説明

二軸配向積層フィルム

【課題】寸法安定性に優れ、層間の耐剥離性にも優れた、磁気記録媒体、特にデジタルデータストレージなどのベースフィルムに適した二軸配向積層フィルムの提供。
【解決手段】フィルム層AとBとを全層数で少なくとも4層積層した、芳香族ポリエステル(a)と極性基を持たないポリオレフィン(b)および、エポキシ基含有共重合ポリオレフィン(c)、無水マレイン酸共重合ポリオレフィン(d)とからなる積層フィルムであって、フィルム層Aは芳香族ポリエステル(a)の割合が80重量%以上で極性基を持たないポリオレフィン(b)の割合が5重量%未満、フィルム層Bは極性基を持たないポリオレフィン(b)の割合が80重量%以上で芳香族ポリエステル(a)の割合が5重量%未満、そして、フィルム層AおよびBのいずれかは、フィルム層の重量を基準として、ポリオレフィン(c)およびポリオレフィン(d)をそれぞれ2〜18重量%の範囲で含有する二軸配向積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸配向積層フィルムに関し、さらに詳しくは、寸法安定性に優れた磁気記録媒体用、特にデジタルデータストレージテープ用に適した二軸配向積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは優れた熱、機械特性を有することから磁気記録媒体用など広い分野で用いられている。磁気記録媒体、特にデータストレージ用磁気記録媒体においては、テープの高容量化、高密度化が進み、それに伴ってベースフィルムへの特性要求も厳しいものとなっている。QIC、DLT、さらに高容量のスーパーDLT、LTOのごとき、リニアトラック方式を採用するデータストレージ用磁気記録媒体では、テープの高容量化を実現するために、トラックピッチを非常に狭くしており、そのためテープ幅方向の寸法変化が起こると、トラックずれを引き起こし、エラーが発生するという問題をかかえている。これらの寸法変化には、温湿度変化によるもの、走行時にかかる張力の変化によるもの、高張力で巻き取られた状態で保管中に生じる経時変化によるものとがある。この寸法変化が大きいと、トラックずれを引き起こし、電磁変換時のエラーが発生する。なお、説明の便宜上、フィルムの製膜方向を、MD方向、縦方向または長手方向と称し、製膜方向に直交する面内方向を、TD方向、横方向または幅方向と称することがある。
【0003】
このような寸法変化を解決するために、特開平5−212787号公報には、縦方向のヤング率(EM)および横方向のヤング率(ET)がそれぞれ550kg/mm以上および700kg/mm以上であり、両ヤング率の比(ET/EM)が1.1〜2.0であり、70℃で相対湿度が65%の状態に無荷重下で1時間保持したときの縦方向の収縮率が0.02%以下であり、縦方向の温度膨張係数(αt)が10×10−6/℃以下であり、そして縦方向の湿度膨張係数(αh)が15×10−6/%RH以下である二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートフィルムが開示されている。また、国際公開第99/29488号パンフレットには、横方向の温度膨張係数αt(×10−6/℃)、横方向の湿度膨張係数αh(×10−6/%RH)および縦方向に荷重を負荷したとき該荷重に対する横方向の収縮率P(ppm/g)とを特定の範囲にした二軸配向ポリエステルフィルムが開示されている。さらにまた、国際公開第00/76749号パンフレットには、縦方向に荷重を負荷して放置したときの幅方向の寸法変化、幅方向の温度膨張係数αt(×10−6/℃)、幅方向の湿度膨張係数αh(×10−6/%RH)および縦方向に荷重を負荷したとき該荷重に対する幅方向の収縮率P(ppm/g)とを特定の範囲にした二軸配向ポリエステルフィルムが開示されている。
【0004】
しかしながら、これらの公報で提案されている方法は、延伸条件やその後の熱固定処理条件を特定の範囲にすることで達成するものであり、例えば、縦方向に荷重をかけたときの幅方向の経時収縮は、ベースフィルムの縦方向ヤング率を大きくすることで改善することができるが、他方ではポリマー特性と製膜性の点から、縦方向のヤング率を大きくすればする程、横方向のヤング率の上限は小さくなり、結果として、温湿度変化による寸法変化が大きくなってしまうなど、根本的な解決には至っていなかった。
【0005】
ところで、特許文献4には、シンジオタクチックポリスチレンなどのポリオレフィンを積層することで湿度膨張係数を低減できることが提案されている。しかしながら、これらの積層フィルムは、シンジオタクチックポリスチレンとポリエステルとの親和性の乏しさから、層間で剥離しやすく、磁気記録媒体に加工する工程での取り扱い性の悪化、長期使用に対する耐久性の不足といった問題があり、改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−212787号公報
【特許文献2】国際公開第99/29488号パンフレット
【特許文献3】国際公開第00/76749号パンフレット
【特許文献4】特開2005−327411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、寸法安定性に優れ、しかも層間の耐剥離性にも優れた、磁気記録媒体、特にデジタルデータストレージなどに用いられるベースフィルムに適した二軸配向積層フィルムの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、従来のポリエステルフィルムを、芳香族ポリエステルを主成分とする層と極性基を持たないポリオレフィンを主成分とする層を4層以上積層し、さらにエポキシ基含有共重合ポリオレフィンおよび無水マレイン酸共重合ポリオレフィンを含有させた二軸配向積層フィルムとすることで、力学的特性を維持しつつ、湿度変化に対する寸法変化が縮小され、しかも層間の耐剥離性も向上された磁気記録媒体に適した二軸配向フィルムが得られることを見出し、本発明に至った。
【0009】
かくして本発明によれば、フィルム層AとBとを全層数で少なくとも4層積層した、芳香族ポリエステル(a)と極性基を持たないポリオレフィン(b)とからなる積層フィルムであって、
フィルム層Aは芳香族ポリエステル(a)の割合が80重量%以上で極性基を持たないポリオレフィン(b)の割合が5重量%未満であり、
フィルム層Bは極性基を持たないポリオレフィン(b)の割合が80重量%以上で芳香族ポリエステル(a)の割合が5重量%未満であり、そして
フィルム層AおよびBの少なくともいずれかの層は、エポキシ基含有共重合ポリオレフィン(c)と無水マレイン酸共重合ポリオレフィン(d)を、フィルム層の重量を基準としてそれぞれ2〜18重量%の範囲で含有する二軸配向積層フィルムが提供される。
【0010】
また、本発明によれば、本発明の好ましい態様として、芳香族ポリエステル(a)がエチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とする芳香族ポリエステルであること、ポリオレフィン(b)がシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体であること、ポリオレフィン(c)がエポキシ基含有共重合ポリスチレンであり、ポリオレフィン(d)が無水マレイン酸共重合ポリスチレンであること、フィルム厚みが2〜10μmの範囲にあること、磁気記録媒体のベースフィルムとして用いることの少なくともいずれかひとつを具備する二軸配向積層フィルムも提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、芳香族ポリエステル(a)を主成分とするフィルム層Aと、極性基を持たないポリオレフィン(b)を主成分とするフィルム層Bとが、4層以上積層された多層積層フィルムであることから、従来のポリエステルフィルムに比べ、ヤング率などに基づく寸法安定性は維持しつつ、湿度変化に対する寸法変化を小さくすることができ、さらに、エポキシ基含有共重合ポリオレフィン(c)と無水マレイン酸共重合ポリオレフィン(d)をともに含有することにより、このポリオレフィン(c)、(d)がそれぞれの相溶化剤としての機能をより高める効果を発現し、層間の耐剥離性も向上した、磁気記録媒体のベースフィルムに好適な二軸配向積層フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明の二軸配向積層フィルムは、後述の芳香族ポリエステル(以下、芳香族ポリエステル(a)と称することがある。)を主成分とするフィルム層Aと、後述の極性基を持たないポリオレフィン(以下、ポリオレフィン(b)と称することがある。)を主成分とするフィルム層Bとが全層数で4層以上積層され、さらに、エポキシ基含有共重合ポリオレフィン(以下、ポリオレフィン(c)と称することがある。)および無水マレイン酸共重合ポリオレフィン(以下、ポリオレフィン(d)と称することがある。)を少なくとも一方の層に含有する多層積層フィルムである。フィルム層Aとフィルム層Bとの層数の和(以下、全層数)が下限以上あることにより、このような異質の樹脂からなるフィルム層であっても、層間の剥離などによる工程悪化を惹起することなく製膜することができる。好ましい全層数は、8層以上、さらに16層以上、特に32層以上であり、上限は特に制限されないが、工程の煩雑化を防ぐ観点から500層、好ましくは250層である。フィルム層Aとフィルム層Bの積層構成は特に制限されないが、通常は交互に積層される。
【0013】
ところで、本発明の二軸配向積層フィルムは、積層フィルムの厚みに対して、フィルム層Aの厚みの合計が5〜95%およびフィルム層Bの厚みの合計が5〜95%の範囲にあることが好ましい。フィルム層Aの厚みの合計が上限を超えるか、フィルム層Bの厚みの合計が下限を下回ると、目的とする湿度変化に対する寸法安定性向上効果が乏しくなりやすく、一方、フィルム層Aの厚みの合計が下限を下回るか、フィルム層Bの厚みの合計が上限を越えると、得られる二軸配向積層フィルムが力学的特性の乏しいものになりやすい。好ましいフィルム層Aの厚みの合計は、7〜93%、さらに10〜90%、特に50〜85%である。また、好ましいフィルム層Bの厚みの合計は、7〜93%、さらに10〜90%、特に15〜50%である。
【0014】
<フィルム層A>
本発明において、フィルム層Aは芳香族ポリエステル(a)の割合が80重量%以上であり、ポリオレフィン(b)の割合が5重量%未満である。さらに、フィルム層Aにポリオレフィン(c)およびポリオレフィン(d)を含有する場合には、ポリオレフィン(c)および(d)の割合は、フィルム層Aの重量を基準として、それぞれ2〜18重量%、さらに5〜15重量%の範囲である。本発明の目的を阻害しない範囲、例えば10重量%以下、好ましくは5重量%以下の範囲で、その他の樹脂を混合または共重合したものであっても良い。
【0015】
芳香族ポリエステル(a)の割合が下限以上であることで、芳香族ポリエステルの持つ優れた力学的特性が維持される、また、異種のポリマー相の存在による表面平滑性の悪化を抑制するといった効果がある。また、ポリオレフィン(b)の割合が上限以下であることで、同様に力学的特性が維持されたり、表面平滑性の悪化を抑制するといった効果があり、そのような観点からはポリオレフィン(b)はフィルム層Aに含まれないことが好ましい。
【0016】
<フィルム層B>
本発明において、フィルム層Bはポリオレフィン(b)の割合が80重量%以上であり、芳香族ポリエステル(a)の割合が5重量%未満である。さらに、フィルム層Bにポリオレフィン(c)およびポリオレフィン(d)を含有する場合には、ポリオレフィン(c)および(d)の割合は、フィルム層Bの重量を基準として、それぞれ2〜18重量%、さらに5〜15重量%の範囲である。本発明の目的を阻害しない範囲、例えば10重量%以下、好ましくは5重量%以下の範囲で、その他の樹脂を混合または共重合したものであっても良い。
【0017】
ポリオレフィン(b)の割合が下限以上であることで、ポリオレフィンの持つ湿度変化に対する優れた寸法安定性が維持され、また、異種のポリマー相の存在による表面平滑性の悪化を抑制するといった効果がある。また、芳香族ポリエステル(a)の割合が上限以下であることで、同様に湿度変化に対する優れた寸法安定性が維持されたり、表面平滑性の悪化を抑制するといった効果があり、そのような観点からは芳香族ポリエステル(a)はフィルム層Bに含まれないことが好ましい。
【0018】
ところで、ポリオレフィン(c)およびポリオレフィン(d)の割合が、フィルム層AおよびBともに、下限未満であると、フィルム層AとBの剥離が生じやすくなり、他方上限を超えると、力学的特性や湿度変化に対する寸法安定性の低下、表面平滑性の悪化といった不具合が生じやすくなる。特にフィルム層AとBの親和性を高めつつ、力学的特性と湿度変化に対する寸法安定性を同時に優れたものにするといった観点からは、フィルム層AおよびBがともに、ポリオレフィン(c)およびポリオレフィン(d)を、それぞれのフィルム層の重量を基準として、それぞれ2〜18重量%、さらに5〜15重量%の範囲で含有することが好ましい。
【0019】
また、ポリオレフィン(c)とポリオレフィン(d)とは、耐剥離性をより効率的に向上させやすいことから、その重量比(ポリオレフィン(c)/ポリオレフィン(d))が1/5〜5/1、さらに1/4〜4/1、特に1/3〜3/1の範囲にあることが好ましい。
【0020】
<芳香族ポリエステル(a)>
本発明における芳香族ポリエステル(a)は、ジオールと芳香族ジカルボン酸との重縮合によって得られるポリマーである。かかる芳香族ジカルボン酸として、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸が挙げられ、またジオールとして、例えばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオールが挙げられる。これらの中でも、力学特性の観点から、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが好ましく、特にポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが好ましい。
【0021】
本発明における芳香族ポリエステル(a)は、単独でも他のポリエステルとの共重合体、2種以上の芳香族ポリエステルからなる混合体のいずれであってもかまわないが、力学特性の観点からは、単独の方が好ましい。共重合成分としては、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール等のジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸成分が挙げられる。
【0022】
本発明における芳香族ポリエステル(a)の固有粘度は、o−クロロフェノール中、35℃において、0.40以上であることが好ましく、0.40〜0.80であることがさらに好ましい。固有粘度が0.4未満ではフィルム製膜時に切断が多発したり、成形加工後の製品の強度が不足することがある。一方固有粘度が0.8を超える場合は重合時の生産性が低下する。
【0023】
本発明における芳香族ポリエステル(a)の融点は、200〜300℃であることが好ましく、更には260〜290℃であることが好ましい。融点が下限に満たないとポリエステルフィルムの耐熱性が不十分な場合がある。また融点が上限を超える場合はフィルム層Bとの積層が難しくなることがある。
【0024】
<ポリオレフィン(b)>
本発明における極性基を持たないポリオレフィン(b)としては、ポリ−3−メチルブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリビニル−t−ブタン、1,4−トランス−ポリ−2,3−ジメチルブタジエン、ポリビニルシクロヘキサン、ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリジメチルスチレン、ポリブチルスチレン、ポリシクロオレフィンなどが挙げられる。これらの中でも、耐熱性および力学特性の点から、シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体(以下、シンジオタクチックスチレン系重合体と称することがある。)が好ましい。
【0025】
本発明におけるシンジオタクチックスチレン系重合体は、立体化学構造がシンジオタクチック構造を有するポリスチレンであり、核磁気共鳴法(13C−NMR法)により測定されるタクティシティーが、ダイアッド(構成単位が2個)で75%以上、好ましくは85%以上、ペンタッド(構成単位が5個)で30%以上、好ましくは50%以上である。
【0026】
かかるシンジオタクチックスチレン系重合体としては、ポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)として、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(プロピルスチレン)、ポリ(ブチルスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)が挙げられ、これらのうち、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(m−メチルスチレン)、ポリ(p−ターシャリーブチルスチレン)が好ましく例示される。
【0027】
本発明におけるシンジオタクチックスチレン系重合体は、単独であっても、2種以上併用したものであっても良い。
また、本発明におけるシンジオタクチックスチレン系重合体は、重量平均分子量が10,000以上、さらに50,000以上であることが好ましい。重量平均分子量が下限に満たない場合、耐熱性や機械特性が不十分である。一方、重量平均分子量の上限は500,000以下であることが好ましい。かかる上限を超える場合、製膜性に乏しくなる場合がある。
また、ポリシクロオレフィンとしては、ノルボルネン系のポリシクロオレフィンが好ましく挙げられ、具体的には日本ゼオン株式会社製の商品名「ZEONEX」や商品名「ZEONOR」、またJSR株式会社製の商品名「ARTON」などが挙げられる。
【0028】
本発明におけるポリオレフィン(b)は、必ずしも単一化合物である必要はなく、2種以上のポリオレフィンの混合体であってもかまわない。
本発明におけるポリオレフィン(b)の融点は、230℃〜280℃であることが好ましく、更には240〜275℃であることが好ましい。融点が下限に満たないと得られる二軸配向積層フィルムの耐熱性が不十分な場合がある。また融点が上限を超える場合はフィルム層Aとの積層が難しくなることがある。また、ポリシクロオレフィンなど融点を持たない非晶質である場合は、ガラス転移温度が110〜180℃の範囲にあることが好ましい。
【0029】
<ポリオレフィン(c)>
本発明における、エポキシ基含有共重合ポリオレフィン(c)は、芳香族ポリエステル(a)と極性基を持たないポリオレフィン(b)の相溶化剤としての効果を発現する樹脂であり、後述のポリオレフィン(d)と共存することによりさらに相溶化剤としての効果を高めることができるものである。具体的なポリオレフィン(c)としては、エポキシ基が導入されたポリオレフィンであれば特に限定されないが、エポキシ基の部分としては、グリシジルメタクリレートが好適に挙げられ、オレフィン成分の部分としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンが挙げられ、特にポリスチレンが好ましい。また、相溶化剤としての機能を阻害しない範囲で、他の単量体成分が共重合されていても良い。共重合体の構造は特に限定されず、ランダム共重合であっても、ブロック共重合やグラフト共重合であっても良い。特に好ましいポリオレフィン(c)としては、グリシジルメタクリレート共重合ポリスチレンが挙げられ、例えば、日油株式会社からは「モディパーA4100」や「モディパーA4400」、東亜合成株式会社からは「ARUFON UG4035」、「ARUFON UG4040」、「ARUFON UG4070」などとして入手できる。
【0030】
<ポリオレフィン(d)>
本発明における、無水マレイン酸共重合ポリオレフィン(d)は、芳香族ポリエステル(a)と極性基を持たないポリオレフィン(b)の相溶化剤としての効果を発現する樹脂であり、前述のポリオレフィン(c)と共存することによりさらに相溶化剤としての効果を高めることができるものである。具体的なポリオレフィン(d)としては、無水マレイン酸が共重合されたポリオレフィンであれば特に限定されないが、オレフィン成分の部分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンが挙げられ、特にポリスチレンが好ましい。また、相溶化剤としての機能を阻害しない範囲で、他の単量体成分が共重合されていても良い。共重合体の構造は特に限定されず、ランダム共重合であっても、ブロック共重合やグラフト共重合であっても良い。特に好ましいポリオレフィン(d)としては、無水マレイン酸共重合ポリスチレンが挙げられ、例えば、Nova Chemicals社からは「DYLARK232」、Polyscope社からは「XIRAN SZシリーズ」などとして入手できる。
【0031】
<ヤング率>
本発明の二軸配向積層フィルムは、フィルムの製膜方向(以下、縦方向、長手方向またはMD方向と称することがある。)および幅方向(以下、横方向またはTD方向と称することがある。)のヤング率がともに4.5GPa以上であることが好ましい。どちらか一方でもヤング率が下限よりも小さいと、湿度変化による寸法変化が小さくても、磁気記録媒体としたときにかかる負荷に耐えられなかったり、温度変化による寸法変化が大きくなったりしてしまうことがある。また、製膜方向と幅方向のヤング率の和は、22GPa以下であることが好ましい。製膜方向のヤング率と幅方向のヤング率の和が上限を超えると、フィルム製膜時、延伸倍率が過度に高くなり、フィルム破断が多発し、製品歩留りが著しく悪くなる。好ましい製膜方向と幅方向のヤング率の和の上限は、20GPa以下、さらに18GPa以下である。
【0032】
ところで、リニアトラック方式の磁気テープ用として供する場合、製膜方向の伸びを少なくする観点からは、製膜方向のヤング率が幅方向のヤング率より大きいことが好ましい。好ましいヤング率は、製膜方向のヤング率が幅方向のヤング率より大きく、製膜方向のヤング率が6GPa以上、7GPa以上、特に8GPa以上であり、幅方向のヤング率が、5GPa以上、さらには6GPa以上、特に7GPa以上である。また、幅方向の寸法変化を極めて少なくする観点からは、幅方向のヤング率が製膜方向のヤング率より大きいことが好ましい。好ましいヤング率は、幅方向のヤング率が製膜方向のヤング率より大きく、幅方向のヤング率が7GPa以上、8GPa以上、特に9GPa以上であり、製膜方向のヤング率が、5GPa以上、さらには6GPa以上、特に7GPa以上である。さらにまた、製膜方向と幅方向の伸びをともに少なくする観点からは、製膜方向のヤング率と幅方向のヤング率との差が2GPa以下、特に1GPa以下で、製膜方向のヤング率が6GPa以上、7GPa以上、特に8GPa以上であり、幅方向のヤング率が、6GPa以上、さらには7GPa以上、特に8GPa以上であることが好ましい。
【0033】
<湿度膨張係数>
本発明の二軸配向積層フィルムは、フィルムの幅方向の湿度膨張係数αhが0.1×10−6〜13×10−6/%RHの範囲にあることが好ましい。好ましいαhは、0.5×10−6〜10×10−6/%RH、特に1×10−6〜8×10−6/%RHの範囲である。αhを下限よりも小さくするには、過度にポリオレフィン(b)を存在させたりすることになり、製膜性が低下し、一方上限を超えると、湿度変化によってフィルムが寸法変化をおこし、トラックずれなどを惹起することがある。このようなαhは、測定方向のヤング率を延伸により向上させ、かつポリオレフィンの層を存在させることによって達成される。
【0034】
<温度膨張係数>
本発明の二軸配向積層フィルムは、フィルムの幅方向の温度膨張係数αtが−10×10−6〜+15×10−6/℃の範囲にあることが好ましい。より好ましいαtは、−8×10−6〜+10×10−6/℃、特に−5×10−6〜+5×10−6/℃の範囲である。αtが下限よりも小さいと、磁気記録媒体としたときの温度変化に対する寸法変化が、磁気ヘッドに対し相対的に収縮方向に大きくずれてしまい、一方上限を超えると、逆に磁気ヘッドに対し相対的に膨張方向に大きくずれてしまうため、いずれの場合もトラックずれなどを惹起することがある。このようなαtは、測定方向のヤング率を延伸により適度に向上させ、かつポリオレフィン種類や層の厚みなどを前述の範囲内にすることによって達成される。
【0035】
<フィルム厚み>
本発明の二軸配向積層フィルムは、フィルム全体の厚みが2〜10μm、さらに3〜7μm、特に3.5〜6μmであることが好ましい。この厚みが上限を超えると、テープ厚みが厚くなりすぎ、例えばカセットに入れるテープ長さが短くなったりして、十分な磁気記録容量が得られないことがある。一方、下限未満ではフィルム厚みが薄すぎて、フィルム製膜時にフィルム破断が多発したり、またフィルムの巻取性が不良となったりすることがある。
【0036】
また、フィルム層Aの1層あたりの厚みは、0.02〜1.5μm、さらに0.04〜1.0μmの範囲にあることが好ましく、他方フィルム層Bの1層あたりの厚みは0.02〜1.5μm、さらに0.04〜1.0μmの範囲にあることが好ましい。フィルム層Aの1層あたりの厚みが下限を下回ると、極めて多くの層を積層させなくてはならず、工程が煩雑化しやすく、他方、フィルム層Aの1層あたりの厚みが上限を超えると、層間の剥離が惹起しやすくなる。また、フィルム層Bの1層あたりの厚みが下限を下回ると、極めて多くの層を積層させなくてはならず、やはり工程が煩雑化しやすく、他方、フィルム層Bの1層あたりの厚みが上限を超えると、やはり層間の剥離が惹起しやすくなる。これらの厚みは、積層フィルムを厚み方向にミクロトームなどで切断して超薄片とし、それを透過型電子顕微鏡で観察することによって測定できる。
【0037】
<製膜方法>
本発明の二軸配向積層フィルムは、以下の方法にて製造するのが好ましい。
本発明の二軸配向積層フィルムは、上述の芳香族ポリエステル(a)と極性基を持たないポリオレフィン(b)、さらにエポキシ基含有共重合ポリオレフィン(c)および無水マレイン酸共重合ポリオレフィン(d)とを原料とし、例えばフィードブロックを用いた同時多層押出法により製造することができる。すなわち、フィルム層Aを構成する樹脂組成物と、フィルム層Bを構成する樹脂組成物とを、乾燥後、300℃程度に加熱された押出機に供給し、フィードブロックを用いて、例えばフィルム層Aとフィルム層Bを交互に積層し、ダイに展開して押し出す。そして、ダイから押し出されたシート状物を、テンター法、インフレーション法など公知の製膜方法を用いて製造することができる。具体的には、芳香族ポリエステル(a)の融点(Tm:℃)ないし(Tm+70)℃の温度で押出し、急冷固化して未延伸フィルムとし、さらに該未延伸フィルムを一軸方向(縦方向または横方向)に(Tg−10)〜(Tg+70)℃の温度(但し、Tg:芳香族ポリエステル(a)のガラス転移温度)で所定の倍率に延伸し、次いで上記延伸方向と直角方向(一段目が縦方向の場合には二段目は横方向となる)にTg〜(Tg+70)℃の温度で所定の倍率に延伸し、さらに熱処理する方法を用いて製造することができる。その際延伸倍率、延伸温度、熱処理条件等は上記フィルムの特性から選択、決定される。面積延伸倍率は15〜40倍、さらには20〜35倍にするのが好ましい。熱固定温度は190〜250℃の範囲内から、また処理時間は1〜60秒の範囲内から決めるとよい。
【0038】
かかる逐次二軸延伸法のほかに、同時二軸延伸法を用いることもできる。また逐次二軸延伸法において縦方向、横方向の延伸回数は1回に限られるものではなく、縦−横延伸を数回の延伸処理により行うことができ、その回数に限定されるものではない。例えば、さらに機械特性を上げたい場合には、熱固定処理前の上記二軸延伸積層フィルムについて、(Tg+20)〜(Tg+70)℃の温度で熱処理し、さらにこの熱処理温度より10〜40℃高い温度で縦方向または横方向に延伸し、続いてさらにこの延伸温度より20〜50℃高い温度で横方向または縦方向に延伸し、縦方向の場合総合延伸倍率を3.0〜7.0倍、横方向の場合総合延伸倍率を3.0〜8.0倍にすることが好ましい。
また、塗布層を設ける場合、前記した積層未延伸フィルムまたは積層一軸延伸フィルムの片面または両面に所望の塗布液を塗布するのが好ましい。
【0039】
<磁気記録媒体>
本発明の上記二軸配向積層フィルムは、その片面に磁性層を設けることにより、磁気記録媒体のベースフィルムとして好ましく用いられる。なお、磁性層を形成する面は、二軸配向積層フィルムのより平坦な方の表面であることが好ましい。
磁気記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、QICやDLTさらには高容量タイプであるS−DLTやLTO等のリニアトラック方式のデータストレージテープが挙げられる。なお、ベースフィルムが温湿度変化による寸法変化が極めて小さいので、テープの高容量化を確保するためにトラックピッチを狭くしてもトラックずれを引起こし難く、高密度高容量に好適な磁気記録媒体となる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例に基いて本発明をさらに説明する。なお、本発明における種々の物性値および特性は、以下のようにして測定されたものであり、かつ定義される。
【0041】
(1)ヤング率
フイルムを試料幅10mm、長さ15cmに切り、チャック間100mmにして引張速度10mm/min、チャート速度500mm/minでインストロンタイプの万能引張試験装置にて引張り、得られる荷重−伸び曲線の立上り部の接線よりヤング率を計算する。ヤング率は10回測定し、その平均値を用いた。
【0042】
(2)温度膨張係数(αt)
得られたフィルムから幅4mmのサンプルを切り出し、チャック間長さ20mmとなるように、セイコーインスツル製TMA/SS6000にセットし、窒素雰囲気下(0%RH)、80℃で30分前処理し、その後室温まで降温させた。その後30℃から80℃まで2℃/minで昇温して、各温度でのサンプル長を測定し、次式より温度膨張係数(αt)を算出した。なお、5回測定し、その平均値を用いた。
αt={(L60−L40)/(L40×△T)}+0.5×10−6
ここで、上記式中のL40は40℃のときのサンプル長(mm)、L60は60℃のときのサンプル長(mm)、△Tは20(=60−40)℃、0.5×10−6/℃は石英ガラスの温度膨張係数(αt)である。
【0043】
(3)湿度膨張係数(αh)
得られたフィルムから幅5mmのサンプルを切り出し、チャック間長さ15mmとなるように、ブルカーAXS製TMA4000SAにセットし、30℃の窒素雰囲気下で、湿度20%RHと湿度80%RHにおけるそれぞれのサンプルの長さを測定し、次式にて湿度膨張係数(αh)を算出した。なお、5回測定し、その平均値をαhとした。
αh=(L80−L20)/(L20×△H)
ここで、上記式中のL20は20%RHのときのサンプル長(mm)、L80は80%RHのときのサンプル長(mm)、△H:60(=80−20)%RHである。
【0044】
(4)ガラス転移点および融点
芳香族ポリエステルまたはポリオレフィン10mgを、測定用のアルミニウム製パンに封入し、DSC(TAインスツルメンツ社製、Q100)を用いて25℃から300℃まで20℃/minの昇温速度で測定し、それぞれの融点およびそれぞれのガラス転移点を求めた。
【0045】
(5)トラックずれ
下記に示す組成物をボールミルに入れ、16時間混練、分散した後、イソシアネート化合物(バイエル社製のデスモジュールL)5重量部を加え、1時間高速剪断分散して磁性塗料とした。
磁性塗料の組成:
針状Fe粒子 100重量部
塩化ビニル― 酢酸ビニル共重合体 15重量部
(積水化学製エスレック7A)
熱可塑性ポリウレタン樹脂 5重量部
酸化クロム 5重量部
カーボンブラック 5重量部
レシチン 2重量部
脂肪酸エステル 1重量部
トルエン 50重量部
メチルエチルケトン 50重量部
シクロヘキサノン 50重量部
この磁性塗料を、得られた二軸配向積層フィルムの一方の表面に乾燥後の塗布厚さ0.5μmとなるように塗布し、次いで2,500ガウスの直流磁場中で配向処理を行い、100℃で加熱乾燥後、スーパーカレンダー処理(線圧2,000N/cm、温度80℃)を行い、巻き取った。この巻き取ったロールを55℃のオーブン中に3日間放置した。
【0046】
さらに下記組成のバックコート層塗料を、二軸配向積層フィルムの他方の表面に、乾燥後の厚さが1μmとなるように塗布し、乾燥させ、さらに12.65mm(=1/2インチ)に裁断し、磁気テープを得た。
バックコート層塗料の組成:
カーボンブラック 100重量部
熱可塑性ポリウレタン樹脂 60重量部
イソシアネート化合物 18重量部
( 日本ポリウレタン工業社製コロネートL)
シリコーンオイル 0.5重量部
メチルエチルケトン 250重量部
トルエン 50重量部
このようにして得られた磁気テープを、恒温恒湿槽内へ入れ、長手方向に1Nの張力を掛けた状態で各環境(環境A:10℃10%RH、環境B:29℃80%RH)にて5時間静置した後、それぞれレーザー寸法測定機によって幅を測定した。そして、下記式によりトラックずれ率を算出した。
トラックずれ率(ppm)=((LB−LA)/LA)*10−7×(29−10)
上記式中のLBは環境Bで測定した幅、LAは環境Aで測定した幅、7は磁気ヘッドの温度膨張係数(ppm)、(29−10)(℃)は温度の変化量である。ちなみに、磁気ヘッドの湿度膨張係数は0ppm/%RHとした。
そして、トラックずれ率は絶対値が少ないほど、トラックズレが良好であり、以下の基準により評価した。
○ : ずれ幅が450ppm未満(トラックずれ良好)
× : ずれ幅が450ppm以上(トラックずれ不良)
【0047】
(6)各層の厚み
積層フィルムを3角形に切り出し、包埋カプセルに固定後、エポキシ樹脂にて包埋する。ミクロトーム(ULTRACUT−S)で、製膜方向と厚み方向とに平行な方向にカットして、厚み50nm薄膜切片にする。そして、透過型電子顕微鏡を用い、加速電圧1000kvにて観察し、倍率1万倍〜10万倍で撮影し、写真より各層の厚みを測定した。
【0048】
(7)耐剥離性
サンプルフィルムを125μm厚みの厚手PETフィルムに両面テープで貼り付けた後、MD方向を長さ方向として長さ150mmx幅25mmにカットし、このサンプルフィルムの長さ方向端部に粘着テープを貼付け、180度剥離方向にゆっくり引っ張ることでサンプルフィルムを層間剥離させた。剥離部分の長さが元のサンプル長の半分になるまで手で剥離させた後、厚手フィルムに貼り付けた側のフィルム端部と、剥離した側のフィルム端部を、ともに引っ張り試験機(株式会社東洋精機製作所製 ストログラフM1)のチャックで把持し、180度剥離方向に引っ張り、剥離強度を測定した。このとき、引っ張り試験機の測定条件は、5kgfのロードセルを用い、引っ張り速度100mm/分とした。得られた剥離強度のチャートから、初期の不安定部を除き、強度が安定したところでの値を読み取り、剥離強度とした。この剥離強度が大きいほど、耐剥離性に優れることを意味する。
【0049】
(8)ポリオレフィン(c)およびポリオレフィン(d)
ポリオレフィン(c)およびポリオレフィン(d)としては、以下に示すものを用いた。
ポリオレフィン(c):グリシジルメタクリレート共重合ポリスチレン(日油株式会社製、商品名「モディパーA4100」)
ポリオレフィン(d):無水マレイン酸共重合ポリスチレン(Nova Chemicals社製、商品名「DYLARK232」)
【0050】
[実施例1]
平均粒径0.1μmの球状シリカ粒子を0.3wt%添加した、融点(Tm)269℃のポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)を160℃で5時間乾燥後、ポリオレフィン(c)、ポリオレフィン(d)と重量比で90:5:5となるようにブレンドして、フィルム層Aの樹脂として調整した。また、平均粒径0.3μmの球状シリカ粒子を0.02wt%添加した、融点(Tm)272℃のシンジオタクチックポリスチレン(出光興産株式会社製、グレード:XAREC90ZC)を120℃で3時間乾燥後、ポリオレフィン(c)およびポリオレフィン(d)と重量比で90:5:5となるようにブレンドして、フィルム層Bの樹脂として調製した。これらのフィルム層AおよびBのポリマーを押し出し機に供給して溶融し、フィルム層Aのポリマーを25層、フィルム層Bのポリマーを24層に分岐させた後、A層とB層が交互に積層するような多層フィードブロック装置を使用して合流させ、その積層状態を保持したままダイへと導き、キャスティングドラム上にキャストしてA層とB層が交互に積層された総数49層の積層未延伸シートを作成した。このとき、A層とB層のポリマーの押し出し量比が7:3になるように調整し、かつ両表面層がA層となるように積層させた。なお、ダイから押し出された積層未延伸シートは、表面仕上げ0.3S、表面温度60℃に保持したキャスティングドラム上で急冷固化せしめて、未延伸フィルムとした。
この積層未延伸フイルムを90℃にて予熱し、さらに低速、高速のロール間で14mm上方より830℃の表面温度の赤外線ヒーターにて加熱してフィルムの製膜方向に4.7倍に延伸し、急冷し、続いてステンターに供給し、125℃にて横方向に6.5倍延伸した。さらに引き続いて210℃で10秒間熱固定した後、120℃にて横方向に1.0%弛緩処理をし、厚み5.0μmの二軸配向積層フィルムを得た。得られた二軸配向積層フィルムの特性を表1に示す。
【0051】
[実施例2および3]
各層の層数および厚みを表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを得た。得られた二軸配向積層フィルムの特性を表1に示す。
【0052】
[実施例4〜11および比較例1〜6]
各層の芳香族ポリエステル、ポリオレフィン(b)、(c)、(d)の割合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして二軸配向積層フィルムを得た。得られた二軸配向積層フィルムの特性を表1に示す。
【0053】
[実施例12]
シンジオタクチックポリスチレン(出光興産株式会社製、グレード:XAREC90ZC)の代わりに、ポリシクロオレフィン(日本ゼオン株式会社製の商品名「ZEONEX480R」)を用い、製膜方向について、予熱温度を100℃、延伸倍率を4.7倍、幅方向について、延伸温度を140℃、延伸倍率を6.8倍に変更し、厚みが5μmになるように未延伸フィルムの厚みを調整したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向積層フィルムの特性を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1中の、PENはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、SPSはシンジオタクチックポリスチレン、ポリオレフィン(c)は日油株式会社製、商品名「モディパーA4100」、ポリオレフィン(d)はNova Chemicals社製、商品名「DYLARK232」、PCOはポリシクロオレフィン(日本ゼオン株式会社製の商品名「ZEONEX480R」)、温度膨張係数および湿度膨張係数はそれぞれフィルムの幅方向の測定値、トラックズレは上述の「(5)トラックズレ」の評価結果を示す。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の二軸配向積層フィルムは、従来のポリエステルフィルムに比べ、ヤング率などに基づく寸法安定性は維持しつつ、湿度変化に対する寸法変化を小さくすることができ、しかも層間の耐剥離性も兼ね備えていることから、磁気記録媒体のベースフィルムとして好適に使用でき、特にQICやDLTさらに高容量タイプであるS−DLTやLTO等のリニアトラック方式のデータストレージテープのベースフィルムとして好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム層AとBとを全層数で少なくとも4層積層した、芳香族ポリエステル(a)と極性基を持たないポリオレフィン(b)とからなる積層フィルムであって、
フィルム層Aは芳香族ポリエステル(a)の割合が80重量%以上で極性基を持たないポリオレフィン(b)の割合が5重量%未満であり、
フィルム層Bは極性基を持たないポリオレフィン(b)の割合が80重量%以上で芳香族ポリエステル(a)の割合が5重量%未満であり、そして
フィルム層AおよびBの少なくともいずれかの層は、エポキシ基含有共重合ポリオレフィン(c)と無水マレイン酸共重合ポリオレフィン(d)を、いずれもフィルム層の重量を基準として2〜18重量%の範囲で含有することを特徴とする二軸配向積層フィルム。
【請求項2】
芳香族ポリエステル(a)がエチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とする芳香族ポリエステルである請求項1記載の二軸配向積層フィルム。
【請求項3】
ポリオレフィン(b)がシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体である請求項1記載の二軸配向積層フィルム。
【請求項4】
エポキシ基含有共重合ポリオレフィン(c)がエポキシ基含有共重合ポリスチレンであり、無水マレイン酸共重合ポリオレフィン(d)が無水マレイン酸共重合ポリスチレンである請求項1記載の二軸配向積層フィルム。
【請求項5】
フィルム厚みが2〜10μmの範囲にある請求項1記載の二軸配向積層フィルム。
【請求項6】
磁気記録媒体のベースフィルムとして用いる請求項1〜5のいずれかに記載の二軸配向積層フィルム。

【公開番号】特開2011−243240(P2011−243240A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112069(P2010−112069)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】