ35の反転入力端に供給されるように構成されている。すなわち前記オペアンプ35は、前記スローランプ信号の位相を反転させる位相反転手段として機能する。すなわち、図8に実線で示すスローランプ信号は、オペアンプ35によって破線で示されたようにレベル反転される。
【0060】
このレベル反転された反転スローランプ信号は、図7に示す抵抗R4およびダイオードD1によりDC変換され、オペアンプ36の非反転入力端に供給される。前記オペアンプ36の非反転入力端には、抵抗R5およびR6による分圧により所定のバイアス電圧が供給されており、したがって前記FETの制御極端子であるゲート端子には、図8に破線で示す反転スローランプ信号が印加されることになる。すなわち、前記オペアンプ36は反転ランプ信号の波高値に基づく制御信号を、前記FETに加えるドライバ回路として機能する。
【0061】
したがって、スローランプ信号の1周期における初期の段階、すなわちキャリア信号の変調度が浅い状態においては、FETのドレイン・ソース間の電気抵抗を小さくし、抵抗R7との分圧により前記差動増幅器27によるアナログ出力の減衰量を大きくするように設定される。またスローランプ信号の1周期における最終の段階、すなわちキャリア信号の変調度が深い状態においては、FETのドレイン・ソース間の電気抵抗を大きくして、前記差動増幅器27による出力の減衰量を小さくするように設定する。これにより、キャリア信号の変調度にかかわらず、差動増幅器27によるアナログ出力のレベルを平均化させることができる。
【0062】
なお、前記したレベル制御手段を構成する能動素子としてはFET以外のものを採用することもできるが、実施の形態のようにFETを採用することで、そのゲート・ソース間電圧に対するドレイン・ソース間の電気抵抗の変化を、比較的広い範囲にわたりリニアに制御することができる。したがって、前記したスローランプ信号を利用した精度の高い利得制御動作を発揮させることができる。
【0063】
図1に示す構成においては、スキャン信号発生部2からの40Hzの矩形波信号が同期信号として端子33より出力されるように構成されている。したがって、図1には示されていない外付けの回路において、ビデオ出力端子32から出力される図6(c)に相当するアナログ信号をA/Dコンバータによりデジタル変換し、前記端子33からの同期信号を利用することで、ターゲットTaの位置および比誘電率に基づくダーゲットの性質(換言すれば、地雷であるか否か)を判定することができる。
【0064】
以上説明した実施の形態においては、送信信号を生成する前記した波形整形回路9は、キャリア信号の立上がりを鈍らせ、立下がりを加速(より急峻に)させる波形整形処理を実行するようにしているが、これとは逆にキャリア信号の立上がりを加速(より急峻に)させて、立下がりを鈍らせるように波形整形してもよい。その場合の信号波形の例を図9に示している。なお、図9に示す(a)〜(c)は、すでに説明した図4の(a)〜(c)にそれぞれ対応するものである。
【0065】
この場合においては、前記したゲートパルス生成系Bにおける波形整形回路18は、2MHzのキャリア信号の立上がりに同期してゲートパルス信号を出力するように構成する必要がある。
【0066】
以上のように前記した実施の形態によると、STC回路によりターゲットの距離に応じた利得調整を実行する場合、前記したキャリア信号に対して位相変調を行うための前記ランプ信号の波高値をそのまま利用することで、比較的単純な回路構成によって、精度の高い利得制御動作を実現させることができる。
【0067】
なお、前記した実施の形態においては、地中に埋設された例えば地雷を探査する地中レーダを例にして説明したが、これは地雷のみならず、例えば水道管や、水漏れ部分の探査用レーダ、さらには気中レーダに採用しても同様の作用効果を享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】この発明にかかるレーダ型探査装置の実施の形態を示したブロック図である。
【図2】図1の各部において生成される信号形態を示す波形図である。
【図3】図1に示す送信信号系Aにおいて用いられる波形整形回路の例を示した回路構成図である。
【図4】図3に示す波形整形回路の作用を説明するタイミングチャートである。
【図5】送受信アンテナとターゲットの関係を示した模式図である。
【図6】ターゲットの位置等を演算する例を説明する波形図である。
【図7】図1に示すSTC回路の基本構成を示した回路構成図である。
【図8】図7に示すSTC回路による利得調整作用を説明するタイミングチャートである。
【図9】図3に示す波形整形回路の他の動作例を説明するタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0069】
1 キャリア信号発生部
2 スキャン信号発生部
4 ランプ信号生成部
5 ゲイン調整回路
7 レンジオフセット回路
9 波形整形回路
11 送信用アンテナ
12 受信用アンテナ
16 時間軸可変回路
18 波形整形回路
21 受信ゲート回路
24 ローパスフィルタ(第1ローパスフィルタ)
26 ローパスフィルタ(第2ローパスフィルタ)
27 差動増幅器(オペアンプ)
28 能動素子(FET)
29 STC回路
32 ビデオ信号出力端子
33 同期信号出力端子
35 オペアンプ(位相反転手段)
36 オペアンプ(ドライバ回路)
A 送信信号系
B ゲートパルス生成系
C1 コンデンサ(スピードアップコンデンサ)
R1 放電抵抗
Q1 トランジスタ(送信アンプ)
Ta ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキャン信号発生部より生成されるスキャン信号に基づいてランプ信号を生成するランプ信号生成手段と、
前記ランプ信号生成手段により生成されるランプ信号を変調波として、キャリア信号発生部より生成されるキャリア信号を位相変調させる位相変調手段と、
矩形状のキャリア信号の立下がり、もしくは立上がりをより急峻な形態に波形整形することで、前記キャリア信号の立下がり、もしくは立上がりのタイミングにおいてキャリア信号の高次高調波を発生させる波形整形手段と、
前記波形整形手段によって得られる高次高調波を含むマイクロ波信号を送信する送信アンテナと、
前記送信アンテナによって送信されたマイクロ波信号の反射信号を受信する受信アンテナと、
前記送信アンテナより送信されるマイクロ波信号の位相変調成分と受信アンテナにより受信される反射波の位相変調成分との間の位相の変化分を取得することができる位相変化分取得手段と、
前記位相変化分取得手段により得られるアナログ出力のレベルを制御するレベル制御手段とが具備され、
前記レベル制御手段には、前記ランプ信号の時間経過に対応して変化する波高値に基づく制御信号を受けて、両端子間の電気抵抗が変化する能動素子が備えられ、前記能動素子の電気抵抗の変化により、前記アナログ出力の減衰制御を実行させるように構成したことを特徴とするレーダ型探査装置。
【請求項2】
前記レベル制御手段には、前記ランプ信号生成手段により得られるランプ信号の位相を反転させる位相反転手段と、前記位相反転手段による反転ランプ信号の波高値に基づく制御信号を前記能動素子における制御極端子に加えるドライバ回路が備えられていることを特徴とする請求項1に記載されたレーダ型探査装置。
【請求項3】
前記能動素子がFETであり、前記両端子がドレイン電極およびソース電極であり、前記制御極端子がゲート電極であることを特徴とする請求項2に記載されたレーダ型探査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−250745(P2006−250745A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68398(P2005−68398)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】