説明

ロックリング拡径方法及び拡径装置

【課題】ロックリングの拡径作業を管径にかかわらず容易かつ確実に行うこと。
【解決手段】受け側管体1の受け口に、周方向に分割部3を形成したロックリング4を設け、このロックリング4の内周に先端に先細のテーパ12を形成した拡径治具11を挿し込む。この挿し込みに伴ってロックリング4の内周及び拡径治具11の両テーパ5、12が互いに当接して、ロックリング4が拡径される。この拡径後、分割部3の両端部にストッパ8を当接させ、ロックリング4の拡径状態を維持しつつ、拡径治具11を引き抜く。この拡径治具11の外径は受け側管体1の内径に対応して適宜決定され、受け側管体1の内径の大小にかかわらず適用可能である。ロックリング4の拡径状態で受け側管体1に挿し側管体17を挿し込むことにより、その挿し込み作業をスムーズに行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、受け側管体に挿し込んだ挿し側管体の抜け止めを図るロックリングにおいて、前記挿し側管体を挿し込む際に、一時的に前記ロックリングを拡径状態とするためのロックリング拡径方法及び拡径装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水道管等に用いられるダクタイル鋳鉄管等の管継手は、受け側管体に受け口を形成するとともに、挿し側管体に挿し口を形成し、これを相互に挿し込むことによってその接続がなされる。この管継手においては、挿し込んだ両管体が、地震等の揺れによって抜けるのを防止するため、離脱防止機構を設けることがある。
【0003】
この離脱防止機構の一例として、図5に示すように、受け側管体1の受け口内周にロックリング溝2を形成し、このロックリング溝2に、周方向に分割部3(切れ目)を形成したロックリング4を拡径自在に設けるとともに、挿し側管体17の挿し口に外径方向に突出し、かつ、ロックリング4の縮径時の内径よりも大きい外径を有する突部18を形成し、この突部18がロックリング4で係止されることによって、受け側管体1からの挿し側管体17の抜け止めがなされるようにしたものがある。
【0004】
この突部18には、この挿し口の先端ほど縮径するテーパ19が形成されているとともに、この突部18の挿し口の反対側には、外径方向に起立する壁部20が形成されている。その一方で、ロックリング4には、その受け側管体1の受け口側ほど拡径するテーパ5が形成されているとともに、この受け口の奥側には、内径方向に起立する壁部6が形成されている。
【0005】
受け側管体1に挿し側管体17を挿し込むと、ロックリング4及び突部18の両テーパ5、19が当接し、その当接力によって分割部3の幅が拡がって、このロックリング4の内径が拡径する。すると、ロックリング4の内径側を突部18が通過し得るようになって、両管体1、17の接続をなし得る。受け側管体1には水密用ゴム輪21が設けてあって、この水密用ゴム輪21に当接するように押輪22が設けられている。押輪22及び受け側管体1の受け口フランジ9に設けたボルト23にナット24を締め付けることにより、水密用ゴム輪21が受け側管体1と挿し側管体17との間に押し込まれ、両管1、17の間の水密が確保される。
【0006】
このようにして両管体1、17の接続をなし得るが、突部18でロックリング4を拡径するに際してはある程度の挿し込み力を要し、大重量の挿し側管体17を支持しつつその挿し込みを行うに際しては、油圧装置等の付属装置が必要となることがある。そこで、例えば特許文献1には、挿し側管体17の挿し込み前にロックリング4を予め拡径しておき、受け側管体1への挿し側管体17の挿し込みを容易に行い得るようにした接続方法が提案されている。
【0007】
この接続方法によると、ロックリングの分割部(割り部)の両端面に拡径治具(拡大器)を宛がい、この拡径治具で前記分割部を拡げてロックリングを拡径させる。この拡径状態において、分割部にストッパ(板状体)を介在させ、前記拡大器を取り外す。すると、このストッパが前記拡径状態を維持する。図6(a)及び(b)に記載のロックリングの拡径治具25を用いて、図6(b)中に示す矢印の方向にロックリング4を拡径するとともに、図7に示すように、ストッパ26の端部をロックリング4の分割部3の端面に宛がって、ロックリング4の拡径状態を維持することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−304176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1あるいは図6(a)及び(b)に記載の拡径治具25は、ロックリング4の分割部3の端面に宛がわれるため引っ掛かり面積が小さく、この拡径治具25が少しずれただけで、ロックリング4から外れるトラブルを生じやすい。また、この拡径治具25は拡径操作を行うためのハンドル27が備えられており、このハンドル27の操作を行うにはその周囲にある程度の空間を必要とする。しかしながら、小径管においてはその空間を確保しづらく、あるいは、拡径治具25そのものを管内に設けることが困難なことも多い。
【0010】
そこで、この発明は、ロックリングの拡径作業を管径にかかわらず容易かつ確実に行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、この発明は、受け側管体の内周に形成したロックリング溝に、周方向に分割部を形成したロックリングを設け、このロックリングの内周側から拡径治具を押し付けてロックリングを拡径させ、この拡径状態のまま前記分割部にストッパを設け、前記拡径治具による押し付けを解除した後においても、前記ロックリングの拡径状態を維持するようにロックリング拡径方法を構成した。
【0012】
このロックリングの内周面は、前記端面と比較して十分広いため、拡径治具を押し付けてロックリングを拡径させる際に、この拡径治具が多少ずれたとしてもロックリングから外れるトラブルは生じにくい。このため、その拡径作業を容易かつ確実に行うことができる。また、この拡径治具はロックリングを拡径する機能さえ備えていればよいので、小型化が容易である。このため、小径管に対しても問題なく適用し得る。また、この拡径治具でロックリングを予め拡径しておくことにより、受け側管体への挿し側管体の挿し込みを容易に行うことができ、この挿し側管体を直接挿し込んでロックリングの拡径を行うときのように油圧装置等の付属装置を必要としない。
【0013】
この拡径治具の形状として、先端ほど外径が小さくなるテーパを形成した筒状又は棒状のものを採用するのが特に好ましい。拡径治具を受け側管体に挿し込んだ際に前記テーパとロックリングの内周が当接するようにすると、この拡径治具の挿し込み量が深くなるにつれてロックリングの内周がテーパ上を相対的にスライドし、このロックリングの拡径をスムーズに行うことができる。
【0014】
この拡径治具はテーパを形成した形状のものに限定されず、例えば、筒状部材の軸方向に沿うように筒体の内外面に貫通するスリットを形成した形状のものとすることもできる。このスリットの幅をその弾性力に抗して狭めることで筒状部材の外径を縮径し、この縮径状態のまま受け側管体に挿し込み、この挿し込み後に前記弾性力によってこの筒状部材を拡径させることによって、テーパを形成した拡径治具と同様のロックリング拡径作用を得ることができる。
【0015】
ロックリングを拡径させた状態における分割部の幅と、この分割部に介在させるストッパの幅はほぼ同じである。このため、このストッパを分割部に介在させることによって、このロックリングの拡径状態を維持することができる。このストッパで拡径状態を維持した状態のまま、前記拡径治具を受け側管体から取り外す。そして、この取り外し後に受け側管体に挿し側管体を挿し込む。このとき、ロックリングは既に拡径した状態となっているので、受け側管体への挿し側管体の挿し込み作業をスムーズに行うことができる。この挿し込み作業後にストッパを取り外すことにより、ロックリングはその弾性によって縮径する。この縮径により、挿し側管体に引き抜き力が作用した際に、この挿し側管体の突起にロックリングが当接して、受け側管体から挿し側管体が脱落するのを防止することができる。
【0016】
上記のロックリング拡径方法に係るロックリング拡径装置は、受け側管体の内周に形成したロックリング溝に設けられ、周方向に分割部を形成したロックリングをその内周側から外向きに押し付けて拡径する拡径治具と、拡径状態とした前記ロックリングの前記分割部に設けられ、前記拡径治具による押し付けを解除した際に前記ロックリングの前記拡径状態を維持するストッパと、から構成される。この拡径治具とストッパの機能は上述した通りである。
【発明の効果】
【0017】
この発明は、ロックリングの内周側から拡径治具を押し付けてロックリングを拡径させ、この拡径状態のまま、ロックリングの周方向に形成した分割部にストッパを設け、前記拡径治具による押し付けを解除した後においても、前記ロックリングの拡径状態を維持するようにした。この拡径治具の外径は、受け側管体の内径に対応して適宜決定され、受け側管体の内径の大小にかかわらず適用可能である。このように、ロックリングを拡径した状態で受け側管体に挿し側管体を挿し込むことにより、その挿し込み作業をスムーズに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1a】本願発明のロックリング拡径方法において、受け側管体に拡径治具を挿し込みつつある状態を示し、(a)は部分断面図、(b)はその要部の部分断面図
【図1b】図1aに続いて、拡径治具の挿し込みが完了した状態を示す部分断面図
【図1c】図1bに続いて、ロックリングの分割部にストッパを設けた状態を示し、(a)は部分断面図、(b)は要部斜視図
【図1d】図1cに続いて、ロックリングの拡径状態を維持したまま、拡径治具を引き抜きつつある状態を示す部分断面図
【図1e】図1dに続いて、拡径治具の引き抜きを完了した状態を示す部分断面図
【図1f】図1eに続いて、受け側管体に挿し側管体を挿し込んだ状態を示す部分断面図
【図1g】図1fに続いて、ストッパを取り外した状態を示す部分断面図
【図2】本願発明に係る拡径治具の一例を示し、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は斜視図
【図3】本願発明に係るストッパを示し、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は背面図、(d)は斜視図
【図4】本願発明に係る拡径治具の他例を示す側面図
【図5】離脱防止機構を備えた管体同士の接続構成を示す部分断面図
【図6】従来技術に係るロックリングの拡径治具を用いた拡径状態を示し、(a)は部分断面図、(b)は正面図
【図7】従来技術において、ロックリングの拡径状態をストッパで維持している状態を示す部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明に係るロックリング拡径方法を適用した管体同士の接続手順を図1a〜図1gに示す。受け側管体1の受け口の内周にはロックリング溝2が形成されていて、このロックリング溝2に、周方向に分割部3を形成したロックリング4が設けられている。このロックリング4には、図1aに示すように、受け側管体1の開口部側ほど内径が拡大するテーパ5が形成されている。また、奥側には管軸の径方向外側に向かって起立する壁部6が形成されている。このロックリング溝2の前記開口部側には、ロックリング4の分割部3に対応する周方向位置に案内溝7が形成されている。この案内溝7を通って後述するストッパ8が挿し込まれる。なお、ここに示すロックリング4は一例であって、周方向に分割部3を形成した形状のものであれば、他の形状のものも勿論使用できる。また、受け側管体1の受け口内周と、後述する拡径治具11との間に、ストッパ8を挿し込むための隙間が確保できるのであれば、この案内溝7の形成を省略することができる。
【0020】
まず受け側管体1の受け口フランジ9に送りねじ10を設け、この送りねじ10に拡径治具11を設ける。この拡径治具11は、図2に示すように、先端に先細のテーパ12が形成された略円柱形状をしている。その直胴部13の直径は、受け側管体1の内径よりも小さく、この拡径治具11を受け側管体1に自在に挿し込み得るようになっている。送りねじ10には、この拡径治具11を受け側管体1内に送り込む送りナット14と、受け側管体1内に挿し込まれた拡径治具11を引き抜く戻しナット15とが設けられている。
【0021】
送りねじ10をねじ込んで受け側管体1に拡径治具11を挿し込むと、図1a(a)及び(b)に示すように、ロックリング4と拡径治具11の両テーパ5、12が当接する。この当接力により、ロックリング4が拡径される。この拡径に際しては、ロックリング4の内周の全周が拡径治具11のテーパ12と当接するため、この拡径治具11の位置が多少ずれたとしても、ロックリング4から拡径治具11が外れる恐れは低い。このため、簡便かつ確実に、ロックリング4の拡径作業を行うことができる。
【0022】
図1bに示すように、拡径治具11の直胴部13がロックリング溝2に位置するようにこの拡径治具11を挿し込むと、ロックリング4が完全に拡径した状態となる。この拡径状態で、受け側管体1と拡径治具11との間の隙間に、図3に示すストッパ8を挿し込む。このストッパ8の先端は、図1c(a)に示すように、案内溝7を通ってロックリング溝2まで到達する。このとき、図1c(b)に示すように、ストッパ8は拡径治具11の外周面に沿いつつ、その先端の段差部16がロックリング4の分割部3の端面に当接している。なお、同図においては、前記当接状態を見やすくするため、受け側管体1等の記載を省略している。
【0023】
このストッパ8でロックリング4が拡径した状態を維持したまま、戻しナット15をねじ込んで、図1d及び図1eに示すように、受け側管体1に挿し込んだ拡径治具11を引き抜く。この拡径治具11を引き抜いた状態においても、ストッパ8が分割部3の端面に当接して設けられているため、ロックリング4の拡径状態が維持される。
【0024】
さらに、ロックリング4の拡径状態で、図1fに示すように受け側管体1に挿し側管体17を挿し込む。この挿し込みに際しては、挿し口先端に形成した突部18がロックリング4に直接当接しないので、油圧装置等の付属装置を用いなくても、その挿し込み作業を容易に行うことができる。この挿し側管体17の挿し込み後に、図1gに示すようにストッパ8を取り除く。すると、ストッパ8によって拡径していたロックリング4が、その弾性によって元の形状に縮径し、その内径が挿し側管体17の突部18の外径よりも小さくなる。このため、挿し側管体17に引き抜き力が作用した際に、このロックリング4と突部18が当接して、この挿し側管体17の脱落が防止される。
【0025】
上記の接続手順の説明においては、特定の内径の受け側管体1に対応した拡径治具11を用いたが、図4に示すように、外径が異なる複数のテーパ12a、12b、12c及び直胴部13a、13b、13cを同軸に形成し、一つの拡径治具11が、内径の異なる複数の受け側管体1に適用し得るようにすることもできる。
【符号の説明】
【0026】
1 受け側管体
2 ロックリング溝
3 分割部
4 ロックリング
5 (ロックリングの)テーパ
6 (ロックリングの)壁部
7 案内溝
8 ストッパ
9 受け口フランジ
10 送りねじ
11 拡径治具
12 (拡径治具の)テーパ
13 直胴部
14 送りナット
15 戻しナット
16 段差部
17 挿し側管体
18 突部
19 (突部の)テーパ
20 (突部の)壁部
21 水密用ゴム輪
22 押輪
23 ボルト
24 ナット
25 拡径治具
26 ストッパ
27 ハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受け側管体(1)の内周に形成したロックリング溝(2)に、周方向に分割部(3)を形成したロックリング(4)を設け、このロックリング(4)の内周側から拡径治具(11)を押し付けてロックリング(4)を拡径させ、この拡径状態のまま前記分割部(3)にストッパ(8)を設け、前記拡径治具(11)による押し付けを解除した後においても、前記ロックリング(4)の拡径状態を維持するようにしたロックリング拡径方法。
【請求項2】
受け側管体(1)の内周に形成したロックリング溝(2)に設けられ、周方向に分割部(3)を形成したロックリング(4)をその内周側から外向きに押し付けて拡径する拡径治具(11)と、拡径状態とした前記ロックリング(4)の前記分割部(3)に設けられ、前記拡径治具(11)による押し付けを解除した際に前記ロックリング(4)の前記拡径状態を維持するストッパ(8)と、から構成されるロックリング拡径装置。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図1e】
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【図1f】
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【図1g】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−255491(P2012−255491A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128992(P2011−128992)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】