説明

二軸延伸ポリエステル多層フィルム及びその製造方法

【課題】 二軸延伸したポリグリコール酸フィルムと二軸延伸したポリ乳酸フィルムが直
接積層されてなる多層フィルム及び該多層フィルムを特定に延伸条件で製造する方法を提
供する。
【解決手段】 二軸延伸ポリグリコール酸フィルムの少なくとも片面に、二軸延伸ポリ乳
酸フィルムが直接積層されてなることを特徴とする二軸延伸ポリエステル多層フィルム。
この多層フィルムは、上記ポリグリコール酸とポリ乳酸を共押出しして特定の条件で延伸
することにより製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素バリア性に優れ、透明性、層間接着強度に優れ、更には低温ヒートシー
ル性をも備えた包装用フィルムを得るに適した生分解性を有する二軸延伸ポリエステル多
層フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムの廃棄処理を容易にする目的で生分解性のあるフィルムが注目さ
れ、各種フィルムが開発されて来ている。その生分解性フィルムは、土壌中や水中で加水
分解や生分解を受け、徐々にフィルムの崩壊や分解が進み、最終的には微生物の作用で無
害な分解物へと変化するものである。そのようなフィルムとして、芳香族系ポリエステル
樹脂やポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族系ポリエステル樹脂、ポリビニル
アルコール、酢酸セルロース、デンプン等から成形したフィルムが知られている。
【0003】
脂肪族系ポリエステル樹脂からなるフィルムの酸素バリア性を改良する方法の一つとし
て、ポリ乳酸等の熱可塑性樹脂フィルムに二軸延伸したポリグリコール酸フィルム層を積
層したガスバリアー性複合フィルムが提案されている(例えば、特許文献1)。かかる特
許文献1には、熱可塑性樹脂とポリグリコール酸及び接着性樹脂を共押出しして得た複合
シートを延伸ロール等によりMD方向に延伸し、必要に応じてテンター等によりTD方向
に延伸して複合フィルムを製造し得ることが開示されている。しかしながら、熱可塑性樹
脂としてポリ乳酸を用いた場合は、ポリ乳酸の延伸温度とポリグリコール酸の延伸温度が
異なることから、かかる方法で複合フィルムを得ようとしても困難であることが分った。
【0004】
【特許文献1】特開平10−80990号公報(特許請求の範囲、第8頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ポリ乳酸とポリグリコール酸とを用いて、共押出しして得た多層シートを二
軸延伸する方法を開発することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、二軸延伸ポリグリコール酸フィルムの少なくとも片面に、二軸延伸ポリ乳酸
フィルムが直接積層されてなることを特徴とする二軸延伸ポリエステル多層フィルムを提
供するものである。
【0007】
また、本発明は、二軸延伸ポリ乳酸フィルムの表面に、融点が55〜120℃の脂肪族
系ポリエステルフィルムが積層されてなる二軸延伸ポリエステル多層フィルムを提供する
ものである。
【0008】
さらに、本発明は、ポリグリコール酸及びポリ乳酸を共押出し成形して得られた多層シ
ートを、延伸ロールを用いて55〜70℃の温度で縦方向に少なくとも1.5倍延伸する
際に、多層シートの延伸点を加熱し、次いで、テンターを用いて60〜100℃の温度で
横方向に少なくとも1.5倍延伸することを特徴とする二軸延伸ポリエステル多層フィル
ムの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の二軸延伸ポリエステル多層フィルムは、酸素バリア性に優れるとともに、透明
性、層間接着強度にも優れている。また、二軸延伸ポリ乳酸フィルムの表面に、融点が8
0〜120℃の脂肪族系ポリエステルフィルムが積層されてなる二軸延伸ポリエステル多
層フィルムは、さらに低温ヒートシール性をも備えている。
本発明の二軸延伸ポリエステル多層フィルムの製造方法は、共押出し成形して得られた
多層シートを延伸することができるので、予め得られた二軸延伸ポリ乳酸フィルムと二軸
延伸ポリグリコール酸フィルムを、接着剤等を用いて貼り合せる方法に比べ、工程が簡略
化され、得られる二軸延伸ポリエステル多層フィルムも層間接着強度に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を構成する要件について説明する。
ポリグリコール酸
本発明に係るポリグリコール酸は、グリコール酸若しくはその誘導体を重合して得られ
る重合体(脂肪族ポリエステル)であって、下記式(1)
(−O−CH2 −CO−)・・・・・・・・・・(1)
で表される繰返し単位を有する重合体であり、通常、式(1)で表される繰返し単位を6
0重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上含む重
合体である。
本発明に係るポリグリコール酸の分子量(溶融粘度)は、フィルム形成能がある限りと
くに限定はされないが、通常、(Tm+20℃)の温度(すなわち、通常の溶融加工温度
に相当する温度)及び剪断速度100/秒において測定した溶融粘度η* が、500〜1
00,000Pa・s、より好ましくは700〜50,000Pa・s、さらに好ましく
は800〜20,000Pa・sの範囲にある。溶融粘度η* が500Pa・s未満の重
合体は、フィルムに溶融成形する際に溶融体がドローダウンしたり、Tダイから溶融押出
したフィルムが冷却中に変形して溶融加工が困難であったり、あるいは、得られたフィル
ムの強靭性が不十分となったりする虞がある。溶融粘度η* が100,000Pa・sを
超える重合体は、溶融加工に高い温度が必要となり、加工時にポリグリコール酸が熱劣化
を起こす虞がある。
本発明に係るポリグリコール酸は結晶性の重合体であり、通常、融点が150℃以上、
より好ましくは180〜225℃、さらに好ましくは210〜225℃の範囲にある。ま
た、融解熱量(ΔHm)は、通常、20J/g以上、より好ましくは30〜75J/g以
上、さらに好ましくは40〜75J/gの範囲にある。融点またはΔHmが低い重合体は
、ガスバリヤー性、耐熱性、機械的強度などが不十分となる虞がある。
【0011】
本発明に係るポリグリコール酸は、共重合成分として、例えば、シュウ酸エチレン(す
なわち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド、ラクトン類(例えば、β−
プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バ
レロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、トリメチレ
ンカーボネート及び1,3−ジオキサンなどの環状化合物;乳酸、3−ヒドロキシプロパ
ン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸な
どのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、トリメチ
レングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール等の脂肪族
または脂環式ジオール;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸また
はそのアルキルエステル等の1種または2種以上を含んでいてもよい。
ポリグリコール酸としてかかる共重合成分を含むことにより、ポリグリコール酸単独重
合体の融点を下げることができる。ポリグリコール酸の融点を下げることにより、成形温
度も下げることができるので、成形加工時の熱分解を低減することができる。また、共重
合によりポリグリコール酸の結晶化速度を制御して、押出加工性や延伸加工性を改良する
こともできる。
【0012】
本発明に係るポリグリコール酸は種々公知の方法で製造し得る。具体的な重合方法は、
例えば、特開平10−80990号公報、特開平11−116666号公報に記載されて
いる。
【0013】
ポリ乳酸
本発明に係るポリ乳酸は、乳酸の構造単位がL−乳酸であるポリ(L−乳酸)、構造単
位がD−乳酸であるポリ(D−乳酸)、更にはL−乳酸とD−乳酸の混合物(ラセミ体)
であるポリ(DL−乳酸)等の乳酸重合体及び乳酸を主成分とし、乳酸以外の共重合可能
なコモノマーを少割合、例えばグリコール酸50重量%未満、好ましくは30重量%以下
、より好ましくは10重量%以下の割合で共重合したコポリマー、あるいはこれらの混合
物等の乳酸を主成分とする重合体である。乳酸と共重合可能なコモノマーとしては、例え
ば3−ヒドロキシブチレート、カプロラクトン、グリコール酸などを挙げることができる

かかるポリ乳酸の重合法としては、縮重合法、開環重合法など公知のいずれの方法を採
用することができる。例えば、縮重合法ではL−乳酸またはD−乳酸あるいはこれらの混
合物を直接脱水縮重合して任意の組成を持ったポリ乳酸を得ることができる。
これらポリ乳酸の中でも、D−乳酸の含有量が5重量%未満、好ましくは3重量%未満
で、融点が150〜170℃、好ましくは160〜170℃の範囲のものが、得られるニ
軸延伸フィルムの透明性、剛性等が優れるので好ましい。
ポリ乳酸の分子量はフィルム形成性を有する限り、特に限定はされないが、通常、重量
平均分子量(Mw)は6万〜100万の範囲にある。重量平均分子量が6万未満のものは
得られる延伸フィルムの強度が劣る虞があり、一方、100万を越えるものは溶融粘度が
大きく成形加工性が劣る虞がある。
本発明に係るポリ乳酸のメルトフローレート(MFR:ASTM D−1238、19
0℃、荷重2160g)は、フィルム形成能がある限り特に限定はされないが、通常0.
1〜100g/10分、好ましくは0.2〜50g/10分、さらに好ましくは0.5〜
20g/10分の範囲にある。
【0014】
脂肪族系ポリエステル
本発明に係る脂肪族系ポリエステルは融点が55〜120℃、好ましくは70〜115
℃、さらに好ましくは80〜115℃の範囲の脂肪族系ポリエステルであり、例えば、脂
肪族または脂環式ジヒドロキシ化合物と脂肪族または脂環式ジカルボン酸若しくはその誘
導体及び必要に応じて脂肪族ヒドロキシカルボン酸若しくはその誘導体またはラクトン類
を縮合重合して得られる脂肪族ポリエステル、ラクトン類を縮合重合して得られるポリラ
クトン系脂肪族ポリエステル等が挙げられる。これら脂肪族系ポリエステルは単独でも、
二種以上の組成の異なる脂肪族系ポリエステルからなる組成物として用いてもよい。とく
に、後述のポリラクトン系脂肪族ポリエステルは融点が通常55〜75℃と他の脂肪族系
ポリエステルに比べ低融点であるので、融点が75〜120℃の範囲にある脂肪族ポリエ
ステルと混合して用いることが好ましい。
本発明に係る脂肪族系ポリエステルのメルトフローレート(MFR:ASTM D−1
238、190℃、荷重2160g)は、フィルム形成能がある限り特に限定はされない
が、通常0.1〜100g/10分、好ましくは0.2〜50g/10分、さらに好まし
くは0.5〜20g/10分の範囲にある。
【0015】
本発明に係る脂肪族系ポリエステルの成分として用いられる脂肪族または脂環式ジヒド
ロキシ化合物の代表的な例としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、
1,4−ブタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチル
グリコール)、シクロペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シ
クロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキ
サンジメタノール等が挙げられる。
脂肪族または脂環式ジカルボン酸若しくはその誘導体の代表的な例としては、シュウ酸
、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン
酸、フマル酸、2,2−ジメチルグルタル酸及びスベリン酸等のジカルボン酸、かかるジ
カルボン酸のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジ−n−プロピルエステル、ジ−イ
ソプロピルエステル、ジ−n−ブチルエステル、ジ−イソブチルエステル、ジ−t−ブチ
ルエステル、ジ−n−ペンチルエステル、ジ−イソペンチルエステルまたはジ−n−ヘキ
シルエステル等のエステル形成誘導体等が挙げられる。
脂肪族ヒドロキシカルボン酸若しくはその誘導体の代表的な例としては、グリコール酸
グリコール酸、L−乳酸、D−乳酸、D,L−乳酸、2−メチル乳酸、3−ヒドロキシ酪
酸、4−ヒドロキシ酪酸及びヒドロキシピバリン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸、か
かる脂肪族ヒドロキシカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル
、ブチルエステル、シクロヘキシルエステル等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸エステル形
成誘導体等が挙げられる。
ラクトン類としては、ε―カプロラクトン、δ―バレロラクトン、γ―ブチロラクトン
及びβ―メチル−δ―バレロラクトン等が挙げられる。
脂肪族系ポリエステルの具体例としては、ポリ1,4−ブタンジオール・コハク酸エス
テル、ポリ1,4−ブタンジオール・コハク酸・アジピン酸エステル、ポリ1,4−ブタ
ンジオール・コハク酸・乳酸エステル、ポリ1,4−ブタンジオール・コハク酸・アジピ
ン酸・乳酸エステル及びポリ1,4−ブタンジオール・コハク酸・ε―カプロラクトンエ
ステル等が挙げられる。
これら脂肪族系ポリエステルの中でも、ポリ1,4−ブタンジオール・コハク酸・アジ
ピン酸エステル、ポリ1,4−ブタンジオール・コハク酸・乳酸エステル、ポリ1,4−
ブタンジオール・コハク酸・アジピン酸・乳酸エステル及びポリ1,4−ブタンジオール
・コハク酸・ε―カプロラクトンエステル等の三元共重合ポリエステルが、融点が85〜
115℃の範囲にあり、低温ヒートシール性に優れるので好ましい。
【0016】
ポリラクトン系脂肪族ポリエステル
本発明に係るポリラクトン系脂肪族ポリエステルの具体例としては、ポリε―カプロラ
クトンが挙げられる。
【0017】
本発明に係る前記ポリグリコール酸、ポリ乳酸及び脂肪族系ポリエステルには、耐熱安
定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、スリップ剤、核剤、ブロッキング防止剤、帯電
防止剤、防曇剤、顔料、染料、無機または有機の充填剤等の通常熱可塑性樹脂に用いる各
種添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加しておいてもよい。
【0018】
二軸延伸ポリエステル多層フィルム
本発明の二軸延伸ポリエステル多層フィルムは、前記ポリグリコール酸からなる二軸延
伸フィルムの少なくとも片面、好ましくは両面に、二軸延伸ポリ乳酸フィルムが直接積層
されてなる二軸延伸ポリエステル多層フィルムである。
また、本発明の二軸延伸ポリエステル多層フィルムは、前記ポリグリコール酸からなる
二軸延伸フィルムの少なくとも片面、好ましくは両面に、二軸延伸ポリ乳酸フィルムが直
接積層され、さらに該二軸延伸ポリ乳酸フィルム上に前記融点が55〜120℃の脂肪族
系ポリエステルフィルムが積層されてなる二軸延伸ポリエステル多層フィルムである。
本発明の二軸延伸ポリエステル多層フィルムの厚さは用途に応じて適宜決められるもの
であり、特に限定はされないが、通常、二軸延伸ポリグリコール酸フィルムが2〜20μ
m、好ましくは2〜15μm、二軸延伸ポリ乳酸フィルムが5〜50μm、好ましくは5
〜20μmの範囲にあり、脂肪族系ポリエステルフィルムが積層されている場合は、1〜
20μm、好ましくは1〜10μmの範囲にある。
【0019】
本発明の二軸延伸ポリエステル多層フィルムは必要に応じて片面あるいは両面をコロナ
処理、火炎処理等の表面処理をしてもよい。また、本発明の二軸延伸ポリエステル多層フ
ィルムは更に用途により、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、結晶性
あるいは低結晶性のエチレンと炭素数3〜10のα−オレフィンとのランダム共重合体あ
るいはプロピレンとエチレンもしくは炭素数4以上のα−オレフィンとのランダム共重合
体、ポリブテン、エチレン・酢酸ビニル共重合体等の低融点のポリマーを単独あるいはそ
れらの組成物を積層してもよい。また、更に、ガスバリア性を改良するために、エチレン
・ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリエステル、塩化ビニリデン系重合体等を
押出しコーティング、フィルムラミネート等で積層してもよいし、金属あるいはその酸化
物、シリカ等を蒸着してもよい。勿論、他の物質との接着性を向上させるために、延伸フ
ィルムの表面をイミン、ウレタン等の接着剤でアンカー処理してもよいし、無水マレイン
酸変性ポリオレフィンを積層してもよい。
【0020】
二軸延伸ポリエステル多層フィルムの製造方法
本発明の二軸延伸ポリエステル多層フィルムは、前記ポリグリコール酸、ポリ乳酸及び
必要に応じて脂肪族系ポリエステルを共押出し成形して得られた多層シートを、延伸ロー
ルを用いて55〜70℃、好ましくは60〜70℃の温度で縦方向に少なくとも1.5倍
、好ましくは2〜4倍延伸する際に、多層シートの延伸点を加熱し、次いで、テンターを
用いて60〜100℃、70〜90℃の温度で横方向に少なくとも1.5倍、好ましくは
2〜10倍延伸することにより製造することが出来る。
共押出し成形して得られた多層シートを縦方向に延伸する際の延伸温度が55℃未満で
は多層シートが均一に延伸されず、横方向に延伸する際にポリグリコール酸層が割れ、良
好な二軸延伸ポリエステル積層フィルムを得ることができない虞がある。縦方向の延伸温
度は70℃を超えても多層シートは均一に延伸できるが、70℃を超えて延伸した多層フ
ィルムは縦方向に延伸した際にポリグリコール酸が結晶化して、横方向に延伸する際に結
晶したポリグリコール酸層が割れ、均一な横延伸が行えなくなる虞がある。
本発明の二軸延伸ポリエステル多層フィルムの製造方法において最も重要な点は、共押
出し成形して得られた多層シートを縦方向に延伸する際に、多層シートの延伸点を加熱す
るところにある。多層シートを延伸する際に、縦延伸する際に、延伸ロールの温度を上記
範囲に調節しても、多層シートの延伸点を加熱を行わない場合は、多層シートが均一に延
伸されず、多層シートが白化し外観が悪くなり、横方向に延伸する際に多層シートが破断
してしまう虞がある。
延伸点を加熱するには、補助加熱手段、例えば、抵抗加熱、熱風加熱、誘導加熱、赤外
線加熱等の加熱手段を用いることができる。これら補助加熱手段としては、赤外線、とく
に遠赤外線が、本発明に係るポリ乳酸、ポリグリコール酸等の高分子化合物を、効率よく
、しかも瞬時に加熱することができるので、最も好ましい。
多層シートを縦延伸する際に、延伸ロールの温度を上記範囲に調節しても、多層シート
の延伸点を赤外線等で加熱を行わない場合は、多層シートが縦方向に均一に延伸されず、
また、フィルムが白化し外観も悪くなり、横方向に延伸する際に多層シートが破断してし
まう虞がある。
縦延伸した多層シートを横延伸する際に、横延伸の温度が70℃未満では、多層シート
が破断、もしくは、テンターのチャックから外れてしまい場合があり、均一な横延伸が行
えない虞がある。一方、横延伸の温度が100℃を超えると、ポリグリコール酸の結晶化
が進み均一な横延伸が行えなくなる。
<実施例>
【0021】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限
りこれらの実施例に制約されるものではない。
【0022】
実施例及び比較例における物性値等は、以下の評価方法により求めた。
<評価方法>
(1)引張特性:
二軸延伸ポリエステル多層フィルムからMD方向及びTD方向に短冊状の試験片(長さ
150mm、幅15mm)を採取して、チャック間距離100mmで(引張り試験機の名
称)を用いて引張り試験を行い、破断点における強度(応力)(MPa)、伸び(%)及
びヤング率(MPa)を求めた。なお、伸び(%)はチャック間距離の変化とした。
(2)酸素透過度:
モコン社製 OX−TRAN2/20を用い、JIS K 7126に準じ、温度20
℃、湿度80%RHの条件で測定した。
(3)加熱収縮率:
二軸延伸ポリエステル多層フィルムから長さ:120mm、幅:15mmのサンプルを
切出し、100mm間隔で標線を記入した。次いで、当該フィルムを所定の温度(80℃
、100℃、120℃)に設定したオーブン中に15分間放置した後、取り出し,室温に
15分以上放置した後、標線間の長さ(L:mm)を測定した。〔(100−L)/10
0〕×100(%)の値を、加熱収縮率(%)とした。
(4)融解特性:
JIS K7121及びK7122に準拠し、DSC(示差走査熱量計)を用い以下の
条件で求めた。
試料約5mgを精秤し、アルミパンに詰め、DSCとして、TAインスツルメント社製
Q100を用い、50ml/分の窒素雰囲気下、20℃から10℃/分の速度で250℃
まで昇温し、一旦融解させた後、250℃に10分間維持し、10℃/分の速度で20℃
まで降温して結晶化させた後、10℃に5分間維持した後、再度10℃/分の速度で25
0℃まで昇温して熱融解曲線を得、得られた熱融解曲線から試料の融解熱量及び融点(吸
熱ピーク温度)を求めた。
(5)ヒートシール試験:
二軸延伸ポリエステル多層フィルムを重ね合わせた後に、厚さ12μmの二軸延伸ポリ
エチレンテレフタレートフィルム(東レ社製 商品名「ルミラー12μ」)で挟み、テス
ター産業株式会社製TP−701−B HEATSEALTESTERを用いて、所定の
温度で、シール面圧1kg/cm2 、時間0.5秒の条件下で熱融着した。尚、加熱は上
側のみとした。次いで、熱融着した二軸延伸ポリエステル多層フィルムをオリエンテック
社製テンシロン万能試験機 RTC―1225を用いて幅15mmの熱融着したサンプル
を300mm/分の引張り速度で剥離し、その最大強度を熱融着強度とした。
【0023】
実施例及び比較例で用いた重合体を以下に示す。
(1)ポリグリコール酸(PGA):
溶融粘度η* ;1,000〜1,500Pa ・sec 、融点;220℃、融解熱量;64
J/g。
(2)ポリ乳酸(PLA):
ポリ乳酸(三井化学株式会社販売 商品名:「レイシア H100E」),ガラス転移
温度:56℃、融点:164℃、MFR:10g/10分。
(3)脂肪族系ポリエステル(PBSL):
1,4−ブタンジオール・コハク酸・乳酸共重合体(三菱化学株式会社製、商品名:「
Gs Pla AZ91T」)乳酸含有量:2モル%、融点:112℃、MFR:4.5
g/10分。
(4)ポリ乳酸共重合体(PLAC):
D−乳酸含有量:12.6重量%、比重:1.3、Tg:56.9℃、MFR(温度1
90℃、荷重2160g):2.6g/10分。
【0024】
実施例1
<多層シートの製造>
先端にT−ダイを具備した40mmφの三種三層1軸押出機を用い、PLA/PGA/
PLAを70/70/70/の厚み比率で押出し、30℃のキャスティングロールで急冷
し、厚さ210μmの三層の多層シートを得た。
PLA,PGAの押出温度はそれぞれ230℃、270℃とした。
<二軸延伸ポリエステル多層フィルムの製造>
得られた多層シートを60℃に加熱した延伸ロールを用い、縦方向に3倍延伸した。な
お、縦延伸する際に、低速ロールと高速ロール間に設置した赤外線ヒーター(W.C.H
eraeus社製:2400W/200V)を用いて積層シートの延伸点を加熱した。つ
いで、縦延伸した積層シートをテンター式の横延伸装置により、横方向に80℃で3.5
倍延伸し、3秒間、160℃で熱固定して巻き取り、二軸延伸ポリエステル多層フィルム
を得た。
得られた二軸延伸ポリエステル多層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0025】
実施例2
<脂肪族ポリエステル組成物の製造>
脂肪族ポリエステル組成物としてPLACとPBSLとを10:90(重量%)の比で
計量し、平均粒径3μmのシリカ(商品名「サイリシア730」富士シリシア化学( 株)
製)を0.1重量部加え、40mmφの1軸押出機を用いて180℃で溶融混練して脂肪
族ポリエステル組成物(APES)を用意した。
<多層シートの製造>
先端にT−ダイを具備した40mmφの三種五層1軸押出機を用い、APES/PLA
/PGA/PLA/APESを50/50/50/50/50の厚み比率で押出し、30
℃のキャスティングロールで急冷し、厚さ250μmの五層の多層シートを得た。なお、
PLA、PGA及びAPESの押出温度は、それぞれ230℃、270℃、230℃とし
た。
<二延伸ポリエステル多層フィルムの製造>
得られた五層の多層シートを実施例1と同様に、縦方向及び横方向に延伸して二軸延伸
ポリエステル多層フィルムを得た。
得られた二軸延伸ポリエステル多層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0026】
実施例3
実施例2で用いた脂肪族ポリエステル組成物(APES)に代えて、PBSLを単独で
用いる以外は、同様に行った。
得られた二軸延伸ポリエステル多層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0027】
比較例1
実施例1で得られた多層シートを、延伸ロールを用いて縦方向に延伸する際に赤外線ヒ
ーターによる加熱を行わなかったところ、縦延伸時に多層シートが白化し、均一な延伸が
行えなかった。
【0028】
比較例2
実施例1で得られた多層シートを、延伸ロールを用いて縦方向に延伸する際に、延伸温
度(ロール温度)を80℃にして延伸を行い、次いで、横延伸を行ったところ、PGA層
がひび割れ、均一な延伸ができなかった。
【0029】
参考例1
<無延伸シートの製造>
先端にT−ダイを具備した40mmφの1軸押出機を用い、PLAを押出し、30℃の
キャスティングロールで急冷し、厚さ210μmの無延伸シートを得た。
PLAの押出温度は230℃とした。
<二軸延伸フィルムの製造>
得られた無延伸シートを60℃に加熱したロールに導き、縦方向に3倍にロール延伸を
行った。そのロール間に赤外線を設置し間接的に加熱を行った。この縦延伸シートをテン
ター式の横延伸装置により横方向に80℃で3.5倍に延伸し3秒間160℃で熱固定し
巻き取り、二軸延伸フィルムを得た。
得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の二軸延伸ポリグリコール酸フィルムの少なくとも片面に、二軸延伸ポリ乳酸フ
ィルムが直接積層されてなる二軸延伸多層フィルムは、酸素バリア性に優れ、透明性、層
間接着強度、剛性,柔軟性及び収縮性を有するので、食品、医薬品をはじめ、種々の被包
装物の包装用フィルムとして好適に用い得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸延伸ポリグリコール酸フィルムの少なくとも片面に、二軸延伸ポリ乳酸フィルムが
直接積層されてなることを特徴とする二軸延伸ポリエステル多層フィルム。
【請求項2】
二軸延伸ポリグリコール酸フィルムの両面に、二軸延伸ポリ乳酸フィルムが直接積層さ
れてなる請求項1記載の二軸延伸ポリエステル多層フィルム。
【請求項3】
二軸延伸ポリ乳酸フィルムの表面に、融点が55〜120℃の脂肪族系ポリエステルフ
ィルムが積層されてなる請求項1または2に記載の二軸延伸ポリエステル多層フィルム。
【請求項4】
二軸延伸ポリグリコール酸フィルムと二軸延伸ポリ乳酸フィルムとが、共押出し成形法
により得られた多層シートを二軸延伸してなる請求項1若しくは2に記載の二軸延伸ポリ
エステル多層フィルム。
【請求項5】
二軸延伸ポリグリコール酸フィルム、二軸延伸ポリ乳酸フィルム及び脂肪族系ポリエス
テルフィルムとが、共押出し成形法により得られた多層シートを二軸延伸してなる請求項
3記載の二軸延伸ポリエステル多層フィルム。
【請求項6】
ポリグリコール酸及びポリ乳酸を共押出し成形して得られた多層シートを、延伸ロール
を用いて55〜70℃の温度で縦方向に少なくとも1.5倍延伸する際に、多層シートの
延伸点を加熱し、次いで、テンターを用いて60〜100℃の温度で横方向に少なくとも
1.5倍延伸することを特徴とする二軸延伸ポリエステル多層フィルムの製造方法。
【請求項7】
多層シートがポリグリコール酸、ポリ乳酸及び融点が55〜120℃の脂肪族系ポリエ
ステルからなる請求項6記載の二軸延伸ポリエステル多層フィルムの製造方法。
【請求項8】
延伸点の加熱を赤外線により行う請求項6記載の二軸延伸ポリエステル多層フィルムの
製造方法。

【公開番号】特開2006−130847(P2006−130847A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324270(P2004−324270)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000220099)東セロ株式会社 (177)
【Fターム(参考)】