説明

ロープ

【課題】強度および耐久性を十分に確保しながら、水に浮かすことができるようにする。
【解決手段】芯部2及び皮部3に使用されるポリプロピレン繊維、および、皮部3に使用されるポリエステル繊維の使用比率が調整されることによって、ロープ1全体としての比重が1未満にされている。また、ポリプロピレン繊維よりも強度および耐久性が優れたポリエステル繊維が皮部3に使用されることで、ロープ1全体の強度(直径に対する強度)および耐久性が向上されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶を係留する用途に使用されるロープに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶を係留する用途に使用されるロープとして、芯部を皮部で被覆した2重組打構造のロープが使用されている。2重組打構造のロープには、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維などが使用されている。
【0003】
また、特許文献1には、ポリプロピレン又はポリエチレンの長繊維糸からなる芯ヤーンを複数本撚り合わせた芯部と、ポリエステルの長繊維糸からなる皮ヤーンを芯部の周囲に複数本配した皮部と、を有するストランドを複数本撚り合わせて構成した、強度や耐摩耗性に優れたロープが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭61−33897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、船舶を係留するロープが海水に沈むと、沈んだロープが船舶のプロペラに巻き込まれる事故が発生する可能性がある。そのため、船舶を係留するロープが水に浮くことが望まれる。
【0006】
2重組打構造のロープのうち、水に浮くのは、水よりも比重が小さいポリプロピレン繊維を100%使用したロープだけである。しかし、ポリプロピレン繊維を100%使用したロープは、ナイロン繊維やポリエステル繊維を使用したロープに比べて強度や耐摩耗性、耐候性が劣っている。また、特許文献1のロープは、水に対する比重が1.05以上であり、水に対する比重が1.02の海水に沈む。
【0007】
本発明の目的は、強度および耐久性を十分に確保しながら、水に浮かすことが可能なロープを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明におけるロープは、水に対する比重が1未満である第1の合成繊維からなるヤーンを複数撚り合わせて形成した第1のストランドを複数備えた芯部と、前記第1の合成繊維、および、水に対する比重が1以上で、前記第1の合成繊維よりも強度および耐久性が優れた第2の合成繊維からなるヤーンを複数撚り合わせて形成した第2のストランドを複数備え、前記芯部を被覆する皮部と、を有し、水に対する比重が1未満となるように、前記第1の合成繊維、および、前記第2の合成繊維の使用比率が調整されていることを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、芯部が皮部で被覆された2重組打構造のロープであって、芯部には、水に対する比重が1未満である第1の合成繊維のみが使用されている一方、皮部には、水に対する比重が1未満である第1の合成繊維と、水に対する比重が1以上で、第1の合成繊維よりも強度および耐久性が優れた第2の合成繊維とが使用されている。そして、第1の合成繊維、および、第2の合成繊維の使用比率が調整されることによって、ロープ全体としての比重が1未満にされている。これにより、水に浮くロープとすることができる。
【0010】
また、2重組打構造の皮部に第2の合成繊維を使用することで、皮部の強度、ひいてはロープ全体の強度(直径に対する強度)を向上させることができる。また、2重組打構造の皮部にのみ第2の合成繊維を使用することで、同量の第2の合成繊維を芯部および皮部に分散させて使用する場合に比べて、第2の合成繊維が外部に露出する量を増やすことができるから、ロープ全体の耐久性を好適に向上させることができる。これにより、強度および耐久性を十分に確保しながら、水に浮かすことができる。
【0011】
また、本発明におけるロープにおいて、前記第1の合成繊維がポリプロピレン繊維であり、前記第2の合成繊維がポリエステル繊維であってよい。上記の構成によれば、水に対する比重が1以上であるポリエステル繊維は、水に対する比重が1未満であるポリプロピレン繊維に比べて、強度、耐摩耗性、耐候性、耐熱性が優れているので、ポリエステル繊維を皮部に使用することで、ロープ全体の強度および耐久性を十分に確保することができる。
【0012】
また、本発明におけるロープにおいて、前記芯部が、12本の前記第1のストランドを撚り合わせて形成した12打ちロープであり、前記皮部が、64本の前記第2のストランドを撚り合わせて形成した64打ちロープであってよい。上記の構成によれば、皮部を64打ちロープとして、打ち数を比較的多くすることで、径方向の厚みを薄くすることができる。また、皮部を64打ちロープとして、打ち数を比較的多くすることで、ロープ長手方向に第2のストランドが密になるので、皮部の耐久性を向上させることができる。また、芯部を12打ちロープとして、断面形状を円形に近づけることで、第1の合成繊維を比較的多く使用することができる。また、芯部を12打ちロープとすることで、ロープリードを長くすることができるので、芯部の強度を向上させることができるとともに、芯部の保形性を向上させることができる。よって、強度および耐久性に優れたロープとすることができる。ここで、ロープリードとは、ストランドをスパイラル状に1周撚り合わせることでロープ長手方向にストランドが進む距離である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のロープによると、第1の合成繊維、および、第2の合成繊維の使用比率が調整されることによって、ロープ全体としての比重が1未満にされているので、水に浮くロープとすることができる。また、2重組打構造の皮部に第2の合成繊維を使用することで、ロープ全体の強度(直径に対する強度)を向上させることができるとともに、ロープ全体の耐久性を向上させることができる。これにより、強度および耐久性を十分に確保しながら、水に浮かすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のロープを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。尚、本発明に係るロープは、船舶を係留する用途に使用されるものであるが、曳船作業などに広く利用できるものである。
【0016】
図1は、本発明に係るロープの一実施形態を示す図である。側面図である図1(a)、および、図1(a)のA−A断面図である図1(b)に示すように、本実施形態に係るロープ1は、芯部2が皮部3で被覆された2重組打構造のロープであり、ロープ1の呼称径は75mmである。なお、図1(a)においては、便宜上、芯部2の一部が露出された状態を示している。
【0017】
芯部2は、12本の第1のストランド2aを撚り合わせて形成した12打ちロープである。各第1のストランド2aは、30本のヤーン2bを撚り合わせることで形成されている。各ヤーン2bは、第1の合成繊維であるポリプロピレン繊維からなる7本の原糸を撚り合わせたものを3組撚り合わせることで形成されている。
【0018】
ポリプロピレン繊維の原糸の太さ(繊度)は2200デシテックスである。よって、ヤーン2bの繊度は、2200×7×3=46200デシテックスであり、第1のストランド2aの繊度は、46200×30=1386000デシテックスである。このように、芯部2には、ポリプロピレン繊維のみが使用されている。水に対するポリプロピレン繊維の一般的な比重は、0.91である。
【0019】
皮部3は、64本の第2のストランド3aを撚り合わせて形成した64打ちロープである。各第2のストランド3aは、4組の第1ヤーン3bと1組の第2ヤーン3cとを撚り合わせることで形成されている。各第1ヤーン3bは、ポリプロピレン繊維からなる3本の原糸と、第2の合成繊維であるポリエステル繊維からなる4本の原糸とを撚り合わせたものを3組撚り合わせ、さらに、撚り合わせたものを4組撚り合わせることで形成されている。各第2ヤーン3cは、ポリプロピレン繊維からなる3本の原糸と、ポリエステル繊維からなる4本の原糸とを撚り合わせたものを2組撚り合わせることで形成されている。
【0020】
ポリプロピレン繊維の原糸の太さは2200デシテックスであり、ポリエステル繊維の原糸の太さは1670デシテックスである。よって、第1ヤーン3bの繊度は、((2200×3)+(1670×4))×3×4=159360デシテックスであり、第2ヤーン3cの繊度は、((2200×3)+(1670×4))×2=26560デシテックスであり、第2のストランド3aの繊度は、159360+26560=185920デシテックスである。このように、皮部3には、ポリプロピレン繊維と、ポリエステル繊維とが使用されている。水に対するポリエステル繊維の一般的な比重は、1.38である。
【0021】
ロープ1におけるポリプロピレン繊維の総使用量は、(2200×7×3×30×12)+(2200×3×3×4×64)+(2200×3×2×64)=22545600デシテックスであり、ロープ1におけるポリエステル繊維の総使用量は、(1670×4×3×4×64)+(1670×4×2×64)=5985280デシテックスである。したがって、ロープ1における総糸量は、28530880デシテックスであり、そのうち、ポリプロピレン繊維が占める割合は79%であり、ポリエステル繊維が占める割合は21%である。そして、ロープ1の比重は、計算上、0.98である。つまり、ロープ1は水に浮く。
【0022】
ここで、ロープ1の比重は、以下の式から求めることができる。即ち、ロープ1の総糸量をTtotal、水に対する比重が1未満の繊維の総糸量をT、水に対する比重が1未満の繊維の比重をρ、水に対する比重が1以上の繊維の総糸量をT、水に対する比重が1以上の繊維の比重をρ、とすると、ロープ1の比重ρは式1で表わされる。
【0023】
[式1]

【0024】
そして、ロープ1の比重ρが1未満となるように、水に対する比重が1未満の繊維の総糸量Tと、水に対する比重が1以上の繊維の総糸量Tとを適宜設計することで、水に浮くロープとすることができる。本実施形態においては、水に対する比重が1未満のポリプロピレン繊維の総糸量が、ロープ1全体の総糸量の79%となり、水に対する比重が1以上のポリエステル繊維の総糸量が、ロープ1全体の総糸量の21%となるように設計し、さらに、芯部2と皮部3との重量比を42:58にすることで、ロープ1の比重を1未満としている。このとき、皮部3に含まれるポリエステル繊維の比率は、重量換算で27%以上であり、ロープ1の比重を0.99以下に設定するためには、40〜60%が理想である。本実施形態において、ポリエステル繊維は、皮部3に約50%の重量比で含まれている。
【0025】
また、ポリエステル繊維は、ポリプロピレン繊維に比べて、強度が優れている。このようなポリエステル繊維を、2重組打構造の皮部3に使用することで、皮部3の強度、ひいてはロープ1全体の強度(直径に対する強度)を向上させることができる。
【0026】
また、ポリエステル繊維は、ポリプロピレン繊維に比べて、耐摩耗性、耐候性、耐熱性が優れている。このようなポリエステル繊維を、2重組打構造の皮部3にのみ使用することで、同量のポリエステル繊維を芯部2および皮部3に分散させて使用する場合に比べて、ポリエステル繊維が外部に露出する量を増やすことができる。具体的には、同量のポリエステル繊維を芯部2および皮部3に分散させて使用した場合、ポリエステル繊維が外部に露出している割合は、重量基準で約20%となるが、同量のポリエステル繊維を皮部3のみに使用した場合、ポリエステル繊維が外部に露出している割合は、重量基準で約50%となる。このように、外部に好適に露出したポリエステル繊維によって、ロープ1全体の耐久性を好適に向上させることができる。
【0027】
また、芯部2は、上述したように、12本の第1のストランド2aを撚り合わせて形成した12打ちロープであり、ロープリードは600mmである。一方、皮部3は、上述したように、64本の第2のストランド3aを撚り合わせて形成した64打ちロープであり、ロープリードは413mmである。ここで、ロープリードとは、ストランドをスパイラル状に1周撚り合わせることでロープ長手方向にストランドが進む距離である。芯部2のロープリードは、ロープ1の呼称径の8倍である。また、皮部3のロープリードは、ロープ1の呼称径の約5.5倍である。
【0028】
一般に、ロープリードが長くなるほど、強度が向上し、耐久性が低下する。逆にいえば、ロープリードが短くなるほど、強度が低下し、耐久性が向上する。これは、ロープリードが長くなるほど、各ストランドの向きがロープ長手方向に向かって傾斜して、ロープ長手方向に平行な直線に近くなっていくことで、ロープ長手方向の引っ張りに対する強度が向上する一方、ロープ長手方向の単位長さ当たりの各ストランドの長さが短くなることで、単位長さ当たりの耐久性が低下するためである。
【0029】
皮部3を64打ちロープとして、打ち数を比較的多くすることで、径方向の厚みを薄くすることができる。また、皮部3を64打ちロープとして、打ち数を比較的多くすることで、ロープ長手方向に第2のストランド3aが密になるので、皮部3の耐久性を向上させることができる。また、芯部2を12打ちロープとして、断面形状を円形に近づけることで、ポリプロピレン繊維を比較的多く使用することができる。また、芯部2を12打ちロープとすることで、ロープリードを長くすることができるので、芯部2の強度を向上させることができるとともに、芯部2の保形性を向上させることができる。よって、強度および耐久性に優れたロープ1とすることができる。実測値において、ロープ1の強度は1303kNであった。
【0030】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することが可能なものである。
【0031】
例えば、本実施形態に係るロープ1の芯部2は、12打ちロープであるが、4本のストランドを撚り合わせて形成される4つ打ちロープ、または、8本のストランドを撚り合わせて形成される8つ打ちロープであってもよい。また、芯部2は、3つ打ち、4つ打ちの撚りロープであってもよい。また、本実施形態に係るロープ1の皮部3は、64打ちロープであるが、16本のストランドを撚り合わせて形成される16打ちロープ、24本のストランドを撚り合わせて形成される24打ちロープ、32本のストランドを撚り合わせて形成される32打ちロープ、または、48本のストランドを撚り合わせて形成される48打ちロープであってもよい。
【0032】
また、ロープ1の呼称径は75mmに限定されない。ロープ1の呼称径を50mmにした場合、12打ちロープである芯部2の各第1のストランド2aは、ポリプロピレン繊維からなる7本の原糸を撚り合わせたものを3組撚り合わせてなるヤーン2bを13本撚り合わせることで形成され、64打ちロープである皮部3の各第2のストランド3aは、ポリプロピレン繊維からなる3本の原糸と、ポリエステル繊維からなる4本の原糸とを撚り合わせたヤーンを6組撚り合わせることで形成される。このようなロープにおいて、総糸量に対してポリプロピレン繊維が占める割合は約79%であり、ポリエステル繊維が占める割合は約21%である。そして、ロープの比重は、計算上、0.98である。また、芯部2と皮部3との重量比は41:59であり、ポリエステル繊維は、皮部3に約50%の重量比で含まれる。
【符号の説明】
【0033】
1 ロープ
2 芯部
2a 第1のストランド
2b ヤーン
3 皮部
3a 第2のストランド
3b 第1ヤーン
3c 第2ヤーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に対する比重が1未満である第1の合成繊維からなるヤーンを複数撚り合わせて形成した第1のストランドを複数備えた芯部と、
前記第1の合成繊維、および、水に対する比重が1以上で、前記第1の合成繊維よりも強度および耐久性が優れた第2の合成繊維からなるヤーンを複数撚り合わせて形成した第2のストランドを複数備え、前記芯部を被覆する皮部と、
を有し、
水に対する比重が1未満となるように、前記第1の合成繊維、および、前記第2の合成繊維の使用比率が調整されていることを特徴とするロープ。
【請求項2】
前記第1の合成繊維がポリプロピレン繊維であり、
前記第2の合成繊維がポリエステル繊維であることを特徴とする請求項1に記載のロープ。
【請求項3】
前記芯部が、12本の前記第1のストランドを撚り合わせて形成した12打ちロープであり、
前記皮部が、64本の前記第2のストランドを撚り合わせて形成した64打ちロープであることを特徴とする請求項1又は2に記載のロープ。



【図1】
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【公開番号】特開2012−7255(P2012−7255A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142330(P2010−142330)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(595064887)小浜製綱株式会社 (3)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】