説明

レーダ装置

【課題】広角2次元監視をおこなうモノパルス方式のレーダを用いて、物体の種別を精度よく判定しうる安価な監視レーダ装置を提供する。
【解決手段】角度計測にモノパルス方式を採用したレーダ装置を用いて、監視領域内を移動する物体上の複数の箇所における反射波を受信し、各反射波について反射箇所を計測する。そして、計測データに基づき、移動物体の位置と監視レーダ装置の測角方向における大きさを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置に係り、所定の領域内に存在する物体を検知し、その行動を監視する監視レーダ装置に用いて好適なレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置に関する技術として、以下の特許文献1は、マイクロ波等の電波を利用して侵入物体を検出するものである。
【0003】
また、特に、侵入物を検知するレーダシステムとしては、以下の特許文献2があり、このレーダシステムは、受信反射強度に基づいて侵入物の電波反射断面積を算出し、その大きさから侵入物が人体であるか否かを判定するものである。
【0004】
また、自動車に搭載するレーダシステムとしては、以下の特許文献3がある。特許文献3の信号処理回路は、反射波の受信電界強度の分布を求め、その分布に基づいて、目標物の位置および大きさを計測する。
【0005】
さらに、自動車に搭載するレーダシステムであって、非測定物の大きさを算出することができるものとして、以下の特許文献4がある。
【0006】
【特許文献1】特開2000−338231号公報
【特許文献2】特開2002−236171号公報
【特許文献3】特開平11−183612号公報
【特許文献4】特開2004−239744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
屋内及び屋外の所定の領域を監視し侵入者を検知するシステムとして、従来よりカメラや赤外線を用いたものがある。しかし、可視カメラを用いたシステムは見通しの悪い天候下や暗い夜間使用で信頼性が下がる。一方、赤外線カメラを用いれば昼夜を問わず使用できるが、可視カメラに比べると高価になるという問題がある。
【0008】
また、赤外線を用いたセンサには、線状の監視領域に赤外線の送信部と受信部を設置して受光が遮られたことを検知するシステムがあるが、木の葉や雪など飛来物の外乱で誤検知を起こしやすいという問題があった。
【0009】
そこで天候や昼夜等、周囲の環境変化の影響を受けにくいレーダを監視センサとして用い、侵入物体の位置や速度を計測する検知装置がある。例えば、上記の特許文献1は、マイクロ波等の電波を利用して侵入物体を検出するものである。
【0010】
しかし、従来のレーダでは監視エリアに犬や猫などの小動物が侵入した場合でも人間が侵入してきたものと誤検知してしまい、警報を鳴らしたり非常通報してしまう危険があった。このような誤検知を回避するためには小動物と人間を区別しなければならない。両者を区別するために、例えば、上記の特許文献2では受信反射強度に基づいて侵入物の電波反射断面積を算出し、その大きさから侵入物が人体であるか否かを判定する人体判定ステップを備えている。しかしながら、実環境においては検知物体の反射断面積が精度良く求まるとは限らないため、これだけの情報で人体であることを判定するのは困難である。
【0011】
そこで両者を区別するために用いる他の情報しては、検知物体の占める空間的な大きさが挙げられる。例えば、上記の特許文献3では、検知物体の位置と空間的な大きさを計測する方法が開示されている。これは自動車に搭載して使用するレーダ装置において、検知物体の方位角方向における大きさを計測するものである。この特許文献3では送信波の放射方向を角変位させつつ送信し、反射波の受信電界強度分布を計測することで検知物体の位置および方位角方向の大きさを算出している。
【0012】
また、上記の特許文献4に開示されているレーダ装置において、測定物の大きさ算出手段について言及されているが、大きさを算出する物理量の種類やどのようにして算出するかについては具体的に示されていない。
【0013】
監視領域内で検知した物体の種別を判定するために、検知物体の空間的な大きさを測定し、その値を物体種別判定に利用することが挙げられる。従来の例えば特許文献3のように、電波放射方向を方位角方向に角変位させつつ送信して、検知物体の方位角方向の大きさを計測する方式を採用した場合、方位角変位手段として例えば、次の二通りの方法が用いられる。一つ目は電波を放射するアンテナ部分を機械的に回転させる方法(機械スキャン方式)であり、二つ目は平面アンテナなどのアンテナ素子に給電する信号の位相を制御して合成波を広範囲に移動させる方法(電子スキャン方式)である。
【0014】
一つ目の機械スキャン方式を採用した場合には、アンテナを回転させるための電動駆動部を設けなければならない。この電動駆動部は、電動モータ、駆動伝達機構、支持部材などの構成を必要とするため、センサ外形が比較的大きくなることを避けられないだけでなく、コストアップをも招くことになる。
【0015】
一方、二つ目の機械スキャン方式を採用した場合は、電子的な制御で電波放射方向を移動させることが可能になる。よって前述の機械的な回転方式が有する問題が生じないという利点がある。しかしながら、アンテナ素子へ給電する信号の位相を制御する機構が不可欠であり、それによるコストアップを避けられないという問題点がある。
【0016】
本発明は、上記問題点を解消するためになされたもので、その目的は、広角2次元監視をおこなうモノパルス方式のレーダを用いて、物体の種別を精度よく判定しうる安価な監視レーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記問題点を解決するために、本発明では方位角度計測にモノパルス方式を採用したレーダ装置を用いて、電波を監視領域全体に同時に送出するとともに、送出波が監視領域内に存在する移動物体で反射された反射波を受信し、移動物体上における電波の反射箇所を複数点計測する。続いて前記複数の計測点の方位角位置の散らばり尺度を計算し、その値から移動物体の方位角方向の空間的な大きさを算出する。ここで散らばり尺度として、例えば、標準偏差を用いた場合には、標準偏差の正接と移動体までの距離を乗じ、さらに予め定める比例係数を乗じて得られた値を移動物体の方位角方向の大きさとして出力する。
【0018】
さらに、過去の方位角方向の大きさの計測値を参照して、現在計測された方位角方向の大きさを補正して出力することにより、安定した出力値を得ることが可能になる。
【0019】
このようにして得られた方位角方向の大きさ情報に基づいて、検知物体の種別、例えば、人体であるのか、あるいは車両であるのかを判定し、必要に応じて警報を発するなどの処置がとられる。
【0020】
かかる構成により、電波の放射方向を角変位させつつ放射するレーダ装置を使用する場合と比べてコストを低減でき、また、誤警報を少なくして信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、広角2次元監視をおこなうモノパルス方式のレーダを用いて、物体の種別を精度よく判定しうる安価な監視レーダ装置を提供しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る各実施形態を、図1ないし図16を用いて説明する。
【0023】
以下の各実施形態は、広角監視可能なモノパルス方式を採用した監視レーダ装置により、監視領域内を移動する物体を検知し、レーダによる測角方向に占める前記物体の空間的な大きさを計測するものである。
【実施例1】
【0024】
以下、本発明の第一の実施形態を、図1ないし図12を用いて説明する。
【0025】
先ず、図1を用いて本発明の第一の実施形態に係る監視レーダ装置の構成と用途について説明する。
図1は、本発明の第一の実施形態に係る監視レーダ装置の全体構成を示すブロック図である。
図2は、本発明の第一の実施形態に係る監視レーダ装置を建物の外壁に設置して、所定領域を監視する方法の一例を表す図である。
【0026】
図2に示されるように、本実施形態の監視レーダ装置1は、オフィスや住居などの建物の侵入監視に適用することができる。このように監視レーダ装置1は、例えば、建物2の外壁に取り付けられ、電波放射領域3の中に移動物体、例えば、人体4が侵入してきたことを検知するものである。電波を用いているので、雨、霧、雪などによる視界不良などが生じていても、的確に侵入物体を検知することができるという利点がある。ここで監視レーダ装置1のレーダ部としては、例えば、24GHz帯レーダや76GHz帯レーダが用いられる。
【0027】
本発明の監視レーダ装置1の構成は、図1に示されるように、アナログ回路部5、信号処理回路部13、警報装置14からなる。
【0028】
監視レーダ装置1のアナログ回路部5は、送信系として、変調器6、発振器7と送信アンテナ8を備え、受信系として、受信アンテナ9とミキサ10、増幅回路部11、A/Dコンバータ12を備えている。
【0029】
信号処理回路部13は、アナログ回路部5のA/Dコンバータ12から入力される信号を処理し、検知物体の種別を判定する回路であり、 FFT処理部15、ピーク抽出部16、検知物体計測部17、大きさ演算部18、検知物体追尾部19、記憶装置22、検知物体判定部23を備える。また、検知物体追尾部19は、大きさ補正部20、位置補正部21を備えている。
【0030】
警報装置14は、信号処理回路部13によって検知物体が侵入者であると判断されたときに出力を受け取り、警報を発する装置である。
【0031】
次に、本実施形態の監視レーダ装置の動作を、上述の図1を参照しながら、図3ないし図12を用いて、レーダの理論的背景も踏まえつつ説明する。
図3は、2周波CW方式の変調方法を説明するためのグラフである。
図4は、送信電波が移動物体で反射することによって生じるドップラー周波数がピークとして観測されることを表す周波数スペクトルの図である。
図5は、モノパルス方式をパッチアンテナを用いて実施した場合のアンテナ構成例を示す図である。
図6は、モノパルス方式を実現する二つのアンテナで受信した信号の和信号と差信号の方位角依存性を示す図である。
図7は、モノパルス方式による方位角測定原理を説明するためのグラフである。
図8は、送信電波が移動物体で反射することによって生じるドップラー周波数によるピークが、周波数幅を持って観測されることを示す周波数スペクトルの図である。
図9は、監視領域内を移動する物体上の場所によってレーダに対する相対速度が異なることを示す図である。
図10は、監視領域内を移動する物体上の複数の反射点の位置が計測される様子を示す図である。
【0032】
図11は、監視領域内を移動する物体上の複数の反射点が計測されたとき、その方位角方向の分布を示すヒストグラムである。
図12は、検知可能領域と検知不可能領域をまたがる位置に存在する移動物体を検知したときに、検知物体上の複数の反射点が計測される様子を示す図である。
【0033】
アナログ回路部5の発振器7は、変調器6からの変調信号に基づく周波数で発振をおこない、その高周波信号は送信アンテナ8から送信電波として監視領域へ向けて照射される。
【0034】
以下では、監視レーダ装置1による移動物体の検知原理、すなわち検知物体までの距離と移動速度の計測原理を、2周波CW(Continuous Wave)方式を採用した場合について説明する。
【0035】
2周波CW方式レーダの場合、発振器7へ変調信号を入力し、図3に示すような二つの周波数f1,f2を時間的に切り替えながら電波を送信する。送信アンテナ8から送信された電波は、照射内の物体で反射され、返ってきた電波信号は、受信アンテナ9により受信される。この受信信号は、ミキサ回路10で発信信号とミキシングされることによって低周波信号を生成させ、増幅回路11へ出力される。増幅回路11で増幅され出力された信号は、A/Dコンバータ12によってデジタル信号に変換された後、信号処理回路部13に送られる。そして、信号処理回路部13内の高速フーリエ変換処理を施すFFT処理部15において周波数スペクトルが求められる。検知領域内の移動物体で反射され戻ってきた信号は、ドップラー効果の影響により周波数が送信周波数と異なっているため、周波数スペクトルを求めると、図4に示すように物体の移動速度に応じた周波数において、信号強度の強いピーク24が観測される。一方、信号処理回路部13に備えられた記憶装置22には、検知領域に移動物体が存在しないときに求められた周波数スペクトルを予め記憶させており、この周波数スペクトルをノイズスペクトルと呼ぶ。
【0036】
監視状態において時刻ごとに周波数スペクトルを順次求め、ピーク抽出部16において、ノイズスペクトルと比較し、信号対雑音電力比(S/N)を計算する。ここでS/Nが大きいというのはピークが高いことを意味し、移動物体で反射した電波の受信強度が大きいこと表している。
【0037】
次に、S/Nが大きいピークの周波数に対して、検知物体計測部17において、以下の(式1)によって反射箇所のレーダに対する相対速度(v)を算出する。
【0038】
【数1】

【0039】
また検知物体計測部17では、上記信号ピークに対し送信周波数f1 と送信周波数f2 のそれぞれに対する位相を計測し、その位相差Φから2周波CW方式の原理に基づいて数式2により距離(Range)を算出する。
【0040】
【数2】

【0041】
次に、検知物体計測部17で計算される、方位角位置の算出方法について説明する。先ず、図5はアンテナの構成例を示している。各アンテナは、パッチアンテナを用いて構成され、受信アンテナは9aと9bのように二つのチャンネルで構成される。2つのチャンネルで受信された電力の和信号(Sum)の方位角依存強度と差信号(Diff)の方位角依存強度は、図6に示されるようになり、また、その比率を計算すると、図7に示されるようになる。ただし、ここで方位角θの定義として、レーダ正面方向をθ=0、右方向への開き角度を正(+)、左方向への開き角度を負(−)と定義している。
【0042】
ここで、レーダごとにこの方位角依存性を予め測定し、記憶装置22に記憶させておく。そしてS/Nの大きいピークが観測された場合、和信号と差信号の電力の比率および位相差を計測し、記憶装置22に記憶させた方位角依存性のデータを参照することにより、反射箇所の方位角座標(θ)を特定できる。
【0043】
以上がレーダ設置地点からの方位角位置の計測手順である。
【0044】
しかしながら、実際の周波数スペクトルはピーク24のように鋭い単一のピークを持つことはほとんどなく、図8に示されるピーク25のような拡がったピークが観測される。
【0045】
このことを、図9を用いて説明する。監視領域内で検知される物体は、当然、空間的な大きさを有しているため、レーダに対する相対速度は物体上の反射箇所によって異なっている。例えば、Y座標負の方向に速度Vで移動する物体26について考えたとき、反射箇所27のレーダに対する相対速度は矢印28で表されるVcosθ1になるのに対し、反射箇所29のレーダに対する相対速度は矢印30で表されるVcosθ2になる。このような場合、周波数スペクトルを求めると、異なる周波数上にピークが観測されることになる。しかし、実際には物体が連続体であるために、レーダに対する相対速度が連続的に変化しており、またFFT処理の性質として実際のドップラー周波数の外側にサイドローブと呼ばれる信号漏れが存在することから、検知物体上の様々な箇所で反射された信号によるピークは重なって観測され、図8のピーク25のような拡がりを持ったピークが得られる。さらに、検知対象物が人体などのように手足がバラバラに動作する物体の場合は、各部位の移動速度が各々異なるため、この傾向は助長されることになる。
そこで、このように周波数幅の拡がったピークから、距離と方位角計測をおこなうドップラー周波数を抽出する方法について説明する。
【0046】
先ず、一般的な事実としてS/Nが大きいほどノイズの影響が小さいため、反射箇所までの距離と方位角位置は精度良く計測できる。このことはピーク25のような拡がったピークについても当てはまり、S/Nの大きい周波数から求められる位置と方位角位置は、反射箇所を精度良く算出する。逆に、S/Nの小さい周波数について位置と方位角位置を計測すると、ノイズの影響を無視できないため、その計測精度は悪く、位置誤差も大きいものとなる。本実施形態では、距離と方位角計測をおこなう周波数を抽出するためのS/N閾値を予め設定して、記憶装置22に記憶させておく。ただし、このとき位置精度を優先してS/N閾値を大きくし過ぎると、反射量の弱い物体や反射量の小さい箇所を検出できなくなってしまうため、所望の検知性能と位置精度を満足するようなS/N閾値を設定しておく。
【0047】
このS/N閾値以上となった周波数の値が、例えば、n個あったとする。このn個の周波数の値に対して、検知物体計測部17において計測処理を施し、距離Ri(i=1,2,…,n)と方位角θi(i=1,2,…,n)とS/N値SNi(i=1,2,…,n)を算出する。次にこれからXi=Ri×sinθi、Yi=Ri×cosθiによりXY座標に変換し、算出位置をX−Y座標に表示させると、計測データは、図10のデータ点31のように、検知物体26のレーダ側表面の存在範囲内およびその周辺に分布する。このようにして求まった計測データ点の分布から、検知された物体の方位角方向の空間的な大きさを算出する大きさ演算部18の処理内容を次に説明する。
【0048】
図10のデータ点31のように、求まったデータ点の方位角位置に関するヒストグラムを描くと、例えば、図11のようになる。そこで、方位角方向の散らばり尺度として例えば標準偏差σθを用いた場合、以下の(式3)により検知物体の方位角方向の大きさWを計算する。
【0049】
【数3】

【0050】
ここで、係数Aはσθから実際の大きさへ変換するための定数である。この値は、例えば、大きさ(Wknown)とレーダまでの距離(Rknown)が既知の物体を検知し、そのときに計算されるtan(σθ)との比として、以下の(式4)から求められ、記憶装置22に予め記憶させておく。
【0051】
【数4】

【0052】
また、(式3)のRは、反射箇所までの距離の代表値であり、検知物体計測部17において、以下の(式5)から求めた値である。
【0053】
【数5】

【0054】
すなわち、Rは複数の反射箇所の計測距離のS/Nに関する重心を表している。さらに、検知物体の速度と方位角座標の代表値も、同様に検知物体計測部17において、それぞれ、以下の(式6)、(式7)により求めておく
【0055】
【数6】

【0056】
【数7】

【0057】
以上のようにして求められた距離R、速度V、方位角座標θは、検知物体追尾部19に備えられた位置補正部21に入力され、また、方位角方向の大きさWは、大きさ補正部20に入力される。位置補正部21では、記憶装置22に記憶させておいた過去の検知物体計測情報から予測される現在の計測情報に基づいて、実際に現在算出した情報を補正する。この補正部としては、従来からレーダ技術の分野で用いられているカルマンフィルターやα-β-γフィルタなどを用いる。
【0058】
また、大きさ補正部20では以下に説明する処理を施す。まず、大きさ補正部20に入力される方位角方向の大きさをWmと表記し、また大きさ補正部20で補正処理が施されて出力される方位角方向の大きさをW'mと表記する。ここで、添え字mは時刻を表す指標であり、時間的に古いほど値は小さいものとする。大きさ補正部20では、以下の(式8)に従って、算出値が補正される。
【0059】
【数8】

【0060】
ここで、αは0〜1の間の定数であり、値が大きいほど過去の計測情報の影響を受ける。なお、(式8)は、ローパスフィルタの役目を果たしており、ローパスフィルタの役目を果たすものであれば、(式8)の代わりに他のフィルタ方法で代用することもできる。上記の処理により、時刻ごとにばらつく算出値をリアルタイムに平滑化し、安定した値を出力させることが可能になる。
【0061】
さらに、大きさ補正部20では、以下の方法により、検知物体の両端が位置する方位角座標も同時に計算する。位置補正部21の出力である検知物体までの距離をRt、方位角位置をθtと表記し、また上記の大きさ補正処理を施して得られた値をWtと表記すると、検知物体の左端の方位角座標θleftは、以下の(式9)によって算出され、右端の方位角座標θrightは、以下の(式10)によって算出される。
【0062】
【数9】

【0063】
【数10】

【0064】
ここで、arctan は三角関数の正接の逆関数である。
【0065】
検知された物体の位置が、図12のように、検知可能な方位角度領域と検知不可能な方位角度領域の境界近傍に存在する場合には、物体の一部しか検知されていない可能性がある。そこで、θleft、θrightの少なくとも一方が上記境界の、例えば、±1度以内に位置する場合には、大きさ補正部20は、方位角方向における空間的な大きさとして計測された値Wtが、検知物体の方位角方向における空間的な大きさの下限値であることも出力する。
【0066】
このようにして求めた検知物体の移動速度、距離、方位角位置、方位角方向の大きさは、検知物体判定部23に入力される。検知物体判定部23では検知物体が監視領域内に位置していた場合、その方位角方向の大きさが人体の取りうる値、例えば、40cm以上かつ1m以下であれば人体であると判断し、警報装置14によって警備会社などに通報するなどの処置がとられる。
【0067】
なお、本発明の監視レーダ装置は、屋外侵入者監視用途に限らず、屋内における人の動きをモニターする場合などにも適用可能である。例えば、家屋内の壁に設置し、その家の住人とそれ以外の移動物体、例えば、猫などのペットを区別して位置を追跡することも可能である。
【0068】
以上のように、本実施形態の監視レーダ装置は、放射電波を角変位させることを必要としないモノパルス方式を用いて、検知物体の測角方向における空間的な大きさを測定し、さらに、その大きさ情報に基づいて検知物体の種別判定をおこなうことが可能となる。そのため放射電波を角変位させるレーダを使用する場合と比べてコストを低減でき、また、誤警報を少なくして信頼性を向上することができる。
【0069】
本実施形態の監視レーダを防犯用途に使用した場合、検知移動物体が、人体であるか否かを判断することができるため、侵入犯罪を未然に防ぐことが可能となる。
【実施例2】
【0070】
以下、本発明に係る第二の実施形態を、図13を用いて説明する。
【0071】
図13は、本発明による監視レーダ装置の測角方向を、鉛直向きにして設置した例を示す図である。
【0072】
すなわち、第一の実施形態の図5に示したアンテナ面を90度回転させて設置した例である。
【0073】
このように設置すれば、第一の実施形態により求めた方位角方向の大きさのかわりに、鉛直方向の大きさが計測可能となる。すなわち、検知物体の高さを計測できる。そこで検知物体判定部23において、検知物体の鉛直方向の大きさが人体の取りうる値、例えば、1m以上かつ2.5m以下の場合には、直立歩行する大人が侵入していると判断し、それに基づいて警報装置14を作動させることが可能となる。
【0074】
さらに、第一の実施形態の監視レーダ装置と、本実施形態の監視レーダ装置を同時に使用することにより、検知物体の方位角方向の大きさ、すなわち、横幅と、鉛直方向の大きさ、すなわち、高さを同時に計測することもできる。
【0075】
本実施形態の監視レーダを防犯用途に使用した場合には、第一の実施形態と比較して、検知移動物体が人体であるか否かを判断する精度を上げることができるため、さらに、侵入犯罪を未然に防ぐために有効である。
【実施例3】
【0076】
以下、本発明に係る第三の実施形態を、図14ないし図16を用いて説明する。
図14は、本発明による監視レーダ装置を自動車の前部に設置して使用する例を示す図である。
図15は、本発明による監視レーダ装置を自動車の側部に設置して使用する例を示す図である。
図16は、監視レーダ装置を自動車の後部に設置して使用する例を示す図である。
【0077】
本実施形態においては、監視レーダ装置1によって車両前方に存在する物体34の位置と大きさが計測され、検知物体判定部23に入力される。検知物体判定部では、検知物体の方位角方向の大きさが車両の取りうる値、例えば、1.5m以上かつ3m以下であれば、検知物体は車両であると判断する。
【0078】
さらに、検知物体判定部23では、自車両がそのまま通行を続けた場合、将来において検知物体34が自車両に衝突するか否かを、例えば、以下の手順によって判定する。
【0079】
先ず、自車両の中心を通り進行方向と平行な直線を考え、その直線と物体34との位置関係を調べる。今、位置補正部21で出力された物体34の位置から上記直線までの距離をL、大きさ補正部20で出力された物体34の大きさをW t 、自車両の横幅をL carと表記したとき、以下の(式11)が満たされるときは、将来物体34と自車両は衝突すると判断する。
【0080】
【数11】

【0081】
さらに、衝突すると判断した場合には、警報装置14を通して運転者に警報を知らせるなどの処置が取られる。
【0082】
なお、監視レーダ装置は、図15に示すように、自動車33の横方向を監視するため自動車のドア付近に設置したり、あるいは、図16に示すように後方を監視するためにトランク付近に設置されたものでも同じ効果を得ることができる。
【0083】
本実施形態の監視レーダ装置は、以上のように自動車に搭載させることも可能であり、この場合には、検知物体が自車両の走行の妨げとなるか、あるいは、衝突するか否かを的確に判断できるようになるため、事故を未然に防ぐことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る監視レーダ装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る監視レーダ装置を建物の外壁に設置して、所定領域を監視する方法の一例を表す図である。
【図3】2周波CW方式の変調方法を説明するためのグラフである。
【図4】送信電波が移動物体で反射することによって生じるドップラー周波数がピークとして観測されることを表す周波数スペクトルの図である。
【図5】モノパルス方式をパッチアンテナを用いて実施した場合のアンテナ構成例を示す図である。
【図6】モノパルス方式を実現する二つのアンテナで受信した信号の和信号と差信号の方位角依存性を示す図である。
【図7】モノパルス方式による方位角測定原理を説明するためのグラフである。
【図8】送信電波が移動物体で反射することによって生じるドップラー周波数によるピークが、周波数幅を持って観測されることを示す周波数スペクトルの図である。
【図9】監視領域内を移動する物体上の場所によってレーダに対する相対速度が異なることを示す図である。
【図10】監視領域内を移動する物体上の複数の反射点の位置が計測される様子を示す図である。
【図11】監視領域内を移動する物体上の複数の反射点が計測されたとき、その方位角方向の分布を示すヒストグラムである。
【図12】検知可能領域と検知不可能領域をまたがる位置に存在する移動物体を検知したときに、検知物体上の複数の反射点が計測される様子を示す図である。
【図13】本発明による監視レーダ装置の測角方向を、鉛直向きにして設置した例を示す図である。
【図14】本発明による監視レーダ装置を自動車の前部に設置して使用する例を示す図である。
【図15】本発明による監視レーダ装置を自動車の側部に設置して使用する例を示す図である。
【図16】監視レーダ装置を自動車の後部に設置して使用する例を示す図である。
【符号の説明】
【0085】
1…監視レーダ装置
2…建物
3…電波照射領域
4…電波照射領域内を移動する人体
5…監視レーダ装置のアナログ回路部
6…変調器
7…発振器
8…送信アンテナ
9…受信アンテナ
10…ミキサ回路
11…増幅回路
12…A/Dコンバータ
13…信号処理回路部
14…警報装置
15…FFT処理部
16…ピーク抽出部
17…検知物体計測部
18…大きさ演算部
19…検知物体追尾部
20…大きさ補正部
21…位置補正部
22…記憶装置
23…検知物体判定部
24…ドップラー周波数のピーク
25…実際に観測されるドップラー周波数のピーク形状
26…移動物体
27,29…移動物体上のある部分
28,30…移動物体上のある部分のレーダに対する相対速度
31…計測された移動物体上の反射点
32…算出された方位角方向の大きさ
33…自動車
34…検知された物体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視領域へ向けて電波を放射して移動物体からの反射波を受信し、その反射波に基づいて前記移動物体を検知し、検知された前記移動物体上の反射箇所の位置を計測するレーダ装置であって、
前記移動物体上の複数の反射箇所の位置を計測する検知物体計測部を具備して成り、
さらに、計測された位置の分布に基づいて前記移動物体の空間的な大きさを算出する大きさ演算部を具備して成る
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記検知物体計測部は、検知された移動物体上の複数の反射箇所までの距離と方位角とを計測することを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項1において、
位置を計測する複数の反射箇所は、検知された移動物体上の反射箇所ごとに前記レーダ装置に対する相対速度が異なることにより生じる複数のドップラー周波数の値に基づいて選択されることを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
請求項2において、
計測された前記複数の反射箇所の方位角方向における散らばり尺度を計算し、前記散らばり尺度から、検知された移動物体の方位角方向における空間的な大きさを算出する大きさ演算部を具備して成ることを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
請求項4において、
計算された前記散らばり尺度の正接と、検知された移動物体までの距離を乗じ、さらに予め定めた比例係数を乗じた値を、検知された移動物体の方位角方向における空間的な大きさとして算出する大きさ演算部を具備して成ることを特徴とするレーダ装置。
【請求項6】
請求項4において、
前記散らばり尺度は、計測された複数の反射箇所の方位角位置の標準偏差であることを特徴とするレーダ装置。
【請求項7】
請求項2において、
検知された移動物体の方位角方向における空間的な大きさとして算出された値を記憶する記憶装置と、該記憶装置に記憶されている情報に基づいて前記移動物体の空間的な大きさの値を補正する大きさ補正部とをさらに具備して成り、
前記大きさ補正部は、前記記憶装置に記憶されている前記移動物体の方位角方向における空間的な大きさの値と、前記レーダ装置で算出された最新の方位角方向における空間的な大きさの値とが異なる場合に、前記記憶装置に記憶されている情報に基づいて方位角方向における空間的な大きさの値を補正する
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項8】
請求項2において、
検知された移動物体が、前記レーダ装置の検知可能な方位角度領域と検知不可能な方位角度領域の境界近傍に存在する場合には、方位角方向における空間的な大きさとして算出された値が、前記移動物体の方位角方向における空間的な大きさの下限値であることを出力する大きさ補正部を具備して成ることを特徴とするレーダ装置。
【請求項9】
請求項2において、
前記レーダ装置は、検知された移動物体上の反射箇所の方位角位置を、モノパルス方式により計測することを特徴とするレーダ装置。
【請求項10】
請求項2において、
検知された移動物体の方位角方向における空間的な大きさとして算出された値に基づいて、前記移動物体の種別を判別する検知物体判定部を具備して成ることを特徴とするレーダ装置。
【請求項11】
請求項10において、
前記検知物体判定部は、検知された移動物体の方位角方向における空間的な大きさとして算出された値が、予め定めた範囲内である場合には、前記移動物体が人体であると判断することを特徴とするレーダ装置。
【請求項12】
請求項10において、
前記検知物体判定部は、検知された移動物体の方位角方向における空間的な大きさとして算出された値が、予め定めた範囲内である場合には、前記移動物体が車両であると判断することを特徴とするレーダ装置。
【請求項13】
請求項1において、
前記レーダ装置は室内あるいは室外の所定の位置に設置され、監視領域を予め記憶させた記憶装置を具備してなり、前記監視領域内を移動する物体を検出することを特徴とするレーダ装置。
【請求項14】
請求項1において、
前記レーダ装置は車両に設置され、検知された物体の大きさを算出する大きさ演算部を具備して成ることを特徴とするレーダ装置。
【請求項15】
請求項1において、
前記レーダ装置は車両に設置され、検知された物体の位置および空間的な大きさ情報をもとに、前記物体が自車両の走行の妨げになるか否かを判断する検知物体判定部を具備して成ることを特徴とするレーダ装置。
【請求項16】
監視領域へ向けて電波を放射して移動物体からの反射波を受信し、その反射波に基づいて前記移動物体上の反射箇所の距離と鉛直方向角度位置を計測するレーダ装置であって、
前記移動物体上の複数の反射箇所の距離と鉛直方向角度位置を計測する検知物体計測部を具備して成り、
さらに計測された前記鉛直方向角度位置の分布に基づいて前記移動物体の鉛直方向における空間的な大きさを算出する大きさ演算部を具備して成る
ことを特徴とするレーダ装置。
【請求項17】
監視領域へ向けて電波を放射して移動物体からの反射波を受信し、その反射波に基づいて前記移動物体を検知し、検知された前記移動物体上の反射箇所の位置を計測するレーダ装置であって、
送信アンテナと受信アンテナとを有しA/Dコンバータによりデジタル変換された信号を出力するアナログ回路部と、
前記アナログ回路部からの信号を処理する信号処理部と
を具備して成り、
前記信号処理部は、
入力された信号にFFT処理を施すFFT処理部と、
周波数スペクトルから信号対雑音電力比に基づいて信号強度ピーク部分を抽出するピーク抽出部と、
前記移動物体上の反射箇所の位置のレーダ装置からの距離と方位角とを算出する検知物体計測部と、
前記検知物体計測部から入力される移動物体上の反射箇所の位置のレーダ装置からの距離と方位角とから前記移動物体の空間的な大きさを算出する大きさ演算部と
を具備して成ることを特徴とするレーダ装置。
【請求項18】
請求項17において、
前記信号処理部は、
周波数スペクトル上の信号強度ピーク部分を抽出するための閾値である信号対雑音電力比を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された過去の計測情報に基づき、前記検知物体計測部が算出した位置を補正する位置補正部と、
前記記憶部に記憶された過去の計測情報に基づき、前記大きさ演算部が算出した大きさを補正する大きさ補正部と
をさらに具備して成ることを特徴とするレーダ装置。
【請求項19】
請求項17において、
前記信号処理部は、
前記移動物体の反射点における移動速度、距離、方位角位置、方位角方向の大きさを入力して、前記移動物体の種別を判定する検知物体判定部とをさらに具備して成ることを特徴とするレーダ装置。
【請求項20】
請求項17において、
前記移動物体の反射点までの距離の計測を2周波CW方式でおこなうことを特徴するレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−147532(P2007−147532A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−344956(P2005−344956)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】