説明

亜鉛クラスター

【課題】新規な亜鉛クラスター化合物及びその製造法及びそれを用いた反応を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)
Zn4O(OCOR)6(RCOOH)n (1)
(一般式(1)中、Rはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは0.1〜1を表す。)
で表される亜鉛クラスター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属触媒として有用な亜鉛クラスター及びそれを用いたエステル交換反応、エステル化反応、カルボニル化合物からの直接的なオキサゾリン形成反応及びアミド化反応などの触媒反応に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛原子を核金属とする亜鉛四核クラスターZn4O(OCOR)6は、酢酸亜鉛(II)水和物等の亜鉛カルボン酸塩類を真空下、高温(250℃以上)加熱条件で生じることが知られている(非特許文献1)。
また、トリフルオロ酢酸亜鉛水和物を用いて上記反応条件で亜鉛四核クラスターZn4O(OCOCF36が得られる。さらにこの亜鉛四核クラスターZn4O(OCOCF36は、エステル反応、エステル交換反応、アシル化反応及びアミド化反応の触媒として有用であることが知られている(特許文献1)。
すなわち、亜鉛四核クラスターZn4O(OCOR)6を触媒として用いることにより、温和な条件で効率的に反応を進行させることが可能である。かつ、比較的毒性も少ない亜鉛原子を核金属に有する亜鉛四核クラスター触媒は、環境に優しい点も有用であることが知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2007/066617
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】実験化学講座第四版(1991)17巻(無機錯体・キレート錯体)p451‐452、(発行:丸善(株))
【非特許文献2】Chem. Commun. 2006, p2711.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、より温和な条件で、かつ従来から知られている亜鉛四核クラスターZn4O(OCOR)6と同等な触媒能を有する亜鉛クラスターをより大量に安価に供給することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、酢酸亜鉛水和物又はトリフルオロ酢酸亜鉛水和物等のカルボン酸亜鉛化合物を原料として用い、従来よりも温和な温度条件で製造することが可能である。また、本発明の亜鉛クラスターが、エステル交換反応、エステル化反応、カルボニル化合物からの直接的オキサゾリン形成反応及びアミド化反応において、従来の亜鉛クラスターZn4O(OCOR)6と同等な触媒活性を示すことを見出した。
【0007】
本発明は以下の[1]から[4]に関するものである。
[1]下記一般式(1)
Zn4O(OCOR)6(RCOOH)n (1)
(一般式(1)中、Rはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは0.1〜1を表す。)
で表される亜鉛クラスター。
[2]一般式(2)
Zn(OCOR)2・xH2O (2)
(一般式(2)中、Rはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、xは0以上の任意の数を表す。)
で表されるカルボン酸亜鉛水和物を、50℃〜200℃の温度で加熱反応させることを特徴とする前記[1]に記載の亜鉛クラスターの製造方法。
[3]前記[1]に記載の亜鉛クラスターを触媒として用いることを特徴とする、カルボン酸またはそのエステルによる水酸基のアシル化反応。
[4]前記[1]に記載の亜鉛クラスターを触媒として用いることを特徴とする、カルボン酸またはそのエステルとアミノアルコールとを反応させるオキサゾリン類の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一般式(1)で示される亜鉛クラスターは、優れた触媒活性を示し、温和な反応条件で環境調和性、操作性、さらに経済性良く反応を行える。本発明の亜鉛クラスターは、医農薬中間体合成用触媒さらには酸化亜鉛前駆体化合物としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1で得られた亜鉛クラスターのESI−MSスペクトルを示す。
【図2】Zn4O(OCOCF36(CF3COOH) ESI−MSスペクトルシミュレーションパターンを示す。
【図3】実施例1で得られた亜鉛クラスターの赤外分光光度(IR)測定結果を示す。
【図4】分子軌道計算によるESI−MS測定から推定した[Zn4O(OCOCF36(CF3COOH)]の構造を示す。
【図5】分子軌道計算による亜鉛四核クラスターZn4O(OCOCF36の構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の亜鉛クラスターは、下記一般式(1)で示される。
Zn4O(OCOR)6(RCOOH)n (1)
式(1)中、Rはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは、0.1〜1の範囲の値を示す。該アルキル基としては、非置換アルキル基としてメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基が挙げられる。また、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が挙げられる。ハロゲン原子で置換されたアルキル基としては、例えば、トリクロロメチル基、トリブロモメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオルエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ヘプタフルオロイソプロピル基等のパーフルオロアルキル基などが挙げられる。この中でも好ましい基としては、トリフルオロメチル(CF3)基が挙げられる。
また、好ましいnの数値としては0.1〜0.9の範囲、さらに好ましくは0.5〜から0.9の範囲が望ましい。本発明の亜鉛クラスターは、Zn4O(OCOR)6(RCOOH)で表される亜鉛クラスターを主成分としているが、従来から知られている亜鉛クラスターであるZn4O(OCOR)6との混合物であっても良い。その場合、本発明の亜鉛クラスターは、Zn4O(OCOR)6(RCOOH)nと示すことが出来る。
Rがトリフルオロメチル(CF3)基の場合では、亜鉛含量が24.7wt%〜27.1wt%の範囲の値を示す。さらに好ましくは亜鉛含量が24.7wt%〜25.8wt%の範囲が望ましい。
【0011】
一般式(1)で示される亜鉛クラスターは、下記一般式(2)で表されるカルボン酸亜鉛水和物を加熱することにより得ることができる。
Zn(OCOR)2・xH2O (2)
(式(2)中、Rは前記と同じ意味を表し、xは0以上の任意の数値を表し、通常は1〜3の範囲である。)
すなわち、カルボン酸亜鉛水和物を無溶媒、もしくは溶媒下加熱し、亜鉛クラスター形成の際に除かれる水及びカルボン酸ROCOHを系外に効率よく排出することで本発明の亜鉛クラスターを製造することが出来る。加熱は、大気圧で行っても良く、好ましくは減圧下で行う。さらに加熱温度は、原料であるカルボン酸亜鉛水和物から水及びカルボン酸ROCOHが除去できる温度以上であることが望ましい。すなわち、大気圧では100℃以上であることが望ましい。減圧下では、水及びカルボン酸ROCOHが除去できる温度が100℃以下でも可能である。その真空度に対応する除去可能な温度以上であれば良い。例えば、290±10mmHgの場合、75℃以上であれば本発明の亜鉛クラスターを形成することが出来る。
本発明の亜鉛クラスター製造には、無溶媒下原料が液化せず固体条件で昇華する温度条件以下でも可能である。また、溶媒下製造する場合には、本発明の亜鉛クラスター形成に影響しない溶媒であれば、使用可能である。好ましくは、極性の低い有機溶媒である。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどが使用することが出来る。さらに好ましくは、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒が好ましい。即ち、カルボン酸亜鉛水和物(Zn(OCOR)2・xH2O)を製造温度で溶解することができ、かつ、本発明の亜鉛クラスターの溶解性が低い溶媒が好ましい。このように、本発明の亜鉛クラスターは、従来の亜鉛クラスター製造温度条件(250℃、360℃)よりも低い温度条件で製造することができる。好ましくは200℃以下、さらに好ましくは100度以下で製造する。
上記条件で得られた本発明の一般式(1)で示される亜鉛クラスターは、高い吸湿性や空気中で不安定な場合があるため、水分の存在が少ない不活性ガス存在下で取り扱うことが好ましい。不活性ガスとしては、好ましくは窒素又はアルゴン等が挙げられる。
【0012】
本発明の亜鉛クラスターは、例えば、WO2007/066617A1又はWO2009/047905A1に記載されているような、(i)カルボン酸又はそのエステルによる水酸基(好ましくは、アルコール性水酸基)のアシル化反応、(ii)カルボン酸又はそのエステルとアミンとを反応させるアミド化反応、及び(iii)カルボン酸又はそのエステルとアミノアルコールとを反応させるオキサゾリン類の製造法の触媒として用いることができる。
本発明の亜鉛クラスターの触媒としての使用量は、特に限定されないが、通常、原料1モルに対して、亜鉛原子が0.001〜0.9モル、より好ましくは0.001〜0.3モル、さらに好ましくは0.001〜0.1モルの割合である。
反応は溶媒中で通常行われる。溶媒の具体例としては、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン又は塩化ベンゼン等の芳香族系溶媒;ヘキサン、ヘプタン又はオクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン又は1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)又はN−メチルピロリドン(NMP)等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。また、無溶媒中でも反応を行うことが出来る。
【0013】
また、前記(i)のカルボン酸又はそのエステルによる水酸基(好ましくは、アルコール性水酸基)のアシル化反応においては、反応促進剤を加えることも出来る。反応促進剤としては、アミン類が挙げられ、該アミン類としては、エチルアミン、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、シクロヘキシルアミン等の一級アミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の二級アミン、又は、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン等の三級アミンなどが挙げられる。
本発明の亜鉛クラスターを用いた種々の反応は、大気下、又は窒素ガス若しくはアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる。反応時間は、特に限定されないが、通常約1〜45時間、好ましくは6〜18時間程度であり、反応温度は、特に限定されないが、室温〜約150℃、好ましくは50〜150℃、より好ましくは約80〜130℃程度で行われる。これらの条件は使用される原料等の種類及び量により適宜変更されうる。
一般式(1)で示される亜鉛クラスターは、上記のような各種触媒反応において有用であるが、その他の用途として、酸化亜鉛膜形成の原料としても有用である。例えば、Applied Surface Science (2007), 253(9), 4356−4360には、原料である酢酸亜鉛水和物から真空加熱により系内で亜鉛クラスターを形成後、基板表面に亜鉛クラスター膜を形成して、さらに500度以上の加熱処理をすることで従来の製造法よりも均一な酸化亜鉛(ZnO)膜が生じることが報告されている。
また、特開2005−305233号には、酢酸亜鉛水和物を用いてミストCVD法により系中で亜鉛クラスターを形成させながら、均一な酸化亜鉛膜を形成できる事が示されている。このような原料としても使用可能である。
上記のように、本発明の亜鉛クラスターは、酸化亜鉛膜形成等などの前駆体としても有用である。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0014】
実施例中、生成物の測定及び分子気道計算は、以下に示す条件及び方法で行った。
マスクペクトル(MS)測定条件:
装置 LCMS−IT−TOF(SHIMADZU)
測定法 ESI−NEGATIVE MODE
インターフェース電圧 −3.5kV
ネブライズガス流量 1.5L/min
溶媒 DMF
内部質量校正 TFA−Na(m/z 928.8339, 1064.8087, 1200.7835)
フーリエ変換赤外分光測定条件:
装置 Avatar360(Nicolet製)
分子軌道計算:
プログラム Gaussian03(Gaussian社)
【0015】
(実施例1)
亜鉛クラスターの製造
トリフルオロ酢酸亜鉛水和物(Alfa Aesar社製)30.3g(水6.6wt%含有)を、片端を封じたガラス管に導入した。ガラス管の一方に窒素冷却トラップを繋げ、油回転ポンプにて真空度4 x 10-1torrまで減圧した。続いて、ガラス管を120℃で1.5時間ヒーターで加熱した後、徐々に160℃まで昇温し、30分間同温度で加熱した。約6時間でガラス管中のトリフルオロ酢酸亜鉛水和物が無くなり、若干の残渣が残った。
その後、加熱を止め室温まで自然冷却を行った。冷却後、ガラス管と真空ポンプ内に設けたバルブを閉めて、空気及び水分の混入がないようにして、窒素雰囲気に保ったグローブバック内でガラス管に付着した白色固体をかき取った。得られた白色固体は、窒素雰囲気内でシュレンク菅に入れて、水分が入らない状態に密閉した後にバック内から取り出し、重量を測定したところ24.7gの亜鉛クラスターが得られた。
High−resolution ES−MS(negative)スペクトル測定結果
Negative ion HR−ESI−MS m/z: 1062.6074
[M−H]-(calcd. For C142115Zn4 1062.6073)Δ0.09ppm
【0016】
実施例1で製造された亜鉛クラスターのESI−MSスペクトルを図1に示し、Zn4O(OCOCF36(CF3COOH)から推定される陰イオン[Zn4O(OCOCF36(CF3COO)](-)のESI−MSスペクトルシミュレーションパターンを図2に示す。ESI−MSスペクトル(図1)とシミュレーションパターン(図2)は同様なパターンを示している。また、得られた実験値1062.6074と陰イオン[Zn4O(OCOCF36(CF3COO)](-):C142115Zn4 推定値1062.6073は、0.09ppmと非常に近似した値を示す。これらのことは、本発明亜鉛クラスターには、Zn4O(OCOCF36(CF3COOH)が存在していること示している。
【0017】
また、亜鉛含量測定を以下の方法で行った。すなわち、実施例1で得られた亜鉛クラスター(0.0794g)を200mlの三角フラスコに秤量し、蒸留水50mlを加えて溶解させた。これに酢酸−酢酸ナトリウム(pH5)緩衝液(ナカライテスク製)5mlを加え、さらにヘキサミンを少量ずつ加えてpHを約5.5に調整した。中和した試料溶液100ml、XO指示薬(和光純薬工業(株)、0.1w/v%キシレノールオレンジ溶液・滴定用0.1g/100ml=0.001396M)数滴を加えた。最後に、蒸留水で100mlに調製した。この調整液に対して0.01mol/lのEDTA標準液(同仁化学社製)で滴定を行った。終点の変色である赤紫→黄になった滴定量30.6mlより亜鉛含量の求めた(25.20wt% 理論値:24.48wt%)。この結果はZn4O(OCOCF36(CF3COOH)n(n=0.72)であることを示している。即ち、亜鉛クラスターZn4O(OCOCF36(CF3COOH)を主成分とした、従来から知られているZn4O(OCOCF36亜鉛クラスターとの混合物である。
【0018】
また、実施例1で得られた亜鉛クラスターの赤外分光光度(IR)測定結果を図3に示す。
IRスペクトルのピークは、426.67cm−1、520cm−1、729.22cm−1、798.99cm−1、851.34cm−1、1203.43cm−1、1438.87cm−1、1629.02cm−1、1708.08cm−1であった。
【0019】
(実施例2)
エステル化反応
窒素雰囲気下、3−フェニルプロピオン酸(3.0mmol)、n−ブタノール(3.6mmol)、上記実施例1で得られた亜鉛クラスター(0.0375mmol)及びジイソプロピルエーテル(5.0ml)の混合物を18時間還流した結果、3−フェニルプロピオン酸ブチルが定量的に得られた。
【0020】
(実施例3)
エステル交換反応
窒素雰囲気下、3−フェニルプロピオン酸メチル(3.0mmol)、n−ブタノール(3.6mmol)、上記実施例1で得られた亜鉛クラスター(0.0375mmol)及びジイソプロピルエーテル(5.0ml)の混合物を18時間還流した結果、3−フェニルプロピオン酸ブチルが定量的に得られた。
【0021】
(実施例4)
アルコールとアミン存在下でのエステル交換反応
窒素雰囲気下、3−フェニルプロピオン酸メチル(3.0mmol)、シクロヘキサノール(3.6mmol)、シクロヘキシルアミン(3.6mmol)、上記実施例1で得られた亜鉛クラスター(0.0375mmol)及びジイソプロピルエーテル(5.0ml)の混合物を18時間還流した結果、エステル体である3−フェニルプロピオン酸シクロヘキシルが定量的に得られた。アミド体の生成は確認できなかった。
【0022】
(実施例5)
亜鉛クラスターの製造
トリフルオロ酢酸亜鉛水和物(亜鉛含量18wt%、水分19wt%)9.70gとトルエンを四つ口フラスコに加えた。フラスコ内を窒素で置換した後、真空ポンプにてフラスコ内を290±10mmHgまで減圧した。続いて徐々に加温していくと60℃でフラスコ内の混合物が透明化して完全に溶解した。75℃に到達後、同温にて溶媒回収を行った。溶媒留去物は、トルエンと水が含まれており、回収溶媒中の水の量がトリフルオロ酢酸亜鉛水和物仕込み量の約20wt%になったら加熱を停止した。徐々に−5℃まで冷却し、同温で4時間撹拌後に窒素下ろ過を行った。得られた白色固体を75℃/5mmHgで乾燥を行った。乾燥後、6.37gの白色固体を得た。
上記白色固体の亜鉛含量を以下の滴定法で測定した。すなわち、200mlの三角フラスコに上記で得られた白色固体約30mgを秤量した。精製水100mlを加えて溶解した。さらに緩衝液(酢酸−酢酸ナトリウム、pH5)5mlを加えた。さらにヘキサミン(ヘキサメチルテトラミン)を徐々に加えて、pHを約5に調製した。XO指示薬溶液を数滴加え、0.01mol/LのEDTA標準液で滴定して、亜鉛含量を測定した。終点において、赤紫→黄に変化した。その結果、亜鉛含量は25.58wt%であった。この結果はZn4O(OCOCF36(CF3COOH)n(n=0.59)であることを示している。
トリフルオロ酢酸付加体亜鉛クラスターとして収率計算を行うと89.2%の収率であった。また、亜鉛含量結果から亜鉛換算で収率を求めると93.32%であった。
【0023】
(実施例6)
アミノ基存在下でのエステル交換反応
窒素雰囲気下、4−ピペリジンメタノール0.6907g(6mmol)、上記実施例5で得られた亜鉛クラスター64.2mg(0.06mmol)及び酢酸エチル(10.0ml)の混合物を4時間還流した結果、エステル体が85.4%得られた。アミド体の生成は0.7%確認された。また、エステル化とアミド化が共に起こった生成物が4.7%得られた。転換率は、90.9%であった。
【0024】
(実施例7)
エステル交換反応
窒素雰囲気下、3−フェニルプロピオン酸メチル(3.0mmol)、t−ブタノール(3.6mmol)、上記実施例5で得られた亜鉛クラスター(0.0375mmol)及びジイソプロピルエーテル(5.0ml)の混合物を18時間還流した結果、3−フェニルプロピオン酸t−ブチルが定量的に得られた。
【0025】
(実施例8)
エステル交換反応
窒素雰囲気下、カルボベンジルオキシグリシンメチルエステル(3.0mmol)、t−ブタノール(3.6mmol)、上記実施例5で得られた亜鉛クラスター(0.0375mmol)及びジイソプロピルエーテル(5.0ml)の混合物を18時間還流した結果、カルボベンジルオキシグリシンt−ブチルエステルが収率91.8%で得られた。
【0026】
(実施例9)
エステル交換反応
窒素雰囲気下、 (4−((テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イルオキシ)メチル)フェニル)メタノール(3.0mmol)、t−ブタノール(3.6mmol)、上記実施例5で得られた亜鉛クラスター(0.0375mmol)及びジイソプロピルエーテル(5.0ml)の混合物を18時間還流した結果、4−((テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イルオキシ)メチル)ベンジルアセテートが収率92.9%で得られた。
【0027】
(比較例1)
エステル交換反応
窒素雰囲気下、3−フェニルプロピオン酸メチル(3.0mmol)、t−ブタノール(3.6mmol)、亜鉛クラスターZn4O(OCOCF36(0.0375mmol)及びジイソプロピルエーテル(5.0ml)の混合物を18時間還流した結果、3−フェニルプロピオン酸t−ブチルが定量的に得られた。
【0028】
(比較例2)
エステル交換反応
窒素雰囲気下、カルボベンジルオキシグリシンメチルエステル(3.0mmol)、t−ブタノール(3.6mmol)、亜鉛クラスターZn4O(OCOCF36(0.0375mmol)及びジイソプロピルエーテル(5.0ml)の混合物を18時間還流した結果、カルボベンジルオキシグリシンt−ブチルエステルが収率83.8%で得られた。
【0029】
(比較例3)
エステル交換反応
窒素雰囲気下、4−(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イルオキシ)酪酸メチル(3.0mmol)、t−ブタノール(3.6mmol)、亜鉛クラスターZn4O(OCOCF36(0.0375mmol)及びジイソプロピルエーテル(5.0ml)の混合物を18時間還流した結果、4−(テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イルオキシ)酪酸t−ブチルが収率92.9%で得られた。
【0030】
これらの結果から、本発明の亜鉛クラスターは、従来の亜鉛クラスターZn4O(OCOCF36と同等以上の触媒活性を示した。
【0031】
(実施例10)
アセチル化反応
窒素雰囲気下、((4−トリエチルシリルオキシ)メチル)フェニル)メタノール(6mmol)、上記実施例5で得られた亜鉛クラスター(0.075mmol)及び酢酸エチル(1.7ml)の混合物を18時間還流した結果、4−((トリエチルシリルオキシ)メチル)ベンジルアセテートが86%の収率で得られた。
【0032】
(比較例4)
アセチル化反応
窒素雰囲気下、(4−((テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イルオキシ)メチル)フェニル)メタノール(6mmol)、亜鉛クラスターZn4O(OCOCF36(0.075mmol)及び酢酸エチル(1.7ml)の混合物を18時間還流した結果、4−((テトラヒドロ−2H−ピラン−2−イルオキシ)メチル)ベンジルアセテートが84%の収率で得られた。
【0033】
これらの結果から、本発明の亜鉛クラスターは、従来の亜鉛クラスターZn4O(OCOCF36と同等以上の触媒活性を示した。
【0034】
(実施例11)
オキサゾリン類の製造
窒素雰囲気下、安息香酸メチル(1.5mmol)、(S)−バリノール(1.8mmol)、上記実施例5で得られた亜鉛クラスター(0.0375mmol)及びクロロベンゼン(2.5ml)の混合物を12時間還流した結果、(S)−4−イソプロピル−2−フェニルオキサゾリンが収率86%で得られた。
【0035】
(比較例5)
オキサゾリン類の製造
窒素雰囲気下、安息香酸メチル(1.5mmol)、(S)−バリノール(1.8mmol)、亜鉛クラスターZn4O(OCOCF36(0.0375mmol)及びクロロベンゼン(2.5ml)の混合物を12時間還流した結果、(S)−4−イソプロピル−2−フェニルオキサゾリンが収率84%で得られた。
これらの結果から、本発明の亜鉛クラスターは、従来の亜鉛クラスターZn4O(OCOCF36と同等以上の触媒活性を示した。
【0036】
(参考データ)
ESI−MS測定から推定した構造[Zn4O(OCOCF36(CF3COOH)]について、分子軌道計算による分子モデリングを行って構造決定を試みた。その結果を図4に示す。なお、分子軌道計算による分子モデリングは、Gaussian03(Gaussian社)を用いて計算を行った((B3LYP/6−31G(d、p)))。
分子軌道計算によりエネルギー的に安定化した構造(図4)を求めた。従来から知られている亜鉛四核クラスターZn4O(OCOCF36(図5)よりもZn4O(OCOCF36(CF3COOH)(図4)が、5.18Kcal/molエネルギー的に安定化していることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
Zn4O(OCOR)6(RCOOH)n (1)
(一般式(1)中、Rはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、nは0.1〜1を表す。)
で表される亜鉛クラスター。
【請求項2】
一般式(2)
Zn(OCOR)2・xH2O (2)
(一般式(2)中、Rはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基を表し、xは0以上の任意の数を表す。)
で表されるカルボン酸亜鉛水和物を、50℃〜200℃の温度で加熱反応させることを特徴とする請求項1に記載の亜鉛クラスターの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の亜鉛クラスターを触媒として用いることを特徴とする、カルボン酸またはそのエステルによる水酸基のアシル化反応。
【請求項4】
請求項1に記載の亜鉛クラスターを触媒として用いることを特徴とする、カルボン酸またはそのエステルとアミノアルコールとを反応させるオキサゾリン類の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−79810(P2011−79810A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124133(P2010−124133)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【Fターム(参考)】