説明

人工ミネラル溶存液およびその供給方法

【課題】ミネラルを多く含む鉄鋼スラグや鉄鋼ダストを用いて、動植物の育成を促進させる液体肥料の製造方法と、その液体肥料の供給方法を提供する。
【解決手段】動植物が生育するのに不可欠であるミネラルが不足している陸域・水域に対して適用する材料であって、鉄鋼スラグを含むミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物2のpHが9.0以下に調整され、当該混合物から溶出・抽出された液体であることを特徴とする人工ミネラル溶存液4。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミネラル含有物質とイオン交換物質が含まれている混合物から溶出・抽出された液体を動植物に供給することで、動植物に必要なミネラルが不足している陸域、水域等における自然循環機能を改善することを可能にしたものである。
【背景技術】
【0002】
陸域においては、公共工事や酸性雨等によって、植物に必要なミネラルが不足している。また、水域においては、藻および水草や海草等の動植物に必要なミネラルが不足したことにより、藻および水草や海草群落の減少・消失が起こっている。
【0003】
この様なミネラルが不足した領域へ施肥する液体肥料として、例えば特許文献1では、アルカリ性液体肥料に形成可能な貝殻及び貝柱主体の肥料・土壌改良材・飼料が考案されている。
【0004】
特許文献2では、かき殻とフルボ酸鉄を成分に含むpHが8.0から9.0の液体肥料が考案されている。
【0005】
特許文献3では、魚エキスを含む溶液に有機酸を添加し魚エキスが腐敗しないようにpHが5.7以下とする液体肥料が提案されている。
【0006】
特許文献4では、醸造酢を添加することにより水産廃棄物の腐植を防いで肥料成分に富む液体肥料が提案されている。
【0007】
特許文献5では、肉糊または乾血をアルカリ分解した後、ろ過性を良くする為にpHを3.0以下にする液体肥料製造方法を提供している。
【0008】
特許文献6では、トウモロコシ澱粉製造時に発生する副産物(CSL)をアルカリ分解した後、りん酸溶液でpHを7.0以下にし肥料塩を加えることで、液体肥料を安定化させる方法を提案している。
【0009】
しかしながら、ミネラルを多く含む鉄鋼スラグや鉄鋼ダストを用いた液体肥料に関する技術は見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−176711号公報
【特許文献2】特開2003−226587号公報
【特許文献3】特開平08−081291号公報
【特許文献4】特許第4787486号公報
【特許文献5】特公平04−070279号公報
【特許文献6】特公平01−034960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ミネラルを多く含む鉄鋼スラグや鉄鋼ダストを用いて、動植物の育成を促進させる液体肥料の製造方法と、その液体肥料の供給方法を確立することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、ミネラル含有物質である鉄鋼スラグや鉄鋼ダストにイオン交換物質を配合し、当該混合物のpHを9.0以下に調整することで、カルシウム、ケイ素、リン、鉄等のミネラルを溶存態として動植物へ供給されやすい状態に出来ることを見出した。
【0013】
本発明の第1は、動植物が生育するのに不可欠であるミネラルが不足している陸域・水域に対して適用する材料であって、鉄鋼スラグを含むミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物のpHが9.0以下に調整され、当該混合物から溶出・抽出された液体であることを特徴とする。
【0014】
本発明の第2は、第1の発明にかかる人工ミネラル溶存液において、鉄鋼スラグは、炭酸化処理された鉄鋼スラグが含まれていることを特徴とする。
【0015】
本発明の第3は、第1または第2の発明にかかる人工ミネラル溶存液において、ミネラル含有物質は、ミネラル補填材が含まれていることを特徴とする。
【0016】
本発明の第4は、第1から第3までのいずれか1項の発明にかかる人工ミネラル溶存液において、イオン交換物質は、キレート作用促進材が含まれていることを特徴とする。
【0017】
本発明の第5は、第1から第4までのいずれか1項の発明にかかる人工ミネラル溶存液において、キレート作用促進材は、酸性を示す固体もしくは液体が含まれていることを特徴とする。
【0018】
本発明の第6は、第1から第5までのいずれか1項の発明にかかる人工ミネラル溶存液において、イオン交換物質は、人工腐植土、もしくは人工腐植土から溶出・抽出された液体が含まれ、イオン交換機能を有していることを特徴とする。
【0019】
本発明の第7は、第1から第6までのいずれか1項の発明にかかる人工ミネラル溶存液において、人工腐植土は、バーク堆肥、ピートモス、腐葉土、もしくは未分解の草木、樹木のチップ、または、工場、事業所から排出される排水,下水道終末処理場における下水、し尿、家畜排泄物のばっ気処理、発酵処理によって得られる汚泥及びその処理物の少なくとも1種以上が含まれる有機質資材を酸性液体で養生し生成された腐植土を1種または2種以上混合して使用されていることを特徴とする。
【0020】
本発明の第8は、第1から第7までのいずれか1項の発明にかかる人工ミネラル溶存液において、イオン交換物質は、陽イオン交換容量が高い物質、もしくは陰イオン交換容量が高い物質を1種、または2種以上配合されていることを特徴とする。
【0021】
本発明の第9は、第1から第8までのいずれか1項の発明にかかる人工ミネラル溶存液において、イオン交換物質は、C/N比で10以上、有機物含有量が70容量%以上、pHが−1.1〜9.0、電気伝導度が2.0mS/cm以下の値のものが含まれていることを特徴とする。
【0022】
本発明の第10は、第1から第9までのいずれか1項の発明にかかる人工ミネラル溶存液において、ミネラル含有物質とイオン交換物質が含まれている混合物からミネラルを溶出・抽出する際に、雨水、湧水、地下水、海水、川水、湖や池の自然由来の水を通水することを特徴とする。
【0023】
本発明の第11は、第1から第10までのいずれか1項の発明にかかる人工ミネラル溶存液のミネラル供給方法において、ミネラルとして植物へ供給することを特徴とする。
【0024】
本発明の第12は、第1から第10までのいずれか1項の発明にかかる人工ミネラル溶存液のミネラル供給方法において、当該人工ミネラル溶存液を、透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底に設置し周辺の水域で継続的にミネラルを供給することを特徴とする。
【0025】
本発明の第13は、第1から第10までのいずれか1項の発明にかかる人工ミネラル溶存液のミネラル供給方法において、当該人工ミネラル溶存液を、ゲル化剤,増粘剤・糊料,安定剤によってゲル状にして透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、植物の生育環境に対して継続的にミネラルを供給することを特徴とする。
【0026】
本発明の第14は、第1から第10までのいずれか1項の発明にかかる人工ミネラル溶存液のミネラル供給方法において、当該人工ミネラル溶存液を、C4植物資源由来のプラスチックで成型し、透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、植物の生育環境に対して継続的にミネラルを供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明は上記の構成であるから、動植物に必要なミネラルが不足している陸域、水域等の自然循環機能を改善する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1はミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物を陸上に設置した場合の参考例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明を実施するための形態について説明する。
【0030】
本発明の第1は、第1の発明に係る人工ミネラル溶存液において、鉄鋼スラグを含むミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物のpHが9.0以下に調整され、当該混合物からミネラルを溶出・抽出された液体であることを特徴とする。ここで示す鉄鋼スラグとは、高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグ等の高炉から出滓された高炉スラグ、溶銑予備処理スラグ(脱硫スラグ、脱硅スラグ、脱リン(燐)スラグ)、転炉スラグ、電気炉スラグ、ステンレススラグ等の溶鋼を溶製するために利用するあらゆる精錬容器で形成されたスラグの事である。イオン交換物質は、溶出したミネラルを吸着し、動植物へ供給する機能を有する。
【0031】
本発明の第2は、第1の発明に係る人工ミネラル溶存液において、炭酸化処理された鉄鋼スラグが含まれているものである。炭酸化処理とは、水共存下で鉄鋼スラグ中に含まれるf−CaOやケイ酸カルシウムから溶出するカルシウムを二酸化炭素含有ガスと接触させ炭酸カルシウムにする処理である。炭酸化処理を行った鉄鋼スラグをミネラル含有物質として使用することで、カルシウム以外にケイ素、リン、鉄等のミネラルを効率良く溶出・抽出させることが可能となる。
【0032】
本発明の第3は、第1の発明に係る人工ミネラル溶存液において、ミネラル補填材が含まれていることを特徴とする。ミネラル補填材が、ミネラル含有物質中に含まれることで、ミネラルを選択的に多く溶出・抽出させることが可能となる。ミネラル補填材として、例えば貝殻、石灰等のカルシウムを含む無機物、有機物、また、鉄鋼ダスト、鉄鉱石、鋼、鉄粉等の鉄分を含んだ物質、また、リンを含む無機物、有機物、またはカリウムを含む無機物、有機物等が挙げられ、これらに限定されない。鉄鋼ダストとは、高炉ダスト、製鋼ダスト、電気炉ダスト、ステンレスダスト等の鉄鋼の製造過程で発生するダストの事である。
【0033】
本発明の第4は、第1の発明に係る人工ミネラル溶存液において、イオン交換物質は、キレート作用促進材が含まれているものである。キレート作用促進材を人工ミネラル供給材へ含有させることで、ミネラル含有物質から溶出するミネラルをイオン交換物質で吸着させる効果を促進させる。
【0034】
本発明の第5は、第1の発明に係る人工ミネラル溶存液において、キレート作用促進材は、酸性を示す固体、もしくは液体で、例えば、人工腐植土、バーク堆肥、腐葉土、赤土等のような酸性を示す土でもよく、木酢液、竹酢液等の酢液、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸等の無機酸、酢酸、クエン酸等のカルボン酸基を有する化合物、リン酸、ホスホン酸等の有機リン化合物、スルホン酸基を有する化合物のような酸性を示す液体でよいが、これらに限定されない。
【0035】
本発明の第6は、第1の発明に係る人工ミネラル溶存液において、イオン交換物質は、人工腐植土、もしくは人工腐植土から溶出・抽出された液体が含まれ、イオン交換機能を有していることを特徴とする。
【0036】
本発明の第7は、第1の発明に係る人工ミネラル溶存液において、人工腐植土は、バーク堆肥、ピートモス、腐葉土、もしくは未分解の草木、樹木のチップ、または、工場、事業所から排出される排水,下水道終末処理場における下水、し尿、家畜排泄物のばっ気処理、発酵処理によって得られる汚泥及びその処理物の少なくとも1種以上が含まれる有機質資材を酸性液体で養生し生成された腐植土で、その腐植土を1種または2種以上混合して使用されていることが好ましい。人工腐植土を製造するために必要な酸性液体は、酸性を有する液体であれば良く、例えば木酢液、竹酢液等の酢液、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、酢酸、クエン酸等のカルボン酸基を有する化合物、リン酸、ホスホン酸等の有機リン化合物、スルホン酸基を有する化合物等が挙げられ、これらに有機質資材を浸すことで短時間で腐植物含有量を高めることが可能である。
【0037】
本発明の第8は、第1の発明に係る人工ミネラル溶存液において、イオン交換物質は、バーク堆肥、腐葉土、赤土、ピートモス、ゼオライト、パーライト、バーミキュライト等の陽イオン交換容量が高い物質、もしくは陰イオン交換容量が高い物質を1種、または2種以上配合されているものであり、これらをミネラル含有物質に配合させることで、ミネラル含有物質から溶出されるミネラルを溶存態として保持させることが可能となる。
【0038】
本発明の第9は、第1の発明に係る人工ミネラル溶存液において、イオン交換物質は、全炭素に対する全窒素の含有比率つまりC/N比が10以上、有機物含有量が70容量%以上、pHが−1.1〜9.0、硝酸態窒素、塩素等の濃度を示す電気伝導度が2.0mS/cm以下の値のものを用いる。
【0039】
本発明の第10は、第1の発明に係る人工ミネラル溶存液において、ミネラル含有物質とイオン交換物質が含まれる混合物からミネラルを溶出・抽出する際に、雨水、湧水、地下水、海水、川水、湖や池の水等の自然由来の水で通水しミネラルを溶出・抽出することで、自然に植物が吸収しやすいミネラルを含んだ人工ミネラル溶存液を製造することが可能である。
【0040】
本発明の第11は、第1の発明に係る人工ミネラル溶存液において、ミネラル含有物質とイオン交換物質から構成されている物から溶出・抽出された液体をミネラルとして植物へ供給することを特徴とする。陸域の植物へ人工ミネラル溶存液を供給させる方法としては、ミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物を保持して雨水から溶出する人工ミネラル溶存液を植物へ供給する方法(以下、保持法と称する。)、散水して植物へ供給する方法、透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、土中へ埋設し植物へ供給する方法等が挙げられる。図1に保持法の一例を示すが、ミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物2を、植物5の近傍の斜面上方であって、雨水1が当該斜面上方部から植物5に流下するような位置に保持する。保持する方法は単に載置するだけでもよいし、保持量を高めるためには、擁壁3などを用いることも可能である。降雨により、雨水1がミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物2に通水されると、ミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物2から人工ミネラル溶存液4が溶出して、雨水1と人工ミネラル溶存液4が下方の植物5に供給される。散水して植物へ供給する方法は、吹付機、ハイドロシーダー等の機械等による散水、ポンプ等で汲み上げ散水する方法等が挙げられるがこれらに限定されない。また、透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、土中へ埋設し植物へ供給する方法において、透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリエステル、ポリウレタン等の無機化学材料、及び植物繊維等の天然有機材料、人工的に合成された皮膚等の透水性を有する膜の他、これらを組み合わせたもの等、もしくは土中に埋設した後に土を汚染する材質以外であり、上記の役割を果たせる材質あればよい。透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、土中へ埋設し植物へ供給する方法によって、人工ミネラル溶存液に含まれるミネラルの溶出量を調整し、周辺の土中で継続的にミネラルを供給することが可能である。
【0041】
本発明の第12は、第1の発明に係る人工ミネラル溶存液において、ミネラル含有物質とイオン交換物質が含まれている混合物から溶出・抽出された液体を、透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し淡水、汽水、海水等の沿岸、水面、水底等に設置することで、人工ミネラル溶存液に含まれるミネラルの溶出量を調整し、周辺の水域で継続的にミネラルを供給することが可能である。透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリエステル、ポリウレタン等の無機化学材料、及び植物繊維等の天然有機材料、人工的に合成された皮膚等の透水性を有する膜の他、これらを組み合わせたもの等、水中への設置後に水質を汚染する材質以外であり、上記の役割を果たせる材質であればよい。人工ミネラル溶存液に含まれるミネラルの溶出量を調整する方法は、透水性を有する容器、袋状の包装体で溶出量を調整してもよく、または透水性を有さない容器、袋状、シート状の包装体と組み合わせて溶出量を調整する方法を用いてもよい。
【0042】
本発明の第13は、第1の発明に係る人工ミネラル溶存液において、当該人工ミネラル溶存液に対し、質量比で1〜50質量%のゲル化剤もしくは増粘剤・糊料もしくは安定剤を混合することでゲル化し、そのゲル状にしたものを透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、動植物の生育環境に対して継続的にミネラルを供給することが可能となる。人工ミネラル溶存液をゲル化させる方法としては、アルギン酸エステル等のアルギン酸塩、ゼラチン,寒天,カラギーナン,ペクチン等の動植物性由来の粘液質、デンプン、セルロース、グリコーゲン等の増粘剤・糊料、ペンナイト,ガム等の安定剤を用いることで可能となる。
【0043】
本発明の第14にあっては、第1の発明に係る人工ミネラル溶存液において、人工ミネラル溶存液を、光合成でより効率的にCO2を固定するトウモロコシ、サトウキビ、ソルガム、ススキ、キビ、シコクビエ、ギニアグラス、ローズグラス、ニクキビ等のC4植物資源由来のプラスチックで成型したものを透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、植物の生育環境に対して継続的にミネラルを供給することを特徴とする。天然植物資源由来のプラスチックは、微生物により、最終的に水と二酸化炭素に完全に分解するため、通常のプラスチックに比べて自然環境への負担が少なく、ミネラルの溶出・抽出量を調整し保持するこができる。
【実施例】
【0044】
以下に本発明に関わる実施例を示すが、これは本発明の内容を限定するものではない。
【0045】
本発明によるミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物から溶出・抽出された液体を動植物に供給することで、動植物に必要なミネラルが不足している陸域、水域等の減少・消失した自然循環機能を改善することを確認するために、植物の成長試験を行った。
【0046】
形状が、幅40cm×長さ70cm×高さ15cmのプランターを2個用意し、上段のプランターにミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物を敷き詰めた。ミネラル含有物質として、脱リンスラグと脱リンスラグを炭酸化処理したスラグ(以降、炭酸化スラグと称す。)を用いた。各々の物性値を「表1」に示す。また、イオン交換物質として人工腐植土を用いた。人工腐植土は樹木チップを木酢液に浸漬させた人工的な腐植土壌である。
「表1」

【0047】
下段のプランターには植生培地として赤玉土50容量%、バーク堆肥45容量%、人工腐植土5容量%の混合物を4L敷き詰めた。バーク堆肥とは樹木皮を発酵させて作った堆肥である。各プランターの側部および底部は網目状に複数の排水口があり、上段のプランターから溶出した液体が、下段のプランター全体に均一に流れるような構造とした。散水量は、3日に1回の頻度で4Lの水を上段プランターに散水した。上段プランターに敷き詰めたミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物のpHおよび溶出した液体のEC(電気伝導度)を測定した。pHおよびECの測定はpHメーター((株)堀場製作所製D−54S)で測定した。植生培地にはコマツナ、ダイコン、ホウレンソウ、トールフェスクを播種し、播種7日後の出芽本数および植被率を調査した。それらの結果を「表2」に示す。
【0048】
「表2」の比較例1は、上段プランターを設置せず、下段プランターの植生培地に3日に1回の頻度で4Lの水を散水し、植生培土単味の出芽率および植被率を調査した。出芽本数はコマツナで44本、ダイコンで53本、ホウレンソウで12本、トールフェスクで15本であった。また植被率は70%であった。
【0049】
比較例2は上段プランターに脱リンスラグ100容量%を敷き詰めた。上段プランターの脱リンスラグのpHは12.5で、溶出した液体のECは3520μS/cmであった。出芽本数はすべての種類において比較例1よりも低かった。また植被率も比較例1と比べ70から60%に低下した。上段プランターから溶出した液肥のpHおよびECの値が高い為、出芽本数及び植被率が減少、低下した。
【0050】
比較例3は上段プランターに脱リンスラグ50容量%と人工腐植土50容量%の混合物を敷き詰めた。上段プランターの混合物のpHは12.3で、溶出した液体のECは4060μS/cmであった。出芽本数はすべての種類において比較例1よりも少なかった。また植被率も比較例1と比べて70から60%に低下した。上段プランターから溶出した液肥のpHおよびECの値が高い為、出芽本数及び植被率が減少、低下した。
【0051】
比較例4は上段プランターに脱リンスラグ20容量%と人工腐植土80容量%の混合物を敷き詰めた。上段プランターの混合物のpHは10.2で、溶出した液体のECは2540μS/cmであった。出芽本数はすべての種類において比較例1よりも少なかった。また植被率も比較例1と比べて70から60%に低下した。上段プランターから溶出した液肥のpHおよびECの値が高い為、出芽本数及び植被率が減少、低下した。
【0052】
「表2」の実施例1は上段プランターに炭酸化スラグ50容量%と人工腐植土50容量%の混合物を敷き詰めた。上段プランターの混合物のpHは9.0で、溶出した液体のECは546μS/cmであった。出芽本数はすべての種類において比較例1よりも多かった。また植被率も比較例1と比べて70から80%に上昇した。上段プランターから溶出した液肥のpHおよびECの値が適正となり、出芽本数及び植被率が増加、上昇した。
【0053】
実施例2は上段プランターに脱リンスラグ4容量%と人工腐植土96容量%の混合物を敷き詰めた。上段プランターの混合物のpHは7.5で、溶出した液体のECは350μS/cmであった。出芽本数はすべての種類において比較例1よりも多かった。また植被率も比較例1と比べて70から95%に上昇した。上段プランターから溶出した液肥のpHおよびECの値が適正となり、出芽本数及び植被率が増加、上昇した。
「表2」

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、機能不全となっている陸域、水域にミネラルを継続的に供給することができ、陸域、水域等の減少・消失した自然循環機能を改善することが期待できる。
【符号の説明】
【0055】
1…雨水
2…ミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物
3…擁壁
4…人工ミネラル溶存液
5…植物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動植物が生育するのに不可欠であるミネラルが不足している陸域・水域に対して適用する材料であって、鉄鋼スラグを含むミネラル含有物質とイオン交換物質の混合物のpHが9.0以下に調整され、当該混合物から溶出・抽出された液体であることを特徴とする人工ミネラル溶存液。
【請求項2】
鉄鋼スラグは、炭酸化処理された鉄鋼スラグが含まれていることを特徴とする請求項1に記載の人工ミネラル溶存液。
【請求項3】
ミネラル含有物質は、ミネラル補填材が含まれていることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の人工ミネラル溶存液。
【請求項4】
イオン交換物質は、キレート作用促進材が含まれていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の人工ミネラル溶存液。
【請求項5】
キレート作用促進材は、酸性を示す固体もしくは液体が含まれていることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の人工ミネラル溶存液。
【請求項6】
イオン交換物質は、人工腐植土、もしくは人工腐植土から溶出・抽出された液体が含まれ、イオン交換機能を有していることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の人工ミネラル溶存液。
【請求項7】
人工腐植土は、バーク堆肥、ピートモス、腐葉土、もしくは未分解の草木、樹木のチップ、または、工場、事業所から排出される排水,下水道終末処理場における下水、し尿、家畜排泄物のばっ気処理、発酵処理によって得られる汚泥及びその処理物の少なくとも1種以上が含まれる有機質資材を酸性液体で養生し生成された腐植土を1種または2種以上混合して使用されていることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の人工ミネラル溶存液。
【請求項8】
イオン交換物質は、陽イオン交換容量が高い物質、もしくは陰イオン交換容量が高い物質を1種、または2種以上配合されていることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の人工ミネラル溶存液。
【請求項9】
イオン交換物質は、C/N比で10以上、有機物含有量が70容量%以上、pHが−1.1〜9.0、電気伝導度が2.0mS/cm以下の値のものが含まれていることを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の人工ミネラル溶存液。
【請求項10】
ミネラル含有物質とイオン交換物質が含まれている混合物からミネラルを溶出・抽出する際に、雨水、湧水、地下水、海水、川水、湖や池の自然由来の水を通水することを特徴とする請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の人工ミネラル溶存液。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の人工ミネラル溶存液をミネラルとして植物へ供給することを特徴とするミネラル供給方法。
【請求項12】
請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の人工ミネラル溶存液を、透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、淡水、汽水、海水の沿岸、水面、水底に設置し周辺の水域で継続的にミネラルを供給することを特徴とするミネラル供給方法。
【請求項13】
請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の人工ミネラル溶存液を、ゲル化剤,増粘剤・糊料,安定剤によってゲル状にして透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、植物の生育環境に対して継続的にミネラルを供給することを特徴とするミネラル供給方法。
【請求項14】
請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の人工ミネラル溶存液を、C4植物資源由来のプラスチックで成型し、透水性を有する容器、袋状、シート状の包装体に収容し、植物の生育環境に対して継続的にミネラルを供給することを特徴とするミネラル供給方法。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−112557(P2013−112557A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259460(P2011−259460)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【出願人】(000170646)国土防災技術株式会社 (23)
【Fターム(参考)】