説明

一軸延伸積層フィルム

【課題】 裂け性と層間密着性に優れ、ヒートシール性を有する積層フィルムを提供する。
【解決手段】 ポリ乳酸系重合体を主成分とする基材層の少なくとも一方に、乳酸含有量が5重量%以下の脂肪族ポリエステルを85重量%以上含む組成物からなる層を有する共押出積層フィルムであり、動的粘弾性測定における貯蔵弾性率(E´)のフィルム面内の一方向の値が当該方向と直交する方向の値の1.4倍以上であることを特徴とする一軸延伸積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然植物由来の樹脂である乳酸系重合体を基材層とするフィルムに関するものであり、詳しくは、ヒートシール性を有する一軸延伸積層フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明性とヒートシール性に優れたプラスチックフィルムが、食品保存用袋を典型的な例とする一般包装材用途を始め、漁業用、農業用、建築用、医療用などの広い分野で要求されている。
【0003】
透明性については、通常、光線透過率によって表すことができ、透過率が高いものほど透明性に優れている。透明性に優れたフィルムは、内容物を外側から見ることができるので、包装材料として好んで使用される。
【0004】
また、ヒートシールとは、加熱バーや加熱板あるいは加熱ロール等を用いてフィルムを重ね合わせ、その接触部を熱と圧力で接合する方法をいう。
【0005】
ところで、従来のプラスチック製品に広く使用されているプラスチック(熱可塑性樹脂)材料としては、ポリエチレン、ポリアミド、ポリスチレンなどが挙げられるが、これらの材料は石油等の有限な資源を原料として用いており、それらの資源の枯渇が懸念されている。さらに、これら石油等の資源は、長い歴史をかけて地球上の炭素が固定化されてできてきた物質であり、これらから得られた樹脂を廃棄・焼却等処分する際に、大量の二酸化炭素が発生し、二酸化炭素の増加による地球環境の悪化、温暖化が心配されている。
【0006】
一方、生物由来の原料であれば、その生成過程において二酸化炭素やメタンの取り込み・固定が行われ、循環利用できるという点、非枯渇資源であるという点で石油系資源よりも優れている。生物由来原料としては、多様な材料が開発されてきており、特にポリ乳酸については、とうもろこしからの大量生産方法が確立し、量産が可能であるばかりか、当該材料は透明性に優れているため、包装フィルムの原料としても注目されており、乳酸系重合体を原料に用いた包装フィルムの研究開発が行われている。
【0007】
特許文献1および2には、ポリ乳酸を主成分とする基材層の少なくとも片面に、ヒートシール層として脂肪族ポリエステルを主成分とする層を有するヒートシール性フィルムが開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法は、ポリ乳酸を主成分とする基材層が二軸延伸されているため、ヒートシールによって得られた袋を開封する際の裂け性が不十分になってしまうという問題がある。また、基材層と脂肪族ポリエステルを主成分とするヒートシール層とを貼り合わせるため、製膜工程が多くなってしまうことに加え、層間密着性が不十分になってしまうという問題もある。
【0009】
特許文献2に記載のフィルムは、ヒートシール層を共押出によって積層しているため、層間密着性において優れてはいるが、フィルムが二軸延伸されているため、やはりヒートシールによって得られた袋を開封する際の裂け性が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−122289号公報
【特許文献2】特開2004−306482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その解決課題は、裂け性と層間密着性に優れたヒートシール性一軸延伸積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成を有するフィルムによれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は、ポリ乳酸系重合体を主成分とする基材層の少なくとも一方に、乳酸含有量が5重量%以下の脂肪族ポリエステルを85重量%以上含む組成物からなる層を有する共押出積層フィルムであり、動的粘弾性測定における貯蔵弾性率(E´)のフィルム面内の一方向の値が当該方向と直交する方向の値の1.4倍以上であることを特徴とする一軸延伸積層フィルムに存する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、裂け性と層間密着性に優れた積層フィルムを容易に提供することができ、本発明の工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のフィルムは、ポリ乳酸系重合体を主成分とする基材層と、所定の脂肪族ポリエステルを主成分とするヒートシール層との共押出積層体であり、共押出により製膜し、さらにフィルムを1方向のみに通常1.5倍〜5倍延伸することによって得られ、動的粘弾性測定(周波数10Hz、温度20℃で測定)における貯蔵弾性率(E´)が、フィルム面内の一方向における値が当該方向と儲皇する方向の値の1.4倍以上である一軸延伸積層フィルムである。
【0016】
本発明において使用されるポリ乳酸系重合体は、L−、D−またはDL−乳酸単位を主成分とする重合体であって、少量共重合成分として他のヒドロキシカルボン酸単位を含んでもよく、また少量の鎖延長剤残基を含んでもよい。
【0017】
ポリ乳酸系重合体の重合法としては、縮重合法、開環重合法等公知の方法を採用することができる。例えば、縮重合法では、L−乳酸またはD−乳酸あるいはこれらの混合物を直接脱水縮重合して、任意の組成を持ったポリ乳酸を得ることができる。
【0018】
また、開環重合法(ラクチド法)では、乳酸の環状2量体であるラクチドを、必要に応じて重合調節剤等を用いながら、選ばれた触媒を使用してポリ乳酸を得ることができる。
【0019】
ポリ乳酸に共重合されるモノマーとしては、乳酸の光学異性体(L−乳酸に対しては、D−乳酸、D−乳酸に対しては、L−乳酸)、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
【0020】
本発明において使用されるポリ乳酸系重合体の重量平均分子量の好ましい範囲としては6万〜70万であり、より好ましくは8万〜40万、特に好ましくは10万〜30万である。分子量が小さすぎると機械物性や耐熱性等の実用物性が発現されないことがあり、分子量が大きすぎると溶融粘度が高すぎて成形加工性に劣る傾向がある。
【0021】
本発明において使用される所定の脂肪族ポリエステルは、例えば、下記式(1)で示される構造を有し、脂肪族(脂環族も含む。以下同じ。)ジカルボン酸単位および脂肪族ジオール単位を主成分とする重合体である
【0022】
【化1】

【0023】
なお、上記式中、RおよびRは、炭素数2〜10のアルキレン基またはシクロアルキレン基である。nは、重量平均分子量が2万〜30万となるのに必要な重合度である。n個のR1またはRは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0024】
また、上記式中のエステル結合残基に代えて、ウレタン結合残基および/またはカーボネート結合残基を重量平均分子量の5%まで含有することができる。このウレタン結合残基やカーボネート結合残基は、鎖延長剤による残基である。
【0025】
上記脂肪族カルボン酸成分としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、またはこれらの無水物や誘導体が挙げられる。一方、脂肪族アルコール成分としては、エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、シクロペンタンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族ジオール、またはこれらの誘導体が挙げられる。いずれも、炭素数2〜10のアルキレン基またはシクロアルキレン基を持つ、2官能性化合物を主成分とするものが好ましい。もちろん、これらカルボン酸成分あるいはアルコール成分のいずれにおいても、2種類以上用いても構わない。
【0026】
また、溶融粘度の向上のため、ポリマー中に分岐を設けることもでき、例えば3官能以上のカルボン酸、アルコールあるいはヒドロキシカルボン酸を用いても構わない。具体的には、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸あるいはペンタエリスリットやトリメチロールプロパン等の多官能性成分を用いることができる。これらの成分は多量に用いると、得られるポリマーが架橋構造を持ち、熱可塑性でなくなったり、熱可塑性であっても部分的に高度に架橋構造を持ったミクロゲルが生じ、フィルムにしたときフィッシュアイとなったりする恐れがある。したがって、これらの多官能性成分が、ポリマー中に含まれる割合は、ごくわずかで、ポリマーの化学的性質、物理的性質を大きく左右しない程度に制限すべきである。
【0027】
さらに必要に応じ、少量共重合成分として、テレフタル酸のような非脂肪族ジカルボン酸および/またはビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のような非脂肪族ジオールや、乳酸および/または乳酸以外のヒドロキシカルボン酸を用いてもよい。
【0028】
さらにまた、上記の脂肪族ジカルボン酸単位と脂肪族ジオール単位や、上記の各少量共重合成分以外に、他の少量共重合体モノマーとして、乳酸および/または乳酸以外のヒドロキシカルボン酸単位を用いてもよい。
【0029】
上記所定の脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は、2万〜30万の範囲が良く、10万〜25万が好ましい。重量平均分子量が2万より小さいとポリマーとしての性質が劣る傾向があり、特にヒートシール性の向上が期待できないことがあり、経時的にフィルム表面にブリードするなどの不具合が生じることがある。また、重量平均分子量が30万より大きいと、溶融粘度が高くなりすぎて、フィルムにするときの押出成形性の低下を招くことがある。
【0030】
これらの分子量に調整する目的で、先述したようにオリゴマー程度に重合した後に少量の鎖延長剤を用いることもできる。鎖延長剤としては、脂肪族ポリエステルの末端構造となるカルボキシル基または水酸基と反応する官能基を2個以上有する化合物が上げられる。代表例として、トリレン−2,4−ジイソシアネート、トリレン−2,6−ジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物や、ビスフェノールA等のジフェノール化合物がある。これらが反応するとポリマー構造中にそれぞれウレタン結合残基、カーボネート結合残基として含まれる。これらの構造中に含まれる割合は、重量平均分子量の5%までであり、これを超えると、脂肪族ポリエステルとしての特徴(結晶性、融点、物性、生分解性等)が損なわれるおそれがある。
【0031】
なお、耐衝撃性の改良効果、耐寒性の点から、脂肪族ポリエステルのガラス転移点(Tg)は0℃以下であることが好ましい。
【0032】
特に好適な脂肪族ポリエステルとしては、例えばポリエチレンスベレート、ポリエチレンセバケート、ポリエチレンデカンジカルボキシレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンセバケート、ポリブチレンサクシネート/アジペートやこれらの共重合体が挙げられ、最も好ましくは1,4−ブタンジオール、コハク酸、アジピン酸を主成分とする共重合体が挙げられる。コハク酸は生物由来原料からの大量生産方法も確立し、さらに1,4ブタンジオールもそのコハク酸から生産される技術は確立している。したがって、両者共に生物由来原料を用いて、100%生物由来であるポリブチレンサクシネートが生産できるようになってきた。現段階では工業的にはコハク酸のみ生物由来原料であるポリブチレンサクシネートが入手可能であり、近い将来は100%生物由来原料のポリブチレンサクシネート(PBS)の入手が期待できる。コハク酸のみが植物由来であるポリブチレンサクシネート(PBS)は、例えば、商品名「GSPla」(三菱化学社製)を商業的に入手可能である。
【0033】
上記所定の脂肪族ポリエステルを調整するには、直接法、間接法等公知の方法を採用することができる。例えば、直接法は、脂肪族カルボン酸成分と脂肪族アルコール成分を、これらの成分中に含まれる、あるいは重合中に発生する水分を除去しながら、直接重合して高分子量物を得る方法である。間接法は、オリゴマー程度に重合した後、上記ポリ乳酸系重合体の場合と同様、少量の鎖延長剤を使用して高分子量化する間接的な製造方法である。
【0034】
本発明で使用される所定の脂肪族ポリエステルとしては、上述した所定の脂肪族ポリエステル(以下、「第1脂肪族ポリエステル」と称する。)以外に、上記ポリ乳酸系重合体と第1脂肪族ポリエステルとのブロック共重合体(その一部エステル交換生成物、少量の鎖延長剤残基を含んだ生成物も含む)を含む。
【0035】
このブロック共重合体は、任意の方法で調整することができる。例えば、ポリ乳酸系重合体または第1脂肪族ポリエステルのいずれか一方を別途重合体として準備しておき、この重合体の存在下に他方の構成モノマーを重合させる。通常は、あらかじめ準備した脂肪族ポリエステルの存在下でラクチドの重合を行うことにより、ポリ乳酸と脂肪族ポリエステルのブロック共重合体を得る。基本的には、脂肪族ポリエステルを共存させる点が相違するだけで、ラクチド法でポリ乳酸系重合体を調整する場合と同様に重合を行うことができる。この時、ラクチドの重合が進行すると同時に、ポリ乳酸と脂肪族ポリエステルの間で適度なエステル交換反応が起こり、比較的ランダム性が高い共重合体が得られる。出発物質として、ウレタン結合を有する脂肪族ポリエステルウレタンを用いた場合には、エステル−アミド交換も生成する。
【0036】
本発明において、ヒートシール性フィルムの裂け性を向上させるためには、使用される所定の脂肪族ポリエステルに含まれる乳酸含有量が5重量%以下であることが必要である。乳酸含有量を5重量%以下にすることにより、脂肪族ポリエステル樹脂の結晶性が高まり、ヒートシールによって得られた袋を開封する際の裂け性が向上する。特に好ましくは、2重量%以下である。
【0037】
さらにフィルムの裂け性の向上のためには、使用される脂肪族ポリエステルを主成分とする組成物が、乳酸含有量が5重量%以下の脂肪族ポリエステルを85重量%以上含むことが必要である。上記脂肪族ポリエステルの含有量が85重量%未満である場合、ヒートシール層の結晶性の低下を招き、裂け性が不十分となってしまう。上記脂肪族ポリエステルの含有量は、95重量%以上であることが好ましい。
【0038】
本発明の脂肪族ポリエステルを主成分とする組成物には、本発明の要旨を超えない範囲で、例えば、防曇性、帯電防止性、滑り性、自己粘着性等の諸物性をさらに向上させる目的で、必要に応じて、各種添加剤をそれぞれ適宜配合することができる。各種添加剤としては、例えば、炭素数が1〜12、好ましくは1〜6の脂肪族アルコールと、炭素数が10〜22、好ましくは12〜18の脂肪酸との化合物である脂肪族アルコール系脂肪酸エステルが挙げられ、具体的には、モノグリセリンオレート、ジグリセリンモノオレート、ポリグリセリンオレート、グリセリントリリシノレート、グリセリンアセチルリシノレート、ポリグリセリンステアレート、ポリグリセリンラウレート、メチルアセチルリシノレート、エチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート、プロピレングリコールオレート、プロピレングリコールラウレート、ペンタエリスリトールオレート、ポリエチレングリコールオレート、ポリプロピレングリコールオレート、ソルビタンオレート、ソルビタンラウレート、ポリエチレングリコールソルビタンオレート、ポリエチレングリコールソルビタンラウレート等を挙げることができる。また、ポリアルキレンエーテルポリオールを用いることができ、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等を挙げることができる。さらに、パラフィン系オイル等から選ばれた化合物の少なくとも1種を添加することができる。これら添加剤の添加量は、各層を構成する樹脂成分100重量部に対して、通常0.1〜12重量部、1〜8重量部の範囲内で配合させることが好ましい。
【0039】
また、諸物性を調整する目的で、各種の配合剤、具体的には熱安定剤、光安定剤、光吸収剤、可塑剤、無機充填材、着色剤、顔料等を添加することもできる。
【0040】
本発明の包装フィルムは、ポリ乳酸系重合体を主成分とする層と、所定の脂肪族ポリエステルを主成分とする層の他に、ポリ乳酸系重合体と所定の脂肪族ポリエステルとを含有する再生層を有することができる。これらは、例えば製膜したフィルムの両端をカットしてトリミングした際に発生するトリミングロスを用いることができ、材料の無駄をなくし、材料コストの軽減を図ることができる。再生層は、ポリ乳酸系重合体を主成分とする基材層と所定の脂肪族ポリエステルを主成分とするヒートシール層との間に設けることができる。例えば、ポリ乳酸系重合体を主成分とする基材層、あるいは所定の脂肪族ポリエステルを主成分とするヒートシール層の構成を2層構成にしておき、一方の層にフィルム両端のトリミングロスをリターンすることによって、ポリ乳酸系重合体を主成分とする基材層と所定の脂肪族ポリエステルを主成分とするヒートシール層との間に再生層を設けることができる。この場合、各層の厚み比や組成比のほか、リターンを含有させる層がポリ乳酸系重合体を主成分とする基材層、あるいは所定の脂肪族ポリエステルを主成分とするヒートシール層のいずれをベースとしているかによって、2成分の混合比が調整できる。
【0041】
次に、上記ポリ乳酸系重合体と上記所定の脂肪族ポリエステルのフィルム成形法について説明する。
【0042】
まず、各層の構成原料が混合組成物である場合には、あらかじめ各層の構成原料を混合しておき、必要に応じてペレット化しておくのが好ましい。この際の混合方法としては、例えば、あらかじめ同方向二軸押出機、ニーダー、ヘイシェルミキサー等を用いてプレコンパウンドするようにしても構わないし、また、各原料をドライブレンドして直接フィルム押出機に投入するようにしても構わない。いずれの混合方法においても、原料の分解による分子量の低下を考慮する必要があるが、均一に混合させるためにはプレコンパウンドすることが好ましい。例えば中間層であれば、乳酸系重合体と、必要に応じて添加剤とをそれぞれ十分に乾燥して水分を除去した後、二軸押出機を用いて溶融混合し、ベント口から可塑剤を所定量添加しながら、ストランド形状に押出してペレットを作製すればよい。
【0043】
次に、各層の構成原料を、それぞれ別々に押出機に投入して溶融押出し、Tダイ成形またはインフレーション成形により共押出して積層すればよい。この際、実用的にはTダイより押出した溶融物をそのまま、キャスティングロールなどで急冷しながら引き取るようにしてフィルムを製膜するのが好ましい。
【0044】
フィルムの裂け性や耐熱性を重視する場合には、溶融押出シートを冷却ロールによって冷却固化した後、樹脂の結晶化温度以下に加熱し、ニップロール間の速度差を利用してフィルムの縦方向に1.5〜5倍延伸する縦延伸、もしくはフィルムの縦横両方向に1.5〜5倍に逐次二軸延伸および/または同時二軸延伸するフラット延伸法を採用するのが好ましい。延伸温度としては、押出シートの温度を30〜90℃の範囲に設定とすることが好ましく、さらに50〜80℃の範囲とすることが好ましい。延伸温度がかかる範囲内であれば、ポリ乳酸系重合体と、脂肪族ポリエステルの両方を延伸に好適な弾性率に近づけることができるため好ましい。また、延伸倍率は1.5〜5倍の範囲内とすることが好ましく、さらに1.5〜4.0倍の範囲とすることが好ましい。延伸倍率がかかる範囲内であれば、押出シートの破断や白化等のトラブルが生じることなく裂け性を向上させることができる。
【0045】
本発明の積層フィルムは、特に裂け性を重視するため、フィルムの縦方向または横方向のいずれか1方向のみに1.5〜5.0倍延伸させることが好ましい。このようにして、分子鎖の配向方向に異方性をもつフィルム、具体的には動的粘弾性測定にて周波数10Hz、温度20℃で測定した貯蔵弾性率(E´)において、延伸方向の貯蔵弾性率が、延伸方向と面内で垂直な方向の貯蔵弾性率の1.4倍以上である一軸延伸積層フィルムが得られる。
【0046】
また、生産性および/または経済性を重視する場合には、環状ダイから材料樹脂を溶融押出してインフレーション成形するのが好ましい。また、その際の冷却方法としては、チューブの外面から冷却する方法、チューブの外、内面の両面から冷却する方法のどちらでもよい。
【0047】
このようにして得られたフィルムは、熱収縮率や自然収縮率の軽減、幅収縮の発生の抑制等の目的に応じて、必要に応じて加熱ロール間での縦延伸、各種の熱固定、エージング等の熱処理を行うようにしてもよい。熱処理条件としては、熱処理温度を40〜100℃の範囲に設定することが好ましく、さらに60〜90℃の範囲とすることが好ましい。熱処理温度が40℃以上であれば熱処理の効果を十分に得ることができ、100℃以下であればフィルムがロールにべたつく等の成形性の問題を生じることがない。
【0048】
また、防曇性、帯電防止性、粘着性等を付与、促進させる目的で、コロナ処理や熟成等の処理、さらには、印刷、コーティング等の表面処理や表面加工を行ってもよい。
【0049】
得られた積層フィルムを袋状にするには、上記のポリ乳酸系重合体を主成分とする層を外層とし、上記所定の脂肪族ポリエステルを主成分とする層を内層とするように、そのフィルム端部をヒートシールすることによって作製する。上記所定の脂肪族ポリエステルを主成分とするフィルムを内層とするので、ヒートシールは、この所定の脂肪族ポリエステルを主成分とするフィルム同士のヒートシールとなる。このため、低温でのヒートシールが可能となる。具体的には、100〜150℃でヒートシールが可能となる。
【0050】
なお、本発明における数値範囲の上限値および下限値は、本発明が特定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含するものである。
【実施例】
【0051】
以下、実施例および比較例によりさらに詳しく説明するが、本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、本明細書中に表示されるフィルムについての種々の測定値および評価は次のようにして行った。
【0052】
(1)貯蔵弾性率(E’)
JIS K−7198 A法に記載の動的粘弾性測定法により、アイティー計測制御(株)製の動的粘弾性測定装置「DVA−200」を用い、フィルムの面内で最大値を有する方向と当該方向と直交する方向について、振動周波数10Hz、歪み0.1%にて、昇温速度1℃/分で−100℃から200℃まで測定し、得られたデータから温度20℃での貯蔵弾性率(E’)を求めた。
【0053】
(2)裂け性
フィルム(本実施例では積層フィルム)を幅150mm、長さ150mmに切り出し、これをヒートシール層となる脂肪族ポリエステル面同士が接触するように折り合わせた。この重ね合わせたフィルムの折り目以外の三方をシールし、三方シール袋を形成した。シールには温度制御可能な金属製の加熱バーを用いた。作製した三方シール袋をフィルム長手方向に開封し、裂け易さを以下の基準で評価した。
◎:開封時に違和感なく使用できるレベル
○:開封時に多少の抵抗を感じるが実用上問題ないレベル
×:開封時に裂けの伝搬が途中で止まり、過度の抵抗を感じるレベル。
【0054】
実施例1:
ヒートシール層を形成する樹脂組成物については、脂肪族ポリエステルとして三菱化学(株)製のポリブチレンサクシネート「GSPla AZ91T」100質量部と、防曇剤として理研ビタミン社製ジグリセリンモノオレート「リケマールO−71−D」2.0質量部とを、押出設定温度180〜200℃に設定した同方向二軸押出機に投入し、溶融混練してペレット状に加工した。他方、再生層を形成する樹脂組成物については、ポリ乳酸系重合体としてNatureWorks社製「NatureWorks4032D」(L体/D体=98.6/1.4、重量平均分子量:20万)と三菱化学(株)製のポリブチレンサクシネート「GSPla AZ91T」を用いて、質量比で80/20とし、押出設定温度180〜200℃に設定した同方向二軸押出機に投入し、溶融混練してペレット状に加工した。上記ヒートシール層を形成する樹脂組成物、再生層を形成する樹脂組成物、および基材層を形成するポリ乳酸系重合体NatureWorks社製「NatureWorks4032D」をそれぞれ別々の押出機から合流させ、三層Tダイ温度180〜200℃で共押出し、ポリ乳酸系重合体を主成分とする層を温度50℃に設定したキャストロールにて急冷固化させ、総厚み84μmの無延伸積層フィルムを得た。前記積層フィルムをロール延伸機にて50〜80℃で縦方向に3倍に延伸し、総厚み28μm(ヒートシール層/再生層/基材層=3.3μm/9.9μm/14.8μm)の一軸延伸積層フィルムを得た。得られたフィルムを評価した結果を下記表1に示す。
【0055】
比較例1:
実施例1と同様にして得た無延伸積層フィルムについて、フラット延伸法にて50〜80℃で縦方向に1.7倍に延伸し、次いで横方向に1.7倍に延伸し、総厚み28μm(ヒートシール層/再生層/基材層=3.3μm/9.9μm/14.8μm)の二軸延伸積層フィルムを得た。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のフィルムは、例えば、食品保存用袋を典型的な例とする一般包装材用途を始め、漁業用、農業用、建築用、医療用などの広い分野で好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系重合体を主成分とする基材層の少なくとも一方に、乳酸含有量が5重量%以下の脂肪族ポリエステルを85重量%以上含む組成物からなる層を有する共押出積層フィルムであり、動的粘弾性測定における貯蔵弾性率(E´)のフィルム面内の一方向の値が当該方向と直交する方向の値の1.4倍以上であることを特徴とする一軸延伸積層フィルム。

【公開番号】特開2012−91396(P2012−91396A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240527(P2010−240527)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】