説明

人工漁場の構築方法

【課題】海底に散乱している瓦礫によって破壊された海洋環境を、海藻類の繁殖や魚介類の増殖に適した海洋環境につくりかえることが可能な人工漁場の構築方法を提供する。
【解決手段】瓦礫Dが散乱している海底10に人工漁場を構築する方法であって、海底10に散乱している瓦礫Dを寄せ集める工程と、寄せ集めた瓦礫Dの周囲を型枠12で囲う工程と、型枠12で囲われた領域13内に増殖ブロック14、15、16を配置する工程と、領域13内に水中不分離性コンクリートCを打設して海底マウンドを形成すると共に、増殖ブロック14、15、16と海底マウンドを水中不分離性コンクリートCを介して一体化させる工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底に人工漁場を構築する方法に関し、特に、瓦礫が散乱している海底に人工漁場を構築する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本列島近海における漁獲量及び海藻類生産量の回復さらには沿岸漁場整備の一環として、海岸に近接する海域の一部を人工的に改良して海藻類の繁殖や魚介類の増殖に適した海洋環境をつくりだす人工漁場の技術がある。例えば、特許文献1には、海岸近傍の海域の海底上に潜堤を築造して外郭施設を構築し、外郭施設によって囲まれた海底内を嵩上げして、海藻類や貝類を増殖する浅場と、沿岸性有用魚介類を増殖する深場とを形成する人工漁場の発明が開示されている。
また、特許文献2には、海底に沈設した複数の堰堤部材同士を連結して、海底面より高く突出する囲繞堤を形成し、囲繞堤で包囲された領域内の堆積底泥を除去して改質底面を形成する人工漁場構築法の発明が開示されている。
【0003】
他方、特許文献3には、プラスチック、ガラス、金属、鉱滓、及びスラグからなる群から選ばれた廃棄物破砕物及び鉄含有廃棄物破砕物をバインダーとし、合成樹脂ポリマー又はそのモノマーと混合して成形・硬化してなる漁礁成型物の発明が開示されている。
また、特許文献4には、粉砕チップ化し、かつ比重により分別した有害物質を含まない固形廃棄物のチップを適宜な量ずつ配合してなるコンクリート用粗骨材に、石炭灰や廃砂等を混練して造成したコンクリート構造物からなる海の着底基質構造物及び魚礁の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−117234号公報
【特許文献2】特開2005−13039号公報
【特許文献3】特開平8−131016号公報
【特許文献4】特開2003−165754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
2011年3月11日の午後、太平洋三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の海溝型地震(東北地方太平洋沖地震)が発生した。東北から関東にかけた東日本一帯、特に東北地方から関東地方の太平洋岸は、この巨大地震とその後に襲った大津波によって壊滅的な被害を受けた。
【0006】
被災地では、大量に発生した瓦礫の処理が問題となっている。なかでも海底に散乱している瓦礫は海上への移送が困難なため撤去が進まず、漁業復興を阻んでいる。津波被害を受けた海域を、海藻類の繁殖や魚介類の増殖に適した海洋環境とするためには、海域の一部を人工的に改良する必要があるが、瓦礫に阻まれて従来技術を適用することができない状況にある。特許文献3及び4に記載された発明は、廃棄物を漁礁に利用する技術であるが、地上において破砕処理した廃棄物を漁礁の構成材として利用するものであり、海底に散乱する瓦礫を利用する技術ではない。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、海底に散乱している瓦礫によって破壊された海洋環境を、海藻類の繁殖や魚介類の増殖に適した海洋環境につくりかえることが可能な人工漁場の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、瓦礫が散乱している海底に人工漁場を構築する方法であって、
海底に散乱している瓦礫を寄せ集める工程と、
寄せ集めた瓦礫の周囲を型枠で囲う工程と、
前記型枠で囲われた領域に増殖ブロックを配置する工程と、
前記領域内に水中不分離性コンクリートを打設して海底マウンドを形成すると共に、前記増殖ブロックと前記海底マウンドを前記水中不分離性コンクリートを介して一体化させる工程とを備えることを特徴としている。
【0009】
海底に散乱している大量の瓦礫を海中から撤去しようとした場合、莫大な費用と時間が掛かるうえ、撤去した瓦礫を廃棄する処分地の問題が発生する。そこで、本発明では、海底に散乱している瓦礫を海中から撤去せず、寄せ集めて海底マウンドとして利用する。その際、瓦礫によって海水が汚染されないようにするため、寄せ集めた瓦礫を水中不分離性コンクリートで封じ込めて無公害化すると共に、漁場を再生するため、海藻類の繁殖や魚介類の増殖を目的とする増殖ブロックを海底マウンド上に配置する。なお、増殖ブロックは人工的に製造したものだけではなく自然石も利用することができる。
【0010】
また、本発明に係る人工漁場の構築方法では、前記型枠で囲われた領域に鉄筋を配筋してもよい。これにより、海底マウンドの強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る人工漁場の構築方法では、海底に散乱している瓦礫を寄せ集めて水中不分離性コンクリートで封じ込めて海底マウンドを形成し、増殖礁の機能を有する増殖ブロックを海底マウンド上に配置するので、海底に散乱している瓦礫によって破壊された海洋環境を、海藻類の繁殖や魚介類の増殖に適した海洋環境につくりかえることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係る人工漁場の構築方法を説明するための模式図である。
【図2】同人工漁場の構築方法を説明するための模式図である。
【図3】同人工漁場の構築方法を説明するための模式図である。
【図4】同人工漁場の構築方法を説明するための模式図である。
【図5】同人工漁場の構築方法を説明するための模式図である。
【図6】同人工漁場の構築方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態に付き説明し、本発明の理解に供する。
【0014】
本発明の一実施の形態に係る人工漁場の構築方法について図1〜図6を用いて説明する。なお、人工漁場が設置可能な水深限界は、潜水夫が作業可能な水深である40m程度までであると考えられる。
【0015】
(1)海底10に瓦礫Dが散乱している海域に作業船(図示省略)を碇泊する。そして、作業船に備えられたクラムシェル(図示省略)を作動させ、クラムシェルバケット11を海底10まで降下させる(図1参照)。
(2)海底10に散乱している瓦礫Dを海底マウンド設置箇所までクラムシェルバケット11で移送し、海底マウンド設置箇所に瓦礫Dを寄せ集めて台状に積み重ねる(図2参照)。この移送作業により、台状に寄せ集められた瓦礫Dの山が適度な間隔を有して複数形成される。なお、瓦礫Dの山の高さは3m以下、一辺の長さは最大10m程度とすることが好ましい。
【0016】
(3)作業船に積まれている鋼製の型枠12を海底10に移送し、台状に寄せ集められた各瓦礫Dの山を型枠12で平面視して矩形状に囲う(図3参照)。型枠12の高さは、瓦礫Dの山頂より高く、且つ後述する増殖ブロック14、15、16の基部が埋没する程度の高さとする。なお、型枠12で囲まれた領域13に鉄筋を配筋しても良い。
(4)海藻類の繁殖や魚介類の増殖を目的とする増殖礁の機能を有する増殖ブロック14、15、16を、揚重機(図示省略)を用いて、型枠12で囲まれた領域13に沈設する。そして、台状に寄せ集められた瓦礫Dの上に増殖ブロック14、15、16を配置する(図4参照)。なお、増殖ブロック14、15、16は、従来より増殖礁として使用されているものでよい。
【0017】
(5)作業船に備えられたコンクリートプラント(図示省略)から、型枠12で囲まれた領域13までコンクリートホース17を配設する。そして、コンクリートホース17を介して領域13内に水中不分離性コンクリートCを打設して海底マウンド18を形成する(図5、図6参照)。その際、増殖ブロック14、15、16の基部を水中不分離性コンクリートCに埋没させ、増殖ブロック14、15、16と海底マウンド18を一体化させる。増殖ブロックと海底マウンドを一体化させるので、増殖ブロックが海流や波に流されたり転倒したりするおそれがなく、海流や波に対する増殖ブロックの安定性を向上させることができる。
【0018】
なお、増殖ブロック14、15、16と海底マウンド18からなる人工漁場20が完成した後、海底マウンド18の形成に使用した型枠12は取り外して回収しても良いし、或いは回収せず設置したままでも良い。
【0019】
水中不分離性コンクリートCは、未硬化な状態で水の洗い作用を受けても材料分離が発生しにくいコンクリートであり、通常の未硬化のコンクリートに水中不分離性混和剤を添加して製造される。水中不分離性混和剤には特殊な増粘剤と流動化剤を使用し、増粘剤には例えば水溶性セルロースエーテルを主成分とする太平洋エルコン(太平洋マテリアル(株)製)、流動化剤には例えばメラミンスルホン酸塩を主成分とするLC−1000(太平洋マテリアル(株)製)などを使用することができる。
【0020】
以上、本発明の一実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、上記実施の形態では、海底マウンドの平面形状を矩形状としたが、如何なる平面形状でも良いことは言うまでもない。また、上記実施の形態では、海底マウンドに配置される増殖ブロックは1又は2基としたが、異なる形状の増殖ブロックを一つの海底マウンドに3基以上配置しても良いし、自然石を増殖ブロックとして配置しても良い。
【符号の説明】
【0021】
10:海底、11:クラムシェルバケット、12:型枠、13:領域、14、15、16:増殖ブロック、17:コンクリートホース、18:海底マウンド、20:人工漁場、C:水中不分離性コンクリート、D:瓦礫

【特許請求の範囲】
【請求項1】
瓦礫が散乱している海底に人工漁場を構築する方法であって、
海底に散乱している瓦礫を寄せ集める工程と、
寄せ集めた瓦礫の周囲を型枠で囲う工程と、
前記型枠で囲われた領域に増殖ブロックを配置する工程と、
前記領域内に水中不分離性コンクリートを打設して海底マウンドを形成すると共に、前記増殖ブロックと前記海底マウンドを前記水中不分離性コンクリートを介して一体化させる工程とを備えることを特徴とする人工漁場の構築方法。
【請求項2】
請求項1記載の人工漁場の構築方法において、前記型枠で囲われた領域に鉄筋を配筋することを特徴とする人工漁場の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−66451(P2013−66451A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209260(P2011−209260)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(594121947)ライトンコスモ株式会社 (4)
【出願人】(511232145)五福株式会社 (1)
【Fターム(参考)】