説明

ワイパー用積層不織布

【課題】拭き取り性、湿潤破断強度、剥離度合い、吸液性、適度に柔軟な風合いに優れたワイパー用積層不織布を提供する。
【解決手段】繊維不織布(I)の少なくとも片面に、フィブリル化繊維を含む湿式不織布(II)が積層され、3次元交絡により一体化された積層不織布であって、湿式不織布(II)が、剪断力を加えて、幹部から離脱した繊維径1μm以下にフィブリル化した繊維(X)、剪断力を加えて、繊維径2μm以上の幹部から繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化繊維(Y)の少なくとも一方を含有する事を特徴とするワイパー用積層不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維不織布と湿式不織布とからなる積層構造の不織布であって、湿式不織布が、剪断力を加えて、特定の範囲内にフィブリル化した繊維と有機繊維とを含有する不織布に関するものであり、詳しくは、拭き取り性、湿潤破断強度、剥離度合い、吸液性、適度に柔軟な風合いに優れたワイパー用積層不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、生活環境の変化及び産業の発展や技術の高度化に伴い、汚れに対する除去要求は高まっている。汚れとは、固体表面に水性又は油性の液体付着及び固体粒子の付着などがあり、特に固体粒子には非常に細かいダスト、埃から髪の毛、綿ボコリやパン屑まで幅広いものがある。これらの汚れを除去すべく、従来から、雑巾、布巾、紙ウェスなどが用いられていたワイパー分野においても、多様化、高度化が進み、多種のワイパーが上市され、ワイパー用不織布もその機能を生かして、種々のタイプが提案され販売されている。
【0003】
これらの種々のタイプの中で、極細繊維からなるワイパー用不織布は、構成する繊維の比表面積が大きく、極細繊維が細かい微細塵埃や油膜を除去し、これを極細繊維相互間に捕捉する性能に優れているため、好ましく使用されており、例えば、分割型繊維を用いて不織ウェブを形成した後、この分割型繊維を分割させる事によって、極細繊維を生成させたものが知られている。これらの極細繊維からなるワイパー用不織布には、物理的手段によって容易に割繊が可能である分割型繊維が中心となって用いられているが、ワイパー用不織布への要求機能である拭き取り性、吸液性、適度に柔軟な風合い、強度、コストの全てを満足させるものは未だないのが現状である。
【0004】
極細繊維からなる不織布として、海島型混合紡糸繊維又は海島型複合繊維からなる長繊維不織布を溶剤処理する事により該繊維の海成分を抽出除去して得る方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このような方法では、抽出設備及び抽出工程が必要なため、コスト面、生産性、環境等の面で様々な問題がある。また、重量平均分子量/数平均分子量の比が少なくとも5であるポリプロピレン系樹脂を含有するポリマーと、ポリエチレン系樹脂を含有するポリマーからなる中空タイプの分割型複合繊維を分割する事により得られた繊度0.5デシテックス以下の極細繊維を含有する極細繊維不織布ワイパー(例えば、特許文献2参照)が開示されているが、ポリオレフィン系の極細繊維であるために、吸液性に劣るという問題や、分割後の極細繊維の繊維径が十分に小さくないため、拭き取り性に劣るという問題がある。
【0005】
2成分以上の熱可塑性樹脂からなる多分割型複合繊維を含む不織布であり、多分割型複合繊維の一部が不織布内で分割されてフィブリル化している事を特徴とする不織布(例えば、特許文献3参照)が開示されているが、これは、基本的にはエアレイド不織布に関するものであり、また、フィブリル化した部分が未分割の部分や完全分割された部分との熱接着に関与する事で、より細かい3次元の網目構造が不織布内部に形成される事を特徴としているため、強度的には優れるが、不織布表面が多くのフィブリル化繊維によって被覆されていないため、拭き取り性能に劣る問題がある。また、ポリビニルアルコール系易分割繊維とパルプからなり、両者の質量比が一定の割合である湿式抄造不織布に高圧水流を付与して、繊維の分割を行った不織布(例えば、特許文献4参照)が開示されているが、ポリビニルアルコール系分割繊維とパルプからなるので、吸液性に優れてはいるが、パルプを20〜70質量%含有しているため、ペーパーライクな風合いとなるという問題点がある。
【0006】
また、繊維断面に不特定な形状の開口を多数有し、また、各開口が繊維の長さ方向に沿って筋状の空隙を形成する特殊な繊維構造を有するアクリル系割繊繊維とその一部が分割された微細繊維、熱溶融性繊維からなるアクリル系繊維の不織布が開示されているが(例えば、特許文献5参照)、このアクリル系割繊繊維は、原繊維が不織布に製造される工程で、高圧の柱状水流噴射により微細な繊維に分割されるため、柱状水流噴射の圧力が低いと、十分に割繊が行われず、拭き取り性能が劣るという問題があり、一方、柱状水流噴射の圧力が高いと、割繊は進行するが、不織布ウェブに破壊が生じるという問題がある。
【0007】
また、近年、ワイパー用不織布に精製水やエタノールあるいはプロピレングリコールなどを含浸させたウェットタイプのワイパーの利用や、汚れの付着している被清掃面に液状の洗剤を噴霧し、ワイパー用不織布で、強固に付着した汚れを拭き取る方法等が、頻繁に行われている。これらの場合、ワイパー用不織布に湿潤強度が十分にないと、拭き取り時にワイパー用不織布が破れたり、ハンドリングが悪くなったりして、良好な拭き取り性が得られないと言った欠点がある。パルプ繊維からなる紙シートとスパンボンド不織布とが交絡一体化された複合シートが開示されているが、(例えば、特許文献6参照)この複合シートの場合、湿潤強度は改良されるものの、拭き取り性能に劣ったり、使用時にパルプ繊維層が剥離すると言ったハンドリングの問題がある。
【特許文献1】特開昭62−97957号公報
【特許文献2】特開2002−220740号公報
【特許文献3】特開2002−61060号公報
【特許文献4】特開平10−53994号公報
【特許文献5】特開平5−321106号公報
【特許文献6】特開平9−85870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、拭き取り性、湿潤破断強度、剥離度合い、吸液性、適度に柔軟な風合いに優れたワイパー用積層不織布を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の本発明を見出した。
【0010】
すなわち、本願の第1の発明は、長繊維不織布(I)の少なくとも片面に、フィブリル化繊維を含む湿式不織布(II)が積層され、3次元交絡により一体化された積層不織布であって、湿式不織布(II)が、剪断力を加えて、幹部から離脱した繊維径1μm以下にフィブリル化した繊維(X)、剪断力を加えて、繊維径2μm以上の幹部から繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化繊維(Y)の少なくとも一方を含有する事を特徴とするワイパー用積層不織布に関するものである。
【0011】
本願の第2の発明は、第1の発明において、湿式不織布(II)が繊維径1〜20μmの有機繊維(Z)を1種以上含有する事を特徴とするワイパー用積層不織布に関するものである。
【0012】
本願の第3の発明は、第1又は第2の発明において、湿式不織布(II)において、フィブリル化繊維(X)と(Y)がフィブリル化アクリル繊維であり、剪断力を加えて、幹部から離脱した繊維径1μm以下にフィブリル化したアクリル繊維(A)、剪断力を加えて、繊維径2μm以上の幹部から繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化アクリル繊維(B)の少なくとも一方と1種以上の有機繊維(Z)とを含有し、フィブリル化アクリル繊維(A)と(B)の総含有量が、湿式不織布(II)に対して2〜100質量%であり、有機繊維(Z)の含有量が湿式不織布(II)に対して0〜98質量%であり、フィブリルアクリル化繊維(A)と(B)及び有機繊維(Z)の総含有量が湿式不織布(II)に対して100質量%以下となる事を特徴とするワイパー用積層不織布に関するものである。
【0013】
本願の第4の発明は、第1〜3の発明において、フィブリル化アクリル繊維(A)と(B)が、アクリル繊維がアクリロニトリル系ポリマーと、1種以上の添加剤ポリマーとから構成され、両者が相分離状態にある割繊性アクリル繊維をフィブリル化してなる繊維であり、該添加剤ポリマーが湿式不織布(II)表面において皮膜を形成していない事を特徴とするワイパー用積層不織布に関するものである。
【0014】
本願の第5の発明は、第1又は第2の発明において、湿式不織布(II)において、フィブリル化繊維(X)と(Y)がフィブリル化リヨセル繊維であり、剪断力を加えて、幹部から離脱した繊維径1μm以下にフィブリル化したリヨセル繊維(C)、剪断力を加えて、繊維径2μm以上の幹部から繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化リヨセル繊維(D)の少なくとも一方と1種以上の有機繊維(Z)とを含有し、フィブリル化リヨセル繊維(C)と(D)の総含有量が湿式不織布(II)に対して2〜70質量%であり、有機繊維(Z)の含有量が湿式不織布(II)に対して100質量%以下となる事を特徴とするワイパー用積層不織布に関するものである。
【0015】
本願の第6の発明は、第1〜5の発明において、有機繊維(Z)の少なくとも1種が熱融着性バインダー繊維である事を特徴とするワイパー用積層不織布に関するものである。
【0016】
本願の第7の発明は、第1〜6の発明において、フィブリル化繊維を含む湿式不織布(II)が2層以上の層構成からなる不織布であって、剪断力を加えて、幹部から離脱した繊維径1μm以下にフィブリル化した繊維(X)、剪断力を加えて、繊維径2μm以上の幹部から繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化繊維(Y)の少なくとも一方を含む表層と、有機繊維(Z)を含む中間層とを有する事を特徴とするワイパー用積層不織布に関するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明のワイパー用積層不織布は、長繊維不織布と湿式不織布とからなる積層構造の不織布であって、湿式不織布が、剪断力を加えて、特定の範囲内にフィブリル化した繊維と有機繊維とを含有する不織布に関するものであり、詳しくは、拭き取り性、強度、特に湿潤時の強度、吸液性、適度に柔軟な風合いに優れたワイパー用積層不織布に関するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明のワイパー用積層不織布について、詳細に説明する。
本発明のワイパー用積層不織布に用いる長繊維不織布とは、溶融紡糸したフィラメントを延伸あるいはフラッシュしながらウェブとする方法により得られた不織布の事を言い、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布、フラッシュ紡糸不織布等が挙げられる。本発明においては、これらの長繊維不織布の中で、低坪量であっても、湿潤及び乾燥時の強度に優れるスパンボンド不織布を用いるのが好ましい。長繊維不織布を構成する繊維には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、共重合ポリエステル等のポリエステル繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維。鞘がポリエチレン、ポリプロピレン、芯がポリプロピレン、ポリエステル等の芯鞘型複合繊維やサイドバイサイド型複合繊維、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド系繊維等が挙げられる。また、繊維断面は丸型断面の他、Y型、V型、U型等の異形断面繊維等を用いる事ができる。本発明のワイパー用積層不織布に用いる長繊維不織布の坪量は、特に制限はないが、5〜150g/m2の範囲が好ましい。5g/m2より軽いと、十分な強度が得られない事がある。一方、150g/m2を超えると、風合いが硬くなる事がある。また、これら長繊維不織布は、湿式不織布との積層加工時に、両不織布の繊維の交絡性を良好にして、剥離強度を向上させるために、フラジール通気度が10cc/cm2・sec以上である事が好ましい。フラジール通気度が、10cc/cm2・sec未満の場合、長繊維不織布と湿式不織布の繊維間の交絡が悪くなる事がある。フラジール通気度とは、JIS L 1096、通気性試験 A法に準じて測定された方法を言う。
【0019】
長繊維不織布は、部分的に熱圧着されている事が好ましく、長繊維不織布表面積に対する熱圧着された部分の面積割合(熱圧着率)は3〜35%が好ましく、より好ましくは5〜25%である。熱圧着率が3%未満では、湿式不織布の繊維が通過できる面積が増えるので、繊維の交絡性が高まって好ましいが、圧着面積が少ない事から、長繊維不織布の強度が低下し易く、積層不織布の強度も低下する事がある。一方、35%を超えると、湿式不織布の繊維の交絡性が低下し、剥離強度が低下するので、好ましくない。また、熱圧着部は、円状、楕円状、菱形状、四角状等の形状で長繊維不織布全体を均等に配置させる事が好ましい。
【0020】
本発明のワイパー用積層不織布に用いる湿式不織布とは、製紙技術を基礎とするもので、短繊維等を水中に投入し、必要に応じて、分散剤、粘剤を加えて、パルパー等の回転式の装置で混合し、離解、均一分散を行い、濃度0.1〜3%程度の繊維懸濁液を調製し、その後、懸濁液を用い、長網、短網、円網等のワイヤーを少なくとも一つ有する抄紙機で抄造して得られた不織布及び湿式抄造ウェブの事である。本発明のワイパー用積層不織布に用いる湿式不織布の坪量は、特に制限はないが、5〜100g/m2の範囲が好ましい。5g/m2より軽いと、良好な拭き取り性能と剥離強度が得られない事があり、一方、150g/m2を超えると、風合いが硬くなる事がある。
【0021】
本発明のワイパー用積層不織布に用いる湿式不織布は、フィブリル化繊維を含む湿式不織布から構成される事により、達成できる。フィブリル化とは、繊維内部のフィブリル(小繊維)が、摩擦作用で表面に現れて毛羽立ちささくれる現象を言う。本発明では、鋭意検討を進めた結果、ワイパー用積層不織布の性能に適したフィブリル化が存在する事とそのフィブリル化程度を見出した。すなわち、幹部から離脱した繊維径1μm以下にフィブリル化した繊維(X)と、繊維径2μm以上の幹部から繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化繊維(Y)の少なくとも一方と繊維径1〜20μmの1種以上の有機繊維とを含有した不織布は、フィブリル化した繊維が繊維径1μm以上の有機繊維(Z)に程良く絡み合い、不織布表面に良好なネットワーク構造を形成する事により、緻密さによる拭き取り性能を保持しつつ、適当な空間によって、大きめのダストの捕集や、吸液性を確保する事ができる。繊維径1〜20μmの1種以上の有機繊維が、長繊維不織布の繊維と3次元的に交絡する事によって、一体化した積層不織布の達成が可能となる。また、繊維径1〜20μmの有機繊維が繊維径の異なる2種類以上の繊維等を含んだ場合、ネットワーク構造に更に空間が生まれる事になり、拭き取り性能の向上にも寄与する事ができる。
【0022】
本発明のワイパー用積層不織布を構成する湿式不織布に用いるフィブリル化繊維は、フィブリル化できる繊維であれば、特に制限はないが、容易にフィブリル化可能な事から、割繊性アクリル繊維もしくはリヨセル繊維を用いる事が好ましい。割繊性アクリル繊維を用いて、例えば、他に使用する繊維が合成繊維のみから構成される場合では、ウェットワイパーと使用した場合に、極少量の防腐剤の添加で長期間保存する事が可能なワイパー用積層不織布を製造できると言った利点を有する。また、リヨセル繊維を用いて、他に使用する繊維がセルロース系繊維や生分解性繊維等で構成される場合、地球環境に優しいワイパー用積層不織布を製造できると言った利点を有する。用途や目的によって、割繊性アクリル繊維もしくはリヨセル繊維の使い分けを行えば良いし、状況によっては、両者を併用して用いても構わない。以下、割繊性アクリル繊維とリヨセル繊維について、個別に説明を行う。
【0023】
本発明のワイパー用積層不織布を構成する湿式不織布に用いる割繊性アクリル繊維とは、通常のパルプ繊維と同様に、ビーター、PFIミル、シングルディスクリファイナー(SDR)、ダブルディスクリファイナー(DDR)、また、顔料等の分散や粉砕に使用するボールミル、ダイノミル等の叩解、分散設備で割繊及びフィブリル化が可能である繊維を言う。これらの叩解、分散設備で割繊及びフィブリル化が可能であれば、割繊性アクリル繊維を構成するポリマーに特に制限はない。すなわち、通常のアクリル繊維に用いられるアクリロニトリル系ポリマーのみから構成されても良いし、アクリロニトリル系ポリマーと添加剤ポリマーとから構成されても構わない。割繊及びフィブリル化が容易である事を考慮すれば、アクリロニトリル系ポリマーと添加剤ポリマーとから構成されたアクリル繊維の方がより好ましい。
【0024】
アクリロニトリルの共重合成分は、通常のアクリル繊維を構成する共重合モノマーであれば特に限定されないが、例えば以下のモノマーが挙げられる。すなわち、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチルなどに代表されるアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチルなどに代表されるメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどの不飽和単量体などである。
【0025】
また、添加剤ポリマーは、特に限定されないが、アクリル樹脂系ポリマー、及び一部のポリマーが挙げられる。アクリル樹脂系ポリマーを構成するモノマーは特に限定されないが、例えば以下のモノマーが挙げられ、このうちの1種以上を用いる事ができる。すなわち、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチルなどに代表されるアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチルなどに代表されるメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどの不飽和単量体などである。また、アクリル樹脂系ポリマー以外のポリマーとしては、ポリ塩化ビニル、ポリアルキレングリコール、ポリエーテル系化合物、ポリエーテルエステル系化合物、セルロースアセテート、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエステル、ポリペプチドなどが挙げられる。
【0026】
割繊性アクリル繊維に用いる添加剤ポリマーの軟化点もしくはガラス転移点が、ワイパー用積層不織布を製造する工程での処理温度よりも低い場合、軟化点もしくはガラス転移点以上の温度がかかる事で、添加剤ポリマーの一部又は全てが溶融し、不織布表面上のフィブリル化繊維(A)、(B)を覆う形で皮膜を形成する可能性がある。その場合、拭き取り性に有効なフィブリル化繊維(A)、(B)の効果が減少するだけでなく、吸液性も低下させるので好ましくない。この問題は、添加剤ポリマーの軟化点もしくはガラス転移点が比較的高いものを選択するか、不織布製造時に、温度がかかる工程、例えば、乾燥工程や熱処理工程での処理温度を添加剤ポリマーの軟化点もしくはガラス転移点よりも低い温度で行う事で解決できる。
【0027】
本発明のワイパー用積層不織布を構成する湿式不織布に用いる割繊性アクリル繊維の断面形状に特に制限はなく、円形、楕円形のみならず偏平、三角、Y型、T型、U型、星型、ドッグボーン型など、いわゆる異形断面形状をとるもの、中空状のもの、枝別れ状のものであっても良いが、割繊の容易さの点から、円形もしくは、楕円形のものが最も好ましい。また、割繊後の繊維の断面形状に特に制限はないが、円形、楕円形のみならず扁平、筋状、米字、三角などの異形断面形状をとるものが挙げられるが、良好な拭き取り性を得られる事から、異形断面形状のものが好ましい。
【0028】
割繊性アクリル繊維の特徴を最大限に発揮させ、ワイパー用積層不織布の拭き取り性、吸液性等の性能をバランス良く発現させるためには、最適なフィブリル化条件を見出す事が重要である。剪断力を加えて、幹部から離脱した繊維径1μm以下にフィブリル化したアクリル繊維(A)、及び、剪断力を加えて、繊維径2μm以上の幹部から繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化アクリル繊維(B)の2つのフィブリル化状態のアクリル繊維の少なくとも一方を含有する必要がある。
【0029】
割繊性アクリル繊維は、叩解する事でフィブリル化が進行しワイパー用積層不織布に適した素材となりうるが、最適な叩解条件の見極めが重要となる。(A)及び(B)が適正に存在するフィブリル化状態を確認するためには、フィブリル化した繊維を水等で十分希釈した後に乾燥させて顕微鏡か、好ましくは電子顕微鏡で観察する事が好ましい。しかし、最適叩解化条件が決定した後はその都度観察しなくても良い。
【0030】
本発明のワイパー用積層不織布を構成する湿式不織布において、拭き取り性能、吸液性、強度をバランス良く発現するためには、(A)幹部から離脱した繊維径1μm以下のフィブリル化繊維は、アスペクト比(繊維長/繊維径)が10〜100000、好ましくは、100〜50000である。また、(B)幹部から枝部が発生したフィブリル化アクリル繊維において、幹部のアスペクト比は、10〜50000、好ましくは50〜30000である。また、枝部のアスペクト比は、10〜100000、好ましくは100〜50000である。これらのフィブリル化状態は、上述の顕微鏡観察によって、確認する事ができる。
【0031】
フィブリル化したアクリル繊維(A)、(B)の少なくとも一方のみでワイパー用積層不織布を形成した場合、拭き取り性能及び吸液性に関しては良好なワイパー用積層不織布が得られるが、長繊維不織布と湿式不織布との剥離強度が劣る場合もある。その場合、剥離強度を向上させるために、長繊維不織布と湿式不織布との繊維の交絡材として有機繊維(Z)を配合する事がより好ましい。本発明のワイパー用積層不織布に用いる有機繊維(Z)の繊維径は、1〜20μmが好ましく、更に好ましくは3〜15μmである。1μmより細い繊維を用いた場合、十分な強度が得られな事があり、一方、20μmを超えて太い繊維を用いた場合、拭き取り性能を低下させる事がある。しかし、本発明の効果を阻害しない範囲であれば少量使用する事が可能である。また、有機繊維(Z)の繊維長は、繊維同士が絡み合う長さであれば良く、特に制限はない。絡み合いの度合いは、アスペクト比(繊維長/繊維径)に影響を受ける。アスペクト比は混合する対象によってもその最適なる大きさは異なる。本発明のように、フィブリル化アクリル繊維と混合する場合は、700〜2000の範囲が好ましい。700未満の場合、繊維が屈曲しにくいために繊維間の絡み合いが弱くなり、長繊維不織布と湿式不織布との剥離強度や積層不織布に十分な強度が発現しない事がある。一方、2000を超えて大きい場合、例えば、湿式抄造法によりウェブを製造した際に、均一な地合いのウェブが得られにくく、拭き取り性にムラが生じる事がある。
【0032】
本発明のワイパー用積層不織布を構成する湿式不織布において、アクリル繊維(A)と(B)の配合比率は特に限定しないが、アクリル繊維(A)及び(B)の湿式不織布に対する総含有量は0〜98質量%が好ましく、更に好ましくは10〜80質量%であり、有機繊維(Z)の湿式不織布に対する含有量は2〜98質量%が好ましく、更に好ましくは20〜90質量%である。アクリル繊維(A)及び(B)の湿式不織布に対する含有量が2質量%未満では、フィブリル化したアクリル繊維が不織布表面に均一に分布できない事から拭き取り性能を高める事ができない事がある。有機繊維(Z)の湿式不織布に対する含有量が98質量%を超えると拭き取り性能が大きく低下する傾向がある。
【0033】
これら有機繊維(Z)には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びこれらのコポリマー等のポリエステル系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン系繊維、ポリアクリロニトリル、モダクリル等のアクリル系繊維、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド系繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ウレタン繊維等の合成繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維等の半合成繊維、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、ポリノジックレーヨン、リヨセル等の再生セルロース系繊維、コラーゲン、アルギン酸、キチン質などを溶液にしたものを紡糸した再生繊維が好ましい。これらの繊維を構成するポリマーは、ホモポリマー、変性ポリマー、ブレンド、共重合体などの形でも利用できる。上記の繊維の他に、植物繊維として、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなどの木材パルプや藁パルプ、竹パルプ、ケナフパルプなどの木本類、草本類を含むものも利用できる。更に、古紙、損紙などから得られるパルプ繊維等も含まれる。当然ではあるが、これら複数の材質からなる複合繊維を用いても良い。また、断面形状がT型、Y型、三角等の異形断面を有する繊維も拭き取り性確保のために含有できる。
【0034】
本発明のワイパー用積層不織布を構成する湿式不織布において、繊維径が1〜20μmの有機繊維(Z)は、熱融着性バインダー繊維であっても良い。熱融着性バインダー繊維を含有させて、バインダー繊維の溶融温度以上に不織布の温度を上げる工程を製造工程に組み入れる事で、ワイパー用積層不織布の機械的強度が向上する。また、熱融着性バインダー繊維としては、単繊維のほか、芯鞘繊維(コアシェルタイプ)、並列繊維(サイドバイサイドタイプ)などの複合繊維が挙げられる。複合繊維は、不織布表面に皮膜を形成しにくいので、不織布表面のフィブリル化アクリル繊維が露出した状態を保持したまま、機械的強度を向上させる事ができる。熱融着性バインダー繊維としては、例えば、ポリプロピレン(芯)とポリエチレン(鞘)の組み合わせ、ポリプロピレン(芯)とエチレンビニルアルコール(鞘)の組み合わせ、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組み合わせが挙げられる。また、ポリエチレン等の低融点樹脂のみで構成される単繊維(全融タイプ)や、ポリビニルアルコール系のような熱水可溶性バインダーは、濾材の乾燥工程で皮膜を形成し易いが、特性を阻害しない範囲であれば使用する事ができる。
【0035】
本発明のワイパー用積層不織布を構成する湿式不織布は、本発明の範囲を阻害しない範囲であれば、その層構成に特に限定はない。すなわち、単層構造からなる不織布であっても良いし、2層、3層といった多層構造であっても良い。例えば、2層構造とした場合、各層の繊維配合を変える事により、拭き取り性、吸液性に優れた拭き取り層(表層)と長繊維不織布との剥離強度、引張強度、コシに優れた交絡層(裏層)とに機能を分ける事が可能となり、より効果的なワイパー用積層不織布を得る事ができる。この場合、表層には、フィブリル化したアクリル繊維(A)、(B)の少なくとも一方を2〜100質量%含む事が好ましく、更に好ましくは40〜90質量%である。アクリル繊維(A)及び(B)の湿式不織布に対する含有量が2質量%未満では、フィブリル化したアクリル繊維が積層不織布表面に均一に分布できない事から拭き取り性能を高める事がある。また、裏層には、有機繊維(Z)を5〜100質量%含む事が好ましく、更に好ましくは、50〜100質量%である。有機繊維(Z)の湿式不織布に対する含有量が5質量%未満では、十分な剥離強度、積層不織布の強度やコシが得られない事がある。
【0036】
次に、リヨセル繊維について説明を行う。本発明のワイパー用積層不織布に用いる「リヨセル」とは、ISO規格及び日本のJIS規格に定める繊維用語で「セルロース誘導体を経ずに、直接、有機溶剤に熔解させて紡糸して得られるセルロース繊維」とされている。リヨセル繊維の特徴としては、湿潤強度に優れている事、フィブリル化し易い事、及びセルロース繊維由来の水素結合によりシート化した時の強度が得易い事等が挙げられる。
【0037】
リヨセル繊維は、通常のパルプ繊維と同様に、ビーター、PFIミル、シングルディスクリファイナー(SDR)、ダブルディスクリファイナー(DDR)、また、顔料等の分散や粉砕に使用するボールミル、ダイノミル等の叩解、分散設備でフィブリル化可能である。リヨセル繊維はセルロース繊維が原料である事から、フィブリル化した後も水素結合による強度向上が望めるという特徴を有している。更に、本発明のワイパー用積層不織布を用いて、液体をワイパー用積層不織布に含浸もしくは、清掃対象物面に液体を垂らして、拭き取りを行う場合、リヨセル繊維は若干膨潤する事により、ワイパー用積層不織布表面と清掃対象物面との間のクッション的役割を果たす事になり、拭き取り時のハンドリング性を向上させ、ひいては拭き取り性能が良好になる。
【0038】
本発明のワイパー用積層不織布を構成する湿式不織布に用いられるリヨセル繊維の断面形状に特に制限はなく、円形、楕円形のみならず偏平、三角、Y型、T型、U型、星型、ドッグボーン型など、いわゆる異形断面形状をとるもの、中空状のもの、枝別れ状のものであっても良いが、フィブリル化の容易さの点から、円形もしくは、楕円形のものが最も好ましい。また、フィブリル化後の繊維の断面形状に特に制限はないが、円形、楕円形のみならず扁平、筋状、米字、三角などの異形断面形状をとるものが挙げられる。
【0039】
フィブリル化リヨセル繊維の特徴を最大限に発揮させ、ワイパー用積層不織布の拭き取り性、吸液性、強度等の性能をバランス良く発現させるためには、最適なフィブリル化条件を見出す事が重要である。剪断力を加えて、幹部から離脱した繊維径1μm以下にフィブリル化したリヨセル繊維(C)、及び、剪断力を加えて、繊維径2μm以上の幹部から繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化リヨセル繊維(D)の2つのフィブリル化状態のリヨセル繊維の少なくとも一方を含有する必要がある。
【0040】
リヨセル繊維は、叩解する事でフィブリル化が進行しワイパー用積層不織布に適した素材となりうるが、最適な叩解条件の見極めが重要となる。(C)及び(D)が適正に存在するフィブリル化状態を確認するためには、フィブリル化した繊維を水等で十分希釈した後に乾燥させて顕微鏡か、好ましくは電子顕微鏡で観察する事が好ましい。しかし、最適叩解化条件が決定した後はその都度観察しなくても良い。
【0041】
本発明のワイパー用積層不織布を構成する湿式不織布において、拭き取り性能、吸液性、強度をバランス良く発現するためには、(C)幹部から離脱した繊維径1μm以下のフィブリル化繊維は、アスペクト比(繊維長/繊維径)が10〜100000、好ましくは、100〜50000である。また、(D)幹部から枝部が発生したフィブリル化リヨセル繊維において、幹部のアスペクト比は、10〜50000、好ましくは50〜30000である。また、枝部のアスペクト比は、10〜100000、好ましくは100〜50000である。これらのフィブリル化状態は、上述の顕微鏡観察によって、確認する事ができる。
【0042】
フィブリル化したリヨセル繊維(C)、(D)の少なくとも一方のみで不織布を形成した場合、拭き取り性能及び吸液性に関しては比較的良好なワイパー用積層不織布が得られるが、その一方で、剥離強度や積層不織布の強度面が大きく劣ったり、風合いが柔らかすぎてコシがなくなり、拭き作業性に劣る事がある。そこで、強度とコシを発現させるために、不織布の骨材として有機繊維(Z)を配合する事が好ましい。
【0043】
本発明のワイパー用積層不織布を構成する湿式不織布において、フィブリル化リヨセル繊維(C)と(D)の配合比率は特に限定しないが、フィブリル化リヨセル繊維(C)及び(D)の湿式不織布に対する総含有量は2〜70質量%が好ましく、更に好ましくは10〜60質量%である。また、有機繊維(Z)の湿式不織布に対する含有量は30〜98質量%が好ましく、更に好ましくは40〜90質量%である。フィブリル化リヨセル繊維(C)及び(D)の湿式不織布に対する含有量が2質量%未満では、フィブリル化リヨセル繊維が不織布表面に均一に分布できない事から拭き取り性能を高める事ができない事がある。一方、70質量%を超えると、強度が低下するだけでなく、油性汚れに対する拭き取り性能が低下する事がある。フィブリル化リヨセル繊維はセルロース繊維であるので、親油性が合成繊維に比べて劣っており、必要以上にフィブリル化繊維を含有せしめると、油性汚れの拭き取り性能を低下させる事がある。有機繊維(Z)の湿式不織布に対する含有量が30質量%未満では、油性汚れに対する拭き取り性能及び十分な剥離強度や積層不織布の強度が得られない事があり、一方、98質量%を超えると拭き取り性能が大きく低下する事がある。
【0044】
フィブリル化したリヨセル繊維(C)、(D)を用いる場合も、本発明のワイパー用積層不織布を構成する湿式不織布の層構成に特に限定はなく、単層構造から、2層、3層といった多層構造であっても良い。例えば、表層と裏層からなる2層構造とした場合、表層には、フィブリル化したリヨセル繊維(C)、(D)の少なくとも一方を2〜70質量%含む事が好ましく、更に好ましくは10〜60質量%である。リヨセル繊維(C)及び(D)の湿式不織布に対する含有量が2質量%未満では、フィブリル化したリヨセル繊維が不織布表面に均一に分布できない事から拭き取り性能を高める事ができない事があり、一方、70質量%を超えると、強度と油性汚れに対する拭き取り性能が低下する事がある。また、裏層には、有機繊維(Z)を30〜100質量%含む事が好ましく、更に好ましくは、50〜100質量%である。有機繊維(Z)の湿式不織布に対する含有量が30質量%未満では、十分な強度、コシが得られない事がある。
【0045】
次に、長繊維不織布と湿式不織布とを積層した本発明のワイパー用積層不織布の構成に関して説明を行う。本発明のワイパー用積層不織布を構成する長繊維不織布(I)と湿式不織布(II)の層構成は、本発明の範囲を阻害しない範囲であれば、その層構成に特に限定はない。すなわち、(I)/(II)の2層積層構造であっても構わないし、(II)/(I)/(II)の3層積層構造や(II)/(I)/(I)/(II)や(II)/(I)/(II)/(II)の4層積層構造であっても構わない。但し、3層以上の多層構造の場合、最外面には、拭き取り性に優れた湿式不織布(II)が配置するように積層する必要がある。これら多層積層構造の中で、拭き取り性能、強度を満足するだけなく、経済性の観点からもより有利な(I)/(II)の2層積層構造もしくは、(II)/(I)/(II)の3層積層構造が、より好ましい。本発明のワイパー用積層不織布を構成する長繊維不織布と湿式不織布との合計の坪量は、15〜150g/m2の範囲が好ましく、より好ましくは40〜100g/m2の範囲である。15g/m2より軽いと、強度、吸液性が十分でない事があり、一方、150g/m2を超えると、風合いが硬くなり、適度な柔軟性に劣る事がある。
【0046】
次に、本発明のワイパー用積層不織布の製造法について説明を行う。本発明の不織布は、フィブリル化繊維をフィブリル化する工程、湿式不織布を製造する工程、長繊維不織布と湿式不織布の繊維を3次元交絡する工程、水分を除去(乾燥)する工程により製造される。湿式不織布を製造した後、高圧柱状水流により繊維を3次元的に交絡させる事で、繊維同士の絡み合いによって、不織布に強度を発現させる事ができる。そのため、熱融着性バインダー繊維を使用しなくとも、あるいは、少量使用するだけで、不織布に十分な強度を与える事ができるので、適度に柔軟な風合いのワイパー用積層不織布を得る事ができる。
【0047】
前述した様に、フィブリル化繊維をフィブリル化する工程は、フィブリル化繊維を水中に均一に懸濁し、ビーター、PFIミル、シングルディスクリファイナー(SDR)、ダブルディスクリファイナー(DDR)、また、ボールミル、ダイノミル等の叩解、分散設備で適当な叩解条件の下、フィブリル化を行う。
【0048】
本発明では、ウェブを製造する工程として、湿式抄造法により湿式不織布を形成する方法が用いられる。フィブリル化繊維を割繊したりフィブリル化するためには、繊維を水中に懸濁した状態で、ビーター、PFIミルなどの設備で叩解、分散処理を行う事から、湿式抄造法の場合、水中に懸濁、分散したフィブリル化した繊維をそのままの状態で使用できるからである。フィブリル化した繊維と有機繊維とをを水中に投入し、パルパー等の回転式の装置で混合し、分散を行い、濃度0.1〜3%程度の繊維懸濁液を調製する。次いで、懸濁液を用い、長網、短網、円網等のワイヤーを少なくとも一つ有する抄紙機で抄造し、湿式不織布を得る。
【0049】
次に、このようにして得られた湿式不織布と長繊維不織布とを重ねて、多孔質支持体上に載せ、湿式不織布側から高圧柱状水流を噴射し、繊維を交絡させて、交絡積層ウェブを得る。多孔質支持体とはワイヤーあるいはパンチングプレート等が好ましく、ワイヤーを例にとると60〜150メッシュ相当のものが好ましい。高圧水流を噴射するノズルの径は10〜500μmの範囲が好ましく、ノズルの間隔は10〜1500μmが好ましい。これらのノズルは搬送されるウェブの、幅方向に亘り、少なくとも1回以上くまなく水流で加工できる範囲が必要である。交絡に用いる水圧は、0.5×106〜20×106Paの範囲で用いる事が好ましい。更に好ましくは5×106〜16×106Paである。0.5×106Paより小さいと、交絡が不十分で、十分な強度が発現しない事がある。20×106Paより大きいと、フィブリル化した繊維が飛散したり、交絡が余りに強くなりすぎて、適度に柔軟な風合いが損なわれる事がある。加工速度は3〜100m/分の範囲が好ましい。
【0050】
このようにして得られた交絡積層ウェブは、余分な水分を吸引あるいはウェットプレスなどの方法で取り除いた後、乾燥させる。乾燥させる装置としては、シリンダードライヤー、エアドライヤー、エアスルードライヤー、サクションドライヤー等が好ましく、水が実質上完全に除去される温度で使用する事ができる。
【0051】
本発明におけるワイパー用積層不織布は、一般工場用ワイパー、クリーンルーム用ワイパー、印刷用ブランケットワイパーと言った産業用分野、おしぼり、ハンドタオルと言った業務用分野、対人ワイパー、対物用ワイパー、眼鏡拭き、自動車洗車用ワイパー、ダストワイパーと言った家庭用分野といった様々な分野で用いる事ができる。また、商品としてドライの状態であっても良いし、ウェットの状態であっても良い。
【0052】
例えば、ウェットタイプで用いる場合、通常のウェットワイパーに用いられる添加剤、すなわち、界面活性剤、殺菌剤や乾燥速度の向上剤としてのエタノールやイソプロピルアルコール、保湿剤としてのグリセリン、プロピレングリコールやポリエチレングリコール、また香料やその他の防腐効果のある抗菌剤、除菌剤、色素、酸化防止剤が適量添加されていても良い。ウェットタイプワイパーの形態は内部が密封可能に形成された容器に収納されて、この容器からウェットタイプワイパー用の不織布を1枚ずつ引き出し可能な包装体の形態であれば、特に限定されない。例えば、ロール状に巻かれたウェットワイパー用の不織布を収納した筒状のプラスチック容器や1枚ずつ折り重ねた状態で収納したピロー包装体や紙容器でも良く、これらが複合された形態でも良い。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものでない。なお、実施例中の「%」及び「部」は特に断りのない限り、それぞれ「質量%」及び「質量部」を示す。実施例及び比較例に記載した物性の測定方法を以下に示した。
(1)拭き取り性(液体):ガラス板上にオリーブオイル(油性汚れ)をパスツールピペットで1滴量滴下し、100mm×100mm角の試験片で1回拭き取った後に、ガラス板上のオイルの残存程度を目視観察し、評価した。拭き取り性の評価基準としては、以下の通りである。
◎:オイルが全く残らず良好。
○:オイルが殆ど残らず良好。
△:オイルが僅かに残るものの、効果は認められる。
×:オイルが殆ど残り、実用上問題がある。
(2)拭き取り性(固体):ガラス板状にベビーパウダー(粉体汚れ)を耳かきで軽く1杯滴下し、100mm×100mm角の試験片で1回拭き取った後に、ガラス板上の粉体の残存程度を目視観察し、評価した。拭き取り性の評価基準としては、以下の通りである。
◎:粉体が全く残らず良好。
○:粉体が殆ど残らず良好。
△:粉体が僅かに残るものの、効果は認められる。
×:粉体が殆ど残り、実用上問題がある。
(3)湿潤破断強度(単位:N/50mm):JIS L 1096記載の方法に準拠して、縦方向(流れ方向)と横方向(幅方向)の破断強度を測定した。採取した試料を別に設けた容器に入れ、水(20±2℃)中に自重で沈下するまで放置した後、測定を行った。また、試料は幅50mm、長さ200mmとして、つかみ間隔100mmでそれぞれ5本測定し、平均値であらわした。単位は、N/50mmである。
(4)剥離度合い:100mm×100mm各の試験片で、平坦な机上を振幅幅20cmで往復10回程、拭き取り作業を行い、その時のワイパー用積層不織布の層間剥離性を判断した。評価はモニター10名によって行い、各人がそれぞれ判断した評価の最多数を評価結果とした。剥離度合いの評価基準としては、以下の通りである。
○:層間剥離は観察されず、拭き易くて良好。
△:層間剥離気味だが、実用上問題がない。
×:層間剥離が発生し、拭きにくく、実用上問題がある。
(5)吸水速度(単位:秒):本実施例中に記載されるワイパー用積層不織布の吸液性の指標として吸水速度を求めた。吸水速度は、水を滴下して試験片が水滴を吸収するにつれて鏡面反射が消え、湿潤だけが残った状態の時間を目視観察するもので、単位は秒である。試験方法は、以下の通りである。200×200mmの試験片を用意する。JIS L1907に規定する試験片保持枠に試験片を取り付ける。試験片の表面からビュレットの先端までが10mmの高さになるように調整し、ビュレットから水を1滴滴下させ、水滴が試験片の表面に達した時からその水滴が特別な反射をしなくなるまでの時間をストップウォッチで測定する。この操作を試験片5枚について行い、その平均した値を吸水速度とした。
(6)風合い:ドライ状態及びウェット状態におけるワイパー用積層不織布を手で握り、その時の触感を判断した。評価はモニター10名によって行い、各人がそれぞれ判断した評価の最多数を評価結果とした。風合いの評価基準としては、以下の通りである。
○:柔軟であるが、程良くコシがあり、拭き易くて良好。
△:普通
×:硬い、もしくは柔らかすぎて拭きにくく、実用上問題がある。
【0054】
フィブリル化していない三菱レイヨン社製割繊性アクリル繊維(ボンネルM.V.P C300、3デシテックス×3mm)をダブルディスクリファイナーを用いて10回繰り返し処理し、幹部から離脱した平均繊維径0.9μmのフィブリル化アクリル繊維(A)を調製した。
【0055】
フィブリル化していない三菱レイヨン社製割繊性アクリル繊維(ボンネルM.V.P C300、3デシテックス×3mm)をシングルディスクリファイナーを用いて30回繰り返し処理し、平均繊維径3μmの幹部から平均繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化アクリル繊維(B)を調製した。
【0056】
フィブリル化していない三菱レイヨン社製割繊性アクリル繊維(ボンネルM.V.P C300、3デシテックス×3mm)をPFIミルを用いて1万回転処理し、幹部から離脱した繊維径1μm以下のフィブリル化アクリル繊維(A)と、平均繊維径3μmの幹部から平均繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化アクリル繊維(B)の混合繊維(A+B)を調製した。
【0057】
フィブリル化していない三菱レイヨン社製割繊性アクリル繊維(ボンネルM.V.P C300、3デシテックス×3mm)をPFIミルを用いて1000回転処理し、平均繊維径5μmの幹部から平均繊維径2.5μmの枝部が発生したフィブリル化アクリル繊維(B’)を調製した。
【0058】
フィブリル化していないレンチング社製リヨセル単繊維(1.7デシテックス×4mm)をダブルディスクリファイナーを用いて15回繰り返し処理し、幹部から離脱した平均繊維径0.9μmのフィブリル化リヨセル繊維(C)を調製した。
【0059】
フィブリル化していないレンチング社製リヨセル単繊維(1.7デシテックス×4mm)をシングルディスクリファイナーを用いて40回繰り返し処理し、平均繊維径3μmの幹部から平均繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化リヨセル繊維(D)を調製した。
【0060】
フィブリル化していないレンチング社製リヨセル単繊維(1.7デシテックス×4mm)をPFIミルを用いて4万回転処理し、幹部から離脱した繊維径1μm以下のフィブリル化リヨセル繊維(C)と、平均繊維径4μmの幹部から平均繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化リヨセル繊維(D)の混合繊維(C+D)を調製した。
【0061】
フィブリル化していないレンチング社製リヨセル単繊維(1.7デシテックス×4mm)をPFIミルを用いて2000回転処理し、平均繊維径5μmの幹部から平均繊維径2.5μmの枝部が発生したフィブリル化リヨセル繊維(D’)を調製した。
【0062】
(実施例1)
フィブリル化アクリル繊維(A)とフィブリル化アクリル繊維(B)の混合繊維(A+B)、有機繊維(Z)として三菱レイヨン社製アクリル繊維(ボンネルM.V.P 0.4デシテックス×5mm:繊維径 約6.7μm)をそれぞれ40/60とする配合で水中に順次添加混合し、1%濃度の水性スラリーを調製した。この水性スラリーを用いて乾燥質量15g/m2の湿式不織布(IIa)を傾斜短網抄紙機で抄造した。次に、この湿式不織布(IIa)と長繊維不織布である旭化成せんい社製PETスパンボンド不織布(Ia;E01020:20g/m2)とを、(IIa)/(Ia)/(IIa)の順序で3層にして重ねて、76メッシュの平織りのプラスチックワイヤー上に積載し、以下に示す3列のノズル列にて、圧力(9×106Pa)、加工速度15m/分で交絡を行った。更にウェブを反転し、同様の条件で水流噴射して、交絡を行った。ノズル径とノズル間隔、ノズルの配列を以下に示す。第1列目はノズル径120μm、ノズル間隔1.2mmが千鳥状に2列配列、第2列目はノズル径100μm、ノズル間隔0.6mmがストレートに1列、第3列目はノズル径100μm、ノズル間隔0.6mmがストレートに1列である。続いて、パッダーにて水を絞った後、エアドライヤーを用い、70℃で乾燥を行い、実施例1のワイパー用積層不織布を得た。なお、本実施例で使用したボンネルM.V.P C300はアクリロニトリル系共重合体とメタクリル酸系共重合体とをブレンドしており、両者が相分離状態にある割繊性アクリル繊維であり、メタクリル酸系共重合体のガラス転移点は約70℃で、明確な軟化点はないが、140℃付近で熱変形するものであった。実施例1の不織布表面を電子顕微鏡で観察した結果、メタクリル酸系共重合体の皮膜形成は観察されなかった。
【0063】
(実施例2)
フィブリル化アクリル繊維(A)とフィブリル化アクリル繊維(B)の混合繊維(A+B)のみを配合した以外は、実施例1と同じ方法で加工を行い、実施例2のワイパー用積層不織布を得た。
【0064】
(実施例3)
フィブリル化アクリル繊維(A)、有機繊維(Z)として三菱レイヨン社製アクリル繊維(ボンネルM.V.P 0.4デシテックス×5mm:繊維径 約6.7μm)をそれぞれ40/60とする配合とした以外は、実施例1と同じ方法で加工を行い、実施例3のワイパー用積層不織布を得た。
【0065】
(実施例4)
フィブリル化アクリル繊維(B)、有機繊維(Z)として三菱レイヨン社製アクリル繊維(ボンネルM.V.P 0.4デシテックス×5mm:繊維径 約6.7μm)をそれぞれ40/60とする配合とした以外は、実施例1と同じ方法で加工を行い、実施例4のワイパー用積層不織布を得た。
【0066】
(実施例5)
フィブリル化アクリル繊維(A)、フィブリル化アクリル繊維(B’)、有機繊維(Z)として三菱レイヨン社製アクリル繊維(ボンネルM.V.P 0.4デシテックス×5mm:繊維径 約6.7μm)をそれぞれ30/10/60とする配合とした以外は、実施例1と同じ方法で加工を行い、実施例5のワイパー用積層不織布を得た。
【0067】
(実施例6)
フィブリル化アクリル繊維(A)とフィブリル化アクリル繊維(B)の混合繊維(A+B)、有機繊維(Z)として三菱レイヨン社製アクリル繊維(ボンネルM.V.P 0.4デシテックス×5mm:繊維径 約6.7μm)、帝人ファイバー社製PET繊維(テピルスTT04N 3.3デシテックス×10mm:繊維径 約18μm)をそれぞれ40/40/20とする配合とした以外は、実施例1と同じ方法で加工を行い、実施例6のワイパー用積層不織布を得た。
【0068】
(実施例7)
フィブリル化アクリル繊維(A)とフィブリル化アクリル繊維(B)の混合繊維(A+B)、有機繊維(Z)として三菱レイヨン社製アクリル繊維(ボンネルM.V.P 0.4デシテックス×5mm:繊維径 約6.7μm)、ユニチカファイバー社製PET繊維(メルティ4080 1.1デシテックス×3mm、芯鞘複合熱融着繊維:繊維径 約10μm)をそれぞれ40/40/20とする配合とした以外は、実施例1と同じ方法で加工を行い、実施例7のワイパー用積層不織布を得た。
【0069】
(実施例8)
フィブリル化リヨセル繊維(C)とフィブリル化リヨセル繊維(D)の混合繊維(C+D)、有機繊維(Z)として三菱レイヨン社製アクリル繊維(ボンネルM.V.P 0.4デシテックス×5mm:繊維径 約6.7μm)をそれぞれ40/60とする配合で水中に順次添加混合し、1%濃度の水性スラリーを調製した。この水性スラリーを用いて乾燥質量15g/m2の湿式不織布(IIb)を傾斜短網抄紙機で抄造した。次に、この湿式不織布(IIb)と長繊維不織布である旭化成せんい社製PETスパンボンド不織布(Ia;E01020:20g/m2)とを、(IIb)/(Ia)/(IIb)の順序で3層にして重ねて、76メッシュの平織りのプラスチックワイヤー上に積載し、以下に示す3列のノズル列にて、圧力(8.5×106Pa)、加工速度15m/分で交絡を行った。更にウェブを反転し、同様の条件で水流噴射して、絡合を行った。ノズル径とノズル間隔、ノズルの配列を以下に示す。第1列目はノズル径120μm、ノズル間隔1.2mmが千鳥状に2列配列、第2列目はノズル径100μm、ノズル間隔0.6mmがストレートに1列、第3列目はノズル径100μm、ノズル間隔0.6mmがストレートに1列である。続いて、パッダーにて水を絞った後、エアドライヤーを用い、130℃で乾燥を行い、実施例8のワイパー用積層不織布を得た。
【0070】
(実施例9)
フィブリル化リヨセル繊維(C)、有機繊維(Z)として三菱レイヨン社製アクリル繊維(ボンネルM.V.P 0.4デシテックス×5mm:繊維径 約6.7μm)をそれぞれ40/60とする配合とした以外は、実施例8と同じ方法で加工を行い、実施例9のワイパー用積層不織布を得た。
【0071】
(実施例10)
フィブリル化リヨセル繊維(D)、有機繊維(Z)として三菱レイヨン社製アクリル繊維(ボンネルM.V.P 0.4デシテックス×5mm:繊維径 約6.7μm)をそれぞれ40/60とする配合とした以外は、実施例8と同じ方法で加工を行い、実施例10のワイパー用積層不織布を得た。
【0072】
(実施例11)
フィブリル化リヨセル繊維(C)、フィブリル化リヨセル繊維(D’)、有機繊維(Z)として三菱レイヨン社製アクリル繊維(ボンネルM.V.P 0.4デシテックス×5mm:繊維径 約6.7μm)をそれぞれ30/10/60とする配合とした以外は、実施例8と同じ方法で加工を行い、実施例11のワイパー用積層不織布を得た。
【0073】
(実施例12)
フィブリル化アクリル繊維(A)とフィブリル化アクリル繊維(B)の混合繊維(A+B)、フィブリル化リヨセル繊維(C)とフィブリル化リヨセル繊維(D)の混合繊維(C+D)、有機繊維(Z)として三菱レイヨン社製アクリル繊維(ボンネルM.V.P 0.4デシテックス×5mm:繊維径 約6.7μm)をそれぞれ20/20/60とする配合とした以外は、実施例1と同じ方法で加工を行い、実施例12のワイパー用積層不織布を得た。
【0074】
(実施例13)
長繊維不織布(Ia)/湿式不織布(IIa)の順序で2層にして重ねて、76メッシュの平織りのプラスチックワイヤー上に積載し、圧力(8×106Pa)、加工速度15m/分で交絡を行った以外は、実施例1と同じ方法で加工を行い、実施例13のワイパー用積層不織布を得た。
【0075】
(実施例14)
長繊維不織布として旭化成せんい社製PPスパンボンド不織布(Ib;P03020:20g/m2)を用いて、(IIa)/(Ib)/(IIa)の順序で3層にして重ねて積層した以外は、実施例1と同じ方法で加工を行い、実施例14のワイパー用積層不織布を得た。
【0076】
(実施例15)
フィブリル化リヨセル繊維(C)のみを配合した以外は、実施例8と同じ方法で加工を行い、実施例15のワイパー用積層不織布を得た。
【0077】
(実施例16)
フィブリル化リヨセル繊維(D)のみを配合した以外は、実施例8と同じ方法で加工を行い、実施例16のワイパー用積層不織布を得た。
【0078】
(実施例17)
フィブリル化アクリル繊維(A)とフィブリル化アクリル繊維(B)の混合繊維(A+B)、有機繊維(Z)として帝人ファイバー社製PET繊維(TT04 6.6デシテックス×5mm:繊維径 約25μm)をそれぞれ40/60とする配合とした以外は、実施例1と同じ方法で加工を行い、実施例17のワイパー用積層不織布を得た。
【0079】
(実施例18)
フィブリル化リヨセル繊維(C)とフィブリル化リヨセル繊維(D)の混合繊維(C+D)、有機繊維(Z)として帝人ファイバー社製PET繊維(TT04 6.6デシテックス×5mm:繊維径 約25μm)をそれぞれ40/60とする配合とした以外は、実施例8と同じ方法で加工を行い、実施例18のワイパー用不織布を得た。
【0080】
(比較例1)
有機繊維(Z)として三菱レイヨン社製アクリル繊維(ボンネルM.V.P 0.4デシテックス×5mm:繊維径 約6.7μm)のみを配合した以外は、実施例1と同じ方法で加工を行い、比較例1のワイパー用積層不織布を得た。
【0081】
(比較例2)
フィブリル化アクリル繊維(A)の替わりに、フィブリル化アクリル繊維(A’)を配合した以外は、実施例3と同じ方法で加工を行い、比較例2のワイパー用積層不織布を得た。
【0082】
(比較例3)
フィブリル化アクリル繊維(A)の替わりに、フィブリル化アクリル繊維(B’)を配合した以外は、実施例3と同じ方法で加工を行い、比較例3のワイパー用積層不織布を得た。
【0083】
(比較例4)
フィブリル化リヨセル繊維(C)とフィブリル化リヨセル繊維(D)の混合繊維(C+D)のみを配合した以外は、実施例8と同じ方法で加工を行い、比較例4のワイパー用積層不織布を得た。
【0084】
(比較例5)
長繊維不織布である旭化成せんい社製PETスパンボンド不織布(E01020:20g/m2)を用いずに、(IIa)/(IIa)/(IIa)の順序で3層にして重ねた以外は、実施例1と同じ方法で加工を行い、比較例5のワイパー用不織布を得た。
【0085】
(比較例6)
フィブリル化アクリル繊維(A)の替わりに、フィブリル化していない三菱レイヨン社製割繊性アクリル繊維(ボンネルM.V.P C300、3デシテックス×3mm)を叩解処理しないでそのままの状態で配合した以外は、実施例1と同じ方法で加工を行い、比較例6のワイパー用積層不織布を得た。
【0086】
(比較例7)
フィブリル化リヨセル繊維(C)の替わりに、フィブリル化していないレンチング社製リヨセル単繊維(1.7デシテックス×4mm、コートルズ社製)を叩解処理しないでそのままの状態で配合した以外は、実施例8と同じ方法で加工を行い、比較例7のワイパー用積層不織布を得た。
【0087】
(比較例8)
湿式不織布を使用しないで、長繊維不織布である旭化成せんい社製PETスパンボンド不織布(Ia;E01020:20g/m2)を用いて、(Ia)/(Ia)の順序で2層にして重ねて積層した以外は、実施例1と同じ方法で加工を行い、比較例8のワイパー用積層不織布を得た。
【0088】
(比較例9)
湿式不織布(IIa)と長繊維不織布である旭化成せんい社製PETスパンボンド不織布(Ia;E01020:20g/m2)とを、(IIa)/(Ia)/(IIa)の順序で3層にして重ねた後、アクリル系エマルジョンを固形分で5g/m2付着させた後、150℃で熱処理を行い、繊維同士を結合させて、比較例9のワイパー用積層不織布を得た。
【0089】
上記の実施例1〜18、比較例1〜9で得られたワイパー用不織布について、上述した評価試験により評価し、その結果を表1及び表2に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
上記表1、2より、実施例1〜18に示す通り、本発明のワイパー用積層不織布は、油汚れや微粒子の拭き取り性、湿潤破断強度、剥離度合いに優れるだけではなく、吸液性も優れており、また、拭き取りに適した適度に柔軟な風合いを用い合わせている事が判る。一方、比較例1〜9に示したように、不織布を構成する繊維の種類や配合が本発明の範囲外の場合、本発明のワイパー用積層不織布に比べて、拭き取り性、湿潤破断強度、剥離度合い、吸液性、風合いの何れかが大きく劣る事が判る。
【0093】
(実施例19)
フィブリル化アクリル繊維(A)とフィブリル化アクリル繊維(B)の混合繊維(A+B)、有機繊維(Z)として三菱レイヨン社製アクリル繊維(ボンネルM.V.P 0.4デシテックス×5mm:繊維径 約6.7μm)をそれぞれ2/98とする配合とした以外は、実施例1と同じ方法で加工を行い、実施例19のワイパー用積層不織布を得た。
【0094】
(実施例20)
フィブリル化アクリル繊維(A)とフィブリル化アクリル繊維(B)の混合繊維(A+B)、有機繊維(Z)として三菱レイヨン社製アクリル繊維(ボンネルM.V.P 0.4デシテックス×5mm:繊維径 約6.7μm)をそれぞれ98/2とする配合とした以外は、実施例1と同じ方法で加工を行い、実施例20のワイパー用積層不織布を得た。
【0095】
(実施例21)
フィブリル化リヨセル繊維(C)とフィブリル化リヨセル繊維(D)の混合繊維(C+D)、有機繊維(Z)として三菱レイヨン社製アクリル繊維(ボンネルM.V.P 0.4デシテックス×5mm:繊維径 約6.7μm)をそれぞれ2/98とする配合とした以外は、実施例8と同じ方法で加工を行い、実施例21のワイパー用積層不織布を得た。
【0096】
(実施例22)
フィブリル化リヨセル繊維(C)とフィブリル化リヨセル繊維(D)の混合繊維(C+D)、有機繊維(Z)として三菱レイヨン社製アクリル繊維(ボンネルM.V.P 0.4デシテックス×5mm:繊維径 約6.7μm)をそれぞれ70/30とする配合とした以外は、実施例8と同じ方法で加工を行い、実施例22のワイパー用積層不織布を得た。
【0097】
(実施例23)
フィブリル化アクリル繊維(A)とフィブリル化アクリル繊維(B)の混合繊維(A+B)、有機繊維(Z)として三菱レイヨン社製アクリル繊維(ボンネルM.V.P 0.4デシテックス×5mm:繊維径 約6.7μm)をそれぞれ95/5とする配合で、1%濃度の表層用スラリーを調製した。有機繊維(Z)として三菱レイヨン社製アクリル繊維(ボンネルM.V.P 0.4デシテックス×5mm:繊維径 約6.7μm)のみとする配合で、1%濃度の中間層用スラリーを調製した。表層の乾燥質量が7g/m2、裏層の乾燥質量が8g/m2の各ウェブを連続して設置されている2台の傾斜短網抄紙機で抄造し、表層と裏層との2層が抄き合わされた乾燥質量15g/m2の湿式不織布(IIc)を抄造した。次に、この湿式不織布(IIc)と長繊維不織布である旭化成せんい社製PETスパンボンド不織布(Ia;E01020:20g/m2)とを、湿式不織布(IIc)の表層側が表面になるように、(IIc)/(Ia)/(IIc)の順序で3層にして重ねて、76メッシュの平織りのプラスチックワイヤー上に積載し、以下に示す3列のノズル列にて、圧力(9×106Pa)、加工速度15m/分で交絡を行った。更にウェブを反転し、同様の条件で水流噴射して、交絡を行った。ノズル径とノズル間隔、ノズルの配列を以下に示す。第1列目はノズル径120μm、ノズル間隔1.2mmが千鳥状に2列配列、第2列目はノズル径100μm、ノズル間隔0.6mmがストレートに1列、第3列目はノズル径100μm、ノズル間隔0.6mmがストレートに1列である。続いて、パッダーにて水を絞った後、エアドライヤーを用い、70℃で乾燥を行い、実施例23のワイパー用積層不織布を得た。
【0098】
(実施例24)
フィブリル化リヨセル繊維(C)とフィブリル化リヨセル繊維(D)の混合繊維(C+D)、有機繊維(Z)として三菱レイヨン社製アクリル繊維(ボンネルM.V.P 0.4デシテックス×5mm:繊維径 約6.7μm)をそれぞれ40/60とする配合で、1%濃度の表層用スラリーを調製した。フィブリル化リヨセル繊維(C)とフィブリル化リヨセル繊維(D)の混合繊維(C+D)、有機繊維(Z)として三菱レイヨン社製アクリル繊維(ボンネルM.V.P 0.4デシテックス×5mm:繊維径 約6.7μm)ををそれぞれ5/95とする配合で、1%濃度の裏層用スラリーを調製した。表層の乾燥質量が7g/m2、裏層の乾燥質量が8g/m2の各ウェブを連続して設置されている2台の傾斜短網抄紙機で抄造し、表層と裏層との2層が抄き合わされた乾燥質量15g/m2の湿式不織布(IId)を抄造した。次に、この湿式不織布(IId)と長繊維不織布である旭化成せんい社製PETスパンボンド不織布(Ia;E01020:20g/m2)とを、湿式不織布の(IId)の表層側が表面になるように、(IId)/(Ia)/(IId)の順序で3層にして重ねて、76メッシュの平織りのプラスチックワイヤー上に積載し、以下に示す3列のノズル列にて、圧力(9×106Pa)、加工速度15m/分で交絡を行った。更にウェブを反転し、同様の条件で水流噴射して、交絡を行った。ノズル径とノズル間隔、ノズルの配列を以下に示す。第1列目はノズル径120μm、ノズル間隔1.2mmが千鳥状に2列配列、第2列目はノズル径100μm、ノズル間隔0.6mmがストレートに1列、第3列目はノズル径100μm、ノズル間隔0.6mmがストレートに1列である。続いて、パッダーにて水を絞った後、エアドライヤーを用い、130℃で乾燥を行い、実施例24のワイパー用積層不織布を得た。
【0099】
上記の実施例19〜24で得られたワイパー用積層不織布について、上述した評価試験により評価し、その結果を表3に示す。
【0100】
【表3】

【0101】
上記表3より、実施例19〜24に示す通り、本発明のワイパー用積層不織布の場合、拭き取り性、湿潤破断強度、剥離度合い、吸液性、風合いにおいて良好なワイパー用積層不織布が得られる事が判る。また、実施例23、24より、特に、長繊維不織布と2層構造の湿式不織布とを用いて3層構造とした場合、優れた拭き取り性と湿潤破断強度、剥離度合いを持ったワイパー用積層不織布を得る事ができる事が判る。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明のワイパー用積層不織布は、拭き取り性、湿潤破断強度、剥離度合い、吸液性、適度に柔軟な風合いに優れており、一般工場用ワイパー、クリーンルーム用ワイパー、印刷用ブランケットワイパーと言った産業用分野、おしぼり、ハンドタオルと言った業務用分野、対人ワイパー、対物用ワイパー、眼鏡拭き、自動車洗車用ワイパー、ダストワイパーと言った家庭用分野といった各種の用途に用いる事ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長繊維不織布(I)の少なくとも片面に、フィブリル化繊維を含む湿式不織布(II)が積層され、3次元交絡により一体化された積層不織布であって、湿式不織布(II)が、剪断力を加えて、幹部から離脱した繊維径1μm以下にフィブリル化した繊維(X)、剪断力を加えて、繊維径2μm以上の幹部から繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化繊維(Y)の少なくとも一方を含有する事を特徴とするワイパー用積層不織布。
【請求項2】
湿式不織布(II)が繊維径1〜20μmの有機繊維(Z)を1種以上含有する事を特徴とする請求項1記載のワイパー用積層不織布。
【請求項3】
湿式不織布(II)において、フィブリル化繊維(X)と(Y)がフィブリル化アクリル繊維であり、剪断力を加えて、幹部から離脱した繊維径1μm以下にフィブリル化したアクリル繊維(A)、剪断力を加えて、繊維径2μm以上の幹部から繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化アクリル繊維(B)の少なくとも一方と1種以上の有機繊維(Z)とを含有し、フィブリル化アクリル繊維(A)と(B)の総含有量が、湿式不織布(II)に対して2〜100質量%であり、有機繊維(Z)の含有量が湿式不織布(II)に対して0〜98質量%であり、フィブリル化アクリル繊維(A)と(B)及び有機繊維(Z)の総含有量が湿式不織布(II)に対して100質量%以下となる事を特徴とする請求項1又は2記載のワイパー用積層不織布。
【請求項4】
フィブリル化繊維アクリル(A)と(B)が、アクリル繊維がアクリロニトリル系ポリマーと、1種以上の添加剤ポリマーとから構成され、両者が相分離状態にある割繊性アクリル繊維をフィブリル化してなる繊維であり、該添加剤ポリマーが湿式不織布(II)表面において皮膜を形成していない事を特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のワイパー用積層不織布。
【請求項5】
湿式不織布(II)において、フィブリル化繊維(X)と(Y)がフィブリル化リヨセル繊維であり、剪断力を加えて、幹部から離脱した繊維径1μm以下にフィブリル化したリヨセル繊維(C)、剪断力を加えて、繊維径2μm以上の幹部から繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリルリヨセル化繊維(D)の少なくとも一方と1種以上の有機繊維(Z)とを含有し、フィブリルリヨセル化繊維(C)と(D)の総含有量が湿式不織布(II)に対して2〜70質量%であり、有機繊維(Z)の含有量が湿式不織布(II)に対して100質量%以下となる事を特徴とする請求項1又は2記載のワイパー用積層不織布。
【請求項6】
有機繊維(Z)の少なくとも1種が熱融着性バインダー繊維である事を特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のワイパー用積層不織布。
【請求項7】
フィブリル化繊維を含む湿式不織布(II)が2層以上の層構成からなる不織布であって、剪断力を加えて、幹部から離脱した繊維径1μm以下にフィブリル化した繊維(X)、剪断力を加えて、繊維径2μm以上の幹部から繊維径1μm以下の枝部が発生したフィブリル化繊維(Y)の少なくとも一方を含む表層と、有機繊維(Z)を含む中間層とを有する事を特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のワイパー用積層不織布。

【公開番号】特開2006−255116(P2006−255116A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−75981(P2005−75981)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】