説明

亜酸化窒素の還元方法及び還元装置

【課題】大気温度付近で排出される排ガスに含まれる亜酸化窒素を、触媒を使用することなく、低コストで高効率で分解処理することができる亜酸化窒素の還元方法及び還元装置を提供する。
【解決手段】亜酸化窒素を含む排ガスを、アンモニアを還元剤としてプラズマにより無触媒で窒素と酸素と水に還元する。プラズマとして大気圧非平衡プラズマを用い、還元剤を複数段に分割注入することにより、亜酸化窒素の再生成を抑制し、排ガス中の亜酸化窒素をほぼ完全に分解することができる。なお、前段で排ガス中の亜酸化窒素の濃縮を行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は亜酸化窒素の還元方法及び還元装置に関するものであり、特に下水処理プロセスの曝気槽などから排出される常温の排ガスに含まれる亜酸化窒素の無害化に適した、亜酸化窒素の還元方法及び還元装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜酸化窒素は二酸化炭素の約310倍の温暖化係数を持つ地球温暖化ガスであり、さらにオゾン層の破壊にも寄与する物質であるため、何らかの手段で無害化することが望ましい。亜酸化窒素は比較的低温で燃焼される流動床燃焼器から高濃度で排出されることが分っており、燃焼器からの排ガス中の亜酸化窒素を分解処理するための触媒が、特許文献1に示されるように従来より多種開発されている。
【0003】
これまでに開発された触媒の作用温度は、特許文献1の触媒では300〜500℃である。燃焼器からの排ガスは100〜500℃程度の温度を持つため、この触媒を用いて亜酸化窒素の分解処理を行うことができる。
【0004】
しかし、下水処理プロセスの曝気槽から排出される排ガスのように、大気温度付近で排出される排ガスに含まれる亜酸化窒素は、触媒の作動温度よりも低温であるから、従来の触媒により分解処理することができない。触媒で分解しようとすると排ガスを加熱する必要があるが、加熱に必要なエネルギー由来の二酸化炭素が排出されることとなるから、亜酸化窒素の分解処理による温暖化ガス低減効果はほとんどないこととなる。
【0005】
このほか特許文献2には、亜酸化窒素を含む排ガスをプラズマで活性化させたうえで触媒を通して亜酸化窒素を除去する方法が記載されている。この方法は触媒だけを用いる方法に較べて低温(60℃)で処理可能であるが、白金などを使った高価な触媒が必要である。
【0006】
さらにこのほか特許文献3には、NOを含むガスに少量のアンモニアを添加し、プラズマ処理する方法が記載されている。しかし亜酸化窒素の分解に関する記載はないうえ、窒素と酸素が共存する状態でプラズマ処理すると逆に亜酸化窒素や一酸化炭素が生成されるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3234237号公報
【特許文献2】特許第4169236号公報
【特許文献3】特許第2554161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、大気温度付近で排出される排ガスに含まれる亜酸化窒素を、触媒を使用することなく、低コストで高効率で分解処理することができる亜酸化窒素の還元方法及び還元装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するためになされた本発明の亜酸化窒素の還元方法は、亜酸化窒素を含む排ガスを、アンモニアを還元剤としてプラズマにより無触媒で窒素と水に還元する方法であって、プラズマとして大気圧非平衡プラズマを用い、還元剤を複数段に分割注入することを特徴とするものである。
【0010】
なお、前段で亜酸化窒素の濃縮を行うことが好ましい。また、3kV〜30kVの印加電圧により発生させた大気圧非平衡プラズマを用いることが好ましい。
【0011】
また上記の課題を解決するためになされた亜酸化窒素の還元装置は、大気圧非平衡プラズマを発生するプラズマ反応器の入口部に、亜酸化窒素を含む排ガスと還元剤であるアンモニアとの混合ガスを供給する第1ノズルを設け、また前記プラズマ反応器の中間部に、還元剤であるアンモニアを注入する第2ノズルを設けたことを特徴とするものである。
【0012】
なお、プラズマ反応器の前段に亜酸化窒素の濃縮装置を備えた構成とすることが好ましく、亜酸化窒素の濃縮装置が吸着塔であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、亜酸化窒素を含む排ガスにアンモニアを還元剤として複数段に分割注入しながら、大気圧非平衡プラズマにより、触媒を必要とせずまた特別な加温を必要とせずに、亜酸化窒素を窒素と水に還元処理することができる。高価な触媒や加温が不要であるので、下水処理プロセスの曝気槽などから排出される大気温度付近で排出される排ガスに含まれる亜酸化窒素を、低コストで処理することができる。特に還元剤を分割注入することにより、窒素と酸素が共存する状態でプラズマ処理しても亜酸化窒素が生成されることがなくなり、ほぼ完全に分解処理することができる。なお、プラズマ処理の前段で亜酸化窒素の濃縮を行なえば、プラズマ処理するガス量を低減することができるので、消費電力量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1の要部の説明図である。
【図3】プラズマ処理時の電圧波形と電流波形を示すグラフである。
【図4】還元剤なしの場合の、電圧と亜酸化窒素分解率との関係を示すグラフである。
【図5】還元剤ありの場合の、電圧と亜酸化窒素分解率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1において、1は下水処理プロセスの曝気槽であり、10〜30ppmの亜酸化窒素を含む大気温度付近のガスを排出している。この排ガスを直接処理することも可能であるが、この実施形態では排ガスを濃縮装置である吸着塔2に導いて濃縮処理する。吸着塔2は少なくとも2塔を用い、一方の吸着塔2に排ガスを導入して亜酸化窒素を吸着させ、破過に達したら導入先を他方の吸着塔2に切替える。吸着塔2で亜酸化窒素を吸着させた排ガスは誘引ファン3により大気中に放出する。吸着剤としては活性炭やゼオライトを使用することができる。
【0016】
次いで、亜酸化窒素を十分に吸着させた吸着塔2に押込ファン4によりキャリアガス5を通気し、亜酸化窒素を脱着する。キャリアガス5としてはアルゴンガス、窒素ガス、あるいはこれらの混合ガスを用いることができるが、低電圧でプラズマを発生することができ、消費電力を抑制することができるアルゴンガスを用いることが好ましい。なおアルゴンガスは亜酸化窒素の分解に直接寄与するものではないと考えられる。キャリアガス5は熱交換器8の中に設置されたプラズマ反応器6で発生するジュール熱と熱交換されることによって80℃程度に加熱されて吸着塔2に通気され、亜酸化窒素を脱着する。これによって亜酸化窒素を100ppm程度にまで濃縮することができる。
【0017】
このようにして濃縮された亜酸化窒素とキャリアガスとの混合ガスは、プラズマ反応器6に導かれる。その構造は図2に示すとおりであり、管型反応管11の中心部に高電圧電極12が配置され、外周壁に接地電極13が配置されている。7は高電圧電極12及び接地電極13に接続された高電圧パルス電源である。混合ガスはガス混合器10において還元剤9であるアンモニアガスと混合されたうえ、第1ノズル14から管型反応管11の内部に導かれる。管型反応管11の途中にも第2ノズル15を設けてあり、還元剤9であるアンモニアガスを分割注入することができる。この実施形態では前後2段の分割注入としたが、3段以上とすることもできる。管型反応管11を通過したガスは誘引ファン16により大気中に放出する。なお還元剤として尿素や水素を用いることもできるが、経済性の観点から本発明ではアンモニアを用いることとした。
【0018】
プラズマ反応器6には高電圧パルス電源7により図3に示される波形で、印加電圧Vpp=3kV〜30kV程度の範囲、周波数1/T=5〜20kHz程度の範囲で高電圧が印加される。亜酸化窒素とキャリアガスとの混合ガスに高電圧パルス波を印加すると、大気圧非平衡プラズマが発生する。大気圧非平衡プラズマは無声放電または誘電体バリア放電と呼ばれるもので、大気圧以下の真空中で一様なプラズマを発生させるグロー放電プラズマとは異なる。大気圧非平衡プラズマは大気圧以上の圧力で誘電体を介して電極を配置し、微小な放電柱を無数に発生させるものである。なお印加電圧Vppが3kV未満となると亜酸化窒素の分解率が低下し、30kV以上としても亜酸化窒素の分解率の向上には寄与しない。
【0019】
アルゴンプラズマ中では亜酸化窒素は下記の反応で窒素と酸素とに容易に分解される。
Ar+e→Ar++2e・・・・・(1)
Ar++NO→Ar+N+・・ (2)
++e→N+O・・・・・・(3)
O+O→O・・・・・・・・・・(4)
【0020】
ところが、亜酸化窒素とキャリアガスとの混合ガス中に酸素や窒素も共存していると、下記の反応式によって亜酸化窒素を再生成したり、一酸化窒素を生成してしまうことが実験により明らかとなった。すなわち亜酸化窒素を分解するためのプラズマ処理によって逆に亜酸化窒素が増加し、そのうえに一酸化窒素まで発生させてしまうこととなる。
+e→O+O・・・・・・・・(5)
+e→N+N・・・・・・・・(6)
+O→NO・・・・ ・・・・(7)
N+O→NO・・・・・・・・・・(8)
【0021】
しかし本発明では、還元剤を複数段に分割注入することにより、混合ガス中に酸素や窒素が共存していても亜酸化窒素をほぼ完全に分解することに成功した。上記のような分割注入を行えば、下記の反応が起こるものと考えられる。
・アンモニアの分解反応
NH+e→NH+H・・・・・・(9)
NH+e→NH+2H ・・・・・(10)
・(7)で生成した亜酸化窒素の還元反応
O+2NH→2N+HO・・・(11)
・(8)で生成した一酸化窒素の還元反応
NO+NH→N+HO・・・・・(12)
【0022】
しかしながら、(11)と(12)の反応を1段だけで完遂させようとして反応に必要な量のアンモニアを供給すると、NHラジカルの濃度が上昇し、NHラジカル由来の一酸化窒素の生成反応である
NH+O→NO+H
が進行し、NOが多量に生成してしまう。そこで第1段ではせいぜい50%程度の還元率が得られるように、反応に必要な量の半分以下の還元剤を注入し、第2段以降で残部を注入するのがよい。このように第2ノズル15から再度還元剤を注入して未反応の亜酸化窒素と一酸化窒素を(9)〜(12)の反応で完全に分解することができる。
【0023】
ここで参考のため、本発明による曝気槽排ガスの温室ガス削減効果を試算する。
曝気槽排ガス流量を5000m/h、亜酸化窒素濃度30ppm、温度20℃とすると、1年間に排出される亜酸化窒素は2.4トン(0℃、大気圧)である。これを亜酸化窒素の温暖化係数310を乗じて二酸化炭素に換算すると、746トン/年となる。
【0024】
図5において印加電圧Vpp=11kV、周波数10kHzのとき、亜酸化窒素を100%還元するためのプラズマ反応器6のエネルギー効率は1.2グラム-亜酸化窒素/Whであったことから、上記2.4トン/年の亜酸化窒素を処理するためには、2004kWhの電力をプラズマ反応器6に供給する必要がある。プラズマ反応器6には高電圧パルス電源7の消費電力の30%が供給されることから、高電圧パルス電源7の消費電力は6680kWhと試算できる。また2台の誘引ファン3,16と押込ファン4の年間消費電力は多めに見積もって2628kWhと試算できる。すなわち、曝気槽から排出される2.4トン/年の亜酸化窒素を処理するために9308kWhの電力が必要となる。
【0025】
我が国で最も二酸化炭素排出量の多い電源は石炭火力発電所であり、1kWhを発電するために0.975kgの二酸化炭素を発生する。これを基準とすると、上記消費電力は9.1トンの二酸化炭素排出量となる。従って、本発明によれば年間の二酸化炭素排出量を、746−9.1=736.9トン削減できることとなる。
【実施例】
【0026】
図2に示した構成と同じ構成の実験装置を用いて亜酸化窒素の還元処理を行った。プラズマ反応器は石英製円筒二重管構造とし、外管外径45mm(厚さt=2mm)、内筒外径38mm(厚さt=2mm)、長さ500mmである。プラズマが発生するギャップ長は1.5mmであり、接地電極の長さは300mmであるから、大気圧非平衡プラズマはこの長さで発生する。
【0027】
プラズマ反応器には、第1ノズルから脱着ガスの模擬ガスとして亜酸化窒素と酸素、窒素、アルゴンの混合ガスと、還元剤としてアルゴン希釈のアンモニアガスを供給した。また第2ノズルには還元剤(アルゴン希釈のアンモニアガス)のみを供給した。模擬ガスの組成は亜酸化窒素0.3%、酸素9.7%、窒素40%、アルゴン50%とした。流量は15L/minで、室温(26℃)で供給した。
【0028】
実験は、(1)還元剤を使用しない場合、(2)還元剤(アンモニア0.2%、アルゴンバランス、流量15L/min)を第1ノズルにのみ供給した場合、(3)第1ノズルと第2ノズルから還元剤を7.5L/minずつ供給した場合について行った。
【0029】
(1)の実験条件の場合、図4に示すように亜酸化窒素の分解はなく、逆に亜酸化窒素と一酸化窒素の生成が見られた。なお図4のグラフの縦軸は亜酸化窒素の分解率であるがマイナス符号となっており、亜酸化窒素の生成を示している。(2)の実験条件の場合、図5(a)に示すように印加電圧Vpp=11kV、周波数10kHzで67%の亜酸化窒素が還元された。(3)の実験条件の場合、図5(b)に示すように印加電圧Vpp=11kV、周波数10kHzで100%の亜酸化窒素が還元された。このとき一酸化窒素の生成は見られなかった。
【符号の説明】
【0030】
1 曝気槽
2 吸着塔
3 誘引ファン
4 押込ファン
5 キャリアガス
6 プラズマ反応器
7 高電圧パルス電源
8 熱交換器
9 還元剤
10 ガス混合器
11 管型反応管
12 高電圧電極
13 接地電極
14 第1ノズル
15 第2ノズル
16 誘引ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜酸化窒素を含む排ガスを、アンモニアを還元剤としてプラズマにより無触媒で窒素と水に還元する方法であって、プラズマとして大気圧非平衡プラズマを用い、還元剤を複数段に分割注入することを特徴とする亜酸化窒素の還元方法。
【請求項2】
前段で亜酸化窒素の濃縮を行うことを特徴とする請求項1記載の亜酸化窒素の還元方法。
【請求項3】
3kV〜30kVの印加電圧により発生させた大気圧非平衡プラズマを用いることを特徴とする請求項1記載の亜酸化窒素の還元方法。
【請求項4】
大気圧非平衡プラズマを発生するプラズマ反応器の入口部に、亜酸化窒素を含む排ガスと還元剤であるアンモニアとの混合ガスを供給する第1ノズルを設け、また前記プラズマ反応器の中間部に、還元剤であるアンモニアを注入する第2ノズルを設けたことを特徴とする亜酸化窒素の還元装置。
【請求項5】
前記プラズマ反応器の前段に、亜酸化窒素の濃縮装置を備えたことを特徴とする請求項4記載の亜酸化窒素の還元装置。
【請求項6】
亜酸化窒素の前記濃縮装置が吸着塔であることを特徴とする請求項5記載の亜酸化窒素の還元装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−78876(P2011−78876A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231624(P2009−231624)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【Fターム(参考)】