説明

一液硬化型水性塗料およびこれを用いた塗膜の製造方法

【課題】架橋性の含フッ素共重合体を用いた、短時間で硬化可能な、一液硬化型水性塗料を提供する。
【解決手段】水に、含フッ素共重合体(A)を含む合成樹脂が分散または溶解している一液硬化型水性塗料であって、硬化剤として、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基が保護されたブロックポリイソシアネート化合物を含有するとともに、硬化触媒を含有し、かつ、有機溶媒を該一液硬化型水性塗料の全質量中10質量%以下含有する、または有機溶媒を含まない一液硬化型水性塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋性の含フッ素共重合体と硬化剤と硬化触媒を含有する、一液硬化型の水性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護を目的として、塗料中の揮発性有機化合物(VOCと呼ばれることもある。)の削減検討が進んでいる。例えば、塗着効率を上げて塗料の有効利用をはかる塗装方法の開発や、塗料の固形分を上げ、排出溶剤を削減するハイソリッド型塗料の導入が実施されてきた。しかし、これらの方法では溶剤削減に限界がある。
【0003】
従来から、アルキド系、アクリル系、ポリエステル系、ポリ酢酸ビニル系、エポキシ系等の各種合成樹脂を水に分散または溶解させた水性塗料用組成物が知られている。この合成樹脂として、または合成樹脂の一部として水酸基を備える架橋性の含フッ素共重合体を用いた水性塗料組成物が、耐候性に優れることから広く用いられている。
【0004】
この様な塗料に用いられる含フッ素共重合体としては、水に対する親和性を高めるため、有機溶媒中で、水酸基の一部をエステル化してカルボキシ基を導入し、さらに、そのカルボキシ基の一部または全部を塩基性化合物で中和し、その後、水に転相した水性塗料組成物(特許文献1)、あるいは乳化重合により得られる含フッ素共重合体の水性塗料組成物(特許文献2)が知られている。
しかし、カルボキシ基を導入する工程で用いた有機溶媒を、その後除去すると水性塗料用組成物の貯蔵安定性が低下し、また乳化重合した場合には残存する乳化剤のために耐水性、密着性に劣るという問題があった。
【0005】
これらの問題を解決するために、特許文献3には、フルオロオレフィン単位40〜60モル%、アルキルビニルエーテル(またはエステル)単位3〜50モル%、水酸基含有ビニルエーテル(またはエステル)単位4〜30モル%、末端にエステル結合を介してカルボキシ基(一部または全部が塩を形成している)が導入されたアルキルビニルエステル単位0.4〜7モル%からなる含フッ素共重合体を含有する水性塗料用組成物が開示されている。
特許文献3において、該含フッ素共重合体は、イソシアネート等の硬化剤と組み合わせて二液型の塗料とすることにより強靱な塗膜を得る方法が開示されている。
また該含フッ素共重合体と組み合わせる硬化剤として、オキサゾリン基含有ポリマー(オキサゾリン基を側鎖に有するアクリルポリマー)も使用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平1−29488号公報
【特許文献2】特許第3356803号公報
【特許文献3】国際公開第2007/125970号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載されている二液型の塗料は、主剤と硬化剤を混合した後の可能使用時間が短いため、使用可能な用途が限られる。また該二液型の塗料を用いて塗膜を形成する方法は、例えば室温で2週間乾燥させる方法や、150℃で20分間焼き付ける方法など、膜の硬化に比較的長い時間を要するため、使用可能な用途が限られる。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、架橋性の含フッ素共重合体を用いた、短時間で硬化可能な、一液硬化型水性塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、架橋性の含フッ素共重合体と硬化剤を含む一液硬化型水性塗料を調製するに当たり、硬化剤としてブロックポリイソシアネート化合物を用いるとともに、硬化触媒を含有させることにより、一液硬化型でありながら貯蔵安定性が良好であり、かつ短時間の加熱で硬化可能で、良好な強度を有する塗膜を形成できる一液硬化型水性塗料が得られることを見出して、本発明に至った。
【0009】
本発明の一液硬化型水性塗料は、水に、下記含フッ素共重合体(A)を含む合成樹脂が分散または溶解している一液硬化型水性塗料であって、硬化剤として、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基が保護されたブロックポリイソシアネート化合物を含有するとともに、硬化触媒を含有し、かつ、有機溶媒を該一液硬化型水性塗料の全質量中10質量%以下含有する、または有機溶媒を含まないことを特徴とする。
含フッ素共重合体(A):式(a1)で表される繰り返し単位40〜60モル%、式(a2)で表される繰り返し単位3〜50モル%、式(a3)で表される繰り返し単位4〜30モル%、および式(a4)で表される繰り返し単位0.4〜7モル%を含み、該式(a1)、式(a2)、式(a3)、式(a4)で表される各繰り返し単位の合計モル%の値が80モル%以上である、含フッ素共重合体。
−CFX−CX− ・・・式(a1)
[ただし、式(a1)において、XおよびXは、それぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子であり、Xは塩素原子、フッ素原子または−CY(Y、Y、Yはそれぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子である。)である。]
【0010】
【化1】

【0011】
[ただし、式(a2)において、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜12のアルキル基、または炭素数4〜10の1価の脂環式炭化水素基であり、jは0〜8の整数、kは0または1である。]
【0012】
【化2】

【0013】
[ただし、式(a3)において、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、または炭素数4〜10の2価の脂環式炭化水素基であり、mは0〜8の整数、nは0または1である。]
【0014】
【化3】

【0015】
[ただし、式(a4)において、Rb1は水素原子またはメチル基、R21は炭素数1〜10のアルキレン基、または炭素数4〜10の2価の脂環式炭化水素基であり、Rは炭素数2〜10のアルキレン基または炭素数4〜10の2価の脂環式炭化水素基であり、Rは水素原子または−NHZ(Z、Z、Zはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基である。)であって、少なくとも一部のRは−NHZであることを必須とし、pは0〜8の整数、qは0または1である。]
【0016】
前記ブロックポリイソシアネート化合物が、炭素数1〜3のアルキル基を1個または2個有するピラゾール誘導体からなるブロック化剤と、ポリイソシアネート化合物との反応物であることが好ましい。
【0017】
前記硬化触媒が、ジアザビシクロウンデセン系触媒、有機チタン系触媒、有機酸アミン塩系触媒、およびアミン系触媒からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
前記硬化触媒が、ジアザビシクロウンデセン系触媒から選ばれる1種以上と、有機チタン系触媒から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
または前記硬化触媒が、ジアザビシクロウンデセン系触媒から選ばれる1種以上と、有機酸アミン塩系触媒から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
一液硬化型水性塗料に含まれる、前記含フッ素共重合体(A)の水酸基と、前記ブロックポリイソシアネート化合物のイソシアネート基のモル比(NCO/OH)が0.05〜2.0である一液硬化型水性塗料であることが好ましい。
【0018】
前記含フッ素共重合体(A)において、前記式(a2)におけるjおよびkがいずれも0であり、前記式(a3)におけるmおよびnがいずれも0であり、前記式(a4)におけるpおよびqがいずれも0であることが好ましい。
前記含フッ素共重合体(A)において、前記式(a4)で表される繰り返し単位の含有割合が1.4〜6モル%であることが好ましい。
【0019】
本発明は、本発明の一液硬化型水性塗料を基材上に塗布して未硬化膜を形成する工程と、該未硬化膜を加熱して硬化させる工程を有する、塗膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一液硬化型水性塗料は、有機溶媒の含有量が低く環境に対する負荷が小さい。また、一液硬化型でありながら、かつ有機溶媒の含有量が低いにもかかわらず、貯蔵安定性に優れる。さらにカルボキシ基を導入する工程で用いた有機溶媒をその後除去するなどして、有機溶媒の含有量を低くしても良好な貯蔵安定性が得られる。
本発明の一液硬化型水性塗料は、短時間の加熱で硬化可能であり、良好な強度を有する塗膜を形成できる。
本発明の塗膜の製造方法によれば、耐候性に優れ、良好な強度を有する塗膜が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<含フッ素共重合体(A)>
本発明の一液硬化型水性塗料(以下、単に水性塗料ということもある。)は、水に合成樹脂が分散または溶解している組成物であって、前記合成樹脂は含フッ素共重合体(A)を含んでいる。
含フッ素共重合体(A)は、上式(a1)で表される繰り返し単位、上式(a2)で表される繰り返し単位、上式(a3)で表される繰り返し単位、および上式(a4)で表される繰り返し単位を含む。式(a1)、式(a2)、式(a3)、式(a4)で表される各繰り返し単位の合計モル%の値は80〜100モル%であり、好ましくは95〜100モル%である。
なお、本明細書においては、式(a1)で表される繰り返し単位を「繰り返し単位(a1)」と表記する。他の式で表される化合物についても同様に表記する。
【0022】
繰り返し単位(a1)は、上式(a1)で表される、フルオロオレフィン系化合物に基づく繰り返し単位である。
繰り返し単位(a1)としては、下記のフルオロオレフィン系化合物に基づく繰り返し単位を挙げることができる。
CF=CF、CClF=CF、CHCl=CF、CCl=CF、CClF=CClF、CHF=CCl、CH=CClF、CCl=CClF等のフルオロエチレン。
CFClCF=CF、CFCCl=CF、CFCF=CFCl、CFClCCl=CF、CFClCF=CFCl、CFClCF=CF、CFCCl=CClF、CFCCl=CCl、CClFCF=CCl、CClCF=CF、CFClCCl=CCl、CFClCCl=CCl、CFCF=CHCl、CClFCF=CHCl、CHCCl=CHCl、CHFCCl=CCl、CFClCH=CCl、CFClCCl=CHCl、CClCF=CHCl、CHBrCF=CCl等のフルオロプロペン類。
CFCCl=CFCF、CF=CFCFCClF、CFCFCF=CCl等の炭素数4以上のフルオロオレフィン系化合物。
これらの中で、CF=CF、CClF=CFが、塗膜の耐候性に優れる点で好ましい。
【0023】
含フッ素共重合体(A)の繰り返し単位全体のうち、繰り返し単位(a1)の含有割合は、40〜60モル%であり、好ましくは45〜55モル%である。
繰り返し単位(a1)の含有割合が上記範囲であると、充分な耐候性が得られやすく、含フッ素共重合体(A)のガラス転移温度が高くなりすぎず、非晶質で良好な膜が得られやすい。
含フッ素共重合体(A)の分子中に存在する繰り返し単位(a1)は1種でもよく、2種以上でもよい。
【0024】
繰り返し単位(a2)は、上式(a2)で表される繰り返し単位である。例えば、アルキルビニルエーテル、アルキルカルボン酸ビニルエステル、アルキルアリルエーテル、またはアルキルカルボン酸アリルエステルなどに基づく繰り返し単位である。これらの中から所望の塗膜物性(硬度、光沢、顔料分散性など)に応じた繰り返し単位が適宜選択される。
式(a2)で表わされる繰り返し単位としては、j=0であり、k=0または1である、ビニルエーテルまたはビニルエステルが好ましく、j=0かつk=0であるビニルエーテルがより好ましい。
【0025】
繰り返し単位(a2)の好ましい例としては、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、酢酸ビニル、吉草酸ビニル、またはピバリン酸ビニルに基づく繰り返し単位が挙げられる。
特に、エチルビニルエーテルまたはシクロヘキシルビニルエーテルに基づく繰り返し単位が、繰り返し単位(a1)との交互共重合性がよく、含フッ素共重合体(A)のガラス転位温度を調整しやすい点で、好ましい。
含フッ素共重合体(A)の繰り返し単位全体のうち、繰り返し単位(a2)の含有割合は、3〜50モル%であり、好ましくは20〜45モル%である。
繰り返し単位(a2)の含有割合が上記範囲であると、得られる塗膜の柔軟性が良好となる。
含フッ素共重合体(A)の一分子中に存在する繰り返し単位(a2)は1種でもよく、2種以上でもよい。
【0026】
繰り返し単位(a3)は、上式(a3)で表される繰り返し単位である。例えば、水酸基含有ビニルエーテル、水酸基含有ビニルエステル、水酸基含有アリルエーテル、または水酸基含有アリルエステルなどに基づく繰り返し単位である。
式(a3)で表わされる繰り返し単位としては、m=0であり、n=0または1である、水酸基含有ビニルエーテルまたは水酸基含有ビニルエステルが好ましく、m=0かつn=0である水酸基含有ビニルエーテルがより好ましい。
【0027】
繰り返し単位(a3)の好ましい例としては、2−ヒドロキシアルキルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルーテル、1−ヒドロキシメチル−4−ビニロキシメチルシクロヘキサン、または4−ヒドロキシブチルカルボン酸ビニルエステルに基づく繰り返し単位が挙げられる。
これらの中で重合性、架橋性などからヒドロキシアルキルビニルエーテルに基づく繰り返し単位が好ましい。
【0028】
含フッ素共重合体(A)の繰り返し単位全体のうち、繰り返し単位(a3)の含有割合は、4〜30モル%であり、好ましくは8〜25モル%である。
繰り返し単位(a3)の含有割合が上記範囲の下限値以上であると、架橋をした際、十分な架橋密度が得られやすい。また上記範囲の上限値以下であると、塗膜にしたときに十分な耐水性が得られやすい。
含フッ素共重合体(A)の一分子中に存在する繰り返し単位(a3)は1種でもよく、2種以上でもよい。
【0029】
繰り返し単位(a4)は、上式(a4)で表される繰り返し単位である。
水性塗料に含まれる含フッ素共重合体(A)中に存在する繰り返し単位(a4)の全体を100モル%とするとき、そのうちRが−NHZである繰り返し単位(a4)の割合は、30〜100モル%であることが好ましく、50〜100モル%であることがより好ましい。残りのRは−COOHである。Rのうち−NHZである割合が30モル%以上であると、含フッ素共重合体(A)が水に分散しやすくなる。
【0030】
繰り返し単位(a4)は、ヒドロキシ基を有する繰り返し単位(a3)に多価カルボン酸またはその無水物を反応させてカルボキシ基を導入する方法で得られる。またカルボキシ基を導入した後に、アミン化合物を用いて該カルボキシ基の一部または全部を中和することにより、−NHZ基を導入することができる。
繰り返し単位(a4)から−OCO−R−COO−Rを除いた残りの部分の好ましい態様は、繰り返し単位(a3)から−OHを除いた残りの部分の好ましい態様と同じである。
その製造方法としては、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒等の有機溶媒中で、繰り返し単位(a3)の水酸基にジカルボン酸の酸無水物を反応させてエステル化を行い、その後、溶媒を水に転相することが好ましい。
繰り返し単位(a4)において、p=0、かつq=0または1であることが好ましく、p=0かつq=0であることがより好ましい。
【0031】
繰り返し単位(a4)におけるRはメチレン基、エチレン基、プロピレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
繰り返し単位(a4)における−NHZは、−NH(CH、−NH(C、−NH(CHCHOH)、−NH(CH,−NH(C、−NHが好ましく、−NH(C、−NHがより好ましい。
【0032】
含フッ素共重合体(A)の繰り返し単位全体のうち、繰り返し単位(a4)の含有割合は、0.4〜7モル%であり、好ましくは1.4〜6モル%である。
繰り返し単位(a4)の含有割合が上記範囲であると、水への溶解性または分散性に優れ、水中での安定性に優れる。
含フッ素共重合体(A)の一分子中に存在する繰り返し単位(a4)は1種でもよく、2種以上でもよい。
【0033】
含フッ素共重合体(A)における繰り返し単位(a2)、繰り返し単位(a3)、繰り返し単位(a4の組み合わせとして、繰り返し単位(a2)が式(a2)におけるjおよびkがいずれも0であるビニルエーテルであり、繰り返し単位(a3)が式(a3)におけるmおよびnがいずれも0であるビニルエーテルであり、かつ繰り返し単位(a4)が式(a4)におけるpおよびqがいずれも0であるビニルエーテルであることが、フルオロオレフィンとの交互共重合性が良好であり、耐候性も良好となる点でより好ましい。
【0034】
含フッ素共重合体(A)は、繰り返し単位(a1)、繰り返し単位(a2)、繰り返し単位(a3)、繰り返し単位(a4)以外の繰り返し単位(以下、その他の繰り返し単位という。)を、20モル%以下の含有割合で含んでいてもよい。その他の繰り返し単位としては、エチレン性単量体に基づく繰り返し単位が挙げられる。
含フッ素共重合体(A)の特に好ましい構成は、繰り返し単位(a1)が45〜55モル%、繰り返し単位(a2)が14〜45.6モル%、繰り返し単位(a3)が8〜25モル%、繰り返し単位(a4)が1.4〜6モル%であって、その他の繰り返し単位を含有しない構成である。
【0035】
含フッ素共重合体(A)の質量平均分子量(Mw)は、3,000〜200,000が好ましい。含フッ素共重合体(A)のMwが上記範囲の下限値以上であると、形成される塗膜の良好な耐候性が得られやすい。また、含フッ素共重合体(A)のMwが上記範囲の上限値以下であると、水性塗料の粘度が適度となり良好な取扱い性が得られやすい。含フッ素共重合体(A)のMwは、ポリスチレンを標準物質として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される値である。
【0036】
<その他の合成樹脂>
本発明の水性塗料には、含フッ素共重合体(A)以外の他の合成樹脂が、含フッ素共重合体(A)と共に水に分散または溶解していてもよい。
他の合成樹脂としては、フッ素系樹脂、フェノール系樹脂、アルキド系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂などの合成樹脂が挙げられる。
フッ素系樹脂としては、特許第2955336号に記載のフルオロオレフィンに基づく繰り返し単位および親水性部位を有するマクロモノマーに基づく繰り返し単位を必須構成成分とする含フッ素共重合体が挙げられる。ここで、親水性部位とは、親水性基を有する部位、または親水性の結合を有する部位、およびこれらの組合せからなる部位を意味する。また、マクロモノマーとは片末端にラジカル重合性不飽和基を有する低分子量のポリマーまたはオリゴマーのことである。この含フッ素共重合体を含有させた場合は、水性塗料組成物の機械的安定性および化学的安定性が改良される点で好ましい。
【0037】
本発明の水性塗料において、水に分散または溶解している合成樹脂中に占める含フッ素共重合体(A)の比率は、10〜100質量%が好ましく、50〜100質量%がより好ましい。
含フッ素共重合体(A)以外の他の合成樹脂として、フッ素系樹脂以外の合成樹脂を用いる場合は、優れた耐候性を付与する観点から含フッ素共重合体(A)の比率を55質量%以上とすることが好ましい。
【0038】
本発明の水性塗料は、有機溶媒を含まないもの、または有機溶媒を含み、水性塗料用組成物の全質量中における有機溶媒の含有量が10質量%以下であるもの、好ましくは3質量%以下であるもののいずれかであることが好ましい。
含有し得る有機溶媒としては、例えば、含フッ素共重合体(A)の製造工程(例えばエステル化工程)で用いる有機溶媒が残留したものが挙げられる。
【0039】
<ブロックポリイソシアネート化合物>
本発明で用いるブロックポリイソシアネート化合物は、ブロック化剤とポリイソシアネート化合物とを反応させて、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を保護した反応物である。
ポリイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート類;m−またはp−フェニレンジイソシアネート、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネート−3,3’−ジメチルジフェニルなどの芳香族ポリイソシアネート類;ビス−(イソシアネートシクロヘキシル)メタン、イソホロンジイソシアネートなどの脂環式ポリイソシアネート類;クルードトリレンジイソシアネート、クルードジフェニルメタンジイソシアネートなどのクルードポリイソシアネート類;カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリオール変性ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリオール変性ヘキサメチレンジイソシアネートなどの変性ポリイソシアネート類が挙げられる。
【0040】
これらのポリイソシアネート類はビューレット型、イソシアヌレート環型、ウレトジオン型等により、2量体または3量体になっているものであってもよい。
【0041】
ブロック化剤としては、アルコール類、フェノール類、カプロラクタム類、オキシム類、活性メチレン化合物類などが例示される。これらのうち低温で解離するものが、未硬化膜を硬化させる際の加熱温度を低くできる点で好ましい。
通常、ブロック化剤は140℃以上で解離するものが多いが、低温解離型としては120℃以下で解離するものが良く、この様な性質のブロック化剤としては、炭素数1〜3のアルキル基を1個または2個有するピラゾール誘導体が挙げられる。なかでもジメチルピラゾールが好ましく、3,5−ジメチルピラゾールがより好ましい。
【0042】
ブロックポリイソシアネート化合物の好ましい具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネートを、3,5−ジメチルピラゾールでブロックしたBaxenden社製のTrixene7986(製品名)、DP9C/214(製品名)などが挙げられる。
ブロックポリイソシアネート化合物は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
本発明の水性塗料において、含フッ素共重合体(A)における水酸基と、ブロックポリイソシアネート化合物のイソシアネート基のモル比(NCO/OH)は、0.05〜2.0が好ましく、さらには0.2〜1.0であることがより好ましい。
該モル比(NCO/OH)が上記範囲の上限値以下であると良好な耐候性や付着性が得られやすい。下限値以上であると良好な耐溶剤性や塗膜硬度が得られやすい。
本発明の水性塗料は、硬化剤としてブロックポリイソシアネート化合物を含む。含フッ素共重合体(A)の水酸基と、ブロックポリイソシアネート化合物のイソシアネート基が反応することにより、含フッ素共重合体(A)が架橋して硬化する。
本発明の水性塗料において、水に分散または溶解している合成樹脂と硬化剤の合計の固形分濃度は、3〜50質量%であることが好ましく、30〜50質量%であることがより好ましい。
【0044】
<硬化触媒>
本発明で使用する硬化触媒は、水分散性または水溶性を有し、水中に含フッ素共重合体(A)が分散または溶解している液に添加混合したときに、該液の均一性を損なわずの沈殿物を生じ難いものが好ましい。各種樹脂の硬化触媒として公知の化合物から適宜選択して用いることができる。
含フッ素共重合体(A)およびブロックポリイソシアネート化合物を含む、本発明の水性塗料において、含フッ素共重合体(A)の溶解安定性または分散安定性を保ちつつ、良好な硬化促進効果が得られやすい硬化触媒の例としては、以下の化合物が挙げられる。
1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7のギ酸塩、フェノール塩、オクチル酸塩、オレイン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等のジアザビシクロウンデセン系触媒;
チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンジ−n−ブトキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩等の有機チタン系触媒;
p−トルエンスルホン酸アミン塩、ドデシルベンゼンスルホン酸アミン塩、ジノニルナフタレンスルホン酸アミン塩、ジノニルナフタレンジスルホン酸アミン塩、アルキルリン酸アミン塩等の、有機酸アミン塩;
トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルアミノヘキサノール等のアミン系触媒。
【0045】
これらの硬化触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。より強度が高い塗膜(硬化膜)が得られやすい点で、2種以上を併用することが好ましい。
例えば、ジアザビシクロウンデセン系触媒から選ばれる1種以上と、有機チタン系触媒から選ばれる1種以上を併用することが好ましい。
またはジアザビシクロウンデセン系触媒から選ばれる1種以上と、有機酸アミン塩系触媒から選ばれる1種以上を併用することが好ましい。
特に、ジアザビシクロウンデセン系触媒として、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7のギ酸塩を用い、これと有機チタン系触媒から選ばれる1種以上、または有機酸アミン塩系触媒から選ばれる1種以上とを併用することがより好ましい。
有機チタン系触媒としては、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)が特に好ましい。
有機酸アミン塩としては、ドデシルベンゼンスルホン酸アミン塩、U−CAT 18X(製品名、サンアプロ社製、特殊アミン塩)が特に好ましい。
【0046】
本発明の水性塗料における硬化触媒の含有量は0.001〜3.0質量%が好ましく、0.001〜1.0質量%がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると、良好な硬化促進効果が得られやすく、上記範囲の上限値以下であると良好な貯蔵安定性が得られやすい。
【0047】
<その他の成分>
本発明の水性塗料は、造膜助剤、表面調整剤、増粘剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤等の添加剤を適宜含有することが好ましい。
造膜助剤としては、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノ(2−メチルプロピオネート)、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。造膜助剤を含有させる場合、その含有量は、含フッ素共重合体(A)とその他の合成樹脂の合計(固形分)の100質量部に対し、3質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましい。
表面調整剤としては、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性シロキサン等が好ましく挙げられる。
増粘剤としては、ポリウレタン系会合性増粘剤等が好ましく挙げられる。
【0048】
紫外線吸収剤としては、公知の種々のものが使用できる。特に透明塗料として上塗り塗装で用いる場合に適した紫外線吸収剤としては、
サリチル酸メチル、サリチル酸フェニル、サリチル酸クレジル、サリチル酸ベンジル等のサリチル酸エステル類;
2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−5−クロロベンゾフェノン、2−アミノベンゾフェノン、アデカ・アーガス社製のT−57として販売されているような高分子量変性品等のベンゾフェノン類;
2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−ネオペンチルフェニル)ベンゾトリアゾール、チバ・ガイギー社製のチヌビン900、1130として販売されているような高分子量変性品等のベンゾトリアゾール類;
2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸エチル、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸2−エチルヘキシル、α−シアノ−β−メチル−4−メトキシ桂皮酸メチル等の置換アクリロニトリル類;
2,2’−チオビス(4−オクチルフェノレート)ニッケル錯塩、{2,2’−チオビス(4−t−オクチルフェノラート)}−n−ブチルアミン・ニッケル錯塩等のニッケル錯塩;
p−メトキシベンジリデンマロン酸ジメチル、レゾルシノールモノ安息香酸エステル、ヘキサメチルリン酸トリアミド、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン等の紫外線吸収剤;およびビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン)セバケート、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)等があり、これらは1種または2種以上の混合物として組み合わせて用いることもできる。
【0049】
紫外線吸収剤は、含フッ素共重合体(A)とその他の合成樹脂の合計(固形分)の100質量部あたり0.1〜15質量部、特には0.1〜5質量部の範囲で使用することが好ましい。紫外線吸収剤の量が少なすぎる場合においては、耐光性の改良効果が充分に得られず、また、多すぎる場合には、その効果が飽和してしまい、適当とはいえない。
【0050】
光安定剤としてはアデカアーガス社製のMARK LA 57,62,63,67,68(いずれも製品名)、チバ・ガイギー社製のチヌビン622LD(製品名)などのようなヒンダードアミン系の光安定剤が挙げられる。これらは、1種または2種以上の混合物として紫外線吸収剤と組み合わせて用いることもできる。
【0051】
消泡剤としては、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸塩類、液体脂肪油硫酸エステル類、脂肪族アミンおよび脂肪族アミドの硫酸塩類、脂肪族アルコールリン酸エステル類、二塩基性脂肪酸エステルのスルホン酸塩類、脂肪酸アミドスルホン酸塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類、ホルマリン縮合のナフタリンスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、アクリル系ポリマー、シルコーン混合アクリル系ポリマー、ビニル系ポリマー、ポリシロキサン化合物などが挙げられる。
消泡剤の消泡効果は親水基と疎水基のバランス(HLB価)で左右され、HLBが6以下、特に4以下のものが好ましく採用される。
【0052】
なお、塗膜の光沢を調整する必要がある場合は、常用の無機または有機のツヤ消剤を添加すればよい。
また、着色が必要な場合には、市販の有機顔料、無機顔料、有機染料、これらを複合化した顔料もしくは染料等の着色材を分散若しくは混合添加すればよい。
【0053】
<塗膜の製造方法>
本発明の塗膜の製造方法は、本発明の水性塗料を、基材上に塗布して未硬化膜を形成する工程と、該未硬化膜を加熱して硬化させる工程を有する。
本発明の水性塗料の基材上への塗布は、ロールコーター、バーコーター等の公知の方法を採用することができる。
未硬化膜を加熱する際の加熱温度は、水の沸点以上が好ましく、ブロックポリイソシアネート化合物のブロック化剤が解離する温度(解離温度)以上とする。上限は、水性塗料中の成分の熱分解が生じない温度範囲とする。
例えば、硬化剤が、解離温度が120℃以下である低温解離型のブロックポリイソシアネート化合物である場合、加熱温度は110〜250℃が好ましい。加熱温度が高いほど、未硬化膜の乾燥および硬化は速く進む。加熱時間は、加熱温度に応じて、好ましい硬化状態が得られる時間に設定することができる。
本発明の水性塗料は短時間の加熱で硬化させることができ、数分間(例えば2〜5分間)の加熱でも硬化させることが可能である。
【0054】
本発明の水性塗料を塗装する基材(被塗物)としては以下のものが例示できる。またこれらの基材の表面に他の層が形成されたものを基材とし、該他の層上に本発明の水性塗料を塗布してもよい。
コンクリート、自然石、ガラス等の無機物、鉄、ステンレス、アルミニウム、チタン材等の金属、プラスチック、ゴム、プラスチックフィルム、木材等の有機物が挙げられる。また、有機無機複合材であるFRP、樹脂強化コンクリート、繊維強化コンクリート等も挙げられる。
本発明の水性塗料は硬化時間が短い、または硬化温度が低いので、耐熱性の低い基材へ短時間の工程で塗工することができる。例えばインライン塗装においても好適に用いることができる。また膜形成成分として含フッ素共重合体が用いられているため、塗膜の耐候性に優れる。
したがって、例えば、内外壁パネルや躯体、床材等への建築分野や土木分野、また、自動車分野、電子材料分野、太陽電池分野等に使われるプラスチックフィルムに塗工される塗料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
下記表に示す各成分は以下の通りである。
[合成樹脂]
含フッ素樹脂(A1)水性液:下記調製例1で製造した含フッ素樹脂(A1)の水性液(固形分40質量%)。
[硬化剤]
ブロックポリイソシアネート化合物:TrixeneDP9C/214(製品名、Baxenden社製、ヘキサメチレンジイソシアネートと3,5−ジメチルピラゾール(ブロック化剤)との反応物、解離温度110〜120℃、固形分40質量%、溶媒は水およびCoasol混合液。なおCoasolとはジカルボン酸とジイソブチルエーテルの混合物である)。
ポリイソシアネート化合物(比較例):デュラネートWB40−80D(製品名、旭化成ケミカルズ社製、ヘキサメチレンジイソシアネートのエチレングリコールジエチルエーテル溶液、固形分80質量%)。
オキサゾリン含有ポリマー(比較例):エポクロスWS−700(製品名、日本触媒社製、オキサゾリン基(CNO)を側鎖に有するアクリルポリマーの水溶液、固形分25質量%)。
【0056】
[硬化触媒]
ジアザビシクロウンデセンギ酸塩:U−CAT SA 603(製品名、サンアプロ社製)
特殊アミン塩:U−CAT 18X(製品名、サンアプロ社製、有効成分約96質量%、1〜5%のメタノールを含む)。
トリエチレンジアミン:カオーライザーNo.31(製品名、花王ケミカル社製、ジプロピレングリコール溶液、有効成分33質量%)。
チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート):オルガチックスTC−400(製品名、マツモトファインケミカル社製、2−プロパノール溶液、有効成分80質量%)。
ドデシルベンゼンスルホン酸アミン塩:NACURE 5925(製品名、キングインダストリー社製、有効成分34質量%、58.5%のイソプロピルアルコールを含む)。
[造膜助剤]
ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート。
【0057】
<製造例1:含フッ素共重合体(A1)水性液の製造>
旭硝子社製の塗料用フッ素樹脂ルミフロンフレーク(クロロトリフルオロエチレン/エチルビニルエーテル/シクロヘキシルビニルエーテル/ヒドロキシブチルビニルエーテル(モル%比が50/15/15/20、水酸基価100mgKOH/g、Mw7000)を、メチルエチルケトン(MEK)に溶解させて固形分60質量%のワニスを得た。
このワニス300質量部に、無水こはく酸の20質量%アセトン溶液の19.3質量部、および触媒としてトリエチルアミンの0.072質量部を加え、70℃で6時間反応させエステル化した。反応液の赤外吸収スペクトルを測定したところ、反応前に観測された無水こはく酸のカルボニル基の特性吸収(1850cm−1、1780cm−1)が反応後では消失しており、カルボン酸(1710cm−1)およびエステル基(1735cm−1)の吸収が観測された。エステル化後の含フッ素共重合体の酸価は12mgKOH/g、水酸基価は86mgKOH/gであった。この酸価と水酸基価の値によれば、ヒドロキシブチルビニルエーテルの繰り返し単位20モル%の内、約2.4モル%がエステル化されたこととなる。
【0058】
次に、エステル化後の含フッ素共重合体に、トリエチルアミンの2.73質量部を加え室温で20分攪拌しカルボン酸の一部を中和し、次いでイオン交換水の180質量部を徐々に加えた。これにより、エステル化されカルボキシ基が導入された繰り返し単位、約2.4モル%の内、約1.7モル%を中和した。
その後に、アセトンおよびメチルエチルケトンを減圧留去した。さらにイオン交換水の約90質量部を加えて、固形分濃度40質量%の水性液を得た。本例の原料組成およびエステル化後の酸価と水酸基価の値から求めた、水性液中の含フッ素共重合体(A1)の各構成単位のモル%は以下の通りである。本例で得た含フッ素樹脂(A1)水性液は有機溶媒を含まない。
クロロトリフルオロエチレンに基づく繰り返し単位:50モル%、
エチルビニルエーテルに基づく繰り返し単位とシクロヘキシルビニルエーテルに基づく繰り返し単位の合計:30モル%、
ヒドロキシブチルビニルエーテルに基づく繰り返し単位:17.6モル%、
エステル化されたヒドロキシブチルビニルエーテルに基づく繰り返し単位の内、中和されていないもの:0.7モル%、
エステル化されたヒドロキシブチルビニルエーテルに基づく繰り返し単位の内、中和されたもの:1.7モル%。
【0059】
<例1〜9、例21〜23>
例1〜9は実施例、例21〜23は比較例である。
表1に示す配合で、含フッ素共重合体(A1)の水性液(固形分濃度40質量%)、硬化剤、硬化触媒、造膜助剤を混合し、水を加えて全量を100質量部とし、水性塗料を得た。なお、表1中の配合量の単位は質量部である。表1に記載した配合量は、含フッ素共重合体(A1)水性液以外は固形分量(有効成分量)である。
表には、含フッ素共重合体(A1)の水酸基と、ブロックポリイソシアネート化合物のイソシアネート基のモル比(NCO/OH)の値を示す。例23については、含フッ素共重合体(A1)の水酸基と、オキサゾリン基含有ポリマーのオキサゾリン基とのモル比(CNO/COOH)の値を、カッコ( )を付して示す。
なお表1の組成において、造膜助剤以外の成分の有機溶媒含有量は極微量であるため、造膜助剤量と水性塗料中の有機溶媒量とはほぼ等しい。
【0060】
得られた水性塗料の貯蔵安定性を下記の方法で評価した。結果を表1に示す。
下記の方法で、水性塗料を用いて塗膜を形成し、該塗膜の強度を評価した。結果を表1に示す。
<貯蔵安定性の評価方法>
水性塗料を50℃の定温乾燥器内で3日間保存した後、ゲル化の有無を目視で観察した。保存前と比べて変化がなく、ゲル化が生じていない場合を○、ゲル化が見られたものを×とした。
【0061】
<塗膜強度の評価方法>
水性塗料をバーコーターを用いてアルミ板上に塗布し未硬化膜を形成した後、160℃の定温乾燥器内で3分間乾燥させて、乾燥膜厚が約5μmの塗膜を形成した。下記の条件で、キシレンラビング試験(キシレンを染み込ませたウェスで塗膜表面を指定往復回数擦る試験)を行った後、外観を観察して下記の基準で評価した。キシレンラビング試験で塗膜の溶解が少ないほど耐溶剤性が高いことを示し、擦り傷が残りにくいほど、膜の硬度が高いことを示す。
条件A:乾燥終了直後から10分以内に、キシレンラビング試験を20往復で行った。
条件B:乾燥終了直後から24時間、23℃の恒温室で養生させた後にキシレンラビング試験を100往復で行った。
(評価基準)
1:塗膜が全部溶解した。
2:塗膜の一部が溶解した。
3:塗膜は溶解せず、明らかに擦り傷が残った。
4:塗膜は溶解せず、わずかに擦り傷が残った。
5:塗膜は溶解せず、擦り傷も残らなかった。
【0062】
【表1】

【0063】
表1の結果に示されるように、硬化剤としてブロックポリイソシアネート化合物を用いるとともに、硬化触媒を含有させた例1〜9の水性塗料は、一液型でありながら貯蔵安定性が良好であり、160℃、3分間の加熱で良好に硬化し、得られた塗膜は良好な耐溶剤性を示した。
これらのうち、2種類の硬化触媒を併用した例6〜9は塗膜の硬度にも優れており、特に、ジアザビシクロウンデセン系触媒と有機チタン系触媒を組み合わせて使用した例7〜9では、過酷なラビング試験(条件B、100往復)にも耐えうる、硬度が高い塗膜が得られた。
一方、硬化触媒を含有させなかった例21、23は、160℃、3分間の加熱では十分に硬化せず、20往復のキシレンラビング試験で塗膜が溶解してしまった。
硬化剤としてブロック化されていないポリイソシアネート化合物を用いた例22の水性塗料は、貯蔵安定性が悪くゲル化したため、塗膜の評価は行わなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に、下記含フッ素共重合体(A)を含む合成樹脂が分散又は溶解している一液硬化型水性塗料であって、
硬化剤として、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基が保護されたブロックポリイソシアネート化合物を含有するとともに、硬化触媒を含有し、かつ、有機溶媒を該一液硬化型水性塗料の全質量中10質量%以下含有する、または有機溶媒を含まないことを特徴とする一液硬化型水性塗料。
含フッ素共重合体(A):式(a1)で表される繰り返し単位40〜60モル%、式(a2)で表される繰り返し単位3〜50モル%、式(a3)で表される繰り返し単位4〜30モル%、および式(a4)で表される繰り返し単位0.4〜7モル%を含み、該式(a1)、式(a2)、式(a3)、式(a4)で表される各繰り返し単位の合計モル%の値が80モル%以上である、含フッ素共重合体。
−CFX−CX− ・・・式(a1)
[ただし、式(a1)において、XおよびXは、それぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子であり、Xは塩素原子、フッ素原子または−CY(Y、Y、Yはそれぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子である。)である。]
【化1】

[ただし、式(a2)において、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜12のアルキル基、または炭素数4〜10の1価の脂環式炭化水素基であり、jは0〜8の整数、kは0または1である。]
【化2】

[ただし、式(a3)において、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、または炭素数4〜10の2価の脂環式炭化水素基であり、mは0〜8の整数、nは0または1である。]
【化3】

[ただし、式(a4)において、Rb1は水素原子またはメチル基、R21は炭素数1〜10のアルキレン基、または炭素数4〜10の2価の脂環式炭化水素基であり、Rは炭素数2〜10のアルキレン基または炭素数4〜10の2価の脂環式炭化水素基であり、Rは水素原子または−NHZ(Z、Z、Zはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基である。)であって、少なくとも一部のRは−NHZであることを必須とし、pは0〜8の整数、qは0または1である。]
【請求項2】
前記ブロックポリイソシアネート化合物が、炭素数1〜3のアルキル基を1個または2個有するピラゾール誘導体からなるブロック化剤と、ポリイソシアネート化合物との反応物である、請求項1に記載の一液硬化型水性塗料。
【請求項3】
前記硬化触媒が、ジアザビシクロウンデセン系触媒、有機チタン系触媒、有機酸アミン塩系触媒、およびアミン系触媒からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1または2に記載の一液硬化型水性塗料。
【請求項4】
前記硬化触媒が、ジアザビシクロウンデセン系触媒から選ばれる1種以上と、有機チタン系触媒から選ばれる1種以上を含む、請求項3に記載の一液硬化型水性塗料。
【請求項5】
前記硬化触媒が、ジアザビシクロウンデセン系触媒から選ばれる1種以上と、有機酸アミン塩系触媒から選ばれる1種以上を含む、請求項3に記載の一液硬化型水性塗料。
【請求項6】
一液硬化型水性塗料に含まれる、前記含フッ素共重合体(A)の水酸基と、前記ブロックポリイソシアネート化合物のイソシアネート基のモル比(NCO/OH)が0.05〜2.0である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の一液硬化型水性塗料。
【請求項7】
前記含フッ素共重合体(A)において、前記式(a2)におけるjおよびkがいずれも0であり、前記式(a3)におけるmおよびnがいずれも0であり、前記式(a4)におけるpおよびqがいずれも0である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の一液硬化型水性塗料。
【請求項8】
前記含フッ素共重合体(A)において、前記式(a4)で表される繰り返し単位の含有割合が1.4〜6モル%である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の一液硬化型水性塗料。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の一液硬化型水性塗料を基材上に塗布して未硬化膜を形成する工程と、該未硬化膜を加熱して硬化させる工程を有する、塗膜の製造方法。

【公開番号】特開2013−10822(P2013−10822A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142953(P2011−142953)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000116954)AGCコーテック株式会社 (24)
【Fターム(参考)】