説明

乳酸産生菌及び肺機能

【課題】肺機能障害の治療用又は予防用の薬剤組成物の提供。
【解決手段】プロバイオティック乳酸産生菌(ビフィドバクテリウム・ブレーベ(B. breve)菌株MV−16)並びに、タンパク質及び/又は炭水化物及び/又は脂質及び/又は抗酸化剤などを含む補助食品、栄養組成物。
【効果】乳酸産生菌は、試験動物のPenH(enhanced pause)値を測定することによって判定される、気道狭窄に対する有意で有益な作用を及ぼす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品及び/又は薬剤組成物の分野に関する。本発明は、生きた(プロバイオティック)乳酸産生菌、死んだ、若しくは生存不可能なその細菌、並びに補助食品、栄養組成物、及び/又はこれらを含む薬剤組成物の新規使用を提供する。本発明はさらに、このような組成物を製造する方法、並びにこのような組成物中に含めるのに適した細菌を同定する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
肺機能の低下は、気道の狭窄、又は肺上皮から血流への酸素拡散の低下によって引き起こされる恐れがある。気道の狭窄は、例えば、気道抵抗(AR)の増加、及び気道過敏性又は気管支過敏性(AHR又はBHR)をもたらす。AHRは、様々な刺激に対する過剰な気管支収縮反応をさし、(気道狭窄)刺激に対する感受性の増大によって反映される。さらに、対象においてAHRが頻繁に起こると、気道リモデリング、及びそれにより気道狭窄、気道抵抗の増加がもたらされ、続いて肺機能のさらなる低下に向かう事象の悪循環が引き起こされる(Babu and Arshed, 2003)。気道狭窄は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、嚢胞性線維症、環境による肺疾患など、様々な肺の疾患又は障害に伴う症状である。気道狭窄は、上気道感染の後にも、またアトピー性で非喘息の患者(atopic non-asthmatics)、及び喘息の既往歴がある患者においても生じる。
【0003】
COPDは、慢性気管支炎及び肺気腫を包含する包括的用語である。COPDの主要な危険因子は、能動喫煙及び/又は受動喫煙である。他の危険因子は、職業被曝、及びα1プロテイナーゼインヒビター(又はαIアンチトリプシン)の遺伝的欠損である。慢性気管支炎の患者は、2年間連続して1年につき少なくとも3ヶ月間ほとんど毎日、慢性湿性咳嗽の病歴を有する。咳嗽増加、呼吸困難、呼気流量の減少、運動耐性低下、及び日常生活での活動障害に向かう緩やかな進行が観察されることが多い。粘液性分泌物の粘稠化、及び気管支壁の浮腫が気道狭窄の原因である。肺気腫では、肺胞壁の分解、又は肺胞を取り囲む肺毛細血管の消失、終末細気管支より末梢の気腔の拡張、肺胞壁破壊、及び肺胞表面積の減少によるガス拡散障害が観察される。肺胞の崩壊の他に、COPDに見られる形態変化は平滑筋細胞の過剰増殖である。こうした形態変化は、酸素摂取機能の低下、及び平滑筋収縮の障害をもたらす。続いて、これは、数ある中でメタコリン、ヒスタミン、冷気などの非特異的作用物質に対する肺(気道)過敏性、及び気道抵抗の増加をもたらす。
【0004】
喘息は別の肺疾患である。喘息は、呼吸困難、胸部絞扼感、喘鳴、喀痰、咳嗽などの症状を伴う慢性疾患である。喘息の発現及び持続は、主に、抗原誘発性炎症の存在、及び気道構造に対するその作用(「アレルギー性喘息」)に起因すると考えられる。COPDの一部の症状は喘息に類似しているが、喘息とCOPDは同一でなく、こうした疾患を有する患者は、別々に治療されるべきであることを示唆する証拠が相当ある。COPDと対照的に、喘息患者における気道閉塞は可逆的である。
【0005】
気道過敏性及び/又は気道抵抗が重要な役割を果たしている疾患は、健康の重大な障害となる。例えば、COPDは現在、世界で5番目に多い疾患で、死因の第5位となっており、COPDは、2020年までに世界で最も多い死因の第3位に位置する恐れがあると予測されている。COPD患者のうちの3分の1を超える患者で、その疾患のために、患者は仕事ができないか、その仕事の能力が制限されるか、或いは過去1年以内に仕事をする時間が失われてしまうと報告されている。こうした間接費は、一次及び二次医療費からの直接費と併せて、90年代中頃の米国でおよそ110億ドルであったと推定されている。
【0006】
発展途上国での喘息の有病率は高い。例えば、英国での国民健康キャンペーンによる2001年喘息検査によれば、現在、成人13人に1人、子供8人に1人が喘息の治療を受けている。また、喘息に関する、生産性の損失による費用、健康治療における費用、及び社会保障費は巨額である(2001年の英国で22億ポンドという推定がある)。
【0007】
COPD又は喘息など、肺疾患の現在の治療法には薬物治療が含まれ、この治療は喫煙の中止を助ける。患者が喫煙の中止を成し遂げることは困難であり、薬物には、副作用が起こる恐れがあるという不利な点がある。こうした副作用は、使用する特異的な薬物に依存した、例えば、動悸、頻脈、振戦、身震い/神経過敏、頭痛、不眠症、口内乾燥、霧視、易刺激性、落ち着きのなさ、悪心、嘔吐、嗄声、副腎機能不全、免疫抑制、及び下痢からなり得る。さらに、患者は薬物に対する感受性が低下する恐れがある。
【0008】
したがって、副作用がないが患者のAHR及びARを軽減することにより、肺機能に対して有益な作用を及ぼす組成物及び方法がさらに必要である。
【0009】
微生物の一部の菌株、特に乳酸桿菌(Lactobacillus)属及び/又はビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属するもの、いわゆる「プロバイオティック」菌株は、ヒト及び/又は動物による生存消費に対して有益な作用を及ぼすことが知られている。下痢、胃腸管又は尿路感染、腟感染、炎症性疾患、及びアレルギーに対する治療及び/又は予防効果が報告されている。こうした疾患におけるプロバイオティクスの作用機序は、病原菌の直接の排除を介したもの、及び/又は免疫系の調節を介したものである。例えば、特定のプロバイオティック菌株は、in vitroで、又はin vivoの腸で、炎症誘発性サイトカインIFN−γに対して低減作用を及ぼすことが示されている(Schultz et al. 2003、Varcoe et al. 2003、Madsen et al. 2001、Tejada-Simon 1999)。国際公開第03/010298号では、腸内に存在すると炎症誘発性サイトカインのレベルを明らかに低下させる免疫調節作用を有するラクトバチルス・サリバリウス(L. salivarius)というプロバイオティック菌株が開示されている。同様に、国際公開第03/010297号では、抗炎症作用を有するビフィドバクテリウム属というプロバイオティック菌株が開示されている。国際公開第01/97822号では、ラクトバチルスGG(Lactobacillus GG)菌株(ATCC53103)、及びアレルギー性炎症に関するビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)Bb−12の使用が開示されている。国際公開第01/37865号では、プロバイオティック細菌投与後のIgE抗体のダウンレギュレーションが記載されている。
【特許文献1】国際公開第03/010298号
【特許文献2】国際公開第03/010297号
【特許文献3】国際公開第01/97822号
【特許文献4】国際公開第01/37865号
【非特許文献1】Babu and Arshed, 2003
【非特許文献2】Schultz et al. 2003
【非特許文献3】Varcoe et al. 2003
【非特許文献4】Madsen et al. 2001
【非特許文献5】Tejada-Simon 1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
プロバイオティクスの使用は当技術分野で記載されているが、現在までに記載されている細菌の菌株は、有益な抗アレルギー性の、且つ/又は抗炎症性の免疫系作用について、或いは抗病原菌作用について選択されている。こうした菌株が有益な作用を及ぼすことが示されている場合、この作用は、あらゆる場合においてこれらの作用様式を介して(直接的に、又は間接的に)及ぼされる。例えば、アレルギーの治療において、プロバイオティック菌株の消費は、ある抗炎症作用、又はTh1/Th2の均衡を回復させる免疫系に対してある作用を及ぼすと記載されており、したがって、このような菌株はアレルギー性喘息を治療する際に有用であると推定されている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は初めて、肺機能に対する(すなわちPenH(enhanced pause:呼吸抵抗指数)に対する、またそれによりAHR及び/又はARに対する)直接作用に関して、単離された細菌の菌株を試験し、驚くことに、乳酸産生菌の一部の菌株(群1及び群2、下記参照)がin vivoでの気道狭窄に対して、特にAHRに対して有意で有益な作用を有すること、並びにこの作用が、抗炎症反応に依存せず、及びアレルギー患者で観察される(抗原特異的)免疫応答であるTh1/Th2サイトカイン応答の均衡を取り戻すことにも依存していない作用様式によるものであることを発見した(Cross et al. 2002を参照)。さらに、以前に記載された、呼吸器障害を治療するのに使用される薬剤とは対照的に、本発明の菌株は、吸入する必要がなく、摂取することができる。したがって、この菌株を使用して、プロバイオティック菌株を用いて治療可能であることがこれまで知られていなかった、例えば、COPD、非アレルギー性喘息などの呼吸器疾患を治療又は予防することができる。また、本発明の1種又は複数の菌株を、例えば既知のプロバイオティック菌株(例えば異なる作用様式を有する菌株)と一緒に同時投与することも本発明に包含される。さらに、本発明の菌株を死細胞、又はこうした菌株を含む組成物として投与して、肺機能に対して有益な作用を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
定義
本明細書では、「乳酸菌」及び「乳酸産生菌」を同義的に使用し、これは、それだけには限らないが、乳酸桿菌属、レンサ球菌属(Streptococcus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、エノコッカス属(Oenococcus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、カルノバクテリウム属(Carnobacterium)、プロピオニバクテリウム属(Propionibacterium)、腸球菌属(Enterococcus)、ビフィドバクテリウム属の細菌など、乳酸を発酵の最終産生物として産生する細菌をさす。
【0013】
「プロバイオティクス」又は「プロバイオティック菌株」は、対象により(例えば経腸的に、又は吸入によって)摂取されると、宿主に対して有益な作用を及ぼす生きた微生物、好ましくは細菌の菌株をさす。
【0014】
本明細書では、「対象」は、ヒト又はヒト以外の動物、特に脊椎動物をさす。
【0015】
本明細書では、「肺機能障害」という用語は、「非特異的な気道狭窄」によって引き起こされる、気道通過の低下をさす。肺機能障害という用語は、本明細書で、アレルゲンによって誘発されるとアレルギー性喘息で見られるような肺組織の免疫応答を伴う気道狭窄をさす「特異的な気道狭窄」を包含しない。肺機能障害は、気道抵抗(AR)又は気道過敏性(AHR)として測定することができる。
【0016】
「気道過敏性若しくは気管支過敏性」又は「気道反応亢進若しくは気管支反応亢進」(AHR又はBHR)は、気管支収縮剤による刺激に応答した、気道狭窄の容易さ及び程度の増大をさす。AHRは、本明細書の別の場所に記載する気管支誘発試験によって測定することができる。本明細書では、「非特異的に誘発される気道過敏性」(非特異的なAHR)を、対象における(アレルゲンによって引き起こされる)アレルギー性反応に依存していないAHRをさすのに使用する。それとは対照的に、「特異的な誘発されるAHR」は、特異的なアレルギー薬剤に感作された対象の免疫系に依存しているAHRをさす。
【0017】
「気道抵抗」(AR)は、ある速度で肺を空気が通過することに対する気道の抵抗の尺度をさす。ARは、気管支誘発試験がまだ示されていない場合、AHRの基礎レベルと同じ値を有する。ARは、気管支誘発試験において測定することもできる。
【0018】
「FEV1」は、肺活量計を用いて測定する、呼吸の最初の1秒間における努力呼気肺活量をさす。「FVC」は、同様に肺活量計を用いて測定する努力肺活量をさす。FEV1は、ヒトにおける肺の機能性及び気道狭窄の尺度である。試験動物において使用するPenH試験と対照的に、ヒト対象において実施される気管支誘発試験では通常、FEV1が測定される。
【0019】
「気道狭窄に対する有意で有益な作用」を有する菌株は、本明細書に記載のPenH試験において、適切な対照に比べて有意に低下したPenH値を有する菌株をさす。PenHを評価する代わりに、ヒトでの試験におけるFEV1など、同等の代替値を求めることができることを理解されたい。
【0020】
「有意な抗炎症作用」という用語は、気管支肺胞洗浄で求める、炎症細胞の数の少なくとも10%の増加と定義される。
【0021】
「含む(comprising)」という用語は、述べられる部分、段階、又は成分の存在を明記するものとして解釈されるべきであるが、1種又は複数の追加の部分、段階、又は成分の存在を排除するものではない。したがって、乳酸菌を含む組成物は、追加の細菌の菌株などを含むことができる。
【0022】
PenH試験を使用してオバルブミン感作マウスに対する乳酸菌の数種の菌株(経口投与される)の作用を測定すると、驚いたことに、肺組織中への炎症細胞(例えば、好中球、好酸球、リンパ球、及びマクロファージ)の流入によって求めて、乳酸産生菌の一部の菌株が、付随する炎症に対する作用なしでPenHに対して、特に気道過敏性に対して有意で有益な作用を及ぼすことができることが分かった。
【0023】
驚いたことに、細菌株を気道狭窄に対するその作用(PenHによって判定する)、及びその抗炎症/免疫調節作用に基づいて区別し、群に分けることができる。したがって、炎症又は気道狭窄のどちらに対する活性も有していない細菌の菌株の一群を除いて、その示差的な作用様式に基づいて、乳酸産生菌を3つの群に分類することができる。群1の菌株(例えば、菌株TD1、すなわちMorinaga社製のビフィドバクテリウム・ブレーベ(B. breve)菌株MV−16)は、有意な抗炎症作用、及び気道狭窄に対して有意で有益な作用を及ぼす。群1に属する他の菌は、ラクトバチルスGG及びビフィドバクテリウムBb−12であり、こうした菌は、我々の実験でPenHに対して25%超減少させる影響を及ぼすことが分かっている。こうした菌株は、有意な抗炎症作用を及ぼすことが知られている(参照により本明細書に組み込む国際公開第01/97822)。群2の菌株(例えば、菌株TD2は、BCCM(商標)(Gent大、ベルギー)にアクセッション番号LMG P−22110として寄託されている)は、有意な抗炎症作用を及ぼさないが、気道狭窄に対して有意で有益な作用を及ぼす。群3の菌株(例えば、菌株TD5、すなわちRhodia Food社製のビフィドバクテリウム・インファンティス(B. infantis)Bi07)は、気道狭窄に対して有意で有益な作用を及ぼさないが、有意な抗炎症作用を及ぼす。このことにより、気道狭窄に対する有益な作用と抗炎症作用とは関連がないこと、及びこの細菌が炎症に対しても作用を及ぼすかどうかに関係なく、乳酸産生菌が気道狭窄に対して有意で有益な作用を及ぼすことができることが明確に実証された。
【0024】
肺組織の炎症を測定する、すなわち気管支中への抗炎症性細胞、特に、好中球、好酸球、リンパ球、及びマクロファージの流入を測定する一般的な方法によって判定できる限りにおいて、群2の菌株は免疫系を介してその作用を及ぼさないことが結論付けられている。しかし、こうした方法を使用して測定されない、又は測定できないが、群2の菌株が免疫系に何らかの他の新たな、若しくは異なる方式で作用していることも除外されない。いずれの場合においても、こうした菌株は、抗炎症作用がないことにより、アレルギー対象における抗炎症反応を介してその作用を及ぼす既知の菌株(ビフィドバクテリウムBb−12、ラクトバチルスGGなど)と明確に区別される。本発明の範囲を限定することなく、肺上皮細胞、又は肺の平滑筋細胞に対する直接の作用を予想することができるが、肺に対するこの作用の正確な機序は依然として明らかにされていない。
【0025】
本発明の一実施形態では、肺機能障害(上記で定義した通り)の治療用又は予防用の組成物を調製するための乳酸産生菌株の使用が提供される。この組成物の調製用に適当に使用される乳酸産生菌は、群1及び/又は群2の細菌、すなわちPenH試験又はFEV1試験において測定することできる、気道狭窄に対して有意で有益な作用を及ぼす細菌である。好ましくは、PenH試験を使用する(Hamelmann et al. 1997に記載されている通り)。
【0026】
上記のように、群1の菌株は、気道狭窄に対して有意で有益な作用を及ぼし(定義した通り)、また試験対象に対して少なくとも1種の有意な抗炎症作用を及ぼす菌株である。群1の菌株は、例えば、サイトカインレベルを調節することにより免疫調節作用を及ぼすこともできる。群1の菌株は、例えば、Morinaga社製のビフィドバクテリウム・ブレーベ菌株MV−16(本明細書では菌株TD1とも呼ぶ)である。
【0027】
群2の菌株は、気道狭窄に対して有意で有益な作用を及ぼす(定義した通り)が、少なくとも付随する抗炎症作用を欠いている新規の菌株である。群2の菌株の一例はLMG P−22110(本明細書ではTD2とも呼ぶ)である。群2の菌株は免疫調節活性を有していないことが好ましい。本明細書の別の場所に開示する方法を使用して、群2の追加の菌株を容易に同定することができる。
【0028】
群3の菌株は、気道狭窄に対して有意で有益な作用を及ぼさない(定義した通り)が、少なくとも1種の抗炎症作用を及ぼす菌株である。Rhodia Food社製のビフィドバクテリウム・インファンティスBi07(本明細書ではTD5とも呼ぶ)は、この群の一例である。
【0029】
対照菌株と比較した、ある試験菌株の気道狭窄に対する有意な(有益な)作用を測定することにより、気道狭窄に対するある細菌株の有意で有益な作用が判定される。これは、試験動物又はヒト対象のいずれかを使用して行うことができるが、以下で論じる通り、それぞれの試験及び測定するパラメータは異なる(それぞれPenH試験及びFEV1試験)。したがって、有意なPenH値又はFEV1値により、気道狭窄に対して、特にAHR及び/又はARに対して有意で有益な作用があるがどうかが判定される。どのレベルをこの点において「有意」と見なすかは、以下で論じる通り、試験及び使用するパラメータに依存する。重要な要素は、使用する試験に適した統計分析を実施する場合に、試験結果が統計的に有意であることである。少なくとも95%の信頼限界を使用することが好ましい。当分野の技術者であれば、こうした試験、又は当技術分野で既知の同等の試験のいずれかを使用して、気道狭窄に対して有意で有益な作用を及ぼす菌株を同定することができるはずである。このような菌株は、本発明の組成物及び方法での使用に適している。
【0030】
ヒト対象−FEV1
気管支収縮剤による刺激の前後におけるスパイロメトリーによるFEV1の判定が、ヒト対象におけるAHR反応及び/又はARを定量するのに最も一般的に使用されている方法である。陽性試験は、特定の用量又はレベルの刺激物によるFEV1(1秒間の努力呼気肺活量)の定義される減少によって特徴付けられる。気管支誘発試験は通常、特定のプロトコールに従って、すなわち累積量を測定したPD20(Yan et al. 1983)(PD20は、FEV1が20%低下する誘発量をさす)、又はより時間がかかるPC測定方法(Cockcroft 1985)(PCは誘発濃度をさす)のいずれかによって実施される。PC20<0.25mg/ml(PD20<0.1μmol)は重度の反応であり、PC20 0.25〜2.0mg/ml(PD20 0.1〜0.8μmol)は中等度の反応であり、PC20 2.0〜8.0mg/ml(PD20、0.8〜8.0μmol)は軽度の反応である。使用する、気管支収縮を起こす刺激は、薬物(ヒスタミン、メタコリン)、物理的刺激(非等張性のエアゾール剤、冷気/乾燥した空気、運動)、及び特異的感作物質(アレルゲン)である。ヒトにおいて、このような気管支誘発試験を使用して、AHRを診断するか、又はAHRの診断を確認して、AHRの重症度を記録し、それにより治療的介入若しくは症状悪化の後のAHRの変化を追跡調査し、慢性咳患者における喘息を除去し、誰が職場において、若しくはレクリエーション活動中に危険であるかを判定し、且つ/又は環境被曝若しくは職業被曝の前に対照若しくは基準を確立する。
【0031】
ヒト試験対象における気管支誘発試験の後に測定されたFEV1の、対照の対象と比べて少なくとも10%の低下は、肺機能の低下と見なされる(Cockroft 1985、Yan et al. 1983)。特定の菌株を補充した際に、且つ/又はその後にFEV1の基礎レベルが有意に(<10%)増加した場合、或いは気管支誘発試験の後、FEV1の低下が有意な(<10%)減少であった場合、菌株は有益な作用を及ぼすと見なされる。
【0032】
試験動物−PenH試験
ある動物においてFEV1を測定することができないので、気道狭窄を測定する他の手段(すなわちPenH、及びそれによるAHR及びAR)を設けた。参照により本明細書に組み込むHamelman et al. (1997)による記載の通り、プレチスモグラフを使用して、試験動物においてin vivoでPenHを測定することが好ましい。要するに、試験動物(通常マウス)をプレチスモグラフの動物用チャンバー内に入れる。この動物が静かに呼吸する際、それにより1回換気量と呼吸中の胸部の動きとの差を表す、そのチャンバー内の圧力変動が作製される。差圧変換器により、動物用チャンバーと参照用チャンバーとの圧力の変化を測定する。最大呼気流量(PEF)、1回換気量(TV)、呼気時間(Te)、及び呼吸回数(f)のような既知の肺機能パラメータの他に、PenH(enhanced pause)も測定する。基礎PenHは、肺機能のどんな低下も来たしていない正常な動物でおよそ0.30である。動物の基礎PenHもARに関するパラメータと見なされる。気管支収縮(メタコリンによって誘発される)の際、PEF及びPIF(最大吸気流量)は増加するが、Tr(緩和時間)及びTeは減少する。この結果、PenHの増加がもたらされる。意識下非拘束マウスにおける気道反応性のデータは、PenHとして表される。PenHの増加は、FEV1の低下と相関関係がある。したがって、動物においてPenHの増加を阻害する化合物によりFEV1が低下せず、それによりヒトにおいて気道狭窄が軽減し、肺機能が改善されることが想定され得る。
【0033】
大まかに言えば、気管支誘発試験の後、対照対象と、試験菌株を投与した対象との間の、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%以上等のPenH値の差が、試験菌株の有意な作用を表している。
【0034】
上記の動物試験による方法(PenH)又はヒト試験による方法(FEV1)を使用して、どの菌株を本発明の組成物の製造に適当に使用するかを判定することができる。このようにして製造された組成物は、ヒト及び/又は動物対象における肺機能障害の治療及び/又は予防に対して有益な作用を及ぼすはずである。上記の通り、気管支誘発試験によりヒト対象に対する菌株及び/又はこうした菌株を含む組成物の作用を測定することもできる。
【0035】
気道狭窄に対して有意で有益な作用を及ぼす菌株が群1又は群2に入るかどうかを判定するために、菌株の抗炎症作用(及び場合によっては免疫調節作用も)を、例えば実施例に記載の既知の方法を使用して判定する。使用する試験に適した既知の統計分析法を使用して、この作用が有意であるかどうかを判定する。大まかに言えば、対照と、試験菌株を投与した対象との間の少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、30%、40%、又は50%のPenHの差が、試験菌株の有意な作用を表している。
【0036】
組成物
本発明の1種又は複数の菌株を使用して製造される組成物は、対象、特にCOPD又は喘息などの肺機能障害、或いは気道過敏性及び/又は気道制限が起こる他の呼吸器疾患を患うヒト対象の摂取に適した任意の種類の組成物とすることができる。この組成物は、食品、補助食品組成物、栄養(食品)組成物、又は薬剤組成物であってもよい。この組成物、及び組成物の構成は、組成物の種類、及び好ましいその投与方法によって変わり得る。食品又は食品/栄養組成物は、本発明の1種(複数)の細菌株の他に、適当な食品ベースも含む。本明細書では、食品又は食品組成物には、ヒト又は動物の消費のために、固体(例えば粉末)、半固体、及び/又は液体(例えば飲み物又は飲料)が含まれることを理解されたい。食品又は食品/栄養組成物は、それだけには限らないが、ヨーグルト、ヨーグルトベースの飲料、又はバターミルクを含めた発酵乳製品などの乳製品であってもよい。このような食品又は食品組成物を、それ自体知られている方法で、例えば、本発明の1種(複数)の菌株を適当な食品又は食品ベースに適当な量添加することによって調製することができる(国際公開第01/82711号を参照のこと)。さらなる一実施形態では、この1種(複数)の菌株を、食品又は食品/栄養組成物を例えば発酵によって調製する際に、又は調製用に使用する。このような菌株の例には、本発明のプロバイオティック乳酸産生菌が含まれる。そうする際に、本発明の1種(複数)の菌株を、このような発酵食品又は食品/栄養組成物の調製用にそれ自体既知の方法で、例えば、乳酸産生菌を使用して発酵乳製品の調製用にそれ自体既知の方法で使用することができる。このような方法では、本発明の1種(複数)の菌株を、通常使用される微生物に添加して使用することができ、且つ/又は通常使用される1種又は複数又は一部の微生物と取り替えることができる。例えば、ヨーグルト又はヨーグルトベースの飲料など発酵乳製品の調製に、本発明の食品用の生きた乳酸産生菌を、スターターカルチャーに添加するか、又はその一部として使用することができ、或いはこのような発酵の際に適当に添加することもできる。
【0037】
補助食品組成物
群1及び/又は群2の有効量の1種又は複数の菌株の他に、補助食品は、1種又は複数の担体、安定剤、プロバイオティクスなどを含むことができる。好ましくは、この組成物は、経腸(好ましくは経口)投与用に粉末の形であるが、経鼻投与又は吸入も適当であり得る。1種(複数)の菌株の生きた細胞を使用する場合、この細胞を、胃から保護するためにカプセル化した形で存在させてもよい。例えば、この組成物は、水、果汁、ミルク、又は他の飲料に溶解させることができる小袋に入った粉末の形でよい。この組成物は、群2の少なくとも1種の菌株、例えばLMG P−22110などを含むことが好ましい。菌株あたりの生きた細胞の用量は、好ましくは菌株あたり少なくとも1×10cfuであり、好ましくは1日あたり約1×10〜1×1012cfu(コロニー形成単位)の間であり、より好ましくは約1×10〜1×1011cfu/日の間であり、より好ましくは約1×10〜5×1010cfu/日であり、最も好ましくは1×10〜2×1010cfu/日の間である。この有効量をいくつかのより少ない用量に細分し、例えば1日あたり2つ、3つ、又はそれ以上の部分に分けて投与してもよい。生きた細胞を使用する代わりに、以下でさらに詳細に記載する通り、死んだ、若しくは生存不可能な細胞を一部の組成物中で使用してもよい。
【0038】
食品/栄養組成物
適当な用量の群1及び/又は群2の1種又は複数の菌株の他に、栄養組成物は、ヒト及び/又は動物の消費に適した炭水化物及び/又はタンパク質及び/又は脂質を含むことが好ましい。この組成物は、他の(プロバイオティック)菌株などの他の生物活性成分、及びプロバイオティック菌株を支持するプロバイオティクスを含んでも含まなくてもよい。1種(複数)の菌株の生きた細胞を使用する場合、この細胞を、胃から保護するためにカプセル化した形で存在させてもよい。菌株あたりの生きた細胞の用量は、好ましくは少なくとも1×10cfuであり、好ましくは1日あたり約1×10〜1×1012cfu(コロニー形成単位)の間であり、より好ましくは約1×10〜1×1011cfu/日の間であり、より好ましくは約1×10〜5×1010cfu/日であり、最も好ましくは1×10〜2×1010cfu/日の間である。この組成物は、群2の少なくとも1種の菌株、例えばLMG P−22110などを含むことが好ましい。この栄養物は、液体又は粉末の形であることが好ましい。一実施形態では、この栄養物は、市販の「Respifor(登録商標)」様液体製品(Nutricia社製、オランダ)、すなわちミルクベースで、エネルギー密度が高く、タンパク質及び炭水化物が多く、抗酸化剤が濃縮されており、矯味剤を含むものである。この栄養物は、対象の通常の食品/飲料摂取の代わりとせず、それに追加して消費されることが好ましい。この栄養物は、経口的に、又は経管栄養摂取によるなど、経腸投与することが好ましい。
【0039】
薬剤組成物
適当な用量の群1及び/又は群2の1種又は複数の菌株を使用して、肺機能障害の治療、治療法、又は予防のための薬剤組成物を製造することもできる。薬剤組成物は通常、経腸(例えば経口)、経鼻/吸入、経膣、又は直腸投与用に使用されるはずである。薬剤組成物は通常、本発明の1種(複数)の菌株に加えて薬剤担体を含むはずである。この好ましい形は、所期の投与形態及び(治療への)適用に依存する。この薬剤担体は、1種(複数)の菌株を対象の所望の体腔、例えば腸に送達するのに適した、適合性の、毒性のない、任意の物質とすることができる。例えば、滅菌水、又は不活性の固体を、製薬上許容されるアジュバント、緩衝剤、分散剤などを通常補充される担体として使用することができる。薬剤組成物は、追加の生物活性成分又は薬剤活性成分をさらに含むことができる。
【0040】
さらなる一実施形態では、例えば国際公開第01/95741号に記載の通り、1種(複数)の菌株の死んだ、又は生存不可能な細菌細胞を、生きた(又は生存可能な)細菌の代わりに、又はそれに加えて上記の組成物に使用する。例えば、死んだ、又は生存不可能な細胞の使用量は、生きた細菌の使用量と同等とすることができる。当分野の技術者であれば、適当な量を容易に求めることができる。このような組成物では、「コロニー形成単位」が実行可能でない測定値である場合、細胞の量を計数する(例えばフローサイトメーターを使用して)か、或いは当分野の技術者に知られている別の方法で測定する。
【0041】
生きた細胞を含む組成物に言及する場合、この細胞は、投与後に、又は液体で元に戻した後に再び活性となる例えば凍結乾燥細胞など、生存可能な細胞を包含することを理解されたい。
【0042】
食品、補助食品、栄養組成物、又は薬剤組成物は、液体の形、例えば1種(複数)の菌株の安定した懸濁液か、固体の形、例えば粉末か、或いは半固体の形のいずれかである。例えば、経口投与用に、1種(複数)の菌株を、カプセル剤、錠剤、散剤などの固体剤形か、或いはエリキシル剤、シロップ剤、懸濁剤などの液体剤形で投与することもできる。1種(複数)の菌株をゼラチンカプセル中で、例えば、グルコース、ラクトース、スクロース、マンニトール、デンプン、セルロース若しくはセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、滑石、炭酸マグネシウムなどの不活性成分及び粉末担体と一緒にゼラチンカプセル化することができる。上述の通り、この組成物は、タンパク質、炭水化物、ビタミン、無機質、微量元素、アミノ酸、他の生物活性成分若しくは薬剤活性成分、担体、安定剤、矯味剤、他のプロバイオティック菌株、プロバイオティクスなどの追加の成分を含むことができる。
【0043】
群2の菌株は特に、COPD、非アレルギー性喘息、嚢胞性線維症、吸引(aspiration)、気管支内腫瘍、気管内腫瘍、非特異的な吸入刺激物によって引き起こされる肺機能障害、肺水腫、気管狭窄、又は声帯機能障害などの肺機能障害の治療用又は予防用の組成物を調製するのに適している。もちろん、群2の菌株を、抗炎症活性を有することが分かっている菌株(群1及び/又は群3の菌株など)と組み合わせることができる。このような組合せは、炎症、例えばアレルギー性喘息を伴う肺疾患又は呼吸器疾患/障害の治療或いは予防に適している。
【0044】
本発明の1種又は複数の菌株を含む組成物は、肺機能障害をすでに患っている患者を治療するのに適しており、或いはこれを、そのような肺機能障害を発症する高い危険性のある対象、例えば煙/喫煙、冷気などに曝露した対象に予防のために投与することもできる。
【0045】
使用する細菌株は、乳酸産生菌であることが好ましく、また乳酸桿菌属又はビフィドバクテリウム属のものであることが好ましい。この細菌は、食用であるべきであり、すなわちヒト又は動物対象によって摂取される場合に有害でないものと見なすべきである。食用でない細菌、例えば対象によって摂取される場合、もはや有害でないように改変された病原細菌は、本発明の範囲内に包含されることを理解されたい。乳酸桿菌株は、以下の種、すなわちラクトバチルス・ラムノサス(L. rhamnosus)、ラクトバチルス・カゼイ(L. casei)、ラクトバチルス・パラカゼイ(L. paracasei)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(L. helveticus)、ラクトバチルス・デルブリッキ(L. delbrueckii)、ラクトバチルス・ロイテリ(L. reuteri)、ラクトバチルス・ブレビス(L. brevis)、ラクトバチルス・クリスパタス(L. crispatus)、ラクトバチルス・サケイ(L. sakei)、ラクトバチルス・イエンセン(L. jensenii)、ラクトバチルス・サンフランシスエンシス(L. sanfransiscensis)、ラクトバチルス・フルクチボランス(L. fructivorans)、ラクトバチルス・ケフィリ(L. kefiri)、ラクトバチルス・クルバタス(L. curvatus)、ラクトバチルス・パラプランタルム(L. paraplantarum)、ラクトバチルス・ケフィアグラナム(L. kefirgranum)、ラクトバチルス・パラケフィア(L. parakefir)、ラクトバチルス・ファーメンタム(L. fermentum)、ラクトバチルス・プランタルム(L. plantarum)、ラクトバチルス・アシドフィルス(L. acidophilus)、ラクトバチルス・ジョンソニ(L. johnsonii)、ラクトバチルス・ガセリ(L. gasseri)、ラクトバチルス・キシロサス(L. xylosus)、ラクトバチルス・サリバリウスなどのものでよい。好ましい種は、ラクトバチルス・ラムノサス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・ロイテリ、ラクトバチルス・クリスパタス、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ジョンソニ、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・サリバリウスであり、より好ましい種はラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・カゼイ、又はラクトバチルス・ラムノサスである。種ラクトバチルス・カゼイに属するラクトバチルス属菌株を使用することが最も好ましい。
【0046】
本発明の一実施形態では、ラクトバチルス・ラムノサス菌株、特に菌株ラクトバチルスGGは、安全性の問題を引き起こす恐れがあるので、また例えば菌株ラクトバチルスGGは、特定の用途に望ましくないであろう特徴を有するので(実施例参照)、それらの菌株は除外される。
【0047】
ビフィドバクテリウム属菌株は、以下の種、すなわちビフィドバクテリウム・ロンガム(B. longum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・アニマリス(B. animalis)、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(B. bifidum)、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス(B. adolescentis)、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム(B. pseudolongum)、ビフィドバクテリウム・カテニュレイタム(B. catenulatum)、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタム(B. pseudocatenulatum)、ビフィドバクテリウム・アンギュレイタム(B. angulatum)などのものであってよい。好ましい種は、ビフィドバクテリウム・ブレーベ及び/又はビフィドバクテリウム・アニマリス、特にビフィドバクテリウム・アニマリスサブスピーシーズラクティス(B. animalis subspecies lactis)である。
【0048】
微生物の種の同定は、生化学的に、又は塩基配列決定法(例えば保存領域)により、又はパルスフィールドゲル電気泳動法などの既知の方法によって判定することができる。一般に、16S rRNA領域において少なくとも97%の核酸配列同一性を示す場合(例えば、場合によっては、デフォルトパラメータを使用して、例えばプログラムGAP又はBESTFITによって整列する場合)、細菌の菌株は同一の種に属している。
【0049】
ラクトバチルス・カゼイ菌株TD2は、ブダペスト条約に従ってBCCM(商標)(Belgian Co-ordination Collections of Microorganisms、Gent、ベルギー)にアクセッション番号LMG P−22110として寄託されている。LMG P−22110は特に、上記の通り組成物を調製するのに適しているが、本発明はこの菌株に限定されない。
【0050】
本発明の寄託されている菌株又は他の任意の菌株の複製物及び/又は派生物が本発明によって包含されることを理解されたい。「複製物」という用語は、微生物の増殖、例えば培地中での細菌の増殖によって産生された材料など、実質的に改変されていない材料の複製を表す生物材料をさす。「派生物」という用語は、生物材料から作製され、例えば遺伝物質の遺伝的変化によって生じた、新たな特性を有するように実質的に改変された材料をさす。こうした変化は、自発的に生じ得るか、或いは化学的及び/又は物理的作用物質(例えば突然変異誘発因子)の適用の結果であり、且つ/又は当技術分野で既知の組換えDNA技術によるものとすることができる。別の菌株に「由来する」菌株に言及する場合、得られた菌株が、元の菌株の、気道狭窄に対する有益な作用を依然として保持している限り、その菌株の「複製物」、並びにその菌株の「派生物」はどちらも包含され、したがってこれらを使用して肺機能障害を治療及び/又は予防することができることを理解されたい。
【0051】
本発明の別の実施形態では、少なくとも2種以上の菌株を1種の組成物中で組み合わせるか、或いは対象に同時投与する。抗炎症作用を及ぼす少なくとも1種の菌株(例えば、TD5など当技術分野で既知の菌株、又はTD1など群1の菌株)と、気道狭窄に対して有益な作用を及ぼすが、抗炎症作用を及ぼさない他の少なくとも1種の菌株(例えば群2の菌株、例えばTD2)とを組み合わせることが好ましい。異なる作用様式を発揮する菌株の組合せは、肺機能に対して強化作用を及ぼすことができるので、菌株のこの組合せは、場合によっては、抗炎症活性を有する1種(複数)の菌株のみの投与よりも優れている。この菌株を、様々な組成物中に存在させてもよく、対象への様々な組成物の投与の後にin vivoで組み合わせるだけでもよい。或いは、この菌株を単一の組成物中に存在させてもよい。どちらの場合でも、2種以上の菌株の投与は「同時投与」と呼ばれる。
【0052】
さらなる一実施形態では、本明細書で上述した通り本発明の少なくとも1種の菌株を含む組成物が提供される。
【0053】
本発明のさらなる別の実施形態では、菌株LMG P−22110(TD2)、又は前記菌株に由来する任意の菌株が提供される。
【0054】
上記の本発明の組成物を含む容器も提供される。このような容器は、1〜100回、また個々の値がそれぞれ、1回、5回、10回、20回、30回、40回、50回、100回、又はそれを超える回数など、1〜100回分の用量が入る、錠剤、カプセル剤、散剤、アンプル剤、小袋などの形のパッケージでよい。同様に、パッケージは、1〜200回、1〜500回、又はそれを超える回数分の用量が入るものでもよい。異なる菌株を同時投与すべき場合、容器は、菌株を含む各々の組成物を別々の用量含むことができることを理解されたい。この容器は、組成物の有益な作用、又は健康への影響を記載したラベルを外側に含むことが好ましい。例えば、この容器に、組成物が「COPD患者用」又は「健康改善」のものであると記載してもよい。この容器は、カートン製、プラスチック製、金属製などのものとすることができる。この容器はまた、組成物が液体又は粉末の形である場合、例えば吸入器など、組成物の投与に適した道具を含むことができる。この容器はさらに、使用説明書を含むこともできる。
【0055】
本発明の目的はまた、肺機能の治療用又は予防用の組成物を調製する方法を提供することであり、この方法は、
PenH試験を使用することにより、或いはヒト対象におけるFEV1値を求めることにより、気道狭窄に対する細菌株の、好ましくは乳酸産生菌の作用を試験するステップと、
PenH及び/又はFEV1に対する影響に基づいて、気道狭窄に対する、特にAHRに対する有意で有益な作用を有する菌株を選択するステップと、
選択された菌株を適当な液体又は固体培地中で増殖させるステップと、
場合によっては、例えば遠心分離及び/又はろ過によりこの菌株を培地から単離し、当技術分野で既知の後処理プロセス、例えば、凍結乾燥、噴霧乾燥、及び/又は凍結を実施するステップと、
この菌株を対象への投与に適した形に製剤化するステップとを含む。
【0056】
場合によっては、単離した菌株が、対象に対して有意な抗炎症作用を与えることができるかどうかも試験する。
【0057】
上記の方法で使用する菌株をその自然環境から単離し、且つこの菌株が汚染物質を含んでいないことが好ましいことに留意されたい。単離された菌株を人工培地上で、又は(低脂肪)ミルク、ヨーグルトなどの天然培地上で増殖させることができる。次いで、これを直接使用して、本発明の組成物を製造することができ、或いは遠心分離及び/又はろ過によりこの細菌を濃縮し、又は培地から単離し、次いで適当な組成物に製剤化することもできる。微生物(例えば、酵母、細菌の様々な種)の定義されていない混合物を含む、例えばケフィアなどの既存の食品組成物は、このような製品がその細菌の構成(種)並びに細菌濃度(用量)に関して定義されていないので、本発明の組成物から除外される。しかし、本発明の1種又は複数の菌株を添加したこの組成物を食品ベースとして使用することができる。これにより導き出された組成物(少なくとも本発明の菌株のうちの少なくとも1種を含む)及びその使用のみは、本発明の実施形態と見なされる。
【0058】
肺機能障害、特に、COPD、非アレルギー性喘息、嚢胞性線維症、吸引、気管支内腫瘍、気管内腫瘍、非特異的な吸入刺激物に起因する肺機能障害、肺水腫、気管狭窄、及び/又は声帯機能障害の治療用又は予防用の医薬品を調製するための、本発明の群1及び/又は群2の菌株の使用は、本発明のさらなる一実施形態である。特に好ましい一実施形態では、この医薬品は、COPD、吸引、非特異的な吸入刺激物に起因する肺機能障害、肺水腫、及び/又は気管狭窄からなるグループから選択される肺機能障害の治療用及び/又は予防用に使用される。
【0059】
別の実施形態では、対象における慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療用又は予防用の医薬品を調製するためのプロバイオティック乳酸菌の使用が提供される。
【0060】
以下の非限定的な実施例は、本発明の菌株の同定及び使用を記載したものである。別段の記述がない限り、本発明の実施には、分子生物学、ウイルス学、微生物学、又は生化学の標準的な常法が使用される。
[実施例]
【実施例1】
【0061】
菌株TD2の説明及び特徴及びプロバイオティック特性
菌株の単離
菌株TD2を健常人志願者の糞便から単離した。プロバイオティック菌株を求めて健常成人志願者の糞便を捜した。「健常」は、疾患や疾病にかかっておらず、消化管疾患を患っておらず、少なくとも6週間抗体を使用しておらず、少なくとも1週間プロバイオティック製品を摂取しておらず、乳タンパク質に不耐性でなく、且つ規則正しい排便習慣を有する成人を意味する。食習慣に関する日記を記録した。
【0062】
嫌気チャンバー内で新鮮なヒト糞便を分析した。この糞便を90mlの保存培地(20g/l緩衝ペプトン水、1.0ml/l Tween 80、0.5g/l L−システイン−HCl、リサズリン1錠/リットル、pH6.3(2M HClで調整))で10倍に希釈し、次いでUltra-Turraxを使用してホモジナイズした。希釈したペプトン(1.0g/l)生理食塩水中で段階希釈物を作製し、10〜10倍希釈物をLAMVAB上に蒔いた(Hartemink et al. 1997)。この最終培地は、52g/l MRS(De Man Rogosa and Sharpe、Oxoid社製)、0.25g/l L−システイン−HCl、0.025g/lブロモクレゾールグリーン、20g/l寒天、及び20mg/lバンコマイシンからなるものであった。MRS(104g/l)、L−システイン−HCl(0.5g/l)、及びブロモクレゾールグリーン(0.05g/l)を、寒天(40g/l)と別にして121℃で15分間オートクレーブで処理し、50℃まで冷却した。0.2μmフィルターを使用して、バンコマイシンの原液(2mg/ml)をろ過滅菌した。オートクレーブ処理した寒天と、MRS、システイン、及びブロモクレゾールグリーンとを1:1の比で混合した。続いて、バンコマイシンを終濃度20mg/mlとなるまで添加し、その後プレートに注いだ。このプレートを嫌気ジャー内で37℃で3日間インキュベートした。コロニーをMRS寒天上に画線して純化し、37℃でインキュベートした。
【0063】
菌株の分類
16s RNAの塩基配列決定により、菌株の同定の信頼性が高くなる。Boom et al., (1990)に記載の方法に従って、菌株のDNAの抽出を行った。表1に記載した8f及び1510rプライマーを用いて、16s RNA領域の増幅及び塩基配列決定を達成した。増幅プログラムは、94℃で5分間;94℃で30秒間、54℃で30秒間、及び72℃で90秒間を30サイクル;最後に72℃で4分間である。
【表1】



【0064】
Sanger et al., (1977)によって開発されたDNA塩基配列決定法であるジデオキシ法により塩基配列決定を実施した。CSR(サイクルシークエンス反応)においてABI PRISM BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reactionキット(Applied Biosystems社製、Nieuwekerk aan de IJssel、オランダ)を表2に記載した全てのプライマーと組み合わせて使用した。CSR用のプログラムは、96℃で30秒間の後、96℃で10秒間、50℃で5秒間、及び60℃で4分間を25サイクルであった。続いて、このCSR混合物を、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer(Applied Biosystems社製、Nieuwekerk aan de IJssel、オランダ)の助けを借りて分析した。塩基配列のデータをChromas V1.51(Technelysium Pty社製、Tewantin、オーストラリア)で分析し、DNASIS for Windows V2.5(Hitachi Software Engineering社製、Wembley、英国)の助けを借りて整列させた。完全2本鎖の16S rDNAの配列決定された領域をBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)プログラム(Altschul et al. 1990)に入力し、菌株を判定するために、GenBank、EMBL、DDBJ、及びPDBデータベースにおいて(菌株の)他の(16S rDNA)塩基配列と比較した。種ラクトバチルス・カゼイのものである菌株を同定した。
【0065】
菌株の生存
ヒトの糞便から単離された菌株ラクトバチルス・カゼイTD2、並びに既知のプロバイオティック菌株の胃及び小腸における生存を評価した。この菌株をヒトにおけるプロバイオティックとして使用する場合、胃及び小腸における生存は重要である。
【0066】
この細菌をMRS中で24時間増殖させ、続いてMRS中に再接種し24時間増殖させた。1mlの増殖培地を、8.3g/l細菌用ペプトン、3.1g/l NaCl、0.11g/l CaCl、1.1g/l KCl、0.6g/l KHPO、1.0g/l D−グルコース、22.2mg/lペプシン、及び22.2mg/lリパーゼ、pH3.0からなる9mlの胃様培地に添加した。この細菌を胃様培地の培地中で27℃で3時間インキュベートした。その後、細菌を含むインキュベートした胃様培地1mlを小腸様培地9mlと混合し、37℃でさらに3時間インキュベートした。この小腸様培地は、5.7g/l細菌用ペプトン、1.25g/l NaCl、0.055g/l CaCl、0.15g/l KCl、0.68g/l KHPO、1.0g/l NaHCO、0.3g/l NaHPO、0.7g/lグルコース、20.3g/lパンクレアチン、及び5.5g/l胆汁、pH6.5からなる。試料をt=0時間、3時間、及び6時間で採取し、MRS寒天上に蒔いてコロニー形成単位を求めた。
【0067】
下記の表2に示すように、ヒト糞便から単離したラクトバチルス・カゼイ、LMG P−22110は、胃様及び小腸様培地中において他のプロバイオティック菌株と類似の、又はそれよりさらに良好な生存率を示した。
【表2】



【0068】
菌株の接着
プロバイオティクスの特性の1つは、プロバイオティクスが腸細胞と接着し、上皮細胞の結合部位を求めて病原体と競合し得ることである。上皮細胞への接着は、コロニー形成能、及び宿主に対するプロバイオティック作用とも関連がある。
【0069】
ラクトバチルス・カゼイLMG P−22110の接着性を試験した
菌株の一晩培養物を遠心分離(10分、4000rpm、Sorval RT17)によって回収し、PBS中で再懸濁させた。ビュルケルチュルク計算板を使用して、細胞の量を顕微鏡下で計数した。細菌を再度遠心分離し、ペレットを、ペニシリン/ストレプトマイシンを含まないCaco−2 1%FCS培地中で再懸濁させた。Caco−2細胞は、コンフルエント後2週間のものであり、これを24ウェルプレートで増殖させた(1〜2×10Caco−2細胞/ウェル)。ウェルあたり1×10CFUの細菌を添加し、インキュベーター内で5%CO、37℃で1時間インキュベートした。インキュベート後、この培地からCaco−2細胞を回収し、この細胞をPBSで3回洗浄した(37℃)。細胞を無菌のMili Q水で溶解させ、溶解した細胞の段階希釈物を作製し、MRS寒天上に蒔いた。
【0070】
ラクトバチルス・カゼイLMG P−22110(TD2)は、よく知られている他のプロバイオティック菌株と少なくとも同じぐらい良好に接着するという結果が示された。接着性は陽性対照よりも良好であった。添加した培養物のうち約13%が接着した。
【0071】
溶血、又はヒスタミン及びチラミンの産生などの望ましくない特性は観察されなかった。
【実施例2】
【0072】
オバルブミン感作マウスを乳酸菌株で予防的に処置した動物実験
動物:
特定の病原菌を有していない雄BALB/cマウスをCharles River社(オランダMaastricht)から入手した。食物及び水を適宜与え、6〜9週齢になったマウスを使用した。すべての実験は、オランダのUtrecht大学の動物倫理委員会によって承認された。
【0073】
試薬:
オバルブミン(グレードV)及びアセチル−β−塩化メチルコリン(メタコリン)をSigma Chemical社(米国ミズーリ州St. Louis)から入手した。水酸化アルミニウム(AlumInject)Pierce社から購入した(米国イリノイ州Rockford)。
【0074】
感作、処置、及びチャレンジ:
マウスを、100μlの生理食塩水中の2.25mg水酸化アルミニウム上に吸着させた10μgオバルブミン、又は生理食塩水のみに、0日目と7日目の2回の腹腔内注射によって感作させた。35日目、38日目、及び41日目に、プレクシグラス製曝露チャンバー内での20分間のオバルブミンエアゾール剤の吸入によりマウスにチャレンジした。Pari LC Star nebuliser(Pari respiratory Equipment社製、米国バージニア州Richmond)を使用して、生理食塩水中のオバルブミン溶液(10mg/ml)を噴霧することによりエアゾール剤を作製した。28日目に開始して実験の終わり(すなわち42日目)まで毎日、マウスを菌株あたり10(CFU)の乳酸菌で胃管を通じて経口的に処置した。
【0075】
気道反応性の判定:
意識下非拘束マウスにおいて、噴霧により吸入させるメタコリンに対する気道反応性を、全身プレチスモグラフィー(BUXCO, EMKA社製、仏国Paris)を使用して最後のエアゾール剤チャレンジの24時間後に判定した。気道反応をPenH(enhanced pause)で表した。
【0076】
気管支肺胞洗浄:
コリン作動性の気道反応の測定後、動物を屠殺し、気管支肺胞洗浄を実施し、細胞の総数を求め、細胞を区別した。最初の洗浄液1ミリリットルの上清を分離し、後続の分析まで−70℃で凍結した。全細胞(好中球、マクロファージ、好酸球、及びリンパ球)の流入を肺組織の炎症の測度と見なす。
【0077】
統計分析:
一般的な線形モデル又は反復測定により、メタコリンに対する気道反応曲線を統計的に分析し、続いて群間の事後の比較を行った。マンホイットニーのU検定を使用して、細胞計数を統計的に分析した。p<0.05の確率値を統計的に有意であると見なした。
【0078】
結果:
結果を表3に示す。菌株TD2は、気道過敏性に対して有意な作用を示すが、炎症に対して有意な作用を示さない。一方、菌株TD5は、気道過敏性に対して有意な作用を示さないが、炎症に対してある作用を示す。菌株TD1は、気道過敏性と炎症のどちらに対してもある作用を示す。
【0079】
こうした結果から、肺機能に対する乳酸産生菌の一部の菌株の示差的な作用が示され、また肺炎症に対する有益な作用が必ずしも肺機能に対して有益な作用をもたらすとは限らず、また逆も同様であることが示される。したがって、こうした結果から、肺機能に対して有益な作用を及ぼす乳酸を産生する菌株は、抗炎症作用を及ぼすその菌株とは異なり、肺機能障害を伴う疾患に対して治療効果及び/又は予防効果を及ぼし得ることが示される。こうした結果から、種ラクトバチルス・カゼイに属する菌株が特に効果的であることが示される。
【表3】



【実施例3】
【0080】
エンドトキシン誘発肺気腫のマウスモデルにおける乳酸菌の作用を示す動物実験
LPS処置によりマウスにおいて肺気腫を誘発することができる。
【0081】
動物:
特定の病原菌を有していない雄BALB/c byJIcoマウスをCharles River社(オランダMaastricht)から入手した。食物及び水を適宜与え、7〜8週齢になったマウスを使用した。すべての実験は、オランダのUtrecht大学の動物倫理委員会によって承認された。
【0082】
試薬:
LPS:大腸菌、血清型O55:B5:Sigma Chemical社製
メタコリン(アセチル−β−メチルコリン)をJanssen Chimica社(ベルギーBeerse)から入手した。
【0083】
感作、処置、及びチャレンジ:
4週間(0日目、3日目、7日目、10日目、10日目、14日目、17日目、21日目、及び24日目)週2回、LPS(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)50μl中に5μg)、又は対照のPBS(50μl)の鼻腔内投与により肺気腫を誘発した。14日目に開始して実験の終わり(すなわち42日目)まで毎日、マウスを、菌株あたり10(CFU)の乳酸菌を含む0.2mlの生理食塩水(0.9%w/v NaCl)で胃管を通じて経口的に処置した。対照として0.2mlの生理食塩水を添加した。
【0084】
気道反応性及び気管支肺胞洗浄の判定を実施例2に記載の通り実施した。
【0085】
右室肥大
右室の肥大は肺気腫の徴候である。42日目に解剖顕微鏡下で、全心臓(10例の動物のうち4例)を単離し、右室自由壁(RV)を完全に分離し取り出した。吸取り乾燥の後、左室と中隔(LV+S)及びRVの重量を別々に測定した。RV重量とLV+S重量の比を右室肥大の指標として使用した。
【0086】
統計分析:
メタコリンに対する気道反応曲線のデータ、気管支肺胞洗浄(BAL)細胞計数、右室(RV)肥大を、相加平均±平均の標準誤差として表し、一元配置分散分析(ANOVA)(ノンパラメトリックな)を使用して群間の比較を行い、続いて群間の事後の比較(ボンフェローニの多重比較検定)を行った。p<0.05の確率値を統計的に有意であると見なした。気道反応の測度はN=10、BAL細胞計数はn=6、RV肥大はn=4である。
【0087】
結果:
結果を表4に示す。再び、菌株TD2は、気道過敏性に対して有意な作用を示すが、炎症に対して有意な作用を示さない。
【0088】
この結果から、乳酸産生菌の菌株TD2は、気道過敏性、及びLPSによって誘発された肺気腫を患うマウスにおける右室肥大に対して有益な作用を及ぼし、これが抗炎症機序を介して起こらない作用であることが示される。こうした結果から、PenHに対してある影響を及ぼす特定の一部の菌株は、肺気腫及び/又はCOPDなどの肺機能障害を治療及び/又は予防する際に有益であることが示される。こうした結果から、ラクトバチルス・カゼイ菌株は適当であり、特に菌株TD2が適当であることが示される。
【表4】



【実施例4】
【0089】
乳酸菌株を含む組成物
補助食品組成物
1.0.5gスキムミルク粉末、及びガラクトオリゴ糖と果糖多糖類との混合物0.5gを含み、1gあたり5×10cfuのTD2を含むカプセル。用量:1日あたり2×1g。
【0090】
2.1gあたり5×10cfuのTD1、及び5×10cfuのTD2を含む粉末、マルトデキストリン;子袋入り。用量:1日あたり2×1g。消費前に、水、果汁、ミルク、又はヨーグルトなどに溶解すること。
【0091】
食品/栄養組成物
1.125mlあたり5×10のTD1の熱不活性化細胞を含む、COPDを患う患者に適応される液体栄養。推奨用量は1日あたり3×125mlである。
100mlあたり
− タンパク質7.5g(乳清カゼイン混合物、1/1)
− 炭水化物22.5g(グルコース0.3g、ラクトース2.0g、マルトース1.0g、サッカロース3.0g、多糖類15.8g)
− 脂肪3.3g(飽和脂肪酸0.5g、一不飽和脂肪酸1.9g、ポリ不飽和酸0.9g)
− 無機質(Na 55mg、K 110mg、Cl 60mg、Ca 155mg、P 100mg、Mg 15mg)
− 微量元素(Fe 3.2mg、Zn 2.4mg、Cu 360μg、Mn 0.66mg、F 0.20mg、Mo 20μg、Se 23μg、Cr 13μg、I 27μg)
− ビタミン(ビタミンA 127μgRE;プロビタミンカロテノイド73μgRE、カロテノイド0.8mg、ビタミンD 1.4μg、ビタミンA 5.0μgα−TE、チアミン0.30mg、リボフラビン0.32mg、ナイアシン3.6mgNE、パントテン酸1.1mg、ビタミンB6 0.35mg、葉酸53μg、ビタミンB12 0.50μg、ビオチン8.0μg、ビタミンC 40mg)
− コリン74mg
【0092】
2.ミルクベースの粉末;85g、小袋入り;240mlの液体、例えばミルク、ヨーグルト、又は果汁と混合される;
粉末100gにつき以下のものを含有
− TD2 1×1010cfu
− タンパク質4.7g
− 炭水化物68.2g(糖類25g)
− 脂肪24.7g
− 無機質(Na 140mg、K 570mg、Ca 130mg、P 400mg、Mg 14mg)
【0093】
参考文献
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における慢性閉塞性肺疾患(COPD)、非アレルギー性喘息、嚢胞性線維症、誤嚥、気管支内腫瘍、気管内腫瘍、肺水腫、気管狭窄、及び声帯機能障害からなるグループから選択される肺機能障害の治療用又は予防用の組成物を調製するための、細菌株MV−16の使用。
【請求項2】
前記組成物が、抗炎症特性を有する他の少なくとも1種の細菌をさらに含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
組成物が、1種又は複数の担体及び/又はタンパク質及び/又は炭水化物及び/又は脂質及び/又は抗酸化剤をさらに含み、液体、粉末、固体、又はカプセルの形である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
組成物が、有効量で投与され、前記有効量が、1日あたり1×10から1×1012のコロニー形成単位の間の細胞数の細菌株MV−16を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
組成物が、栄養組成物又は薬剤組成物である、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
対象における慢性閉塞性肺疾患(COPD)、非アレルギー性喘息、嚢胞性線維症、誤嚥、気管支内腫瘍、気管内腫瘍、肺水腫、気管狭窄、及び声帯機能障害からなるグループから選択される肺機能障害の治療用又は予防用の薬剤組成物であって、細菌株MV−16を含む組成物。
【請求項7】
抗炎症特性を有する他の少なくとも1種の細菌をさらに含む、請求項6に記載の薬剤組成物。
【請求項8】
1種又は複数の担体及び/又はタンパク質及び/又は炭水化物及び/又は脂質及び/又は抗酸化剤をさらに含み、液体、粉末、固体、又はカプセル状である、請求項6又は7に記載の薬剤組成物。

【公開番号】特開2012−25760(P2012−25760A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190833(P2011−190833)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【分割の表示】特願2006−545254(P2006−545254)の分割
【原出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(505296821)エヌ.ブイ.・ヌートリシア (32)
【Fターム(参考)】