説明

二重空気膜構造

【課題】風圧等の短期荷重に対する二重空気膜構造の剛性を向上するとともに、送風機等の維持・管理費の高額化、膜の爆裂現象、補強の必要性等の二重空気膜構造特有の課題を解消する。
【解決手段】二重空気膜構造(1)は、可撓性膜(2,3)の間の膜間領域(5)に多数のコア(4)を収容した構成を有する。吸引管(7)が膜間領域と連通し、吸引手段(8)が膜間領域の空気を吸引する。封止手段(9)が膜間領域の負圧を維持するように機能する。膜間領域は減圧され、コア及び可撓性膜は密着し、コア同士は互いに密着する。コアは、可撓性膜内に気体を封入した気嚢からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重空気膜構造に関するものであり、より詳細には、可撓性膜の間に作用する空気圧を維持して形状を保持するように構成された二重空気膜構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気圧を利用して膜面に張力を与え、膜体の形態を安定化するとともに、風雪等の外的荷重に対する耐力を膜面の張力により確保する空気膜構造(ニューマチック構造)が知られている。空気膜構造は、空気を閉じ込める方式の相違により、一重空気膜構造及び二重空気膜構造に分類される。一重空気膜構造は、屋内空間の空気圧によって膜をドーム等の所定形状に保持する方式の膜構造であり、二重空気膜構造は、二重膜の間に空気を閉じ込め、膜間の空気圧により膜の張力を得る方式の膜構造である。
【0003】
一重空気膜構造は、軽量性、柔軟性、自然光利用等の点で有利な構造である反面、大容積屋内空間の空気圧を制御し且つ維持・管理する必要性や、屋内空間の気密状態を維持するための開口部の気密構造の必要性等の点で不利がある。これに対し、上記二重空気膜構造は、二重膜の間の空間を加圧することから、屋内空間を常圧(大気圧)に設定し得る点において、一重空気膜構造に比べ有利である。
【0004】
二重空気膜構造のアーチ又はドーム構造は、例えば、1970年に開催された万国博覧会(大阪万博、EXPO'70)や、1985年に開催された国際科学技術博覧会(TSUKUBA EXPO '85)等において、展示館等の屋根構造として採用されている。このような従来の二重空気膜構造の構成は、例えば、特開平7−293046号公報、特開平10−159392号公報、特開平11−36667号公報、特開2003−82887号公報に開示されている。
【特許文献1】特開平7−293046号公報
【特許文献2】特開平10−159392号公報
【特許文献3】特開平11−36667号公報
【特許文献4】特開2003−82887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の二重空気膜構造においては、二重膜間の空間に空気を圧入し、二重膜間の領域を正圧又は陽圧に維持・管理するように構成されていることから、上下の膜を相互連結する落し糸と膜との接合部に面外方向の引張力が作用し、落し糸及び膜の接合部が損傷し易く、外皮及び隔壁の間の剥離現象の発生も指摘されている。
【0006】
従来の二重空気膜構造は又、風圧等の短期荷重に対する剛性が比較的低く、このため、補強の必要性や、構造体の形態・規模等の制約が生じ易い。他方、二重空気膜構造の水平剛性を向上すべく膜間の内圧を高圧に設定すると、送風機運転コストの高額化、膜の爆裂の懸念、構成部材に作用する高い応力、高い内圧に抗する補強の必要性、補強に伴う構造の複雑化等の問題が生じる。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、風圧等の短期荷重に対する二重空気膜構造の剛性を向上するとともに、送風機等の維持・管理費の高額化、膜の爆裂現象、補強の必要性等の二重空気膜構造特有の課題を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成すべく、第1及び第2の可撓性膜の間に作用する空気圧を維持して形状を保持する二重空気膜構造において、
気密性を有する前記可撓性膜の間に形成された膜間領域に多数のコアを収容し、前記膜間領域を減圧し、前記コア及び可撓性膜を密着させるとともに、前記コア同士を互いに密着させたことを特徴とする二重空気膜構造を提供する。
【0009】
本発明の上記構成によれば、各コアは、膜間領域の圧力と大気圧との差圧によって隣接コア及び可撓性膜と接触する。コア及び可撓性膜の接触圧は、コアの位置を保持するように作用し、コア同士の接触圧は、コア間の剪断剛性(ずれ抵抗)を高めてコア全体を一体化するように作用する。従って、本発明の二重空気膜構造によれば、互いに圧接した多数のコアと、圧力下にコアと面接触した可撓性膜とから構成される一体的な構造体が実現する。本発明者の実験により、このような構成の二重空気膜構造が、剪断力として作用する面内方向の荷重に対して高い剛性を発揮すると判明した。従って、このような二重空気膜構造を屋根構造に適用した場合、屋根構造体は、風圧等の短期荷重に対して高い剛性を発揮する。また、コア同士の圧接により得られる接触面の剪断抵抗及び接触圧力は、自重及び積雪荷重等に抗する面外剛性を二重空気膜構造に付与する。
【0010】
また、上記構成の二重空気膜構造によれば、過大な容量又は運転負荷の送風機を用いることなく、短期荷重に対する二重空気膜構造の剛性を向上することができるので、水平剛性向上に伴う送風機等の維持・管理費の高額化を抑制することができる。
【0011】
更に、上記構成の二重空気膜構造においては、膜間領域の減圧に伴う膨張力が各コアに作用する一方、隣接コア及び可撓性膜との圧接による収縮力が各コアに作用する。即ち、各コアに作用する膨張力及び収縮力は、互いに打ち消すように作用するので、コアの爆裂又はコア外皮の破損・損傷等を防止することができる。
【0012】
しかも、上記構成の二重空気膜構造では、落し糸や、隔壁等の補強材を膜間領域に配設することを要しないので、二重空気膜構造の構成を簡素化することができる。
【0013】
また、上記構成の二重空気膜構造によれば、構造体の形態は、膜間領域の脱気によって固定されるので、コアの数量、配置、形態等を任意に設定することができる。これは、二重空気膜構造の構造体形状に関する設計自由度を大幅に向上させる。加えて、上記構成の二重空気膜構造では、膜間領域の脱気により形状が固定する反面、膜間領域に給気して形状保持力を解放することができる。従って、構築後の構造体の形態調整又は形態変更等を比較的容易に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、風圧等の短期荷重に対する二重空気膜構造の剛性を向上するとともに、送風機等の維持・管理費の高額化、膜の爆裂現象、補強の必要性等の二重空気膜構造特有の課題を解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記二重空気膜構造は、膜間領域と連通する吸引管と、吸引管を介して膜間領域の空気を吸引する吸引ファン又はブロワ等の吸引手段と、膜間領域の負圧を維持するための封止手段とを有する。封止手段は、例えば、吸引管に介装された逆止弁又は逆流防止弁、或いは、膜間領域の吸引口を閉塞する弁又は密閉栓等からなる。
【0016】
所望により、透明又は半透明の素材からなる可撓性膜を使用し、コアの材質、形態、サイズ、色彩、模様等を適宜選択することにより、多種多様な視覚的バリエーションの構造体を実現することができる。
【0017】
好ましくは、上記コアは、流体、流動物質又は粘性物質を可撓性外皮内に封入した球体からなり、外力に対する変形能を有する。更に好ましくは、上記コアは、気密な可撓性膜の中空密閉体の中に空気、不活性ガス(ヘリウム等)等の気体を封入した気嚢からなる。気嚢は、外力に対する変形能を有し、膜間領域の減圧時に互いに密着し、隣接する気嚢と面接触するように概ね多面体に変形する。可撓性膜の皮膜には、膜間領域の減圧による膨張力が作用するとともに、隣接気嚢及び膜との圧接による収縮力が作用する。気嚢の皮膜に作用する膨張力は、気嚢の皮膜に作用する収縮力によって少なくとも部分的に打ち消される。従って、気嚢の爆裂又は気嚢皮膜の破損・損傷は、気嚢に作用する収縮力によって抑制される。
【0018】
気嚢は、外力や、衝撃に対して変形し且つ内圧変動し、外力又は衝撃を吸収し又は緩衝する。従って、本発明の二重空気膜構造を外力吸収手段又は衝撃緩衝手段として使用することができる。また、気体を封入した気嚢は、高い断熱性能を発揮するので、本発明の二重空気膜構造を断熱手段として使用することができる。
【0019】
本発明の二重空気膜構造は、アーチ又はドーム等の屋根構造体や、構築物の壁体に好ましく適用し得るが、このような二重空気膜構造の性質を利用し、車両用ボディ又はバンパー等の車体部分、遊戯施設の構造体、部品又は部材、各種のイベント用品、美術造形作品等に本発明の二重空気膜構造を適用しても良い。
【0020】
上記コア内には、ゲル状物質、粒状物質、粘性物質等を封入しても良い。このような物質を封入したコアは、外力に対する変形能に関し、空気等を封入した気嚢とは異なる物性を発揮する。
【0021】
変形例として、発泡樹脂成形体、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂等の樹脂硬化体、或いは、金属又はセラミックス等の剛体によりコアを形成して良い。このような比較的高剛性のコアを膜間領域に収容した場合においても、可撓性膜の素材、減圧時の吸引圧力等を適切に設計することにより、コア同士の圧接状態を維持し、二重空気膜構造の一体性を維持することができる。
【実施例1】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。
図1〜図3は、本発明に係る二重空気膜構造の基本構成を示す平面図及び断面図である。
【0023】
図1に示す如く、二重空気膜構造1は、上下の可撓性膜2、3と、膜2、3の間の膜間領域5に挿入された多数の気嚢4とから構成される。可撓性膜2、3は、例えば、ポリエステル樹脂又はフッ素樹脂等の樹脂フィルムからなり、平面視同一形状を有する。可撓性膜2、3の外縁部は、枠体6によって気密状態に拘束される。
【0024】
図1〜図3には、可撓性膜2、3の両側の縁部分を拘束する枠体6の部分のみが図示されているが、枠体6は、可撓性膜2、3の全周に亘って延在する。気嚢4は、可撓性を有する気密性外皮の中に空気を充填した球形バルーン(風船)からなり、互いに独立した状態で膜間領域5に収容される。気嚢4の外皮は、樹脂フィルム又は樹脂シート、例えば、ポリエステル樹脂又はフッ素樹脂等の樹脂フィルムからなる。
【0025】
膜間領域5の初期圧力は、周囲雰囲気と実質的に同じ圧力(本例では、大気圧)である。膜間領域5の空気を吸引するための吸引管7が、膜間領域5に挿入される。吸引管7の吸引口7aは、膜間領域5に開口する。吸引管7は、膜外に延び、吸引ファン8の吸引口に接続される。吸引ファン8は、膜間領域5の空気を大気に排気する強制排気ファンからなり、吸引ファン8の電動機(図示せず)は、駆動電源(図示せず)に接続される。吸引ファン8から膜間領域5への空気の逆流を阻止する逆止弁又は逆流防止用制御弁9が、吸引管7に介装される。
【0026】
吸引ファン8を作動させると、吸引ファン8の排気吸引圧力が吸引管7を介して膜間領域5に作用する。膜間領域5の空気は、吸引管7を介して吸引ファン8に吸引され、大気に放出される。膜間領域5は減圧し、上下の膜2、3は互いに接近する。同時に、気嚢4同士が互いに接近し、気嚢4間の隙間が縮小する。膜間領域5の減圧に伴って、膜2、3は気嚢4に密着し始め、気嚢4同士は互いに点接触して一体化し始める。このような減圧時の状態が図2に示されている。所望により、膜間領域5を減圧する際に気嚢4を強制的に移動させても良い。
【0027】
吸引ファン8の作動を継続すると、膜間領域5は更に減圧し、膜間領域5の圧力は、吸引ファン8の排気能力に相応した圧力において安定する。膜間領域5の減圧時には、膜間領域5の減圧と関連した膨張力が各気嚢4に作用する。同時に、隣接する気嚢4及び膜2、3に各気嚢4が押圧される際に生じる反作用として、収縮力が各気嚢4に作用する。減圧時に気嚢4の皮膜に作用する膨張力は、気嚢4の皮膜に作用する収縮力によって少なくとも部分的に打ち消される。従って、減圧時の膨張力に起因する気嚢4の爆裂又は気嚢皮膜の破損・損傷は、気嚢4に作用する収縮力によって抑制され又は緩和される。
【0028】
膜間領域4を実質的に完全に脱気した状態が図3に示されている。気嚢4は、隣接する気嚢4及び膜2、3に面接触し、概ね多面体に変形する。各気嚢4は、膜間領域5の圧力と大気圧との間の差圧拡大に伴って圧密化される。この結果、気嚢4間の接触圧力は増大し、気嚢4及び膜2、3の接触圧力は増大する。膜2、3と気嚢4との接触圧力は、気嚢4の位置を保持するように作用し、気嚢4同士の接触圧力は、気嚢4間の剪断剛性(ずれ抵抗)を高めて多数の気嚢4を固結し、一体化する。かくして、可撓性膜2、3と、脱気状態の膜間領域5に配置した多数の気嚢4とから構成される一体的な二重空気膜構造1が形成される。
【0029】
従来の二重空気膜構造においては、その形状を保持するために、上下の膜を連結する落とし糸が膜間領域に配設され、落とし糸には、引張力が作用するのに対し、本発明の二重空気膜構造1においては、大気圧と膜間領域5の圧力との差圧が上下の膜2、3に作用し、二重空気膜構造1の形状は、この差圧によって保持される。
【0030】
図4及び図5は、二重空気膜構造1の剪断変形実験に使用した供試体の構成を示す正面図及び断面図であり、図6は、剪断変形実験の実験結果を示す線図である。
【0031】
図4(A)及び図4(B)には、比較例として、正方形の枠体56を可撓性樹脂フィルムの気密袋50内に収容した供試体が示されている。枠体56は、4体の帯状木板を正方形枠に組付けた木枠からなり、枠体56の連接部(角部)は、実質的な剪断剛性を発揮しないピン接合形式の接合構造によって接合されている。
【0032】
図4(C)及び図4(D)に示す供試体51は、正方形の枠体56内に気嚢54を上下左右に整列配置(直交配列)し、枠体56及び気嚢54を可撓性樹脂フィルムの気密袋50内に収容した構成を有する。図5(A)及び図5(B)に示す供試体51’は、正方形の枠体56内に気嚢54を千鳥配列し、枠体56及び気嚢54を可撓性樹脂フィルムの気密袋50内に収容した構成を有する。気密袋50の正面部分は、前述の可撓性膜2に相当し、気密袋50の背面部分は、前述の可撓性膜3に相当する。
【0033】
吸引ファン58に接続した吸引管57が、膜間領域55に挿入され、吸引管57の吸引口57aが、膜間領域55に開口する。吸引管57には、逆止弁又は逆流防止用制御弁59が介装される。吸引ファン58の作動により、膜間領域55は減圧される。
【0034】
剪断変形実験において、枠体56の寸法は、幅W=450mm(内法寸法)、全高H=450mm(内法寸法)、奥行D=90mmに設定され、気嚢4の初期直径Rは、90mmに設定された。吸引ファン58が作動され、吸引ファン58の最大排気能力の下で膜間領域55が減圧された。
【0035】
比較例に係る供試体(図4(A)及び図4(B))の膜間領域55を減圧した状態が、図4(G)に示されている。気密袋50は、膜間領域55において互いに密着した。気嚢54を千鳥配列した供試体51を減圧した状態が、図4(E)及び図4(F)に示され、気嚢54を直交配列した供試体51’を減圧した状態が、図5(C)及び図5(D)に示されている。気密袋50の正面部分及び背面部分は、気嚢4に面接触し、気嚢4は、隣接する気嚢4と圧接状態に密着し、概ね多面体に変形した。
【0036】
脱気後の供試体51、51’は、図4(E)及び図5(C)に矢印P(圧縮荷重)で示すように対角線方向に圧縮され、枠体56及び供試体51、51’の変形(対角線方向の変位量)が計測された。比較例に係る供試体においても又、図4(A)に矢印P(圧縮荷重)で示すように対角線方向の圧縮荷重Pが枠体56に加えられ、枠体56の変形(対角線方向の変位量)が計測された。変位量の測定結果が図6に示されている。
【0037】
図6に示す如く、気嚢4を内蔵しない比較例の供試体(図4(G))は、圧縮荷重P=50Nで破壊した。しかしながら、直交配列の気嚢54を内蔵した供試体51は、圧縮荷重Pの増大につれて変位量を増大させるものの、圧縮荷重P=100Nを超える圧縮荷重Pで破壊し、千鳥配列の気嚢54を内蔵した供試体51’は、圧縮荷重Pの増大につれて変位量を増大させるものの、圧縮荷重P=200Nを超える圧縮荷重Pで破壊した。
【0038】
このような剪断変形実験の結果、気嚢54を内蔵した脱気後の供試体51、51’は、気嚢54を内蔵しない比較例の供試体(図4(G))に比べて遥かに高い剪断剛性を発揮することが判明した。即ち、可撓性膜2、3と、脱気状態の膜間領域5に配置した多数の気嚢4とから構成される前述の二重空気膜構造1は、面内方向の荷重に耐える高い剪断剛性を発揮することが確認された。
【0039】
また、上記実験結果は、気嚢54の配置の相違によって剪断剛性が相違し、千鳥配列の気嚢4を内蔵した二重空気膜構造1が、直交配列の気嚢4を内蔵した二重空気膜構造1に比べて高い剪断剛性を発揮することを示している。
【0040】
図7は、気嚢4を可撓性膜2、3の間に収容した脱気状態の二重空気膜構造1の形態を示す写真である。気嚢4は、千鳥配置に配列され、可撓性膜2、3は、気嚢4に密着し、気嚢4同士は、互いに面接触し、概ね多面体に変形している。
【0041】
図8は、本発明の二重空気膜構造を適用したドーム状の屋根構造体を示す概略断面図であり、図9は、図8に示す屋根構造体の部分拡大断面図である。
【0042】
図8及び図9に示す二重空気膜構造のドーム10は、前述の枠体6に相応する環状基部16上に架設される。可撓性膜12、13の外縁部は、枠体6によって気密状態に拘束される。空気を封入した樹脂製球形バルーンからなる多数の気嚢14が、可撓性膜12、13の間に収容される。可撓性膜12、13の膜間領域の空気を吸引するための吸引管17が、膜間領域に開口し、吸引ファン18の吸引圧力が膜間領域に作用する。逆止弁又は逆流防止用制御弁19が、吸引管17に介装される。吸引ファン18の作動により、膜間領域は真空状態に近い状態に減圧する。弁19は、膜間領域に形成された負圧又は陰圧を維持するように機能する。
【0043】
図10は、二重空気膜構造によって形成されたアーチ状屋根構造体の概略斜視図であり、図11は、図10に示す屋根構造体の屋根面部分拡大展開図である。
【0044】
図10及び図11に示す屋根構造体は、外縁部分を基部26によって気密状態に拘束された二重空気膜構造のアーチ20からなる。基部26は、左右の水平基部26aと、妻側に半円状に延在するアーチ部分26bとを一体化した剛構造を有する。空気を封入した樹脂製球形バルーンからなる多数の気嚢24が、可撓性膜22、23の間に収容される。可撓性膜22、23の膜間領域の空気を吸引するための吸引管27が、膜間領域に開口し、吸引ファン28の吸引圧力が膜間領域に作用する。逆止弁又は逆流防止用制御弁29が、吸引管27に介装される。吸引ファン28の作動により、膜間領域は真空状態に近い状態に減圧する。弁29は、膜間領域に形成された負圧又は陰圧を維持するように機能する。
【0045】
このようなドーム10及びアーチ20においては、膜間領域の減圧の結果、気嚢14は、隣接気嚢14及び膜12、13に面接触し、概ね多面体に変形する。初期的には独立した多数の気嚢14は、膜間領域の圧力と大気圧との間の差圧拡大に伴って圧密化される。気嚢14間の接触圧力の増大と、気嚢14及び膜12、13の接触圧力の増大とにより、多数の気嚢14は互いに固結され、気嚢14及び膜12、13は一体化する。この結果、各気嚢14の間には、ドーム10又はアーチ20の自重及び積雪荷重等の鉛直荷重に耐え且つ風圧等の短期荷重に抗する高い剪断剛性(ずれ抵抗)が発生する。
【0046】
かくして、本発明の二重空気膜構造を有するドーム10及びアーチ20は、主として、多数の気嚢14、24に密着した可撓性膜12、13、22、23の形態保持力と、互いに密着した気嚢14、24の間に働く剪断剛性(ずれ抵抗)とによって、自重及び降雪等の鉛直荷重に抗するとともに、風圧等の短期荷重に対して高い剛性を発揮する。
【0047】
以上、本発明の好適な実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変形又は変更が可能である。
【0048】
例えば、上記実施例において、気密な樹脂製外皮の中に空気を封入した気嚢をコアとして使用しているが、液体、ゲル状物質、粒状物質、粘性物質等を外皮内に封入した球形セル等の密封体をコアとして使用しても良い。
また、上記実施例において、膜間領域の圧力を検出して膜間領域の圧力を制御する制御装置を吸引ファンの制御系に配設しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の二重空気膜構造は、アーチ又はドーム等の屋根構造体や、構築物の壁体等に好ましく適用される。
【0050】
車両用ボディ又はバンパー等の車体部分、遊戯施設の構造体、部品又は部材、各種のイベント用品、美術造形作品等に本発明の二重空気膜構造を適用しても良い。
【0051】
本発明の二重空気膜構造を適用した構造体は、コアの規格化等により比較的容易に量産化し得るので、実用化に適しており、また、各種の用途に応用することができるので、その実利性は、極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る二重空気膜構造の基本構成を示す平面図及び断面図であり、膜間領域を減圧する前の状態が示されている。
【図2】図1に示す二重空気膜構造の平面図及び断面図であり、膜間領域の減圧過程が示されている。
【図3】図1及び図2に示す二重空気膜構造の平面図及び断面図であり、膜間領域減圧後の状態が示されている。
【図4】二重空気膜構造の剪断変形実験に使用した気嚢直交配列の供試体の構成を示す正面図及び断面図である。
【図5】二重空気膜構造の剪断変形実験に使用した気嚢千鳥配列の供試体の構成を示す正面図及び断面図である。
【図6】剪断変形実験の実験結果を示す線図である。
【図7】気嚢を可撓性膜の間に収容した脱気状態の二重空気膜構造の形態を示す写真である。
【図8】本発明の二重空気膜構造を適用したドーム状の屋根構造体を示す概略断面図である。
【図9】図8に示す屋根構造体の部分拡大断面図である。
【図10】本発明の二重空気膜構造を適用したアーチ状屋根構造体の概略斜視図である。
【図11】図10に示す屋根構造体の屋根面部分拡大展開図である。
【符号の説明】
【0053】
1 二重空気膜構造
2 可撓性膜
3 可撓性膜
4 気嚢(コア)
5 膜間領域
6 枠体
7 吸引管
8 吸引ファン
9 逆止弁又は逆流防止用制御弁
10 ドーム(二重空気膜構造)
12 可撓性膜
13 可撓性膜
14 気嚢(コア)
16 基部
17 吸引管
18 吸引ファン
19 逆止弁又は逆流防止用制御弁
20 アーチ(二重空気膜構造)
22 可撓性膜
23 可撓性膜
24 気嚢(コア)
26 基部
27 吸引管
28 吸引ファン
29 逆止弁又は逆流防止用制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の可撓性膜の間に作用する空気圧を維持して形状を保持する二重空気膜構造において、
気密性を有する前記可撓性膜の間に形成された膜間領域に多数のコアを収容し、前記膜間領域を減圧し、前記コア及び可撓性膜を密着させるとともに、前記コア同士を互いに密着させたことを特徴とする二重空気膜構造。
【請求項2】
前記膜間領域と連通する吸引管と、該吸引管を介して前記膜間領域の空気を吸引する吸引手段と、前記膜間領域の負圧を維持するための封止手段とを有することを特徴とする請求項1に記載の二重空気膜構造。
【請求項3】
前記コアは、流体、流動物質又は粘性物質を可撓性外皮内に封入した球体からなり、外力に対する変形能を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の二重空気膜構造。
【請求項4】
前記コアは、気密な可撓性膜の中に気体を封入した気嚢からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の二重空気膜構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−115633(P2008−115633A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−301011(P2006−301011)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 本願の発明者は、社団法人日本建築学会が平成18年7月29日に主催した「学生サマーセミナー」(研究集会名)において文書をもって発表した。
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】