説明

ローパスフィルタ

【課題】大型化することなく減衰量を大きくとることができるようにして、小型で減衰量が大きいマイクロ波帯域で使用可能なローパスフィルタを提供する。
【解決手段】金属製の円筒により形成された外部導体と、金属製の中実体により形成された中心導体とを有し、外部導体内に中心導体が挿入され、中心導体は、外部導体の中心軸上に沿って連続するように配置された金属製の円柱により形成された高インピーダンス部と、高インピーダンス部を中心として外径側に向けて放射状に延設された円板形状の低インピーダンス部とにより構成されており、高インピーダンス部と低インピーダンス部とが交互に連続するように形成されている分布定数型のローパスフィルタにおいて、少なくとも1個以上の低インピーダンス部の先端部の領域を高インピーダンス部と平行になるように折り曲げて折り曲げ部を形成し、1個以上の並列のC回路を並列のLC回路とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローパスフィルタに関し、さらに詳細には、真鍮、銅、アルミニウムあるいは鉄などのような各種の金属製の円筒よりなる中空同軸管を用いて構成される分布定数型のローパスフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、真鍮、銅、アルミニウムあるいは鉄などのような各種の金属製の円筒よりなる中空同軸管を用いて構成される分布定数型のローパスフィルタが知られている。
【0003】
ところで、マイクロ波帯域で一般に広く用いられている上記した従来の分布定数型のローパスフィルタは、等価回路で示すと図1に示すようにあらわされる。
【0004】
即ち、こうしたローパスフィルタにおいては、直列のインダクタンスLと並列のキャパシタンスCとによって遮断周波数が決定され、インダクタンスLおよびキャパシタンスC、そしてこれらの段数によって遮断周波数以降の減衰量が決定される。
【0005】
また、分布定数回路においては、直列のインダクタンスLは高インピーダンスとして動作し、一方、並列のキャパシタンスCは低インピーダンスとして動作する。
【0006】

図2には、上記した構成ならびに動作の従来のローパスフィルタの一例を示す要部断面概略構成説明図が示されている。
【0007】
この従来のローパスフィルタ100は、金属製の円筒により形成された外部導体102と、金属製の中実体により形成された中心導体104とを有して構成され、外部導体102内に中心導体104が挿入されている。
【0008】
より詳細には、中心導体104は、金属製の円柱により形成された高インピーダンス部106と、高インピーダンス部106を中心として外径側に向けて放射状に延設された円板形状の低インピーダンス部108とにより構成されており、これら高インピーダンス部106と低インピーダンス部108とは、交互に連続するように形成されている。
【0009】
即ち、高インピーダンス部106は、外部導体102の中心軸上に沿って連続するように配置されている。
【0010】
一方、低インピーダンス部108は、外部導体102の中心軸から外径側に向かって延設されている。具体的には、このローパスフィルタ100においては、低インピーダンス部108は、上記したように、高インピーダンス部106を中心として外径側に向けて放射状に延設された円板形状を備えるように形成されている。
【0011】
そして、中心導体104の高インピーダンス部106は、50Ωの同軸線路110を介して、コネクタ112に接続されている。
【0012】
なお、このローパスフィルタ100においては、中心導体104と外部導体102との接触防止のため、中心導体104の低インピーダンス部108の先端部108aと外部導体102の内壁面102aとの間に誘電体114を配設している。
【0013】
また、同軸線路110と外部導体102の内壁面102aとの間にも、誘電体114が設けられている。
【0014】
こうした誘電体114の材料としては、例えば、テフロン(登録商標)を用いることができる。
【0015】
なお、ローパスフィルタにおいて、このような誘電体を設けることがないようにしてもよいことは勿論である。
【0016】
即ち、例えば、ローパスフィルタが長くなる場合には、中心導体を支えるために中心導体と外部導体との間に誘電体をサポートとして配置することが好ましいが、ローパスフィルタが短い場合などでは、そうしたサポートとしての誘電体は設けなくてもよい。
【0017】

ところで、上記したような構成の従来のローパスフィルタにおいては、遮断周波数付近を減衰するには、インダクタンスLとキャパシタンスCとの段数を増やさなければならないため、中心導体104の高インピーダンス部106と低インピーダンス部108との数をそれぞれ増加する必要があった。
【0018】
このため、ローパスフィルタが大型化してしまい、挿入損失も大きくなるという問題点があった。
【0019】

なお、本願出願人が特許出願時に知っている先行技術は、上記において説明したようなものであって文献公知発明に係る発明ではないため、記載すべき先行技術情報はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、上記したような従来の技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、大型化することなく減衰量を大きくとることができるようにして、小型で減衰量が大きいマイクロ波帯域で使用可能なローパスフィルタを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明は、従来のローパスフィルタにおいて、等価回路におけるキャパシタンスC部分に該当する領域を折り曲げて、LCの並列回路を構成するようにしたものである。
【0022】
上記した構成とすることにより、従来のキャパシタンスC部分がバンドリジェクションフィルタの作用を奏することとなり、減衰域に減衰極を設けることができるようになって、インダクタンスLとキャパシタンスCとの段数を増やすことなく急峻なローパスフィルタを製作することができる。
【0023】
即ち、本発明によれば、大型化することなく減衰量を大きくとることができるようになり、小型で減衰量が大きいマイクロ波帯域で使用可能なローパスフィルタが得られる。
【0024】

ここで、図3(a)(b)(c)には、従来より知られている各種のバンドリジェクションフィルタの等価回路がそれぞれ示されている。
【0025】
本発明は、従来のローパスフィルタのキャパシタンス部を折り曲げてインダクタンスを入れることにより、バンドリジェクションフィルタのような特性を実現しているものである。
【0026】
即ち、キャパシタンス部を折り曲げてローパスフィルタを製作することにより、バンドリジェクションフィルタの特性を持ったローパスフィルタとなる。つまり、減衰域に減衰極を持ったローパスフィルタを作製することができる。
【0027】

また、本発明において、キャパシタンスC部分に該当する領域を折り曲げて形成したLCの並列回路部分と当該LCの並列回路部分に隣接する段に位置するキャパシタンスC部分や同軸線路との距離を短くして、両者をC結合させるようにしてもよい。
【0028】
このように、キャパシタンスC部分に該当する領域を折り曲げて形成したLCの並列回路部分と当該LCの並列回路部分に隣接する段に位置するキャパシタンスC部分や同軸線路との距離を短くして、両者をC結合させると、LCの並列回路部分におけるキャパシタンスC部分に該当する領域の折り曲げ部分の長さを短くすることが可能となる。
【0029】
このことにより、本発明によれば、さらに小型化したローパスフィルタを構成することができる。
【0030】

即ち、本発明は、金属製の円筒により形成された外部導体と、金属製の中実体により形成された中心導体とを有し、上記外部導体内に上記中心導体が挿入され、上記中心導体は、上記外部導体の中心軸上に沿って連続するように配置された金属製の円柱により形成された高インピーダンス部と、上記高インピーダンス部を中心として外径側に向けて放射状に延設された円板形状の低インピーダンス部とにより構成されており、上記高インピーダンス部と上記低インピーダンス部とが交互に連続するように形成されている分布定数型のローパスフィルタにおいて、少なくとも1個以上の上記低インピーダンス部の先端部の領域を上記高インピーダンス部と平行になるように折り曲げて折り曲げ部を形成し、1個以上の並列のC回路を並列のLC回路としたものである。
【0031】
また、本発明は、上記した発明において、上記折り曲げ部を隣接する低インピーダンス部または同軸線路と近づけて容量性結合させるようにしたものである。
【0032】
また、本発明は、上記した各発明において、上記折り曲げ部の先端を、さらに上記高インピーダンス部へ向けて折り曲げるようにしたものである。
【0033】
また、本発明は、上記した各発明において、上記折り曲げ部に、遮断波長の1/10以下の穴を少なくとも1個以上開けるようにしたものである。
【0034】
また、本発明は、上記した各発明において、上記中心導体と上記外部導体との間の一部、または、全部に誘電体を配設するようにしたものである。
【発明の効果】
【0035】
本発明は、以上説明したように構成されているので、大型化することなく減衰量を大きくとることができるようになり、小型で減衰量が大きいマイクロ波帯域で使用可能なローパスフィルタを提供することができるようになるという優れた効果を奏する。
【0036】
即ち、本発明によれば、従来のローパスフィルターと同じ段数とした場合に、従来のローパスフィルター以上の減衰量が実現できるので、ローパスフィルタの段数を減らすことができ、全体の寸法を小さくすることができるようになるという優れた効果を奏する。
【0037】
また、ローパスフィルタの段数が少なくできることより、挿入損失も少なくすることができるようになるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、従来の分布定数型のローパスフィルタの等価回路である。
【図2】図2は、従来のローパスフィルタの一例を示す要部断面概略構成説明図である。
【図3】図3(a)(b)(c)は、各種のバンドリジェクションフィルタの等価回路である。
【図4】図4は、本発明の第1の実施の形態によるローパスフィルタの要部断面概略構成説明図である。
【図5】図5は、図4に示す本発明の第1の実施の形態によるローパスフィルタの等価回路である。
【図6】図6は、本発明の第1の実施の形態によるローパスフィルタの変形例の要部断面概略構成説明図である。
【図7】図7は、本願発明者による実験結果を示すグラフであり、従来のローパスフィルタと本発明によるローパスフィルタとを同じ大きさに構成した場合におけるそれぞれの減衰特性を示すグラフである。
【図8】図8は、本願発明者による実験結果を示すグラフであり、従来のローパスフィルタで2.5GHzにおいて同じ60dBの減衰量となる減衰特性を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明によるローパスフィルタの他の実施の形態の要部断面概略構成説明図である。
【図10】図10は、本発明によるローパスフィルタの他の実施の形態の要部断面概略構成説明図である。
【図11】図11は、本発明によるローパスフィルタの他の実施の形態の要部断面概略構成説明図である。
【図12】図12は、本発明によるローパスフィルタの他の実施の形態の要部断面概略構成説明図である。
【図13】図13は、本発明によるローパスフィルタの他の実施の形態の要部断面概略構成説明図である。
【図14】図14は、本発明によるローパスフィルタの他の実施の形態の要部断面概略構成説明図である。
【図15】図15は、図13ならびに図14に示す本発明の他の実施の形態によるローパスフィルタの等価回路である。
【図16】図16は、本発明によるローパスフィルタの他の実施の形態の要部断面概略構成説明図である。
【図17】図17は、本発明によるローパスフィルタの他の実施の形態の要部断面概略構成説明図である。
【図18】図18は、本発明によるローパスフィルタの他の実施の形態の要部断面概略構成説明図である。
【図19】図19は、本発明によるローパスフィルタの他の実施の形態の要部断面概略構成説明図である。
【図20】図20は、本発明によるローパスフィルタの他の実施の形態の要部断面概略構成説明図である。
【図21】図21は、本発明によるローパスフィルタの他の実施の形態の要部断面概略構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明によるローパスフィルタの実施の形態を詳細に説明するものとする。
【0040】
なお、以下の説明においては、図2を参照しながら説明した従来の技術によるローパスフィルタと同一または相当する構成については、上記において用いた符号と同一の符号を用いて示すことにより、その詳細な構成ならびに作用の説明は適宜に省略することとする。
【0041】

(1)本発明によるローパスフィルタの第1の実施の形態
(1−1)基本構成
図4には、本発明の第1の実施の形態によるローパスフィルタの要部断面概略構成説明図が示されている。
【0042】
また、図5には、図4に示す本発明の第1の実施の形態によるローパスフィルタの等価回路図が示されている。
【0043】

この本発明の第1の実施の形態によるローパスフィルタ10は、低インピーダンス部108の先端部108aの領域を、高インピーダンス部104と平行になるように折り曲げて折り曲げ部12を形成し、従来の技術における並列のC回路を、並列のLC回路とした点においてのみ、従来のローパスフィルタ100と異なっている。
【0044】
即ち、キャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108の先端部108aの領域を折り曲げて折り曲げ部12を形成することにより、並列にLが入り、従来の技術における並列のC回路が、並列のLC回路となる。
【0045】

なお、図4に示すローパスフィルタ10においては、従来の分布定数型のローパスフィルタにおいて、全ての並列のキャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108の先端部108aの領域を折り曲げて、全ての並列のC回路を並列のLC回路としているが、全てのキャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108の先端部108aを必ずしも折り曲げる必要はなく、設計に応じて1個以上のキャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108の先端部108aを折り曲げるようにすればよい。
【0046】
また、折り曲げた部分は、他の部分と同じ太さでもよいし、あるいは、太くても細くてもよく、折り曲げた先端部分の太さは、インダクタンスLの大きさにより決定すればよい。
【0047】
さらに、キャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108の先端部108aを折り曲げる個数により、減衰極の数が決定されることになる。
【0048】
このため、減衰特性をより急峻にしたい場合には、減衰極の数を増やすため折り曲げる個数を増加すればよく、一方、減衰特性をあまり急峻にしたくない場合には、減衰極の数を増やすことのないように、折り曲げる個数を減らせばよい。
【0049】

(1−2)変形例
ここで、図6には、本発明の第1の実施の形態によるローパスフィルタの変形例の要部断面概略構成説明図が示されている。
【0050】
この図6に示すローパスフィルタ20においては、図6における左右方向の中央に位置するキャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108の先端部108aは折り曲げずに、残りの6個の低インピーダンス部108を折り曲げて減衰極を作っている。
【0051】

なお、キャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108の先端部108aを1個以上折り曲げる際には、左右方向に連続してキャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108を折り曲げてもよいし、あるいは、何個か間を開けてキャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108を折り曲げるようにしてもよい。
【0052】
即ち、ローパスフィルタにおけるキャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108を折り曲げる際に、いずれの低インピーダンス部108を折り曲げるかについては、設計に応じて製作しやすいように適宜に選択すればよい。
【0053】

(1−3)本願発明者による実験
次に、本願発明者による実験結果について説明するが、この実験においては、2GHz帯で動作する本発明によるローパスフィルタを製作し、当該本発明によるローパスフィルタと従来のローパスフィルタとの比較実験を行った。
【0054】
なお、この実験に用いた従来のローパスフィルタは、図2に示す構成のものであり、以下に説明するように、例えば、2.5GHzで60dBの減衰量とするためには、その全長L1は300mmとなった。
【0055】
一方、この実験に用いた本発明によるローパスフィルタは、図6に示す構成のものであり、以下に説明するように、例えば、2.5GHzで60dBの減衰量とするためには、その全長L2は180mmでよかった。
【0056】

以下、実験結果について詳細に説明すると、上記したように2GHz帯で動作する本発明によるローパスフィルタを製作して実験したところ、従来のローパスフィルタでは2.5GHzで30dBの減衰量であったが、本発明によるローパスフィルタによれば、従来のローパスフィルタと同じ段数において60dBの減衰特性を得た。
【0057】
ここで、図7には、従来のローパスフィルタと本発明によるローパスフィルタとを同じ大きさに構成した場合における、それぞれの減衰特性が示されている。
【0058】
また、図8には、従来のローパスフィルタで2.5GHzにおいて同じ60dBの減衰量となる減衰特性を示す。
【0059】
上記したように、従来のローパスフィルタにおいて、2.5GHzで60dBの減衰量となる大きさを求めたところ全長300mmとなり、本発明によるローパスフィルタによると180mmで同等の減衰量を得ることができた。
【0060】
このように、本発明によれば、従来のローパスフィルタよりも小型で減衰量の大きいローパスフィルタを製作することができた。
【0061】
なお、この実験に用いた従来のローパスフィルタも本発明によるローパスフィルタも、中心導体と外部導体との材料は真鍮であり、誘電体の材料としてはテフロン(登録商標)を使用している。
【0062】

(2)本発明によるローパスフィルタの他の実施の形態
(2−1)図9、図10、図11ならびに図12には、それぞれ本発明によるローパスフィルタの他の実施の形態の要部断面概略構成説明図が示されている。
【0063】
これら図9、図10、図11ならびに図12に示すように、キャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108の先端部108aの折り曲げ方向は、任意の方向に適宜選択することができ、例えば、生産性の良さなどにより判断して適宜に設計すればよい。
【0064】
また、全てのキャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108の先端部108aを折り曲げる必要はなく、先端部108aを折り曲げた本発明による低インピーダンス部108と先端部108aを折り曲げていない従来の低インピーダンス部108とを組み合わせて、1つのローパスフィルタの中に両者が混在するようにしてもよい。
【0065】

即ち、図9に示す本発明によるローパスフィルタ22においては、キャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108の先端部108aが、図9における左右方向の中心を互いに向くように折り曲げられており、LCの並列回路の折り曲げ方向が中心向きに構成されている。
【0066】
一方、図10に示す本発明によるローパスフィルタ24においては、図10における左右方向の中心位置にあるキャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108の先端部108aは折り曲げず、他のキャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108の先端部108aが、図10における左右方向の中心を互いに向くように折り曲げられており、LCの並列回路の折り曲げ方向が中心向きに構成されている。
【0067】
さらに、図11に示す本発明によるローパスフィルタ26においては、キャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108の先端部108aが、同じ方向(図11における右方向)を向くように折り曲げられており、LCの並列回路の折り曲げ方向が一方向に構成されている。
【0068】
また、図12に示す本発明によるローパスフィルタ28においては、キャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108の先端部108aを分割し、分割した先端部108aが図12における左右両方向にそれぞれ向くように折り曲げられており、LCの並列回路の折り曲げ方向が左右両方向きに構成されている。
【0069】

(2−2)図13および図14には、本発明によるローパスフィルタのさらに他の実施の形態の要部断面概略構成説明図が示されている。
【0070】
より詳細には、図13に示す本発明によるローパスフィルタ30は、キャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108を折り曲げて構成したLCの並列回路における先端部108aと、当該先端部108aに隣接する段の低インピーダンス部108(図13において左右方向中央に位置する折り曲げ部12のない低インピーダンス部108)との間の距離(L3、L4)を近づけて配置し、容量性結合させたものである。
【0071】
また、図14に示す本発明によるローパスフィルタ32は、キャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108を折り曲げて構成したLCの並列回路における先端部108aと、50Ωの同軸線路110との間の距離(L5、L6)を近づけて配置し、容量性結合させたものである。
【0072】
上記した図13あるいは図14に示すローパスフィルタのように、LCの並列回路部分と隣接する段の低インピーダンス部108あるいは同軸線路110との距離を短くして、容量性結合によりLCの並列回路部分と隣接する段の低インピーダンス部108あるいは同軸線路110と結合させた場合の等価回路が、図15に示されている。
【0073】
ここで、上記した容量性結合を大きくすることにより、キャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108の折り曲げ部12の長さを短くすることが可能となる。
【0074】
即ち、LCの並列回路部分と隣接する段の低インピーダンス部108あるいは同軸線路110との距離を短くすることにより、直列のキャパシタンスCが大きくなって、減衰極が低い周波数にすることができる。
【0075】
そのため、フィルタ特性が急峻になり、より段数の少ないローパスフィルタとすることができるようになる。
【0076】
従って、図13および図14に示す本発明によるローパスフィルタによれば、上記した本発明による第1の実施の形態のローパスフィルタよりも、そのサイズをより小型化することが可能となる。
【0077】
なお、上記した図13に示す本発明によるローパスフィルタにおいては、距離L3と距離L4との両方の距離を近づけて容量性結合させるようにしたが、これに限られるものではなく、ローパスフィルタにおいて、少なくともいずれか1箇所以上が上記した容量性結合するように構成すればよい。
【0078】
同様に、上記した図14に示す本発明によるローパスフィルタにおいては、距離L5と距離L6との両方の距離を近づけて容量性結合させるようにしたが、これに限られるものではなく、ローパスフィルタにおいて、少なくともいずれか1箇所が上記した容量性結合するように構成すればよい。
【0079】
また、LCの並列回路部分と隣接する段の低インピーダンス部108あるいは同軸線路110とを近づける距離としては、例えば、遮断波長の1/20波長以下に近づけるようにすればよい。
【0080】

(2−3)図16には、本発明によるローパスフィルタのさらに他の実施の形態の要部断面概略構成説明図が示されている。
【0081】
より詳細には、図16に示す本発明によるローパスフィルタ34は、折り曲げた低インピーダンス部108の先端部108aを、さらに高インピーダンス部106へ向けて折り曲げている点において、上記した本発明による各実施の形態と異なっている。
【0082】
即ち、ローパスフィルタ34は、キャパシタンスC部分を折り曲げたLCの並列回路部分を、さらに内側に折り曲げているものであり、このように折り曲げることにより、より小型化することが可能となる。
【0083】
つまり、図16に示す本発明によるローパスフィルタ34によれば、折り曲げた低インピーダンス部108の先端部108aをさらに折り曲げることにより、フィルタ特性を変えることなく、ローパスフィルタの長さをより短くすることができる。
【0084】

(2−3)図17には、本発明によるローパスフィルタのさらに他の実施の形態の要部断面概略構成説明図が示されている。
【0085】
より詳細には、図17に示す本発明によるローパスフィルタ36は、折り曲げたLCの並列回路の中心導体の折り曲げ部12に、遮断波長の1/10以下の穴38を開けている点において、上記した本発明による各実施の形態と異なっている。
【0086】
ここで、穴38の個数は少なくと1個以上であれば、設計に応じて適宜の個数を開けるようにしてよい。
【0087】
ここで、遮断波長の1/10以下の穴38とは、当該穴の形状が円形の場合には、当該穴の直径が遮断波長の1/10以下であるということを意味する。
【0088】
なお、穴38の大きさの下限の数値は、特に限定されるものではないが、作業性を考慮して適宜の大きさの穴38を開ければよい。
【0089】
また、穴の大きさの上限値である遮断波長の1/10とは、本願発明者の実験結果に基づいて、特性の劣化の無い寸法として選択したものである。
【0090】
即ち、本願発明者の実験結果によれば、円形の穴38の直径が遮断波長の1/10以下の場合には、特性の劣化は見られなかったが、円形の穴38の直径が遮断波長の1/10を超える大きさになると、ローパスフィルタの特性が劣化することとなった。
【0091】

なお、こうした穴38を開けることにより、製造上においては以下に説明するような有利点がある。
【0092】
即ち、本発明によるローパスフィルタを製造する際には、高インピーダンス部106に対し、断面略コ字形状のLCの並列回路、即ち、先端部108aを折り曲げて折り曲げ部12を形成した断面略コ字形状の部材である低インピーダンス部108を半田付けして作製する(図17の「半田付け箇所」を参照する。)。
【0093】
この半田付け時に、当該断面略コ字形状の部材で覆われた領域における半田付けの状態が外部からは確認し難いが、穴38を開けることによりその確認がし易くなる。
【0094】
また、穴38を開けることにより、半田付けの後に当該断面略コ字形状の部材で覆われた領域におけるフラックスの洗浄を行うことなども可能となる。
【0095】

上記において説明したように、穴38を開けることにより、ローパスフィルタを製作する際における半田付けや接着が容易に行うことが可能となり、かつ、半田付けや接着の状態を確認することができるようになる。
【0096】
即ち、上記した本発明によるローパスフィルタの実施の形態に示すように、キャパシタンスC部分たる低インピーダンス部108を折り曲げることにより、折り曲げ部12における半田付けや接着が困難になり、また、半田付けや接着の状態が確認できなくなるため、製品の品質を維持することが難しくなる恐れがある。
【0097】
しかしながら、上記した穴38を開けることにより、ローパスフィルタを製作する際における半田付けや接着が容易に行うことが可能となり、かつ、半田付けや接着の状態を確認することができるようになるものである。
【0098】

(2−4)図18、図19、図20ならびに図21には、本発明によるローパスフィルタのさらに他の実施の形態の要部断面概略構成説明図が示されている。
【0099】
これら図18、図19、図20ならびに図21に示す本発明によるローパスフィルタは、外部導体102と折り曲げ部12との間に、高誘電率の誘電体114を挿入している点において、上記した本発明による各実施の形態と異なっている。
【0100】
図18、図19、図20ならびに図21に示す本発明によるローパスフィルタのように、外部導体102と折り曲げ部12との間に高誘電率の誘電体114を挿入すると、これにより波長が短縮され、さらに小型のローパスフィルタを実現することが可能となる。
【0101】
即ち、誘電率εrの誘電体にマイクロ波が印加された場合には、その誘電体の中では波長が1/√εrになる。
【0102】
例えば、誘電率4の場合には、波長が1/√4=1/2となり、波長は半分になるものである。
【0103】
このように、高誘電率の誘電体を挿入することにより波長が短縮され、分布定数線路の高インピーダンス部および低インピーダンス部を短くすることができるため、小型なローパスフィルタを製作することが可能となる。
【0104】
なお、誘電体114の材料としては、例えば、テフロン(登録商標)を使用することができるが、その他の誘電体を用いてもよいことは勿論である。
【0105】

より詳細には、図18に示す本発明によるローパスフィルタ40は、外部導体102と折り曲げ部12との間を含め、外部導体102と中心導体104との全ての間に誘電体114を充填したものである。
【0106】
また、図19に示す本発明によるローパスフィルタ42は、外部導体102と折り曲げ部12との間を含め、外部導体102の内周面全面に誘電体114を配設したものである。
【0107】
さらに、図20に示す本発明によるローパスフィルタ44は、一部の外部導体102と折り曲げ部12との間に誘電体114を配設したものである。
【0108】
さらにまた、図21に示す本発明によるローパスフィルタ46は、外部導体102と折り曲げ部12との間の全てと、外部導体102と折り曲げ部12を設けていない低インピーダンス部108の先端部108aとの間の全てに、誘電体114を配設したものである。
【0109】

上記において説明したように、図18、図19、図20ならびに図21に示す本発明によるローパスフィルタにおいては、結局のところ、中心導体104と外部導体102との間の一部、または、その全てにおいて誘電体材料が挿入されるようになされている。
【0110】
ここで、誘電体材料を中心導体104と外部導体102との間の一部、または、その全てに挿入する際に基準は以下の通りである。
【0111】
即ち、誘電体材料は、上記した波長を短縮する目的の他に、外部導体102と中心導体104との固定のために挿入しているので、誘電体104を挿入する場所については、機械的強度により適宜に決定すればよい。
【0112】
なお、図18、図19、図20ならびに図21においては、本願発明の理解を容易にするために全て同じ寸法で示したが、高誘電率の誘電体を挿入すると波長が短縮され小型のローパスフィルタを実現することが可能となるので、同一の減衰特性を得るためには、実際は誘電率が高いほど波長が短縮され小さくなる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、マイクロ波帯域で使用するローパスフィルタとして利用することができる。
【符号の説明】
【0114】
10、20、22、24、26、28、30、32、34、36、40、42、44、46、100 ローパスフィルタ
12 折り曲げ部
38 穴
102 外部導体
102a 内壁面
104 中心導体
106 高インピーダンス部
108 低インピーダンス部
108a 先端部
110 同軸線路
112 コネクタ
114 誘電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の円筒により形成された外部導体と、
金属製の中実体により形成された中心導体と
を有し、
前記外部導体内に前記中心導体が挿入され、
前記中心導体は、前記外部導体の中心軸上に沿って連続するように配置された金属製の円柱により形成された高インピーダンス部と、前記高インピーダンス部を中心として外径側に向けて放射状に延設された円板形状の低インピーダンス部とにより構成されており、
前記高インピーダンス部と前記低インピーダンス部とが交互に連続するように形成されている分布定数型のローパスフィルタにおいて、
少なくとも1個以上の前記低インピーダンス部の先端部の領域を前記高インピーダンス部と平行になるように折り曲げて折り曲げ部を形成し、1個以上の並列のC回路を並列のLC回路とした
ことを特徴とするローパスフィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載のローパスフィルタにおいて、
前記折り曲げ部を隣接する低インピーダンス部または同軸線路と近づけて容量性結合させる
ことを特徴とするローパスフィルタ。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれか1項に記載のローパスフィルタにおいて、
前記折り曲げ部の先端を、さらに前記高インピーダンス部へ向けて折り曲げた
ことを特徴とするローパスフィルタ。
【請求項4】
請求項1、請求項2または請求項3のいずれか1項に記載のローパスフィルタにおいて、
前記折り曲げ部に、遮断波長の1/10以下の穴を少なくとも1個以上開けた
ことを特徴とするローパスフィルタ
【請求項5】
請求項1、請求項2、請求項3または請求項4のいずれか1項に記載のローパスフィルタにおいて、
前記中心導体と前記外部導体との間の一部、または、全部に誘電体を配設した
ことを特徴とするローパスフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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