説明

乾留ガス化炉

【課題】廃棄物を収納すると共に、廃棄物の一部を燃焼させつつ燃焼熱により廃棄物の残部を乾留して可燃性ガスを生じさせる乾留ガス化炉であって、乾留ガス化炉内の下部に熱風を吹き込んで廃棄物に着火する着火手段6を備えるものにおいて、着火手段の個数をできるだけ減らして、且つ、火床の生成を促進できるようにする。
【解決手段】着火手段6は、炉内の下部に熱風を乾留ガス化炉1の周壁部1aの接線方向から吹き込むように配置される。周壁部1aの内面に、炉底部に隣接する部分に位置させて、着火手段6による熱風の吹き込み箇所から周方向にのびるアンダーカット部18が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃タイヤ等の廃棄物を収納すると共に、廃棄物の一部を燃焼させつつ燃焼熱により廃棄物の残部を乾留して可燃性ガスを生じさせる乾留ガス化炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の乾留ガス化炉は、乾留ガス化炉内の下部に燃焼ガスから成る熱風を吹き込んで廃棄物に着火する着火バーナを備えている(例えば、特許文献1参照)。このもので、着火バーナは、乾留ガス化炉の周壁部の径方向から炉内に熱風を吹き込むように配置されている。そして、大型の乾留ガス化炉では、着火バーナを周壁部の周囲複数箇所、例えば、4箇所に配置している。また、このものでは、乾留ガス化炉で発生した可燃性ガスを燃焼させる燃焼炉を設けている。燃焼炉は、炉内に燃焼炎を吹き込む助燃バーナを備えている。
【0003】
ところで、廃棄物の焼却処理によるダイオキシン類の排出を防止するためには、廃棄物を800℃以上の温度に2秒以上滞留させて、生成したダイオキシン類を完全に熱分解させることが有効とされている。そこで、廃棄物の着火で発生した可燃性ガスを助燃バーナを燃焼させつつ燃焼炉で燃焼させ、可燃性ガスのみの燃焼で燃焼炉内の温度が800℃以上に維持できるようになったときに、助燃バーナの燃焼を停止するようにしている。
【0004】
ここで、助燃バーナの燃焼時間を短縮して燃料消費量を低減するには、乾留ガス化炉内の下層部の廃棄物に広範囲に亘って着火して、着火した廃棄物からの火移りにより早期に火床を生成し、可燃性ガスの発生量を早期に増加させる必要がある。また、廃棄物は最終的に灰化されるが、着火から灰化完了までのトータル運転時間を短縮する上でも火床の生成を促進する必要がある。
【0005】
上記従来例のように着火バーナ(着火手段)を複数設ければ、乾留ガス化炉内の下層部の廃棄物に周方向複数箇所で同時に着火させることができ、火床が早期に生成される。然し、このように着火手段の個数を多くしたのでは、設備費が高くなると共に、着火手段のエネルギー消費量が増す。
【特許文献1】特許第2535274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、着火手段の個数をできるだけ減らして、且つ、火床を早期に生成できるようにした乾留ガス化炉を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、廃棄物を収納すると共に、廃棄物の一部を燃焼させつつ燃焼熱により廃棄物の残部を乾留して可燃性ガスを生じさせる乾留ガス化炉であって、乾留ガス化炉内の下部に熱風を吹き込んで廃棄物に着火する着火手段を備えるものにおいて、着火手段は、乾留ガス化炉内の下部に熱風を乾留ガス化炉の周壁部の接線方向から吹き込むように配置され、乾留ガス化炉の周壁部の内面に、乾留ガス化炉の炉底部に隣接する部分に位置させて、着火手段による熱風の吹き込み箇所から周方向にのびるアンダーカット部が形成されることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、アンダーカット部により周壁部の炉底部に隣接する部分に廃棄物が入り込まない隙間が形成される。そして、着火手段による熱風がアンダーカット部に沿って炉内を旋回し、下層部の廃棄物に周方向広範囲に亘り着火する。従って、1個の着火手段で着火できる範囲が広がり、着火手段の個数が少なくても、火床が早期に生成される。
【0009】
例えば、着火手段が、乾留ガス化炉の周壁部の周囲に点対称の位置関係で一対に設けられ、アンダーカット部が、各着火手段による熱風の吹き込み箇所から周方向に半周に亘ってのびるように点対称の位置関係で一対に設けられていれば、下層部の廃棄物に略全周に亘って着火させることができる。その結果、4個の着火手段を用いた従来例のものと同等以上の早さで火床が生成される。
【0010】
また、本発明において、着火手段は、熱風を前記接線方向から斜め下向きに吹き込むように配置されることが望ましい。これによれば、熱風が上方に拡散することなく、周壁部の炉底部に隣接する部分に形成したアンダーカット部に効率良く導かれ、下層部の廃棄物に周方向広範囲に亘り着火することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1を参照して、1は本発明の実施形態の乾留ガス化炉を示している。乾留ガス化炉1は、廃タイヤ等の廃棄物を収納し、廃棄物の一部を燃焼させつつ燃焼熱により廃棄物の残部を乾留して可燃性ガスを生じさせるものである。そして、乾留ガス化炉1と、乾留ガス化炉1で発生した可燃性ガスを燃焼する燃焼炉2とで乾留ガス化焼却装置を構成している。
【0012】
乾留ガス化炉1の上面部分には、開閉自在な扉3aを有する投入口3が形成され、該投入口3から廃棄物が乾留ガス化炉1内に投入される。乾留ガス化炉1の周壁部1aには、冷却構造としてのウォータージャケット4が形成されている。また、乾留ガス化炉1は、図2、図3に示す如く、周壁部の下部に形成した吹き込み口5に臨む着火手段たる着火バーナ6と、乾留ガス化炉1内に炉底部1bから酸素を供給する酸素供給手段7とを備える。吹き込み口5の外端には、アクチュエータ5aにより開閉されるシャッター5bが設けられている。そして、シャッター5bを開いた状態で着火バーナ6に点火し、該バーナ6の燃焼ガスから成る熱風を吹き込み口5を介して乾留ガス化炉1内の下部に吹き込み、廃棄物に着火させるようにしている。
【0013】
乾留ガス化炉1は、酸素供給手段7の構成要素として、乾留ガス化炉1の炉底部1bの下側に設けた空室8と、炉底部1bの全域に亘って多数形成した、空室8に連通する給気孔9とを備えている。そして、送風機10からの酸素(空気)を調整弁11を介して空室8に送り、空室8から給気孔9を介して乾留ガス化炉1内に酸素を供給するようにしている。尚、給気孔9の上端にはノズル9aが装着されている。また、炉底部1bは、耐火物層12とその下側の冷却水層13とで構成されている。
【0014】
乾留ガス化炉1の周壁部1aの上部にはガス取出し口14が形成されている。そして、乾留ガス化炉1内での廃棄物の乾留により発生した可燃性ガスをガス取出し口14に接続したガス管15を介して燃焼炉2に導入している。燃焼炉2には、送風機10から調整弁16を介して酸素が供給される。そして、乾留ガス化炉1からの可燃性ガスと酸素とを燃焼炉2内で混合させて燃焼させるようにしている。
【0015】
また、燃焼炉2は、燃焼炉2内に燃焼炎を吹出す助燃バーナ17を備えている。そして、助燃バーナ17の燃焼により燃焼炉2内の温度をダイオキシン類の熱分解が可能な800℃以上に上昇させる暖機運転を行い、暖機運転後に着火バーナ6の燃焼により乾留ガス化炉1内の廃棄物に着火し、廃棄物の着火後に発生する可燃性ガスを助燃バーナ17を燃焼させつつ燃焼炉2で燃焼させ、可燃性ガスのみの燃焼で燃焼炉2内の温度が800℃以上に維持できるようになったときに、助燃バーナ17の燃焼を停止するようにしている。
【0016】
ここで、助燃バーナ17の燃焼時間を短縮して燃料消費量を低減するには、乾留ガス化炉1内の下層部の廃棄物に広範囲に亘って着火して、着火した廃棄物からの火移りにより早期に火床を生成し、可燃性ガスの発生量を早期に増加させる必要がある。廃棄物への着火から灰化完了までのトータル運転時間を短縮する上でも、火床を早期に生成する必要がある。
【0017】
この場合、着火バーナ6の個数を多くして、火床の生成を早めることが考えられる。然し、これでは、設備費が高くなると共に、着火バーナ6の燃焼消費量が増加してしまう。
【0018】
そこで、本実施形態では、着火バーナ6を、図2に示す如く、乾留ガス化炉1内の下部に熱風を乾留ガス化炉1の周壁部1aの接線方向から吹き込むように配置している。具体的には、吹き込み口5を周壁部1aの接線方向に長手のものとし、吹き込み口5の長手方向に沿って熱風が炉内に吹き込まれるように着火バーナ6を配置している。また、乾留ガス化炉1の周壁部1aの内面に、乾留ガス化炉1の炉底部1bに隣接する部分にさせて、着火バーナ6による熱風の吹き込み箇所(吹き込み口5の近傍箇所)から周方向にのびる図4に明示す如きアンダーカット部18を形成している。
【0019】
ここで、アンダーカット部18は、その高さが100mm程度であって、廃棄物が入り難い。そのため、着火バーナ6による熱風が、廃棄物に邪魔されることなく、アンダーカット部18に沿って炉内を旋回し、下層部の廃棄物に周方向広範囲に亘り着火する。尚、周壁部1aの厚さは200mm程度であって、アンダーカット部18の周壁部1a内面からの凹入量は100mm程度である。
【0020】
また、本実施形態では、図2に示す如く、着火バーナ6を、乾留ガス化炉1の周壁部1aの周囲に点対称の位置関係で一対に設けると共に、アンダーカット部16を、各着火バーナ6による熱風の吹き込み箇所から周方向に半周に亘ってのびるように点対称の位置関係で一対に設けている。これによれば、下層部の廃棄物に略全周に亘って着火させることができる。
【0021】
更に、本実施形態では、吹き込み口5を炉内に向かって下方に傾斜させ、着火バーナ6による熱風が炉内に斜め下向きに吹き込まれるようにしている。これによれば、熱風が上方に拡散することなく、周壁部1aの炉底部1bに隣接する部分に形成したアンダーカット部16に効率良く導かれる。そのため、下層部の廃棄物に効率良く着火させることができる。
【0022】
図示しないが、周壁部1aの下部の周方向複数箇所には温度センサが配置されており、これら温度センサの検出温度が上昇して着火が確認されると、着火バーナ6の燃焼が停止される。ここで、酸素供給手段7からの酸素供給量を着火当初から多くすると、火移りしていない領域に供給される酸素が燃焼に寄与しない余剰酸素となり、この余剰酸素が可燃性ガスと混合して、乾留ガス化炉1内での異常燃焼を起し易くなる。そこで、酸素供給手段7の調整弁11は当初小開度(例えば、全開開度の20%)に絞っておき、その後、酸素供給量を下層部の廃棄物の継続的な部分燃焼に必要な程度に制限しつつ、調整弁11の開度を段階的に徐々に増大する。火床の生成が完了すると、燃焼熱により中、上層部の廃棄物の乾留が活発化して、乾留により発生する可燃性ガスの量が増える。その結果、可燃性ガスが燃焼炉2で800℃以上の温度で安定して燃焼するようになり、助燃バーナ17の燃焼が停止される。
【0023】
ここで、本実施形態によれば、下層部の廃棄物に略全周に亘って着火させることができるため、4個の着火バーナを用いた従来例のものと同等以上の早さで火床が生成される。従って、可燃性ガスの発生量が早期に増え、助燃バーナ17の燃焼時間を時間を短縮して、燃料消費量を低減できる。
【0024】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、上記実施形態では、吹き込み口5とアンダーカット部18が不連続であるが、吹き込み口5をその一部がアンダーカット部18に連続するように形成することも可能である。また、上記実施形態では、点対称の位置関係で一対の着火バーナ6を設けているが、乾留ガス化炉1が小型であれば、着火バーナ6を1個にしても良い。また、乾留ガス化炉1がより大型のものである場合は、着火バーナ6を3個以上設けても良い。
【0025】
また、上記実施形態では、着火手段として着火バーナ6を用いているが、電気ヒータガンや電気プラズマガン等の熱風を発生する他の手段で着火手段を構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態の乾留ガス化炉を具備する乾留ガス化焼却装置の構成を示す説明図。
【図2】図1のII−II線で切断した実施形態の乾留ガス化炉の切断平面図。
【図3】図2のIII−III線で切断した要部の断面図。
【符号の説明】
【0027】
1…乾留ガス化炉、6…着火バーナ(着火手段)、18…アンダーカット部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物を収納すると共に、廃棄物の一部を燃焼させつつ燃焼熱により廃棄物の残部を乾留して可燃性ガスを生じさせる乾留ガス化炉であって、乾留ガス化炉の下部に熱風を吹き込んで廃棄物に着火する着火手段を備えるものにおいて、
着火手段は、乾留ガス化炉内の下部に熱風を乾留ガス化炉の周壁部の接線方向から吹き込むように配置され、
乾留ガス化炉の周壁部の内面に、乾留ガス化炉の炉底部に隣接する部分に位置させて、着火手段による熱風の吹き込み箇所から周方向にのびるアンダーカット部が形成されることを特徴とする乾留ガス化炉。
【請求項2】
前記着火手段は、乾留ガス化炉の周壁部の周囲に点対称の位置関係で一対に設けられ、前記アンダーカット部は、各着火手段による熱風の吹き込み箇所から周方向に半周に亘ってのびるように点対称の位置関係で一対に設けられることを特徴とする請求項1記載の乾留ガス化炉。
【請求項3】
前記着火手段は、熱風を前記接線方向から斜め下向きに吹き込むように配置されることを特徴とする請求項1又は2記載の乾留ガス化炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−95656(P2010−95656A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268801(P2008−268801)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(391060281)株式会社キンセイ産業 (17)
【Fターム(参考)】