乳癌および卵巣癌の治療薬、検出方法ならびに検出用キット
【課題】PRDMファミリーの癌における役割を解明し、PRDMに関連した新規な癌の治療薬および癌の検出方法の提供。
【解決手段】PRDM14遺伝子の発現阻害剤またはPRDM14の阻害剤を含有してなる、乳癌または卵巣癌のための治療薬、および対象から得た生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量を基準として、前記対象における乳癌または卵巣癌を検出する方法。
【解決手段】PRDM14遺伝子の発現阻害剤またはPRDM14の阻害剤を含有してなる、乳癌または卵巣癌のための治療薬、および対象から得た生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量を基準として、前記対象における乳癌または卵巣癌を検出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳癌および卵巣癌の治療薬、乳癌および卵巣癌を検出する方法、ならびに乳癌および卵巣癌の検出用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒストン修飾は遺伝子発現の制御機構として重要である。ヒストン修飾のなかでも、ヒストンメチル化は遺伝子の活性化および不活性化において重要な働きをする(図1参照)。ヒストンメチル化活性を有するタンパク質は、SET(Suvar3-9, Enhancer-of-zeste, Trithorax)ドメイン、あるいはこのSETドメインと20〜30%の相同性を有するPR(PRDI-BF1 and RIZ)ドメインを持つことが示唆されている(図2参照)。現在、ヒトにおいて、ヒストンメチル化酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子は約60種類存在すると考えられており、一部については次第にその機能が解明されつつある。
【0003】
例えば、近年、SETドメインを有するSMYD3(SET and MYND domain-containing protein 3)が、ヒストンメチル化酵素活性を有することが示されるとともに、大腸癌や肝癌において、SMYD3遺伝子の発現が上昇しており、これが癌化や癌細胞の増殖に関与することが示され(非特許文献1参照)、さらにまた、SMYD3のプローモーター領域におけるCCGCC配列の多型が、大腸癌、肝癌および乳癌の発癌リスクに関与することが示されている(非特許文献2参照)。また、ヒストンH3リジン27のメチル化に関与するヒストンメチル化酵素として知られている、SETドメインを有するEZH2(enhaner of zeste homolog 2)は、前立腺癌において発現が上昇していることが明らかにされるとともに(非特許文献3参照)、DNAメチル化依存性遺伝子サイレンシングを介して、癌化に関与することも示唆されている(非特許文献4参照)。
【0004】
これらの結果から、癌におけるヒストンメチル化酵素の解析は、発癌の分子機構を解明するためだけでなく、新しい癌の診断法・治療法開発の基礎的知見を得るためにも重要であると考えられてきた。
【0005】
一方、PRドメインを有するタンパク質は、PRDM(PR-domain containing protein)ファミリーとして分類され、ヒトにおいては、現在PRDM1〜17の17種類が存在することが知られている。PRDMファミリーに属するメンバーのうち、PRDM1(Blimp1)は、B細胞の分化調節因子であり、インターフェロンβの転写抑制に関与することが知られている(非特許文献5および6参照)。これに対し、PRDM 2(RIZ1)は、乳癌、肝癌、大腸癌、肺癌、胃癌においてDNAメチル化により不活性化されていることが報告され(非特許文献7および8参照)、また、PRDM5(PFM2)は、癌においてサイレンシングされており、その不活性化が癌化に関与することが示唆されている(非特許文献9参照)ことから、PRDM2遺伝子およびPRDM5遺伝子は癌抑制遺伝子として機能していると推測されている。しかしながら、これら以外のPRDMファミリーに属するタンパク質は、いずれも機能が未だ解明されておらず、癌における役割についても何ら知られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hamamoto R et al., Nature Cell Biology, 6: 731-40, 2004
【非特許文献2】Tsuge M et al., Nature Genetics, 37: 1104-7, 2005
【非特許文献3】Varambally S et al., Nature, 419: 624-9, 2002
【非特許文献4】Vire E et al., Nature, 439: 871-4, 2006
【非特許文献5】Keller A. D. et al., Genes & Development, 5: 868, 1991
【非特許文献6】Turner, C. A. et al., Cell, 77: 297-306, 1994
【非特許文献7】Du Y et al., Cancer Research, 61: 8094-9, 2001
【非特許文献8】Tokumaru Y et al., Oncogene, 22: 6954-8, 2003
【非特許文献9】Deng Q et al., Oncogene, 23: 4903-10, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、PRDMファミリーの癌における役割を解明し、PRDMに関連した新規な癌の治療薬および癌の検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行う中で、PRDMファミリーのうち、PRDM14をコードする遺伝子の発現が、正常組織と比較して乳癌および卵巣癌において特異的に増加していることを初めて見出し、さらに、このPRDM14遺伝子の特異的な発現の増加が遺伝子増幅によるものであること、また、PRDM14の発現が癌細胞の増殖や抗癌剤に対する感受性低下に関与することをも見出した。そして、これらの知見に基づいてさらに検討を進めた結果、PRDM14遺伝子の発現阻害剤やPRDMの阻害剤が乳癌または卵巣癌の治療に有効であるとともに、PRDM遺伝子の発現量を定量することにより乳癌や卵巣癌を検出することが可能となることを発見し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、PRDM14遺伝子の発現阻害剤を含有してなる、乳癌または卵巣癌のための治療薬に関する。
また、本発明は、PRDM14遺伝子の発現阻害剤が、PRDM14遺伝子の発現を阻害するアンチセンス、siRNAまたはshRNAから選択される、前記治療薬に関する。
さらに本発明は、PRDM14遺伝子の発現を阻害するアンチセンスが、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に相補的な塩基配列またはその一部を含有するアンチセンスポリヌクレオチドである、前記治療薬にも関する。
本発明は、またさらに、PRDM14遺伝子の発現を阻害するsiRNAまたはshRNAが、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドに対するsiRNAまたはshRNAである、前記の治療薬に関する。
そしてまた、本発明は、PRDM14の阻害剤を含有してなる、乳癌または卵巣癌のための治療薬にも関する。
本発明はまた、PRDM14の阻害剤が、抗PRDM14抗体またはその断片である、前記治療薬に関する。
【0010】
さらに、本発明は、対象から得た生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量を基準として、前記対象における乳癌または卵巣癌を検出する方法にも関する。
また、本発明は、対象から得た生物学的試料における内部標準遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比が、前記対象と同種の健常な対象から得た生物学的試料における内部標準遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比よりも少なくとも5倍多いことを基準として乳癌または卵巣癌を検出することを特徴とする、前記方法に関する。
本発明はさらに、PRDM14遺伝子の発現量が、PRDM14をコードするmRNAの発現量に基づいて定量される、前記の方法に関する。
本発明はまた、PRDM14をコードするmRNAの発現量が、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応により定量される、前記の方法に関する。
さらに本発明は、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応が、配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列の一部を含むセンスプライマー、および配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列に相補的な塩基配列の一部を含むアンチセンスプライマーを用いて行われる、前記の方法に関する。
【0011】
本発明は、配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列の一部を含むセンスプライマー、および配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列に相補的な塩基配列の一部を含むアンチセンスプライマーを含む、前記の方法を行うための乳癌または卵巣癌検出用キットにも関する。
さらに、本発明は、PRDM14遺伝子の発現量が、PRDM14の発現量に基づいて定量される、前記の方法に関する。
また本発明は、PRDM14の発現量が、抗PRDM14抗体またはその断片を用いた抗原抗体反応により定量される、前記の方法に関する。
本発明は、さらにまた、抗PRDM14抗体またはその断片を含む、前記の方法を行うための乳癌または卵巣癌検出用キットにも関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の治療薬は、PRDM14遺伝子の発現阻害剤またはPRDM14の阻害剤を含んでなるものである。したがって、本発明の治療薬は、PRDM14遺伝子の発現阻害作用またはPRDM14の阻害作用を介して、癌細胞の増殖を抑制するとともに、抗癌剤に対する感受性を増大させて抗癌剤により惹起される癌細胞のアポトーシスを増強することができ、優れた治療効果を得ることが可能である。また、細胞増殖抑制効果を有する抗癌剤と共に本発明の治療薬を使用することにより、癌の治療効果において相乗効果を得ることが可能になり、良好な予後が期待できる。
【0013】
また、本発明の治療薬の標的であるPRDM14遺伝子またはPRDM14は、乳癌組織および卵巣癌組織において特異的に高発現している一方で、正常組織における発現量が極めて少ないことから、本発明の治療薬は、治療が必要な標的癌組織において特異的に効果を発揮することができる、副作用が少なく安全性が高いものである。さらにまた、本発明の治療薬において、PRDM14遺伝子の発現阻害剤としてPRDM14遺伝子に対するアンチセンス、siRNAまたはshRNAを用いる場合、あるいは、PRDM14阻害剤としてPRDM14の抗体を用いる場合は、PRDM14遺伝子またはPRDM14に対する特異性が極めて高いことから、他の遺伝子やタンパク質に対して望ましくない作用を及ぼす可能性が極めて低くなり、さらに副作用が低減された安全性の高いものとなる。
【0014】
本発明による乳癌または卵巣癌の検出方法および検出用キットは、検出の標的であるPRDM14遺伝子の発現が、乳癌組織および卵巣癌組織において特異的に上昇している一方で、正常組織においては少ないことから、良好な精度で乳癌および卵巣癌を検出することが可能であり、これらの癌の早期発見にも資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、ヒストンメチル化酵素の機能を示す模式図である。
【図2】図2は、SETドメインを有するSMYD3、ならびにPRドメインを有するPRDM1およびPRDM2の構造を示す模式図である。
【図3A】図3Aは、乳癌患者case8、9、87および96の癌組織におけるPRDM1〜15遺伝子の発現プロファイルを示す図である。
【図3B】図3Bは、乳癌患者case7〜9、19、20、87、96および112の癌組織におけるPRDM1〜15遺伝子の発現プロファイルを示す図である。
【図4A】図4Aは、多数の臨床例(正常乳房(Normal breast)、非浸潤性乳管癌(DCIS)、乳癌(Breast cancer)、正常胃(Normal stomach)および胃癌(Gastric cancer))におけるPRDM14遺伝子の発現レベルを示す図である。
【図4B】図4Bは、各種卵巣癌細胞株(SKOV-3、OVCA-3、PA-1、Caov-3,MH、KURA、AMOC-2、MCAS、KF、KFr、HTBOA、TOV-21G、SW626、TOV112DおよびOV-90)、正常卵巣、ならびにテラトカルシノーマ細胞株(NCC-IT-A3)におけるPRDM14遺伝子の発現レベルを示す図である。
【0016】
【図5】図5は、乳癌患者case86、92、96および105の癌組織におけるPRDM14の免疫染色を示す図である。
【図6】図6は、各乳癌患者における染色体8q13.3に位置する遺伝子(SLCO5A1、PRDM14、LACTB2、EYA1、TPD52)の遺伝子増幅の有無とPRDM14遺伝子の発現レベル(mRNA発現レベル)との関連を示す図である。
【図7】図7は、各乳癌患者における染色体8q13.3に位置する遺伝子(SLCO5A1、SULF1、PRDM14、NCOA2、TRAM1、LACTB2、XKR9、EYA1)の遺伝子発現レベル(mRNA発現レベル)とPRDM14遺伝子の増幅との関連を示す図である。
【図8】図8は、PRDM14の細胞内局在を示す図である。
【図9A】図9Aは、乳癌細胞株MCF7およびSKBr-3におけるPRDM14の発現によるコロニー形成を示す図である。
【図9B】図9Bは、乳癌細胞株MCF7およびSKBr-3におけるPRDM14の発現によるコロニー数の増加を示す図である。
【0017】
【図10】図10は、PRDM14を安定発現した乳癌細胞株SKBr-3における抗癌剤(CDDP、VP-16、アドリアマイシンまたはドセタキセル)感受性の低下を示す図である。
【図11】図11は、卵巣癌細胞株PA-1における遺伝子導入効率を示す図である。
【図12】図12は、PRDM14に対するsiRNAを導入したPA-1細胞におけるPRDM14遺伝子の発現抑制を示す図である。
【図13】図13は、PRDM14に対するsiRNAを導入したPA-1細胞の増殖抑制を示す図である。
【図14】図14は、PRDM14に対するsiRNAを導入したPA-1細胞における抗癌剤(CDDPまたはドセタキセル)処置により惹起されるアポトーシスの増強を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
本明細書中に別記のない限り、本発明に関して用いられる科学的および技術的用語は、当業者に通常理解されている意味を有するものとする。一般的に、本明細書中に記載された細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝子およびタンパク質および核酸化学に関して用いられる用語、およびその技術は、当該技術分野においてよく知られ、通常用いられているものとする。また、別記のない限り、本発明の方法および技術は、当該技術分野においてよく知られた慣用の方法に従って、本明細書中で引用され、議論されている種々の一般的な、およびより専門的な参考文献に記載されたとおりに行われる。かかる文献としては、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)およびSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Press(2001); Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates(1992,および2000の補遺); Ausubel et al., Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology - 4th Ed., Wiley & Sons(1999);Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1990);およびHarlow andLane, Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor LaboratoryPress(1999)などが挙げられる。
【0019】
本明細書中に記載された分析化学、合成有機化学ならびに医薬品化学および薬化学に関して用いられる用語、ならびにその実験手順および技術は、当該技術分野においてよく知られ、通常用いられているものである。標準的な技術を、化学合成、化学分析、薬剤の製造、製剤および送達、ならびに対象の処置に用いるものとする。
【0020】
なお、本発明における用語「対象」は、任意の生物個体を意味し、好ましくは脊椎動物、より好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体である。本発明において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、乳癌または卵巣癌に対する処置が企図される場合には、該疾患に罹患している対象または実験的に罹患させた対象、例えばマウス、ラット、スナネズミ、モルモットなどの齧歯類、ネコ、ピューマ、トラなどのネコ科動物、シカ、オオシカなどのシカ科動物等の他、ウサギ、イヌ、ミンク、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、サル、ヒトなどであることが好ましい。
【0021】
本明細書においては、別記のない限り、タンパク質の名称はアルファベット大文字またはカタカナで表記し、そのタンパク質をコードする遺伝子は、前記のアルファベット大文字またはカタカナで表記したものに「遺伝子」と付記するか、または前記のアルファベット大文字またはカタカナで表記したものに下線を付して表記するものとする。したがって、別記のない限り、例えば、単に「PRDM14」と表記した場合には、PRDM14(PR domain-containing protein 14)そのもの自体であるタンパク質を意味し、「PRDM14遺伝子」と表記した場合には、PRDM14をコードする遺伝子を意味し、また、「PRDM14」と表記した場合もPRDM14をコードする遺伝子を意味する。
【0022】
本発明において用いられるPRDM14は、PR domain-containing protein 14(別名PFM11またはMGC59730)と呼ばれる、PRドメインおよびzinc fingerドメインを有するタンパク質であり、例として、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質が挙げられる。ここで、配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、配列番号1で表されるアミノ酸配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有するアミノ酸配列等を例示することができる。
【0023】
また、本発明において用いられるPRDM14遺伝子には、例えば、配列番号2で表される塩基配列を含有するDNA、または、配列番号2で表される塩基配列とストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする塩基配列を含有し、かつ前記の配列番号1で表されるアミノ酸配列を含有するタンパク質と実質的に同等の性質を有するタンパク質をコードするDNAなどが含まれる。ここで、配列番号2で表される塩基配列とストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする塩基配列を含有するDNAとしては、例えば配列番号2で表される塩基配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNA等を用いることができる。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、通常、42℃、2×SSCおよび0.1%SDSの条件であり、好ましくは、65℃、0.1×SSCおよび0.1%SDSの条件である。
【0024】
なお、異種動物間はもちろんのこと、同種動物間でも、多型、アイソフォーム等によってPRDM14遺伝子の塩基配列に相違が見られる場合があるが、塩基配列が相違する場合であってもPRDM14をコードする限り、PRDM14遺伝子に含まれる。
本発明においては、PRDM14遺伝子の発現阻害剤またはPRDM14の阻害剤を含有してなる、乳癌または卵巣癌のための治療薬が提供される。
本発明において、乳癌とは、乳房組織を構成している乳腺、脂肪層、皮膚において発生する悪性の腫瘍を指し、浸潤性乳癌、非浸潤性乳癌、パジェット病に分類されるものを含む。
【0025】
また、本発明において、卵巣癌とは、卵巣組織を構成している表層上皮、性策間質、胚細胞において発生する悪性の腫瘍を指し、上皮性卵巣癌、性索間質性卵巣癌、胚細胞性卵巣癌に分類されるものを含む。
本発明の治療薬に用いられるPRDM14遺伝子の発現阻害剤としては、PRDM14遺伝子の発現を阻害することができるものであれば特に限定されず、PRDM14遺伝子のmRNAへの転写やmRNAからタンパク質への翻訳といった過程において阻害作用を発揮するものが含まれ、例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を阻害する化合物またはその塩等を挙げることができる。ここで、前記「配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドをコードするポリヌクレオチド」はDNAであってもRNAであってもよい。
【0026】
PRDM14遺伝子の発現阻害剤の好ましい例としては、PRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するアンチセンス、siRNA(small interfering RNA)またはshRNA(short hairpin RNA)が挙げられ、PRDM14遺伝子の発現を阻害するアンチセンスの好適な例としては、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に相補的な塩基配列またはその一部を含有するアンチセンスポリヌクレオチドが挙げられ、かかるアンチセンスポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよい。PRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するsiRNAまたはshRNAの好適な例としては、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドに対するsiRNAまたはshRNAが挙げられる。
【0027】
また、本発明において用いられるsiRNAは、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドをコードするポリヌクレオチドRNA(例えば、PRDM14のmRNA)からの連続する18〜28ヌクレオチドのセンス鎖配列とその相補的配列であるアンチセンス鎖配列とを含むものであることが好ましく、さらに、前記ポリヌクレオチドRNAからの連続する19〜22ヌクレオチドヌクレオチドのセンス鎖配列とその相補的配列であるアンチセンス鎖配列とを含むものであることが特に好ましい。好適なsiRNA配列の選択には、公知の知識を使用することができる(例えば、Dykxhoorn D.M.et al., Nature Rev. Mol. Cell Biol. 4; 457-67 (2003);Khvorova A et al., Cell, 115:209-16(2003)等を参照)。
本発明における好ましいsiRNA配列(センス鎖およびアンチセンス鎖の組み合わせ)の例を以下に示す。
【0028】
例1:siRNA-PRDM14-1
センス:5’-CCAGUGAAGUGAAGACCUATT-3’(配列番号3)
アンチセンス:5’-UAGGUCUUCACUUCACUGGTT-3’(配列番号4)
例2:siRNA-PRDM14-2
センス:5’-GGACAAGGGCGAUAGGAAATT-3’(配列番号5)
アンチセンス:5’-UUUCCUAUCGCCCUUGUCCTT-3’(配列番号6)
例3:siRNA-PRDM14-3
センス:5’-GGGAAAAUCUUCUCAGAUCTT-3’(配列番号7)
アンチセンス:5’-GAUCUGAGAAGAUUUUCCCTT-3’(配列番号8)
【0029】
本発明ではさらに、選択されたsiRNA配列は、標的mRNAの切断を可能にする限り、そのセンス鎖配列に1〜3個、好ましくは1〜2個までのヌクレオチドの欠失、置換もしくは付加を含むように変異していてもよい。変異は、中央から3’側での変異は失活の原因となりやすいので、5'側にあるのが好ましい。
なお、選択されたsiRNAは、臨床使用の際にいわゆるoff−target効果(使用したsiRNAに部分的に相同性を有する標的遺伝子以外の遺伝子の発現を抑制する効果)を示さないものであることが好ましい。したがって、off−target効果を避けるために、候補siRNAについて、予めジーンチップなどを利用して交差反応がないことを確認しておくことが望ましい。
【0030】
本発明において用いることができるshRNAは、センス鎖配列およびそれに対するアンチセンス鎖配列との間を共有結合によって結合する一本鎖ループ配列を含むものであり、細胞内RNaseであるDicerによってプロセシングされてsiRNAが形成されるRNAである。siRNAをコードするヘアピン型DNAの3’末端には、転写停止シグナル配列として、あるいはオーバーハングのために、1〜6個、好ましくは1〜5個のTからなるポリT配列、たとえば4個もしくは5個のTからなるTTTTまたはTTTTTが連結される。ベクターDNAから転写されたsiRNA前駆体としてのshRNAは、そのアンチセンス鎖の3’末端に2〜4個のUからなるオーバーハングを有することが望ましく、オーバーハングの存在によって、センスRNAおよびアンチセンスRNAはヌクレアーゼによる分解に対して安定性を増すことができる。本発明においては、前記一本鎖ループ配列は、公知のループ配列を適宜使用することが可能である。
【0031】
本発明における他のsiRNAの態様は、タンデム型DNAから形成されるものであり、これは前記センス鎖をコードするDNA配列と前記アンチセンス鎖をコードするDNA配列とを5’→3’方向に連続して含み、各鎖の5’末端にプロモーターが、また各鎖の3’末端にポリT配列がそれぞれ連結された配列からなり、細胞内で転写後、同時に生成したセンスRNAとアンチセンスRNAとが一緒にハイブリダイズしてsiRNAを形成する。ポリT配列は、上記と同様に、転写停止シグナル配列としての1〜5個、特に4〜5個のTからなることが好ましい。また、ヘアピン型と同様に、生成するsiRNAは、センスおよび/またはアンチセンス鎖の3’末端に2〜4個のUからなるオーバーハングを有していてもよい。
【0032】
本発明の治療薬において、PRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するアンチセンス、siRNAまたはshRNAを用いる場合、公知の方法によって製剤化し、対象に投与することができる。例えば、PRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するアンチセンスRNAまたはsiRNAは、標的組織である乳癌組織または卵巣癌組織に直接導入することが可能であり、このような場合には、それらを、例えば、リポフェクタミン(登録商標)、リポフェクチン(登録商標)およびセルフェクチン(登録商標)(Invitrogen)等のリポソームと複合体を形成させて注入することもできる。
【0033】
また、PRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するアンチセンスDNAは、例えば、適当なプロモーター配列の下流に組み込んでアンチセンスRNA発現ベクターとして対象に投与することが可能である。さらにまた、PRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するアンチセンスRNA発現ベクター、siRNA発現ベクター、shRNA発現ベクターを作製し、これらのベクターを対象に投与することができる。すなわち、本発明において、PRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するアンチセンスRNA、siRNAもしくはshRNAをコードするDNAは、発現ベクター中に組み込まれ、適当なプロモーターの調節下でPRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するRNAに転写される。本発明で使用される発現ベクターには、プラスミドベクターおよびウイルスベクターが含まれる。
【0034】
プラスミドベクターは、既知の方法を用いて調製することができ、また、市販のベクター、例えば、piGENE(登録商標)U6ベクター、piGENE(登録商標)H1ベクター、piGENE(登録商標)tRNAベクター(タカラバイオ株式会社)等を利用することもできる(Brummelkamp T. R. et al., Science, 296: 550-3, 2002; Lee N. S. et al., Nature Biotechnology, 20: 500-5, 2002; M. Miyagishi et al., Nature Biotechnology, 20: 497-500, 2002; Paul C.P. et al., Nature Biotechnology, 20: 505-8, 2002; 多比良和誠ら編、RNAi実験プロトコール、羊土社、2003年等参照)。
【0035】
プラスミドベクターは一般に、本発明のアンチセンスRNA、siRNA、shRNAをコードするDNA配列およびプロモーターの他に、薬剤耐性遺伝子、転写停止配列、制限酵素切断部位部位、複製開始点などを含むことができる。
また、ウイルスベクターとしては、例えば、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクターなどを使用することができる。ウイルスベクターは、自己複製能を欠損するように改変されているものであることが好ましい。ウイルスベクターの作製方法は、当業者に既知である。上記ウイルスベクターは、患部にベクターを直接注入し細胞に感染させることによって細胞内に遺伝子導入することができる。
【0036】
本発明の治療薬に用いられるPRDM14の阻害剤としては、PRDM14を特異的に阻害することが可能なものであれば特に限定されず、例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドの機能を阻害する化合物またはその塩等を挙げることができる。PRDM14の阻害剤の好ましい例としては、抗PRDM14抗体またはその断片等が挙げられ、抗PRDM14抗体としては、PRDM14を特異的に認識する限り制限されることなく、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよく、細胞内発現抗体(intrabody)、ヒト化抗体等であってもよい。また、「その断片」には、対象のPRDM14を特異的に認識する限り、いかなる断片も含まれ、抗体の断片としては、例えば、Fab断片、F(ab)’2断片、一本鎖抗体(scFv)等が挙げられる。
【0037】
抗PRDM14抗体またはその断片の好適な例としては、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドに対して特異的に結合する抗体またはその断片が含まれる。
【0038】
本発明に用いられる抗PRDM14抗体またはその断片は、公知の方法によって製剤化し、対象に投与することができる。
【0039】
対象のPRDM14を特異的に認識する抗体を作製する際には、免疫用抗原として、対象のPRDM14の一部または全部を利用することができる。具体的には、(1)PRDM14を発現している対象の細胞、組織または器官の破砕物もしくはその精製物、(2)遺伝子組換え技術を用いて対象のPRDM14遺伝子またはその一部を昆虫細胞、動物細胞等の宿主細胞に導入して発現させた組換えタンパク質もしくはペプチド、(3)対象のPRDM14のアミノ酸配列に従ってその全長または一部を化学合成したペプチド等を利用することができる。
【0040】
また、免疫用抗原としては、対象のPRDM14以外のタンパク質を利用することもできる。例えば、対象のPRDM14のアミノ酸配列に対して人為的に欠失、置換、付加等の変異を導入したタンパク質、あるいは、欠失、置換、付加等の変異が加えられた状態で天然に存在するタンパク質(例えば、対象と異なる動物種由来のPRDM14)や、このタンパク質のアミノ酸配列に対して人為的に欠失、置換、付加等の変異を導入したタンパク質等を免疫用抗原として利用することができる。PRDM14に導入される欠失、置換、付加等の変異の位置や数は特に限定されるものではないが、PRDM14の立体構造が保持される位置や数であることが好ましい。
【0041】
ポリクローナル抗体の作製にあたっては、免疫用抗原を用いて、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ウシ等の哺乳動物を免疫する。免疫の際には、抗体産生誘導する為に、免疫助剤を用いてエマルジョン化した後、複数回の免疫を行うことが好ましい。免疫助剤としては、フロイント完全アジュバント(FCA)の他、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムゲル等を利用することができる。哺乳動物1匹当たりの抗原の投与量は、哺乳動物の種類に応じて適宜設定できる。投与部位は、例えば、静脈内、皮下、腹腔内等である。免疫の間隔は、通常、数日から数週間間隔、好ましくは4日〜3週間間隔で、合計2〜8回、好ましくは2〜5回免疫を行う。そして、最終免疫日から5〜10日後に、PRDM14に対する抗体力価を測定し、抗体力価が上昇した後に採血し、抗血清を得る。抗体力価の測定は、ELISA(enzyme linked immunosorbent assay)、ラジオイムノアッセイ等により行うことができる。
【0042】
抗血清から抗体の精製が必要とされる場合は、硫酸アンモニウムによる塩析、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択しあるいはこれらを組み合わせて利用することができる。
【0043】
モノクローナル抗体の作製にあたっては、ポリクローナル抗体の場合と同様に免疫用抗原を用いて哺乳動物を免疫し、最終免疫日から2〜5日後に抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞としては、例えば、脾臓細胞、リンパ節細胞、胸腺細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、一般的には脾臓細胞が利用される。
【0044】
次いで、ハイブリドーマを得るために、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞としては、ヒト、マウス等の哺乳動物由来の細胞であって一般に入手可能な株化細胞を利用することができる。利用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、融合していない状態では選択培地(例えばHAT培地)中で生存することができないが、抗体産生細胞と融合した場合には生存することができる性質を有するものが好ましい。
【0045】
細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI−1640培地等の細胞培養用培地中に、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを所定の割合(例えば1:1〜1:10)で混合し、ポリエチレングリコール等の細胞融合促進剤の存在下で、または電気パルス処理(例えばエレクトロポレーション)により、融合反応を行う。
【0046】
細胞融合処理後、選択培地を用いて培養し、目的とするハイブリドーマを選別する。次いで、増殖したハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されるものではないが、例えば、ハイブリドーマの培養上清の一部を採集し、ELISAやラジオイムノアッセイ等を利用してスクリーニングすることができる。
【0047】
また、ハイブリドーマのクローニングは、例えば、限界希釈法、軟寒天法、フィブリンゲル法、蛍光励起セルソーター法等により行うことができ、最終的にモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。
得られたハイブリドーマからのモノクローナル抗体の採取は、通常の方法にしたがって行うことができる。例えば、ハイブリドーマを10〜20%牛胎仔血清含有RPMI−1640培地、MEM培地等の細胞培養培地中、通常の培養条件(例えば37℃、5%CO2濃度)で3〜10日間培養することにより、その培養上清からモノクローナル抗体を取得することができる。また、ハイブリドーマをマウス等の腹腔内に移植し、10〜14日後に腹水を採取し、この腹水からモノクローナル抗体を取得することもできる。
【0048】
モノクローナル抗体の精製が必要とされる場合は、硫酸アンモニウムによる塩析、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択してまたはこれらを組み合わせて利用することができる。
【0049】
本発明において、PRDM14遺伝子の発現阻害剤またはPRDM14の阻害剤は、医薬上許容可能な担体(例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、防腐剤、pH調整剤、矯味矯臭剤、希釈剤、注射剤用溶剤等)と組み合わせて乳癌または卵巣癌のための治療薬として製剤化して提供することができる。また、本発明の治療薬は、特異的に標的組織へ送達させることを可能にする標識やナノカプセル等を含有してもよい。なお、本発明の治療薬には、PRDM14遺伝子の発現阻害剤およびPRDM14の阻害剤の両者が含まれていてもよい。
【0050】
さらに、本発明の治療薬は、乳癌または卵巣癌の治療に有効な公知の抗癌剤(例えば、フルオロウラシル、タモキシフェン、アナストロゾール、アクラルビシン、ドキソルビシン、テガフール、シクロホスファミド、イリノテカン、シタラビン、パクリタキセル、ドセタキセル、エピルビシン、カルボプラチン、シスプラチン、チオテパ、またはこれらの医薬上許容される塩等)などの他の薬効成分をさらに含んでもよく、また、これらの有効成分と組み合わせて用いることもできる。
【0051】
本発明の治療薬の投与経路としては、例えば、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、局所投与等)が挙げられ、投与剤形としては、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、懸濁剤等が例示される。例えば、局所投与の場合、外科手術にて患部を露出し、癌組織に注射器等の手段で本発明の治療薬を直接投与することができ、また、非局所投与の場合、腫瘍栄養血管内投与により行うことができる。好ましい投与経路は、局所投与である。
【0052】
投与量及び投与回数は、目的とする作用効果、投与方法、治療期間、対象の年齢、体重、性別等により異なるが、抗PRDM14抗体もしくはその断片を利用する場合の投与量は、対象がヒトである場合には成人1日当たり通常100μg〜100mg、好ましくは1〜20mgの範囲から適宜選択でき、PRDM14遺伝子に対するアンチセンスDNA、アンチセンスRNA、siRNA、shRNAまたはこれらを発現するベクターを利用する場合の投与量は、対象がヒトである場合には成人1日当たり通常0.01mg/kg〜1g/kg、好ましくは0.1mg/kg〜500mg/kgの範囲から適宜選択でき、投与回数は、1日1回から数回の範囲から適宜選択できる。但し、投与量は、種々の条件により変動し得るため、上記範囲に限定されない。
【0053】
本発明においては、さらに、対象から得た生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量を基準として、前記対象における乳癌または卵巣癌を検出する方法が提供される。
【0054】
本発明における「対象から得た生物学的試料」としては、乳癌または卵巣癌を検出することが可能な限りにおいて、特に限定されることなく、例えば、血液、血清、腹水、あるいは、乳房を構成する乳腺、脂肪層もしくは皮膚等の組織、乳腺から分泌される分泌物、乳腺から分泌される洗浄液(乳管洗浄液(ductal fluid))、または、卵巣を構成する表層上皮、性策間質もしくは胚細胞等の組織等を利用することができる。PRDM14遺伝子の発現レベルは、一般に、いずれの正常組織でも低く、乳癌組織または卵巣癌組織において発現レベルが亢進していることから、対象から得た生物学的試料は、乳房を構成する乳腺、脂肪層もしくは皮膚等の組織、乳腺から分泌される分泌物、乳腺から分泌される洗浄液(乳管洗浄液(ductal fluid))、または卵巣を構成する表層上皮、性策間質もしくは胚細胞等の組織であることが好ましい。また、かかる生物学的試料は、どのような方法で採取されたものでも本発明の方法に用いることができ、例えば、外科手術により採取されたものでもよく、組織採取用の穿刺針により採取されたものでもよく、あるいは、乳腺から分泌される分泌物または乳腺から分泌される洗浄液(乳管洗浄液(ductal fluid))として採取されたものでもよい。
【0055】
本発明の方法においては、「PRDM14遺伝子の発現量を基準として」いる限り限定されることなく、どのような基準を採用して乳癌または卵巣癌を検出してもよいが、好ましくは、PRDM14をコードするmRNAの発現量、あるいは、PRDM14の発現量を基準として乳癌または卵巣癌が検出される。PRDM14をコードするmRNAには、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドをコードするポリヌクレオチドRNAが含まれる。
【0056】
PRDM14遺伝子の発現量は、組織や個体間で発現レベルが大きく変動しない遺伝子(例えば、β−アクチン遺伝子、GAPDH遺伝子等のハウスキーピング遺伝子)を内部標準遺伝子として、この内部標準遺伝子の発現量に基づいて補正することが好ましい。
【0057】
したがって、PRDM14遺伝子の発現量を基準として乳癌または卵巣癌を検出するとは、例えば、対象から得た生物学的試料における内部標準遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比が、前記対象と同種の健常な対象から得た生物学的試料における内部標準遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比よりも、一定程度多い場合に、前記対象が乳癌または卵巣癌を罹患していると判断することが含まれる。ここで、本発明においては、対象から得た生物学的試料における内部標準遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比は、前記対象と同種の健常な対象から得た生物学的試料における内部標準遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比よりも、好ましくは少なくとも5倍多いことを基準とし、さらに好ましくは少なくとも10倍多いことを基準とし、特に好ましくは少なくとも100倍多いことを基準とする。
【0058】
対象から得た生物学的試料におけるPRDM14をコードするmRNAの発現量の定量にあたっては、公知の技術、例えば、ハイブリダイゼーション技術(ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットハイブリダイゼーション法、RNaseプロテクションアッセイ、cDNAマイクロアレイ等)、遺伝子増幅技術(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)(competitive RT-PCR、リアルタイムPCR等を含む))等を利用することができる。
【0059】
ハイブリダイゼーション技術を用いる場合には、PRDM14をコードするポリヌクレオチドまたはその一部にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドをプローブとして利用することができ、遺伝子増幅技術を用いる場合には、当該オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをプライマーとして利用することができる。
【0060】
「PRDM14をコードするポリヌクレオチドまたはその一部」としては、DNAおよびRNAの両者が含まれ、例えば、mRNA、cDNA、cRNA等が含まれる。したがって、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドのいずれであってもよい。本発明におけるPRDM14をコードするmRNAの発現量の定量にあたっては、用いられるオリゴヌクレオチドの塩基長は、特に限定されないが、通常15〜100塩基、好ましくは17〜35塩基であり、また、用いられるポリヌクレオチドの塩基長は特に限定されないが、通常50〜1000塩基、好ましくは150〜500塩基である。
【0061】
PRDM14をコードするポリヌクレオチドまたはその一部にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、PRDM14をコードするポリヌクレオチドまたはその一部にストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズし得ることが好ましい。ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、通常、42℃、2×SSCおよび0.1%SDSの条件であり、好ましくは、65℃、0.1×SSCおよび0.1%SDSの条件である。
【0062】
PRDM14をコードするポリヌクレオチドまたはその一部にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドの塩基配列は、対象のPRDM14遺伝子の塩基配列から公知の知識に基づき適宜設計することができる。プライマーおよびプローブには、蛍光色素、ラジオアイソトープ等の標識を付加してもよい。
【0063】
本発明によれば、対象から得た生物学的試料におけるPRDM14をコードするmRNAの発現量の定量においては、精度や操作の簡便性の観点から、上記の種々の技術の中でも、RT−PCRを用いることが特に好ましい。
ここで、以下にRT−PCRを利用する場合を例に、対象から得た生物学的試料におけるPRDM14をコードするmRNAの発現量の測定方法について具体的に説明する。
【0064】
まず、対象から採取した生物学的試料から全RNAを抽出し、抽出した全RNAからcDNAを合成する。次いで、合成したcDNAを鋳型とし、PRDM14をコードするcDNAにハイブリダイズし得るプライマーを用いてPCRを行う。そして、PCRにおいて増幅されたPCR増幅断片を定量することによって、PRDM14をコードするmRNAの存在量を測定することができる。この際、PCRは、PCR増幅断片生成量が初期鋳型cDNA量を反映するような条件(例えば、PCR増幅断片が指数関数的に増加するPCRサイクル数)で行うことが望ましい。用いるプライマーとしては、PRDM14をコードする遺伝子に特異的な一対のプライマー、例えば、配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列の一部を含むセンスプライマー、および配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列に相補的な塩基配列の一部を含むアンチセンスプライマーを挙げることができ、該プライマーの塩基長は、例えば17〜35塩基、好ましくは20〜28塩基である。
【0065】
PCR増幅断片の定量方法は、特に限定されるものではなく、例えば、ラジオアイソトープ(RI)を用いた定量方法、蛍光色素を用いた定量方法等を適宜利用することができる。
【0066】
RIを用いた定量方法としては、例えば、(1)反応液にRI標識したヌクレオチド(例えば32P標識されたdCTP等)を基質として加えておき、PCR増幅断片に取り込ませてPCR増幅断片をRI標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(2)RI標識したプライマーを用いることによりPCR増幅断片をRI標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(3)PCR増幅断片を電気泳動した後、メンブレンにブロッティングし、RI標識したプローブをハイブリダイズさせ、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法等が挙げられる。放射活性は、例えば、液体シンチレーションカウンター、X線フィルム、イメージングプレート等を用いて測定することができる。
【0067】
また、蛍光色素を用いた定量方法としては、(1)二本鎖DNAにインターカレートする蛍光色素(例えば、エチジウムブロマイド(EtBr)、SYBR(登録商標)GreenI、PicoGreen(登録商標)等)を用いてPCR増幅断片を染色し、励起光の照射によって発せられる蛍光強度を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(2)蛍光色素で標識したプライマーを用いることによりPCR増幅断片を蛍光色素で標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、蛍光強度を測定してPCR増幅断片を定量する方法等が挙げられる。蛍光強度は、例えば、CCDカメラ、蛍光スキャナー、分光蛍光光度計等を用いて測定することができる。
【0068】
一方、対象から得た生物学的試料におけるPRDM14の発現量の定量にあたっては、公知の技術、公知のタンパク質解析技術、例えば、抗PRDM14抗体またはその断片を用いた抗原抗体反応に基づくウェスタンブロッティング法、ドットブロット法、免疫沈降法、ELISA、免疫組織化学染色法等を利用することができる。
抗PRDM14抗体としては、上記でも述べた通り、PRDM14を特異的に認識する限り制限されることなく、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよく、細胞内発現抗体(intrabody)、ヒト化抗体等であってもよい。また、「その断片」には、対象のPRDM14を特異的に認識する限り、いかなる断片も含まれ、抗体の断片としては、例えば、Fab断片、F(ab)’2断片、一本鎖抗体(scFv)等が挙げられる。
【0069】
対象から得た生物学的試料におけるPRDM14の発現量を測定する際には、例えば、放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、蛍光免疫測定法(FIA)等を利用することができる。
【0070】
抗PRDM14抗体またはその断片を利用して、対象から得た生物学的試料におけるPRDM14の発現量を定量する具体的方法としては、例えば、抗PRDM14抗体またはその断片を用いて、対象から得た生物学的試料中のPRDM14を捕捉した後、捕捉されたPRDM14を、前記の抗PRDM14抗体またはその断片に対する結合部位がPRDM14とは異なる結合部位を有する、前記の抗PRDM14抗体またはその断片に結合することができる標識化物質(例えば、ペルオキシダーゼやアルカリホスファターゼ等の酵素、FITCやローダミン等の蛍光物質、あるいはRI等により標識した抗体(二次抗体)もしくは物質)を用いて定量することができる。
【0071】
また、対象から得た生物学的試料におけるPRDM14の発現量の定量は、対象から得た生物学的試料に含まれるPRDM14の活性を測定することによって行うことも可能である。PRDM14の活性は、そのヒストメンチル化酵素活性、転写活性化能あるいは転写抑制能を公知の方法にしたがって測定することができる。
【0072】
本発明による乳癌または卵巣癌の検出方法では、乳房組織または卵巣組織の癌化および癌の進行に伴ってPRDM14遺伝子の発現レベルが亢進する(すなわち、乳癌細胞または卵巣癌細胞におけるPRDM14遺伝子の発現レベルは、正常細胞におけるPRDM14遺伝子の発現レベルよりも高い)ことを利用し、対象から採取した生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量を指標として、当該試料における癌細胞の有無を検出する。すなわち、例えば、対象から採取した生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量が、前記対象と同種の健常な対象から採取した生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量よりも高い場合に、対象から採取した生物学的試料において癌細胞が存在すると判断することができる。また、例えば、対象の乳房組織または卵巣組織から採取した生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量が、同一対象の(乳房組織または卵巣組織以外の)他の組織から採取した生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量よりも高い場合に、対象の乳房組織または卵巣組織から採取した生物学的試料において癌細胞が存在すると判断することもできる。
【0073】
対象と、前記対象と同種の健常な対象との間で、PRDM14遺伝子の発現量を比較する際には、生物学的試料として同一の組織または器官の細胞を使用することが好ましく、さらに、複数の健常な対象(健常群)におけるPRDM14遺伝子の発現量を定量し、その値の分布から正常範囲を設定して、対象におけるPRDM14の発現レベルが正常範囲以上になるか正常範囲以下になるかを判別することが好ましい。このとき、対象の生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現レベルが正常範囲以上であるときに、対象の試料中に癌細胞が存在すると判断することにより、対象における癌を検出することができる。
【0074】
したがって、例えば、対象から得た生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量が、前記対象と同種の健常な対象から得た生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量よりも、好ましくは少なくとも5倍多いことを基準とし、さらに好ましくは少なくとも10倍多いことを基準とし、特に好ましくは少なくとも100倍多いことを基準として、対象における癌を検出することができる。
【0075】
上記で述べた通り、PRDM14遺伝子の発現量を、組織や個体間で発現レベルが大きく変動しない遺伝子(例えば、β−アクチン遺伝子、GAPDH遺伝子等のハウスキーピング遺伝子)を内部標準遺伝子として、この内部標準遺伝子の発現量に基づき補正する場合には、対象から得た生物学的試料における内部標準遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比は、前記対象と同種の健常な対象から得た生物学的試料における内部標準遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比よりも、好ましくは少なくとも5倍多いことを基準とし、さらに好ましくは少なくとも10倍多いことを基準とし、特に好ましくは少なくとも100倍多いことを基準とすることができる。
【0076】
本発明による癌検出用キットは、対象から採取した生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量を定量するための試薬として、対象のPRDM14をコードするポリヌクレオチドまたはその断片にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド、あるいは、抗PRDM14抗体またはその断片を含む。
【0077】
本発明の癌検出用キットは、上記オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド、あるいは、上記抗体またはその断片を含む限り、いかなる形態であってもよく、試薬、器具等を適宜含むことができる。
【0078】
本発明の癌検出用キットが、上記オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを含む場合には、組織や細胞からのDNAまたはRNAの抽出に用いられる溶液(例えば、組織もしくは細胞溶解用のバッファー、フェノール/クロロホルム、エタノール等)や器具、逆転写に必要な試薬(例えばH2O、バッファー、MgCl2、dNTPミックス、オリゴdT、ランダムプライマー、逆転写酵素等)、PCRに必要な試薬(例えばH2O、バッファー、MgCl2、dNTPミックス、Taqポリメラーゼ等)、PCR増幅断片の定量に必要な試薬(例えばRI、蛍光色素等)、DNAマイクロアレイ、DNAチップなどの1種または2種以上を含むことができる。
【0079】
本発明の癌検出用キットが、RT−PCR等の遺伝子増幅技術によりPRDM14遺伝子の発現量を定量するために用いられる場合には、上記オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列の一部を含むセンスプライマー、および配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列に相補的な塩基配列の一部を含むアンチセンスプライマーを含むものであることが好ましい。該プライマーの塩基長は、例えば17〜35塩基、好ましくは20〜28塩基である。
【0080】
また、本発明の癌の診断用キットが、上記抗PRDM14抗体またはその断片を含む場合には、前記抗体またはその断片を固定化するための固相担体(例えば、イムノプレート、ラテックス粒子等)、抗γ−グロブリン抗体(二次抗体)等の抗PRDM14抗体またはその断片に結合する物質、抗体(二次抗体を含む)またはその断片を標識する物質(例えば、酵素、蛍光物質等であって、これらは、前記抗PRDM14抗体またはその断片に結合する物質に結合していてもよい)、各種試薬(例えば、酵素基質、緩衝液、希釈液等)などの1種または2種以上を含むことができる。
本発明を以下の実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されない。
【実施例】
【0081】
<実施例1>遺伝子発現解析
(1)乳癌患者におけるPRDM14遺伝子の発現
まず、PRDM1〜15の遺伝子発現プロファイルを調べるため、8人の乳癌患者(case7〜9、19、20、87、96、112:性別、年齢、疾患の分類を表1に示す)から手術により得た凍結した癌組織および癌組織周囲の正常組織からTorizol (Invitrogen)を用いて全RNAを抽出し、TaqMan probeを用いたdelta/delta CT法により、ABI7900 real-time PCR解析装置(Applied Biosystems)を用いて各PRDM遺伝子の発現を解析した。内部標準としてはGAPDH遺伝子を用いた。
【0082】
また、PRDM1〜15およびGAPDHに対するプライマーは、いずれもApplied Biosystemsから購入し、それぞれ、PRDM1:ABI: Hs00153357、PRDM2:ABI: Hs00210612、PRDM3:ABI: Hs00602795、PRDM4:ABI: Hs00183764、PRDM5:ABI: Hs00218855、PRDM6:ABI: Hs01373000、PRDM7:ABI: Hs00364862、PRDM8:ABI: Hs00220274、PRDM9:ABI: Hs00360639、PRDM10:ABI: Hs00360651、PRDM11:ABI: Hs00220293、PRDM12:ABI: Hs00222080、PRDM13:ABI: Hs00222082、PRDM14:ABI: Hs00225842、PRDM15:ABI: Hs00411330、GAPDH:ABI: Hs99999905を使用した。
PCR反応は、cDNA1μl、ABI TaqMan Fast Master mix 10μl、プライマー(50μM)1μlおよび水8μlを含む合計20μlの溶液により、96℃5秒、 60℃15秒、40サイクルで行った。
【0083】
【表1】
【0084】
実験結果は、各患者ごとに、GAPDH遺伝子の発現量に対する各PRDM遺伝子の発現量の比(すなわち、各PRDM遺伝子の発現量/GAPDH遺伝子の発現量)について、さらに乳癌組織と同一患者の乳癌組織周囲の正常組織との比(すなわち、(乳癌組織における各PRDM遺伝子の発現量/GAPDH遺伝子の発現量)/(正常組織の各PRDM遺伝子の発現量/GAPDH遺伝子の発現量))に換算することにより、各PRDM遺伝子の発現を図3AおよびBに表した。
【0085】
図3AおよびBから明らかな通り、case7〜9、20、96においては、PRDM14 mRNAの発現量が他のPRDMのmRNAの発現量に比べて顕著に高かった。また、case112においてはPRDM14 mRNAが高発現していたが、それ以外にPRDM3、6および7のmRNAも高発現を示した。
したがって、乳癌患者においては、高い確率でPRDM14遺伝子の発現量が上昇している可能性が示唆された。
【0086】
(2)多数の臨床例におけるPRDM14遺伝子の発現解析
次にさらに臨床例を増やし、非浸潤性乳管癌(DCIS)患者4人および(浸潤性)乳癌患者51人(case番号、性別、年齢、疾患の分類は表2に示す)から手術により得た凍結組織(乳癌組織およびその周囲の正常組織)、ならびに、胃癌患者12人(case番号、性別、年齢、疾患の分類は表3に示す)から手術により得た凍結組織(胃癌組織およびその周囲の正常組織)について、上記(1)と同様にして全RNAを抽出した。また、乳癌細胞株であるMCF7、MDA-MB-231、MDA-MB-435S、MDA-MB-436、MDA-MB-468、SKBr-3およびT-47D、胃癌細胞株であるMKN7、KatoIII、JRST、SNU638、JRST、AZ521、MKN28およびMKN74、卵巣癌細胞株であるSKOV-3、OVCA-3、PA-1、Caov-3、MH、KURA、AMOC2、MCAS、KF、KFr、HTBOA、TOV-21G、SW626、TOV112DおよびOV-90、正常卵巣、ならびに、テラトカルシノーマ(teratocarcinoma)細胞株であるNCC-IT-A3からも同様にして全RNAを抽出した。
【0087】
前記各サンプルから得られた全RNAを用いて上記(1)と同様にreal-time PCR法によりPRDM14の遺伝子発現を解析した。内部標準としてGAPDH遺伝子を用い、GAPDH遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比(すなわち、PRDM14遺伝子の発現量/GAPDH遺伝子の発現量)により、各サンプルにおけるPRDM14遺伝子の発現を図4AおよびBに表した(卵巣癌細胞株、正常卵巣およびテラトカルシノーマ細胞株以外は各サンプルにつき3回ずつ実験を行った)。
図4Aに示される通り、PRDM14遺伝子は、乳癌組織中において高頻度に発現上昇が認められた。一方で、胃癌組織においては、PRDM14遺伝子の発現上昇は軽微であった。また、図4Bに示される通り、卵巣癌細胞株PA-1は非常に高いレベルでPRDM14遺伝子を発現していた。PA-1は組織型がテラトカルシノーマを示すため、テラトカルシノーマ細胞株であるNCC-IT-A3における発現についても検討したところ、PRDM14遺伝子を高発現していた。
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
<実施例2>免疫染色
実施例1においてPRDM14遺伝子の発現量が上昇していた乳癌患者4人(case86、92、96、105:性別、年齢、疾患の分類は表4に示す)について、手術により得た癌組織をホルマリンにより固定して定法によりパラフィン切片を作製し、1次抗体として抗PRDM14抗体(ABGENT社、AP1214A、50倍)を用いて4℃で一晩インキュベーション後、2次抗体としてストレプトアビジン標識ヤギ抗ウサギ抗体(DAKO社)を用いてインキュベーションを行い、EnVision-Plus(DAKO社)を用いて免疫染色を行った。また、核染色はヘマトキシリンを用いて行った。
結果を図5に示す(染色画像の倍率は400倍)。いずれの症例においても、PRDM14が高発現しており、PRDM14遺伝子の発現が上昇している症例では、PRDM14の発現も上昇していることが確認され、遺伝子発現の増加によりタンパク質の発現増加が引き起こされていることが示唆された。
【0091】
【表4】
【0092】
<実施例3>遺伝子増幅の解析
(1)PRDM14遺伝子のコピー数の解析
PRDM14遺伝子は、乳癌においてしばしは遺伝子増幅を認める染色体8番長腕(8q13.3)に位置することから、遺伝子発現上昇に染色体増幅が関与するかを検討した。PRDM14遺伝子中の2箇所のゲノム領域(エクソン1周辺およびイントロン6)のDNAコピー数を調べるため、サンプルとして、乳癌患者23人(case1、6、8、11、13、15、18〜20、81、83、85、90、94〜98、103、105、106、112、114:性別、年齢、疾患の分類は表5に示す)から手術により得た凍結組織からフェノール/クロロホルム法を用いて定法によりゲノムDNAを抽出し、実施例1と同様にdelta/delta CT法により、ABI7900real-time PCR解析装置(Applied Biosystems)を用いて解析した。内部標準として、乳癌において染色体増幅や欠失がほとんど認められない、染色体4q11に存在するアルブミン遺伝子のゲノム領域を用いた。
【0093】
【表5】
【0094】
また同様にして、PRDM14遺伝子が遺伝子増幅の標的であるか確認する目的で、染色体8q13.3に位置するPRDM14遺伝子以外の遺伝子(SLCO5A1、LACTB2、EYA1、TPD52)についても遺伝子増幅が認められるかどうかを検討するため、そのコピー数を調べた。
【0095】
使用したプライマーの配列は、それぞれ
PRDM14:センスプライマー:5’-CCTGACGGACACCCTCTCTGA-3’(配列番号9);アンチセンスプライマー:5’-GTGGGTACCTGCATCCTAACACAT-3’(配列番号10)、
アルブミン:センスプライマー:5’-AAGCTGAGTTTGCAGAAGTTTCCAAG-3’(配列番号11);アンチセンスプライマー:5’-CCTGTCATCAGCACATTCAAGCAGA-3’(配列番号12)、
SLCO5A1:センスプライマー:5’-CTACTTTGGAGCAGTCATTGACAC-3’(配列番号13);アンチセンスプライマー:5’-CACGTTGTACTCCCAGCAAGA-3’(配列番号14)、
LACTB2:センスプライマー:5’-TCCTTACCCACCAGAATGGCAATC-3’(配列番号15);アンチセンスプライマー:5’-TGAAATTCTTCGTGGTTTTTGGGTC-3’(配列番号16)、
EYA1:センスプライマー:5’-GAAGTTCTGGTGTGCGTGAGTG-3’(配列番号17);アンチセンスプライマー:5’-AATCCCCTAAAGTTAACCTAATGATG-3’(配列番号18)、
TPD52:センスプライマー: 5’-CCTCTAACTCCTGGGGTTGATTTC-3’ (配列番号19);アンチセンスプライマー:5’-CCTTCAGTTGAGTGCCGCTTTG-3’(配列番号20)
であった。
【0096】
なお、PCR反応は、TaqMan PCR(Applied Biosystems)法によりcDNA1μl、ABI TaqMan Fast Master mix 10μl、プライマー(50μM)1μlおよび水8μlを含む合計20μlの溶液を用い、96℃5秒、60℃15秒、40サイクルで行った。
さらに、PRDM14遺伝子の発現レベルを調べるため、実施例1と同様に、各サンプルから得られた全RNAを用いてreal-time PCR法によりPRDM14 mRNAの発現量を定量した。内部標準としては、GAPDH遺伝子を用いた。プライマーは、実施例1と同様にApplied Biosystemsから購入し、それぞれPRDM14:ABI: Hs00225842、GAPDH:ABI: Hs99999905を使用した。
また、PCR反応は、TaqMan PCR(Applied Biosystems)法によりcDNA1μl、ABI TaqMan Fast Master mix 10μl、プライマー(50μM)1μlおよび水8μlを含む合計20μlの溶液を用い、96℃5秒、60℃15秒、40サイクルで行った。
【0097】
結果を図6に示す。PRDM14遺伝子のコピー数が2倍以上増幅している症例(case6、18、20、81、83、90、94〜98、105、114)は、PDRM14遺伝子の増幅を認めない症例(case1、8、11、13、15、19、85、103、106、112)に比べ、PRDM14 mRNAの発現レベルの平均値が有意に高く(p=0.013766)、PRDM14遺伝子の増幅がその発現上昇に関与することが示唆された。一方、染色体8q13.3領域に存在する他の遺伝子については、PRDM14遺伝子のコピー数やPRDM14mRNAの発現量と相関したコピー数の増加は特に観察されなかった。
【0098】
(2)遺伝子増幅と遺伝子発現の関連性についての解析
実施例3(1)と同様にして、乳癌患者17人(case1、11、17〜20、81、85、94、96〜98、105、106、108、112、114:性別、年齢、疾患の分類は表6に示す)から得たサンプルを用いて、PRDM14のmRNA発現量に加え、さらに染色体8q13.3領域に存在する遺伝子であるSLCO5A1、SULF1、NCOA2、TRAM1、LACTB2、XKR9、EYA1についてもそのmRNA発現量を調べた。
遺伝子発現解析に使用したプライマーは、いずれもApplied Biosystemsより購入し、それぞれSLCO5A1:ABI: Hs00229597、PRDM14:ABI: Hs00225842、 SULF1:ABI: Hs00290918、NCO2:ABI: Hs00197990、TRAM1:ABI: Hs00560089、LACTB2:ABI: Hs00211288、XKR9:ABI: Hs00416980、EYA1:ABI: Hs00166804であった。
【0099】
【表6】
【0100】
その結果を図7に示す。
PRDM14遺伝子の増幅が認められた乳癌患者9人(case No. 18、20、81、94、96〜98、105、114)においてはいずれもPRDM14 mRNA量が増加していた。一方、NCOA2 mRNAは多くの乳癌患者において顕著に発現上昇が認められたが、その発現はPRDM14遺伝子の増幅とは無関係であった。また、SLCO5A1、SULF1、TRAM1、LACTB2、XKR9については、mRNA量の増加は観察されなかった。したがって、染色体8q13.3領域の遺伝子増幅の標的遺伝子はPRDM14遺伝子であることが示唆された。
【0101】
<実施例4>PRDM14の細胞内局在の解析
PRDM14の細胞内局在を明らかにする目的で、蛍光免疫染色を行った。
まずPRDM14遺伝子(Genbank Accession number: BC052311)(配列番号2)を発現ベクターpCMV-Tag2A(Stratagene)に挿入し、発現コンストラクトpCMV-Tag2A/PRDM14を作製して、PRDM14が発現していない細胞株であるSKBr-3細胞に、エレクトロポレーション法により導入した。導入から24時間後に細胞を100%メタノールで固定し、定法により一次抗体に抗PRDM14抗体(ABGENT社、AP1214A、100倍希釈で使用)、二次抗体にAlexa488で標識した抗ウサギ抗体(Molecular Probe社、Alexa Flour 488、goat anti rabbit IgG、500倍希釈で使用)を用いて蛍光免疫染色を行った。また、同時にVectashield (Vector Laboratories)を用いて、DAPI(4’,6−ジアミノ−2−フェニルインドール)により核染色を行った。コントロールとして発現ベクターpCMV-Tag2A(Stratagene)のみを導入した細胞を用いた。
【0102】
結果を図8に示す(画像の倍率は400倍)。
抗PRDM14抗体による染色像(Anti-PRDM14)とDAPIによる染色像(DAPI)とを重ね合わせた画像(Merge)をみると、PRDM14が主に核に局在していることが理解される。この観察結果は、PRDM14がヒストンメチル化酵素であることを考えると妥当なものであると考えられる。
【0103】
<実施例5>細胞増殖におけるPRDM14の関与
PRDM14の癌化における役割を明らかにする目的で、PRDM14が発現していない細胞にPRDM14遺伝子を導入した場合の細胞増殖について検討した。
PRDM14遺伝子(Genbank Accession number: BC052311)(配列番号2)を発現ベクターpCMV-Tag2A(Stratagene)に挿入し、発現コンストラクトpCMV-Tag2A/PRDM14を作製した。pCMV-Tag2A/PRDM14を乳癌細胞株であるMCF7、SKBr-3細胞にエレクトロポレーション法により導入し、コンストラクトが導入された細胞を薬剤マーカーG418により選別して、コロニー形成能を解析した。エレクトロポレーションによるコンストラクト導入から14日後に、細胞をメタノールにより固定して、ギムザ液にて染色し、コロニー数を測定した。コントロールとして発現ベクター(pCMV-Tag2A)のみを導入した細胞を用い、コロニー形成能を比較した(各サンプルにつき3回ずつ実験を行った)。
結果を図9A、Bに示す。
PRDM14遺伝子を導入した場合には、MCF7、SKBr-3のいずれの細胞株でもコロニー数が大きく増加しており、PRDM14が癌細胞のコロニー形成能を促進し、細胞増殖に関与することが示唆された。3回同様の実験を行い、実験に再現性を認めた。
【0104】
<実施例6>薬剤抵抗性におけるPRDM14の関与
PRDM14の機能をさらに詳細に解析するため、乳癌細胞株SKBr-3にPRDM14遺伝子を導入して抗癌剤への抵抗性に対するPRDM14の作用を検討した。
PRDM14遺伝子(Genbank Accession number: BC052311)(配列番号2)を発現ベクターpCMV-Tag2A(Stratagene)に挿入し、安定発現のためのコンストラクトpCMV-Tag2A/PRDM14を作製した。このコンストラクトを乳癌細胞株であるSKBr-3細胞にNucleofector(Amaxa)を用いてエレクトロポレーション法により導入し、コンストラクトが導入された細胞を0.7mg/mlのG418により選別して、PRDM14遺伝子を安定発現する細胞株を樹立した。コントロールとして、発現ベクターpCMV-Tag2Aのみを導入した細胞株を作製した。PRDM14を過剰発現させていない細胞株(発現ベクターのみが導入された細胞株)とPRDM14を安定発現する細胞株(2クローン:P−8およびP−9)とについて、抗癌剤であるシスプラチン(CDDP)(50μM)、エトポシド(VP-16)(50μM)、アドリアマイシン(200 ng/ml)、ドセタキセル(1μM)をそれぞれ48時間処置し、MTT法により細胞の生存率を測定した。
結果を図10に示す。
PRDM14を安定発現した細胞株においては、PRDM14を発現していない細胞に比べ、いずれの薬剤を処置した場合にも、細胞の生存率が上昇し、薬剤抵抗性を示した。したがって、PRDM14の発現は、抗癌剤感受性の低下に関与することが示唆された。
【0105】
<実施例7>PRDM14遺伝子のノックダウンによる細胞増殖抑制効果および薬剤感受性の増強
細胞増殖および薬剤感受性における内在性PRDM14の役割を検討する目的で、PRDM14に対するsiRNAを用い、PRDM14を過剰発現する卵巣癌細胞株PA-1においてPRDM14遺伝子のノックダウンを行った。
【0106】
まず、エレクトロポレーション法を用いて、GFPを発現するベクターをPA-1細胞に導入し、その遺伝子導入効率を検討・最適化した。GFP発現ベクターを導入したPA-1細胞の顕微鏡画像(倍率は400倍)(位相差顕微鏡による細胞画像(左:Phase)、蛍光顕微鏡による細胞画像(中:GFP)および前記2つの細胞画像の重ね合わせ(右:Merge))を図11に示す。図11から明らかな通り、約80%の細胞に遺伝子導入が可能となったことが理解される。
【0107】
この条件を用い、下記配列を有する3種類のsiRNA(siRNA-PRDM14-1、siRNA-PRDM14-2およびsiRNA-PRDM14-3)のカクテルをPA-1細胞に導入した。各siRNAの塩基配列は以下の通りであった;
siRNA-PRDM14-1: センス:5’-CCAGUGAAGUGAAGACCUATT-3’(配列番号3)、アンチセンス:5’-UAGGUCUUCACUUCACUGGTT-3’(配列番号4);
siRNA-PRDM14-2:センス:5’-GGACAAGGGCGAUAGGAAATT-3’(配列番号5)、アンチセンス:5’-UUUCCUAUCGCCCUUGUCCTT-3’(配列番号6);
siRNA-PRDM14-3:センス:5’-GGGAAAAUCUUCUCAGAUCTT-3’(配列番号7)、アンチセンス:5’-GAUCUGAGAAGAUUUUCCCTT-3’(配列番号8)
また、コントロールとして、下記3種類の配列を有するsiRNA(siRNA-control-1、siRNA-control-2およびsiRNA-control-3)のカクテルを用いた。
siRNA-control-1:5’-ATCCGCGCGATAGTACGTA-3’(配列番号21)
siRNA-control-2:5’-TTACGCGTAGCGTAATACG-3’(配列番号22)
siRNA-control-3:5’-TATTCGCGCGTATAGCGGT-3’(配列番号23)
【0108】
siRNA導入から48時間後におけるPRDM14遺伝子の発現レベルについて、ABI7900real-time PCR解析装置(Applied Biosystems)を使用し、実施例1と同様に、内部標準としてGAPDH遺伝子を用い、GAPDH遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比(すなわち、PRDM14遺伝子の発現量/GAPDH遺伝子の発現量)により解析したところ、図12に示す通り、コントロールsiRNAを導入した細胞におけるPRDM14の発現レベルを100%とした場合に、上記siRNA-PRDM14-1〜3のカクテルを導入した細胞では、PRDM14遺伝子の発現レベルが14.3%まで抑制されることが示された。
【0109】
次に、PRDM14遺伝子のノックダウンによる増殖抑制効果を解析する目的で、上記siRNA-PRDM14-1〜3のカクテルをPA-1細胞に導入してから48時間後および96時間後における細胞数を計測したところ、図13に示すように、PRDM14に対するsiRNA(siRNA-PRDM14-1〜3)を導入したPA-1細胞では、コントロールsiRNA(siRNA-control-1〜3)を導入した細胞に比べ、細胞数が48時間後では約40%、96時間後では約70%減少しており、細胞増殖の顕著な抑制が認められた。したがって、癌細胞におけるPRDM14遺伝子の発現を抑制することにより、あるいは、癌細胞におけるPRDM14の阻害により、癌細胞の増殖抑制が可能となることが示された。
【0110】
さらに、PRDM14のノックダウンによる薬剤感受性の増強効果について検討するため、上記siRNA-PRDM14-1〜3のカクテルを導入してから48時間後、抗癌剤であるシスプラチン(CDDP)(50μM)またはドセタキセル(1μM)をそれぞれ48時間処置し、フローサイトメトリーによりサブG1期の細胞数の割合を測定して、各薬剤により惹起される細胞のアポトーシスを検出した。結果を図14に示す。PRDM14 siRNA(siRNA-PRDM14-1〜3)を導入したPA-1細胞では、コントロールsiRNAを導入した細胞に比べ、CDDPまたはドセタキセルのいずれを処置した細胞でも、アポトーシスが惹起された細胞の数が約15%程度増加しており、PRDM14遺伝子のノックダウンにより、CDDPおよびドセタキセルによるアポトーシスを増強することが示された。したがって、癌細胞におけるPRDM14遺伝子の発現を抑制することにより、あるいは、癌細胞におけるPRDM14の阻害により、抗癌剤に対する感受性が増強することが示唆された。
【0111】
以上の通り、本願発明者らは、PRDMファミリーの遺伝子発現プロファイルについて、real-time PCR法とdelta/delta CT法とを組み合わせて用いることにより解析し、乳癌および卵巣癌においてPRDM14遺伝子の発現が特異的に上昇していることを初めて明らかにした。また、このPRDM14遺伝子の発現上昇は染色体増幅によるものであること、PRDM14遺伝子の発現上昇によりタンパク質レベルでも癌組織における発現が増加していることを見出すとともに、PRDM14が細胞増殖を促進することなどから、PRDM14遺伝子が癌遺伝子としての作用を有するものであることを初めて示唆した。そしてさらに、これらの知見に基づいて、癌細胞におけるPRDM14遺伝子の発現を抑制したところ、癌細胞の増殖を顕著に抑制することおよび癌細胞の抗癌剤感受性を増強することを明らかにした。
【0112】
これらの結果から、本願発明の治療薬に用いられるPRDM14遺伝子の発現阻害剤またはPRDM14の阻害剤は、乳癌または卵巣癌細胞の増殖抑制効果を奏し、さらに、抗癌剤を処置した癌細胞においては、抗癌剤に対する感受性を高めることができることが示された。そしてまた、本発明の方法に従い、あるいは、本発明のキットを用いることにより、対象から得た生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量に基づいて、対象における乳癌または卵巣癌を検出することが可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明において用いられるPRDM14遺伝子は、乳癌または卵巣癌病巣で特異的に発現が亢進している。したがって、PRDM14遺伝子の発現阻害剤またはPRDM14の阻害剤を含有してなる本発明の治療薬は、乳癌または卵巣癌のための治療薬として安全に使用することができ、高い治療効果が得られるものとして医薬品への応用が期待される。さらにまた、本発明によれば、PRDM14遺伝子の発現に基づいた乳癌や卵巣癌のための検出方法や検出用キットも提供することができるから、本発明は、乳癌または卵巣癌の治療のみならず、その診断や研究にも大いに寄与するものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳癌および卵巣癌の治療薬、乳癌および卵巣癌を検出する方法、ならびに乳癌および卵巣癌の検出用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒストン修飾は遺伝子発現の制御機構として重要である。ヒストン修飾のなかでも、ヒストンメチル化は遺伝子の活性化および不活性化において重要な働きをする(図1参照)。ヒストンメチル化活性を有するタンパク質は、SET(Suvar3-9, Enhancer-of-zeste, Trithorax)ドメイン、あるいはこのSETドメインと20〜30%の相同性を有するPR(PRDI-BF1 and RIZ)ドメインを持つことが示唆されている(図2参照)。現在、ヒトにおいて、ヒストンメチル化酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子は約60種類存在すると考えられており、一部については次第にその機能が解明されつつある。
【0003】
例えば、近年、SETドメインを有するSMYD3(SET and MYND domain-containing protein 3)が、ヒストンメチル化酵素活性を有することが示されるとともに、大腸癌や肝癌において、SMYD3遺伝子の発現が上昇しており、これが癌化や癌細胞の増殖に関与することが示され(非特許文献1参照)、さらにまた、SMYD3のプローモーター領域におけるCCGCC配列の多型が、大腸癌、肝癌および乳癌の発癌リスクに関与することが示されている(非特許文献2参照)。また、ヒストンH3リジン27のメチル化に関与するヒストンメチル化酵素として知られている、SETドメインを有するEZH2(enhaner of zeste homolog 2)は、前立腺癌において発現が上昇していることが明らかにされるとともに(非特許文献3参照)、DNAメチル化依存性遺伝子サイレンシングを介して、癌化に関与することも示唆されている(非特許文献4参照)。
【0004】
これらの結果から、癌におけるヒストンメチル化酵素の解析は、発癌の分子機構を解明するためだけでなく、新しい癌の診断法・治療法開発の基礎的知見を得るためにも重要であると考えられてきた。
【0005】
一方、PRドメインを有するタンパク質は、PRDM(PR-domain containing protein)ファミリーとして分類され、ヒトにおいては、現在PRDM1〜17の17種類が存在することが知られている。PRDMファミリーに属するメンバーのうち、PRDM1(Blimp1)は、B細胞の分化調節因子であり、インターフェロンβの転写抑制に関与することが知られている(非特許文献5および6参照)。これに対し、PRDM 2(RIZ1)は、乳癌、肝癌、大腸癌、肺癌、胃癌においてDNAメチル化により不活性化されていることが報告され(非特許文献7および8参照)、また、PRDM5(PFM2)は、癌においてサイレンシングされており、その不活性化が癌化に関与することが示唆されている(非特許文献9参照)ことから、PRDM2遺伝子およびPRDM5遺伝子は癌抑制遺伝子として機能していると推測されている。しかしながら、これら以外のPRDMファミリーに属するタンパク質は、いずれも機能が未だ解明されておらず、癌における役割についても何ら知られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hamamoto R et al., Nature Cell Biology, 6: 731-40, 2004
【非特許文献2】Tsuge M et al., Nature Genetics, 37: 1104-7, 2005
【非特許文献3】Varambally S et al., Nature, 419: 624-9, 2002
【非特許文献4】Vire E et al., Nature, 439: 871-4, 2006
【非特許文献5】Keller A. D. et al., Genes & Development, 5: 868, 1991
【非特許文献6】Turner, C. A. et al., Cell, 77: 297-306, 1994
【非特許文献7】Du Y et al., Cancer Research, 61: 8094-9, 2001
【非特許文献8】Tokumaru Y et al., Oncogene, 22: 6954-8, 2003
【非特許文献9】Deng Q et al., Oncogene, 23: 4903-10, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、PRDMファミリーの癌における役割を解明し、PRDMに関連した新規な癌の治療薬および癌の検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行う中で、PRDMファミリーのうち、PRDM14をコードする遺伝子の発現が、正常組織と比較して乳癌および卵巣癌において特異的に増加していることを初めて見出し、さらに、このPRDM14遺伝子の特異的な発現の増加が遺伝子増幅によるものであること、また、PRDM14の発現が癌細胞の増殖や抗癌剤に対する感受性低下に関与することをも見出した。そして、これらの知見に基づいてさらに検討を進めた結果、PRDM14遺伝子の発現阻害剤やPRDMの阻害剤が乳癌または卵巣癌の治療に有効であるとともに、PRDM遺伝子の発現量を定量することにより乳癌や卵巣癌を検出することが可能となることを発見し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、PRDM14遺伝子の発現阻害剤を含有してなる、乳癌または卵巣癌のための治療薬に関する。
また、本発明は、PRDM14遺伝子の発現阻害剤が、PRDM14遺伝子の発現を阻害するアンチセンス、siRNAまたはshRNAから選択される、前記治療薬に関する。
さらに本発明は、PRDM14遺伝子の発現を阻害するアンチセンスが、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に相補的な塩基配列またはその一部を含有するアンチセンスポリヌクレオチドである、前記治療薬にも関する。
本発明は、またさらに、PRDM14遺伝子の発現を阻害するsiRNAまたはshRNAが、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドに対するsiRNAまたはshRNAである、前記の治療薬に関する。
そしてまた、本発明は、PRDM14の阻害剤を含有してなる、乳癌または卵巣癌のための治療薬にも関する。
本発明はまた、PRDM14の阻害剤が、抗PRDM14抗体またはその断片である、前記治療薬に関する。
【0010】
さらに、本発明は、対象から得た生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量を基準として、前記対象における乳癌または卵巣癌を検出する方法にも関する。
また、本発明は、対象から得た生物学的試料における内部標準遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比が、前記対象と同種の健常な対象から得た生物学的試料における内部標準遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比よりも少なくとも5倍多いことを基準として乳癌または卵巣癌を検出することを特徴とする、前記方法に関する。
本発明はさらに、PRDM14遺伝子の発現量が、PRDM14をコードするmRNAの発現量に基づいて定量される、前記の方法に関する。
本発明はまた、PRDM14をコードするmRNAの発現量が、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応により定量される、前記の方法に関する。
さらに本発明は、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応が、配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列の一部を含むセンスプライマー、および配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列に相補的な塩基配列の一部を含むアンチセンスプライマーを用いて行われる、前記の方法に関する。
【0011】
本発明は、配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列の一部を含むセンスプライマー、および配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列に相補的な塩基配列の一部を含むアンチセンスプライマーを含む、前記の方法を行うための乳癌または卵巣癌検出用キットにも関する。
さらに、本発明は、PRDM14遺伝子の発現量が、PRDM14の発現量に基づいて定量される、前記の方法に関する。
また本発明は、PRDM14の発現量が、抗PRDM14抗体またはその断片を用いた抗原抗体反応により定量される、前記の方法に関する。
本発明は、さらにまた、抗PRDM14抗体またはその断片を含む、前記の方法を行うための乳癌または卵巣癌検出用キットにも関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の治療薬は、PRDM14遺伝子の発現阻害剤またはPRDM14の阻害剤を含んでなるものである。したがって、本発明の治療薬は、PRDM14遺伝子の発現阻害作用またはPRDM14の阻害作用を介して、癌細胞の増殖を抑制するとともに、抗癌剤に対する感受性を増大させて抗癌剤により惹起される癌細胞のアポトーシスを増強することができ、優れた治療効果を得ることが可能である。また、細胞増殖抑制効果を有する抗癌剤と共に本発明の治療薬を使用することにより、癌の治療効果において相乗効果を得ることが可能になり、良好な予後が期待できる。
【0013】
また、本発明の治療薬の標的であるPRDM14遺伝子またはPRDM14は、乳癌組織および卵巣癌組織において特異的に高発現している一方で、正常組織における発現量が極めて少ないことから、本発明の治療薬は、治療が必要な標的癌組織において特異的に効果を発揮することができる、副作用が少なく安全性が高いものである。さらにまた、本発明の治療薬において、PRDM14遺伝子の発現阻害剤としてPRDM14遺伝子に対するアンチセンス、siRNAまたはshRNAを用いる場合、あるいは、PRDM14阻害剤としてPRDM14の抗体を用いる場合は、PRDM14遺伝子またはPRDM14に対する特異性が極めて高いことから、他の遺伝子やタンパク質に対して望ましくない作用を及ぼす可能性が極めて低くなり、さらに副作用が低減された安全性の高いものとなる。
【0014】
本発明による乳癌または卵巣癌の検出方法および検出用キットは、検出の標的であるPRDM14遺伝子の発現が、乳癌組織および卵巣癌組織において特異的に上昇している一方で、正常組織においては少ないことから、良好な精度で乳癌および卵巣癌を検出することが可能であり、これらの癌の早期発見にも資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、ヒストンメチル化酵素の機能を示す模式図である。
【図2】図2は、SETドメインを有するSMYD3、ならびにPRドメインを有するPRDM1およびPRDM2の構造を示す模式図である。
【図3A】図3Aは、乳癌患者case8、9、87および96の癌組織におけるPRDM1〜15遺伝子の発現プロファイルを示す図である。
【図3B】図3Bは、乳癌患者case7〜9、19、20、87、96および112の癌組織におけるPRDM1〜15遺伝子の発現プロファイルを示す図である。
【図4A】図4Aは、多数の臨床例(正常乳房(Normal breast)、非浸潤性乳管癌(DCIS)、乳癌(Breast cancer)、正常胃(Normal stomach)および胃癌(Gastric cancer))におけるPRDM14遺伝子の発現レベルを示す図である。
【図4B】図4Bは、各種卵巣癌細胞株(SKOV-3、OVCA-3、PA-1、Caov-3,MH、KURA、AMOC-2、MCAS、KF、KFr、HTBOA、TOV-21G、SW626、TOV112DおよびOV-90)、正常卵巣、ならびにテラトカルシノーマ細胞株(NCC-IT-A3)におけるPRDM14遺伝子の発現レベルを示す図である。
【0016】
【図5】図5は、乳癌患者case86、92、96および105の癌組織におけるPRDM14の免疫染色を示す図である。
【図6】図6は、各乳癌患者における染色体8q13.3に位置する遺伝子(SLCO5A1、PRDM14、LACTB2、EYA1、TPD52)の遺伝子増幅の有無とPRDM14遺伝子の発現レベル(mRNA発現レベル)との関連を示す図である。
【図7】図7は、各乳癌患者における染色体8q13.3に位置する遺伝子(SLCO5A1、SULF1、PRDM14、NCOA2、TRAM1、LACTB2、XKR9、EYA1)の遺伝子発現レベル(mRNA発現レベル)とPRDM14遺伝子の増幅との関連を示す図である。
【図8】図8は、PRDM14の細胞内局在を示す図である。
【図9A】図9Aは、乳癌細胞株MCF7およびSKBr-3におけるPRDM14の発現によるコロニー形成を示す図である。
【図9B】図9Bは、乳癌細胞株MCF7およびSKBr-3におけるPRDM14の発現によるコロニー数の増加を示す図である。
【0017】
【図10】図10は、PRDM14を安定発現した乳癌細胞株SKBr-3における抗癌剤(CDDP、VP-16、アドリアマイシンまたはドセタキセル)感受性の低下を示す図である。
【図11】図11は、卵巣癌細胞株PA-1における遺伝子導入効率を示す図である。
【図12】図12は、PRDM14に対するsiRNAを導入したPA-1細胞におけるPRDM14遺伝子の発現抑制を示す図である。
【図13】図13は、PRDM14に対するsiRNAを導入したPA-1細胞の増殖抑制を示す図である。
【図14】図14は、PRDM14に対するsiRNAを導入したPA-1細胞における抗癌剤(CDDPまたはドセタキセル)処置により惹起されるアポトーシスの増強を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
本明細書中に別記のない限り、本発明に関して用いられる科学的および技術的用語は、当業者に通常理解されている意味を有するものとする。一般的に、本明細書中に記載された細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝子およびタンパク質および核酸化学に関して用いられる用語、およびその技術は、当該技術分野においてよく知られ、通常用いられているものとする。また、別記のない限り、本発明の方法および技術は、当該技術分野においてよく知られた慣用の方法に従って、本明細書中で引用され、議論されている種々の一般的な、およびより専門的な参考文献に記載されたとおりに行われる。かかる文献としては、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)およびSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Press(2001); Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates(1992,および2000の補遺); Ausubel et al., Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology - 4th Ed., Wiley & Sons(1999);Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1990);およびHarlow andLane, Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor LaboratoryPress(1999)などが挙げられる。
【0019】
本明細書中に記載された分析化学、合成有機化学ならびに医薬品化学および薬化学に関して用いられる用語、ならびにその実験手順および技術は、当該技術分野においてよく知られ、通常用いられているものである。標準的な技術を、化学合成、化学分析、薬剤の製造、製剤および送達、ならびに対象の処置に用いるものとする。
【0020】
なお、本発明における用語「対象」は、任意の生物個体を意味し、好ましくは脊椎動物、より好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体である。本発明において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、乳癌または卵巣癌に対する処置が企図される場合には、該疾患に罹患している対象または実験的に罹患させた対象、例えばマウス、ラット、スナネズミ、モルモットなどの齧歯類、ネコ、ピューマ、トラなどのネコ科動物、シカ、オオシカなどのシカ科動物等の他、ウサギ、イヌ、ミンク、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、サル、ヒトなどであることが好ましい。
【0021】
本明細書においては、別記のない限り、タンパク質の名称はアルファベット大文字またはカタカナで表記し、そのタンパク質をコードする遺伝子は、前記のアルファベット大文字またはカタカナで表記したものに「遺伝子」と付記するか、または前記のアルファベット大文字またはカタカナで表記したものに下線を付して表記するものとする。したがって、別記のない限り、例えば、単に「PRDM14」と表記した場合には、PRDM14(PR domain-containing protein 14)そのもの自体であるタンパク質を意味し、「PRDM14遺伝子」と表記した場合には、PRDM14をコードする遺伝子を意味し、また、「PRDM14」と表記した場合もPRDM14をコードする遺伝子を意味する。
【0022】
本発明において用いられるPRDM14は、PR domain-containing protein 14(別名PFM11またはMGC59730)と呼ばれる、PRドメインおよびzinc fingerドメインを有するタンパク質であり、例として、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質が挙げられる。ここで、配列番号1で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、配列番号1で表されるアミノ酸配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有するアミノ酸配列等を例示することができる。
【0023】
また、本発明において用いられるPRDM14遺伝子には、例えば、配列番号2で表される塩基配列を含有するDNA、または、配列番号2で表される塩基配列とストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする塩基配列を含有し、かつ前記の配列番号1で表されるアミノ酸配列を含有するタンパク質と実質的に同等の性質を有するタンパク質をコードするDNAなどが含まれる。ここで、配列番号2で表される塩基配列とストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする塩基配列を含有するDNAとしては、例えば配列番号2で表される塩基配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNA等を用いることができる。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、通常、42℃、2×SSCおよび0.1%SDSの条件であり、好ましくは、65℃、0.1×SSCおよび0.1%SDSの条件である。
【0024】
なお、異種動物間はもちろんのこと、同種動物間でも、多型、アイソフォーム等によってPRDM14遺伝子の塩基配列に相違が見られる場合があるが、塩基配列が相違する場合であってもPRDM14をコードする限り、PRDM14遺伝子に含まれる。
本発明においては、PRDM14遺伝子の発現阻害剤またはPRDM14の阻害剤を含有してなる、乳癌または卵巣癌のための治療薬が提供される。
本発明において、乳癌とは、乳房組織を構成している乳腺、脂肪層、皮膚において発生する悪性の腫瘍を指し、浸潤性乳癌、非浸潤性乳癌、パジェット病に分類されるものを含む。
【0025】
また、本発明において、卵巣癌とは、卵巣組織を構成している表層上皮、性策間質、胚細胞において発生する悪性の腫瘍を指し、上皮性卵巣癌、性索間質性卵巣癌、胚細胞性卵巣癌に分類されるものを含む。
本発明の治療薬に用いられるPRDM14遺伝子の発現阻害剤としては、PRDM14遺伝子の発現を阻害することができるものであれば特に限定されず、PRDM14遺伝子のmRNAへの転写やmRNAからタンパク質への翻訳といった過程において阻害作用を発揮するものが含まれ、例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を阻害する化合物またはその塩等を挙げることができる。ここで、前記「配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドをコードするポリヌクレオチド」はDNAであってもRNAであってもよい。
【0026】
PRDM14遺伝子の発現阻害剤の好ましい例としては、PRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するアンチセンス、siRNA(small interfering RNA)またはshRNA(short hairpin RNA)が挙げられ、PRDM14遺伝子の発現を阻害するアンチセンスの好適な例としては、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に相補的な塩基配列またはその一部を含有するアンチセンスポリヌクレオチドが挙げられ、かかるアンチセンスポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよい。PRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するsiRNAまたはshRNAの好適な例としては、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドに対するsiRNAまたはshRNAが挙げられる。
【0027】
また、本発明において用いられるsiRNAは、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドをコードするポリヌクレオチドRNA(例えば、PRDM14のmRNA)からの連続する18〜28ヌクレオチドのセンス鎖配列とその相補的配列であるアンチセンス鎖配列とを含むものであることが好ましく、さらに、前記ポリヌクレオチドRNAからの連続する19〜22ヌクレオチドヌクレオチドのセンス鎖配列とその相補的配列であるアンチセンス鎖配列とを含むものであることが特に好ましい。好適なsiRNA配列の選択には、公知の知識を使用することができる(例えば、Dykxhoorn D.M.et al., Nature Rev. Mol. Cell Biol. 4; 457-67 (2003);Khvorova A et al., Cell, 115:209-16(2003)等を参照)。
本発明における好ましいsiRNA配列(センス鎖およびアンチセンス鎖の組み合わせ)の例を以下に示す。
【0028】
例1:siRNA-PRDM14-1
センス:5’-CCAGUGAAGUGAAGACCUATT-3’(配列番号3)
アンチセンス:5’-UAGGUCUUCACUUCACUGGTT-3’(配列番号4)
例2:siRNA-PRDM14-2
センス:5’-GGACAAGGGCGAUAGGAAATT-3’(配列番号5)
アンチセンス:5’-UUUCCUAUCGCCCUUGUCCTT-3’(配列番号6)
例3:siRNA-PRDM14-3
センス:5’-GGGAAAAUCUUCUCAGAUCTT-3’(配列番号7)
アンチセンス:5’-GAUCUGAGAAGAUUUUCCCTT-3’(配列番号8)
【0029】
本発明ではさらに、選択されたsiRNA配列は、標的mRNAの切断を可能にする限り、そのセンス鎖配列に1〜3個、好ましくは1〜2個までのヌクレオチドの欠失、置換もしくは付加を含むように変異していてもよい。変異は、中央から3’側での変異は失活の原因となりやすいので、5'側にあるのが好ましい。
なお、選択されたsiRNAは、臨床使用の際にいわゆるoff−target効果(使用したsiRNAに部分的に相同性を有する標的遺伝子以外の遺伝子の発現を抑制する効果)を示さないものであることが好ましい。したがって、off−target効果を避けるために、候補siRNAについて、予めジーンチップなどを利用して交差反応がないことを確認しておくことが望ましい。
【0030】
本発明において用いることができるshRNAは、センス鎖配列およびそれに対するアンチセンス鎖配列との間を共有結合によって結合する一本鎖ループ配列を含むものであり、細胞内RNaseであるDicerによってプロセシングされてsiRNAが形成されるRNAである。siRNAをコードするヘアピン型DNAの3’末端には、転写停止シグナル配列として、あるいはオーバーハングのために、1〜6個、好ましくは1〜5個のTからなるポリT配列、たとえば4個もしくは5個のTからなるTTTTまたはTTTTTが連結される。ベクターDNAから転写されたsiRNA前駆体としてのshRNAは、そのアンチセンス鎖の3’末端に2〜4個のUからなるオーバーハングを有することが望ましく、オーバーハングの存在によって、センスRNAおよびアンチセンスRNAはヌクレアーゼによる分解に対して安定性を増すことができる。本発明においては、前記一本鎖ループ配列は、公知のループ配列を適宜使用することが可能である。
【0031】
本発明における他のsiRNAの態様は、タンデム型DNAから形成されるものであり、これは前記センス鎖をコードするDNA配列と前記アンチセンス鎖をコードするDNA配列とを5’→3’方向に連続して含み、各鎖の5’末端にプロモーターが、また各鎖の3’末端にポリT配列がそれぞれ連結された配列からなり、細胞内で転写後、同時に生成したセンスRNAとアンチセンスRNAとが一緒にハイブリダイズしてsiRNAを形成する。ポリT配列は、上記と同様に、転写停止シグナル配列としての1〜5個、特に4〜5個のTからなることが好ましい。また、ヘアピン型と同様に、生成するsiRNAは、センスおよび/またはアンチセンス鎖の3’末端に2〜4個のUからなるオーバーハングを有していてもよい。
【0032】
本発明の治療薬において、PRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するアンチセンス、siRNAまたはshRNAを用いる場合、公知の方法によって製剤化し、対象に投与することができる。例えば、PRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するアンチセンスRNAまたはsiRNAは、標的組織である乳癌組織または卵巣癌組織に直接導入することが可能であり、このような場合には、それらを、例えば、リポフェクタミン(登録商標)、リポフェクチン(登録商標)およびセルフェクチン(登録商標)(Invitrogen)等のリポソームと複合体を形成させて注入することもできる。
【0033】
また、PRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するアンチセンスDNAは、例えば、適当なプロモーター配列の下流に組み込んでアンチセンスRNA発現ベクターとして対象に投与することが可能である。さらにまた、PRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するアンチセンスRNA発現ベクター、siRNA発現ベクター、shRNA発現ベクターを作製し、これらのベクターを対象に投与することができる。すなわち、本発明において、PRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するアンチセンスRNA、siRNAもしくはshRNAをコードするDNAは、発現ベクター中に組み込まれ、適当なプロモーターの調節下でPRDM14遺伝子の発現を特異的に阻害するRNAに転写される。本発明で使用される発現ベクターには、プラスミドベクターおよびウイルスベクターが含まれる。
【0034】
プラスミドベクターは、既知の方法を用いて調製することができ、また、市販のベクター、例えば、piGENE(登録商標)U6ベクター、piGENE(登録商標)H1ベクター、piGENE(登録商標)tRNAベクター(タカラバイオ株式会社)等を利用することもできる(Brummelkamp T. R. et al., Science, 296: 550-3, 2002; Lee N. S. et al., Nature Biotechnology, 20: 500-5, 2002; M. Miyagishi et al., Nature Biotechnology, 20: 497-500, 2002; Paul C.P. et al., Nature Biotechnology, 20: 505-8, 2002; 多比良和誠ら編、RNAi実験プロトコール、羊土社、2003年等参照)。
【0035】
プラスミドベクターは一般に、本発明のアンチセンスRNA、siRNA、shRNAをコードするDNA配列およびプロモーターの他に、薬剤耐性遺伝子、転写停止配列、制限酵素切断部位部位、複製開始点などを含むことができる。
また、ウイルスベクターとしては、例えば、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクターなどを使用することができる。ウイルスベクターは、自己複製能を欠損するように改変されているものであることが好ましい。ウイルスベクターの作製方法は、当業者に既知である。上記ウイルスベクターは、患部にベクターを直接注入し細胞に感染させることによって細胞内に遺伝子導入することができる。
【0036】
本発明の治療薬に用いられるPRDM14の阻害剤としては、PRDM14を特異的に阻害することが可能なものであれば特に限定されず、例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドの機能を阻害する化合物またはその塩等を挙げることができる。PRDM14の阻害剤の好ましい例としては、抗PRDM14抗体またはその断片等が挙げられ、抗PRDM14抗体としては、PRDM14を特異的に認識する限り制限されることなく、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよく、細胞内発現抗体(intrabody)、ヒト化抗体等であってもよい。また、「その断片」には、対象のPRDM14を特異的に認識する限り、いかなる断片も含まれ、抗体の断片としては、例えば、Fab断片、F(ab)’2断片、一本鎖抗体(scFv)等が挙げられる。
【0037】
抗PRDM14抗体またはその断片の好適な例としては、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドに対して特異的に結合する抗体またはその断片が含まれる。
【0038】
本発明に用いられる抗PRDM14抗体またはその断片は、公知の方法によって製剤化し、対象に投与することができる。
【0039】
対象のPRDM14を特異的に認識する抗体を作製する際には、免疫用抗原として、対象のPRDM14の一部または全部を利用することができる。具体的には、(1)PRDM14を発現している対象の細胞、組織または器官の破砕物もしくはその精製物、(2)遺伝子組換え技術を用いて対象のPRDM14遺伝子またはその一部を昆虫細胞、動物細胞等の宿主細胞に導入して発現させた組換えタンパク質もしくはペプチド、(3)対象のPRDM14のアミノ酸配列に従ってその全長または一部を化学合成したペプチド等を利用することができる。
【0040】
また、免疫用抗原としては、対象のPRDM14以外のタンパク質を利用することもできる。例えば、対象のPRDM14のアミノ酸配列に対して人為的に欠失、置換、付加等の変異を導入したタンパク質、あるいは、欠失、置換、付加等の変異が加えられた状態で天然に存在するタンパク質(例えば、対象と異なる動物種由来のPRDM14)や、このタンパク質のアミノ酸配列に対して人為的に欠失、置換、付加等の変異を導入したタンパク質等を免疫用抗原として利用することができる。PRDM14に導入される欠失、置換、付加等の変異の位置や数は特に限定されるものではないが、PRDM14の立体構造が保持される位置や数であることが好ましい。
【0041】
ポリクローナル抗体の作製にあたっては、免疫用抗原を用いて、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ウシ等の哺乳動物を免疫する。免疫の際には、抗体産生誘導する為に、免疫助剤を用いてエマルジョン化した後、複数回の免疫を行うことが好ましい。免疫助剤としては、フロイント完全アジュバント(FCA)の他、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムゲル等を利用することができる。哺乳動物1匹当たりの抗原の投与量は、哺乳動物の種類に応じて適宜設定できる。投与部位は、例えば、静脈内、皮下、腹腔内等である。免疫の間隔は、通常、数日から数週間間隔、好ましくは4日〜3週間間隔で、合計2〜8回、好ましくは2〜5回免疫を行う。そして、最終免疫日から5〜10日後に、PRDM14に対する抗体力価を測定し、抗体力価が上昇した後に採血し、抗血清を得る。抗体力価の測定は、ELISA(enzyme linked immunosorbent assay)、ラジオイムノアッセイ等により行うことができる。
【0042】
抗血清から抗体の精製が必要とされる場合は、硫酸アンモニウムによる塩析、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択しあるいはこれらを組み合わせて利用することができる。
【0043】
モノクローナル抗体の作製にあたっては、ポリクローナル抗体の場合と同様に免疫用抗原を用いて哺乳動物を免疫し、最終免疫日から2〜5日後に抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞としては、例えば、脾臓細胞、リンパ節細胞、胸腺細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、一般的には脾臓細胞が利用される。
【0044】
次いで、ハイブリドーマを得るために、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞としては、ヒト、マウス等の哺乳動物由来の細胞であって一般に入手可能な株化細胞を利用することができる。利用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、融合していない状態では選択培地(例えばHAT培地)中で生存することができないが、抗体産生細胞と融合した場合には生存することができる性質を有するものが好ましい。
【0045】
細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI−1640培地等の細胞培養用培地中に、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを所定の割合(例えば1:1〜1:10)で混合し、ポリエチレングリコール等の細胞融合促進剤の存在下で、または電気パルス処理(例えばエレクトロポレーション)により、融合反応を行う。
【0046】
細胞融合処理後、選択培地を用いて培養し、目的とするハイブリドーマを選別する。次いで、増殖したハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されるものではないが、例えば、ハイブリドーマの培養上清の一部を採集し、ELISAやラジオイムノアッセイ等を利用してスクリーニングすることができる。
【0047】
また、ハイブリドーマのクローニングは、例えば、限界希釈法、軟寒天法、フィブリンゲル法、蛍光励起セルソーター法等により行うことができ、最終的にモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。
得られたハイブリドーマからのモノクローナル抗体の採取は、通常の方法にしたがって行うことができる。例えば、ハイブリドーマを10〜20%牛胎仔血清含有RPMI−1640培地、MEM培地等の細胞培養培地中、通常の培養条件(例えば37℃、5%CO2濃度)で3〜10日間培養することにより、その培養上清からモノクローナル抗体を取得することができる。また、ハイブリドーマをマウス等の腹腔内に移植し、10〜14日後に腹水を採取し、この腹水からモノクローナル抗体を取得することもできる。
【0048】
モノクローナル抗体の精製が必要とされる場合は、硫酸アンモニウムによる塩析、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択してまたはこれらを組み合わせて利用することができる。
【0049】
本発明において、PRDM14遺伝子の発現阻害剤またはPRDM14の阻害剤は、医薬上許容可能な担体(例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、防腐剤、pH調整剤、矯味矯臭剤、希釈剤、注射剤用溶剤等)と組み合わせて乳癌または卵巣癌のための治療薬として製剤化して提供することができる。また、本発明の治療薬は、特異的に標的組織へ送達させることを可能にする標識やナノカプセル等を含有してもよい。なお、本発明の治療薬には、PRDM14遺伝子の発現阻害剤およびPRDM14の阻害剤の両者が含まれていてもよい。
【0050】
さらに、本発明の治療薬は、乳癌または卵巣癌の治療に有効な公知の抗癌剤(例えば、フルオロウラシル、タモキシフェン、アナストロゾール、アクラルビシン、ドキソルビシン、テガフール、シクロホスファミド、イリノテカン、シタラビン、パクリタキセル、ドセタキセル、エピルビシン、カルボプラチン、シスプラチン、チオテパ、またはこれらの医薬上許容される塩等)などの他の薬効成分をさらに含んでもよく、また、これらの有効成分と組み合わせて用いることもできる。
【0051】
本発明の治療薬の投与経路としては、例えば、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、局所投与等)が挙げられ、投与剤形としては、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、懸濁剤等が例示される。例えば、局所投与の場合、外科手術にて患部を露出し、癌組織に注射器等の手段で本発明の治療薬を直接投与することができ、また、非局所投与の場合、腫瘍栄養血管内投与により行うことができる。好ましい投与経路は、局所投与である。
【0052】
投与量及び投与回数は、目的とする作用効果、投与方法、治療期間、対象の年齢、体重、性別等により異なるが、抗PRDM14抗体もしくはその断片を利用する場合の投与量は、対象がヒトである場合には成人1日当たり通常100μg〜100mg、好ましくは1〜20mgの範囲から適宜選択でき、PRDM14遺伝子に対するアンチセンスDNA、アンチセンスRNA、siRNA、shRNAまたはこれらを発現するベクターを利用する場合の投与量は、対象がヒトである場合には成人1日当たり通常0.01mg/kg〜1g/kg、好ましくは0.1mg/kg〜500mg/kgの範囲から適宜選択でき、投与回数は、1日1回から数回の範囲から適宜選択できる。但し、投与量は、種々の条件により変動し得るため、上記範囲に限定されない。
【0053】
本発明においては、さらに、対象から得た生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量を基準として、前記対象における乳癌または卵巣癌を検出する方法が提供される。
【0054】
本発明における「対象から得た生物学的試料」としては、乳癌または卵巣癌を検出することが可能な限りにおいて、特に限定されることなく、例えば、血液、血清、腹水、あるいは、乳房を構成する乳腺、脂肪層もしくは皮膚等の組織、乳腺から分泌される分泌物、乳腺から分泌される洗浄液(乳管洗浄液(ductal fluid))、または、卵巣を構成する表層上皮、性策間質もしくは胚細胞等の組織等を利用することができる。PRDM14遺伝子の発現レベルは、一般に、いずれの正常組織でも低く、乳癌組織または卵巣癌組織において発現レベルが亢進していることから、対象から得た生物学的試料は、乳房を構成する乳腺、脂肪層もしくは皮膚等の組織、乳腺から分泌される分泌物、乳腺から分泌される洗浄液(乳管洗浄液(ductal fluid))、または卵巣を構成する表層上皮、性策間質もしくは胚細胞等の組織であることが好ましい。また、かかる生物学的試料は、どのような方法で採取されたものでも本発明の方法に用いることができ、例えば、外科手術により採取されたものでもよく、組織採取用の穿刺針により採取されたものでもよく、あるいは、乳腺から分泌される分泌物または乳腺から分泌される洗浄液(乳管洗浄液(ductal fluid))として採取されたものでもよい。
【0055】
本発明の方法においては、「PRDM14遺伝子の発現量を基準として」いる限り限定されることなく、どのような基準を採用して乳癌または卵巣癌を検出してもよいが、好ましくは、PRDM14をコードするmRNAの発現量、あるいは、PRDM14の発現量を基準として乳癌または卵巣癌が検出される。PRDM14をコードするmRNAには、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドをコードするポリヌクレオチドRNAが含まれる。
【0056】
PRDM14遺伝子の発現量は、組織や個体間で発現レベルが大きく変動しない遺伝子(例えば、β−アクチン遺伝子、GAPDH遺伝子等のハウスキーピング遺伝子)を内部標準遺伝子として、この内部標準遺伝子の発現量に基づいて補正することが好ましい。
【0057】
したがって、PRDM14遺伝子の発現量を基準として乳癌または卵巣癌を検出するとは、例えば、対象から得た生物学的試料における内部標準遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比が、前記対象と同種の健常な対象から得た生物学的試料における内部標準遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比よりも、一定程度多い場合に、前記対象が乳癌または卵巣癌を罹患していると判断することが含まれる。ここで、本発明においては、対象から得た生物学的試料における内部標準遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比は、前記対象と同種の健常な対象から得た生物学的試料における内部標準遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比よりも、好ましくは少なくとも5倍多いことを基準とし、さらに好ましくは少なくとも10倍多いことを基準とし、特に好ましくは少なくとも100倍多いことを基準とする。
【0058】
対象から得た生物学的試料におけるPRDM14をコードするmRNAの発現量の定量にあたっては、公知の技術、例えば、ハイブリダイゼーション技術(ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットハイブリダイゼーション法、RNaseプロテクションアッセイ、cDNAマイクロアレイ等)、遺伝子増幅技術(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)(competitive RT-PCR、リアルタイムPCR等を含む))等を利用することができる。
【0059】
ハイブリダイゼーション技術を用いる場合には、PRDM14をコードするポリヌクレオチドまたはその一部にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドをプローブとして利用することができ、遺伝子増幅技術を用いる場合には、当該オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをプライマーとして利用することができる。
【0060】
「PRDM14をコードするポリヌクレオチドまたはその一部」としては、DNAおよびRNAの両者が含まれ、例えば、mRNA、cDNA、cRNA等が含まれる。したがって、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドのいずれであってもよい。本発明におけるPRDM14をコードするmRNAの発現量の定量にあたっては、用いられるオリゴヌクレオチドの塩基長は、特に限定されないが、通常15〜100塩基、好ましくは17〜35塩基であり、また、用いられるポリヌクレオチドの塩基長は特に限定されないが、通常50〜1000塩基、好ましくは150〜500塩基である。
【0061】
PRDM14をコードするポリヌクレオチドまたはその一部にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、PRDM14をコードするポリヌクレオチドまたはその一部にストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズし得ることが好ましい。ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、通常、42℃、2×SSCおよび0.1%SDSの条件であり、好ましくは、65℃、0.1×SSCおよび0.1%SDSの条件である。
【0062】
PRDM14をコードするポリヌクレオチドまたはその一部にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドの塩基配列は、対象のPRDM14遺伝子の塩基配列から公知の知識に基づき適宜設計することができる。プライマーおよびプローブには、蛍光色素、ラジオアイソトープ等の標識を付加してもよい。
【0063】
本発明によれば、対象から得た生物学的試料におけるPRDM14をコードするmRNAの発現量の定量においては、精度や操作の簡便性の観点から、上記の種々の技術の中でも、RT−PCRを用いることが特に好ましい。
ここで、以下にRT−PCRを利用する場合を例に、対象から得た生物学的試料におけるPRDM14をコードするmRNAの発現量の測定方法について具体的に説明する。
【0064】
まず、対象から採取した生物学的試料から全RNAを抽出し、抽出した全RNAからcDNAを合成する。次いで、合成したcDNAを鋳型とし、PRDM14をコードするcDNAにハイブリダイズし得るプライマーを用いてPCRを行う。そして、PCRにおいて増幅されたPCR増幅断片を定量することによって、PRDM14をコードするmRNAの存在量を測定することができる。この際、PCRは、PCR増幅断片生成量が初期鋳型cDNA量を反映するような条件(例えば、PCR増幅断片が指数関数的に増加するPCRサイクル数)で行うことが望ましい。用いるプライマーとしては、PRDM14をコードする遺伝子に特異的な一対のプライマー、例えば、配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列の一部を含むセンスプライマー、および配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列に相補的な塩基配列の一部を含むアンチセンスプライマーを挙げることができ、該プライマーの塩基長は、例えば17〜35塩基、好ましくは20〜28塩基である。
【0065】
PCR増幅断片の定量方法は、特に限定されるものではなく、例えば、ラジオアイソトープ(RI)を用いた定量方法、蛍光色素を用いた定量方法等を適宜利用することができる。
【0066】
RIを用いた定量方法としては、例えば、(1)反応液にRI標識したヌクレオチド(例えば32P標識されたdCTP等)を基質として加えておき、PCR増幅断片に取り込ませてPCR増幅断片をRI標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(2)RI標識したプライマーを用いることによりPCR増幅断片をRI標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(3)PCR増幅断片を電気泳動した後、メンブレンにブロッティングし、RI標識したプローブをハイブリダイズさせ、放射活性を測定してPCR増幅断片を定量する方法等が挙げられる。放射活性は、例えば、液体シンチレーションカウンター、X線フィルム、イメージングプレート等を用いて測定することができる。
【0067】
また、蛍光色素を用いた定量方法としては、(1)二本鎖DNAにインターカレートする蛍光色素(例えば、エチジウムブロマイド(EtBr)、SYBR(登録商標)GreenI、PicoGreen(登録商標)等)を用いてPCR増幅断片を染色し、励起光の照射によって発せられる蛍光強度を測定してPCR増幅断片を定量する方法、(2)蛍光色素で標識したプライマーを用いることによりPCR増幅断片を蛍光色素で標識し、PCR増幅断片を電気泳動等で分離した後、蛍光強度を測定してPCR増幅断片を定量する方法等が挙げられる。蛍光強度は、例えば、CCDカメラ、蛍光スキャナー、分光蛍光光度計等を用いて測定することができる。
【0068】
一方、対象から得た生物学的試料におけるPRDM14の発現量の定量にあたっては、公知の技術、公知のタンパク質解析技術、例えば、抗PRDM14抗体またはその断片を用いた抗原抗体反応に基づくウェスタンブロッティング法、ドットブロット法、免疫沈降法、ELISA、免疫組織化学染色法等を利用することができる。
抗PRDM14抗体としては、上記でも述べた通り、PRDM14を特異的に認識する限り制限されることなく、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよく、細胞内発現抗体(intrabody)、ヒト化抗体等であってもよい。また、「その断片」には、対象のPRDM14を特異的に認識する限り、いかなる断片も含まれ、抗体の断片としては、例えば、Fab断片、F(ab)’2断片、一本鎖抗体(scFv)等が挙げられる。
【0069】
対象から得た生物学的試料におけるPRDM14の発現量を測定する際には、例えば、放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、蛍光免疫測定法(FIA)等を利用することができる。
【0070】
抗PRDM14抗体またはその断片を利用して、対象から得た生物学的試料におけるPRDM14の発現量を定量する具体的方法としては、例えば、抗PRDM14抗体またはその断片を用いて、対象から得た生物学的試料中のPRDM14を捕捉した後、捕捉されたPRDM14を、前記の抗PRDM14抗体またはその断片に対する結合部位がPRDM14とは異なる結合部位を有する、前記の抗PRDM14抗体またはその断片に結合することができる標識化物質(例えば、ペルオキシダーゼやアルカリホスファターゼ等の酵素、FITCやローダミン等の蛍光物質、あるいはRI等により標識した抗体(二次抗体)もしくは物質)を用いて定量することができる。
【0071】
また、対象から得た生物学的試料におけるPRDM14の発現量の定量は、対象から得た生物学的試料に含まれるPRDM14の活性を測定することによって行うことも可能である。PRDM14の活性は、そのヒストメンチル化酵素活性、転写活性化能あるいは転写抑制能を公知の方法にしたがって測定することができる。
【0072】
本発明による乳癌または卵巣癌の検出方法では、乳房組織または卵巣組織の癌化および癌の進行に伴ってPRDM14遺伝子の発現レベルが亢進する(すなわち、乳癌細胞または卵巣癌細胞におけるPRDM14遺伝子の発現レベルは、正常細胞におけるPRDM14遺伝子の発現レベルよりも高い)ことを利用し、対象から採取した生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量を指標として、当該試料における癌細胞の有無を検出する。すなわち、例えば、対象から採取した生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量が、前記対象と同種の健常な対象から採取した生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量よりも高い場合に、対象から採取した生物学的試料において癌細胞が存在すると判断することができる。また、例えば、対象の乳房組織または卵巣組織から採取した生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量が、同一対象の(乳房組織または卵巣組織以外の)他の組織から採取した生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量よりも高い場合に、対象の乳房組織または卵巣組織から採取した生物学的試料において癌細胞が存在すると判断することもできる。
【0073】
対象と、前記対象と同種の健常な対象との間で、PRDM14遺伝子の発現量を比較する際には、生物学的試料として同一の組織または器官の細胞を使用することが好ましく、さらに、複数の健常な対象(健常群)におけるPRDM14遺伝子の発現量を定量し、その値の分布から正常範囲を設定して、対象におけるPRDM14の発現レベルが正常範囲以上になるか正常範囲以下になるかを判別することが好ましい。このとき、対象の生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現レベルが正常範囲以上であるときに、対象の試料中に癌細胞が存在すると判断することにより、対象における癌を検出することができる。
【0074】
したがって、例えば、対象から得た生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量が、前記対象と同種の健常な対象から得た生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量よりも、好ましくは少なくとも5倍多いことを基準とし、さらに好ましくは少なくとも10倍多いことを基準とし、特に好ましくは少なくとも100倍多いことを基準として、対象における癌を検出することができる。
【0075】
上記で述べた通り、PRDM14遺伝子の発現量を、組織や個体間で発現レベルが大きく変動しない遺伝子(例えば、β−アクチン遺伝子、GAPDH遺伝子等のハウスキーピング遺伝子)を内部標準遺伝子として、この内部標準遺伝子の発現量に基づき補正する場合には、対象から得た生物学的試料における内部標準遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比は、前記対象と同種の健常な対象から得た生物学的試料における内部標準遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比よりも、好ましくは少なくとも5倍多いことを基準とし、さらに好ましくは少なくとも10倍多いことを基準とし、特に好ましくは少なくとも100倍多いことを基準とすることができる。
【0076】
本発明による癌検出用キットは、対象から採取した生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量を定量するための試薬として、対象のPRDM14をコードするポリヌクレオチドまたはその断片にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド、あるいは、抗PRDM14抗体またはその断片を含む。
【0077】
本発明の癌検出用キットは、上記オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド、あるいは、上記抗体またはその断片を含む限り、いかなる形態であってもよく、試薬、器具等を適宜含むことができる。
【0078】
本発明の癌検出用キットが、上記オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを含む場合には、組織や細胞からのDNAまたはRNAの抽出に用いられる溶液(例えば、組織もしくは細胞溶解用のバッファー、フェノール/クロロホルム、エタノール等)や器具、逆転写に必要な試薬(例えばH2O、バッファー、MgCl2、dNTPミックス、オリゴdT、ランダムプライマー、逆転写酵素等)、PCRに必要な試薬(例えばH2O、バッファー、MgCl2、dNTPミックス、Taqポリメラーゼ等)、PCR増幅断片の定量に必要な試薬(例えばRI、蛍光色素等)、DNAマイクロアレイ、DNAチップなどの1種または2種以上を含むことができる。
【0079】
本発明の癌検出用キットが、RT−PCR等の遺伝子増幅技術によりPRDM14遺伝子の発現量を定量するために用いられる場合には、上記オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列の一部を含むセンスプライマー、および配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列に相補的な塩基配列の一部を含むアンチセンスプライマーを含むものであることが好ましい。該プライマーの塩基長は、例えば17〜35塩基、好ましくは20〜28塩基である。
【0080】
また、本発明の癌の診断用キットが、上記抗PRDM14抗体またはその断片を含む場合には、前記抗体またはその断片を固定化するための固相担体(例えば、イムノプレート、ラテックス粒子等)、抗γ−グロブリン抗体(二次抗体)等の抗PRDM14抗体またはその断片に結合する物質、抗体(二次抗体を含む)またはその断片を標識する物質(例えば、酵素、蛍光物質等であって、これらは、前記抗PRDM14抗体またはその断片に結合する物質に結合していてもよい)、各種試薬(例えば、酵素基質、緩衝液、希釈液等)などの1種または2種以上を含むことができる。
本発明を以下の実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されない。
【実施例】
【0081】
<実施例1>遺伝子発現解析
(1)乳癌患者におけるPRDM14遺伝子の発現
まず、PRDM1〜15の遺伝子発現プロファイルを調べるため、8人の乳癌患者(case7〜9、19、20、87、96、112:性別、年齢、疾患の分類を表1に示す)から手術により得た凍結した癌組織および癌組織周囲の正常組織からTorizol (Invitrogen)を用いて全RNAを抽出し、TaqMan probeを用いたdelta/delta CT法により、ABI7900 real-time PCR解析装置(Applied Biosystems)を用いて各PRDM遺伝子の発現を解析した。内部標準としてはGAPDH遺伝子を用いた。
【0082】
また、PRDM1〜15およびGAPDHに対するプライマーは、いずれもApplied Biosystemsから購入し、それぞれ、PRDM1:ABI: Hs00153357、PRDM2:ABI: Hs00210612、PRDM3:ABI: Hs00602795、PRDM4:ABI: Hs00183764、PRDM5:ABI: Hs00218855、PRDM6:ABI: Hs01373000、PRDM7:ABI: Hs00364862、PRDM8:ABI: Hs00220274、PRDM9:ABI: Hs00360639、PRDM10:ABI: Hs00360651、PRDM11:ABI: Hs00220293、PRDM12:ABI: Hs00222080、PRDM13:ABI: Hs00222082、PRDM14:ABI: Hs00225842、PRDM15:ABI: Hs00411330、GAPDH:ABI: Hs99999905を使用した。
PCR反応は、cDNA1μl、ABI TaqMan Fast Master mix 10μl、プライマー(50μM)1μlおよび水8μlを含む合計20μlの溶液により、96℃5秒、 60℃15秒、40サイクルで行った。
【0083】
【表1】
【0084】
実験結果は、各患者ごとに、GAPDH遺伝子の発現量に対する各PRDM遺伝子の発現量の比(すなわち、各PRDM遺伝子の発現量/GAPDH遺伝子の発現量)について、さらに乳癌組織と同一患者の乳癌組織周囲の正常組織との比(すなわち、(乳癌組織における各PRDM遺伝子の発現量/GAPDH遺伝子の発現量)/(正常組織の各PRDM遺伝子の発現量/GAPDH遺伝子の発現量))に換算することにより、各PRDM遺伝子の発現を図3AおよびBに表した。
【0085】
図3AおよびBから明らかな通り、case7〜9、20、96においては、PRDM14 mRNAの発現量が他のPRDMのmRNAの発現量に比べて顕著に高かった。また、case112においてはPRDM14 mRNAが高発現していたが、それ以外にPRDM3、6および7のmRNAも高発現を示した。
したがって、乳癌患者においては、高い確率でPRDM14遺伝子の発現量が上昇している可能性が示唆された。
【0086】
(2)多数の臨床例におけるPRDM14遺伝子の発現解析
次にさらに臨床例を増やし、非浸潤性乳管癌(DCIS)患者4人および(浸潤性)乳癌患者51人(case番号、性別、年齢、疾患の分類は表2に示す)から手術により得た凍結組織(乳癌組織およびその周囲の正常組織)、ならびに、胃癌患者12人(case番号、性別、年齢、疾患の分類は表3に示す)から手術により得た凍結組織(胃癌組織およびその周囲の正常組織)について、上記(1)と同様にして全RNAを抽出した。また、乳癌細胞株であるMCF7、MDA-MB-231、MDA-MB-435S、MDA-MB-436、MDA-MB-468、SKBr-3およびT-47D、胃癌細胞株であるMKN7、KatoIII、JRST、SNU638、JRST、AZ521、MKN28およびMKN74、卵巣癌細胞株であるSKOV-3、OVCA-3、PA-1、Caov-3、MH、KURA、AMOC2、MCAS、KF、KFr、HTBOA、TOV-21G、SW626、TOV112DおよびOV-90、正常卵巣、ならびに、テラトカルシノーマ(teratocarcinoma)細胞株であるNCC-IT-A3からも同様にして全RNAを抽出した。
【0087】
前記各サンプルから得られた全RNAを用いて上記(1)と同様にreal-time PCR法によりPRDM14の遺伝子発現を解析した。内部標準としてGAPDH遺伝子を用い、GAPDH遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比(すなわち、PRDM14遺伝子の発現量/GAPDH遺伝子の発現量)により、各サンプルにおけるPRDM14遺伝子の発現を図4AおよびBに表した(卵巣癌細胞株、正常卵巣およびテラトカルシノーマ細胞株以外は各サンプルにつき3回ずつ実験を行った)。
図4Aに示される通り、PRDM14遺伝子は、乳癌組織中において高頻度に発現上昇が認められた。一方で、胃癌組織においては、PRDM14遺伝子の発現上昇は軽微であった。また、図4Bに示される通り、卵巣癌細胞株PA-1は非常に高いレベルでPRDM14遺伝子を発現していた。PA-1は組織型がテラトカルシノーマを示すため、テラトカルシノーマ細胞株であるNCC-IT-A3における発現についても検討したところ、PRDM14遺伝子を高発現していた。
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
<実施例2>免疫染色
実施例1においてPRDM14遺伝子の発現量が上昇していた乳癌患者4人(case86、92、96、105:性別、年齢、疾患の分類は表4に示す)について、手術により得た癌組織をホルマリンにより固定して定法によりパラフィン切片を作製し、1次抗体として抗PRDM14抗体(ABGENT社、AP1214A、50倍)を用いて4℃で一晩インキュベーション後、2次抗体としてストレプトアビジン標識ヤギ抗ウサギ抗体(DAKO社)を用いてインキュベーションを行い、EnVision-Plus(DAKO社)を用いて免疫染色を行った。また、核染色はヘマトキシリンを用いて行った。
結果を図5に示す(染色画像の倍率は400倍)。いずれの症例においても、PRDM14が高発現しており、PRDM14遺伝子の発現が上昇している症例では、PRDM14の発現も上昇していることが確認され、遺伝子発現の増加によりタンパク質の発現増加が引き起こされていることが示唆された。
【0091】
【表4】
【0092】
<実施例3>遺伝子増幅の解析
(1)PRDM14遺伝子のコピー数の解析
PRDM14遺伝子は、乳癌においてしばしは遺伝子増幅を認める染色体8番長腕(8q13.3)に位置することから、遺伝子発現上昇に染色体増幅が関与するかを検討した。PRDM14遺伝子中の2箇所のゲノム領域(エクソン1周辺およびイントロン6)のDNAコピー数を調べるため、サンプルとして、乳癌患者23人(case1、6、8、11、13、15、18〜20、81、83、85、90、94〜98、103、105、106、112、114:性別、年齢、疾患の分類は表5に示す)から手術により得た凍結組織からフェノール/クロロホルム法を用いて定法によりゲノムDNAを抽出し、実施例1と同様にdelta/delta CT法により、ABI7900real-time PCR解析装置(Applied Biosystems)を用いて解析した。内部標準として、乳癌において染色体増幅や欠失がほとんど認められない、染色体4q11に存在するアルブミン遺伝子のゲノム領域を用いた。
【0093】
【表5】
【0094】
また同様にして、PRDM14遺伝子が遺伝子増幅の標的であるか確認する目的で、染色体8q13.3に位置するPRDM14遺伝子以外の遺伝子(SLCO5A1、LACTB2、EYA1、TPD52)についても遺伝子増幅が認められるかどうかを検討するため、そのコピー数を調べた。
【0095】
使用したプライマーの配列は、それぞれ
PRDM14:センスプライマー:5’-CCTGACGGACACCCTCTCTGA-3’(配列番号9);アンチセンスプライマー:5’-GTGGGTACCTGCATCCTAACACAT-3’(配列番号10)、
アルブミン:センスプライマー:5’-AAGCTGAGTTTGCAGAAGTTTCCAAG-3’(配列番号11);アンチセンスプライマー:5’-CCTGTCATCAGCACATTCAAGCAGA-3’(配列番号12)、
SLCO5A1:センスプライマー:5’-CTACTTTGGAGCAGTCATTGACAC-3’(配列番号13);アンチセンスプライマー:5’-CACGTTGTACTCCCAGCAAGA-3’(配列番号14)、
LACTB2:センスプライマー:5’-TCCTTACCCACCAGAATGGCAATC-3’(配列番号15);アンチセンスプライマー:5’-TGAAATTCTTCGTGGTTTTTGGGTC-3’(配列番号16)、
EYA1:センスプライマー:5’-GAAGTTCTGGTGTGCGTGAGTG-3’(配列番号17);アンチセンスプライマー:5’-AATCCCCTAAAGTTAACCTAATGATG-3’(配列番号18)、
TPD52:センスプライマー: 5’-CCTCTAACTCCTGGGGTTGATTTC-3’ (配列番号19);アンチセンスプライマー:5’-CCTTCAGTTGAGTGCCGCTTTG-3’(配列番号20)
であった。
【0096】
なお、PCR反応は、TaqMan PCR(Applied Biosystems)法によりcDNA1μl、ABI TaqMan Fast Master mix 10μl、プライマー(50μM)1μlおよび水8μlを含む合計20μlの溶液を用い、96℃5秒、60℃15秒、40サイクルで行った。
さらに、PRDM14遺伝子の発現レベルを調べるため、実施例1と同様に、各サンプルから得られた全RNAを用いてreal-time PCR法によりPRDM14 mRNAの発現量を定量した。内部標準としては、GAPDH遺伝子を用いた。プライマーは、実施例1と同様にApplied Biosystemsから購入し、それぞれPRDM14:ABI: Hs00225842、GAPDH:ABI: Hs99999905を使用した。
また、PCR反応は、TaqMan PCR(Applied Biosystems)法によりcDNA1μl、ABI TaqMan Fast Master mix 10μl、プライマー(50μM)1μlおよび水8μlを含む合計20μlの溶液を用い、96℃5秒、60℃15秒、40サイクルで行った。
【0097】
結果を図6に示す。PRDM14遺伝子のコピー数が2倍以上増幅している症例(case6、18、20、81、83、90、94〜98、105、114)は、PDRM14遺伝子の増幅を認めない症例(case1、8、11、13、15、19、85、103、106、112)に比べ、PRDM14 mRNAの発現レベルの平均値が有意に高く(p=0.013766)、PRDM14遺伝子の増幅がその発現上昇に関与することが示唆された。一方、染色体8q13.3領域に存在する他の遺伝子については、PRDM14遺伝子のコピー数やPRDM14mRNAの発現量と相関したコピー数の増加は特に観察されなかった。
【0098】
(2)遺伝子増幅と遺伝子発現の関連性についての解析
実施例3(1)と同様にして、乳癌患者17人(case1、11、17〜20、81、85、94、96〜98、105、106、108、112、114:性別、年齢、疾患の分類は表6に示す)から得たサンプルを用いて、PRDM14のmRNA発現量に加え、さらに染色体8q13.3領域に存在する遺伝子であるSLCO5A1、SULF1、NCOA2、TRAM1、LACTB2、XKR9、EYA1についてもそのmRNA発現量を調べた。
遺伝子発現解析に使用したプライマーは、いずれもApplied Biosystemsより購入し、それぞれSLCO5A1:ABI: Hs00229597、PRDM14:ABI: Hs00225842、 SULF1:ABI: Hs00290918、NCO2:ABI: Hs00197990、TRAM1:ABI: Hs00560089、LACTB2:ABI: Hs00211288、XKR9:ABI: Hs00416980、EYA1:ABI: Hs00166804であった。
【0099】
【表6】
【0100】
その結果を図7に示す。
PRDM14遺伝子の増幅が認められた乳癌患者9人(case No. 18、20、81、94、96〜98、105、114)においてはいずれもPRDM14 mRNA量が増加していた。一方、NCOA2 mRNAは多くの乳癌患者において顕著に発現上昇が認められたが、その発現はPRDM14遺伝子の増幅とは無関係であった。また、SLCO5A1、SULF1、TRAM1、LACTB2、XKR9については、mRNA量の増加は観察されなかった。したがって、染色体8q13.3領域の遺伝子増幅の標的遺伝子はPRDM14遺伝子であることが示唆された。
【0101】
<実施例4>PRDM14の細胞内局在の解析
PRDM14の細胞内局在を明らかにする目的で、蛍光免疫染色を行った。
まずPRDM14遺伝子(Genbank Accession number: BC052311)(配列番号2)を発現ベクターpCMV-Tag2A(Stratagene)に挿入し、発現コンストラクトpCMV-Tag2A/PRDM14を作製して、PRDM14が発現していない細胞株であるSKBr-3細胞に、エレクトロポレーション法により導入した。導入から24時間後に細胞を100%メタノールで固定し、定法により一次抗体に抗PRDM14抗体(ABGENT社、AP1214A、100倍希釈で使用)、二次抗体にAlexa488で標識した抗ウサギ抗体(Molecular Probe社、Alexa Flour 488、goat anti rabbit IgG、500倍希釈で使用)を用いて蛍光免疫染色を行った。また、同時にVectashield (Vector Laboratories)を用いて、DAPI(4’,6−ジアミノ−2−フェニルインドール)により核染色を行った。コントロールとして発現ベクターpCMV-Tag2A(Stratagene)のみを導入した細胞を用いた。
【0102】
結果を図8に示す(画像の倍率は400倍)。
抗PRDM14抗体による染色像(Anti-PRDM14)とDAPIによる染色像(DAPI)とを重ね合わせた画像(Merge)をみると、PRDM14が主に核に局在していることが理解される。この観察結果は、PRDM14がヒストンメチル化酵素であることを考えると妥当なものであると考えられる。
【0103】
<実施例5>細胞増殖におけるPRDM14の関与
PRDM14の癌化における役割を明らかにする目的で、PRDM14が発現していない細胞にPRDM14遺伝子を導入した場合の細胞増殖について検討した。
PRDM14遺伝子(Genbank Accession number: BC052311)(配列番号2)を発現ベクターpCMV-Tag2A(Stratagene)に挿入し、発現コンストラクトpCMV-Tag2A/PRDM14を作製した。pCMV-Tag2A/PRDM14を乳癌細胞株であるMCF7、SKBr-3細胞にエレクトロポレーション法により導入し、コンストラクトが導入された細胞を薬剤マーカーG418により選別して、コロニー形成能を解析した。エレクトロポレーションによるコンストラクト導入から14日後に、細胞をメタノールにより固定して、ギムザ液にて染色し、コロニー数を測定した。コントロールとして発現ベクター(pCMV-Tag2A)のみを導入した細胞を用い、コロニー形成能を比較した(各サンプルにつき3回ずつ実験を行った)。
結果を図9A、Bに示す。
PRDM14遺伝子を導入した場合には、MCF7、SKBr-3のいずれの細胞株でもコロニー数が大きく増加しており、PRDM14が癌細胞のコロニー形成能を促進し、細胞増殖に関与することが示唆された。3回同様の実験を行い、実験に再現性を認めた。
【0104】
<実施例6>薬剤抵抗性におけるPRDM14の関与
PRDM14の機能をさらに詳細に解析するため、乳癌細胞株SKBr-3にPRDM14遺伝子を導入して抗癌剤への抵抗性に対するPRDM14の作用を検討した。
PRDM14遺伝子(Genbank Accession number: BC052311)(配列番号2)を発現ベクターpCMV-Tag2A(Stratagene)に挿入し、安定発現のためのコンストラクトpCMV-Tag2A/PRDM14を作製した。このコンストラクトを乳癌細胞株であるSKBr-3細胞にNucleofector(Amaxa)を用いてエレクトロポレーション法により導入し、コンストラクトが導入された細胞を0.7mg/mlのG418により選別して、PRDM14遺伝子を安定発現する細胞株を樹立した。コントロールとして、発現ベクターpCMV-Tag2Aのみを導入した細胞株を作製した。PRDM14を過剰発現させていない細胞株(発現ベクターのみが導入された細胞株)とPRDM14を安定発現する細胞株(2クローン:P−8およびP−9)とについて、抗癌剤であるシスプラチン(CDDP)(50μM)、エトポシド(VP-16)(50μM)、アドリアマイシン(200 ng/ml)、ドセタキセル(1μM)をそれぞれ48時間処置し、MTT法により細胞の生存率を測定した。
結果を図10に示す。
PRDM14を安定発現した細胞株においては、PRDM14を発現していない細胞に比べ、いずれの薬剤を処置した場合にも、細胞の生存率が上昇し、薬剤抵抗性を示した。したがって、PRDM14の発現は、抗癌剤感受性の低下に関与することが示唆された。
【0105】
<実施例7>PRDM14遺伝子のノックダウンによる細胞増殖抑制効果および薬剤感受性の増強
細胞増殖および薬剤感受性における内在性PRDM14の役割を検討する目的で、PRDM14に対するsiRNAを用い、PRDM14を過剰発現する卵巣癌細胞株PA-1においてPRDM14遺伝子のノックダウンを行った。
【0106】
まず、エレクトロポレーション法を用いて、GFPを発現するベクターをPA-1細胞に導入し、その遺伝子導入効率を検討・最適化した。GFP発現ベクターを導入したPA-1細胞の顕微鏡画像(倍率は400倍)(位相差顕微鏡による細胞画像(左:Phase)、蛍光顕微鏡による細胞画像(中:GFP)および前記2つの細胞画像の重ね合わせ(右:Merge))を図11に示す。図11から明らかな通り、約80%の細胞に遺伝子導入が可能となったことが理解される。
【0107】
この条件を用い、下記配列を有する3種類のsiRNA(siRNA-PRDM14-1、siRNA-PRDM14-2およびsiRNA-PRDM14-3)のカクテルをPA-1細胞に導入した。各siRNAの塩基配列は以下の通りであった;
siRNA-PRDM14-1: センス:5’-CCAGUGAAGUGAAGACCUATT-3’(配列番号3)、アンチセンス:5’-UAGGUCUUCACUUCACUGGTT-3’(配列番号4);
siRNA-PRDM14-2:センス:5’-GGACAAGGGCGAUAGGAAATT-3’(配列番号5)、アンチセンス:5’-UUUCCUAUCGCCCUUGUCCTT-3’(配列番号6);
siRNA-PRDM14-3:センス:5’-GGGAAAAUCUUCUCAGAUCTT-3’(配列番号7)、アンチセンス:5’-GAUCUGAGAAGAUUUUCCCTT-3’(配列番号8)
また、コントロールとして、下記3種類の配列を有するsiRNA(siRNA-control-1、siRNA-control-2およびsiRNA-control-3)のカクテルを用いた。
siRNA-control-1:5’-ATCCGCGCGATAGTACGTA-3’(配列番号21)
siRNA-control-2:5’-TTACGCGTAGCGTAATACG-3’(配列番号22)
siRNA-control-3:5’-TATTCGCGCGTATAGCGGT-3’(配列番号23)
【0108】
siRNA導入から48時間後におけるPRDM14遺伝子の発現レベルについて、ABI7900real-time PCR解析装置(Applied Biosystems)を使用し、実施例1と同様に、内部標準としてGAPDH遺伝子を用い、GAPDH遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比(すなわち、PRDM14遺伝子の発現量/GAPDH遺伝子の発現量)により解析したところ、図12に示す通り、コントロールsiRNAを導入した細胞におけるPRDM14の発現レベルを100%とした場合に、上記siRNA-PRDM14-1〜3のカクテルを導入した細胞では、PRDM14遺伝子の発現レベルが14.3%まで抑制されることが示された。
【0109】
次に、PRDM14遺伝子のノックダウンによる増殖抑制効果を解析する目的で、上記siRNA-PRDM14-1〜3のカクテルをPA-1細胞に導入してから48時間後および96時間後における細胞数を計測したところ、図13に示すように、PRDM14に対するsiRNA(siRNA-PRDM14-1〜3)を導入したPA-1細胞では、コントロールsiRNA(siRNA-control-1〜3)を導入した細胞に比べ、細胞数が48時間後では約40%、96時間後では約70%減少しており、細胞増殖の顕著な抑制が認められた。したがって、癌細胞におけるPRDM14遺伝子の発現を抑制することにより、あるいは、癌細胞におけるPRDM14の阻害により、癌細胞の増殖抑制が可能となることが示された。
【0110】
さらに、PRDM14のノックダウンによる薬剤感受性の増強効果について検討するため、上記siRNA-PRDM14-1〜3のカクテルを導入してから48時間後、抗癌剤であるシスプラチン(CDDP)(50μM)またはドセタキセル(1μM)をそれぞれ48時間処置し、フローサイトメトリーによりサブG1期の細胞数の割合を測定して、各薬剤により惹起される細胞のアポトーシスを検出した。結果を図14に示す。PRDM14 siRNA(siRNA-PRDM14-1〜3)を導入したPA-1細胞では、コントロールsiRNAを導入した細胞に比べ、CDDPまたはドセタキセルのいずれを処置した細胞でも、アポトーシスが惹起された細胞の数が約15%程度増加しており、PRDM14遺伝子のノックダウンにより、CDDPおよびドセタキセルによるアポトーシスを増強することが示された。したがって、癌細胞におけるPRDM14遺伝子の発現を抑制することにより、あるいは、癌細胞におけるPRDM14の阻害により、抗癌剤に対する感受性が増強することが示唆された。
【0111】
以上の通り、本願発明者らは、PRDMファミリーの遺伝子発現プロファイルについて、real-time PCR法とdelta/delta CT法とを組み合わせて用いることにより解析し、乳癌および卵巣癌においてPRDM14遺伝子の発現が特異的に上昇していることを初めて明らかにした。また、このPRDM14遺伝子の発現上昇は染色体増幅によるものであること、PRDM14遺伝子の発現上昇によりタンパク質レベルでも癌組織における発現が増加していることを見出すとともに、PRDM14が細胞増殖を促進することなどから、PRDM14遺伝子が癌遺伝子としての作用を有するものであることを初めて示唆した。そしてさらに、これらの知見に基づいて、癌細胞におけるPRDM14遺伝子の発現を抑制したところ、癌細胞の増殖を顕著に抑制することおよび癌細胞の抗癌剤感受性を増強することを明らかにした。
【0112】
これらの結果から、本願発明の治療薬に用いられるPRDM14遺伝子の発現阻害剤またはPRDM14の阻害剤は、乳癌または卵巣癌細胞の増殖抑制効果を奏し、さらに、抗癌剤を処置した癌細胞においては、抗癌剤に対する感受性を高めることができることが示された。そしてまた、本発明の方法に従い、あるいは、本発明のキットを用いることにより、対象から得た生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量に基づいて、対象における乳癌または卵巣癌を検出することが可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明において用いられるPRDM14遺伝子は、乳癌または卵巣癌病巣で特異的に発現が亢進している。したがって、PRDM14遺伝子の発現阻害剤またはPRDM14の阻害剤を含有してなる本発明の治療薬は、乳癌または卵巣癌のための治療薬として安全に使用することができ、高い治療効果が得られるものとして医薬品への応用が期待される。さらにまた、本発明によれば、PRDM14遺伝子の発現に基づいた乳癌や卵巣癌のための検出方法や検出用キットも提供することができるから、本発明は、乳癌または卵巣癌の治療のみならず、その診断や研究にも大いに寄与するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PRDM14遺伝子の発現阻害剤を含有してなる、乳癌または卵巣癌のための治療薬。
【請求項2】
PRDM14遺伝子の発現阻害剤が、PRDM14遺伝子の発現を阻害するアンチセンス、siRNAまたはshRNAから選択される、請求項1に記載の治療薬。
【請求項3】
PRDM14遺伝子の発現を阻害するアンチセンスが、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に相補的な塩基配列またはその一部を含有するアンチセンスポリヌクレオチドである、請求項2に記載の治療薬。
【請求項4】
PRDM14遺伝子の発現を阻害するsiRNAまたはshRNAが、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドに対するsiRNAまたはshRNAである、請求項2に記載の治療薬。
【請求項5】
PRDM14の阻害剤を含有してなる、乳癌または卵巣癌のための治療薬。
【請求項6】
PRDM14の阻害剤が、抗PRDM14抗体またはその断片である、請求項5に記載の治療薬。
【請求項7】
対象から得た生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量を基準として、前記対象における乳癌または卵巣癌を検出する方法。
【請求項8】
対象から得た生物学的試料における内部標準遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比が、前記対象と同種の健常な対象から得た生物学的試料における内部標準遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比よりも少なくとも5倍多いことを基準として乳癌または卵巣癌を検出することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
PRDM14遺伝子の発現量が、PRDM14をコードするmRNAの発現量に基づいて定量される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
PRDM14をコードするmRNAの発現量が、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応により定量される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応が、配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列の一部を含むセンスプライマー、および配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列に相補的な塩基配列の一部を含むアンチセンスプライマーを用いて行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列の一部を含むセンスプライマー、および配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列に相補的な塩基配列の一部を含むアンチセンスプライマーを含む、請求項7〜11のいずれかに記載の方法を行うための乳癌または卵巣癌検出用キット。
【請求項13】
PRDM14遺伝子の発現量が、PRDM14の発現量に基づいて定量される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項14】
PRDM14の発現量が、抗PRDM14抗体またはその断片を用いた抗原抗体反応により定量される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
抗PRDM14抗体またはその断片を含む、請求項7、8、13または14のいずれかに記載の方法を行うための乳癌または卵巣癌検出用キット。
【請求項1】
PRDM14遺伝子の発現阻害剤を含有してなる、乳癌または卵巣癌のための治療薬。
【請求項2】
PRDM14遺伝子の発現阻害剤が、PRDM14遺伝子の発現を阻害するアンチセンス、siRNAまたはshRNAから選択される、請求項1に記載の治療薬。
【請求項3】
PRDM14遺伝子の発現を阻害するアンチセンスが、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に相補的な塩基配列またはその一部を含有するアンチセンスポリヌクレオチドである、請求項2に記載の治療薬。
【請求項4】
PRDM14遺伝子の発現を阻害するsiRNAまたはshRNAが、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質もしくはその一部であるペプチドに対するsiRNAまたはshRNAである、請求項2に記載の治療薬。
【請求項5】
PRDM14の阻害剤を含有してなる、乳癌または卵巣癌のための治療薬。
【請求項6】
PRDM14の阻害剤が、抗PRDM14抗体またはその断片である、請求項5に記載の治療薬。
【請求項7】
対象から得た生物学的試料におけるPRDM14遺伝子の発現量を基準として、前記対象における乳癌または卵巣癌を検出する方法。
【請求項8】
対象から得た生物学的試料における内部標準遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比が、前記対象と同種の健常な対象から得た生物学的試料における内部標準遺伝子の発現量に対するPRDM14遺伝子の発現量の比よりも少なくとも5倍多いことを基準として乳癌または卵巣癌を検出することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
PRDM14遺伝子の発現量が、PRDM14をコードするmRNAの発現量に基づいて定量される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
PRDM14をコードするmRNAの発現量が、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応により定量される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応が、配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列の一部を含むセンスプライマー、および配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列に相補的な塩基配列の一部を含むアンチセンスプライマーを用いて行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列の一部を含むセンスプライマー、および配列番号2で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列に相補的な塩基配列の一部を含むアンチセンスプライマーを含む、請求項7〜11のいずれかに記載の方法を行うための乳癌または卵巣癌検出用キット。
【請求項13】
PRDM14遺伝子の発現量が、PRDM14の発現量に基づいて定量される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項14】
PRDM14の発現量が、抗PRDM14抗体またはその断片を用いた抗原抗体反応により定量される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
抗PRDM14抗体またはその断片を含む、請求項7、8、13または14のいずれかに記載の方法を行うための乳癌または卵巣癌検出用キット。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−100286(P2013−100286A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−253108(P2012−253108)
【出願日】平成24年11月19日(2012.11.19)
【分割の表示】特願2008−536470(P2008−536470)の分割
【原出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(510256975)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年11月19日(2012.11.19)
【分割の表示】特願2008−536470(P2008−536470)の分割
【原出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(510256975)
【Fターム(参考)】
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