説明

三極式セル

【課題】三極式セルにおいて、安定な測定を可能とすることにある。
【解決手段】三極式セルにおいて、活性炭電極を参照極110に用いたので、正極20、負極10を切り分けて特性を評価することが可能となった。特に、参照極110の集電体に導電性カーボン塗料を塗布することで、集電体表面上の被膜形成が抑制され、活性炭電極を参照極110として使用しても正確な評価が可能となった。更に、電気二重層キャパシタの構成材料である活性炭電極の特性或いは劣化評価にも利用できるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極、負極を切り分けて電気的評価が可能な三極式セルに関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタ(Electrical Double Layer Capacitor:EDLC)は、図4に示す通り、主に対向する一対の活性炭電極(負極、正極)10,20とそれを電気的に分離するセパレータ30、さらに容量発現を行う有機系電解液からなるセルを有し、セル間の電気的絶縁の確保と液漏れを防ぐためのパッキン40、電気を外に取り出すための集電極とリード線からなる。
【0003】
一般的には、セパレータ30には不織布が用いられ、活性炭電極10,20には活性炭と導電補助材とバインダーを含むシート状あるいは集電極上に塗布されたものがある。
集電極には、アルミ集電箔50,60が用いられ、それぞれ、集電端子70,80が側方に突出している。リード線は図示省略した。
【0004】
また、これら活性炭電極10,20、セパレータ30、パッキン40及びアルミ集電箔50,60を、上下両側からエンドプレート90,100で挟んでキャパシタ本体とし、キャパシタ本体をアルミラミネートフィルム(図示省略)によって包み込み、外気からキャパシタ本体を遮蔽するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−152446
【特許文献2】特開2002−296208
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】P.W.Ruch et al.,J.Electroanal.chem,636,(2009) 128-131
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電気二重層キャパシタの劣化は3.0V以上の高電圧の場合、活性炭電極10,20あるいは電解液の分解により引き起こされる。
そのため、実際に使用するときの電圧は2.7V以下に制限されている。
しかし、この範囲内であっても長期的に使用すると劣化現象は見られている。
この現象は電解液に使用されている溶媒であるプロピレンカーボネート(PC)の電位窓から考えると、主な劣化には活性炭電極10,20が影響していると考えられる。
【0008】
一般的な評価セルでは正極と負極から構成される二極式セルにより特性或いは耐久性(劣化)を評価しているが、このような二極式セルでの評価ではセル全体の特性或いは耐久性を評価しているため、正極や負極を切り分けて評価ができない問題があった。
また、参照極で実用的なアルミを集電体とした三極式セルを作製した場合(特許文献1、特許文献2及び非特許文献1)、高温使用時に生成される被膜(フッ化アルミ、酸化アルミ、水酸化アルミなど)により集電体の抵抗上昇が起こり、安定な測定ができない問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の請求項1に係る三極式セルは、活性炭電極を参照極に用いたことを特徴とする。
上記課題を解決する本発明の請求項2に係る三極式セルは、請求項1において、被膜生成を抑制するために、前記参照極の集電体に導電性カーボン塗料を塗布したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
参照極を用いることで、正極、負極を切り分けて特性を評価することが可能となった。
参照極の集電体に導電性カーボン塗料を塗布することで、集電体表面上の被膜形成が抑制され、活性炭電極を参照極として使用しても正確な評価が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例に係るラミネート型三極式セル(電気二重層キャパシタ)の構成を示す模式図である。
【図2】課電時間に対する特性変化(静電容量維持率)を示すグラフである。
【図3】充放電サイクルに対する抵抗変化率を示すグラフである。
【図4】従来の一般的な電気二重層キャパシタの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に示す実施例を参照して説明する。
【実施例1】
【0013】
本発明の一実施例に係る電気二重層キャパシタを図1に示す。
本実施例の電気二重層キャパシタは、活性炭電極(負極)10と活性炭電極(正極)20を切り分けて特性を評価できるように、正極20と負極10の間に参照極110を挿入したラミネート型三極式セルである。
【0014】
即ち、電気二重層キャパシタの構成は、背景技術の説明の欄で説明した図4に示す従来の構造と基本的には同じであるが、正負極10,20の間に電気的に分離する2枚のセパレータ31,32を置き、1枚目と2枚目のセパレータ31,32の間に参照極110を配置した。
【0015】
参照極110には、正負極10,20と同様に、活性炭電極を使用した。
その理由は、一般的には参照極としてリチウムや銀などを使用するが、このような電極を用いた場合、電極がEDLC電解液と反応(電解液に電極が溶出)するためEDLC特性に影響を与えてしまうからである。
そのため、化学反応を伴わない物理反応(イオンの吸脱着)を利用した蓄電機構である活性炭電極を使用した。
活性炭としては、一例として、石油ピッチ系の水蒸気賦活活性炭を用いたが、活性炭織布電極を用いることもできる。
【0016】
参照極110の構成は、集電体にアルミ製エキスパンドメタル(アルミラス)と活性炭電極から成る。
アルミラスは、金属箔に切れ目を入れて引き延ばすことにより、一定の網目を形成したものである。加工性が良く、集電体である活性炭電極との接着性が良いため、圧着だけで接着できる利点がある。
アルミラスの一例として、以下の寸法のものを使用した。
LW:1.50mm SW:0.78mm W:0.20 mm 厚み:1.06mm
アルミラスに代えてアルミ箔を使用することもでき、その場合は、接着剤を使用して活性炭電極を接着する。
接着剤を用いるとアルミ箔に接着した電極の乾燥条件がアルミ箔の耐熱温度以上に上げられないため電極中の残留水分量が多くなり、電極の耐久性が低くなる問題がある。
そのため、アルミラスを用いると、接着剤は使用せずに圧力のみで接着することができるため、十分に乾燥した状態の電極をそのまま参照極として使用することができる。
なお、アルミは、チタンに比較して、コスト的に優位である。
【0017】
更に、アルミ集電体(アルミラス)上の被膜生成を抑制するために、導電性カーボン塗料を塗布した。導電性カーボン塗料は、活性炭電極とアルミ集電体の間の中間層(カーボン層)となる。
【0018】
参照極110の作製方法は以下の通りである。
先ず、アルミラス上に導電性カーボン塗料を塗布する。導電性カーボン塗料は、アルミラス全面ではなく、電解液と接触する部分だけに塗布するだけで十分である。導電性カーボン塗料が電解液の不純物との反応を抑制、つまり、被膜生成を抑制すると考えられるからである。
次に、導電性カーボン塗料の塗布されたアルミラスの先端に活性炭電極を載せ、1.8tの圧力で10分間プレスしたものを参照極110とした。
【0019】
引き続き、正極20、負極10単体の特性を評価するために、図1に示すように、ラミネート型三極式セルを作製した。このラミネート型三極式セルは、電極の劣化診断器としても使用可能なものである。
電極10,20には、粉末活性炭、導電助剤、決着剤を混合して作製した活性炭電極シートを用いた。
電解液には、1.5mol/Lのテトラエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート/プロピレンカーボネート(TEMABF4/PC)を用い、集電体にはアルミ集電箔50,60を用いた。
【0020】
正負極の間に電気的に分離する2枚のセパレータ31,32を置き、1枚目と2枚目のセパレータ31,32の間に参照極110を配置した。
セル間のシール材は、エチレンブタジエンゴムの薄型シートをガスケット状に切り抜いたパッキン40を使用し、更に、それらの上下両側にエンドプレート90,100を配置してネジ(図示省略)によって締め込みを行った。
その後、アルミラミネートフィルム(図示省略)によって包み込み、外気からキャパシタ本体を遮蔽するようにした。
【0021】
活性炭電極(正極)20、活性炭電極(負極)10の間で充放電を行い、活性炭電極(正極)20と参照極110の間、活性炭電極(負極)10−参照極110の間の電位の時間変化を測定することで、正負極を切り分けて特性評価を行った。
また、電極の劣化挙動を測定するためにセル電圧2.5V,60℃における熱加速課電試験を200時間行った。表1には課電試験前後における各極の静電容量を示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1に示す通り、課電時間の経過により(200時間)、セル容量、負極容量は、それぞれ、33.1[F/cc]、61.4[F/cc]から30.0[F/cc]、49.4[
F/cc]へと低下するのに対し、正極容量は73.6[F/cc]から76.3[F/cc
]に増加した。
【0024】
図2には、課電時間に対する各極の特性変化(静電容量維持率)を示す。図2より、セルでは課電時間に従い静電容量が減少している。これはセルが課電試験により劣化していることを示している。
負極ではセルと同様に課電時間に従い静電容量の減少が見られている。これは負極の劣化により負荷が大きくなったため、負極側の電位変化が大きくなったからである。
ここで、静電容量は、放電時の電位変化が大きいほど小さい静電容量を示す(静電容量=(放電時間×放電電流)/放電時の電位変化)。
また、セルよりも減少が大きいのは、負極側で顕著に劣化しているためと考えられる。
【0025】
正極では課電時間に従い負極側の負荷が大きくなる一方で正極の負荷は小さくなる。そのため正極側の電位変化が小さくなる。この影響を受けて正極は課電時間に従い静電容量が大きくなっていると考えられる。
このように説明した通り、活性炭電極による参照極を用いることで正極、負極を切り分けて特性を評価することが可能となった。
また、熱加速課電試験から正極負極のどちらが劣化し易いか、in−Situでの判断が可能となった。
【試験例】
【0026】
導電性カーボン塗料を塗布したアルミ箔の被膜生成を抑制効果について、以下のような試験を行った。
すなわち、被膜生成の抑制効果を確認するため、試験極、対極、参照極から構成される3極式ビーカーセルを試験例として用いた。
試験極には、導電性カーボン塗料付アルミ箔を使用し、対極には白金を使用し、参照極にはリチウム電極を使用した。
【0027】
導電性カーボン塗料の組成比は、天然黒鉛を10%から14%、セルロース系添加物を2%から4%、水を78%から84%、カーボンブラックを4%とした。
塗布する厚みは薄くし過ぎると塗料の塗りムラが発生し、厚くすると内部抵抗が高くなる。
製法により異なるが、グラビアやスクリーンコートでは10μm以下になると塗りムラが発生する。
また、スプレーコートの場合は1μmも可能であるが1μm以下の塗布厚みになると塗りムラが発生する。
また下限で塗りムラが発生しアルミ地金が露出した場合には電解液の不鈍物と反応し被膜が生成してしまい抵抗上昇が起きる原因となる。
これらの結果を踏まえ、厚みは下限1μmから上限10μmとする。
評価には自然電位から+2V充電、自然電位まで放電を5回繰返したとき、+2V時の
流れる電流値と電圧から換算した抵抗値(R=V/I)から被膜生成の度合いを判断し
た。結果は図3に示す。充放電試験は定電流法により行った。
【0028】
図3に示すように、サイクル数の増加に伴い、自然電位から+2Vまでの充放電を行っ
ても試験極である塗料付アルミ箔電極の抵抗上昇は見られていない。
これは、+2Vまでは塗料付アルミ箔と電解液の不純物は反応せずに安定であり、下限
値の塗布厚み1μmにおいても抵抗上昇は発生しなかったため、抵抗上昇の原因となる被膜の生成が起こっていないことを示している。
【比較例】
【0029】
比較例として導電性カーボン塗料を塗布していないアルミ箔を試験例と同様のサイクル試験を行った。結果は図3に示す。
図3に示すように、自然電位から+2Vまでの充放電を行うと試験極であるアルミ箔電
極の抵抗上昇がサイクル毎に大きくなっている。
これは+2Vにおいてアルミ箔と電解液の不純物が反応して、アルミ箔上に被膜が生成
したため抵抗が上昇したと考えられる。
また、被膜の生成はアルミ箔内部にも浸透するため、この抵抗上昇は収束しない。
【0030】
以上のようなことから、導電性力−ボン塗料によりアルミ箔上の被膜生成を抑制する効果があるといえる。
このように導電性カーボン塗料を塗布することで、アルミ箔の充放電サイクルに対する電流値の変化が小さくなり、アルミ箔表面上の被膜形成を抑制することが可能となった。
従って、集電体(アルミラス)に導電性カーボン塗料を塗布することで電解液の不純物との反応を抑制し、活性炭電極を参照極として使用しても正確な評価が可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、正極、負極を切り分けて電気的評価が可能な三極式セルとして広く産業上利用可能なものである。例えば、電気二重層キャパシタの構成材料である活性炭電極の特性或いは劣化評価にも利用できるものである。
【符号の説明】
【0032】
10 活性炭電極(負極)
20 活性炭電極(正極)
30,31,32 セパレータ
40 パッキン
50,60 アルミ集電箔
70,80 集電端子
90,100 エンドプレート
110 参照極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭電極を参照極に用いたことを特徴とする三極式セル。
【請求項2】
請求項1において、被膜生成を抑制するために、前記参照極の集電体に導電性カーボン塗料を塗布したことを特徴とする三極式セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−54372(P2012−54372A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195312(P2010−195312)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 掲載日: 平成22年6月30日 掲載アドレス:http://www.electrochem.jp/program/2010fall/room_j.html
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】