説明

ローラねじ

ローラねじは、外周面に螺旋状のローラ転走溝1aが形成されたねじ軸1と、内周面にローラ転走溝1aに対向する螺旋状の負荷ローラ転走溝2aが形成されたナット部材2と、ローラ転走溝1aと負荷ローラ転走溝2aとの間に収容される複数のローラ6とを備える。複数のローラ6はクロス配列され、またその直径Dには、規定寸法よりも大きいオーバーサイズのものが用いられる。このようなローラねじによれば、ローラねじの構造に応じて最適に予圧を付与することができるので、ローラねじの剛性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ軸とナット部材との間に転がり運動可能にローラを介在させたローラねじに関する。
【背景技術】
【0002】
ねじ軸とナット部材との間に転がり運動可能にボールを介在させたボールねじが知られている。ボールは、ねじ軸の外周面に形成される螺旋状のボール転走溝とナット部材の内周面に形成される螺旋状の負荷ボール転走溝との間に介在される。ナット部材に対してねじ軸を相対的に回転させると、複数のボールがねじ軸のボール転走溝及びナット部材の負荷ボール転走溝上を転がる。
【0003】
ボールねじを使用すると、ナット部材に対してねじ軸を回転させる際の摩擦係数を低減できるので、工作機械の位置決め機構、送り機構、あるいは自動車のステアリングギヤ等に実用化されている。しかし、ボールと該ボールの周囲のねじ軸のボール転走溝及びナット部材の負荷ボール転走溝との接触が点接触に近くなるので、ボールねじに加えられる許容荷重を大きくできないという欠点があった。
【0004】
許容荷重を大きくすべく、ボールの替わりにローラを使用したローラねじが、例えば特許文献1,2に開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−210858号公報
【特許文献2】実開平6−87764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ローラねじは大きな荷重を加えられた状態で使用されることが多い。ローラねじに求められる性能のうち、欠かせないものとして剛性が挙げられる。ローラとローラ転走溝との間に隙間、いわゆるガタがあったり、あるいはガタをなくしたとしても剛性が不足していたりすると、ローラねじが組み込まれる機械が仕事を行うポイントが変位してしまい、正確さを欠いてしまう。また、早く運動した後に停止したときに機械が振動してなかなか静定しなくなってしまう。
【0007】
転がり軸受の分野では、剛性を向上させるために、予圧を付与する技術が知られている。転動体としてローラを使用したローラねじは、例えば特許文献1及び2のように考案されてはいるものの未だ製品化されているものはなく、ローラねじに予圧を付与する技術も未だ開発されていない。
【0008】
そこで本発明は、ローラねじの剛性を向上すべく、ローラねじの構造に応じて最適に予圧を付与することができるローラねじを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照番号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものでない。
【0010】
上記課題を解決するために請求項1の発明は、外周面に断面V字形状の螺旋状のローラ転走溝(1a)が形成されたねじ軸(1)と、内周面に前記ローラ転走溝(1a)に対向する断面V字形状の螺旋状の負荷ローラ転走溝(2a)が形成されたナット部材(2)と、前記ローラ転走溝(1a)と前記負荷ローラ転走溝(2a)との間に収容される複数のローラ(6)と、を備え、前記複数のローラ(6)は、前記ねじ軸(1)の軸線方向の一方向((1))の荷重を負荷するローラα群と、前記ローラの進行方向から見た状態で前記ローラα群とその軸線が直交するようにクロス配列され、前記一方向と反対方向((2))の荷重を負荷するローラβ群とを有し、前記複数のローラ(6)の直径(D)には、前記ローラが転がる前記ローラ転走溝の壁面(1a)と、該壁面(1a)に対向し、前記ローラが転がる前記負荷ローラ転走溝の壁面(2a)との間の距離よりも大きいオーバーサイズのものが用いられることを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明は、外周面に断面V字形状の螺旋状のローラ転走溝(1a)が形成されたねじ軸(1)と、内周面に前記ローラ転走溝(1a)に対向する断面V字形状の螺旋状の負荷ローラ転走溝(2a)が形成されたナット部材(2)と、前記ローラ転走溝(1a)と前記負荷ローラ転走溝(2a)との間に収容される複数のローラ(6)と、を備え、前記ナット部材(2)の前記負荷ローラ転走溝(2a)は、前記ねじ軸(1)のピッチ(P1)よりもそのピッチが大きい中央溝(22)と、中央溝(22)の両側に形成され、前記ねじ軸(1)のピッチ(P1)とそのピッチが等しい一対の端部溝(23,24)とを有することを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は、外周面に断面V字形状の螺旋状のローラ転走溝(1a)が形成されたねじ軸(1)と、内周面に前記ローラ転走溝(1a)に対向する断面V字形状の螺旋状の負荷ローラ転走溝(2a)が形成されたナット部材(2)と、前記ローラ転走溝(1a)と前記負荷ローラ転走溝(2a)との間に収容される複数のローラ(6)と、を備え、前記ナット部材(2)は、軸線方向に第1のナット部材(12)と第2のナット部材(12)とに分離され、前記第1のナット部材(12)内に収容される複数の第1のナット用ローラ(6)、及び前記第2のナットに収容される複数の第2のナット用ローラ(6)それぞれに圧縮荷重を付与できるように、前記第1のナット部材(12)と第2のナット部材(12)の間にシム(13)を介在させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、予圧を付与することによって、上述のようにローラα群及びローラβ群の双方が荷重を受けるようになるので、荷重を受けるローラ数が倍になる。このため作用する外力に対してナット部材内に存在するローラを有効に活かし、本来荷重を受けないローラも荷重を受けられるように負荷を分布させることができ、したがって剛性を向上させることができる。これに対し、仮にローラの直径に、ローラ転走溝の壁面と負荷ローラ転走溝の壁面との間の距離(規定寸法)よりも小さいものを用いると、軸線方向荷重を受けるローラはα群又はβ群の一方のみである。したがって、荷重を受けるローラ数が半分になってしまう。
【0014】
請求項2の発明によれば、予圧を付与することによって剛性が高くなるローラねじが得られる。
【0015】
請求項3の発明によれば、予圧を付与することによって剛性が高くなるローラねじが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の一実施形態におけるローラねじを示す断面図である。
【図2】図2は、ねじ軸を示す側面図である。
【図3】図3は、ローラ転走溝及び負荷ローラ転走溝の詳細断面図である。
【図4】図4は、荷重と予圧による変位の関係を示すグラフである。
【図5】図5は、リターンパイプを示す図である。
【図6】図6は、ローラ間に介在されるスペーサを示す図である。
【図7】図7は、本発明の第2の実施形態におけるローラねじを示す断面図である。
【図8】図8は、本発明の第3の実施形態におけるナット部材の平面図である。
【図9】図9は、本発明の第3の実施形態におけるローラねじの拡大断面図である。
【符号の説明】
【0017】
1 ねじ軸、1a ローラ転走溝、2 ナット部材、2a 負荷ローラ転走溝、6 ローラ、22 中央溝、23,24 端部溝、12,12 分離ナット(第1のナット部材,第2のナット部材)、13シム。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の一実施形態におけるローラねじを示す。ローラねじは、外周面に螺旋状のローラ転走溝1aが形成されたねじ軸1と、内周面に前記ローラ転走溝1aに対応する螺旋状の負荷ローラ転走溝2aが形成されて、ねじ軸1に相対的に回転可能に組み付けられたナット部材2とを備える。ナット部材2には、ねじ軸1のローラ転走溝1aとナット部材2の負荷ローラ転走溝2aとの間の負荷ローラ転走路3の一端と他端を繋ぐ戻し部材としてのリターンパイプ4が取り付けられる。リターンパイプ4の内部には軸線方向に沿って断面四角形、この実施形態では正方形のローラ戻し路5が形成される。
【0019】
ねじ軸1のローラ転走溝1aとナット部材2の負荷ローラ転走溝2aとの間の負荷ローラ転走路3、及びリターンパイプ4内のローラ戻し路5には複数のローラ6が配列・収容される。ねじ軸1のナット部材2に対する相対的な回転に伴って、ナット部材2がねじ軸1に対してねじ軸1の軸線方向に相対的に直線運動する。このときローラ6はローラ転走溝1aと負荷ローラ転走溝2aとの間を転がり運動する。負荷ローラ転走溝2aの一端まで転がったローラ6は、リターンパイプ4内のローラ戻し路5に導かれ、数巻き前の負荷ローラ転走溝2aの他端に戻される。これによりローラ6が負荷ローラ転走路3及びローラ戻し路5で構成されるローラ循環路を循環する。
【0020】
図2はねじ軸1を示す。ねじ軸1の外周には所定のリードを有する螺旋状のローラ転走溝1aが形成される。ローラ転走溝1aの断面はV字形状でその開き角度は90度に設定される。ねじには一条ねじ、二条ねじ、三条ねじ等様々なものを用いることができるが、この実施形態では二条ねじを用いている。
【0021】
図3はねじ軸1のローラ転走溝1a及びナット部材2の負荷ローラ転走溝2aの詳細図を示す。ナット部材2にはローラ転走溝1aに対向する螺旋状の負荷ローラ転走溝2aが形成される。ナット部材2の負荷ローラ転走溝2aの断面もV字形状でその開き角度は90度に設定される。ねじ軸1のローラ転走溝1aのピッチとナット部材2の負荷ローラ転走溝2aのピッチはいずれも、溝の全長に渡って一定で等しい。ローラ転走溝1aと負荷ローラ転走溝2aとにより断面四角形、この実施形態では正方形の負荷ローラ転走路3が形成される。負荷ローラ転走路3には複数のローラ6が負荷ローラ転走路に沿って見た状態において隣接するローラ6の回転軸7,8が互いに直交するようにクロス配列される。
【0022】
ボールねじではボールがねじ軸の軸線方向の一方向及び該一方向と反対の他方向の荷重を負荷する。これに対してローラ6は、その周面がローラ転走溝1aの一方の壁面と該壁面に対向する負荷ローラ転走溝2aの一方の壁面との間で圧縮されることで荷重を負荷するので、ねじ軸1の軸線方向の一方向の荷重しか負荷できない。本実施形態のようにローラ6をクロス配列することで、ねじ軸1の軸線方向の一方向(1)及び他方向(2)の荷重を負荷することができる。ねじ軸1の軸線方向の一方向(1)の荷重を負荷するローラをα群といい、他方向(2)の荷重を負荷するローラをβ群という。往復動のバランスを良くするために、α群のローラとβ群のローラの数は好ましくは同数とされる。
【0023】
なお、この実施形態では、ローラαとローラβとは交互に、α,β,α,β,α,β,α,β…という具合に配列されているが、ローラα群ローラβ群とがあればこの他にもα,α,α…,β,β,β…という具合に配列されてもいいし、α,α,β,β,α,α,β,β…という具合に配列されてもよい。
【0024】
ローラ6の直径Dは軸線方向の長さLよりも大きい。ローラ6の直径Dには、ローラ転走溝1aの壁面9と該壁面9に対向する負荷ローラ転走溝2aの壁面10との間の距離よりも大きい所謂オーバーサイズのものが用いられる。このため負荷ローラ転走路3内でローラは弾性変形していることになり、それに見合う荷重が予圧荷重としてナット部材2の内部に存在する。ローラ6は負荷ローラ転走路3内でクロス配列されているので、ローラ6からナット部材2に加わる荷重は隣接するローラ6,6で互いに反発する方向に作用する。初期状態では、各ローラ6には予圧荷重Aが作用しており、上下左右方向に荷重が釣り合っている。この状態からナット部材2に軸線方向荷重Pを作用させ、ナット部材2が軸線方向にδ変位したとする。ナット部材2の変位によってローラα群の各ローラ6の荷重はBだけ増えてA+Bとなり、ローラβ群の各ローラの荷重はCだけ減ってA−Cとなる。
【0025】
図4はこの関係を詳しく示す。オーバーサイズのローラ6を挿入して予圧を付与しているので、初期状態でローラα群のローラはδ1だけ、ローラβ群のローラはδ2だけ、それぞれ弾性変形している。そのときに生じている荷重が予圧荷重でAとなる。そこに軸線方向荷重Pが作用して軸線方向変位δを生じると、ローラα群では弾性変位線図に沿って変位が増加し、ローラβ群では弾性変位線図に沿って変位が減少していることになる。これによりローラα群に作用している荷重はA+Bとなり、ローラβ群に作用している荷重はA−Cになる。したがって作用荷重PがBとCとに分けられ、ローラα群及びローラβ群に方向を変えて作用したことになる。この状態に変わっても内部荷重は釣り合っていなければならないので、簡略的に式で表すと、
(A+B)−(A−C)−P=0
∴B+C=P
となる。
【0026】
予圧を付与することによって剛性が高くなるのは、荷重を受けるローラ数が増えて、一個あたりのローラ荷重が減ったことに因る。ローラ6の直径に規定寸法よりも小さい予圧の無いローラを用いると、軸線方向荷重を受けるローラ6はα群又はβ群の一方のみである。しかし、予圧を付与することによって、上述のようにローラα群及びローラβ群の双方が荷重を受けるようになるので、荷重を受けるローラ数が倍になる。このため作用する外力に対してナット部材2内に存在するローラ6を有効に活かし、本来荷重を受けないローラ6も荷重を受けられるように負荷を分布させることができる。
【0027】
図3に示されるように、ねじ軸1のローラ転走溝1a及びナット部材2の負荷ローラ転走溝2aそれぞれの溝の底部には溝に沿ってさらに逃げ溝1b,2bが形成される。ローラ6の上面と周囲面との交差部分、及び底面と周囲面との交差部分には丸み6aが付けられている。ローラ6の軸線方向の寸法Lはローラ6の直径Dよりも小さいので、転がり運動しているときにローラ6が偏ってローラ6の丸み6aが逃げ溝1b,2bに接触することがある。ローラ6に予圧を与えるとこの偏り現象が生じ易い。ローラ6が偏ったとき抵抗が生じてローラ6の回転を妨げないように、逃げ溝1b,2bの丸み半径はローラの丸み半径よりも大きく設定される。また逃げ溝1b,2bを形成することで、V溝の尖った先端を切削加工する必要もなくなるので、切削の加工性も勿論向上する。
【0028】
図5はナット部材2に取り付けられるリターンパイプ4を示す。ナット部材2には循環すべきローラ列に対応して複数のリターンパイプ4が取り付けられる。リターンパイプ4は、負荷ローラ転走路3の一端と他端とを繋ぎ、負荷ローラ転走路3の一端まで転がったローラ6を数巻き手前の負荷ローラ転走路3の他端に戻す。リターンパイプ4の内部には軸線方向に沿って断面正方形のローラ戻し路5が形成される。このリターンパイプ4は、直線状に延びる中央部14と、中央部の両側に約90°折り曲げられた1対の端部15とを有し、その全体形状が門形に形成される。端部15は曲率一定の円弧部15aと円弧部15aから伸びる直線状の先端部15bとからなる。図5(a)に示されるように先端部15bはねじ軸1の側方から見た状態において、リード角方向に、且つ互いに逆方向に傾けられる。また図5(c)に示されるように、ねじ軸1の軸線方向から見た状態において、先端部15bは負荷ローラ転走路の接線方向を向いている。リターンパイプ4をナット部材2に据え付け、リターンパイプ4の中央部14を水平方向に配置した状態において、リターンパイプ4の端部の先端28はねじ軸1の軸線を含む水平面17まで伸びる。
【0029】
クロスローラリングのような環状のローラ転走路に比べて、螺旋状の負荷ローラ転走路3ではローラ6の軸線がリード角分傾いている。円滑にローラを循環させるためには、ローラ6が負荷ローラ転走路3からリターンパイプ4内に導かれる際、またリターンパイプ4内から負荷ローラ転走路3に戻される際のローラ6の姿勢が極めて大事である。ローラ6の姿勢をリード角分傾けてリターンパイプ4から負荷ローラ転走路3へ戻すことで、リターンパイプ4から負荷ローラ転走路3へ入るときにローラ6の姿勢が変化することがなく(ローラ6の軸線が傾く所謂スキューが生じることがなく)、負荷ローラ転走路3にローラ6をすんなり戻すことができる。また負荷ローラ転走路3からリターンパイプ4内にローラ6をすんなり導くこともできる。
【0030】
リターンパイプ4とねじ軸1のねじ山との干渉を避けるために、先端部15bにはローラ6の軌道の中心線に沿ったアーチ形状の切れ目18が形成される。ねじ軸1の軸線方向からみた切れ目18の形状は円弧形状に形成される。また切れ目18の内側にはねじ軸1の軸線方向から見た状態において、ねじ山の内部に入り込むローラ案内部19が形成される。ローラ案内部19の位置における、ローラ戻し路5の断面形状は四角形、この実施形態では正方形に形成される。ローラ案内部19を設けることによってリターンパイプ4の軸線に直交する面でのローラ戻し路5の断面形状が正方形に形成される区間が長くなる。このため、断面正方形のローラ戻し路5が形成されていない隙間hを小さくすることができ、負荷ローラ転走路3とローラ戻し路5との断面形状の連続性をもたせることができる。
【0031】
図6はローラ6間に介在されるスペーサ31を示す。スペーサ31の両端には、隣り合うローラ6の外周面に形状を合わせ、ローラ6の外周面に摺動自在に接触する曲面状凹部31a,31aが形成される。曲面状凹部31a,31aはローラをクロス配列できるように形成され、その曲率半径はローラ6の半径よりも若干大きく設定される。
【0032】
図7は本発明の第2の実施形態におけるローラねじを示す。ねじ軸1,ナット部材2,ローラ6の基本的な構成は上記第1の実施形態と同様なので同一の符号を附してその説明を省略する。この実施形態では、ナット部材2の負荷ボール転走溝2aの中央部分における中央溝22の1ピッチP2が、ねじ軸のピッチP1よりも若干大きく設定される。また中央溝22の両側の端部溝23,24のピッチP3はねじ軸のピッチP1と等しく設定される。
【0033】
ナット部材2の負荷ローラ転走溝2aを上述のように形成することで、端部溝23側におけるローラ6には図中(1)で示される予圧荷重(圧縮荷重)が付与され、端部溝24側におけるローラ6には図中(2)で示される予圧荷重(圧縮荷重)が付与される。ローラ6に予圧荷重を付与することで、剛性の高いローラねじが得られる。
【0034】
ローラ6は隣接するローラの軸線が直交するようにクロス配列される。また図示しないが、ねじ軸1のローラ転走溝1aとナット部材2の負荷ローラ転走溝2aとの間を転がるローラ6はリターンパイプによって循環される。
【0035】
図8及び図9は、本発明の第3の実施形態におけるローラねじを示す。図8はナット部材の平面図を示し、図9は予圧荷重が付与されたローラねじの拡大断面図を示す。この実施形態では、ナット部材2は2つの分離ナット12,12に軸線方向に分離されていて、2つの分離ナット12,12間にはシム13が介在されている。ねじ軸1,分離ナット12(上記第1の実施形態のナット部材2に相当),ローラ6,リターンパイプ4の構成は上記第1の実施形態におけるローラねじと略不同様なので同一の符号を附してその説明を省略する。
【0036】
分離ナット12,12それぞれの負荷ローラ転走溝2aのピッチは、ねじ軸1のローラ転走溝1aのピッチに等しい。分離ナット12,12間にシム13を介在させることによって、シム13の両側の負荷ローラ転走溝2a,2a間の距離P2は、P2=n×P1+α1(α1:シムの厚み,P1:負荷ローラ転走溝1aのピッチ,n:任意の整数)となる。ねじ軸1の負荷ローラ転走溝1aのピッチP1は常に一定なので、シム13を介在させることによって、シム13の両側の負荷ローラ転走溝2a,2a間の距離P2がシム13の厚さ分だけ広がることになる。これにより、一方の分離ナット12内のローラ6には図中(1)で示される予圧荷重(圧縮荷重)が付与され、他方の分離ナット12内のローラ6には図中(2)で示される予圧荷重(圧縮荷重)が付与される。ローラ6に予圧荷重を付与することで、剛性の高いローラねじが得られる。
【0037】
分離ナット12,12それぞれにおいて、複数のローラ6はローラの進行方向からみてローラ6の軸線が同一方向を向くように所謂パラレル配列される。また互いに逆方向の予圧荷重(1),(2)を負荷できるように、一方の分離ナット12内のローラ6は、他方の分離ナット12内のローラ6に対して、ローラ6の進行方向からみて軸線が直交するように配列される。またそれぞれの分離ナット12において、ねじ軸1のローラ転走溝1aとナット部材2の負荷ローラ転走溝2aとの間を転がるローラ6はリターンパイプによって循環される。なおこの他にも分離ナット12それぞれにおいて、ローラ6をクロス配列させ、クロス配列させたローラをリターンパイプで循環させてもよい。
【0038】
なお本発明の実施形態は、本発明の要旨を変更しない範囲で種々変更可能である。例えば、本実施形態ではローラをリターンパイプによって循環させているが、リターンパイプを備えない、ローラを循環させないタイプのローラねじにも、本発明は適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に断面V字形状の螺旋状のローラ転走溝が形成されたねじ軸と、
内周面に前記ローラ転走溝に対向する断面V字形状の螺旋状の負荷ローラ転走溝が形成されたナット部材と、
前記ローラ転走溝と前記負荷ローラ転走溝との間に収容される複数のローラと、
を備え、
前記複数のローラは、前記ねじ軸の軸線方向の一方向の荷重を負荷するローラα群と、前記ローラの進行方向から見た状態で前記ローラα群とその軸線が直交するようにクロス配列され、前記一方向と反対方向の荷重を負荷するローラβ群とを有し、
前記複数のローラの直径には、前記ローラが転がる前記ローラ転走溝の壁面と、該壁面に対向し、前記ローラが転がる前記負荷ローラ転走溝の壁面との間の距離よりも大きいオーバーサイズのものが用いられることを特徴とするローラねじ。
【請求項2】
外周面に断面V字形状の螺旋状のローラ転走溝が形成されたねじ軸と、
内周面に前記ローラ転走溝に対向する断面V字形状の螺旋状の負荷ローラ転走溝が形成されたナット部材と、
前記ローラ転走溝と前記負荷ローラ転走溝との間に収容される複数のローラと、
を備え、
前記ナット部材の前記負荷ローラ転走溝は、前記ねじ軸のピッチよりもそのピッチが大きい中央溝と、中央溝の両側に形成され、前記ねじ軸のピッチとそのピッチが等しい一対の端部溝とを有することを特徴とするローラねじ。
【請求項3】
外周面に断面V字形状の螺旋状のローラ転走溝が形成されたねじ軸と、
内周面に前記ローラ転走溝に対向する断面V字形状の螺旋状の負荷ローラ転走溝が形成されたナット部材と、
前記ローラ転走溝と前記負荷ローラ転走溝との間に収容される複数のローラと、
を備え、
前記ナット部材は、軸線方向に第1のナット部材と第2のナット部材とに分離され、
前記第1のナット部材内に収容される複数の第1のナット用ローラ、及び前記第2のナットに収容される複数の第2のナット用ローラそれぞれに圧縮荷重を付与できるように、前記第1のナット部材と第2のナット部材の間にシムを介在させることを特徴とするローラねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【国際公開番号】WO2005/038301
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514717(P2005−514717)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012945
【国際出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】