説明

二層構造紡績糸及び織編物

【課題】吸湿性に優れると同時に、工業洗濯を繰り返しても退色し難い織編物を得るのに適した紡績糸を提供することを目的とし、さらに、各種ユニフォーム衣料に好適な織編物を提供することを目的とする。
【解決手段】芯部にセルロース系短繊維を配し、鞘部にポリエステル短繊維を配してなる二層構造紡績糸であって、芯部と鞘部との質量比(芯部/鞘部)が0.4〜1.5であり、太さが5〜50S(英式綿番手)である二層構造紡績糸。及び当該二層構造紡績糸を用いてなる織編物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二層構造紡績糸と、その紡績糸を用いた織編物とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、天然繊維と合成繊維との混紡糸が知られている。しかし、混紡糸は、両繊維を均一混合して紡績糸となしたものに過ぎないため、両繊維の短所を互いに補うことはできても、両繊維の特徴を十分に活かし切れないという点で問題があった。
【0003】
そこで、前者を鞘部に配し、後者を芯部に配した二層構造紡績糸が幾つか提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。この紡績糸を使用した織編物では、混紡糸使いのものに比べ、風合い、吸湿性などの点で顕著な効果が認められる傾向にある。そこで、織編物の性能をより向上させるため、天然繊維及び合成繊維の種類、組み合わせが種々検討されている。代表的な二層構造紡績糸に、綿繊維を鞘部に配しポリエステル短繊維を芯部に配したものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−160444号公報
【特許文献2】特開平10−310943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、飲食店などで着用するサービスユニフォームや、食品工場、病院などで着用する白衣などのユニフォーム衣料については、使用後、家庭洗濯ではなく高温洗浄、高温乾燥が伴う工業洗濯により洗濯する。このとき、綿繊維を鞘部に配した二層構造紡績糸が上記ユニフォーム衣料に用いられていると、綿繊維が洗濯のたびに熱を受けることで次第に退色し、結果、ユニフォーム衣料全体の審美性が低下してしまうという問題がある。
【0006】
そこでこの点を解決するため、紡績糸における合成繊維の混率を高める、合成繊維短繊維代えて合成繊維長繊維を芯部に配するなどの手段が採用されている。しかし、いずれも上記ユニフォーム衣料の耐工業洗濯性を高める点で有効であるものの、衣料全体としてむしろ吸湿性が低減し、蒸れ感の強いものとなる点で問題が残る。
【0007】
本発明は、吸湿性に優れると同時に、工業洗濯を繰り返しても退色し難い織編物を得るのに適した紡績糸を提供することを目的とし、さらに、各種ユニフォーム衣料に好適な織編物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するもので、以下の構成よりなる。
(1)芯部にセルロース系短繊維を配し、鞘部にポリエステル短繊維を配してなる二層構造紡績糸であって、芯部と鞘部との質量比(芯部/鞘部)が0.4〜1.5であり、太さが5〜50S(英式綿番手)であることを特徴とする二層構造紡績糸。
(2)上記(1)記載の二層構造紡績糸を用いてなる織編物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定の繊維素材を特定の構造に組み合わせた紡績糸を使用することで、吸湿性及び耐工業洗濯性に優れる織編物が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の二層構造紡績糸は、芯部にセルロース系短繊維を配し、鞘部にポリエステル短繊維を配してなるものである。
【0012】
本発明におけるセルロース系短繊維としては、綿、リネン、ラミー、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、ポリノジック、リヨセルなどがあげられ、中でも織編物の風合い、吸湿性を高める観点から綿が好適である。
【0013】
一方、ポリエステル短繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリマーからなる短繊維が好適であり、ポリマーは、各種添加剤成分又は共重合成分を含んでいてもよい。また、ポリマーは回収・再利用されたものでもよく、このようなポリマーを使用することで、省資源、環境保全に貢献できる。
【0014】
両短繊維の繊維長、繊度としては、セルロース系短繊維の場合、有効繊維長22.2〜38.1mm、繊度0.15〜5.5dtexが好ましく、ポリエステル短繊維の場合、有効繊維長32〜51mm、繊度1.1〜4.4dtexが好ましい。
【0015】
本発明では、セルロース系短繊維が織編物の吸湿性向上に寄与し、ポリエステル短繊維が耐工業洗濯性向上に寄与する。
【0016】
さらに、本発明では、紡績糸中の混率と、糸の太さとを所定範囲に規定する必要がある。
【0017】
混率としては、芯部と鞘部との質量比(芯部/鞘部)を0.4〜1.5の範囲とする必要がある。質量比がこの範囲を外れると、織編物において、吸湿性及び耐工業洗濯性の調和を欠くことになる。
【0018】
そして、紡績糸の太さとしては、英式綿番手換算で5〜50Sの範囲とする必要がある。太さが5S未満すなわち5Sより太くなると、衣料分野に適した織編物となすことができず、一方、50Sを超えるすなわち50Sより細くなると、紡績糸の可紡性が低下する。
【0019】
次に、本発明の紡績糸を得るための方法について述べる。
【0020】
本発明の紡績糸は、例えば、それぞれの短繊維からなる粗糸を用意し、セルロース系短繊維からなる粗糸を芯側に、ポリエステル短繊維からなる粗糸を鞘側に配しながら同時に精紡する、又はそれぞれの短繊維からなるスライバーを用意し、セルロース系短繊維からなるスライバーを芯側に、ポリエステル短繊維からなるスライバーを鞘側に配しながら同時に粗紡し、後に得られた複合粗糸を精紡することにより、製造することができる。
【0021】
具体的に、前者の方法では、まず、一連の紡績工程によりそれぞれの粗糸を作製する。次に、リング精紡機に各粗糸を導入し、芯側より鞘側の送出量を大きくしながら精紡する。このとき、各粗糸を同一ドラフト域に並行に導入する。導入すべき粗糸としては、基本的に芯側・鞘側それぞれ1本ずつでよいが、紡績糸の被覆性を高める観点から、複数の鞘側粗糸を用いて1本の芯側粗糸を覆うという方法も採用できる。
【0022】
一方、後者の方法でも、まず、一連の紡績工程によりそれぞれのスライバーを作製する。次に、粗紡機に各スライバーを導入する。このとき、各スライバーを同一ドラフト域に並行に導入すると同時に、芯側スライバーをフライヤーヘッドから見てドラフト域の外側に、鞘側スライバーを内側に導入する。そして、芯側スライバーにおけるドラフト軸方向(ただし、糸進行方向)と、芯側スライバーのフロントローラー最終ニップ点とフライヤーヘッドとを結ぶ線(ただし、糸進行方向)とのなす角度が、水平面に投影した際に好ましくは0〜60°の範囲を満足するように設定する。さらに、好ましくは鞘側スライバーを芯側スライバーより速い速度で供給することで、鞘側をやや弛ませる一方で芯側をやや張った状態にする。こうすることで、フライヤーの回転による撚りが芯側スライバーへ集中的に伝播される結果、鞘側スライバーを芯側スライバーに巻き付けることができる。
【0023】
粗糸を得た後は、公知の精紡機を用いて精紡することで、本発明の二層構造紡績糸を得ることができる。
【0024】
本発明では、以上の紡績糸を用いることで、吸湿性、耐工業洗濯性に優れる織編物を得ることができる。このとき、本発明では他の糸条を併用してもよく、合撚、混繊、引揃え、配列、交織、交編などにより両者を併用することができる。ただ、本発明特有の効果を得るには、織編物中に当該紡績糸が50質量%以上含まれていることが好ましい。また、他の糸条としては、任意のものが使用できるが、好ましくは本発明特有の効果を損ね難いものを選んで使用する。
【0025】
本発明の織編物は、吸湿性、耐工業洗濯性に優れている。このため、各種ユニフォーム衣料に好適である。中でもサービスユニフォーム、白衣といった工業洗濯を伴う用途に特に好適であり、蒸れ感が少なくしかも審美性に優れるものが提供できる。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例及び比較例で得た織物は、下記手段に準じて評価した。
【0027】
1.耐工業洗濯性
JIS L1096記載のF−2法に基づいて試料を洗濯した後、60℃で30分間タンブラー乾燥する操作を1サイクルとして、これを30サイクル繰り返したとき、試料が洗濯前と比べどの程度退色したかを、グレースケールにより1級(不良)〜5級(良好)の5段階で目視評価した。
【0028】
2.吸湿性
試料に水を0.5mL滴下した後、直ちに試料をアクリル板に積置し、5分間放置した後、試料をアクリル板から完全に引き離すのに必要な負荷重量を測定した。この方法では、試料が水を多く吸収するほど、負荷をかけずに試料をアクリル板から引き離すことができる。言い換えると、負荷重量が小さいほど、衣料にしたときに肌離れ性の向上が期待できるから、当該評価は、ベトツキ感軽減の目安として実用に即したものといえる。
【0029】
3.ピリング
上記耐工業洗濯性を評価する際の洗濯・乾燥にかかる操作を10サイクル繰り返す前後(以下、操作前にかかる試料を「未洗」、10サイクル操作後にかかる試料を「10洗後」と称す)において、各試料をJIS L1076 8.1A法(ICI法)に基づいて10時間操作し、ピリングを測定した。
【0030】
(実施例)
まず、繊度0.8dtex、有効繊維長29mmの綿繊維からなるスライバー(A)と、繊度1.45dtex、有効繊維長38mmのポリエステル短繊維からなるスライバー(B)とを用意した。次いで、各スライバーを粗紡機に導入し、フライヤーヘッドから見て(A)をドラフト域外側、(B)を内側に配置して各々をドラフトし、後に(A)を芯側、(B)を鞘側に配しながら両者を重ね合わせ、芯/鞘質量比が30/70の複合粗糸を得た。そして、得られた複合粗糸を通常条件で精紡し、英式綿番手30Sの二層構造紡績糸を得た。
【0031】
次に、経糸に84dtex36fのポリエステルを、緯糸に上記二層構造紡績糸を使用して、レピア織機にて経糸密度159本/2.54cm、緯糸密度88本/2.54cmで横畝組織の生機を製織した。そして、得られた生機を通常条件にて、順に精練、プレセット、液流染色、ファイナルセットした。
【0032】
加工後の織物を上記項目につき評価したところ、耐工業洗濯性は4級、吸湿性は23.2gf、ピリングは未洗及び10洗後共に4.5級であった。
【0033】
(比較例)
綿繊維とポリエステル短繊維との質量比が35/65である、市販の34Sの混紡糸を用意し、二層構造紡績糸に代えて当該混紡糸を用いる以外、実施例1と同様に行って織物を得た。
【0034】
得られた織物を上記と同様にして評価したところ、耐工業洗濯性は2級、吸湿性は25.8gf、ピリングは未洗及び10洗後共に4.5級であった。
【0035】
以上より、本発明の二層構造紡績糸を用いることにより、混紡糸使いの場合と比べ、織物の吸湿性及び耐工業洗濯性を向上できた。加えて本発明の織物は、抗ピリング性にも優れており、優れた吸湿性、耐工業洗濯性と相まって、各種ユニフォーム衣料とりわけサービスユニフォーム用途に好適であることが確認できた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部にセルロース系短繊維を配し、鞘部にポリエステル短繊維を配してなる二層構造紡績糸であって、芯部と鞘部との質量比(芯部/鞘部)が0.4〜1.5であり、太さが5〜50S(英式綿番手)であることを特徴とする二層構造紡績糸。
【請求項2】
請求項1記載の二層構造紡績糸を用いてなる織編物。


【公開番号】特開2013−60684(P2013−60684A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199993(P2011−199993)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】