二次電池用電極材料及びそれを用いた二次電池
【課題】全固体電池として、優れた充放電特性等を発揮できる電極材料を提供する。
【解決手段】金属硫化物及び有機成分を含む粒子を電極活物質として用いる。そのため粒子の分散性がよく、電極材料中で活物質が均一に分布される。その結果、導電助剤、固体電解質等の電極材料中の成分との界面形成が効果的に行え、充放電特性が向上する。また粒子の平均粒子径がナノレベルの活物質粒子を用い、導電助剤及び固体電解質との接触部分を増大させるとともに、界面形成に寄与しない部分を減らすことができる。
【解決手段】金属硫化物及び有機成分を含む粒子を電極活物質として用いる。そのため粒子の分散性がよく、電極材料中で活物質が均一に分布される。その結果、導電助剤、固体電解質等の電極材料中の成分との界面形成が効果的に行え、充放電特性が向上する。また粒子の平均粒子径がナノレベルの活物質粒子を用い、導電助剤及び固体電解質との接触部分を増大させるとともに、界面形成に寄与しない部分を減らすことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に用いられる電極材料とそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池をはじめとする二次電池では、従来より液体の電解質(電解液)が使用されている。このため、電解液の液漏れ、電解液の分解反応等による破裂、発火等の事故が発生していることから、その安全性・信頼性が問題視されている。これに対し、最近では、電解液ではなく固体電解質を用いた全固体タイプの電池の開発が進められている。すなわち、負極、正極及び電解質をすべて固体化(全固体化)するものであり、これまでの電解液を用いる電池の問題を解決できる電池として期待されている。
【0003】
例えば自動車、パソコン等で汎用されているリチウムイオン二次電池等において種々の全固体電池が提案されている。より具体的には、固体電解質として無機酸化物を用いた全固体リチウム電池が提案されている。その一例として、リチウムイオン導電性固体電解質及び、遷移金属酸化物を主体とする化合物を正極活物質とし、リチウム金属あるいはリチウムイオンを吸蔵、放出可能な物質を負極活物質として含む全固体リチウム電池において、固体電解質が、酸化リチウム、酸化バナジウム、酸化珪素を含む物質よりなることを特徴とする全固体リチウム電池が知られている(特許文献1)。
【0004】
また例えば、金属層と、前記金属層上に設けられた導電性樹脂層と、前記導電性樹脂層上に設けられた活物質層と、を備える電極であって、前記導電性樹脂層が、導電剤とイオン不導体である結着剤とからなり、前記金属層が少なくとも前記導電性樹脂層に接している面が粗面化されていることを特徴とする全固体リチウム電池用電極が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−83838
【特許文献2】特開2009−289534
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の全固体リチウム電池等では、固体電解質を用いることによって別の問題が生じる。すなわち、電解液を用いるタイプの電池では、その液体の流動性(浸透性)により電極材料と電解液との界面形成が比較的容易に実現されるのに対し、固体電解質では電解液のような高い界面形成能を実現することが困難である。つまり、例えば全固体リチウム電池であれば、電極間にリチウムイオン伝導性固体電解質を接触させるところ、その電極にも電極活物質、導電助剤のほかに前記固体電解質を介在させることになる。そして、それらが接触する部分からリチウムイオンを伝導させることになるが、電極活物質の偏在又は分散性の低さ等により当該接触のない部分が形成される場合はその部分が充放電特性等の向上に寄与できなくなる。また、接触している場合であっても、電池機能に寄与する部分は電極活物質表面に限られるため、それだけ充放電特性等が下がる結果となる。
【0007】
従って、本発明の主な目的は、特に全固体電池として従来より優れた充放電特性等を発揮できる電極材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の微粒子を電極活物質として採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の二次電池用電極材料及びそれを用いた二次電池に係る。
1. 金属硫化物及び有機成分を含む粒子を電極活物質として含む二次電池用電極材料。
2. 前記粒子の平均粒子径が1〜500nmである、前記項1に記載の二次電池用電極材料。
3. 前記粒子が、a)金属有機化合物及びb)硫黄成分を含む出発原料を熱処理して得られるものである、前記項1又は2に記載の二次電池用電極材料。
4. 前記粒子が、硫化鉄、硫化コバルト、硫化ニッケル、硫化銅、硫化亜鉛、硫化カドミウム、硫化インジウム及び硫化スズの少なくとも1種と有機成分とを含む、前記項1〜3のいずれかに記載の二次電池用電極材料。
5. 前記粒子、粒子状固体電解質及び導電助剤を含む混合物から構成される、前記項1〜4のいずれかに記載の二次電池用電極材料。
6. 全固体二次電池の電極に用いる、前記項1〜5のいずれかに記載の二次電池用電極材料。
7. 前記項1〜6のいずれかに記載の電極材料を含む電極を用いた二次電池。
8. 1)前記項1〜5のいずれかに記載の電極材料を含む電極、2)リチウム含有物質を含む電極、及び3)前記電極の間に接触して介在するリチウムイオン伝導性固体電解質を含む、全固体リチウム二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電極材料では、金属硫化物と有機成分とを含む粒子を電極活物質として用いるので、その粒子の分散性により電極材料中で電極活物質が均一に分布される。その結果、例えば導電助剤、固体電解質等の電極材料中の成分との界面形成が効果的に行えることから、充放電特性等の向上に寄与することができる。
【0011】
また、前記粒子として平均粒子径がナノレベルの電極活物質粒子を用いることにより、導電助剤及び固体電解質との接触部分を増大させるとともに、界面形成に寄与しない部分(非接触部分)を減らすことができる。これによっても、充放電特性の向上に寄与することができる。
【0012】
このように、本発明の電極材料は、電極材料中の各成分との界面形成を効果的に行うことができるので、液体の電解質を用いる電池はもとより、固体電解質を用いる電池(すなわち、全固体電池)の電極に好適に用いることができる。とりわけ、全固体リチウム二次電池の電極(特に負極)として有用である。このような全固体リチウム二次電池は、例えばパソコン、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ、ハイブリッド自動車、電気自動車等の電源として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の電極材料を用いた全固体リチウム二次電池の構成例を示す図である。
【図2】試験例1で構成された全固体リチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【図3】試験例1で構成された全固体リチウム二次電池のサイクル特性を示す図である。
【図4】試験例2で構成された全固体リチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【図5】試験例3で構成された全固体リチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【図6】試験例3で構成された全固体リチウム二次電池のサイクル特性を示す図である。
【図7】実施例12で得られた電極活物質の粉末X線回折分析の結果を示す図である。
【図8】実施例12で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図9】実施例12で得られた電極活物質の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図10】実施例13で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図11】実施例13で得られた電極活物質の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図12】試験例4で構成された全固体リチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【図13】実施例14で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図14】実施例15で得られた電極活物質の粉末X線回折分析の結果を示す図である。
【図15】実施例15で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図16】実施例16で得られた電極活物質の粉末X線回折分析の結果を示す図である。
【図17】実施例16で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図18】実施例17で得られた電極活物質の粉末X線回折分析の結果を示す図である。
【図19】実施例17で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図20】実施例17で得られた電極活物質の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図21】実施例18で得られた電極活物質の粉末X線回折分析の結果を示す図である。
【図22】実施例18で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図23】実施例18で得られた電極活物質の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図24】試験例5で構成された全固体リチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【図25】実施例19で得られた電極活物質の粉末X線回折分析の結果を示す図である。
【図26】実施例19で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図27】実施例19で得られた電極活物質の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図28】実施例20で得られた電極活物質の粉末X線回折分析の結果を示す図である。
【図29】実施例20で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図30】実施例20で得られた電極活物質の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図31】試験例6で構成された全固体リチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【図32】実施例21で得られた電極活物質の粉末X線回折分析の結果を示す図である。
【図33】実施例21で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図34】実施例21で得られた電極活物質の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図35】実施例22で得られた電極活物質の粉末X線回折分析の結果を示す図である。
【図36】実施例22で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図37】実施例22で得られた電極活物質の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図38】試験例7で構成された全固体リチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【図39】試験例8で構成された全固体リチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.二次電池用電極材料
本発明の二次電池用電極材料は、金属硫化物及び有機成分を含む粒子を電極活物質として含むことを特徴とする。
【0015】
電極活物質
電極活物質としては、金属硫化物及び有機成分を含む粒子(前記粒子群からなる粉末)(本発明粒子)を用いる。
【0016】
金属硫化物の金属種は電極活物質となり得るものであれば特に限定されず、例えばFe、Co、Ni、Cu、Zn、Ag、Cd、Ga、In、Si、Ge、Sn、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、Mo、Mg、Al、Sb及び Biの少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0017】
金属硫化物としては、特に限定されないが、例えば硫化鉄、硫化コバルト、硫化ニッケル、硫化銅、硫化亜鉛、硫化カドミウム、硫化インジウム、硫化スズ等の少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0018】
有機成分としては特に限定されず、脂肪族有機化合物の熱処理(特に脂肪酸、アルキルアミン、アルキルアルコール、アルカンチオール、アルキルホスフィン、アルキルホスフィンオキシド、脂肪族オレフィンの熱分解)により生成した成分を好適に採用することができる。すなわち、後記に示すように、本発明粒子を製造するに際し、a)金属有機化合物及びb)硫黄成分を含む出発原料を熱処理した場合に生成する有機成分を好適に用いることができる。
【0019】
本発明粒子は、無機成分と有機成分から構成されるが、この場合の無機成分の含有量は適宜調整すれば良い。一般的には、無機成分含有量は50〜99重量%程度であり、好ましくは70〜99重量%である。
【0020】
本発明粒子の平均粒子径は特に限定的ではないが、通常は1〜500nmであり、特に10〜200nmであることが好ましい。このようなナノ粒子を採用することにより、電極材料中の他の成分との接触面積を増加させて界面形成をより効果的に行うことができる結果、いっそう優れた電池特性に寄与することができる。
【0021】
このような本発明粒子自体は、公知のものを使用することができる。また、公知の製造方法により得られる微粒子(ナノ粒子)を用いることができる。例えば、a)金属有機化合物と、b)硫黄成分とを含む出発原料を熱処理して得られる粒子を好適に用いることができる。以下、この熱処理によるナノ粒子の製造方法について説明する。
【0022】
金属有機化合物としては、有機金属化合物のほか、金属アルコキシド等も包含する。より具体的には、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、カプロン酸塩、オクチル酸塩、n−デカン酸塩、イソデカン酸塩、ヘキシルデカン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、オレイン酸塩、ステアリン酸塩、ナフテン酸塩、安息香酸塩、パラトルイル酸塩等の脂肪酸塩、メトキシド、エトキシド、イソプロポキシド、n−プロポキシド、n−ブトキシド、イソブトキシド、t−ブトキシド等の金属アルコキシド、金属アセチルアセトン錯塩、金属チオレート錯体、金属ホスフィン錯体、金属ホスフィンオキシド錯体等が挙げられる。これらの中でも、特に脂肪酸塩、金属アセチルアセトネート、金属チオレート錯体等が好ましい。脂肪酸塩としては、特に総炭素数が1〜30程度、より好ましくは総炭素数6〜18の脂肪酸塩が好ましい。
【0023】
硫黄成分としては、硫黄単体のほか、硫黄を含む化合物も採用することができる。例えば、有機硫黄化合物を好適に用いることができる。有機硫黄化合物としては、例えばチオール、スルフィド、ジスルフィド、チオ尿素、チオケトン、チオ酢酸、チオリン酸等を好適に用いることができる。より具体的には、1)一般式R1−SHで示され、前記R1が総炭素数1〜12のアルキル基であるチオール、2)一般式R2NHC(=S)NHR3で示され、前記R2及びR3が水素又は総炭素数1〜12のアルキル基であるチオ尿素等を好適に用いることができる。
【0024】
本発明では、これらの成分以外の成分が出発原料に含まれていても良い。例えば、粒子に有機成分として取り込まれ得る有機化合物を添加することもできる。すなわち、本発明では、無溶媒下での熱処理によって所望の粒子を得ることができるが、出発原料の組成によっては熱処理によって金属成分と反応し、結合する有機化合物を添加することにより好適に本発明粒子を調製することができる。
【0025】
粒子に有機成分として取り込まれ得る有機化合物としては、例えばオクタン酸、デカン酸、オレイン酸、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、オクタノール、デカノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、2−エトキシエタノール、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン等の少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0026】
また、本発明では、必要に応じて、前記有機化合物とは別途に、さらに溶媒(有機溶剤)を用いることもできる。このような溶媒としては、常温又は熱処理時に液状であるものであれば限定的でなく、例えばヘキサデカン、ジフェニルエーテル、オクチルエーテル等を適宜用いることができる。
【0027】
本発明における出発原料としては、より具体的には、
(イ)a)金属有機化合物及びb)有機硫黄化合物を含む出発原料、
(ロ)a)金属有機化合物、b)硫黄単体及びc)粒子に有機成分として取り込まれ得る有機化合物を含む出発原料、
(ハ)a)金属有機化合物、b)硫黄単体及びc)溶媒を含む出発原料
(ニ)a)金属有機化合物、b)硫黄単体、c)粒子に有機成分として取り込まれ得る有機化合物及びd)溶媒とを含む出発原料
等を好適に用いることができる。
【0028】
次に、これらの成分を含む出発原料を熱処理する。熱処理温度は、特に金属有機化合物の分解開始温度以上であり、かつ、完全分解温度未満の温度範囲で行うことが望ましい。これにより、得られる粒子に有機成分を含有させることができる。より具体的には、用いる有機金属成分の種類等に応じて所望の金属含有量により適宜調整すれば良いが、一般的には350℃以下の範囲内において、無機成分の含有量が好ましくは50〜99重量%程度、特に70〜99重量%となるようにすることが好ましい。熱処理雰囲気は、金属種等に応じて不活性ガス雰囲気、酸化性雰囲気、還元性雰囲気、大気中、真空中等のいずれかを適宜選択することができる。
【0029】
熱処理することによって、本発明粒子を得ることができる。この場合、必要に応じて公知の精製(洗浄等)、乾燥、分級等を実施することもできる。
【0030】
本発明粒子(電極活物質)の電極材料中における含有量は、用いる粒子の種類等に応じて適宜設定することができるが、通常は電極材料中20〜95重量%程度とし、特に30〜60重量%とすることが好ましい。
【0031】
その他の成分
本発明の電極材料では、電極活物質として本発明粒子を含むほか、例えば固体電解質、導電助剤、結着剤等の公知の電極材料に含まれる添加剤を含有しても良い。例えば、全固体二次電池の電極として用いる場合は、前記の本発明粒子及び固体電解質を含む電極材料を用いて電極を構成することができる。
【0032】
導電助剤としては、公知の電池で採用されているものを使用することができる。例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、気相成長炭素繊維、活性炭等を用いることができる。導電助剤は、通常は粒子状(粉末状)で使用されるが、その平均粒子径は一般に0.01〜10μm程度、特に0.1〜1μmとすることが好ましい。
【0033】
導電助剤の含有量は特に制限されず、所望の電極特性等に応じて適宜設定することができるが、一般的には電極材料中1〜20重量%程度とすれば良い。
【0034】
電極材料に含まれる固体電解質としては、公知の固体電解質と同様のものを用いることができる。固体電解質の材質は、有機固体電解質(有機高分子固体電解質)又は無機固体電解質のいずれでも良く、所望のイオン伝導性等に応じて適宜選択すれば良い。例えば、リチウムイオン伝導性固体電解質としては、硫化物系固体電解質及び/又は酸化物系固体電解質を用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えばリン及び硫黄の少なくとも1種とリチウムとを含む無機固体電解質を好適に用いることができる。より具体的には、例えば、Li2S−P2S5、Li2S−P2S5−P2O5、Li2S−SiS2−LiI、Li2S−SiS2−LiBr、Li2S−SiS2−LiSiO4等の少なくとも1種を用いることができる。酸化物系固体電解質としては、例えばリン及び酸素の少なくとも1種とリチウムとを含む無機固体電解質を好適に用いることができる。より具体的には、例えば、Li2O−P2O5、Li2O−SiO2、Li2O−Nb2O5、Li2O−P2O5−SiO2、Li2O−SiO2−B2O3、Li2O−Al2O3−GeO2−P2O5、Li2O−Al2O3−TiO2−P2O5等の少なくとも1種を用いることができる。
【0035】
固体電解質の形態は限定されず、バルク体(多孔質体)、粒子状物等のいずれの形態であっても良い。粒子状固体電解質である場合は、その平均粒子径は通常0.1〜10μm程度、特に0.5〜2μmのものを好適に用いることができる。
【0036】
固体電解質の含有量は特に制限されないが、一般的には電極材料中5〜80重量%、特に20〜60重量%とすることが望ましい。
【0037】
結着剤としては、公知又は市販のものをいずれも用いることができる。例えば、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリアルキレングリコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、クロロプレンゴム、ポリブタジエン等を用いることができる。
【0038】
結着剤の含有量は特に制限されず、用いる結着剤の種類等に応じて適宜設定すれば良いが、一般的には電極材料中0〜10重量%程度とすれば良い。
【0039】
電極の作製
本発明の電極材料を用いて電極を構成する場合は、公知の電極の形成方法に従って実施すれば良い。例えば、1)電極材料を乾式又は湿式で成形して得られた成形体を集電体に圧接する方法、2)電極材料と集電体を一体的に成形する方法、3)電極材料を含むペーストを調製し、そのペーストからなる皮膜を集電体表面に形成する方法等のいずれの方法も採用することができる。
【0040】
集電体としても特に限定されず、公知又は市販の集電体を用いることができる。例えば、鉄、ステンレス鋼、金、白金、亜鉛、ニッケル、スズ、アルミニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、タングステン、チタン等の各種の金属又は合金を用いることができる。また、形態も限定的でなく、例えばエキスパンドメタル、シートメタル、パンチングメタル等のいずれも使用することができる。
【0041】
本発明の電極材料は、二次電池用の電極材料として好適に用いることができる。二次電池としては、例えばリチウム二次電池、ナトリウム二次電池、マグネシウム二次電池、銅二次電池、銀二次電池等の二次電池に利用することができる。特に、本発明粒子が分散性等に優れることから、全固体二次電池の電極としても好適に用いることができる。
【0042】
2.二次電池
本発明は、電極材料を含む電極を用いた二次電池を包含する。二次電池の構成自体は、二次電池の種類等に応じて公知の二次電池の構成から適宜採用することができる。
【0043】
また、電池の形態も特に限定されない。例えば、コイン型、ピン型、ペーパー型、円筒型、角型等のいずれの形態でも適用することができる。
【0044】
本発明の電極材料は、特にリチウム二次電池を構成する上で好適である。すなわち、1)本発明の電極材料を含む負極、2)リチウム含有物質を含む電極、及び3)前記電極の間に接触して介在するリチウムイオン伝導性固体電解質を含む、全固体リチウム二次電池を提供することができる。
【0045】
前記1)の電極としては、前記1.で記載された電極を用いることができる。すなわち、本発明の電極材料を含む電極を好適に用いることができる。
【0046】
前記2)のリチウム含有物質としては、金属リチウム、リチウム合金、リチウム化合物等の公知のリチウム電池で用いられている材料を採用することができる。より具体的には、リチウムインジウム合金やリチウムアルミニウム合金等を好適に用いることができる。
【0047】
前記3)のリチウムイオン伝導性固体電解質としては、前記1.で記載された固体電解質と同様のものを使用することができる。この場合、前記1.で示された電極材料中の固体電解質と異なる材質であっても良いし、同じ材質であっても良い。特に、本発明では、リチウムイオン伝導性固体電解質は、電極材料中に含まれる固体電解質と同じものを使用するのが好ましい。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0049】
実施例1
まず電極活物質であるNiS含有ナノ粒子の合成を行った。ニッケルアセチルアセトナート0.38g及び1−ドデカンチオール2mL(アセチルアセトンニッケルと1−ドデカンチオールとのモル比1:5.6)と1−オクタデセン10mLとを配合して得られた出発原料をアルゴンガス雰囲気中280℃で5時間熱処理した。冷却した後、ヘキサン及びエタノールを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、遠心分離により固液分離した後、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。得られた電極活物質は、X線回折分析によりNiSを含有することが確認された。また、この電極活物質は、無機成分含有量は93重量%であり、平均粒子径は50nmであった。
【0050】
次いで、前記の電極活物質20重量部、固体電解質30重量部及び気相成長炭素繊維3重量部を乳鉢で均一に混合することにより電極活物質含有混合物を得た。なお、前記の固体電解質としては、Li2S:P2S5:P2O5を80重量%:19重量%:1重量%で混合された混合物を用いた。その後、得られた電極活物質含有混合物を用い、成形圧400MPaでプレス成形することにより直径10mm×高さ1mmのペレット状成形体を得た。
【0051】
試験例1
実施例1で得られた成形体を作用極として用い、図1に示すような電池を構成した。電解質としては、前記成形体で使用された電解質と同様、Li2S:P2S5:P2O5をそれぞれ80重量%:19重量%:1重量%の割合で含む固体電解質(直径10mm×高さ1mm)を用いた。また、対極としては、リチウム−インジウム合金板(合金組成Li:50at%、In:50at%)を用いた。負極及び正極には、固体電解質と接していない面にそれぞれステンレス鋼製集電体を取り付けた。次に、構成された電池の充放電特性及びサイクル特性を調べた。その結果を図2及び図3にそれぞれ示す。なお、充放電特性の条件は、25℃において電流密度64μA/cm2で充放電を繰り返し、カットオフ条件−0.6〜3.4V(対極基準)とした。
【0052】
実施例2
電極活物質である硫化銅含有粒子の合成を行った。オクタン酸銅0.700g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とオクチルアミン0.52gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中160℃で4時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、遠心分離により固液分離した後、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。得られた電極活物質は、X線回折分析によりCuSを含有することが確認された。また、この電極活物質の無機成分含有量は91重量%であり、粒子径分布は20〜50nmであった。
【0053】
次いで、前記の電極活物質20重量部、固体電解質30重量部及び気相成長炭素繊維3重量部を乳鉢で均一に混合することにより電極活物質含有混合物を得た。なお、前記の固体電解質としては、Li2S:P2S5:P2O5を80重量%:19重量%:1重量%で混合された混合物を用いた。その後、得られた電極活物質含有混合物を用い、成形圧400MPaでプレス成形することにより直径10mm×高さ1mmのペレット状成形体を得た。
【0054】
試験例2
実施例2で得られた成形体を作用極として用い、実施例1と同様にして図1に示すような電池を構成した。次に、構成された電池の充放電特性を試験例1と同様にして調べた。その結果を図4にそれぞれ示す。
【0055】
実施例3
まず電極活物質であるSnS含有ナノ粒子の合成を行った。酢酸スズ0.36g及び1−ドデカンチオール2mL(酢酸スズと1−ドデカンチオールとのモル比1:5.6)と高沸点溶媒20mLとを配合して得られた出発原料をアルゴンガス雰囲気中280℃で2時間熱処理した。冷却した後、ヘキサン及びエタノールを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、遠心分離により固液分離した後、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。得られた電極活物質は、X線回折分析によりSnSを含有することが確認された。さらに電極活物質の平均粒子径は、高沸点溶媒の種類によって異なるが、0.1〜2μmであった。なお、前記の高沸点溶媒としては、1)トリオクチルホスフィン(TOP)10mLと1−オクタデセン(ODE)10mLの混合物、2)オレイルアミン(OAm)10mLと1−オクタデセン(ODE)10mLの混合物又は3)1−オクタデセン(ODE)20mL単体を用いた。
【0056】
次いで、前記の電極活物質20重量部、固体電解質30重量部及び気相成長炭素繊維3重量部を乳鉢で均一に混合することにより電極活物質含有混合物を得た。なお、前記の固体電解質としては、Li2S:P2S5:P2O5を80重量%:19重量%:1重量%で混合された混合物を用いた。その後、得られた電極活物質含有混合物を用い、成形圧400MPaでプレス成形することにより直径10mm×高さ1mmのペレット状成形体を得た。
【0057】
試験例3
実施例3で得られた成形体を作用極として用い、実施例1と同様にして図1に示すような電池を構成した。次に、構成された電池の充放電特性及びサイクル特性を試験例1と同様にして調べた。その結果を図5及び図6にそれぞれ示す。
【0058】
実施例4
電極活物質である硫化銅含有粒子の合成を行った。ステアリン酸銅1.260g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とオレイルアミン1.070gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中140℃で3時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、遠心分離により固液分離した後、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。
【0059】
実施例5
電極活物質である硫化鉄含有粒子の合成を行った。ステアリン酸鉄1.652g及びイオウ単体0.096g(両者のモル比2:3)とオレイルアミン1.605gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中140℃で3時間熱処理した。続いて温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、遠心分離により固液分離した後、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。
【0060】
実施例6
電極活物質である硫化コバルト含有粒子の合成を行った。ステアリン酸コバルト1.252g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とオレイルアミン1.070gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中140℃で3時間熱処理した。続いて温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、遠心分離により固液分離した後、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。
【0061】
実施例7
電極活物質である硫化ニッケル含有粒子の合成を行った。ステアリン酸ニッケル1.251g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とオレイルアミン1.070gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中140℃で3時間熱処理した。続いて温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、遠心分離により固液分離した後、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。
【0062】
実施例8
電極活物質である硫化ニッケル含有粒子の合成を行った。ニッケルドデカンチオレート0.922gを窒素ガス雰囲気中285℃で8時間熱処理した。続いて温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、遠心分離により固液分離した後、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。得られた電極活物質は、X線回折分析によりβ−NiSを含有することが確認された。また、この電極活物質の無機成分含有量は98重量%であり、平均粒子径は40nmの粒子であった。
【0063】
実施例9
電極活物質である硫化ニッケル含有粒子の合成を行った。ニッケルドデカンチオレート0.922g及びN,N’−ジブチルチオウレア0.376g(両者のモル比1:1)とオクチルアミン1.300gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中180℃で6時間熱処理した。続いて温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、遠心分離により固液分離した後、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。得られた電極活物質は、X線回折分析により不定比硫化ニッケルを含有することが確認された。また、この電極活物質の無機成分含有量は54重量%であり、粒子径分布は10〜30nmであった。
【0064】
実施例10
電極活物質である硫化銅含有粒子の合成を行った。オクタン酸銅0.922g及びN,N’−ジブチルチオウレア0.376g(両者のモル比1:1)とオクチルアミン0.520gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中160℃で4時間熱処理した。続いて温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、遠心分離により固液分離した後、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。得られた電極活物質は、X線回折分析によりCuSを含有することが確認された。また、この電極活物質の無機成分含有量は95重量%であり、平均粒子径100nm以上の粒子であった。
【0065】
実施例12
電極活物質である硫化マンガン含有粒子の合成を行った。オクタン酸マンガン0.683g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とオクチルアミン0.517gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中140℃で16時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。粉末X線回折分析より粒子は硫化マンガン(II)と同定し、熱重量分析より無機成分含有量82重量%、収率70%であった。また、電極活物質の平均粒子径は18nmであった。得られた電極活物質について、粉末X線回折分析の結果を図7、熱重量分析の結果を図8、透過型電子顕微鏡像を図9にそれぞれ示す。
【0066】
実施例13
電極活物質である硫化マンガン含有粒子の合成を行った。マンガンビス(ドデカンチオレート)錯体0.915g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とオレイルアミン0.965gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中180℃で6時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。熱重量分析より無機成分含有量85重量%、収率34%であった。また、電極活物質の粒子径は15〜20nmであった。得られた電極活物質について、熱重量分析の結果を図10、透過型電子顕微鏡像を図11にそれぞれ示す。
【0067】
試験例4
実施例13で得られた電極活物質を用いて実施例1と同様にして成形体を作製した。この成形体を作用極として用い、試験例1と同様にして図1に示すような電池を構成した。次に、構成された電池の充放電特性を試験例1と同様にして調べた。その結果を図12に示す。
【0068】
実施例14
電極活物質である硫化鉄含有粒子の合成を行った。オクタン酸鉄(III)0.971g及びイオウ単体0.096g(両者のモル比2:3)とジオクチルアミン2.90gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中180℃で6時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。熱重量分析より無機成分含有量51重量%、収率76%であった。また、電極活物質の平均粒子径は約200nmであった。得られた電極活物質について、熱重量分析の結果を図13に示す。
【0069】
実施例15
電極活物質である硫化鉄含有粒子の合成を行った。鉄(II)ビス(ドデカンチオレート)錯体0.917g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とジオクチルアミン0.965gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中180℃で6時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。粉末X線回折分析より粒子は硫化鉄(II)と同定し、熱重量分析より無機成分含有量72重量%、収率69%であった。得られた電極活物質について、粉末X線回折分析の結果を図14、熱重量分析の結果を図15にそれぞれ示す。
【0070】
実施例16
電極活物質である硫化コバルト含有粒子の合成を行った。オクタン酸コバルト0.691g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とトリオクチルアミン1.41gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中180℃で6時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。粉末X線回折分析より粒子は硫化コバルト(IV)と同定し、熱重量分析より無機成分含有量68重量%、収率49%であった。得られた電極活物質について、粉末X線回折分析の結果を図16、熱重量分析の結果を図17にそれぞれ示す。
【0071】
実施例17
電極活物質である硫化ニッケル含有粒子の合成を行った。オクタン酸ニッケル0.690g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とオクチルアミン0.517gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中160℃で16時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。粉末X線回折分析より粒子は硫化ニッケル(II)と同定し、熱重量分析より無機成分含有量60重量%、収率61%であった。また、電極活物質の平均粒子径は5nmであった。得られた電極活物質について、粉末X線回折分析の結果を図18、熱重量分析の結果を図19、透過型電子顕微鏡像を図20にそれぞれ示す。
【0072】
実施例18
電極活物質である硫化ニッケル含有粒子の合成を行った。ニッケルビス(ドデカンチオレート)錯体0.923g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とジオクチルアミン0.965gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中140℃で24時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。粉末X線回折分析より粒子はニッケルに対して硫黄原子が1〜2倍の範囲内の種々の硫化ニッケルの混合物と同定し、熱重量分析より無機成分含有量74重量%、収量0.219gであった。また、電極活物質の粒子径は5〜10nmであった。得られた電極活物質について、粉末X線回折分析の結果を図21、熱重量分析の結果を図22、透過型電子顕微鏡像を図23にそれぞれ示す。
【0073】
試験例5
実施例18で得られた電極活物質を用いて実施例1と同様にして成形体を作製した。この成形体を作用極として用い、試験例1と同様にして図1に示すような電池を構成した。次に、構成された電池の充放電特性を試験例1と同様にして調べた。その結果を図24に示す。
【0074】
実施例19
電極活物質である硫化銅含有粒子の合成を行った。オクタン酸銅0.700g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とオクチルアミン0.517gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中160℃で16時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。粉末X線回折分析より粒子は硫化銅(II)と同定し、熱重量分析より無機成分含有量81重量%、収率70%であった。また、電極活物質の粒子径は20〜50nmであった。得られた電極活物質について、粉末X線回折分析の結果を図25、熱重量分析の結果を図26、透過型電子顕微鏡像を図27にそれぞれ示す。
【0075】
実施例20
電極活物質である硫化銅含有粒子の合成を行った。銅ビス(ドデカンチオレート)錯体0.933g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とジオクチルアミン0.965gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中180℃で6時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。粉末X線回折分析より粒子は硫化銅(II)と同定し、熱重量分析より無機成分含有量89重量%、収率45%であった。また、電極活物質の粒子径は10〜30nmであった。得られた電極活物質について、粉末X線回折分析の結果を図28、熱重量分析の結果を図29、透過型電子顕微鏡像を図30にそれぞれ示す。
【0076】
試験例6
実施例20で得られた電極活物質を用いて実施例1と同様にして成形体を作製した。この成形体を作用極として用い、試験例1と同様にして図1に示すような電池を構成した。次に、構成された電池の充放電特性を試験例1と同様にして調べた。その結果を図31に示す。
【0077】
実施例21
電極活物質である硫化亜鉛含有粒子の合成を行った。オクタン酸亜鉛0.70g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とオレイルアミン0.517gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中140℃で24時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。粉末X線回折分析より粒子は硫化亜鉛と同定し、熱重量分析より無機成分含有量72重量%、収率90%であった。また、電極活物質の平均粒子径は3〜5nmであった。得られた電極活物質について、粉末X線回折分析の結果を図32、熱重量分析の結果を図33、透過型電子顕微鏡像を図34にそれぞれ示す。
【0078】
実施例22
電極活物質である硫化亜鉛含有粒子の合成を行った。亜鉛ビス(ドデカンチオレート)錯体0.936g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とオレイルアミン1.93gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中180℃で24時間熱処理した。続いて温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。粉末X線回折分析より粒子は硫化亜鉛と同定し、熱重量分析より無機成分含有量74重量%、収率63%であった。また、電極活物質の平均粒子径は3〜5nmであった。得られた電極活物質について、粉末X線回折分析の結果を図35、熱重量分析の結果を図36、透過型電子顕微鏡像を図37にそれぞれ示す。
【0079】
試験例7
実施例22で得られた電極活物質を用いて実施例1と同様にして成形体を作製した。この成形体を作用極として用い、試験例1と同様にして図1に示すような電池を構成した。次に、構成された電池の充放電特性を試験例1と同様にして調べた。その結果を図38に示す。
【0080】
試験例8
マイクロメートルサイズの大きな硫化ニッケル粒子(II)を作用極として用い、実施例1と同様にして図1に示すような電池を構成した。次に、構成された電池の充放電特性を試験例1と同様にして調べた。その結果を図39に示す。初期放電容量は約320〜200mAh/g程度であった。これに対し、図2に示すように、NiS含有ナノ粒子を用いた実施例1の電池における初期放電容量は620〜550mAh/gと大きな値を示しており、優れた性能を発揮できることがわかる。すなわち、より微細な粒径を有するNiS含有ナノ粒子を用いる方がより高い充放電特性が得られることがわかる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に用いられる電極材料とそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池をはじめとする二次電池では、従来より液体の電解質(電解液)が使用されている。このため、電解液の液漏れ、電解液の分解反応等による破裂、発火等の事故が発生していることから、その安全性・信頼性が問題視されている。これに対し、最近では、電解液ではなく固体電解質を用いた全固体タイプの電池の開発が進められている。すなわち、負極、正極及び電解質をすべて固体化(全固体化)するものであり、これまでの電解液を用いる電池の問題を解決できる電池として期待されている。
【0003】
例えば自動車、パソコン等で汎用されているリチウムイオン二次電池等において種々の全固体電池が提案されている。より具体的には、固体電解質として無機酸化物を用いた全固体リチウム電池が提案されている。その一例として、リチウムイオン導電性固体電解質及び、遷移金属酸化物を主体とする化合物を正極活物質とし、リチウム金属あるいはリチウムイオンを吸蔵、放出可能な物質を負極活物質として含む全固体リチウム電池において、固体電解質が、酸化リチウム、酸化バナジウム、酸化珪素を含む物質よりなることを特徴とする全固体リチウム電池が知られている(特許文献1)。
【0004】
また例えば、金属層と、前記金属層上に設けられた導電性樹脂層と、前記導電性樹脂層上に設けられた活物質層と、を備える電極であって、前記導電性樹脂層が、導電剤とイオン不導体である結着剤とからなり、前記金属層が少なくとも前記導電性樹脂層に接している面が粗面化されていることを特徴とする全固体リチウム電池用電極が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−83838
【特許文献2】特開2009−289534
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の全固体リチウム電池等では、固体電解質を用いることによって別の問題が生じる。すなわち、電解液を用いるタイプの電池では、その液体の流動性(浸透性)により電極材料と電解液との界面形成が比較的容易に実現されるのに対し、固体電解質では電解液のような高い界面形成能を実現することが困難である。つまり、例えば全固体リチウム電池であれば、電極間にリチウムイオン伝導性固体電解質を接触させるところ、その電極にも電極活物質、導電助剤のほかに前記固体電解質を介在させることになる。そして、それらが接触する部分からリチウムイオンを伝導させることになるが、電極活物質の偏在又は分散性の低さ等により当該接触のない部分が形成される場合はその部分が充放電特性等の向上に寄与できなくなる。また、接触している場合であっても、電池機能に寄与する部分は電極活物質表面に限られるため、それだけ充放電特性等が下がる結果となる。
【0007】
従って、本発明の主な目的は、特に全固体電池として従来より優れた充放電特性等を発揮できる電極材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の微粒子を電極活物質として採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の二次電池用電極材料及びそれを用いた二次電池に係る。
1. 金属硫化物及び有機成分を含む粒子を電極活物質として含む二次電池用電極材料。
2. 前記粒子の平均粒子径が1〜500nmである、前記項1に記載の二次電池用電極材料。
3. 前記粒子が、a)金属有機化合物及びb)硫黄成分を含む出発原料を熱処理して得られるものである、前記項1又は2に記載の二次電池用電極材料。
4. 前記粒子が、硫化鉄、硫化コバルト、硫化ニッケル、硫化銅、硫化亜鉛、硫化カドミウム、硫化インジウム及び硫化スズの少なくとも1種と有機成分とを含む、前記項1〜3のいずれかに記載の二次電池用電極材料。
5. 前記粒子、粒子状固体電解質及び導電助剤を含む混合物から構成される、前記項1〜4のいずれかに記載の二次電池用電極材料。
6. 全固体二次電池の電極に用いる、前記項1〜5のいずれかに記載の二次電池用電極材料。
7. 前記項1〜6のいずれかに記載の電極材料を含む電極を用いた二次電池。
8. 1)前記項1〜5のいずれかに記載の電極材料を含む電極、2)リチウム含有物質を含む電極、及び3)前記電極の間に接触して介在するリチウムイオン伝導性固体電解質を含む、全固体リチウム二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電極材料では、金属硫化物と有機成分とを含む粒子を電極活物質として用いるので、その粒子の分散性により電極材料中で電極活物質が均一に分布される。その結果、例えば導電助剤、固体電解質等の電極材料中の成分との界面形成が効果的に行えることから、充放電特性等の向上に寄与することができる。
【0011】
また、前記粒子として平均粒子径がナノレベルの電極活物質粒子を用いることにより、導電助剤及び固体電解質との接触部分を増大させるとともに、界面形成に寄与しない部分(非接触部分)を減らすことができる。これによっても、充放電特性の向上に寄与することができる。
【0012】
このように、本発明の電極材料は、電極材料中の各成分との界面形成を効果的に行うことができるので、液体の電解質を用いる電池はもとより、固体電解質を用いる電池(すなわち、全固体電池)の電極に好適に用いることができる。とりわけ、全固体リチウム二次電池の電極(特に負極)として有用である。このような全固体リチウム二次電池は、例えばパソコン、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ、ハイブリッド自動車、電気自動車等の電源として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の電極材料を用いた全固体リチウム二次電池の構成例を示す図である。
【図2】試験例1で構成された全固体リチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【図3】試験例1で構成された全固体リチウム二次電池のサイクル特性を示す図である。
【図4】試験例2で構成された全固体リチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【図5】試験例3で構成された全固体リチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【図6】試験例3で構成された全固体リチウム二次電池のサイクル特性を示す図である。
【図7】実施例12で得られた電極活物質の粉末X線回折分析の結果を示す図である。
【図8】実施例12で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図9】実施例12で得られた電極活物質の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図10】実施例13で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図11】実施例13で得られた電極活物質の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図12】試験例4で構成された全固体リチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【図13】実施例14で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図14】実施例15で得られた電極活物質の粉末X線回折分析の結果を示す図である。
【図15】実施例15で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図16】実施例16で得られた電極活物質の粉末X線回折分析の結果を示す図である。
【図17】実施例16で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図18】実施例17で得られた電極活物質の粉末X線回折分析の結果を示す図である。
【図19】実施例17で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図20】実施例17で得られた電極活物質の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図21】実施例18で得られた電極活物質の粉末X線回折分析の結果を示す図である。
【図22】実施例18で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図23】実施例18で得られた電極活物質の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図24】試験例5で構成された全固体リチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【図25】実施例19で得られた電極活物質の粉末X線回折分析の結果を示す図である。
【図26】実施例19で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図27】実施例19で得られた電極活物質の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図28】実施例20で得られた電極活物質の粉末X線回折分析の結果を示す図である。
【図29】実施例20で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図30】実施例20で得られた電極活物質の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図31】試験例6で構成された全固体リチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【図32】実施例21で得られた電極活物質の粉末X線回折分析の結果を示す図である。
【図33】実施例21で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図34】実施例21で得られた電極活物質の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図35】実施例22で得られた電極活物質の粉末X線回折分析の結果を示す図である。
【図36】実施例22で得られた電極活物質の熱重量分析の結果を示す図である。
【図37】実施例22で得られた電極活物質の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図38】試験例7で構成された全固体リチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【図39】試験例8で構成された全固体リチウム二次電池の充放電特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.二次電池用電極材料
本発明の二次電池用電極材料は、金属硫化物及び有機成分を含む粒子を電極活物質として含むことを特徴とする。
【0015】
電極活物質
電極活物質としては、金属硫化物及び有機成分を含む粒子(前記粒子群からなる粉末)(本発明粒子)を用いる。
【0016】
金属硫化物の金属種は電極活物質となり得るものであれば特に限定されず、例えばFe、Co、Ni、Cu、Zn、Ag、Cd、Ga、In、Si、Ge、Sn、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、Mo、Mg、Al、Sb及び Biの少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0017】
金属硫化物としては、特に限定されないが、例えば硫化鉄、硫化コバルト、硫化ニッケル、硫化銅、硫化亜鉛、硫化カドミウム、硫化インジウム、硫化スズ等の少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0018】
有機成分としては特に限定されず、脂肪族有機化合物の熱処理(特に脂肪酸、アルキルアミン、アルキルアルコール、アルカンチオール、アルキルホスフィン、アルキルホスフィンオキシド、脂肪族オレフィンの熱分解)により生成した成分を好適に採用することができる。すなわち、後記に示すように、本発明粒子を製造するに際し、a)金属有機化合物及びb)硫黄成分を含む出発原料を熱処理した場合に生成する有機成分を好適に用いることができる。
【0019】
本発明粒子は、無機成分と有機成分から構成されるが、この場合の無機成分の含有量は適宜調整すれば良い。一般的には、無機成分含有量は50〜99重量%程度であり、好ましくは70〜99重量%である。
【0020】
本発明粒子の平均粒子径は特に限定的ではないが、通常は1〜500nmであり、特に10〜200nmであることが好ましい。このようなナノ粒子を採用することにより、電極材料中の他の成分との接触面積を増加させて界面形成をより効果的に行うことができる結果、いっそう優れた電池特性に寄与することができる。
【0021】
このような本発明粒子自体は、公知のものを使用することができる。また、公知の製造方法により得られる微粒子(ナノ粒子)を用いることができる。例えば、a)金属有機化合物と、b)硫黄成分とを含む出発原料を熱処理して得られる粒子を好適に用いることができる。以下、この熱処理によるナノ粒子の製造方法について説明する。
【0022】
金属有機化合物としては、有機金属化合物のほか、金属アルコキシド等も包含する。より具体的には、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、カプロン酸塩、オクチル酸塩、n−デカン酸塩、イソデカン酸塩、ヘキシルデカン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、オレイン酸塩、ステアリン酸塩、ナフテン酸塩、安息香酸塩、パラトルイル酸塩等の脂肪酸塩、メトキシド、エトキシド、イソプロポキシド、n−プロポキシド、n−ブトキシド、イソブトキシド、t−ブトキシド等の金属アルコキシド、金属アセチルアセトン錯塩、金属チオレート錯体、金属ホスフィン錯体、金属ホスフィンオキシド錯体等が挙げられる。これらの中でも、特に脂肪酸塩、金属アセチルアセトネート、金属チオレート錯体等が好ましい。脂肪酸塩としては、特に総炭素数が1〜30程度、より好ましくは総炭素数6〜18の脂肪酸塩が好ましい。
【0023】
硫黄成分としては、硫黄単体のほか、硫黄を含む化合物も採用することができる。例えば、有機硫黄化合物を好適に用いることができる。有機硫黄化合物としては、例えばチオール、スルフィド、ジスルフィド、チオ尿素、チオケトン、チオ酢酸、チオリン酸等を好適に用いることができる。より具体的には、1)一般式R1−SHで示され、前記R1が総炭素数1〜12のアルキル基であるチオール、2)一般式R2NHC(=S)NHR3で示され、前記R2及びR3が水素又は総炭素数1〜12のアルキル基であるチオ尿素等を好適に用いることができる。
【0024】
本発明では、これらの成分以外の成分が出発原料に含まれていても良い。例えば、粒子に有機成分として取り込まれ得る有機化合物を添加することもできる。すなわち、本発明では、無溶媒下での熱処理によって所望の粒子を得ることができるが、出発原料の組成によっては熱処理によって金属成分と反応し、結合する有機化合物を添加することにより好適に本発明粒子を調製することができる。
【0025】
粒子に有機成分として取り込まれ得る有機化合物としては、例えばオクタン酸、デカン酸、オレイン酸、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、オクタノール、デカノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、2−エトキシエタノール、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン等の少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0026】
また、本発明では、必要に応じて、前記有機化合物とは別途に、さらに溶媒(有機溶剤)を用いることもできる。このような溶媒としては、常温又は熱処理時に液状であるものであれば限定的でなく、例えばヘキサデカン、ジフェニルエーテル、オクチルエーテル等を適宜用いることができる。
【0027】
本発明における出発原料としては、より具体的には、
(イ)a)金属有機化合物及びb)有機硫黄化合物を含む出発原料、
(ロ)a)金属有機化合物、b)硫黄単体及びc)粒子に有機成分として取り込まれ得る有機化合物を含む出発原料、
(ハ)a)金属有機化合物、b)硫黄単体及びc)溶媒を含む出発原料
(ニ)a)金属有機化合物、b)硫黄単体、c)粒子に有機成分として取り込まれ得る有機化合物及びd)溶媒とを含む出発原料
等を好適に用いることができる。
【0028】
次に、これらの成分を含む出発原料を熱処理する。熱処理温度は、特に金属有機化合物の分解開始温度以上であり、かつ、完全分解温度未満の温度範囲で行うことが望ましい。これにより、得られる粒子に有機成分を含有させることができる。より具体的には、用いる有機金属成分の種類等に応じて所望の金属含有量により適宜調整すれば良いが、一般的には350℃以下の範囲内において、無機成分の含有量が好ましくは50〜99重量%程度、特に70〜99重量%となるようにすることが好ましい。熱処理雰囲気は、金属種等に応じて不活性ガス雰囲気、酸化性雰囲気、還元性雰囲気、大気中、真空中等のいずれかを適宜選択することができる。
【0029】
熱処理することによって、本発明粒子を得ることができる。この場合、必要に応じて公知の精製(洗浄等)、乾燥、分級等を実施することもできる。
【0030】
本発明粒子(電極活物質)の電極材料中における含有量は、用いる粒子の種類等に応じて適宜設定することができるが、通常は電極材料中20〜95重量%程度とし、特に30〜60重量%とすることが好ましい。
【0031】
その他の成分
本発明の電極材料では、電極活物質として本発明粒子を含むほか、例えば固体電解質、導電助剤、結着剤等の公知の電極材料に含まれる添加剤を含有しても良い。例えば、全固体二次電池の電極として用いる場合は、前記の本発明粒子及び固体電解質を含む電極材料を用いて電極を構成することができる。
【0032】
導電助剤としては、公知の電池で採用されているものを使用することができる。例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、気相成長炭素繊維、活性炭等を用いることができる。導電助剤は、通常は粒子状(粉末状)で使用されるが、その平均粒子径は一般に0.01〜10μm程度、特に0.1〜1μmとすることが好ましい。
【0033】
導電助剤の含有量は特に制限されず、所望の電極特性等に応じて適宜設定することができるが、一般的には電極材料中1〜20重量%程度とすれば良い。
【0034】
電極材料に含まれる固体電解質としては、公知の固体電解質と同様のものを用いることができる。固体電解質の材質は、有機固体電解質(有機高分子固体電解質)又は無機固体電解質のいずれでも良く、所望のイオン伝導性等に応じて適宜選択すれば良い。例えば、リチウムイオン伝導性固体電解質としては、硫化物系固体電解質及び/又は酸化物系固体電解質を用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えばリン及び硫黄の少なくとも1種とリチウムとを含む無機固体電解質を好適に用いることができる。より具体的には、例えば、Li2S−P2S5、Li2S−P2S5−P2O5、Li2S−SiS2−LiI、Li2S−SiS2−LiBr、Li2S−SiS2−LiSiO4等の少なくとも1種を用いることができる。酸化物系固体電解質としては、例えばリン及び酸素の少なくとも1種とリチウムとを含む無機固体電解質を好適に用いることができる。より具体的には、例えば、Li2O−P2O5、Li2O−SiO2、Li2O−Nb2O5、Li2O−P2O5−SiO2、Li2O−SiO2−B2O3、Li2O−Al2O3−GeO2−P2O5、Li2O−Al2O3−TiO2−P2O5等の少なくとも1種を用いることができる。
【0035】
固体電解質の形態は限定されず、バルク体(多孔質体)、粒子状物等のいずれの形態であっても良い。粒子状固体電解質である場合は、その平均粒子径は通常0.1〜10μm程度、特に0.5〜2μmのものを好適に用いることができる。
【0036】
固体電解質の含有量は特に制限されないが、一般的には電極材料中5〜80重量%、特に20〜60重量%とすることが望ましい。
【0037】
結着剤としては、公知又は市販のものをいずれも用いることができる。例えば、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリアルキレングリコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、クロロプレンゴム、ポリブタジエン等を用いることができる。
【0038】
結着剤の含有量は特に制限されず、用いる結着剤の種類等に応じて適宜設定すれば良いが、一般的には電極材料中0〜10重量%程度とすれば良い。
【0039】
電極の作製
本発明の電極材料を用いて電極を構成する場合は、公知の電極の形成方法に従って実施すれば良い。例えば、1)電極材料を乾式又は湿式で成形して得られた成形体を集電体に圧接する方法、2)電極材料と集電体を一体的に成形する方法、3)電極材料を含むペーストを調製し、そのペーストからなる皮膜を集電体表面に形成する方法等のいずれの方法も採用することができる。
【0040】
集電体としても特に限定されず、公知又は市販の集電体を用いることができる。例えば、鉄、ステンレス鋼、金、白金、亜鉛、ニッケル、スズ、アルミニウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、タングステン、チタン等の各種の金属又は合金を用いることができる。また、形態も限定的でなく、例えばエキスパンドメタル、シートメタル、パンチングメタル等のいずれも使用することができる。
【0041】
本発明の電極材料は、二次電池用の電極材料として好適に用いることができる。二次電池としては、例えばリチウム二次電池、ナトリウム二次電池、マグネシウム二次電池、銅二次電池、銀二次電池等の二次電池に利用することができる。特に、本発明粒子が分散性等に優れることから、全固体二次電池の電極としても好適に用いることができる。
【0042】
2.二次電池
本発明は、電極材料を含む電極を用いた二次電池を包含する。二次電池の構成自体は、二次電池の種類等に応じて公知の二次電池の構成から適宜採用することができる。
【0043】
また、電池の形態も特に限定されない。例えば、コイン型、ピン型、ペーパー型、円筒型、角型等のいずれの形態でも適用することができる。
【0044】
本発明の電極材料は、特にリチウム二次電池を構成する上で好適である。すなわち、1)本発明の電極材料を含む負極、2)リチウム含有物質を含む電極、及び3)前記電極の間に接触して介在するリチウムイオン伝導性固体電解質を含む、全固体リチウム二次電池を提供することができる。
【0045】
前記1)の電極としては、前記1.で記載された電極を用いることができる。すなわち、本発明の電極材料を含む電極を好適に用いることができる。
【0046】
前記2)のリチウム含有物質としては、金属リチウム、リチウム合金、リチウム化合物等の公知のリチウム電池で用いられている材料を採用することができる。より具体的には、リチウムインジウム合金やリチウムアルミニウム合金等を好適に用いることができる。
【0047】
前記3)のリチウムイオン伝導性固体電解質としては、前記1.で記載された固体電解質と同様のものを使用することができる。この場合、前記1.で示された電極材料中の固体電解質と異なる材質であっても良いし、同じ材質であっても良い。特に、本発明では、リチウムイオン伝導性固体電解質は、電極材料中に含まれる固体電解質と同じものを使用するのが好ましい。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0049】
実施例1
まず電極活物質であるNiS含有ナノ粒子の合成を行った。ニッケルアセチルアセトナート0.38g及び1−ドデカンチオール2mL(アセチルアセトンニッケルと1−ドデカンチオールとのモル比1:5.6)と1−オクタデセン10mLとを配合して得られた出発原料をアルゴンガス雰囲気中280℃で5時間熱処理した。冷却した後、ヘキサン及びエタノールを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、遠心分離により固液分離した後、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。得られた電極活物質は、X線回折分析によりNiSを含有することが確認された。また、この電極活物質は、無機成分含有量は93重量%であり、平均粒子径は50nmであった。
【0050】
次いで、前記の電極活物質20重量部、固体電解質30重量部及び気相成長炭素繊維3重量部を乳鉢で均一に混合することにより電極活物質含有混合物を得た。なお、前記の固体電解質としては、Li2S:P2S5:P2O5を80重量%:19重量%:1重量%で混合された混合物を用いた。その後、得られた電極活物質含有混合物を用い、成形圧400MPaでプレス成形することにより直径10mm×高さ1mmのペレット状成形体を得た。
【0051】
試験例1
実施例1で得られた成形体を作用極として用い、図1に示すような電池を構成した。電解質としては、前記成形体で使用された電解質と同様、Li2S:P2S5:P2O5をそれぞれ80重量%:19重量%:1重量%の割合で含む固体電解質(直径10mm×高さ1mm)を用いた。また、対極としては、リチウム−インジウム合金板(合金組成Li:50at%、In:50at%)を用いた。負極及び正極には、固体電解質と接していない面にそれぞれステンレス鋼製集電体を取り付けた。次に、構成された電池の充放電特性及びサイクル特性を調べた。その結果を図2及び図3にそれぞれ示す。なお、充放電特性の条件は、25℃において電流密度64μA/cm2で充放電を繰り返し、カットオフ条件−0.6〜3.4V(対極基準)とした。
【0052】
実施例2
電極活物質である硫化銅含有粒子の合成を行った。オクタン酸銅0.700g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とオクチルアミン0.52gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中160℃で4時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、遠心分離により固液分離した後、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。得られた電極活物質は、X線回折分析によりCuSを含有することが確認された。また、この電極活物質の無機成分含有量は91重量%であり、粒子径分布は20〜50nmであった。
【0053】
次いで、前記の電極活物質20重量部、固体電解質30重量部及び気相成長炭素繊維3重量部を乳鉢で均一に混合することにより電極活物質含有混合物を得た。なお、前記の固体電解質としては、Li2S:P2S5:P2O5を80重量%:19重量%:1重量%で混合された混合物を用いた。その後、得られた電極活物質含有混合物を用い、成形圧400MPaでプレス成形することにより直径10mm×高さ1mmのペレット状成形体を得た。
【0054】
試験例2
実施例2で得られた成形体を作用極として用い、実施例1と同様にして図1に示すような電池を構成した。次に、構成された電池の充放電特性を試験例1と同様にして調べた。その結果を図4にそれぞれ示す。
【0055】
実施例3
まず電極活物質であるSnS含有ナノ粒子の合成を行った。酢酸スズ0.36g及び1−ドデカンチオール2mL(酢酸スズと1−ドデカンチオールとのモル比1:5.6)と高沸点溶媒20mLとを配合して得られた出発原料をアルゴンガス雰囲気中280℃で2時間熱処理した。冷却した後、ヘキサン及びエタノールを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、遠心分離により固液分離した後、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。得られた電極活物質は、X線回折分析によりSnSを含有することが確認された。さらに電極活物質の平均粒子径は、高沸点溶媒の種類によって異なるが、0.1〜2μmであった。なお、前記の高沸点溶媒としては、1)トリオクチルホスフィン(TOP)10mLと1−オクタデセン(ODE)10mLの混合物、2)オレイルアミン(OAm)10mLと1−オクタデセン(ODE)10mLの混合物又は3)1−オクタデセン(ODE)20mL単体を用いた。
【0056】
次いで、前記の電極活物質20重量部、固体電解質30重量部及び気相成長炭素繊維3重量部を乳鉢で均一に混合することにより電極活物質含有混合物を得た。なお、前記の固体電解質としては、Li2S:P2S5:P2O5を80重量%:19重量%:1重量%で混合された混合物を用いた。その後、得られた電極活物質含有混合物を用い、成形圧400MPaでプレス成形することにより直径10mm×高さ1mmのペレット状成形体を得た。
【0057】
試験例3
実施例3で得られた成形体を作用極として用い、実施例1と同様にして図1に示すような電池を構成した。次に、構成された電池の充放電特性及びサイクル特性を試験例1と同様にして調べた。その結果を図5及び図6にそれぞれ示す。
【0058】
実施例4
電極活物質である硫化銅含有粒子の合成を行った。ステアリン酸銅1.260g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とオレイルアミン1.070gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中140℃で3時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、遠心分離により固液分離した後、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。
【0059】
実施例5
電極活物質である硫化鉄含有粒子の合成を行った。ステアリン酸鉄1.652g及びイオウ単体0.096g(両者のモル比2:3)とオレイルアミン1.605gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中140℃で3時間熱処理した。続いて温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、遠心分離により固液分離した後、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。
【0060】
実施例6
電極活物質である硫化コバルト含有粒子の合成を行った。ステアリン酸コバルト1.252g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とオレイルアミン1.070gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中140℃で3時間熱処理した。続いて温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、遠心分離により固液分離した後、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。
【0061】
実施例7
電極活物質である硫化ニッケル含有粒子の合成を行った。ステアリン酸ニッケル1.251g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とオレイルアミン1.070gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中140℃で3時間熱処理した。続いて温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、遠心分離により固液分離した後、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。
【0062】
実施例8
電極活物質である硫化ニッケル含有粒子の合成を行った。ニッケルドデカンチオレート0.922gを窒素ガス雰囲気中285℃で8時間熱処理した。続いて温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、遠心分離により固液分離した後、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。得られた電極活物質は、X線回折分析によりβ−NiSを含有することが確認された。また、この電極活物質の無機成分含有量は98重量%であり、平均粒子径は40nmの粒子であった。
【0063】
実施例9
電極活物質である硫化ニッケル含有粒子の合成を行った。ニッケルドデカンチオレート0.922g及びN,N’−ジブチルチオウレア0.376g(両者のモル比1:1)とオクチルアミン1.300gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中180℃で6時間熱処理した。続いて温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、遠心分離により固液分離した後、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。得られた電極活物質は、X線回折分析により不定比硫化ニッケルを含有することが確認された。また、この電極活物質の無機成分含有量は54重量%であり、粒子径分布は10〜30nmであった。
【0064】
実施例10
電極活物質である硫化銅含有粒子の合成を行った。オクタン酸銅0.922g及びN,N’−ジブチルチオウレア0.376g(両者のモル比1:1)とオクチルアミン0.520gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中160℃で4時間熱処理した。続いて温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、遠心分離により固液分離した後、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。得られた電極活物質は、X線回折分析によりCuSを含有することが確認された。また、この電極活物質の無機成分含有量は95重量%であり、平均粒子径100nm以上の粒子であった。
【0065】
実施例12
電極活物質である硫化マンガン含有粒子の合成を行った。オクタン酸マンガン0.683g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とオクチルアミン0.517gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中140℃で16時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。粉末X線回折分析より粒子は硫化マンガン(II)と同定し、熱重量分析より無機成分含有量82重量%、収率70%であった。また、電極活物質の平均粒子径は18nmであった。得られた電極活物質について、粉末X線回折分析の結果を図7、熱重量分析の結果を図8、透過型電子顕微鏡像を図9にそれぞれ示す。
【0066】
実施例13
電極活物質である硫化マンガン含有粒子の合成を行った。マンガンビス(ドデカンチオレート)錯体0.915g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とオレイルアミン0.965gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中180℃で6時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。熱重量分析より無機成分含有量85重量%、収率34%であった。また、電極活物質の粒子径は15〜20nmであった。得られた電極活物質について、熱重量分析の結果を図10、透過型電子顕微鏡像を図11にそれぞれ示す。
【0067】
試験例4
実施例13で得られた電極活物質を用いて実施例1と同様にして成形体を作製した。この成形体を作用極として用い、試験例1と同様にして図1に示すような電池を構成した。次に、構成された電池の充放電特性を試験例1と同様にして調べた。その結果を図12に示す。
【0068】
実施例14
電極活物質である硫化鉄含有粒子の合成を行った。オクタン酸鉄(III)0.971g及びイオウ単体0.096g(両者のモル比2:3)とジオクチルアミン2.90gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中180℃で6時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。熱重量分析より無機成分含有量51重量%、収率76%であった。また、電極活物質の平均粒子径は約200nmであった。得られた電極活物質について、熱重量分析の結果を図13に示す。
【0069】
実施例15
電極活物質である硫化鉄含有粒子の合成を行った。鉄(II)ビス(ドデカンチオレート)錯体0.917g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とジオクチルアミン0.965gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中180℃で6時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。粉末X線回折分析より粒子は硫化鉄(II)と同定し、熱重量分析より無機成分含有量72重量%、収率69%であった。得られた電極活物質について、粉末X線回折分析の結果を図14、熱重量分析の結果を図15にそれぞれ示す。
【0070】
実施例16
電極活物質である硫化コバルト含有粒子の合成を行った。オクタン酸コバルト0.691g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とトリオクチルアミン1.41gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中180℃で6時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。粉末X線回折分析より粒子は硫化コバルト(IV)と同定し、熱重量分析より無機成分含有量68重量%、収率49%であった。得られた電極活物質について、粉末X線回折分析の結果を図16、熱重量分析の結果を図17にそれぞれ示す。
【0071】
実施例17
電極活物質である硫化ニッケル含有粒子の合成を行った。オクタン酸ニッケル0.690g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とオクチルアミン0.517gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中160℃で16時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。粉末X線回折分析より粒子は硫化ニッケル(II)と同定し、熱重量分析より無機成分含有量60重量%、収率61%であった。また、電極活物質の平均粒子径は5nmであった。得られた電極活物質について、粉末X線回折分析の結果を図18、熱重量分析の結果を図19、透過型電子顕微鏡像を図20にそれぞれ示す。
【0072】
実施例18
電極活物質である硫化ニッケル含有粒子の合成を行った。ニッケルビス(ドデカンチオレート)錯体0.923g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とジオクチルアミン0.965gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中140℃で24時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。粉末X線回折分析より粒子はニッケルに対して硫黄原子が1〜2倍の範囲内の種々の硫化ニッケルの混合物と同定し、熱重量分析より無機成分含有量74重量%、収量0.219gであった。また、電極活物質の粒子径は5〜10nmであった。得られた電極活物質について、粉末X線回折分析の結果を図21、熱重量分析の結果を図22、透過型電子顕微鏡像を図23にそれぞれ示す。
【0073】
試験例5
実施例18で得られた電極活物質を用いて実施例1と同様にして成形体を作製した。この成形体を作用極として用い、試験例1と同様にして図1に示すような電池を構成した。次に、構成された電池の充放電特性を試験例1と同様にして調べた。その結果を図24に示す。
【0074】
実施例19
電極活物質である硫化銅含有粒子の合成を行った。オクタン酸銅0.700g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とオクチルアミン0.517gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中160℃で16時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。粉末X線回折分析より粒子は硫化銅(II)と同定し、熱重量分析より無機成分含有量81重量%、収率70%であった。また、電極活物質の粒子径は20〜50nmであった。得られた電極活物質について、粉末X線回折分析の結果を図25、熱重量分析の結果を図26、透過型電子顕微鏡像を図27にそれぞれ示す。
【0075】
実施例20
電極活物質である硫化銅含有粒子の合成を行った。銅ビス(ドデカンチオレート)錯体0.933g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とジオクチルアミン0.965gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中180℃で6時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。粉末X線回折分析より粒子は硫化銅(II)と同定し、熱重量分析より無機成分含有量89重量%、収率45%であった。また、電極活物質の粒子径は10〜30nmであった。得られた電極活物質について、粉末X線回折分析の結果を図28、熱重量分析の結果を図29、透過型電子顕微鏡像を図30にそれぞれ示す。
【0076】
試験例6
実施例20で得られた電極活物質を用いて実施例1と同様にして成形体を作製した。この成形体を作用極として用い、試験例1と同様にして図1に示すような電池を構成した。次に、構成された電池の充放電特性を試験例1と同様にして調べた。その結果を図31に示す。
【0077】
実施例21
電極活物質である硫化亜鉛含有粒子の合成を行った。オクタン酸亜鉛0.70g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とオレイルアミン0.517gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中140℃で24時間熱処理した。続いて、温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。粉末X線回折分析より粒子は硫化亜鉛と同定し、熱重量分析より無機成分含有量72重量%、収率90%であった。また、電極活物質の平均粒子径は3〜5nmであった。得られた電極活物質について、粉末X線回折分析の結果を図32、熱重量分析の結果を図33、透過型電子顕微鏡像を図34にそれぞれ示す。
【0078】
実施例22
電極活物質である硫化亜鉛含有粒子の合成を行った。亜鉛ビス(ドデカンチオレート)錯体0.936g及びイオウ単体0.064g(両者のモル比1:1)とオレイルアミン1.93gとを配合して得られた出発原料を窒素ガス雰囲気中180℃で24時間熱処理した。続いて温メタノールで3回洗浄した後、トルエンを添加して3分間超音波で攪拌して分散させた。次いで、メタノールを加えた後、遠心分離により固液分離し、得られた固形分を真空乾燥することにより、電極活物質を得た。粉末X線回折分析より粒子は硫化亜鉛と同定し、熱重量分析より無機成分含有量74重量%、収率63%であった。また、電極活物質の平均粒子径は3〜5nmであった。得られた電極活物質について、粉末X線回折分析の結果を図35、熱重量分析の結果を図36、透過型電子顕微鏡像を図37にそれぞれ示す。
【0079】
試験例7
実施例22で得られた電極活物質を用いて実施例1と同様にして成形体を作製した。この成形体を作用極として用い、試験例1と同様にして図1に示すような電池を構成した。次に、構成された電池の充放電特性を試験例1と同様にして調べた。その結果を図38に示す。
【0080】
試験例8
マイクロメートルサイズの大きな硫化ニッケル粒子(II)を作用極として用い、実施例1と同様にして図1に示すような電池を構成した。次に、構成された電池の充放電特性を試験例1と同様にして調べた。その結果を図39に示す。初期放電容量は約320〜200mAh/g程度であった。これに対し、図2に示すように、NiS含有ナノ粒子を用いた実施例1の電池における初期放電容量は620〜550mAh/gと大きな値を示しており、優れた性能を発揮できることがわかる。すなわち、より微細な粒径を有するNiS含有ナノ粒子を用いる方がより高い充放電特性が得られることがわかる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属硫化物及び有機成分を含む粒子を電極活物質として含む二次電池用電極材料。
【請求項2】
前記粒子の平均粒子径が1〜500nmである、請求項1に記載の二次電池用電極材料。
【請求項3】
前記粒子が、a)金属有機化合物及びb)硫黄成分を含む出発原料を熱処理して得られるものである、請求項1又は2に記載の二次電池用電極材料。
【請求項4】
前記粒子が、硫化鉄、硫化コバルト、硫化ニッケル、硫化銅、硫化亜鉛、硫化カドミウム、硫化インジウム及び硫化スズの少なくとも1種と有機成分とを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の二次電池用電極材料。
【請求項5】
前記粒子、粒子状固体電解質及び導電助剤を含む混合物から構成される、請求項1〜4のいずれかに記載の二次電池用電極材料。
【請求項6】
全固体二次電池の電極に用いる、請求項1〜5のいずれかに記載の二次電池用電極材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の電極材料を含む電極を用いた二次電池。
【請求項8】
1)請求項1〜5のいずれかに記載の電極材料を含む電極、2)リチウム含有物質を含む電極、及び3)前記電極の間に接触して介在するリチウムイオン伝導性固体電解質を含む、全固体リチウム二次電池。
【請求項1】
金属硫化物及び有機成分を含む粒子を電極活物質として含む二次電池用電極材料。
【請求項2】
前記粒子の平均粒子径が1〜500nmである、請求項1に記載の二次電池用電極材料。
【請求項3】
前記粒子が、a)金属有機化合物及びb)硫黄成分を含む出発原料を熱処理して得られるものである、請求項1又は2に記載の二次電池用電極材料。
【請求項4】
前記粒子が、硫化鉄、硫化コバルト、硫化ニッケル、硫化銅、硫化亜鉛、硫化カドミウム、硫化インジウム及び硫化スズの少なくとも1種と有機成分とを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の二次電池用電極材料。
【請求項5】
前記粒子、粒子状固体電解質及び導電助剤を含む混合物から構成される、請求項1〜4のいずれかに記載の二次電池用電極材料。
【請求項6】
全固体二次電池の電極に用いる、請求項1〜5のいずれかに記載の二次電池用電極材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の電極材料を含む電極を用いた二次電池。
【請求項8】
1)請求項1〜5のいずれかに記載の電極材料を含む電極、2)リチウム含有物質を含む電極、及び3)前記電極の間に接触して介在するリチウムイオン伝導性固体電解質を含む、全固体リチウム二次電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【公開番号】特開2011−228289(P2011−228289A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70018(P2011−70018)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(508114454)地方独立行政法人 大阪市立工業研究所 (60)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(508114454)地方独立行政法人 大阪市立工業研究所 (60)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】
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